説明

木質セメント板、及びその製造方法

【課題】表面の意匠性と、曲げ強度と、長期耐久性に優れる木質セメント板、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維とからなる母層の上に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維と、木粉とからなる表層が積層した成型物であり、該母層と該表層には、セメントと珪酸含有物が3:7〜7:3の質量比で含有されており、該表層の木粉は、0.3〜1.5mmで、カルシウムにより被覆されている、表面に凹凸模様を有する木質セメント板。及び、水に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維から母層マットを製造する工程と、0.3〜1.5mmの木粉をカルシウムで被覆する工程と、得られた木粉と、セメントと、珪酸含有物と、木質繊維を混合して表層用原料混合物を製造する工程と、得られた表層用原料混合物を母層マットに散布し、成型、養生する工程とからなる木質セメント板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築板に好適な木質セメント板、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、セメント等の水硬性無機粉体と、木質パルプ繊維などの木質繊維とを主成分とする木質セメント板があり、該木質セメント板は比重が高く、曲げ強度などの物性に優れるので、内壁材、外壁材等の建築板として使用されている。そして、このような木質セメント板の製造方法としては、ハチェック式や長網式などの抄造方法、型枠プレス方式、乾式法がある。また、特許文献1に記載されているように、型枠にスラリーを流し込み、均し、脱水して得られたマットの上に、粉体原料を散布して表層を形成させ、得られたマットをプレス成型する方式もある。特許文献1の製造方法によれば、必要量のスラリーを型枠に投入すれば良いため、厚物の木質セメント板を製造しやすい。また、表面が粉体原料により形成されるので、表面が緻密となる。
【0003】
木質セメント板には、表面に深い凹凸模様を設けて意匠性を向上させることが求められており、特許文献1によれば、表面が緻密なので、表面に深い凹凸模様を設けることができる。
【0004】
しかし、表面に深い凹凸模様を設けると、凹凸模様の縁角部や深い曲がり部分に亀裂が発生し、強度が弱くなったり、長期を経過した際に反りが発生しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−300767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、表面の意匠性と、曲げ強度と、長期耐久性に優れる木質セメント板、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表面に凹凸模様を有する木質セメント板を提供する。本発明の木質セメント板は、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維とからなる母層の上に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維と、木粉とからなる表層が積層した成型物であり、該母層と該表層には、セメントと珪酸含有物が3:7〜7:3の質量比で含有されている。そして、該表層の木粉は、0.3〜1.5mmで、カルシウムにより被覆されている。また、該木質繊維と該木粉とをあわせた含有量は、該木質セメント板の全固形分に対して9質量%以下である。該木粉の含有量は、該表層の全固形分に対して1〜3質量%であることが好ましく、更に好ましくは、該表層の全固形分に対して1〜2質量%である。更に、表層と母層の固形分は、5:95〜30:70の質量比であることが好ましい。
