説明

板材接合用具および板材接合方法

【課題】道路橋等の構造物に使用される鋼板・コンクリート合成版を互いに接合するために使用する板材接合用具であって、施工の際に下側からの作業を不要とすることのできる板材接合用具と、該接合用具を使用する接合方法を提供する。
【解決手段】板材接合用具1は、ボルト2と、該ボルト2のねじ部に側面から弾性的に嵌着することのできる円弧状の止め具3を備え、該止め具3は、その内周部に該ボルト2のねじ溝に噛合するねじ山の一部からなる突起を一体形成しており、これを用いた板材の接合は、接合すべき合成板版10の接合部に設けたボルト穴にボルト2を下面側から挿入し、該合成板版10の上面側に突出したボルト2のねじ部に側方から前記止め具3を弾性的に嵌着して締め付け、これを施工現場に搬入し、該合成板版10同士を突き合わせて、添接板15を接合部に載せ、該添接板15のボルト穴にボルト2の突出部を挿入してナット5で締め付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋等の構造物に使用される鋼板・コンクリート合成床版の鋼板を互いに接合するために使用するに適した接合用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路橋等の構造物に使用される鋼板・コンクリート合床版は、底鋼板にコンクリートを打設したものであり、その底鋼板は、コンクリート打設時の型枠として利用されるとともに、そのままコンクリートと一体となって床版として使用される。このため、鋼板・コンクリート合成床版を橋梁等の床版として使用すると、施工時にコンクリートを打設するための型枠が不要であり、床版の下側に型枠を取り外すための足場を組む必要もなく、施工時のコストを低減できることから、広く採用されている。
【0003】
上記鋼板・コンクリート合成床版を用いる施工に際しては、複数の鋼板・コンクリート合成床版を並べて、その底鋼板同士を互いに接合連結し、全体として橋梁等の床版を形成する。この接合は、抗張力ボルト等のボルトを用いて行われる。図4は従来の接合法をあらわすもので、鋼板・コンクリート合成床版の底鋼板10同士を僅かな間隔をおいて突き合わせ、複数のボルト穴が2列で形成された添接板(連結板)15をその連結部(突合せ部)に載置して、該添接板15に設けたボルト穴と底鋼板10に設けたボルト穴を重ね合わせ、ボルト2を挿入して、ナット5で締め付けることにより行われる。
【0004】
しかしながら、このように、鋼板・コンクリート合成床版を現場で互いに接合するには、該合成床版に予め形成したボルト穴に下側からボルトを挿通し、これに上側からナットを螺着して締め付けなければならないので、床版の下側に作業用の足場が必要となり(施工後に防錆塗装を行わなければならないので、このためにも足場は必要である)、施工にコストがかかるという問題点があった。
【0005】
この問題点を解決する板材接合用ボルトが下記特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示されているボルトは、ボルトの軸方向中間部に外径方向に膨出した節を設け、該節の両側にそれぞれねじ部を形成したものである。
【0006】
この特許文献1に記載のボルトを用いる接合方法は、次のとおりである。まず、接合すべき板材である鋼板・コンクリート床版の接合部にボルト穴を設け、このボルト穴に上記節付きのボルトを上側から挿入する。このボルトは、上下中間部にボルト穴を通過しない径を有する節が設けられているので、この節がボルト穴の入り口に引っ掛かり、抜け落ちることはない。この状態で、板材の下側に突出しているボルトにナットを螺着して締め付ける。これによりボルトは板材に固定される。
【0007】
この節付きボルトが固定されている鋼板・コンクリート合成床版を施工現場に搬入し、複数の当該鋼板・コンクリート合成床版を並べて互いに接合連結することにより、一体化する。この接合に際しては、床版の接合部同士を対向させ、その上に複数のボルト穴が設けられた添接板を載せて、それらのボルト穴に両側の床版から上向きに突出しているボルトを挿通し、ナットで締め付ける。これにより、複数の床版が一体化して所定広さの床版を形成する。
【0008】
ところで、上記特許文献1に記載の節付きボルトは、工場で予めボルトを鋼板・コンクリート床版等の板材に固定して、ボルトの頭部を含む床版の下面全体に塗装しておくことができるので、施工現場において下側からボルト締め付けや塗装等の作業を行う必要がなく、床版の上側での作業のみで施工を行うことができる。このため、施工時に床版の下側に足場を組む必要がなく、現場での作業も楽であるが、これに使用するボルトは、中間部に節が形成され、その両側にねじ(通常は逆ねじとなる)が切られたボルトであるから、ボルト自体の製作コストがきわめて高く、その分だけ施工コストも高くなるという問題点がある。
