検出データ処理装置及びプログラム
【課題】回路基板における異常又は故障を高精度に検出することを支援する。
【解決手段】故障診断装置10の解析データ抽出部104は、回路基板の動作状態を検出する動作状態検出部1から取得された検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択し抽出する。第一マハラノビス距離算出部106は、正常な回路基板を動作させたときの検出データから解析データ抽出部104が抽出した解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの検出データと、に基づいて1段目のマハラノビス距離を算出する。
【解決手段】故障診断装置10の解析データ抽出部104は、回路基板の動作状態を検出する動作状態検出部1から取得された検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択し抽出する。第一マハラノビス距離算出部106は、正常な回路基板を動作させたときの検出データから解析データ抽出部104が抽出した解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの検出データと、に基づいて1段目のマハラノビス距離を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出データ処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーソナルコンピュータや複写機等の電子機器は、その性能や機能を実現するために、様々な用途のアナログおよびデジタルの電子回路が、PWBAと呼ばれるプリント配線板アセンブリ(以下、単に「回路基板」という)の形で搭載されている。また、自動車、航空、ロボット、半導体設計装置等といった他の産業機器においても、動作制御等の手段として、信頼性が高く、高速・高精度での動作が可能な回路基板が数多く搭載されている。これらの回路基板は、一連の機能を実現するために、様々な形でケーブルを介して接続されることにより、所望のスペックが実現されている。
【0003】
ところで、回路基板が搭載される機器が使用される環境は、通常はオフィス内であったり、家屋内であったりするが、それ以外の過酷な環境下で使用される場合もある。そのため、特に使用環境が劣悪である場合には、通常の方法で使用していたとしても、様々な異常や故障等が発生する可能性がある。また、通常の使用環境下で使用している場合でも、電子回路の異常や故障等は発生するが、その頻度は必ずしも低いとは言えない。このような回路基板に発生した異常や故障等については、安全性やコスト等の面から早急な対応が必要である。このことから、回路基板が搭載される機器においては、その回路基板の異常又は故障の検出を行うことがある。
【0004】
一方、各種の装置の異常又は故障の検出においてマハラノビス距離を用いる技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、紙葉類の良品または不良品の判別を行う技術において、紙葉類に対してレーザ光を走査したときの透過光量及び反射光量の測定データの平均値、標準偏差及びその参照データに基づいて相関係数を求め、この相関係数から紙葉類の良否を判別し、かつ平均値 、標準偏差、及び相関係数を用いてマハラノビスの距離を求め、このマハラノビス距離を閾値比較することで、紙葉類の良否判別を行う技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、MT(マハラノビス・タグチ)システムを用い、移動体の各部における特性量を第1の信号として計測し、第1の信号に対して、移動体の故障に基づく波形成分を強調する所定の信号処理を施して第2の信号を生成し、マハラノビス距離算出式に第2の信号から複数ポイントの信号値を抽出してベクトルデータを代入してマハラノビス距離を算出することで、移動体の故障を検出する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、半導体製造装置の正常動作状態下で所定のパラメータについてデータをサンプリングし、サンプリングされたデータ群に基づいてマハラノビス空間を作成し、半導体製造装置の動作状態で得られる前記パラメータについてマハラノビス距離を算出し、マハラノビス距離の値が所定の値を超えたとき、半導体製造装置が異常動作を生じたと判定する技術が開示されている。特許文献3には、さらに、前記パラメータ以外の複数のパラメータであってそれぞれが異常状況を示す複数のパラメータのそれぞれに基づいて異常状況下のマハラノビス空間を予め作成しておき、前述の正常動作状態下のデータに基づくマハラノビス空間に対して得られたマハラノビス距離から半導体製造装置が異常動作を生じたと判定された場合に、各パラメータが故障状況下である場合のマハラノビス空間に対応するマハラノビス距離を算出し、算出したマハラノビス距離が最も近い異常状況を示すパラメータに故障があったことを推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−339089号公報
【特許文献2】特開2008−108250号公報
【特許文献3】特開2000−114130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マハラノビス距離を用いて装置等の異常又は故障の検出を行う場合、その装置等の特徴をより良く表すパラメータに基づいてマハラノビス空間を生成すると、より高精度の検出結果が得られる。
【0010】
ところで、電子機器に搭載される回路基板は、その電子機器の高性能化や多機能化等に伴い、例えば複数の回路基板が接続されて構成されるといったように、その構成が複雑化や多様化する傾向にある。よって、電子機器に搭載される回路基板において、異常又は故障の発生時の回路基板の動作状態を事前に予測することは困難である場合がある。
【0011】
したがって、電子機器に搭載される回路基板の異常又は故障の検出にマハラノビス距離を用いる場合、マハラノビス空間を生成するのに適切なパラメータを選択して精度良く異常又は故障を検出することは困難である。
【0012】
本発明の目的の1つは、回路基板における異常又は故障を高精度に検出することを支援する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択する選択手段と、正常な回路基板を動作させたときの前記検出データから前記選択手段が選択した前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの前記検出データと、に基づいて第一のマハラノビス距離を算出する第一算出手段と、を備えることを特徴とする検出データ処理装置である。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記検出手段は、回路基板において複数の検出位置の動作状態を検出し、前記選択手段は、前記複数の検出位置のそれぞれに対応する前記検出データについて前記解析データを選択し、前記第一算出手段は、前記複数の検出位置のそれぞれについて、正常な回路基板を動作させたときの当該検出位置の前記検出データについて前記選択手段が選択した前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの当該検出位置の前記検出データと、に基づいて前記第一のマハラノビス距離を算出する。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において、前記正常な回路基板を動作させたときの前記複数の検出位置のそれぞれに対応する前記検出データと、当該検出位置について生成された前記第一のマハラノビス空間と、に基づいて、前記正常な回路基板に関する前記複数の検出位置ごとのマハラノビス距離を算出し、当該算出したマハラノビス距離から生成される第二のマハラノビス空間と、前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離と、に基づいて、前記診断対象の回路基板に関する第二のマハラノビス距離を算出する第二算出手段、をさらに備える。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において、前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離に基づいて、前記第二のマハラノビス距離の算出を行うか否かを決定する決定手段、をさらに備え、前記第二算出手段は、前記第二のマハラノビス距離の算出を行うことを前記決定手段が決定した場合に、前記第二のマハラノビス距離の算出を行う。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項2から4のいずれか1項に係る発明において、前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離を使用するか否かの組み合わせ条件を予め記憶した記憶手段を参照し、前記組み合わせ条件に従って、前記診断対象の回路基板に関するSN比を算出するSN比算出手段、をさらに備える。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、回路基板の故障原因ごとに、当該故障原因の故障の生じた回路基板に関して算出されたSN比を予め記憶した記憶手段をさらに参照し、前記SN比算出手段が算出した前記診断対象の回路基板に関するSN比と、前記記憶手段に記憶された前記故障原因ごとのSN比と、を用いて、前記診断対象の回路基板と前記故障原因それぞれの故障の生じた回路基板との間の相関関係を求め、求めた相関関係を表す値が最も大きい故障原因を出力する出力手段、をさらに備える。
【0019】
請求項7に係る発明は、回路基板の動作状態を検出する検出手段から正常な回路基板を動作させたときに取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択し、前記解析データを用いて生成されたマハラノビス空間を表す情報を記憶した記憶手段を参照し、前記記憶手段に記憶された前記マハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときに前記検出手段から取得した検出データと、に基づいてマハラノビス距離を算出する算出手段、を備えることを特徴とする検出データ処理装置である。
【0020】
