説明

栓体、当該栓体を具備する血液処理医療用具、及び当該血液処理医療用具に対する電子線滅菌方法

【課題】電子線滅菌処理における絶縁破壊を効果的に防止可能な血液処理医療用具の栓体、血液処理医療用具、中空糸膜型医療用具を提供する。
【解決手段】血液処理医療用具1の出口及び/又は入口を封止する栓体であって、表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有し、前記血液処理医療用具の内部を気体及び/又は液密に封止した状態で、前記血液医療用具を含めて電子線照射による滅菌処理がなされている栓体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栓体、当該栓体を具備する血液処理医療用具、及び当該血液処理医療用具に対する電子線滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血液処理医療技術、特に中空糸膜技術の医学への応用が進歩しており、例えば慢性腎不全患者の血液透析療法に用いられる人工腎臓、患者の血漿を廃棄して新鮮凍結血漿やアルブミン溶液と置換する血漿交換療法に用いられる血漿分離器、患者の血漿中の高分子量物質を除去する二重濾過血漿交換療法に用いられる血漿分画器等において、各種血液処理医療用具が使用されている。
【0003】
中空糸膜型医療用具等の各種血液処理医療用具は、血液等、患者の体液と接触する医療用具であるため、使用の際には滅菌処理がなされている必要がある。
血液処理医療用具の滅菌処理方法としては、従来から熱滅菌、化学滅菌、照射滅菌等が知られており、医療用具の熱的、化学的性質を考慮して選択されている。
特に、前記照射滅菌のうちの電子線照射滅菌は、熱滅菌のように医療用具が高温にさらされたり、化学滅菌のように薬剤が医療用具に残留したりすることが無く、また、γ線照射滅菌のように高価な放射性同位体を用いることによるコスト高を招来したり、特殊な廃棄手段を選択したりする必要もないため、有用性の高い有望な滅菌方法として知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−325434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、血液処理医療用具を電子線照射により滅菌処理する場合、下記のような問題を有している。
【0006】
電子線は、γ線と比較して物体への透過力が小さく、その透過距離は、みかけ比重、材料の密度、照射方向における照射対象物の厚みに依存する。
血液処理医療用具は、管体の材料や当該管体の内部に収容されている中空糸膜や不織布を含めて、モジュール全体として、みかけ比重が高く、構成材料もポリオレフィン樹脂等の絶縁性が高く密度自体も高いものであるため電子線は透過しにくい。また、形状が複雑であるため、全体的に均一な電子線照射を行うことが困難であり、また、透過しきれなかった電子が血液処理医療用具の内部で蓄積し、当該血液処理医療用具の内部と外部とで電位差が生じることにより、やがて栓体の天板部で絶縁破壊が起こり、スパークが発生し、栓体に貫通孔やコゲ痕が生じ、破損する場合がある。
さらには、血液処理医療用具は、使用の直前まで滅菌状態を保持する必要があることから、管状の本体を所定の栓体により密閉した状態、例えば中空糸膜型医療用具の場合にはノズル栓やポート栓により封止し、モジュール内部を液密及び/又は気密にした状態で電子線照射を行われる。このため、内部に蓄積された電荷が外部に放出されず、滅菌処理において継続的な電子線照射が行われると、一層、電荷が蓄積していき、絶縁破壊を招来する。
血液処理医療用具の一部で絶縁破壊が起こると、無菌性が失われる危険があるばかりでなく、被施術者に甚大な害をもたらすおそれがある。
【0007】
従来、形状が複雑で、部位によって密度差が大きい対象への電子線照射方法として、加速電圧を高くして透過力を高めたり、3方向以上の多方向から電子線を照射したりするといった方法が提案されているが、これらの照射方法は、制御が困難であり、絶縁性の構成部材を含む被照射物の一部、あるいは被照射物全体への電荷の蓄積を助長する懸念がある。
【0008】
そこで、本発明においては、上記のような従来技術の問題点に鑑み、電子線滅菌処理において均一照射を実現し、かつ絶縁破壊の発生を効果的に防止できる、血液処理医療用具及びその栓体、当該血液処理医療用具に対する電子線滅菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、血液処理医療用具を構成する部品、特に栓体の少なくとも一部の表面抵抗率を特定することにより、絶縁破壊の発生を防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
〔1〕
血液処理医療用具の出口及び/又は入口を封止する栓体であって、
表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有し、
前記血液処理医療用具の内部を気体及び/又は液密に封止した状態で、前記血液医療用具を含めて電子線照射による滅菌処理がなされている栓体。
〔2〕
前記栓体が、表面抵抗率が1×1010Ω以下の高分子材料の成形体である、前記〔1〕に記載の栓体。
〔3〕
表面抵抗率が1×1010Ω以下の高分子材料が表面にコートされている前記〔1〕に記載の栓体。
〔4〕
前記血液処理医療用具が中空糸膜型医療用具である前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の栓体。
〔5〕
表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有している栓体を具備し、
