説明

杭の性能評価装置

【課題】 載荷試験がおこなわれなかった杭の性能を的確に評価できる杭の性能評価装置を提供する。
【解決手段】 複数の地点においておこなわれた地盤調査結果107から杭打設地点の予測N値を算出する予測N値算出手段101と、予測N値とそれに対応する杭1の施工中に得られた施工データ108との関係式を作成する関係式作成手段102と、その関係式に杭の施工データを入力して杭打設地点の評価N値を算出する評価N値算出手段103と、評価N値を算出した複数の杭に対して載荷試験をおこなって実測支持力を求め、複数の評価N値と実測支持力とから支持力算定式を作成する支持力算定式作成手段104と、その支持力算定式に載荷試験をおこなっていない杭の評価N値を入力して算定支持力を算出する支持力算定手段105と、その算定支持力に基づく杭の性能評価結果を表示する出力部106とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設された杭の沈下剛性や支持力を調査してその結果を表示する杭の性能評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図17に示すような装置を使用した杭1の急速載荷試験が知られている(特許文献1など参照)。
【0003】
この急速載荷試験は、静的載荷試験と動的載荷試験の欠点を解消するために考案された杭1の試験方法で、この方法によれば載荷時間を動的載荷試験の約10倍に当たる50〜200ms程度にすることで弾性波動の伝播による影響をなくし、静的載荷試験に近い信頼性の高い試験結果を得ることができる。
【0004】
急速載荷試験では、杭頭1aに荷重計4を介してゴムなどの緩衝材2を載置し、その上に重錘3を自由落下させて杭1を打撃する。このように緩衝材2を重錘3と杭頭1aの間に介在させることによって、載荷時間を長くすることができる。
【0005】
ここで、重錘3を落下させた際に杭頭1aに作用する荷重の大きさは、荷重計4のひずみゲージ(図示せず)から出力された出力値が、ひずみアンプ5を通ってパソコンに送られることによって作用荷重として表示される。
【0006】
また、杭頭1aの変位は、光学式変位計7で杭1の外周面に取り付けられた変位計ターゲット7aの変位を計測することによって知ることができる。
【0007】
このようにして得られた作用荷重と変位のデータを整理して杭の沈下剛性や支持力などが算定される。
【特許文献1】特開2002−303570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記した急速載荷試験などの載荷試験は、一般的に施工した杭のすべてに対して行なわれるものではない。
【0009】
一方、近年、杭の信頼性を高め、合理的な設計をおこなうために、できるだけ多くの杭1の支持力を確認することが求められるようになってきており、簡単かつ低コストで実施できる杭の支持力などの性能評価確認手段の開発が望まれるようになってきた。
【0010】
さらに、杭1の施工中に各深度における地盤の強度(換言するとその地点の杭の支持力)を測定して信頼性のおける杭1を構築することが望まれている。
【0011】
そこで、本発明は、載荷試験がおこなわれなかった杭の性能を的確に評価できる杭の性能評価装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、複数の地点においておこなわれた地盤調査結果から杭打設地点の予測N値を算出する予測N値算出手段と、前記予測N値を算出した複数の杭に対して載荷試験をおこなって実測支持力を求め、複数の前記予測N値と前記実測支持力とから支持力算定式を作成する支持力算定式作成手段と、前記支持力算定式に載荷試験をおこなっていない杭の前記予測N値を入力して算定支持力を算出する支持力算定手段と、前記算定支持力に基づく杭の性能評価結果を表示する出力部とを備えている杭の性能評価装置であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、複数の地点においておこなわれた地盤調査結果から杭打設地点の予測N値を算出する予測N値算出手段と、前記予測N値とそれに対応する前記杭の施工中に得られた施工データとの関係式を作成する関係式作成手段と、前記関係式に杭の施工データを入力して杭打設地点の評価N値を算出する評価N値算出手段と、前記評価N値を算出した複数の杭に対して載荷試験をおこなって実測支持力を求め、複数の前記評価N値と前記実測支持力とから支持力算定式を作成する支持力算定式作成手段と、前記支持力算定式に載荷試験をおこなっていない杭の前記評価N値を入力して算定支持力を算出する支持力算定手段と、前記算定支持力に基づく杭の性能評価結果を表示する出力部とを備えている杭の性能評価装置であることを特徴とする。
