説明

植物育成ユニットおよびそれを用いた多段式植物育成装置

【課題】 人工照明装置や空調装置を装備した外部環境の影響を受けない安定した雰囲気内で、一つのユニット中で開放状態から遮蔽状態まで任意に変化させることにより、植物育成環境をきめ細かく管理することができ、しかもかん水装置も一体的に設けた植物育成ユニットを提供する。
【解決手段】 植物育成ユニット10の外形は、四辺形の底壁と4つの側壁と頂壁とからなる箱形状を有する。底壁11の一辺の両端近傍にそれぞれ給水口および排水口設け、底壁面上に所定水位でかん水するための高さを有する堰16を排水口を囲むように配設し、給水口および排水口を設けた底壁の一辺から立設した側壁12aの堰より高い部分を蝶番17により開閉自在な扉18とし、扉に対向する背面に立設した側壁12bに全開から全閉まで開口率を変化させる手段を備えた複数の背面スリット状開口20を形成し、扉の両側に立設した側壁12c,12dに複数の通気孔24を形成し、少なくとも扉と頂壁とを透光性材料から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工照明装置や空調装置を装備した外部環境の影響を受けない安定した雰囲気内で、植物を効率よく育成することができる植物育成ユニット、およびこの植物育成ユニットを用いた多段式植物育成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナス科、ウリ科などの果菜類では、各々を穂木とし、それに台木を接ぎ木した接ぎ木苗を育成することにより、台木の持つ特性と穂木の持つ特性を生かし生産性や病害抵抗性を高める方法が広く採用されている。
接ぎ木苗の台木と穂木の維管束組織がつながる活着を促進させ、台木から穂木への水分や養分の移動、穂木での光合成による同化産物の台木への移動を可能とさせるためには、接ぎ木後に接ぎ木苗が置かれる環境条件が重要となる。接ぎ木直後の数日間の細かな環境調節期間を養生と称し、養生期間中は高湿度、低日照の条件下で台木と穂木の気孔などからの水分の蒸発散が制限され、台木穂木がしおれることなく活着を促進させることができる。
【0003】
台木と穂木の育苗から接ぎ木苗の育苗、さらには接ぎ木苗の養生まで一貫して行える育苗装置に関しては、例えば特許文献1で提案されている。
この育苗装置は、図10に示したように、苗を搭載しうる複数枚の棚板62を備えた多段式の育苗棚61を遮光性断熱壁からなる閉鎖型構造物60内に設置し、育苗棚61各段には、搭載された苗に投光しうる人工照明装置63および各段に空気流を生じさせるファン64を設けてある。さらに閉鎖型構造物60内には、構造物内雰囲気を調温調湿する空調装置65と炭酸ガスを供給する炭酸ガス施用装置66が設けてある。
【0004】
図11には、育苗棚61の1つの棚板62に搭載された接ぎ木苗67を示しており、複数本の接ぎ木苗67をアンダートレイ68上のセルトレイ69の各セルに植えた形で棚板に搭載される。特許文献1においては、図12に図示したごとき、例えば透明アクリル樹脂からなる底板のない箱形状を有し、複数の通気孔71を備えた透光性遮蔽物70を用いて、接ぎ木苗の養生期間中、各棚板62に搭載された接ぎ木苗67を被覆する。
【0005】
特許文献1の育苗装置を用いて接ぎ木苗を育成する方法は、先ず、各育苗棚61で台木と穂木を別個に育苗する。台木と穂木の育苗は、各棚板62に搭載したセルトレイ69の各セルに苗を植え、透光性遮蔽物70を被覆せずに行う。この育苗は、閉鎖型構造物60内の調温調湿された雰囲気で適切な人工照明の下で行われるため、自然光育成に比べて樹勢の強い元苗(台木、穂木)が得られる。
こうして育苗された台木と穂木を育苗棚61から取り出し、それぞれ切断して、例えば切断面を互いに合わせてクリップなどの支持具でとめる合わせ接ぎなどの方法で接ぎ木苗67を作成する。
【0006】
これらの接ぎ木苗は、次いで図11に示すように、セルトレイ69の各セルに植え、これを育苗棚の各棚板62の上に置き透光性遮蔽物70で被覆して養生を行う。養生期間中も、透光性遮蔽物70を通して接ぎ木苗67に通常の養生より高い光強度で投光するとともに、育苗棚各段に設けたファン64で各段毎に空気流を生じさせながら、空調装置65で閉鎖型構造物内を調温調湿し、さらに炭酸ガス施用装置66で閉鎖型構造物内に炭酸ガスを供給する。
