説明

木酢液の低温改質方法

【課題】木酢液を低い改質温度で触媒上に流通させて水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスに改質することができ、水素及び一酸化炭素への高い転化率で、省エネルギー性に優れ、しかも長期間安定した高活性を示し合成ガスの生産性に優れた木酢液の低温改質方法を提供する。
【解決手段】木酢液を、Al23,ZrO2,TiO2の内いずれか1の金属酸化物にNiが0.1〜15質量%含有された改質触媒に、200℃〜400℃、好ましくは250℃〜380℃の改質温度で、合成ガスへ接触改質させる構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系(植物系)バイオマスを合成ガス化するための、熱効率が良く、装置が簡便で、保守性に優れた低温度域一貫処理プロセスの実現に重要な役割を果たすものである。木質系(植物系)バイオマスの低温乾留で得られた木酢液について、その主成分である酢酸を低温で合成ガスに改質する木酢液の低温改質方法に関し、更に詳しくは、バイオマスを乾留熱分解して得られるバイオマスガスを熱交換して得られる木酢液(乾留初期に留出する自由水留分をカットした酢酸が主成分の留分)をニッケルを微細粒化して高分散したアルミナ等の金属酸化物で形成された改質触媒を用い、低い改質温度で、水素の含有量が多くメタンの複成が少なく触媒寿命が長く高活性で木酢液を合成ガスに改質できる木酢液の低温改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスはガス化する際、木酢液と呼ばれる液体・気体成分とそれ以外の個体成分に分けられ、それらをガス化して液体燃料や合成の原料となるH2、CO2などを得るプロセスが考えられている。それらのガス化プロセスとしては水蒸気改質や触媒を用いた反応など様々な研究が行われているが現在のところの主流はバイオマスの固体試料分に空気・酸素などのガス化剤を加えて1000℃程度の高温でガス化するプロセスが一般的となっている。
例えば、特許文献1には、「サイロ2から供給された木材チップをガス発生炉8で燃焼させて、該ガス発生炉8で発生した木酢酸、タールを含んだ木質ガスに加熱蒸気及び酸素を混合した混合ガスをガス改質炉12内の加熱コイル14を通過する過程で高温加熱し、上記混合ガス中のタール、木酢酸を一酸化炭素と水素に分解することで、良質なガスを歩留まり良く生成することができるようにした」バイオマスガスの合成ガスへの改質方法が開示されている。
また、バイオマスの熱分解により木酢液が50%以上得られ、その50%以上が酢酸であり、その有効利用が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−67900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では以下のような課題を有していた。
(1)バイオマスの上記ガス化で得られたバイオマスガスは、一酸化炭素、水素、メタン、二酸化炭素、水、炭化水素、窒素を含んでいる。バイオマスガスの冷却時に炭化水素の重合した分子量78以上のタールが凝縮し、バイオマスガスの二次利用において大きな課題となっている。
(2)この課題を克服するため、特許文献1は、バイオマスガス中のタールや木酢液を急激に600〜700℃に加熱してタールを一酸化炭素に分解することを提案している。しかしながら、極めて高温なので熱効率が低く多大の熱エネルギーを要し省エネルギー性に欠けるという課題を有していた。
(3)また、木酢液は440℃で二酸化炭素とメタンになるか、もしくはケテンと水に熱分解され合成ガスが得られないという課題を有していた。
(4)高温でのガス化はタールなどの生成を防ぐためであるが、温度が高すぎることでクリンカーが生成してしまうといった課題を有していた。
(5)排煙が425℃以上になると発ガン性物質が発生し、排煙処理に多大の設備を要すという課題を有していた。
(6)木酢液の主成分である酢酸を合成ガスに低原価で改質することが望まれている。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、木酢液を低い改質温度で触媒上に流通させて水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスに改質することができ、水素及び一酸化炭素への高い転化率で、省エネルギー性に優れ、しかも長期間安定した高活性を示し合成ガスの生産性に優れた木酢液の低温改質方法を提供することを目的とする。
水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスは燃料としてだけでなく種々の化学反応原料としても用いられる。また単独の水素、一酸化炭素もそれぞれ水添反応、カルボニル化反応などにおいて幅広く用いられ、化学プロセスにおいては有用な化学原料である。水素はクリーンエネルギーとしても利用され、燃料電池の燃料としても利用される。
木酢液や竹酢液等の液相留分の有機物の主成分である酢酸を、低い改質温度で極めて高い転化率で接触改質して合成ガスを生成するバイオマスガスの利用性を著しく高めることができる木酢液の低温改質方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は上記目的を達成するため以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の発明は、木酢液を、Al23,ZrO2,TiO2の内いずれか1の金属酸化物にNiが0.1〜15質量%含有された改質触媒に、200℃〜400℃、好ましくは250℃〜380℃の改質温度で、合成ガスへ接触改質させる構成を有している。
この構成により、請求項1に記載の木酢液の低温改質方法は、以下の作用を有する。
(1)炭化水素の分解触媒であるNiが、炭化水素を変換するAl23等の金属酸化物に0.1〜15質量%含有されているので、高い転化率で木酢液を合成ガスに改質できる。
(2)改質温度が400℃以下なので、木酢液の主成分である酢酸をCO2とCH4等への熱分解を著しく少なくすることができる。
(3)また、改質触媒が高活性で安定性に優れているので、低い改質温度でかつ長期間改質炉の運転ができ、改質炉の火入れ火落としの回数が少なく省エネルギー性に優れると共に熱エネルギーの効率性に優れる。
(4)メンテナンス性がよく、エネルギー効率が高いので、バイオマスからクリーンエネルギーを低原価で量産でき、カーボンニュートラルを実現できる。
(5)触媒の原料が安価で入手の容易なNi化合物等の金属酸化物なので、低原価で一酸化炭素や水素などの化学基礎原料を提供できる。
