説明

柔軟な針の制御された操作

【課題】軟らかい組織への挿入中の柔軟な針を、該針の位置を明らかにする画像を用いて閉ループ操作する、コンピューター制御された新規のロボットシステムと、これを用いる方法とを提供すること。
【解決手段】軟らかい組織への挿入中の柔軟な針を操作するロボットシステムは、前記針の位置を明らかにする画像を用いる。途中で危険な障害物を避けつつ所望の目標位置に到達する、前記針の先端部の軌道を制御装置が計算する。逆運動学のアルゴリズムを用いて、前記先端部を前記軌道に従わせるために前記針の基部に必要とされる動きが計算され、ロボットが、制御された前記針の挿入を行う。柔軟な針の変形可能な組織への挿入は、仮想バネにより支持された線形の梁としてモデル化され、前記仮想バネの弾性係数は前記針に沿って変化する。前記針の順運動学及び逆運動学が解析的に解かれ、リアルタイムの経路計画及び修正が可能となる。X線透視画像において行われる画像処理により前記針の形状が検出される。検出された前記針の形状から前記組織の剛性が計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療又は診断のための針の経皮挿入に関し、特に、途中で感覚器官を避けつつ前記針を目標物へ誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代医学の傾向は、より侵襲的でない、より局部的な治療に向かっている。現代の臨床業務において用いられる多くの日常的な処置は、生検及び薬物輸送のために針及びカテーテルの経皮挿入を必要とする。針挿入の目的は、適当な針の先端部を病変部位、器官又は管に安全かつ正確に配置することである。針挿入を必要とする処置には、予防接種、血液/体液の採取、局所麻酔、組織生検、カテーテル挿入、冷凍アブレーション、電気的アブレーション、小線源治療、神経外科治療、脳深部電気刺激法による治療及び様々な低侵襲手術がある。
【0003】
一般に、針の経皮挿入の複雑さは技術不足及び針の配置に起因する。医師は、しばしば、該医師が自分自身の解剖学的構造に関する三次元的な理解と関連付けるツールからの運動感覚フィードバックのみに依存する。しかし、この方法は、前記針が組織を突き刺したときに該組織が変形するため、直線状の硬い針を用いて作業したときでさえ前記針が目標物から外れるという重大な限界を有する。針の配置を改善するため、硬い針を画像誘導の下で操作することができる。この場合、硬い針が、前記組織に、これを傷付ける過度の圧力を加えるという問題が生じる。R.J. Webster III他による特許文献1のような先行技術文献に、先細の先端部を有する針の使用が記載されている。前記針は、該針が組織へ押し込まれたときに該組織により前記先端部に加えられる横方向の力により、前記組織の中での進行中に移動される。前記先端部に所望の横方向変位を生じさせるように前記針を回転させることにより操作がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第2007/0016067号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
経皮挿入の成功を保証する方法には、細く、柔軟な針を用いるものがある。このような針を用いることには多くの利点がある。(1mm未満の)細い生検針は標準的な硬い針より重大な複雑さを生じさせない。より細い針は、損傷を与え難く、例えば、脊髄麻酔後の硬膜穿刺後頭痛(PDPH)の可能性を低減する。実際に、PDPHのリスクは針の直径の減少とともに減る。柔軟な針は、挿入位置と目標物との間にある、骨、血管又は敏感な神経若しくは器官のような敏感な組織を避けるために望ましい曲線軌道の使用を容易にする。しかし、細く、柔軟な針を使用することの大きな欠点は、前記針の制御が難しいことである。前記針は、非最小位相性を有し、(人間の)直感的な制御に向かない。
【0006】
Medical Image Computing and Computer-Assisted Intervention(モントリオール、2003)の会報(pp. 33-40、Springer)において発表された、DiMaio他による「針操作及びモデルに基づいた軌道計画」という表題の論文に、柔軟な針の動きを予測する方法が記載されている。この方法の限界は、計算が複雑であるため、針挿入のリアルタイムのシミュレーション及び制御が不可能であることである。
【0007】
Medical Image Computing and Computer-Assisted Intervention(サンマロ、2004)の会報(pp. 137-144、Springer)において発表された「経皮的な治療のための柔軟な針の操作及び最適な軌道計画」という表題の論文において、本願発明の発明者により、針の先端部の経路が、唯一のものではなく、組織に対する前記針の本体部分の横方向圧力を最小化するように最適化されることが示されている。
【0008】
本明細書に記載した刊行物に開示された事項は、参照することにより本明細書に含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、軟らかい組織への挿入中の柔軟な針を、該針の位置を明らかにする画像を用いて閉ループ操作する、コンピューター制御された新規のロボットシステムと、これを用いた方法とを提供する。途中の障害物と患者に危険を及ぼす可能性がある衝撃とを避けつつ所望の目標位置に到達する、前記針の先端部の軌道を制御装置が計算する。前記ロボットシステムは、制御された針挿入をロボットが行えるように、前記先端部を所望の軌道に従わせるために前記針の基部に必要な操作を計算するため、好ましくは、逆運動学のアルゴリズムを用いる。
【0010】
1つの好適な実施例によれば、柔軟な針の変形可能な組織への挿入は、仮想バネにより支持された線形の梁としてモデル化され、前記仮想バネの弾性係数は前記針に沿って変化する。早期の経路計画及びリアルタイムの修正の双方を可能にする低次の線形システムの方程式を用いて前記針の順運動学及び逆運動学が解析的に解かれる。モデルは経路計画及び最小の組織圧力のための最適化を可能にする。前記モデルは、与えられた針の先端部の軌道のために閉形式で解かれる。他の検出方法が用いられてもよいが、好ましくは、X線透視画像において行われる画像処理により前記針の経路の形状が検出される。
【0011】
本発明の他の好適な実施例によれば、前記制御装置は、前記針が通過する前記組織の特性を連続的に決定するため、画像から検出された前記針の形状を使用し、前記組織の特性は、通過されている前記組織に応じて前記針の経路を正確に調整するために前記制御装置への追加の入力データとして用いられる。
【0012】
