説明

検体特性計測装置

【課題】検体の特性の相違により発色の色調が変化する呈色試験紙を用いる検体特性計測装置において、より詳細に検体の特性を計測することである。
【解決手段】反射型光センサ10は、広い波長範囲の発光特性を有する発光素子20と、検出波長帯により受光特性が互いに異なる2つの受光素子50a,50bを含む。制御IC120の記憶部132は、各検出波長帯ごとに、検体の特性別の反射率の時間変化率についての標準テーブルを記憶する。呈色試験紙100の試験片102に検体がかけられて試験片102が発色すると、発光素子20から光が当てられ、戻される光の反射率が2つの受光素子50a,50bにより検出され、各検出波長帯における反射率の時間変化が算出される。その時間変化を標準テーブルと比較し、検体の特性が計測される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体がかけられることで発色する呈色試験紙に光を当て、その反射率に基づいて検体の特性を計測する検体特性計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人や動物の体液、例えばその血液、汗、尿等に含まれる成分、あるいは上下水道、工場廃水、土壌中に含まれる成分等を簡易に分析する手段として、呈色試験紙が用いられる。呈色試験紙とは、リトマス試験紙がその代表的なものとしてよく知られているが、スティック状の紙の先端に、検体をかけることで発色する試薬を含ませた試験片が取り付けられたものであり、発色の色調変化から検体に含まれる成分を分析することができる。
【0003】
例えば、尿をかけて試験片の色の変化から尿の特性を分析するものとして、ブトウ糖(尿糖)、蛋白質、潜血、尿中ウロブリノーゲン、ケトン体、ビリルビン、亜硝酸塩、白血球等の検出対象毎に異なる試験片または試験紙が市販されている。また、飲料水や工業排水中の金属イオン濃度を検出する試験紙や、食品添加物中の亜硝酸濃度を検出する試験紙、果汁等に含まれるビタミンC濃度を検出する試験紙、化学分析用として亜鉛成分や残留塩素、錫成分、六価クロム成分等を検出する試験紙等が用いられている。
【0004】
これら呈色試験紙を用いて検体の特性を分析するものとして、本願発明者は、特許文献1において、検体がかけられることで発色する試験片を有するスティック状の検体成分試験紙を用いる携帯型検体分析装置を提案している。ここでは、発光素子と受光素子とを組合せ、検体成分試験紙に光を当て、返ってくる光の反射強度を検出して検体成分の分析を行っている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−151082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら呈色試験紙の発色の仕方は色々である。例えば、尿に含まれる尿糖成分により発色するいわゆる尿糖試験紙では、緑系の発色を呈し、尿糖値が大きくなるにつれ、薄い緑色から濃い緑色に変化する。したがって、この場合には、同じ色調の範囲で、色の濃淡を区別することで尿糖値を検出できる。
【0007】
これに対し、検体の特性の相違を発色の色調を変えて教える呈色試験紙もある。代表例はpH試験紙で、よく知られるように、酸性の検体がかけられるときはオレンジ系の色に発色し、アルカリ性の検体がかけられるときは青系の色に発色する。したがって、この場合には、単なる色の濃淡の区別ではpHの相違を区別できないことがある。
【0008】
したがって、呈色試験紙によっては、それに光を当て、返ってくる光の反射強度を単に比較するだけでは、検体の分析に不十分な場合がある。
【0009】
本発明の目的は、検体の特性の相違により発色の色調が変化する呈色試験紙を用いて、より詳細に検体の特性を計測できる検体特性計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.本発明の原理
本発明は、pH試験紙について、検体のpHにより発色がどのように異なるのかを調査実験し、以下のような結果を得たことに基づくものである。図1は、pH試験紙におけるpHの相違による呈色の変化を表わす図であり、この例では、pH5からpH9までの相違に対し、オレンジ系の呈色から青系の呈色に激しく変化することが示されている。したがって、肉眼で定性的に見る分には、酸性かアルカリ性か判別が容易である。しかし、これを反射率の相違で区別するには問題がある。
【0011】