(6)ニッケルは比較的安価な金属であるため触媒も廉価であるというメリットを有するものの、このようなニッケル担持触媒を用いた場合、従来は酢酸の分解反応を連続的に長時間行うことができないという致命的な課題があった。すなわち公知の担持型のニッケル触媒では反応中に触媒上に炭素析出等が起こり、短時間で触媒が失活していたが、本発明者等は鋭意研究した結果、ニッケルの含有量を0.1〜15質量%でNi粒子を微細粒化しアルミナ表面に高分散させることにより解決できることを見出した。
(7)木酢液として、バイオマスを低温で熱分解した木酢液を用いる場合は、木酢液中にタール分や硫黄化合物等の高沸点成分の含有量が少なく、従って、触媒表面へのコーク析出量が少ないので、触媒の再生を低コストで行うことができるとともに、触媒の被毒量が少ないので、長時間高活性で運転できる。
(8)Ni含有量が15質量%以下に調製しているので、触媒表面上に微細粒子で高分散しているのでシンタリングを起こし難く安定性に優れ、比表面積が大きいので極めて高効率で酢酸を分解できる。
(9)シンタリングが起こり難いので、改質触媒の再生使用性に優れ、合成ガスの生産性に優れる。
(10)触媒改質反応なのでメタンの発生を低く抑えることができる。
【0007】
ここで、
(1)金属酸化物としては、Al23,ZrO2,TiO2等が用いられる。
金属酸化物はNaOH,KOH等の希アルカリ溶液でアルカリ処理を行っても良い。
尚、Al23の場合は、アルミナ粉末又はアルミナゾルの状態でニッケルと必要に応じてカルシウムやマグネシウムの酸化物に加えてもよく、粉末で加える場合は可能な限り細かい粒径が好ましく、たとえば平均粒径が100μm以下が好適で、混合時に水などを加えてスラリー状で用いるか、またアルミナゾルで加える場合は、アルミナの粒子が平均で100ナノメートル以下のものを用いるのが好適である。尚、一度触媒が目的の成分組成となれば、それ以降はその時の配合で調製すれば良い。
(2)Niの含有量としては、0.1〜15質量%、好ましくは3〜10質量%が用いられる。
3質量%未満では、Niの改質性能が不足するという傾向があり、10質量%を越えるにつれ改質触媒の表面上に析出するNi金属の濃度が高く且つ粗大化し易く炭素が析出し易く劣化が早くなるという傾向があるので、好ましくない。
(3)触媒原料として用い得るニッケル化合物としては、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、クエン酸ニッケル、アセチルアセトナートニッケル塩、塩化ニッケル、硫酸ニッケルなど、水、低級アルコール、その他の溶媒に可溶なニッケル塩などが使用できる。
(4)改質炉の改質温度としては200℃〜400℃、好ましくは250℃〜380℃が用いられる。触媒の高活性を維持できるためである。300℃よりも低くなるにつれ、反応速度が遅く、改質効率が落ちるという現象が生じ易く、380℃よりも高くなるにつれ、炭素の析出が進行し易く改質触媒が劣化し易いという現象が生じ易いので好ましくない。改質炉の反応圧力としては0.1〜2MPaが好ましい。
(5)改質炉としては、固定床式やラジアルフロー式、多管熱交換式等の充填層触媒反応器や気固流動層反応器が用いられる。吸熱反応なので、外部加熱を容易にするためである。改質反応としては、固定床気相流通反応で行うのが好ましい。
(6)触媒の形態としては、改質触媒は、粉体、又は成型体のいずれの形態として用いてもよく、成型体の場合には球状、シリンダー状、リング状、ホイール状、粒状など、さらに金属又はセラミックスのハニカム状基材へ触媒成分をコーティングしたものなどいずれでも良い。また、流動層で使用する場合には、噴霧乾燥などにより成形したものなどを用いるのが良い。固定床や移動床で使用する場合には、触媒の成型方法として、造粒、押出成型、プレス成型、打錠成型等が好適に用いられるが、特にこれに制限されるものではない。好ましくは、3〜10mmの錠剤状、10〜20mmのリング状、5〜25mmの球状、20μm〜5mmのビーズ状、2〜14mmの顆粒状等の形態が用いられる。
(7)固定床気相流通反応の場合、ペレット状でもハニカム状でもよく、形状に限定されるものではない。
(8)木酢液中の酢酸の濃度は50質量%以上が好ましい。50質量%よりも酢酸の濃度が薄くなるにつれ改質効果が低下するので好ましくない。酢酸はバイオマスの乾留液中に50%以上含まれ、且つ常温で粘度の低い液体なので、バイオマスの乾留液又は有機液相留分(但し、乾留中に自由水留分をカットして除いておくことが望ましい)のモデル化合物として捉えることができる。乾留液は、木炭粉等で精製したものが好ましい。タール分等の高分子化合物を除去し、改質触媒の活性の長期化を図ることができるからである。
(9)木酢液の乾留液の改質炉への供給は改質温度に加熱して供給される。
(10)バイオマスガスを用いる場合は、バイオマスの前記乾留熱分解工程がタールの発生する温度より低い温度域で乾留される。
(ア)低い温度域としては、乾留熱分解炉の雰囲気温度を150℃〜400℃にて行う
ことが好ましい。
この乾留温度により、タールの発生を極めて少なくし、木酢液の高分子留分が少ないので、改質時にタール等が改質触媒の表面に付着することがなく、低温での改質工程の改質効率を高い状態で維持できる。また、固形分の炭素含有量を多くし熱量の高い燃料とすることができる。
(イ)タールの発生しない低い温度域で乾留熱分解された場合、分解ガス中に高分子量
の化合物の含有量が少なく、改質触媒の長寿命化を達成できる。
(ウ)改質触媒を活性化するため、その表面に付着したタールや高分子化合物を焼却し
改質触媒の再生を要するが、高分子化合物の付着量が極めて少ないので、その再生回数を大幅に減らし熱効率を高め作業性を高めることができる。
(11)ここでいうバイオマスとは、林地残材、間伐材、未利用樹、製材残材、建設廃材、又は、それらを原料とした木質チップ、ペレット等の二次製品等の木質系バイオマス、竹質系バイオマス、再生紙として再利用できなくなった古紙などの製紙系バイオマス、ササやススキをはじめとして公園や河川、道路で刈り取られる雑草類などの草本系バイオマス、厨芥類等の食品廃棄物系バイオマス、稲わら、麦わら、籾殻などの農業残渣、さとうきび等の糖質資源やとうもろこし等のでんぷん資源及び菜種等の油脂などの資源作物、下水汚泥、家畜排泄物などをいう。バイオマスは乾燥した原料を用いるのが好ましい。乾留初期の水蒸気(水留分)を少なく酢酸留分の濃度を高めるためである。また、本発明でいう木酢液は、上記バイオマスを乾留して得られた生成物をいう。
また、「合成ガス」とは、一酸化炭素及び水素を含むガスをいう。
(12)改質時に触媒表面上に析出する炭素、もしくは乾留液中に含まれる硫黄成分やタールが改質触媒に吸着することで、改質触媒の性能が劣化する。劣化した改質触媒を再生する方法としては、改質炉へ水蒸気を導入し、水蒸気と炭素やタール、硫化物と反応させ触媒表面の炭素やタール、硫黄を除去することで、触媒を再生することが可能となる。また、水蒸気の一部又は全部を空気に変えて導入することで、空気中の酸素と炭素やタール、硫化物との反応により触媒に吸着した炭素等を除去することで、触媒を再生することも可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の木酢液の低温改質方法において、前記接触改質が無酸素下で行われる構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、次の作用が得られる。