請求項8に係る発明は、回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択するステップと、正常な回路基板を動作させたときの前記検出データから選択された前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの前記検出データと、に基づいて第一のマハラノビス距離を算出するステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラムである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1、7、又は8に係る発明によると、正常な回路基板の動作状態に応じて選択された解析データに基づく第一のマハラノビス空間を用いて第一のマハラノビス距離を算出できる。
【0022】
請求項2に係る発明によると、回路基板における複数の検出位置のそれぞれについて、正常な回路基板からの検出データに基づいて生成された第一のマハラノビス空間に対する第一のマハラノビス距離を算出できる。
【0023】
請求項3に係る発明によると、正常な回路基板からの検出データと故障の発生した回路基板からの検出データとの間の差異を、第一のマハラノビス距離よりもさらに強調して表す第二のマハラノビス距離を算出できる。
【0024】
請求項4に係る発明によると、第一のマハラノビス距離の算出結果に応じて第二のマハラノビス距離の算出を行うか否かを決定できる。
【0025】
請求項5に係る発明によると、診断対象の回路基板における各検出位置に対応する第一のマハラノビス距離についてSN比を求めることができる。
【0026】
請求項6に係る発明によると、診断対象の回路基板の故障原因の特定を支援する情報を出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】回路基板の動作状態を検出する検出手段を設けた回路基板の一例を示す図である。
【図2A】回路基板に設けられた平面コイルの出力信号の時間変化の例を示す図である。
【図2B】回路基板に設けられた平面コイルの出力信号の時間変化の他の例を示す図である。
【図3】回路基板の動作状態を検出する検出手段の構成の例を示す図である。
【図4】図3に例示する配置の等価回路を示す図である。
【図5】回路基板の動作状態を検出する検出手段の構成の他の例を示す図である。
【図6】故障診断装置の構成の例を示すブロック図である。
【図7】故障診断装置で行われる処理の手順の例を示すフローチャートである。
【図8】検出データから特徴値を算出する処理の例を説明するための図である。
【図9】検出データを分割した期間ごとの特徴値間の相関係数を求める処理の例を説明するための図である。
【図10】期間ごとの特徴値間の相関係数行列の例を示す図である。
【図11A】マハラノビス空間の生成に用いられる特徴値の例を示す表である。
【図11B】正規化後の特徴値の例を示す表である。
【図12】故障診断処理の手順の例を示すフローチャートである。
【図13】マハラノビス距離算出処理の手順の例を示すフローチャートである。
【図14】第一マハラノビス距離算出部が算出する1段目のマハラノビス距離の値の例を示す図である。
【図15】2段目のマハラノビス距離の算出に用いられる値の例を示す図である。
【図16】マハラノビス距離算出処理の手順の他の例を示すフローチャートである。
【図17】故障診断装置の構成の他の例を示すブロック図である。
【図18】故障診断処理の手順の他の例を示すフローチャートである。
【図19】故障原因特定処理の手順の例を示すフローチャートである。
【図20】L28直交表の例を示す図である。
【図21】各コイルのマハラノビス距離のSN比に関して得られる要因効果図の例を示す図である。
【図22】故障原因ごとに得られる1段目のマハラノビス距離の例を示す図である。
【図23】故障原因ごとに算出されるSN比の例を示す図である。
【図24】故障診断装置の構成のさらに他の例を示す図である。
【図25】コンピュータのハードウエア構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下で説明する本発明の各種の実施形態では、回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得される検出データを用いて、回路基板の故障診断のための処理が行われる。
【0029】
図1に、回路基板の動作状態を検出する検出手段を設けた回路基板の一例を示す。図1を参照し、回路基板Sには、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integration Circuit)、及びSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)等の各部品及び部品間を電気的に接続する配線が設けられる。回路基板Sには、さらに、平面コイルc1,c2,c3,c4が設けられる。平面コイルcは、回路基板Sの動作状態を検出する検出手段である。平面コイルcは、例えば、回路基板S上の各部品の付近及び/又は配線の付近に配置され、回路基板Sの動作中に発生する誘導起電力を検出する。この誘導機電力が検出データとして後述の実施形態の処理に用いられる。平面コイルcは、平面コイルを配線したFPC(Flexible Printed Circuit)を回路基板Sに密着させる等の方法により回路基板Sに設けられる。
【0030】
図2A及び図2Bに、回路基板Sを動作させたときの平面コイルcの出力信号の時間変化の例を示す。図2Aは、回路基板Sの正常時の平面コイルcの出力信号の一例を示す。図2Bは、回路基板Sの故障時の平面コイルcの出力信号の一例を示す。図2A及び図2Bに例示する出力波形は、回路基板S上の同じ位置に設けられた平面コイルcから得られたものである。回路基板Sの故障時の平面コイルcの出力信号の波形は正常時の波形と異なる。回路基板Sの故障時の平面コイルcの出力信号は、回路基板Sの故障原因に応じて様々な波形を示し得る。故障原因としては、例えば、部品不良、断線、及び短絡などが挙げられる。
【0031】
以下、図3〜図5を参照し、回路基板の動作状態を検出する検出手段を平面コイルの他の構成で実現する場合の例を述べる。
【0032】
図3は、回路基板31に設けられたIC(Integrated Circuit)33のピンから回路基板31の入出力部へ直接接続される配線群35における動作状態を検出する例を示す。配線群35に垂直にインピーダンス成分として容量成分34を配置し、信号の変化に際して発生するクロストークによってその両端に生ずる電位Vcoupleを測定する。図4は、図3に例示する配置の等価回路を示す。図4を参照し、配線群43に直交するように容量成分41を配置する。容量成分41を構成するラインと各配線群35との間にはクロストークを生じる原因となる浮遊容量成分42が生じる。
【0033】
図5では、回路基板51の入出力部へ接続される単線の配線(マイクロストリップライン)55において回路基板51の面に垂直に容量成分54を配置し、信号の変化に際して発生するクロストークによってその両端に生ずる電位Vcoupleを測定する。この例の場合、回路基板51上の入出力配線ごとに、図5に例示するように容量成分54を設けて電位Vcoupleを測定して信号変化の状態を得る。
【0034】
図3〜図5を参照して説明した例では、電位Vcoupleの測定値が、回路基板の動作状態の検出データとして用いられる。
【0035】
なお、以下の各種の実施形態の説明では、1つの回路基板に24個の平面コイル(以下、単に「コイル」と言う)を設け、回路基板の動作状態を表す検出データとして各コイルが検出する誘導起電力を用いるものとする。しかしながら、回路基板に設けられる検出手段の種類及び個数はこれに限定されるものではない。以下で説明する各種の実施形態及び変形例における処理において、例えば、図3〜図5の例の容量成分のように、誘導起電力と異なる検出データを検出する検出手段を用いてもよい。また、1つの回路基板に設ける検出手段の個数は、例えば、回路基板の開発者などにより動作状態の検出が必要と判断された回路基板上の位置に応じて異なる数に設定してよい。
【0036】
<第1実施形態>
図6に、第1実施形態における故障診断装置の構成の例を示す。故障診断装置10は、回路基板の動作状態を検出する動作状態検出部1と電気的に接続される。本例において、動作状態検出部1は、上述のように、回路基板に設けられた24個のコイルを備える。
【0037】
故障診断装置10は、動作状態検出部1からの検出データを用いて回路基板の故障診断を行う。故障診断装置10の機能の一部が本発明の1つの実施形態の検出データ処理装置として機能する。故障診断装置10は、動作状態データ格納部100、正常データ格納部102、解析データ抽出部104、第一マハラノビス距離算出部106、第二マハラノビス距離算出部108、正常/故障判定部110、及び結果表示部112を備える。
【0038】
動作状態データ格納部100は、動作状態検出部1から取得した検出データを格納する。本例では、回路基板に設けられた24個のコイルから取得される誘導起電力の検出データが動作状態データ格納部100に格納される。
【0039】
正常データ格納部102は、正常な回路基板を動作させたときに動作状態検出部1から取得される検出データを格納する。正常データ格納部102は、さらに、後述する解析データ及びマハラノビス空間など、正常な回路基板を動作させたときの検出データから得られる各種の情報を格納する。
【0040】
解析データ抽出部104は、動作状態データ格納部100に格納された診断対象の回路基板の検出データ及び正常データ格納部102に格納された検出データから故障診断装置10における処理に用いる解析データを抽出する。
【0041】
第一マハラノビス距離算出部106は、正常な回路基板の検出データから解析データ抽出部104が抽出した解析データを用いて生成したマハラノビス空間と、診断対象の回路基板の検出データから解析データ抽出部104が抽出した解析データと、に基づいてマハラノビス距離を算出する。
【0042】
第二マハラノビス距離算出部108は、第一マハラノビス距離算出部106が用いたマハラノビス空間に対する正常な回路基板の解析データのマハラノビス距離と、第一マハラノビス距離算出部106が診断対象の回路基板に付いて算出したマハラノビス距離と、を用いて、再度マハラノビス距離を算出する。
【0043】
正常/故障判定部110は、第二マハラノビス距離算出部108が算出したマハラノビス距離を用いて、診断対象の回路基板における故障の有無を判定する。
【0044】
結果表示部112は、正常/故障判定部110による判定の結果を表示する。
【0045】
以下、故障診断装置10の各部が行う処理の詳細を説明する。
