説明

杭施工時における杭根固め部の強度評価方法

【課題】 ソイルセメントからなる拡大根固め部を有する既設杭の埋設工法において、ソイルセメントの強度を少ない試験体をもとに評価し、その結果を杭の施工管理に反映させる。
【解決手段】 掘削孔の底部に固化材を注入・撹拌してソイルセメントで満たされた根固め部を形成して杭下端を支持させる既製杭を埋め込む杭の施工時に、未固結状態のソイルセメントを、根固め部から採取する工程と、採取したソイルセメントから供試体を作製し、供試体を伝達するせん断波の速度を計測する工程とを備える。計測したせん断波速度Vsと、ソイルセメントの設計基準強度Fcに関連付けられた目標せん断波速度Vs,speとを比較し、ソイルセメントの強度を評価する。この強度評価結果を、杭の施工管理情報として用いて杭根固め部を施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既製杭の埋込み工法による杭施工時の杭根固め部に施工されるソイルセメントの強度評価方法、およびその評価結果を前記既製杭の施工管理情報として用いるようにした杭根固め部の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、既製杭を用いた杭基礎の施工方法としては、プレボーリング埋込み工法が多用されている。そのほとんどは、高支持力杭と呼ばれるプレボーリング拡大根固め工法により施工されたものである。プレボーリング拡大根固め工法は、杭径の1.5〜2倍程度に拡大した径を有する根固め部を、高強度のソイルセメントによって杭先端部に造成することで、高支持力を得る工法である。このとき、杭基礎が所定の支持力を発揮するためには、拡径された根固め部ソイルセメントが、設計上要求される強度を発現することが必要となる。
【0003】
従来のプレボーリング拡大根固め工法の一例の施工手順について、簡単に説明する。まず、杭基礎施工位置において、杭打ち機の掘削ロッドによる地盤掘削を行う。このとき掘削孔内は、掘削水と原位置土とが混練りされた状態の泥水で満たされた状態にある。次に、掘削ロッドの先端部に取り付けられた拡大ビットを拡翼させ、掘削孔の下部に杭径の1.5〜2倍程度の拡径部を形成する。続いて、掘削ロッドの先端からセメントミルクを噴射しながら掘削ロッドを回転させてセメントミルクと泥水とを混合撹拌し、杭先端部にソイルセメント部を施工する。拡径部がソイルセメントで満たされた根固め部を形成して掘削ロッドを掘削孔から抜き出し、最後に、掘削孔に既製杭を建て込み、既製杭の先端を根固め部に埋設する。
【0004】
このようにして施工された根固め部のソイルセメントは、施工上、泥水とセメントミルクとの混合比率を精度良く制御できないので、ソイルセメントの強度品質にばらつきが生じやすい。そのため、品質管理試験として、既製杭の建て込み直前に未固結状態のソイルセメントを採取して供試体を作製し、材齢7日と28日で圧縮試験を行い、ソイルセメントの圧縮強度を確認している。
【0005】
一方、出願人は、特許文献1に開示したように、改良地盤を対象とした地盤強度を推定する方法を提案している。この方法は、予め、改良対象となる地層から原位置土を採取し、改良地盤と同等仕様の供試体を作製し、作製した供試体のせん断波速度と一軸圧縮強度との相関関係を求めておく。そして、改良地盤の固化後、複数のコア供試体を改良地盤から採取し、コア供試体のせん断波速度を測定して原位置地盤の強度を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−1981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の埋込み工法による杭施工時の杭根固め部の品質管理においては、杭根固め部に施工されたソイルセメントは、現場で直接採取される土質試料が限られているため、現場ごとにせん断波速度と一軸圧縮強度との関係を得るのは困難であった。また試験室において、各現場で施工されるソイルセメントと同等仕様の供試体を作製し、予めせん断波速度と一軸圧縮強度の相関関係を求めておくことも難しい。