説明

木製容器及びその製造法

【課題】肉薄木片により形成される木製シートを成形した木製容器とその製造方法を提供する。
【解決手段】木製容器(1)は、多数の木製シートから選択した損傷部(7)を有する不良シート(6a)と損傷部を有しない良質シート(6b)の2枚を1組として重ね合わせた複合シート(6)を相互に接着一体化されており、底壁(2)と周壁(3)を構成する容器(1)の内側壁を前記良質シート(6b)により形成し、外側壁を前記不良シート(6a)により形成している。接着膜(9)は、木質中に含まれるリグニンにより形成され、必要に応じて澱粉質の粉粒体を添加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉薄木片により形成された木製シートを成形した木製容器、特に、不良シートと良質シートの2枚を1組とする複合シートから成形した木製容器とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、生鮮食品等を包装して販売するための容器は、発泡プラスチックシートを成形したトレー状の容器が一般的である。通常は白色であるが、高級感を出すために木目模様を印刷したフィルムを表面にラミネートした容器も提供されている。
【0003】
この点に関し、プラスチック製の容器は廃棄物処理の問題があるので、出来るだけ焼却可能な木製容器を普及させることが望ましい。しかも、木製容器は、吸湿性等に優れているので、生鮮食品の包装容器に頗る適している。このため、既に木製容器が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3397750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の木製容器は、1枚の肉薄木片とされた単板を上下金型により加熱加圧成形することにより、底壁と周壁を備えた木製容器を成形する方法を提案している。
【0005】
ところで、このような木製容器を製造するための単板は、木材をスライスすることにより形成される。従って、良質の木材をスライスして得た良質の単板により成形された容器を提供することが可能である。しかしながら、上質の木材でも、節が存在する部分をスライスした単板で容器を成形すると、容器に包装した生鮮食品等の水分が単板に含まれる節の部分から外部に漏れるおそれがある。このため、木材のうち節の部分は、廃棄せざるを得ないことになり、資源の無駄を生じる。
【0006】
また、資源を有効活用する観点からは、良質の木材の他、森林の手入れの際に伐る間伐材等を利用することが望ましい。通常、間伐材は、低品質で節等の損傷個所が多く、家具その他の木製商品の材料には適しないので、公園のベンチのために使用される等、その利用範囲が限定されており、処分に窮する状況にある。
【0007】
そこで、間伐材を利用し、これをスライスして木製容器のための単板を得ることが望ましいが、間伐材には節の他にも割れ等の損傷個所が多く含まれているため、前述の節の場合と同様、容器に包装した生鮮食品等の水分が損傷部分から外部に漏れるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、1本の木材のほぼ全体を有効利用するためにスライスすると、必ず、節やひび割れ等の損傷部を含む不良シートと、そのような損傷部を有しない良質シートの2種類が得られることを知見した。また、間伐材を有効利用する場合でも、同様に、ひび割れや節等の損傷部を有する不良シートと、損傷部を有しない良質シートが得られることを知見した。
【0009】
そこで、不良シートを廃棄することなく有効に活用する方法を鋭意研究した結果、底壁と周壁を有する木製容器の内側壁を前記良質シートにより形成し、外側壁を前記不良シートにより形成することを知得した。前述のように、不良シートは、節やひび割れ等の損傷部を含んでいるが、外側壁に位置しているので容器の機能に支障を生じることはない。換言すれば、容器は、内側壁を良質シートにより形成しているので、容器に包装した生鮮食品等の水分が外部に漏れるようなことはない。
【0010】