【0046】
図7は、第一マハラノビス距離算出部106で用いるマハラノビス空間を生成する処理の手順の例を示すフローチャートである。図7の例の手順の処理は、診断対象の回路基板に対する故障診断処理のための準備に相当する処理である。
【0047】
マハラノビス空間は、正常データ格納部102に格納された正常な回路基板の検出データに基づいて生成される。図7の例の処理の開始時には、正常データ格納部102に、正常な回路基板についての複数の事例の検出データが予め格納されているものとする。ここで、1つの「事例」の検出データとは、予め設定された長さの時間だけ正常な回路基板を動作させたときに動作状態検出部1から得られる検出データである。本例では、各事例の検出データは、正常な回路基板に設けられた24個のコイルのそれぞれが検出した誘導起電力の時系列データ(例えば図2参照)を含む。なお、複数の事例の検出データは、1つの正常な回路基板を複数回動作させて得た検出データであってよいし、部品の配置及び部品間の配線とコイルの配置とが同じである複数の回路基板(いずれも正常であることがわかっているもの)をそれぞれ動作させて得た検出データであってもよい。また、複数の事例において両者が混在していてもよい。
【0048】
図7の例の処理が開始されると、まず、解析データ抽出部104は、正常データ格納部102中の各事例の検出データについて、予め設定された期間に分割し、分割した期間ごとの特徴値を求める(ステップS1)。
【0049】
図8を参照し、ステップS1の処理の例の詳細を説明する。図8(a)は、1つの事例の検出データに含まれる1つのコイルの検出データ(誘導起電力の時系列データ)の例を示し、図8(b)は、図8(a)に例示する検出データから求められる特徴値の例を示す。解析データ抽出部104は、図8(a)に例示するように、コイルの検出データを予め設定された期間に分割する。そして、分割した期間ごとに、その期間に含まれる検出値(本例では誘導起電力の値)から得られる特徴値を算出する。この特徴値は、当該期間に含まれる検出値から算出される統計量(例えば、総和、二乗和、標準偏差、最大値、又は最小値など)であってよい。図8(b)に例示するグラフ中の各点は、図8(a)に例示するグラフを分割した各期間の検出値から得られる特徴値を示す。
【0050】
図7のステップS1では、解析データ抽出部104は、正常データ格納部102中の事例ごとに、24個のコイルのそれぞれの検出データに対して、分割した期間ごとの特徴値(図8(b)参照)を求める。
【0051】
次に、解析データ抽出部104は、分割した期間ごとの特徴値の間の相関係数を求める(ステップS3)。例えば、ステップS1で、各事例の各コイルの検出データをNT個の期間に分割して各期間の特徴値を求めたとすると、各コイルについて図9の例の表に示す特徴値が得られる。図9を参照すると、各列は期間1,2,〜NTのそれぞれに対応し、各行は事例1〜Ncase(Ncaseは正常な事例の個数)のそれぞれに対応する。図9の例の表中のfi,jは、i番目の事例における期間jの特徴値を表す。図7のステップS3では、解析データ抽出部104は、期間j(j=1,2,…,NT)の特徴値の系列{f1,j,f2,j,…,fNcase,j}から2つを選択した組のすべてについて、2つの特徴値の系列の間の相関係数を求める。
【0052】
相関係数は、2つの変数間の相関を示す指標であり、2つのデータ列{x1,…,xn},{y1,…,yn}の間の相関係数rは、次の式(1)で求められる。
【数1】
ただし、
【数2】
である。
【0053】
解析データ抽出部104は、例えば、式(1)及び式(2)のxi及びyiのそれぞれに、期間j,k(j≠k)の特徴値fi,j,fi,k(i=1,…,Ncase)を代入することで、期間ごとの特徴値間の相関係数を求める。
【0054】
図7のステップS3の処理の結果として、動作状態検出部1が備える24個のコイルのそれぞれについて、期間ごとの特徴値間の相関係数行列が得られる。図10の例の表は、特徴値間の相関係数行列の一例である。図10の例の表において、行と列とが交差する欄の値は、当該行の期間の特徴値の系列と当該列の期間の特徴値の系列との間の相関係数を示す。なお、相関係数行列は対称行列となる。
【0055】
各コイルについて期間ごとの特徴値間の相関係数を求めると、解析データ抽出部104は、各コイルについて、予め設定された閾値以上の相関係数を有する特徴値の系列の組のうち、一方の特徴値の系列を削除する(ステップS5)。例えば、期間mの特徴値の系列と期間nの特徴値の系列との間の相関係数が予め設定された閾値以上である場合に、期間m又は期間nの特徴値の系列を削除する。このとき、期間m及び期間nのいずれの特徴値の系列を削除するかは、任意に決定してよい。例えば、2つの系列のうちより小さい(又はより大きい)番号の期間の特徴値の系列を削除するように予め設定しておいてもよいし、削除する系列を2つの系列からランダムに決定してもよい。なお、ステップS5の閾値は、例えば、0.8〜0.9の間に設定される。
【0056】
ステップS5の処理により、各コイルについて、他の期間の特徴値の系列との間の相関係数が予め設定された閾値よりも小さい期間の特徴値の系列が削除されずに残ることになる。言い換えると、ステップS5の処理は、各コイルについて、前述の条件を満たす期間の特徴値の系列を選択する処理である。また、相関係数は、2つのデータ系列の間の類似性を表す数値であることから、ステップS5の処理では、他の期間の特徴値の系列との間の類似性の低い期間の特徴値を選択しているとも捉えられる。
【0057】
各コイルについてステップS5の処理が終了すると、解析データ抽出部104は、各コイルについて選択された期間の特徴値の系列を正常事例の解析データとして抽出する(ステップS7)。解析データ抽出部104は、抽出した解析データを正常データ格納部102に格納する。例えば、各コイルの識別情報に対応づけて、当該コイルについて選択された期間を表す識別情報とともに選択された期間の特徴値の系列を正常データ格納部102に格納する。
【0058】
ステップS7で抽出された正常事例の解析データを用いて、第一マハラノビス距離算出部106は、各コイルについてのマハラノビス空間を生成する(ステップS9)。マハラノビス空間とは、マハラノビス距離の算出における基準空間である。
【0059】
1つのコイルについてのマハラノビス空間は、例えば以下のように生成される。当該コイルについてK個の期間の特徴値の系列がステップS7で抽出されたとし、各系列を{x11,x21,…,xNcase1},{x12,x22,…,xNcase2},…,{x1K,x2K,…,xNcaseK}と表す(図11A参照。各系列は図11Aの表の列に対応)。まず、第一マハラノビス距離算出部106は、各系列の解析データを次の式(3)に従って正規化する。
【数3】
ただし、式(3)において、mjは、j番目の系列{x1j,x2j,…,xNcasej}の平均値であり、sjは、j番目の系列の標準偏差である。
【0060】
そして、正規化後の解析データの各系列{u11,u21,…,uNcase1},{u12,u22,…,uNcase2},…,{u1K,u2K,…,uNcaseK}(図11B参照。各系列は図11Bの表の列に対応)について、次の式(4)に示す相関係数行列Rを求める。
【数4】
【0061】
式(4)に示す相関係数行列Rの要素rij(i,j=1,2,…,K;i≠j)は、正規化後の解析データのi番目の系列{u1i,u2i,…,uNcasei}とj番目の系列{u1j,u2j,…,uNcasej}との間の相関係数である。また、相関係数行列Rにおいて、rij=rjiであり、i=jのときrij=1である。
【0062】
さらに、第一マハラノビス距離算出部106は、この相関係数行列Rの逆行列A(式(5))を求める。
【数5】
【0063】
行列Aの要素aij(i,j=1,2,…,K)は、行列の逆行列を求める公知のアルゴリズムにより算出すればよい。この行列Aを当該コイルについてのマハラノビス空間とする。
【0064】
第一マハラノビス距離算出部106は、診断対象の回路基板に関するマハラノビス距離の算出(後に詳述)に用いるため、各コイルについて求めたマハラノビス空間Aの各要素aijを正常データ格納部102に格納しておく。
【0065】
図7の例の手順の処理の実行後、診断対象の回路基板に対する故障診断処理が行われる。
【0066】
以下、図12を参照し、回路基板に対する故障診断処理の例を説明する。図12は、故障診断処理の手順の一例を示すフローチャートである。故障診断装置10は、図12の例の手順の処理の開始の前に診断対象の回路基板の検出データを取得しておく。例えば、診断対象の回路基板を予め設定された長さの時間だけ動作させ、その時間分の検出データを動作状態検出部1が取得して動作状態データ格納部100に格納しておく。図12の例の手順の処理は、例えば、ユーザが故障診断装置10に対して入力装置(図示しない)を介して故障診断処理の開始を指示した場合に開始される。
【0067】
図12を参照し、まず、解析データ抽出部104は、診断対象の回路基板の検出データについて、正常事例の解析データに対応する期間ごとの特徴値を算出する(ステップS10)。ステップS10の処理において、解析データ抽出部104は、まず、動作状態データ格納部100から診断対象の回路基板の検出データを取得する。本例では、検出データは、動作状態検出部1として回路基板に設けられた各コイルから検出される誘導起電力の時系列データである。次に、解析データ抽出部104は、正常データ格納部102を参照し、各コイルについて、正常事例の解析データとして抽出された期間(図7のステップS5で選択された期間)を特定する。そして、診断対象の回路基板の検出データに含まれる各コイルの時系列データを用いて、当該コイルに対応する正常事例のコイルについて抽出された期間の特徴値を算出する。ここで算出される特徴値の種類(総和、二乗和、標準偏差、最大値、又は最小値など)は、図7のステップS1で正常な回路基板の検出データから算出された特徴値の種類と同様とする。
【0068】
ステップS10の後、算出した特徴値を診断対象の解析データとして抽出する(ステップS20)。ステップS10及びステップS20により、診断対象の回路基板に設けられた各コイルについて、正常事例の解析データに対応する期間ごとの特徴値が診断対象の解析データとして求められる。
【0069】
次に、診断対象の解析データを用いたマハラノビス距離算出処理(ステップS30)が行われる。
【0070】
図13は、マハラノビス距離算出処理(ステップS30)の詳細手順の例を示すフローチャートである。
【0071】
