校正用標準部材及びこれを用いた校正方法および電子ビーム装置
【課題】 高精度測長校正を実現する校正用標準部材を提供する。
【解決手段】 光学的回折角測定が可能な回折格子パターンに座標位置を表すマークパターンを混在させ、かつ回折格子配列周囲に十字マークパターンを含んだダミーパターンを配置させることで本標準部材の作製および実現が可能となる。
【効果】 回折格子座標位置を示すマークを回折格子近傍に配置させることにより、校正に用いる回折格子位置の確認が容易になる。また、回折格子配列周囲に十字マークパターンを含んだダミーパターンを配置させることにより回折格子配列内の近接効果の差異の無い均一な回折格子パターンが実現できる。更に、十字マークを回折格子配列に隣接して配置できるので高精度な回折格子位置決めが実現できる標準部材を用いることにより高精度かつ容易な回折格子位置決め校正が可能となり次世代半導体加工に対応した高精度測長校正が実現できる。
【解決手段】 光学的回折角測定が可能な回折格子パターンに座標位置を表すマークパターンを混在させ、かつ回折格子配列周囲に十字マークパターンを含んだダミーパターンを配置させることで本標準部材の作製および実現が可能となる。
【効果】 回折格子座標位置を示すマークを回折格子近傍に配置させることにより、校正に用いる回折格子位置の確認が容易になる。また、回折格子配列周囲に十字マークパターンを含んだダミーパターンを配置させることにより回折格子配列内の近接効果の差異の無い均一な回折格子パターンが実現できる。更に、十字マークを回折格子配列に隣接して配置できるので高精度な回折格子位置決めが実現できる標準部材を用いることにより高精度かつ容易な回折格子位置決め校正が可能となり次世代半導体加工に対応した高精度測長校正が実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は標準部材およびこれを用いた校正方法に関わり特に電子ビーム用の標準部材およびその校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子顕微鏡やAFM(原子間力顕微鏡)など、顕微装置の調整を行う際に、校正用標準試料が用いられている。校正用標準試料とは、大きさや長さの予め分かっているパターンやマークが形成された部材である。顕微装置の調整時には、上記パターンやマークの画像を特定倍率で取得し、当該パターンやマークが取得画像上で所定の大きさで表示されるように顕微装置の調整を行う。
【0003】
従来、電子顕微鏡用の標準部材としては、数mm〜数cm角の半導体基板上に一次元回折格子パターンが形成された部材が使用されている。図12(a)には、標準部材のパターン形成面全面を、図12(b)には、図12(a)の1部分の拡大図を示す。図12(b)の9は基板表面に形成された一次元回折格子の溝を意味している。校正の精度は一次元回折格子の溝パターンのピッチ寸法に依存して決まるため、溝パターンは精度良く形成する必要があるが、微細なピッチ寸法の溝を精度良く形成するのは困難である。現状、形成できる溝パターンのピッチ寸法の精度は、1 nm程度である。
【0004】
特開2004-251682号公報には、一次元回折格子の中に副格子が形成された回折格子単位を、半導体基板上に複数形成した標準部材が開示されている。回折格子単位の周囲には、位置合わせ用の十字マークが形成されている。特開2004-251682号公報に記載の発明においては、一次元回折格子パターン単位配列の周囲に設けられた十字マークと一次元回折格子パターン単位間に配置された十字マークを用いて、校正に用いる回折格子単位を選定している。具体的には、試料ステージ上に載置された標準部材を、ステージ移動により1次電子線の照射位置に移動し、回折格子単位の周囲に設けられた十字マークを検出する。マーク位置のステージ上での座標と、移動目標である回折格子単位のステージ上での座標は既知であるので、マーク位置から移動目標までのステージ移動量は計算できる。よって、計算された移動量だけステージを移動し、目標位置となる一次元回折格子単位を1次電子線の照射位置に移動する。このようにして取得された所定位置の回折格子単位の顕微像を用いて、顕微装置の構成を行う。
【0005】
【特許文献1】特開2004−251682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2004-251682号公報に開示された標準部材のように、複数の回折格子単位により構成された標準部材を用いて顕微装置の校正を行う場合、校正に使用する回折格子単位を顕微画像の視野内に移動する必要がある。この場合、以下の課題がある。
【0007】
第1に、ステージ移動により顕微像視野内に移動した回折格子単位が、正しい回折格子単位かどうか確認できない点が問題である。特開2004-251682号公報に開示される標準部材は全く同じパターンの回折格子単位が上下左右に形成されており、画像上で個々の回折格子単位を目視で区別するのは、不慣れな操作者の場合は事実上不可能であり、熟練した操作者であっても困難である。
【0008】
また、通常の顕微装置では、所望の回折格子単位の顕微像視野内への移動は、ステージ座標情報のみを用いて制御される。従って、ステージ制御の位置座標に異常があると、目的とする回折格子単位を顕微像の視野内に移動することができない。また、機械制御の限界から、ステージ位置制御の精度は高々数μmオーダである。よって、目的とする回折格子単位を視野内に納めるためには、ステージ移動に加えて、電子ビームの照射位置を変更する制御を行う必要がある。従って、複数の回折格子単位により構成された標準部材を用いて校正を行う場合、不確定さが伴うのを承知でステージ移動のみで回折格子単位の選択を行うか、熟練した操作者が勘に頼って所望の回折格子単位を視野内に移動するかのいずれかであった。
【0009】
第2に、ステージ移動制御の際に使用する情報が十字マークと目的位置の座標情報のみであるため、上記十次マークのいずれかが汚れや欠損により検出不能になると、ステージ移動自体が不可能もしくは困難になる点である。
【0010】
そこで、本発明は、一次元回折格子に限らず、校正に使用する複数のパターン単位を備えた顕微装置校正用標準部材において、校正に用いるパターン単位の選定および確認が容易な、かつ高精度な校正用標準部材および校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数のパターン単位を備えた顕微装置校正用標準部材のパターン単位近傍に、回折格子単位の配列位置座標を特定するためのマーク、標識を形成することにより、改題を解決する。上のマーク、標識は、例えば、パターン単位の位置座標に相当するような数字、番号等が考えられる。
【0012】
電子顕微鏡用の標準部材としては、形成されるマーク、標識は、電子ビーム照射による二次荷電粒子(2次電子、反射電子など)像上で十分なコントラストが得られる物である必要がある。また、標準部材上に形成されるパターン単位が1次元または2次元回折格子である場合に、上記のマーク、標識の大きさは、回折格子のピッチ寸法に対してピッチの絶対寸法測定の光計測に影響が出ない程度に変える。より好ましくは大きくする。これは、光学的計測による回折格子のピッチ寸法の絶対寸法計測精度に影響を及ぼさないためである。ここで、電子顕微鏡用の標準部材は、校正精度を確保するため、格子ピッチの絶対寸法をレーザ測定などの光学的計測により規定する必要がある。上記のマーク、標識の大きさが、回折格子のピッチ寸法とほぼ同じ場合には、複数のパターン単位近傍に形成される複数のマーク、標識により、回折格子のピッチ寸法の整数倍に対応する周期的なパターン配列が形成されることになり、光学的計測による絶対寸法測定に悪影響を及ぼすためである。すなわち光学的計測でレーザ光を上記回折格子に照射してその回折光の角度からピッチ寸法を求めるが、回折格子の近傍に形成される複数のマーク、標識にもレーザ光が照射されるのでこれらのマークや標識が回折格子とほぼ同じピッチを有すると回折格子からの回折光の近傍にマークや標識からの回折光が発生し、ピッチ寸法の測定における回折光の角度の測定誤差となる。そこで、形成する標識の大きさは、回折格子のピッチ寸法或いはピッチ寸法の整数倍とは変える必要がある。
【0013】
以上の構成により、校正に用いるパターン単位の選定および確認が容易な、かつ高精度な校正用標準部材が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回折格子配列内の回折格子単位の配列座標位置を容易に特定できるので、校正すべき電子ビーム測長装置のステージおよびビーム偏向精度によらず確実な位置決めが可能となり、使用回数を管理して所望の回折格子単位を用いた校正が可能となった。さらに校正すべき電子ビーム測長装置の位置決め精度によらず上記校正が可能となった。また、上記位置決めに関しても従来の標準部材では回折格子配列周囲に配置した十字マークを用いた相対座標移動が不可欠であったが、本発明では各回折格子単位毎に配列位置座標を示す数字または記号が配置されているので、直接回折格子単位に移動して配列位置座標を示す数字または記号を観察して、そこからの相対移動量を設定すればよいので校正手順の簡略化も可能である。
【0015】
他に、本発明のパターン配置では、回折格子配列の周囲に矩形パターンを配置させることで回折格子配列内の近接効果を一定にすることにより回折格子配列内で均一な寸法分布が実現できる。本発明で付加した数字または記号および上記矩形パターンは標準部材の絶対ピッチ寸法を求める際の光学的な回折角測定精度には影響を与えず従来と同様の高精度な測定ができる。本実施例では回折格子配列周辺パターンとして矩形パターンを用いたが、矩形以外の同程度の総パターン面積を有するパターンでも同様の効果が得られるが、回折格子のピッチ寸法に近い繰り返し要素を内在していると回折角測定時の精度を悪化させたり、複雑なパターンでは電子ビーム露光時間がかかるので単純な矩形パターンが有効である。
【実施例1】
【0016】
本実施例では、電子ビーム測長装置(CD−SEM)用寸法標準部材の構成例と当該標準部材を実際に電子ビーム測長装置で使用する場合の実施形態について説明する。
【0017】
図1(a)には、本実施例の標準部材の上面全図(パターン形成面の全面図)を示す。図1(a)に示される標準部材は、矩形状のシリコン基板3上に、校正用パターン形成領域1、回転誤差補正用の十字マーク2が形成された構造を有する。十字マーク2は、校正用パターン形成領域1の端部から、約5.0mm離れた領域に形成されている。
図1(b)には、校正用パターン形成領域1の一部分4の拡大図を示す。5は校正用のパターン単位である一次元回折格子単位であり、その側部には、上記校正用パターン形成領域1内における位置情報を示す標識6が形成される。
【0018】
パターン形成領域2内では、一次元回折格子単位5が、ピッチ間隔5μmで縦横に500回繰り返して配列されている。一次元回折格子単位5の周囲には、位置決め用の凸型マーク7が配置されている。また、一次元回折格子単位5の上辺から0.5 μm上方には、回折格子単位パターンの縦横方向の配列座標を示す標識6が配置されている。本実施例では、標識6として、校正用パターン形成領域1の左上端に配置されたパターン単位を原点として、縦横方向の一次元回折格子単位の順序を示す3桁の数字の組み合わせを使用した。例えば、図1(b)で、左上端に配置された一次元格子単位に対応する標識は001-001であり、一行目の標識は、X方向に002-001、003-001…00n-001…500-001という並びで配列される。同様に、一列目の標識は、Y方向に、001-002、001-003…001-00n…001-500という並びで配列される。ここで、複数の一次元回折格子単位5の各々は、校正用パターン形成領域1内での配列周期が、一次元回折格子の溝パターンのピッチ寸法の整数倍となるように配列されている。配列周期(換言すれば、複数の一次元回折格子単位間のピッチ寸法)を決める基準としては、例えば、ある一次元回折格子単位の中心と、隣接する他の一次元回折格子単位の中心間の距離、あるいはある一次元回折格子単位の端部と隣接する一次元回折格子単位の端部間の距離など、任意に定めることができる。