また、本発明では、表面に凹凸模様を有する木質セメント板を製造する方法も提供する。該製造方法は、水に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維を添加し、混合して、母層用スラリーを製造する工程と、得られた母層用スラリーを脱水し、母層マットを製造する工程と、木粉をカルシウムで被覆する工程と、得られた木粉と、セメントと、珪酸含有物と、木質繊維を混合して表層用原料混合物を製造する工程と、得られた表層用原料混合物を母層マットに散布し、成型、養生する工程とからなる。母層用スラリーを製造する工程においては、該母層用スラリーにおけるセメントと珪酸含有物の質量比を3:7〜7:3とするとともに、木質繊維の量を該母層用スラリーの全固形分に対して9質量%以下とする。表層用原料混合物を製造する工程においては、該表層用原料混合物におけるセメントと珪酸含有物の質量比を3:7〜7:3とするとともに、木質繊維と木粉とをあわせた量を該表層用原料混合物の全固形分に対して9質量%以下とする。木粉をカルシウムで被覆する工程は、木粉とセメント組成物の粉砕物を固形分濃度75〜90質量%の状態で混合することにより行う、又は、木粉とカルシウム含有物を固形分濃度75〜90質量%の状態で混合することにより行う。なお、木粉をカルシウムで被覆する工程においては、0.3〜1.5mmの木粉を使用する。また、カルシウム含有物は、セメント、石膏、石灰、カルシウムを含有する珪酸含有物のすくなくともいずれかである。更に、木粉をカルシウムで被覆する工程において、該木粉と、セメント組成物の質量比を1:7〜1:20とする、又は、カルシウム含有物を該木粉よりも多く添加することが好ましい。更に、木粉と、セメント組成物、又は、カルシウム含有物の混合は60秒以上行うことが好ましい。該木粉の量は、表層用原料混合物の全固形分に対して1〜3質量%とすることが好ましく、更に好ましくは、1〜2質量%とすることである。更に、表層用原料混合物と母層用スラリーの固形分は、5:95〜30:70の質量比であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面の意匠性と、曲げ強度と、長期耐久性に優れる木質セメント板、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0010】
本発明の木質セメント板は、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維とからなる母層の上に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維と、木粉とからなる表層が積層した成型物である。
【0011】
セメントとしては、ポルトランドセメント、早強セメント、アルミナセメント、フライアッシュセメント、高炉スラグセメント、シリカセメント、白色セメント等がある。本発明では、これらの物質のうち、いずれか1種のみを含有しても良いし、2種類以上を含有してもよい。
【0012】
珪酸含有物としては、珪砂、珪石粉、シリカ粉、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ、シラスバルーン、パーライト、珪藻土等がある。本発明では、これらの物質のうち、いずれか1種のみを含有しても良いし、2種類以上を含有してもよい。
【0013】
木質繊維としては、故紙、針葉樹未晒しクラフトパルプ(NUKP)や針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒しクラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等がある。本発明では、これらの物質のうち、いずれか1種のみを含有しても良いし、2種類以上を含有してもよい。また、ディスクリファイナー等の叩解機で叩解してカナディアンフリーネス500ml以下にした木質繊維を用いると、強度などの物性が向上するので、好ましい。
【0014】
木粉は、0.3〜1.5mmのサイズである。木粉は、森林から伐採した木材を粉砕して製造することができるが、間伐材や、柱材の製造で発生する端材、木材の廃材等を粉砕することにより製造することもできる。
【0015】
本発明では、原料の一つとして、セメント組成物も使用することができる。セメント組成物としては、製造工程で発生した硬化前の木質セメント板の不良板、硬化後の木質セメント板の不良板、建築現場で発生した木質セメント板の端材、廃材などがある。いずれも衝撃式粉砕機及び/又は擦過式粉砕機で平均粒径50〜150μmに粉砕し、使用する。該セメント組成物を使用することで、製造コストを安くすることができるとともに、産業廃棄物を減らすことができる。
【0016】
更に、本発明では、原料の一つとして、カルシウム含有物も使用することができる。カルシウム含有物としては、セメント、石膏、石灰、カルシウムを含有する珪酸含有物のすくなくともいずれかである。カルシウムを含有する珪酸含有物としては、前述した珪酸含有物の内、フライアッシュ、高炉スラグなどがあげられる。
