説明

染色された繊維構造体の製造方法および染色された繊維構造体および繊維製品

【課題】ポリ乳酸繊維を含む染色された繊維構造体であって、染色堅牢度に優れ、かつ湿熱環境下で繊維強度の低下が小さい染色された繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた染色された繊維構造体、および該染色された繊維構造体を用いてなる繊維製品を提供すること。
【解決手段】融点が195℃以上のポリ乳酸繊維を含む繊維構造体Aを染色処理した後に還元洗浄処理を施すことにより、染色された繊維構造体を得た後、必要に応じて衣料、車両内装材、インテリア用品などの繊維製品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸繊維を含む染色された繊維構造体であって、染色堅牢度に優れ、かつ湿熱環境下で繊維強度の低下が小さい染色された繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた染色された繊維構造体、および該染色された繊維構造体を用いてなる衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸繊維は生分解性や環境負荷が小さいという優れた特徴を有しているため、衣料やインテリア製品などとして巾広く使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、ポリ乳酸繊維は生分解性という優れた特徴を有している反面、湿熱下で繊維強度が低下しやすいという欠点を有している。
【0003】
他方、ポリ乳酸繊維は、衣料などとして用いられる場合、ファッション性などを高めるため通常染色される。その際、用いられる染料は、一般にポリエチレンテレフタレート繊維用の分散染料が使用されるが、ポリ乳酸繊維はポリエチレンテレフタレート繊維などの芳香族ポリエステル繊維とは異なり加水分解を受け易いため、低温で染色処理を行う必要がある。そして、その結果として、ポリ乳酸繊維内部への染料の拡散が進まず、ポリ乳酸繊維表面に付着する染料量が多くなるため、染色洗濯堅牢度が悪くなるという問題があった。
【0004】
また、分散染料を用いて染色処理を行う際、染色堅牢度を向上させるため、強いアルカリ条件下でハイドロサルファイト、二酸化チオン尿素などの還元剤を用いて還元洗浄を行うのが一般的である。しかしながら、ポリ乳酸繊維は強いアルカリ条件下では加水分解を受け易いため、ポリ乳酸繊維の脆化や劣化を招き、極端な強度劣化につながるため、強いアルカリ条件下で還元洗浄を行うことができず、染色洗濯堅牢度がさらに低下するという問題があった。
【0005】
このため、特許文献3では、染色処理後に70℃以下の低温かつ酸性条件下で還元洗浄処理することが提案されているが、染色堅牢度および湿熱処理後の繊維強度を満足なレベルまで高めることはできなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−105629号公報
【特許文献2】特許第3731432号公報
【特許文献3】特開2001−355187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリ乳酸繊維を含む染色された繊維構造体であって、染色堅牢度に優れ、かつ湿熱環境下で繊維強度の低下が小さい染色された繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた染色された繊維構造体、および該染色された繊維構造体を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、高融点のポリ乳酸繊維を用いて繊維構造体を得て、該繊維構造体を染色処理した後、還元洗浄処理を施すと、所望の、染色堅牢度に優れ、かつ湿熱環境下で繊維強度の低下が小さい染色された繊維構造体が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば「ポリ乳酸繊維を含む繊維構造体Aを染色処理した後に還元洗浄処理を施すポリ乳酸繊維を含む染色された繊維構造体の製造方法であって、
前記ポリ乳酸繊維の融点が195℃以上であることを特徴とするポリ乳酸繊維を含む染色された繊維構造体の製造方法。」が提供される。
【0010】
その際、前記ポリ乳酸繊維が、(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD−乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなることが好ましい。
【0011】
【化1】

式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0012】
【化2】

式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0013】
また、前記ポリ乳酸組成物が、ポリL−乳酸成分(A成分)とポリD−乳酸成分(B成分)との合計100重量部当たり0.1〜5重量部のカルボキシル末端封止剤を含有していることが好ましい。また、繊維構造体Aに他の繊維としてポリエステル繊維が含まれることが好ましい。その際、かかるポリエステル繊維がポリエチレンテレフタレート繊維であることが好ましい。
【0014】
