説明

杭打ち工法

【課題】 杭打ち装置をホーム上に常置する必要なく、ホーム上から杭を打つことができ、しかも排出土や泥水の排出場所を考慮する必要がなく、杭を打つことができ、作業の迅速化ができて工期の短縮を図ることができる杭打ち工法を提供すること。
【解決手段】 車両本体7に昇降可能、かつ水平方向に伸縮可能な杭打ち装置8が搭載され、線路上を走行可能な作業車両6を用いる一方、中空円筒状で所定長さの鋼管杭25を複数本用意し、前記鋼管杭の何本かは掘削用の先端翼30を有する先行杭25aであり、この先行杭を前記杭打ち装置で縦向きに把持してホーム1の所定位置から地盤に向けて回転させながら圧入するとともに、先行杭の後端部に後行杭の前端部を接続した後にさらに後行杭を回転させながら圧入し、この後行杭の接続と回転圧入を必要数繰り返して、鋼管杭を所要深さまで圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の線路やホームの上に橋上駅などの建築物を構築する際に、該建築物の基礎杭を打つ杭打ち工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば既存の線路やホームの上に新しく橋上駅を構築する際に基礎杭を打つ工法として、リバース杭工法(TBH工法)が知られている。このTBH工法は、桁式ホーム上に重量物である杭打ち装置を運搬機械を用いて運び込み、設置した所定位置から地盤を掘削しながらコンクリート杭を打つものである。
【0003】
ところで、このTBH工法によって杭を打つには、基本的に列車の運行がないこと、乗降客が少ないこと、ホーム上の人が歩く通路の幅員を確保することができること、等が必要であるから作業時間に制約があり、深夜作業となることが多い(平均作業時間約3時間)。したがって、工期が長くなるため効率が悪く、コストも高く、品質管理も難しく、昼間に比べ安全面も危険度が高くなる、といった悪状況が重なる。
【0004】
しかも、杭の施工環境として、施工箇所が線路に囲まれていること、既設建物があること、既存のESC、EV等の昇降設備があること、ホーム上家、電気等諸設備があること、既設ホーム幅が約6m前後であること、列車運行設備(レール、信号、通信設備)が活きていること、列車運行、旅客サービスに支障を与えない(ホーム上家を解体する必要があるときは、雨よけの仮屋根を作る等々)こと、等が挙げられ、これらは変えることのできない条件となっている。
【0005】
前記の状況や条件にも増して、前記TBH工法は、重量物である杭打ち装置をホーム上に運搬機械を用いて運び込んで常置しなければならず、その作業が煩雑であるとともに、そのためのスペースを確保する必要があるという問題があった。また、コンクリート杭を掘削しながら打設するため、掘削の際に発生する土や泥水を排出しなければならず、その排出場所も確保しなければならない、等々の問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこでこの発明は、前記従来の技術の問題点を解決し、杭打ち装置をホーム上に常置する必要なく、ホーム上から杭を打つことができ、しかも排出土や泥水の排出場所を考慮する必要がなく、杭を打つことができ、作業の迅速化ができて工期の短縮を図ることができる杭打ち工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、鉄道の線路やホームの上に橋上駅などの建築物を構築する際に、該建築物の基礎杭を打つ工法であって、車両本体に昇降可能、かつ水平方向に伸縮可能な杭打ち装置が搭載され、線路上を走行可能な作業車両を用いる一方、中空円筒状で所定長さの鋼管杭を複数本用意し、前記鋼管杭の何本かは掘削用の先端翼を有する先行杭であり、この先行杭を前記杭打ち装置で縦向きに把持してホームの所定位置から地盤に向けて回転させながら圧入するとともに、先行杭の後端部に後行杭の前端部を接続した後にさらに後行杭を回転させながら圧入し、この後行杭の接続と回転圧入を必要数繰り返して、鋼管杭を所要深さまで圧入することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、杭打ち装置は、開閉可能となっていて、閉鎖することにより鋼管杭の外周面を把持して回転力を伝達する1対の把持回転部と、該把持回転部を回転駆動する回転駆動部とを有し、前記