図13を参照し、第一マハラノビス距離算出部106により、診断対象の解析データについてコイルごとのマハラノビス距離が算出される(ステップS300)。以下、1つのコイルに対するステップS300の処理の手順の例を説明する。まず、第一マハラノビス距離算出部106は、当該コイルについて図12のステップS20で抽出された特徴値{xp1,xp2,…,xpK}を上記の式(3)に従って正規化し、正規化後の特徴値{up1,up2,…,upK}を求める。なお、式(3)中のmj及びsjは、それぞれ、当該コイルに対応する正常事例のコイルについて図7のステップS5で選択されたK個の期間のうちj番目の期間の特徴値の系列{x1j,x2j,…,xNcasej}の平均値及び標準偏差である。正規化後の特徴値を求めると、第一マハラノビス距離算出部106は、当該コイルに対応するコイルのマハラノビス空間A(式(5))の各要素aijを正常データ格納部102から読み出し、次の式(6)に従ってマハラノビス距離D2を算出する。
【数6】
【0072】
以上で説明した処理を24個のコイルのそれぞれについて実行することで、診断対象の各コイルの解析データについて、各コイルの正常事例の解析データから生成されたマハラノビス空間に対するマハラノビス距離が算出される。以下、各コイルのマハラノビス空間に対して算出されるマハラノビス距離を「1段目」のマハラノビス距離と呼ぶ。図14に、1段目のマハラノビス距離の一例を示す。図14の例のグラフは、コイル番号1〜24のコイルのそれぞれについて算出された1段目のマハラノビス距離の値を示す。
【0073】
第二マハラノビス距離算出部108は、コイルごとに算出された1段目のマハラノビス距離を用いて、再度マハラノビス距離を算出する(ステップS302)。以下では、第二マハラノビス距離算出部108が算出するマハラノビス距離を「2段目」のマハラノビス距離と呼ぶ。
【0074】
図15に、2段目のマハラノビス距離の算出に用いられる値の例を示す。図15を参照し、破線で囲んだ部分に含まれる値は、正常な回路基板におけるNcase個の事例のそれぞれについての、各コイルのマハラノビス空間Aに対するマハラノビス距離MDm,n(m=1,…,Ncase;n=1,…,24)である。事例mについてのコイルnのマハラノビス距離MDm,nは、コイルnの事例mの正規化後の特徴値{um1,um2,…,umK}(図11Bの表の行に対応)とコイルnのマハラノビス空間Aの各要素とを上記の式(6)に代入することで求められる。また、図15の例の表の最終行のマハラノビス距離MDp,1,…,MDp,24は、各コイルについて診断対象の解析データを用いて図13のステップS300で算出された1段目のマハラノビス距離である(例えば、図14参照)。
【0075】
図13のステップS302で、第二マハラノビス距離算出部108は、まず、正常事例の各コイルの(1段目の)マハラノビス距離を用いて、マハラノビス空間を生成する。具体的には、コイルnの正常事例のマハラノビス距離の系列{MD1,n,…MDNcase,n}を上記の式(3)に従って正規化し、正規化後のマハラノビス距離の系列から相関係数行列R(式(4))を生成する。このとき、式(3)のmj及びsjは、それぞれ、コイルnのマハラノビス距離の系列{MD1,n,…MDNcase,n}の平均値及び標準偏差である。さらに、生成した相関係数行列Rから、その逆行列A=R−1の各要素aijの値を算出する。この逆行列Aは、2段目のマハラノビス距離を求める基準のマハラノビス空間となる。また、第二マハラノビス距離算出部108は、診断対象の解析データの各コイルについて算出された1段目のマハラノビス距離MDp,1,…,MDp,24を式(3)に従って正規化する。そして、正規化後のマハラノビス距離MD´p,1,…,MD´p,24を上記の式(6)のupi(i=1,2,…,24)とし、正常事例のマハラノビス距離から生成した上述のマハラノビス空間Aの各要素aijとともに式(6)に代入することで、2段目のマハラノビス距離を算出する。
【0076】
ステップS302の後、マハラノビス距離算出処理は終了し、処理は図12のステップS40に進む。
【0077】
再び図12を参照し、ステップS40において、正常/故障判定部110は、診断対象の回路基板が故障しているか否かを判定する。本例では、正常/故障判定部110は、図13のステップS302で算出された2段目のマハラノビス距離が予め設定された閾値を超えていれば故障と判定し、2段目のマハラノビス距離が予め設定された閾値以下であれば正常と判定する。
【0078】
故障と判定されると(ステップS40でYES)、結果表示部112は診断対象の回路基板の故障発生を表す情報を表示し(ステップS50)、正常と判定されると(ステップS40でNo)、結果表示部112は、診断対象の回路基板が正常である旨を表す情報を表示する(ステップS60)。ステップS50及びステップS60では、結果表示部112による表示に換えて、あるいは結果表示部112による表示に加えて、故障診断装置10に接続された他の装置(例えば、コンピュータ又はプリンタなど)に対して故障発生を表す情報(ステップS50)及び正常の旨を表す情報(ステップS60)を出力してもよい。
【0079】
ステップS50又はステップS60の後、図12の例の手順の故障診断処理は終了する。
【0080】
以下、マハラノビス距離算出処理(図12のステップS30,図13)の変形例を説明する。1つの変形例のマハラノビス距離算出処理では、1段目のマハラノビス距離の算出処理(図13のステップS300)だけを行い、2段目のマハラノビス距離の算出処理(ステップS302)を行わない。本変形例のマハラノビス距離算出処理を行う場合、故障の有無の判定(図12のステップS40)において、正常/故障判定部110は、各コイルについて算出された1段目のマハラノビス距離を用いて診断対象の回路基板の故障の有無を判定する。例えば、予め設定された閾値を超える1段目のマハラノビス距離を有するコイルが所定の個数(事前に設定しておく)を超えれば故障と判定し、所定の個数以下であれば正常と判定する。あるいは、例えば、すべてのコイルについての1段目のマハラノビス距離が予め設定された閾値以下である場合に正常と判定し、その他の場合に故障と判定してもよい。
【0081】
他の1つの変形例のマハラノビス距離算出処理では、1段目のマハラノビス距離の算出結果に応じて2段目のマハラノビス距離の算出を実行するか否かを決定する。図16に、本変形例のマハラノビス距離算出処理の手順の例を示す。図16に例示するフローチャートは、図13のステップS300とステップS302との間にステップS301の判定処理を含む。ステップS301では、各コイルについて算出された1段目のマハラノビス距離を用いて2段目のマハラノビス距離の算出を行うか否かが決定される。例えば、予め設定された閾値を超える1段目のマハラノビス距離を有するコイルが所定の個数(事前に設定しておく)を超えれば2段目のマハラノビス距離の算出を行うことを決定し、所定の個数以下であれば2段目のマハラノビス距離の算出を行わないことを決定する。また例えば、すべてのコイルについての1段目のマハラノビス距離が予め設定された閾値以下である場合に2段目のマハラノビス距離の算出を行い、その他の場合は2段目のマハラノビス距離の算出を行わないことを決定する。2段目のマハラノビス距離の算出を行うことが決定されると(ステップS301でYES)、ステップS302が実行され、2段目のマハラノビス距離の算出を行わないことが決定されると(ステップS301でNO)、ステップS302を実行せずに図16の例の手順の処理は終了する。本変形例の場合、正常/故障判定部110による判定処理(図12のステップS40)では、例えば、2段目のマハラノビス距離が算出されていない場合、又は2段目のマハラノビス距離が算出されているけれどもその値が予め設定された閾値以下である場合に、診断対象の回路基板が正常であると判定し、2段目のマハラノビス距離が算出されていてその値が予め設定された閾値を超える場合に、診断対象の回路基板が故障していると判定すればよい。
【0082】
<第2実施形態>
図17は、第2実施形態における故障診断装置の構成の例を示すブロック図である。図17において、図6と同様の要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。図17の例の故障診断装置10は、図6に例示する故障診断装置10(第1実施形態)が備える各要素に加えて、SN比算出部120、直交表データ格納部122、故障原因特定部124、及び故障原因別SN比格納部126を備える。
【0083】
SN比算出部120は、診断対象の回路基板について算出された1段目のマハラノビス距離に関するSN比を算出する。ここでの「SN比」は、システムの出力のばらつきを表す尺度であり、品質工学(タグチメソッド)で用いられる尺度である。本実施形態の例において、SN比算出部120は、診断対象の回路基板に設けられる24個のコイル(動作状態検出部1)についての1段目のマハラノビス距離のそれぞれをパラメータとし、これらのパラメータのうちSN比の算出に使用するパラメータの組み合わせを定めた直交表に従って、各組み合わせについてのSN比を算出する。この直交表は直交表データ格納部122に予め格納され、SN比算出部120は、直交表データ格納部122を参照してSN比を算出する。
【0084】
故障原因特定部124は、診断対象の回路基板で故障が発生していると正常/故障判定部110が判定した場合に、当該回路基板についてSN比算出部120が算出したSN比を用いて当該回路基板の故障の原因を特定する処理を行う。故障原因特定部124は、故障の原因が判明している回路基板について算出されたSN比を故障原因別に予め格納した故障原因別SN比格納部126を参照して、診断対象の回路基板の故障原因を特定する。
【0085】
図18に、第2実施形態における回路基板の故障診断処理の手順の例を示す。図18の例のフローチャートは、ステップS70の故障原因特定処理を除いて、第1実施形態の故障診断処理の例を表す図12のフローチャートと同様である。また、第1実施形態の故障診断処理に関して上述したのと同様、図18の例の故障診断処理の前に、図7の例の手順の処理を実行し、正常な回路基板の検出データから解析データを抽出し、各コイルについてマハラノビス空間を生成しておく。
【0086】
図18を参照し、ステップS10〜ステップS40では、図12を参照して説明したステップS10〜ステップS40と同様の処理が行われる。ステップS40で診断対象の回路基板が故障していると判定されると、故障原因特定処理(ステップS70)が行われる。
【0087】