【0014】
ここで、前記それぞれの杭において、前記予測N値及び前記算定支持力は深度方向に複数の値を有しているのが好ましい。
【0015】
また、上記発明において、前記関係式に施工中の杭の施工データを入力し、前記性能評価結果を杭の施工中に表示させることもできる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明は、複数の地点の地盤調査結果を利用して杭打設地点の予測N値を算出し、その予測N値と載荷試験の結果を関係付けて支持力算定式を作成し、そこから算出した算定支持力に基づく杭の性能評価結果を出力部に出力する。
【0017】
このため、載荷試験をおこなわなかった杭についても、その性能を的確に評価することができる。
【0018】
また、前記予測N値と杭の施工中に得られた施工データを関係付けて関係式を作成し、その関係式に杭の施工データを入力することによって評価N値を算出し、その評価N値と載荷試験の結果を関係付けて支持力算定式を作成し、そこから算出した算定支持力に基づく杭の性能評価結果を出力部に出力する。
【0019】
このため、予測N値を施工データによって補正してより正確に杭の支持力を算定できるので、載荷試験をおこなわなかった杭についてもその性能を的確に評価することができる。
【0020】
さらに、それぞれの杭において、前記予測N値及び前記算定支持力に深度方向に複数の値を持たせることで、3次元的に杭の性能を評価できる。
【0021】
また、予め前記関係式を作成しておき、杭の施工中に得られる施工データをリアルタイムで前記性能評価装置に入力することで、瞬時に施工中の杭の打設地点の性能評価結果を表示させることができる。
【0022】
このため、杭の施工管理が容易になり、設計深度まで杭を構築しても設計時に想定した支持力が得られていないと確認された場合は杭長を延長したり、充分に支持力が得られたことが確認できた場合は杭を短縮したりするなど、合理的に杭の施工をおこなうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態による杭1の性能評価装置100の構成を示した図である。
【0025】
まず、構成から説明すると、本実施の形態による杭1の性能評価装置100は、複数の地点においておこなわれた地盤調査結果107から杭打設地点の予測N値を算出する予測N値算出手段101と、その予測N値とそれに対応する杭1の施工中に得られた施工データ108との関係式を作成する関係式作成手段102と、その関係式に杭1の施工データ108を入力して杭打設地点の評価N値を算出する評価N値算出手段103と、その評価N値を算出した複数の杭1に対して載荷試験をおこなって実測支持力(載荷試験結果109)を求め、複数の前記評価N値と前記実測支持力とから支持力算定式を作成する支持力算定式作成手段104と、その支持力算定式に載荷試験をおこなっていない杭1の評価N値を入力して算定支持力を算出する支持力算定手段105と、その算定支持力に基づく杭1の性能評価結果を表示する出力部106とを備えている。
【0026】
杭1の打設をおこなう施工現場では、その場所の地盤状態を知るために地盤調査がおこなわれる。ここで使用される地盤調査結果107は、標準貫入試験(以下、SPTという。)、スウェーデン式サウンディング試験(以下、SWSという。)などの試験を原位置地盤に対しておこなうことによって得られるN値などである。この地盤調査によって得られるN値は、単位深度毎に複数測定される。
【0027】
しかし、これらの地盤調査結果107は、必ずしも杭1を打設する杭打設地点において行われるものではなく、その上、杭1の打設数に比べて一般的に少ない数の調査しかおこなわれない。
【0028】
そこで、杭1の施工前におこなわれる地盤調査結果107を有効に利用して、杭打設地点の地盤状態を予測N値算出手段101によって予測することとする。
【0029】
この予測N値算出手段101では、図2に示すように複数のボーリング地点B1〜B4の地盤調査結果107を利用して、精度よく杭打設地点の地盤状態を予測する。
【0030】
この図2に示すように、ボーリング地点B1〜B4と杭1の距離をr1〜r4で表すと、例えば次の重み付け累加平均式で杭1の打設地点の予測N値を推定することができる。
【0031】
=(ΣNi/ri)/(Σ1/ri)=(N1/r1+N2/r2+N3/r3+N4/r4)/(1/r1+1/r2+1/r3+1/r4)・・・・・(式1)