図2は、図1のpH試験紙の呈色変化を、横軸に光の波長、縦軸にその波長における反射率をとり、pHの相違による波長特性を実験的に求めたものである。このように、波長特性は、pHの相違により複雑な変化をしていることがわかった。例えば、波長450nmでは、pH9の検体がかけられたときが最も反射率が大きく、pH5の検体がかけられたときが最も反射率が小さい。これに対し、波長650nmでは、pH5の検体がかけられたときが最も反射率が大きく、pH9の検体がかけられたときが最も反射率が小さい。また、波長500nmから550nmの範囲では、pHの大小の変化に対し反射率の大小の変化が一方向ではなく、変化の順序が入り乱れている。
【0012】
このように、検出波長帯をどのようにとるかにより、pHの大小の変化に対する反射率の大小の変化についての順序が大きく異なることがわかった。したがって、単なる反射率の大小の比較では、検体のpHを区別することが困難である。
【0013】
しかし、図2のデータを詳細に検討することで、次のような方法が可能であることがわかる。例えば、尿糖成分の分析に用いられる試験紙は、青系から緑系の波長を用いるのが便利であるが、例えば波長530nmに注目すると、pH6以下についてpHの大小と反射率の大小の順序が入り乱れるが、pH7以上ではpHが大きいほど反射率は低くなる。一方、LED(Light Emission Diode)としてよく用いられるオレンジ系の波長、例えば650nmに注目すると、pH8以上ではpHの相違による反射率の変化が飽和に近いが、pH7以下では、pHが小さくなるほど反射率は大きくなる。
【0014】
換言すれば、pHの小さい酸性の検体がかけられるときはそのpHの相違によりオレンジ系の波長帯において反射率が一方向に変化し、pHの大きいアルカリ性の検体がかけられるときはそのpHの相違により青系の波長帯において反射率が一方向に変化する。それ以外では、pHの相違による反射率の変化は使いにくい。したがって、pHの変化の全域に渡って1つの検出波長帯を用いるのではなく、pHの小さいところで使いやすい検出波長帯と、pHの大きいところで使いやすい検出波長帯を補完して用いるようにすれば、より詳細に検体のpHを検出することができることになる。
【0015】
呈色試験紙の発色は、時々刻々変化する。したがって、発色が飽和したときの状態を検出して検体の特性を評価することもできるが、飽和まで待つのは時間がかかる上に、飽和の定義も面倒である。そこで、検体がかけられたときからの時間を定めて、呈色の時間変化を比較するほうが迅速でかつ定量的な処理に適する。そこで、pH試験紙に検体がかけられたときからの時間を測定し、そのときの反射率の時間変化を調査した。その結果を定性的に図3、図4に示す。
【0016】
図3、図4は、横軸に検体がpH試験紙にかけられたときからの時間を取り、縦軸に反射強度を取って反射強度の時間変化を示すものである。時刻Tと時刻Tとの間は約1秒である。反射強度は、広い波長範囲の発光特性を有する発光素子からpH試験紙に光を当て、その反射光を青系の検出波長帯λで受光感度がよいフォトダイオードと、オレンジ系の検出波長帯λで受光感度がよいオレンジ系検出用フォトダイオードとで同時に受け止め、その出力電圧値を規格化して示してある。規格化は、検体をかけないときの反射強度が同じになるようにした。図3は、pHが小さい酸性の検体をpH試験紙にかけた場合、図4は、pHが大きいアルカリ性の検体をpH試験紙にかけた場合の様子を示す。青系の検出波長帯λとしては、例えば530nmを、オレンジ系の検出波長帯λとしては、例えば650nmである。
【0017】
図3からは、pHが小さい酸性の検体をpH試験紙にかけた場合、オレンジ系の検出波長帯λにおいてpHの相違により反射率の時間変化の差異がはっきり見られるが、青系の検出波長帯λにおいてはpHの相違による反射率の時間変化がほとんど同じで差異が認めにくい。一方、図4からは、pHが大きいアルカリ性の検体をpH試験紙にかけた場合、青系の検出波長帯λにおいてpHの相違により反射率の時間変化の差異がはっきり見られるが、オレンジ系の検出波長帯λにおいてはpHの相違による反射率の時間変化がほとんど同じで差異が認めにくい。
【0018】