接ぎ木苗の養生期間中、台木と穂木の活着を促進するためには高い相対湿度が必要となるが、透光性遮蔽物70内部は、接ぎ木苗から水分が蒸発して相対湿度が90〜100%に高まり、活着が促進される。
【0007】
一方、活着が促進されながら通常より高い光強度の下で接ぎ木苗の光合成が活発に行われるようになると、遮光性遮蔽物70内の炭酸ガス濃度が低下してくるため、光合成速度の低下要因となる。そのため、透光性遮蔽物70の壁面には、図11および図12に示したように、透光性遮蔽物70内部の加湿状態を損なわない程度の大きさの複数の通気孔71が設けてある。これによって、ファン64による育苗棚各段に生じている空気流により、透光性遮蔽物70の通気孔71を通じてガス交換がなされ、閉鎖型構造物60内の炭酸ガス含有雰囲気を透光性遮蔽物70内へ供給でき、接ぎ木苗の光合成に伴って減少する炭酸ガスを補充し、接ぎ木苗の光合成を促進することができる。
一般に養生後の接ぎ木苗は、光強度を徐々に強める順化を行う必要があるが、遮光性遮蔽物70を用いて養生する場合、通常より強い光強度を与えることができるため、養生中の光合成が促進されることにより、順化工程そのものを省略できる。
【0008】
【特許文献1】国際公開 WO2005/000005公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1のように、着脱自在の透光性遮蔽物を採用することにより、元苗(台木、穂木)の育苗から、接ぎ木苗の養生まで一貫して育苗棚各段で行うことができる利点がある。
しかしながら、元苗の育苗は透光性遮蔽物を取り外して行い、接ぎ木苗の養生に際しては透光性遮蔽物で被覆しなければならないため、育苗棚の段数が多い場合には各段での透光性遮蔽物の着脱作業に多大の労力と時間を要することになる。
【0010】
また、育苗を行うに際しては、透光性遮蔽物の他に、育苗棚の各段にかん水トレイや給排水手段を備えたかん水装置を設置する必要がある。
さらには、透光性遮蔽物によって被覆した状態では、透光性遮蔽物内部における苗の育成環境の管理がし難いという問題もある。
【0011】
そこで本発明の目的は、人工照明装置や空調装置を装備した外部環境の影響を受けない安定した雰囲気内で、従来のごとき着脱自在な透光性遮蔽物を使用した場合の着脱作業を必要とせず、一つのユニットの中で開放状態での元苗の育苗と遮蔽状態での接ぎ木苗の養生の両方を行うことができ、しかもかん水装置も一体的に設けた植物育成ユニットを提供することである。
本発明の別の目的は、接ぎ木苗の育苗だけでなく、育成環境のきめ細かい管理が要求される好光性種子や栄養繁殖系植物の育成、組織培養苗の順化などにも効果的に使用することができる植物育成ユニットを提供することである。
さらに本発明の目的は、上記のごとき植物育成ユニットを閉鎖型構造物内に多段に配列した構造の多段式植物育成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明の植物育成ユニットは、四辺形の底壁と、前記底壁の四辺から立設した4つの側壁と、前記側壁の上に載置した頂壁とからなる箱形状を有し、前記底壁の一辺の両端近傍にそれぞれ給水口および排水口を設け、前記底壁面上に所定水位でかん水するための高さを有する堰を前記排水口を囲むように配設し、前記給水口および排水口を設けた底壁の一辺から立設した側壁の前記堰より高い部分を蝶番により開閉自在な扉とし、前記扉に対向する背面に立設した側壁に全開から全閉まで開口率を変化させる手段を備えた複数の背面スリット状開口を形成し、前記扉の両側に立設した側壁に複数の通気孔を形成し、少なくとも前記扉と前記頂壁とを透光性材料から構成したことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の好ましい実施形態においては、前記堰の下端部には切欠開口を形成する。