図19は、故障原因特定処理の詳細手順の例を示すフローチャートである。図18のステップS70の処理が開始されると、図19の例の手順の処理が開始される。
【0088】
図19を参照し、まず、SN比算出部120は、診断対象の解析データに関して算出された1段目のマハラノビス距離を用いて、直交表データ格納部122に格納された直交表に従ってSN比を算出する(ステップS700)。
【0089】
本例では、図20に例示する直交表L28を表す情報が直交表データ格納部122に予め格納されているものとする。図20の例の直交表L28の列1〜24は各コイル1〜24(についてのマハラノビス距離)に対応し、列25〜27は誤差に対応する列とする。直交表L28の各行は、SN比の算出に使用するコイルのマハラノビス距離の組み合わせを表す。直交表L28において、行と列とが交差する欄の記号「○」は、当該行の組み合わせにおいて当該列のコイルのマハラノビス距離をSN比の算出に使用することを表し、記号「×」は、当該行の組み合わせにおいて当該列のコイルのマハラノビス距離をSN比の算出に使用しないことを表す。例えば、図20の例の直交表L28の行1は、すべての列の欄が「○」であるので、すべてのコイル1〜24のマハラノビス距離をSN比の算出に使用することを表す。
【0090】
以下、ステップS700において図20の直交表L28に従ってSN比を算出する手順の例を説明する。SN比算出部120は、診断対象の解析データの各コイルについて算出された1段目のマハラノビス距離MDp,1,…,MDp,24を用いて、直交表L28の行1〜28について、それぞれ、SN比ηL28−1,ηL28−2,…,ηL28−28を算出する。ここで、直交表L28の行iのSN比ηL28−iは、次の式(7)に従って算出される。
ηL28−i=10・log(yi2/Si2) (7)
【0091】
式(7)において、
yi=ΣMDp,ui/24 (8)
Si2=Σ(MDp,ui−MDp,AVE)2/(24−1) (9)
である。式(8)及び式(9)において、“ui”は、直交表L28の行iにおいてSN比の算出に使用するものとして設定されているコイル(記号「○」の欄に対応するコイル)の番号を表し、MDp,uiは、当該番号のコイルについてのマハラノビス距離を表す。
【0092】
また、式(9)におけるMDp,AVEは、
MDp,AVE=ΣMDp,k/24 (10)
である(k=1,2,3,…,24)。
【0093】
行1〜28のSN比ηL28−1,ηL28−2,…,ηL28−28を算出した後、SN比算出部120は、診断対象の解析データについて、各コイルのマハラノビス距離のSN比に対する要因効果を表す値(SN比k−○−SN比k−×)を求める(ステップS702)。SN比k−○は、コイルkを使用して算出されたSN比から定まる値であり、SN比k−×は、当該コイルkを使用せずに算出されたSN比から定まる値である。SN比k−○及びSN比k−×は、それぞれ、以下の式(11),式(12)により求められる。
SN比k−○=ΣηL28−withk (11)
SN比k−×=ΣηL28−withoutk (12)
式(11)において、“withk”は、直交表L28において、コイルkの欄が「○」である行の番号を表す。また、式(12)において、“withoutk”は、コイルkの欄が「×」である行の番号を表す。
【0094】
図21は、各コイルkのSN比k−○及びSN比k−×を示す要因効果図の一例である。図21の例において、各コイルkに対応する左側の点がSN比k−○の値を表し、右側の点がSN比k−×の値を表す。
【0095】
診断対象の解析データについてコイルkごとにSN比k−○−SN比k−×が求められると(k=1,2,3,…,24)、故障原因特定部124により、診断対象の解析データについてのSN比k−○−SN比k−×と、故障原因別のSN比k−○−SN比k−×と、の間の相関係数が算出される(ステップS704)。
【0096】
故障原因別のSN比k−○−SN比k−×は、故障原因の識別情報と関連づけて予めSN比格納部126に格納される。故障原因別のSN比k−○−SN比k−×は、例えば、以下のように求められる。まず、故障原因が判明している回路基板からの検出データを処理対象として、図12及び図18のステップS10,S20、図13のステップS300に関して上述したのと同様の処理により、1段目のマハラノビス距離が算出される。
【0097】
図22に、故障原因ごとに算出される1段目のマハラノビス距離の例を示す。図22の例の表は、故障原因「故障A」,「故障B」,…ごとに、各事例の検出データから算出された各コイルについての1段目のマハラノビス距離を示す。図22の例において、各「事例」のマハラノビス距離は、対応する故障原因の故障が発生した回路基板を予め設定された長さの時間だけ動作させて得られる検出データについて求めたマハラノビス距離である。図22の例の表では、「故障A」について1つの事例のマハラノビス距離MDA,1,…,MDA,24を示し、「故障B」について2つの事例のマハラノビス距離MDB,1−1,…,MDB,1−24及びMDB,2−1,…,MDB,2−24を示す。図22に例示する故障原因ごとの1段目のマハラノビス距離を用いて、直交表L28(図20参照)の各行に対応するSN比が故障原因ごとに算出される。
【0098】
図23に、直交表L28の各行に対応するSN比の例を示す。図23を参照し、1つの事例のマハラノビス距離が算出された「故障A」の行iのSN比ηA−L28−iは、上記の式(7)に従って求められる。式(7)のyi及びSi2は、式(8)〜式(10)において、MDp,uiにMDA,uiを代入し、MDp,kにMDA,kを代入することで求められる。また、2つの事例についてマハラノビス距離が算出された「故障B」の各行のSN比ηB−L28−1,…,ηB−L28−28は、各事例1,2についての行iのSN比ηB−L28−1−i,ηB−L28−2−iを用いて、次の式(13)に従って求められる。
ηB−L28−i=10・log{yBi/{(1/ηB−L28−1−i)2+(1/ηB−L28−2−i)2}} (13)
ただし、yBiは故障Bのyiを表し、yB1は故障Bの事例1のyiを、yB2は故障Bの事例2のyiを表し、yBi=(yB1+yB2)で表す。
【0099】
ただし、「故障B」の事例1についての行iのSN比ηB−L28−1−iは、式(8)〜式(10)において、MDp,uiにMDB,1−uiを代入し、MDp,kにMDB,1−kを代入することで求めたyi,Si2を式(7)に代入することで求められ、事例2についての行iのSN比ηB−L28−2−iは、式(8)〜式(10)において、MDp,uiにMDB,2−uiを代入し、MDp,kにMDB,2−kを代入することで求めたyi,Si2を式(7)に代入することで求められる。
【0100】
以上のように故障原因Xごとに直交表L28の行iに対応するSN比ηX−L28−iを求めると、上記の式(11)及び式(12)に従って、当該故障原因Xにおける各コイルkについてのSN比k−○及びSN比k−×が求められる。これにより、故障原因ごとのコイルkの要因効果を表す値SN比k−○−SN比k−×が算出される。すなわち、故障原因ごとに、図21に例示した要因効果図と同様の構成の要因効果図が得られることになる。故障原因別SN比格納部126には、各故障原因の識別情報に対応づけて、当該故障原因について求められたSN比k−○−SN比k−×(k=1,2,…,24)が格納される。
【0101】
図19の説明に戻り、故障原因特定部124によるステップS704の処理により、上述のように算出されて予め故障原因別SN比格納部126に格納されたSN比k−○−SN比k−×について、故障原因ごとに、ステップS702で診断対象の解析データから算出されたSN比k−○−SN比k−×との間の相関係数が得られる。例えば、故障原因別SN比格納部126に故障原因A〜FのSN比k−○−SN比k−×が予め格納されていた場合、故障原因A〜Fのそれぞれについて相関係数が得られる。
【0102】
その後、結果表示部112は、ステップS704で得られた相関係数が最大である故障原因を診断対象の回路基板の故障原因として表示する(ステップS706)。なお、ステップS706では、図12のステップS50,S60を参照して説明したのと同様、結果表示部112による表示に換えて、あるいは結果表示部112による表示に加えて、故障診断装置10に接続された他の装置に対して、相関係数が最大である故障原因を診断対象の回路基板の故障原因とする情報を出力してもよい。ステップS706が終了すると、図19の例の手順の故障原因特定処理は終了する。
【0103】
再び図18を参照し、ステップS70(故障原因特定処理)又はステップS60の終了後、故障診断処理は終了する。
【0104】
<第3実施形態>
図24に、第3実施形態における故障診断装置10の構成の例を示す。図24に例示する故障診断装置10は、図17の例の故障診断装置10が備える各要素に加えて、正常データ更新部130及び故障原因別SN比更新部132を備える。図24において、図17と同様の構成要素には同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0105】
正常データ更新部130は、正常データ格納部102のデータ内容を更新する。例えば、正常データ更新部130は、正常な回路基板からの検出データを新たに取得し、新たに取得した検出データを処理対象として図7の例の手順の処理を行うことで、解析データを抽出し、新たなマハラノビス空間を生成する。あるいは、正常データ更新部130は、新たに取得した検出データと正常データ格納部102に格納済みの検出データとの両方を用いて新たなマハラノビス空間の生成を行ってもよい。正常データ更新部130は、新たに取得した検出データから抽出した解析データ及び生成した新たなマハラノビス空間を正常データ格納部102に格納することで正常データ格納部102を更新する。なお、正常データ更新部130が取得する「正常な回路基板からの検出データ」は、正常であることが既に判明している回路基板から取得した検出データであってもよいし、正常/故障判定部110が正常であると判定した回路基板の検出データであってもよい。
【0106】
故障原因別SN比更新部132は、故障原因別SN比格納部126を更新する。例えば、故障原因別SN比更新部132は、故障原因が判明している回路基板からの検出データを新たに取得し、当該検出データに係る故障原因について、当該検出データを用いて、コイルkごとのSN比k−○−SN比k−×を、図22及び図23を参照して上記で説明したとおりに再度算出する。そして、算出したSN比k−○−SN比k−×を対応する故障原因の識別情報と関連づけて故障原因別SN比格納部126に格納することで、故障原因別SN比格納部126を更新する。故障原因別SN比更新部132が新たに取得する検出データは、例えば、故障原因特定部124により故障原因が特定された回路基板からの検出データであってよい。
