説明

未硬化レジスト塗布ディスクの下面側スタンパ装置からの位置ズレ防止方法

【課題】 両面インプリント装置において、下面側スタンパ装置の下側スタンパ上に位置決めされて載置された未硬化レジスト塗布ディスクが下面側スタンパ装置の移動の際に位置ズレを起こさないための方法を提供する
【解決手段】 前記方法は、(a)未硬化レジストが両面に塗布されているディスクを、前記下面側スタンパ装置に実装された、微細転写パターンを有する下側スタンパの上面に位置決めして載置するステップと、(b)前記下側スタンパと前記ディスク下面側との界面に存在する前記レジストのうち、前記スタンパの微細転写パターンにかからない部分の少なくとも一部分にUV光を照射するステップと、(c)前記UV光照射部分のレジストを硬化させて前記ディスクを前記下側スタンパの上面に部分的に仮固着させるステップとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスクリートトラックメディアのように両面に微細構造を形成するアプリケーションに適した両面インプリント装置において、インプリントされる被転写体の位置ズレ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどの各種情報機器の目覚ましい機能向上により、使用者が扱う情報量は増大の一途を辿り、ギガからテラ単位領域に達している。このような環境下において、これまでよりも一層記録密度の高い情報記憶・再生装置やメモリーなどの半導体装置に対する需要が益々増大している。
【0003】
記録密度を増大させるには、一層微細な加工技術が必要となる。露光プロセスを用いた従来の光リソグラフィー法は、一度に大面積を微細加工することができるが、光の波長以下の分解能を持たないため、自ずから光の波長以下(例えば、100nm以下)の微細構造の作製には適さない。光の波長以下の微細構造の加工技術として、電子線を用いた露光技術、X線を用いた露光技術及びイオン線を用いた露光技術などが存在する。しかし、電子線描画装置によるパターン形成は、i線、エキシマレーザ等の光源を使用した一括露光方式によるものと異なって、電子線で描画するパターンが多ければ多いほど、描画(露光)時間がかかる。従って、記録密度が増大するにつれて、微細パターンの形成に要する時間が長くなり、製造スループットが著しく低下する。一方、電子線描画装置によるパターン形成の高速化を図るために、各種形状のマスクを組み合わせてそれらに一括して電子線を照射する一括図形照射法の開発が進められているが、一括図形照射法を使用する電子線描画装置は大型化すると共に、マスクの位置を一層高精度に制御する機構が更に必要になり、描画装置自体のコストが高くなり、結果的に、媒体製造コストが高くなるなどの問題点がある。
【0004】
光の波長以下の微細構造の加工技術として、従来のような露光技術に代えて、プリント技術による方法が提案されている。例えば、特許文献1には、「ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術」に関する発明が記載されている。ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術は、前もって電子線露光技術等の光の波長以下の微細構造の加工技術を用いて、所定の微細構造パターンを形成した原版(モールド)をレジスト塗布被転写基板に加圧しながら押し当て、原版の微細構造パターンを被転写基板のレジスト層に転写する技術である。原版さえあれば、特別に高価な露光装置は必要無く、通常の印刷機レベルの装置でレプリカを量産できるので、電子線露光技術等に比較してスループットは飛躍的に向上し、製造コストも大幅に低減される。このような目的に使用される装置は、「微細構造転写装置」又は「インプリント装置」などと呼ばれている。
【0005】
ナノインプリントリソグラフィー(NIL)技術において、レジストとして熱可塑性樹脂を使用する場合、その材料のガラス転移温度(Tg)近傍又はそれ以上の温度に上げて加圧して転写する。この方式は熱転写方式と呼ばれる。熱転写方式は熱可塑性の樹脂であれば汎用の樹脂を広範に使用できる利点がある。これに対し、レジストとして感光性樹脂を使用する場合、紫外線などの光を曝露すると硬化する光硬化性樹脂により転写する。この方式は光転写方式と呼ばれる。
【0006】
光転写方式のナノインプリント加工法では、特殊な光硬化型の樹脂を用いる必要があるが、熱転写方式と比較して、転写印刷版や被印刷部材の熱膨張による完成品の寸法誤差を小さくできる利点がある。また、装置上では、加熱機構の装備や、昇温、温度制御、冷却などの付属装置が不要であること、更に、インプリント(微細構造転写)装置全体としても、断熱などの熱歪み対策のための設計的な配慮が不要となるなどの利点がある。
【0007】
