説明

核磁気共鳴撮影装置

【課題】パラレル核磁気共鳴撮影方法を動きのある画像にも適用可能とし、画質の劣化がなく診断に有効な画像を高速で提供する。
【解決手段】空間的に一部分をオーバーラップしかつ互いに区分された検出感度領域を有する複数の受信コイルを用いたMRI装置において、計測データの収集とそれに続く画像再構成とを連続して行い、時間的に連続する複数の画像を得る。その際、k空間の低周領域が密で高周領域が粗となるように、計測データの一部を間引いて撮影し、密に計測したk空間の一部分から計算した実質的な各受信RFコイルの感度分布と計測データを用いて信号を合成することにより、折り返しを排除した高分解能画像を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を測定し、核の密度分布や緩和時間分布等を映像化する核磁気共鳴撮影(MRI)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置において被検体から発生するNMR信号を検出する受信コイルとして、「マルチプルRFコイル」もしくは「フェイズドアレイコイル」と呼ばれる高感度コイルが近年多用され始めている(特許文献1など)。マルチプルRFコイルは、相対的に高感度な小型RFコイルを複数個並べて、各RFコイルで受信した信号を合成することにより、小型RFコイルの高い感度を保ったまま視野を拡大し高感度化を図る受信専用RFコイルであり、静磁場方式や検出部位に応じて種々のものが提案されている。
【0003】
一方、近年、マルチプルコイルを用いて、位相エンコード方向のデータを間引くことにより撮影時間を短縮する手法が提案されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2など)。このような技術は、空間エンコード法、もしくはパラレルMRIと呼ばれ、マルチプルRFコイルの感度分布が互いに空間的に異なることを用いて位相エンコードデータを間引いた際の折り返しを除去する。この除去には、高精度なRFコイルの感度分布を使った高精度な演算が必要である。上掲の非特許文献1に記載された方法では、この演算を計測空間(k空間)で行い、非特許文献2に記載された方法では、演算をフーリエ変換後の実空間で行う。
【0004】
一般にRFコイルの感度分布は、各RF受信信号から求めることができ、具体的には、事前に均一濃度のファントムを投影し画像の空間的シェーディングがRFコイルの感度分布であるとする方法、被検体を別途撮影した画像に低周波フィルタを作用させ計算する方法などが知られている。
【特許文献1】特表平2−500175号公報
【非特許文献1】Daniel K Sodickson, Warren JManning "Simultaneous acquisition of spatial harmonics(SMASH):fast imagingwith radiofrequency coil arrays" Magnetic Resonance in Medicine38,591-603,(1997)
【非特許文献2】J.Wang,A.Reykowski"A SMASH/SENSE related method using ratios of array coil profiles"ISMRM 99
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記RFコイルの感度分布を求める処理は、通常、撮影に先立ち行われる。従って、例えば腹部では呼吸により被検体の形状が時間的に変動する場合、感度分布を計算した時刻と本撮影を行うときで被検体形状が異なることがある。また、これに伴い被検体に密着したRFコイルの空間的配置が変化することも有りうる。また、手術中に撮影を行うときは、時々刻々とRFコイルの位置が変わることもある。
【0006】