これにより、1枚の単板で容器を製造する従来技術の場合は、不良単板を廃棄せざるを得ないのに対して、本発明によれば、木材から廃棄すべき個所を生じることはほとんどなく、木材のほぼ全体を有効に利用することが可能になる。
【0011】
この際、例えば、従来技術の1枚の単板の肉厚を(t)とすると、本発明の2枚で1組とする良質シートと不良シートの肉厚を2枚でほぼ(t)となるように形成しておけば、従来技術に比較して1個の容器あたりの木材消費量が増大することもなく、省資源に貢献する。
【0012】
上記の課題を解決するため、木製容器に関して本発明が特徴とするところは、肉薄木片により形成された多数の木製シートから選択した損傷部を有する不良シートと損傷部を有しない良質シートの2枚を1組として構成され、上下に重ね合わせた不良シートと良質シートを上下金型により加圧成形することにより、一体に接着された両シートにより底壁と周壁を形成する木製容器であり、前記底壁と周壁を構成する容器の内側壁を前記良質シートにより形成し、外側壁を前記不良シートにより形成した点にある。
【0013】
また、木製容器の製造方法に関して本発明の第一の発明が特徴とするところは、底壁と周壁を備えた木製容器を製造する方法であり、木材をスライスすることにより肉薄とされた多数の木製シートを形成し、各木製シートの表面に平滑面を形成する反面、裏面に毛羽立ち状の粗面を形成する工程と、前記多数の木製シートから、損傷部を有する不良シートと損傷部を有しない良質シートの2枚を1組として選択し、1組とされた不良シートと良質シートを相互に粗面を接合させるように上下に重ね合わせることにより複合シートを形成する工程と、前記複合シートを上下金型に介装するに際し、良質シートを雄金型に対面させ、不良シートを雌金型に対面させた状態で、両金型により複合シートを加熱加圧成形し、木質中のリグニンと水分を複合シートの接合面に浸出させることにより複合シートの粗面を相互に接着すると共に、両金型により底壁と周壁を備えた木製容器を成形する工程とから成る点にある。
【0014】
更に、木製容器の製造方法に関して本発明の第二の発明が特徴とするところは、底壁と周壁を備え、周壁の開口縁から断面円弧状として下向きに延びる廻り縁を備えた木製容器を製造する方法であり、木材をスライスすることにより肉薄とされた多数の木製シートを形成し、各木製シートの表面に平滑面を形成する反面、裏面に毛羽立ち状の粗面を形成する工程と、前記多数の木製シートから、損傷部を有する不良シートと損傷部を有しない良質シートの2枚を1組として選択し、1組とされた不良シートと良質シートを相互に粗面を接合させるように上下に重ね合わせることにより複合シートを形成する工程と、前記複合シートを成形装置の上下金型を構成する雄金型と雌金型により成形するに際し、良質シートを雄金型に対面させ、不良シートを雌金型に対面させた状態で、両金型により複合シートの周縁部を除く中央領域を加熱加圧成形し、該中央領域における木質中のリグニンと水分を複合シートの接合面に浸出させることにより複合シートの粗面を相互に接着すると共に、両金型により底壁と周壁を備え且つ周壁の周囲に未成形の周縁部を備えた容器中間製品を成形する第1成形工程と、次いで、両金型により前記容器中間製品を更に加圧成形することにより、該容器中間製品の底壁及び周壁を再び挟着すると共に、前記周縁部に基づいて前記廻り縁を成形することにより容器完成品を形成する第2成形工程とから成る点にある。
【0015】
前記不良シートと良質シートは、複合シートとして加熱加圧成形する前に乾燥することにより木質中の水分を減少させることが好ましく、減少により限定された量の水分を加熱加圧成形時に複合シートの接合面に浸出させるのが良い。
【0016】
本発明の製造方法は、天然木の木質中に含まれるリグニンを利用することにより複合シートの接合面を接着する点に特徴を有するが、必要に応じて、更なる接着手段を加えても良い。即ち、1組とされた不良シートと良質シートの粗面を相互に接合する際に、両シートの少なくとも一方の粗面に澱粉を主剤とする粉粒体を散布し、上下金型により複合シートを加熱加圧成形するとき、木質中から接合面に浸出する水分により前記粉粒体を糊状化させ、複合シートの接合面を相互に接着するように構成しても良い。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の本発明によれば、木製容器1は、全体が木製とされているので焼却可能であり、廃棄処分が容易である。しかも、木製容器1は、吸湿性等に優れているので、生鮮食品の包装容器に頗る適している。