光転写方式のインプリント(微細構造転写)装置の一例は特許文献2に記載されている。この装置は、紫外線を透過できるスタンパを光硬化性樹脂の塗布された被転写基板に押し当て、上部から紫外線を照射するように構成されている。スタンパの被転写基板押圧面には所定の微細構造パターンが形成されている。
【0008】
特許文献1及び特許文献2に示されるように、従来のインプリント装置では、主に被転写体の片面にのみ所定の微細構造パターンが形成されてきた。しかし、最近では、記録密度を更に増大させるために、ディスクリートトラックメディアのように、両面に微細構造パターンを形成することが強く求められるようになってきた。
【0009】
このような要望に応えるべく、本発明者らは特願2009−294119として両面インプリント装置を出願した。特願2009−294119の明細書に添付された図1〜図7にその装置の一例の概要断面図が示されている。本発明者らが発明した両面インプリント装置は、昇降機構17に支持された上面側スタンパ装置5と、ガイドレール11上に乗せられた移動テーブル9に固設された下面側スタンパ装置3と被転写体剥離装置7とからなり、前記移動テーブル9は移動駆動機構15により前記ガイドレール11上を往復動することができ、これにより、前記上面側スタンパ装置5の位置を中心として、前記下面側スタンパ装置3と被転写体剥離装置7とが前記上面側スタンパ装置5に対峙する位置に交互に移動することができる。本発明者らが発明した両面インプリント装置では、下面側スタンパ装置3と被転写体剥離装置7とがガイドレール11上に乗せられた移動テーブル9に一体的に固設されているので、上面側スタンパ装置5の位置を中心として往復的に動くことができる。これにより、例えば、下面側スタンパ装置3に未硬化レジストが塗布されたディスクを載置する場合には、下面側スタンパ装置3を上面側スタンパ装置5の対峙位置からずらして、上面側スタンパ装置5に被転写体剥離装置7を対峙させる。下面側スタンパ装置3の下側スタンパ29上に未硬化レジスト塗布ディスク43が載置されたら下面側スタンパ装置3を上面側スタンパ装置5の対峙位置に移動させ、上面側スタンパ装置5を下降させて両面転写作業を実施し、次いで、上面側スタンパ装置を上昇させて転写済みディスク53を下面側スタンパ装置3から剥離する。その後、被転写体剥離装置7を上面側スタンパ装置5に対峙させ、転写済みディスク53を上面側スタンパ装置5から剥離する。この時、下面側スタンパ装置3に次の塗布ディスクを載置することもできる。最後に、被転写体剥離装置を上面側スタンパ装置の対峙位置からずらすことにより被転写体剥離装置に保持された転写済みディスク53を回収することができる。前記のように、下面側スタンパ装置3には次の塗布ディスク43が既に載置済みなので、上面側スタンパ装置5を下面側スタンパ装置3に向かって下降させれば両面転写作業を速やかに連続的に実施できる。このように、本発明の両面インプリント装置によれば、プレス機構一式で連続的かつ効率的に被転写体に両面インプリントすることが可能であり、装置構造の簡素化が図られ、スループットを著しく増大させることができる。
【0010】
未硬化レジスト塗布ディスク43を下側スタンパ29上に載置する際、下面側スタンパ装置3のアライメントカメラ23がディスク43の内径中心と下側スタンパ29の中心のアライメントマークとを検出し、その検出信号に基づき、XYステージ21を駆動させ、ディスク43と下側スタンパ29とを位置合わせさせる。ディスク43と下側スタンパ29とが位置合わせされたら、ディスクハンドリングアーム45を下降させ、ディスク43を下側スタンパ29の表面に載置する。しかし、前記の両面インプリント装置では、下面側スタンパ装置3の下側スタンパ29上の載置された未硬化レジスト塗布ディスク43は下側未硬化レジスト49bの粘性と表面張力のみにより、下側スタンパ29上に位置保持されているだけである。そのため、下面側スタンパ装置3が上面側スタンパ装置5に向かって移動される際に、下面側スタンパ装置3の移動開始時、移動中及び移動停止時の加速度の変化により、未硬化レジスト塗布ディスク43の載置位置がズレてしまうことがあった。その結果、転写作業においてインプリント不良を起こし、最終良品の歩留まり低下などの原因にもなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5772905号公報(US005772905A)
【特許文献2】特開2008−12844号公報(P2008−12844A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、下面側スタンパ装置の下側スタンパ上に位置決めされて載置された未硬化レジスト塗布ディスクが下面側スタンパ装置の移動の際に位置ズレを起こさないための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、昇降機構に支持された上面側スタンパ装置と、ガイドレール上に乗せられた移動テーブルに固設された下面側スタンパ装置と被転写体剥離装置とからなり、前記移動テーブルは移動駆動機構により前記ガイドレール上を往復動することができ、これにより、前記上面側スタンパ装置の位置を中心として、前記下面側スタンパ装置と被転写体剥離装置とが前記上面側スタンパ装置に対峙する位置に交互に移動することができる両面インプリント装置において、未硬化レジスト塗布ディスクの下面側スタンパ装置からの位置ズレ防止方法であって、