このように撮影した画像をリアルタイムで表示することが要求されるような撮影では、事前に取得された感度データを用いる従来方法は、誤差を招き画質が劣化する。また、撮影に先立ち事前にRFコイルの感度分布を計測することは、トータルの撮影時間を延長することになり、本技術の特徴である短時間撮影の効果を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のMRI装置は、検知する磁化を含む被検体に高周波パルスを照射し横磁化を発生する手段と、横磁化が付与された被検体に位相エンコード傾斜磁場パルスを印加する手段と、読み出し傾斜磁場パルスを印加する手段と、前記読み出し傾斜磁場の印加中に発生するエコー信号を検出する手段と、前記各手段を制御する制御手段と、エコー信号から画像を再構成する画像再構成手段を含み、
前記エコー信号を検出する手段は、互いに空間的に異なる検出感度領域を有する複数の受信コイルを備え、
前記制御手段は、計測データの収集とそれに続く画像再構成とを連続して行い、時間的に連続する複数の画像を順次表示する制御を行い、少なくとも一つの計測データの収集において、前記位相エンコード傾斜磁場及び読み出し傾斜磁場によって規定される計測空間(k空間)が領域によって異なる密度となるように計測データを収集する制御を行い、
前記画像再構成手段は、前記少なくとも一つの計測データの一部分から各受信コイルの感度分布を計算し、連続して行なわれる複数の画像再構成に、前記少なくとも一つの計測データの一部から計算した感度分布と各計測データを用いて、時系列に連続する画像を取得することを特徴とする。
【0008】
本発明のMRI装置では、計算に必要なRFコイルの感度分布を本計測中の取得したデータから計算するため、感度分布のデータと計測データに時刻の差が無い。したがって、時々刻々と状況が変化するMRI撮影でも安定して、折り返し除去が可能になる。すなわちリアルタイム性が要求される撮影でも、誤差を招かず画質が劣化しない。
【0009】
また、投影に先立ち事前にRFコイルの感度分布を計測しないので、トータルの撮影時間を延長することにならず、短時間撮影の効果を損ねない。
【0010】
また本発明のMRI装置は、制御手段が、計測データの収集とそれに続く画像再構成とを連続して行い、時間的に連続する複数の画像を順次表示する制御を行い、画像再構成手段は、複数の画像再構成に、一つの計測データから計算した感度分布を用いるので、パラレルMRIを採用したダイナミック撮影において画像再構成にかかる時間を短縮し、リアルタイム性を向上することができる。
【0011】
ダイナミック撮影において、制御手段が行う撮影方法としては、グラディエントエコー系、エコープレナーイメージング(EPI)等の公知のパルスシーケンスを採用することができる。エコープレナーイメージング(EPI)の場合、EPIにおいて連続して印加する位相エンコードの値を時間領域によって値を変えることにより、k空間における計測データの配列を一部の領域について粗にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。図1は、本発明が適用される典型的なMRI装置の構成を示す図で、このMRI装置は、被検体101の周囲に静磁場を発生する磁石102と、該空間に傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル103と、この領域に高周波磁場を発生するRFコイル104と、被検体101が発生するMR信号を検出するRFコイル105と、被検体101が横たわるベッド112とを備えている。
【0013】
傾斜磁場コイル103は、X、Y、Zの3方向の傾斜磁場コイルで構成され、傾斜磁場電源109からの信号に応じてそれぞれ傾斜磁場を発生する。傾斜磁場の印加の仕方により被検体101の任意の断面を選択することができ、またMR信号に位置情報を与えることができる。MR信号に位置情報を与える傾斜磁場は、位相エンコード傾斜磁場、読み出し傾斜磁場と呼ばれ、これによって計測データが配置される計測空間(k空間)が規定される。
【0014】
RFコイル104はRF送信部110の信号に応じて高周波磁場を発生する。この高周波磁場の周波数は撮影対象である核スピンの共鳴周波数に同調されている。通常MRIの撮影対象は、被検体の主たる構成物質、プロトンである。RFコイル105の信号は、信号検出部106で検出され、信号処理部107で信号処理され、また計算により画像信号に変換される。
【0015】