(1)酸素がないので吸熱反応だけであり、外部からの加熱で温度コントロールを容易に行うことができる。
(2)無酸素なので部分燃焼を防ぎ、反応を安定して行うことができる。
(3)酸素や空気を使用しないので、安全性に優れる。空気を用いた場合は大容量のN2ガスが残るので、COやH2との分離工程を要し、分離するためのエネルギーと工数の増大を招くので好ましくない。
ここで、キャリアガスとして、合成ガス,不活性ガス(CO2等)を用いることができる。キャリアガス(a)と木酢液(b)の混合比はa:b=(1:9)乃至は(9:1)が用いられる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の酢酸の低温改質方法において、前記改質触媒がNi/Al23触媒前駆体を焼成してスピネル型構造のNi含有触媒を作製するスピネル型Ni含有触媒作製工程と、前記工程で得られたスピネル型Ni含有触媒に、Al23を添加する添加工程と、前記添加工程でNi含有量が0.1〜15質量%に稀釈された触媒混合物を水素で還元して得られたものである構成を有している。
これにより、請求項1で得られる作用に加え、次の作用が得られる。
(1)スピネル型構造により得られた改質触媒は、固溶体なので、Ni金属粒子が分散し微細構造を有し、更にアルミナで稀釈するので、Ni金属を微細粒子の状態で触媒上に高分散できる。
【0010】
次に、スピネル型のNi含有触媒にAl23を添加した改質触媒の調製方法について説明する。
ニッケルの硝酸塩、硫酸塩等のニッケル化合物1モルに対しNi換算してアルミナ粉又はアルミナゾル1モルのニッケルとアルミナからなる複合酸化物触媒前駆体を、750℃〜900℃の高温で焼成しスピネル結晶構造化する。次いで、得られた化合物のニッケルの含有率が0.1〜15質量%、好ましくは3〜10質量%になるようにアルミナ粉又はアルミナゾルを加えて稀釈する。次にそれを水素で400〜700℃で、好ましくは500〜600℃で還元することにより改質触媒を調製する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の木酢液の低温改質方法において、Ni化合物とAl23等の前記金属酸化物とを、前記改質触媒中Ni含有量が0.1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%になるように秤量され混合された後、空気中で750℃〜1300℃、好ましくは800℃〜1050℃の温度で焼成され成形されたものである構成を有している。
これにより、請求項1で得られる作用に加え、以下の作用が得られる。
(1)高温焼成によりNi金属が、Al23等の金属酸化物上に高分散され微細粒子化するので、炭素の析出が少なく、改質炉の運転が安定し、長期運転ができる。
(2)焼成温度が1050℃よりも高くなっていくと焼結が進行し、強度は上がるが比表面積が小さくなるために触媒活性が低下する傾向にあるので好ましくない。
(3)800℃より低くなるにつれスピネル化し難くなるので好ましくない。
【0012】
尚、ニッケル化合物を原料塩として、水酸化アルカリなどにより水酸化ニッケル、塩基性炭酸ニッケル等の不溶塩として担体に沈積させる方法でも良い。
触媒調製においては、先ず触媒前駆体を形成させるが、その形態は、ニッケルとアルミニウム、酸素を含んだ化合物又は混合物で、ニッケル含有量が0.1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%となるように前もって、あるいは還元して改質触媒にする前にアルミナを混合してニッケル含有量が15質量%以下になるように稀釈するのが好ましい。ニッケル含有量が15質量%よりも多くなっても、合成ガスの空時収量は大幅な向上が認められず、また、酢酸の分解反応が増加し、メタンやCO2が増え、炭素の析出が増え失活し易くなるので好ましくない。
また、ニッケル含有量が1質量%よりも少なくなるにつれ、触媒前駆体から得られる触媒では、酢酸の分解反応の活性が低くなる傾向が有り、0.1質量%よりも少ないとその傾向が著しいので好ましくない。
【0013】
触媒の焼成は、請求項3のスピネル型の場合、750℃〜900℃で行うのが好ましい。これにより、スピネル複合化率を高めることができる。請求項4のNi高分散型の場合は800℃〜1050℃で行うのが好適である。これにより、Niを高分散化できる。
改質触媒は、例えば、ニッケル、アルミニウム、酸素からなるNixAl23+xの組成式のようなスピネルの複合酸化物や物理的混合又はアルミナ粉と水又はアルミナゾルを湿式混合して形成された高分散型が好ましいが、その他、結晶形態には限定されることはなく、どのような複合化合物であっても良い。また、改質触媒の形態としては少なくともニッケルとアルミニウムを含んだ複合酸化物が好適に用いられる。
単相の複合化合物でなくてもNiAl24のような複合酸化物にAl23が混合されたものでも良い。
【0014】
ニッケル、アルミニウム、酸素からなる触媒を、400〜700℃で水素還元する。還元に用いる水素は純水素ガスでも良いし、不活性ガスで希釈されていても良い。本発明において製造した合成ガスを用いても良い。通常、水素濃度が3〜100vol%のものが用いられる。水素還元温度を400℃以下で調製される触媒は、酢酸の分解反応において低活性となる傾向が認められた。従って、酢酸の分解反応において充分高い活性を発現するには400℃以上の温度で水素還元して調製されることが不可欠であるであることがわかった。しかし、1000℃以上の温度で水素還元した触媒は逆に活性が低い傾向が認められた。これは、触媒の比表面積の低下が主な原因と考えられる。
【0015】
木酢液の分解反応は通常、固定床気相流通反応で行うのが好ましい。装置の構造が単純でメンテナンス性に優れるためである。
改質温度は、200〜400℃、好ましくは250〜380℃である。木酢液(酢酸)の改質触媒に対するGHSV(Gas Hourly Space Velocity:ガス空間速度)は1700〜1.7×105-1として行うのが好ましい。
反応温度は高い程、触媒活性が高くなるため、大きなGHSVで木酢液(酢酸)の改質反応を行うことができる。しかし、380℃よりも高温の改質反応では水素、一酸化炭素への転化率が低下する傾向が有り、また、250℃よりも低い改質温度になるにつれ木酢液(酢酸)の分解活性が極めて低くなる傾向があり、200℃より低いか400℃よりも高いとこれらの傾向が著しいので好ましくない。