好ましくは、挿入方向とX線透視装置の撮像方向にほぼ垂直な方向とを含む二次元平面において前記針の軌道の計画、計算及び監視が行われる。これは、好ましくはCアーム装置であるX線透視装置の二次元画像において挿入過程を見る方法の一般的な便利さに起因する。この場合、前記ロボットの基部は、前記針の前記基部に少なくとも前記挿入方向の動きと画像面における前記挿入方向に垂直な方向の動きとを加え、さらに、前記画像面に平行な平面において角度方向の動きを加えることを要求される。この場合において、二次元の経路が使用されたとき、好ましくは、前記針の前記先端部が所望の平面から逸脱したかどうかを決定する方法が提供される。これにより、前記先端部を予め計画された平面に戻すため、前記ロボットにより修正の動きを提供することができる。1つの好適な実施例によれば、前記画像面に垂直な力を検出する力センサーを用いて逸脱を決定することができる。
【0013】
本発明を実施するため、より複雑な三次元画像装置又は位置決定装置が用いられた場合、三次元の軌道が計画され、計算され、監視される。
【0014】
本発明の他の好適な実施例によれば、挿入中に前記針の進行を監視するため、小型位置伝送センサーが前記針の長さ方向における様々な位置に取り付けられており、これにより、挿入中に必要とされるX線画像の数を大幅に低減することができる。この実施例によれば、目標物及び障害物の位置を決定するために挿入の最初に1つの画像を撮り、所望の治療又は診断の行為が行われる前に前記先端部の正確な位置を確かめるために挿入の最後に1つの画像を撮りさえすればよい。
【0015】
本発明に係る、予め決められた軌道に従った、先端部を有する針の組織への挿入のためのシステムは、前記針を前記組織へ移動させるロボットと、前記針の軌道を即時に確認する画像装置と、確認された軌道と前記予め決められた軌道との差に応じて前記ロボットの動きを制御する制御装置とを含み、該制御装置は、前記組織により前記針に加えられる横方向力のシミュレーションをするため、前記針のモデルを、複数の仮想バネが横方向に接続された柔軟な梁として利用し、前記組織を経る前記針の軌道は、前記仮想バネの前記針への影響により決定される。
【0016】
前記針の軌道は、前記針の挿入の結果としての前記組織の動きの影響を考慮して決定される。また、前記針の軌道は、好ましくは、前記針の挿入の結果としての前記仮想バネの少なくともいくつかの弾性係数の変化を考慮して決定される。
【0017】
前記予め決められた軌道は前記針の前記先端部の目標位置を含む。また、前記予め決められた軌道は、前記針が接近を禁じられた少なくとも1つの領域を含む。
【0018】
前記ロボットの動きは、内部への移動、横方向の移動及び角度方向の移動の少なくともいくつかを含む。前記ロボットの動きは、好ましくは、6以下の自由度を有する。
【0019】
前記画像装置は、X線透視装置、CT装置、MRI装置、超音波装置、電磁ナビゲーションを用いた装置及び光学ナビゲーションを用いた装置のいずれかとすることができる。また、前記画像装置は、好ましくは、内部への移動及び横方向の移動の方向を含む平面の画像を提供する。
【0020】
前記制御装置は、前記画像装置から得られた画像の画像処理により決定された前記先端部のリアルタイム位置の、前記予め決められた軌道による前記先端部の予定された位置からのずれを決定し、前記モデルを用いて、前記ずれを減らすために前記ロボットに適用する動きを計算する。
【0021】
前記制御装置は、好ましくは、前記予め決められた軌道を追跡するために前記針に与えられる動きを計算するため、前記モデルに適用された逆運動学の解を利用する。また、前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織の剛性の変化を即時に決定するため、前記画像から検出された前記針の形状を用いるものとすることができる。この場合において、前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織に応じて前記針の経路を即時に調整するため、変化した前記組織の剛性を用いるものとすることができる。
【0022】
前記システムは、好ましくは、前記針の基部に加えられた力を測定する力センサーを含み、前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織の剛性の変化を即時に決定するために前記力を用いる。
【0023】
前記予め決められた軌道は要素に分けられ、前記制御装置は、各要素において少なくとも前記画像装置から得られたリアルタイムの結果に応じて、前記要素に従って挿入を行う。
【0024】
前記針は、少なくとも1つの位置センサーを有するものとすることができ、前記針は前記位置センサーを用いて検出される。前記位置センサーは、好ましくは、電磁位置センサーである。前記システムは、好ましくは、前記針が取り付けられた前記ロボットの座標を、前記組織の剛性が決定された前記画像装置の座標に関連付けることができるようにするため、記録装置を含む。
【0025】
本発明に係る、予め決められた軌道に従って針の変形可能な組織への挿入を制御するシステムは、前記針を前記組織へ移動させるロボットと、前記針の軌道を即時に確認する画像装置と、確認された軌道と前記予め決められた軌道との差に応じて前記ロボットの動きを制御する制御装置とを含み、該制御装置は、(1)前記針が挿入されている前記組織の弾性の変化を決定するため、画像化された前記針の軌道を使用し、(2)前記針が挿入されている前記組織に応じて前記針の経路に沿って前記組織の弾性モデルを調整するため、前記組織の弾性を利用し、(3)前記組織を経る前記針の動きのための逆運動学の解を取得し、(4)前記ロボットに、前記解に従って前記針を前記組織へ移動させるように指示する。
【0026】
前記システムは、前記針の基部に加えられた力を測定する力センサーを含み、前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織の弾性の変化を決定するために前記力を用いる。前記予め決められた軌道は、好ましくは、要素に分けられ、前記制御装置は、前記画像装置から得られたリアルタイムの結果に応じて追加的に挿入を行う。
【0027】
本発明に係る、針の組織への挿入を制御する方法は、前記針が通る予め計画された軌道を決定すること、前記針の基部を、前記針を前記組織へ移動させるロボットに取り付けること、前記針の軌道を即時に示す前記組織の画像を撮ること、リアルタイムの軌道と前記予め計画された軌道との差に応じて前記ロボットの動きを制御すること、前記針のモデルを、複数の仮想バネが横方向に接続された柔軟な梁として利用し、前記仮想バネの前記針への影響に基づいて前記組織を経る軌道を計算することを含む。
【0028】
本発明は、図面に関する以下の詳細な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】先行技術における、一連の分散された仮想バネにより表された、組織と針との相互作用のモデルの概要図。
