説明

植物栽培装置及び果実冷却用シート

【課題】植物の短縮茎部分の局所的な温度管理が可能で、熱の散逸によるエネルギーロスが小さく且つ栽培植物に与える水分ストレスも小さい植物栽培装置の提供。
【解決手段】内部空間に培土が収納される培土槽5と、培土槽5に収容される培土が通根口5dから抜け落ちるのを防止する透根性シート6と、断熱材で形成され内部空間の下部に灌漑水Wを貯水し、上部に培土槽5が嵌入される断熱灌水槽4と、断熱材で形成され、培土槽5を閉蓋し、栽培植物の株元部分の茎が通過する植孔7aが貫設された断熱蓋7と、培土槽5内を貫通して設けられた調温管8とを備えた。培土槽5からその下部の灌漑水中に植物の根の伸長させ、培土槽5を局所的に調温する構成としたことで、少量の培土でも栽培植物の水分ストレスは小さくでき、少量培土のため熱の散逸によるエネルギーロスが小さく、少エネルギーコストでの温度管理が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴ、アスパラガス、トルコギキョウ等の植物(以下「園芸植物」という。)を栽培する植物栽培装置に関し、特に、株元の局所的な温度管理が可能な植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イチゴ、アスパラガス、トルコギキョウ等のハウス栽培において、従来、ハウス内の温度管理は、ハウス内暖房や冷却水管による冷却などの手法が採られてきた。しかし、近年、エネルギー価格の高騰に伴い、生産農家における冷暖房費のコスト負担が問題となっている(例えば、非特許文献7等を参照)。
【0003】
そこで、本発明者らは、冷暖房費のコスト負担を低減する栽培技術として、イチゴなどの地際に短縮形を形成するような園芸植物(以下「短縮茎植物」という。)における短縮茎の局所温度管理による栽培手法を開発・提案している(特許文献1、非特許文献1−5参照)。この短縮茎の局所温度管理による栽培手法では、イチゴのクラウン部に電熱線又は水冷チューブを接触又は極接近させ、クラウン部を直接加温又は冷却する。従って、ハウス内暖房を行う場合に比べて散熱ロスが極めて小さく、冷暖房費のコスト負担を大幅に低減させることができる。
【0004】
このような短縮茎の局所温度管理による園芸植物を栽培する装置として、本発明者は特許文献1に記載の植物栽培装置を提案している。特許文献1に記載の植物栽培装置は、電熱線を植物体の短縮茎に接触乃至ほぼ接触させた状態で配置し、この電熱線により短縮茎を直接加温するようにしたものである。
【0005】
また、イチゴの株元部分を局所的に冷却する栽培装置として、特許文献2に記載のイチゴ栽培冷却装置が考案されている。特許文献2のイチゴ栽培冷却装置は、培地を充填した栽培ベッドの培地地表面上に、イチゴ株の列に沿って冷却水管を敷設し、更にその上から遮蔽シートで覆ってイチゴ株の株元に冷却空間を形成することによって、イチゴの短縮茎部分を局所的に冷却するようにしたものである。
【特許文献1】特開2005-237371号公報
【特許文献2】特開2002−272262号公報
【非特許文献1】曽根一純, 沖村誠, 北谷恵美 (農研機構 九沖農研(久留米)), 伏原肇,「クラウン部局部冷却が四季成性イチゴの夏秋季の生育・開花・果実品質に及ぼす影響」,園芸学会雑誌 別冊 Vol.74, No.1, Page306 (2005.04.03)
【非特許文献2】壇和弘, 大和陽一, 曽根一純, 沖村誠, 松尾征徳 (農研機構 九沖農研) ,「イチゴのクラウン部局部温度制御が連続出らい性に及ぼす影響」,園芸学会雑誌 別冊 Vol.74, No.2, Page170 (2005.10.01)
【非特許文献3】曽根一純, 壇和弘, 沖村誠, 北谷恵美 (農業・生物系特定産業技術研究機構 九沖農研セ) ,「四季成イチゴにおけるクラウン部の管理温度の違いが連続出蕾性に及ぼす影響」, 園芸学研究 Vol.6, 別冊1, Page423 (2007.03.24)
【非特許文献4】壇和弘, 曽根一純, 沖村誠 (農研機構 九沖農研) ,「クラウン部の局部温度制御が促成イチゴの連続出蕾性に及ぼす影響」,園芸学研究,Vol.6, 別冊1, Page428 (2007.03.24)
【非特許文献5】曽根一純, 沖村誠, 壇和弘, 北谷恵美 (農業技術研究機構 九州沖縄農研セ) ,「クラウン部冷却による四季成り性イチゴの連続出蕾性と果実肥大の向上効果」,九州沖縄農業研究成果情報,No.22, Page275-276 (2007.08.24)
【非特許文献6】H. de Kroon, E.J.W.Visser編、森田茂紀,田島亮介監訳、「根の生態学」,シュプリンガー・ジャパン株式会社,2008年2月発行,pp.39-42.
