説明

杢調繊維シートの製造方法

【課題】 従来の高級な外観を阻害する一因となっていた糸筋等の問題を解消し、高物性、高品位の外観と柔軟で膨らみ感のある風合いをも併せ持つような杢調繊維シートが製造方法を提供する。
【解決手段】 下記(1)を満足する繊維ウエブ(WA)と下記(2)を満足する繊維ウエブ(WB)とを積層して、少なくとも表面となる繊維ウエブ側の表面に、他方の繊維ウエブを主体として構成する繊維が露出するように絡合一体化させることを特徴とする杢調繊維シートの製造方法。
(1)繊維ウエブ(WA)を主体として構成する繊維が、繊維(A)、または該繊維(A)を発生させ得る複合繊維(PA)であること、
(2)繊維ウエブ(WB)を主体として構成する繊維が、構成成分が繊維(A)とは異なる繊維(B)、または該繊維(B)を発生させ得る複合繊維(PB)であり、かつ該繊維(B)が下記(a)および/もしくは(b)を満足する繊維であること、
(a)顔料着色されていること
(b)繊維(A)とは染色性が異なること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる繊維から形成された繊維ウエブを積層し絡合一体化することによって、高品質、高物性、かつ高級感のある杢調外観を付与した杢調繊維シートを製造することのできる杢調繊維シートの製造方法及びその製造方法により得られた杢調繊維シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、立毛面にポリアミド繊維やポリエステル繊維を混在させ、染色性の相違を利用して何れか一方、または両方ともを染色した杢調の外観を有する繊維シートは数多く提案されており、中でも立毛面を構成する繊維の主体をポリアミド極細繊維とした杢調繊維シートは、立毛の主体をポリエステル極細繊維としたものに比べるとしっとりとした感触が好まれて、各種用途に使用されている。近年、特に人工スエードの分野においては、単調な外観だけでなく、様々な色調、新しい型の外観に対する要求が以前にも増して強くなってきており、その要求を満足するための外観の1つとして杢調がある。しかしながら、杢調という不均一な外観を目的としつつも、品質面では均一性が高く、また高級感があるような杢調外観をユーザーは要望しており、その要望を満足した杢調繊維シートを得るのが大きな課題であった。
【0003】
杢調繊維シートで異色感を有するものを得る手段として、染色挙動の異なる2種類以上の繊維を所望の比率で混合あるいは混綿してシートをつくり、これを1種または2種類以上の染料で染色する方法は公知である(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3を参照。)。また、極細繊維と該極細繊維より大きな繊度を有するとともに顔料で着色された繊維を混合させることにより、杢調の外観を発現させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。しかし、これらの方法で得られる染色シートの場合、離れて見ると両者の色調が混然一体となり(このような外観も市場の要求のひとつであるが)、本発明の目的とする強いコントラスト感は得られ難いものであった。特許文献2には、ポリエステル極細繊維にポリアミド極細繊維を混合して、ポリエステル極細繊維を染色する記載があるが、ポリエステル極細繊維を分散染料で染色する際にポリウレタン、ポリアミド極細繊維が染料で汚染されるため、染色後の還元洗浄が必須で、工程が長くなる上、還元洗浄で使用するアルカリによりウレタンが劣化する傾向があった。また、極細繊維と該極細繊維より大きな繊度を有するとともに顔料により着色された繊維を混合させることにより、杢調外観を発現させる方法は、濃色の繊維が淡色の繊維より太いのでコントラストはつきやすいが、混合比率が低いため、全体の濃度感がでず、逆に太い繊維の比率を上げるとヌバック調の繊細な外観が得られなくなる。特許文献1および特許文献4の本文中には、ポリオレフィン系繊維等を混合して一方を染めずに残すという記載もあるが、平均繊度が0.001〜0.01デシテックスのポリアミド極細繊維を主体に使用する場合においては、その繊維の細さ故、白く残った他成分繊維とのコントラストが弱く、全体に白っぽい外観となってしまい、目的とするコントラスト感が得られ難かった。また、多量の染料を使用して染色したとしても、風合いや堅牢度の劣ったものとなり易いものであった。強いコントラスト感を得る方法としてカーボンブラックを含む極細繊維と、カーボンブラックおよび顔料に着色されていない繊維を混合して杢調の外観を発現させる方法が提案されている(例えば特許文献5参照。)。しかしこのような混合による杢調外観作成方法では、解繊むらがおこり、製品にした場合表面に混在する繊維の比率を管理することは難しく、また繊維が寝た状態で表面にあった場合、色すじのような外観を形成し表面の高級感が低下し易いものであった。