【0019】
図2は、図1(b)に示す一元回折格子単位5の拡大図である。図2では、左上端の回折格子単位を原点として、3行2列めの回折格子単位の拡大図を示した。図2に示す一次元回折格子単位5では、回折格子を形成する長さ3μmの溝パターン8が、100 nmピッチで20本形成されている。先述の通り、一次元回折格子単位5の上辺側部には、標識「003-002」が形成されている。標識を構成する各数字の大きさは横0.5 μm、縦1μmであり、溝パターンのピッチ寸法よりも大きく形成されている。本実施例の標準試料においては、パターン単位中の溝パターンは、レーザ光を照射による回折角測定から、ピッチ寸法の絶対値が1 nm以下の精度で得られている。凸パターン10は、一次元回折格子単位5の中心から左方向に2.5μmずれた位置に形成されている。なお、本実施例では、凸パターンを一次元回折格子単位の左側に形成しているが、上下左右いずれの側部に配置しても良い。凸パターンの位置関係が予め分かっていれば、その設計値に基づいてビーム移動すれば良いからである。
【0020】
次に、本実施例の標準試料を用いて測長SEM(CD-SEM)の構成を行う方法について説明する。図3(a)には、本実施例の標準試料が使用されるCD-SEMの全体構成を、また、図3(b)は、試料台上での校正用部材の載置位置と測長試料の載置位置および電子ビームの照射位置の関係について示す模式図である。
【0021】
図3(a)に示す測長SEMは、二次電子顕微鏡117、SEM制御部116、情報処理装置110等により構成される。二次電子顕微鏡117は、電子ビーム102を放出する電子銃101、電子ビーム102を試料上で走査するための走査偏向器104、被測長試料上における電子ビームのフォーカスを調整するためのレンズ103,105、1次電子線照射により発生する二次電子106または反射電子を検出するための二次電子検出器110等を備える。SEM制御部116は、1次電子線の走査偏向を制御するビーム偏向制御部、二次電子検出器からの出力信号を処理する二次電子信号処理部、被測長試料107または標準部材108が載置されるステージ109の移動を制御するステージ制御部などにより構成される。情報処理装置114は、SEM制御部から入力される各情報ないし制御信号を処理するCPU111、当該CPU上で動作するソフトウェアが展開されるメモリ112、測長レシピ等の情報や種々のソフトウェアが格納される外部記憶装置113等により構成され、更に、CPU111による情報処理結果が表示される表示部114や、情報処理に必要な情報を情報処理装置110に入力するための情報入力手段115等が接続されている。ここで、情報入力手段は、キーボードやマウス、或いは表示部114に表示されるGUI画面などにより実現される。なお、測長SEMの構成要素としては、図3(a)では図示されていない他の必須構成要素も含む。また、図3(b)に示す通り、標準部材108と被測長試料107とは同じステージ上に載置されている。
【0022】
次に、図4、図5を用いて、図3(a)に示したCD-SEMの動作について説明する。最初に、標準部材108をステージ109の隅に設けられた固定冶具に固定し、被測長試料であるウェーハ107をステージ109上に載置する。標準部材108及びウェーハ107が再試されたステージ109は、図3(a)では図示されていないロードロック室を介して二次電子顕微鏡117の真空筐体内に搬送される。
【0023】
次に、標準部材の回転誤差の補正情報が計算される。標準部材108は固定冶具に固定されているが、SEMの分解能で見ればステージ駆動のX,Y軸に対して傾いている。従って、標準部材を用いて測長データの校正を行うためには、標準部材がステージの移動方向に対してどの程度傾いているかという情報が必要となる。まず、ステージ駆動により、標準部材を電子ビーム照射位置に移動する。次に、少なくとも図1(a)に示す十字マーク2の、左右いずれかの全体が視野内に入る程度の倍率でSEM画像を取得する。取得画像の画素データをCPU111で画像解析することにより、ステージ109の駆動制御座標上での左右の十字マークの位置座標を計算する。この作業を左右2つの十字マークについて実行し、左右2つの十字マークを結ぶベクトルとステージの駆動軸(図1(a)の場合はX方向の駆動軸)との差から、ステージの移動方向に対する標準部材の角度を計算する。計算された角度は、回転誤差の補正情報として、メモリ112または外部記憶装置113内に格納される。
【0024】
図4には、情報処理装置110上で実現されるソフトウェアの機能を機能ブロック図により示した。実際には、図4で示した機能ブロックは、図3(a)に示すCPU111がメモリ112上に展開される画像解析用ソフトウェアを実行することにより実現される。ここでは、情報処理装置110への入力例として、図3(a)に示したビーム偏向制御部、二次電子信号処理部、ステージ制御部からの出力を考える。画素演算部は、左右の十字マークの二次電子信号とステージ制御の位置情報から、ステージ上の十字マークの座標情報を計算し、更に、回転誤差補正値計算用のベクトル情報が計算される。計算されたベクトル情報は、ステージ駆動の軸情報と共に寸法演算部に転送され、ステージの移動方向に対する標準部材の傾き角が計算される。計算された傾き角の情報は、校正値記憶部に転送され記憶される。以上説明した回転誤差の補正情報の計算は、表示手段114に表示される補正情報取得の可否要求に対する装置ユーザの応答を元に、情報処理装置110により自動的に実行される。或いは、装置ユーザがマニュアル操作で計算を実行することも可能である。
【0025】
なお、上で説明した回転誤差補正情報の取得処理は、十字マークの他、図1(b)に示した凸型マーク7を用いて実行することも可能である。この場合、回転誤差補正値計算用のベクトル情報としては、隣接する一次元回折格子単位5の凸型マーク7との間に形成されるベクトル、ないしは一次元回折格子単位5内の任意の溝パターンに対して凸型マーク7から引く仮想的な垂線を用いる。
【0026】
原理的には、凸型マーク7か十字マーク2のいずれか一方があれば回転誤差の補正は可能であるが、十字マーク2を用いた方が、より長い距離にわたってベクトル情報を計算できる分だけ、補正の精度を高くできる。また、十字マーク2の形成位置は、校正用パターン形成領域1の上下、左右いずれの位置に配置することも可能であるが、上下、左右いずれか対称な位置、換言すれば校正用パターン形成領域1の中心を軸として2回回転対称な位置に配置されている必要がある。同様に、凸型マーク7も、各回折格子単位内の所定の基準位置からの距離と方向が一定した位置に配置されている必要がある。基準位置としては、任意の位置を基準としてよく、最も単純には、回折格子単位の中心や最端部の溝パターンを選択する。あるいは最端部の溝から数えて任意番目の溝を基準とすることもできる。この際、図1(a)(b)で説明したように、校正用パターン形成領域1内での一次元回折格子単位5の配列周期が、一次元回折格子内の溝パターンのピッチ寸法と同期して形成されていると、複数の一次元回折格子内間を跨ってSEMの視野を移動する際に有利である。なぜなら、溝パターンのピッチ寸法を整数倍した距離だけ視野を平行移動すれば、現在視野に入っている一次元回折格子の位置に対応する、任意の他の一次元回折格子内の位置に移動できるからである。従って、ステージ移動やイメージシフトの際の移動量や位置制御の補正量の計算が単純化される。
【0027】
回転誤差補正情報の計算が終了すると、被測長試料の測長が実行される。図5には、測長データ校正時のCD-SEMの動作フローについて示した。図5のフローは、標準部材を用いた測長データの校正係数決定フロー(1)と、測長データの取得・校正フロー(2)とに大別される。測長開始に際しては、表示部114に校正係数決定フロー(1)を開始するかどうかの応答要求が表示され、情報入力手段115による応答に対応してフロー(1)が開始される。
【0028】
まず、ステージ駆動により、校正用標準部材4を一次電子ビームの照射位置に移動し、図1(b)の範囲、即ち複数個の一次元回折格子単位が含まれ、かつ標識6が目視確認できる程度の倍率で、所定領域がビーム走査される。得られた画素情報は画素演算部により解析され、一次ビームの光軸上に存在する一次元回折格子単位に対応する標識が同定される。ここで、配列位置部には一次元回折格子単位の配列座標の情報が格納されている。具体的には、標準部材上で適当に設定された座標系での座標情報が、標識と対応させて格納されている。ステージ制御の際には、標準部材の座標系とステージ制御の座標系の間で適当な原点合わせが実行され、標準部材の座標系での座標情報が、ステージ制御の座標系における座標情報に変換される。座標変換のための原点合わせは、適当な頻度、例えば、標準部材を載置したステージを真空容器内に搬入・搬出する毎に実行される。また、校正履歴部には、各標識に対応する一次元回折単位の使用頻度情報と使用回数の閾値が格納される。更に、格子欠陥位置記憶部には、各標識に対応する一次元回折単位が欠陥を含むか含まないかの情報が格納される。
【0029】
同定された標識は、配列位置部・校正履歴部・欠陥位置記憶部の各格納部に格納された情報と照らし合わされ、欠陥が存在しないか、規定の使用回数を超えていないか等の項目がチェックされる。チェック項目、例えば、使用回数の閾値や使用しない単位パターンなどの情報はレシピ画面にて設定される。同定された標識に対応する単位パターンがチェック項目を満たしていれば、現在の単位パターンを使用して校正係数の取得フローが実行される。満たしていない場合には、別の適当な単位パターンが選択される。
【0030】
例えば、最初のステージ移動で一次ビームの光軸上に移動した単位パターンの標識が102−051と同定されたとする。画素演算部によるチェックの結果、標識102−051に対応する単位パターンは、欠陥は無いが過去に10回ほどビーム照射によるピッチ測定を行っていることがわかった。そこで、画素演算部が配列位置部・校正履歴部・欠陥位置記憶部の各格納部に格納された情報を参照して、チェック項目を満たす単位パターンで標識102−051に最も近い単位パターンの標識を算出する。更に、画素演算部は、当該算出された単位パターンにビーム照射位置を移動するためのステージ移動量またはビーム偏向量を計算し、SEM制御部116に伝達する。SEM制御部は、伝達された情報に基づき、ステージ駆動装置あるいは走査偏向器104を制御し、使用すべき一次元回折格子単位を一次電子ビームの走査範囲内に移動する。
【0031】
使用する単位パターンの移動が終了すると、倍率を高倍(図2に示す一次元回折格子単位が視野全域に広がる程度の倍率)に切替え、単位パターンを実際にビーム走査する。ビーム走査に際しては、二次電子顕微鏡117のフォーカス調整を行う。フォーカス調整は、二次電子顕微鏡117に備えられた電子光学系レンズ103,105の調節により行う。本実施例では、回折格子単位への不要なビーム照射をなるべく低減するために、凸型マーク10を用いてフォーカス合わせを行っている。ただし、回折格子単位試料に一次電子ビームを照射してフォーカス合わせを行うことももちろん可能である。
【0032】