【非特許文献7】佃公仁子,大隈満,胡柏,「損益分岐点分析等を使ったイチゴ高設栽培方式の比較に関する研究」,愛媛大学農学部紀要, 51, pp.1-8, 2006年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2の技術を組み合わせれば、園芸植物の株元部分の局所的な加温・冷却管理を行うことが可能となり、冷暖房費のコスト負担を大幅に低減することが可能である。
【0007】
ところで、特許文献2記載の植物栽培装置は、栽培植物の株元近傍の空間に着目し、その空間の冷却を行うものである。この場合、冷却水管の冷気は栽培植物の株元近傍の空間を冷却すると同時に栽培ベッド内の培地も冷却する。従って、培地の熱容量が大きいとその分だけ余分な冷却が必要となり無駄に散逸消費されるエネルギーが大きくなる。
【0008】
そこで、栽培ベッドの体積をなるべく小さくして培地の熱容量をできるだけ小さくすることが考えられる。しかしながら、培地の体積が小さくなると、培地は乾燥しやすくなり、非灌水時の培地の保水量の変動が大きくなる。これにより、栽培植物株の受ける水分ストレスが増加し、栽培植物の草勢が低下するという悪影響が顕著になる。すなわち、栽培植物の草勢を高く維持して収量を増加させるためには、栽培ベッドはある程度の大きさが必要であり、散逸消費されるエネルギーのロスをある程度以上低減することが難しいという課題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、園芸植物の株元部分の局所的な温度管理が可能であり、温度管理における熱の散逸消費によるエネルギーロスが小さく、且つ栽培植物に与える水分ストレスも小さくすることが可能な植物栽培装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る植物栽培装置の第1の構成は、栽培植物の根が通根可能な複数の通根口が形成された底壁、該底壁の縁部から上方に向かって立設する側壁を備え、上方が開口しており、該側壁及び底壁で囲まれる内部空間に培土が収納される培土槽と、前記培土槽の内部空間の底面に敷設され、前記培土槽内に収容される培土が前記通根口から抜け落ちるのを防止するとともに、該培土に植栽される栽培植物の根が通過可能な透根性シートと、断熱材で形成された底壁及び側壁を備え、該側壁及び底壁で囲まれる内部空間の下部に灌漑水を貯水するとともに、該内部空間の上部に前記培土槽が嵌入される断熱灌水槽と、断熱材で形成され、前記培土槽の上方開口部を閉蓋するとともに、前記培土槽に植栽される栽培植物の株元部分の茎が通過可能な径の植孔が貫設された閉蓋部材と、前記培土槽内を貫通して設けられた、調温流体が流通可能な調温管と、を備えてなることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、培土槽内の培土に栽植された栽培植物は、生長するに従って培土内に根を張り巡らせるとともに、透根性シートと通って通根口から培土槽の下部に伸長し、途中の空気層を経て断熱灌水槽の下部に貯留された灌漑水に達して灌漑水中にも根を張り巡らす。ここで、栽培植物の根のうち、培土中に張り巡らされた根は主として養分吸収を担い、空気層中の根は酸素を吸収し、そして灌漑水中に張った根は主に水分吸収を担うというように機能分化すると考えられる。実際に栽培実験を行ったところ、培土内の根は養分吸収のための細かい支根が緻密に発達するのに対して、灌漑水中の根は支根が比較的疎らとなるのが観察される。このように根が機能分化して発達すると、栽培植物は、常に断熱灌水槽の下部の灌漑水により灌水された状態となるため、栽培植物に加わる水分ストレスは低減される。従って、培地体積を小さくして保水容量を減少させても栽培植物に及ぼされる水分ストレスはあまり大きくはならないため、培地の保水容量と切り離して培地量を調整することができ、培地の量を減少させることができる。このことは、栽培植物の草勢を低下させることなく培地の加温・冷却の際に散逸消費されるエネルギーロスを低減することが可能であることを意味する。そして、本発明では、さらに培土槽内の少量の培地とその上の株元空間のみを調温管により局所的に調温するため、加温や冷却に必要なエネルギーが少なくなり、温度管理における熱の散逸によるエネルギーロスを極力低く抑えることが可能となる。
【0012】
