説明

架橋性ポリテトラフルオロエチレン水性分散液、ポリテトラフルオロエチレン架橋体含浸成形体の製造方法、塗料組成物、及びポリテトラフルオロエチレン架橋体被覆成形体の製造方法。

【課題】架橋性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)水性分散液を塗料や含浸液として利用する場合、塗布作業や含浸作業の手間を省くことができる架橋性PTFE水性分散液、PTFE架橋体含浸成形体の製造方法、塗料組成物、及びPTFE架橋体被覆成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】架橋性ポリテトラフルオロエチレン水性分散液には、シアノ基(−CN)、一般式(1)で表される第1官能基:−C(=NR1)R2・・・(1)および一般式(2)で表される第2官能基:−C(=O)R1・・・・・(2)より成る群から選択される少なくとも1種の反応性官能基を有する架橋性ポリテトラフルオロエチレンが30〜70重量%含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性ポリテトラフルオロエチレン水性分散液、ポリテトラフルオロエチレン架橋体含浸成形体の製造方法、塗料組成物、及びポリテトラフルオロエチレン架橋体被覆成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と略する)に反応性官能基を導入した架橋性PTFE」が報告されている(例えば、特許文献1及び2参照)。この架橋性PTFEは、架橋反応完了後、従前のPTFEよりも優れた成形性、機械的物性及び表面特性等を示すことが明らかとなっている。
【特許文献1】国際公開第2007/52664号パンフレット
【特許文献2】特表2006−511660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この架橋性PTFEは、従前のPTFEと同様に乳化重合や懸濁重合等によって得られ、塗料や含浸液として利用される場合、水性分散液の状態で利用される。
【0004】
しかし、現存する架橋性PTFE水性分散液は、架橋性PTFEの濃度が18質量%〜24質量%程度と低く、塗料や含浸液として利用する場合、重ね塗りしなければならず、塗布作業や含浸作業に手間がかかっていた。
【0005】
本発明の課題は、架橋性PTFE水性分散液を塗料や含浸液として利用する場合において、塗布作業や含浸作業の手間を省くことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る架橋性PTFE水性分散液には、シアノ基(−CN)、一般式(1)で表される第1官能基:
【0007】
【化1】

(R1およびR2は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、−OR3,−N(R32,−R3であり、R3は炭素数1〜10のフッ素を含んでもよいアルキル基または水素原子である)、および一般式(2)で表される第2官能基:
【0008】
【化2】

(R1は水素原子、ハロゲン原子、−OR3,−N(R32,−R3であり、R3は炭素数1〜10のフッ素を含んでもよいアルキル基または水素原子である)より成る群から選択される少なくとも1種の反応性官能基を有する架橋性PTFEが30〜70重量%含まれる。なお、この架橋性PTFE水性分散液には、架橋性ポリテトラフルオロエチレンの反応性官能基と反応可能な架橋剤が添加されていてもよい。
【0009】
なお、このような架橋性PTFE水性分散液は、架橋性PTFE濃度が20質量%〜40質量%の架橋性PTFE水性乳化液を出発原料として非イオン性界面活性剤を利用した相分離法や限外濾過膜を利用した膜分離法等を適用することにより得ることができる。
【0010】
第2発明に係るPTFE架橋体含浸成形体の製造方法は、含浸工程、乾燥工程及び焼成兼架橋工程を備える。含浸工程では、第1発明に係る架橋性PTFE水性分散液が被処理物に含浸される。乾燥工程では、含浸工程において被処理物に含浸された架橋性PTFE水性分散液が乾燥される。焼成兼架橋工程では、架橋性PTFEが架橋されながら焼成される。なお、乾燥工程と焼成兼架橋工程とは同時に行われてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る架橋性PTFE水性分散液や塗料組成物には、架橋性PTFEが高濃度で存在する。このため、本発明に係る架橋性PTFE水性分散液や塗料組成物を被処理物に塗布したり含浸させたりする場合、従前よりも塗布回数又は含浸回数を低減することができる。したがって、本発明に係る架橋性PTFE水性分散液や塗料組成物を用いれば、塗布作業や含浸作業の手間を省くことができる。
【0012】
また、本発明に係るPTFE架橋体含浸成形体の製造方法やPTFE架橋体被覆成形体の製造方法では、架橋性PTFEが高濃度で存在する架橋性PTFE水性分散液や塗料組成物が塗布あるいは含浸に用いられる。このため、本発明に係るPTFE架橋体含浸成形体の製造方法やPTFE架橋体被覆成形体の製造方法では、従前よりも塗布回数又は含浸回数を低減することができる。したがって、本発明に係るPTFE架橋体含浸成形体の製造方法やPTFE架橋体被覆成形体の製造方法を用いれば、塗布作業や含浸作業の手間を省くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る架橋性PTFE水性分散液には、架橋性PTFEが30〜70質量%含まれる。なお、本願において、架橋性PTFE濃度(P)は、直径5cmのアルミカップ内の試料約1g(X)を100℃で1時間、引き続き300℃で1時間乾燥させた後の残分(Z)を計量した後に、式:P=Z/X×100(重量%)に基づいて算出される。
【0014】
以下、この架橋性PTFE水性分散液、並びにこの架橋性PTFE水性分散液を利用して得られるPTFE架橋体含浸成形体及びPTFE架橋体被覆成形体について詳述する。
【0015】
<架橋性PTFEの化学構造>
架橋性PTFEとしては、架橋反応可能な部位として、シアノ基(−CN基)ならびに下記一般式(1)および(2)で表される架橋性反応基を有するものが好ましく挙げられる。
【0016】
【化3】

(R1およびR2は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、−OR3,−N(R32,−R3であり、R3は炭素数1〜10のフッ素を含んでもよいアルキル基または水素原子である)
【0017】
【化4】

(R1は水素原子、ハロゲン原子、−OR3,−N(R32,−R3であり、R3は炭素数1〜10のフッ素を含んでもよいアルキル基または水素原子である)
【0018】
これらの中でも、反応性の点からはシアノ基あるいは一般式(1)で表される官能基がより好ましい。また、製造が容易な点からは一般式(2)で表される官能基がより好ましく、特にカルボキシル基であることが好ましい。
【0019】
また、一般式(1)で示される官能基における置換基R3は、反応性の観点から、水素原子であることがより好ましい。
【0020】
また、この官能基は、架橋性PTFEの分子内または分子間の1または複数の官能基と反応して架橋構造を形成する。
【0021】
架橋反応としては以下の2種類が考えられる。
【0022】
(1)π電子欠乏型複素環環化反応
このタイプの架橋反応では、アゾール、トリアゾール、アジン、ジアジン、トリアジン等が形成される。このような架橋反応としてはトリアジン環化反応を経て形成される架橋構造が一例として挙げられる(化学反応式(A)参照)。
【0023】
【化5】

【0024】
また、例えば、官能基としてシアノ基および下式のシアノ基誘導体
【0025】
【化6】

の2種が共存する場合には、下記の化学反応式(B)で示されるイミダゾール環化反応を経て形成される架橋構造が一例として挙げられる。なお、化式4および5において−OMeが−OR3や−N(R32であってもかまわない。
【0026】
【化7】

【0027】
(2)ラジカル的脱炭酸・脱CO反応
COOHやCOOMeは150℃以上に加熱すれば脱CO2を起こしてラジカルを生成する。また、CHOやCOClの場合は、脱COを起こしてラジカルを生成する。そして、これらのラジカルがカップリングすることにより架橋構造が形成される(化学反応式(C)および(D)参照)。
【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
上記2つの架橋反応を適宜利用することによりPTFE架橋体を得ることができる。
【0031】
複素環環化反応を利用する場合、重合性の観点、架橋反応性の鑑定、官能基の安定性の観点からシアノ基を用いたトリアジン環化反応を利用することが好ましく、脱炭酸・脱CO反応を利用する場合、重合性、架橋反応性、官能基の安定性の観点からカルボン酸を用いた脱炭酸/カップリングによる架橋反応が好ましい。
【0032】
架橋反応可能な部位はPTFEへ高分子反応により導入されるものであってもよいし、テトラフルオロエチレン(以下「TFE」と略する)と、架橋反応可能な部位を与える単量体との共重合により導入されるものであってもよい。高分子反応によりPTFEに官能基を導入する手法としては、PTFEを放射線や、レーザー、電子線、プラズマ、コロナ放電などにより処理して官能基を導入する乾式法や、電気化学的に又はLi金属/ナフタレン錯体により還元する湿式法などが従来より知られている。なお、製造容易であることから後者の手法を採用することが好ましい。
【0033】
架橋性PTFEにおいて、架橋部位を与える単量体の含有量は、必須の単量体となるTFEに対して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.03モル%以上、更に好ましくは0.06モル%以上、好ましくは20モル%以下、更に好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下である。架橋反応可能な部位を与える単量体の含有量が0.01モル%以下であれば十分な効果が得られず、単量体の含有量が20モル%以上であれば重合体を得るのが困難になるからである。
【0034】
本実施の形態において、架橋部位を与える単量体としては、エチレン性不飽和結合をもち、かつ、官能基としてシアノ基(−CN基)ならびに下記一般式(1)および(2)で表される官能基を有するものであり、かつ、TFEと共重合性をもつものであれば任意の化合物を用いることができる。
【0035】
【化10】

