説明

柿葉及び柿枝由来糖代謝制御物質

【課題】本発明の課題は、天然物から膵β細胞のインスリン分泌を促進する物質を見出し、副作用が少なく有効に糖尿病を予防・治療できる物質を提供することにある。
【解決手段】柿葉、柿枝及びそれらの抽出物、更にはそれらに含まれる主要フラボノイドのアグリコンとなるケンフェロールに膵β細胞インスリン分泌促進作用を認め、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖代謝制御物質を有する柿葉、柿枝抽出物及びその有効成分を含む組成物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
平成の国民病とも称され、増加の一途を辿っている糖尿病には、すい臓のβ細胞の破壊によってインスリン分泌が不全となったI型糖尿病と、インスリンの分泌不足やインスリン感受性低下に主因するII型糖尿病とに大別され、わが国では欧米人に比べて遺伝的に膵β細胞からのインスリン分泌能が低いことからII型糖尿病が大勢を占めている。
【0003】
日本人では、95%以上がII型糖尿病と推定されているが、II型糖尿病は、膵β細胞からのインスリン分泌能低下とインスリンの標的臓器である骨格筋、肝臓、脂肪組織でのインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)が様々に組み合わさってインスリン作用の低下が起こり、高血糖を来した状態である。
【0004】
II型糖尿病は、種々の合併症(糖尿病性腎症、網膜症、神経障害)を起こすだけでなく、動脈硬化性疾患の重大危険因子として働き、死亡率を高める疾患として近年注目を集めている。
【0005】
従来、血糖値を下げる方法として、食物療法や運動療法、薬物療法が行われているが、
薬物療法の場合低血糖となったり、嘔吐、腹痛等の副作用をきたすことがあることから、
副作用の少ない有効な治療法が望まれている。
【0006】
このような観点から、天然物の中からインスリン分泌を促進する物質の探索がすすめられており、白甘藷の塊根、皮からの抽出物(特開平10 - 120584号公報(特許文献1)、特開2002 - 330726号公報(特許文献2))、ロズマリン酸を有効成分とするクミスクチン、クダモノトケイソウ、ヘチマ、ドラゴンフルーツ(特開2005 - 139136号公報(特許文献3))、マメ科植物のブテア・スペルバの低級アルコール抽出物(特開2005 - 320281号公報(特許文献4))が提案されている。
【0007】
しかしながら、それらの天然物からの物質は血糖値を下げるにはいまだ十分とは言い得ない状況にあり、さらに有効でかつ副作用の少ない物質が求められているところである。
【0008】
【特許文献1】特開平10−120584号公報
【特許文献2】特開2002−30726号公報
【特許文献3】特開2005−139136号公報
【特許文献4】特開2005−320281号公報
【特許文献5】特開2000−139406号公報
【非特許文献1】Bioorg. Med. Chem. 11, 3807-3813(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、天然物から膵β細胞のインスリン分泌を促進する物質を見出し、副作用が少なく有効に糖尿病を予防・治療できる物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、柿葉、柿枝及びそれらの抽出物、更にはそれらに含まれる主要フラボノイドのアグリコンとなるケンフェロールに膵β細胞インスリン分泌促進作用を認め、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、
(1)柿葉及び/又は柿枝あるいはそれらの抽出物を含有することを特徴とする糖代謝制御組成物、
(2)ケンフェロールまたはその配糖体を含有することを特徴とする糖代謝制御組成物、
(3)(1)又は(2)記載の糖代謝制御組成物を主成分とする膵β細胞インスリン分泌促進剤、
(4)柿葉及び/又は柿枝あるいはそれらの抽出物を含有することを特徴とする膵β細胞インスリン分泌促進用飲食品
に関するものである。
【0012】
高血糖を制御するには、(1)腸管での糖質分解酵素の阻害と消化管からのグルコース吸収阻害などグルコースが血液中に入る前に制御する方法、と(2)グルコースが血液へ移行してから制御する方法の二通りがある。
【0013】
本発明者等は、この方法の内(2)の方法に視点を置き、かつ柿葉に着目して実験を行い、本発明を開発した。
【0014】