【0004】
【特許文献1】特開昭54−106668号公報
【特許文献2】特開昭57−66188号公報
【特許文献3】特開平05−279965号公報
【特許文献4】特開平04−240274号公報
【特許文献5】特願2003−156745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
杢調のコントラストと高級感を有する杢調外観、風合い、堅牢度、機械的物性および十分な耐久性を兼ね備えたものが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下に記述する方法を見出した。すなわち本発明は下記(1)を満足する繊維ウエブ(WA)と下記(2)を満足する繊維ウエブ(WB)とを積層して、絡合一体化させ、下記(3)を満足させることを特徴とする杢調繊維シートの製造方法である。
(1)繊維ウエブ(WA)を主体として構成する繊維が、繊維(A)、または該繊維(A)を発生させ得る複合繊維(PA)であること
(2)繊維ウエブ(WB)を主体として構成する繊維が、構成成分が繊維(A)とは異なる繊維(B)、または該繊維(B)を発生させ得る複合繊維(PB)であり、かつ該繊維(B)が下記(a)および/もしくは(b)を満足する繊維であること
(a)顔料着色されていること
(b)繊維(A)とは染色性が異なること
(3)製造された杢調繊維シートにおいて少なくとも表面となる繊維ウエブ側の表面に、他方の繊維ウエブを主体として構成する繊維が露出していること
そして繊維(A)および繊維(B)が、ポリアミド系繊維およびポリエステル系繊維から選ばれた互いに異なる繊維であることが好ましい。また複合繊維(PA)および複合繊維(PB)から繊維(A)および繊維(B)にそれぞれ変換する工程を含むことが好ましい。さらに、繊維(A)および繊維(B)が0.5デシテックス以下の極細繊維であることが好ましく、また繊維(A)と繊維(B)の質量比が20:80〜80:20であることが好ましい。また繊維ウエブ(WA)と繊維ウエブ(WB)を絡合一体化させて三次元絡合不織布とした後で、高分子弾性体を溶液または分散液の状態で該三次元絡合体不織布内部に含有し、凝固する工程を含むことが好ましく、製造された杢調繊維シートにおいて少なくとも表面となる繊維ウエブ側の表面を起毛して、繊維(A)及び繊維(B)が混在した立毛面を形成させる工程を含むことが好ましい。
そして前述の製造方法により得られた杢調繊維シートである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維シートの製造方法を採用することにより、ニードルパンチにより絡合し不離一体化された構造を容易に製造できるので、得られる不織布シート状物、またその不織布シート状物に弾性重合体を付与した杢調繊維シートにおいて、この杢調繊維シートに、例えば表面立毛形成処理に代表されるような従来公知の様々な加工処理を行なうことができる。これらの処理を行なうことによって従来の高級な外観を阻害する一因となっていた糸筋等の問題を解消し、高物性、高品位の外観と柔軟で膨らみ感のある風合いをも併せ持つような杢調繊維シートが製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明について詳細に記載する。
本発明の杢調繊維シートを構成する繊維は、繊維(A)もしくは繊維(A)を発生させ得る複合繊維(PA)と繊維(A)以外の構成成分からなり、顔料着色された繊維もしくは繊維(A)とは染色性が異なる繊維である繊維(B)または繊維(B)を発生させ得る複合繊維(PB)からなる。このとき繊維(B)が顔料で着色されている場合は、繊維を構成する樹脂に対して10質量部以下であることが繊維物性点で好ましく、3〜5質量部であることが繊維物性と杢調の優れたコントラストを両立する点でより好ましい。用いる顔料としてはマスターバッチとして添加することが、生産性および得られる製品物性が良好な点で好ましく用いられる。また、顔料の種類としては、公知の顔料を用いることが可能であるが、カーボンブラックを用いることが、繊維物性、生産性、後で染色する場合の染色のし易さおよび杢調のコントラストに優れる点で好ましく用いられる。