また、培土槽は断熱灌水槽の上部に嵌入されるため、培土槽のみを断熱灌水槽から切り離して運搬・移動することが可能である。故に、幼育時に培土槽を用いて他の場所で育苗を行った後に、成長した栽培植物の苗を培土槽ごと断熱灌水槽に設置して植物栽培を行うことも可能であり、植物栽培における作業者の労力の低減が図られる。
【0013】
ここで、「培土槽」としては、底部に多数の通根口が貫設されたプラスチックトレイなどを使用することができる。具体的には、底面に多数の穴が形成された育苗箱のようなものが使用可能である。「透根性シート」とは、栽培植物の根が透過可能なシートをいい、例えば、ワリフなどが使用可能である。「調温流体」としては、通常は水(水道水や井水など)を使用するが、水以外の流体を使用してもよい。「調温管」としては、通常の樹脂製のホースや金属製の管の他、2本のホースを平行に連結した2連チューブなどを使用することが可能である。
【0014】
本発明に係る植物栽培装置の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記断熱灌水槽は、その内部空間の下部に貯水される灌漑水の水面が、その内部空間の上部に嵌入される培土槽の裏面と接触しない高さとなるように水位調節する排水口が設けられていることを特徴とする。
【0015】
この構成により、断熱灌水槽の下部に貯水される灌漑水が培土槽を直接浸水することがなくなるため、培土性の保水量が過度に大きくなることが防止され、根腐れによる栽培植物の生育障害が生じることを防止できる。この場合、培土槽の水分については、散水や点滴灌水チューブなどによって適度に調整することができる。
【0016】
本発明に係る植物栽培装置の第3の構成は、前記第1又は2の構成に於いて、前記培土槽内を貫通して設けられ、該培土槽に収容される培土に灌水を供給する灌水チューブを備えたことを特徴とする。
【0017】
この構成により、灌水チューブによって培土槽内の培土の水分を調整することができるので、散水などの水分供給に比べて省力化でき、且つ各栽培植物に適量だけ一様に給水することが可能となる。特に、培土が少量の場合、培土への過度の給水は、培土内の養分の流亡を生じる。従って、散水管を用いて、養分の流亡を生じない程度の適量の灌水をきめ細かく行うことで、少量培土での栽培が容易となる。
【0018】
ここで、「灌水チューブ」としては、点滴灌水チューブを使用することもできる。点滴灌水チューブを使用すれば、培土に常に一定の水分を与えると共に、養分の流亡を最小限にすることが容易である。
【0019】
本発明に係る植物栽培装置の第4の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成に於いて、前記調温管は、往路用チューブと復路用チューブを連結し一体化した2連チューブであることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、2連チューブの一端側の往路用チューブから調温流体を送液し、2連チューブの他端側において往路用チューブと復路用チューブとを接続して復路用チューブへ調温流体が送流されるようにし、前記2連チューブの一端側の復路用チューブから排液する。これにより、灌水の配管が簡略化され、植物栽培装置の組み立てや保守が容易となる。また、2連チューブの全体を通して加温又は冷却の温度を略一様にすることができ、温度管理も容易となる。
【0021】
本発明に係る植物栽培装置の第5の構成は、前記第1乃至4の何れか一の構成に於いて、前記調温管に並列して設けられた電熱線を備えたことを特徴とする。
【0022】
この構成により、調温管飲のみでは加温に要する熱量が不足する場合には、電熱線に通電して加温することが可能となる。例えば、調温液体に井水を使用する場合、冬場には井水のみでは培地加温の熱量として不足する場合があり、かかる場合には電熱線で加温することで補熱することができる。
【0023】