【0017】
木質セメント板の上記以外の原料として、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、アクリル酸カルシウム、水ガラス等の硬化促進剤や、マイカ、ベントナイト、バーミキュライト等の鉱物粉末や、ロウ、ワックス、パラフィン、シリコン、コハク酸、高級脂肪酸の金属塩等の防水剤、撥水剤や、発泡性熱可塑性プラスチックビーズ、プラスチック発泡体等や、ナイロン、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、ガラス繊維などの化学繊維や、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水性糊料、スチレン−ブタジエンラテックス、アクリル樹脂エマルジョンなどの合成樹脂エマルジョンの強化剤がある。
【0018】
そして、本発明の木質セメント板は、母層と表層からなるが、母層、表層ともにセメントと珪酸含有物を3:7〜7:3の質量比で含有し、母層は木質繊維を9質量%以下、表層は木質繊維と木粉とをあわせて9質量%以下含有する。
母層、表層ともにセメントと珪酸含有物を質量比で3:7〜7:3の範囲で含有するのは、この範囲であれば、木質セメント板は十分な強度を発現できるとともに、十分なたわみも得られ、作業性、釘打ち性等にも問題が発生しないからである。この範囲から外れると、木質セメント板は強度を発現できず脆くなる、又は、比重が高くなるとともにたわみが少なくなり、堅くて重く、運搬しづらく、作業性、釘打ち性等に問題が発生する。
母層が木質繊維を9質量%以下含有するのは、9質量%より多いと、木質セメント板が十分な強度を発現できないためである。
表層が木質繊維と木粉とをあわせて9質量%以下含有するのは、9質量%より多いと、プレスした際に、表面を十分に成形することができず、凹凸模様の縁角部や深い曲がり部分に亀裂が発生しやすいためである。木質繊維が4〜8質量%、木粉が1〜3質量%であると、得られる木質セメント板は、強度等の物性や表面の意匠性に特に優れるので好ましい。特に、木粉が、該表層の全固形分に対して1〜2質量%であることが好ましい。
【0019】
そして、本発明では、製造方法は、水に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維を添加し、混合して、母層用スラリーを製造する工程と、得られたスラリーを脱水し、母層マットを製造する工程と、木粉をカルシウムで被覆する工程と、得られた木粉と、セメントと、珪酸含有物と、木質繊維を混合して表層用原料混合物を製造する工程と、得られた表層用原料混合物を母層マットに散布し、成型、養生する工程とからなる。
【0020】
まず、母層用スラリーを製造する工程は、水に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維を添加し、混合することにより行うが、セメントと、珪酸含有物と、木質繊維は、粉体(乾燥)状態で添加しても良いし、予め各原料を別の水に混合しておいてから添加しても良いが、母層用スラリーの固形分濃度が20〜40質量%となるように調整する。スラリーの固形分濃度を20質量%以上とするのは、20質量%より少ないとスラリーを脱水する際に時間がかかり、脱水された抄造シートに亀裂が入りやすく、抄造しにくいなどの問題が発生するためである。スラリーの固形分濃度を40質量%以下とするのは、40質量%より多いとスラリーの流動性が悪くなり、脱水された抄造シートに亀裂が入りやすく、抄造しにくいなどの問題が発生するためである。
【0021】
そして、得られたスラリーを脱水し、母層マットを製造する工程は、得られたスラリーを、下側に吸引脱水装置を備えた型枠内に流し込み、下側側から吸引脱水して、スラリーを水と固形物に分離することにより行う。
【0022】