前記栓体により、内部を気密及び/又は液密に封止した状態で、電子線照射による滅菌処理がなされている血液処理医療用具。
〔6〕
中空糸膜型医療用具である前記〔5〕に記載の血液処理医療用具。
〔7〕
筒状容器と、
当該筒状容器の長手方向に沿って装填され、両端部が前記筒状容器の両端部に固定されている中空糸膜の束と、
当該中空糸膜の束を、前記筒状容器の両端部で包埋固定しているポッティング樹脂と、
前記中空糸膜の両端面に対向し、前記筒状容器の両端部に設けられており、それぞれ流体の出入口となるノズルを具備するヘッダーと、
前記筒状容器の側面部に設けられており、流体の出入口となるポートと、
前記ノズルから着脱可能なノズル用栓体と、
前記ポートから着脱可能なポート用栓体と、
を、具備し、
前記ポート用栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有している、中空糸膜型医療用具である前記〔5〕又は〔6〕に記載の血液処理医療用具。
〔8〕
前記ポート用栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である高分子材料からなる前記〔7〕に記載の血液処理医療用具。
〔9〕
前記ノズル用栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である高分子材料からなる部分を有している前記〔7〕又は〔8〕に記載の血液処理医療用具。
〔10〕
前記ノズル用栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である高分子材料からなる前記〔7〕乃至〔9〕のいずれか一に記載の血液処理医療用具。
〔11〕
前記〔5〕乃至〔10〕のいずれか一に記載の血液処理医療用具に対し、前記栓体により内部を気密及び/又は液密に封止した状態で電子線照射を行う、血液処理医療用具の電子線滅菌方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電子線滅菌工程における帯電スパークや、絶縁破壊の発生を効果的に防止できる、信頼性の高い血液処理医療用具及びその栓体、当該血液処理医療用具に対する電子線滅菌方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】中空糸膜型医療用具の一例の構成を説明するための概略図を示す。
【図2】中空糸膜型医療用具を構成するポートの概略構成図を示す。
【図3】(a)ポート用栓体の一例の概略断面図を示す。(b)ポート用栓体をポートに取り付けた状態の概略断面図を示す。
【図4】中空糸膜型医療用具を構成するノズルの概略断面図を示す。
【図5】ノズル用栓体の一例の概略断面図を示す。
【図6】(a)ポート用栓体の他の一例の概略断面図を示す。(b)他の一例のポート用栓体をポートに取り付けた状態の概略断面図を示す。
【図7】(a)〜(j)ポート用栓体の具体例の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、図を参照して説明する。
本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、さらに図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0014】
〔血液処理医療用具及び栓体〕
本実施形態の血液処理医療用具としては、例えば、所定の筒状容器中に、血液成分を分離等する不織布、分離膜等が装填されており、前記筒状容器の入口から出口へ通液する形態のものであって、所定の栓体により内部を気密及び/又は液密にすることができるものを適用する。
【0015】
<筒状容器>
血液処理医療用具を構成する筒状容器は、円筒状であっても直方体状であってもよく、何ら限定されるものではない。
また、筒状容器の構成材料としては、ガラス、その他の樹脂材料、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン6樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂等が挙げられる。
特に、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂は、樹脂コストが安価であり、医療用部材の分野での汎用性が高く、高い安全性が確認されているので好ましく、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂が特に好ましいが、これらに限定するものではない。
【0016】
<栓体>
本実施形態の血液処理医療用具は、栓体によって内部を気密及び/又は液密の状態に封止する構成を有しており、電子線滅菌の際には栓体で封止した状態で行う。
本実施形態の血液処理医療用具の栓体は、血液処理医療用具の内部を気密及び/又は液密の状態に封止する機能を有しているものであれば、形状については特に限定されるものではなく、いかなるものであってもよい。
本実施形態の血液処理医療用具の栓体の材質は、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、シリコン樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
特に、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂は、適度な硬さに基づく密着性や施栓性を有しており、包み栓型や押し込み栓型の栓体として汎用されており好ましい。
【0017】
本実施形態の血液処理医療用具の栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有している。当該部分の表面抵抗率は1×108Ω以下であることが好ましく、1×106Ω以下であることがより好ましい。
