説明

検体におけるリアクタンスの変化の分析によりプロトロンビン時間及びヘマトクリットを測定する装置及びその方法

【課題】流体のHCTとプロトロンビン時間を測定する診断装置とその方法の提供。
【解決手段】検体におけるリアクタンスの変化を分析することによってプロトロンビン時間とヘマトクリット(HCT)を測定する装置と方法は、流体のHCTとプロトロンビン時間を測定する診断装置が、相対電極式センサー装置と、1組以上の電極を含む血液テストカードアッセンブリを含み、そのうち前記センサー装置により提供される交流電流(AC)がリアクタンス分析を用いた血液テストのプロトロンビン時間とHCTの測定と計算に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は2010年6月9日に出願され、かつその全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願第61/353137号に基づいており、かつその優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は生化学的診断装置に関し、特に、検体におけるリアクタンスの変化を分析することにより、プロトロンビン時間(PT)とヘマトクリット(HCT)を確定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
内因系と外因系として知られる2つの経路、あるいは凝固カスケードが、血液の凝固形成につながる。人体が傷を負うと、まず外因系が作用して体の血液凝固を制御しようとする。血液検体に加え、凝固反応にはさらに組織因子も必要である。不活性因子Xが触媒されて因子Xaとなる。プロトロンビン(因子II)は因子Va、酸性リン脂質、カルシウムイオンの作用によって因子Xaからトロンビン(因子IIa)へと変換される。その後トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに転換させ、傷に凝集した内皮細胞の血小板が強化される。トロンビンは因子XIIIの役割も強化することができ、各繊維状蛋白質分子を安定したフィブリンに結合させる。したがって、プロトロンビン時間の検査は、凝固系の外部活性化因子の機能が正常であるかの確定ができるだけでなく、経口抗凝固療法、肝機能、ビタミンK欠乏症、凝固因子欠乏症、播種性血管内凝固(DIC)症候群の評価とモニタリングも可能にする。
【0004】
プロトロンビン時間測定のための従来の検査法は、血液凝固中の血清可溶性タンパク質から不溶性タンパク質への転換の凝固現象を分析する。これらの検査法は色、反射、屈折、発光性、蛍光性の変化などの光学特性を検出することで実施される。しかしながら、そのような検査法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5418141号に開示されるように、相当な数の血液検査用検体と高純度の試薬が必要であり、時間もかかる。さらに、これらの検査法は長い検出時間と大量の資材が必要であり、不便でコストが高い。
【0005】
ほかの従来のプロトロンビン時間測定のための検査法は、電気化学式検査法を使用している。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3699437号は、初期から最低点までの相対的な抵抗の低下速度を観察する方法を開示している。算出された結果が凝固時間の確定の基礎として用いられ、そこではインピーダンス測定値が血液凝固のメカニズムと関連付けられている。さらに、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6060323号、第6338821号、第6066504号、第7673622号、第6046051号は、血液検体の凝固時間測定用の電子センサー装置とテストカードアッセンブリを開示している。テストカードアッセンブリは装置の測定ニーズによって単一の電極または複数の電極を備えている。検体に電極が接触し、血液検体の凝固に伴う粘性の変化に対応したインピーダンスの変化を測定する。しかしながらこの方法は、個々の血液検査用検体におけるヘマトクリットと電解質濃度の違いのため、テストエラーを生じることがある。その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7005857号は、血液検体の自動収集機能を備えた凝固検査装置を開示している。この凝固検査装置は、2つの電極間のキャパシタンスまたはインピーダンスの変化を測定することによって凝固時間を確定する。このため、これらの技術は、検出装置の簡易性を向上してはいるが、上述の光学検出法が達成できるほどの比較的高い精度と正確性を達成することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5418141号明細書