ここで、N1〜N4は各ボーリング地点B1〜B4で実測されたN値を示し、Nは予測N値を示す。また、各ボーリング地点B1〜B4においてN値は、単位深度毎に測定されるので、N1〜N4の中には複数のN値のデータが含まれており、予測N値Nもその深度に対応した値として算出する。
【0032】
一方、杭1の施工中には、施工データとしてトルク、圧入力、回転数、貫入速度、打撃回数などのデータが得られる。
【0033】
これらの施工データの中でもトルク、圧入力及び回転数のデータは、地盤の性質に最も依存していると考えられ、特にトルクとN値の関係に相関性があることが確認できた。
【0034】
そこで、関係式作成手段102において、予測N値Nが杭打設地点のN値であると仮定して施工データと回帰分析をおこなって関係式を作成する。
【0035】
例えば、トルクTをパラメータとした次の関係式によって回帰分析をおこなって未知数である定数a,bを求める。
【0036】
=a・T ・・・・・(式2)
そして、評価N値算出手段103において、施工データであるトルクTを(式2)に入力して算出されるのが評価N値Nとなる。この評価N値Nは、地盤調査結果107に基づいて推定した杭打設地点の予測N値Nの値を、施工データに基づいて補正した値であるといえる。
【0037】
次に、支持力算定式作成手段104において支持力算定式を作成し、評価N値Nから杭の支持力を算出する構成について説明する。
【0038】
杭の支持力Puは、例えば次の支持力算定式によって算出することができる。
【0039】
Pu=(α・Ap)・Np+(β・φ)ΣN・L ・・・・・(式3)
ここで、αは杭先端の支持力係数、βは杭周の周面摩擦力係数、Apは杭先端の有効断面積、φは杭の周長、Lはh区間の杭の長さ、Npは杭先端のN値、Nはh区間の杭周のN値を示す。
【0040】
ここで、杭の支持力Puと、2つの定数α、βが未知数になるので、後述する急速載荷試験などの載荷試験の結果として求められた杭の実測支持力を(式3)に代入して残りの未知数α、βの値を求める。
【0041】
すなわち、評価N値Nを算出した複数の杭1の中から少なくとも2本の杭1に対して載荷試験をおこない、その載荷試験結果109としての実測支持力をPuとし、杭先端及び杭周のN値(Np、N)に対応する評価N値Nをそれぞれ(式3)に入力して2つの未知数α、βを求める。
【0042】
支持力算定手段105では、このようにして作成された支持力算定式(式3)を使って評価N値Nから杭1の算定支持力を算出する。
【0043】
このようにして算定される杭1の算定支持力は、杭1毎の性能評価として出力することもできるが、図3に示すように、それぞれの杭1を施工する際に、例えば20〜50cm程度、杭1を打ち込む毎にその深度(Z方向)での杭1の支持力Pu(z)を評価N値Nに基づいて算出し、その支持力を判定した結果を0〜10のランクに分類して出力させることができる。
【0044】
さらに、各深度でのランクを数値で表示すると共に、そのランクに合わせた着色をおこなって、支持力が高い深度が一目で判別できるような表示とすることができる。
【0045】
このような杭の性能評価結果は、載荷試験を行った杭1及びそれ以外の施工データが得られる杭1に対して得ることができ、図3に示すように三次元的に地盤の強度(杭1の支持力)を把握することができるようになる。
【0046】
すなわち、従来は載荷試験をおこなった1〜2本の杭1に関する支持力が離散的に得られるだけであったが、本発明のように載荷試験をおこなわなかった杭1についても、施工時に容易に得られる施工データを基にして支持力が算出できれば、可視化された3次元的な地盤及び杭1の支持力による評価が可能になる。
【0047】
次に、杭1の支持力を算定する載荷試験の一つとして急速載荷試験について説明する。
【0048】
図4は、急速載荷試験の概略構成を示した図である。
【0049】
まず、構成から説明すると、沈下剛性や支持力の調査対象となる杭1の杭頭1aに荷重計としての測定器10が載置され、その上に緩衝材2が載置される。
【0050】
この緩衝材2には、ゴム材料、ウレタンエラストマー等の高分子材料、鋼鉄製コイルバネ、皿バネ、ショックアブソーバなどが使用される。
【0051】
そして、この緩衝材2の上から重錘3を自由落下させると、緩衝材2が打撃されると共に測定器10を通って杭頭1aに荷重が伝達される。なお、油圧ハンマなどで重錘3を降下させて緩衝材2を打撃してもよい。
【0052】