【図2】力を受け、微小変位を生じた線形の梁により近似された針の概要図。
【図3】本発明の実施例に係る、異なる先端部の傾きθを有し、同一の目標位置に到達するいくつかの針の経路の解を示す図。
【図4】本発明の実施例に係る、針の軌道を決定する制御アルゴリズムを示す図。
【図5A】挿入後の典型的な針のX線透視画像の図。
【図5B】原画像に対する正規化相互相関により針の基部の形状及びその位置を検出するフィルターの図。
【図6】針の先端部を2分の1の正弦曲線に追従させる典型的な柔軟な針の挿入の進行を示す図。
【図7】横座標に沿っての1から6までの番号で示された、軌道に沿っての6つの仮想バネの変位を示す図。各バネは、先端部がその位置を通過するときにのみ関与する。
【図8】スプライン曲線に適合された針の形状を先端部の挿入深さの関数として示す図。
【図9A】本発明の実施例に係る、制御された針挿入を行うシステムの概要図。
【図9B】図9Aに示した実施例において使用される複数の小型位置センサーを用いた針の概要図。
【図10】本発明の実施例に係る柔軟な針の挿入方法のステップを示すフローチャート。
【図11】針の先端部が組織の上面に単に接触しているときに針の先端部のたわみと力とを測定することにより組織の最初の弾性係数を評価する方法を示す図。
【図12】典型的な針の挿入軌道計画を示す図。
【図13】開ループにより予め計画された軌道に沿っての柔軟な針の挿入の結果を示すグラフ。
【図14】図13に示した例において挿入中に力センサーにより針の基部において測定された力及びトルクを示す図。
【図15】本発明に係る制御アルゴリズムを用いてPID制御装置により制御された、図13に示した例における軌道と同じ軌道に沿っての針の挿入の結果を示すグラフ。
【図16】図15に示した例において挿入中に力センサーにより針の基部において測定された力及びトルクを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1に、本願発明の発明者による前記したMICCAI 2003の論文において最初に用いられた係数k1、k2、・・・knを有する一連の分散された仮想バネにより表された、組織と針との相互作用のモデルを示す。図1に前記組織の表面が破線により示されている。柔軟な針の動きのモデル化は準静的運動の仮定に基づいており、前記針は各段階において釣り合い状態にある。生体の軟組織との相互作用による針のたわみは力に対して非線形であることが知られている。しかし、微小変位に対して線形の横力応答を仮定するのが妥当である。このため、前記組織の前記針に対する力は、前記針の曲線に沿って分散された横方向の仮想バネと前記針の接線方向の摩擦力Ffとの組合せとしてモデル化されている。前記組織の弾性係数が力に応じて変化するため、前記仮想バネの係数kは、力によって決まる動弾性係数により更新され、各段階においてモデルが線形化される。
【0031】
前記針の形状が変化するにつれて前記仮想バネの位置及び方向が変化する。各段階において、線形化されたモデルは前記針の形状をもたらす。前記仮想バネの自由長に物理的な意味はない。前記仮想バネの唯一の重要なパラメーターは、前記組織の前記針に対する力を局所的な変位の関数として表す局所的な弾性係数である。前記仮想バネの弾性係数は実験的に又は組織及び器官の経験的な剛性値を仮定する術前の画像を用いて決定される。
【0032】
図2に、力を受け、微小変位を生じた線形の梁により近似された針を示す。これによれば、最初の近似に対する計算を、前記仮想バネの全てが直角に前記梁に接続されているものとして行うことができ、前記計算を簡易化することができる。たとえ線形近似解が厳密には正確でないとしても、針の挿入の問題に用いる閉ループ制御の使用の1つの結果として、アプリケーションの繰り返しにより計算仮定の誤りが修正される。要素の間隔が適当であれば、前記梁は前記モデルに従って柔軟な梁に近づくことができる。
【0033】
各接続部分において、仮想バネにより加えられる力は前記仮想バネのその最初の位置からの変位量に比例する。

ここで、kiは前記仮想バネの係数であり、wiはi点における変位量であり、w0iは解放されたバネiの位置である。
【0034】
前記力が前記変位量の関数であるため、前記針の動きは、前記梁を1つの要素として扱うことによってモデル化されることができない。このため、前記梁は複数の要素に分割されており、各要素は、隣接する2つの力を受ける。番号1を付された第1要素は、前記針における前記組織の外にある部分であり、番号i、・・・nを付された残りの要素は、離散化のレベルに応じて、前記針における前記組織の内部にある部分に沿って分割されている。各要素は、その境界部分においてせん断力を受ける線形の梁として振舞う。各要素の変位量は三次多項式により与えられる。有限要素理論による節の自由度を用いて、座標が、1つの節点と結び付けられ、明確な物理的解釈を有する変位又は回転を表す。変位y(x)は次の形式を有する。

ここで、N1、N3は座標であり、N2、N4はそれぞれx=0及びx=lにおける要素の傾きであり、φiは三次の形状関数である。
【0035】
前記針の基部及び先端部における変位及び傾きのような境界条件を代入すると、次の全体行列方程式をもたらす、両側における2つ及び各中間節点における4つの、4×nの方程式となる。

ここで、KはNi,j(変位及び傾きの自由度)の係数の行列である。NはNi,jのベクトルであり、iは要素番号であり、jは要素iの自由度である。
【0036】
前記針の前記基部の変位及び回転を考慮して、式(3)は、順運動学の解を与える、前記針の前記先端部の3-DOF(自由度)の変位及び回転を計算するために使用される。
【0037】
実際の針挿入の問題において、前記先端部が挿入されているときに器官による障害を避けつつ前記先端部を目標物に命中させる必要がある。前記針の前記先端部にとって特定の軌道が望ましく、所望の軌道を生じさせるため、前記針の前記基部においてなされる操作を計算しなければならない。これは、逆運動学の問題である、すなわち、前記先端部の軌道の位置及び方向を仮定すると、前記針の前記組織への進行に応じて前記針の前記基部の変位及び方向が導かれる。S.P. DiMaio他による前記した論文に詳細に記載されているように、式(3)の操作及び反転により逆運動学の問題の1つの解が得られる。
【0038】
直線状の挿入経路を計画することは些細な作業である。前記組織に最小の横方向圧力を加えつつ障害物を避けなければならないことは複雑な問題である。前記梁の最適な経路は、前記針の曲率が最小のものである。なぜなら、これが前記組織に最小の横方向圧力を与えるからである。このため、経路計画の問題は、好ましくは、前記針の挿入位置と前記目標物とを結ぶ最も短い曲線を見つけることに帰着する。前記曲線は、前記針の最小の曲率を維持しつつ、所定の距離を隔てて前記障害物を避ける。