また、前記複数の背面スリット状開口の開口率を変化させる手段は、前記複数の背面スリット状開口と形状、寸法が略同じ複数のスリット状開口を備え、背面側壁の外面にスライド自在に配設した開口率調整板から構成することが望ましい。
前記開口率調整板と係合するレバーを前記頂壁面上に背面側から扉側に延設し、このレバーの操作により前記開口率調整板をスライドできるようにすることが望ましい。
さらに、前記複数の通気孔についても、それらの開孔率を全開から全閉まで変化させる手段を設けることが望ましい。
さらにまた、前記扉の開動作と、前記背面スリット状開口を開とするための開口率調整板のスライド動作とが連動し、かつ、前記扉の閉動作と、前記背面スリット状開口を閉とするための開口率調整板のスライド動作とが連動する手段を設けることが望ましい。
【0014】
上述した植物育成ユニットは、複数段の棚板を備えた育成棚の各段に載置し、この育成棚を閉鎖型構造物内に配置することにより、多段式の植物育成装置とすることもできる。
すなわち本発明の多段式植物育成装置は、遮光性断熱壁で包囲された閉鎖型構造物内に、上下方向に複数段の棚板を備え請求項1に記載の植物育成ユニットを棚板の各段に載置した多段式の育成棚を設置し、前記育成棚の各段には、載置した前記植物育成ユニットに投光しうる人工照明装置および各段に空気流を生じさせるファンを設け、前記閉鎖型構造物内を調温調湿しうる空調装置および閉鎖型構造物内に炭酸ガスを供給しうる炭酸ガス供給装置を設けたことを特徴とするものである。
前記各段に設けたファンは、風量調節が可能なファンとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植物育成ユニットによれば、底面かん水装置を一体的に備えた一つのユニットの中で植物の育成を行うことができるとともに、扉部分とその背面側壁に設けた背面スリット状開口を開閉することにより、開放状態での育成だけでなく高湿度を必要とする遮蔽状態での育成も行うことが可能となる。
その結果、接ぎ木苗の育苗に際して、従来のような着脱自在の透光性遮蔽物を、元苗の育苗時には取り外し、接ぎ木苗の養生時には被覆するといった着脱作業を行う必要をなくすことができる。
さらに、育成ユニットの扉の開き程度や背面スリット状開口の開口率を調節することによって、育成ユニット内の植物育成環境を適切に管理することが可能となる。
【0016】
また、育成ユニットの遮蔽状態において、給水口からのかん水停止時に、必要に応じて排水口から温湿度および炭酸ガス濃度を調整した空気流を育成ユニット内に供給することができ、これによって遮蔽状態であっても育成ユニット内の植物育成環境をきめ細かく制御することができる。
【0017】
本発明の育成ユニットは、複数段の棚板を備えた育成棚の各段に載置し、この育成棚を閉鎖型構造物内に配置して多段式の植物育成装置として構成することもできる。かような多段式装置の場合、育苗棚の段数が多くなるが、本発明の育成ユニットを使用することによって、従来の着脱自在の透光性遮蔽物のような着脱作業が不要になるため、作業時間の大幅な短縮が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1および図2を参照して、本発明の植物育成ユニットの好ましい実施形態を説明する。
育成ユニット10の基本形状は、四辺形の底壁11と、底壁の四辺から立ち上げた4つの側壁12a、12b、12c、12dと、これら側壁の上に載置した頂壁13とからなる箱形状を有している。
本発明の育成ユニット10は、かん水装置を一体構造として具備しており、このかん水装置は、図1の部分切欠拡大図である図2に示したように、底壁11の一辺の両端近傍にそれぞれ設けた給水口14と排水口15を有し、排水口15を囲むように所定の高さの堰16を配設する。この堰16の高さは、底壁11面上に所定の水位でかん水できるような高さとする。給水口14から水または養液(以下これらを単に“水”と総称する)を供給することにより底壁11面上にかん水することができ、堰16の高さまでかん水すると堰16から余分の水がオーバーフローすることで所定水位を保つことができる。
【0019】