本発明のポリ乳酸繊維を含む染色された繊維構造体の製造方法において、繊維構造体Aが織物組織または編物組織を有することが好ましい。また、前記の染色処理を温度120℃以上で行うことが好ましい。また、前記の還元洗浄処理をpH8〜2の還元浴中で温度60〜98℃の範囲内で行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明によれば、前記の製造方法により製造された染色された繊維構造体が提供される。その際、かかる染色された繊維構造体を温度70℃、湿度90%RHの環境下で1週間処理した後、該染色された繊維構造体に含まれる前記ポリ乳酸繊維の繊維強度が0.5cN/dtex以上であることが好ましい。また、かかる染色された繊維構造体の明度指数L値が80以下であることが好ましい。また、かかる染色された繊維構造体において、AATCC IIA法により測定した、繊維構造体の洗濯堅牢度が3級以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明によれば、前記の染色された繊維構造体を用いてなる、スポーツ衣料、ニフォーム衣料、シャツ、ブルゾン、パンツ、コート、カーシート表皮材または床材または天井材である車両内装材、カップまたはパッドである衣料資材、カーテンまたはカーペットまたはマットまたは家具または椅子張りであるインテリア用品、ベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、フェルト、フィルター、産業資材、アクセサリー、形態ストラップ、めがね拭き、食器拭き、マウスパッド、ぬいぐるみ、おもちゃ張り、帽子、手袋、ホワイトボードクリーナー、ノートの表紙、小物類からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリ乳酸繊維を含む染色された繊維構造体であって、染色堅牢度に優れ、かつ湿熱環境下で繊維強度の低下が小さい染色された繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた染色された繊維構造体、および該染色された繊維構造体を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリ乳酸繊維は、その融点が195℃以上(好ましくは195〜260℃)であることであることが肝要である。該融点が195℃未満では、染色堅牢度に優れ、かつ湿熱環境下で繊維強度の低下が小さい染色された繊維構造体が得られず好ましくない。なお、融点は示差走査熱量計(DSC)で測定した融解ピーク温度のことであり、該融解ピーク温度が2箇所以上ある場合は、最も高い温度を融点とする。
【0019】
このような融点が195℃以上のポリ乳酸繊維としては、(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD−乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなるポリ乳酸繊維が好ましい。
【0020】
ここで、前記ポリL−乳酸(A成分)は、主としてL−乳酸単位からなる。L−乳酸単位はL−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリL−乳酸(A成分)は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてD−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。D−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0021】
乳酸以外の単位としては、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位が挙げられる。
【0022】
ポリL−乳酸(A成分)は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることができるからである。
ポリL−乳酸(A成分)において、重量平均分子量が5万〜30万(より好ましくは10万〜25万)であることが好ましい。
【0023】
一方、前記ポリD−乳酸(B成分)は、主としてD−乳酸単位からなる。D−乳酸単位はD−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリD−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてL−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。L−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0024】
乳酸以外の単位としては、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位が挙げられる。
【0025】
ポリD−乳酸(B成分)は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることができるからである。
ポリD−乳酸(B成分)において、重量平均分子量が5万〜30万(より好ましくは10万〜25万)であることが好ましい。
【0026】
ポリL−乳酸(A成分)またはポリD−乳酸(B成分)は、L−乳酸またはD−乳酸を直接脱水縮合する方法で製造したり、L−乳酸またはD−乳酸を一度脱水環化してラクチドとした後に開環重合したりする方法で製造することができる。これらの方法に用いる触媒として、オクチル酸スズ、塩化スズ、スズのアルコキシドなどの2価のスズ化合物、酸化スズ、酸化ブチルスズ、酸化エチルスズなど4価のスズ化合物、金属スズ、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、ランタニド化合物などを例示することができる。
【0027】
ポリL−乳酸(A成分)およびポリD−乳酸(B成分)は、重合時使用された重合触媒を溶媒で洗浄除去するか、触媒活性を不活性化しておくのが好ましい。触媒活性を不活性化するには、触媒失活剤を用いることができる。
【0028】
触媒失活剤として、イミノ基を有し且つ金属重合触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび式(3)で表される有機リンオキソ酸化合物群から選択される少なくとも1種が挙げられる。触媒失活剤は、重合終了の時点において触媒中の金属元素1当量あたり、好ましくは0.3〜20当量、より好ましくは0.4〜15当量、さらに好ましくは0.5〜10当量配合する。