【0018】
特に、本発明の木製容器1は、肉薄木片により形成された多数の木製シートから選択した損傷部7を有する不良シート6aと損傷部を有しない良質シート6bの2枚を1組として構成され、上下に重ね合わせた不良シート6aと良質シート6bを上下金型により加圧成形することにより、一体に接着された両シートにより底壁2と周壁3を形成するものであるから、節やひび割れ等の損傷部を含む不良シート6aであっても、廃棄することなく有効に利用することができ、資源の活用に貢献する。従って、本発明によれば、木材から廃棄すべき個所はほとんど生じることがなく、木材のほぼ全体を有効利用することが可能であり、しかも、損傷個所の多い間伐材ですら大部分を利用することが可能になるという効果がある。そして、このような不良シート6aを有効利用するものであるから、安価に提供することが可能である。
【0019】
この際、例えば、特許文献1に示された従来技術における1枚の単板の肉厚を(t)としたとき、本発明の2枚で1組とする良質シート6bと不良シート6aの肉厚を2枚でほぼ(t)となるように形成しておけば、従来技術に比較して1個の容器あたりの木材消費量が増大することもない。
【0020】
しかも、本発明によれば、木製容器1は、内側壁を前記良質シート6bにより形成し、外側壁を前記不良シート6aにより形成した点に特徴がある。即ち、不良シート6aは、節やひび割れ等の損傷部7を含んでいるが、外側壁に位置しているので容器の機能に支障を生じることはない。そして、容器の内側壁を良質シート6bにより形成しているので、容器に包装した生鮮食品等の水分が外部に漏れるようなことはない。
【0021】
請求項2に記載の本発明によれば、複合シート6を構成する2枚1組の不良シート6a及び良質シート6bは、何れも、表面を平滑面に形成する反面、裏面を毛羽立ち状の粗面8に形成しており、相互に粗面8、8を接合するように上下に重ね合わせた複合シート6を上下金型により加熱加圧成形される。従って、加熱加圧成形時に、毛羽立ち上の粗面8から、木質中のリグニンと水分を好適に浸出させることが可能となり、天然木に含まれるリグニンにより形成される接着膜9により複合シートの接合面を接着することができる。
【0022】
従って、有機質の接着剤等を使用しないので、食品用容器として衛生的に安全であり、しかも、焼却時に有害ガスを発生することもなく環境保全に貢献できる。尚、成形された木製容器1の内側壁面及び外側壁面は、前述の平滑面とされているので、外観的に美麗であり、肌触りも良い。
【0023】
請求項3に記載の本発明によれば、周壁3の開口縁から断面円弧状として下向きに延びる廻り縁4を備えた木製容器1を好適に製造できる方法が提供される。このように容器に廻り縁4を形成することは、食品等を包装した状態で容器の周囲をフィルムでラッピングする必要性から根強いニーズがあるが、本発明のような木製シートの複合シート6から容器を成形する際に、複合シート6を上下金型により底壁2と周壁3のみならず廻り縁4を同時に加圧成形する場合は、木製の複合シート6が底壁2の方向と廻り縁4の方向との相反する両方向に引っ張られながら変形するため、成形割れを発生する確率が高くなる。
【0024】
この点に関して、本発明は、第1成形工程と第2成形工程による2段階の成形工程を構成している。先ず、第1成形工程により、複合シート6の接合面を粗面を介してリグニンを浸出させることにより接着すると共に、底壁a2と周壁3aを成形するが、周壁3aの開口縁には未成形の周縁部4aを備えた容器中間製品1aを成形する。次いで、第2成形工程により、容器中間製品1aを再び加圧成形することにより、前記周縁部4aを断面円弧状となるように成形し、廻り縁4を備えた容器完成品1を得る。