本発明に係る植物栽培装置の第6の構成は、前記第1乃至5の何れか一の構成に於いて、前記培土層の左右両側の全長に渡り配設され、透水性の不織布からなる透水層及び前記透水層の表面に展着され不透水性の可撓性薄板からなる遮水層を備えた果実冷却用シートを備え、前記果実冷却用シートは、その中央部が前記灌水槽の側壁内側と前記培土層の側壁外側との間に挟持され、その下端が前記灌水槽下部に貯水される灌漑水に水没し、その上端が前記培土層の側壁上縁から外側に向かって延出することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、果実冷却用シートの裏面の透水層では、毛管現象によって、灌漑水に水没された下端から水が吸い上げられて透水層全体が湿潤される。そして、湿潤された透水層から水が蒸発し、果実冷却用シートはその気化熱によって冷却される。果実冷却用シートの表面には不透水性の可撓性薄板が展着されており、表面が水で濡れることはない。従って、果実冷却用シートの表面に栽培植物の果実を載せて栽培することで果実の自然冷却を行うことができる。
【0025】
例えば、栽培植物としてイチゴを栽培する場合、イチゴの果柄を培土槽の両側に伸長させ、果実が果実冷却用シートの表面に載るようにする。一般に、イチゴは花が咲いてから収穫までの日数は温度で左右される。高温時には極めて短期間で収穫となり、果実品質(小玉化、酸味が強くなり糖度が低くなる)が低下する。また着色も進みすぎていわゆるどす黒く仕上がり、商品価値を著しく劣化させる。そこで、上記果実冷却用シートによって果実を冷却することで、果実品質の低下や商品価値の低下を防止できる。また、収穫時の果実温度が流通段階の品質低下に大きく影響するが、果実温度が低い状態で収穫できるので、収穫後の品質劣化も抑えられる。すなわち、果実冷却用シートにより、果実冷却用シートに接触している果実の温度を低く制御できるので、果実品質の向上、流通ロスの低減が実現することで、収益の向上にも繋がる。
【0026】
本発明に係る植物栽培装置の第7の構成は、前記第6の構成に於いて、前記果実冷却用シートは、前記遮水層の表面に、高密度エチレン系の不織布が、0.5〜10ミクロンの口径のポリエチレンの連続性極細繊維に高熱を加えて結合、調製された水蒸気透過性の不織布が展着されていることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、果実冷却用シート上に載せられて冷却される果実は、直接的には果実冷却用シート表面の上記高密度エチレン系の不織布に接触する。この高密度エチレン系の不織布は、水蒸気を透過するため、果実の接触面から蒸散する水蒸気を効果的に大気中に放散させ、果実の冷却効果を高める。
【0028】
ここで、「高密度エチレン系の不織布が、0.5〜10ミクロンの口径のポリエチレンの連続性極細繊維に高熱を加えて結合、調製された水蒸気透過性の不織布」としては、例えば、タイベックス(登録商標)などを使用することができる。
【0029】
本発明に係る果実冷却用シートの第1の構成は、上記第6の構成の植物栽培装置に使用される果実冷却用シートであって、透水性の不織布からなる透水層と、前記透水層の表面に展着され、不透水性の可撓性薄板からなる遮水層と、を備えたことを特徴とする。
【0030】
本発明に係る果実冷却用シートの第2の構成は、本発明に係る果実冷却用シートの第1の構成は、上記第7の構成の植物栽培装置に使用される果実冷却用シートであって、透水性の不織布からなる透水層と、前記透水層の表面に展着され、不透水性の可撓性薄板からなる遮水層と、前記遮水層の表面に展着され、高密度エチレン系の不織布が、0.5〜10ミクロンの口径のポリエチレンの連続性極細繊維に高熱を加えて結合、調製された水蒸気透過性の不織布と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明に係る植物栽培装置によれば、培土槽の下部に灌漑水を貯水し、培土槽からその下部の灌漑水中に栽培植物の根の伸長させると共に、培土槽を局所的に調温する構成としたことで、少量の培土でも栽培植物の水分ストレスは小さくできる。従って、少量の培土の温度調節によって栽培植物の短縮茎付近の温度を局所的に温度管理できるため、温度管理における熱の散逸によるエネルギーロスが小さく、少ないエネルギーコストで栽培植物の温度管理が可能となる。
【0032】
また、培土槽は断熱灌水槽の上部に嵌入されているだけなので、培土槽のみを取り外して移動させることができる。従って、培土槽の移動が容易にできる。また、栽培後の培土の回収作業が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0034】
図1は、本発明の実施例1に係る植物栽培装置1の全体斜視図である。本実施例の植物栽培装置1は、地面G上に設置された架台2の上に、栽培槽3を地面Gから離して高設している。
