説明

杭の引抜方法

【課題】砂礫層を含むような軟弱な地盤であっても、ケーシングの挿入及び引抜作業を容易に行うことができる既存杭の引抜方法を提供する。
【解決手段】既存杭10の外周の地盤1を間隔を開けて柱体状に地盤改良することにより、改良地盤からなる地盤改良部20を形成し、地盤改良部20を通過するとともに、既存杭10が内部に収容されるように筒状のケーシング30を地盤に挿入し、地盤1に挿入したケーシング30を引き抜き、既存杭10を引き抜く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂礫層のような緩い地層を含む地盤における既存杭の引抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新築の建物の基礎を構築する際に、新たに構築する基礎杭と既存杭とが干渉する虞がある場合には、既存杭を撤去しなければならない。従来より、既存杭を撤去する方法として、既存杭の外周に円筒状のケーシングを地盤に挿入し、周囲の地盤と既存杭の周囲の地盤とを縁切りし、ケーシングとともに既存杭を引抜く方法が用いられている。
【0003】
このようなケーシングを用いた杭の撤去方法として、例えば、特許文献1には、内側管及び外側管からなる二重構造のケーシングを用い、内側管とともに既存杭を引抜く方法が記載されている。この方法によれば、外側管及び内側管によりケーシングの内外の地盤が縁切りされるため、容易に既存杭を引抜くことができる。
【特許文献1】特開2003―64680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、N値が20〜30程度の砂礫層では、上記のように既存杭の周囲にケーシングを挿入すると、ケーシングの周囲の砂礫に締まりが生じてケーシングと地盤との摩擦が大きくなり、ケーシングの挿入及び引抜が非常に困難になるという問題がある。また、特許文献1記載の方法を用いた場合であっても、同様に砂礫に締まりが生じるため、内側管の引抜は容易に行えるものの、ケーシングの挿入及び外側管の引抜が非常に困難になってしまう。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、砂礫層を含むような軟弱な地盤であっても、ケーシングの挿入及び引抜作業を容易に行うことができる既存杭の引抜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の既存杭の引抜方法は、地盤に埋設された既存杭の引抜方法であって、前記既存杭の周囲の地盤の少なくとも一部に地盤改良部を形成する地盤改良ステップと、筒状のケーシングを、前記地盤改良部を通過し、かつ、内部に前記既存杭が収容されるように地盤に挿入するケーシング挿入ステップと、前記地盤に挿入したケーシングを引き抜くケーシング引抜ステップと、前記既存杭を引き抜く杭引抜ステップと、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記の方法において、前記地盤改良ステップでは、柱体状の地盤改良部を前記既存杭の周囲を取り囲むように、互いに間隔をあけて形成してもよいし、上下方向に延びる環状の地盤改良部を前記既存杭の周囲を取り囲むように形成してもよい。
また、前記地盤は砂礫層を含み、前記地盤改良ステップでは、少なくとも前記地盤の前記砂礫層に相当する部分に前記地盤改良部を形成してもよい。
【0008】
また、前記地盤改良ステップでは、前記地盤の少なくとも一部を掘削し、前記掘削した掘削土にセメントミルクを混合攪拌する、又は、前記掘削した地盤と流動化処理土と置き換えることにより、前記地盤改良部を形成してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、既存杭の周囲の地盤の地盤改良した部分を通過するようにケーシングを挿入することとしたため、ケーシングの挿入又は引抜の際に、地盤改良した部分では砂礫地盤が締め固まることを防止できるため、ケーシングの挿入又は引抜作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の既存杭の引抜方法の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の既存杭の引抜方法による引抜の対象となる地盤1に埋設された既存杭10を示し、(A)は鉛直断面図、(B)は(A)におけるB−B断面図である。同図に示すように、本実施形態の既存杭10は、中間部に節部11を備えた節杭であり、場所打ちコンクリート杭である。既存杭10が構築された地盤1は、N値が20〜30程度の砂礫層(砂層や礫層を含む)を含む地盤であり、このような地盤ではケーシング等を挿入すると、砂礫が時間ととともに締まるため、地盤とケーシングとの間の摩擦力が非常に大きくなる。