−P(=O)(OH)(OX2−n (3)
式中、mは0または1、nは1または2、XおよびXは各々独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。
【0029】
ポリL−乳酸(A成分)およびポリD−乳酸(B成分)中の金属イオン含有量は20ppm以下であることが繊維の耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。金属イオン含有量は、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンから選ばれる金属の各々の含有量が20ppm以下であることが好ましい。
【0030】
次に、前記燐酸エステル金属塩(C成分)は、下記式(1)または(2)で表される化合物である。燐酸エステル金属塩は1種類を用いても複数種類を併用してもよい。
【化3】

【0031】
式(1)において、Rは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rで表される炭素数1〜4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基などが例示される。
、Rは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0032】
式(1)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えばRが水素原子、R、Rがともにtert−ブチル基のものが挙げられる。
【化4】

【0033】
式(2)においてR、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
式(2)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、R、Rがメチル基、Rがtert−ブチル基のものが挙げられる。燐酸エステル金属塩として、(株)ADEKA製の商品名、NA−11およびNA−71が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
【0034】
特開2003−192884号公報に記載のように、式(1)または(2)で表される化合物はポリ乳酸の結晶核剤として知られた化合物である。しかし、本発明において、式(1)、式(2)中のMおよびMは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であることを特徴とする。式(1)、式(2)中のMおよびMが、アルミニウムなどの他の金属である場合、化合物自体の耐熱性が低く、紡糸時に昇華物が発生し、紡糸することが困難な場合がある。
【0035】
燐酸エステル金属塩(C成分)は、平均一次粒径が好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜7μmである。粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、それほど小さくする必要もない。また10μmより大きいと、紡糸、延伸時、断糸の頻度が高まる。
【0036】
燐酸エステル金属塩(C成分)の含有量は、ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との合計100重量部当たり、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.05〜4重量部、特に好ましくは0.1〜3重量部である。0.01重量部より少量であると所望の効果がほとんど認められない。また5重量部より多量に使用すると繊維形成時、熱分解を起こしたり、断糸が起きたりする場合があり好ましくない。
【0037】
ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との比は、A成分/B成分(重量)で、好ましくは40/60〜60/40、より好ましくは45/55〜55/45、さらに好ましくは50/50である。
【0038】
A成分、B成分およびC成分の混合は、従来公知の各種方法を使用することができる。例えば、A成分、B成分およびC成分を、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウタミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、1軸または2軸の押出機等で混合することができる。
【0039】
こうして得られるポリ乳酸組成物は、溶融混合され、そのまま、または計量ポンプなどを経由して紡糸装置に移送することもできる。溶融混合する温度は、得られるステレオコンプレックスポリ乳酸の融点より高い温度であることが好ましく、220℃よりも高いことが好ましい。また、一旦ペレット状にしてから紡糸装置に供給することもできる。ペレット長は1〜7mm、長径3〜5mm、短径1〜4mmのものが好ましい。ペレットの形状は、ばらつきのないものが好ましい。ペレット化された組成物は、プレッシャーメルター型や1軸あるいは2軸エクストルーダー型などの通常の溶融押出し機を使用して紡糸装置に移送することもできる。ステレオコンプレックス結晶の形成にあたっては、A成分およびB成分を十分に混合することが重要であり、とりわけ剪断応力下、混合することが好ましい。
【0040】
前記のポリ乳酸組成物には、耐湿熱性改善剤として、特定官能基を有するカルボキシル基末端封止剤が好適に適用できる。かかるカルボキシル末端封止剤としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましい。末端カルボキシル基末端封止剤を含有することで、耐湿熱性改善の作用を向上させることができるのみならず、紡糸性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0041】