堰16の下端部には、堰下端を切り欠いて形成した切欠開口16aを設けてある。この切欠開口16aは、堰16の高さまでかん水した後、かん水を停止した際に、底壁面上に溜まった水を排水口15から速やかに排出させる機能を有している。さらに、かん水時には切欠開口16aから絶えず水が排出されるため、給水口14からの供給量と切欠開口16aからの排出量とのバランスを変化させることによって、堰16の高さより低い水位を保つことができる機能も有している。
【0020】
給水口14および排水口15を設けた底壁11の一辺から立ち上げた側壁12aの、堰16より高い部分を、蝶番17により開閉できる扉18とする。この扉18を育成ユニット10外側に倒して開状態とすることにより(図1の一点鎖線参照)、育成ユニット10内で育成する苗を植えたセルトレイ等を出し入れすることができる。扉18部分を堰16の高さより高い位置に形成してあるため、育成ユニット10内にかん水した水が扉18部分から漏出する心配がない。
また、育成ユニット底壁11面は、扉18の背面から扉方向に緩やかな傾斜を設けることにより、かん水停止時に切欠開口16aから速やかに排水させることが可能となる。
【0021】
扉18に対して後側、すなわち扉18の背面に位置する側壁12bには、複数の背面スリット状開口20が形成されている。この背面スリット状開口20は、全開から全閉まで開口率を変化させる手段が備えられている。開口率を変化させる手段は特に限定されないが、例えば図3に示したような、開口率調整板21を使用することができる。この開口率調整板21には、背面側壁12bに形成した複数の背面スリット状開口20と形状、寸法が略同じ複数のスリット状開口22が形成されており、背面側壁12b外面に固定した一組の案内枠23、23により背面側壁12bの外面にスライド自在に保持されている。この開口率調整板21を、背面側壁12b外面に対してスライドさせることにより、図4(A)に示したように、背面スリット状開口20と開口率調整板21のスリット状開口22とが全く重ならない位置では開口率0%(全閉)、図4(B)に示したように半分重なった位置では開口率50%(半開)、図4(C)に示したように完全に重なった位置では開口率100%(全開)の状態となり、全開から全閉までの間で任意の開口率に変化させることができる。
【0022】
さらに、図1に示したように、扉18の両側に立設した側壁12c、12dの上部には、複数の通気孔24が設けられている。この通気孔24は、背面スリット状開口20が全閉の状態においても、育成ユニット内部雰囲気と育成ユニット外部雰囲気とのある程度の流通を行わせる機能を有し、背面スリット状開口20よりも小さく形成されている。なお、この通気孔24も、全開から全閉まで開孔率を変化させる手段を備えることが望ましい。通気孔24の開孔率を変化させる手段は特に限定されないが、図5に示したような開孔率調整板25を使用することができる。この開孔率調整板25も、背面スリット状開口20の開口率調整板21と同様に、側壁12cに形成した複数の通気孔24に対応する複数の通気孔26を備えており、側壁12c外面に固定した一組の案内枠27、27により側壁12cの外面に対してスライドさせることにより、通気孔26の開孔率を全開から全閉までの間で任意の開孔率に変化させることができる。
【0023】
かような構造の育成ユニット10は、人工照明下に置かれて使用されるために、少なくとも頂壁13と扉18部分はアクリル樹脂等の透光性材料とする必要があるが、他の側壁12b、12c、12dも透光性材料としてもよい。
【0024】
上述した本発明による植物育成ユニットの使用例を、接ぎ木苗の育成を例に挙げて説明する。
育成ユニット10は、調温調湿され炭酸ガス濃度を調整された雰囲気内の人工照明下に静置される。雰囲気にはファン等により空気流を発生させ、空気流が育成ユニットの扉18側から背面側へ流れるようにすることが望ましい。
この育成ユニットを用いて、先ず元苗(台木と穂木)を育苗する。元苗の育成に際しては、育成ユニットの扉18を開け、底壁11面の上にアンダートレイを置き、その上に、各トレイに元苗を植えたセルトレイを載置し、扉18と背面スリット状開口20を開状態としておく。
