説明

核物質の能動的検出用小型中性子発生装置

【解決手段】小型中性子発生装置は、移動可能な検出システムを用いて、高濃縮ウランの能動検出に用いられる。サイズが小さく、軽量で、電力消費量が少なく、操作及びメンテナンスが容易である。検出器は、簡素化されたイオン源及びイオン輸送システムに基づいている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年6月29日出願の米国仮特許出願60/695368号の優先権を主張し、その開示全体は、引用を以て本願に組み入れられるものとする。
本発明は、移動可能な検出システムを用いて、高濃縮ウラン(Highly Enriched Uranium;HEU)の能動的検出に用いられる小型中性子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
国土安全保障における最も難しい問題の1つは、大量破壊及びその他禁制品に対する検出技術である。この発明は、核物質、特にHEUのように兵器に使用可能な物質及び兵器級プルトニウム(Weapon Grade Plutonium;WGPu)の検出を行なうのに有望な技術に関する。
【発明の開示】
【0003】
可動検出システムを用いて、高濃縮ウラン(HEU)の能動的検出を行なうには、小型で軽量の中性子発生装置及び検出器が必要である。
【0004】
この小型中性子発生装置は、移動可能な検出システムを用いて、HEUの能動的検出を行なうことを目的とする。小型で、軽量で、電力消費量の少ない中性子発生装置であり、操作及びメンテナンスを容易に行なうことができる。検出器は、簡易なイオン源及びイオン輸送システムに基づいている。
【0005】
本発明の一態様において、中性子発生装置は、重水素ガスが充填されたチャンバーと、高電圧電力源と、電界イオン化イオン源と、カーボンナノチューブ、ナノロッド又はマルチピンタングステンの少なくとも1種のアノードと、カソードとを含んでいる。
【0006】
本発明の他の態様において、中性子発生装置は、重水素ガスが充填されたチャンバーと、125〜150kVの高電圧電力源と、タングステンチップを有するイオン化源と、アノードと、トリチウムが担持されたチタンの厚いターゲットとを含んでおり、発生装置の重量は、10キログラムよりも少ない。
【0007】
本発明のさらなる他の態様は、ターゲットの高濃縮ウランを検出する方法であって、高電圧電界により重水素の電界イオン化を生成し、イオン電流を供給し、イオンを加速してターゲットに衝突させて、重水素−トリチウム反応を生成し、データの収集及び分析を行なうものである。
【0008】
本発明のさらなる他の態様は、ターゲットの高濃縮ウランを検出する方法であって、カーボンナノチューブ、カーボンナノロッド又はマルチピンタングステンアノードのうちの少なくとも1種を用いて高電圧電界を発生させ、電界イオン化源を用いてイオン電流を供給し、イオン電流を125〜150kVまで加速し、イオン電流をターゲットに衝突させて重水素−トリチウム中性子を発生させ、データの収集及び分析を行なうものである。
【0009】
本発明において、小型中性子発生装置は、109n/秒の中性子を生成できるように作られている。中性子発生装置のイオン源は、電界イオン化イオン源である。カーボンナノチューブ(CNT)又はナノロッド(NR)又は金属マルチチップからなるアノードは、重水素ガスが充填されたチャンバーの中で1ミリアンペア以上までのイオンビーム生成に用いられる。トリチウム担持チタン(T−Ti)の厚いターゲット(thick target)は、チャンバーの他端に、カソードとして配置される。高電圧(HV)電力源は、アノードとカソードの間に印加される。この明細書で用いられる“高電圧”という語は、120〜150kVを意味する。この発明では、12V又は24VのDC電源を必要とするだけである。1つの高電圧電力源は、中性子発生装置の唯一の電源である。重水素(D)イオンは、120〜150kVに加速され、トリチウムターゲット(T-target)に照射される。核反応により、高速中性子(約14MeV)が生成される。ミリアンペアレベルの重水素イオンビームは、109n/秒までの中性子を生成することができる。
【0010】
本発明の中性子発生装置は、高温カソード又は低温カソードのイオン源での電子イオン化の代わりに電界イオン化(field ionization)を用いるものであり、無線周波数RF(Radio-Frequency)源でのRFイオン化を用いるものである。一実施例において、重水素の電界イオン化に必要な高電界を生成するのに、CNT又は他のナノロッドが用いられる。他の実施例において、重水素の気相電界イオン化に必要な高電界を生成するのに、タングステンマルチチップが用いられる。本発明にあっては、CNT、NR又はマルチピンタングステンのうちの少なくとも1つのアノードが用いられる。タングステンチップは、シャンク径が約80マイクロメータであり、チップ半径は約100ナノメータ(nm)である。タングステンチップを用いたこの種の電界イオン化が、質量分析及びデスクトップ型フュージョン装置用のnAレベルのイオン源として用いられる。本発明のイオン源構造において、CNT、NR又はマルチチップ電界イオン化が、ミリアンペアレベルのイオン電流に用いられ、125〜150kVに加速され、トリチウムターゲットで重水素−トリチウム(D−T)フュージョン反応が行われる。109n/sの中性子を生成することは、商業的に入手できるこれまでの中性子管のレベルである。