ここで、エポキシ化合物として、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
【0042】
また、カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブイチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。
【0043】
なかでも反応性、安定性の観点からビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カーボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。
【0044】
また、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。
【0045】
市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡績株式会社より市販されている「カルボジライト」を用いることができ、具体的にはポリ乳酸樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」LA−1、あるいはポリエステル樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」HMV−8CA等を例示することができる。
【0046】
カルボジイミド化合物は、従来公知の方法により製造することもできる。例えば触媒として有機リン化合物または有機金属化合物を使用して、有機イソシアネートを70℃以上の温度で無溶媒あるいは不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応に附することにより製造することができる。またポリカルボジイミド化合物は、従来公知のポリカルボジイミド化合物の製造法、例えば米国特許2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28, 2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621等により製造することができる。
【0047】
カルボキシル基末端封止剤の含有量は、ポリ乳酸組成物100重量部当たり、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部である。かかる範囲のカルボキシル基末端封止剤を含有するポリ乳酸繊維は、100℃の沸水中30分間の処理後の分子量保持率が95%以上となり、さらに好ましい繊維を得ることができる。
【0048】
本発明において、ポリ乳酸繊維は広角X線回折法(XRD)測定によるステレオ化率が90%以上であることが好ましい。また、繊維強度としては、引張強度で2.3cN/dtex以上であることが好ましい。また、示差走査熱量計(DSC)測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度が195℃以上であることが好ましい。
【0049】
このようなポリ乳酸繊維は例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、前記ポリ乳酸組成物をエクストルーダー型やプレッシャーメルター型の溶融押出し機で溶融した後、ギヤポンプにより計量し、パック内で濾過した後、口金に設けられたノズルからモノフィラメンント、マルチフィラメント等として吐出され紡糸する。その際、口金の形状は異型(中空丸型も含む)用口金であればいずれも採用することができる。吐出孔数は特に制限されるものではない。吐出された糸は直ちに冷却・固化された後集束され、油剤を付加されて巻き取られる。紡糸速度は特に限定されるものではないがステレオコンプレックス結晶が形成され易くなることより300〜5000m/分の範囲が好ましい。特に延伸性の観点から未延伸糸のステレオ化率が0%となる紡糸速度が好ましい。巻き取られた未延伸糸はその後延伸工程に供されるが、紡糸工程と延伸工程は必ずしも分離する必要はなく、紡糸後いったん巻き取ることなく引続き延伸を行う直接紡糸延伸法を採用してもよい。かかる未延伸糸は、広角X線回折法の測定では実質的に非晶性である。また、示差走査熱量計(DSC)測定を行った際に、低温結晶融解相(A)と高温結晶融解相(B)の少なくとも2つの吸熱ピークを示すことはなく、実質的にステレオコンプレックス結晶の単一融解ピークを示す。かかる融解ピーク温度は195℃以上である。すなわち、未延伸糸は非晶性のステレオコンプレックスを形成しているが、低温結晶相を形成可能なポリL−乳酸相およびまたはポリD−乳酸相を含有してないものと推定する。これらの特徴は、繊維が燐酸エステル金属塩(C成分)を含有していることに起因し、従来まったく予想されなかった有用な特性である。
【0050】
未延伸糸の段階でポリL−乳酸またはポリD−乳酸の結晶相を有しないことは、その後の延伸工程以降に高いステレオ化率を得るのに有効である。
延伸は、1段でも、2段以上の多段延伸でも良く、高強度の繊維を製造する観点から、延伸倍率は、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは3〜10倍である。しかし、延伸倍率が高すぎると繊維が失透し白化するため、繊維の強度が低下する。延伸の予熱は、ロールの昇温のほか、平板状あるいはピン状の接触式加熱ヒータ、非接触式ヒータ、熱媒浴などにより行うことができる。延伸温度は、好ましくは70〜140℃、より好ましくは80〜130℃である。延伸糸においても、低温結晶融解相(A)は実質的に全く観察されず、高温結晶融解相(B)の単一融解ピークのみが見られる。また、延伸糸の高温結晶融解相(B)の融解開始温度は190℃以上、好ましくは200℃以上である。加えて、延伸糸の広角X線回折測定によるステレオコンプレックス結晶回折ピークの積分強度よりもとめたステレオ化率(Sc率)は90%以上と高い水準にある。
