説明

校正装置およびそのような校正装置を備えた走査型レーザ顕微鏡

【課題】走査型レーザ顕微鏡での多種多様な性能テスト課題および校正課題のうちの少なくとも一つを、時間を節約しながら簡単な手段で処理すること。
【解決手段】合焦光学系3と、合焦光学系3の焦点面内に配置されており、落射光および透過光のうちの少なくとも一つにおいて検出可能な構造要素を備えたテスト構造4とを共通のフレーム2内で互いに対し固定的に位置合わせして備える校正装置1が、走査型レーザ顕微鏡内で、合焦光学系の瞳が、走査型レーザ顕微鏡の対物レンズの瞳と重なり合うか、または走査型レーザ顕微鏡の対物レンズの瞳に共役な面内にあるように、顕微鏡の放射線経路内に挿入され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、校正装置およびそのような校正装置を備えた走査型レーザ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
共焦点の走査型レーザ顕微鏡(LSM)の場合、少なくとも1つのレーザによって励起用放射線として生成されたレーザ放射が、偏向機構(スキャナ)と、スキャン光学系と、鏡筒レンズとを介して案内され、かつ対物レンズにより、検査すべき標本内に、回折限界で合焦される。励起用放射線が標本と相互作用することにより放出された蛍光放射は、スキャナを介して2色性ビーム・スプリッタ上に到達し、このビーム・スプリッタは、蛍光放射を励起用放射から分離して検出用放射線経路内に導く。続いて蛍光放射は、共焦点絞りであるピンホール上に合焦され、このピンホールは、検出用放射線経路内で焦点面に共役な面内に配置されている。蛍光放射は、再度の励起用放射抑制のためブロック・フィルタを通過した後、光電子増倍管(PMT)によって測定される。
【0003】
走査型レーザ顕微鏡の場合、多数のコンポーネントに基づき多種多様な性能テスト課題および校正課題があり、これらの課題は、製造の際およびユーザのために非常に重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、多種多様な性能テスト課題および校正課題のうちの少なくとも一つを、時間を節約しながら簡単な手段で処理するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は本発明により、合焦光学系と、合焦光学系の焦点面内に配置されており、落射光および透過光のうちの少なくとも一つにおいて検出可能な構造要素を備えたテスト構造とを共通のフレーム内で互いに対し固定的に位置合わせして備える校正装置によって解決される。
【0006】
本発明の特に有用で有利な形態および変形形態は従属請求項から明らかである。
このため校正装置は、合焦光学系および校正構造から成る固定的な組合せにより、温度に起因する焦点位置の変化に対し特に抵抗力のある構成ユニットを形づくっており、この構成ユニットを用いて、検査すべき機器システム内で、その機器システムの性能の測定および判断に適したテスト画像を生成することができる。その際、テスト画像が所望の特性を備えていれば、テスト画像がどのように生成されるかは重要でなく、例えば、合焦光学系としての高倍率の対物レンズと共に非常に小さなテスト構造を使用し得ることによって生成される。同じテスト画像は、より大きなテスト構造およびより小さな倍率を備えた対物レンズによっても生成可能である。別の包括的な調整を実施することができる。例えば、合焦光学系の焦点面の望ましくない湾曲は、この画像エリアの湾曲に適合させたテスト構造を使用することによって補償し得る。結果として、画像側に望ましい平面的なテスト画像が生じる。
【0007】
全体的に、この校正装置に関しては以下の調整を行い得る:
・使用した材料の熱膨張よりかなり大きな、校正装置の対象物側の焦点深度の調整が、簡単なやり方で、温度安定性の校正装置の実現を可能にする、
・テスト構造による、合焦光学系の幾何学的な歪みの補整、および
・湾曲した構造を使用することによる、湾曲した焦点面の補整。
【0008】
校正装置の残っている結像欠陥も、必ずしも校正装置としての適性の制限を意味しない。
補償され得ない結像特性が、例えば合焦光学系の横色収差を形成し、この横色収差は、テスト構造を様々な波長で検出する際に異なる大きさで出現させる。それにもかかわらず、測定されたテスト構造の評価の際に合焦光学系の横色収差を考慮し、かつ差し引くことによって、走査型レーザ顕微鏡の倍率などを厳密に測定することが可能である。
【0009】
特に、テスト構造の交換にアライメントの必要がないことが利点であり、そのためにフレームは、交換時に校正装置内のテスト構造の側方および軸方向の位置が常に同じままであるように形成されている。
【0010】