フォーカス調整終了後は、所定の領域をビーム走査し、得られた二次電子信号波形を信号処理して、寸法演算部により回折格子単位のピッチ寸法を求める。校正記憶部には、光回折法で求めた絶対ピッチ寸法が格納されており、寸法校正演算部は、寸法演算部で計算されたピッチ寸法と校正記憶部に格納されている絶対ピッチ寸法とを比較して校正係数を算出する。求めた校正係数は、校正値記億部に記憶される。また、校正に用いた回折格子単位の標識と、当該一次元回折格子単位の使用回数を校正履歴記憶部に記憶する。また校正係数が正常に取得されたことを表示部に表示する。なお、ビーム走査した領域内で異物や欠陥が見つかった場合には、当該当該一次元回折格子単位に対応する標識を欠陥位置記憶部に記憶し、フローの最初に戻って、適当な単位パターンの選択動作を実行する。
【0033】
次に、図5の(2)のフローについて説明する。(1)のフローが正常終了すると、表示部114には、引き続き測長フローを実行するかしないかの入力要求が表示される。情報処理手段115により「実行する」旨の応答が入力された場合、情報処理装置110は、ステージ109を移動して、電子ビームの照射位置にウェーハ107上の所望のパターン上が移動するようにする。発生する二次電子106は、二次電子検出器110により検出され、二次電子信号として情報処理装置110に入力される。画素演算部では、入力された二次電子信号から測長パターンのエッジ点の位置情報を抽出して寸法演算部に伝送する。寸法演算部は、得られたエッジ点の位置情報からパターン寸法を計算して寸法校正演算部に伝送する。寸法校正演算部は、フロー(1)で得られた校正係数を用いて測長値を補正する。更に、補正後の測長値を表示部114に出力して表示させる。本実施例の校正部材を用いて測長値の補正を行った結果、1 nm以下の測長精度が実現できた。
【0034】
なお、以上の図5の説明において、フロー(1)(2)は、装置ユーザの要求に応じて、装置がフローを自動実行するものとして説明したが、フローに含まれる各ステップを、装置ユーザがマニュアル操作で実行することも可能である。その場合であっても、単位パターン毎に標識6が付与されているので、従来技術に比べて一次元回折格子単位の位置の特定は容易であり、ステージ位置制御の精度によらず正確な校正が実現される。また、以上の説明では、一次元回折格子単位へのコンタミネーション確率低減のため、一次電子ビームのフォーカス調整を標識上で行ったが、逆に、同じ標識に該当する格子単位を常に使用するようにレシピを設定しても良い。同じ位置の一次元回折格子単位を使用して、実測されるピッチ寸法の変化をモニタすることにより、コンタミネーションの経時変化が監視できる。その場合は、図4に示されるメモリ内に、例えば「測長値記憶部」など、パターン寸法の実測値と特定一次元回折格子単位の使用回数を対にして格納する機能ブロックが設けられる。更に、複数の測長SEMに対して、同じ標識の一次元回折格子単位を使用して校正を行うことで、同じ基準により装置間の校正を行うことがでるようになり、複数装置間の測長性能の差(すなわち機差)を従来よりも正確に把握できるようになる。
【0035】
以上、本実施例の校正用標準部材と測長SEMを使用することにより、パターン単位の選定および確認が容易、かつコンタミネーションによる寸法変動や格子の欠陥の影響を受けることなく常に安定した校正が可能な測長システム、測長方法及び校正用標準部材が実現される。なお、本実施例では、標準部材を測長SEMに標準部材を適用した例について説明したが、汎用SEMや検査SEMなど、走査電子顕微鏡応用装置一般にも適用できることは言うまでもない。
【実施例2】
【0036】
本実施例では、実施例1で説明した校正用標準部材の変形例について説明する。
図6(a)(b)には、図1(a)(b)で示した標準部材の別構成例を示した図である。図6(a)は、近接効果補正のために、校正用パターン形成領域1の周囲にドット形状の矩形パターン11を形成した標準部材である。一次元回折格子パターン単位配列のパターニングには光露光もしくは電子ビーム描画が用いられるが、いずれの露光法においても近接効果によりパターン密集部とパターン疎部では解像パターン形状が異なる現象が生じる。また、校正用パターン形成領域1の周囲に設けられる十字マークないし回折格子単位の側部に設けられる凸型マークは、なるべく校正用パターン形成領域1の近傍に配置させたいという要請がある。十字マークと一次元回折格子パターン単位配列から遠く離れていると回折格子単位への移動量が大きくなり所望の回折格子単位への位置決め精度が悪くなるためである。
【0037】
図1(a)(b)で示した標準部材においては、校正用パターン形成領域1の周囲は、パターンが形成されていない空白である。よって、校正用パターン形成領域1の最外周部では、中央部と形状が異なる、或いは多少歪んだ回折格子の単位パターンが形成される。歪みは、最外周部から中心部へ連続的に変化するので、従って、回折格子のピッチ寸法に分布が出来てしまうという問題がある。この結果、校正に使える回折格子単位が制限されるか校正精度が悪くなる悪影響がある。これを回避するためには、最外周部の回折格子単位パターンと中央部の回折格子単位パターンとで露光量を調節するなどの補正が必要となるが、実際には調節は難しい。例えば、露光量を校正用パターン形成領域1内の外周部で多くすると、近接効果によりその内側のパターンでの実効露光量はオーバーとなる。結局、露光量の調節によっては、寸法変動を2%以下に抑えることは困難である。更に、最外周部の回折格子単位パターン近傍に十字マークを配置させると、露光量の補正は複雑となり、均一な一次元回折格子パターン単位配列の実現は困難となる。
【0038】
そこで、図6(a)に示した標準部材では、近接効果を補正するため、校正用パターン形成領域1の周囲に2.5 μm角の矩形パターン11を5 μmピッチで縦横それぞれに追加して露光した。追加した矩形パターンの露光領域は、最低4列以上最大で12列である。図6(a)程度の視野倍率ではドットにしか見えないが、拡大すると2.5 μm角の矩形状凹部が形成されている。
次に、図6(a)(b)に示した標準部材の作製方法について述べる。まずシリコン基板上にレジストを塗布する。次に図7に示した開口16、17を有するステンシルマスクを搭載した電子ビーム一括露光装置を用いて、校正用パターン開口17を選択して露光する。次に、図1(a)(b)及び図2に示すように、回折格子単位パターンが露光された位置の側部に矩形開口16を用いて、標識の数字を対応する単位パターン毎に露光する。また単位パターンの左側に凸型マークを電子ビーム可変成形法で露光する。
同様に、校正用パターン形成領域1の両側に、回転誤差補正用の十字マークを電子ビーム可変成形法で露光する。現像後、レジストをマスクとしてシリコン基板をエッチングし、一次元回折格子単位を備えた標準部材チップ4が得られる。
【0039】
次に、近接効果の補正パターンを形成した標準部材と形成しない標準部材の差について、図1(a)(b)の標準部材を比較例として示す。
【0040】
図8(a)は、図1(a)に示す標準部材の絶対ピッチ寸法を、校正用パターン形成領域1に示される線分A−A'に沿って、測長SEMを用いて測定した結果である。同様に、図8(b)は、図測長SEMを用いて光測定法により一次元回折格子のピッチ寸法を測定した結果である。図8(a)(b)いずれも、横軸は、校正用パターン形成領域1、12の一端からの距離、縦軸が測定されたピッチ寸法を示す。
【0041】
図8(a)では、線分A−A'上での絶対ピッチ寸法が、校正用パターン形成領域1の最外周部から中心に移るにつれて変動しているが、図8(b)では、線分B−B'上での絶対ピッチ寸法に変動は見られない。正確な分析の結果、線分B−B'上での絶対寸法の変動率は1%以下に抑制されていることが分かった。また、十字パターン3を形成しても上記均一性は変化しなかった。このためどの回折格子単位を用いてもピッチ寸法として絶対寸法1%以下すなわち1 nm以下が得られることが分かった。
【0042】
近接効果補正用の形成パターンは、図6(a)に示した矩形パターンに限らず、一次元回折格子単位のピッチ寸法の整数倍に対応する周期的な配列を含まなければ、他のパターンを使用することも可能である。
すなわち光学的計測でレーザ光を上記回折格子に照射してその回折光の角度からピッチ寸法を求めるが、近接効果補正用の形成パターンが一次元回折格子単位のピッチ寸法の整数倍に対応する周期的な配列を含むと近接効果補正用の形成パターンにもレーザ光が照射されるのでこれらの近接効果補正用の形成パターンが回折格子単位のピッチ寸法の整数倍に対応する周期的な配列を含むと回折格子からの回折光の近傍に周期的な配列からの回折光が発生し、ピッチ寸法の測定における回折光の角度の測定誤差となるからである。
【0043】
図9には、図6(a)に示した近接効果補正用パターンとは別のパターンを形成した変形例を示す。図9の場合は、校正用パターン形成領域1の周囲に、図6(a)のパターンと比較して大きな大矩形パターンを形成した。図9に示す大矩形パターンの場合、パターンの大きさは、縦:10 μm, 横:2mm程度である。
【0044】
以上説明した近接効果補正パターンを含めて校正用標準部材のパターン形成面を作成することにより、実施例1の標準部材の効果に加えて、校正用パターン形成領域1内の最外周部と中央部とを同一露光条件でパターニングでき、よって寸法精度を均一化できる。また、最外周部の一次元回折格子単位に対応する凸型マークの配置位置に対しても近接効果の影響を排除できるので、最外周部の一次元回折格子パターン単位に隣接して凸型マークを配置することが可能となる。従って、所望の回折格子単位への移動精度も向上できる。更にまた、本実施例の標準部材を実施例1で説明した測長SEMで使用した場合、実施例1の標準部材に比べてより高い精度の校正結果が得られるのは言うまでもない。
【実施例3】
【0045】
実施例1,2では、一次元回折格子単位の溝パターンが、同じ向きに配列された標準部材チップについて説明した。しかしながら、測長SEMでは、SEM視野内で、常に同じ向きのラインパターンのみを測長する訳ではなく、ラインの長手方向がX方向の試料もY方向の試料も両方測長する可能性がある。従って、本実施例では、X,Y両方向に一次元回折格子単位の溝パターンが形成された校正用標準試料について説明する。なお、本実施例では、図3(a)に示した測長装置を顕微装置として使用することを前提として、説明を進める。
【0046】
図10には、互いに垂直な方向に一次元回折格子単位の溝パターンが形成された2つの校正用パターン形成領域19,23を有する校正用標準部材を示す。校正用パターン形成領域19,23の周囲には、図6(a)と同様の近接効果補正用パターン18,22が形成されている。2つの校正用パターン形成領域19,23は、同一のシリコンチップ21上に形成されており、一次元回折格子単位の縦方向および横方向のピッチ寸法は、それぞれ回折角測定で高精度に求められている。従って、図10に示す標準部材を用いると、測長データの縦方向と横方向(X方向およびY方向)の測長校正を同一の標準部材で実行することが可能となる。従来、X、Y両方向の校正用標準部材を作成する際には、X方向用、Y方向用それぞれの標準部材を固定基板上に貼り付けて作製されていた。この方式では、X方向用、Y方向用標準部材の表面の高さが貼り付け時に微妙に異なるために、X方向用、Y方向用標準部材を使用した場合で、電子ビームの校正時の焦点位置がそれぞれ異なってくる。従って、同一の電子光学条件でSEM画像を取得できないため、同一視野でのX方向およびY方向の同時校正が不可能であった。
【0047】