RFコイル104は図2に示すように小型RFコイル202を複数個(図示する例では、4個)並べたマルチプルコイル201である。各小型RFコイル202は、例えば隣接して配置された一辺15cmの矩形サーフェスコイルとすることができ、矩形コイルは撮影の位相エンコード方向に一部がオーバーラップするように配置され、互に区分された検出感度領域を有する。
【0016】
各小型RFコイル202は、それぞれプリアンプ203に接続されており、各コイルからの出力はプリアンプ203でそれぞれ増幅される。各プリアンプ203はそれぞれAD変換・直交検波回路204に並列に接続され、信号検出部106を構成する。AD変換直交検波器204で検波された信号は、各コイル毎のフーリエ変換、フィルタリング、合成演算などを行うために信号処理部107に送られる。信号処理部107で行う処理は、予めプログラムとして組込まれている。
【0017】
図1において、傾斜磁場電源109、RF送信部110、信号検出部106は、一般にパルスシーケンスと呼ばれるタイムチャートに従い、制御部111で制御される。本発明のMRI装置では、制御部111が、k空間の一部の領域の位相エンコードが粗であるように制御する。
【0018】
次に上記構成のMRI装置を用いた連続撮影(ダイナミック撮影)について説明する。ダイナミック撮影では、マルチプルコイルの各小型RFコイルでそれぞれ取得した信号を合成し、画像表示/転送を連続して繰り返し、時系列に連続する画像(画像番号1,2,3・・・1000)を取得する。各画像は、各小型RFコイルでそれぞれ取得した信号を、各小型RFコイルの感度分布を用いた演算により合成することにより得られる。
以下、撮影方法および画像再構成(合成)について図3〜図9を参照して説明する。図3は連続撮影において採用されるパルスシーケンスの一例を示す図である。このパルスシーケンスは、グラディエントエコー(GrE)法のシーケンスであり、スライスエンコード傾斜磁場パルス302とともにRFパルス301を印加し、被検体の特定の領域の核スピンを励起して横磁化を発生させた後、位相エンコード傾斜磁場パルス303を印加し、ついで読み出し傾斜磁場パルス304を印加し、エコー信号305を計測する。RFパルス301印加からエコー信号305計測までの時間(エコー時間)TEは、画像コントラストを決めるパラメータであり、対象とする組織等を考慮し予め設定される。
【0019】
このようなシーケンスを位相エンコード傾斜磁場の面積(印加時間について磁場強度を積分した値)を変えながら、例えば複数回繰り返し、k空間上のデータを取得する。
【0020】
図4は、上記シーケンスの繰り返しによって測定された測定データのk空間データ配列(kトラジェクトリ)を示す図であり、1回の信号取得で、k空間横方向(kx方向)の1列のデータが取得される。また、kyの値は位相エンコード傾斜磁場の面積で決まる。通常のGrEシーケンスでは位相エンコードのステップが等間隔であるのに対し、本実施例のシーケンスでは位相エンコードステップがk空間401の領域1(402)と領域2(403)とで異なる。例えば、位相エンコードの低域部分を占める領域1(402)は、位相エンコード(ky)方向に密に信号が取得され、高域部分を占める領域2(403)は、位相エンコード方向に疎に信号が取得される。一例として、k空間の中心から上下各10%のデータまでは、1ステップずつ位相エンコードは増えていくが、10%を超えると2ステップずつもしくは4ステップずつ位相エンコードが増えていく。この結果、全体の撮影時間は間引かれた分だけ短縮する。
【0021】
領域1(402)がk空間全体に対し占める割合(ここでは約20%)は、コイル感度および撮影時間の短縮の両者を考慮して適当に設定する。コイル感度が急峻の場合には割合を増やしたほうが望ましく、一方、撮影時間の短縮という観点からは少ないほうが良い。kトラジェクトリは、典型的には256×256マトリクスであり、領域1(402)では、この密度でデータが収集される。領域2(403)では、位相エンコード方向に2倍から4倍粗くサンプリングされることになる。
【0022】