この気相流通反応では、本発明において製造した合成ガス(H2・CO)を同伴させることができる。CO2、ヘリウムなど不活性なガスを用いても良い。また、水蒸気を同伴させて改質反応を行わせたり、場合によっては、酸素ガスを同伴させて自己発熱させるオートサーマル方式を用いることもできる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1,3,4に記載の木酢液の低温改質方法において、前記改質触媒の調製時にCaイオン,Mgイオン等の炭素析出防止剤がアルミナ等の金属酸化物に対し、3〜10質量%添加された構成を有している。
この構成により、請求項1,3,4のいずれか1で得られる作用に加え、以下の作用が得られる。
(1)CaO,MgOの働きにより改質触媒のNiの表面に炭素が析出するのを防止できる。Ni金属粒子の表面の炭素が、周囲のCaOやMgOの酸素イオンと反応し一酸化炭素ガスとなって触媒から離脱し炭素析出を防止する。一方、炭酸ガスの酸素イオンが触媒に供給されCaO,MgOとなる。
ここで、炭素析出防止剤の添加量が3質量%よりも少なくなるにつれ、炭素の析出の抑制効果が低下する傾向があり、10質量%を超えるにつれ、酢酸とアルカリ分が反応し触媒を失活させていく傾向があるので好ましくない。
炭素析出防止剤の金属化合物は硝酸塩、炭酸塩、硫黄塩、塩化物などの無機塩のみならず、酢酸塩などの有機塩も好適に用いられる。特に好ましくは、焼成後に触媒被毒になり得る不純物が残りにくいと考えられる硝酸塩又は炭酸塩又は酢酸塩である。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の木酢液の低温改質方法であって、木酢液がバイオマスを150℃〜400℃、好ましくは200℃〜350℃で乾留熱分解して得られた構成を有している。
この構成により、請求項1乃至6のいずれか1項で得られる作用に加え、次の作用が得られる。
(1)植物体のバイオマス、特に竹質は、低温で乾留熱分解すると、20質量%の炭化固形分と、60質量%の液相留分と、20質量%の気相留分(以下、液相留分と気相留分を併せてバイオマスガスという。)が得られる。また、液相留分中の60質量%近くを占める酢酸成分を(化1)で一酸化炭素と水素に改質することにより、バイオマスガスのクリーンエネルギー化やフィッシャートロプシュ法等を用いる化学基礎原料とすることができる。
【化1】

(2)低温で乾留熱分解して得られた木酢液を用いた場合は、タール分等の高分子留分が少なく、触媒がタール分等で被覆されないので触媒を長寿命化でき反応装置のメンテナンス作業を大幅に削減し、作業性に優れる。
(3)バイオマスを乾留熱分解してから改質するので、残ったチャーなどの固形成分は、触媒との分離する作業がいらないため、触媒の再生を容易に行うことができる。
(4)また、低い改質温度でかつ長期運転ができるので、改質炉の火入れ火落としの回数が少なく省エネルギー性に優れると共に熱エネルギーの効率性に優れる。
(5)メンテナンス性がよく、エネルギー効率が高いので、バイオマスからクリーンエネルギーを低原価で量産できる。
(6)触媒の原料が安価で入手の容易なNi化合物とアルミナなので、低原価で一酸化炭素や水素などの化学基礎原料を提供できる。
(7)植物体のバイオマスを低温で乾留熱分解して得られたバイオマスガスは、各山間地や林業廃地等の地域から排出される木質や竹質等のバイオマスの小規模分散型乾留熱分解施設から自由水留分をカットした液相留分を集約し少数の改質装置で改質することにより多量のバイオマスを有効利用してクリーンエネルギーや化学基礎原料とすることができ、バイオマスの有効活用ができる。
(8)バイオマスを直接燃焼して発電するにしても発電効率が10%程度と低く利用し難かったが、低コストで改質することによりバイオマスの利用率を飛躍的に高めることができる。
(9)低温で熱分解するので、タール分や硫黄化合物等の高沸点成分が少なく、またコーク析出量が少ないので、改質触媒の再生を低コストで行うことができる。
(10)バイオマスガス化が乾留熱分解工程と改質工程の2工程を経るので、乾留熱分解工程でタールや水分を除去でき、次いで加熱された木酢液を改質するので、熱効率を著しく高めることができる。
(11)2工程に分かれているので、各々で運転の最適化を図ることができ、運転の単純化が図られる。
(12)バイオマスを熱分解してから改質するので、残ったチャーなどの固形成分は、触媒との分離することがいらないため、触媒の再生作業の作業性に優れる。
(13)バイオマスガスは植物体を150℃〜400℃の低温で乾留熱分解したものが好適に用いられる。タール分等の発生が少ないためである。尚、高温で乾留熱分解したバイオマスガスはデカンター等でタール分を分離した後、用いられる。タール分が触媒表面を被覆することによる触媒活性の低下を防ぐためである。
(14)植物体と比べてバイオマスガスは気相や液相なので運搬や貯蔵が容易で場所や容積をとらずに小規模多分散でバイオマスガスを乾留熱分解して生産でき、得られたバイオマスガスを消費地等の拠点箇所に集約してクリーンエネルギー化することができる。
(15)タールの発生が少ない低い温度域で乾留熱分解されているので、分解ガス中に高分子量の化合物の含有量が少なく、改質触媒の長寿命化を達成できる。
(16)改質触媒を活性化するため、その表面に付着した高分子化合物の焼却再生を要するが、高分子化合物の付着量が極めて少ないので、その焼却再生回数を大幅に減らし熱効率を高め作業性を高めることができる。
【0018】
ここで、乾留温度が200℃よりも低くなると自由水留分の分離が容易となるが、乾留時間が長くなり生産効率が下がる傾向があり、350℃以上になるにつれ、バイオマスの種類にもよるが、タール留分の留出が増えると共に気相留分が増え液相留分が減るので酢酸留分の得率が減少する傾向があるので好ましくない。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、上記構成により以下の効果が得られる。
請求項1に記載の木酢液の低温改質方法は以下の効果が得られる。
(1)炭化水素の分解触媒であるNiが、炭化水素を変換するAl23等の金属酸化物に0.1〜15質量%含有されているので、高い改質率で酢酸をCOとH2に改質できる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(2)改質温度が400℃以下なので、木酢液(酢酸)のCO2とCH4、炭素等への熱分解を著しく少なくすることができるとともに、低温でかつ長期間改質炉の運転ができるので、改質炉の火入れ火落としの回数が少なく省エネルギー性に優れるとともに熱エネルギーの効率性に優れた木酢液の低温改質方法を提供できる。