本発明の有利な変形形態では、テスト構造が、合焦光学系に対置され、合焦光学系の方向にテスト構造を透過放射するために形成された照明機構に隣接している。
有利にはLEDとして形成された照明源を共通のフレーム内に止め具で固定することができ、もしくは走査型レーザ顕微鏡のハロゲンランプを透過光源として使用する。
【0011】
テスト構造が、構造要素として反射性格子要素を備え得ることが有利である。例えばクロムから成るこのような構造要素は、スキャン・エリアの大きさの校正、スキャナの移動の直線性の校正、または光学システムの結像特性における非直線性の補正を可能にするので、特に適切であると実証されている。特に、x方向およびy方向に周期的に構造化された格子としての格子要素が形成され得、この格子は、様々な走査周波数を実現するために様々な周期長を有することも可能である。
【0012】
さらにテスト構造は、スター・テスト用構造要素も含み得る。
昨今の蛍光を検出する顕微鏡のアライメントおよび校正のため、励起光による照射の応答として蛍光を放出し得る校正装置が必要である。このため反射性格子要素の間に、蛍光性の格子間領域が形成される場合が有利である。
【0013】
本発明の1実施形態では、反射性格子要素が、放射透過性キャリアの上に設けられており、かつ蛍光性材料から成る層によって覆われている。蛍光性材料としては、単光子励起および多光子励起のうちの少なくとも一つに適した固体または色素溶液が企図され得る。特に、蛍光性材料によって放出された蛍光が、定義されたスペクトル特性および偏光特性を有している場合も有利であり、これにより、そのような特性が顕微鏡の検出システムによって捕捉され得る。軸方向の焦点長さ(例えば<100nm)より明らかに小さい蛍光性材料の層厚は、特に励起PSFおよび検出PSF(PSF=点広がり関数)の測定に適している。
【0014】
別の実施形態では、蛍光性ガラスまたは蛍光性半導体材料も、反射性格子要素のキャリアとして用いられ得る。
走査型レーザ顕微鏡内での照らし出しの均質性を決定するため、テスト構造は、均質に発光する平面領域と発光性の規則的な格子構造とを備えた発光要素として形成可能であり、その際、平面領域および格子構造の発光特性は検出可能に互いに異なっている。
【0015】
本発明の更なる実施形態は、点光源を生成するためのテスト構造が、透過光において放射線を通し得る単孔マスクを含むことを企図する。
特に、テスト構造が領域に区分けされることも可能であり、その際、一方の領域は反射性格子要素および蛍光性領域を有しており、かつもう一方の領域は単孔マスクとして形成される。
【0016】
テスト構造のうちの幾何学的な構造も、材料特性によって決定される領域も、異なる校正工程を互いに妨げないよう空間的に分離されるべきである。
さらに課題は、合焦光学系と、合焦光学系の焦点面内に配置されており、落射光および透過光のうちの少なくとも一つにおいて検出可能な構造要素を備えたテスト構造とを共通のフレーム内で互いに対し固定的に位置合わせして備える校正装置を顕微鏡の放射線経路内に挿入可能な走査型レーザ顕微鏡によって解決される。
【0017】
特に、合焦光学系の瞳が、走査型レーザ顕微鏡の対物レンズの瞳と重なり合うポジションで、または走査型レーザ顕微鏡の対物レンズの瞳に共役な面内にあるポジションで、顕微鏡の放射線経路内に挿入されることが企図される。
【0018】
顕微鏡の放射線経路内に挿入可能な校正装置の更なる特徴は、校正装置に関する従属請求項から明らかである。
好ましい実施形態では、校正装置が更なる対物レンズと共に、複数対物レンズ交換器内に止め具で固定される。
【0019】
特に、校正装置の合焦光学系が、複数対物レンズ交換器内の更なる対物レンズより短いアライメント長(標本内の対象面と、複数対物レンズ交換器での対物レンズの設置平面との間隔)を有する場合が有利である。これにより、適用可能な標本が顕微鏡の対象物ステージ上にあるときに、本発明による校正装置を顕微鏡の放射線経路内に挿入することで校正測定を実施することも可能である。こうして標本との衝突を排除し得る。
【0020】
さらに本発明の主題は、請求項23の特徴に基づく、走査型レーザ顕微鏡の励起用放射線経路と検出用放射線経路との間のアライメント状態を決定および補正するための方法である。
【0021】
この方法の場合の最適な信号調整には、互いに分離された検出チャネル内で反射画像および透過光画像を同時に記録することが有益であり、これにより、偏向機構での変化(例えばスキャン・エリアの中心点のドリフト/ジッター)が悪影響を及ぼすことがない。相互のポジションのズレの決定および補正が、相互相関によって自動的に行われ得ることが有利である。
【0022】
さらに本発明の主題は、請求項27〜33に基づく、本発明による校正装置の数多くの使用可能性である。