【0107】
正常データ更新部130及び故障原因別SN比更新部132のそれぞれにおける上述の更新処理は、例えば予め設定された時間間隔で行ってもよいし、管理者又は回路基板の開発者などにより指定されたタイミングで行なってもよい。
【0108】
第3実施形態の変形例では、図6の例の故障診断装置10の各構成要素に加えてさらに上述の正常データ更新部130を備える故障診断装置10を実現してもよい。
【0109】
上述の各種の実施形態の例では、動作状態検出部1から取得される時系列の検出データを分割した期間ごとに特徴値を算出し、期間ごとの特徴値の系列の間の相関係数行列を求めることで、マハラノビス空間の生成に用いる解析データを抽出する(図7及び図8参照)。上述の各種の実施形態において、検出データを分割して期間ごとの検出値の統計量を特徴値として算出する代わりに、各時刻の検出値をそのまま当該時刻の特徴値として用いてもよい。この例において、マハラノビス空間を生成する処理では、例えば、図7の例の手順のステップS1を省略し、ステップS3において、複数の正常事例の検出データの各時刻ごとの検出値の系列の間の相関係数を求めて相関係数行列を生成する。例えば、図10の例の表における期間1,2,…,NTを検出データの各時刻に置き換えた相関係数行列が生成される。時刻ごとの検出値(特徴値)間の相関係数行列を用いて図7の例のステップS5以下の処理を行うことで、他の時刻の検出値の系列との間の相関係数が予め設定された閾値以下である時刻の検出値の系列が解析データとして抽出され、マハラノビス空間が生成される。本例の場合、故障診断処理において診断対象の回路基板の検出データから抽出される解析データは、正常時例の各コイルについて抽出された解析データに対応する時刻の検出値である。
【0110】
上述の各種の実施形態及び変形例の故障診断装置10は、例えば、汎用のコンピュータにより実現される。また例えば、マイクロコンピュータにより演算を行う組み込みシステムとして故障診断装置10を実現してもよい。いずれにしても、故障診断装置は、例えば、図25の例のハードウエア構成を有する装置により実現される。図25に例示する装置は、CPU60、メモリ(一次記憶)62、各種I/O(入出力)インタフェース64等がバス66を介して接続された回路構成を有する。また、そのバス66に対し、例えばI/Oインタフェース64経由で、記憶装置68や、動作状態検出部として機能する機器からの検出データなどの情報の入力を受け付ける入力部70、処理の結果を表示する表示部72などが接続される。上述の実施形態の処理内容が記述されたプログラムが記憶装置68に記憶され、記憶されたプログラムがメモリ62に読み出されCPU60により実行されることにより、実施形態の処理が実現される。
【0111】
なお、上述の各種の実施形態及び変形例では、故障診断装置10の各部の機能を1つのコンピュータで実現する態様を説明したが、これに限定されるものではない。故障診断装置10の各部の機能は一般的なコンピュータをプログラムにより制御することによって実現できるものであり、これらの装置の各機能を適宜組み合わせて1つのコンピュータで処理させてもよいし、各機能をネットワーク等で接続された複数のコンピュータで分散処理させてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 動作状態検出部、10 故障診断装置、31,51 回路基板、33 IC、34,41,54 容量成分、35,43 配線群、42 浮遊容量成分、60 CPU、62 メモリ、64 I/Oインタフェース、66 バス、68 記憶装置、70 入力部、72 表示部、100 動作状態データ格納部、102 正常データ格納部、104 解析データ抽出部、106 第一マハラノビス距離算出部、108 第二マハラノビス距離算出部、110 正常/故障判定部、112 結果表示部、120 SN比算出部、122 直交表データ格納部、124 故障原因特定部、126 故障原因別SN比格納部、130 正常データ更新部、132 故障原因別SN比更新部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出データ処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーソナルコンピュータや複写機等の電子機器は、その性能や機能を実現するために、様々な用途のアナログおよびデジタルの電子回路が、PWBAと呼ばれるプリント配線板アセンブリ(以下、単に「回路基板」という)の形で搭載されている。また、自動車、航空、ロボット、半導体設計装置等といった他の産業機器においても、動作制御等の手段として、信頼性が高く、高速・高精度での動作が可能な回路基板が数多く搭載されている。これらの回路基板は、一連の機能を実現するために、様々な形でケーブルを介して接続されることにより、所望のスペックが実現されている。
【0003】
ところで、回路基板が搭載される機器が使用される環境は、通常はオフィス内であったり、家屋内であったりするが、それ以外の過酷な環境下で使用される場合もある。そのため、特に使用環境が劣悪である場合には、通常の方法で使用していたとしても、様々な異常や故障等が発生する可能性がある。また、通常の使用環境下で使用している場合でも、電子回路の異常や故障等は発生するが、その頻度は必ずしも低いとは言えない。このような回路基板に発生した異常や故障等については、安全性やコスト等の面から早急な対応が必要である。このことから、回路基板が搭載される機器においては、その回路基板の異常又は故障の検出を行うことがある。
【0004】
一方、各種の装置の異常又は故障の検出においてマハラノビス距離を用いる技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、紙葉類の良品または不良品の判別を行う技術において、紙葉類に対してレーザ光を走査したときの透過光量及び反射光量の測定データの平均値、標準偏差及びその参照データに基づいて相関係数を求め、この相関係数から紙葉類の良否を判別し、かつ平均値 、標準偏差、及び相関係数を用いてマハラノビスの距離を求め、このマハラノビス距離を閾値比較することで、紙葉類の良否判別を行う技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、MT(マハラノビス・タグチ)システムを用い、移動体の各部における特性量を第1の信号として計測し、第1の信号に対して、移動体の故障に基づく波形成分を強調する所定の信号処理を施して第2の信号を生成し、マハラノビス距離算出式に第2の信号から複数ポイントの信号値を抽出してベクトルデータを代入してマハラノビス距離を算出することで、移動体の故障を検出する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、半導体製造装置の正常動作状態下で所定のパラメータについてデータをサンプリングし、サンプリングされたデータ群に基づいてマハラノビス空間を作成し、半導体製造装置の動作状態で得られる前記パラメータについてマハラノビス距離を算出し、マハラノビス距離の値が所定の値を超えたとき、半導体製造装置が異常動作を生じたと判定する技術が開示されている。特許文献3には、さらに、前記パラメータ以外の複数のパラメータであってそれぞれが異常状況を示す複数のパラメータのそれぞれに基づいて異常状況下のマハラノビス空間を予め作成しておき、前述の正常動作状態下のデータに基づくマハラノビス空間に対して得られたマハラノビス距離から半導体製造装置が異常動作を生じたと判定された場合に、各パラメータが故障状況下である場合のマハラノビス空間に対応するマハラノビス距離を算出し、算出したマハラノビス距離が最も近い異常状況を示すパラメータに故障があったことを推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−339089号公報
【特許文献2】特開2008−108250号公報
【特許文献3】特開2000−114130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マハラノビス距離を用いて装置等の異常又は故障の検出を行う場合、その装置等の特徴をより良く表すパラメータに基づいてマハラノビス空間を生成すると、より高精度の検出結果が得られる。
【0010】
ところで、電子機器に搭載される回路基板は、その電子機器の高性能化や多機能化等に伴い、例えば複数の回路基板が接続されて構成されるといったように、その構成が複雑化や多様化する傾向にある。よって、電子機器に搭載される回路基板において、異常又は故障の発生時の回路基板の動作状態を事前に予測することは困難である場合がある。
【0011】
したがって、電子機器に搭載される回路基板の異常又は故障の検出にマハラノビス距離を用いる場合、マハラノビス空間を生成するのに適切なパラメータを選択して精度良く異常又は故障を検出することは困難である。
【0012】