また、上記回折格子配列近傍に回折格子の方向を示す記号として縦方向のパターンにはチップ番号と方向を示す100−Xの文字1102を、横方向のパターンにはチップ番号と方向を示す101−Yの文字1101を、一文字の大きさ1mmで書き込んである。このために回折格子パターンが識別できない程度の低倍率の観察や光学顕微鏡においても容易に識別できた。また、シリコンチップ21上を標準部材ホルダーに貼り付けるときの方向合わせも容易であった。
【0048】
さらにウェーハ形状の標準部材の実施例について述べる。図11には、ウェーハ形状の標準部材について一例を示す。ウェーハ1103の中心には回折格子配列部1106が形成されており、実施例1〜2で説明した標準部材と同様に、回折格子配列部1106に形成された溝パターンのピッチ寸法は、レーザ光を用いた回折角測定から絶対値が1 nm以下の精度で求められている。また、回折格子配列部1106の両側に形成された十字マーク1104は、ノッチ1105に対して対称な位置に形成されている。
【0049】
以下では、図11に示したウェーハ型標準部材を、図3(a)で説明したCD-SEMで用いて寸法校正を行った実施例について説明する。図11のウェーハ型標準部材を図3(a)のCD-SEM内に、ロードチャンバを介して搬入する。即ち、被測長試料に替わり、ウェーハ型標準部材がステージ109上に載置されることになる。
【0050】
まず、ステージ駆動により、一次電子ビームの照射領域に回折格子配列部1106を移動する。上記ウェーハは装置に搭載する際にノッチ115を位置合わせ基準としてステージ109に搭載される。そこで、試料回転補正用の十字マーク114をノッチ115中心とした対称な位置に形成し、更に、回折格子配列部116が2つの十字マーク114の中心に位置するように、標準部材を作製した。図11に示す標準部材においては、2つの十字マーク114がノッチを頂角とした二等辺三角形の底角位置に配置されるように形成されている。ウェーハを走査電子顕微鏡117の真空容器内に搬入する際には、ノッチを基準にしてウェーハ回転方向の粗アラインメントが実行される。粗アラインメントとは、ノッチ位置がステージ回転方向の基準位置に対して所定誤差内に収まるように、ウェーハの回転方向の位置を調整する動作である。粗アラインメントが終了したウェーハは、ロードロック室を介して真空容器内に搬入され、十字マーク114が自動検出される。十字マーク114の自動検出の際には、まず走査電子顕微鏡117内の電子光学系の倍率が、少なくともどちらか一方の十字マーク114が視野内に収まるように調整され、その後、ステージの平行移動(X,Y面内の移動)により、十字マーク114の位置が一次電子ビーム照射位置に移動される。図4に示すメモリ112には、十字マーク114とノッチ115の位置情報あるいは十字マーク114とノッチ115間の距離の情報が格納されており、CPU111は、これらの位置情報あるいは距離の情報から、ステージ移動量を計算しSEM制御部116内のステージ制御部へ伝達する。これにより、十字マーク114の自動移動が実現される。
【0051】
従来の標準部材では、十字マークが無いか、仮にあったとしてもウェーハ上での形成位置がノッチ基準で定められてはいなかった。従って、ウェーハ搬入後の回折格子部116への移動時の位置決め精度はプラスマイナス10 μm程度であった。一方、ノッチ基準で形成された十字マークを備える本実施例の標準部材においては、十字マーク114および回折格子配列部116へのビーム照射位置の移動誤差が、プラスマイナス2 μmと従来の標準部材に比べて大幅に向上した。これにより、1回の検出で所望の位置に移動できるようになったため、ビーム照射位置の移動時の自動検出エラーの発生頻度が大幅に低減した。結果的に、位置合わせのやり直し頻度が低減し、ウェーハ113の装置搬入から校正用SEM画像の取得時間まで含めた校正の所要時間が大幅に短縮された。
【0052】
また、実施例1、2の標準部材と同様、本実施例の標準部材も、複数のSEMの校正あるいは機差測定に有効であるが、ウェーハ形状の標準部材を使用して複数のSEMの校正を行う場合には、ノッチを基準にしたマーク配列は特に有効である。真空容器内への標準部材の搬入・搬出を繰り返し行うことになるため、位置合わせのやり直し頻度の低減効果が、それだけ大きくなるためである。
【0053】
以上、実施例3について説明したが、実施例1同様、本実施例の標準部材が汎用SEMや検査SEMなど、測長SEM以外の走査電子顕微鏡応用装置一般にも適用できることは言うまでもない。
【0054】
なお、以上説明してきた実施例1〜3では、座標位置を示す標識として数字を用いた構成例について説明した。数字以外の複数記号の組み合わせでも同様の効果が得られるが、回折格子のピッチ寸法に近い繰り返し要素を多く用いると回折角測定時の精度に影響するため、他の記号との識別のしやすさから、標識としては数字が有効である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1の校正用標準部材の上面全図及び部分拡大図。
【図2】図1に示した校正用標準部材の回折格子単位の拡大図。
【図3】実施例1の電子ビーム測長装置。
【図4】図3に示した電子ビーム測長装置の情報処理装置内の機能ブロック図。
【図5】本発明の校正方法フロー。
【図6】近接効果補正パターンを備えた校正用標準部材の上面全図及び部分拡大図。
【図7】電子ビーム一括露光装置用ステンシルマスク。
【図8】近接効果補正パターンの効果を示す図。
【図9】実施例2の校正用標準部材の変形例。
【図10】ウェーハ形状の標準部材の部分拡大図。
【図11】ウェーハ形状の標準部材の上面全図。
【図12】従来の校正用パターン。
【符号の説明】
【0056】
1、9、18…回折格子パターン、2…座標位置表示用数字パターン、3、7,17,22、114…位置検出用十字パターン、4,6,19,21、61,116…校正用パターン配列、16,108…標準部材、5,10、13,20…校正用チップ、8…矩形パターン、11…可変成形用矩形開口、12…校正用パターン開口、14,109…試料台ステージ、15,107…ウェーハ、23,24…回折格子ラインパターン線幅、101…電子銃、102…電子ビーム、103,105…レンズ、104…偏向器、106…二次電子、110…二次電子検出器、111,112…チップ番号と方向指示文字、113…ウェーハ型標準部材、115…ノッチ。
【技術分野】
【0001】
本発明は標準部材およびこれを用いた校正方法に関わり特に電子ビーム用の標準部材およびその校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子顕微鏡やAFM(原子間力顕微鏡)など、顕微装置の調整を行う際に、校正用標準試料が用いられている。校正用標準試料とは、大きさや長さの予め分かっているパターンやマークが形成された部材である。顕微装置の調整時には、上記パターンやマークの画像を特定倍率で取得し、当該パターンやマークが取得画像上で所定の大きさで表示されるように顕微装置の調整を行う。
【0003】
従来、電子顕微鏡用の標準部材としては、数mm〜数cm角の半導体基板上に一次元回折格子パターンが形成された部材が使用されている。図12(a)には、標準部材のパターン形成面全面を、図12(b)には、図12(a)の1部分の拡大図を示す。図12(b)の9は基板表面に形成された一次元回折格子の溝を意味している。校正の精度は一次元回折格子の溝パターンのピッチ寸法に依存して決まるため、溝パターンは精度良く形成する必要があるが、微細なピッチ寸法の溝を精度良く形成するのは困難である。現状、形成できる溝パターンのピッチ寸法の精度は、1 nm程度である。
【0004】
特開2004-251682号公報には、一次元回折格子の中に副格子が形成された回折格子単位を、半導体基板上に複数形成した標準部材が開示されている。回折格子単位の周囲には、位置合わせ用の十字マークが形成されている。特開2004-251682号公報に記載の発明においては、一次元回折格子パターン単位配列の周囲に設けられた十字マークと一次元回折格子パターン単位間に配置された十字マークを用いて、校正に用いる回折格子単位を選定している。具体的には、試料ステージ上に載置された標準部材を、ステージ移動により1次電子線の照射位置に移動し、回折格子単位の周囲に設けられた十字マークを検出する。マーク位置のステージ上での座標と、移動目標である回折格子単位のステージ上での座標は既知であるので、マーク位置から移動目標までのステージ移動量は計算できる。よって、計算された移動量だけステージを移動し、目標位置となる一次元回折格子単位を1次電子線の照射位置に移動する。このようにして取得された所定位置の回折格子単位の顕微像を用いて、顕微装置の構成を行う。
【0005】
【特許文献1】特開2004−251682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2004-251682号公報に開示された標準部材のように、複数の回折格子単位により構成された標準部材を用いて顕微装置の校正を行う場合、校正に使用する回折格子単位を顕微画像の視野内に移動する必要がある。この場合、以下の課題がある。
【0007】
第1に、ステージ移動により顕微像視野内に移動した回折格子単位が、正しい回折格子単位かどうか確認できない点が問題である。特開2004-251682号公報に開示される標準部材は全く同じパターンの回折格子単位が上下左右に形成されており、画像上で個々の回折格子単位を目視で区別するのは、不慣れな操作者の場合は事実上不可能であり、熟練した操作者であっても困難である。
【0008】
また、通常の顕微装置では、所望の回折格子単位の顕微像視野内への移動は、ステージ座標情報のみを用いて制御される。従って、ステージ制御の位置座標に異常があると、目的とする回折格子単位を顕微像の視野内に移動することができない。また、機械制御の限界から、ステージ位置制御の精度は高々数μmオーダである。よって、目的とする回折格子単位を視野内に納めるためには、ステージ移動に加えて、電子ビームの照射位置を変更する制御を行う必要がある。従って、複数の回折格子単位により構成された標準部材を用いて校正を行う場合、不確定さが伴うのを承知でステージ移動のみで回折格子単位の選択を行うか、熟練した操作者が勘に頼って所望の回折格子単位を視野内に移動するかのいずれかであった。
【0009】
第2に、ステージ移動制御の際に使用する情報が十字マークと目的位置の座標情報のみであるため、上記十次マークのいずれかが汚れや欠損により検出不能になると、ステージ移動自体が不可能もしくは困難になる点である。
【0010】
そこで、本発明は、一次元回折格子に限らず、校正に使用する複数のパターン単位を備えた顕微装置校正用標準部材において、校正に用いるパターン単位の選定および確認が容易な、かつ高精度な校正用標準部材および校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数のパターン単位を備えた顕微装置校正用標準部材のパターン単位近傍に、回折格子単位の配列位置座標を特定するためのマーク、標識を形成することにより、改題を解決する。上のマーク、標識は、例えば、パターン単位の位置座標に相当するような数字、番号等が考えられる。
【0012】