(3)メンテナンス性がよく、エネルギー効率が高いので、バイオマスからクリーンエネルギーを低原価で量産できるとともに、触媒の原料が安価で入手の容易なNi化合物とAl23等の金属酸化物なので、低原価で一酸化炭素や水素などの化学基礎原料を提供できる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(4)木酢液が、バイオマスを低温で熱分解したバイオマスガスを用いる場合は、木酢液の液相留分中にタール分や硫黄化合物等の高沸点成分の含有量が少なく、従って、触媒表面へのコーク析出量が少ないので、触媒の再生を低コストで行うことができるとともに、触媒の被毒量が少ないので、長時間高活性で運転できる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(5)Ni含有量が15質量%以下に調製しているので、改質触媒の金属酸化物上に微細粒で高分散し極めて高効率で木酢液を分解できる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(6)触媒改質反応なのでメタンの発生を低く抑えることができる木酢液の低温改質方法を提供できる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の発明で得られる効果に加え、以下の効果が得られる。
(1)酸素がないので吸熱反応だけであり、外部からの加熱で温度コントロールが容易であり、無酸素なので部分燃焼を防ぎ、反応を安定して行うことができるとともに、酸素や空気を使用しないので、安全性に優れた木酢液の低温改質方法を提供できる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の発明で得られる効果に加え、以下の効果が得られる。
(1)スピネル型構造により得られた改質触媒は、固溶体なので、Ni元素が分散し微細構造を有し、更にアルミナで稀釈するので、Ni金属を微細粒子で高分散した改質触媒を用いる木酢液の低温改質方法を提供できる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1又は2の発明で得られる効果に加え、以下の効果が得られる。
(1)高温焼成によりNi金属が、Al23等の金属酸化物上に高分散されるので、Cの析出が少なく、改質炉の運転が安定し、長期運転ができる木酢液の低温改質方法を提供できる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1,3,4の内いずれか1項に記載の発明で得られる効果に加え、以下の効果が得られる。
(1)CaO,MgOの働きにより改質触媒のNiの表面に炭素が析出するのを防止でき、改質触媒の高活性を長期間安定して維持できる木酢液の低温改質方法を提供できる。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の発明で得られる効果に加え、以下の効果が得られる。
(1)低温で乾留熱分解して得られたバイオマスガスを用いることができので、タール分等の高分子留分が少なく、触媒がタール分等で被覆されないので触媒を長寿命化でき反応装置のメンテナンス作業を大幅に削減し、作業性に優れた木酢液の低温改質方法を提供できる。
(2)バイオマスを乾留熱分解してから改質するので、残ったチャーなどの固形成分は、触媒との分離する作業がいらないため、触媒の再生を容易に行うことができ、装置の運転が単純化でき、また、低温でかつ長期運転ができるので、改質炉の火入れ火落としの回数が少なく省エネルギー性に優れると共に熱エネルギーの効率性に優れ、メンテナンス性がよく、エネルギー効率が高いので、バイオマスからクリーンエネルギーを低原価で量産できる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(3)触媒の原料が安価で入手の容易なNi化合物とアルミナなので、低原価で一酸化炭素や水素などの化学基礎原料を提供できる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(4)植物体のバイオマスを低温で乾留熱分解して得られたバイオマスガスは、各山間地や林業廃地等の地域から排出される木質や竹質等のバイオマスの小規模分散型乾留熱分解施設からバイオマスガスを集約し改質することによりクリーンエネルギーや化学基礎原料とすることができ、バイオマスの有効活用ができる木酢液の低温改質方法を提供でき、更に、バイオマスを直接燃焼して発電するにしても発電効率が10%程度と低く利用し難かったが、低コストで改質することによりバイオマスの利用率を飛躍的に高めることができる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(5)低温で熱分解するので、タール分や硫黄化合物等の高沸点成分が少なく、またコーク析出量が少ないので、触媒の再生を低コストで行うことができる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(6)バイオマスガス化が乾留熱分解工程と改質工程の2工程を経るので、乾留熱分解工程でタールや水分を除去でき、次いで加熱されたバイオマスガスを改質するので、熱効率を著しく高めることができ、また、2工程に分かれているので、各々で運転の最適化を図ることができ、運転の単純化が図られる木酢液の低温改質方法を提供できる。
(7)バイオマスと比べ、バイオマスガスは気相や液相なので運搬や貯蔵が容易で場所や容積をとらずに小規模多分散でバイオマスを乾留熱分解して生産でき、得られたバイオマスガスを拠点箇所に集約してクリーンエネルギー化することができるので効率的な木酢液の低温改質方法を提供できる。
(8)触媒を活性化するため、その表面に付着した高分子化合物の焼却を要するが、高分子化合物の付着量が極めて少ないので、その焼却回数を大幅に減らし熱効率を高め作業性を高めることができる木酢液の低温改質方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】竹の熱分析の結果を示す図
【図2】平衡計算ソフトによる転化率の温度依存性を示す図
【図3】Ni10wt%/Al23 改質温度300℃での各ガスの生成速度変化図
【図4】改質反応装置図
【図5】Ni10wt%/Al23 0.1MPa.TOS0.5hでの各生成ガスの生成速度の反応温度依存性を示す図
【図6】Ni10wt%/Al23,350℃,0.1MPaでの各ガスの生成速度変化図
【図7】Ni10wt%/Al23,300℃,0.1MPaでの各ガスの生成速度変化図
【図8】各ガスの生成速度のNi添加量への依存性を示す図
【図9】Ni10wt%/Al23,350℃,0.1MPaでの各ガスの生成速度変化図
【図10】Ni5wt%/Al23,350℃,0.1MPaでの各ガスの生成速度変化図
【図11】Al23,350℃,0.1MPaでの各ガスの生成速度変化図
【図12】Ni/CaOAl23(Ni10wt% CaO10wt%)改質触媒での各ガスの生成速度変化図