図3、図4の結果をまとめたものを図5に示す。ここでは検体のpHの相違により、反射率の時刻Tと時刻Tとの間の変化率を、検出波長帯ごとに示してある。反射率の時間変化率は、時刻Tにおける反射率を基準として求めてある。図5に示されるように、青系の検出波長帯帯λにおいては、pHの小さいところでは反射率の時間変化に差異がないが、pHが大きくなると、反射率の時間変化に差異がでてくる。一方、オレンジ系の検出波長帯帯λにおいては、pHの大きいところでは反射率の時間変化に差異がないが、pHが小さくなると、反射率の時間変化に差異がでてくる。すなわち、pHの大きい検体については青系の検出波長帯帯λにおける反射率の時間変化を用い、pHの小さい検体についてはオレンジ系の検出波長帯帯λにおける反射率の時間変化を用いることで、pHの相違を容易に検出できるはずである。
【0019】
したがって、例えば、pH試験紙に予めわかっているpHの液をかけ、時間とともに変化する反射率について、所定時間の色に対応する色のカラーサンプルを作っておく。そして、2つの検出波長帯を有する反射型光センサを用いて、そのカラーサンプルの反射率を測定し、図5のような標準テーブルを作成する。つぎに同じ反射型光センサを用いて、未知の検体をpH試験紙にかけ、その反射率の時間変化の結果を標準テーブルと比較する構成とすることで、検体のpHを特定する装置とできる。例えば、反射率の時間変化率の実測データが、青系の検出波長帯λで35%、オレンジ系の検出波長帯λで50%とすれば、図5と比較し、検体の特性の相違に対する反射率変化率の大きい方の青系の検出波長帯λのデータを補間して、pH=7.5と特定できる。別の検体について、青系の検出波長帯λで50%、オレンジ系の検出波長帯λで25%とすれば、図5と比較し、検体の特性の相違に対する反射率変化率の大きい方のオレンジ系の検出波長帯λのデータを補間して、pH=4.5と特定できる。
【0020】
以上述べた実験結果に基づき、検体の特性の相違により発色の色調が変化する呈色試験紙を用いるときは、複数の検出波長帯における反射率を検出し、各検出波長帯における反射率の時間変化に基づくことで、より詳細に検体の特性を特定できることがわかった。本発明に係る検体特性計測装置は、この原理に基づいて構成されるものである。
【0021】
2.課題解決手段
本発明に係る検体特性計測装置は、検体がかけられることで発色する呈色試験紙に光を当て、その反射率に基づいて検体の特性を計測する検体特性計測装置であって、発光デバイス又は受光デバイスの少なくとも一方が、異なる波長帯特性を有する複数の素子からなり、光が当てられた呈色試験紙について複数の検出波長帯における反射率を検出する反射型光センサと、検体がかけられた試験紙の反射率の各検出波長帯における時間変化に基づいて検体の特性を求める特性計測部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、特性計測部は、呈色試験紙に検体がかけられてからの反射率の時間変化データを各検出波長帯ごとに求める手段と、呈色試験紙の呈色変化について、検体の異なる特性ごとに、かつ複数の検出波長帯ごとに、標準となる反射率の時間変化データを保持する手段と、求められた反射率の時間変化データと、標準の反射率の時間変化データとの比較に基づき、検体の特性を特定する比較特定手段と、を有することが好ましい。
【0023】
また、比較特定手段は、複数の検出波長帯の中で、検体の特性の相違により反射率の時間変化の度合いが大きい検出波長帯のデータを用いて比較を行い検体の特性を特定することが好ましい。
【0024】
また、反射型光センサは、広い波長範囲の発光特性を有する発光デバイスと、波長帯により受光特性が互いに異なる複数の受光素子を有する受光デバイスとを組み合わせ、あるいは、波長帯により発光特性が互いに異なる複数の発光素子を有する発光デバイスと、広い波長範囲の受光特性を有する受光デバイスとを組み合わせて構成されることが好ましい。
【0025】
また、呈色試験紙は、検体の特性の相違により異なる発色を呈し、検体の特性の相違によって呈色の波長特性が異なる呈色試験紙であることが好ましい。また、呈色試験紙は、検体のpHの相違により異なる発色を呈し、検体のpHの相違によって呈色の波長特性が異なるpH試験紙であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
上記のように、本発明に係る検体特性計測装置によれば、検体の特性の相違により発色の色調が変化する呈色試験紙を用いて、より詳細に検体の特性を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下において、検体が尿である場合のpH計測を行う携帯型の装置について説明するが、携帯型以外のタイプ、例えば据え置き型の検体特性計測装置であってもよい。また、尿のpH計測でなくても、検体特性の相違を色調変化で教える呈色試験紙を用いるものであってもよい。例えば、図6に示すように、赤紫から青紫の色調変化で尿糖値の変化を示す尿糖成分試験紙を用いるもの等であってもよい。