【0025】
従って、廻り縁4を備えた木製容器1を成形するに際して、成形割れが発生する確率は極めて低く、歩留りも極めて良い。
【0026】
しかも、第2成形工程は、単に廻り縁4を成形するだけでなく、同時に容器中間製品1aの底壁2a及び周壁3aを再び挟着する。これにより、第1成形工程で成形された底壁2a及び周壁3aを再び強く締着するので、木質が固く絞め付けられ、強度を向上する。また、万一、第1成形工程で成形した容器中間製品1aが底壁2a又は周壁3aに捩れ等の歪みを生じている場合でも、第2成形工程で歪みが矯正されるので、歪みのない高強度の木製容器1を提供できる。
【0027】
請求項4に記載の本発明によれば、不良シート6aと良質シート6bは、複合シート6として加熱加圧成形する前に乾燥することにより、木質中の水分を減少させられる。本発明者の知見によれば、天然目の含水率を100%としたとき、乾燥後の木質中に残存する水分の含水率は、約10〜約20%とするのが良く、実験の結果によるベルストモードは約15%である。
【0028】
実験によれば、含水率が10%未満であると、加熱加圧成形時に木質中のリグニンが複合シートの接合面に浸出し難く、接着不良を生じてしまう。反対に、含水率が20%を超えると、加熱加圧成形時に浸出する蒸気が多すぎてリグニンが希釈され、これも接着不良を生じてしまう。これに対して、本発明者が知見したように含水率を約15%前後に限定すると、適量の蒸気により適量のリグニンを浸出させることができ、実用的な容器に必要とされる接着強度が得られる。
【0029】
請求項5に記載の本発明によれば、リグニンによる接着力が不十分な場合でも、複合シート6の接合面を強固に接着した木製容器1を提供することができる。前述のように、含水率を約10〜約20%とするようにシートを乾燥させればリグニンだけで良好な接着を得られるが、その品質管理は必ずしも容易でなく、しかも、シートの乾燥を実施しなければならないという不便がある。そこで、この不便を解消する方法として、1組とされた不良シート6aと良質シート6bの粗面を接合する際に、両シートの少なくとも一方の粗面8に澱粉を主剤とする粉粒体を散布する。粉粒体は、例えば、小麦粉を使用することができ、その散布量は少量で良い。
【0030】
そこで、粉粒体を介装した複合シート6を上下金型により加熱加圧成形すると、木質中からリグニンと水分が蒸気として浸出されるので、この蒸気により粉粒体が糊状化し、接合面を均一に接着する接着膜9を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
【0032】
<木製容器の実施形態>
図1において、木製容器1は、底壁2と周壁3を備えた上部開口状の浅底又は深底のトレーとして例示されており、周壁3の開口縁から断面円弧状として下向きに延びる廻り縁4を備えている。尚、底壁2の中央部には、僅かに浮き上がる膨隆部5を備え、生鮮食品等の水分を膨隆部5の周囲に滞留させるように考慮されている。
【0033】
木製容器1の素材は、肉薄木片により形成された多数の木製シートから選択した損傷部を有する不良シート6aと損傷部を有しない良質シート6bの2枚を1組として、上下に重ね合わせた不良シート6aと良質シート6bとから成る複合シート6により構成されており、該複合シート6を上下金型により加圧成形することにより、1組の不良シート6aと良質シート6bを一体に接着されると共に、前述のような形態の木製容器として成形されている。従って、木製容器1は、全体が木製とされているので焼却可能であり、廃棄処分が容易である。しかも、吸湿性等に優れているので、生鮮食品の包装容器に頗る適している。
【0034】
この際、図1(B)(C)に示すように、木製容器1は、内側壁を前記良質シート6bにより形成され、外側壁を前記不良シート6aにより形成されている。従って、不良シート6aは、図1(C)に例示するように、節やひび割れ等の損傷部7を含んでいるが、外側壁に位置しているので容器の機能に支障を生じることはない。そして、容器の内側壁を良質シート6bにより形成しているので、容器に包装した生鮮食品等の水分が外部に漏れるようなことはない。