(R1およびR2は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、−OR3,−N(R32,−R3であり、R3は炭素数1〜10のフッ素を含んでもよいアルキル基または水素原子である)
【0036】
【化11】

(R1は水素原子、ハロゲン原子、−OR3,−N(R32,−R3であり、R3は炭素数1〜10のフッ素を含んでもよいアルキル基または水素原子である)
【0037】
単量体としては、鎖状および環状のいずれの化合物も用いることができる。単量体が環状化合物であれば、上記官能基を有するシクロペンテンおよびその誘導体、ノルボルネンおよびその誘導体、多環ノルボルネンおよびその誘導体、ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ならびにこれらの化合物の水素原子の一部または全部を、ハロゲン原子、特にはフッ素原子や、含フッ素アルキル基に置換した化合物などを一例として挙げることができる。なお、重合性の観点から、単量体は鎖状化合物であるのが好ましい。また、鎖状化合物の中でも特に、下記の一般式(3)で示される単量体が好ましい。
【0038】
CY12=CY3(O)m(R8n−Z1 (3)
(式中、Y1〜Y3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、−CH3、または−CF3であり、R8は2価の有機基であり、nは0または1であり、mは、nが0である場合は0、nが1である場合は0または1であり、Z1は上記官能基のいずれかである)
【0039】
上記の中でも、重合性の観点から、Y1〜Y3が水素原子またはハロゲン原子であるものが望ましく、ハロゲン原子の中でも特にフッ素原子が好ましい。具体的には、CH2=CH−、CH2=CF−、CFH=CF−、CFH=CH−、CF2=CF−が好ましい構造として挙げられる。特に、CH2=CH−、CH2=CF−、CF2=CF−の構造がより好ましい。なお、n=0の場合、CH2=CHCN、CH2=CHCOOR、
【0040】
【化12】

、CF2=CFCN、CF2=CFCOOR、
【0041】
【化13】

といった化合物が架橋可能な単量体として例示し得る。
【0042】
n=0の場合、m=0であるが、n=1の場合、mは0であっても1であってもよい。mが1である場合、CH2=CHO−、CH2=CFO−、CFH=CFO−、CFH=CHO−、CF2=CFO−が好ましい構造として挙げられる。特に、CH2=CHO−、CH2=CFO−、およびCF2=CFO−が好ましい構造として挙げられる。
【0043】
8としては、2価の有機基から任意のものを選ぶことができるが、合成や重合の容易性の観点から、炭素数1〜100のエーテル結合を含んでいてもよいアルキレン基が好ましい。なお、炭素数は、1〜50であることがより好ましく、1〜20であることがさらに好ましい。そのようなアルキレン基は、水素原子の一部または全部がハロゲン原子、特にはフッ素原子に置換されていてもよい。炭素数が100以上であれば、重合が困難になり、架橋を行っても好ましい特性を得ることができないからである。上記アルキレン基は、直鎖型や分岐型のアルキレン基でよい。そのような直鎖型や分岐型のアルキレン基を構成する最小構造単位の一例を下記に示す。
(i)直鎖型の最小構造単位:
【0044】
−CH2−、−CHF−、−CF2−、−CHCl−、−CFCl−、−CCl2
(ii)分岐型の最小構造単位:
【0045】
【化14】

【0046】
8で表されるアルキレン基がエーテル基を含有しない場合、R8で表されるアルキレン基は、これらの最小構造単位単独で、または、直鎖型(i)同士、分岐鎖型(ii)同士、もしくはこれらを適宜組み合わせて構成される。また、R8で表されるアルキレン基がエーテル基を含有する場合、R8で表されるアルキレン基は、これらの最小構造単位単独と酸素原子で、または、直鎖型(i)同士、分岐鎖型(ii)同士と酸素原子で、もしくはこれらを適宜組み合わせて構成することができるが、酸素原子同士が結合することはない。なお、R8で表されるアルキレン基は、以上の例示のなかでも、塩基による脱HCl反応が起こらず、より安定なことから、Clを含有しない構成単位から構成されることが好ましい。
【0047】
また、R8は、−R10−、―(OR10)−、または−(R10O)−(R10は炭素数1〜6のフッ素を含んでいてもよいアルキレン基)で示される構造を有することがさらに好ましい。R10の好ましい具体例としては、つぎの直鎖型または分岐鎖型のものが例示できる。
【0048】
直鎖型のものとしては、−CH2−、−CHF−、−CF2−、−CH2CH2−、−CF2CH2−、−CH2CF2−、−CF2CF2−、−CH2CH2CH2−、−CF2CH2CH2−、−CH2CF2CH2−、−CH2CH2CF2−、−CF2CF2CH2−、−CF2CH2CF2−、−CH2CF2CF2−、−CF2CF2CF2−、―CH2CH2CH2CH2−、―CH2CF2CH2CF2−、―CH2CF2CF2CF2−、―CH2CH2CF2CF2−、―CH2CF2CH2CF2CH2−、―CH2CF2CF2CF2CH2−、―CH2CF2CF2CH2CH2−、―CH2CH2CF2CF2CH2−、―CH2CF2CF2CF2CF2−、―CH2CF2CH2CF2CH2CH2−、―CH2CH2CF2CF2CH2CH2−、―CH2CF2CF2CF2CH2CH2−などが例示でき、分岐鎖型のものとしては、
【0049】
【化15】

などを挙げることができる。また、上記の構成から、下記の化合物が一例として例示し得る。
CH2=CH−(CF2n−Z2 (4)
(式中、nは2〜8の整数)
CY42=CY4(CF2n−Z2 (5)
(式中、Y4は水素原子またはフッ素原子、nは1〜8の整数である)
CF2=CFCF2f4−Z2 (6)
(式中、
【0050】
【化16】

であり、nは0〜5の整数である)
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2m
(OCH2CF2CF2nOCH2CF2−Z2 (7)
(式中、mは0〜5の整数であり、nは0〜5の整数である)
CF2=CFCF2(OCH2CF2CF2m
(OCF(CF3)CF2nOCF(CF3)−Z2 (8)
(式中、mは0〜5の整数であり、nは0〜5の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))mO(CF2n−Z2 (9)
(式中、mは0〜5の整数であり、nは1〜8の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m−Z2 (10)
(式中、mは1〜5の整数である)
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2nCF(−Z2)CF3 (11)
(式中、nは1〜4の整数である)
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)−Z2 (12)
(式中、nは2〜5の整数である)
CF2=CFO(CF2n−(C64)−Z2 (13)
(式中、nは1〜6の整数である)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))nOCF2CF(CF3)−Z2 (14)
(式中、nは1〜2の整数である)
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)−Z2 (15)
(式中、nは0〜5の整数である)、
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−Z2 (16)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数である)
CH2=CFCF2OCF(CF3)OCF(CF3)−Z2 (17)
CH2=CFCF2OCH2CF2−Z2 (18)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)mCF2CF(CF3)−Z2 (19)
(式中、mは0以上の整数である)
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2n−Z2 (20)
(式中、nは1以上の整数である)
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2−Z2 (21)
CF2=CF−(CF2C(CF3)F)n−Z2 (22)
(式中、nは、1〜5の整数である)、
CF2=CFO−(CFY5n−Z2 (23)
(式中、Y5はFまたは−CF3であり、nは1〜10の整数である)
CF2=CFO−(CF2CFY6O)m−(CF2n−Z2 (24)
(式中、Y6はFまたは−CF3であり、mは1〜10の整数であり、nは1〜3の整数である)
CH2=CFCF2O−(CF(CF3)CF2O)n−CF(CF3)−Z2 (25)
(式中、nは0〜10の整数である)
CF2=CFCF2O−(CF(CF3)CF2O)n−CF(CF3)−Z2 (26)
(式中、nは1〜10の整数である)
(一般式(4)〜(26)中、Z2は、上記官能基のいずれかである)
【0051】
なお、上記Z2がCOOR1である場合、−COOR1基が架橋部位として作用するためには、−COOR1基が架橋剤の反応性官能基と反応しやすい構造であることが好ましい。つまり、R1が脱離しやすいことが好ましい。そのようなR1としては、トルエンスルホン酸、ニトロトルエンスルホン酸、およびトリフルオロメタンスルホン酸などのスルホニルエステル、リン酸エステル、ならびに有機リン酸エステルなどが挙げられる。しかし、スルホニルエステルは、脱離するスルホン酸の酸性度が高く金属(例えば成形器の金型)を腐食するおそれがあるため好ましくない。したがって、R1はエーテル結合や芳香環を含んでもよいアルキル基であることが好ましい。この場合、炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましい。また、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されているものは脱離性が高いことから好ましい。R1がエーテル結合や芳香環を含んでもよいアルキル基である場合、R1としては、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、1,1,1−トリフルオロエチル基、1,1,1,2,2―ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基などが挙げられる。ただし、低温で脱CO2し、連鎖移動することなく効率良くカップリングできることから−COOHであることが好ましい。
【0052】
一般式(4)〜(26)で示される単量体では、上記官能基のいずれかが、架橋部位となり、架橋反応が進行する。
【0053】
一般式(5)で示される単量体としては、具体的には、
CF2=CF−CF2−CN、CF2=CF−CF2CF2−CN、
【0054】
【化17】