【0028】
また、pH計測の対象検体は尿でなくても、飲料水、工業排水、果汁その他の測定対象液体であってもよい。また、検体特性を色調変化で教えるものであれば、pH試験紙でなくてもよい。例えば半定量イオン試験紙、分析用試験紙、簡易水質検査試験紙等を対象とすることができる。半定量イオン試験紙には、食品添加物中の亜硝酸濃度を検出する亜硝酸イオン用試験紙、土壌中の硝酸態窒素濃度を検出する硝酸イオン用試験紙、飲料水や工業排水中の金属イオン濃度を検出するアルミニウムイオン用試験紙、銅イオン用試験紙、ニッケルイオン用試験紙等の金属イオン用試験紙、果汁等に含まれるビタミンC濃度を検出するアスコルビン酸イオン試験紙等を含む。分析用試験紙には、亜鉛成分を分析する亜鉛用試験紙、残留塩素を分析する塩素用試験紙、錫成分を分析する錫用試験紙、六価クロム成分を分析する六価クロム用試験紙等を含む。
【0029】
呈色試験紙にかけられる検体としては、例えば工場廃水等の液体についてはそのまま検体として用いることができる。また、例えば土壌中の成分を対象とするときは、検査対象の土壌を乾燥させて精製水を加えて十分に攪拌し、その土壌溶液を適当なろ紙等でろ過し、これを検体とすることができる。
【0030】
呈色試験紙に検体をかけるには、文字通り検体を呈色試験紙に注ぐようにしてかける他、例えば容器に工業排水等の検体を採取し、その容器中の検体に呈色試験紙を取り付けた検体特性計測装置を浸すことでもよい。
【0031】
図7は、呈色試験紙100と、携帯型の検体特性計測装置110の構成を示す図で、図7(a)は、検体特性計測装置110の平面図及びそれに取り付けられる呈色試験紙100を示す図で、図7(b)は呈色試験紙100が取り付けられた検体特性計測装置110に検体である尿104がかけられたときの断面図、図7(c)は検体特性計測装置110を裏面から見た図である。
【0032】
呈色試験紙100は、尿がかけられることでそのpHに従って発色する試薬を含む試験片102を先端部分に有するスティック状の試験紙である。pHと呈色の関係は、図1に説明したように、pHに応じて色調が変化するものである。
【0033】
携帯型の検体特性計測装置110は、片手で把持できるハウジング112を備え、その長手方向に沿って呈色試験紙を挿入して保持する案内溝114を有する。また、先端部に近いところに、検体である尿を注いで保持するためのくぼみ116を備える。ハウジング112は防水構造となっており、その内部には、反射型光センサ10と、検体特性を特定して計測する制御IC120が回路基板に取り付けられて収納される。反射型光センサ10は後述するように、広い波長範囲の発光特性を有する発光素子と、検出波長帯が互いに異なる2つの受光素子からなる受光素子を有する。反射型光センサ10が配置されるところには、防水構造の検出窓が設けられ、この検出窓の位置に対応するところに呈色試験紙100の試験片102が来るように設定される。ハウジング112の裏面側には操作ボタンとともに、検体特性の計測結果を表示する小型ディスプレイ118が設けられる。
【0034】
かかる構成の作用を説明する。呈色試験紙100は、試験片102が反射型光センサ10のための検出窓に向かい合うようにして案内溝114に挿入され位置決めされる。そして、検体特性計測装置110の使用者は、ハウジング112を片手で把持し、尿104をくぼみ116に向けて注ぐ。くぼみ116に注がれた尿104は、案内溝114と呈色試験紙100の間の隙間を通り、試験片102に達し、試験片102を発色させる。反射型光センサ10は、検出窓を通して光を発色した試験片102に当て、戻される光を受け止めて、2つの検出波長帯における反射率を検出し、そのデータを制御IC120に出力する。制御IC120は、図5で説明した標準テーブルを備え、これと反射型光センサ10からのデータとに基づき、尿のpHを特定計測し、その結果を小型ディスプレイ118に出力する。
【0035】