以下に、概略的な図面に基づき本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1に示した校正装置1は、共通のフレーム2内に、合焦光学系3と、合焦光学系3の焦点面FE内で交換可能に、かつ合焦光学系3に対してアライメントされて配置されたテスト構造4と、を含んでいる。合焦光学系3およびテスト構造4の互いに対する固定的なポジショニングが、持続的にチェック測定を実施し得ることを保証する。テスト構造4は、幾何学的な構造要素および材料特性のうちの少なくとも一つによって決定される構造要素を備えており、これら要素は落射光および透過光のうちの少なくとも一つにおいて検出可能である。
【0024】
図3に基づく実施形態では、構造要素が、反射性格子要素5を備えたテスト格子として例えばスキャナ移動の直線化または校正のために形成され、もしくはスター・テストのためにジーメンス・スター6として形成される。構造の幅は、合焦光学系3の点広がり関数(PSF)の大きさ内にあるべきである。構造の幅がPSFの大きさ以下の場合、透過光において明暗コントラストが低下する。校正装置1の第1の実施形態は、フレーム2と接続された例えばLEDのような照明機構7を遠視野照明のために含んでおり、この照明機構7は、合焦光学系3に対置されたテスト構造4に隣接しており、それにより、合焦光学系3の方向にテスト構造4を透過放射するために形成されている。
【0025】
校正装置1の図2に示した実施形態は、落射光におけるアライメント課題および校正課題のために企図されることが好ましく、かつ図1に基づく実施形態とは異なり、装置内に組み込まれた照明機構がない。フレームと交換可能に接続されたテスト構造の構造要素は、その要素の目的を、要素の幾何学的な形状および互いに対する配置によって果たす以外に、固体または液体の材料の蛍光特性によって果たす。
【0026】
図1および図2に基づく両方の実施形態のために、プラン・アポクロマート5×/0.16が図14に基づき合焦光学系として使用されることが好ましい。
本発明による校正装置によって、多数の自動化可能な校正課題およびテスト課題が実施され得る。
【0027】
励起用放射線経路と検出用放射線経路との間のアライメント状態の品質
走査型レーザ顕微鏡の性能を決定する主要な状態パラメータは、励起用放射線経路と検出用放射線経路との間のアライメント状態の品質であり、この品質は、ピンホールの画像と標本内の励起用放射線の画像との位置が同じであることによって、またはピンホール面内の励起用放射線の画像とピンホールの画像との位置が同じであることによって、特徴付けられる。
【0028】
アライメント状態を算定するため、図4に基づく光学的装置が用いられ、この装置の場合、放射線経路の一部が鏡筒レンズ8、スキャン光学系9、スキャナ10、およびピンホール11と共に図示されている共焦点走査型レーザ顕微鏡の放射線経路内に、図1に基づき形成された校正装置1が持ち込まれている。検出用放射線経路内のピンホール11の後ろに、2つの受信チャネルCH1およびCH2が、同時の画像記録のために配列されており、その際、チャネルCH1内ではテスト構造4の反射画像が記録され、かつもう1つのチャネルCH2内ではテスト構造4の透過光画像が記録される。反射における検出が、大きすぎるレーザ抑制のために不可能な場合、励起用放射線によって生成された蛍光を、ピンホール11を開いて、落射光画像として検出することも可能である。このやり方でも励起用放射線経路のポジションを決定可能であり、その際、反射画像の明領域だけが、画像内に暗く現れる。
【0029】
校正装置1は特に、合焦光学系3の瞳が、走査型レーザ顕微鏡の対物レンズの瞳と重なり合うか、または走査型レーザ顕微鏡の対物レンズの瞳に共役な面内にあるように、放射線経路内に持ち込まれる。実体的には、図4に示されていない複数対物レンズ交換器または対物レンズ・レボルバ内に校正装置1を収容することが好ましく、そうすることで、温度に依存した膨張作用の影響が最小限にされ、かつテスト構造4が焦点内にあり続ける。
【0030】
図5および図6は、2つの受信チャネルCH1、CH2内で同時に記録されたテスト画像を示しており、その際、図5での反射画像は、アルゴン・レーザの488nmのレーザ放射線で照明された格子周期20μmのテスト格子に由来しており、かつ図6での透過光画像は、同じテスト格子から、LED照明7によって生成される。
【0031】
両方のテスト画像内の構造ポジションの評価によって、励起用放射線経路と検出用放射線経路のアライメント状態の品質を突き止めることが可能であり、その際、図5はレーザ・スポットによる励起を表しており、かつ図6は検出、つまりピンホールのポジションを表している。
【0032】