本発明の目的の1つは、回路基板における異常又は故障を高精度に検出することを支援する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択する選択手段と、正常な回路基板を動作させたときの前記検出データから前記選択手段が選択した前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの前記検出データと、に基づいて第一のマハラノビス距離を算出する第一算出手段と、を備えることを特徴とする検出データ処理装置である。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記検出手段は、回路基板において複数の検出位置の動作状態を検出し、前記選択手段は、前記複数の検出位置のそれぞれに対応する前記検出データについて前記解析データを選択し、前記第一算出手段は、前記複数の検出位置のそれぞれについて、正常な回路基板を動作させたときの当該検出位置の前記検出データについて前記選択手段が選択した前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの当該検出位置の前記検出データと、に基づいて前記第一のマハラノビス距離を算出する。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において、前記正常な回路基板を動作させたときの前記複数の検出位置のそれぞれに対応する前記検出データと、当該検出位置について生成された前記第一のマハラノビス空間と、に基づいて、前記正常な回路基板に関する前記複数の検出位置ごとのマハラノビス距離を算出し、当該算出したマハラノビス距離から生成される第二のマハラノビス空間と、前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離と、に基づいて、前記診断対象の回路基板に関する第二のマハラノビス距離を算出する第二算出手段、をさらに備える。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において、前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離に基づいて、前記第二のマハラノビス距離の算出を行うか否かを決定する決定手段、をさらに備え、前記第二算出手段は、前記第二のマハラノビス距離の算出を行うことを前記決定手段が決定した場合に、前記第二のマハラノビス距離の算出を行う。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項2から4のいずれか1項に係る発明において、前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離を使用するか否かの組み合わせ条件を予め記憶した記憶手段を参照し、前記組み合わせ条件に従って、前記診断対象の回路基板に関するSN比を算出するSN比算出手段、をさらに備える。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、回路基板の故障原因ごとに、当該故障原因の故障の生じた回路基板に関して算出されたSN比を予め記憶した記憶手段をさらに参照し、前記SN比算出手段が算出した前記診断対象の回路基板に関するSN比と、前記記憶手段に記憶された前記故障原因ごとのSN比と、を用いて、前記診断対象の回路基板と前記故障原因それぞれの故障の生じた回路基板との間の相関関係を求め、求めた相関関係を表す値が最も大きい故障原因を出力する出力手段、をさらに備える。
【0019】
請求項7に係る発明は、回路基板の動作状態を検出する検出手段から正常な回路基板を動作させたときに取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択し、前記解析データを用いて生成されたマハラノビス空間を表す情報を記憶した記憶手段を参照し、前記記憶手段に記憶された前記マハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときに前記検出手段から取得した検出データと、に基づいてマハラノビス距離を算出する算出手段、を備えることを特徴とする検出データ処理装置である。
【0020】
請求項8に係る発明は、回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択するステップと、正常な回路基板を動作させたときの前記検出データから選択された前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの前記検出データと、に基づいて第一のマハラノビス距離を算出するステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラムである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1、7、又は8に係る発明によると、正常な回路基板の動作状態に応じて選択された解析データに基づく第一のマハラノビス空間を用いて第一のマハラノビス距離を算出できる。
【0022】
請求項2に係る発明によると、回路基板における複数の検出位置のそれぞれについて、正常な回路基板からの検出データに基づいて生成された第一のマハラノビス空間に対する第一のマハラノビス距離を算出できる。
【0023】
請求項3に係る発明によると、正常な回路基板からの検出データと故障の発生した回路基板からの検出データとの間の差異を、第一のマハラノビス距離よりもさらに強調して表す第二のマハラノビス距離を算出できる。
【0024】
請求項4に係る発明によると、第一のマハラノビス距離の算出結果に応じて第二のマハラノビス距離の算出を行うか否かを決定できる。
【0025】
請求項5に係る発明によると、診断対象の回路基板における各検出位置に対応する第一のマハラノビス距離についてSN比を求めることができる。
【0026】
請求項6に係る発明によると、診断対象の回路基板の故障原因の特定を支援する情報を出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】回路基板の動作状態を検出する検出手段を設けた回路基板の一例を示す図である。
【図2A】回路基板に設けられた平面コイルの出力信号の時間変化の例を示す図である。
【図2B】回路基板に設けられた平面コイルの出力信号の時間変化の他の例を示す図である。
【図3】回路基板の動作状態を検出する検出手段の構成の例を示す図である。
【図4】図3に例示する配置の等価回路を示す図である。
【図5】回路基板の動作状態を検出する検出手段の構成の他の例を示す図である。
【図6】故障診断装置の構成の例を示すブロック図である。
【図7】故障診断装置で行われる処理の手順の例を示すフローチャートである。
【図8】検出データから特徴値を算出する処理の例を説明するための図である。
【図9】検出データを分割した期間ごとの特徴値間の相関係数を求める処理の例を説明するための図である。
【図10】期間ごとの特徴値間の相関係数行列の例を示す図である。
【図11A】マハラノビス空間の生成に用いられる特徴値の例を示す表である。
【図11B】正規化後の特徴値の例を示す表である。
【図12】故障診断処理の手順の例を示すフローチャートである。
【図13】マハラノビス距離算出処理の手順の例を示すフローチャートである。
【図14】第一マハラノビス距離算出部が算出する1段目のマハラノビス距離の値の例を示す図である。
【図15】2段目のマハラノビス距離の算出に用いられる値の例を示す図である。
【図16】マハラノビス距離算出処理の手順の他の例を示すフローチャートである。
【図17】故障診断装置の構成の他の例を示すブロック図である。
【図18】故障診断処理の手順の他の例を示すフローチャートである。
【図19】故障原因特定処理の手順の例を示すフローチャートである。
【図20】L28直交表の例を示す図である。
【図21】各コイルのマハラノビス距離のSN比に関して得られる要因効果図の例を示す図である。
【図22】故障原因ごとに得られる1段目のマハラノビス距離の例を示す図である。
【図23】故障原因ごとに算出されるSN比の例を示す図である。
【図24】故障診断装置の構成のさらに他の例を示す図である。
【図25】コンピュータのハードウエア構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下で説明する本発明の各種の実施形態では、回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得される検出データを用いて、回路基板の故障診断のための処理が行われる。
【0029】
図1に、回路基板の動作状態を検出する検出手段を設けた回路基板の一例を示す。図1を参照し、回路基板Sには、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integration Circuit)、及びSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)等の各部品及び部品間を電気的に接続する配線が設けられる。回路基板Sには、さらに、平面コイルc1,c2,c3,c4が設けられる。平面コイルcは、回路基板Sの動作状態を検出する検出手段である。平面コイルcは、例えば、回路基板S上の各部品の付近及び/又は配線の付近に配置され、回路基板Sの動作中に発生する誘導起電力を検出する。この誘導機電力が検出データとして後述の実施形態の処理に用いられる。平面コイルcは、平面コイルを配線したFPC(Flexible Printed Circuit)を回路基板Sに密着させる等の方法により回路基板Sに設けられる。
【0030】
図2A及び図2Bに、回路基板Sを動作させたときの平面コイルcの出力信号の時間変化の例を示す。図2Aは、回路基板Sの正常時の平面コイルcの出力信号の一例を示す。図2Bは、回路基板Sの故障時の平面コイルcの出力信号の一例を示す。図2A及び図2Bに例示する出力波形は、回路基板S上の同じ位置に設けられた平面コイルcから得られたものである。回路基板Sの故障時の平面コイルcの出力信号の波形は正常時の波形と異なる。回路基板Sの故障時の平面コイルcの出力信号は、回路基板Sの故障原因に応じて様々な波形を示し得る。故障原因としては、例えば、部品不良、断線、及び短絡などが挙げられる。
【0031】
以下、図3〜図5を参照し、回路基板の動作状態を検出する検出手段を平面コイルの他の構成で実現する場合の例を述べる。
【0032】
図3は、回路基板31に設けられたIC(Integrated Circuit)33のピンから回路基板31の入出力部へ直接接続される配線群35における動作状態を検出する例を示す。配線群35に垂直にインピーダンス成分として容量成分34を配置し、信号の変化に際して発生するクロストークによってその両端に生ずる電位Vcoupleを測定する。図4は、図3に例示する配置の等価回路を示す。図4を参照し、配線群43に直交するように容量成分41を配置する。容量成分41を構成するラインと各配線群35との間にはクロストークを生じる原因となる浮遊容量成分42が生じる。
【0033】
図5では、回路基板51の入出力部へ接続される単線の配線(マイクロストリップライン)55において回路基板51の面に垂直に容量成分54を配置し、信号の変化に際して発生するクロストークによってその両端に生ずる電位Vcoupleを測定する。この例の場合、回路基板51上の入出力配線ごとに、図5に例示するように容量成分54を設けて電位Vcoupleを測定して信号変化の状態を得る。
【0034】
図3〜図5を参照して説明した例では、電位Vcoupleの測定値が、回路基板の動作状態の検出データとして用いられる。
【0035】