【0011】
1つの高電圧電源が、イオンの生成及び加速の両方に用いられる。加速プロセスでは、いかなる集束及びビーム輸送システムをも使用しない。開放型ジオメトリ(open geometry)では、イオンビームを、トリチウムターゲットに照射することができる。このシンプルな加速器は、2つの利点をもたらす。1つは、ビーム光学に追加の電源が不要となることであり、もう1つはトリチウムターゲットのビーム電力密度を低減できることである。その結果、ビーム加熱が緩和され、中性子発生装置の寿命が増加する。このように、トリチウムターゲットの電力密度が低下するので、商業的に入手可能な中性子管よりもはるかに寿命が長くなる。
【0012】
本発明の幾つかの実施例において、発生装置は、遠隔制御部を具えている。具体的実施例において、遠隔制御部は、データの収集及び分析を行なう検出システムと一体に設けられている。
【0013】
小型中性子発生装置は、サイズは小さいが、商業的に入手可能な中性子管と同等の109n/秒の中性子を生成することができる。発生装置は、サイズが小さく、軽量で、電力消費量が少なく、操作及びメンテナンスが簡単で、低コストである。一実施例において、小型中性子発生装置は、書類かばんの大きさであり、重さは10kgよりも少なく、バッテリー電源は12又は24ボルトである。このため、装置の持ち運びは容易である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の小型中性子発生装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重水素ガスが充填されたチャンバーと、
高電圧電力源と、
電界イオン化イオン源と、
カーボンナノチューブ、ナノロッド又はマルチピンタングステンのうちの少なくとも1種のアノードと、
カソードと、を具えている中性子発生装置。
【請求項2】
高電圧電力源は、アノードとカソードの間に電力を供給する請求項1の発生装置。
【請求項3】
カソードは、トリチウム担持チタンの厚いターゲットである請求項1の発生装置。
【請求項4】
電界イオン化源は、カーボンナノチューブ、ナノロッド又はタングステンマルチチップのうちの少なくとも1種を具えており、これらは高電界を発生できるように構成されている請求項1の発生装置。
【請求項5】
タングステンチップは、シャンク径が約80マイクロメータ、チップ半径が約100ナノメータである請求項4の発生装置。
【請求項6】
イオン化源は、RFイオン化源である請求項1の発生装置。
【請求項7】
遠隔制御部をさらに具えている請求項1の発生装置。
【請求項8】
遠隔制御部は、データの収集及び分析を行なう検出システムと一体に設けられている請求項7の発生装置。
【請求項9】
発生装置の重量は、10kg未満である請求項1の発生装置。
【請求項10】
重水素ガスが充填されたチャンバーと、
125〜150kVの高電圧電力源と、
タングステンチップを有するイオン化源と、
アノードと、
トリチウム担持チタンの厚いターゲットと、を具えており、
発生装置の重量は10kg未満である中性子発生装置。
【請求項11】
ターゲットの高濃縮ウランを検出する方法であって、
高電圧電界により、重水素の電界イオン化を生成し、
イオン電流を供給し、
イオンを加速してターゲットに衝突させ、重水素−トリチウム反応を生成し、
データを収集し、
データを分析する、ステップを有している方法。
【請求項12】
イオンビームは、125〜150kVまで加速される請求項11の方法。
【請求項13】
イオンビームは、125〜150kVまで加速される請求項11の方法。
【請求項14】
高電圧電界は、高電圧電力源を用いて生成される請求項11の方法。
【請求項15】
高電界は、カーボンナノチューブ、ナノロッド又はタングステンチップのうちの少なくとも1種を用いて生成される請求項11の方法。
【請求項16】
イオン電流は、電界イオン化を用いて供給される請求項11の方法。
【請求項17】
中性子の発生は、109n/秒以下である請求項11の方法。
【請求項18】
ターゲットの高濃縮ウランを検出する方法であって、
カーボンナノチューブ、カーボンナノロッド又はマルチピンタングステンアノードのうちの少なくとも1種を用いて高電圧電界を発生させ、
電界イオン化源を用いてイオン電流を供給し、
イオン電流を125〜150kVまで加速し、イオン電流をターゲットに衝突させて重水素−トリチウム中性子を生成し、
データを収集し、
データを分析する、ことを含んでいる方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−500644(P2009−500644A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533332(P2008−533332)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際出願番号】PCT/US2006/025607
【国際公開番号】WO2008/030212
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(508000087)ユニバーシティ オブ ヒューストン (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF HOUSTON
【Fターム(参考)】