【特許文献2】米国特許第3699437号明細書
【特許文献3】米国特許第6060323号明細書
【特許文献4】米国特許第6338821号明細書
【特許文献5】米国特許第6066504号明細書
【特許文献6】米国特許第7673622号明細書
【特許文献7】米国特許第6046051号明細書
【特許文献8】米国特許第7005857号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、テスト時間が短く、使用者が簡単な手順で使用でき、正確な結果を得ることができる、プロトロンビン時間(PT)とヘマトクリット(HCT)を測定するためのバイオセンサー装置が必要であり、本発明の目的は、流体のHCTとプロトロンビン時間を測定する診断装置とその方法を提供することにある。以下でこれについて説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一様態は、検体から取得したリアクタンス(X)測定値を使用してPTを計算する。本明細書中で、インピーダンス測定値に対照させてリアクタンス測定値を使用することで、血液の特性のより正確な分析が得られ、テストエラーの潜在性を減少し、測定精度を高めることができる。
【0009】
本発明の別の様態は、検体のリアクタンス分析を用いて血液検体のプロトロンビン時間とヘマトクリット(HCT)を確定するための検出システム及び測定法を提供する。一実施形態において、前記検出システムはセンサー装置と、テストカードアッセンブリを含む。前記テストカードアッセンブリは、それぞれ同一平面または異なる平面上に設置された1組以上の貴金属電極を含む。前記センサー装置によって提供される交流電流(AC)が本明細書中のリアクタンス分析を使用した血液検体のプロトロンビン時間とHCTの測定及び計算に用いられる。
【0010】
本発明の別の様態は、改善された血液検体と試薬の接触区域を備えたテストカードアッセンブリを提供する。本発明のいくつかの実施形態に基づく前記テストカードアッセンブリは、少なくとも前記テストカードの基板の一部にガラス繊維基板(FR−4)などの多孔質材料を使用している。基板の少なくとも一部、好ましくは基板の表面全体が多孔質であるため、例えば複数の孔、空洞、キャビティがその表面上にあり、前記検体(例えば血液)が基板上によりうまく均一に分散され、それにより血液検体と試薬の接触区域が増加して、従来の基板に使用される非多孔質材料の欠点を効果的に改善する。本発明によれば、非多孔質材料を基板またはその一部に使用したときに生じる検体と試薬間の接触が比較的良好でないことに関連する問題、例えば比較的高い血液の凝集などを、最小限に抑えられる、または排除される。
【0011】
本発明の一様態によれば、流体のHCTとプロトロンビン時間を測定する診断装置は、電極式センサー装置と、1組以上の電極を含む血液テストカードアッセンブリを含み、前記センサー装置により提供される交流電流(AC)が本明細書中のリアクタンス分析を用いた血液テストのプロトロンビン時間とHCTの測定及び計算に使用される。
【0012】
一実施形態において、前記センサー装置は、テストカードアッセンブリを収容するためのテストカード受入ユニットと、前記テストカード受入ユニットの温度を一定温度に制御かつ維持するための温度維持ユニットと、前記テストカードアッセンブリにあらかじめ定められた周波数と電圧で交流電流を提供するためのAC生成ユニットと、前記テストカードアッセンブリからの応答信号を受信するための信号受信ユニットと、前記応答信号を計算し、HCTとプロトロンビン時間の結果をレンダリングするマイクロプロセッサと、前記マイクロプロセッサからのHCTとプロトロンビン時間の検査結果を表示するためのディスプレイユニットを含む。
【0013】
本発明の別の様態によれば、プロトロンビン時間とHCTの測定方法は、テストカード受入ユニットにテストカードアッセンブリを用意する工程と、前記テストカード受入ユニットの温度を一定温度に制御かつ維持する工程と、検査する検体を前記テストカードアッセンブリに提供する工程と、AC生成ユニットによりあらかじめ定められた周波数と電圧で交流電流を前記テストカードアッセンブリに提供する工程と、前記テストカードアッセンブリからの応答信号を受信し、マイクロプロセッサによってHCTとプロトロンビン時間を計算する工程と、検査結果をディスプレイユニットに提供する工程とを含む。
【0014】
添付の図面と合わせて、以下の詳細な記述を参照することによって、先述の態様及び本発明に伴う利点の多くがよりよく理解されるので、先述の態様及び本発明に伴う利点の多くがより容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に基づくプロトロンビン時間とHCT測定のための診断装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施例に基づく血液テストカードの分解図であり、破線は多様な要素間の相対的位置を示す。