【0009】
また、特許文献2には、底鋼板のボルト穴に高力ボルトを下面側から挿入し、一次ナットで該高力ボルトを固定したのち、現場で隣接する底鋼板同士の上にボルト穴付きの添接板を配置し、該添接板にボルトを挿入して、該添接板の上面側から二次ナットを締め付ける方法が開示されている。この方法によれば、ボルトが一次ナットで保持されているので底鋼板からボルトが脱落するおそれはない。
【0010】
しかしながら、この特許文献2に開示されている技術では、一次ナットと二次ナットの二つのナットをそれぞれボルトの頂部から螺着しなければならないので、ナットの締め付けに手間と時間がかかるという問題点がある。
【0011】
【特許文献1】特開2004−176909号公報
【特許文献1】特開2006−207116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事に鑑み、施工現場での下側からの作業を不要とし、簡単かつ楽に板材同士を接合することが可能で、しかも高価なボルトを必要としない板材接合用具と、これを使用する板材接合方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。すなわち、本発明にかかる板材接合用具は、ボルトと、該ボルトのねじ部に側面から弾性的に嵌着することのできる円弧状の止め具とを備え、前記止め具は、その内周部に前記ボルトのねじ溝に噛合するねじ山の一部からなる突起を一体形成したことを特徴としている。前記突起は全体が連続していてもよく、互いに間隔をおいて複数個設けておいてもよい。なかでは、突起を3個設けておくのが好ましい。
【0014】
また、本発明にかかる板材接合方法は、上記板材接合用具を用いて板材同士を接合する方法であって、接合すべき板材の接合部に設けたボルト穴に該板材の下面側からボルトを挿入する工程と、該板材の上面側に突出したボルトのねじ部に、側面から前記板材接合用具の止め具を弾性的に嵌着し、該止め具を回して、ボルトの頭部を板材の下面に強固に密着させる工程と、互いに接合する板材の接合部を対向させてその上にボルト穴を有する添接板を載置し、当該ボルト穴に前記板材に固定されているボルトの突出部を挿入する工程と、該添接板の上面側に突出するボルトにナットを螺着して締め付ける工程とを経て、両板材を接合することを特徴としている。前記添接板のボルト穴は、その内部に止め具が収納される大きさとしておくのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この板材接合用具は、ボルトの側方から当該ボルトのねじ部に弾性的に嵌着することにより、該ボルトのねじ溝に係合させて固定することのできる止め具を備えているので、板材の下側から挿通したボルトの板材よりも上側のねじ部にこの止め具を嵌着することにより、当該ボルトを板材に簡単かつ確実に固定することができる。止め具に設けられている内向き突起は、ボルトに螺着するねじ山の一部をなすものであるから、ボルトに嵌着した止め具を締め付け方向に回すことにより、当該止め具を板材表面に密着した状態でしっかりと固定することができる。ボルト自体は、通常使用されているボルトでよく、止め具の構造も簡単であるから、全体的に安価なものとすることができる。
【0016】
なお、上記止め具は、ボルトの上下中間部の任意の位置で嵌着できるものであるから、板材の表面付近で止め具を嵌着することにより、ナットのように多数回転させなくても、わずかな回転で締め付けることができるので便利である。
【0017】
また、本発明にかかる板材接合方法によれば、板材のボルト穴に下面側から挿通したボルトの上面側突出部の側面から止め具を弾性を利用してボルトに嵌着することにより、接合用のボルトを板材に固定することができるので、板材にボルトを固定する作業を工場で簡単かつ確実に行うことができ、施工現場では板材の下面からのボルトの挿入作業が不要となる。このため、板材の下面側の作業用の足場が不要となり、安全かつ経済的な作業が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態例について具体的に説明する。図は本発明の1実施形態を表すもので、この板材接合用具1は、ボルト2、止め具3、ワッシャ4、ナット5を備えている。ナット5は六角ナットであり、ワッシャは通常のリング状のワッシャである。
【0019】