【0055】
【化18】

、CF2=CF−CF2−COOH、CF2=CF−CF2CF2−COOH、
CF2=CF−CF2−COOCH3、CF2=CF−CF2CF2−COOCH3
などが挙げられるが、架橋反応性の点で、
CF2=CF−CF2−CN、CF2=CF−CF2CF2−CN
【0056】
【化19】


【0057】
【化20】

であることが好ましく、重合反応性が優れている点で、
CF2=CF−CF2−COOH、CF2=CF−CF2CF2−COOH、
CF2=CF−CF2−COOCH3、CF2=CF−CF2CF2−COOCH3であることが好ましい。
【0058】
一般式(22)で示される単量体としては、具体的には、
CF2=CFCF2C(CF3)FCN、CF2=CF(CF2C(CF3)F)2CN、
【0059】
【化21】


【0060】
【化22】

、CF2=CFCF2C(CF3)FCOOH、
CF2=CF(CF2C(CF3)F)2COOH、
CF2=CFCF2C(CF3)FCOOCH3
CF2=CF(CF2C(CF3)F)2COOCH3
などが挙げられるが、重合反応性という点で、CF2=CFCF2C(CF3)FCOOHであることが好ましい。
【0061】
一般式(23)で示される単量体としては、具体的には、
CF2=CFOCF2CF2CF2CN、CF2=CFOCF2CF2CN、
CF2=CFOCF2CN、
【0062】
【化23】


【0063】
【化24】


【0064】
【化25】

、CF2=CFOCF2CF2CF2COOH、CF2=CFOCF2CF2COOH、
CF2=CFOCF2COOH、
CF2=CFOCF2CF2CF2COOCH3
CF2=CFOCF2CF2COOCH3、CF2=CFOCF2COOCH3
などが挙げられるが、架橋反応性、重合反応性という点で、
CF2=CFOCF2CF2CF2COOH、CF2=CFOCF2CF2COOH、
CF2=CFOCF2CF2CF2COOCH3
CF2=CFOCF2CF2COOCH3であることが好ましい。
【0065】
一般式(24)で示される単量体としては、具体的には、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN、
【0066】
【化26】

、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOH、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOCH3
などが挙げられるが、反応性の点で、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN、
【0067】
【化27】

であることが好ましく、製造が容易な点で、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOH、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOCH3
であることが好ましい。
【0068】
一般式(25)で示される単量体としては、具体的には、
CH2=CFCF2OCF(CF3)CN、
CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CN、
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)2CF(CF3)CN、
【0069】
【化28】


【0070】
【化29】


【0071】
【化30】

、CH2=CFCF2OCF(CF3)COOH、
CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOH、
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)2CF(CF3)COOH、
CH2=CFCF2OCF(CF3)COOCH3
CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOCH3
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)2CF(CF3)COOCH3
などが挙げられるが、重合反応性という点で、CH2=CFCF2OCF(CF3)CN、
CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CN、
【0072】
【化31】


【0073】
【化32】

、CH2=CFCF2OCF(CF3)COOH、
CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOH、
CH2=CFCF2OCF(CF3)COOCH3
CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOCH3
であることが好ましい。
【0074】
一般式(26)で示される単量体としては、具体的には、
CF2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CN、
【0075】
【化33】

、CF2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOH、
CF2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOCH3
などが挙げられるが、反応性の点で、
CF2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CN、
【0076】
【化34】