【0011】
以下、このような地盤1における既存杭10の引抜方法を説明する。図2〜図8は、既存杭の引抜方法を説明するための図であり、各図において(A)は鉛直断面図、(B)はAにおけるB−B断面図である。
まず、図2に示すように、地盤1の既存杭10にオーガーにより複数の円柱状の孔21を掘削する。そして、孔21内にセメントミルクを注入し、掘削土とセメントミルクとを混合撹拌することにより地盤を改良し、円柱状の地盤改良部20を形成する。この際、地盤に注入するセメントミルクの量は地盤改良部20の強度が1〜3kg/cm程度となるように調整する。なお、地盤改良部20は、後述する地盤1にケーシングを挿入する工程において、ケーシングが通過するような位置に、その下端が既存杭10の下端と略等しい高さとなるように形成する。
【0012】
次に、図3に示すように、上記構築した地盤改良部20を通過し、既存杭10を取り囲むように、下端が既存杭10の下端よりも深い位置まで到達するまで地盤1に挿入する。ケーシング30は下方の縁に掘削ビットが取り付けられており、回転させながら下方に向かって荷重を加えることにより、地盤1に挿入することができる。なお、既存杭10が長尺の場合にはケーシング30は適宜継ぎ足しながら地盤1に挿入すればよい。
【0013】
この際、地盤改良部20を通過するようにケーシング30を挿入することで、地盤改良部20において砂礫層が締め固まることがないため、ケーシング30と周囲の地盤1との摩擦が大きくなるのを抑えることができる。このため、砂礫層を含む地盤1であっても容易にケーシング30を挿入することができる。なお、ケーシング30としては、既存杭10の節部11よりも内径の大きなものを用い、既存杭10全体が内部に収容されるように地盤に挿入する。
【0014】
次に、図4に示すように、ケーシング30を引き上げる。この際、ケーシング30を挿入する場合と同様に、地盤改良部20の部分において砂礫層が締め固まることがないため、周囲の地盤1との摩擦を抑えることができ、容易にケーシング30を引抜くことができる。このようにして、ケーシング30により取り囲まれた既存杭10の近傍の地盤1Aと、その周囲の地盤1とが縁切りされることとなる。
【0015】
次に、図5に示すように、地上に杭抜専用多滑車車などの杭抜機100を設置し、杭抜機100により既存杭10を引き抜く。この際、ケーシング30により周囲の地盤1と縁切りされた既存杭の近傍の地盤1Aの一部も既存杭10とともに地上へ引き上げられることとなる。なお、既存杭10を引き抜く際、既存杭10の全長が長い場合には、適宜、図6に示すように、既存杭10を切断用の重機110により切断するとよい。このようにして、図7に示すように、既存杭10の全体を地上まで引き抜く。
【0016】
次に、図8に示すように、既存杭を撤去することで生じた孔2内に適宜、土砂40を埋め戻す。
以上の工程により、地盤1から既存杭10を撤去することができる。
【0017】
本実施形態によれば、ケーシング30を挿入する前に、ケーシング30が挿入される位置の地盤1を改良して地盤改良部20を形成おくため、ケーシング30に挿入又は引抜の際に、この部分において砂礫層が締まることを防止でき、地盤1とケーシング30との摩擦を抑えることができる。このため、容易にケーシング30の挿入及び引抜作業を行うことができる。
【0018】
なお、本実施形態では、節部11を備えた円形の節杭を引き抜く場合について説明したが、これに限らず、通常の(すなわち、節部を備えていない)丸杭や、矩形状の壁杭、拡底部を備えた杭などを引き抜く場合にも適用することができる。
【0019】
また、本実施形態では、オーガーにより地盤を掘削し、掘削した孔内にセメントミルクを注入することにより地盤を改良し、地盤改良部20を形成することとしたが、これに限らず、アースドリルにより地盤を掘削し、掘削した地盤内の掘削土を、セメント、セメントベントナイトなどを混合した流動化処理土により置き換えることとしてもよい。