このように計測されたデータは、各受信コイル202毎に信号処理部107に送られ、ここで図5に示すように受信コイル毎の感度分布の計算503と、各受信コイルからの信号の合成処理504が行なわれる。即ち、各コイルからの信号en(kx,ky)501を用いて各コイルの感度分布画像Wn(x,y)を求める。nはコイル番号でこの実施例ではn=1,2,3又は4である。また(kx,ky)はk空間の座標を、(x,y)は、実空間上の位置を表わす。感度分布画像と信号を使って、全体画像S(x,y)505を合成する。これら感度分布計算503と合成処理504についてさらに詳述する。
【0023】
図6及び図7は、各受信コイル毎に信号en(kx,ky)501からRFコイルの感度分布を計算する手順を示す図である。まず領域1のデータのみが残るように位相エンコード方向に低周波通過フィルタ(LPF)601を作用させる。フィルタは、位相エンコード方向の折返しエリアシングを除去する目的では1次元フィルタでもよいが、生体の微細構造を排除するためには1次元よりも2次元フィルタが好ましい。この場合、例えば、ガウス型、ハミング型、ハニング型などが適している。さらに高精度なフィルタリング法として、画像空間でフライングウィンドウを用いた手法も可能である。
【0024】
このようなフィルタリングの結果、図7に示すように領域2(403)のデータはすべてゼロになる。また、領域1(402)と領域2(403)の境界部分は滑らかにゼロにつながる。尚、図7中、右側の曲線はフィルタプロファイルである。
【0025】
次に、k空間の全体を2次元フーリエ変換(FT)602する。この結果、画像の低周波成分のみを取り出すことができる。また、エリアシングアーチファクトが無い画像が得られる。これらの画像は、RFコイルの感度分布とみなせることが知られており、本実施例でもこれを感度分布Wn(x,y)とする。尚、マルチスライス撮影の場合には、コイルの感度分布は各コイルの各スライス毎に求めておく必要がある。また3次元撮影の場合には、各コイル毎に得られる信号は3次元計測空間(kx,ky,kz)の関数となるので、低周波通過フィルタに3次元フィルタを用い、フーリエ変換を3次元に拡張することによりコイルの3次元感度分布Wn(x,y,z)を求めることができる。
【0026】
次にこの感度分布Wn(x,y)を用いた合成演算504について説明する。合成演算は、画像空間(実空間)で行なう方法と、計測空間で行なう方法とがあるが、いずれも採用できる。
【0027】
図8に画像空間で行なう方法を概念的に説明する図を示す。ここでは説明を簡単にするために2つの小型コイル801、802からなるマルチプルコイルの場合を説明する。図4に示すk空間の領域2のように位相エンコード方向に粗に(間引いて)データを収集した場合、2つのコイルからの信号は、図8(b)、(c)に示すように位相エンコード方向に折返しアーチファクト804が生じた画像803になる。このような画像に対し、各小型コイルの感度分布を掛合わせることにより折返しアーチファクト804を除去することができ、同図(a)に示すように折返しによる画像の重なりがない画像が得られる。
【0028】
計測空間で信号を合成する方法では、小型RFコイルの感度分布を適当な重みで合成して得られる合成感度分布が所望の周波数となるように重みを決めることにより、計測空間上の不足しているデータを作成する。
【0029】
例えば、小型RFコイルの感度分布Wn(x,y)を適当な重みCnで合成して、exp(i・mΔky・y)[mは整数]の形の合成感度分布Wcomp(x,y)が得られるとする。
【数1】

このとき合成される信号S(kx,ky)は、次式で示される。
【数2】

式(2)中、ρは磁化密度、^は2次元フーリエ変換を表す。この式(2)からわかるように合成感度分布Wcomp(x,y)を用いることにより、ρ^(kx,ky)からρ^(kx,ky-mΔky)を求めることができる。これはk空間の位相エンコード方向で粗であるデータ間のデータを埋め合せることを意味する。
【0030】