【0051】
さらに、かかる延伸糸を熱処理することが好ましい。熱処理は170〜220℃(好ましくは180〜200℃)で行う。熱処理はテンション下で行うことが好ましい。熱処理は、ホットローラー、接触式加熱ヒータ、非接触式熱板などで行うことができる。熱処理することにより、高いステレオ化率を有し、耐熱性や耐アイロン性に優れ、強度2.3cN/dTex以上の繊維を得ることができる。
【0052】
本発明の製造方法に用いる繊維構造体Aは、前記のポリ乳酸繊維を含む繊維構造体である。ここで、前記のポリ乳酸繊維の形態としては、単糸繊度が0.01〜20dtex(より好ましくは0.1〜7dtex)、総繊度が30〜500dtex、フィラメント数が20〜200本の範囲内のマルチフィラメント(長繊維)であることが好ましい。ポリ乳酸繊維の単繊維横断面形状は特に限定されず、通常の丸断面、丸中空断面、三角断面、四角断面、扁平断面、くびれ付扁平断面いずれでもよい。また、該糸条に撚糸や空気加工、仮撚捲縮加工など施してもよい。特に、該ポリ乳酸繊維に100〜600T/m程度の撚糸が施されていると布帛の耐摩耗性が向上するだけでなく、繊維構造体を製造する際の取扱い性が向上し好ましい。また、前記糸条(ポリ乳酸繊維)のみを用いて布帛を構成することが好ましいが、布帛重量に対して60重量%以下であれば、ポリエステル繊維など他の繊維が含まれていてもさしつかえない。その際、かかるポリエステル繊維としては通常のポリエチレンテレフタレート繊維が好適である。
【0053】
また、前記の繊維構造体Aにおいて、その構造は特に限定されないが、通常の織機または編機により製編織された織物または編物であることが好ましい。もちろん、糸条、詰綿、不織布や、マトリックス繊維と熱接着性繊維とからなる繊維構造体などでもよい。その際、織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、丸編物(よこ編物)であってもよいしたて編物であってもよい。丸編物(よこ編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。さらには、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であってもよい。
【0054】
本発明の製造方法において、前記の繊維構造体Aに染色処理を施す。かかる染色処理としては特に制限されず、通常の分散染料を用いた染色処理でよい。例えば、繊維構造体Aに他の繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維などの芳香族ポリエステル繊維が含まれる場合、分散染料の他、均染剤、pH調整剤等を含んだ染料水溶液にて120℃以上(好ましくは120〜135℃)の温度で20〜40分間染色処理を行うとよい。染色に用いる染料としては、洗濯堅牢度が良好なアゾ系分散染料が好ましく例示されるが、特に限定されない。なかでも、後記の洗浄処理液中で容易に分解される分散染料として、ジエステル基を有する分散染料、アゾ系分散染料、中でもチアゾール型、チオフェン型が好ましく例示されるが、特に限定されない。さらに、アントラキノン系分散染料、ベンゾジフィラノン型分散染料、アルキルアミン基を有する分散染料なども挙げられる。
【0055】
次いで、かかる染色処理された繊維構造体に還元洗浄処理を施す。その際、pH8〜2の還元浴中で還元洗浄処理する事が好ましい。ph8より大のアルカリ領域では、ポリ乳酸繊維が加水分解され、繊維強度が低下するおそれがある。
【0056】
また、還元剤としては、錫系還元剤、ロンガリットC、ロンガリットZ、塩化第1スズ、スルフィン系還元剤、ハイドロサルファイトなどが挙げられる。還元剤の使用濃度は、1〜10g/L、が好ましく、使用染料タイプ、染色濃度、還元浴温度によって濃度を選定すればよい。還元浴の処理温度は特に限定しないが、60〜98℃の範囲が好ましく、処理時間は10〜40分が好ましい。
【0057】
さらには、還元浴中での処理の際に、繊維膨潤剤として、一般に用いられるキャリヤー、例えばクロルベンゼン系キャリヤー、メチルナフタレン系キャリヤー、オルソフェニールフェノール系キャリヤー、芳香族エーテル系キャリヤー、芳香族エステル系キャリヤーなどを用いてもよい。この繊維膨潤剤としては、繊維に親和性があると考えられるポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルピコリニウムクロライドなどが挙げられるが、限定はされない。
【0058】
以上の製造方法によれば、還元洗浄処理をpH8以下の弱アルカリ性〜酸性領域で処理するので、還元洗浄処理の際、乳酸繊維が加水分解されることなく、余剰な繊維表層部の染料を還元分解することできる。
【0059】
かくして得られた染色された繊維構造体は、染色堅牢度に優れ、かつ湿熱環境下で繊維強度の低下が小さい繊維構造体である。その際、染色された繊維構造体を温度70℃、湿度90%RHの環境下で1週間処理した後、該繊維構造体に含まれる前記ポリ乳酸繊維の繊維強度が0.5gr/dtex以上(より好ましくは3〜10gr/dtex)であることが好ましい。また、染色された繊維構造体において、明度指数L値が80以下の濃色であると、本発明の効果が一層発現され好ましい。また、AATCC IIA法により測定した、染色された繊維構造体の洗濯堅牢度が3級以上であることが好ましい。
【0060】
ただし、本発明における強度は、オリエンティック社製「テンシロン」(商品名)を用い、測定対象の繊維構造体から無作為に10本の対象単糸(フィラメント)を抜き取り、糸試料長50mm(チャック間長さ)、伸長速度500mm/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/本)を求めた後、この強度を繊度で割って繊維強度(cN/dtex)とする。また、70℃×90%RHで1週間の処理は、タバイエスペック(株)製恒温恒湿器LHU−112Mを用いて、当該設定とした機器内の環境に試料を1週間放置して処理を実施するものとする。