この杭頭1aに伝達される荷重を計測するのが測定器10である。この測定器10は、図5,6に示すように、円筒管としての内筒10bと、その外側に配置される外筒10cとによって主に構成されている。
【0053】
この内筒10bは、緩衝材2と杭頭1a間で力を伝達させる部材であって、鋼材などの高強度の材料で形成される。
【0054】
この内筒10bの外周面にはひずみゲージ10aが取り付けられており、内筒10bが作用荷重によって歪むと、このひずみゲージ10aがその歪みを出力値として出力するため作用する荷重を知ることができる。
【0055】
また、外筒10cは、ひずみゲージ10aを保護するように内筒10bの外側に配置されるもので、この外筒10cには重錘3の打撃力は作用しない。
【0056】
なお、荷重計として油圧式のロードセルなどを使用することもできる。
【0057】
さらに、この内筒10bの外周面には、ひずみゲージ10aと同様に加速度計11が取り付けられる。
【0058】
この加速度計11には、例えば感度が10mV/g、測定範囲が0.003〜500g、周波数範囲が0.7〜11Hzの圧電式加速計が使用できる。
【0059】
そして、測定器10には、図5に示すように荷重出力用ケーブル14aと加速度出力用ケーブル14bの2本のケーブル14が接続される。このように作用荷重の検出をおこなうひずみゲージ10aと同じ箇所に加速度計11を取り付けることによって、試験現場に配線が錯綜することを防ぐことができる。
【0060】
このケーブル14によって伝送される出力値は、動ひずみアンプ12によって増幅されて処理部としてのパソコン13に送られる(図4参照)。
【0061】
このパソコン13には、ひずみゲージ10aと加速度計11から出力されて動ひずみアンプ12によって増幅された出力値が、ADコンバータによってデジタル変換されて入力される。
【0062】
そして、この入力されたひずみゲージ10aの出力値から作用荷重を算出し、加速度計11の出力値から変位を算出する。
【0063】
加速度計11の出力値から変位を算出するには、例えば線形加速度法(大崎順吾、”新・地震動のスペクトル解析入門”、鹿島出版会を参照)によって出力値を時系列で2回積分すればよい。
【0064】
この線形加速度法によって算出された時間と変位の関係を図7(a)に示す。この「線形加速度法」によって算出された変位と、従来の光学式変位計7によって測定した「実測値」を比較すると、最大変位が発生した後に両者は乖離していくことがわかる。
【0065】
一方、大崎の方法(大崎順吾、”新・地震動のスペクトル解析入門”、鹿島出版会を参照)によって出力値を修正した変位を示すことができるので、図7(a)に「大崎修正法」として示した。
【0066】
この「大崎修正法」による変位は、「実測値」の変位の形状に良く似てはいるが、全体的にずれが生じている。
【0067】
そこで、光学式変位計7による「実測値」が得られない本実施の形態の杭の測定装置における変位の算出方法を、図7(b)を参照しながら以下に説明する。
【0068】
まず、加速度計11の出力値から算出された「線形加速度法」の変位が「0」の点を重錘3による載荷がなされる直前の起点(t1)とする。そして、「大崎修正法」の起点(t1)の変位を、図7(b)の「0点補正」に示すように0点に一致させると共に、次に変位が0となる点を終点(t2)とする。
【0069】
一方、載荷後の杭頭1aの残留変位を水準測量などによって測定しておく。そして、「0点補正」の最終計測点(t3)をこの残留変位に一致させると、図7(b)の「0+残留補正値」に示すような補正された変位が求められる。
【0070】
このように加速度計11から出力された出力値から算出される変位を補正することによって、加速度計11から得られた出力値を実際の杭頭1aの変位に近づけることができる。
【0071】
すなわち、「実測値」と「0+残留補正値」を比較すると、杭頭1aの変位が反転する除荷点近傍のデータに良い一致がみられるため、このようにして補正した「0+残留補正値」を杭1の変位として使用する。
【0072】
次に、このようにして算出した杭1の変位(沈下量)と杭頭1aに作用する荷重の関係から支持力を算定するマッチング方法の一例について説明する。
【0073】
ここでは、バネ(k値)とダッシュポット(減衰定数C)を並列に並べたマッチングモデルと、図8(a)に示したような減衰モデルを用いたマッチング方法について説明する。
【0074】
この方法では、まず、バネのk値を少しずつ変化させて得られた計算変位と、上記で算定した「0+残留補正値」(杭1の変位)とを比較し、最小の誤差になる最適k値を算定する。
【0075】