であることが好ましく、製造が容易な点で、
CF2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOH、
CF2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOCH3であることが好ましい。
【0077】
また、一般的に、上記反応性官能基は、−CF(CF3)−CNや−CF(CF3)−COORのように分岐アルキレン基に結合しているよりも、−CF2−CNや−CF2−COORのように直鎖アルキレン基に結合している方が高い反応性を示すため好ましい。
【0078】
なお、本実施の形態に係る架橋性PTFEでは、上述の反応性官能基含有単量体を共重合成分として用いると同時に、任意の単量体も共重合成分として用いることができる。架橋部位を与える単量体以外の単量体は、特に限定されず、例えば、TFE以外のフッ素含有単量体やフッ素非含有単量体などが挙げられる。このような共重合可能な単量体は架橋剤と反応しない官能基を有していてもよい。架橋剤と反応しない官能基としては、ヒドロキシル基、スルホン酸基、リン酸基、スルホン酸イミド基、スルホン酸アミド基、リン酸イミド基、リン酸アミド基、カルボン酸アミド基、およびカルボン酸イミド基などが挙げられる。架橋剤と反応しない官能基を有する単量体を共重合成分に用いた場合は、接着性改善、分散性改善などの効果が期待される。また、このような官能基を含有しない単量体を共重合成分として導入した場合は、粒径の調整、融点の調整、および力学特性の調整などを行うことができる。また、上記「フッ素含有単量体」としては、例えば、フルオロオレフィン、環式のフッ素化された単量体、およびフッ素化アルキルビニルエーテル等が挙げられる。上記フルオロオレフィンとしては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロブチルエチレン等が挙げられる。また、上記環式のフッ素化された単量体としては、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(PDD)、パーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン(PMD)等が挙げられる。また、上記フッ素化アルキルビニルエーテルとしては、例えば、一般式CY72=CY8OR12又はCY72=CY8(OR13nOR12(Y7は同一若しくは異なってHまたはFであり、Y8はH又はFであり、R12は水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキル基または末端に官能基をもつアルキル基であり、R13は同一若しくは異なって、水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されてもよい炭素数1〜8のアルキレン基であり、nは0〜10の整数である)で表されるものが挙げられる。なお、上記フッ素化アルキルビニルエーテルとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好ましい。また、上記「フッ素非含有単量体」としては、上記TFEと共重合性を有するものであれば特に限定されず、例えば炭化水素系単量体等が挙げられる。上記炭化水素性単量体は、フッ素以外のハロゲン原子、酸素、窒素等の元素、各種置換基等を有するものであってもよい。上記炭化水素系単量体としては、例えば、アルケン類、アルキルビニルエーテル類、ビニルエステル類、アルキルアリルエーテル類、アルキルアリルエステル類等が挙げられる。
【0079】
なお、「フッ素含有単量体」や「フッ素非含有単量体」としては、上述したものの中でも、通常PTFEの変性に用いられるフルオロオレフィンやパーフルオロビニルエーテルがより好ましく、HFP、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、VDF、PMVE、PEVE、PPVEが特に好ましい。変性量は、架橋性PTFEとしての基本特性を損なわない限りの量であれば任意の量でよいが、フルオロオレフィンの場合、必須の単量体となるTFEに対して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、好ましくは7モル%以下、より好ましくは5モル%以下、特に好ましくは2モル%以下であり、パーフルオロビニルエーテルの場合、必須の単量体となるTFEに対して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、好ましくは1モル%以下である。
【0080】
<架橋性PTFE水性分散液の製造方法>
本発明に係る架橋性PTFE水性分散液は、乳化重合により得られる架橋性PTFE水性乳化液を濃縮することにより得られる。なお、架橋性PTFE水性乳化液の架橋性PTFE濃度は通常20〜40質量%である。
【0081】
(1)乳化重合
乳化重合の重合条件(温度、時間など)は、モノマーの種類などを考慮して適宜決定すればよい。
【0082】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖または、フルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が好ましい。なお、乳化剤として、代替乳化剤が用いられてもよい。
【0083】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)等の過硫酸塩や、ジコハク酸パーオキシド(DSP)、ジグルタル酸パーオキシド等の有機過酸化物を、単独で又はこれらの混合物の形で使用することができる。また、上記重合開始剤として、亜硫酸ナトリウム等の還元剤と共用し、レドックス系にしたものを用いてもよい。好ましくはカルボキシル基またはカルボキシル基を生成し得る基(例えば、酸フルオライド、酸クロライド、−CF2OHなどが挙げられる。これらはいずれも水の存在下、カルボキシル基を生ずる)を主鎖末端に存在させ得るものが好ましい。具体例としては、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)などが挙げられる。
【0084】
また、分子量の調整に通常使用される連鎖移動剤を使用してもよい。そのような連鎖移動剤として作用する化合物は、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、および水溶性有機化合物の少なくとも1つから成るものである。上記連鎖移動剤は、炭化水素から成りハロゲン化炭化水素を含まないもの、ハロゲン化炭化水素から成り炭化水素を含まないもの、および、炭化水素とフッ化炭化水素とから成るもののいずれであってもよく、また、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、および水溶性有機化合物は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。上記連鎖移動剤としては、反応系内で分散性および均一性が良好である点で、メタン、エタン、ブタン、HFC−134a、HFC−32、メタノール、およびエタノールより成る群から選択される少なくとも1つから成るものであることが好ましい。
【0085】
また、さらには、ヨウ素や臭素原子をもつ化合物を利用することにより、分子量分布が狭いものが得られ、分子量の調整が容易になる。そのようなヨウ素原子をもつ連鎖移動剤としては一般式(27)〜(35)で表される下記の化合物が一例として例示し得る。
I(CF2CF2nI (27)
ICH2CF2CF2(OCF(CF3)CF2mOCF(CF3)−Z3 (28)
ICH2CF2CF2(OCH2CF2CF2mOCH2CF2−Z3 (29)
I(CF2n3 (30)
I(CH2CF2n3 (31)
ICF2CF2OCF2CF(CF3)OCF2CF2−Z3 (32)
ICH2CF2CF2OCH2CF2−Z3 (33)
ICF2CF2OCF2CF2−Z3 (34)
ICF2CF2O(CF2nOCF2CF2−Z3 (35)
(式中、Z3は上記官能基のいずれかであり、mは0〜5の整数であり、nは1以上の整数である)で示される化合物などを用いることができる。これらの中でも、架橋剤と反応可能な架橋部位を有する点から、一般式(28)〜(35)で示される連鎖移動剤が好ましい。
【0086】
本発明で用いる架橋性PTFEは、重合生成物を酸処理することにより、重合生成物に存在しているカルボン酸の金属塩やアンモニウム塩などの基をカルボキシル基に変換することができる。酸処理法としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などにより洗浄するか、これらの酸で重合反応後の混合物の系をpH3以下にする方法が適当である。
【0087】
また、ヨウ素や臭素を含有するPTFEを発煙硝酸により酸化してカルボキシル基を導入することもできる。
【0088】
さらに、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基の導入方法としては、国際公開第00/05959号パンフレットに記載の方法も用いることができる。
【0089】
なお、乳化重合により得られる架橋性PTFE粒子の平均一次粒子径は、通常0.05〜0.5μmであり、好ましくは、0.1〜0.35μmである。なお、この平均粒子径は、架橋性PTFE濃度を0.22質量%に調整した架橋性PTFE水性乳化液(リファレンス)の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均粒子径とから作成された検量線に基づいて決定される。
【0090】
また、架橋性PTFE水性乳化液の調製に用いられる水性媒体は、水を含む液体であれば特に限定されず、有機性液体を含んでいてもよい。この有機性液体としては、特に限定されず、例えば、1−ブタノールやジアセトンアルコール等の低級アルコール類、エチレングルコールや,1,2−プロパンジオール,1,3−プロパンジオール,1,2−ブタンジオール,1,3−ブタンジオール,1,4−ブタンジオール,1,5−ペンタンジオール,2−ブテンー1,4−ジオール,グリセリン,2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール,1,2,6−へキサントリオール等の多価アルコール類、メチルイソブチルケトンやメチルエチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル等のエステル類、N−メチル−2−ピロリドンや,N,N−ジメチルアセトアミド,N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、トルエンや,キシレン,トリメチルベンゼン,メチルエチルベンゼン,プロピルベンゼン,ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、エーテル類、パラフィンワックス類等が挙げられる。なお、これらの有機性液体は1種又は2種以上用いることができる。
【0091】
また、架橋性PTFE水性乳化液の架橋性PTFE濃度は、上述したように通常20〜40質量%である。架橋性PTFE濃度が20質量%未満であると、架橋性PTFE水性乳化液を相分離させるのが困難となることがあり、一方、架橋性PTFE濃度が40質量%を越えると、架橋性PTFE水性乳化液中に存在する含フッ素アニオン性界面活性剤の除去が困難となることがあるからである。架橋性PTFE濃度は、好ましい下限が22質量%、より好ましい下限が25質量%であり、好ましい上限が35質量%、より好ましい上限が30質量%である。
【0092】
(2)架橋性PTFE水性乳化液の濃縮
架橋性PTFE水性乳化液の濃縮方法としては、相分離法や限外濾過膜等による膜分離法が挙げられるが、簡便性や生産性の観点から相分離法が好ましい。
【0093】
相分離法では、架橋性PTFE水性乳化液のpHが2〜3となるように架橋性PTFE水性乳化液に酸成分が添加された後、架橋性PTFE水性乳化液に非イオン性界面活性剤が加えられる。すると、架橋性PTFE水性乳化液は相分離を起こし、架橋性PTFEが下相に集まる。この状態で、上相(上澄み)を除去すると、本発明に係る架橋性PTFE水性分散液が得られる。このときの架橋性PTFE水性分散液の固形分濃度は30〜70質量%である。
【0094】
本発明で用いる非イオン性界面活性剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル等のエーテル型非イオン性界面活性剤、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドブロック共重合体等のポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステルや,ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル,ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル,グリセリン脂肪酸エステル,ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル型非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアミンやアルキルアルカノールアミド等のアミン系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0095】
非イオン性界面活性剤は、芳香族系化合物、直鎖化合物及び分岐鎖を有する化合物の何れであってもよいが、アルキルフェノールを構造中に有しない直鎖化合物又は分岐鎖を有する化合物であることが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル構造のものが好ましく、炭素数10〜20のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル構造を有するものがより好ましく、炭素数10〜15のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル構造を有するものが更に好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテル構造を有する非イオン性界面活性剤としては、ノイゲンTDS−80(第一工業製薬社製)等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0096】
本発明において、非イオン性界面活性剤は、水性乳化液中の架橋性PTFE100質量部に対して10〜40質量部加えることが好ましい。
【0097】
非イオン性界面活性剤は、架橋性PTFE100質量部に対して10質量部未満であると、明確に相分離しない場合があり、一方、架橋性PTFE100質量部に対して40質量部を越えると、経済性が損なわれることがあるからである。なお、本願において、非イオン性界面活性剤の含有量(N)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥した加熱残分(Y)、更にこれを300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)から、式:N=(Y−Z)/X×100(%)に基づき決定したものである。
【0098】
また、本願において、「相分離」とは、架橋性PTFE非含有相と架橋性PTFE含有相とが平衡状態又は未平衡状態にある状態を意味する。ただし、架橋性PTFE水性乳化液に含フッ素アニオン性界面活性剤が含まれている場合、架橋性PTFE非含有相中の含フッ素アニオン性界面活性剤の濃度が後述の範囲内であるように相分離した状態が好ましく、生産時の再現性及び工程管理の点で、平衡状態にあることがより好ましい。
【0099】
本発明における相分離は、例えば、国際公開第2003/078479号パンフレットに記載の方法等にて行うことができる。
【0100】
相分離は、非イオン性界面活性剤の曇点以上の温度にて行うことが好ましく、曇点より5℃以上高い温度にて行うことがより好ましく、曇点より10℃以上高い温度にて行うことが更に好ましい。なお、「曇点」とは、非イオン性界面活性剤水溶液を加熱して非イオン性界面活性剤水溶液を白濁液とした後に、この白濁液を徐々に冷却していったときに液全体が透明となる温度である。本願において、曇点は、ISO1065(Method A)に従い、測定希釈試料15mLを試験管に入れ、完全に不透明になるまで加熱させた後に、その測定希釈試料を攪拌しながら徐々に冷却させた際に液全体が透明となる温度として測定される。
【0101】
また、架橋性PTFE非含有相を除去する方法としては、特に限定されず、デカンテーション等、従来公知の方法にて行うことができる。
【0102】
(3)添加物
本発明に係る架橋性PTFE水性分散液には、目的に応じて、架橋剤や、バインダー樹脂、成膜助剤、レベリング剤、固体潤滑剤、水粉、石英砂、カーボンブラック、ダイヤモンド、トルマリン、ゲルマニウム、アルミナ、窒化珪素、蛍石、クレー、タルク、体質顔料、増量材、導電性フィラー、光輝材、顔料、充填材、顔料分散剤、沈降防止剤、水分吸収剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、抗蝕剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、消泡剤、乾燥剤、ハジキ防止剤、抗酸化剤、活性剤等を添加することができる。
【0103】
架橋剤としては、特に限定されないが、架橋性PTFEの1または複数の反応性官能基と反応して環状構造を形成可能なものが好ましく、架橋性PTFEの1または複数の反応性官能基と反応して複素環を形成することがより好ましい。また、この架橋剤としては、特にπ電子欠乏型複素環環化反応を引き起こすものが好ましい。そして、この場合、架橋反応中に、耐酸化性および耐薬品性などに優れたπ電子欠乏型複素環(アゾ―ル、トリアゾール、アジン、ジアジン、トリアジンなど)が形成される。このような、π電子欠乏型複素環を形成する架橋反応としては、例えば、「新編へテロ環化合物 基礎編、応用編、山中ら、講談社サイエンテイフィック 2004」に記載の公知の反応が利用できる。最終的に形成される架橋構造としては、例えば、シアノ基を含有する架橋性PTFEとシアノ基を複数個含有する架橋剤とからトリアジン環化反応を経て形成される架橋構造、シアノ基を含有する架橋性PTFEとヒドラジン基を複数個含有する架橋剤とからトリアゾール環化反応を経て形成される架橋構造、酸ハライド基、カルボキシル基、あるいはアルコキシカルボニル基を含有する架橋性PTFEとグアニジンを複数個含有する架橋剤とからトリアゾール環化反応を経て形成される架橋構造、酸ハライド基、カルボキシル基、あるいはアルコキシカルボニル基を含有する架橋性PTFEとアミドラゾンを複数個含有する架橋剤とから成るトリアゾール環化による架橋構造などが挙げられる。この中でもとりわけ、1,2結合形成による閉環反応を利用した1,3アゾ―ルの環合成反応を架橋反応として利用することが好ましい。また、複素環を架橋点として導入することにより、PTFE架橋体の他材との密着性が向上するという効果もある。
【0104】
そのような架橋剤としては、下記の一般式(51)で示される架橋性反応基を少なくとも2個含むビスジアミノフェニル系化合物、ビスアミノフェノール系化合物、およびビスアミノチオフェノール系化合物、ならびに一般式(52)で示されるビスアミドラゾン系化合物およびビスアミドキシム系化合物、一般式(53)で示されるビスアミドラゾン系化合物、一般式(54)で示されるビスアミドキシム系化合物より成る群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0105】
【化35】