【図3】(A)は走査型電子顕微鏡を使って撮影されたテストカードアッセンブリの基板の非多孔質ベースプレートの写真を示す図であり、(B)は走査型電子顕微鏡を使って撮影されたテストカードアッセンブリの基板の多孔質ベースプレートの写真を示す図である。
【図4】本発明によるプロトロンビン時間とHCT確定のための診断方法の一実施例を示すフローチャートである。
【図5】インピーダンス対凝固時間の秒単位の変化を示す実験のグラフであり、典型的なインピーダンス測定法による血液検体全体の凝固に伴うスロープの変化を示す。
【図6】リアクタンス対凝固時間の秒単位の変化を示す実験のグラフであり、リアクタンス測定法による血液検体全体が凝固するに伴うスロープの変化を示す。
【図7】図5と図6の実験のグラフから計算されたHCTとインピーダンス(図7)の関係を示すグラフである。
【図8】図5と図6の実験のグラフから計算されたHCTとリアクタンス(図8)の関係を示すグラフである。
【図9】0.5秒ごとに60秒間にわたってLCRメータにより測定されたインピーダンスを示すグラフである。
【図10】0.5秒ごとに60秒間にわたってLCRメータにより測定されたリアクタンス値を示すグラフである。
【図11】PT対インピーダンスの変化率較正曲線を示すグラフである。
【図12】PT対リアクタンスの変化率較正曲線を示すグラフである。
【図13】インピーダンスに基づく較正済みPT対実際のPTを示す典型的グラフである。
【図14】リアクタンスに基づく較正済みPT対実際のPTを示す典型的グラフである。
【図15】(A)は多孔質基板を用いた血液凝固分析を示すグラフであり、(B)は非多孔質基板を用いた血液凝固分析を示すグラフである。
【図16】(A)は本発明によるリアクタンス測定法を用いた周波数0.1kHzでの血液凝固分析を示すグラフであり、(B)は本発明によるリアクタンス測定法を用いた周波数10kHzでの血液凝固分析を示すグラフであり、(C)は本発明によるリアクタンス測定法を用いた周波数50kHzでの血液凝固分析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、本発明のいくつかの実施形態が詳細に参照され、その実施例は添付の図面及び写真に例証されている。可能な限り、各図面及び説明において同一または類似の要素には同一の番号を用いている。図面において、実施形態の形状及び厚さは明瞭性と利便性のために強調されていることがある。本説明は特に本発明に基づく装置を形成する要素、またはより直接的に作用する要素について記載している。具体的に示されていない、または説明されていない要素は当業者が知るところの多様な形態であり得ると理解される必要がある。さらに、ある層が別のある層の上、または基板「上」にあると言及される場合、その別の層または基板上に直接配置されるか、介在される層が存在することもある。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態について添付の図面及び写真を参照しながら詳細に説明する。図に示した特徴は縮尺どおりでない可能性があることに注意が必要である。本発明の実施形態を不必要に不明瞭にすることがないように、既知の部材、材料、プロセス技術についての説明は省略されることがある。実施形態で説明されるあらゆるデバイス、部材、材料、工程は例示のみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0018】
前述した従来技術の問題に鑑み、以下の実施形態は、リアクタンス測定モジュールとも呼ばれる、検体のリアクタンス分析を実施することによって検体(例えば、血液検体)のプロトロンビン時間とヘマトクリット(HCT)を確定するためのシステム及び方法を提供する。本発明の開示するリアクタンス分析の実施による血液凝固、またはHCTの測定はプロトロンビン時間(つまり凝固時間)の量的分析での使用に適している。ここで、「ヘマトクリット」という語は全血の液量における濃厚赤血球の比率を指す。
【0019】
本発明の一実施例は1組以上の電極を含む検体テストカードを備えた電極式センサー装置を提供する。テストカードのベースプレートは多孔質材料または非多孔質材料から成るものとできるが、基板はここで説明かつ示されるような多孔質材料から成ることが好ましい。前記電極は、金、銀、パラジウム、プラチナ、ニッケル、それらの合金、及び当業者の知るところであるそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない、貴金属から成るものとできる。本発明の一様態において、交流電流(AC)モジュールまたはAC/DC電源が約0.1KHzから約50KHzの間の範囲の発振周波数で血液テストカードにテスト信号を提供する。テストカードに印加される電圧振幅は約0.05Vから約5Vの範囲である。信号は検体のリアクタンスを測定するためにテストカードに印加される。測定された数量に関してここで使用される「約」という語は、熟練者が測定を実行し、かつ測定の目的と使用される測定装置の精度に沿ったレベルの注意を払ったときに見込まれる測定数量におけるばらつきを指す。