表面抵抗率が1×1010Ωを超えると、後述する滅菌処理において行われる電子線照射により、中空糸膜型医療用具の本体内に蓄積した電荷を十分に放散することができず、蓄積した電荷により中空糸膜型医療用具に絶縁破壊が起こり易くなる。
また、表面抵抗率が小さい値であるほど、中空糸膜型医療用具の本体内に蓄積した電荷を放散し易くなり、絶縁破壊防止効果が得られやすくなるので、本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する栓体は、少なくともその一部に、出来るだけ表面抵抗率が小さい個プ分子材料からなる部分を有していることが好ましい。
表面抵抗率1×1010Ω以下である部分とは、栓体の一部分であってもよく、全体であってもよい。
当該表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分は、単一の部品により構成されていてもよく、複数の部品により構成されていてもよい。また、表面に所定の塗布材料をコートすることにより、当該部分の表面抵抗率を1×1010Ω以下としたものであってもよい。
栓体の形成材料である樹脂を単体、あるいは二種以上組み合わせることにより、表面抵抗率が1×1010Ω以下となる高分子材料を得ることができれば、栓体の材料として使用することができるが、帯電防止剤や導電性の高分子材料を組み合わせることにより、より簡便に本発明の目的に合った栓体の材料を得ることができる。
【0018】
表面抵抗率1×1010Ω以下である部分が、栓体の一部分である場合、当該部分は、血液処理医療用具の内部の空間と接触し、なおかつ外部と連通している必要がある。
これにより、血液処理医療用具に蓄積した電荷を外部に放出することができる。
【0019】
〔中空糸膜型医療用具及び栓体〕
上述した血液処理医療用具の代表的な一例として、中空糸膜型医療用具が挙げられる。
中空糸膜型医療用具の具体例について、図1を参照して説明する。
なお、図1中、一点鎖線Aの右側部分は、中空糸膜型医療用具1の概略断面図を示し、一点鎖線の左側部分は、中空糸膜型医療用具の概略側面図を示す。
【0020】
<全体構造>
図1に示す中空糸膜型医療用具1は、筒状容器9と、当該筒状容器9の内部に装填されている中空糸膜3と、当該中空糸膜3の両端面に、互いに対向するように設けられ、それぞれ処理対象である血液の出入口となるノズル4、5を具備するヘッダー2、2’と、前記筒状容器9の側面部に設けられ、血液の出入口となるポート6、7とを有している。
前記ノズル4、5及び前記ポート6、7は、それぞれ着脱可能な栓体(図示せず)を具備している。
前記中空糸膜3は筒状容器9の長手方向に沿って束状で充填されており、中空糸膜3の内側と外側とを隔絶するように、中空糸膜3の束の両端部が、ポッティング樹脂8により包埋され筒状容器9の両端部に固定されており、ポッティング樹脂8の端面においては、中空糸膜3の内側が開口した状態となっている。
また、中空糸膜3の内側とヘッダー2、2’内表面との間には第一の空間11を有しており、中空糸膜3の外側と筒状容器9の内表面との間には第二の空間12を有している。
【0021】
図2に、中空糸膜型医療用具1を構成する筒状容器9の側面に設けられたポート6、7の概略側面図を示す。
ポート6、7の構造としては、例えば、JIS T 3250:2005(血液透析器、血液透析ろ(濾)過器、血液ろ(濾)過器及び血液濃縮器)の4.4.4(血液透析器及び血液透析ろ(濾)過器の透析液側接続部分)に記載の構造が挙げられる。
図2中の破線は、ポート6、7の中空部を表しており、当該中空部は、図1中の筒状容器9内と連通している。ポート6、7は、それぞれ、後述するポート用栓体の着脱により、開閉可能となされている。
図3(a)に、ポート6、7から着脱可能で、これにより開閉可能とするポート用栓体20の概略断面図を示し、図3(b)に、ポート用栓体20をポート6、7に取り付けた状態の概略断面図を示す。
ポート用栓体20は、例えば、図3(a)に示すように、ポート6、7の外側面に合致する円筒状の突起部21、ポート6、7の中空部に合致する円筒状の突起部22を具備するものであってもよい。
ポート用栓体20は、ポート6、7に取り付けたとき、図3(b)に示すように、ポート6、7の略根元まで覆うようになされる。
なお、本実施形態においては、電子線照射による滅菌処理を行う際、上述したポート用栓体20によりポート6、7を封止して、内部を気密及び/又は液密の状態とする。これにより、中空糸膜型医療用具を使用する直前まで、第二の空間12の滅菌状態を保持することができる。
【0022】
図4に、ヘッダー2、2’のノズル4、5の概略断面図を示す。
ノズル4、5の構造としては、例えば、JIS T 3250:2005(血液透析器、血液透析ろ(濾)過器、血液ろ(濾)過器及び血液濃縮器)の4.4.3(血液透析器、血液透析ろ(濾)過器及び血液ろ(濾)過器の血液側接続部分)に記載の構造が挙げられる。
図5に、ノズル4、5から着脱可能で、これにより開閉可能とするノズル用栓体30の概略断面図を示す。ノズル用栓体30は、ノズル4、5の中空部に合致する円筒状の突起部31を具備するものであってもよい。
なお、本実施形態においては、電子線照射による滅菌処理を行う際、上述したノズル用栓体30によりノズル4、5を封止して、内部を気密及び/又は液密の状態とする。これにより、中空糸膜型医療用具を使用する直前まで、第一の空間11の滅菌状態を保持することができる。
【0023】
筒状容器9、ポート6、7、及びヘッダー2、2’の材質としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ナイロン6樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂などが挙げられる。
特に、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂は、樹脂コストが安価であり、医療用部材の分野での汎用性が高く、高い安全性が確認されているので好ましく、スチレン・ブタジエン共重合体樹脂が特に好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0024】
<栓体>
なお、中空糸膜型医療用具のポート用栓体20及びノズル用栓体30の形状については、特に限定されるものではない。
例えば、ポート用栓体20を例として説明すると、図3(a)に示すように、ポート6、7全体を包み込む形状の包み栓と、図6(a)、(b)の栓体200に示すように、ポート6、7の内部空間(第二の空間12)の内壁面に、ポート用栓体200の一部を接面させることで密閉性を得る形状の押し込み栓とがある。
図3(a)のように、ポート6、7全体を包み込む形状の包み栓の方が、滅菌状態を保持する機能としては優れているが、中空糸膜型医療用具のポート6、7と、ヘッダー2、2’のノズル4、5に取り付ける各栓体は、いずれのタイプであってもよく、また、これら以外のタイプの栓体も用いることができる。
【0025】
ポート用栓体20、200、ノズル用栓体30の形成材料は、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、シリコン樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
特に、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂は、適度な硬さに基づく密着性や施栓性があって、包み栓型や押し込み栓型の栓体として既に汎用されており好ましい。
【0026】
上述したポート用栓体20、200、ノズル用栓体30の少なくともいずれかは、表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有している。
「部分」とは、一部分であってもよく、全体であってもよい。
当該表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分は、単一の部品により構成されていてもよく、複数の部品により構成されていてもよい。また、表面に所定の塗布材料をコートすることにより、当該部分の表面抵抗率を1×1010Ω以下としたものであってもよい。
上述したポート用栓体20、200、ノズル用栓体30の形成材料である樹脂を単体、あるいは組み合わせることにより、表面抵抗率が1×1010Ω以下となる高分子材料を得ることができれば、栓体の材料として使用することができるが、帯電防止剤や導電性の高分子材料を組み合わせることにより、より簡便に本発明の目的に合った栓体の材料を得ることができる。
【0027】
表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分が、ポート用栓体20、200、ノズル用栓体30の一部分である場合、当該部分は、中空糸膜型医療用具の内部の空間と外部とに連通している。
これにより、中空糸膜型医療用具に蓄積した電荷を外部に放出することができる。
【0028】
栓体を構成する表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分について、図7(a)〜(j)に具体例を示して説明する。
なお、図7(a)〜(j)においては、中空糸膜型医療用具のポート用栓体20を例として説明するが、本発明は当該具体例に限定されるものではなく、ノズル用栓体である場合についても同様に適用できる。
図7(a)〜(j)中の、符号21及び符号210の部分は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を示し、符号22及び符号220の部分は表面抵抗率が1×1010Ωよりも大きい部分を示す。
いずれも単一の部品のみから構成されていてもよく、複数の部品から構成されていてもよい。
例えば、図7(a)は栓体の全体が表面抵抗率が1×1010Ω以下である単一の部品により形成されており、図7(b)〜(d)、(f)、(h)〜(j)は、栓体の一部が表面抵抗率が1×1010Ω以下である部品により形成されている。
図7(e)、(g)は、栓体の表面に表面抵抗率を1×1010Ω以下に制御するための所定の材料をコーティングしたものである。
【0029】
本実施形態の中空糸膜型医療用具においては、電子線照射により本体内に蓄積された電荷が、外部に放出されることにより、絶縁破壊が効果的に防止される。
そのため、栓体を構成する部分のうち、表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分は、図1に示す中空糸膜型医療用具1を構成する第一の空間11又は第二の空間12に接するように設けられており、かつ、その部分が途切れることなく本体外の空間にも接している。
これにより、中空糸膜型医療用具の本体内に蓄積された電荷が、表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分のみを通過し、中空糸膜型医療用具の本体外の空間に放散させることができる。
【0030】
前記絶縁破壊を防止するために、中空糸膜型医療用具を構成する栓体の少なくとも一部において表面抵抗率が1×1010Ω以下とし、好ましくは1×108Ω以下とし、より好ましくは1×106Ω以下とする。
表面抵抗率を1×1010Ω以下とする方法としては、表面抵抗率が1×1010Ω以下の樹脂そのものを用いる方法や、その他、市販の帯電防止剤を構成部品の表面に塗布する方法や、市販の帯電防止剤や導電性の高分子材料を熱可塑性樹脂にブレンドする方法が比較的簡便な方法として挙げられ、所望の表面抵抗率を容易に得ることができる。