図9は、この方法を概念的に示す図である。図示するように、まず領域1(402)の計測データからLPF、ゼロフィルング、FT処理によって感度分布を求める。次に、間引きによって計測データが粗に配列している領域2(403)について、上記計算により既に求められたデータ(拡大図の実線に対応)から不足しているデータ(拡大図の点線に対応)を作成する。このように作成することができる新たなデータの数(点線の本数)は、小型RFコイルの数に依存し、小型RFコイルが4個の場合には新たなデータを4本まで作成できる。図示する例では、間引き率が4で、3本のデータを作成する場合を示している。
【0031】
こうして新たなデータを補充した後のデータは、k空間の全領域を間引かずに測定したデータと同じであり、これを2次元フーリエ変換することにより折返しアーチファクトのない画像を得ることができる。
【0032】
このように本実施例では、位相エンコードの一部を間引いて時間を短縮した撮影を行なうとともにその撮影で得られた計測データのうち密である部分のデータを用いて折り返しのないRFコイル感度分布を得るようにしたので、感度分布を求めるための計測と本計測との間の時間差をなくすことができ、それに伴う演算誤差を無くすことができる。
【0033】
特に計測データのうち、主な画像情報が含まれている低位相エンコード成分のデータを密に取得していることにより、S/Nが劣化しにくい画像を得ることができ、臨床応用において診断に極めて有効な画像を提供することができる。また予めコイルの感度分布を求めるための計測を行なう必要がないので、本計測における時間短縮効果に加え、全体としての計測時間の短縮を図ることができる。したがって、特に連続撮影の場合に好適である。
【0034】
図10に、撮影を時系列に繰り返しリアルタイムの連続画像を得るダイナミック撮影に、本発明を適用した実施例を示す。ダイナミック撮影では、マルチプルコイルの各小型RFコイルでそれぞれ取得した信号を合成し、画像表示/転送を連続して繰り返し、時系列に連続する画像(画像番号1,2,3・・・1000)を取得する。ここで1枚目の画像取得では、図5に示すステップ502、503、504と同様に、信号取得1001、感度分布計算1002、信号合成1003の各ステップを行ない、感度分布計算1002で求めた感度分布を用いて折返しアーチファクトを除去した画像を再構成する。この画像はMRI装置のディスプレイに表示され、或いは外部の表示装置や記憶装置等に転送される(1004)。1枚目で求めた感度分布計算結果は信号処理部のメモリの特定アドレスに格納される。
【0035】
次いで2枚目の画像では、信号取得後、このメモリ内に格納された感度分布データを用いて折返しアーチファクトを除去する合成処理1003を行なう。以後、受信コイルの配置が変らない限り、感度分布計算は行なわず、メモリ内の感度分布データを用いて合成処理する。受信コイルの配置が変らなければ感度分布も変らないので、上述のように最初に求めた計算結果を用いることができる。これによりダイナミック撮影の撮影間隔(画像取得と次の画像取得との間隔)が短くなっても画像化のための演算を短くでき、表示のリアルタイム性(時間分解能)を向上することができる。例えば撮影シーケンスとしてEPIのような高速シーケンスを採用した場合、連続高速撮影を実効あるものにするためには演算の高速化が重要であるが、図10に示す実施例を採用することにより、リアルタイムで被検体の状況をモニタすることができる。
【0036】
次に、以上説明したMRI装置に好適なEPIシーケンスを組込んだMRI装置について説明する。この態様においても装置の構成は図1に示すものと同様であるが、この態様によるMRI装置は制御部111の制御のシーケンスとして、計測空間(k空間)が領域によって異なる密度となるように計測データを収集する制御を行なうEPIシーケンスが組込まれている。
【0037】
図11はそのようなEPIシーケンスの一実施例を示す図で、スピンエコー型のEPIシーケンスを示している。即ち、スライス選択傾斜磁場パルスGs1103と同時に被検体組織の核スピンを励起するRFパルス1101を印加し、TE/2時間後に最初のRFパルス1101によって発生した横磁化を反転するRFパルス1102をスライス選択傾斜磁場パルスGs1104と共に印加し、その後極性が反転する読み出し傾斜磁場パルスGr1105を連続して印加しながらエコー信号1106を計測する。この際、読み出し傾斜磁場パルスGr毎にエコー信号を位相エンコードする位相エンコード傾斜磁場Ge1107、1108を印加する。