また、繊維(B)が繊維(A)と染色性が異なるとは、例えばポリアミドとポリエステルのように繊維を構成する樹脂が異なる場合や、同じ樹脂であっても変性度の違いから染色性が異なる場合を意味する。
【0009】
繊維(A)および繊維(B)を構成する繊維はポリエステル系、ポリアミド系、アラミド系などで代表される合成繊維、木綿、絹、羊毛などの天然繊維、レーヨン等の再生繊維、アセテートなどで代表される半合成繊維等、糸にすることで絡合可能な繊維であればどのような繊維も使用することができる。また繊維(A)および繊維(B)をそれぞれ発生させ得る複合繊維(PA)および複合繊維(PB)の場合は合成繊維、再生繊維、半合成繊維が好ましく、得られる繊維シートの杢調のコントラスト、風合、物性、染色性が異なる点および工業的に安定に生産できる点で繊維(A)および繊維(B)はポリエステル系およびポリアミド系繊維がより好ましい。
【0010】
本発明において繊維(A)および繊維(B)をそれぞれ発生させ得る複合繊維(PA)および複合繊維(PB)は、相溶性に乏しい2種以上の熱可塑性ポリマーを溶融させて複合紡糸または混合紡糸することにより得られる。その代表的な繊維の形態は、いわゆる海島型繊維と呼ばれるものであり、海成分、島成分それぞれに採用する熱可塑性ポリマーの組み合せによって、種々の極細繊維を発生させることが可能である。例えば、海成分を溶剤により溶解させる、または水酸化ナトリウム等の分解剤により分解させることで、海島型繊維から海成分が除去され、残った島成分がフィブリル化した極細繊維束を得ることができる。もう1つの代表的な繊維の形態は、いわゆる分割型繊維と呼ばれるものであり、組み合わされた各々の熱可塑性ポリマーの繊維断面における配置としては、交互に層状に積層されて界面が複数本の平行線状になったもの、交互に積層されて界面が複数本の放射状になったもの、あるいはこれに同心円状の界面が組み合わされたものなど、幾何学的に無理のない配置が種々提案されており、機械的に界面で剥離させる、または処理剤によって一成分を所定の程度分解させることで、各ポリマーからなる極細繊維にフィブリル化した極細繊維束を得ることができる。極細繊維発生型繊維としては、前記に例示したように種々の形態の海島型繊維や分割型繊維等を代表とする複合繊維が挙げられるが、分割型繊維は機械的に界面で剥離してフィブリル化し易い反面、本発明で採用するニードルパンチによる絡合処理する際を始め、繊維自体、繊維ウエブを部分的に界面で剥離してしまうなどの繊維損傷が発生し易く、また例えば杢調繊維シートとしてスエード調の優美な立毛外観や柔軟で膨らみ感のある風合いを得ようとした場合には、種類が異なるあるいは発生させた極細繊維が付与した弾性重合体により固着され易いので風合いが硬くなり易いといった点で、分割型繊維からなる繊維ウエブよりも海島型繊維からなる繊維ウエブの方がより好ましく用いられる。
【0011】
本発明の杢調繊維シートの繊維ウエブに用いる繊維は海島型繊維であることが好ましい。すなわち、本発明の杢調の立毛繊維シートとしたときに異種の束状繊維からなる立毛外観によって極めて優れた杢調コントラストが得られる点で好ましい。そして繊維ウエブを構成する繊維を海島型繊維とする場合、さらに島成分を構成する樹脂がポリアミド系樹脂の場合、構成成分として、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン26、ナイロン210、ナイロン410、ナイロン76およびその他芳香環を有する可紡性ポリアミドから選ばれた少なくとも1種類のポリアミド系樹脂が挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲にて、ポリアミド系樹脂には顔料や染料はもちろんのこと、それ以外に熱安定性向上剤等の物性向上を目的とした添加剤を添加してもよい。
【0012】