木粉をカルシウムで被覆する工程は、木粉とセメント組成物の粉砕物を固形分濃度75〜90質量%の状態で混合することにより行う、又は、木粉とカルシウム含有物を固形分濃度75〜90質量%の状態で混合することにより行う。木粉とセメント組成物の粉砕物を混合する際の固形分濃度75〜90質量%、木粉とカルシウム含有物を混合する際の固形分濃度75〜90質量%とするのは、この状態が木粉をカルシウムで被覆させるのに適切であり、かつ、作業しやすいためである。すなわち、セメント組成物及びカルシウム含有物は、カルシウムを含有しているが、該カルシウムは水に可溶であり、木粉は、比重が軽く、乾燥状態では、セメント組成物又はセメントと混合しにくいが、適度な水を有することにより、セメント組成物又はカルシウム含有物との混合が可能となる。そこで、本発明では、木粉をセメント組成物又はカルシウム含有物と固形分濃度75〜90質量%の状態で混合することにより、セメント組成物又はカルシウム含有物からカルシウムを溶出させるとと共に、均一に混合させて、木粉をカルシウムで被覆させている。なお、固形分濃度が75質量%より低いと、混合の際に木粉が混合機の壁面に付着し、均一に混合できないとともに、表層用原料混合物の含水率が高くなり、均一に散布できない。一方、固形分濃度が90質量%を超えると、木粉とセメント組成物又はカルシウム含有物を均一に混合できないとともに、セメント組成物又はカルシウム含有物からのカルシウムの溶出も十分にできず、木粉をカルシウムで十分に被覆することができない。なお、木粉をカルシウムで被覆する工程において、固形分濃度の調整を、母層用スラリーを脱水した際に得られた水で行うと、木粉をカルシウムで被覆しやすくなるので、好ましい。
そして、木粉は、いずれの場合でも0.3〜1.5mmの大きさのものを使用する。0.3〜1.5mmの大きさの木粉を使用するのは、この範囲から外れると、得られる木質セメント板は、十分な物性や、表面の造形性を得られないためである。
木粉の量は、表層の全固形分に対して、木質繊維とあわせて9質量%以下とするが、1〜3質量%とすることが好ましく、更に1〜2質量%とすることがより好ましい。
また、木粉をカルシウムで被覆する工程を、木粉とセメント組成物の粉砕物を混合することにより行う場合には、該木粉と、該セメント組成物の質量比が1:7〜1:20であると、該木粉がカルシウムに覆われやすいとともに、得られる木質セメント板は十分な強度を得られるので、好ましい。木粉をカルシウムで被覆する工程を、木粉とカルシウム含有物を混合することにより行う場合には、該カルシウム含有物の量を該木粉の量よりも多くすると、該木粉がカルシウムに覆われやすいとともに、得られる木質セメント板は、十分な強度を得られるので、好ましい。
更に、木粉と、セメント組成物、又は、カルシウム含有物との混合を60秒以上行うと、該木粉が確実にカルシウムにより被覆されるので、好ましい。なお、木粉と、セメント組成物、又は、カルシウム含有物の混合の順番は、木粉を先に添加しても良いし、木粉を後に添加しても良い。
【0023】
そして、表層用原料混合物を製造する工程は、得られた木粉と、セメントと、珪酸含有物と、木質繊維を混合することにより行う。セメントと、珪酸含有物と、木質繊維は、粉体(乾燥)状態で添加しても良いし、水を含んだ状態で添加しても良いが、表層用原料混合物の固形分濃度が71〜90質量%となるように調整する。表層用原料混合物の固形分濃度を90質量%以下とするのは、90質量%より多いと各原料が均一に混合しにくいとともに、散布した際に散布ムラが発生しやすく、表層が薄く形成された部分に巣穴が発生するという問題が発生するためである。表層用原料混合物の固形分濃度を71質量%以上とするのは、71質量%より少ないと脱水する際に時間がかかり、脱水不良が部分的に生じるなどの問題が発生するためである。
【0024】
得られた表層用原料混合物を母層マットに散布し、成型、養生する工程は、得られた表層用原料混合物を母層マットに散布した後、凹凸模様を賦した型板でプレスし、その後、60〜90℃で5〜10時間の条件で一次養生し、更に、自然養生、又は、蒸気養生、又は、オートクレーブ養生することにより行う。なお、プレスの際に、型板はマットの上、又は下に配置する。また、オートクレーブ養生する場合の条件は、120℃以上、0.5MPa以上の圧力で7〜15時間である。
【0025】
次に、本発明の実施例をあげる。
【0026】
間伐材を粉砕して得られた平均1.0mmのサイズの木粉と、硬化後の木質セメント板の不良板を粉砕して得られた平均粒径100μmのサイズの木質セメント板の粉砕品と、水を60秒混合させた。なお、水は混合物の固形分濃度が85%となるよう添加した。このようにして得られた混合物に、ポルトランドセメントと、珪石粉と、フライアッシュと、パーライトと、カナディアンフリーネス500mlの針葉樹未晒しクラフトパルプと、故紙と、別の水を添加し、混合して表層用原料混合物を得た。また、ポルトランドセメントと、珪石粉と、フライアッシュと、パーライトと、カナディアンフリーネス500mlの針葉樹未晒しクラフトパルプと、故紙と、硬化後の木質セメント板の不良板を粉砕して得られた平均粒径100μmのサイズの木質セメント板の粉砕品と、水を添加し、混合して母層用スラリーを得た。