また、静的抵抗成分P(t)の算出は、図8(a)に示す履歴曲線と最適k値との交点における変位δ(t)と最適k値とから、δ(t)に対応するP(t)を(式4)により算出する。
【0076】
P(t)=k・δ(t) ・・・・・(式4)
そして、(式5)によりマッチングポイントと最大速度Vmaxから得られる減衰定数Cを求め、このCと速度V(t)から、(式6)により速度補正したP’(t)を算出する。
【0077】
C=ΔP/Vmax ・・・・・(式5)
ここで、ΔP=Pmax−P(t)
P’(t)=P(t)−C×V(t) ・・・・・(式6)
このような荷重〜変位関係の推定は、図8(b)に示すように、始発点Aと最大速度Vmaxの位置B間は、(式5)、(式6)により荷重補正をおこない、最大速度Vmaxの位置BとマッチングポイントC間は直線補完する。
【0078】
以上で説明したマッチング方法を適用して、ある杭1に対して急速載荷試験をおこなった際に得られた測定器10と加速度計11の出力値を整理した結果を図9に示した。
【0079】
この図9の結果は、重錘3による杭頭1aの打撃を、落下高さを4回変えておこなった結果を整理したもので、各落下高さで算定されたマッチングポイントから杭頭荷重と杭頭変位の推定曲線(図9の実線)を算定した。
【0080】
杭1の支持力を算定する方法は、色々な方法が提案されているが、例えば図9の推定曲線(実線)から得られる極限荷重(約115kN)を杭1の支持力とすることができる。
【0081】
次に、本実施の形態の杭1の性能評価装置100の処理の流れを図10のフローチャートを参照しながら説明するとともに、その作用について説明する。
【0082】
まず、杭1を打設する予定の施工現場敷地の地盤に対し、複数(好ましくは4箇所以上)の地点においてSWS(スウェーデン式サウンディング試験)をおこなう(ステップS1)。
【0083】
そして、このSWSによって測定されたN値Niとボーリング地点Biと杭1の距離riを(式1)に入力して予測N値Nを算出する(ステップS2)。
【0084】
続いて、この予測N値Nを算出した杭打設地点において杭1の施工をおこなってトルクTなどの施工データを収集し、予測N値Nと施工データとの関係式(式2)を作成する(ステップS3)。
【0085】
そして、この関係式(式2)に施工データ(トルクT)を入力して評価N値Nを算出する(ステップS4)。
【0086】
また、この施工された杭1の2本以上に対して急速載荷試験をおこない(ステップS5)、その試験結果から実測支持力を算出する(ステップS6)。
【0087】
このようにして求められた実測支持力と評価N値Nとから支持力算定式(式3)を作成し(ステップS7)、この支持力算定式(式3)に評価N値Nを入力して算定支持力を算出する(ステップS8)。
【0088】
この算定支持力は、杭1の性能評価結果としてそのままの数値又はその算定支持力に基づいて判定された判定ランクなどとして出力させる(ステップS9)。
【0089】
このように構成された本実施の形態の杭1の性能評価装置100は、複数の地点の地盤調査結果107を利用して杭打設地点の予測N値Nを算出し、その予測N値Nと杭1の施工中に得られた施工データとを関係付けて関係式を作成する。
【0090】
そして、その関係式に杭1の施工データを入力することによって評価N値Nを算出し、その評価N値Nと載荷試験の結果を関係付けて支持力算定式を作成し、そこから算出した算定支持力に基づく杭の性能評価結果を出力部106に出力する。
【0091】
このため、載荷試験をおこなわなかった杭1についても、その性能を的確に評価することができる。
【0092】
また、それぞれの杭1,・・・において、前記予測N値、前記評価N値及び前記算定支持力に深度方向に複数の値を持たせることで、3次元的に杭の性能を評価できる。
【0093】
また、予め前記関係式を作成しておき、杭1の施工中に得られる施工データをリアルタイムで性能評価装置100に入力することで、瞬時に施工中の杭1の打設地点の性能評価結果を表示させることができる。
【0094】
すなわち、施工データから導かれる測定結果をリアルタイムで三次元的に可視化できるので、周辺に打設した他の杭との関係やばらつきの変化を容易に把握することができる。
【0095】
また、同じ現場で多くの杭1,・・・に対して載荷試験を行う場合は、厳密に変位と作用荷重の関係が測定されなくとも、施工データによって相対的に杭1の支持力特性を確認することができるので、施工管理としての性能評価に使用する場合に有用である。
【0096】