上記ボルト2は、この種の用途に通常使用される市販のボルトでよいが、高力ボルトを使用するのが好ましく、特に、図1に示すようなトルシア形高力ボルトを用いるのが好ましい。このボルト2は、頭部がリベット状の丸み帯びた形状であり、塗装が容易であるとともに施工後の外観が美的である。
【0020】
上記ボルト2の寸法は、用途により最適なものとすればよいが、この種の床版の接合に使用されることの多いボルトは、ねじの呼びがM22であり、そのねじ部の長さは40mmである。また、図中の寸法Dは38.5mm、Hは14mmである。
【0021】
止め具3は、図2に示すように、外形が概略リング状であり、その一部が馬蹄形に切り欠かれて開口部6となっている。止め具3の内周部には、3個の突起7が設けられている。突起7の部分は、図2(b)に示すように断面楔形であり、その先端部は、ボルトに螺合するナットのねじ山の断面形状と同様な形状・寸法となっている。すなわち、突起7は、ボルトの溝に噛み合う歯の役割を果たすものである。このため、3個の突起7は、ねじのリードに適合するように、肉厚方向の位置が互いに少しずつずれている。なお、突起7は、全体が連続したねじ山となっていてもよく、互いに間隔をおいて複数個設けておいてもよい。突起7の数は、場合によっては1個又は2個でもよく、4個以上でもよいが、3個とするのがもっとも好ましい。突起7以外の部分の断面形状は長方形であるが、強度上問題がなければこの部分の断面形状は長方形以外の他の形状でもよい。なお、止め具3は、例えば肉厚5mm程度以下の薄いナット(ねじ山の数は例えば1〜3条)の外周を馬蹄形に切り欠いたものであってもよい。この場合、止め具3の肉厚は、添接板の厚みよりも薄いものとすればよい。
【0022】
上記止め具3は、所定の強度と弾性を有する鋼材、例えば炭素鋼(SK5M)や合金鋼で作られるものであり、弾性の観点からバネ鋼を使用するのが好ましい。上記M22のボルト2に使用するものの寸法例を挙げれば、図2の外径Aはφ26、内径はφ21、厚みtは3mm、幅dは2.5mm、角αは30度、突起の幅wは5mmである。さらに、開口部6の内径Eは、ボルト2のねじ部に横から弾性を利用して打ち込むことにより嵌着でき、しかも嵌着後は容易に外れないような大きさであり、M22ボルトに使用する図示例では16.5mmである。
【0023】
つぎに、この板材接合用具1を鋼板・コンクリート合成床版の接合に使用する場合を例にとって、その使用法について説明する。
【0024】
まず、鋼板・コンクリート合成床版(以下「合成床版」という)10の接合部に設けられているボルト穴にボルト2を下面側から挿入する。合成床版10のボルト穴の内径は、ボルト2の軸部の外径よりも僅かに大きく、しかもガタツキが生じないような大きさとするのが好ましい。例えばボルト2の軸部の径が22mmであれば、それよりも約2.5mm大きい24.5mm程度とすればよい。ボルト2の頭部が合成床版の鋼板の下面に密着した状態で、該合成床版の上面側に突出しているボルトのねじ部に止め具3を横から打ち込む。この止め具3は、弾性を有し、その外周の一部が馬蹄上に開口しているので、その開口部6をボルトの軸部に横からあてがってハンマ等で打撃すると、開口部6が弾力的に押し開かれて、当該ボルトに簡単に嵌着することができる。
【0025】
この嵌着状態では、止め具3の突起7がボルト2のねじ溝に噛合している。止め具3を嵌着しただけでは、ボルト2の頭部が合成床版10の下面に強固に密着しているとは限らないので、これが十分強固に密着するように、止め具3を回してボルト2の軸方向に進行させ、合成床版10の上面に押し付ける。この場合、止め具3の開口部6の端部に回転方向の力を加えて回してもよく、トルクレンチ等の工具を用いて回してもよい。止め具3は弾性を有するので、完全に密着した状態では、合成床版10とボルト2の締め付けが緩むのを防止できる。
【0026】
なお、止め具3の回転を容易にするため、該止め具3の外周部にレンチ用の平面(レンチフラット)を複数箇所に形成しておいてもよい。
【0027】
ボルト2を固定した合成床版10の下面全体に防錆塗装を施す。塗装が終えたら、ボルト付きの合成床版10を施工現場に搬入する。そして、所定の場所に複数の合成床版10を、隣接する合成床版の連結部同士が対向するように並べて配置する。
【0028】
並列に並べた合成床版10の上に添接板15を配置する。このとき、両側の合成床版10の上面から突出するボルト2が添接板15に予め設けられているねじ穴に挿入されるようにする。添接板15には、隣接する合成床版10のボルト2がそれぞれ挿通されるように少なくとも2列に複数のボルト穴を設けておく必要がある。
【0029】