【0035】
図1(C)に示すように、複合シート6を構成する不良シート6a及び良質シート6bのそれぞれは、外側の表面を平滑面に形成されているが、接合面を粗面8に形成されており、該粗面8に木質中のリグニンを浸出させることにより形成された接着膜9を形成し、該接着膜9により接着一体化されている。
【0036】
<製造方法の実施形態>
(スライス工程)
図2(A)に示すように、良質の木材10bを肉薄木片となるようにスライスすることにより、多数の良質シート6bを形成する。この際、良質シート6bは、表面を平滑面に形成される反面、裏面を毛羽立ち状の粗面に形成される。尚、良質シート6bの表面に木目が美麗に表れるように木材10bのスライス方向が設定されている。
本発明において、例えば節やひび割れ等の損傷部7を含む不良の木材10aは、廃棄せずに有効利用される。即ち、図2(B)に示すように、不良の木材10aを肉薄木片となるようにスライスすることにより、多数の不良シート6aを形成する。この際、不良シート6aは、表面を平滑面に形成される反面、裏面を毛羽立ち状の粗面に形成される。尚、不良シート6aの表面に木目が美麗に表れるように木材10aのスライス方向が設定されている。
【0037】
(伸展工程)
スライス切断により得られたシート6a、6bは、スライス装置に起因して弓形に歪んでいるときは、図2(C)に示すように、伸展装置11により、一対の押圧ローラ(図示せず)で歪みを矯正する。
【0038】
(乾燥工程)
次いで、シート6a、6bは、図2(D)に示すように、乾燥装置12により、木質中の水分を減少させられる。上述のように、天然目の含水率を100%としたとき、シート6a、6bの木質中に残存する水分の含水率が約10〜約20%、好ましくは約15%となるように乾燥される。尚、乾燥を短時間で行うためには、乾燥装置12に加熱手段を設けるのが好ましく、シート6a、6bを走行させるジグザグ状の経路を所定の長さに設定し、加熱手段の加熱力とシートの走行時間を決定することにより、前述のような限定された含水率となるように乾燥することが可能である。
【0039】
(第1成形工程)
前述の工程を経た多数のシートは、不良シート6aと良質シート6bの2枚を1組として選択され、相互に粗面を接合させるように上下に重ね合わせることにより複合シート6を構成した状態で、図3に示すような成形装置13により加熱加圧成形され、容器中間製品を製造する。尚、前述の乾燥工程を省略する場合、或いは、乾燥工程を行う場合でも必要に応じて、複合シート6を構成する不良シート6aと良質シート6bの粗面とされた接合面の少なくとも一方に、澱粉を主剤とする粉粒体を散布することができる。粉粒体は、例えば小麦粉を使用すれば良く、その散布量は少量で足りる。
【0040】
成形装置13により成形される容器中間製品1aは、図4に示すように、底壁2aと周壁3aを備えるが、周壁3aの開口縁から外側に延びる未成形の周縁部4aを備えたものとされ、好ましくは、底壁2aの中央部に僅かに浮き上がる膨隆部5aを備える。
【0041】
図3に示すように、成形装置13は、上型として示す雄金型14と、下型として示す雌型15とから構成され、両型14、15を開閉する駆動装置(図示省略)を備えている。雌型15は、前述した容器中間製品1aの膨隆部5aを含む底壁2aと周壁3aの外側の形状に沿う凹部16を有すると共に、該凹部16の開口縁から外側に連なる断面円弧状の突隆部17を形成している。これに対して、雄型14は、雄型本体18から雌型15に向けて進退自在に設けられた移動型19を有しており、該移動型19の表面に、前述した容器中間製品1aの膨隆部5aを含む底壁2aと周壁3aの内側の形状に沿う凸部20を有している。移動型19は、案内手段21により雄型本体18に進退移動自在に案内され、バネ22aを備えた弾発手段22により常時は雄型本体18から突出するように構成されている。移動型19は、凸部20により容器中間製品1aの周壁3aを開口縁の近傍部まで同時に成形するように構成されている。これに対して、雄型本体18は、移動型19の凸部20に連なる凹曲部23を形成している。
【0042】