これに対して、特許文献1に記載の技術は、ソイルセメントの固化時の比較的低強度範囲での強度評価を想定していたため、今回の杭根固め部等に用いられるソイルセメントの強度評価への適用範囲までの拡張が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、試験体の採取量が少なくて済み、施工後早期に根固め部のソイルセメントの強度を評価することができる杭施工時における杭根固め部の強度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る杭基礎の施工時における杭根固め部の強度評価方法は、地表面から掘削した掘削孔の底部に固化材を注入・撹拌してソイルセメントで満たされた根固め部を形成し、該根固め部に、その下端を支持させるように、既製杭を前記掘削孔に埋め込む、杭の施工時に行われる、杭根固め部の強度評価方法であって、未固結状態の前記ソイルセメントを、前記根固め部から採取する工程と、採取したソイルセメントから供試体を作製し、該供試体を伝達するせん断波の速度を計測する工程とを備え、計測した前記せん断波速度と、前記ソイルセメントの設計基準強度に関連付けられた目標せん断波速度とを比較し、前記根固め部を形成するソイルセメントの強度を評価することを特徴とする。
【0010】
このとき、前記供試体が十分な強度が発現しているか否かの判断は、予め求めていた、せん断波速度と圧縮強度との関係曲線に基づいて判断することが好ましい。
【0011】
前記供試体のせん断波速度の測定に、超音波振動子を用いることが好ましい。
【0012】
上述の強度評価方法にかかる発明の有する技術的特徴と関連する杭の施工方法の発明として、前記根固め部におけるソイルセメントの強度の評価結果を、前記杭の施工管理情報として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、試験体の採取量が少なくて済み、施工後早期に根固め部のソイルセメントの強度を評価することができる杭施工時の杭根固め部の強度評価方法を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る杭基礎の施工時における杭根固め部の強度評価方法の手順を示したフロー図。
【図2】せん断波速度測定時及び一軸圧縮試験時における供試体を示した概略図。
【図3】せん断波速度と一軸圧縮強度との関係を求めるために用いた土質試料の粒度分布図。
【図4】土質試料を用いたソイルセメントのせん断波速度と一軸圧縮強度との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る杭施工時の杭根固め部の強度評価方法についての一実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態における杭基礎の施工〜杭根固め部の強度評価手法の手順を示したフロー図である。
【実施例】
【0016】
まず、上述したように、公知のプレボーリング拡大根固め杭の施工において、拡大ビットが取り付けられた掘削ロッドを用いて、掘削孔を適宜掘削水を注入しながら掘削する(S101)。そして、掘削ロッドに取り付けられた拡大ビットを拡翼させ、掘削孔の下部に拡径部を形成する(S101)。これにより、掘削孔は、掘削水と原位置土とが混練りされた状態の泥水により満たされる。
【0017】
次に、掘削ロッドの先端からセメントミルクを噴射するとともに、掘削ロッドを回転させてセメントミルクと泥水とを撹拌し、拡径部をソイルセメントで満たし、拡径部から掘削ロッドを引抜く(S102)。これにより、ソイルセメントが満たされた拡径部を有する根固め部が構築され、既製杭を掘削孔に建て込む(S107)。
【0018】
上述した一連の施工において、施工されたソイルセメントの強度を把握するために、本発明の評価方法による品質確認を行う。まず根固め部に満たされた未固結状態のソイルセメントを採取する(S103)。ソイルセメントを採取するためには、ソイルセメント採取用の専用ロッド(不図示)を用いることができる。
【0019】
次に、採取したソイルセメントを用いて、せん断波速度を測定するための供試体を作製する(S104)。採取したソイルセメントに礫が混入している場合、ソイルセメントを例えば目合い2mmのふるいにかけて、礫を除去しておくことが好ましい。これは、限られたサイズの供試体内に礫が含まれると、供試体の強度(せん断波速度)が正確に評価できないこと、また、根固め部ソイルセメントの強度に対する影響は、ソイルセメントに含まれる礫よりも、礫以外のマトリックスが支配的であると考えられるからである。このように、根固め部のソイルセメントの強度確認のための供試体は、粘土〜砂により形成されたソイルセメントから構成することが好ましい。なお、作製する供試体は、従来の土試料の一軸圧縮試験の供試体用円筒形モールド(φ=50mm、H=100mm)を利用して作成したものでよい。