【0020】
本発明の好ましい一様態において、酵素反応によって引き起こされる検体における血液凝固が進行するに伴い、対応する信号がセンサー装置によって受信され、かつリアクタンス測定によって分析されたプロトロンビン時間の期間に依存するスロープの差異に従って処理される。一実施形態において、電極は金の電極としてもよい。一実施例において、血液テストカードから検知される対応する発振テスト信号に従い、検体のリアクタンス測定を行うためにACモジュールが用いられ、酵素反応によって引き起こされる血液凝固が進行するに伴い、結果得られる信号がセンサー装置により受信され、かつリアクタンス測定により分析されたプロトロンビン時間の期間に依存するスロープの差異にしたがって処理される。
【0021】
本発明の実施形態に基づいたリアクタンス分析の実行原則を以下で説明する。AC回路のインピーダンスはレジスタンス(R)と、リアクタンス(X)及び位相角θの積の和に等しい。
【0022】
【表1】

ここで、リアクタンス(X)は複素量、インピーダンス(Z)の虚部であり、インダクタンス(L)とキャパシタンス(C)の組み合わせによって形成される電流の流れの障害を表す。レジスタンス(R)は複素量の実部である。当業者であれば分かるように、リアクタンスはAC回路周波数の変化、キャパシタンスの変化、及び/またはインダクタンスの変化に伴って変化する。AC回路のリアクタンスが変化すると、回路の電流波形と電圧波形間に位相の変化が生じる。インピーダンス(Z)は次のように定義される。
【0023】
【数1】

ここで、Zはインピーダンス、Rはレジスタンス、jは位相、Xはリアクタンスである。かつ、
【0024】
【数2】

ここで、Xは容量性リアクタンス、Xは誘導性リアクタンス、pは円周率、fは周波数、Lはインダクタンス、Cはキャパシタンスである。
【0025】
本発明の一様態において、検出システムのAC生成ユニットはテストカードにACテスト信号を提供する。テストカードの検体テスト区域でテストカードに検体が塗布される。電極の間の検体が帯電するため、誘起電荷が電場で分極してキャパシタンスを形成し、検体がキャパシタのように反応する。血液検体が凝固するに伴い、凝固中に電極間に媒質が形成され、検体における電荷の移動を妨げ、電極上に電荷が蓄積される。蓄積された電荷がキャパシタンスの形成を生じる。本発明の好ましい様態において、検出システムのAC生成ユニットの周波数(f)が一定のままであるため、インダクタンス(L)と誘導性リアクタンス(XL)も一定であり、したがって、次の式によって示されるように、検体における容量性リアクタンスの変動は原則的に全体的なリアクタンスにおける変動と等しい。
【0026】
【数3】

ここで、XC2−XC1は容量性リアクタンスにおける変動であり、X−Xはリアクタンスにおける変動である。
【0027】
単位時間当たりの検体のリアクタンス変動、単位時間当たりの容量性リアクタンス変動、単位時間当たりのキャパシタンス変動を確定することで検体における血液凝固の特性が分かる。プロトロンビン時間(すなわち、凝固時間)の測定は、本発明のリアクタンス測定モジュールの補助でスロープ計算を実行することにより正確に確定することができる。
【0028】
図1に本発明の実施例に基づくプロトロンビン時間とHCT測定のための診断装置の概略図を示す。図1に示すように、流体のHCTとプロトロンビン時間用の診断装置100は、相対電極式センサー装置(relative electrode−type sensor device)120、及び1組以上の電極を含む検体テストカードアッセンブリ110を含み、前記センサー装置により提供される交流電流(AC)がリアクタンス分析を用いた血液テストのプロトロンビン時間とHCTの測定と計算に使用される。本実施形態において、センサー装置120はテストカードアッセンブリ110を収容するためのテストカード受入ユニット122を含む。前記テストカード受入ユニットの温度を一定温度に制御かつ維持するために温度維持ユニット134が使用される。AC生成ユニット124があらかじめ定められた周波数と電圧の交流電流を前記テストカードアッセンブリ110に提供する。テストカードアッセンブリからの応答信号を取得するために信号受信ユニット128が使用される。応答信号を分析し、HCTとプロトロンビン時間の結果をレンダリングするためマイクロプロセッサ130が使用される。マイクロプロセッサ130からのHCTとプロトロンビン時間の検査結果を表示するためにディスプレイユニット136が使用される。
【0029】