また、雌型15は、凹部16に向けて支持手段24を設けており、該支持手段24は、先端を前記突隆部17の高さ位置に臨ませる進退自在なロッド24aと、該ロッド24aを常時凹部16に進出するように付勢するバネ24bにより構成されている。
【0043】
更に、雌型15は、突隆部17の外周側に調節板25を着脱自在に設けており、該調節板25の周囲に位置して位置決め手段26を設けている。位置決め手段26は、図4に示すように突隆部17の外周に臨む位置と、図示鎖線で示す型外の位置との間を往復移動するように構成されている。
【0044】
尚、雄型本体18と雌型15の型面の間に排気手段27が設けられている。この排気手段27は、図例のように型面の間に設ける他、少なくとも一方の型面に連通するように形成した溝又は孔により構成しても良い。
【0045】
ところで、図3に示すように、複合シート6は、成形装置13の上下金型に介装するに際し、良質シート6bを雄型14に対面させ、不良シート6aを雌型15に対面させた状態でセットされる。尚、2枚1組のシート6a、6bは、相互に木目を交差させた状態で重ね合わせるのが好ましい。そこで、複合シート6を雌型15の突隆部17に載せると、該複合シート6の周縁が位置決め手段26により拘束されるので、金型に対する適切な位置決めが行われる。この際、複合シート6の中央領域は、下方から支持手段24により支持されているので、薄い複合シート6が下向きに撓むことはない。この状態で、位置決め手段26を型外に退避させながら、図4に示すように、両金型14、15を閉じることにより、複合シート6が加熱加圧され、上述のような容器中間製品1aが成形される。
【0046】
雄型14と雌型15を閉じると、弾発手段22により突出された移動型19の凸部20が複合シート6を雌型15の凹部16に向けて押し込み変形させながら成形を行う。両金型が閉じるに従い、移動型19は、弾発手段22のスプリング22aに抗して案内手段21により後退させられる。そして、凸部20により押圧される複合シート6は、支持手段24のロッド24aをバネ24bに抗して後退させることにより、該シート6の下面をロッド24aの先端で支持されながら、凹部16に押し込まれる。
【0047】
そこで、雄型14と雌型15は、完全に閉じた型締め状態ではなく、図4に示すようにやや開いた状態で第1成形工程を実施し、付勢手段22のバネ22aの力により、容器中間製品1aの底壁2aと周壁3aを加熱加圧成形する。即ち、このとき、雄型14の凹曲部23と雌型15の突隆部17は相互に離間しており、従って、周縁部4aは未成形のままとされる。このように、第1成形工程は、底壁2aと周壁3だけを成形するので、複合シート6に大きな応力を生じさせることがなく、歪みや割れを発生しない。
【0048】
第1成形工程は、数秒間、例えば2〜3秒ほど実施され、この間、容器中間製品1aは、加熱加圧されるので、複合シート6の木質中のリグニンと水分が蒸気となって接合面に浸出され、接合面を一体化するように相互に接着する。また、上述のように接合面に澱粉の粉粒体を散布している場合は、蒸気により糊状となり、接合面に均一に行き渡り接着する。尚、このとき発生する蒸気は、排気手段27を介して金型外に排出される。
【0049】
(第2成形工程)
次いで、成形装置13は、図5に示すように、雄型14と雌型15が型締め状態となるまで閉じられ、容器中間製品1aを再び加圧成形する第2成形工程を実施し、これにより完成品としての木製容器1を製造する。
【0050】
この状態で、雌型15の突隆部17と雄型14の凹曲部23が相互に衝合されるので、第1成形工程で未成形のままとされていた周縁部4aを下向き円弧状に変形し、これにより廻り縁4が成形される。
【0051】
この第2成形工程は、単に廻り縁4を成形するだけでなく、同時に容器中間製品1aを再び挟着し、第1成形工程で成形された底壁2a及び周壁3aを再び強く締着する。従って、木質が固く絞め付けられ、強度を向上する。また、万一、第1成形工程で成形した容器中間製品1aが底壁2a又は周壁3aに捩れ等の歪みを生じている場合でも、第2成形工程で歪みが矯正される。
【0052】