また、前記止め具3が合成床版10の上面と添接板15の下面との間に介在する状態となると、締め付け時のトルクロスを生じ、両者の密着性を損なうので、このようなことのないように、添接板15のボルト穴は、止め具3の外径よりも大きくして、止め具3が穴内に収納されるようにしておく。このためには、止め具3の厚みを添接板15の厚みよりも小さくしておく必要がある。具体的には、添接板15の厚みが6mmの場合は、止め具3の厚みを3mm程度とすればよい。
【0030】
なお、添接板15のボルト穴の大きさが小さすぎれば、止め具3を該ボルト穴内にうまく嵌め込むのが難しくなり、逆に大きすぎるとガタツキが生じるおそれがあるので、止め具3の外径よりも数mm(例えば2mm)大きくしておくのが好ましい。具体的には、止め具3の外径が26mmの場合は、添接板15の穴径は最大28.5mm程度とすればよい。
【0031】
両側の合成床版10同士を繋ぐように添接板15を配置したら、該添接板15の上面側に突出するボルト2のねじ部にそれぞれワッシャ4を介してナット5を螺着する。これにより、複数の合成床版10が互いに接合連結されるのである。
【0032】
この板材接合用具1は、上記のように、止め具3をボルト2を挿入した部材の面に沿って側面から打ち込むことができるので、作業が早い。止め具3の締め付けは、馬蹄形の開口部の端部に回転工具を引っ掛ける等の方法で、通常は1回転程度締め付けるだけでよい。止め具3は、弾性を有するので、一旦締め付ければ、バネの特性により、多少の振動では緩まない。また、合金鋼、バネ鋼等の高強度の鋼種を採用することにより、突起7の強度を高く、止め具3を損傷しにくいものと摺ることができ、ボルトの脱落を効果的に防止することができる。
【0033】
この板材接合用具1を用いた工法によれば、板材の下面からボルトを挿入して固定する作業を工場内で行うことができるので、板材の下面側の塗装も工場内で行うことが可能となり、施工現場で特別な足場を必要とせずに、安全かつ迅速に作業を行うことが可能となる。また、前述したように、複雑な形状のボルトを使用せず、しかもボルトの側面から止め具を打ち込んでボルトを固定するので、作業が簡単であり、手早く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明にかかる板材接合用具の一実施例を表す外観図である。
【図2】その止め具の平面図(a)、左側面図(b)、右側面図(c)である。
【図3】本発明の板材接合用具を用いて合成床版と添接板を固定した状態を表わす断面図である。
【図4】従来の接合方法を表す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 板材接合用具
2 ボルト
3 止め具
5 ナット
6 開口部
7 突起
10 合成板版
15 添接板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトと、該ボルトのねじ部に側面から弾性的に嵌着することのできる円弧状の止め具とを備え、前記止め具は、その内周部に前記ボルトのねじ溝に噛合するねじ山の一部からなる突起を一体形成したことを特徴とする板材接合用具。
【請求項2】
前記突起が互いに間隔をおいて3個設けられている請求項1に記載の板材接合用具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の板材接合用具を用いて板材同士を接合する方法であって、接合すべき板材の接合部に設けたボルト穴に該板材の下面側からボルトを挿入する工程と、該板材の上面側に突出したボルトのねじ部に、側面から前記板材接合用具の止め具を弾性的に嵌着し、該止め具を回して、ボルトの頭部を板材の下面に強固に密着させる工程と、互いに接合する板材の接合部を対向させてその上にボルト穴を有する添接板を載置し、当該ボルト穴に前記板材に固定されているボルトの突出部を挿入する工程と、該添接板の上面側に突出するボルトにナットを螺着して締め付ける工程とを経て、両板材を接合することを特徴とする板材の接合方法。
【請求項4】
添接板のボルト穴は、その内部に止め具が収納される大きさである請求項3に記載の板材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−80524(P2011−80524A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232891(P2009−232891)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(507096124)株式会社トライテック (6)
【Fターム(参考)】