【図13】Ni/CaOAl23(Ni10wt% CaO5wt%)改質触媒での各ガスの生成速度変化図 改質温度340℃
【図14】Ni/CaOAl23(Ni5wt% CaO10wt%)改質触媒での各ガスの生成速度変化図
【図15】Ni/CaOAl23(Ni3wt% CaO10wt%)改質触媒での各ガスの生成速度変化図
【図16】Ni/MgOAl23(Ni10wt% MgO10wt%)改質触媒での各ガスの生成速度変化図
【図17】Ni/MgOAl23(Ni10wt% MgO5wt%)改質触媒での各ガスの生成速度変化図
【図18】酢酸80wt%、メタノール20wt%混合液の接触分解結果図
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施例1)バイオマスの乾留
バイオマスとして竹を選択した。竹は木質系の中でも成長速度が速く、約2ヶ月でおおよその成長・肥大が止まる。また、日本の竹の蓄積量は乾燥重量で300〜600万tなので、バイオマスエネルギーとしても有効である。一方で最近では、繁殖力の強さから竹そのものが問題となっている。そこで竹の再利用の観点から、竹を改質し一酸化炭素や水素等のクリーンガスを生成することができれば上記の問題を解決でき、バイオマスエネルギーとして利用(カーボンニュートラルを実現)することが可能である。竹を乾留熱分解すると、木と同様、酢酸が50%以上生成することに着目し、酢酸をバイオマスの木酢液(自由水留分を除く)のモデル化合物として改質を行った。
竹として、北九州産のものを伐採した後、未乾燥の状態で1〜2mmに粉砕したものを20mg準備した。 この試料を熱分析計(TGD9600真空理工株式会社製)にセットし、空気中で昇温速度は5℃/minで900℃まで行った。その結果を図1に示す。
図1より、gas,liquid部分が400℃までに燃焼したと考えられる。
これらの結果より、竹の熱分解は400℃以下で行うことが可能である。
尚、100℃までに3.975mg(19.88質量%)の減少が見られるが、これは自由水が蒸発したものである。尚、竹のgas,liquid部分は熱量を示すTDAの発熱部分2箇所目を越えた部分にあたるため、14.714mg(73.57質量%)の減少であり、灰分が1.311mg(6.55質量%)で終了温度は400℃であった。
また、自由水留分をカットした後、木酢液を採取し改質を行うことにより、バイオマスを効率的に改質できることがわかった。また、木酢液中の酢酸の濃度は90%以上であると外部加熱も少なくエネルギー効率に優れることもわかった。
更に、400℃以下、好ましくは350℃以下の低温で乾留することによりタール分の生成が少ないことがわかった。
また、400℃以下の低温で乾留するので、発ガン物質の発生を防ぎ排煙問題を解消できることがわかった。
【0027】
(改質温度の決定)
平衡計算ソフトのMALTにより各温度における酢酸の転化率の推移を求めた。その結果を図2に示す。0.1MPa、350℃前後の条件で、理論上は酢酸は合成ガスに分解できることがわかった。この結果に基づき、Ni/Al23(Ni10wt%・Al2390wt%)触媒上の酢酸改質実験を温度300℃、7時間反応させて行った。その結果を図3に示す。図3から分かるように、酢酸はNi/Al23上でCO,H2に分解することが実証された。本反応の主生成物はCOとH2であり、そのモル比は約1:2であることがわかった。また、触媒を用いないブランク実験では、分解は500℃以上という加熱条件が必要であることがわかった。また、400℃を超えると触媒面上にタールが発生し、触媒が短時間で失活することがわかった。
そこで、本実施例では改質温度として300℃,350℃で行うことにした。
(実施例2,3)
1)触媒の調製
(使用した試薬)
a〕Ni(NO32・6H2O(純度98.0質量% 関東化学株式会社製)21.81g
b〕市販のγアルミナ粉末(200m2/g,粒径2〜3μm) 7.65g
(調製)
上記の試薬をNi(NO32・6H2OとAl23のモル比が1:1となるように量り取り、混合した。
2)触媒の焼成
(1)焼成はyamato Muffle Furnace FO410を使用した。
(2)焼成は700℃で3時間行った。次いで、X線解析(XRD)の結果、生成物はスピネル型結晶構造のNixAl23+xの触媒前駆体であることが判った。Niの含有量は蛍光X線(XRF)で測定した結果、33.1質量%であった。
3)改質触媒a
得られたNixAl23+xにAl23を加えた。
加える量はNiが全量の10質量%となるように加えて混合し、次の改質触媒aの調整物を得た。
改質触媒a Ni/Al23(Ni10wt% Al2390wt%,スピネル型)
【0028】
(1)実験方法
酢酸として和光製の1級の酢酸(純度99.7%)を用いた。尚、酢酸は、バイオマスを乾留熱分解した際に得られる50〜60質量%の木酢液の主成分であり、木酢液のモデル化合物として用いることができる。特に、300℃の杉片の乾留熱分解では、(表1)に示すように液相成分中酢酸は63.78wt%を占め代表物質であり、また、竹の乾留熱分解での液相成分は58wt%程度あり、代表物質であるためである。
・実験方法及び反応装置の模式図は図4に示す。リアクターは、縦長の加熱炉の中央に、内径10mmで長さが50mmの石英管が配置されている。石英管は上部に酢酸液の蒸発部、下部に改質部になるように蒸発部と改質部を直列で形成している。改質部は、実験毎に改質触媒1gを中央にして上下に厚み1cmの石綿を配して反応部とした。改質反応は、上部に酢酸液を供給管より供給する。酢酸液は供給管の先端付近は300℃又は350℃に加熱され、気化される。次いで、Arガスと同伴され、下部の改質部に導入され、改質される。
【0029】
【表1】

【0030】
〈触媒調製並びに還元手順〉
a〕改質触媒aの調製物を加圧成形後、20〜40meshに粉砕、整粒し、スピネル型構造のNi含有触媒を得、改質触媒aとして用いた。
b〕図4に示した固定床流通装置の反応器の改質部に触媒1gを入れ100%のH2を上部から流し3時間、反応器外壁に取り付けた熱電対を温度700℃にて還元した。コントローラにつないで、反応温度として制御した。
c〕0.1MPa(1atm)でArガスを20ml/min流し、反応器を300℃(実験例1)と350℃(実験例2)に保持した後、Arガスを20ml/min流しながら液体ポンプを用いて酢酸(0.047ml/min)を気体換算で20ml/minで7時間流した。尚、酢酸を流した時点を測定開始とした。
d〕未反応となった酢酸および液体留分は反応器下に設置したサンプラーにて回収した。
e〕気体留分はオンラインの熱伝導度検出器(TCD)及び水素炎イオン化検出器(FID)にて測定した。CH4,C26の濃度はガスクロパック(Gaskuropack)54が充填されたステンレス製カラムを用いたFID−GCにより測定した。また、水素の濃度はモレキュラシーブ13Xが充填されたステンレス製カラムを用いたTCD−GCで測定した。CO,CO2及びCH4は活性炭を充填したステンレス製カラムを用いたTCD−GCで測定した。