第2成形工程において、容器中間製品1aの周縁部4aを容器完成品1の廻り縁4となるように成形する際、木質その他に起因して、周縁部4aに割れを生じる場合がある。このような割れは、廻り縁4の隆起が顕著になるほど(換言すれば隆起円弧の曲率半径が小さくなるほど)発生し易い。このため、成形装置13の雌型15は、突隆部17の外周側の隣接位置に調節板25を設けている。調節板25は、図6(A)に示すような比較的薄い肉厚T1(例えば厚さ2mm)の調節板25aと、図6(B)に示すような比較的厚い肉厚T2(例えば厚さ3mm)の調節板25bのように、肉厚の異なるものを複数種類準備するのが好ましい。尚、何れの調節板25も突隆部17の外側を囲む枠板状に形成され、雌型15の型面に着脱自在に載置される。
【0053】
従って、調節板25を取外した状態で第2成形工程を実施するとき、容器中間製品1aの周縁部4aから成形される廻り縁4は、その高さHが最も高く成形される。そこで、もしもその場合に廻り縁4が割れるようであれば、図6(A)に示す肉厚T1の薄い調節板25aを取付け、その状態で第2成形工程を実施する。これにより、周縁部4aから成形される廻り縁4は、調節板を設けない場合よりも低い高さH1となるように成形されるので、割れの問題が解消される。ところで、薄い調節板25aを設けても廻り縁4が割れるようであれば、薄い調節板25aに代えて、図6(B)に示すような肉厚T2(即ちT2>T1)とされた厚い調節板25bを取付け、その状態で第2成形工程を実施する。この場合、周縁部4aから成形される廻り縁4は、更に低い高さH2(即ちH2<H1)となるように成形されるので、割れの問題が解消される。
【0054】
尚、肉厚を異ならせた複数種類の調節板25a、25bは、前述のように選択した1枚を雌型15の型面に取付けても良いが、同種類の調節板又は異種類の調節板を複数枚重ねた状態で使用しても良い。
【0055】
<製造方法の別の実施形態>
上述のように2段階の成形工程を行う実施形態は、請求項3に記載の本発明に対応するものであるが、請求項2に記載の本件発明は、必ずしも2段階の成形工程に分けて行う必要はない。例えば、開口縁に廻り縁4を設けない木製容器1を成形する際は、複合シート6に対して1回の成形工程を実施するだけで良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の1実施形態としての木製容器を示し(A)は容器の斜視図、(B)は縦断面図、(C)は複合シートの一部分の拡大断面図である。
【図2】本発明の製造方法における成形前の工程を示しており、(A)は良質シートのスライス工程を示す説明図、(B)は不良シートのスライス工程を示す説明図、(C)は伸展工程を示す説明図、(D)は乾燥工程を示す説明図である。
【図3】成形装置の1実施形態を示す断面図である。
【図4】成形装置により容器中間製品を成形する第成形工程を示す断面図である。
【図5】成形装置により完成品としての木製容器を成形する第2成形工程を示す断面図である。
【図6】調節板を使用した成形方法を示しており、(A)は薄い調節板の使用例を示す拡大断面図、(B)は厚い調節板の使用例を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 木製容器
2 底壁
3 周壁
4 廻り縁
1a 容器中間製品
2a 容器中間製品の底壁
3a 容器中間製品の周壁
4a 容器中間製品の廻り縁
6 複合シート
6a 不良質シート
6b 良質シート
7 損傷部
8 粗面
9 接着膜
13 成形装置
14 雄型
15 雌型
16 凹部
17 突隆部
18 雄型本体
19 移動型
20 凸部
22 弾発手段
23 凹曲部
24 支持手段
25 調節板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉薄木片により形成された多数の木製シートから選択した損傷部(7)を有する不良シート(6a)と損傷部を有しない良質シート(6b)の2枚を1組として構成され、上下に重ね合わせた不良シート(6a)と良質シート(6b)を上下金型により加圧成形することにより、一体に接着された両シートにより底壁(2)と周壁(3)を形成する木製容器であり、