(a)未硬化レジストが両面に塗布されているディスクを、前記下面側スタンパ装置に実装された、微細転写パターンを有する下側スタンパの上面に位置決めして載置するステップと、
(b)前記下側スタンパと前記ディスク下面側との界面に存在する前記レジストのうち、前記スタンパの微細転写パターンにかからない部分の少なくとも一部分にUV光を照射するステップと、
(c)前記UV光照射部分のレジストを硬化させて前記ディスクを前記下側スタンパの上面に部分的に仮固着させるステップと、
からなることを特徴とする未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法により解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、未硬化レジストが両面に塗布されたディスクが、下面側スタンパ装置の微細転写パターンを有する下側スタンパの上面に位置決めされて載置された後、前記スタンパとディスクとの界面に存在する前記レジストのうち、前記スタンパの微細転写パターンにかからない部分の少なくとも一部分にUV光を照射して当該部分のレジストを部分的に硬化させて前記ディスクを前記下側スタンパに部分的に固着させることができる。その結果、ガイドレール上に乗せられた移動テーブルに固設された下面側スタンパ装置の移動開始時、移動中及び移動停止時の加速度変化があっても、下側スタンパ上面の載置された未硬化レジスト両面塗布ディスクが位置ズレを起こすことは効果的に防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)及び(B)は本発明の方法により部分硬化されるディスク43の下面側の部分拡大平面図である。
【図2】図1に示されるディスク43の部分照射に使用されるUV光源25’の一例の部分概要斜視図である。
【図3】本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法を実施する際の、一工程を示す概要断面図である。
【図4】本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法を実施する際の、一工程を示す概要断面図である。
【図5】本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法を実施する際の、一工程を示す概要断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法の好ましい実施態様について図面を参照しながら説明する。以下の記載において、説明の便宜上、本願発明者の先願である特願2009−294119に添付された図面に図示された部材と同じ部材については、先願の添付図面で使用された参照符号と同じ符号を使用する。説明の便宜上、図示された各部材の寸法は誇張されている。
【0017】
図1(A)及び図1(B)は本発明の方法により部分硬化されるディスク43の下面側の部分拡大平面図である。上面側も下面側と全く同一の構成を有する。ディスク43はその中心(図中のx印)から所定の半径の貫通孔を有する。これはハードディスクのモータなどの回転軸を挿入するためのものである。この貫通孔に隣接して下面側未硬化レジスト49bが塗布されていないレジスト非塗布領域51が存在する。このレジスト非塗布領域51は、ディスク43をディスクチャック47により真空吸着して搬送あるいはハンドリングするために使用される。下面側未硬化レジスト49bが塗布されている領域全てが転写パターン形成に使用されることはない。下面側未硬化レジスト49bが塗布されている領域のうち、一点鎖線(仮想線)で示されるレジスト非塗布領域51に隣接する区域49cは下側スタンパ29の微細パターンにかからない領域である。本発明の方法では、この下側スタンパ29の微細パターンにかからないレジスト塗布領域49cの一部にのみUV光を部分照射し、区域49cの当該部分照射箇所のレジストのみを硬化させてディスク43を下側スタンパ29に仮固着させる。
【0018】
一例として、図1(A)及び図1(B)に示される光インプリントに使用されるディスク43の直径(φ)は65mmであり、R1は10mm、R2は12mm、R3は15mmである。従って、R3−R2=3mmの幅の円環部分が下側スタンパ29の微細パターンにかからないレジスト塗布領域49cとなる。図1(A)に示されるように、幅3mmの円環部分49cのレジストを部分硬化させるために、例えば、直径(φ)5mmのUV光を照射し、微小範囲52(すなわち、図1(A)において斜線で示された部分)のレジストが部分硬化され、ディスク43を下側スタンパ29に仮固着させる。別法として、図1(B)に示されるように、円環部分49cの幅と同じ直径(φ)3mmのUV光を照射し、微小範囲52(すなわち、図1(B)において斜線で示された部分)のレジストが部分硬化され、ディスク43を下側スタンパ29に仮固着させることもできる。