表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであり、表層用原料混合物の固形分濃度は75質量%で、母層用スラリーの固形分濃度は25質量%とした。そして、得られた母層用スラリーを、下側に吸引脱水装置を備えた型枠内に流し込み、下側側から吸引脱水して、母層マットを製造し、該母層マットの上に表層用原料混合物を散布し、母層の表面に表層が形成された積層マットを製造した。更に、積層マットの表面に、凹凸模様を賦した型板を用いて、プレス圧2.5MPa、プレス時間7秒のプレスを施し、深さ4mmで角度が55°のブロック柄を表面に形成させた。その後、170℃で、10時間オートクレーブ養生し、実施例1の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物と母層用スラリーの固形分は、10:80の質量比とした。
【0027】
表層用原料混合物の製造において、木粉の添加量を、表層用原料混合物の固形分に対して2質量%とし、木粉の増加分だけ故紙を減らし、他は実施例1と同じ条件として木質セメント板を製造し、実施例2の木質セメント板を得た。なお、木粉は全て最初に木質セメント板の粉砕品と混合しており、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0028】
表層用原料混合物の製造において、木質セメント板の粉砕品の添加量を変更し、他は実施例1と同じ条件として木質セメント板を製造し、実施例3の木質セメント板を得た。表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。なお、木質セメント板の粉砕品は全て木粉の次に水に添加した。
【0029】
表層用原料混合物の製造において、硬化後の木質セメント板の不良板を、硬化前の木質セメント板の不良板に変更し、他は実施例1と同じ条件として木質セメント板を製造し、実施例4の木質セメント板を得た。なお、硬化前の木質セメント板の不良板も、平均粒径が100μmとなるよう粉砕して使用しており、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0030】
表層用原料混合物の製造において、木粉の添加量を、表層用原料混合物の固形分に対して2質量%となるように変更し、他は実施例4と同じ条件として木質セメント板を製造し、実施例5の木質セメント板を得た。なお、木粉は全て最初に木質セメント板の粉砕品と混合しており、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0031】
表層用原料混合物の製造において、木粉と木質セメント板の粉砕品を混合する際に添加する水に、スラリーを脱水した後の水を使用するように変更し、他は実施例1と同じ条件として木質セメント板を製造し、実施例6の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0032】
表層用原料混合物の製造において、木粉の添加量を、表層用原料混合物の固形分に対して2質量%となるように変更し、他は実施例6と同じ条件として木質セメント板を製造し、実施例7の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0033】
表層用原料混合物の製造において、木粉と該木粉の倍の量のポルトランドセメントと水を添加し、60秒混合した。なお、固形分濃度は85質量%とした。次に、硬化後の木質セメント板の不良板を粉砕して得られた、平均粒径が100μmの木質セメント板の粉砕品と、ポルトランドセメントと、珪石粉と、フライアッシュと、パーライトと、カナディアンフリーネス500mlの針葉樹未晒しクラフトパルプと、故紙と、別の水を添加し、混合して表層用原料混合物を得た。すなわち、ポルトランドセメントは、木粉とともに添加するとともに、珪石粉等と混合する際にも更に添加した。他は実施例1と同じ条件で木質セメント板を製造し、実施例8の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0034】
ポルトランドセメントと、珪石粉と、フライアッシュと、パーライトと、カナディアンフリーネス500mlの針葉樹未晒しクラフトパルプと、故紙と、硬化後の木質セメント板の粉砕品と、水を添加し、混合して、木粉を含まない表層用原料混合物を得た。他は実施例1と同じ条件で木質セメント板を製造し、比較例1の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0035】