生成ガスの生成速度は、流出ガスのGC分析からArガスを内部基準として計算し、mmol/h・gとして算出した。
〈測定条件〉
測定はオンラインのガスクロマトグラフ熱伝導度検出器(GC−TCD)で30分毎に測定を行った。
【0031】
(2)実験結果
実験結果を図5〜図7に示す。
図5からわかるように、本反応の主生成物は一酸化炭素と水素を主とする合成ガスであり、そのモル比は1:2(300℃)〜1:1(350℃)であることがわかる。改質温度は350℃の高温域が優れている。但し、400℃を超えると触媒表面にタールが付着し触媒が失活し易いことがわかった。
改質温度が300℃と350℃で一酸化炭素と水素の生成比が異なる。理論上、酢酸が分解すると反応式(1)のように一酸化炭素と水素が等モル生成される。
CH3COOH→2CO+2H2…(1)
しかしながら、改質温度が高くなるとNi金属粒の分解能が強くなり、反応式(2)のようにメタンが発生し、次いで反応式(3)のようにメタンが炭素と水素に分解されるためであると考えられる。
CH3COOH→CH4+CO2…(2)
CH4→C+2H2…(3)
発生した炭素は、Ni金属粒子の表面等に付着し、触媒を失活させていくと考えられる。また、この結果から改質率の評価は一酸化炭素で行うべきであることがわかった。
尚、メタンはほとんど生成されなかった。このことから酢酸はNiが所定の少ない量で微細粒状でAl23の表面に高分散させることにより、極めて高い改質率で一酸化炭素と水素に分解することが実証された。
図6,図7から明らかなように、改質温度の影響が大きく、300℃では極めて生成速度が遅いことがわかった。350℃では反応時間3時間でもCO+H2がCO2の4.8倍、CH4の8倍も生産できることがわかった。これは、前記反応式(1)〜(3)の内(1)の反応が生応として生じ、(2),(3)の反応も起きていることからCH4の生成が認められるのと同時にH2が多量に生成しているものと推測される。
また、バイオマスの改質面からみると、竹1kgにつき、理論上、0.6kgの一酸化炭素と水素の合成ガスを得ることができることがわかった。従来、焼却で廃棄されていた竹質原料から高い収率で有用な合成ガスに改質できることが実現できたといえる。
また、触媒を用いないブランク実験では熱分解は500℃以上の温度条件が必要で生成物はCO2とメタンしか得られなかった。
【0032】
(実施例4〜13)
(1)実験方法
1)触媒の調製
Ni・(NO32・6H2OとMg(NO32・6H2O、γ−Al23をそれぞれ次に定めたwt%になるようにはかりとり十分に物理混合した後、高温(850℃)で焼成したものを710〜1000μmの粒子径に成型し、今回の触媒とした。尚、Ni/Al23のみの触媒にそのほかの酸化金属を加えた触媒(例えば、CaCO3などの炭酸塩や硝酸塩を加え、同様の作り方で調製したもの)も準備した。尚、今回調製した改質触媒は以下のb〜lまでの組成に調製した。
b.Ni/Al23・・・Ni:10wt% Al23:90wt%
c.Ni/Al23・・・Ni:5wt% Al23:95wt%
d.Ni/MgOAl23・・・Ni:10wt% MgO:10wt% Al23:80wt%
e.Ni/MgOAl23・・・Ni:20wt% MgO:10wt% Al23:70wt%
f.Ni/MgOAl23・・・Ni:10wt% MgO:5wt% Al23:85wt%
g.Ni/CaOAl23・・・Ni:10wt% CaO:10wt% Al23:80wt%
h:Ni/CaOAl23・・・Ni:10wt% CaO:5wt% Al23:85wt%
i.Ni/CaOAl23・・・Ni:5wt% CaO:10wt% Al23:85wt%
j.Ni/CaOAl23・・・Ni:3wt% CaO:10wt% Al23:87wt%
k.Ni/Na2OAl23・・・Ni:5wt% Na2O:10wt% Al23:85wt%
l.Al23・・・Al23:100wt%
2)触媒の前処理
触媒の前処理としてH2・100%のガスで流量は100ml/minで流し、850℃で3時間還元処理を行った。還元が終了したら供給ガスをArに切り替え、装置内でArでパージした。この時のArの流量は20ml/minとなるように供給した。パージが終了したら実験温度である350℃に調製した。
3)実験
試料は木酢液のモデル化合物として前記酢酸を用いた。
実験は反応圧力0.1MPa、改質触媒は上記b〜lの内各1種を1g使用し、温度が350℃で安定したのを確認した後、酢酸(0.047ml/min)を液体ポンプで供給し、酢酸の流量はAr:CH3COOH=1:1となるように総流量40ml/minで流した。反応ガスの分析はGC−TCDオンラインで30分毎に行った。
【0033】
(2)実験結果
1)生成速度のNi量に対する依存性
Ni/Al23系改質触媒での各生成ガス生成速度に対するNiの添加量の依存性を確認した。
図8乃至図11から明らかなように、CO生成速度はNiの添加量が5wt%が最も高く、かつCO2の生成が少ないことからNi含有量の最適値は5質量%が好ましいことがわかった。Ni含有量が10質量%では、5質量%と比べ一酸化炭素量は5質量%とあまり変わらないが、メタンの生成量が5質量%に対し約3倍と大きいことから、炭素の析出が多く、触媒の活性が低下し易いことがわかった。また、改質触媒の活性の安定性はCO2やCH4の生成からNi5wt%の方が10wt%より高いことがわかった。図11からNi0wt%でAl23100質量%では活性がほとんど認められず、ほとんど改質が生じていないことがわかった。Al23の挙動からNi/ZrO2,Ni/TiO2でも同様のことがいえる。
【0034】
2)改質反応へのアルカリ金属(CaO,MgO)の影響
Ni5wt%(図15)では、改質触媒の初期活性は高く、開始から3時間まで極めて安定していることがわかった。また、Ni3wt%(図15)では、すべての生成速度の減少が確認されたが、COの生成速度はNiが10wt%の触媒のもの(図5、6、9、10)と比較してほぼ同程度の値を示しているのが分かる。また副生成物であるCH4とCO2の生成が減少し、それぞれの生成物の減少量も小さくなっており反応が緩やかに進行していることが分かる。
ア)Ni10wt%/CaO5wt%Al23改質触媒での改質温度の影響について
次に、CaO5wt%で改質温度の影響を確認した。
図13にCaO5wt%で改質温度340℃における生成速度の図を示す。
図13から明らかなように、穏やかな反応であり、触媒寿命も長いことがわかった。開始後5時間でCOの改質率は1/3に減少したが、他の生成物も減少しているのでCの析出や酢酸の重合による高分子の析出により失活したものと推測される。