【0019】
部分照射箇所は図示された1ヶ所に限定されない。複数箇所にUV光を照射することができる。部分照射箇所の個数(換言すれば、部分硬化総面積)は、下面側スタンパ装置の移動の際に下側スタンパ29の上面に載置されたディスク43が位置ズレを起こさなくするのに必要十分な個数(又は部分硬化総面積)であればよい。このような部分照射箇所の個数(又は部分硬化総面積)は、下面側スタンパ装置3の移動速度、下側スタンパ29のパターン形状、使用するレジストの種類、ディスク43のサイズ及び部分照射用UV光源の直径などのファクターを考慮し、何度か実験を繰り返すことにより決定することができる。一般的に、下面側スタンパ装置3の移動速度が大きく、ディスク43のサイズが大きくなるにつれて、部分照射箇所の個数(又は部分硬化総面積)も多くなる。
【0020】
図2は、図1に示されるディスク43の部分照射に使用されるUV光源25’の一例の部分概要斜視図である。UV光源25’はその上面に本来のUV光源アレイ25aを有する。光源アレイ25aとしては例えば、水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀水銀ランプ、キセノンランプ又はUV−LEDランプなどを適宜選択して使用することができる。特に、UV−LED光源が好ましい。UV−LEDランプは水銀ランプに比べて大幅に小型化され、紫外線波長が365nmのため熱の発生が大幅に抑えられるので、照射物への悪影響又はダメージが無い。更に低消費電力で環境に優しく、長寿命(10000〜20000時間)なのでランプ交換によるライン停止時間を短くすることができるなどの利点がある。UV光源25’はディスク43の形状に合わせて中央部に貫通空洞26を有するが、この貫通空洞26の外周縁に沿うように部分照射光源25bが配設されている。部分照射光源25bの配設個数は図示された実施態様に限定されない。1個又は3個以上の部分照射光源25bも使用できる。部分照射光源25bとしては例えば、光ファイバ65を導波路として使用するUV光源などを好適に使用できる。別法として、部分照射箇所のみのUV−LEDランプを個別にON/OFF制御することによっても本発明の所期の目的を達成することができる。
【0021】
部分照射光源25bから照射されるUV光の照射時間は当該箇所のレジストを部分硬化させるのに必要十分な時間であればよい。一例として、照射時間は0.5秒〜4秒間程度である。照射時間が0.5秒未満では当該箇所のレジストの部分硬化が不十分となり、ディスク43と下側スタンパ29との仮固着が不確実になる可能性がある。一方、照射時間が4秒間超の場合、当該箇所のレジストのは十分に硬化され、ディスク43と下側スタンパ29との仮固着も確実になるが徒に作業時間が長引くだけで逆にスループットを低下させる原因となるので好ましくない。部分硬化のためのUV光照射時間は1秒〜2秒間程度であることが好ましい。
【0022】
図3は本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法を実施する際の、一工程を示す概要断面図である。本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法が実施される装置自体は前記の特願2009−294119に示された両面インプリント装置と大体同じであり、相違点は、特願2009−294119に示された両面インプリント装置における下側UV光源25が図2に示されるような部分照射光源25bが配設されたUV光源25’に置き換えられていることである。図3において、両面に光硬化性レジストが塗布されたディスク43は、ディスクハンドリングアーム45の先端に取り付けられたディスクチャック47により搬送される。ディスク43は外周縁までレジスト49a,49bが塗布されているので、ディスク外周縁をチャックする形式では搬送できないが、ディスク43の中央の貫通孔周辺部にはレジスト49a,49bが塗布されない領域51があるので、このレジスト非塗布領域51をディスクチャック47により真空吸着して搬送することが好ましい。ディスクハンドリングアーム45は昇降可能かつ進退又は回転可能に構成されていることが好ましい。ディスクハンドリングアーム45によりディスク43が下側スタンパ29の直上に搬送されてきたら、下面側スタンパ装置3のアライメントカメラ23がディスク43の内径中心と下側スタンパ29の中心のアライメントマークとを検出し、その検出信号に基づき、XYステージ21を駆動させ、ディスク43と下側スタンパ29とを位置合わせさせる。