表層用原料混合物の製造において、全ての原料を同時に混合した以外は実施例1と同じ条件で木質セメント板を製造し、比較例2の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0036】
表層用原料混合物の製造において、木粉の添加量を表層用原料混合物の固形分に対して2質量%とし、木粉の増加分だけ故紙を減らした以外は比較例2と同じ条件で木質セメント板を製造し、比較例3の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0037】
表層用原料混合物の製造において、木粉と木質セメント板の粉砕品を含む混合物の固形分濃度を92質量%となるように変更した以外は実施例2と同じ条件で木質セメント板を製造し、比較例4の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0038】
表層用原料混合物の製造において、木粉のサイズを平均2.0mmに変更した以外は実施例2と同じ条件で木質セメント板を製造し、比較例5の木質セメント板を得た。なお、表層用原料混合物、母層用スラリーの各原料の割合は、表1に示すとおりであった。
【0039】
そして、得られた実施例1〜8、及び比較例1〜5の各木質セメント板について、比重、厚さ、曲げ強度、長期耐久性を測定するとともに、各木質セメント板の表面の造形性を確認したので、その結果も表1に示す。なお、曲げ強度はJIS A 1408に準じて測定した。長期耐久性は、30cm角の木質セメント板の端部を水に4時間侵漬した後、二酸化炭素を充満させた密閉容器内に4時間置き、その後、16時間80℃で乾燥させることを1サイクルとし、10サイクル行った後の木質セメント板の状況を確認して、反りが0.5mm未満の場合には”○”とし、0.5〜1.0mmの場合には”△”とし、1.0mm以上の反りが発生した場合は”×”と評価した。表面の造形性は、各木質セメント板の表面に形成されたブロック柄の状態を確認し、亀裂が存在しない場合には”○”とし、亀裂が存在する場合は”×”と評価した。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜8の木質セメント板は、曲げ強度に優れるとともに、長期耐久性と表面の造形性が”○”であり、長期耐久性と表面の造形性に優れた。
一方、表層に木粉を含有していない比較例1の木質セメント板は、長期耐久性と表面の造形性が”△”であり、長期耐久性と表面の造形性に劣った。
表層用原料混合物の製造において、木粉を添加した後、すぐに他の原料を添加した比較例2の木質セメント板は、同じ配合の実施例1の木質セメント板よりも曲げ強度が低く、かつ、長期耐久性と表面の造形性が”×”であり、長期耐久性と表面の造形性に劣った。この傾向は、木粉の添加量を全固形分に対して2質量%となるように変更した比較例3でも同じであった。すなわち、比較例3の木質セメント板は、同じ配合の実施例2よりも曲げ強度が低く、かつ、長期耐久性と表面の造形性が”×”であり、長期耐久性と表面の造形性に劣った。
表層用原料混合物の製造において、木粉と木質セメント板の粉砕品を混合する工程の固形分濃度を92質量%とした比較例4の木質セメント板は、同じ配合の実施例2よりも曲げ強度が低く、かつ、長期耐久性と表面の造形性が”×”であり、長期耐久性と表面の造形性に劣った。
表層の木粉のサイズが平均2.0mmである比較例5の木質セメント板は、同じ配合の実施例2よりも曲げ強度が低く、かつ、長期耐久性と表面の造形性が”×”であり、長期耐久性と表面の造形性に劣った。
【0042】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載の発明の範囲において種々の変形態を取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、表面の意匠性と、曲げ強度と、長期耐久性に優れる木質セメント板、及びその製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸模様を有する木質セメント板であって、
セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維とからなる母層の上に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維と、木粉とからなる表層が積層した成型物であり、