【0038】
通常のEPIシーケンスでは、例えばk空間のマトリクスサイズが128×128であるとすると、読み出し傾斜磁場パルスを128回反転し、128個のエコー信号を計測する。位相エンコード傾斜磁場パルスも最初のオフセットパルスの他、同じ大きさのパルスを128個印加する。これに対し本実施例のEPIシーケンスでは、例えば位相エンコード0のエコー信号から所定の位相エンコードまでのエコー信号は位相エンコード数が1ずつインクリメントするような大きさの位相エンコード傾斜磁場パルス1107を印加する。それ以降に計測するエコー信号については位相エンコード数が複数、例えば4ずつインクリメントするような大きさの位相エンコード傾斜磁場パルス1108を印加する。
【0039】
図示する例では簡単にするために8個のエコー信号を計測する場合を示しており、5番目の信号計測まで通常の大きさの位相エンコード傾斜磁場パルス1107を印加し、6番目から8番目の信号計測まで通常の大きさの4倍の位相エンコード傾斜磁場パルス1108を印加している。1〜5番目までの信号が図4に示すk空間の領域1(402)に対応し、6〜8番目までの信号が領域2(403)に対応する。従って6〜8番目について、従来は12(3×4)個の信号を計測する時間が必要であったのに対し、このシーケンスでは9(12−3)個の信号計測時間分短縮を図ることができる。kトラジェクトリで言えば、上記シーケンスの実行により領域1について密に計測をし、領域2については粗に計測することができる。
【0040】
本発明は、上述したスピンエコー型のEPIのみならずグラディエントエコー型のEPIにも、また1回の励起で必要な計測データを収集するワンショットのEPIにもマルチショット(分割型)のEPIにも適用することができる。このような本発明の第2の態様によるMRI装置は、前述したマルチプルコイルを用いたパラレルMRIのシーケンスとして好適である。上述したEPIシーケンスをパラレルMRIに適用する場合にも信号処理部で行う処理はGrEシーケンスの場合と同じである。即ち、図5に示したように上述のEPIシーケンスによって計測したデータを用いて、マルチプルコイルを構成する各小型RFコイル毎に感度分布計算503を行なうとともに求めた感度分布を用いて合成処理504を行ない、折返しアーチファクトを排除した画像を得る。
【0041】
またダイナミック撮影の場合には、図10に示したように、感度分布計算は第1枚目の画像の再構成時にのみ行ない、それ以降の画像についてはその感度分布を用いて信号取得から画像表示/転送までの処理を連続して行なう。この場合、既に述べたように本発明のEPIシーケンスは通常のEPIシーケンスに比べ信号取得時間が短縮されており、しかも感度分布計算を本計測とは別に或いは信号取得毎に行なう必要がないので極めて高速の連続撮影が可能となる。
【0042】
以上、本発明のMRI装置の各実施の形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、以上の説明ではパラレルMRIに用いるパルスシーケンスとしてGrEシーケンス及びEPIシーケンスを例示したが、FSE(ファーストスピンエコーシーケンス)、SE(スピンエコーシーケンス)、Burstシーケンス、スパイラルシーケンスなどの公知のシーケンスにも適用できる。また、3次元撮影にも拡張できる。
【0043】
図12はスパイラルシーケンスの場合のkトラジェクトリ1200を示す図である。この場合、k空間中央の円形の領域1(1202)は信号が密に配列する領域であり、その周囲の領域2(1203)は信号が粗になっている。このようなスパイラルシーケンスの計測データから感度分布を求めるためには、図13に示すようなフィルタプロファイル1301、1302の2次元フィルタを用いる。このような2次元フィルタとしては、2次元ガウスフィルタ、2次元ハニングフィルタ、2次元ハミングフィルタ等がある。領域1(1202)の計測データから求めた各小型コイル毎の感度分布を用いて、折返しアーチファクトを排除した画像を合成する点は他のシーケンスの場合と同様である。
【0044】