図2に本発明の一実施例に基づく検体用の検体テストカードの分解図を示す。破線は複数の要素間の相対的位置を示す。検体テストカードは、絶縁基板210、電極システム220、分離及び反応層230、カバー240を含む。前記絶縁基板210は電気的絶縁性を備え、その材質は多孔質材料から成るベースプレートを含むことができるが、これに限定されない。本発明の好ましい実施形態において、前記テストカードアッセンブリのベースプレートは、約0.1μm〜約10μm、約0.01μm〜約100μm、約0.1μm〜約50μm、約0.1μm〜約20μm、約0.1μm〜約5μm、または約5μm〜約10μmの範囲の直径を持つ孔を含む。前記電極システム220は、本発明によると、炭素、金−銀、銅、炭素銀、パラジウム、ニッケル、その他類似の材料及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない、任意の導電性材料から成るものとすることができる。前記電極システム220は、同一平面または異なる平面にそれぞれ設置された1組以上の貴金属電極を含む。例えば、テスト電極225のセットは1組の電極226、228を含む。本発明の原則に基づき、電極の構造は示されたテスト電極225のセットの特定の配置、または示されたとおりの電極数に限定されない。異なる用途の必要性に応じて追加の電極を設けてもよい。電極システムはさらに、該電極システムと測定装置(図示しない)が電気的に接続される。
【0030】
前記分離層230は前記電極システム220上に配置されたスペーサ232を含む。前記分離層230はさらに試薬(図示しない)の一部を露出する反応区域224とサンプリング区域222を含んでもよい。前記サンプリング区域222と前記反応区域224はチャネル236によって接続される。前記反応区域224の大きさは電極226、228の一部を露出できるに足る大きさが好ましい。この例において、反応区域224はプロトロンビン時間の測定に用いられ、サンプリング区域222はHCTの測定に用いられる。
【0031】
前記カバー240は前記分離層230上に配置される。一実施形態において、前記カバー240は、前記サンプリング区域222と反応区域224にそれぞれ接続された吸気口242と通気孔244を含む。サンプリングスペースの大きさは前記分離層230の厚さによる。
【0032】
図3Aと図3Bに走査型電子顕微鏡によって撮影されたテストカードアッセンブリの非多孔質及び多孔質のベースプレートの比較写真を示す。図3Bにおいて、ベースプレートの孔の大きさの直径は約0.1μm〜約10μmの範囲であり、平均の直径は約3.39μmである。ベースプレートの孔の分布は約5.04×10孔/cmである。
【0033】
図4は本発明によるプロトロンビン時間とHCTの確定のための診断方法の一実施形態を概略的に示すフローチャートである。図4におけるプロトロンビン時間とHCTの測定方法は、テストカード受入ユニットにテストカードアッセンブリを用意する工程(S410)、テストカード受入ユニットの温度を一定の温度に制御かつ維持する工程(S420)、検査する検体をテストカードアッセンブリに提供する工程(S430)、AC生成ユニットによりあらかじめ定められた周波数と電圧で交流電流をテストカードアッセンブリに提供する工程(S440)、マイクロプロセッサを使用して、テストカードアッセンブリからの応答信号を検知し、前記応答信号を元のAC信号と比較して、電流信号の位相における変化(位相シフト)を計算し、リアクタンスとHCTを計算する工程(S450)、HCTを参照してプロトロンビン時間を修正する工程(S460)、国際標準化比でプロトロンビン時間を修正する工程(S470)、検査結果をディスプレイユニットに提供する工程(S480)を含む。
【0034】
本発明の一実施例によれば、前記テストカードから取得される応答信号は、マイクロプロセッサによってデジタル化され、かつ離散型フーリエ変換(DFT)によって変換される。したがって、当業者には既知であるとおり、実値と虚値は次に示す方法によって分けることができる。
【0035】
【数4】

ここで、X(k)はデジタル信号のフーリエ値、x(n)はデジタル信号の元の値、nはデジタル信号の現在のポイント、Nはデジタル信号の合計数である。さらに、位相は次の式によって虚値と実値により計算することができる。
【0036】
【数5】

ここで、Imは虚値(すなわち、リアクタンス)、Reは実値(すなわち、レジスタンス)である。式(3)に示すように、位相は検体におけるリアクタンスの変化によってシフトする。
【0037】
一部の実施形態において、上述のS450で検体から検知された応答信号と元のAC信号を比較する工程(すなわち、位相)は、測定された応答信号と印加された電圧からインピーダンスの大きさを計算する工程と、印加された波形と測定された波形間の位相における変化を計算する工程と、位相角における変化からリアクタンスを計算する工程を含む。すでに理解しているように、交流電流は一定の周波数を有するため、位相角における変化は上述したように検体におけるキャパシタンスの変化のためである。検体におけるキャパシタンスの変化がリアクタンスにおける変化を形成するため、以下で述べるように、リアクタンスにおける変化からHCTとPTを得ることができる。