【0061】
なお、本発明の染色された繊維構造体には、常法の難燃加工、撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0062】
次に、本発明の繊維製品は、前記の染色された繊維構造体を用いてなる繊維製品である。かかる繊維製品には、スポーツ衣料、ニフォーム衣料、シャツ、ブルゾン、パンツ、コート、カーシート表皮材、床材、天井材などの車両内装材、カップ、パッド等の衣料資材、カーテン、カーペット、マット、家具、椅子張り等のインテリア用品、ベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、フェルト、フィルター等の産業資材、アクセサリー、形態ストラップ、めがね拭き、食器拭き、マウスパッド、ぬいぐるみ、おもちゃ張り、帽子、手袋、ホワイトボードクリーナー、ノートの表紙等の小物類などが含まれる。かかる繊維製品には前記の染色された繊維構造体が含まれるので、優れた洗濯堅牢度を呈し、また同時に衣料に含まれる繊維の強度が大きい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は下記の方法により測定した。
【0064】
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0065】
(2)ステレオ化率(Sc化率)
理化学電気社製ROTA FLEX RU200B型X線回折装置用いて透過法により、以下の条件でX線回折図形をイメージングプレートに記録した。得られたX線回折図形において赤道方向の回折強度プロファイルを求め、ここで2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近に現れるステレオコンプレックス結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣISCiと、2θ=16.5°付近に現れるホモ結晶に由来する回折ピークの積分強度IHMから下式に従いステレオ化率(Sc化率)を求めた。尚、ΣISCiならびにIHMは図1に示すように、赤道方向の回折強度プロファイルにおいてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって見積もった。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×70mA
スリット: 1mmΦ〜0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 長さ3cm、35mg
Sc化率=ΣISCi/(ΣISCi+IHM)×100
ここで、ΣISCi=ISC1+ISC2+ISC3
SCi(i=1〜3)はそれぞれ2θ=12.0°、20.7°、
24.0°付近の各回折ピークの積分強度
【0066】
(3)融点、結晶融解ピーク、結晶融解開始温度、結晶融解エンタルピー測定:
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。
測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解ピーク、ホモ結晶融解(開始)温度、ホモ結晶融解エンタルピーおよびステレオコンプレックス結晶融解ピーク、ステレオコンプレックス結晶融解(開始)温度およびステレオコンプレックス結晶融解エンタルピーを求めた。
【0067】
(4)洗濯堅牢度
以下のAATCCII−A法により測定した。
1)試験法:AATCC61−1980IIA
2)装置および材料
1.ラウンダオメータ:40〜44rpm
2.試験瓶(ステンレス製):450〜550ml
3.ステンレス鋼球:径0.4mm 1びん当り50個
4.石けん:固形洗濯石けん(JIS K3302)無添剤(1種)
5.メタ硅酸ナトリウム(NaSiO・5HO)
6.氷酢酸
7.フラットアイロン
8.遠心脱水機または絞り機
3)添付白布
AATCC Multifiber No.1
緯糸:アセテート、コットン、ナイロン、シルク、レーヨン、ウール
経糸:ポリエステル(スパンヤーン)
4)試験片の調製
たて15cm×よこ5cmの試験片を1枚採取し、5cm×5cmの添付白布(マルチファイバー No1)1枚を試験片の中央で接触するようにして4辺をあらく白木綿糸で縫い合わせる。編物の場合は、試験片と同じ大きさの密度80(本/2.54cm)×80(本/2.54cm)の漂白モスリンを用い、4辺とも試験片に縫いつけて端が試験中に巻き込むのを防ぐ。
5)試験の操作
試験瓶の中に石けん0.2%メタ硅酸ナトリウム0.2%の溶液を150ml入れ、ステンレス硬球50個を入れる。温度49℃に予熱した後、複合試験片を入れ、密閉して回転機軸に取り付け、温度49℃て45分間回転操作する。つぎに冷却することなくただちに試験瓶から複合試験片を取り出し、温水(40℃)100mlで1分間洗浄すること2回後、さらに水(27℃)100mlで1分間洗浄する、その後、遠心脱水機または絞り機により脱水し、試験片と添付白布をつけたまま、温度135℃〜150℃のフラットアイロンでプレス乾燥する。
6)判定
マルチファイバーNo1の汚染の判定は、ナイロン部の汚染をグレースケールにてJISL0801に従って行う。
【0068】
(5)L値
染色後の編地のL値は、分光側光器(Gretag MacBeth Color−Eye 7000A)で生地表面を測定した。L値は明度を示し、その数値が大きいほど明度が高いことを示し、100に近いほど、淡色で白色に近く、0に近いほど、濃色である事を示す。
【0069】
(6)繊維強度(g/dtex)