このため、杭1の施工管理が容易になり、設計深度まで杭を構築しても設計時に想定した支持力が得られていないと確認された場合は杭長を延長したり、充分に支持力が得られたことが確認できた場合は杭を短縮したりするなど、合理的に杭の施工をおこなうことができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例では、前記実施の形態の杭1の性能評価装置100の構成によって杭1の性能を的確に評価できることを確認した検討結果について説明する。
【0098】
この検討をおこなうにあたって、図11に示すように格子状に3m間隔で30本の杭を打設した。また、この敷地内の5箇所においてSPTとSWSの地盤調査をそれぞれおこなった。
【0099】
図12は、これらの地盤調査結果107の一つを他の地盤調査結果107から予測した場合に、予測に使用したボーリング地点の点数と標準偏差との関係を示した図である。
【0100】
この図12によれば、SPTとSWSの両方において予測に使用する地盤調査結果107が多くなるほど標準偏差が小さくなり、予測のばらつきが減少することがわかる。
【0101】
なお、以下の説明はSWSによる地盤調査結果107に基づいておこなうが、SPTによる地盤調査結果107を使用した場合も同様な結果が確認できている。
【0102】
図13は、4点のボーリング地点の地盤調査結果107を(式1)に代入して残りの1点のボーリング地点のN値を予測した予測N値と、実際にSWSによって測定されたN値との関係を示した図である。
【0103】
このように4箇所以上の地盤調査結果107を使用して杭打設地点の予測N値を求めるようにすれば、良好に杭打設地点のN値を算出することができる。
【0104】
そして、このようにして算定された杭打設地点の予測N値と杭1の施工中に得られた施工データのうちのトルクとの関係を示した図を図14に示す。
【0105】
この図14に示すように、SWSの結果から算出した予測N値とトルクとの間には相関関係があるものといえる。
【0106】
また、図15には、急速載荷試験をおこなった杭1に対して、その試験結果として求められた実測支持力Puと予測N値を支持力算定式(式3)に入れて求めた支持力Puとの関係を示した。
【0107】
ここで、この実施例で打設された杭には、杭の先端が閉塞された先端閉塞杭(タイプ1)と、先端が開放された先端開放杭(タイプ2)の二種類があり、図15及び次に示す図16はタイプ1の結果を示したものである。
【0108】
この図16には、急速載荷試験結果として求められた実測支持力Puと、トルクを関係式(式2)に代入して算出した評価N値を支持力算定式(式3)に入れて求めた支持力Puとの関係を示した。
【0109】
この図15と図16とを比較すると、実測値と予測値にいずれも良好な相関関係が認められるが、評価N値に基づいて算定された支持力(図16)の方が予測N値に基づいて算定された支持力(図15)よりも標準偏差σ及び変動係数cvが小さく、ばらつきが少ないといえる。なお、μは平均値を示す。
【0110】
また、タイプ2についても同様の結果が確認できた。
【0111】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0112】
例えば、本実施の形態では、予測N値と施工データとから評価N値を算出して算定支持力を算出したが、これに限定されるものではなく、評価N値を求めることなく予測N値から直接、算定支持力を求めて杭の性能評価をおこなってもよい。その場合は、予測N値を支持力算定式(式3)に代入して定数α、βを求める。
【0113】
また、前記実施の形態では、載荷試験として重錘を落下させる急速載荷試験をおこなったが、これに限定されるものではなく、静的載荷試験、動的載荷試験、スタナミック試験と呼ばれるジェット燃料を燃焼させて打ち上げられた反力マスによって杭頭1aに外力を作用させる載荷試験などいずれの載荷試験結果を利用してもよい。
【0114】
また、前記実施の形態で示した予測N値を推定する重み付け累加平均式(式1)、関係式(式2)、支持力算定式(式3)などはこれらに限定されるものではなく、例えば重み付け累加平均式は距離riを2乗する式を適用することもできる。
【0115】
さらに、前記実施の形態では、図3に示すように杭の性能評価結果を3次元位置で表示させたが、これに限定されるものではなく、例えば深度(Z方向)の位置は座標データ通りに表示し、X,Y方向の位置は座標データに従わずに横に並べて表示させるようにして全体として2次元的な表示となってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の最良の実施の形態の杭の性能評価装置の概略構成を説明する説明図である。