図7に基づき、例えば、好ましくは自動的な相互相関によって励起と検出の間のオフセットを突き止めることが可能であり、ただし、その際、透過光画像を評価の前に反転させるべきである。座標原点を重ね合わせることにより、励起および検出のオーバーラップ補正が行われ、これも自動的に行われ得る。
【0033】
本発明により、図8および図9が示すように両方のテスト画像を重畳させることで、ピンホールのポジショニングを視覚的に判断することも可能である。
図4に基づく装置はさらに、ほぼ均質に放射されるLED光によってボリューム試料の蛍光をシミュレーションすることにより、信号対雑音比(SNR)を測定することを可能にし、これに関し、SNRは、ピンホールの大きさの校正によって決定的に影響を受ける。白色光LEDを使用する場合、様々なスペクトル領域内でのSNR測定が実施され得る。検出効率の推移を比較的長い期間にわたって比較可能に捕捉し得るように、同じフィルタ調整および同じLED電流が選択されなければならない。
【0034】
蛍光性の固体または液体の校正試料による信号対雑音比(SNRテスト)の測定
校正装置1の均質に蛍光を発する領域を、定義された励起光出力で照明し、続いて蛍光を検出して評価する。顕微鏡の検出効率を決定するため、通常は標準偏差および平均値の決定に基づき信号対雑音比(SNR)を計算し、これに従いSNR=平均値/標準偏差が適用される。
【0035】
校正された点光源(例えば1エアリーLED)による信号対雑音比(SNR)の測定
共焦点顕微鏡検査における信号対雑音比の測定の結果は、主に共焦点絞り(ピンホール)の校正によって決定される。例えば、顕微鏡の試料空間内での共焦点絞りの画像の直径が1エアリーより大きい場合、多すぎる蛍光が検出され、かつ大きすぎるSNRが決定される。
【0036】
改善策は、等方性に半空間内に放射する校正された点光源を、校正装置1内に作ることであり、その際、点光源の開口部は、試料空間内の共焦点絞りの画像の最大直径より小さくなければならない。共焦点絞りの大きさを最大に調整すれば、共焦点絞りの校正に関係なくSNRの決定がなされる。
【0037】
実践的には、校正装置1のテスト構造4が、点光源を生成するため、透過光において放射線を通し得る単孔マスクとして形成され、その際、定義された幾何学的寸法での開口部は、例えばマイクロ構造化方法によって非常に正確に作製可能である。光源としては、図1に基づき校正装置内に組み込まれた発光ダイオード(LED)が企図され得る。校正された点光源の開口部が、校正装置1内の合焦光学系3の回折限界より大きい場合、合焦光学系3の開口数を活用し得るように、ランベルト放射光源(LED)を使用することが有意義であり得る。回折限界より小さな開口部に関しては、小さな開口部での回折が、開口数の充満を引き起こす。
【0038】
単位時間ごと、単位面積ごと、および立体角ごとに、放出される光子の数が既知であるという意味において点光源が校正される場合、測定は、システムの絶対的な検出効率の決定をも可能にする。
【0039】
検出ユニットを、例えば蛍光相関分光法(FCS)もしくはヘテロダインCARSまたはFM−CARSのような、ハードウェアおよびソフトウェアの機能に基づきテストし得るための、例えばLED(ファイバ・ベースでも)のような変調可能な光源を介した試料領域内へのテスト信号の入射
例えば、マイクロ構造化された開口部および透過光源としてのLEDを備えた、透過光において放射線を通し得る単孔マスクのような、校正装置1内の校正された等方性の点光源は、共焦点顕微鏡の検出効率の決定にのみ適しているのではなく、共焦点原理に基づく更なる方法にも広範囲に利用可能である。
【0040】
蛍光相関分光法(FCS)は、細胞内の、または単純に溶液中の、蛍光性分子の動きに関する動的な情報の取得を可能にする(Scanning Two−Photon Fluctuation Correlation Spectroscopy:Particle Counting Measurements for Detection of Molecular Aggregation;ケー エム バーランド(K.M.Berland)、ピー ティー シー ソー(P.T.C.So)、ワイ チェン(Y.Chen)、ダブリュ ダブリュ マンツリン(W.W.Mantulin)、およびイー グラットン(E.Gratton)、Biophysical Jounal、第71巻、1996年7月、410−420参照)。共焦点ボリューム内の非常に小さな色素濃度(nM)に対して一連の蛍光光子インパルスが発生し、つまり正確には、可動の色素分子が焦点を通過する場合に発生する。蛍光インパルス列の長さは、分子が共焦点ボリュームを横断するために必要な時間(拡散時間)によって決定され、これに対し強度は、分子の「ブライトネス」、吸光係数と量子収率の積によって決定される。2つのインパルス現象の間の平均時間は、焦点ボリューム内の粒子の平均数に反比例する。