海成分の構成成分としては、島成分あるいは後工程にて任意に含有させる高分子弾性体と溶剤に対する溶解性を異にし、島成分および該高分子弾性体と親和性の小さい樹脂であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール系重合体およびスチレンエチレン共重合体等のポリマ−から選ばれた少なくとも一種のポリマーが挙げられる。
【0013】
ポリアミド系繊維を発生させ得る極細繊維発生型繊維は、島成分のポリアミド系樹脂と海成分ポリマーのチップを混合し同一溶融系で溶融した混合溶融物を口金より押し出して紡糸する方法、別々の溶融系で溶融して分割統合を繰り返すかあるいは紡糸口金部でポリアミドを複数の口金から海成分中へ合流させ海島状で紡糸する方法により得られるが、本発明の平均単繊度が0.5デシテックス以下の極細繊維束を得るためには、同一溶融系で溶融紡糸する方法が優れている。極細繊維の繊度は、紡糸温度におけるポリアミドと海成分の溶融粘度差を調節し島数を変更する、極細繊維発生型繊維の繊度または海島比率を変更すること等により所望の太さとすることができる
【0014】
次に、本発明の杢調繊維シートを構成する繊維の1つがポリエステル極細繊維の場合は、前述の理由と同じ様に該ポリエステル極細繊維の束状繊維であることが好ましい。このような束状繊維は、可紡性のポリエステルを島成分とし、ポリエステルとは溶剤等に対する溶解性あるいは分解性を異にするポリマーを海成分とする海島型繊維から海成分を除去することによって得られる。
【0015】
島成分を構成するポリエステルは、繊維形成性のポリエステルであればいずれでも良く、構成成分として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等で代表される公知のポリエステル系原料を用いることができるが、物性や耐久性のバランスの点でポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、ポリエステルに柔軟性を付与する目的で、スルホン基を有するモノマー等を共重合することもできる。そして、所望に応じて着色剤や樹脂の熱安定性向上剤で代表される物性向上剤や酸化チタン等の添加剤を添加することは可能である
【0016】
海成分を構成するポリマ−は、前述と同様にポリエステルと溶剤に対する溶解性を異にし、親和性の小さいポリマ−であり、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、スチレンエチレン共重合体などのポリマ−から選ばれた少なくとも一種類のポリマ−が挙げられる。
【0017】
ポリエステル極細繊維あるいはポリエステル極細繊維束は、従来公知の方法で作られる。例えば、繊維断面において上記ポリエステルを島成分、そして上記ポリエステルに相溶性の小さい少なくとも1種類以上のポリマーが海成分となっているポリエステル海島型繊維から、海成分ポリマーを溶解又は分解除去することにより、または上記ポリエステルと相溶性の小さい1種以上のポリマーが接合した断面形状を有する貼合わせ型のポリエステル極細繊維発生型繊維を機械的または化学的な処理により2成分の界面で剥離させることにより得ることができる。得られるポリエステル極細繊維またはポリエステル極細繊維束を構成する極細繊維の平均繊度を0.5デシテックス以下とするためには、貼合わせ型の極細繊維発生型繊維を用いるよりは繊維断面が海島構造となっているいわゆる海島型の極細繊維発生型繊維を用いる方が工程上有利である。
【0018】
極細繊維束の極細繊維の平均単繊度は、0.5デシテックス以下であることが重要であり、0.00001〜0.5デシテックスであることが好ましく、0.001〜0.1デシテックスであることが好ましい。0.5デシテックスより太いと杢調繊維シートの風合が低下し、また起毛して立毛面を形成した場合に立毛の外観がラフな感じとなり高級感に劣るものとなる。その他の島成分としては公知の合成繊維、再生繊維、半合成繊維等の樹脂が挙げられる。中でも、染色性、風合、物性および杢調のコントラストに優れる点で複合繊維(PA)の島成分がポリアミド系樹脂の場合には複合繊維(PB)の島成分はポリエステル系樹脂であることが好ましく、または複合繊維(PA)の島成分がポリエステル系樹脂の場合には複合繊維(PB)の島成分はポリアミド系樹脂であることが好ましい。
【0019】