柿は、原産地は日本で、学名をディオスピロス・カキといい、柿葉は、お茶として飲用されている。近年、健康茶が多く市販され、その中で、柿葉茶は、製法の改良により、アスコルビン酸含量が高く、非常に高いフリーラジカル捕捉活性を有するものが市販されるようになっている。また、柿葉抽出物に抗アレルギー作用を有することも開示されている(特開2000 - 139406号公報(特許文献5))。
【0015】
柿葉は、柿の果実、葉、幹、根まで含めた内の約15%程度を占めており、柿の果実は利用されるものの、柿葉は大部分が棄てられており、資源活用の面からも本発明の貢献するところ大である。
【0016】
島根県農業技術センターでは、柿葉の成分中、アスコルビン酸とポリフェノール含量は、6月から7月の葉に多く、イソケルシトリン、アストラガリンについては、5月葉の含量が多かったというデータ、及びアスコルビン酸含量は未展開葉よりも長い新梢(60〜80cm)の葉が高いというデータがある。なお、アストラガリンとは、ケンフェロール−3−グルコシドでフラボノイドの一種である。
【0017】
これらのことから、本発明で用いる柿葉は5月ごろの新梢葉を用いることが好ましいと言える。また、柿葉又は柿枝に代えてそれぞれの抽出物を用いることにより、より効率を高めることができる。抽出方法は、含水エタノールによる抽出が好適であるが、その他通常用いられている抽出方法でも十分である。
【0018】
本発明者等は、前述のアストラガリン、すなわちケンフェロールが膵β細胞インスリン分泌促進作用を有することを確認した。
【0019】
本発明において飲食品とは、茶、ジュース等の飲料を初め、通常の飲食品の他に菓子、サプリメント等をも含んでいる。
【0020】
インスリン分泌促進剤は、担体、賦形剤等を添加することにより、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤等にして経口投与でき、また注射剤として投与することも可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、柿葉、柿枝及びそれらの抽出物、更にはその主要フラボノイドであるケンフェロールが、膵β細胞インスリン分泌促進剤として利用でき、結果として血糖値の上昇を抑制し、糖尿病の予防・治療に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の実施例を挙げて、より詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(柿葉抽出物の調製)
柿葉28.6gを70%エタノール500mlで60℃、1時間抽出した。ろ過し、ろ液について1/2に濃縮した。あらかじめ分液ロートにヘキサン200mlをとっておき、これに濃縮液を注ぎ、液々分配を行い、上層を柿葉ヘキサン層とした。下層を更に酢酸エチル200mlで液々分配し、上層を柿葉酢酸エチル層、下層を含水エタノール層とした。これら3層について、それぞれ濃縮堅固し固形分を得た。
【実施例2】
【0024】
(柿枝抽出物の調製)
柿枝25.25gを70%エタノール300mlで60℃、1時間抽出した。ろ過し、ろ液について1/2に濃縮した。あらかじめ分液ロートにヘキサン200mlをとっておき、これに濃縮液を注ぎ、液々分配を行い、上層を柿枝ヘキサン層とした。下層を更に酢酸エチル200mlで液々分配し、上層を柿枝酢酸エチル層、下層を含水エタノール層とした。含水エタノール層と酢酸エチル層について、それぞれ濃縮堅固し固形分を得た。
【0025】
調製した柿葉および柿枝抽出物について、膵β細胞インスリン分泌促進作用に対する効果について検証した。
【実施例3】
【0026】
(膵β細胞インスリン分泌能促進作用の確認のための培養)
膵β細胞インスリン分泌能促進作用は、ラット膵臓β細胞由来のRIN-5Fを用いて測定した。
【0027】
[維持培養]
RIN-5F 細胞(ATCC、CRL-2058)は、L-グルタミン(和光純薬社製)300mg/L、NaHCO3(和光純薬社製)1.8〜3.0g/L、ストレプトマイシン100μg/L、ペニシリン100 units/mlを添加し、10%ウシ胎児血清(FBS)含有RPMI 1640培地(10%FBS/RPMI 1640) を用いて、37℃、5%CO2/95%空気下CO2インキュベーター(NAPCO5400、Jouan、France)で培養した。
【0028】
5mlの10%FBS/RPMI 1640培地にRIN-5F 細胞を懸濁し、25cm2細胞培養用フラスコ(NUNKTM)に播種した。細胞を播種後、48〜72時間CO2インキュベーター内で静置した後、フラスコ底面に吸着しなかった細胞を吸引除去し、5mlの新鮮な培地に交換した。3日おきに培地を交換し、増殖した細胞はトリプシン処理によってプレート底面より剥離してから継代培養し、実験に使用した。
【0029】
[インスリン分泌能検定のための培養]