(式中、R1は、同じかまたは異なり、−NH2、−NHR2、−OHまたは−SHであり、R2は、フッ素原子または1価の有機基である)
【0106】
【化36】

(式中、R3は、−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基、又は単結合手であり、

【0107】
【化37】

(式中、Rf1は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基である)
【0108】
【化38】

(式中、nは1〜10の整数である)
【0109】
一般式(51)で示される架橋性反応基を少なくとも2個有する化合物は、架橋性反応基を2〜3個有することが好ましく、より好ましくは2個有するものである。一般式(51)で示される架橋性反応基が2個未満であると、架橋することができない。
【0110】
一般式(51)で示される架橋性反応基における置換基R2は、水素原子以外の1価の有機基またはフッ素原子である。N−R2結合は、N−H結合よりも耐酸化性が高いため好ましい。
【0111】
1価の有機基としては、限定されるものではないが、脂肪族炭化水素基、フェニル基またはベンジル基が挙げられる。具体的には、例えば、R2の少なくとも1つが−CH3、−C25、−C37などの炭素数1〜10、特に1〜6の低級アルキル基;−CF3、−C25、−CH2F、−CH2CF3、−CH225などの炭素数1〜10、特に1〜6のフッ素原子含有低級アルキル基;フェニル基;ベンジル基;−C65、−CH265などのフッ素原子で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基;−C65-n(CF3n、−CH265-n(CF3n(nは1〜5の整数)などの、−CF3で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基などが挙げられる。
【0112】
これらのうち、耐熱性が特に優れており、架橋反応性が良好であり、さらに合成が比較的容易である点から、フェニル基、−CH3が好ましい。
【0113】
また、架橋剤としては、下記の一般式(55)で示される化合物が、合成が容易な点から好ましい。
【0114】
【化39】

(式中、R1は上記R1と同じ、R5は、−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基、単結合手、または、
【0115】
【化40】

で示される基である)
【0116】
炭素数1〜6のアルキレン基の好ましい具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などを挙げることができ、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基としては、
【0117】
【化41】

などが挙げられる。なお、これらの架橋剤は、特公平2−59177号公報、特開平8−120146号公報などで、ビスジアミノフェニル化合物の例示として知られているものである。
【0118】
これらの中でもより好ましい架橋剤としては、一般式(56)で示される化合物である。
【0119】
【化42】