上記ポリアミド極細繊維または極細繊維束を発生させ得るポリアミド極細繊維発生型繊維を繊維ウエブとする方法、ポリエステル極細繊維または極細繊維束を発生させ得るポリエステル極細繊維発生型繊維を繊維ウエブとする方法、そしてそれら繊維ウエブを絡合一体化して三次元絡合不織布とする方法は公知の方法で行なうことができる。
すなわち、ポリアミド極細繊維発生型繊維とポリエステル極細繊維発生型繊維をそれぞれ延伸後、捲縮、カットした後、それをカードで解繊し、ウエバーを通してそれぞれの繊維ウエブを形成する。このとき形成される繊維ウエブ(WA)および繊維ウエブ(WB)の目付けは用途等によって所望の範囲にすればよく、特に限定されないが、後工程の通過性等を考慮すると50〜1000g/mが1つの目安となる。
【0020】
得られた繊維ウエブの質量比率は繊維(A)および繊維(B)の質量比で20/80〜80/20となることが好ましい。ポリエステル極細繊維の重量比率が少なすぎる場合、絡合一体化処理により表面に突き出される極細繊維の量が激減し、高級感ある杢外観を得ることが出来ず、また、ポリアミド極細繊維が少なすぎる場合、良好な風合を得ることが出来ない。そして40/60〜60/40がより好ましく。50/50であることが最も好ましい。また得られた繊維ウエブを積層する場合、繊維ウエブ(WA)/繊維ウエブ(WB)/繊維ウエブ(WA)あるいは繊維ウエブ(WB)/繊維ウエブ(WA)/繊維ウエブ(WB)の3層構造をとることも、絡合一体化処理工程よりも後の工程で厚さ方向に2分割することで効率的に杢調繊維シートが得られる点で好ましい。この場合積層する分割後の繊維(A)および(B)の質量比が前述の範囲であればよい。
繊維ウエブを、所定の質量比率になるように所望の重さ、厚さに積層し、次いで、ニードルパンチ処理あるいは水流絡合処理等の公知の絡合処理により絡合一体化し三次元絡合不織布とする。また、繊維ウエブには必要に応じて織編物等を積層することもできる。得られた三次元絡合不織布はより高級な外観を付与するため、最終的に表面が毛羽立てられ、立毛表面が形成されることが多いため、少なくとも該不織布表面は上記繊維(A)および繊維(B)を発生させる複合繊維(PA)および複合繊維(PB)または繊維(A)および繊維(B)が繊維ウエブ(WA)表面に繊維ウエブ(WB)を構成する繊維を露出させるか、または繊維ウエブ(WB)表面に繊維ウエブ(WA)を構成する繊維を露出させて絡合一体化して構成されていることが必要であるが、得られる繊維シートの風合いの点から不織布全体が極細繊維発生型繊維または極細繊維からなっていることが好ましい。またニードルパンチ処理としては単位面積あたりに作用するニードルの数は700パンチ/cm以上、2000パンチ/cmが好ましく、より好ましくは900パンチ/cm以上1200パンチ/cm以下が好ましい。700パンチ/cm未満の場合、繊維表面に表れる繊維の量が少なく良好な杢外観が得られ難く、また強固な絡合が得られ難い。また構成する繊維ウエブの目付けにもよるが2000パンチ/cmを越える場合、一方の繊維ウエブからなる表面側に現れる他方の繊維ウエブからなる繊維の量が多すぎて杢調コントラストとしてバランスのよい高級な杢外観とならない。またニードルパンチにおけるニードル針の突き刺し深さいわゆる針深度はニードルの針先からバーブの先端(棘)までの距離(D)よりも深くなければならない。例えばDが3mmの場合針深度は4mm以上が好ましく、8mm〜14mmが好ましい。もし針深度がDよりも小さい場合、表面を形成する繊維ウエブ上にもう一方の繊維が現れず杢外観を形成することが出来ない。また14mmを越えた場合には表面外観を著しく汚す傾向にある。
【0021】
このようにして得られた三次元絡合不織布は、必要に応じて、表面の平滑性向上、厚みおよび見掛け密度などの制御を目的として、加熱、あるいは冷却しつつ厚さ方向にプレスすることも好ましい。プレスの方法は、複数の加熱ロール間に杢調繊維シートを通す方法、予熱した三次元絡合不織布を冷却ロール間に通す方法等、従来公知の種々の方法が利用できる。このようにしてプレスすることで、海島型繊維であれば、繊維中の海成分すなわちポリエチレンなどの低溶融粘度成分が溶融し、近接する繊維同士が圧着されることにより、前記のような目的を達成することが出来る。この際、三次元絡合不織布の長さ方向や幅方向にかかるテンションや厚さ方向にかかるプレス圧等により発生する三次元絡合不織布自身の形態変化を抑制する目的で、ポリビニルアルコールやデンプン、樹脂エマルジョン等途中工程にて除去可能な固定剤、あるいは除去できなくとも少量の固定剤を付与することは何ら差し支えない。