これによって、育成ユニットを取り囲む温湿度および炭酸ガス濃度を調整された雰囲気が開状態の扉18から育成ユニット内に流れ込み、適切な人工照明の下に元苗の育苗がなされる。その結果、自然光育成に比べて樹勢の強い元苗が得られる。元苗の育苗期間においては、育成ユニットの給水口14から適宜かん水を行い、セルトレイに植えられた元苗に底面かん水がなされる。
【0025】
こうして育苗された台木と穂木が植えられたセルトレイを育成ユニットの開状態とされている扉から取り出し、それぞれを切断して切断面を接合させ接ぎ木苗を作成する。
これらの接ぎ木苗は、従来と同様に図11に示したようにして、再びセルトレイの各セルに植えられ、このセルトレイを育成ユニットの底壁11面に敷かれたアンダートレイの上に載置した後、育成ユニットの扉18と背面スリット状開口20を閉状態として、人工照明下で接ぎ木苗の養生を行う。
接ぎ木苗の養生期間中、台木と穂木の活着を促進するためには高い相対湿度が必要となるが、閉状態とされた育成ユニット10内部は、接ぎ木苗から水分が蒸発して相対湿度が90〜100%に高まり、活着が促進される。
【0026】
活着が促進されながら通常より高い光強度の下で接ぎ木苗の光合成が活発に行われるようになると、閉状態とされた育成ユニット10内の炭酸ガス濃度が低下してくるため、光合成速度の低下要因となる。そのため、育成ユニットの扉18両側の側壁12c、12dには、図1および図5に示したように、育成ユニット内部の加湿状態を損なわない程度の大きさの複数の通気孔24が設けてある。これらの通気孔24を通じてガス交換がなされ、育成ユニット外部の炭酸ガス含有雰囲気を育成ユニット内へ供給でき、接ぎ木苗の光合成に伴って減少する炭酸ガスを補充し、接ぎ木苗の光合成を促進することができる。なお、ガス交換の機能を有する複数の通気孔24も、図5に示したような全開から全閉まで開孔率を変化させる手段を設けることで、ガス交換量を任意に調節することが可能となり、光合成速度に応じて育成ユニット内部の炭酸ガス量をきめ細かく制御することができる。
【0027】
一般に養生後の接ぎ木苗は、光強度を徐々に強める順化を行う必要があるが、本発明による育成ユニットを用いて養生する場合、通常より強い光強度を与えることができるため、養生中の光合成が促進されることにより、順化工程そのものを省略できる。
【0028】
上述したごとき接ぎ木苗の育苗に本発明の育成ユニットを使用する場合、元苗の育苗期間および接ぎ木苗の養生期間を通じて、扉18開き具合や背面スリット状開口20の開口率を適切に調節することにより、育苗期間中や養生期間中の苗の生育状態に応じた最適な育成環境に管理することが可能となる。
【0029】
育成ユニットを閉状態として接ぎ木苗の養生を行う場合、育成ユニット内雰囲気の温度と湿度および炭酸ガス濃度をより確実に制御するために、温湿度および炭酸ガス濃度を調節された空気流を積極的に閉状態の育成ユニット内へ供給することも必要となる。この場合には、かん水停止期間の育成ユニット排水口15を介して温湿度および炭酸ガス濃度を調整された空気流を育成ユニット内へ供給することもできる。また、排水口15から供給した空気流を育成ユニット内へ均一に拡散させるために、図6に図示したような拡散パイプ30を排水口15に嵌合して使用することができる。この拡散パイプ30は、L型の排水口嵌合部31とT型の拡散部32とをパイプで連結した構造を備え、図7に示したように、排水口嵌合部31先端を育成ユニットの排水口15に嵌合したときに、T型拡散部32が育成ユニットの幅方向略中央部に位置するように設置する。この状態で、温湿度および炭酸ガス濃度を調節された空気を排水口15から導入することにより、拡散パイプ30の排水口嵌合部31からT型拡散部32へ空気流が導かれ、T型拡散部32の横方向両端開口32a、32bから育成ユニット内へ均一に分散供給することができる。育成ユニットの給水口14からのかん水時には、L型排水口嵌合部31は排水口15から外され、拡散パイプ30全体が育成ユニット外部へ搬出される。
【0030】