【0020】
続いて、作製した供試体のせん断波速度Vsを計測する(S105)。図2は、供試体を用いたせん断速度測定の試験概要を示した説明図である。供試体10はモールドから脱型した後に端面整形を行い、図2に示したように、対向する上下の端面10aに超音波振動子11を密着させる。そして、この端面間を伝播するせん断波の到達時間tを測定する。得られたせん断波到達時間tと供試体高さHとから、せん断波速度Vs(=H/t)を求める。なお、超音波振動子としては、公知の圧電素子を利用した、たとえばベンダエレメント等の各種の振動子を利用できる。
【0021】
次に、求めた供試体10のせん断波速度Vsと、根固め部のソイルセメントの設計基準強度Fcに対応するせん断波速度=目標せん断波速度Vs,speとを比較する(S106)。なお、この比較のための目標せん断波速度Vs,speは、以下に説明する(式1)で示したVs−qu関係式を適用して求めることができる(S100)。
【0022】
S106において、せん断波速度Vsが目標せん断波速度Vs,speよりも大きい場合、根固め部ソイルセメントは、設計基準強度Fcを満足していると判定する(S106:Yes)。この判定結果は、掘削孔に建て込まれた既製杭の先端部の根固め部のソイルセメントの状態を精度よく示している。
【0023】
ここで、設計基準強度Fcに対応する目標せん断波速度Vs,speについて具体的に説明する。発明者は、複数種の土質試料を異なる条件で配合し、ソイルセメントにより作製したせん断波速度と一軸圧縮強度との関係を調べた。図3は、試験に用いた土質試料の粒度分布図、表1は、土質材料の配合を示した一覧表、図4は、ソイルセメントにより作製した供試体のせん断波速度と一軸圧縮強度との関係を示したグラフである。
【0024】
[表1]

【0025】
発明者は、粘土と砂との混合比を変えた粒度が異なる8種類の土質試料(図3)を、杭基礎の根固め部ソイルセメントを想定した配合(表1)に従って練り混ぜ、ソイルセメントを製造した。そして、配合が異なる各ソイルセメントを、内径50mmの既製ポリエチレン袋に採取して供試体を作製し、20℃で水中養生した。試験を行った供試体の材齢は3日、7日、14日、28日であり、せん断波速度を計測した後、続いて一軸圧縮試験を行い供試体の一軸圧縮強度を測定した。なお、この一連の試験は、同条件で作製された供試体を、それぞれ3本行った。
【0026】
なお、下記の(式1)は、種々の改良土において、せん断速度Vsと一軸圧縮強度quとの関係をよく近似することが知られた数式である。
【0027】
qu=a×{exp(b×Vs)−1} …(式1)
ここで、a、bは回帰分析によって定まるパラメータである。
【0028】
得られたせん断波速度Vsと一軸圧縮強度quとをプロットしたものを図4に示す。なお、図4においては、種々の条件で作製された供試体の一切の試験結果を、区別することなく表示している。図4に示すように、Vs−qu関係は、土質やソイルセメントの配合、及び供試体の材齢が異なるにも関わらず、(式1)に近似していることが分かる。これは、固化材(セメント等)添加量が、粘土や砂の使用量と比べ多くなっているため、土質試料の種類や粒度の違いがソイルセメントのVs−qu関係に及ぼす影響が小さいためであると考えられる。
【0029】
従って、根固め部ソイルセメントの設計基準強度Fcが決定すると、原地盤における土質試料の種類や粒度によらず、図4で示したグラフ、あるいは回帰分析によりパラメータa、bが決定されたパラメータを用いて、対応する目標せん断波速度Vs,speを一義的に決定することができる。本実施例では、図4に示した式を構成するパラメータとしてa=0.34,b=0.027なる値を得た。
【0030】
図1中のS106で測定したせん断波速度Vsが目標せん断波速度Vs,speに達しなかった場合(S106:No)、供試体の材齢が28日に達しているかどうか判断する(S108)。本発明に係る実施形態においては、作製した供試体が固化さえすれば(例えば、ソイルセメントの採取から6時間程度後から)、せん断波速度Vsを測定することが可能である。このような若い供試体は、当然ながら十分な強度は発現しておらず、測定されるせん断波速度Vsも小さい。そのため、材齢が28日に満たない供試体は、再び所定期間養生する。そして、所定期間養生後、同一の供試体で再度せん断波速度Vsを測定し(S105)、発現強度の確認を行う(S106)。このように、せん断波速度Vsの測定は非破壊検査であり、同一の供試体で何度でもせん断波速度Vsを計測することができる。