【0022】
上記にて得られた三次元絡合不織布の内部に公知の高分子弾性体を溶液または分散液の状態で含浸または塗布などの方法により付与し、該高分子弾性体をスポンジ状あるいはドット状などの形態で凝固させることが風合および物性を向上させる点で好ましい。本発明で使用する高分子弾性体としては、回復性を有し、耐久性、耐摩耗性などの特性を有する弾性重合体であればいずれでもよく、例えば、ポリウレタンエラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、スチレン−イソプレンブロック共重合体の弾性水素添加物、アクリルゴム、天然ゴム、SBR、NBR、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、イソブチレンイソプレンゴムなどを挙げることができ、これらの弾性重合体は単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。
そのうちでも、高分子弾性体としては、柔軟性、弾性回復性に優れ、耐摩耗性などの耐久性に優れ、引張強度などの力学的特性、染色性などの特性に優れ、しかも多孔質構造を形成させ易いことから、ポリウレタンエラストマーが好ましく用いられる。これらの高分子弾性体を有機溶剤溶液または水系分散液として三次元絡合不織布の内部に含浸した後、感熱凝固、乾燥凝固、湿式凝固等を行なうことにより凝固させる。高分子弾性体を付与する前の三次元絡合不織布に対する高分子弾性体の付与量は、質量比で150%以下程度の範囲が好ましく、また1%以上の範囲が好ましい。150%を越えると、繊維シートとしての力学物性は、より向上する傾向を示すものの、繊維シートとしての風合いがゴムライクになってしまうため、品位あるいは高級感を重視するユーザーに対して好まれない。また、1%未満だと、バインダー効果が得られ難い。なお、三次元絡合不織布を構成する繊維または糸が極細繊維あるいは極細繊維束等に変成可能な複合繊維の場合は、前記の高分子弾性体の付与量は変成後の質量に対する割合のことである。得られる杢調繊維シートは、上記範囲内で適宜調整された割合で高分子弾性体が付与されていることにより、繊維シートとしての風合いや力学物性が所望のレベルに調節されるだけでなく、極細繊維などの杢調繊維シートを構成する繊維が杢調繊維シートから脱落するのが防止され、あるいはさらに表面被覆層を形成する際には接着性を向上させるなどの効果を有する。
【0023】
なお、三次元絡合不織布を構成する繊維または糸が極細繊維発生型繊維等の複合繊維(PA)および複合繊維(PB)を用いている場合、高分子弾性体付与の前または後で繊維または糸を極細繊維あるいは極細繊維束に変成させることにより、本発明の杢調繊維シートとすることができる。そして、極細繊維発生型繊維が海島型繊維の場合には、海成分の溶剤または分解剤であって、島成分および高分子弾性体に対しては非溶剤、貧溶剤、非分解剤または弱分解剤である処理液により処理することで、極細繊維あるいは極細繊維束または極細繊維あるいは極細繊維束からなる糸とする。
【0024】
本発明の杢調繊維シートの厚みは、最終的な繊維シートの用途に応じて任意に選択でき、特に限定されるものではないが、一般的には0.3mm〜3mmであり、繊維シートとしての風合いや物性のバランスおよび製造の容易さの点から、好ましくは0.5〜2.5mmである。
【0025】
次にスエード調とするためには、得られた杢調繊維シートの少なくとも表面を起毛して、繊維(A)と繊維(B)からなる立毛繊維が混在した立毛面を形成させる。立毛面を形成させる方法としては、サンドペーパーなどによるバフィング処理、バンドナイフなどによるスライス処理といった公知の処理方法によって所望の厚さに厚み合わせを行なう処理や、溶剤や弾性重合体溶液、シリコン溶液、エマルジョン等の処理液による表面処理などを行った後、あるいは厚み合わせ処理や表面処理などを行なう前に、少なくとも片面をサンドペ−パ−などによりバフィング処理する方法が一般的である。
【0026】