(式中、R6は、同一であるか又は相違し、いずれも水素原子、炭素数1〜10のアルキル基;フッ素原子を含有する炭素数1〜10のアルキル基;フェニル基;ベンジル基;フッ素原子および/または−CF3で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基である)
【0120】
なお、架橋剤としては、上述したような、1,2結合形成による閉環反応を利用した1,3ベンゾアゾ―ルの環合成反応を架橋反応として利用できるものが特に好ましい。ベンゾアゾ―ルおよび芳香環が導入されることにより、PTFEの他材との密着性が向上するからである。
【0121】
具体例としては、限定的ではないが、例えば、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−パーフルオロフェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−ベンジルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性が優れており、架橋反応性が特に良好である点から、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンがさらに好ましい。
【0122】
これらのビスアミドキシム系架橋剤、ビスアミドラゾン系架橋剤、ビスアミノフェノール系架橋剤、ビスアミノチオフェノール系架橋剤、またはビスジアミノフェニル系架橋剤などは、本発明に用いられるPTFEが有するシアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、酸ハライド基と反応し、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環を形成し、PTFE架橋体を与える。
【0123】
架橋剤の添加量は、架橋性PTFE100重量部に対して、0.01〜20重量部であることが好ましく、0.03〜10重量部であることがより好ましい。架橋剤が、0.01重量部未満であると、実用上充分な機械的強度、耐熱性、耐薬品性が得られない傾向があり、20重量部を超えると、架橋に多大な時間がかかる上、PTFE架橋体が脆くなる傾向があるからである。また、架橋剤の添加量を調整することにより、PTFE成形体の物性を変化させることができる。例えば、架橋性PTFEに導入されている反応性官能基の全てと反応し得る量の架橋剤を添加してもよいし、架橋性PTFEに導入されている反応性官能基の全てと反応させることなく未架橋部位を残し他材との密着性改善など、官能基由来の効果を意図した量の架橋剤を添加するようにしてもよい。
【0124】
なお、本発明に係る架橋性PTFE水性分散液に架橋剤が添加される場合、架橋性PTFEの架橋部位を与える単量体の含有量は、必須の単量体となるTFEに対して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.03モル%以上、更に好ましくは0.06モル%以上、好ましくは50モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは5モル%以下である。架橋部位を与える単量体の含有量が0.01モル%以下であれば十分な効果が得られず、単量体の含有量が50モル%以上であれば重合体を得るのが困難になるからである。
【0125】
バインダー樹脂としては、特に限定されないが、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアミック酸、ポリイミド等が挙げられる。なお、ポリアミドとしては、特に限定されず、例えば、ナイロン6や,ナイロン66,ナイロン11,ナイロン12等の脂肪族ボリアミド、ポリパラフェニレンテレフタラミドやポリメタフェニレンイソフタラミド等の芳香族ボリアミド等が挙げられる。
【0126】
成膜助剤としては、特に限定されないが、解重合性アクリル樹脂やウレタン樹脂等が挙げられる。
【0127】
光輝材としては、特に限定されないが、例えば、マイカ、金属粉末、ガラスビーズ、ガラスバブル、ガラスフレーク、ガラス繊維等が挙げられる。
【0128】
金属粉末としては、特に限定されず、例えば、アルミニウムや,鉄,すず,亜鉛,金,銀,銅等の金属単体の粉末、アルミニウム合金やステンレス等の合金の粉末等が挙げられる。金属粉末の形状としては、特に限定されず、粒子状やブレーク状等が挙げられる。架橋性PTFE水性分散液がこのような光輝材を含有する場合、架橋性PTFE水性分散液は、優れた外観を有する塗膜を形成することができる。光輝材の含有量は、架橋性PTFE水性分散液の固形分に対して0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
【0129】
粘度調節剤としては、特に限定されないが、例えば、メチルセルロース、アルミナゾル、ポリピニルアルコール、カルボキシル化ビニルポリマー等が挙げられる。
【0130】
消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエンや,キシレン,炭素数9〜11の炭化水素系などの非極性溶剤、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0131】
乾燥剤としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルトなどが挙げられる。
【0132】
抗酸化剤としては、特に限定されないが、ポリアリレンサルファイド、窒素含有化合物、錫や,亜鉛,燐等の金属、硫黄等が挙げられる。
【0133】
<PTFE架橋体含浸成形体の製造>
本発明に係るPTFE架橋体含浸成形体は、含浸工程、乾燥工程及び焼成兼架橋工程を経て製造される。
【0134】
含浸工程では、架橋性PTFE水性分散液が被処理物に含浸される。乾燥工程では、含浸工程において被処理物に含浸された架橋性PTFE水性分散液が乾燥される。焼成兼架橋工程では、加熱処理等によって架橋性PTFEが架橋されながら焼成される。なお、乾燥工程と焼成兼架橋工程とは同時に行われてもよい。
【0135】
被処理物としては、特に限定されず、例えば、繊維基材、織布・不織布、焼結金属等が挙げられる。また、繊維基材としては、特に限定されず、例えば、ガラス繊維、ビニル繊維、カーボン繊維、アラミド繊維(ケブラー繊維等)が挙げられる。また、本発明に係るPTFE架橋体含浸成形体は、例えば、膜構造建築物の屋根材(テント膜)や、搬送用ベルト、高周波プリント基板、パッキン、焼結金属軸受等に好適に用いることができる。なお、PTFE架橋体含浸成形体は、通常、被処理物の形状や厚みにもよるが、通常、約10〜100μmの厚さを有する。
【0136】
乾燥は、従来公知の方法により行うことができ、例えば、室温〜150℃の温度で5〜20分間行えばよい。
【0137】
焼成は、架橋性PTFEの溶融温度以上で行う必要があり、通常、340〜415℃の温度下で5〜60分間行うのが好ましく、360〜400℃にて10〜30分間行うことがより好ましい。
【0138】
<PTFE架橋体被覆成形体の製造>
本発明に係るPTFE架橋体被覆成形体は、塗布工程、乾燥工程及び架橋反応工程を経て製造される。塗布工程では、塗料組成物が被処理物に塗布される。乾燥工程では、塗布工程において被処理物に塗布された塗料組成物が乾燥される。架橋反応工程では、架橋性PTFEが架橋される。なお、乾燥工程と架橋反応工程とは同時に行われてもよい。
【0139】
なお、本願において、塗料組成物とは、架橋性PTFE水性分散液に少なくともバインダー樹脂が添加されているものをいう。また、バインダー樹脂は耐熱性樹脂であることが好ましい。
【0140】
塗料組成物の例としては、過去に、フッ素樹脂及び耐熱性樹脂を含む塗料組成物として例えばフッ素樹脂、マイカ又は金属フレーク、解重合性アクリル樹脂、液状担体を含むコーティング組成物(特許文献3参照。)、フッ素樹脂と特定のポリエーテル系ウレタン樹脂とを含有するコーティング用組成物(特許文献4及び特許文献5参照。)が提案されている。
【0141】
また、このような塗料組成物において塗装性を向上させたものとして、特定の溶融粘度を示す溶融加工性フッ素樹脂と分解温度が40℃以下のアクリルコポリマーとを含むコーティング用組成物(特許文献6参照。)、フッ素樹脂粒子、高沸点多価アルコール、解重合性アクリル樹脂及び非イオン性界面活性剤並びに水性媒体からなるコーティング用組成物(特許文献7参照。)も提案されている。
【0142】
これらの塗料組成物は、一般にフッ素樹脂含有水性分散液に樹脂の水性分散液等を加えることにより調製することができる。
【特許文献3】特開昭52−13531号公報
【特許文献4】国際公開第97/40112号パンフレット
【特許文献5】国際公開第99/21927号パンフレット
【特許文献6】特表平11−513052号公報
【特許文献7】国際公開第2003/011991号パンフレット
【0143】
さらにまた、含フッ素重合体は、一方、その非粘着性により被処理物(被塗装物)との密着性に乏しい問題があった。この密着性の向上を目的として、耐熱樹脂等のバインダー樹脂と含フッ素重合体とを配合したプライマーを下塗りとして予め被塗装物上に塗装することが行われている。
【0144】
含フッ素重合体および耐熱樹脂を含む水性プライマーとしては、含フッ素重合体、コロイド状シリカ及び特定のポリアミド酸並びに液状担体を含有する被覆組成物(例えば、特許文献8参照。)、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド及び/又はポリイミド、並び、PTFE等のフッ素樹脂を特定の含有量比で有するもの(例えば、特許文献9参照。)、耐熱樹脂、含フッ素重合体及び特定量の非アルキルフェノール型ノニオン界面活性剤を含有する水性分散体からなる被覆用組成物(例えば、特許文献10参照。)等が挙げられる。
【特許文献8】特開昭52−14630号公報
【特許文献9】国際公開第99/64523号パンフレット
【特許文献10】特開2004−204073号公報
【0145】
被処理物としては、特に限定されず、架橋性PTFEの耐熱性、耐薬品性、撥水撥油性、離型性、摺動性等が優れていることから、成形金型離型材、オフィスオートメーション〔OA〕機器用ロール、アイロン等の家庭用品、フライパンやホットプレート等の厨房器具が挙げられる。また、この架橋性PTFEは、食品工業、電気工業、機械工業等の分野において被覆材として好適に用いられる。
【0146】