【0041】
誤りのない相関分析は、完璧に働くハードウェア(光学系、検出器、および電子機器など)およびソフトウェア(相関アルゴリズム、数学的モデル、およびFITルーチン)を前提条件とする。校正装置1内の等方性の校正された点光源によって定義的にシミュレーションされた光学的なテスト信号、例えば定義された分子の「ブライトネス」を備えた色素分子の拡散応答をシミュレーションする光インパルスが、顕微鏡システム内に入射され、かつ評価され得、これにより適用に関する機器のパフォーマンス(ハードウェアおよびソフトウェア)が算定され得る。
【0042】
別の実施形態では、光学的なテスト信号を、透過光において放射線を通し得る単孔マスクによる代わりに、光ファイバを介して校正装置内に入射させることも可能である。
FCSの他に、ハードウェアおよびソフトウェアのテスト目的のため、「コヒーレント反ストークス・ラマン散乱顕微鏡検査」(CARS顕微鏡検査)用の、位相または周波数および振幅のうちの少なくとも一つを変調させた光学的なテスト信号の供給も(校正装置1内のテスト構造4を介して)提供される。信号源が3次の非線形電気感受率を有するCARS信号は、共鳴部分および非共鳴部分を有している。
・(Heterodyne coherent anti−Stokes Raman scattering(CARS)imaging;エリック オー ポトマ(Eric O.Potma)、コナー エル エバンス(Conor L.Evans)、およびエックス サニー シエ(X.Sunney Xie)、Optics Letters、第31巻、第2号、2006年1月、241−243参照)
・(High−sensitivity vibrational imaging with frequency modulation coherent anti−Stokes Raman scattering(FM CARS)microscopy;フェルズ ガニカノフ(Feruz Ganikhanov)、コナー エル エバンス(Conor L.Evans)、ブライアン ジー ザール(Brian G.Saar)、およびエックス サニー シエ(X.Sunney Xie)、第31巻、第12号、2006年6月、1872−1874参照)
特に非共鳴部分は、CARS信号が、バックグラウンド無しではなく、かつ相応にCARS顕微鏡検査においてコントラストが減少する原因である。光源の位相および周波数を適切に変調することにより、振幅が変調された検出すべきCARS信号を生成可能であり、その結果、ハードウェアおよびソフトウェアの分析/フィルタリングにより、高コントラストでバックグラウンドの無い信号(共鳴CARS画像)が算定され得る。
【0043】
解像度の測定/点広がり関数(PSF)
共焦点走査型レーザ顕微鏡の性能は、蛍光に関する検出効率だけによって決定されるのではない。使用した対物レンズに相応の最大解像度を達成し得るためにも、1エアリーまで閉じたピンホールの場合に、つまり最適な「zセクショニング」の場合に最大量の蛍光を検出し得るためにも、励起焦点が回折限界であることが不可欠である。校正装置内の合焦光学系が回折限界で合焦するという前提条件の下では、合焦性における狂いは照明光学系および検出光学系のうちの少なくとも一つにおける欠陥を示唆している。
【0044】
欠陥は、例えばミラーの変形、カラー・スプリッタの不適切なポジショニングによる陰影効果、鏡筒レンズまたはスキャン対物レンズなどの誤ったアライメントによって、引き起こされ得る。結像システムの品質は、コントラスト伝達関数(MTF)により、または位相ズレが発生する場合は複素係数の光学伝達関数(OTF)により、特徴付け得る。
【0045】
伝達関数の測定は、格子構造の画像、点状の開口部の画像(点広がり関数‐PSF)の分析によって、もしくは縁または間隙の画像の分析によって実施し得る。それに応じて、テスト構造は、顕微鏡の光学的パフォーマンスに関する判定の取得に適切なソフトウェアによって構造要素の画像を評価し得るように、伝達関数の決定のための構造要素を含み得る。
【0046】
スキャナの直線性/スキャナの校正の測定
スキャナ制御のための信号の校正は、例えば(独国特許出願公開第102005047200号明細書)に記載されている。テスト構造の構造要素は、簡単なやり方で、スキャナの校正に対する光学的な評価が可能であるように形成され得る。同様に例えば、スキャナのポジションまたはスキャン画像内のその時々の測定ポジションを測定するために利用されるポジション・センサのポジション信号も校正され得る。校正は、ポジション信号または制御信号の伝達関数の正確な測定を含み得る(独国特許出願公開第102005047200号明細書)。