【0031】
前記帯電防止剤としては、ポリオキシアルキレン鎖を有する帯電防止剤(例えば、特開平03−255161号公報、特開平03−258850号公報)、オキシエチレン基を有するポリエーテルとオキシエチレン基を有しないポリエーテルの共重合体であり、オキシエチレン基部分の結晶化度を特定の範囲にした帯電防止剤(例えば、特開2009−108259号公報)、ポリエーテルを親水性セグメントとしたブロック型ポリマーからなる帯電防止剤(市販品)などの高分子型帯電防止剤、界面活性剤型帯電防止剤、導電性フィラー(カーボンブラックなど)、導電性ABS樹脂などが挙げられる。
【0032】
表面抵抗率が1×1010Ωを超えると、後述する滅菌処理において行われる電子線照射により、中空糸膜型医療用具の本体内に蓄積した電荷を充分に放散することができず、蓄積した電荷により中空糸膜型医療用具に絶縁破壊が起こり易くなる。
また、表面抵抗率が小さい値であるほど、中空糸膜型医療用具の本体内に蓄積した電荷を放散し易くなり、絶縁破壊防止効果が得られやすくなるので、本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する栓体は、少なくともその一部に、出来るだけ表面抵抗率が小さい高分子材料からなる部分を有していることが好ましい。
なお、表面抵抗率が十分に小さい高分子材料は、通常、製造コストが高く、機械的強度が弱くポートへの取り付けがしにくくなるなどの問題が起こる場合があるため、目的に応じて材料選択を行うことが好ましい。
【0033】
本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する、前記栓体以外の構成部材についても、上述した栓体の構成材料を用いて、表面抵抗率が1×1010Ω以下にしてもよい。
この場合、必要に応じて市販されている帯電防止剤や導電性の高分子材料を組み合わせることにより、比較的容易に表面抵抗率が1×1010Ω以下とすることができる。
【0034】
本実施形態の中空糸膜型医療用具を構成する、前記栓体やその他の部品の表面抵抗率については、二重リング電極法(IEC60093, ASTM D257,JIS K6911, JIS K6271)に従い、円形電極の間で絶縁抵抗計により電気抵抗を測定し、電極形状から表面抵抗率を求めることができる。
【0035】
<中空糸膜>
中空糸膜型医療用具1を構成する中空糸膜3は、形状、寸法、分画特性に関し、特に限定されるものではなく、使用目的に照らして適切に選択することができる。
中空糸膜3の材質としては、セルロース系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリアクリロニトリル系高分子、ポリメチルメタクリレート系高分子、エチレンビニルアルコール共重合体を含むポリビニル系高分子、ポリアミド系高分子、ポリエステル系高分子、ポリオレフィン系高分子等が挙げられる。
中でも、ポリスルホン系高分子は、芳香族化合物であることから放射線耐性に特に優れており、また、熱や化学的処理にも非常に強く、安全性にも優れている。
従って、様々な製膜条件を採択できるとともに電子線滅菌が可能となり、中空糸膜型医療用具に用いる中空糸膜の材質として特に好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0036】
中空糸膜3は、従来公知の技術により製造できる。
また、中空糸膜3の基材に疎水性高分子を使用する場合は、膜に親水性を付与する為に親水性高分子をブレンドして製膜することが一般的である。
親水性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
特に、ポリビニルピロリドンが親水化の効果や安全性の面より好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
先ず、基材用の高分子材料と親水性高分子とを、共通溶媒に溶解し、紡糸原液を調製する。
このような共通溶媒としては、親水性高分子がPVPの場合、例えば、ジメチルアセトアミド(以下、DMACと称する。)、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジオキサン等の溶媒、あるいは上記溶媒を2種類以上混合した溶媒等が挙げられる。目的とする中空糸膜の孔径制御のため、紡糸原液には水などの添加物を加えてもよい。
中空糸膜の製膜に際しては、チューブインオリフィス型の紡糸口金を用い、紡糸口金のオリフィスから紡糸原液を、チューブから該紡糸原液を凝固させる為の中空内液と同時に空中に吐出させる。
中空内液としては、水、又は水を主体とした凝固液が使用でき、目的とする中空糸膜の透過性能に応じてその組成等を決定すればよい。一般的には、紡糸原液に使用した溶剤と水との混合溶液が好適に使用される。例えば、0〜65質量%のDMAC水溶液などが用いられる。
紡糸口金から中空内液とともに吐出された紡糸原液は、空走部を走行させ、紡糸口金下部に設置した水を主体とする凝固浴中へ導入、浸漬して凝固を完了させ、洗浄工程等を経て、湿潤状態の中空糸膜巻き取り機で巻き取り、中空糸膜の束を得、その後乾燥処理を行う。あるいは、上記洗浄工程を経た後、乾燥機内にて乾燥を行い、中空糸膜の束を得てもよい。
【0037】
<中空糸膜型医療用具の製造方法>
中空糸膜型医療用具1において、中空糸膜3の束は、筒状容器9の長手方向に沿って装填され、両端部が筒状容器9の両端部に固定されている。
例えば、中空糸膜3の束を、流体の出入口を持つ筒状容器9へ挿入し、中空糸膜3の束の両端部に、ポッティング樹脂を注入して、筒状容器9の長手方向中心を軸として遠心回転させることにより、中空糸膜3の束両端部にポッティング層を形成して両端をシールすることにより、固定できる。