本発明における強度は、オリエンティック社製「テンシロン」(商品名)を用い、測定対象の繊維構造体から無作為に10本の対象単糸(フィラメント)を抜き取り、糸試料長50mm(チャック間長さ)、伸長速度500mm/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(g/本)を求めた後、この強度を繊度で割って繊維強度(g/dtex)とした。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0070】
[製造例1](ポリL−乳酸の製造)
Lラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたL−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0071】
[製造例2](ポリD−乳酸の製造)
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD−乳酸を得た 得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0072】
[製造例3](ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の製造)
製造例1で得られたポリL−乳酸ならびに製造例2のポリD−乳酸を各50重量部と、リン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA(旧:旭電化工業株式会社)製アデカスタブNA−11)0.5重量部を230℃で溶融混練し、ポリL−乳酸ならびにポリD‐乳酸の合計100重量部あたりカルボジイミドとして日清紡(株)製カルボジライトLA−1を0.7重量部、第一供給口より供給しシリンダー温度230℃で混練押出して、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のMwは13.5万、融点(Tm)は224℃、ステレオ化率は100%であった。
【0073】
[実施例1]
前記、製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたあと0.27φmmの吐出孔36ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で8.35g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.9倍に延伸し延伸糸を巻き取った後、180℃で熱処理を行った。紡糸工程、延伸工程での工程通過性は良好であり、巻き取られた延伸糸は繊度167dTex/36filのマルチフィラメントであり、強度3.6cN/dTex、伸度35%、DSC測定において、単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度(融点)が224℃であり、ステレオ化率100%であった。
得られたステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを2本合糸し、160T/mの撚りを施した後、経糸および緯糸に配して、ツイル織物組織の織物を製織した後、該織物を、温度150℃、2分間の乾熱セットした後、液流染色機を用いて、温度120℃で30分間の染色を行った。その際、以下の分散染料を用いて染色、還元洗浄処理を実施した。
【0074】
(分散染料名)
C.I.Disperse Blue 79 1%owf
得られた染色物を下記の還元浴中(pH5.5)で洗浄した。
浴比;1:20
温度×時間;120℃×30分
還元浴組成および洗浄条件:
二酸化チオ尿素 1g/l
浴比;1:20
温度×時間;70℃×15分
次いで、温度130℃で10分間乾燥した後に温度160℃、2分間の乾熱セットを施した。このような処理をした、染色された繊維構造体において、L値は38、洗濯堅牢度は4級、該織物に含まれるステレオコンプレックス乳酸繊維の70℃×90%RHで1週間処理後の繊維強度は1.8cN/dtex(300g/本)であった。次いで、該織物を用いてユニフォーム衣料および車両内装材(カーシート表皮材)およびインテリア用品(椅子張り)を得たところ、洗濯堅牢度に優れ耐久性も良好であった。
【0075】
[実施例2]
実施例1において、リン酸エステル金属塩の含有量を0.1重量部に変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた染色された繊維構造体において、L値は38、洗濯堅牢度は4級、該織物に含まれるステレオコンプレックス乳酸繊維の70℃×90%RHで1週間処理後の繊維強度は1.8cN/dtex(300g/本)であった。次いで、該織物を用いてユニフォーム衣料および車両内装材(カーシート表皮材)およびインテリア用品(椅子張り)を得たところ、洗濯堅牢度に優れ耐久性も良好であった。
【0076】
[実施例3]
実施例1において、リン酸エステル金属塩の含有量を1.0重量部に変更すること以外は実施例1と同様にした。得られた染色された繊維構造体において、L値は38、洗濯堅牢度は4級、該織物に含まれるステレオコンプレックス乳酸繊維の70℃×90%RHで1週間処理後の繊維強度は1.8cN/dtex(300g/本)であった。次いで、該織物を用いてユニフォーム衣料および車両内装材(カーシート表皮材)およびインテリア用品(椅子張り)を得たところ、洗濯堅牢度に優れ耐久性も良好であった。
【0077】
[比較例1]
実施例1において、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のかわりに製造例1で得られたポリL−乳酸を用いこと以外は実施例1と同様にした。延伸糸のDSC測定において、単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度(融点)が180℃であった。得られた織物は、70℃×90%RHで1週間処理後の繊維強度は0.05cN/dtex(8g/本)であり織物の構造を保持することは困難であった。