把持回転部は、運搬車で運ばれてきてクレーン車で1本ずつ吊り上げられ、ホームの仮上家を経て搬入されるか、あるいはハンドリングマシーンやホークリフトで運ばれてきてホーム床を経て搬入される鋼管杭を、開放から閉鎖することにより把持することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2において、杭打ち装置は、ホームの幅方向の一方の端から中央部、さらに他方の端近くに至る範囲内に伸張可能になっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、前記のようであって、車両本体に昇降可能、かつ水平方向に伸縮可能な杭打ち装置が搭載され、線路上を走行可能な作業車両を用いる一方、中空円筒状で所定長さの鋼管杭を複数本用意し、前記鋼管杭の何本かは掘削用の先端翼を有する先行杭であり、この先行杭を前記杭打ち装置で縦向きに把持してホームの所定位置から地盤に向けて回転させながら圧入するとともに、先行杭の後端部に後行杭の前端部を接続した後にさらに後行杭を回転させながら圧入し、この後行杭の接続と回転圧入を必要数繰り返して、鋼管杭を所要深さまで圧入するので、ホーム上から杭を打つことができるにも拘わらず、従来のTBH工法のように重量物である杭打ち装置をホーム上に設置したり、それを常置する必要が全くない。また、杭もコンクリート杭ではなく、鋼管杭であるので、軽量で運搬に便利であるとともに、回転圧入により打設するので、打設時に排出土や泥水が生じることがなく、排出場所を考える必要もない。しかも、作業も迅速に出来るので工期の短縮につながるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
一実施の形態は、鉄道のホームの上に橋上駅を構築する際にホーム上から地盤に向けて基礎杭を何本か打った後、構造体としての柱を前記杭と接合して立設する例を示すものである。図1は全体の正面図、図2は要部の拡大正面図、図3は図2を右側から見た要部の拡大平面図である。1は既設の桁式ホームで、その幅が6m程に形成されている。ホーム1上には所定間隔で複数の支持柱2が立設され、その上部にはホーム上家3が設けられ、かつ杭打ち予定位置と対応するホーム上家には図示省略の仮上家が設けられている。仮上家はホーム上家3の一部を撤去してホーム1の真上に上空が見れる開口を形成したものであり、これを利用して図示省略のトラックなどで運ばれてきて図示省略のクレーン車で1本ずつ吊り上げられる後記鋼管杭をホーム1上に搬入することが可能になっている。
【0013】
5は線路で、該線路上には杭打ち用作業車両6が走行可能に設置されている。線路5のレール間の中心からホーム1の一方の端までは1.5m程になっている。作業車両6は車両本体7を備え、該車両本体には杭打ち装置8が昇降可能、かつ水平方向に伸縮可能に搭載されている。車両本体7はキヤタピラ9によって走行可能であるが、出し入れ可能に収納した図示省略の車輪によって線路5のレール上を走行可能にもなっており、図示したものはレール上に乗った状態を示している。車両本体7の上部には運転台10が設けられ、該運転台の前面部には左右1対の作動シリンダ11の基端が枢支されている。作動シリンダ11の各基端には左右1対のリンク12の各上端が枢支され、該リンクの下端には左右1対のリンク13の基端が枢支されている。両リンク13の先端と両シリンダ11の作動杆の先端には杭打ち装置8の装置本体15が、シリンダ11とリンク12とリンク13との間で四節リンク機構を形成して取り付けられている。したがって、図示省略の作動部材を作動して両シリンダ11を基端を支点として揺動すると、図示したように装置本体15を垂直姿勢を維持した状態のまま、下方の実線位置と、所定高さ上方の鎖線位置とに位置変更ができるようになっている。前記実線位置で後記マストがホーム1の上面より下がっているのは、実際の施工ではホーム1の上面が手掘り等により一段低く掘られて受入れられるようになっているからである。
【0014】
また、両リンク13は基端と先端とも取外し可能になっていて、必要によって着脱可能である。両シリンダ11の基端に近い位置であって、両シリンダ11の中間位置には別の作動シリンダ17の基端が枢支されている。シリンダ17の作動杆の先端は両シリンダ11の作動杆の先端の中間位置に枢支されている。このシリンダ17も基端と先端とも取外し可能になっていて、必要によって着脱可能である。シリンダ17は杭打ち装置8をホーム1の他方の端近くに位置させる必要があるときに、両リンク13を取外したうえ使用され、両シリンダ11と協働して伸張し、該位置に杭打ち装置8を位置させる。