【0038】
測定されたリアクタンスから、補間法によってHCTを計算することができる。以下にHCT計算の一例を説明する。また比較のためインピーダンスを使用した従来のHCT計算法も説明する。
【0039】
図5と図6にインピーダンスとリアクタンスの増加と共にHCTの割合が高くなることを示したグラフをそれぞれ示す。図6のグラフに示すように、この特定の例では、11秒目に、異なるHCT(29、39、47%)のリアクタンスがそれぞれ620.29、652.17、676.59Ωであった。そして、HCTとインピーダンスの関係(図7)またはHCTとリアクタンスの関係(図8)が計算された。図5に示すように、この特定の例では、HCTの最適なインピーダンスサンプリング時間は約20秒またはそれ以上であり、インピーダンス対HCT 較正曲線は方程式y=90.253x+2347.7で表された。さらに、図6に示すように、HCTの最適なリアクタンスサンプリング時間は約11秒またはそれ以上であり、リアクタンス対HCT較正曲線は方程式y=3.1304x+529.68で表された。ここで、xはHCT、yはインピーダンスまたはリアクタンスである。
【0040】
図9と図10に0.5秒ごとに60秒間にわたってLCRメータにより測定されたインピーダンス値とリアクタンス値のグラフを示す。一例において、全血が被験者から収集され、異なる量の血液凝固阻止薬(ヘパリン)を収集された全血に加えてさまざまな検体が用意された。一例では、凝固時間(PT)を調整するために使用されたヘパリンの濃度は1ミリリットル当たり約1Uと約30Uの間であった。その後、LCRメータ(Hioki Model No.3532-50)によってインピーダンスまたはリアクタンスを測定するため異なるPTの血液検体が分析された。
【0041】
図11と図12にPT対インピーダンス変化率較正曲線の例と、PT対リアクタンス変化率較正曲線の例をそれぞれ示す。この特定の例において、インピーダンスまたはリアクタンスの変化率が10秒ごとにLCRメータによって計算された。例えば、30〜40秒の変化率は次の式によって計算された。インピーダンス変化率30〜40=(Z40−Z30)/(時間40−時間30)であり、ここでZはインピーダンスであり、リアクタンス変化率30〜40=(X40−X30)/(時間40−時間30)であり、ここでXはリアクタンスである。計算の手順を繰り返して異なるPTの検体について血液のインピーダンスまたはリアクタンス変化率が計算され、それによりPT対インピーダンス変化率較正曲線(図7)とPT対リアクタンス変化率較正曲線(図8)が確定された。PT対インピーダンス変化率較正曲線は方程式y=−0.1849x+4.562、PT対リアクタンス変化率較正曲線は方程式y=−0.0256x+0.3604で表された。ここで、xは実際のPTであり、yはインピーダンスまたはリアクタンス変化率である。
【0042】
図11と図12に示すように、リアクタンス測定法の診断結果(図12)は典型的なインピーダンス測定法の結果(図11)と比較して標準偏差(SD値)が優れている。具体的には、本発明によるリアクタンス測定の採用は、典型的なインピーダンス測定法より有利であり、リアクタンス測定における標準偏差が大幅に減少され、本例における線形回帰値(R)は約0.9986である。したがって、本発明によるリアクタンス測定法は従来のインピーダンス測定法より正確な結果を得ることができ、スロープ偏差は血液凝固プロセスが延長されても許容できるものであるため、値の調整が容易である。
【0043】
一方、この特定の例において、図11に示すように、PT対インピーダンス変化率較正曲線の線形回帰(R)は約0.939であった。したがって、インピーダンス法は不正確な測定につながりやすいことが分かる。
【0044】
上述の例において、血液検体のインピーダンスとリアクタンスがLCRメータによって測定され、そのインピーダンス変化率とリアクタンス変化率が計算された。具体的には、HCT=(インピーダンス−2347.7)/90.253またはHCT=(リアクタンス−529.68)/3.1304の式でHCT較正曲線を用いてHCTが計算される。その後、PT較正曲線によって実際のPTが計算された。異なるHCTは異なるPT較正曲線に対応してもよい。この特定の例では、PTが式、PT=(インピーダンス変化率−4.562)/−0.1849またはPT=(リアクタンス変化率−0.3604)/−0.0256でPT較正曲線を用いて計算された。
【0045】