被処理物の素材としては、特に限定されず、例えば、アルミニウムや,ステンレス(SUS),鉄,銅等の金属、耐熱樹脂、ホーロー、ガラス、セラミック等からなるものが挙げられ、金属であることが好ましい。金属としては、単体金属又は合金であってよく、また、得られる塗膜との接着性が良好である点で、ステンレス、銅、銅合、金等の酸化膜速形成性金属であってもよいし、アルミニウム、鉄等の酸化膜遅形成性金属であってもよい。また、この被処理物は、何れの形状であってもよい。なお、塗料組成物を被処理物上に均一に塗布させると共に被処理物に対する塗料組成物の密着性を向上させるために、被処理物には、予め脱脂処理や粗面化処理等の表面処理を行うことが好ましい。粗面化処理の方法としては特に限定されず、酸又はアルカリによるケミカルエッチング、陽極酸化(アルマイト処理)、サンドブラスト等が挙げられる。
【0147】
塗料組成物は、被処理物に直接塗布されてもよいし、被処理物との密着性を向上させるためにプライマー層を介して被処理物に塗布されてもよい。なお、プライマー層は、膜厚が1〜100μmであることが好ましい。
【0148】
塗料組成物の塗布方法としては、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法、ドクターブレード法、フローコート法(スピンフロー法やカーテンフロー法)等、公知の塗布方法を採用することができる。
【0149】
乾燥は、従来公知の方法により行うことができ、例えば、室温〜150℃の温度で5〜20分間行えばよい。
【0150】
焼成は、架橋性PTFEの溶融温度以上で行う必要があり、通常、340〜415℃の温度下で5〜60分間行うのが好ましく、360〜400℃にて10〜30分間行うことがより好ましい。
【0151】
なお、被処理物にプライマー層が設けられる場合、焼成は、プライマー層が塗布、乾燥及び焼成された後に行われてもよいし(2コート2ベーク法)、プライマー層が塗布、乾燥され、さらに塗料組成物が塗布、乾燥された後に行われてもよい(2コート1ベーク法)。
【0152】
なお、被処理物上に形成される塗膜は、特に限定されないが、10〜100μmであることが好ましい。
【0153】
また、本発明に係る塗料組成物の用途としては特に限定されず、この塗料組成物は、耐熱エナメル線等の各種電線の被覆材、情報機器部品(紙分離爪,プリンタガイド,ギア,ベアリング)や,コネクタ,バーニインソケット,ICソケット,油田用電気部品,リレー,電磁波シールド,リレーケース,スイッチ,カバー,端子板母線,金属箔等の電気・電子部品の被覆材、バルブシートや,油圧用シール,バックアップリング,ピストンリング,ウェアバンド,ベーン,ボールベアリングリテーナー,ローラー,カム,ギア,ベアリング,ラビリンスシール,ポンプ部品,機械的リンク機構,ブッシング,ファスナ,スプラインライナー,ブラケット,油圧ピストン,ケミカルボンプケーシング,バルブ,弁,継ぎ手,タワーパッキン,コイルボビン,パッキン,コネクタ,ガスケット,バルブシール,埋設ボルト,埋設ナットケーシング,オイルシール,アンテナキャップ等の機械工業関連部品の被覆材、スラストワッシャや,シールリング,ギア,ベアリング,タペット,エンジン部品(ピストン,ピストンリング,バルブステア),トランスミッション部品(スプール弁,ボール逆止弁,シーリング),ロッカーアーム等の車両工業関連部品の被覆材、ジェットエンジン部品(ブッシング,ワッシャ,スペーサー,ナット)や,パワーコントロールクラッチ,ドアヒンジ用ベアリング,コネクタ,チューブクランプ,ブラケット,油圧部品,アンテナ,レドーム,フレーム,燃料系統部品,コンプレッサ部品,ボイラー部品,ロケットエンジン部品,ウェアストリップ,コネクタシェルフ,宇宙構造体等の航空・宇宙産業関連部品の被覆材、半導体工場ダクト等の半導体関連部品の被覆材、包丁や,炊飯釜,餅つき器,オーブン内張り,電気ポット,ホットプレート,フライパン,ホームベーカリー,パントレー,ガステーブル天板,パン天板,ガステーブル,鍋(グリル鍋、圧力鍋),釜,製氷トレー等の調理器具の被覆材、練りロールや,圧延ロール,シュート,コンベア,ダイス,ホッパー等の食品工業用部品、アイロン底板や,雪かきシャベル,すき,のこぎり,やすり,きり,はさみ,包丁等の日用用品の被覆材として使用することができる他、金型や,鋳型,製罐機ピンカバー,メッキ装置用部品,原子力関連部品,超音波トランデューサ,ボテンショメータシャフト,給水栓部品等の被覆材、攪拌翼,タンク内面,ベッセル,塔,遠心分離器,ポンプ,バルブ,配管,熱交換器,メッキ治具,タンクローリー内面,スクリューコンベア等の耐蝕被覆材、OAロールや,OAベルト,OA用分離爪,製紙ロール,フィルム製造用カレンダーロール,インジェクション金型,パイプ,船底等の離型被覆材としても使用することができる。
【0154】
<他の使用態様>
本発明に係る架橋性PTFE水性分散液からフィルムや、繊維、ブロック等の成形体が形成されてもかまわない。また、本発明に係る架橋性PTFE水性分散液は、活性剤等が混合されてペースト状とされ、電池用バインダー(結着剤)として利用されてもかまわない。
【0155】
以下に、架橋性PTFE水性分散液について実施例を示して詳述する。
【0156】
(1)架橋性PTFE水性乳化液の製造
(合成例1)
内容量6Lの撹拌機付きステンレススチール製反応器に、3580gの脱イオン水、94gのパラフィンワックス及び5.4gのパーフルオロオクタン酸アンモニウム分散剤を入れた。次いで反応器の内容物を70℃まで加熱しながら吸引すると同時にTFE単量体でパージして反応器内の酸素を除いた。その後、14.7gのパーフルオロ[3−(1−メチル−2−ビニルオキシ−エトキシ)プロピオニトニル](以下、CNVEと略する)を反応器に加え、内容物を280rpmで攪拌した。
【0157】
反応器中にTFE単量体を0.73MPaの圧力となるまで加えた。20gの脱イオン水に溶解した0.72gの過硫酸アンモニウム(APS)開始剤を反応器に注入し、反応器を0.83MPaの圧力にした。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。TFE単量体を反応器に加えて圧力を保ち、約1.1KgのTFE単量体が反応し終わるまで重合を続けた。その後に、反応器を排気し、内容物を反応器から取り出して冷却した。さらにその後に、その水性分散液から上澄みのパラフィンワックスを取り除いた。
【0158】
得られた架橋性PTFE水性分散液の固形分濃度は26.5重量%であり、平均一次粒子径は0.21μmであった。なお、この平均一次粒子径は、固形分0.15重量%に調製された架橋性PTFE水性分散液が注入された所定のセルに550nmの光を入射したときの透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向径を測定して算出した数平均一次粒子径との相関関係を求めた後に、得られた試料について測定した上記の透過率を上記の相関関係に当てはめることにより求めた(検量線法)。
【0159】
得られた架橋性PTFE水性分散液を脱イオン水で固形分濃度が約15重量%となるように希釈し、高速撹拌条件下で凝固させた。凝固した粉末を145℃で18時間乾燥した。このときの架橋性PTFE粉末のCNVE変性量は0.125mol%であった。なお、変性量は、プローブ直径:4.0mm、測定時回転数:13〜15KHz、測定雰囲気:窒素、測定温度:150℃の測定条件を採用した19F−MASNMR(BRUKER社製)測定法により、TFE由来のピークと変性剤由来のピーク(−77〜−88ppmのピーク)とを検出し、それらのピークの面積比から求めた。また、この架橋性PTFE粉末を380℃まで加熱したが、架橋性PTFE粉末は流動性を示さなかった。
【0160】
(合成例2)
内容量6Lの撹拌機付きステンレススチール製反応器に、3560gの脱イオン水、94gのパラフィンワックス及び5.4gのパーフルオロオクタン酸アンモニウム分散剤を入れた。次いで反応器の内容物を70℃まで加熱しながら吸引すると同時にTFEでパージして反応器内の酸素を除いた。その後、0.17gのエタンガスと15.2gのパーフルオロ[3−(1−メチル−2−ビニルオキシ−エトキシ)プロピオニックアシッド](以下「CBVE」と略する)とを反応器に加え、内容物を280rpmで攪拌した。反応器中にTFEを0.73MPaの圧力となるまで加えた。20gの脱イオン水に溶解した0.36gの過硫酸アンモニウム(以下「APS」と略する)開始剤を反応器に注入し、反応器を0.83MPaの圧力にした。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。TFEを反応器に加えて圧力を保ち、約1.1KgのTFEが反応し終わるまで重合を続けた。その後に、反応器を排気し、内容物を反応器から取り出して冷却した。さらにその後に、その架橋性PTFE水性乳化液から上澄みのパラフィンワックスを取り除いた。
【0161】
得られた架橋性PTFE水性乳化液の固形分濃度は23.5重量%であり、平均一次粒子径は0.08μmであった。なお、この平均一次粒子径は、固形分0.15重量%に調製された架橋性PTFE水性乳化液が注入された所定のセルに550nmの光を入射したときの透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向径を測定して算出した数平均一次粒子径との相関関係を求めた後に、得られた試料について測定した上記の透過率を上記の相関関係に当てはめることにより求めた(検量線法)。
【0162】
得られた架橋性PTFE水性乳化液を脱イオン水で固形分濃度が約15重量%となるように希釈し、高速撹拌条件下で凝固させた。凝固した粉末を145℃で18時間乾燥した。このときの架橋性PTFE粉末のCBVE変性量は0.26mol%であった。なお、変性量は、プローブ直径:4.0mm、測定時回転数:13〜15KHz、測定雰囲気:窒素、測定温度:150℃の測定条件を採用した19F−MASNMR(BRUKER社製)測定法により、TFE由来のピークと変性剤由来のピーク(−77〜−88ppmのピーク)とを検出し、それらのピークの面積比から求めた。
【0163】
(合成例3)
合成例2における15.2gのCBVEを14.6gのCNVEとした以外は合成例2と同様に重合を行った。
【0164】
このとき得られた架橋性PTFE水性乳化液の固形分濃度は23.1重量%であり、平均一次粒子径は0.17μmであった。また、このときの架橋性PTFE粉末のCNVE変性量は0.14mol%であった。