【0047】
スキャナの制御信号を校正するための適切で単純な構造要素は、例えば周期的な格子である。テスト構造4は、X方向に周期的な格子もY方向に周期的な格子も含むことが有利である。その際、テスト構造4の格子領域は、同時にX方向およびY方向に周期的に構造化されることも可能である。非常に様々なスキャン振幅の場合に校正を行い得るように、様々な周期長を備えた格子が存在することが有利である。
【0048】
励起抑制および検出用放射線経路の透過
蛍光顕微鏡検査では蛍光性対象物が記録され、その際、蛍光顕微鏡は、蛍光のために必要な励起光を供給する。励起光および対象物から放出された蛍光の波長は色素に依存する。蛍光および励起光の波長領域が異なることに基づき、スペクトル分離が実施可能である。この特性は、励起光を蛍光顕微鏡の検出器から遠ざけておくために利用される。
【0049】
一般的に励起光より明らかに小さい蛍光強度に基づき、「優れた」蛍光顕微鏡は、放出された蛍光をできるだけ高い効率で検出し、その際、同時に励起光は非常に強く抑えられる。
【0050】
蛍光顕微鏡の品質について判定する場合、励起抑制および検出効率の決定が不可欠である。校正装置1の図10に基づくテスト構造4が適用され、このテスト構造の場合、構造要素として、反射性格子要素5および反射性格子要素5の間で既知の蛍光効率で蛍光を発する格子間領域12が企図される。テスト構造4によって記録されたテスト画像内では、反射性格子要素5に属するピクセルおよび蛍光性の格子間領域12に属するピクセルの強度が別々に評価され、その際、強度値の平均が求められ得る。既知の蛍光効率に基づき、蛍光強度信号から励起光の強度が推論され得る。推論された励起光の強度を、反射性格子要素5で測定された反射強度と比較すれば、励起抑制の程度が明らかになる。
【0051】
PMTゲイン特性線および校正されたAOTF特性線の知識に基づく更なる手法では、まず、例えば、既知の透過曲線を備えた中立的な主カラー・スプリッタ(例えばHFT80/20)の使用による、レーザ光の直接的な検出を可能にするフィルタ調整で、反射におけるレーザのPMT信号が算定される。その際、たいていはPMTゲインと呼ばれるPMT高圧は、できるだけ小さいべきである。続いて、測定すべき蛍光フィルタを放射線経路内に装入し、既知のAOTF透過の場合に、PMT高圧および場合によってはレーザ出力も、レーザ光の直接的な検出の場合とほぼ同じ信号が得られるまで上昇させる。レーザの抑制は、蛍光フィルタの既知の特性線を基に算出し得る。この手法によりOD4〜OD5での抑制に対する測定が可能であり、この場合、ODは光学密度を表す。
【0052】
検出用放射線経路の透過の決定は、既知の参照光源での透過を直接的に測定することにより、または特に走査型レーザ顕微鏡の励起出力を、例えばレーザ・パワー・メータで測定することにより、更なる補助手段を必要とする。
【0053】
照らし出しの均質性の決定
特に量的な顕微鏡検査に関しては、顕微鏡検査される対象物がどのくらい明るく発光したかを知ることが重要である。理想的な顕微鏡は、画像エリア内の全ての点を同等に「扱う」。つまり、これは明るさに関して、同等に明るく発光する対象物は顕微鏡画像内でも同等に明るいことを意味する。実際には、この要求はせいぜい近似的に満たされ得る。画像の明るさは、しばしば、特に顕微鏡画像の周縁に向かって、例えば口径食に基づき減少する。
【0054】
本発明による校正装置により、テスト構造4の明るさを位置に依存して測定することで、照らし出しを簡単なやり方で決定し得る。
照らし出しの決定には、検査すべき機器に適合させて反射性、散乱性、蛍光性、または自己発光性に実施可能で均質な、平面またはボリュームが適している。
【0055】
本実施形態では、テスト構造4が均質に発光する平面として形成されており、この平面は、例えば画像エリアの幾何学形状の測定のような更なる校正目的のために、正方形の格子構造13の形の追加的な構造要素を含んでいる(図11)。この追加的な構造要素は、より明るいか、またはより暗い、または例えば別の波長領域において発光することによって、均質に発光する平面とは異なっている。
【0056】
確かに最初は、追加的な構造要素によって生成されたテスト画像内の不均質性が邪魔であるが、それでも以下の前提条件が満たされていれば、記録されたテスト画像から追加的な構造要素を差し引くことにより、画像エリアの均質性を決定し得る。
・ 追加的な構造が既知である。
・ 顕微鏡の照らし出しプロフィルが、画像エリアの表面に沿って一般的にゆっくりとしか変化せず、急激な落ち込みは予測され得ない。
【0057】