【0015】
装置本体15にはマスト20が取り付けられ、該マストに取り付けられたブラケット21には杭打ち装置8を構成する半割れ状の1対の鋼管杭把持回転部材23の基端が枢支されている。把持回転部材23は図3から明らかのように左右1対の作動シリンダ24により閉鎖した実線位置と、開放した鎖線位置とにもたらされるようになっている。把持回転部材23の内周面は円弧状に形成され、該内周面には鋼管杭25の外周面に摺接して把持する把持ブロック26が設けられている。把持ブロック26には図示省略の回転体及び該回転体を回転する回転ローラが連結されているとともに、該回転ローラには駆動モータ27が連結されている。これによりモータ27を駆動すると、前記回転ローラ、回転体を介して把持ブロック26に回転力が付与され、これにより把持ブロック26で把持され、自沈荷重のかかる鋼管杭25を所定の速度で地盤に圧入することが可能になっている。
【0016】
鋼管杭25としては所定の長さのものを複数本用意し、それを1箇所につき複数本接続しながら地盤に所定深さまで打設するが、その際に最初に打つ鋼管杭として図1に示すように前端部に掘削用の先端翼30を有し、後端が開口して、内部が中空になった円筒管状の先行杭25aを用いる。先行杭25a以外の鋼管杭が後行杭25bであり、これは先行杭と同径の円筒管状を呈し、前後端が開口したものとなっている。
【0017】
杭打ちの作用について、以下に説明する。杭打ち前作業として複数本の鋼管杭25をホーム1上に搬入する必要があるが、その搬入には前記したトラックとクレーン車が使用される。すなわち、トラックで工場や保管場所から鋼管杭25を運んでくる。そしてトラック上から鋼管杭25を1本ずつクレーン車で吊り上げ、ホーム1の仮上家を経てホーム上の所定場所に待機する作業車両6上の杭打ち装置8の両把持回転部材23に把持させるのであるが、最初の1本は先行杭25aとする。
【0018】
両把持回転部材23による把持に際しては、シリンダ24を作動して両把持回転部材23を閉鎖し、把持ブロック26を先行杭25aの外周面に摺接させてしっかりと把持する。両把持回転部材23によって先行杭25aを把持した後、前記した図示省略の作動部材を作動して杭打ち装置8を昇降させてホーム1上の所定の位置にもたらし、停止する。図1ではほぼホーム1の中央部に杭を打つべくセットした状態を示している。
【0019】
次に、複数個あるモータ27を同時駆動し、両把持回転部材23の把持ブロック26に回転力を付与すると、把持ブロック26で把持された先行杭25aは、回転され、その際に自沈荷重がかかることもあって、所定の速度で地盤に圧入されていく。そして、この圧入により先行杭25aの後端部が地盤面の近くになったとき、モータ27の駆動を一旦停止し、次に同様に吊り下げられて搬入されてくる後行杭25bの前端部を先行杭25aの後端部に接続する。この接続はねじ嵌合など任意の手段で行われる。接続した後、該後行杭の外周面を把持ブロック26で把持する。そして、前記と同様にモータ27を駆動し、把持ブロック26に回転力を付与して該後行杭を回転しながら圧入する。そして、この圧入により後行杭25bの後端部が地盤面の近くになったとき、次の後行杭25bを前記と同様に接続したうえ回転圧入する。このようにして、以下、必要な本数の後行杭25bを同様に接続し、回転圧入する。この例ではФ600の鋼管杭を50mの深さまで打っている。
【0020】
前記のようにして一箇所の杭打ちが終わったら、再び前記図示省略の作動部材を作動して杭打ち装置8を昇降させて次に打つべき位置に移動する。そして、ここでも同様にして鋼管杭25を、まず先行杭25aを打ち、次に後行杭25bを打ち、該後行杭を必要な本数、回転により圧入することにより、打つ。鋼管杭25を所定の位置に打ち終わったら、この実施の形態では、図4に示すように打った杭の位置を結ぶ線が正四角形となるように打つが、該杭の中央部に鋼管杭25より大径に形成された中空円筒状の鋼管柱35を立て、鋼管杭25と鋼板36によって溶接等で接続し、基礎を構築することになる。図4において、37は山留めである。
【0021】