【0039】
各段階が挿入の経緯により左右されるため、前記針の挿入の全体のシミュレーションが必要とされる。図3に、同一の挿入位置から同一の目標位置Tに到達するが、水平方向に対する前記先端部の傾きθが異なるいくつかの前記針の経路の解を示す。θはラジアン単位で測定されている(グラフは患者の治療領域の側面図を表す。)。図3に示したように、同一の目標位置に到達するために異なる軌道を用いることができ、各軌道は、想定される異なる障害領域を避け、各軌道は、それ自身の、前記患者の前記組織に対する横方向圧力を有する。図3において、横座標は前記梁の要素の番号であり、縦座標は垂直方向における前記目標位置からの距離である。
【0040】
生検において前記先端部の方向はあまり重要ではないため、前記組織に最小の圧力を加える解は無数の解から選択される。これは、前記仮想バネの変位の二乗の合計を最小化することにより実現され、前記合計はSにより与えられる。

式(4)をθtで微分し、0に等しいと見なすと、式(5)が得られる。

方程式(5)は、最後の要素N4nの傾きの方程式の代わりに式(3)に代入され、式(3)の解は、最適化された針の形状を与える。
【0041】
図4に、本発明の他の好適な実施例に係る、針の軌道を決定する制御アルゴリズムを示す。システムへの入力データrndは、前記針の前記先端部の方向を除いた前記針の前記先端部の所望の位置であり、後に制御装置により最適化される。インデックスndは、所望の繰り返しnのためのものである。前記制御装置の出力データは、前記針の前記先端部の所望の位置rndに前の繰り返しからの前記先端部の位置の誤差en-1を加えたものである。前の繰り返しからの前記先端部の位置の誤差の付加は、前記先端部の位置を所望の位置に近付けるために次の繰り返しに過度の補償を生じさせるため、達成された以上に望ましい先端部の位置を規定するためになされる。前記制御装置は、前記した柔軟な針の逆運動学の解を得ることに加えて、式(4)、(5)に示した、最小の針のたわみ又は最小の組織の変位のための最適化を実行する。前記制御装置の出力データは、逆運動学の計算から算出された前記針の前記基部の必須の座標Un-1である。前記出力データは、前記針の前記基部を次の繰り返しの位置へ、内部に向けて、横方向に及び角度方向に移動させるロボットに与えられる。処理は、前記針の前記基部を移動させる前記ロボットと、前記組織及び前記針の相互作用と、力センサーと、針形状検出アルゴリズムとを含む。前記針形状検出アルゴリズムは、前記針の形状及び前記針の前記先端部の座標Yn-1を決定するため、好ましくは、前記針の画像において行われる画像処理を用いる。推定装置は、前記針の形状及び前記力センサーの測定値を受け取り、これらから、更新されたkiに関して前記組織の剛性を計算する。その後、新しい前記組織の剛性パラメーターkiは、逆運動学の解を更新して該解を前記制御装置の次の繰り返しにおいて使用するために用いられる。前記先端部の測定された座標Xn-1は、前記推定装置から出力され、次の繰り返しにおける使用のため、所望の位置からの誤差を計算するために使用される。前記先端部の測定された座標Xn-1から前記先端部の所望の座標rndを引いたものは、その繰り返しの追従誤差en-1であり、前記したように次の繰り返しが始まるとすぐに、前記制御装置に新たに入力されて前記先端部の所望の位置に加えられる。前記制御装置は、図4に示した例では、PID制御装置であるが、本発明がこの制御形式に限定されることを意味しないことは明らかである。
【0042】
図5Aは、挿入後の典型的な針のX線透視画像の図である。画像装置による検出は、前記針の前記基部から開始され、前記針の本体部へ続く。柔軟な(とげ状の)針は明確に検出可能な基部の形状を有し、その位置は、好ましくは、図5Bに示すフィルターを用いて、原画像の正規化相互相関により検出される。相互相関は、画像を照合するのに非常に効率的な手段である。それは、一般にノイズに対して強く、パターンを画像のスケール及びオフセットと単独に照合するように正規化される。全体の画像を用いた相互相関は、好ましくは、一度だけ行われる。最初の検出に続いて、前記フィルターは、実行時間を節約するため及び誤検出を避けるため、既に検出された座標の周囲の小さい四角形のみを用いて相互相関される。前記針の前記基部が検出されると、画像処理の分野において知られているように、画像の三次元表示の緩勾配領域を追うことにより前記針の残りの部分が追跡される。
【0043】
前記緩勾配領域の端部における針の先端部の検出は容易ではない。周辺にある軟らかい前記組織は全体としてX線透過性ではなく、前記組織と前記針との間のモノクロ階調の差異が小さい。ビーズのような障害物が針の先端部の検出をさらに困難にすることがある。前記針の長さが一定であるため、それは、前記針の前記先端部の位置を決定するのに役立つ追加のパラメーターを表す。このため、モノクロ階調の差異に加えて、前記針の長さが各段階において考慮される。
【0044】
画像のノイズのため、検出された点の全てが実際の針の映像の上にあるとは限らない。このため、前記針は、ノイズのあるデータを平滑化する多項式を用いて適合される。
【0045】
制御の誤差は、計画された軌道からの前記先端部の位置のずれとして定義される。前記誤差は各段階において計算され、次に要求される前記針の位置は、前記制御装置により決定された大きさで、計画された曲線方向に設定される。
【0046】
前記針の形状の検出に視覚装置が利用されるため、前記針の応答から、すなわち前記針の形状から前記組織の特性を得ることが可能である。前記針の挿入中に、前記仮想バネが通る点と、前記要素の節点の位置及び方向とが追跡される。
【0047】
前記要素の間の集中的な力の境界条件が次式により定義され、式(4)の構築に用いられる。

ここで、式(Nn,3−w0,n)は前記仮想バネのその無負荷状態の位置w0,nからの変位Nn,3を表す。次式により最後の先端部の要素のためのモーメントが与えられる。

最後の要素の長さが他のどの要素の長さよりも短いため、これに適用されたモーメントを無視することができる。

【0048】
前記針の形状が知られているとき、式(8)から、前記節点における変位及び傾きの値に加えて、前記節点におけるモーメントが計算される。その後、前記針の最初に検出された形状を得るため、最後の節点から順に、式(6)、(7)から前記仮想バネの弾性係数が計算される。
【0049】
図6に、前記針の前記先端部を2分の1の正弦曲線の形状に追従させる典型的な柔軟な針の挿入を連続的に示す。各線は、異なる挿入深さにおける、曲げられた前記針の形状を示す。図6に示した例における前記仮想バネの弾性係数は10 N/mmである。
【0050】
図7は、横座標に沿っての1から6までの番号で示された、前記軌道に沿っての6つの仮想バネの変位を示す図であり、各バネは、前記先端部がその位置を通過するときにのみ関与する。