【0078】
[参考例1]
燐酸エステル金属塩として、アルミニウムビス(2,2’―メチレンビス(4,6−ジ第3ブチルフェニル)ホスフェート)ハイドロオキサイド(株式会社ADEKA(旧:旭電化工業株式会社)製アデカスタブNA−21)を0.5重量部用いる以外は実施例1と同じ操作を行ったところ、紡糸の際に昇華物が激しく発生し、紡糸することが困難であった。
【0079】
[実施例4]
実施例1において、リン酸エステル金属塩の含有量を0重量部に変更すること以外は実施例1と同様にした。延伸糸のDSC測定において、単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度(融点)が224℃であった。得られた織物は、70℃×90%RHで1週間処理後の繊維強度は0.05cN/dtex(8g/本)であり織物の構造を保持することはやや困難であった。
【0080】
[参考例2]
実施例1において、還元洗浄処理をph11の強アルカリ条件で実施する以外は、実施例1と同等に実施した。得られた織物において、70℃×90%RHで1週間処理後の繊維強度は0.3cN/dtex(50g/本)であり容易に裂け、織物の構造を保持することはできなくなった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、ポリ乳酸繊維を含む染色された繊維構造体であって、染色堅牢度に優れ、かつ湿熱環境下で繊維強度の低下が小さい染色された繊維構造体の製造方法、および該製造方法により得られた染色された繊維構造体、および該染色された繊維構造体を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例において、ステレオ化率(Sc率)を求めるための赤道方向の回折強度プロファイルの一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が195℃以上のポリ乳酸繊維を含む繊維構造体Aを染色処理した後に還元洗浄処理を施すことを特徴とする染色された繊維構造体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリ乳酸繊維が、(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD−乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなる、請求項1に記載の染色された繊維構造体の製造方法。
【化1】

式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【化2】

式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【請求項3】
前記ポリ乳酸組成物が、ポリL−乳酸成分(A成分)とポリD−乳酸成分(B成分)との合計100重量部当たり0.1〜5重量部のカルボキシル末端封止剤を含有してなる、請求項2に記載の染色された繊維構造体の製造方法。
【請求項4】
繊維構造体Aに他の繊維としてポリエステル繊維が含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の染色された繊維構造体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステル繊維がポリエチレンテレフタレート繊維である、請求項4に記載の染色された繊維構造体の製造方法。
【請求項6】
繊維構造体Aが織物組織または編物組織を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の染色された繊維構造体の製造方法。
【請求項7】
前記の染色処理を温度120℃以上で行う、請求項1〜6のいずれかに記載の染色された繊維構造体の製造方法。
【請求項8】
前記の還元洗浄処理をpH8〜2の還元浴中で温度60〜98℃の範囲内で行う、請求項1〜7のいずれかに記載の染色された繊維構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された製造方法により製造された染色された繊維構造体。
【請求項10】
染色された繊維構造体を温度70℃、湿度90%RHの環境下で1週間処理した後、該繊維構造体に含まれる前記ポリ乳酸繊維の繊維強度が0.5cN/dtex以上である、請求項9に記載の染色された繊維構造体。
【請求項11】
染色された繊維構造体の明度指数L値が80以下である、請求項9または請求項10に記載の染色された繊維構造体。
【請求項12】
AATCC IIA法により測定した、染色された繊維構造体の洗濯堅牢度が3級以上である、請求項9〜11のいずれかに記載の染色された繊維構造体。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の染色された繊維構造体を用いてなる、スポーツ衣料、ニフォーム衣料、シャツ、ブルゾン、パンツ、コート、カーシート表皮材または床材または天井材である車両内装材、カップまたはパッドである衣料資材、カーテンまたはカーペットまたはマットまたは家具または椅子張りであるインテリア用品、ベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、フェルト、フィルター、産業資材、アクセサリー、形態ストラップ、めがね拭き、食器拭き、マウスパッド、ぬいぐるみ、おもちゃ張り、帽子、手袋、ホワイトボードクリーナー、ノートの表紙、小物類からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−167585(P2009−167585A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319599(P2008−319599)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】