背面スリット状開口20の開口率を調節する手段として、図3に示したような育成ユニット背面側壁12bの外面にスライド自在に設けた開口率調整板21を使用する場合、開口率調整板21と係合するレバー40(図1参照)を育成ユニットの頂壁13面上に背面側から扉側に延設し、このレバー40の操作により開口率調整板21をスライドできるようにすることが望ましい。図1に示す実施例においては、レバー40はピン41を中心としてその基端部40aと先端部40bが回動し、レバー先端部40bにはL型部材43がピン42により回動自在に取り付けられており、L型部材43の下端は開口率調整板21(図3参照)に固着されている。かような構造とすることにより、レバーの基端部40aを左右に移動させると、レバー先端部40bは逆方向に左右に移動し、レバー先端部40bと同方向にL型部材43も左右に移動する。L型部材43の左右への移動に伴って、開口率調整板21も左右へスライドする。開口率調整板21のスライドは、図4(A)〜(C)に図示したように、背面スリット状開口20の1個分だけスライドさせることにより開口率100%(全開)から開口率0%(全閉)まで変化させることができる。したがってレバー基端部40aは、開口率調整板21を背面スリット状開口20の1個分だけ左右に移動させることができる範囲で移動させればよく、それ以上移動させないようにするためにストッパー44によりその移動範囲を規制する。
【0031】
育成ユニットの扉18を開くことにより背面スリット状開口20が開状態となり、扉18を閉じることにより背面スリット状開口20が閉状態となるようにするためには、扉18の開動作と背面スリット状開口20を開状態にするための開口率調整板21スライド動作とが連動し、かつ、扉18の閉動作と背面スリット状開口20を閉状態にするための開口率調整板21スライド動作とが連動する手段を設けることが望ましい。かような手段の一例として、図8に示したように、育成ユニットの扉18の外面一端と、開口率調整板21の外面一端とを、2個のローラ50、51を介してワイヤ52で接続し、開口率調整板21を全閉状態(図の左側)に絶えず引っ張るスプリング53を開口率調整板21の外面多端に配設した構造が考えられる。
【0032】
すなわち、図8は、育成ユニットの扉18が閉とされている状態を示し、スプリング53により開口率調整板21は図の左側に引っ張られていて、開口率調整板21のスリット状開口22と、育成ユニット背面壁12bの背面スリット状開口20とが全く重なっていない全閉(開口率0%)の状態となっている。
図9は、育成ユニットの扉18を開とした状態を示し、扉18の開動作に伴ってワイヤ52が2つのローラ50、51を回転させながら矢印の方向に引っ張られ、開口率調整板21を図の右側へスライドさせる。このときスプリング53は図の右側(矢印方向)に引き延ばされ、開口率調整板21のスリット状開口22と、育成ユニット背面壁12bの背面スリット状開口20とは完全に重なって全開(開口率100%)の状態とされる。この状態から、育成ユニットの扉18を閉めると、スプリング53の戻りにより開口率調整板21は図の左側に引っ張られて図8に図示した全閉(開口率0%)の状態まで戻される。
【0033】
上述した本発明による植物育成ユニット10は、複数段の棚板を備えた育成棚の各段に載置し、この育成棚を閉鎖型構造物内に配置することにより、図10に図示したと同様の多段式の植物育成装置とすることもできる。
かような多段式育成装置とすることにより、閉鎖型構造物60内の空調装置65により調温調湿され、炭酸ガス施用装置66により炭酸ガス濃度が調整された雰囲気が、育成棚61各段に設けたファン64で各段毎に空気流となって流通することになる。その結果、各段に載置した育成ユニットを開状態とした場合には、温湿度および炭酸ガスが調整された空気流が育成ユニット内部を扉18側から背面側へ流れ、人工照明装置63による適切な人工照明の下で効果的な育苗がなされる。
一方、各段に載置した育成ユニットを閉状態とした場合には、育成ユニットの扉18両側の側壁12c、12dに設けた複数の通気孔24に沿って育成ユニット外部を流れる空気流によって静圧が生じ、比較的小さい通気孔24であっても、炭酸ガス含有雰囲気の空気流と育成ユニット内とのガス交換が効果的になされ、育成ユニット内の加湿状態を損なわずに炭酸ガスを補充することができる。