【0051】
前記仮想バネの推定された弾性係数は、スプライン曲線に適合された前記針の形状から計算され、図8に前記先端部の深さの関数として示されている。バネの変位が非常に小さいとき、非常に小さい数による除算のため、式(6)から前記バネの弾性係数を正確に計算することができない。計算された弾性係数を示すグラフは、0.05 mmより大きい変位に対してのみ示されている。前記グラフは、シミュレートされたバネ係数の値10N/mmに集中する。弾性係数の値は、3つの連続した繰り返しの後に信頼性があると考えられ、図面に円で示されている。
【0052】
この方法の利点は、組織の剛性の事前知識なしに、挿入時に前記組織の剛性を推定し又は修正することができることである。
【0053】
図9Aは、本発明の好適な実施例に係る、制御された針の挿入を行うシステムの概要図である。好ましくは鉛板で作られているX線非透過シールド30により治療領域が制御領域から隔てられている。CアームX線透視装置31を用いて患者の組織への挿入の進行の画像が撮られる。CアームX線透視装置31は、便利な、広く利用されている装置である。CT、超音波、MRIのような医療用画像を撮る他の好適な方法も、同様に、本発明に利用することができる。本実施例の実現性を試験する実験装置に使用されたCアームX線透視装置31は、230mmのインテンシファイア径と756x562画素の最高画像解像度とを有するシーメンス・マルチモービル(Siemens Multimobil)5Cである。イメージングソースヨーロッパ社(Imaging Source Europe GmbH)により供給されたDFG/1394-1eビデオ・ファイヤーワイヤーコンバーターが前記CアームX線透視装置のモニターの1つからデジタル画像を受け取る。手順の進行を監視するため、ロボット32、針33及び組織34をユーザースクリーンで見ることができるように、任意のロジテックUSBデジタルカメラ35が挿入位置に向けて配置されている。
【0054】
針33を保持するため及び針33を患者の組織34へ推進させるため、好ましくは、RSPR 6自由度パラレルロボット32が使用される。本発明がパラレルロボット構造に限定されず、シリアル、パラレル又はハイブリッドのロボット構造が用いられてもよいことは明らかである。RSPRロボットの動作空間は、ほぼ、直径が25mm、高さが50mmの円筒形であり、20度以下の角度の回転をするプレートで覆われるものとすることができる。前記針は、該針の挿入の力及びトルクを測定する6自由度の力/トルク変換器36により、好ましくは前記ロボットの移動プレートに接続されている。
【0055】
図9Aに示した例では、離れたコンピューター37が、好ましくはロボット制御アルゴリズムを決定する計算を行い、500Hzで前記ロボットの制御ループを実行する。その機能は、好ましくはネットワーク又はシリアルなどのコンピューターインターフェースを介して、所望の前記針の前記基部の座標を得ること及び前記ロボットを、該ロボットが前記針の前記基部を要求された座標へ移動させるように制御することである。前記制御ループは、動きの指令、位置又は力の要求とすることができる、メインコンピューターから入るパケットのためのネットワークの抽出に関与する。
【0056】
前記メインコンピューターは、好ましくは画像処理、針及び組織の検出のみならず、針の制御に関与する針制御コンピューター38である。メインコンピューター38は、ロボット制御コンピューター37を介して前記ロボットの動きを指示する。前記制御装置が1つのコンピューターの周りに設けられていてもよいことは明らかである。
【0057】
図9Aは、前記針が挿入されているときに即時に前記針の軌道を決定するためにX線透視を用いたCアーム装置に関して示している。図9Bに、本発明の好適な実施例に使用される、針75に取り付けられた複数の小型位置センサー70、71、72を用いて前記針の位置を決定する方法を示す。前記小型位置センサーには、カナダ、オンタリオ州、ウォータールーのノーザンデジタル社(Northern Digital Inc. (NDI))から入手されるものがある。前記小型位置センサーは、一般に、制御された変動磁場における微小なセンサーコイルの誘導電圧の検出に基づいている。このようなコイルは、直径が約0.5mm、長さが5 mmの小ささとすることができ、針への取付けに適している。1つの例では、1つのセンサーコイルが、柔軟な生検針の先端部の位置を監視するために該先端部に取り付けられている。NDIの情報によると、針生検を行う臨床医は、より正確に生検位置を目標とし、障害物を避けて操縦し、誤操縦の可能性を減らすことができる。しかし、手動の針の挿入は、次の2つの理由から効果が限られている。(1)前記目標の位置が患者の動きとともに動くことがあり、又は前記組織そのものの位置が前記針の挿入により動くことがある。(2)仮に、挿入が不正確に進行した場合、前記先端部を所望の目標に向ける系統的な手段がない。
【0058】
本発明の好適な実施例によれば、制御された針の挿入手順は、前記針に取り付けられた電磁的な位置センサーを用いて行われる。好ましくは、図9Bに示した例では、複数の位置センサーが前記針の長さ方向に沿って取り付けられており、前記針の位置を生じさせるX線透視装置に代えて、検出された形状が用いられる。このような位置センサーの使用は、図10に示すフローチャートにおいてステップ57及び59を不要にする。これに代え、前記針の前記先端部に又はその近傍に取り付けられた1つの位置センサーが用いられてもよい。前記針の空間的な状況に関する利用可能な情報を、前記位置センサーの位置と、空間における前記位置センサーの角度方向と、前記ロボットの位置から知られる前記針の前記基部の位置と、前記針の追加的な挿入段階のそれぞれにおいて前記力センサーに加えられた力とから得ることができる。この情報は、有害となり得る、蓄積されるX線放射を使用することのない、制御された針の挿入方法を提供するため、本発明の制御された挿入の技術を用いて前記針の経路を定義するのに十分である。これに代え、前記先端部の適当な配置を保証するため、手順の最初に1つの画像を撮り、前記手順の最後に1つの画像を撮らなければならないものとすることができる。この場合、必要なX線画像の数は大幅に低減される。
【0059】
前記針における前記位置センサーの使用は、本発明の画像処理の実行のための超音波画像の使用を容易にする。柔軟な針が超音波を反射する方法のため、前記針が超音波画像において容易に検出されず、X線画像の超音波画像への単なる置き換えが、前記針の可視化を強める方法を用いることなしには困難であることが知られている。本実施例の前記位置センサーは、超音波画像の良好な使用を保証するために必要な前記針の可視化を提供する。この場合、前記針の位置が、(挿入位置、目標位置及び障害物領域のような)前記組織の特徴が映された画像装置から独立した画像装置(位置センサー)において決定されるため、前記針が取り付けられた前記ロボットの座標の方向及び位置が、前記組織の特徴が知られた超音波画像装置の座標に対して認識されるように、記録を行う必要がある。