【0020】
また、本実施形態では、図2(B)に示すように、既存杭10の外周に間隔をあけて6箇所、地盤改良を行い地盤改良部20を形成したが、既存杭10の周囲に間隔をあけずに連続的に環状に地盤改良部20を形成してもよいし、地盤改良部20を7箇所以上又は5箇所以下、形成するものとしてもよい。
【0021】
また、本実施形態では、地表から既存杭10の下端より深い位置まで、深さ方向全長に亘って、地盤改良を行うものとしたが、これに限らず、既存杭10の周囲の地盤の砂礫層に当たる高さ範囲のみを地盤改良するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の既存杭の引抜方法による引抜の対象となる地盤に埋設された既存杭を示し、(A)は鉛直断面図、(B)は(A)におけるB−B断面図である。
【図2】既存杭の引抜方法を説明するための図(その1)であり、(A)は鉛直断面図、(B)はAにおけるB−B断面図である。
【図3】既存杭の引抜方法を説明するための図(その2)であり、(A)は鉛直断面図、(B)はAにおけるB−B断面図である。
【図4】既存杭の引抜方法を説明するための図(その3)であり、(A)は鉛直断面図、(B)はAにおけるB−B断面図である。
【図5】既存杭の引抜方法を説明するための図(その4)であり、(A)は鉛直断面図、(B)はAにおけるB−B断面図である。
【図6】既存杭の引抜方法を説明するための図(その5)であり、(A)は鉛直断面図、(B)はAにおけるB−B断面図である。
【図7】既存杭の引抜方法を説明するための図(その6)であり、(A)は鉛直断面図、(B)はAにおけるB−B断面図である。
【図8】既存杭の引抜方法を説明するための図(その7)であり、(A)は鉛直断面図、(B)はAにおけるB−B断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 地盤
10 既存杭
11 節部
20 地盤改良部
21 孔
30 ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に埋設された既存杭の引抜方法であって、
前記既存杭の周囲の地盤の少なくとも一部に地盤改良部を形成する地盤改良ステップと、
筒状のケーシングを、前記地盤改良部を通過し、かつ、内部に前記既存杭が収容されるように地盤に挿入するケーシング挿入ステップと、
前記地盤に挿入したケーシングを引き抜くケーシング引抜ステップと、
前記既存杭を引き抜く杭引抜ステップと、を備えることを特徴とする既存杭の引抜方法。
【請求項2】
請求項1記載の既存杭の引抜方法であって、
前記地盤改良ステップでは、
柱体状の地盤改良部を前記既存杭の周囲を取り囲むように、互いに間隔をあけて形成することを特徴とする既存杭の引抜方法。
【請求項3】
請求項1記載の既存杭の引抜方法であって、
前記地盤改良ステップでは、
上下方向に延びる環状の地盤改良部を前記既存杭の周囲を取り囲むように形成することを特徴とする既存杭の引抜方法。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか1項に記載の既存杭の引抜方法であって、
前記地盤は砂礫層を含み、
前記地盤改良ステップでは、
少なくとも前記地盤の前記砂礫層に相当する部分に前記地盤改良部を形成することを特徴とする既存杭の引抜方法。
【請求項5】
請求項1から4のうち何れか1項に記載の既存杭の引抜方法であって、
前記地盤改良ステップでは、
前記地盤の少なくとも一部を掘削し、
前記掘削した掘削土にセメントミルクを混合攪拌する、又は、前記掘削した地盤と流動化処理土と置き換えることにより、前記地盤改良部を形成することを特徴とする既存杭の引抜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−65501(P2010−65501A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235070(P2008−235070)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】