記録されたテスト画像(図12)では、格子間領域がもう均質ではないことが分かり、その際、明るさは画像周縁に向かって減少している。格子構造も確認し得る。
後処理されたテスト画像(図13)では、格子構造が取り除かれており、これにより照らし出し画像が残る。テスト格子によって覆われる領域内の明るさは、内挿法によって算定可能であり、内挿法は、顕微鏡の照らし出しプロフィルが急激な変化を含まない限り、信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による校正装置の第1の実施形態を示す図。
【図2】本発明による校正装置の第2の実施形態を示す図。
【図3】顕微鏡の幾何学的な大きさのアライメントおよび校正のためのテスト構造を示す図。
【図4】共焦点走査型レーザ顕微鏡の放射線経路内に配置された、励起用放射線経路と検出用放射線経路の間のアライメント状態を決定するための校正装置を示す図。
【図5】反射性格子要素を備えたテスト構造の反射画像を示す図。
【図6】図5と同じテスト格子の透過光画像を示す図。
【図7】反射画像および透過光画像に基づく画像記録によって算定された、励起用放射線経路と検出用放射線経路の間のアライメント状態に関する相関窓を示す図。
【図8】図5および図6からの反射画像および透過光画像の重なりを示す図。
【図9】図8において重ねられた画像構造のx方向およびy方向における断面を示すグラフ。
【図10】反射性格子構造および蛍光性の格子間領域を備えたテスト構造を示す図。
【図11】均質に発光する平面およびその上にある発光性格子構造を備えたテスト構造を示す図。
【図12】図11に基づくテスト構造によって記録されたテスト画像を示す図。
【図13】格子構造を取り除いた図12に基づくテスト画像を示す図。
【図14】校正装置内で企図された合焦光学系のレンズ断面を示す図。
【符号の説明】
【0059】
1…校正装置、2…フレーム、3…合焦光学系、4…テスト構造、5…反射性格子要素、7…照明機構、12…格子間領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型レーザ顕微鏡を校正するための校正装置であって、合焦光学系(3)と、該合焦光学系(3)の焦点面(FE)内に配置されており、落射光および透過光のうちの少なくとも一つにおいて検出可能な構造要素を備えたテスト構造(4)とを共通のフレーム(2)内で互いに対し固定的に位置合わせして備える校正装置。
【請求項2】
前記テスト構造(4)が前記フレーム(2)内で交換可能に止め具で固定される、請求項1に記載の校正装置。
【請求項3】
前記テスト構造(4)が、前記合焦光学系(3)に対置され、かつ前記合焦光学系(3)の方向に前記テスト構造(4)を透過放射するために形成された照明機構(7)に隣接している、請求項1または2に記載の校正装置。
【請求項4】
前記照明機構(7)が、前記共通のフレーム(2)内に止め具で固定される、請求項3に記載の校正装置。
【請求項5】
照明機構(7)として、遠視野照明のために形成されたLEDが設けられる、請求項4に記載の校正装置。
【請求項6】
照明機構(7)として、走査型レーザ顕微鏡のハロゲンランプが設けられる、請求項3に記載の校正装置。
【請求項7】
前記テスト構造(4)が、構造要素として反射性格子要素(5)を備える、請求項1または2に記載の校正装置。
【請求項8】
前記反射性格子要素(5)が、x方向およびy方向に周期的に構造化された格子として形成される、請求項7に記載の校正装置。
【請求項9】
前記周期的に構造化された格子が、光学伝達関数の算定のための構造として形成される、請求項8に記載の校正装置。
【請求項10】
前記周期的に構造化された格子が様々な周期長を有する、請求項8または9に記載の校正装置。
【請求項11】
前記反射性格子要素(5)の間に蛍光性の格子間領域(12)が形成される、請求項7に記載の校正装置。
【請求項12】
前記反射性格子要素(5)が、放射透過性キャリアの上に設けられ、かつ蛍光性材料から成る層によって覆われる、請求項11に記載の校正装置。
【請求項13】
蛍光性材料として、単光子励起および多光子励起のうちの少なくとも一つに適した固体または色素溶液が用いられる、請求項12に記載の校正装置。
【請求項14】
前記反射性格子要素(5)のためのキャリアとして、蛍光性ガラスまたは蛍光性半導体材料が用いられる、請求項11に記載の校正装置。
【請求項15】
前記テスト構造(4)が、スター・テスト用の構造要素を含む、請求項7乃至10のいずれか1項に記載の校正装置。
【請求項16】
前記テスト構造(4)が、均質に発光する平面領域と発光性の規則的な格子構造とを備えた発光要素として形成され、その際、該平面領域および該格子構造の発光特性が検出可能に互いに異なる、請求項1または2に記載の校正装置。
【請求項17】