【0060】
挿入に備えていくつかの手順が終了されなければならない。これらの手順は、以下のものに限定されないが、X線画像歪み修正と、ロボット座標の画像装置座標への記録と、組織の用意と、障害物及び目標物の検出と、前記組織の質的な特徴の最初の測定とを含む。
【0061】
標準的なX線装置を用いて得られた画像は、一般に、独立した2つの幾何学歪みの影響を受ける、すなわち、インテンシファイアの形状が糸巻き歪みを生じさせ、地球の磁場の相互作用が、画像装置の方向に左右されるS形状歪みを生じさせる。これらの歪みの修正は公知である。これらの歪みの検出及び補正のために、イメージインテンシファイアに固定された較正グリッドの画像が用いられる。これは歪み補正処理として知られている。前記歪みは、歪みのある較正ビード座標xd及びydを歪みのない較正ビード座標xu及びyuの関数として独立してモデル化する2つの多項式によりモデル化される。

ここに、Pi,j及びQi,jはN、M次の多項式の係数である。一致させた前記歪みのある較正ビード座標及び前記歪みのない較正ビード座標を用いて、線形方程式が構築され、係数Pi,j及びQi,jを回復させるQR因数分解により解かれる。
【0062】
前記ロボットが前記Cアーム装置から独立しており、それぞれが独自の座標を有するため、方向及び座標の縮尺について一方を他方に記録する必要がある。これを実現するため、1つの好適な方法によれば、前記ロボットは、その動作空間に予め定義された3つの位置に到達することが要求される。これらの位置から前記Cアーム装置の画像の座標に対する前記ロボットの座標の位置、方向及び縮尺が設定される。
【0063】
前記患者は、前記ロボットに保持された前記針の近くに挿入領域が配置されるように、前記Cアーム装置のベッドの上に乗せられる。挿入の進行を連続して監視することができるように、画像面が前記針の挿入方向に対して垂直でなければならない。前記システムのオペレーターは、前記患者の関心領域に関して得られたX線画像において目標物及び障害物を明らかにすることが要求される。仮に、これらの2つの位置を画像の中で明確に定めることができない場合、画像処理がこれらを自動的に特定することができず、これらは画像処理マーカーを用いて前記画像の中で印される。その後、印又は位置そのものが、歪み修正較正ビーズが検出されるのと同様に、明らかにされた領域において検出される。前記目標物及び前記障害物が針の挿入中に動くことがあるため、これらの追跡は針の位置の抽出ごとに行われる。CTのような他の画像装置に類似の手順が用いられる。
【0064】
挿入を実行する1つの好適な方法によれば、0.711mmの外径と0.394mmの内径とを有する316ステンレス鋼22ゲージの脊髄針が用いられる。前記脊髄針は、193GPaのヤング係数を示し、次式により与えられる慣性モーメントを有する。

【0065】
図10は、本発明の1つの好適な実施例に係る、柔軟な針の挿入方法のステップを示すフローチャートである。手順は、2つの部分、すなわち制御された挿入の用意に関するステップ50から55までの部分と、挿入そのものを繰り返し制御するオンライン制御アルゴリズムに関するステップ56から65までの部分とに分けられる。
【0066】
ステップ50において、前記目標物及び前記針を現す方向に前記患者の関心領域の最初の画像を撮る。
【0067】
ステップ51において、執刀医がコンピューターマウスのような位置決め装置を用いて前記目標物の位置及び避けるべき領域を明らかにする。前記執刀医が前記針そのものを明らかにする必要はなく、前記針は前記針検出アルゴリズムにより自動的に検出される。前記画像は、前記目標物、避けなければならない障害物及び前記針が明らかにされ又は検出されるように解析される。このステップは、計画される軌道に対する制約条件を定める。
【0068】
ステップ52において、ステップ51で決定された制約条件を用いて所望の軌道そのものを定める。この所望の軌道は、通常、挿入位置と目標位置との間の最短の経路であり、予め決められた距離を隔てて前記障害物を避ける。
【0069】
ステップ53において、前記針の前記先端部が予め決定された軌道に従うために必要な前記針の前記基部の一連の動きを決定するため、前記した逆運動学の解を用いて計算を行う。逆運動学の最初の計算に前記組織の弾性係数の最初に仮定された値が用いられる。
【0070】
ステップ54において、計画された軌道を、必要とされる精度に応じて要素に分割し、前記針の前記基部の動きを対応する要素に分割する。
【0071】
ステップ55において、前記針の前記先端部を、計算された位置及び角度で、前記組織の表面に、刺さずに、単に接触させるように、前記ロボットに、最初の軌道位置へ移動するように指示する。これは、挿入位置であり、繰り返される挿入段階のゼロ位置を表す。この位置において、図11について後述する前記組織の最初の弾性係数を計測する。
【0072】
ステップ56において、前記ロボットは、前記先端部を前記組織の中の最初の軌道位置へ移動させることにより挿入そのものを開始するように前記制御装置から指示を受ける。このロボットの動きは、次の軌道位置に向けての前記針の挿入及び前記組織の動きをもたらす。
【0073】
ステップ57において、最初の移動の終了後、X線透視装置、CT、他の画像装置を用いて画像を撮る、又は前記針そのものに取り付けられた位置センサーから画像を作る。
【0074】
ステップ58において、前記針の前記基部に取り付けられた前記力センサーは、この最初の追加的な挿入段階の後、前記組織により前記針に加えられた横方向力を測定する。
【0075】
ステップ59において、前記針の位置を、好ましくはX線透視装置画像又は前記した他の装置からの画像処理により決定する。前記針の挿入が前記組織を移動させ、その弾性係数を変化させるため、検出された前記針の位置は、一般に、所望の軌道において計画されたものではない。
【0076】
ステップ60において、前記組織の弾性パラメーターを、ステップ58で行われた力の測定から及び画像処理又は別の方法によりステップ59で決定された前記針の形状からの入力データを用いて再計算する。
【0077】
ステップ61において、前記組織の弾性係数の最初に仮定された値を用いた軌道のモデルを、ステップ60で新たに決定された係数を用いて更新する。
【0078】
同時に、ステップ62において、次の追加的な挿入段階のための所望の位置を得るため、到達された位置に加えて、前記針の前記先端部の位置の誤差を計算する。
【0079】
ステップ63において繰り返しの数が問われる。計画された数に達した場合、挿入が終了したと見なされ、ステップ64で前記手順を止める。