染色性が異なる繊維の場合、特にポリアミド系繊維およびポリエステル系繊維の組み合せでポリアミド系繊維を主体的に染色する場合、使用する染料は、例えばポリアミド樹脂およびポリウレタンを染色するがポリエステル樹脂を実質的に染色しにくい染料であれば公知の染料が使用できる。中でも酸性染料、含金錯塩染料などが好ましく使用され、ポリアミド極細繊維とポリウレタンを染色するが2:1型金属錯塩染料を用いることがより好ましい。染色に当たっては、染液の染料濃度を高くすると染色堅牢度や洗濯堅牢度が低いものとなりやすい。
【0027】
ポリエステル繊維およびポリウレタンを主体的に染色する場合、使用する染料は例えばポリエステル樹脂およびポリウレタンを染色するがポリアミド樹脂を実質的に染色しにくい染料であれば公知の染料が使用できる。中でも硫化染料が好ましい。
様々な染料で該立毛表面を有する杢調繊維シートを染色する場合、染料濃度10%以下で染色することが、濃色で杢調の強いコントラスト感と堅牢度に優れる点で好ましい。染色した立毛表面を有する杢調繊維シートは、必要に応じて耐光処理、揉み、柔軟化処理、ブラッシングなどの仕上げ処理を行なう。
上記の方法で製造された杢調繊維シートは、高品質、高物性なおかつ高級感のある杢調外観を付与した繊維シートを製造できる。従って、衣料用はもとより、インテリア用、靴用、袋物用、各種手袋用にもその製造方法を使用することが出来る。
【0028】
本発明を具体的に説明するための実施例、及び比較例をあげる。もちろん本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下で使用する部、%等は特に記載しない場合は、質量に関するものである。
【実施例1】
【0029】
カーボンブラックを5質量%含有するナイロン50部、ポリエチレン50部を混合、溶融、押出してナイロンが島成分、ポリエチレンが海成分で、横断面における平均島数が約300、繊度10デシテックスの複合繊維いわゆる海島型繊維を得た。別途、相対粘度0.65のポリエチレンテレフタレート60部、ポリエチレン40部の複合繊維いわゆる海島型繊維(島数200、繊度15デシテックス)を紡糸した。この2種類の繊維をそれぞれ2.5倍に共延伸、捲縮、切断して繊維長51mmの短繊維とした。ナイロンを島成分とする海島型繊維の短繊維繊度は4.8デシテックスであり、極細化後の繊度は0.008デシテックスである。また、ポリエステルを島成分とする海島型繊維の短繊維繊度は実測で6.6デシテックスであり、極細化後の繊度は0.02デシテックスである。
この繊維をカードで開繊した後別々に繊維ウエブを作成しナイロン繊維ウエブ/ポリエステル繊維ウエブ/ナイロン繊維ウエブの積層構成をとり比率を質量比25/50/25となるように積層後、上下から表面に十分にポリエステルを島成分とする複合繊維を露出させるために針深度10mmでニードルパンチを行い三次元絡合不織布とし、125℃に加熱したローラーでプレスして見掛密度0.315g/cm、目付824g/mの不織布とした。この三次元絡合不織布にポリエーテル系ポリウレタン組成物12.5部、凝固調節剤0.5部、カーボンブラック1.0部、ジメチルホルムアミド86.0部の組成液を含浸、凝固、水洗し、次いでトルエン中でポリエチレンを溶解除去して、厚さ1.11mmの杢調繊維シートを得た。この杢調繊維シートを厚さの中間で2分割し、分割面をサンドペーパーでバフィングして厚さを0.5mmとした後、凝固時の表面をエメリーバフ機で処理して立毛面が形成された杢調繊維シートを得た。このシートを以下の条件にて染色、ソーピング、水洗、乾燥および整毛処理して厚さ0.5mm、目付224g/mの杢調繊維シートを得た。
染料:イルガラングレーGL(チバガイギー株式会社製)10%owf
均染剤:レベランNKD (丸菱油化株式会社製)1g/l
この杢調繊維シートは、ナイロン繊維とポリウレタンが黒色に染色され、ポリエステル繊維が白く残った杢調のコントラスト感の強いものであり、解繊むら、糸筋がなく、高級感のある杢外観の繊維シートであった。
【実施例2】
【0030】
ナイロン繊維ウエブ/ポリエステル繊維ウエブの比率を50/50の2層構造での積層方法に変更した以外、実施例1と同条件で杢調繊維シート用を作成した結果、杢調のコントラスト感の強いものであり、解繊むら、糸筋がなく高級感のある杢外観の繊維シートが作成できた。解繊むら、糸筋がなく、高級感のある杢外観の繊維シートであった。
【実施例3】
【0031】
杢調繊維シートを90℃、10分間湯通しし熱水になじませると同時にリラックスした後、以下の条件で染色を行なった後、還元、中和、水洗、乾燥および製毛処理の方法に変更した以外、実施例1と同条件で杢調繊維シート作製した。