母層と表層には、セメントと珪酸含有物が3:7〜7:3の質量比で含有されており、
表層の木粉は0.3〜1.5mmで、カルシウムにより被覆されており、
木質繊維と木粉とをあわせた含有量は、木質セメント板の全固形分に対して9質量%以下である
ことを特徴とする木質セメント板。
【請求項2】
請求項1に記載の木質セメント板であって、
前記木粉の含有量は、表層の全固形分に対して1〜3質量%である
ことを特徴とする木質セメント板。
【請求項3】
水に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維を添加し、混合して、母層用スラリーを製造する工程と、
得られたスラリーを脱水し、母層マットを製造する工程と、
木粉をカルシウムで被覆する工程と、
得られた木粉と、セメントと、珪酸含有物と、木質繊維を混合して表層用原料混合物を製造する工程と、
得られた表層用原料混合物を母層マットに散布し、成型、養生する工程とからなり、
母層用スラリーを製造する工程において、該母層用スラリーにおけるセメントと珪酸含有物の質量比を3:7〜7:3とするとともに、木質繊維の量を該母層用スラリーの全固形分に対して9質量%以下とし、
表層用原料混合物を製造する工程において、該表層用原料混合物におけるセメントと珪酸含有物の質量比を3:7〜7:3とするとともに、木質繊維と木粉とをあわせた量を該表層用原料混合物の全固形分に対して9質量%以下とし、
木粉をカルシウムで被覆する工程は、0.3〜1.5mmの木粉とセメント組成物の粉砕物を固形分濃度75〜90質量%の状態で混合することにより行う
ことを特徴とする木質セメント板の製造方法。
【請求項4】
水に、セメントと、珪酸含有物質と、木質繊維を添加し、混合して、母層用スラリーを製造する工程と、
得られたスラリーを脱水し、母層マットを製造する工程と、
木粉をカルシウムで被覆する工程と、
得られた木粉と、セメントと、珪酸含有物と、木質繊維を混合して表層用原料混合物を製造する工程と、
得られた表層用原料混合物を母層マットに散布し、成型、養生する工程とからなり、
母層用スラリーを製造する工程において、該母層用スラリーにおけるセメントと珪酸含有物の質量比を3:7〜7:3とするとともに、木質繊維の量を該母層用スラリーの全固形分に対して9質量%以下とし、
表層用原料混合物を製造する工程において、該表層用原料混合物におけるセメントと珪酸含有物の質量比を3:7〜7:3とするとともに、木質繊維と木粉とをあわせた量を該表層用原料混合物の全固形分に対して9質量%以下とし、
木粉をカルシウムで被覆する工程は、0.3〜1.5mmの木粉を、セメント、石膏、石灰、カルシウムを含有する珪酸含有物のすくなくともいずれかであるカルシウム含有物と固形分濃度75〜90質量%の状態で混合することにより行う
ことを特徴とする木質セメント板の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の木質セメント板の製造方法であって、
前記木粉の量を、表層用原料混合物の全固形分に対して1〜3質量%とする
ことを特徴とする木質セメント板の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の木質セメント板の製造方法であって、
前記木粉をカルシウムで被覆する工程において、該木粉と前記セメント組成物の粉砕物の質量比を1:7〜1:20とする
ことを特徴とする木質セメント板の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の木質セメント板の製造方法であって、
前記セメント組成物が木質セメント板である
ことを特徴とする木質セメント板の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の木質セメント板の製造方法であって、
前記木粉をカルシウムで被覆する工程において、前記カルシウム含有物の量を該木粉の量よりも多くする
ことを特徴とする木質セメント板の製造方法。

【公開番号】特開2012−96944(P2012−96944A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244291(P2010−244291)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)
【Fターム(参考)】