前記テスト構造(4)が、点光源を生成するため、透過光において放射線を通し得る単孔マスクを備える、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の校正装置。
【請求項18】
前記テスト構造(4)が領域に区分けされており、その際、一方の領域は反射性格子要素(5)および蛍光性の格子間領域(12)を有し、かつもう一方の領域は透過光において放射線を通し得る単孔マスクとして形成される、請求項3乃至6のいずれか1項に記載の校正装置。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の校正装置(1)が、顕微鏡の放射線経路内に挿入可能である、走査型レーザ顕微鏡。
【請求項20】
前記校正装置(1)が更なる対物レンズと共に、複数対物レンズ交換器内に止め具で固定される、請求項19に記載の走査型レーザ顕微鏡。
【請求項21】
前記校正装置(1)の前記合焦光学系が、前記複数対物レンズ交換器内の前記更なる対物レンズより短いアライメント長を有する、請求項20に記載の走査型レーザ顕微鏡。
【請求項22】
前記合焦光学系(3)の瞳が、前記走査型レーザ顕微鏡の前記対物レンズの瞳と重なり合うか、または前記走査型レーザ顕微鏡の前記対物レンズの瞳に共役な面内にあることを特徴とする請求項19乃至21のいずれか1項に記載の走査型レーザ顕微鏡。
【請求項23】
励起用放射線を生成するための少なくとも1つのレーザと、該励起用放射線の変動する偏向のために形成された偏向機構と、少なくとも1つの検出チャネルとを含む走査型レーザ顕微鏡の励起用放射線経路と検出用放射線経路との間のアライメント状態を決定および補正するための方法であって、
該走査型レーザ顕微鏡の該放射線経路内に請求項1乃至7のいずれか1項に記載の校正装置が配置され、その際、該走査型レーザ顕微鏡の前記対物レンズの前記瞳と該校正装置の前記合焦光学系の前記瞳とが重なり合うか、または互いに共役な面内で配置される工程と、
該励起用放射線により前記テスト構造を走査し、かつ前記テスト構造の反射画像または蛍光画像を記録する工程と、
前記テスト構造を透過放射し、かつ前記テスト構造の透過光画像を記録する工程と、
該反射画像および該透過光画像内の構造ポジションを算定し、かつ相互のポジションのズレを決定する工程と、
を備える方法。
【請求項24】
前記反射または蛍光画像および前記透過光画像の記録が、互いに分離された検出チャネル内で同時に行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
相互のポジションのズレの決定および補正が、相互相関によって自動的に行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
励起の蛍光画像および検出の透過光画像が反転される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
走査型レーザ顕微鏡内の信号対雑音比を測定するための請求項11に記載の校正装置の使用方法。
【請求項28】
走査型レーザ顕微鏡内の信号対雑音比を測定するための請求項17または18のいずれか1項に記載の校正装置の使用方法。
【請求項29】
蛍光相関分光法またはCARS顕微鏡検査を実施するために走査型レーザ顕微鏡の試料領域内にテスト信号を入射するための請求項17または18のいずれか1項に記載の校正装置の使用方法。
【請求項30】
走査型レーザ顕微鏡内の解像度を測定するための請求項7、17または18のいずれか1項に記載の校正装置の使用方法。
【請求項31】
走査型レーザ顕微鏡内のスキャナを校正するための請求項8乃至10のいずれか1項に記載の校正装置の使用方法。
【請求項32】
走査型レーザ顕微鏡内の励起抑制および検出用放射線経路の透過を測定するための請求項11に記載の校正装置の使用方法。
【請求項33】
走査型レーザ顕微鏡内の照らし出しの均質性を決定するための請求項11または16のいずれか1項に記載の校正装置の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−181122(P2009−181122A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328779(P2008−328779)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(506151659)カール ツァイス マイクロイメージング ゲーエムベーハー (71)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss MicroImaging GmbH
【Fターム(参考)】