【0080】
繰り返しの数に達しなかった場合、ステップ65においてさらに繰り返しを行う。ステップ61で更新されたモデルは、好ましくは前記針の最小のたわみ又は前記組織の最小の変位の最適化を考慮して、次の追加的な挿入段階において前記目標物に向けて前記針の前記先端部を移動させるのに必要な前記ロボットの動きを逆運動学の解を用いて計算するために使われる。計算された新たな目標位置にステップ62における誤差が加えられ、その後、前記ロボットは、この組み合わされた新たな所望の位置へ動くように指示される。
【0081】
新たな追加的な動きが行われると、前記手順を、得られた前記針の画像から新たな軌道を決定するステップ57へ戻す。最後の繰り返しが行われ、予定された前記目標物が到達されるまで、前記手順を繰り返す。
【0082】
図11に、前記組織の上面を突き刺しているときに前記針の前記先端部のたわみ及び力を計測することにより前記組織の最初の弾性係数を評価する方法を示す。この場合における前記針の等価の弾性係数はkn=3EI/L3から計算され、前記仮想バネの弾性係数は前記針の前記先端部に対する前記基部の変位の比率ks/kn=(n-s)/sに比例する。
【0083】
前記ロボットが、要求された経路を実現するために必要な動きを行うことができること及び前記針のたわみが線形近似の範囲にあることを確認するため、前記針の挿入の前に前記針の前記先端部の軌道を調査する。
【0084】
挿入直前に、前記針の前記先端部の軌道を計画するため、1つのX線透視画像を撮る。前記した画像において前記針の前記先端部、前記障害物及び前記目標物を検出し、これらの3つの位置から次の制約条件を用いてスプライン曲線の軌道を構築する。1.前記軌道は前記針の前記先端部において前記針の接線方向に向けられている。2.前記軌道は、予め決められた距離を隔てて前記障害物の上方又は下方を通過する。3.前記目標物の位置における前記スプライン曲線の曲率は0である。典型的な軌道を図12に示す。
【0085】
前記先端部の方向が各位置において前記軌道の接線方向であるという要件を緩和することにより、前記針の前記基部のストローク及び前記組織に加えられる横方向圧力の双方を大幅に低減することができる。
【0086】
必要とされた軌道に基づいて各追加的な挿入段階の針の動きについて逆運動学の計算をする。
【0087】
前記軌道の到達可能性及び加えられる力の許容値を確認した後、ソフトウエアに、実行を開始するように指示する。現在利用されているCアーム装置を用いて、挿入を数秒で終了させるのに十分な品質の動画像が得られる。
【0088】
鉛の遮蔽体の後方にいるオペレーターは、図9Aに示したUSBカメラで前記針の挿入状況を観察することができる。前記オペレーターは、緊急時に、全体の手順を止め、前記針を抜くことができる。
【0089】
前記したシステムを用いた前記組織の質的な特性の測定値は、前記組織の最初のバネ近似として220 N/mを示す。挿入中における評価された弾性係数は、200 N/mと300 N/mとの間にあり、IEEE International Conference on Robotics and Automation、2003、pp. 1774-1780において発表されたM. O'Leary他による「ロボットによる針挿入:摩擦及び針形状の影響」という表題の論文に記載された弾性係数に類似する大きさである。
【0090】
図13は、制御フィードバックを用いずに予め計画された軌道に沿っての柔軟な針の挿入の結果を示すグラフである。これは、前記針の前記先端部が検出されず、前記予め計画された軌道からの誤差が計算されず、前記ロボットの動きに対するオンライン修正がないことを意味する。前記針の前記先端部が前記予め計画された軌道に従うために必要な前記ロボットの動きを決定する際に使用されたモデルに実際の組織の動きが完全に一致するものとして全てのことがなされる。しかし、実際の組織が異なる動きをし、針の材料又は患者の動きのような他の要素があるため、時間が経過すると前記誤差が蓄積する。縦座標は、前記予め計画された軌道からの前記先端部の追跡誤差を針の挿入に応じて示す。前記力センサーにより前記針の前記基部において計測された力及びトルクを図14に示す。図14において、破線は前記トルクを示し、実線は前記力を示す。
【0091】
図15は、Kp=0.5、Ki=0.001として前記制御アルゴリズムを用いてPID制御装置により制御された、同一の軌道に沿っての針の挿入を示すグラフである。縦座標は、前記予め計画された軌道からの前記先端部の追跡誤差を示す。図16に、前記針の前記基部において前記力センサーにより計測された力及びトルクを示す。
【0092】
挿入を実行する制御装置を用いた状況(図15)と用いない状況(図13)とを比較すると、制御装置を用いない場合、前記追跡誤差が1.5 mmに達するのに対して、PID制御装置を用いた場合、前記追跡誤差は0.5 mmより小さい(図15)。図14と図16とを比較すると、モーメントが同じ大きさであるものの、前記針の前記基部に加えられた力は、制御された挿入中において25%大きい。このため、本発明の実施例によれば、制御された柔軟な針の操作は大きな追加の力を必要とせず、制御装置を使用しない場合に比べて、制御が軌道誤差を非常に近い範囲内に良好に維持する。
【0093】
前記した本発明の好適な実施例において使用された制御方法が1つの選択的な方法に過ぎず、本発明が、この方法を使用するものに限定されず、他の制御装置及び他の制御方法を使用する態様を含むことは明らかである。本発明は、2次元の制御を用いて説明されているが、これは、前記システム及びその操作方法の説明を目的とするものに過ぎず、前記システム及びその操作方法は、同様に、三次元で制御された動きを用いることができる。
【0094】
本発明が、本明細書に記載された事項により限定されないことは、当業者には明らかである。本発明の範囲は、本明細書に記載した様々な特徴のコンビネーション及びサブコンビネーションのみならず、前記の記載から当業者が想到する、先行技術にない変更及び修正を含む。
【符号の説明】
【0095】
31 X線透視装置
32 ロボット
33、75 針
34 組織
37 コンピューター
38 メインコンピューター
70、71、72 小型位置センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め決められた軌道に従った、先端部を有する針の組織への挿入のためのシステムであって、
前記針を前記組織へ移動させるロボットと、
前記針の軌道を即時に確認する画像装置と、
確認された軌道と前記予め決められた軌道との差に応じて前記ロボットの動きを制御する制御装置とを含み、
前記制御装置は、前記組織により前記針に加えられる横方向力のシミュレーションをするため、前記針のモデルを、複数の仮想バネが横方向に接続された柔軟な梁として利用し、前記組織を経る前記針の軌道は、前記仮想バネの前記針への影響により決定される、システム。