RIN-5細胞から分泌されるインスリン量の測定は、Nomuraらの方法を一部改変して行った(Bioorg. Med. Chem. 11, 3807-3813 (2003)(非特許文献1))。
【0030】
RIN-5細胞を2.5 × 105細胞/mlとなるように10%FBS/RPMI 1640培地に懸濁し、24穴プレート(NUNKTM)に1穴当り1ml播種し、CO2インキュベーター内で72時間培養した。
【実施例4】
【0031】
(膵β細胞インスリン分泌に対する柿葉抽出物の影響)
実施例3における培養後、培地を吸引除去し、柿葉のヘキサン層、酢酸エチル層、含水エタノール層をそれぞれ100μg/mlを含む1%FBS/RPMI 1640、1mlでさらに3時間培養した。対照として無添加 1%FCS/RPMI 1640、1mlを添加した群を設けた。各濃度群について3穴用意し測定した。培養後、培養上清を回収し、High Range Rat Insulin ELISA (Mercodia社製)を用いて培地中のインスリン濃度を測定した。統計処理は、One-way Analysis of Varianceの後、Dunnett Multiple Comparisons Testを実施した。
【0032】
無添加1%FBS/RPMI 1640で培養した場合に比較して、柿葉の酢酸エチル、含水エタノール層において有意差(p<0.01)のあるインスリン増大を認め、柿葉によるインスリン分泌促進能を認めた(図1))。
【実施例5】
【0033】
(膵β細胞インスリン分泌に対する柿枝抽出物の影響)
実施例3における培養後、培地を吸引除去し、柿枝の含水エタノール層、酢酸エチル層をそれぞれ100μg/mlを含む1%FBS/RPMI 1640、1mlでさらに3時間培養した。対照として無添加 1%FCS/RPMI 1640、1mlを添加した群を設けた。各濃度群について3穴用意し測定した。培養後、培養上清を回収し、実施例4と同様に測定、処理した。
【0034】
その結果、無添加1%FBS/RPMI 1640で培養した場合に比較して、柿枝の含水エタノール層、酢酸エチル層を含有する1%FBS/RPMI 1640で培養したRIN-5Fにおいて有意差(p<0.01)のあるインスリン増大を認め、柿枝によるインスリン分泌促進能を認めた(図2))。
【実施例6】
【0035】
(膵β細胞インスリン分泌に対するケンフェロールの影響)
実施例3における培養後、培地を吸引除去し、ケンフェロール12.5μM及び25μMを含む1%FBS/RPMI 1640、1mlでさらに3時間培養した。対照として無添加 1%FBS/RPMI 1640、1mlを添加した群を設けた。各濃度群について3穴用意し測定した。培養後、培養上清を回収し、実施例4と同様に測定、処理した。
【0036】
その結果、無添加1%FBS/RPMI 1640で培養した場合に比較してケンフェロールを含有する1%FBS/RPMI 1640で培養したRIN-5Fにおいて有意差(p<0.01)のあるインスリン増大を認め、ケンフェロールによるインスリン分泌促進能を認めた(図3)。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ラット膵β細胞由来RIN-5F細胞からのインスリン分泌に対する柿葉抽出物の影響を示す図。
【図2】ラット膵β細胞由来RIN-5F細胞からのインスリン分泌に対する柿枝抽出物の影響を示す図。
【図3】ラット膵β細胞由来RIN-5F細胞からのインスリン分泌に対するケンフェロールの影響を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柿葉及び/又は柿枝あるいはそれらの抽出物を含有することを特徴とする糖代謝制御組成物。
【請求項2】
ケンフェロールまたはその配糖体を含有することを特徴とする糖代謝制御組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の糖代謝制御組成物を主成分とする膵β細胞インスリン分泌促進剤。
【請求項4】
柿葉及び/又は柿枝あるいはそれらの抽出物を含有することを特徴とする膵β細胞インスリン分泌促進用飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−215253(P2009−215253A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62398(P2008−62398)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000108812)タマ生化学株式会社 (19)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】