図8は、検体特性計測装置110の検体特性計測に関する部分のブロック図である。反射型光センサ10は、発光素子20と、発光素子20から放射される光を外部に導く導光体30と、導光体30から放射され呈色試験紙100の試験片102に当たって戻される光を受取る受光素子50a,50bを含んで構成される。発光素子20は、広い波長範囲の発光特性を有する素子で、例えばLEDで構成することができる。導光体30は、例えば透明樹脂を所定の形状に成形し、その底部から発光素子20の光を受取り、上部の光放射口までの間光を外に漏らさないように必要な外表面を金属被膜でコーティングしたものを用いることができる。2つの受光素子50a,50bは、波長帯により受光特性が互いに異なるフォトダイオード等を用いることができる。例えば、一方の受光素子50aを青色系の検出波長帯λを有するフォトダイオードとし、他方の受光素子50bをオレンジ系の検出波長帯λを有するフォトダイオードとして用いる。フォトダイオードに代えてフォトトランジスタを用いることもできる。
【0036】
制御IC120は、CPU122と、発光素子20とのインターフェース回路である発光I/F124と、検出波長帯λの受光素子50aとの間のインターフェース回路であるλI/F126と、検出波長帯λの受光素子50bとの間のインターフェース回路であるλI/F128と、小型ディスプレイ118とのインターフェース回路である表示I/F130と、図5で説明した内容の標準テーブルを記憶する記憶部132とを含んで構成される。これらの各要素は、内部バスで接続される。
【0037】
制御IC120のCPU122は、標準テーブルを予め作成するためのティーチング部140の機能と、標準テーブルと比較して検体の特性を特定する特性計測部142の機能を含んで構成される。これらの機能はソフトウエアによって実現することができ、具体的には対応する検体特性計測プログラムを実行することで実現できる。また、各機能の一部をハードウエアで実現するように構成してもよい。
【0038】
かかる構成の作用、特にCPU122の各機能の内容に付き、図9、図10のフローチャートを用いて説明する。図9は、標準テーブルを作成するティーチングの手順のフローチャートであり、CPU122のティーチング部における処理手順の内容を示すものである。図10は、特性計測の手順のフローチャートであり、CPU122の特性計測部における処理手順の内容を示すものである。
【0039】
標準テーブルは、2つの検出波長帯を有する反射型光センサを用い、予めpHの分かっている検体をpH試験紙にかけてその反射率の時間変化を測定することで作成することもできる。しかし、ティーチングは必要に応じ行い、反射型光センサの経時変化等を常に較正できることが好ましい。そこで、ティーチングのたびに検体をpH試験紙にかけるのに代え、予め、各pHにおいて、反射率の時間変化率と等しい値となるカラーサンプルを用意し、このカラーサンプルを2つの検出波長帯を有する反射型光センサで測定してティーチングを行う。カラーサンプルを用意するには、最初にpH試験紙に予めpHのわかっている検体をかけ、検体をかけたときからの経過時刻Tにおける発色を標準として計測し、それと同じ色になるようにTカラーサンプルを用意し、同様に、検体をかけたときからの経過時刻Tにおける発色を標準として計測し、それと同じ色になるようにTカラーサンプルを用意する。すなわち、カラーサンプルは、各pHごとに、TカラーサンプルとTカラーサンプルとを1組として用意される。時刻TとTは、試験片102の発色が急に変化する期間内に設定するのが好ましい。例えば、Tについて検体をかけてから1秒後、TをTから1秒後、すなわち検体をかけてから2秒後と設定することができる。以下では、このカラーサンプルを用いるティーチングの手順について説明する。
【0040】
ティーチング処理においては、まず新しく呈色試験紙を用意する(S10)。具体的には、呈色試験紙100であるpH試験紙を検体特性計測装置110にセットする。また、ここで検体特性計測装置110の初期設定を行う。初期設定には、2つの受光素子50a,50bの感度調整が含まれる。具体的には、検体がかけられていない呈色試験紙100を用いて、発光素子20より光を当て、そのときの2つの受光素子50a,50bの反射率出力値を規格化する感度調整が行われる。これにより、反射率の変化率の算出が規格化されたものとなる。初期設定が終わると、カラーサンプルについての検出波長帯λ及び検出波長帯λでの反射率の測定が行われる。カラーサンプルは、上記のように、各pHごとにTカラーサンプルと、Tカラーサンプルの2つが用いられる。ここではpHの異なるカラーサンプルを順次用いるので、順番iで区別する。最初にi=1のカラーサンプルを用意するものとする(S12)。具体的には、pH=4,5,6,7,8,9に対応して、それぞれTカラーサンプルと、Tカラーサンプルを1組として備えるものとし、この順序に用いるとすれば、まずpH4のカラーサンプルの1組をi=1として用意する。
【0041】