【請求項2】
前記針の軌道は、前記針の挿入の結果としての前記組織の動きの影響を考慮して決定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記針の軌道は、前記針の挿入の結果としての前記仮想バネの少なくともいくつかの弾性係数の変化を考慮して決定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記予め決められた軌道は前記針の前記先端部の目標位置を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記予め決められた軌道は、前記針が接近を禁じられた少なくとも1つの領域を含む、請求項4項に記載のシステム。
【請求項6】
前記ロボットの動きは、内部への移動、横方向の移動及び角度方向の移動の少なくともいくつかを含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記ロボットの動きは6以下の自由度を有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記画像装置は、X線透視装置、CT装置、MRI装置、超音波装置、電磁ナビゲーションを用いた装置及び光学ナビゲーションを用いた装置のいずれかである、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記画像装置は、内部への移動及び横方向の移動の方向を含む平面の画像を提供する、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記画像装置から得られた画像の画像処理により決定された前記先端部のリアルタイム位置の、前記予め決められた軌道による前記先端部の予定された位置からのずれを決定し、前記モデルを用いて、前記ずれを減らすために前記ロボットに適用する動きを計算する、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記制御装置は、前記予め決められた軌道を追跡するために前記針に与えられる動きを計算するため、前記モデルに適用された逆運動学の解を利用する、請求項1ないし10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織の剛性の変化を即時に決定するため、前記画像から検出された前記針の形状を用いる、請求項1ないし11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織に応じて前記針の経路を即時に調整するため、変化した前記組織の剛性を用いる、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記針の基部に加えられた力を測定する力センサーを含み、前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織の剛性の変化を即時に決定するために前記力を用いる、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記予め決められた軌道は要素に分けられ、前記制御装置は、各要素において少なくとも前記画像装置から得られたリアルタイムの結果に応じて、前記要素に従って挿入を行う、請求項1ないし14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記針は少なくとも1つの位置センサーを有し、前記針は前記位置センサーを用いて検出される、請求項1ないし15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記位置センサーは電磁位置センサーである、請求項17に記載のシステム。
【請求項18】
前記針が取り付けられた前記ロボットの座標を、前記組織の剛性が決定された前記画像装置の座標に関連付けることができるようにするため、記録装置を含む、請求項16又は17に記載のシステム。
【請求項19】
予め決められた軌道に従って針の変形可能な組織への挿入を制御するシステムであって、
前記針を前記組織へ移動させるロボットと、
前記針の軌道を即時に確認する画像装置と、
確認された軌道と前記予め決められた軌道との差に応じて前記ロボットの動きを制御する制御装置とを含み、
前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織の弾性の変化を決定するため、画像化された前記針の軌道を使用し、前記針が挿入されている前記組織に応じて前記針の経路に沿って前記組織の弾性モデルを調整するため、前記組織の弾性を利用し、前記組織を経る前記針の動きのための逆運動学の解を取得し、前記ロボットに、前記解に従って前記針を前記組織へ移動させるように指示する、システム。
【請求項20】
前記針の基部に加えられた力を測定する力センサーを含み、前記制御装置は、前記針が挿入されている前記組織の弾性の変化を決定するために前記力を用いる、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記予め決められた軌道は要素に分けられ、前記制御装置は、前記画像装置から得られたリアルタイムの結果に応じて追加的に挿入を行う、請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
針の組織への挿入を制御する方法であって、
前記針が通る予め計画された軌道を決定すること、
前記針の基部を、前記針を前記組織へ移動させるロボットに取り付けること、
前記針の軌道を即時に示す前記組織の画像を撮ること、
リアルタイムの軌道と前記予め計画された軌道との差に応じて前記ロボットの動きを制御すること、
前記針のモデルを、複数の仮想バネが横方向に接続された柔軟な梁として利用し、前記仮想バネの前記針への影響に基づいて前記組織を経る軌道を計算することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−506600(P2010−506600A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513845(P2009−513845)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000682
【国際公開番号】WO2007/141784
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(508041105)テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファンデーション リミテッド (2)
【Fターム(参考)】