【0034】
育成棚61各段に載置した育成ユニットに流通させる空気流の風量は、植物の育成過程により適宜調節することが望ましい。例えば接ぎ木苗の育苗を例に挙げて説明すると、育成ユニットの扉18と背面スリット状開口20を開状態として台木および穂木を育苗するに際しては、子葉が完全展開するまでは育成ユニットを流れる風量を少なくし、子葉が展開した後には風量を最大にする。また、育成ユニットの扉18と背面スリット状開口20を閉状態として接ぎ木苗を養生するに際しては、接ぎ木接合部が融合するまで育成ユニットに空気流を流す必要はない。このように、育成ユニットに流す空気流の風量を調節するには、育成ユニットの扉18の開き程度や背面スリット状開口20の開口率を調節することにより行うことができるが、育成棚61各段に設けたファン64に印加する電圧を変動させてファンの回転数を変化させ、育成棚各段に流す風量を調節することにより行うこともできる。
【0035】
以上の説明では、本発明の植物育成ユニットおよびこの育成ユニットを用いた多段式植物育成装置を接ぎ木苗の育成に使用する場合について説明したが、好光性種子や栄養繁殖系植物の育成、組織培養苗の順化などにも効果的に使用することができる。
すなわち、トルコギキョウ、ペチュニア、プリムラなどの好光性種子の慣行的な発芽、育成方法は、種子に少量の覆土を施し、表土が乾燥しないように水をスプレーしたり底面かん水を行っていた。本発明の育成ユニットを使用する場合には、セルトレイの各セルに播種し、閉状態とした育成ユニットに入れて人工照明の下、温湿度及び炭酸ガス濃度を調整した雰囲気で高湿度(85〜95%)を維持することにより表土を乾燥しにくくする。発芽後も閉状態とした育成ユニット内で人工照明下、温湿度及び炭酸ガス濃度を調整した雰囲気で高湿度を維持することにより、子葉がしおれることがなく、光合成促進効果もあるため、良好に生育させることができる。
【0036】
栄養繁殖系植物の育成は、根、茎、葉などの栄養器官を種苗として用いるものであり、例えばキクやサツマイモなどが挙げられる。慣行的な方法では、培地に移植した栄養器官が発根するまで、ハウスあるいは冷蔵庫中で弱光下、高湿度(100%)環境に維持する方法が採用されていた。本発明の育成ユニットを使用する場合には、閉状態とした育成ユニット内で、適切な光強度の人工照明下、温湿度及び炭酸ガス濃度を調整した雰囲気で一定の高湿度(85〜95%)を維持することにより発根が効果的になされ、生育も早く、苗のロス率を低減させることができる。
【0037】
また、組織培養苗の順化は、例えばサツマイモやアルストロメリアなどの培養苗の順化が挙げられ、慣行的な方法としては、培地に移植した組織培養苗をハウス内で遮光下に加湿して行う方法が採用されていた。本発明に育成ユニットを使用する場合には、閉状態とした育成ユニット内で適切な光強度の人工照明下、温湿度及び炭酸ガス濃度を調整した雰囲気により順化環境のきめ細かい制御が可能となるため、慣行方法に比べるとロス率を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の植物育成ユニットの実施例を示す斜視図である。
【図2】図1の部分切欠拡大図である。
【図3】背面スリット状開口の開口率を変化させる手段の実施例を示す斜視図である。
【図4】背面スリット状開口の開口率を、(A)0%、(B)50%、(C)100%に変化させた状態を示す説明図である。
【図5】植物育成ユニットの側壁に形成した通気孔の開孔率を変化させる手段の実施例を示す斜視図である。
【図6】植物育成ユニット内部に空気流を供給するための拡散パイプの実施例を示す平面図である。
【図7】図6の拡散パイプを植物育成ユニット内部に設置した状態を示す斜視図である。
【図8】植物育成ユニットの扉の開閉動作と背面スリット状開口の開閉動作とを連動させる手段の実施例を示し、扉と背面スリット状開口が閉とされている状態を示す斜視図である。。
【図9】図8の閉状態から、扉と背面スリット状開口を開とされた状態を示す斜視図である。