【0035】
図2に、栽培槽3の要部断面図を示す。栽培槽3は、断熱灌水槽4、培土槽5、透根性シート6、閉蓋部材7、調温管8、灌水チューブ9、電熱線10、果実冷却用シート11,11、排水管12を備えている。
【0036】
断熱灌水槽4は、断熱材により形成された底壁4a及び側壁4bを備えた縦長溝箱状に形成されており、その上面は開口している。底壁4a及び側壁4bで囲まれた内部空間の下部には、灌漑水Wが貯水されている。また、断熱灌水槽4の底壁4aの一カ所には、灌漑水の水位を調節するための排水管12が設けられている。排水管12は、その上部の排水口の高さを調節可能なように、上下に動かすことができる。
【0037】
断熱灌水槽4の内部空間上部には、培土槽5が嵌入されている。培土槽5は、底壁5aと、底壁5aの縁部から上方に向かって立設する側壁5bを備えた縦長平箱状に形成されており、その上方が開口している。培土槽5の内部には、栽培植物を植栽するための培土Sが充填される。培土槽5の底壁5aには、多数の通根口5dが貫設されている。これにより、また、側壁5bの上縁部には、外側に向かってフランジ5cが形成されている。このフランジ5cを断熱灌水槽4の側壁4bの上端に掛置することにより、培土槽5は断熱灌水槽4の内部空間上部に固定される。
【0038】
ここで、断熱灌水槽4としては、一般に市販されている育苗トレイを使用することができる。図3にその一例を示す。
【0039】
尚、前記排水管12の上部の排水口の高さは、断熱灌水槽4内の灌漑水Wの水面が、培土槽5の裏面と接触しない高さとなるように調節されている。
【0040】
培土槽5の底壁5aの上面には、透根性シート6が敷設されている。透根性シート6は、培土槽5内に収容される培土Sが通根口5dから抜け落ちるのを防止する。同時に、透根性シート6は、該培土Sに植栽される栽培植物の根が伸長する際に通過することができる。透根性シート6としては、例えば、ポリエチレン製のワリフを用いることができる。ワリフとは、タテウエブ(縦方向に延伸、強化された細目状スプリットウエブ)とヨコウエブ(横方向に延伸、強化された細目状スプリットウエブ)を連続的供給し、拡幅積層しながら熱融着して得られるポリオレフィン系樹脂の不織布をいう。ワリフの表面には、直径約0.3〜2.0mm程度の穴が多数形成されており、植物の根の根冠はこの穴を貫通することが可能である。ワリフは、通気性、通水性、耐候性に優れ、高い強度を有する。
【0041】
培土槽5の上方の開口は、閉蓋部材7により閉蓋されている。閉蓋部材7は、発泡スチロール等の断熱材により形成されている。尚、閉蓋部材7としては、断熱性のあるシート状の部材を使用することも可能である。閉蓋部材7には、所定の間隔で、培土槽5に植栽される栽培植物の株元部分の茎が通過可能な径の植孔7aが複数貫設されている。
【0042】
さらに、培土槽5の内部を貫通して、調温水が流通可能な調温管8と、培土Sに灌水を供給する灌水チューブ9とが敷設されている。調温管8及び灌水チューブ9は、培土Sの表面に敷設してもよいし、培土Sに埋設するように敷設してもよい。図1,2では、調温管8を培土Sに埋設して敷設した例を示している。
【0043】
本実施例では、調温管8として、往路用チューブ8aと復路用チューブ8bを連結し一体化した2連チューブを使用している。図4に、2連チューブの斜視図を示す。2連チューブは、その一端側に於いて、往路用チューブ8aに調温水を給水し、復路用チューブ8bから調温水を排水する。2連チューブの他端側は、図4(b)に示したように、ターミナル8cを接続して、往路用チューブ8aから復路用チューブ8bへ調温水が循環するように終端する。このような2連チューブを用いれば、調温管8の全長に渡って加温又は冷却温度を略一定にすることができるとともに、調温管8の敷設作業も容易となる。
【0044】
灌水チューブ9としては、本実施例に於いては、点滴灌水チューブを使用する。
【0045】
また、2連チューブの往路用チューブ8aと復路用チューブ8bとの間には、内部空間8dが形成されており、この内部空間8dに電熱線10が通されている。
培土槽5内を加温する際に、調温管8に流通する調温水からの給熱量だけでは不足の場合、電熱線10に通電して補熱することができる。
【0046】