そして、Tカラーサンプルを検体特性計測装置110にセットし、検出波長帯λ及び検出波長帯λでの反射率をそれぞれ計測する(S14)。具体的には、制御部120が発光I/F124を介して発光素子20に発光指示を出して、検出窓を通し、Tカラーサンプルに光を当て、戻ってくる光の反射率をλI/F126及びλI/F128を介して取得する。次に同様にして、Tカラーサンプルを検体特性計測装置110にセットし、検出波長帯λ及び検出波長帯λでの反射率をそれぞれ計測する(S16)。
【0042】
及びTにおいて、それぞれ検出波長帯λ及び検出波長帯λでの反射率が検出され取得されると、これらから検出波長帯λ及び検出波長帯λにおける反射率の変化率を算出する(S18)。反射率の変化率は、{(Tにおける反射率)−(Tにおける反射率)}/(Tにおける反射率)を絶対値の%で表わしたものを用いることができる。算出された結果は記録される(S20)。具体的には、記憶部132に記憶される標準テーブルの内容として記録される。
【0043】
そして、特性i=1のカラーサンプル、すなわちpH4のカラーサンプルについて上記の処理が終われば、i=2として、次のカラーサンプル、すなわちpH5のカラーサンプルの1組を改めて用意し、上記の処理を行い記録する。これを繰り返し(S24)、すべての特性についての記録が完了か否か判断し(S22)、すべての記録が完了すればティーチング処理は終了する。これにより、図5で説明した標準テーブルが完成し、記憶部132に記憶される。
【0044】
次に特性計測の処理手順につき説明する。最初に新しい呈色試験紙100が用意され、検体特性計測装置110の初期設定が行われる。この工程は図9のS10と同じである。初期設定が終わると、測定対象の検体、すなわちpHが未知の検体が検体特性計測装置110のくぼみ116に注がれ、これによりpHが未知の検体が呈色試験紙100の試験片102に注がれることになる(S30)。
【0045】
そして、図3、図4で説明したように、検体をかけてからの経過時刻Tにおいて検出波長帯λ及び検出波長帯λでの反射率をそれぞれ計測する(S32)。具体的には、制御部120が発光I/F124を介して発光素子20に発光指示を出して、検出窓を通し、検体がかけられた試験片102に光を当て、戻ってくる光の反射率をλI/F126及びλI/F128を介して取得する。同様に、検体をかけてからの経過時刻Tにおいて検出波長帯λ及び検出波長帯λでの反射率をそれぞれ計測する(S34)。時刻TとTは、カラーサンプルを用意するときに定めたものと同じにする。例えば、Tについて検体をかけてから1秒後、TをTから1秒後、すなわち検体をかけてから2秒後と設定することができる。
【0046】
次に、図9で説明したS18と同様に、測定対象の検体につき、検出波長帯λ及び検出波長帯λにおける反射率の変化率が算出され(S36)、標準テーブルと比較される(S38)。具体的には記憶部132から標準テーブルが読み出され、測定対象の検体についてのデータと比較される。そして、比較の結果に基づき、測定対象の検体の特性が特定される(S40)。上記で説明した例で、検出波長帯λにおける反射率変化率が35%、検出波長帯λにおける反射率変化率が50%とすれば、図5の標準テーブルと比較し、検体の特性の相違に対する反射率変化率の大きい方の検出波長帯λのデータを補間して、pH=7.5と特定する。特定された検体の特性、すなわちpH値は、表示I/F130を介して小型ディスプレイ118に出力される。
【0047】
このように、検体の特性の相違により発色の色調が変化するpH試験紙のような呈色試験紙を用いるときに、複数の検出波長帯における反射率を検出し、各検出波長帯における反射率の時間変化に基づくことで、より詳細に検体の特性を特定できる。
【0048】
上記において、反射型光センサは、広い波長範囲の発光特性を有する発光素子と、波長帯により受光特性が互いに異なる複数の受光素子を組合せて用いるものとして説明したが、波長帯により発光特性が互いに異なる複数の発光素子と、広い波長範囲の受光特性を有する受光素子とを組合せてもよい。また、発光素子から呈色試験紙に光が当てられ、その反射光を受光素子で受け止められ、その効率が所望範囲であれば、導光体を省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】pH試験紙におけるpHの相違による呈色の変化を表わす図である。
【図2】pHの相違によるpH試験紙の呈色変化の波長特性を示す図である。
【図3】pHが小さい酸性の検体をpH試験紙にかけた場合における反射率の時間変化の様子を説明する図である。