電子顕微鏡用の標準部材としては、形成されるマーク、標識は、電子ビーム照射による二次荷電粒子(2次電子、反射電子など)像上で十分なコントラストが得られる物である必要がある。また、標準部材上に形成されるパターン単位が1次元または2次元回折格子である場合に、上記のマーク、標識の大きさは、回折格子のピッチ寸法に対してピッチの絶対寸法測定の光計測に影響が出ない程度に変える。より好ましくは大きくする。これは、光学的計測による回折格子のピッチ寸法の絶対寸法計測精度に影響を及ぼさないためである。ここで、電子顕微鏡用の標準部材は、校正精度を確保するため、格子ピッチの絶対寸法をレーザ測定などの光学的計測により規定する必要がある。上記のマーク、標識の大きさが、回折格子のピッチ寸法とほぼ同じ場合には、複数のパターン単位近傍に形成される複数のマーク、標識により、回折格子のピッチ寸法の整数倍に対応する周期的なパターン配列が形成されることになり、光学的計測による絶対寸法測定に悪影響を及ぼすためである。すなわち光学的計測でレーザ光を上記回折格子に照射してその回折光の角度からピッチ寸法を求めるが、回折格子の近傍に形成される複数のマーク、標識にもレーザ光が照射されるのでこれらのマークや標識が回折格子とほぼ同じピッチを有すると回折格子からの回折光の近傍にマークや標識からの回折光が発生し、ピッチ寸法の測定における回折光の角度の測定誤差となる。そこで、形成する標識の大きさは、回折格子のピッチ寸法或いはピッチ寸法の整数倍とは変える必要がある。
【0013】
以上の構成により、校正に用いるパターン単位の選定および確認が容易な、かつ高精度な校正用標準部材が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回折格子配列内の回折格子単位の配列座標位置を容易に特定できるので、校正すべき電子ビーム測長装置のステージおよびビーム偏向精度によらず確実な位置決めが可能となり、使用回数を管理して所望の回折格子単位を用いた校正が可能となった。さらに校正すべき電子ビーム測長装置の位置決め精度によらず上記校正が可能となった。また、上記位置決めに関しても従来の標準部材では回折格子配列周囲に配置した十字マークを用いた相対座標移動が不可欠であったが、本発明では各回折格子単位毎に配列位置座標を示す数字または記号が配置されているので、直接回折格子単位に移動して配列位置座標を示す数字または記号を観察して、そこからの相対移動量を設定すればよいので校正手順の簡略化も可能である。
【0015】
他に、本発明のパターン配置では、回折格子配列の周囲に矩形パターンを配置させることで回折格子配列内の近接効果を一定にすることにより回折格子配列内で均一な寸法分布が実現できる。本発明で付加した数字または記号および上記矩形パターンは標準部材の絶対ピッチ寸法を求める際の光学的な回折角測定精度には影響を与えず従来と同様の高精度な測定ができる。本実施例では回折格子配列周辺パターンとして矩形パターンを用いたが、矩形以外の同程度の総パターン面積を有するパターンでも同様の効果が得られるが、回折格子のピッチ寸法に近い繰り返し要素を内在していると回折角測定時の精度を悪化させたり、複雑なパターンでは電子ビーム露光時間がかかるので単純な矩形パターンが有効である。
【実施例1】
【0016】
本実施例では、電子ビーム測長装置(CD−SEM)用寸法標準部材の構成例と当該標準部材を実際に電子ビーム測長装置で使用する場合の実施形態について説明する。
【0017】
図1(a)には、本実施例の標準部材の上面全図(パターン形成面の全面図)を示す。図1(a)に示される標準部材は、矩形状のシリコン基板3上に、校正用パターン形成領域1、回転誤差補正用の十字マーク2が形成された構造を有する。十字マーク2は、校正用パターン形成領域1の端部から、約5.0mm離れた領域に形成されている。
図1(b)には、校正用パターン形成領域1の一部分4の拡大図を示す。5は校正用のパターン単位である一次元回折格子単位であり、その側部には、上記校正用パターン形成領域1内における位置情報を示す標識6が形成される。
【0018】
パターン形成領域2内では、一次元回折格子単位5が、ピッチ間隔5μmで縦横に500回繰り返して配列されている。一次元回折格子単位5の周囲には、位置決め用の凸型マーク7が配置されている。また、一次元回折格子単位5の上辺から0.5 μm上方には、回折格子単位パターンの縦横方向の配列座標を示す標識6が配置されている。本実施例では、標識6として、校正用パターン形成領域1の左上端に配置されたパターン単位を原点として、縦横方向の一次元回折格子単位の順序を示す3桁の数字の組み合わせを使用した。例えば、図1(b)で、左上端に配置された一次元格子単位に対応する標識は001-001であり、一行目の標識は、X方向に002-001、003-001…00n-001…500-001という並びで配列される。同様に、一列目の標識は、Y方向に、001-002、001-003…001-00n…001-500という並びで配列される。ここで、複数の一次元回折格子単位5の各々は、校正用パターン形成領域1内での配列周期が、一次元回折格子の溝パターンのピッチ寸法の整数倍となるように配列されている。配列周期(換言すれば、複数の一次元回折格子単位間のピッチ寸法)を決める基準としては、例えば、ある一次元回折格子単位の中心と、隣接する他の一次元回折格子単位の中心間の距離、あるいはある一次元回折格子単位の端部と隣接する一次元回折格子単位の端部間の距離など、任意に定めることができる。
【0019】
図2は、図1(b)に示す一元回折格子単位5の拡大図である。図2では、左上端の回折格子単位を原点として、3行2列めの回折格子単位の拡大図を示した。図2に示す一次元回折格子単位5では、回折格子を形成する長さ3μmの溝パターン8が、100 nmピッチで20本形成されている。先述の通り、一次元回折格子単位5の上辺側部には、標識「003-002」が形成されている。標識を構成する各数字の大きさは横0.5 μm、縦1μmであり、溝パターンのピッチ寸法よりも大きく形成されている。本実施例の標準試料においては、パターン単位中の溝パターンは、レーザ光を照射による回折角測定から、ピッチ寸法の絶対値が1 nm以下の精度で得られている。凸パターン10は、一次元回折格子単位5の中心から左方向に2.5μmずれた位置に形成されている。なお、本実施例では、凸パターンを一次元回折格子単位の左側に形成しているが、上下左右いずれの側部に配置しても良い。凸パターンの位置関係が予め分かっていれば、その設計値に基づいてビーム移動すれば良いからである。
【0020】
次に、本実施例の標準試料を用いて測長SEM(CD-SEM)の構成を行う方法について説明する。図3(a)には、本実施例の標準試料が使用されるCD-SEMの全体構成を、また、図3(b)は、試料台上での校正用部材の載置位置と測長試料の載置位置および電子ビームの照射位置の関係について示す模式図である。
【0021】
図3(a)に示す測長SEMは、二次電子顕微鏡117、SEM制御部116、情報処理装置110等により構成される。二次電子顕微鏡117は、電子ビーム102を放出する電子銃101、電子ビーム102を試料上で走査するための走査偏向器104、被測長試料上における電子ビームのフォーカスを調整するためのレンズ103,105、1次電子線照射により発生する二次電子106または反射電子を検出するための二次電子検出器110等を備える。SEM制御部116は、1次電子線の走査偏向を制御するビーム偏向制御部、二次電子検出器からの出力信号を処理する二次電子信号処理部、被測長試料107または標準部材108が載置されるステージ109の移動を制御するステージ制御部などにより構成される。情報処理装置114は、SEM制御部から入力される各情報ないし制御信号を処理するCPU111、当該CPU上で動作するソフトウェアが展開されるメモリ112、測長レシピ等の情報や種々のソフトウェアが格納される外部記憶装置113等により構成され、更に、CPU111による情報処理結果が表示される表示部114や、情報処理に必要な情報を情報処理装置110に入力するための情報入力手段115等が接続されている。ここで、情報入力手段は、キーボードやマウス、或いは表示部114に表示されるGUI画面などにより実現される。なお、測長SEMの構成要素としては、図3(a)では図示されていない他の必須構成要素も含む。また、図3(b)に示す通り、標準部材108と被測長試料107とは同じステージ上に載置されている。
【0022】
次に、図4、図5を用いて、図3(a)に示したCD-SEMの動作について説明する。最初に、標準部材108をステージ109の隅に設けられた固定冶具に固定し、被測長試料であるウェーハ107をステージ109上に載置する。標準部材108及びウェーハ107が再試されたステージ109は、図3(a)では図示されていないロードロック室を介して二次電子顕微鏡117の真空筐体内に搬送される。
【0023】
次に、標準部材の回転誤差の補正情報が計算される。標準部材108は固定冶具に固定されているが、SEMの分解能で見ればステージ駆動のX,Y軸に対して傾いている。従って、標準部材を用いて測長データの校正を行うためには、標準部材がステージの移動方向に対してどの程度傾いているかという情報が必要となる。まず、ステージ駆動により、標準部材を電子ビーム照射位置に移動する。次に、少なくとも図1(a)に示す十字マーク2の、左右いずれかの全体が視野内に入る程度の倍率でSEM画像を取得する。取得画像の画素データをCPU111で画像解析することにより、ステージ109の駆動制御座標上での左右の十字マークの位置座標を計算する。この作業を左右2つの十字マークについて実行し、左右2つの十字マークを結ぶベクトルとステージの駆動軸(図1(a)の場合はX方向の駆動軸)との差から、ステージの移動方向に対する標準部材の角度を計算する。計算された角度は、回転誤差の補正情報として、メモリ112または外部記憶装置113内に格納される。
【0024】
図4には、情報処理装置110上で実現されるソフトウェアの機能を機能ブロック図により示した。実際には、図4で示した機能ブロックは、図3(a)に示すCPU111がメモリ112上に展開される画像解析用ソフトウェアを実行することにより実現される。ここでは、情報処理装置110への入力例として、図3(a)に示したビーム偏向制御部、二次電子信号処理部、ステージ制御部からの出力を考える。画素演算部は、左右の十字マークの二次電子信号とステージ制御の位置情報から、ステージ上の十字マークの座標情報を計算し、更に、回転誤差補正値計算用のベクトル情報が計算される。計算されたベクトル情報は、ステージ駆動の軸情報と共に寸法演算部に転送され、ステージの移動方向に対する標準部材の傾き角が計算される。計算された傾き角の情報は、校正値記憶部に転送され記憶される。以上説明した回転誤差の補正情報の計算は、表示手段114に表示される補正情報取得の可否要求に対する装置ユーザの応答を元に、情報処理装置110により自動的に実行される。或いは、装置ユーザがマニュアル操作で計算を実行することも可能である。
【0025】
なお、上で説明した回転誤差補正情報の取得処理は、十字マークの他、図1(b)に示した凸型マーク7を用いて実行することも可能である。この場合、回転誤差補正値計算用のベクトル情報としては、隣接する一次元回折格子単位5の凸型マーク7との間に形成されるベクトル、ないしは一次元回折格子単位5内の任意の溝パターンに対して凸型マーク7から引く仮想的な垂線を用いる。
【0026】
原理的には、凸型マーク7か十字マーク2のいずれか一方があれば回転誤差の補正は可能であるが、十字マーク2を用いた方が、より長い距離にわたってベクトル情報を計算できる分だけ、補正の精度を高くできる。また、十字マーク2の形成位置は、校正用パターン形成領域1の上下、左右いずれの位置に配置することも可能であるが、上下、左右いずれか対称な位置、換言すれば校正用パターン形成領域1の中心を軸として2回回転対称な位置に配置されている必要がある。同様に、凸型マーク7も、各回折格子単位内の所定の基準位置からの距離と方向が一定した位置に配置されている必要がある。基準位置としては、任意の位置を基準としてよく、最も単純には、回折格子単位の中心や最端部の溝パターンを選択する。あるいは最端部の溝から数えて任意番目の溝を基準とすることもできる。この際、図1(a)(b)で説明したように、校正用パターン形成領域1内での一次元回折格子単位5の配列周期が、一次元回折格子内の溝パターンのピッチ寸法と同期して形成されていると、複数の一次元回折格子内間を跨ってSEMの視野を移動する際に有利である。なぜなら、溝パターンのピッチ寸法を整数倍した距離だけ視野を平行移動すれば、現在視野に入っている一次元回折格子の位置に対応する、任意の他の一次元回折格子内の位置に移動できるからである。従って、ステージ移動やイメージシフトの際の移動量や位置制御の補正量の計算が単純化される。