本発明のMRI装置によれば、マルチプルコイルを用いたパラレルMRIの実施にあたり、k空間の一部の領域を間引きして計測時間を短縮した撮影を行なうとともに計測データが密である領域のデータを用いて感度分布を求め、信号を合成するので、リアルタイム性が要求される撮影で画質が劣化しない。特にk空間の低周波成分を密にデータ取得することにより、S/Nが高く診断価値の高い画像を得ることができる。
【0045】
また、撮影に先立ってRFコイルの感度分布を計測する必要がないので、トータルの撮影時間を延長しない。したがって、パラレルMRI技術の特徴である短時間撮影の効果が発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明が適用されるMRI装置のブロック図。
【図2】図1のMRI装置の要部を示すブロック図。
【図3】本発明のMRI装置が採用するパルスシーケンスの一実施例を示す図。
【図4】図3のシーケンスによる計測データのk空間データの配列の一例を示す図。
【図5】本発明のMRI装置の信号処理部の処理の一実施例を示す模式図。
【図6】本発明による感度分布計算を説明する図。
【図7】本発明による感度分布計算を説明する図。
【図8】本発明による信号合成の一実施例を説明する図。
【図9】本発明による信号合成の他の実施例を説明する図。
【図10】本発明のMRI装置による連続撮影の一実施例を示す図。
【図11】本発明のMRI装置が採用するパルスシーケンスの他の実施例を示す図。
【図12】本発明による計測データのk空間データ配列の他の例を示す図。
【図13】本発明による感度分布計算の他の実施例を説明する図。
【符号の説明】
【0047】
101・・・・・・被検体
103・・・・・・傾斜磁場コイル
104・・・・・・送信RFコイル
105・・・・・・受信RFコイル
107・・・・・・信号処理部
111・・・・・・制御部
202・・・・・・小型RFコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知する磁化を含む被検体に高周波パルスを照射し横磁化を発生する手段と、
横磁化が付与された被検体に位相エンコード傾斜磁場パルスを印加する手段と、読み出し傾斜磁場パルスを印加する手段と、前記読み出し傾斜磁場の印加中に発生するエコー信号を検出する手段と、前記各手段を制御する制御手段と、エコー信号から画像を再構成する画像再構成手段を含む核磁気共鳴撮影装置において、
前記エコー信号を検出する手段は、互いに空間的に異なる検出感度領域を有する複数の受信コイルを備え、
前記制御手段は、計測データの収集とそれに続く画像再構成とを連続して行い、時間的に連続する複数の画像を順次表示する制御を行い、
少なくとも一つの計測データの収集において、前記位相エンコード傾斜磁場及び読み出し傾斜磁場によって規定される計測空間(k空間)が領域によって異なる密度となるように計測データを収集する制御を行い、
前記画像再構成手段は、前記少なくとも一つの計測データの一部分から各受信コイルの感度分布を計算し、連続して行なわれる複数の画像再構成に、前記少なくとも一つの計測データの一部から計算した感度分布と各計測データを用いて、時系列に連続する画像を取得することを特徴とした核磁気共鳴撮影装置。
【請求項2】
請求項1記載の核磁気共鳴撮影装置において、
前記画像再構成手段は、前記感度分布計算を、時間的に連続する複数の画像のうち最初に取得した画像について行い、それ以降の画像については当該感度分布を用いて画像再構成を行なうことを特徴とする核磁気共鳴撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−14813(P2007−14813A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292683(P2006−292683)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【分割の表示】特願平11−349323の分割
【原出願日】平成11年12月8日(1999.12.8)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】