【図10】従来の多段式育苗装置の例を示す縦断面図である。
【図11】図10の装置により接ぎ木苗を育苗している状態の拡大断面図である。
【図12】図11で使用される透光性遮蔽物の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
10:植物育成ユニット
11:底壁
12a〜12d:側壁
13:頂壁
14:給水口
15:排水口
16:堰
16a:切欠開口
17:蝶番
18:扉
20:背面スリット状開口
21:開口率調整板
22:スリット状開口
24:通気孔
25:開孔率調整板
60:閉鎖型構造物
61:育苗棚又は育成棚
63:人工照明装置
64:ファン
65:空調装置
66:炭酸ガス施用装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四辺形の底壁と、前記底壁の四辺から立設した4つの側壁と、前記側壁の上に載置した頂壁とからなる箱形状を有し、前記底壁の一辺の両端近傍にそれぞれ給水口および排水口を設け、前記底壁面上に所定水位でかん水するための高さを有する堰を前記排水口を囲むように配設し、前記給水口および排水口を設けた底壁の一辺から立設した側壁の前記堰より高い部分を蝶番により開閉自在な扉とし、前記扉に対向する背面に立設した側壁に全開から全閉まで開口率を変化させる手段を備えた複数の背面スリット状開口を形成し、前記扉の両側に立設した側壁に複数の通気孔を形成し、少なくとも前記扉と前記頂壁とを透光性材料から構成したことを特徴とする植物育成ユニット。
【請求項2】
前記堰の下端部に切欠開口を形成したことを特徴とする請求項1に記載の植物育成ユニット。
【請求項3】
前記複数の背面スリット状開口の開口率を変化させる手段は、前記複数の背面スリット状開口と形状、寸法が略同じ複数のスリット状開口を備え、背面側壁面の外面にスライド自在に配設した開口率調整板からなることを特徴とする請求項1または2に記載の植物育成ユニット。
【請求項4】
前記開口率調整板と係合するレバーを前記頂壁面上に背面側から扉側に延設し、このレバーの操作により前記開口率調整板をスライドできるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物育成ユニット。
【請求項5】
前記複数の通気孔は、全開から全閉まで開孔率を変化させる手段を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の植物育成ユニット。
【請求項6】
前記扉の開動作と、前記背面スリット状開口を開とするための開口率調整板のスライド動作とが連動し、かつ、前記扉の閉動作と、前記背面スリット状開口を閉とするための開口率調整板のスライド動作とが連動する手段を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の植物育成ユニット。
【請求項7】
遮光性断熱壁で包囲された閉鎖型構造物内に、上下方向に複数段の棚板を備え請求項1に記載の植物育成ユニットを棚板の各段に載置した多段式の育成棚を設置し、前記育成棚の各段には、載置した前記植物育成ユニットに投光しうる人工照明装置および各段に空気流を生じさせるファンを設け、前記閉鎖型構造物内を調温調湿しうる空調装置および閉鎖型構造物内に炭酸ガスを供給しうる炭酸ガス供給装置を設けたことを特徴とする多段式植物育成装置。
【請求項8】
前記各段に設けたファンは、風量調節が可能なファンであることを特徴とする請求項7に記載の多段式植物育成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−263834(P2008−263834A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110051(P2007−110051)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000204099)太洋興業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】