【0027】
回転誤差補正情報の計算が終了すると、被測長試料の測長が実行される。図5には、測長データ校正時のCD-SEMの動作フローについて示した。図5のフローは、標準部材を用いた測長データの校正係数決定フロー(1)と、測長データの取得・校正フロー(2)とに大別される。測長開始に際しては、表示部114に校正係数決定フロー(1)を開始するかどうかの応答要求が表示され、情報入力手段115による応答に対応してフロー(1)が開始される。
【0028】
まず、ステージ駆動により、校正用標準部材4を一次電子ビームの照射位置に移動し、図1(b)の範囲、即ち複数個の一次元回折格子単位が含まれ、かつ標識6が目視確認できる程度の倍率で、所定領域がビーム走査される。得られた画素情報は画素演算部により解析され、一次ビームの光軸上に存在する一次元回折格子単位に対応する標識が同定される。ここで、配列位置部には一次元回折格子単位の配列座標の情報が格納されている。具体的には、標準部材上で適当に設定された座標系での座標情報が、標識と対応させて格納されている。ステージ制御の際には、標準部材の座標系とステージ制御の座標系の間で適当な原点合わせが実行され、標準部材の座標系での座標情報が、ステージ制御の座標系における座標情報に変換される。座標変換のための原点合わせは、適当な頻度、例えば、標準部材を載置したステージを真空容器内に搬入・搬出する毎に実行される。また、校正履歴部には、各標識に対応する一次元回折単位の使用頻度情報と使用回数の閾値が格納される。更に、格子欠陥位置記憶部には、各標識に対応する一次元回折単位が欠陥を含むか含まないかの情報が格納される。
【0029】
同定された標識は、配列位置部・校正履歴部・欠陥位置記憶部の各格納部に格納された情報と照らし合わされ、欠陥が存在しないか、規定の使用回数を超えていないか等の項目がチェックされる。チェック項目、例えば、使用回数の閾値や使用しない単位パターンなどの情報はレシピ画面にて設定される。同定された標識に対応する単位パターンがチェック項目を満たしていれば、現在の単位パターンを使用して校正係数の取得フローが実行される。満たしていない場合には、別の適当な単位パターンが選択される。
【0030】
例えば、最初のステージ移動で一次ビームの光軸上に移動した単位パターンの標識が102−051と同定されたとする。画素演算部によるチェックの結果、標識102−051に対応する単位パターンは、欠陥は無いが過去に10回ほどビーム照射によるピッチ測定を行っていることがわかった。そこで、画素演算部が配列位置部・校正履歴部・欠陥位置記憶部の各格納部に格納された情報を参照して、チェック項目を満たす単位パターンで標識102−051に最も近い単位パターンの標識を算出する。更に、画素演算部は、当該算出された単位パターンにビーム照射位置を移動するためのステージ移動量またはビーム偏向量を計算し、SEM制御部116に伝達する。SEM制御部は、伝達された情報に基づき、ステージ駆動装置あるいは走査偏向器104を制御し、使用すべき一次元回折格子単位を一次電子ビームの走査範囲内に移動する。
【0031】
使用する単位パターンの移動が終了すると、倍率を高倍(図2に示す一次元回折格子単位が視野全域に広がる程度の倍率)に切替え、単位パターンを実際にビーム走査する。ビーム走査に際しては、二次電子顕微鏡117のフォーカス調整を行う。フォーカス調整は、二次電子顕微鏡117に備えられた電子光学系レンズ103,105の調節により行う。本実施例では、回折格子単位への不要なビーム照射をなるべく低減するために、凸型マーク10を用いてフォーカス合わせを行っている。ただし、回折格子単位試料に一次電子ビームを照射してフォーカス合わせを行うことももちろん可能である。
【0032】
フォーカス調整終了後は、所定の領域をビーム走査し、得られた二次電子信号波形を信号処理して、寸法演算部により回折格子単位のピッチ寸法を求める。校正記憶部には、光回折法で求めた絶対ピッチ寸法が格納されており、寸法校正演算部は、寸法演算部で計算されたピッチ寸法と校正記憶部に格納されている絶対ピッチ寸法とを比較して校正係数を算出する。求めた校正係数は、校正値記億部に記憶される。また、校正に用いた回折格子単位の標識と、当該一次元回折格子単位の使用回数を校正履歴記憶部に記憶する。また校正係数が正常に取得されたことを表示部に表示する。なお、ビーム走査した領域内で異物や欠陥が見つかった場合には、当該当該一次元回折格子単位に対応する標識を欠陥位置記憶部に記憶し、フローの最初に戻って、適当な単位パターンの選択動作を実行する。
【0033】
次に、図5の(2)のフローについて説明する。(1)のフローが正常終了すると、表示部114には、引き続き測長フローを実行するかしないかの入力要求が表示される。情報処理手段115により「実行する」旨の応答が入力された場合、情報処理装置110は、ステージ109を移動して、電子ビームの照射位置にウェーハ107上の所望のパターン上が移動するようにする。発生する二次電子106は、二次電子検出器110により検出され、二次電子信号として情報処理装置110に入力される。画素演算部では、入力された二次電子信号から測長パターンのエッジ点の位置情報を抽出して寸法演算部に伝送する。寸法演算部は、得られたエッジ点の位置情報からパターン寸法を計算して寸法校正演算部に伝送する。寸法校正演算部は、フロー(1)で得られた校正係数を用いて測長値を補正する。更に、補正後の測長値を表示部114に出力して表示させる。本実施例の校正部材を用いて測長値の補正を行った結果、1 nm以下の測長精度が実現できた。
【0034】
なお、以上の図5の説明において、フロー(1)(2)は、装置ユーザの要求に応じて、装置がフローを自動実行するものとして説明したが、フローに含まれる各ステップを、装置ユーザがマニュアル操作で実行することも可能である。その場合であっても、単位パターン毎に標識6が付与されているので、従来技術に比べて一次元回折格子単位の位置の特定は容易であり、ステージ位置制御の精度によらず正確な校正が実現される。また、以上の説明では、一次元回折格子単位へのコンタミネーション確率低減のため、一次電子ビームのフォーカス調整を標識上で行ったが、逆に、同じ標識に該当する格子単位を常に使用するようにレシピを設定しても良い。同じ位置の一次元回折格子単位を使用して、実測されるピッチ寸法の変化をモニタすることにより、コンタミネーションの経時変化が監視できる。その場合は、図4に示されるメモリ内に、例えば「測長値記憶部」など、パターン寸法の実測値と特定一次元回折格子単位の使用回数を対にして格納する機能ブロックが設けられる。更に、複数の測長SEMに対して、同じ標識の一次元回折格子単位を使用して校正を行うことで、同じ基準により装置間の校正を行うことがでるようになり、複数装置間の測長性能の差(すなわち機差)を従来よりも正確に把握できるようになる。
【0035】
以上、本実施例の校正用標準部材と測長SEMを使用することにより、パターン単位の選定および確認が容易、かつコンタミネーションによる寸法変動や格子の欠陥の影響を受けることなく常に安定した校正が可能な測長システム、測長方法及び校正用標準部材が実現される。なお、本実施例では、標準部材を測長SEMに標準部材を適用した例について説明したが、汎用SEMや検査SEMなど、走査電子顕微鏡応用装置一般にも適用できることは言うまでもない。
【実施例2】
【0036】
本実施例では、実施例1で説明した校正用標準部材の変形例について説明する。
図6(a)(b)には、図1(a)(b)で示した標準部材の別構成例を示した図である。図6(a)は、近接効果補正のために、校正用パターン形成領域1の周囲にドット形状の矩形パターン11を形成した標準部材である。一次元回折格子パターン単位配列のパターニングには光露光もしくは電子ビーム描画が用いられるが、いずれの露光法においても近接効果によりパターン密集部とパターン疎部では解像パターン形状が異なる現象が生じる。また、校正用パターン形成領域1の周囲に設けられる十字マークないし回折格子単位の側部に設けられる凸型マークは、なるべく校正用パターン形成領域1の近傍に配置させたいという要請がある。十字マークと一次元回折格子パターン単位配列から遠く離れていると回折格子単位への移動量が大きくなり所望の回折格子単位への位置決め精度が悪くなるためである。
【0037】
図1(a)(b)で示した標準部材においては、校正用パターン形成領域1の周囲は、パターンが形成されていない空白である。よって、校正用パターン形成領域1の最外周部では、中央部と形状が異なる、或いは多少歪んだ回折格子の単位パターンが形成される。歪みは、最外周部から中心部へ連続的に変化するので、従って、回折格子のピッチ寸法に分布が出来てしまうという問題がある。この結果、校正に使える回折格子単位が制限されるか校正精度が悪くなる悪影響がある。これを回避するためには、最外周部の回折格子単位パターンと中央部の回折格子単位パターンとで露光量を調節するなどの補正が必要となるが、実際には調節は難しい。例えば、露光量を校正用パターン形成領域1内の外周部で多くすると、近接効果によりその内側のパターンでの実効露光量はオーバーとなる。結局、露光量の調節によっては、寸法変動を2%以下に抑えることは困難である。更に、最外周部の回折格子単位パターン近傍に十字マークを配置させると、露光量の補正は複雑となり、均一な一次元回折格子パターン単位配列の実現は困難となる。
【0038】
そこで、図6(a)に示した標準部材では、近接効果を補正するため、校正用パターン形成領域1の周囲に2.5 μm角の矩形パターン11を5 μmピッチで縦横それぞれに追加して露光した。追加した矩形パターンの露光領域は、最低4列以上最大で12列である。図6(a)程度の視野倍率ではドットにしか見えないが、拡大すると2.5 μm角の矩形状凹部が形成されている。
次に、図6(a)(b)に示した標準部材の作製方法について述べる。まずシリコン基板上にレジストを塗布する。次に図7に示した開口16、17を有するステンシルマスクを搭載した電子ビーム一括露光装置を用いて、校正用パターン開口17を選択して露光する。次に、図1(a)(b)及び図2に示すように、回折格子単位パターンが露光された位置の側部に矩形開口16を用いて、標識の数字を対応する単位パターン毎に露光する。また単位パターンの左側に凸型マークを電子ビーム可変成形法で露光する。
同様に、校正用パターン形成領域1の両側に、回転誤差補正用の十字マークを電子ビーム可変成形法で露光する。現像後、レジストをマスクとしてシリコン基板をエッチングし、一次元回折格子単位を備えた標準部材チップ4が得られる。
【0039】
次に、近接効果の補正パターンを形成した標準部材と形成しない標準部材の差について、図1(a)(b)の標準部材を比較例として示す。
【0040】
図8(a)は、図1(a)に示す標準部材の絶対ピッチ寸法を、校正用パターン形成領域1に示される線分A−A'に沿って、測長SEMを用いて測定した結果である。同様に、図8(b)は、図測長SEMを用いて光測定法により一次元回折格子のピッチ寸法を測定した結果である。図8(a)(b)いずれも、横軸は、校正用パターン形成領域1、12の一端からの距離、縦軸が測定されたピッチ寸法を示す。