培土槽5の上縁部の左右両側には、その全長に渡って果実冷却用シート11が配設されている。果実冷却用シート11は、図5に示すように、透水層11a、遮水層11b、及び透気層11cの3層構造とされている。透水層11aは、透水性の不織布で構成されている。透水層11aの表面に展着された遮水層11bは、プラスチック・フィルムなどの不透水性の可撓性薄板により構成されている。遮水層11bの表面に展着された透気層11cは、高密度エチレン系の不織布が、0.5〜10ミクロンの口径のポリエチレンの連続性極細繊維に高熱を加えて結合、調製された水蒸気透過性の不織布で構成されている。透気層11cの素材としては、タイベックス(登録商標)を使用することができる。
【0047】
果実冷却用シート11は、中央部を断熱灌水槽4の側壁4bの内側と培土槽5の側壁5bの外側との間に挟持した状態で固定される。果実冷却用シート11の下端は、断熱灌水槽4の下部に貯水される灌漑水Wに水没させる。また、果実冷却用シート11の上端は、培土槽5の側壁5bの上縁から外側に向かって10〜20cm程度延出させた状態とする。
【0048】
以上のように構成された本実施例に係る植物栽培装置1について、以下それによる栽培方法について説明する。以下では、栽培植物の一例として、イチゴを例に採って説明する。
【0049】
10月上旬〜11月上旬頃から果実の収穫を開始できるようにイチゴを栽培する場合、一般に、5月中旬から6月下旬にかけて採苗したイチゴの幼苗を、約2ヶ月間程度ポットで育苗した後、これらの苗を7月中旬〜8月上旬頃に低温短日条件下で花芽分化促進処理を行う。これにより、頂花房の花芽分化が生じる。その後8月上旬〜9月上旬にかけてハウス内の圃場又は高設栽培棚に定植し、ハウス栽培を行う。これにより頂花房が開花・結実して、10月上旬〜11月上旬頃から果実の収穫が可能となる。
【0050】
しかしながら、圃場又は高設栽培棚に定植する8月上旬〜9月上旬は気温が高いため、定植後気温が高い間は第2花房以降の花芽分化が生じない。そのため、10月上旬〜11月上旬に最初の果実の収穫が終わった後に、次の果実の収穫までに1ヶ月以上も収穫できない期間が生じる。また、11月下旬から2月にかけては、逆にハウス内の気温が低下し、イチゴ株の草勢が低下する。
【0051】
そこで、定植後のハウス栽培期間において、本実施例に係る植物栽培装置1によるイチゴ株の短縮茎部分(以下「クラウン」という。)の温度管理が行われる。
【0052】
図6は、植物栽培装置1によりイチゴ株P1,P2を栽培している状態を表す図である。イチゴ株P1,P2は、培土槽5内に充填された培土Sに植栽される。この際、培土槽5内には、イチゴ株P1,P2の株元の短縮茎部分(クラウンC1,C2)が、培土槽5内に収まる程度に培土を充填する。イチゴ株P1,P2のクラウンC1,C2よりも上の部分は、閉蓋部材7の植孔7aを通して外気に露出する。
【0053】
培土槽5の底壁5a及び側壁5bと閉蓋部材7とで囲繞された内部空間は、調温管8又は電熱線10によって温度調節がされる。従って、イチゴ株P1,P2は、クラウンC1,C2部分と培土S内の根の部分が局所的に温度管理される。
【0054】
培土Sには、灌水チューブ9によって、養液が点滴灌水されるため、常に適量の保水量に保水される。
【0055】
イチゴ株P1,P2の根系R1,R2は、肥料分の多い培土S内に良く発達し、多数の細かい側根が発生する。一方、根系R1,R2は、透根性シート6と通根口5dを通過して、その下部の空気層を下方に向かっても伸長して断熱灌水槽4の下部に貯水された灌漑水W内に達し、灌漑水W内にも根系R1,R2が発達する。
【0056】
このように、養分濃度の不均一な系では、根の生長は、養分が豊富な培土Sの方が、養分の少ない灌漑水W内よりも促進されるため(非特許文献6参照)、側根の量は、培土S内の方が灌漑水W内よりも圧倒的に多くなる。そのため、培土S内に発達した根系R1,R2は、主として培土S内の肥料分を吸収する役割を担う。一方、灌漑水W内に発達した根系R1,R2は、主として必要な水分を吸収する役割を担う。
【0057】
イチゴ株P1,P2が生長し多数の葉が展開してくると、葉からの蒸散量が増加するため、イチゴ株P1,P2は多量の水分が必要となる。本実施例の植物栽培装置1では、この必要な水分は、断熱灌水槽4下部の灌漑水Wにより豊富に供給される。従って、イチゴ株P1,P2に加わる水分ストレスは低減される。
【0058】