【図4】pHが大きいアルカリ性の検体をpH試験紙にかけた場合における反射率の時間変化の様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態における標準テーブルの例を示す図である。
【図6】赤紫から青紫の色調変化で尿糖値の変化を示す尿糖成分試験紙を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態における携帯型の検体特性計測装置の平面図、断面図及び裏面図である。
【図8】本発明に係る実施の形態における検体特性計測装置のブロック図である。
【図9】本発明に係る実施の形態におけるティーチングの手順のフローチャートである。
【図10】本発明に係る実施の形態における特性計測の手順のフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
10 反射型光センサ、20 発光素子、30 導光体、50a,50b 受光素子、100 呈色試験紙、102 試験片、104 尿、110 検体特性計測装置、112 ハウジング、114 案内溝、116 くぼみ、118 小型ディスプレイ、120 制御IC、122 CPU、124 発光I/F、126 λI/F、128 λI/F、130 表示I/F、132 記憶部、140 ティーチング部、142 特性計測部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体がかけられることで発色する呈色試験紙に光を当て、その反射率に基づいて検体の特性を計測する検体特性計測装置であって、
発光デバイス又は受光デバイスの少なくとも一方が、異なる波長帯特性を有する複数の素子からなり、光が当てられた呈色試験紙について複数の検出波長帯における反射率を検出する反射型光センサと、
検体がかけられた試験紙の反射率の各検出波長帯における時間変化に基づいて検体の特性を求める特性計測部と、
を備えることを特徴とする検体特性計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検体特性計測装置において、
特性計測部は、
呈色試験紙に検体がかけられてからの反射率の時間変化データを各検出波長帯ごとに求める手段と、
呈色試験紙の呈色変化について、検体の異なる特性ごとに、かつ複数の検出波長帯ごとに、標準となる反射率の時間変化データを保持する手段と、
求められた反射率の時間変化データと、標準の反射率の時間変化データとの比較に基づき、検体の特性を特定する比較特定手段と、
を有することを特徴とする検体特性計測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の検体特性計測装置において、
比較特定手段は、複数の検出波長帯の中で、検体の特性の相違により反射率の時間変化の度合いが大きい検出波長帯のデータを用いて比較を行い検体の特性を特定することを特徴とする検体特性計測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の検体特性計測装置において、
反射型光センサは、
広い波長範囲の発光特性を有する発光デバイスと、波長帯により受光特性が互いに異なる複数の受光素子を有する受光デバイスとを組み合わせ、あるいは、波長帯により発光特性が互いに異なる複数の発光素子を有する発光デバイスと、広い波長範囲の受光特性を有する受光デバイスとを組み合わせて構成されることを特徴とする検体特性計測装置。
【請求項5】
請求項1に記載の検体特性計測装置において、
呈色試験紙は、検体の特性の相違により異なる発色を呈し、検体の特性の相違によって呈色の波長特性が異なる呈色試験紙であることを特徴とする検体特性計測装置。
【請求項6】
請求項5に記載の検体特性計測装置において、
呈色試験紙は、検体のpHの相違により異なる発色を呈し、検体のpHの相違によって呈色の波長特性が異なるpH試験紙であることを特徴とする検体特性計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−47236(P2006−47236A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231962(P2004−231962)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(592018179)株式会社創成電子 (10)
【Fターム(参考)】