【0165】
(合成例4)
合成例2における0.17gのエタンガスを0.03gのエタンガスに代え、15.2gのCBVEを15.7gのパーフルオロ[3−(1−メチル−2−ビニルオキシ−エトキシ)プロピオン酸メチル](以下「RVEE」と略する)とした以外は合成例2と同様に重合を行った。
【0166】
このとき得られた架橋性PTFE水性乳化液の固形分濃度は23.8重量%であり、平均一次粒子径は0.18μmであった。また、このときの架橋性PTFE粉末のRVEE変性量は0.20mol%であった。
【0167】
(合成例5)
内容量6Lの撹拌機付きステンレススチール製反応器に、3560gの脱イオン水、94gのパラフィンワックス及び5.4gのパーフルオロオクタン酸アンモニウム分散剤を入れた。次いで反応器の内容物を70℃まで加熱しながら吸引すると同時にTFEでパージして反応器内の酸素を除いた。その後、0.17gのエタンガスと16.6gのパーフルオロブテン酸(以下「PFBA」と略する)とを反応器に加え、内容物を280rpmで攪拌した。反応器中にTFEを0.73MPaの圧力となるまで加えた。20gの脱イオン水に溶解した0.36gのAPS開始剤を反応器に注入し、反応器を0.83MPaの圧力にした。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。TFEを反応器に加えて圧力を保ち、約1.1KgのTFEが反応し終わるまで重合を続けた。その後に、反応器を排気し、内容物を反応器から取り出して冷却した。さらにその後、架橋性PTFE水性乳化液から上澄みのパラフィンワックスを取り除いた。
【0168】
得られた架橋性PTFE水性乳化液の固形分濃度は23.7重量%であり、平均一次粒子径は0.22μmであった。なお、この平均一次粒子径は、固形分0.15重量%に調製された架橋性PTFE水性乳化液が注入された所定のセルに550nmの光を入射したときの透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向径を測定して算出した数平均一次粒子径との相関関係を求めた後に、得られた試料について測定した上記の透過率を上記の相関関係に当てはめることにより求めた(検量線法)。
【0169】
得られた架橋性PTFE水性乳化液を脱イオン水で固形分濃度が約15重量%となるように希釈し、高速撹拌条件下で凝固させた。凝固した架橋性PTFE粉末を145℃で18時間乾燥した。このときの架橋性PTFE粉末のPFBA変性量は0.28mol%であった。なお、変性量は、プローブ直径:4.0mm、測定時回転数:13〜15KHz、測定雰囲気:窒素、測定温度:150℃の測定条件を採用した19F−MASNMR(BRUKER社製)測定法により、TFE由来のピークと変性剤由来のピーク(PFBAの場合は−179〜−190ppmのピーク、CBVEおよびCNVEの場合は−77〜−88ppmのピーク)とを検出し、それらのピークの面積比から求めた。
【0170】
(合成例6)
合成例5におけるPFBAの量を6.6gとした以外は合成例5と同様に重合を行った。
【0171】
このとき得られた架橋性PTFE水性乳化液の固形分濃度は23.8重量%であり、平均一次粒子径は0.20μmであった。また、このときの架橋性PTFE粉末のPFBA変性量は0.14mol%であった。
【0172】
(合成例7)
合成例5におけるPFBAの量を6.6gとし、エタンの量を3.0mlとした以外は合成例5と同様に重合を行った。
【0173】
このとき得られた架橋性PTFE水性乳化液の固形分濃度は23.7重量%であり、平均一次粒子径は0.23μmであった。また、このときの架橋性PTFE粉末のPFBA変性量は0.12mol%であった。
【0174】
なお、本合成例では、連鎖移動剤としてのエタンの添加量が合成例5及び6のそれよりも少ないため、本合成例で得られるPTFEは合成例5及び6で得られるPTFEの分子量よりも大きいものになる。ちなみに、このことはASTM D 4895−89に準拠して作製されたサンプルを用いて水中置換法により測定した標準比重〔SSG〕により確認されている。
【0175】
(合成例8)
合成例5におけるPFBAの量を1.7gとし、エタンの量を3.0mlとした以外は合成例5と同様に重合を行った。
【0176】
このとき得られた架橋性PTFE水性乳化液の固形分濃度は23.2重量%であり、平均一次粒子径は0.20μmであった。また、このときの架橋性PTFE粉末のPFBA変性量は0.03mol%であった。
【0177】
(合成例9)
内容量6Lの撹拌機付きステンレススチール製反応器に、3380gの脱イオン水を入れた。次いで反応器の内容物を70℃まで加熱しながら吸引すると同時にTFEでパージして反応器内の酸素を除いた。その後、0.51gのエタンガスと6.6gのPFBAとを反応器に加え、内容物を700rpmで攪拌した。反応器中にTFEを0.73MPaの圧力となるまで加えた。20gの脱イオン水に溶解した0.68gのAPS開始剤を反応器に注入し、反応器を0.83MPaの圧力にした。開始剤の注入後に圧力の低下が起こり重合の開始が観測された。TFEを反応器に加えて圧力を保ち、約0.8KgのTFEが反応し終わるまで重合を続けた。そして、反応器を排気し室温まで冷却した後、得られた架橋性PTFE粉末を脱イオン水で洗浄した上で濾別した。
【0178】
得られた架橋性PTFE粉末を145℃で18時間乾燥した。このときの架橋性PTFE粉末のPFBA変性量は0.20mol%であった。
【0179】
(合成例10)
合成例9における6.6gのPFBAを15.2gのCBVEとした以外は合成例9と同様に重合を行った。
【0180】
このとき得られた架橋性PTFE粉末を145℃で18時間乾燥した。また、このときの架橋性PTFE粉末のCBVE変性量は0.45mol%であった。
【0181】
(合成例11)
合成例9における6.6gのPFBAを15.2gのCBVEとし、APS開始剤の量を0.07gとし、エタンを用いなかった以外は合成例9と同様に重合を行った。
【0182】
このとき得られた架橋性PTFE粉末を粗く粉砕した後に145℃で18時間乾燥した。その後、微粉砕機で平均粒径が10〜150μmになるまで粉砕して、成形用の架橋性PTFE粉末を得た。このときの架橋性PTFE粉末のCBVE変性量は0.35mol%であった。
【0183】
(合成例12)
合成例5における16.6gのPFBAを14.6gのCNVEとした以外は合成例5と同様に重合を行った。
【0184】
このとき得られた架橋性PTFE水性乳化液の固形分濃度は23.1重量%であり、平均一次粒子径は0.17μmであった。また、このときの架橋性PTFE粉末のCNVE変性量は0.14mol%であった。
【0185】
(合成例13)
合成例5における16.6gのPFBAを15.7gのRVEE、エタンガスの量0.17gを0.07gとした以外は合成例5と同様に重合を行った。
【0186】
このとき得られたPTFE水性乳化液の固形分濃度は23.5重量%であり、平均一次粒子径は0.18μmであった。また、このときのPTFE粉末のRVEE変性量は0.25mol%であった。
【0187】
(2)架橋性濃縮PTFE水性分散液の濃縮
【実施例1】
【0188】
合成例1により得られた架橋性PTFE水性分散液(架橋性PTFE固形分濃度26.5重量%)に、非イオン性界面活性剤RO(CH2CH2O)nH(R:トリデシル基)(第一工業製薬株式会社製 製品名:ノイゲンTDS−80C)を、架橋性PTFE固形分重量に対して18重量%添加し、得られた水性分散液を数分間穏やかに攪拌した。
【0189】
そして、この水性分散液を70℃で温浴加熱し、20時間静置した。そして、その後生じた透明な上澄み層を除去したところ、固形分濃度が60重量%の架橋性PTFE濃縮分散液が得られた。なお、TDS−80Cの含有量PTFE固形分に対して4.4%であった。
【0190】
また、この架橋性PTFE濃縮分散液にTDS−80Cをさらに添加し、TDS−80Cの含有量がPTFE固形分重量に対して6重量%になるように調製した。
【0191】
なお、上記合成例2〜13で得られた架橋性PTFE水性分散液は、上記実施例と同様の方法によって濃縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明に係る架橋性PTFE水性分散液や塗料組成物は、架橋性PTFEが高濃度で存在するという特徴を有し、塗布作業や含浸作業の効率化に貢献する。
【0193】
また、本発明に係るPTFE架橋体含浸成形体の製造方法やPTFE架橋体被覆成形体の製造方法は、架橋性PTFEが高濃度で存在する架橋性PTFE水性分散液や塗料組成物を用いるという特徴を有し、塗布作業や含浸作業の効率化に貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアノ基(−CN)、一般式(1)で表される第1官能基:
【化1】

(R1およびR2は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、−OR3,−N(R32,−R3であり、R3は炭素数1〜10のフッ素を含んでもよいアルキル基または水素原子である)、および一般式(2)で表される第2官能基:
【化2】

(R1は水素原子、ハロゲン原子、−OR3,−N(R32,−R3であり、R3は炭素数1〜10のフッ素を含んでもよいアルキル基または水素原子である)より成る群から選択される少なくとも1種の反応性官能基を有する架橋性ポリテトラフルオロエチレンが30〜70質量%含まれる
架橋性ポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項2】
請求項1に係る架橋性ポリテトラフルオロエチレン水性分散液を被処理物に含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程において被処理物に含浸された前記架橋性ポリテトラフルオロエチレン水性分散液を乾燥させる乾燥工程と、
前記架橋性ポリテトラフルオロエチレンを架橋させながら焼成する焼成兼架橋工程と
を備えるポリテトラフルオロエチレン架橋体含浸成形体の製造方法。

【公開番号】特開2009−203445(P2009−203445A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50208(P2008−50208)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】