ディスク43と下側スタンパ29とが位置合わせされたら、ディスクハンドリングアーム45を下降させ、ディスク43を下側スタンパ29の表面に載置し、ディスクチャック47の真空吸着を解除した後、ディスクハンドリングアーム45を待避させる。ディスク43の両面にレジスト49a,49bを塗布する方法は、例えば、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、インクジェットなどの公知慣用の方法を使用することができる。ディスクへのレジストの両面スピンコートに関しては、東京都板橋区に所在する株式会社ナノテックから両面スピンコーターが市販されている。両面エアースプレーコーター、静電スプレーコーター、ロールコータは東京都目黒区に所在するファイコーポレーションから市販されている。ディスクの両面にレジストをインクジェット塗布する装置に関しては本願出願人による特願2009−161494の明細書に開示されている。
【0023】
ディスク43は例えば、HDD、CD又はDVDなどのような中心に貫通穴が形成されたドーナツ形の円盤状ディスク基板などである。ディスク43の表面には必要に応じて、金属層、樹脂層、酸化膜層などの常用の薄膜を形成し、多層構造体とすることもできる。レジスト49a,49bは例えば、合成樹脂材料に感光性物質を添加したものを使用することができる。合成樹脂材料としては例えば、主成分がシクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレンポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール(PVA)などが使用できる。感光性物質は例えば、過酸化物、アゾ化合物類(例えば、アゾビスイソブチロニトリルなど)、ケトン類(例えば、ベンゾイン、アセトンなど)、ジアゾアミノベンゼン、金属系錯塩類、染料類などが挙げられる。
【0024】
図4は図3に示された両面インプリント装置による両面インプリント作業の次の工程を示す概要断面図である。図3で説明したように、両面にレジスト49a,49bが塗布されたディスク43が下側スタンパ29の上面に載置されたら、UV光源25’の部分照射光源25bからUV光を短時間(例えば、1秒〜2秒間)照射し、未硬化レジスト49bが塗布されている領域のうち下側スタンパ29の微細パターンにかからない領域49cの一部分のみを硬化させてディスク43を下側スタンパ29に仮固着させる。
【0025】
図4に示される工程においてディスク43を下側スタンパ29に仮固着させたら、図5に示されるように、下面側スタンパ装置3及び被転写体剥離装置7は、移動駆動機構15により移動テーブル9がガイドレール11に沿って移動され、下面側スタンパ装置3が上面側スタンパ装置5に対峙する位置にまで移動されたら、その位置で停止される。ディスク43は下側スタンパ29に仮固着されているので、この移動の際に加速度を受けても最初に載置・位置決めされた位置からずれることはない。必要に応じて、下面側スタンパ装置3のアライメントカメラ23により、下側スタンパ29のアライメントマークと上側スタンパ35のアライメントマークとを検出し、その検出信号に基づき、XYステージ21を駆動させ、下側スタンパ29と上側スタンパ35とを位置合わせさせる。下側スタンパ29と上側スタンパ35とが位置合わせされたら、昇降機構17により上面側スタンパ装置5を下降させて、ディスク43に所定の圧力で押圧し、当接させる。次いで、下面側スタンパ装置3のUV光源25’の光源アレイ25a(図2参照)及び上面側スタンパ装置5のUV光源37からUV光を照射し、レジスト49a,49b全体を硬化させる。これにより、ディスク43の下面側レジスト49bに下側スタンパ29のパターンが転写され、上面側レジスト49aに上側スタンパ35のパターンが転写される。
【0026】
転写後のディスクの剥離操作自体は特願2009−294119に記載された剥離操作と同じであるから説明は省略する。
【実施例1】
【0027】
図3に示されるような両面インプリント装置を用いて本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法の効果を実験した。φ65mm、R1=10mm、R2=12mm、R3=15mmの厚さ0.635mmのガラス製ディスク43の上面側及び下面側に、市販の光硬化性メチルメタクリレート系レジストをスピンコート法により厚さ50nmの膜厚で塗布した。このディスク43を下側スタンパ29の上面に、アライメントカメラ23により位置決めして載置した。次いで、ディスク43の下面側の下側スタンパ29の微細パターンにかからない領域部分のレジスト塗布膜に、UV光源25’の部分照射光源25bからφ5mmの光ファイバにより導波されたUV光を2秒間照射し、当該照射部分のレジストを硬化させてディスク43を下側スタンパ29の上面側に仮固着させた。その後、移動駆動機構15により下面側スタンパ装置3を0.6m/秒の速度で上面側スタンパ装置5に対峙する位置にまで移動させ、停止させた。この位置でディスク43の位置ずれの有無を判定した。その結果、ディスク43は下側スタンパ29に対して位置決めされた位置から全くずれていないことが確認された。