なお、中空糸膜3の束を固定した後、余分なポッティング樹脂を切断除去して、中空糸膜3の端面を開口させ、流体の出入口を持つヘッダー2、2’を取り付けることにより、中空糸膜3の束が筒状容器9に装填され、中空糸膜3の内側とヘッダー内表面との間にできた第一の空間11と、中空糸外側と筒状容器9の内表面との間にできた第二の空間12を備える中空糸膜型医療用具が製造できる。
【0038】
中空糸膜3の束の両端部をシールするポッティング樹脂8の材質としては、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。
【0039】
また、一般的に中空糸膜型医療用具は、中空糸膜の中空内部や容器との隙間が水性媒体で満たされたウェットタイプと、水性媒体で満たされていない非ウェットタイプとに大別され、後者は、さらに膜の含水率が数パーセント程度に低いドライタイプと、膜が水分や保湿剤等によって適度に湿潤化されているセミドライタイプ(ハーフウェットタイプと称されることもある。)に区分されることがあるが、本実施形態においては、目的に応じていずれのタイプの中空糸膜型医療用具とすることもできる。
【0040】
中空糸膜型医療用具がウェットタイプである場合、水性媒体としては、純水や溶媒に、抗酸化剤や緩衝液を混合させたものが一般的に使用できる。
抗酸化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、アセトンソジウムバイサルファイト、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート、ソジウムハイドロサルファイト、1−アスコルビン酸などが挙げられ、緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びホウ酸緩衝液等が挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。
また、溶媒としては、メタノール、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、イソプロパノール等が挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。
中空糸膜型医療用具がセミドライタイプである場合、保湿剤としては、親水性高分子の劣化保護機能を有しつつ適度な粘性を帯びて膜表面に保持されやすく、疎水性高分子や親水性高分子とは強固な化学結合を形成せず、しかも生理的水溶液により洗浄されやすいという要件を同時に満たすものが好ましく使用できる。
例えば、グリセリン、マンニトール、グリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール)、ポリグリコール類(例えば、ポリエチレングリコール)などの多価アルコール類などが挙げられる。
特に、血液浄化用中空糸膜の孔径保持剤や表面改質剤として実績がある点で、グリセリンまたはポリエチレングリコールの水溶液がより好ましく、グリセリン水溶液が特に好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0041】
〔血液処理医療用具(中空糸膜型医療用具)に対する滅菌処理〕
本実施形態の電子線滅菌方法においては、上述した血液処理医療用具、例えば中空糸膜型医療用具に対し電子線照射を行うことにより滅菌処理を行う。
このとき、上述したように、栓体を閉じて内部を気密及び/又は液密の状態に封止して行うものとする。
【0042】
<電子線照射装置>
電子線滅菌を行う電子線照射装置としては、従来公知の電子線照射装置を用いることができる。例えば、リニアック型加速管とマイクロ波電界を用いて電子線を所定のエネルギーまで加速する方式を採用した、マイクロ波加速方式の電子線照射装置が好ましく用いられる。当該方式によると、加速器のON/OFFにより電子線を制御でき、所望のタイミングで即時に電子線を発生又は停止することができる。
【0043】
<電子線吸収線量の制御>
本実施形態の電子線滅菌方法においては、血液処理医療用具の累積電子線吸収線量を、 5〜60kGyとすることが好ましく、15〜50kGyがより好ましく、15〜45kGyがさらに好ましい。これにより、実用上十分な滅菌処理が行われる。
【0044】
また、本実施形態における電子線滅菌方法においては、電子線照射工程で、血液処理医療用具を所定の滅菌袋に包装した状態で行うことが好ましい。これにより血液処理医療用具を使用直前まで滅菌状態で保持し、医療現場においてすぐに使用できるようにすることができる。
滅菌袋の材質としては、例えば、ポリ塩化ビニリデン製フィルム、ポリビニルアルコール製フィルム、二軸延伸ポリビニルアルコール製フィルム、ポリ塩化ビニリデンコート二軸延伸ポリアルコール製フィルム、ポリエステル/アルミニウム/ポリエチレンのラミネートシート、アルミ箔、ポリエチレン/ナイロン二層構造フィルム等が挙げられる。
特に、ポリエチレン/ナイロン二層構造フィルムをラミネート加工によりシールする方法が製袋性やコストの観点から好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0045】
さらに、電子線照射により滅菌処理を行う場合、滅菌雰囲気は大気下でもよいが、酸素を除去した状態で滅菌する方が溶出物を低減させる上で好ましい。
脱酸素剤は、脱酸素機能を有するものであれば限定されない。例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、没食子酸、ロンガリット、アスコルビン酸及び/又はその塩、ソルボース、グルコース、リグニン、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシアニソール、第一鉄塩、鉄粉等の金属粉等を酸素吸収主剤とする脱酸素剤が挙げられる。