染料:Pala nil ECO Turquoise 1.57%owf、 Teratop Pink 3G 1.42%owf、Sumikaron UL Yellow GF 2.00%owf、
均染剤:KP レベラー AUL(芳香族スルホン酸塩誘導体、日本化薬株式会社製)2.0g/l、
pH調整剤:ニューバッファーK(ミテジマ化学株式会社製)1.8g/l
金属イオン封鎖剤:ネオクリスタル250g/l
得られた杢調繊維シートは、ポリエステル繊維とポリウレタンが染色され、ナイロン繊維が黒く残った杢調のコントラストが強いものであり、解繊むら、糸筋がなく、高級感のある杢外観の繊維シートであった。
【0032】
比較例1
2種類の繊維を、ナイロン/ポリエステル=80/20の比率になるように混綿し、その綿をカードで開繊した後ランダムウエブ形成し、ニードルパンチを行い三次元絡合不織布の作成に変更した以外は実施例1と同条件で杢調繊維シート用を作成した結果、解繊むらが起こり、また糸筋が表面にあらわれ外観を損なう結果となった。
【0033】
比較例2
実施例1において、繊維(A)と繊維(B)のどちらもナイロンで作成したこと以外同条件で杢調繊維シート用を作成した結果、コントラストが得られず高級感をもつ杢調繊維シートにはならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の杢調繊維シートを用いて製造された製品は、前記の性能、性質を兼ね備えているので、本発明が主な目的としている衣料用素材はもとより、インテリア、靴、袋物、各種手袋などの用途において好適な素材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)を満足する繊維ウエブ(WA)と下記(2)を満足する繊維ウエブ(WB)とを積層して、少なくとも表面となる繊維ウエブ側の表面に、他方の繊維ウエブを主体として構成する繊維が露出するように絡合一体化させることを特徴とする杢調繊維シートの製造方法。
(1)繊維ウエブ(WA)を主体として構成する繊維が、繊維(A)、または該繊維(A)を発生させ得る複合繊維(PA)であること、
(2)繊維ウエブ(WB)を主体として構成する繊維が、構成成分が繊維(A)とは異なる繊維(B)、または該繊維(B)を発生させ得る複合繊維(PB)であり、かつ該繊維(B)が下記(a)および/もしくは(b)を満足する繊維であること、
(a)顔料着色されていること
(b)繊維(A)とは染色性が異なること
【請求項2】
繊維(A)および繊維(B)が、ポリアミド系繊維およびポリエステル系繊維から選ばれた互いに異なる繊維である請求項1に記載の杢調繊維シートの製造方法。
【請求項3】
複合繊維(PA)および複合繊維(PB)から繊維(A)および繊維(B)にそれぞれ変換する工程を含む請求項1または2に記載の杢調繊維シートの製造方法。
【請求項4】
繊維(A)および繊維(B)が0.5デシテックス以下の極細繊維である請求項1〜3いずれか1項に記載の杢調繊維シートの製造方法。
【請求項5】
繊維ウエブ(WA)および繊維ウエブ(WB)の質量比が20:80〜80:20である請求項1〜4いずれか1項に記載の杢調繊維シートの製造方法。
【請求項6】
繊維ウエブ(WA)および繊維ウエブ(WB)を絡合一体化させて三次元絡合不織布とした後で、高分子弾性体を溶液または分散液の状態で該三次元絡合体不織布の内部に付与し、凝固する工程を含む請求項1〜5いずれか1項に記載の杢調繊維シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の杢調繊維シートの製造方法により製造された杢調繊維シートの少なくとも表面を起毛して、繊維(A)および繊維(B)からなる立毛繊維が混在した立毛面を形成させる杢調繊維シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の製造方法により得られた杢調繊維シート。

【公開番号】特開2006−291406(P2006−291406A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115473(P2005−115473)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】