【0031】
なお、S106において、供試体の材齢が28日に達していない場合でも十分な強度発現が見られる場合(あるいは、材齢28日に設計基準強度Fc以上の強度発現が見込まれる場合)には、掘削孔に建て込まれた(S107)既製杭の根固め部の強度が十分であることが確認できる。
【0032】
S108において、供試体の材齢が28日に達していて(S108:No)、根固め部のソイルセメントが設計基準強度Fcを発現していない場合には、杭根固め部の再施工を行う。
【0033】
なお、S108において、供試体の材齢が28日に達していない場合においても、測定方法及び供試体の材齢を考慮してもせん断波速度Vsが小さく、材齢28日に達したところで設計基準強度Fc以上を発現しないと想定される場合は、杭の再施工を行うため、(S101)に戻り、ソイルセメントを再施工するようにしてもよい。
【0034】
以上のように、本発明の実施形態に係る杭根固め部の強度評価方法を、杭施工時に適用することにより、次のような効果を奏する。
【0035】
作製した供試体のせん断波速度Vsの測定は、上述した超音波振動子11を用いた非破壊試験を継続して行うことができ、1つの供試体でせん断波速度Vsを何度でも測定することができる。そのため、作製する供試体は数個で十分であり、採取するソイルセメント量も少なくてすむ。また、1つの供試体で複数の材齢の強度を推定することができるため、信頼性の高いソイルセメントの強度評価を実行することができる。
【0036】
また、作製した供試体が固化さえすれば、せん断波速度Vsを測定し強度を推定することできるため、初期材齢のうちにソイルセメントの一定の品質評価をすることが可能となる。これにより、施工した根固め部のソイルセメントに問題が生じている場合にも、施工後早期に強度不足等の問題を把握することができ、その後の対処を迅速に行うことができる。このように、本発明の杭根固め部の強度の強度評価の結果は、ソイルセメントの施工管理において、きわめて有用な情報となる。この施工管理情報をもとに杭根固め部の施工を効率的に行うことができる。
【0037】
また、現場でソイルセメントを採取した後は、供試体の作製、せん断波速度Vsの測定等の作業を1人で実施することができる。また、供試体のせん断波速度の測定にあたっては、特別な技量が不要であり、検査の合否判定が検査者の技量に依存することもない。
【0038】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
10 供試体
11 超音波振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面から掘削した掘削孔の底部に固化材を注入・撹拌してソイルセメントで満たされた根固め部を形成し、該根固め部に、その下端を支持させるように、既製杭を前記掘削孔に埋め込む、杭の施工時に行われる、杭根固め部の強度評価方法であって、
未固結状態の前記ソイルセメントを、前記根固め部から採取する工程と、
採取したソイルセメントから供試体を作製し、該供試体を伝達するせん断波の速度を計測する工程とを備え、
計測した前記せん断波速度と、前記ソイルセメントの設計基準強度に関連付けられた目標せん断波速度とを比較し、前記根固め部を形成するソイルセメントの強度を評価することを特徴とする杭根固め部の強度評価方法。
【請求項2】
前記供試体が十分な強度が発現しているか否かの判断は、予め求めていた、せん断波速度と圧縮強度との関係曲線に基づいて判断することを特徴とする請求項1に記載の杭根固め部の強度評価方法。
【請求項3】
前記供試体のせん断波速度の測定に、超音波振動子を用いたことを特徴とする請求項1に記載の杭根固め部の強度評価方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の強度評価方法で得た、前記根固め部におけるソイルセメントの強度の評価結果を、前記杭の施工管理情報として用いることを特徴とする杭根固め部の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12856(P2012−12856A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151231(P2010−151231)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】