【図2】複数のボーリング調査結果から杭の打設地点の地盤状態を予測する方法を説明するための説明図である。
【図3】杭の性能評価結果を3次元位置で表示させた表示部の表示例を示した図である。
【図4】杭の急速載荷試験の概略構成を説明する説明図である。
【図5】測定器と動ひずみアンプの接続状態を説明する説明図である。
【図6】図5のA−A線方向の矢視図である。
【図7】(a)は加速度計の出力値と実測値とを比較した変位と経過時間の関係図、(b)は加速度計の出力値の補正方法を説明する説明図である。
【図8】(a)は杭の支持力算定に際して静的成分を算出する方法を説明する説明図、(b)はマッチング方法による荷重〜変位関係の推定を説明する説明図である。
【図9】支持力を算定するための杭頭荷重〜杭頭変位の関係図である。
【図10】杭の性能評価装置の処理の流れを説明するフローチャートである。
【図11】杭の性能評価装置の効果を確認するために打設した杭の打設位置及び地盤調査位置を示した平面図である。
【図12】予測N値を算出するのに使用するボーリング地点の点数と標準偏差との関係を示した図である。
【図13】地盤調査によって測定されたN値とその地点の予測N値との関係を示した図である。
【図14】施工データとしてのトルクと予測N値との関係を示した図である。
【図15】急速載荷試験から求められた杭の支持力と予測N値から算出した杭の支持力との関係を示した図である。
【図16】急速載荷試験から求められた杭の支持力と評価N値から算出した杭の支持力との関係を示した図である。
【図17】従来例の杭の測定装置の概略構成を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0117】
100 性能評価装置
101 予測N値算出手段
102 関係式作成手段
103 評価N値算出手段
104 支持力算定式作成手段
105 支持力算定手段
106 出力部
107 地盤調査結果
108 施工データ
109 載荷試験結果(実測支持力)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の地点においておこなわれた地盤調査結果から杭打設地点の予測N値を算出する予測N値算出手段と、
前記予測N値を算出した複数の杭に対して載荷試験をおこなって実測支持力を求め、複数の前記予測N値と前記実測支持力とから支持力算定式を作成する支持力算定式作成手段と、
前記支持力算定式に載荷試験をおこなっていない杭の前記予測N値を入力して算定支持力を算出する支持力算定手段と、
前記算定支持力に基づく杭の性能評価結果を表示する出力部とを備えていることを特徴とする杭の性能評価装置。
【請求項2】
複数の地点においておこなわれた地盤調査結果から杭打設地点の予測N値を算出する予測N値算出手段と、
前記予測N値とそれに対応する前記杭の施工中に得られた施工データとの関係式を作成する関係式作成手段と、
前記関係式に杭の施工データを入力して杭打設地点の評価N値を算出する評価N値算出手段と、
前記評価N値を算出した複数の杭に対して載荷試験をおこなって実測支持力を求め、複数の前記評価N値と前記実測支持力とから支持力算定式を作成する支持力算定式作成手段と、
前記支持力算定式に載荷試験をおこなっていない杭の前記評価N値を入力して算定支持力を算出する支持力算定手段と、
前記算定支持力に基づく杭の性能評価結果を表示する出力部とを備えていることを特徴とする杭の性能評価装置。
【請求項3】
前記それぞれの杭において、前記予測N値及び前記算定支持力は深度方向に複数の値を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の杭の性能評価装置。
【請求項4】
前記それぞれの杭において、前記予測N値及び前記算定支持力は深度方向に複数の値を有するとともに、前記関係式に施工中の杭の施工データを入力し、前記性能評価結果を杭の施工中に表示させることを特徴とする請求項2に記載の杭の性能評価装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−139454(P2007−139454A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330350(P2005−330350)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(595067442)システム計測株式会社 (27)
【Fターム(参考)】