また、灌漑水Wによりイチゴ株P1,P2に水分が供給されるため、培土Sの保水量は少なくてもよい。そのため、培土Sの体積を小さくすることができる。すなわち、培土槽5の内部容積を小さくできる。培土Sの内部容積が小さいほど、熱の散逸によるエネルギーロスが小さく、調温管8又は電熱線10による加温又は冷却に必要なエネルギーを低減させることができる。従って、全体として少ないエネルギー消費量で、栽培上必要な温度管理を行うことが可能となる。
【0059】
以上のように、本実施例の植物栽培装置1により、イチゴ株の水分ストレスが低減され、且つ少ない消費エネルギーでクラウン部の温度管理が可能となる。低水分ストレス環境下で温度管理を行うことで、8月上旬〜9月上旬の高温期でも、調温管8によりクラウン部の冷却を行って花芽分化率を向上させることができ、最初の果実(頂花房由来の果実)の収穫から次の果実の収穫までの低収穫期間を無くし、果実の収量を増加させることができる。
【0060】
また、11月下旬から2月にかけての低温期には、調温管8又は電熱線10の熱によりクラウン部の加温を行ってイチゴ株の草勢を維持し、果実収量を増加させることができる。
【0061】
一方、イチゴ株P1,P2の花芽分化後、花柄(果柄)が伸長してその先端に開花・結実する。イチゴ株P1,P2の花の受粉後、果実が肥大してくると、果柄は垂れ下がり果実冷却用シート11の表面に載置した状態となる。果実冷却用シート11上に接触すた状態となった果実は、果実冷却用シート11の裏面の透水層11aから蒸発する水の気化熱によって冷却される。果実冷却用シート11の表面は、遮水層11bにより裏面の水分が透過することはないため、果実が直接水に濡れることはなく、水濡れによる腐蝕は防止される。
【0062】
ここで、一般に、イチゴの開花から果実収穫までの日数は温度で左右されることが知られている。従って、高温時には極めて短期間での収穫となり、小玉化、酸味の増加、糖度の低下等の果実品質の低下が生じる。また、高温時には果実の着色も進みすぎて暗赤色となり、果実の商品価値も著しく低下する。更に、果実収穫時に果実温度が高いと、流通段階の果実の鮮度低下も促進される。
【0063】
そこで、上述のように果実冷却用シート11によって、栽培期間中に終始果実を冷却することにより、果実の成熟期間を遅らせて良品質の果実の生産が可能となる。
【実施例2】
【0064】
図7は、本発明の実施例2に係る植物栽培装置1の要部断面図である。図7において、図2と同様の部分については、同一の符号を付して説明は省略する。本実施例においては、灌水槽4の外側にある果実冷却用シート11の曲撓部11dは、灌水槽4の側に向かって下向きに巻き込まれている。曲撓部11dは、その最下点11eが灌水槽4内の灌漑水Wの水面より下に位置し、その先端11fは灌漑水Wの水面より上に位置するように設置されている。果実冷却用シート11は、図5と同様のものが使用されており、透水層11aが下向き(内側)となるように設置されている。
また、本実施例では、閉蓋部材7として、表面にアルミ反射剤が展着された断熱性のシートを使用している。
毛管現象によって、断熱灌水槽4内の下部に貯められた灌漑水Wが、透水層11a内に吸い上げられ、曲撓部11dの透水層11aまで灌漑水で湿潤される。ここで、余分な水は、灌漑水Wの水面よりも低位に位置する曲撓部11dの透水層11aに貯留される。従って、この曲撓部11dに貯留される水も、果実を冷却するための冷却水として機能するため、効率よく果実温度を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例1に係る植物栽培装置1の全体斜視図である。
【図2】図1の栽培槽3の要部断面図である。
【図3】栽培槽3の一例を示す斜視図である。
【図4】2連チューブの斜視図である。
【図5】果実冷却用シート11の構造を表す図である。
【図6】植物栽培装置1によりイチゴ株を栽培している状態を表す図である。
【図7】本発明の実施例2に係る植物栽培装置の要部断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 植物栽培装置
2 架台
3 栽培槽
4 断熱灌水槽
4a 底壁
4b 側壁
5 培土槽
5a 底壁
5b 側壁
5c フランジ
5d 通根口
6 透根性シート
7 閉蓋部材
7a 植孔
8 調温管
8a 往路用チューブ
8b 復路用チューブ
8c ターミナル
8d 内部空間
9 灌水チューブ
10 電熱線