【0041】
図8(a)では、線分A−A'上での絶対ピッチ寸法が、校正用パターン形成領域1の最外周部から中心に移るにつれて変動しているが、図8(b)では、線分B−B'上での絶対ピッチ寸法に変動は見られない。正確な分析の結果、線分B−B'上での絶対寸法の変動率は1%以下に抑制されていることが分かった。また、十字パターン3を形成しても上記均一性は変化しなかった。このためどの回折格子単位を用いてもピッチ寸法として絶対寸法1%以下すなわち1 nm以下が得られることが分かった。
【0042】
近接効果補正用の形成パターンは、図6(a)に示した矩形パターンに限らず、一次元回折格子単位のピッチ寸法の整数倍に対応する周期的な配列を含まなければ、他のパターンを使用することも可能である。
すなわち光学的計測でレーザ光を上記回折格子に照射してその回折光の角度からピッチ寸法を求めるが、近接効果補正用の形成パターンが一次元回折格子単位のピッチ寸法の整数倍に対応する周期的な配列を含むと近接効果補正用の形成パターンにもレーザ光が照射されるのでこれらの近接効果補正用の形成パターンが回折格子単位のピッチ寸法の整数倍に対応する周期的な配列を含むと回折格子からの回折光の近傍に周期的な配列からの回折光が発生し、ピッチ寸法の測定における回折光の角度の測定誤差となるからである。
【0043】
図9には、図6(a)に示した近接効果補正用パターンとは別のパターンを形成した変形例を示す。図9の場合は、校正用パターン形成領域1の周囲に、図6(a)のパターンと比較して大きな大矩形パターンを形成した。図9に示す大矩形パターンの場合、パターンの大きさは、縦:10 μm, 横:2mm程度である。
【0044】
以上説明した近接効果補正パターンを含めて校正用標準部材のパターン形成面を作成することにより、実施例1の標準部材の効果に加えて、校正用パターン形成領域1内の最外周部と中央部とを同一露光条件でパターニングでき、よって寸法精度を均一化できる。また、最外周部の一次元回折格子単位に対応する凸型マークの配置位置に対しても近接効果の影響を排除できるので、最外周部の一次元回折格子パターン単位に隣接して凸型マークを配置することが可能となる。従って、所望の回折格子単位への移動精度も向上できる。更にまた、本実施例の標準部材を実施例1で説明した測長SEMで使用した場合、実施例1の標準部材に比べてより高い精度の校正結果が得られるのは言うまでもない。
【実施例3】
【0045】
実施例1,2では、一次元回折格子単位の溝パターンが、同じ向きに配列された標準部材チップについて説明した。しかしながら、測長SEMでは、SEM視野内で、常に同じ向きのラインパターンのみを測長する訳ではなく、ラインの長手方向がX方向の試料もY方向の試料も両方測長する可能性がある。従って、本実施例では、X,Y両方向に一次元回折格子単位の溝パターンが形成された校正用標準試料について説明する。なお、本実施例では、図3(a)に示した測長装置を顕微装置として使用することを前提として、説明を進める。
【0046】
図10には、互いに垂直な方向に一次元回折格子単位の溝パターンが形成された2つの校正用パターン形成領域19,23を有する校正用標準部材を示す。校正用パターン形成領域19,23の周囲には、図6(a)と同様の近接効果補正用パターン18,22が形成されている。2つの校正用パターン形成領域19,23は、同一のシリコンチップ21上に形成されており、一次元回折格子単位の縦方向および横方向のピッチ寸法は、それぞれ回折角測定で高精度に求められている。従って、図10に示す標準部材を用いると、測長データの縦方向と横方向(X方向およびY方向)の測長校正を同一の標準部材で実行することが可能となる。従来、X、Y両方向の校正用標準部材を作成する際には、X方向用、Y方向用それぞれの標準部材を固定基板上に貼り付けて作製されていた。この方式では、X方向用、Y方向用標準部材の表面の高さが貼り付け時に微妙に異なるために、X方向用、Y方向用標準部材を使用した場合で、電子ビームの校正時の焦点位置がそれぞれ異なってくる。従って、同一の電子光学条件でSEM画像を取得できないため、同一視野でのX方向およびY方向の同時校正が不可能であった。
【0047】
また、上記回折格子配列近傍に回折格子の方向を示す記号として縦方向のパターンにはチップ番号と方向を示す100−Xの文字1102を、横方向のパターンにはチップ番号と方向を示す101−Yの文字1101を、一文字の大きさ1mmで書き込んである。このために回折格子パターンが識別できない程度の低倍率の観察や光学顕微鏡においても容易に識別できた。また、シリコンチップ21上を標準部材ホルダーに貼り付けるときの方向合わせも容易であった。
【0048】
さらにウェーハ形状の標準部材の実施例について述べる。図11には、ウェーハ形状の標準部材について一例を示す。ウェーハ1103の中心には回折格子配列部1106が形成されており、実施例1〜2で説明した標準部材と同様に、回折格子配列部1106に形成された溝パターンのピッチ寸法は、レーザ光を用いた回折角測定から絶対値が1 nm以下の精度で求められている。また、回折格子配列部1106の両側に形成された十字マーク1104は、ノッチ1105に対して対称な位置に形成されている。
【0049】
以下では、図11に示したウェーハ型標準部材を、図3(a)で説明したCD-SEMで用いて寸法校正を行った実施例について説明する。図11のウェーハ型標準部材を図3(a)のCD-SEM内に、ロードチャンバを介して搬入する。即ち、被測長試料に替わり、ウェーハ型標準部材がステージ109上に載置されることになる。
【0050】
まず、ステージ駆動により、一次電子ビームの照射領域に回折格子配列部1106を移動する。上記ウェーハは装置に搭載する際にノッチ115を位置合わせ基準としてステージ109に搭載される。そこで、試料回転補正用の十字マーク114をノッチ115中心とした対称な位置に形成し、更に、回折格子配列部116が2つの十字マーク114の中心に位置するように、標準部材を作製した。図11に示す標準部材においては、2つの十字マーク114がノッチを頂角とした二等辺三角形の底角位置に配置されるように形成されている。ウェーハを走査電子顕微鏡117の真空容器内に搬入する際には、ノッチを基準にしてウェーハ回転方向の粗アラインメントが実行される。粗アラインメントとは、ノッチ位置がステージ回転方向の基準位置に対して所定誤差内に収まるように、ウェーハの回転方向の位置を調整する動作である。粗アラインメントが終了したウェーハは、ロードロック室を介して真空容器内に搬入され、十字マーク114が自動検出される。十字マーク114の自動検出の際には、まず走査電子顕微鏡117内の電子光学系の倍率が、少なくともどちらか一方の十字マーク114が視野内に収まるように調整され、その後、ステージの平行移動(X,Y面内の移動)により、十字マーク114の位置が一次電子ビーム照射位置に移動される。図4に示すメモリ112には、十字マーク114とノッチ115の位置情報あるいは十字マーク114とノッチ115間の距離の情報が格納されており、CPU111は、これらの位置情報あるいは距離の情報から、ステージ移動量を計算しSEM制御部116内のステージ制御部へ伝達する。これにより、十字マーク114の自動移動が実現される。
【0051】
従来の標準部材では、十字マークが無いか、仮にあったとしてもウェーハ上での形成位置がノッチ基準で定められてはいなかった。従って、ウェーハ搬入後の回折格子部116への移動時の位置決め精度はプラスマイナス10 μm程度であった。一方、ノッチ基準で形成された十字マークを備える本実施例の標準部材においては、十字マーク114および回折格子配列部116へのビーム照射位置の移動誤差が、プラスマイナス2 μmと従来の標準部材に比べて大幅に向上した。これにより、1回の検出で所望の位置に移動できるようになったため、ビーム照射位置の移動時の自動検出エラーの発生頻度が大幅に低減した。結果的に、位置合わせのやり直し頻度が低減し、ウェーハ113の装置搬入から校正用SEM画像の取得時間まで含めた校正の所要時間が大幅に短縮された。
【0052】
また、実施例1、2の標準部材と同様、本実施例の標準部材も、複数のSEMの校正あるいは機差測定に有効であるが、ウェーハ形状の標準部材を使用して複数のSEMの校正を行う場合には、ノッチを基準にしたマーク配列は特に有効である。真空容器内への標準部材の搬入・搬出を繰り返し行うことになるため、位置合わせのやり直し頻度の低減効果が、それだけ大きくなるためである。
【0053】
以上、実施例3について説明したが、実施例1同様、本実施例の標準部材が汎用SEMや検査SEMなど、測長SEM以外の走査電子顕微鏡応用装置一般にも適用できることは言うまでもない。
【0054】
なお、以上説明してきた実施例1〜3では、座標位置を示す標識として数字を用いた構成例について説明した。数字以外の複数記号の組み合わせでも同様の効果が得られるが、回折格子のピッチ寸法に近い繰り返し要素を多く用いると回折角測定時の精度に影響するため、他の記号との識別のしやすさから、標識としては数字が有効である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1の校正用標準部材の上面全図及び部分拡大図。
【図2】図1に示した校正用標準部材の回折格子単位の拡大図。
【図3】実施例1の電子ビーム測長装置。
【図4】図3に示した電子ビーム測長装置の情報処理装置内の機能ブロック図。
【図5】本発明の校正方法フロー。
【図6】近接効果補正パターンを備えた校正用標準部材の上面全図及び部分拡大図。
【図7】電子ビーム一括露光装置用ステンシルマスク。
【図8】近接効果補正パターンの効果を示す図。
【図9】実施例2の校正用標準部材の変形例。
【図10】ウェーハ形状の標準部材の部分拡大図。
【図11】ウェーハ形状の標準部材の上面全図。
【図12】従来の校正用パターン。
【符号の説明】
【0056】
1、9、18…回折格子パターン、2…座標位置表示用数字パターン、3、7,17,22、114…位置検出用十字パターン、4,6,19,21、61,116…校正用パターン配列、16,108…標準部材、5,10、13,20…校正用チップ、8…矩形パターン、11…可変成形用矩形開口、12…校正用パターン開口、14,109…試料台ステージ、15,107…ウェーハ、23,24…回折格子ラインパターン線幅、101…電子銃、102…電子ビーム、103,105…レンズ、104…偏向器、106…二次電子、110…二次電子検出器、111,112…チップ番号と方向指示文字、113…ウェーハ型標準部材、115…ノッチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された複数の一次元回折格子単位を備える校正用標準部材において、
前記標準部材の表面に二次元配置された複数の前記一次元回折格子単位と、
当該二次元配置された一次元回折格子単位の側部に形成された、当該回折格子単位の前記二次元配置内での位置を示す標識とを備え、
前記回折格子単位は、ピッチ寸法が求められているピッチ間隔を置いて形成された複数の溝を備え、
前記標識の大きさが、当該ピッチ寸法よりも大きなことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項2】
半導体基板上に形成された複数の回折格子単位を備える校正用標準部材において、
前記標準部材の表面に二次元配置された複数の前記回折格子単位と、
当該二次元配置された回折格子単位の側部に形成された、当該回折格子単位の前記二次元配置内での位置を示す標識とを備え、
前記回折格子単位は、光学的手段によりピッチ寸法が求められているピッチ間隔を置いて形成された複数の溝を備え、