【0028】
比較例として、前記部分照射による仮固着を行わなかったこと以外は実施例1に述べた方法と同じ方法で処理し、移動駆動機構15により下面側スタンパ装置3を0.6m/秒の速度で上面側スタンパ装置5に対峙する位置にまで移動させ、停止させた。この位置でディスク43の位置ずれの有無を判定した。その結果、ディスク43は下側スタンパ29に対して最初に位置決めされた位置から100μm以上ずれていることが検出された。ディスクへのインプリント位置精度は20μm以下とする必要があるため、このずれは無視できないほどの大きさである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上、本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法の好ましい実施態様について説明してきたが、本発明は例示された実施態様に限定されず、様々な変更を為すことが可能である。例えば、例示された両面インプリント装置における実施態様に限定されず、片面インプリント装置においても、ディスクの移動を伴う様な事例において、本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法を使用することもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 本発明の未硬化レジスト塗布ディスク位置ズレ防止方法が使用される両面インプリント装置の一例の概要断面図
3 下面側スタンパ装置
5 上面側スタンパ装置
7 被転写体剥離装置
9 移動テーブル
11 台座
13 ガイドレール
15 移動駆動機構
17 昇降機構
19 制御部
21 XYステージ
23 アライメントカメラ
25’ 下側UV光源
25b 部分照射光源
27 スタンパ載置テーブル
29 下側スタンパ
31a,31b スタンパクランプ
33 スタンパ支持テーブル
35 上側スタンパ
37 上側UV光源
39a,39b スタンパクランプ
41a,41b ストッパ
43 ディスク
45 ディスクハンドリングアーム
47 ディスクチャック
49a 上側未硬化レジスト
49b 下側未硬化レジスト
49c 下側未硬化レジスト49bが塗布されている領域のうち下側スタンパ29の微細
パターンにかからない領域
51 未硬化レジスト非塗布領域
52 部分照射領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機構に支持された上面側スタンパ装置と、ガイドレール上に乗せられた移動テーブルに固設された下面側スタンパ装置と被転写体剥離装置とからなり、前記移動テーブルは移動駆動機構により前記ガイドレール上を往復動することができ、これにより、前記上面側スタンパ装置の位置を中心として、前記下面側スタンパ装置と被転写体剥離装置とが前記上面側スタンパ装置に対峙する位置に交互に移動することができる両面インプリント装置において、未硬化レジスト塗布ディスクの下面側スタンパ装置からの位置ズレ防止方法であって、
(a)未硬化レジストが両面に塗布されているディスクを、前記下面側スタンパ装置に実装された、微細転写パターンを有する下側スタンパの上面に位置決めして載置するステップと、
(b)前記下側スタンパと前記ディスク下面側との界面に存在する前記レジストのうち、前記スタンパの微細転写パターンにかからない部分の少なくとも一部分にUV光を照射するステップと、
(c)前記UV光照射部分のレジストを硬化させて前記ディスクを前記下側スタンパの上面に部分的に仮固着させるステップと、
からなることを特徴とする未硬化レジスト塗布ディスクの下面側スタンパ装置からの位置ズレ防止方法。
【請求項2】
前記ステップ(b)において、前記UV光は光ファイバにより導波して照射する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)において、前記UV光はUV−LEDランプにより照射する請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(b)において、前記UV光の照射時間は0.5秒〜4秒間の範囲内である請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)において、前記UV光の照射時間は1秒〜2秒間の範囲内である請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−89190(P2012−89190A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233726(P2010−233726)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】