また、金属紛主剤の脱酸素剤には、酸化触媒として、必要に応じ、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化ニッケル、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化鉄等の金属ハロゲン化合物等の1種又は2種以上を加えてもよい。
【0046】
(用途)
本実施形態の血液処理医療用具は、各種医療用具に幅広く利用可能である。
例えば、血液透析器、血液透析濾過器、血液濾過器、持続血液透析濾過器、持続血液濾過器、血漿分離器、血漿成分分画器、血漿成分吸着器、ウイルス除去器、ウイルス吸着器、血液濃縮器、血漿濃縮器、腹水濾過器、腹水濃縮器等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
先ず、実施例に用いた各種測定方法について説明する。
【0048】
〔絶縁破壊発生率の測定〕
(目視観察)
電子線照射により絶縁破壊が発生した場合の、中空糸膜型医療用具の絶縁破壊発生箇所について、黒く焦げた痕の有無を目視により確認した。
(水中陽圧試験)
中空糸膜型医療用具全体を水中に沈め、内部に空気を送り込んで150kPaの圧力をかけて30秒間保持することによって、絶縁破壊発生箇所からの気泡の発生を観察し、絶縁破壊の発生を確認した。
この水中陽圧試験は、中空糸膜型医療用具の第一の空間、第二の空間のそれぞれで行った。
上記(目視観察)、(水中陽圧試験)のいずれかの方法で、絶縁破壊の発生が確認された場合、絶縁破壊が発生したものと判断し、作製した中空糸膜型医療用具の全数に対する絶縁破壊が発生した個数の割合を百分率で示した。
【0049】
〔電子線照射制御及び電子線吸収線量の測定〕
後述する実施例1〜4、比較例1、2の中空糸膜型医療用具に、電子線照射を行い、滅菌処理を行い、各々の電子線吸収線量を測定した。
【0050】
〔栓体の表面抵抗率の測定方法〕
後述する実施例1〜4、比較例1、2のポート用栓体の材料を100×100mmの試験片に加工し、JIS K6911に準拠し、ADVANTEST製の「ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A、TEST FIXTURE R12702A」により、22℃、湿度60%RHの雰囲気下で測定した。
【0051】
〔実施例1〕
ポリスルホン(ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ社製、P−1700):17質量部
PVP(アイ・エス・ピー社製、K−90):4質量部
ジメチルアセトアミド(以下、DMAC):79質量部
からなる均一な紡糸原液を作製した。
中空内液にはDMACの42%水溶液を用い、前記紡糸原液とともに、紡糸口金から吐出させた。
その際、乾燥後の膜厚を35μm、内径を185μmに合わせるように、紡糸原液及び中空内液の吐出量を調整した。
吐出した紡糸原液を50cm下方に設けた水よりなる60℃の凝固浴に浸漬し、30m/分の速度で凝固工程、水洗工程を通過させた後に乾燥機に導入し、160℃で乾燥後、クリンプを付与したポリスルホン系中空糸膜を巻き取った。
次に、巻き取った16000本の中空糸膜からなる束を、中空糸膜の有効膜面積が2.5m2となるように設計したスチレン−ブタジエン共重合体(旭化成ケミカルズ株式会社製、登録商標 アサフレックス)製の筒状容器に装填し、その両端部をウレタン樹脂(三洋化成工業株式会社製)で接着固定し、両端面を切断して中空糸膜の開口端を形成した。
開口端から濃度63%のグリセリン(和光純薬工業(株)製 特級)水溶液を中空糸膜内に5秒間注入し、0.2MPaのエアーで10秒間フラッシュさせた後、両端部にスチレン−ブタジエン共重合体(旭化成ケミカル株式会社製、登録商標 アサフレックス)製のヘッダーキャップを取り付けた。
血液流出入側ノズルにはポリエチレン(プライムポリマー社製、登録商標 ハイゼックス)製のノズル用栓体を被着し、本体のポートには、ポリエチレン(プライムポリマー社製、登録商標 ハイゼックス)製の本体に、導電性樹脂であるポリピロール(アキレス株式会社製、STポリ)をコーティングした、表面抵抗率が8.5×109Ωのポート用栓体を被着した。
【0052】
その後、ポリエチレン/ナイロン二層構造の滅菌袋で包装し、電子線吸収線量が35kGyとなるように制御して照射を行った。実施例1のポート用栓体の表面抵抗率、及び絶縁破壊発生率を、下記表1に示した。
【0053】
〔実施例2〕
本体のポートに、表面抵抗率が9.0×107Ωのポート用栓体を被着した。
その他の条件は、実施例1と同様とし、中空糸膜型医療用具を得た。
この中空糸膜型医療用具を、ポリエチレン/ナイロン二層構造の滅菌袋で包装し、電子線吸収線量が35kGyとなるように制御して照射を行った。
実施例2のポート用栓体の表面抵抗率、及び絶縁破壊発生率を、下記表1に示した。
【0054】
〔実施例3〕
本体のポートに、表面抵抗率が2.4×105Ωのポート用栓体を被着した。
その他の条件は、実施例1と同様とし、中空糸膜型医療用具を得た。
この中空糸膜型血液浄化器を、ポリエチレン/ナイロン二層構造の滅菌袋で包装し、電子線吸収線量が35kGyとなるように制御して照射を行った。
実施例3のポート用栓体の表面抵抗率、及び絶縁破壊発生率を、下記表1に示した。
【0055】
〔実施例4〕
本体のポートに、表面抵抗率が2.4×105Ωのポート用栓体を被着した。
その他の条件は、実施例1と同様とし、中空糸膜型医療用具を得た。
この中空糸膜型医療用具を、ポリエチレン/ナイロン二層構造の滅菌袋で包装し、電子線吸収線量が57kGyとなるように制御して照射を行った。