11 果実冷却用シート
11a 透水層
11b 遮水層
11c 透気層
11d 曲撓部
11e 最下点
11f 先端
12 排水管
G 地面
W 灌漑水
S 培土
P1,P2 イチゴ株
R1,R2 根系
C1,C2 クラウン
B1,B2 果柄
F1,F2 果実

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培植物の根が通根可能な複数の通根口が形成された底壁、該底壁の縁部から上方に向かって立設する側壁を備え、上方が開口しており、該側壁及び底壁で囲まれる内部空間に培土が収納される培土槽と、
前記培土槽の内部空間の底面に敷設され、前記培土槽内に収容される培土が前記通根口から抜け落ちるのを防止するとともに、該培土に植栽される栽培植物の根が通過可能な透根性シートと、
断熱材で形成された底壁及び側壁を備え、該側壁及び底壁で囲まれる内部空間の下部に灌漑水を貯水するとともに、該内部空間の上部に前記培土槽が嵌入される断熱灌水槽と、
断熱材で形成され、前記培土槽の上方開口部を閉蓋するとともに、前記培土槽に植栽される栽培植物の株元部分の茎が通過可能な径の植孔が貫設された閉蓋部材と、
前記培土槽内を貫通して設けられた、調温流体が流通可能な調温管と、
を備えてなることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記断熱灌水槽は、その内部空間の下部に貯水される灌漑水の水面が、その内部空間の上部に嵌入される培土槽の裏面と接触しない高さとなるように水位調節する排水口が設けられていることを特徴とする請求項1記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記培土槽内を貫通して設けられ、該培土槽に収容される培土に灌水を供給する灌水チューブを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記調温管は、往路用チューブと復路用チューブを連結し一体化した2連チューブであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記調温管に並列して設けられた電熱線を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記培土層の左右両側の全長に渡り配設され、透水性の不織布からなる透水層及び前記透水層の表面に展着され不透水性の可撓性薄板からなる遮水層を備えた果実冷却用シートを備え、
前記果実冷却用シートは、その中央部が前記灌水槽の側壁内側と前記培土層の側壁外側との間に挟持され、その下端が前記灌水槽下部に貯水される灌漑水に水没し、その上端が前記培土層の側壁上縁から外側に向かって延出することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一記載の植物栽培装置。
【請求項7】
前記果実冷却用シートは、前記遮水層の表面に、高密度エチレン系の不織布が、0.5〜10ミクロンの口径のポリエチレンの連続性極細繊維に高熱を加えて結合、調製された水蒸気透過性の不織布が展着されていることを特徴とする請求項6記載の植物栽培装置。
【請求項8】
請求項6の植物栽培装置に使用される果実冷却用シートであって、
透、透水性の不織布からなる透水層と、
前記透水層の表面に展着され、不透水性の可撓性薄板からなる遮水層と、を備えた果実冷却用シート。
【請求項9】
請求項7の植物栽培装置に使用される果実冷却用シートであって、
透、透水性の不織布からなる透水層と、
前記透水層の表面に展着され、不透水性の可撓性薄板からなる遮水層と、
前記遮水層の表面に展着され、高密度エチレン系の不織布が、0.5〜10ミクロンの口径のポリエチレンの連続性極細繊維に高熱を加えて結合、調製された水蒸気透過性の不織布と、を備えた果実冷却用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−291122(P2009−291122A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147478(P2008−147478)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(508168181)株式会社ナチュラルステップ (2)
【Fターム(参考)】