前記標識の大きさが、当該ピッチ寸法よりも大きなことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項3】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記一次元回折格子単位は前記基板上に周期的に配置され、
前記一次元回折格子単位内の溝パターンに平行な方向の回折格子単位の配列ピッチが前記一次元回折格子のピッチ寸法の整数倍であることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項4】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記一次元回折格子単位のピッチ寸法が100 nm以下であることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項5】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記一次元回折格子単位は、縦、横に所定の間隔で周期配列され、
前記標識は、当該配列の縦または横方向の配列座標を示す数字または記号を含むことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項6】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
該校正用標準部材のパターン形成面上において、前記複数の前記一次元回折格子単位が形成された全領域の更に周囲に、近接効果補正用のパターンが形成された特徴とする校正用標準部材。
【請求項7】
請求項6に記載の校正用標準部材において、
前記近接効果補正用パターンは、大きさが前記ピッチ寸法よりも小さな矩形パターンであることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項8】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記一次元回折格子単位の周囲に形成された、少なくとも一対の十字状マークを備えることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項9】
請求項6に記載の校正用標準部材において、
前記複数の一次元回折格子単位およびそれに対応する標識が半導体ウェーハ上に形成され、
当該半導体ウェーハは、ノッチまたは基準直線部と、該ノッチまたは基準直線部に対して対称な配置に形成された十字マークとを備えたことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項10】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記基板上に、X方向に垂直な溝パターンにより形成される一次元回折格子単位が複数二次元配置されて構成される第1の領域と、Y方向に垂直な溝パターンにより形成される一次元回折格子単位が複数二次元配置されて構成される第2の領域とが形成されたことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項11】
請求項10に記載の校正用標準部材において、
前記第1の領域に対応する第1の標識と、前記第2の領域に対応する第2の標識とが形成されたことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項12】
一次電子線を試料に照射して二次電子信号を検出する二次電子顕微鏡と、該二次電子顕微鏡の構成部品を制御するSEM制御装置と、前記二次電子信号を処理して前記試料に形成されたラインパターンの寸法を測定する情報処理装置とを備えた測長システムにおいて、
表面に二次元配置された複数の前記一次元回折格子単位と当該一次元回折格子単位に対応する標識とが形成された校正用標準部材に対して一次電子線を照射して得られる二次電子信号の情報に基づき、前記一次元回折格子単位の使用回数情報と前記標識とを格納する校正履歴記憶部とを備えたことを特徴とする測長システム。
【請求項13】
請求項12に記載の測長システムにおいて、
前記校正履歴記憶部には、前記一次元回折格子単位の使用回数の上限に関する情報が格納され、
前記情報処理手段は、測長データの校正係数を算出する際に電子ビームを照射する一次元回折格子単位を、前記使用回数が上限に達した一次元回折格子単位を避けて検索することを特徴とする測長システム。
【請求項14】
請求項12に記載の測長システムにおいて、
異物または欠陥を含む一次元回折格子単位の標識を格納する欠陥位置記憶部を更に備えることを特徴とする測長システム。
【請求項15】
請求項12に記載の測長システムにおいて、
前記一次電子ビームのフォーカス合わせの際に、前記標識に一次電子ビームを照射し、得られた二次電子信号を用いて前記二次電子顕微鏡のフォーカス調整を行うことを特徴とする測長システム。
【請求項16】
請求項1から11に記載の校正用標準部材を使用して測長データの校正係数を算出することを特徴とする測長方法。
【請求項1】
基板上に形成された複数の一次元回折格子単位を備える校正用標準部材において、
前記標準部材の表面に二次元配置された複数の前記一次元回折格子単位と、
当該二次元配置された一次元回折格子単位の側部に形成された、当該回折格子単位の前記二次元配置内での位置を示す標識とを備え、
前記回折格子単位は、ピッチ寸法が求められているピッチ間隔を置いて形成された複数の溝を備え、
前記標識の大きさが、当該ピッチ寸法よりも大きなことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項2】
半導体基板上に形成された複数の回折格子単位を備える校正用標準部材において、
前記標準部材の表面に二次元配置された複数の前記回折格子単位と、
当該二次元配置された回折格子単位の側部に形成された、当該回折格子単位の前記二次元配置内での位置を示す標識とを備え、
前記回折格子単位は、光学的手段によりピッチ寸法が求められているピッチ間隔を置いて形成された複数の溝を備え、
前記標識の大きさが、当該ピッチ寸法よりも大きなことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項3】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記一次元回折格子単位は前記基板上に周期的に配置され、
前記一次元回折格子単位内の溝パターンに平行な方向の回折格子単位の配列ピッチが前記一次元回折格子のピッチ寸法の整数倍であることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項4】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記一次元回折格子単位のピッチ寸法が100 nm以下であることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項5】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記一次元回折格子単位は、縦、横に所定の間隔で周期配列され、
前記標識は、当該配列の縦または横方向の配列座標を示す数字または記号を含むことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項6】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
該校正用標準部材のパターン形成面上において、前記複数の前記一次元回折格子単位が形成された全領域の更に周囲に、近接効果補正用のパターンが形成された特徴とする校正用標準部材。
【請求項7】
請求項6に記載の校正用標準部材において、
前記近接効果補正用パターンは、大きさが前記ピッチ寸法よりも小さな矩形パターンであることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項8】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記一次元回折格子単位の周囲に形成された、少なくとも一対の十字状マークを備えることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項9】
請求項6に記載の校正用標準部材において、
前記複数の一次元回折格子単位およびそれに対応する標識が半導体ウェーハ上に形成され、
当該半導体ウェーハは、ノッチまたは基準直線部と、該ノッチまたは基準直線部に対して対称な配置に形成された十字マークとを備えたことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項10】
請求項1に記載の校正用標準部材において、
前記基板上に、X方向に垂直な溝パターンにより形成される一次元回折格子単位が複数二次元配置されて構成される第1の領域と、Y方向に垂直な溝パターンにより形成される一次元回折格子単位が複数二次元配置されて構成される第2の領域とが形成されたことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項11】
請求項10に記載の校正用標準部材において、
前記第1の領域に対応する第1の標識と、前記第2の領域に対応する第2の標識とが形成されたことを特徴とする校正用標準部材。
【請求項12】
一次電子線を試料に照射して二次電子信号を検出する二次電子顕微鏡と、該二次電子顕微鏡の構成部品を制御するSEM制御装置と、前記二次電子信号を処理して前記試料に形成されたラインパターンの寸法を測定する情報処理装置とを備えた測長システムにおいて、
表面に二次元配置された複数の前記一次元回折格子単位と当該一次元回折格子単位に対応する標識とが形成された校正用標準部材に対して一次電子線を照射して得られる二次電子信号の情報に基づき、前記一次元回折格子単位の使用回数情報と前記標識とを格納する校正履歴記憶部とを備えたことを特徴とする測長システム。
【請求項13】
請求項12に記載の測長システムにおいて、
前記校正履歴記憶部には、前記一次元回折格子単位の使用回数の上限に関する情報が格納され、
前記情報処理手段は、測長データの校正係数を算出する際に電子ビームを照射する一次元回折格子単位を、前記使用回数が上限に達した一次元回折格子単位を避けて検索することを特徴とする測長システム。
【請求項14】
請求項12に記載の測長システムにおいて、
異物または欠陥を含む一次元回折格子単位の標識を格納する欠陥位置記憶部を更に備えることを特徴とする測長システム。
【請求項15】
請求項12に記載の測長システムにおいて、
前記一次電子ビームのフォーカス合わせの際に、前記標識に一次電子ビームを照射し、得られた二次電子信号を用いて前記二次電子顕微鏡のフォーカス調整を行うことを特徴とする測長システム。
【請求項16】
請求項1から11に記載の校正用標準部材を使用して測長データの校正係数を算出することを特徴とする測長方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−303892(P2007−303892A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130966(P2006−130966)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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