鋼管杭25を打つ位置が図示のようにホーム1の中央部ではなく、作業車両6のあるホーム1の一方の端側であるときは、作業車両6をレール上を少し走行させ、図3のようにホームに対して直角に向くのではなく、やや斜め向きに位置させる。こうすることによりシリンダ11やマスト20を介して取り付けられた杭打ち装置8はホーム1の一方の端側にもたらされ、杭打ちが可能となる。
【0022】
前記のようにして鋼管杭25を打つので、従来のように重量物である杭打ち装置をホーム上に運搬機械を用いて運び込む必要がなくなる。そのため、準備作業がきわめて簡単に短時間ですむし、スペース確保の問題も解決する。また、杭打ちに際しても、従来のように掘削に際し発生する土や泥水の排出が必要なくなるから、排出場所の確保も要らなくなるとともに、泥水の処理にも悩まされずにすむ。しかも、従来のような掘削をせずに、無排土杭として鋼管杭25を打つから地盤変形の可能性も最小限とすることができる。また、断続的な施工も可能となり、夜間作業で施工しても線路閉鎖等の影響を受けにくいものとなる。したがって、杭打ち作業の迅速化を図ることができる。
【0023】
実施の形態では、前記のように既設のホーム上家3に形成した仮上家を利用して鋼管杭25を吊り上げて搬入したが、必ずしもこのような仮上家を利用しなくともよく、状況によっては図示省略のハンドリングマシンやホークリフト等で運こびホーム床を経て杭打ち装置8に把持させてもよい。また、構成も図示したものに限られるものではなく、例えば把持回転部材23は枢支した開閉機構としたが、ほかにガイドを介して相接近・相離間可能にした機構を採用してもよいし、把持回転部材23を回転駆動する機構などの構成も特許請求の範囲に記載した範囲内で実施に際しては任意に変更、修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施の形態を示す全体の正面図である。
【図2】同上の要部の拡大正面図である。
【図3】同上の要部の拡大平面図である。
【図4】打った鋼管杭と鋼管柱の配置関係を示す図面である。
【符号の説明】
【0025】
1 ホーム
2 支持柱
3 ホーム上家
5 線路
6 作業車両
7 車両本体
8 杭打ち装置
11,17,24 作動シリンダ
12,13, リンク
15 装置本体
20 マスト
23 鋼管杭把持回転部材(把持回転部)
25 鋼管杭
26 把持ブロック
27 駆動モータ(回転駆動部)
30 先端翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の線路やホームの上に橋上駅などの建築物を構築する際に、該建築物の基礎杭を打つ工法であって、車両本体に昇降可能、かつ水平方向に伸縮可能な杭打ち装置が搭載され、線路上を走行可能な作業車両を用いる一方、中空円筒状で所定長さの鋼管杭を複数本用意し、前記鋼管杭の何本かは掘削用の先端翼を有する先行杭であり、この先行杭を前記杭打ち装置で縦向きに把持してホームの所定位置から地盤に向けて回転させながら圧入するとともに、先行杭の後端部に後行杭の前端部を接続した後にさらに後行杭を回転させながら圧入し、この後行杭の接続と回転圧入を必要数繰り返して、鋼管杭を所要深さまで圧入することを特徴とする杭打ち工法。
【請求項2】
杭打ち装置は、開閉可能となっていて、閉鎖することにより鋼管杭の外周面を把持して回転力を伝達する1対の把持回転部と、該把持回転部を回転駆動する回転駆動部とを有し、前記把持回転部は、運搬車で運ばれてきてクレーン車で1本ずつ吊り上げられ、ホームの仮上家を経て搬入されるか、あるいはハンドリングマシーンやホークリフトで運ばれてきてホーム床を経て搬入される鋼管杭を、開放から閉鎖することにより把持する請求項1記載の杭打ち工法。
【請求項3】
杭打ち装置は、ホームの幅方向の一方の端から中央部、さらに他方の端近くに至る範囲内に伸張可能になっている請求項1又は2に記載の杭打ち工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−299748(P2006−299748A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126862(P2005−126862)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【Fターム(参考)】