イ)Ni10wt%/CaO10wt%Al23改質触媒でのNi含有量の影響について
次にCaO10wt%でのNi金属粒子の含有量の影響を確認した。
Ni5wt%/CaO10wt%Al23改質触媒の結果を図15に、Ni3wt%/CaO10wt%Al23改質触媒の結果を図16に示した。
図12,図14,図15から明らかなように、H2とCOの発生量が大きく、かつ、メタンも生成していることがわかる。これは、反応式(1)〜(3)の他、CaOの添加により次式の化学反応(4),(5)が生じているものと推測される。
CaO→Ca+O…(4)
O+C→CO…(5)
また、CaOも含有しない図9(Ni10wt%/Al23)と図12を対比すると、CaOの含有により改質開始から3時間の区間は図12から明らかなようにH2が140〜160%増加しているのに対し、COの生成量があまり変わらないことがわかった。更に、CO2の生成がCaOを含有することにより、開始から3時間の区間は150%も多量に生成されている。これは反応式(2)の反応が促進されたためと推測される。また、これはCaOのアルカリ効果により酢酸が改質触媒表面への親和力が増大したためと推測される。
更に、CaOを添加する場合は、改質温度が350℃、改質圧力が0.1MPaのときは、Ni5wt%/CaO10wt%Al2385wt%が好ましいと思われた。
【0035】
エ)MgOの添加量の影響
図16,図17から明らかなように、MgOの添加量は10wt%ではH2の改質率が高く、0.5時間以後急速に失活し、2時間経過後で図9のMgO無添加よりもCOの生成量が低く、かつ、CO2の生成量が高いことがわかった。このことから、反応式(2),(3)の反応が進み、熱分解に近いことがわかった。このことから、MgOの添加量は5wt%程度が好ましいことがわかった。
【0036】
次に、(表1)から明らかなように、木酢液で酢酸に次いで含有量が多いのはメタノールである。木酢液には、(表1)から明らかなように、酢酸とメタノールで80wt%を占める。そこで、酢酸80wt%とメタノール20wt%の混合溶液を木酢液のモデル混合液として改質について検討した。
(a)実験
実験は、実験例1の装置を用い、反応圧力0.1MPa、前処理した改質触媒cを1g使用し、温度が320℃で安定したのを確認した後、モデル混合液(0.053ml/min)を液体ポンプで供給した。モデル混合液の流量は25ml/min,同伴ガスとしてArガス20ml/minで流し、3時間改質実験を行った。反応ガスの分析は前記GC−TCDオンラインで30分毎に行った。
次いで、1時間かけて昇温し、改質炉が安定した後、前述のモデル混合液を先と同様にしてArガスと共に同一流量、同一流量比で流し、改質反応を行った。反応ガスの分析は、前記GC−TCDオンラインで30分毎に行った。
【0037】
(2)実験結果
Ni/Al23系改質触媒cでの改質ガス生成速度を確認した。その結果を図18に示した。
図18から明らかなように、極めて高い改質率でCOとH2が得られた。
改質温度が300℃で行われた図7では、酢酸はほとんど改質されなかったが、図18の320℃改質温度のデータを対比すると明らかなように、メタノールが主として改質されていると思われる。また、改質温度が350℃で行われた図10では、酢酸は安定して改質され、一酸化炭素が約5.5mol/h.kg‐catで安定していたが、図18の350℃改質温度領域のデータと対比すると、一酸化炭素は約14.5mol/h.kg‐catで改質され、水素も約21.5mol/h.kg‐catで安定して改質されていた。改質率は一酸化炭素で、2.6倍、水素で2.7倍と増加していた。また、一酸化炭素と水素の生成速度比は、水素と一酸化炭素の比が3:2であることから、酢酸とメタノールの相乗効果で、酢酸とメタノールの改質反応が進行したものと推定される。また、酢酸とメタノールの混合により、酢酸の重合が抑制されたため、改質反応が著しく安定しているものと推測された。
また、水素の生成が一酸化炭素に比べてあまり多くないことから、炭素の析出が少ないことも推測される。
(3)考察
(表1)から明らかなように、酢酸とメタノールは木酢液の80%近くを構成する。本発明によれば、木酢液から極めて高得率で合成ガスを得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の木酢液の低温改質方法は、酢酸をNiの含有量が0.1〜15質量%で、かつ、Ni金属粒子をアルミナ等の金属酸化物の表面に微細粒子で高分散させた改質触媒を用いることにより低温(380℃以下)で、高純度(メタン:2%以下)の合成ガスへ高い転化率で改質することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木酢液を、Al23,ZrO2,TiO2等の金属酸化物にNiが0.1〜15質量%含有された改質触媒に、200℃〜400℃の改質温度で合成ガスへ接触改質させることを特徴とする木酢液の低温改質方法。
【請求項2】
前記接触改質が無酸素下で行われることを特徴とする請求項1に記載の木酢液の低温改質方法。
【請求項3】
前記改質触媒が、Ni化合物と前記金属酸化物としてAl23を焼成して得られたスピネル型構造のNiAl24触媒に、更にAl23を添加してNi含有量を0.1〜15質量%に調製して作製され形成された改質触媒であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木酢液の低温改質方法。
【請求項4】
Ni化合物と前記金属酸化物とを、前記改質触媒中Ni含有量が0.1〜15質量%になるように秤量され混合された後、空気中で750℃〜1300℃の温度で焼成され成形された改質触媒であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木酢液の低温改質方法。
【請求項5】
前記改質触媒の調製時に、Caイオン,Mgイオン等の炭素析出防止剤が、Al23等の金属酸化物に対し、3質量%〜10質量%添加されていることを特徴とする請求項1,3,4の内いずれか1に記載の木酢液の低温改質方法。
【請求項6】
前記木酢液がバイオマスを150℃〜400℃、好ましくは200℃〜350℃で乾留熱分解して得られた液相留分であることを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の木酢液の低温改質方法。



【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−285339(P2010−285339A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109720(P2010−109720)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】