実施例4のポート用栓体の表面抵抗率、及び絶縁破壊発生率を、下記表1に示した。
【0056】
〔比較例1〕
本体のポートに、表面抵抗率が7.9×1010Ωのポート用栓体を被着した。
その他の条件は、実施例1と同様とし、中空糸膜型医療用具を得た。
この中空糸膜型医療用具を、ポリエチレン/ナイロン二層構造の滅菌袋で包装し、電子線吸収線量が35kGyとなるように制御して照射を行った。
比較例1のポート用栓体の表面抵抗率、及び絶縁破壊発生率を、下記表1に示した。
【0057】
〔比較例2〕
本体のポートに、ポリエチレン(プライムポリマー社製、登録商標 ハイゼックス)製の、表面抵抗率が4.5×1017Ωのポート用栓体を被着した。
その他の条件は、実施例1と同様とし、中空糸膜型医療用具を得た。
この中空糸膜型医療用具を、ポリエチレン/ナイロン二層構造の滅菌袋で包装し、電子線吸収線量が35kGyとなるように制御して照射を行った。
比較例2のポート用栓体の表面抵抗率、及び絶縁破壊発生率を、下記表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、ポート用栓体を表面抵抗率が1×1010Ω以下である高分子材料により形成した実施例1〜4の中空糸膜型医療用具においては、いずれも絶縁破壊の発生を効果的に防止することができた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の血液処理医療用具は、医療現場に於いて、血液透析、血液透析濾過、血液濾過、持続血液透析濾過、持続血液濾過、血漿交換、二重濾過血漿交換、ウイルス除去、血液濃縮、腹水濾過・濃縮、吸着などの各種医療用として、産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0061】
1 中空糸膜型医療用具
2、2’ ヘッダー
3 中空糸膜
4、5 ノズル
6、7 ポート
8 ポッティング樹脂
9 筒状容器
11 第一の空間
12 第二の空間
20、200 ポート用栓体
21、210 ポートに取り付けられる栓体を構成する部分の内、表面抵抗率が1×10 10Ω以下である高分子材料からなる部分
22、220 ポートに取り付けられる栓体を構成する部分の内、表面抵抗率が1×10 10Ω以下より大きい高分子材料からなる部分
30 ノズル用栓体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液処理医療用具の出口及び/又は入口を封止する栓体であって、
表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有し、
前記血液処理医療用具の内部を気体及び/又は液密に封止した状態で、前記血液医療用具を含めて電子線照射による滅菌処理がなされている栓体。
【請求項2】
前記栓体が、表面抵抗率が1×1010Ω以下の高分子材料の成形体である、請求項1に記載の栓体。
【請求項3】
前記栓体の表面には、表面抵抗率が1×1010Ω以下の高分子材料がコートされている請求項1に記載の栓体。
【請求項4】
前記血液処理医療用具が中空糸膜型医療用具である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の栓体。
【請求項5】
表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有している栓体を具備し、
前記栓体により、内部を気密及び/又は液密に封止した状態で、電子線照射による滅菌処理がなされている血液処理医療用具。
【請求項6】
中空糸膜型医療用具である請求項5に記載の血液処理医療用具。
【請求項7】
筒状容器と、
当該筒状容器の長手方向に沿って装填され、両端部が前記筒状容器の両端部に固定されている中空糸膜の束と、
当該中空糸膜の束を、前記筒状容器の両端部で包埋固定しているポッティング樹脂と、
前記中空糸膜の両端面に対向し、前記筒状容器の両端部に設けられており、それぞれ流体の出入口となるノズルを具備するヘッダーと、
前記筒状容器の側面部に設けられており、流体の出入口となるポートと、
前記ノズルから着脱可能なノズル用栓体と、
前記ポートから着脱可能なポート用栓体と、
を、具備し、
前記ポート用栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である部分を有している、中空糸膜型医療用具である請求項5又は6に記載の血液処理医療用具。
【請求項8】
前記ポート用栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である高分子材料からなる請求項7に記載の血液処理医療用具。
【請求項9】
前記ノズル用栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である高分子材料からなる部分を有している請求項7又は8に記載の血液処理医療用具。
【請求項10】
前記ノズル用栓体は、表面抵抗率が1×1010Ω以下である高分子材料からなる請求項7乃至9のいずれか一項に記載の血液処理医療用具。
【請求項11】
請求項5乃至10のいずれか一項に記載の血液処理医療用具に対し、前記栓体により内部を気密及び/又は液密に封止した状態で電子線照射を行う、血液処理医療用具の電子線滅菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−34600(P2013−34600A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172147(P2011−172147)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】