図13と図14にインピーダンスに基づく較正済みPT 対実際のPT、およびリアクタンスに基づく較正済みPT対実際のPTのグラフをそれぞれ示す。較正曲線によって計算されたPT値と、自動血液凝固分析器(Sysmex CA−500シリーズ)によって測定された実際のPT値が比較された。
【0046】
HCTの増減は血液凝固時間(PT)とインピーダンスまたはリアクタンスの変化率の値に影響を与える。具体的には、HCTがより高いとインピーダンスまたはリアクタンス変化率の値が増加する。このため、一部の実施形態におけるPT測定プロセスはHCT修正工程を含んでもよい。したがって、本発明の一部実施形態による装置はHCTとインピーダンス変化間の補間データ格納用の内部メモリを含む。
【0047】
本発明の一様態において、上述の例から計算されたPT値は、次の式に示す国際標準化比で修正してもよい。
【0048】
【数6】

ここで、INRは国際標準化比、PTはプロトロンビン時間、ISIは国際感受性指標である。
【0049】
図15Aと図15Bはそれぞれ、多孔質基板及び非多孔質基板をテストカードに用いた血液凝固分析を示すグラフである。これらの図に示すように、多孔質基板を用いた分析のほうが優れた結果となっている。
【0050】
図16Aから図16Cは、本発明のリアクタンス測定による異なる周波数での血液凝固分析を示すグラフである。血液検体の15〜50秒の凝固時間が0.1KHz、10KHz、50KHzの周波数で測定され、0.9636、0.9923、0.9858の回帰分析をそれぞれ計算することによってテスト結果Rが得られた。この場合、回帰分析は10KHzと50KHzの周波数を使用すると、0.1KHzの周波数に比べ、より優れた正確性が得られることを示している。
【0051】
本発明について実施例を挙げて最良の実施形態について説明してきたが、当業者であれば本発明の観点でさまざまな同等の置き換え、修正、変更が可能である。したがって、特許請求の範囲は、本発明の要旨と範囲を逸脱しないそのような置き換え、修正、変更を含めて広く解釈される必要がある。
【符号の説明】
【0052】
100 診断装置
110 検体テストカードアッセンブリ
120 センサー装置
122 テストカード受入ユニット
124 AC生成ユニット
126 位相角計算ユニット
128 信号受信ユニット
130 マイクロプロセッサ
132 温度センサー
134 温度維持ユニット
136 ディスプレイユニット
210 絶縁基板
220 電極システム
222 サンプリング区域
224 反応区域
225 テスト電極
226、228 電極
230 分離層
232 スペーサ
236 チャネル
240 カバー
242 吸気口
244 通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体のヘマトクリット(HCT)及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定するための診断装置であって、
相対電極式センサー装置と、
1組以上の電極を含むテストカードアッセンブリと、
を含んで成り、前記センサー装置によって提供される交流電流(AC)がリアクタンス分析を用いた血液テストのプロトロンビン時間及びHCTの一方又は両方の測定と計算に用いられることを特徴とする、診断装置。
【請求項2】
前記リアクタンス分析が、ACに応答するテストカードアッセンブリからの応答信号とAC信号を比較し、AC信号の位相における変化を計算して、リアクタンスとHCTを計算する、ことを含むことを特徴とする、請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記リアクタンス分析がさらに、キャパシタンスを計算し、そしてアルゴリズムでキャパシタンスを変換し、HCTを参照してプロトロンビン時間に修正することを含むことを特徴とする、請求項2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記リアクタンス分析がさらに、国際標準化比でプロトロンビン時間を修正することを含むことを特徴とする、請求項3に記載の診断装置。
【請求項5】
前記テストカードアッセンブリが、同一平面上または異なる平面上にそれぞれ設置された1組以上の貴金属電極を含むことを特徴とする、請求項1に記載の診断装置。
【請求項6】
前記流体テストカードアッセンブリが、多孔質材料から成るベースプレートを含むことを特徴とする、請求項1に記載の診断装置。
【請求項7】
前記テストカードアッセンブリのベースプレートが、約0.1μmから約10μmの範囲の直径を持つ複数の孔を含むことを特徴とする、請求項6に記載の診断装置。
【請求項8】
前記センサー装置が、
テストカードアッセンブリを収容するテストカード受入ユニットと、
前記テストカード受入ユニットの温度を一定温度に制御かつ維持する温度維持ユニットと、
あらかじめ定められた周波数と電圧で交流電流を前記テストカードアッセンブリに提供するAC生成ユニットと、