前記底壁(2)と周壁(3)を構成する容器(1)の内側壁を前記良質シート(6b)により形成し、外側壁を前記不良シート(6a)により形成したことを特徴とする木製容器。
【請求項2】
底壁(2)と周壁(3)を備えた木製容器(1)を製造する方法であり、
木材をスライスすることにより肉薄とされた多数の木製シートを形成し、各木製シートの表面に平滑面を形成する反面、裏面に毛羽立ち状の粗面(8)を形成する工程と、
前記多数の木製シートから、損傷部(7)を有する不良シート(6a)と損傷部を有しない良質シート(6b)の2枚を1組として選択し、1組とされた不良シート(6a)と良質シート(6b)を相互に粗面を接合させるように上下に重ね合わせることにより複合シート(6)を形成する工程と、
前記複合シート(6)を上下金型に介装するに際し、良質シート(6b)を雄金型に対面させ、不良シート(6a)を雌金型に対面させた状態で、両金型により複合シート(6)を加熱加圧成形し、木質中のリグニンと水分を複合シート(6)の接合面に浸出させることにより複合シート(6)の粗面(8)を相互に接着すると共に、両金型により底壁(2)と周壁(3)を備えた木製容器(1)を成形する工程とから成ることを特徴とする木製容器の製造方法。
【請求項3】
底壁(2)と周壁(3)を備え、周壁(3)の開口縁から断面円弧状として下向きに延びる廻り縁(4)を備えた木製容器(1)を製造する方法であり、
木材をスライスすることにより肉薄とされた多数の木製シートを形成し、各木製シートの表面に平滑面を形成する反面、裏面に毛羽立ち状の粗面(8)を形成する工程と、
前記多数の木製シートから、損傷部(7)を有する不良シート(6a)と損傷部を有しない良質シート(6b)の2枚を1組として選択し、1組とされた不良シート(6a)と良質シート(6b)を相互に粗面を接合させるように上下に重ね合わせることにより複合シート(6)を形成する工程と、
前記複合シート(6)を成形装置(13)の上下金型を構成する雄金型と雌金型により成形するに際し、良質シート(6b)を雄金型に対面させ、不良シート(6a)を雌金型に対面させた状態で、両金型により複合シート(6)の周縁部を除く中央領域を加熱加圧成形し、木質中のリグニンと水分を複合シート(6)の接合面に浸出させることにより複合シート(6)の粗面(7)を相互に接着すると共に、両金型により底壁(2a)と周壁(3a)を備え且つ周壁(3a)の周囲に未成形の周縁部(4a)を備えた容器中間製品(1a)を成形する第1成形工程と、
次いで、両金型により前記容器中間製品(1a)を更に加圧成形することにより、該容器中間製品(1a)の底壁(2a)及び周壁(3a)を再び挟着すると共に、前記周縁部(4a)に基づいて前記廻り縁(4)を成形することにより容器完成品(1)を形成する第2成形工程とから成ることを特徴とする木製容器の製造方法。
【請求項4】
加熱加圧成形前の不良シート(6a)と良質シート(6b)を乾燥させて木質中の水分を減少させ、減じた水分を第1成形工程の際にリグニンと共に接合面に浸出させることを特徴とする請求項2又は3に記載の木製容器の製造方法。
【請求項5】
1組とされた不良シート(6a)と良質シート(6a)の粗面(8)を相互に接合する際に、両シートの少なくとも一方の粗面(8)に澱粉を主剤とする粉粒体を散布し、上下金型により複合シート(6)を加熱加圧成形するとき、木質中から接合面に浸出する水分により前記粉粒体を糊状化させ、複合シート(6)の接合面を相互に接着することを特徴とする請求項2、3又は4に記載の木製容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−253531(P2007−253531A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83039(P2006−83039)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(506293258)株式会社森林資源利用促進研究所 (4)
【Fターム(参考)】