前記テストカードアッセンブリからの応答信号を取得する信号受信ユニットと、
応答信号を計算し、HCTとプロトロンビン時間の結果をレンダリングするマイクロプロセッサと、
前記マイクロプロセッサからのHCTとプロトロンビン時間の検査結果を表示するディスプレイユニットと、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の診断装置。
【請求項9】
前記マイクロプロセッサが、前記応答信号を元のAC信号と比較し、前記AC信号の位相における変化を計算して、リアクタンスとHCTを計算することを特徴とする、請求項8に記載の診断装置。
【請求項10】
前記マイクロプロセッサがさらに、アルゴリズムで前記キャパシタンスを変換し、HCTを参照してプロトロンビン時間に修正し、国際標準化比でプロトロンビン時間を計算することを特徴とする、請求項9に記載の診断装置。
【請求項11】
HCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定する方法であって、
テストカード受入ユニットにテストカードアッセンブリを用意する工程と、
前記テストカード受入ユニットの温度を一定温度に制御かつ維持する工程と、
前記テストカードアッセンブリに検査する検体を提供する工程と、
AC生成ユニットによりあらかじめ定められた周波数と電圧で交流電流を前記テストカードアッセンブリに提供する工程と、
前記テストカードアッセンブリからの応答信号を取得し、HCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方をマイクロプロセッサで計算する工程と、
ディスプレイユニットに検査結果を提供する工程と、
を含むことを特徴とする、HCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定する方法。
【請求項12】
前記テストカードアッセンブリからの応答信号を取得し、マイクロプロセッサでHCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を計算する工程が、テストカードアッセンブリからの応答信号を取得し、前記応答信号を元のAC信号と比較して、前記AC信号の位相における変化を計算し、マイクロプロセッサによりリアクタンスとHCTを計算するという工程を含むことを特徴とする、請求項11に記載のHCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定する方法。
【請求項13】
前記テストカードアッセンブリからの応答信号を取得して、プロトロンビン時間を計算する工程がさらに、
キャパシタンスを計算する工程と、
前記キャパシタンスをアルゴリズムで変換し、HCTを参照してプロトロンビン時間を修正する工程を含むことを特徴とする、請求項12に記載のHCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定する方法。
【請求項14】
前記テストカードアッセンブリからの応答信号を取得して、マイクロプロセッサによりプロトロンビン時間を計算する工程がさらに、国際標準化比でプロトロンビン時間を修正する工程を含むことを特徴とする、請求項13に記載のHCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定する方法。
【請求項15】
前記血液テストカードアッセンブリが、同一平面上または異なる平面上にそれぞれ設置された1組以上の貴金属電極を含むことを特徴とする、請求項11に記載のHCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定する方法。
【請求項16】
前記血液テストカードアッセンブリが、多孔質材料から成るベースプレートを含むことを特徴とする、請求項11に記載のHCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定する方法。
【請求項17】
前記テストカードアッセンブリの前記ベースプレートが、約0.1μmから約10μmの範囲の直径を持つ複数の孔を含むことを特徴とする、請求項11に記載のHCT及びプロトロンビン時間の一方又は両方を測定する方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−257403(P2011−257403A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−129559(P2011−129559)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(510291563)エイペックス バイオテクノロジー コーポレイション (3)
【氏名又は名称原語表記】APEX BIOTECHNOLOGY CORP.
【Fターム(参考)】