なお、以下の各種の実施形態の説明では、1つの回路基板に24個の平面コイル(以下、単に「コイル」と言う)を設け、回路基板の動作状態を表す検出データとして各コイルが検出する誘導起電力を用いるものとする。しかしながら、回路基板に設けられる検出手段の種類及び個数はこれに限定されるものではない。以下で説明する各種の実施形態及び変形例における処理において、例えば、図3〜図5の例の容量成分のように、誘導起電力と異なる検出データを検出する検出手段を用いてもよい。また、1つの回路基板に設ける検出手段の個数は、例えば、回路基板の開発者などにより動作状態の検出が必要と判断された回路基板上の位置に応じて異なる数に設定してよい。
【0036】
<第1実施形態>
図6に、第1実施形態における故障診断装置の構成の例を示す。故障診断装置10は、回路基板の動作状態を検出する動作状態検出部1と電気的に接続される。本例において、動作状態検出部1は、上述のように、回路基板に設けられた24個のコイルを備える。
【0037】
故障診断装置10は、動作状態検出部1からの検出データを用いて回路基板の故障診断を行う。故障診断装置10の機能の一部が本発明の1つの実施形態の検出データ処理装置として機能する。故障診断装置10は、動作状態データ格納部100、正常データ格納部102、解析データ抽出部104、第一マハラノビス距離算出部106、第二マハラノビス距離算出部108、正常/故障判定部110、及び結果表示部112を備える。
【0038】
動作状態データ格納部100は、動作状態検出部1から取得した検出データを格納する。本例では、回路基板に設けられた24個のコイルから取得される誘導起電力の検出データが動作状態データ格納部100に格納される。
【0039】
正常データ格納部102は、正常な回路基板を動作させたときに動作状態検出部1から取得される検出データを格納する。正常データ格納部102は、さらに、後述する解析データ及びマハラノビス空間など、正常な回路基板を動作させたときの検出データから得られる各種の情報を格納する。
【0040】
解析データ抽出部104は、動作状態データ格納部100に格納された診断対象の回路基板の検出データ及び正常データ格納部102に格納された検出データから故障診断装置10における処理に用いる解析データを抽出する。
【0041】
第一マハラノビス距離算出部106は、正常な回路基板の検出データから解析データ抽出部104が抽出した解析データを用いて生成したマハラノビス空間と、診断対象の回路基板の検出データから解析データ抽出部104が抽出した解析データと、に基づいてマハラノビス距離を算出する。
【0042】
第二マハラノビス距離算出部108は、第一マハラノビス距離算出部106が用いたマハラノビス空間に対する正常な回路基板の解析データのマハラノビス距離と、第一マハラノビス距離算出部106が診断対象の回路基板に付いて算出したマハラノビス距離と、を用いて、再度マハラノビス距離を算出する。
【0043】
正常/故障判定部110は、第二マハラノビス距離算出部108が算出したマハラノビス距離を用いて、診断対象の回路基板における故障の有無を判定する。
【0044】
結果表示部112は、正常/故障判定部110による判定の結果を表示する。
【0045】
以下、故障診断装置10の各部が行う処理の詳細を説明する。
【0046】
図7は、第一マハラノビス距離算出部106で用いるマハラノビス空間を生成する処理の手順の例を示すフローチャートである。図7の例の手順の処理は、診断対象の回路基板に対する故障診断処理のための準備に相当する処理である。
【0047】
マハラノビス空間は、正常データ格納部102に格納された正常な回路基板の検出データに基づいて生成される。図7の例の処理の開始時には、正常データ格納部102に、正常な回路基板についての複数の事例の検出データが予め格納されているものとする。ここで、1つの「事例」の検出データとは、予め設定された長さの時間だけ正常な回路基板を動作させたときに動作状態検出部1から得られる検出データである。本例では、各事例の検出データは、正常な回路基板に設けられた24個のコイルのそれぞれが検出した誘導起電力の時系列データ(例えば図2参照)を含む。なお、複数の事例の検出データは、1つの正常な回路基板を複数回動作させて得た検出データであってよいし、部品の配置及び部品間の配線とコイルの配置とが同じである複数の回路基板(いずれも正常であることがわかっているもの)をそれぞれ動作させて得た検出データであってもよい。また、複数の事例において両者が混在していてもよい。
【0048】
図7の例の処理が開始されると、まず、解析データ抽出部104は、正常データ格納部102中の各事例の検出データについて、予め設定された期間に分割し、分割した期間ごとの特徴値を求める(ステップS1)。
【0049】
図8を参照し、ステップS1の処理の例の詳細を説明する。図8(a)は、1つの事例の検出データに含まれる1つのコイルの検出データ(誘導起電力の時系列データ)の例を示し、図8(b)は、図8(a)に例示する検出データから求められる特徴値の例を示す。解析データ抽出部104は、図8(a)に例示するように、コイルの検出データを予め設定された期間に分割する。そして、分割した期間ごとに、その期間に含まれる検出値(本例では誘導起電力の値)から得られる特徴値を算出する。この特徴値は、当該期間に含まれる検出値から算出される統計量(例えば、総和、二乗和、標準偏差、最大値、又は最小値など)であってよい。図8(b)に例示するグラフ中の各点は、図8(a)に例示するグラフを分割した各期間の検出値から得られる特徴値を示す。
【0050】
図7のステップS1では、解析データ抽出部104は、正常データ格納部102中の事例ごとに、24個のコイルのそれぞれの検出データに対して、分割した期間ごとの特徴値(図8(b)参照)を求める。
【0051】
次に、解析データ抽出部104は、分割した期間ごとの特徴値の間の相関係数を求める(ステップS3)。例えば、ステップS1で、各事例の各コイルの検出データをNT個の期間に分割して各期間の特徴値を求めたとすると、各コイルについて図9の例の表に示す特徴値が得られる。図9を参照すると、各列は期間1,2,〜NTのそれぞれに対応し、各行は事例1〜Ncase(Ncaseは正常な事例の個数)のそれぞれに対応する。図9の例の表中のfi,jは、i番目の事例における期間jの特徴値を表す。図7のステップS3では、解析データ抽出部104は、期間j(j=1,2,…,NT)の特徴値の系列{f1,j,f2,j,…,fNcase,j}から2つを選択した組のすべてについて、2つの特徴値の系列の間の相関係数を求める。
【0052】
相関係数は、2つの変数間の相関を示す指標であり、2つのデータ列{x1,…,xn},{y1,…,yn}の間の相関係数rは、次の式(1)で求められる。
【数1】
ただし、
【数2】
である。
【0053】
解析データ抽出部104は、例えば、式(1)及び式(2)のxi及びyiのそれぞれに、期間j,k(j≠k)の特徴値fi,j,fi,k(i=1,…,Ncase)を代入することで、期間ごとの特徴値間の相関係数を求める。
【0054】
図7のステップS3の処理の結果として、動作状態検出部1が備える24個のコイルのそれぞれについて、期間ごとの特徴値間の相関係数行列が得られる。図10の例の表は、特徴値間の相関係数行列の一例である。図10の例の表において、行と列とが交差する欄の値は、当該行の期間の特徴値の系列と当該列の期間の特徴値の系列との間の相関係数を示す。なお、相関係数行列は対称行列となる。
【0055】
各コイルについて期間ごとの特徴値間の相関係数を求めると、解析データ抽出部104は、各コイルについて、予め設定された閾値以上の相関係数を有する特徴値の系列の組のうち、一方の特徴値の系列を削除する(ステップS5)。例えば、期間mの特徴値の系列と期間nの特徴値の系列との間の相関係数が予め設定された閾値以上である場合に、期間m又は期間nの特徴値の系列を削除する。このとき、期間m及び期間nのいずれの特徴値の系列を削除するかは、任意に決定してよい。例えば、2つの系列のうちより小さい(又はより大きい)番号の期間の特徴値の系列を削除するように予め設定しておいてもよいし、削除する系列を2つの系列からランダムに決定してもよい。なお、ステップS5の閾値は、例えば、0.8〜0.9の間に設定される。
【0056】
ステップS5の処理により、各コイルについて、他の期間の特徴値の系列との間の相関係数が予め設定された閾値よりも小さい期間の特徴値の系列が削除されずに残ることになる。言い換えると、ステップS5の処理は、各コイルについて、前述の条件を満たす期間の特徴値の系列を選択する処理である。また、相関係数は、2つのデータ系列の間の類似性を表す数値であることから、ステップS5の処理では、他の期間の特徴値の系列との間の類似性の低い期間の特徴値を選択しているとも捉えられる。
【0057】
各コイルについてステップS5の処理が終了すると、解析データ抽出部104は、各コイルについて選択された期間の特徴値の系列を正常事例の解析データとして抽出する(ステップS7)。解析データ抽出部104は、抽出した解析データを正常データ格納部102に格納する。例えば、各コイルの識別情報に対応づけて、当該コイルについて選択された期間を表す識別情報とともに選択された期間の特徴値の系列を正常データ格納部102に格納する。
【0058】
ステップS7で抽出された正常事例の解析データを用いて、第一マハラノビス距離算出部106は、各コイルについてのマハラノビス空間を生成する(ステップS9)。マハラノビス空間とは、マハラノビス距離の算出における基準空間である。
【0059】
1つのコイルについてのマハラノビス空間は、例えば以下のように生成される。当該コイルについてK個の期間の特徴値の系列がステップS7で抽出されたとし、各系列を{x11,x21,…,xNcase1},{x12,x22,…,xNcase2},…,{x1K,x2K,…,xNcaseK}と表す(図11A参照。各系列は図11Aの表の列に対応)。まず、第一マハラノビス距離算出部106は、各系列の解析データを次の式(3)に従って正規化する。
【数3】
ただし、式(3)において、mjは、j番目の系列{x1j,x2j,…,xNcasej}の平均値であり、sjは、j番目の系列の標準偏差である。
【0060】
そして、正規化後の解析データの各系列{u11,u21,…,uNcase1},{u12,u22,…,uNcase2},…,{u1K,u2K,…,uNcaseK}(図11B参照。各系列は図11Bの表の列に対応)について、次の式(4)に示す相関係数行列Rを求める。
【数4】
【0061】
式(4)に示す相関係数行列Rの要素rij(i,j=1,2,…,K;i≠j)は、正規化後の解析データのi番目の系列{u1i,u2i,…,uNcasei}とj番目の系列{u1j,u2j,…,uNcasej}との間の相関係数である。また、相関係数行列Rにおいて、rij=rjiであり、i=jのときrij=1である。
【0062】
さらに、第一マハラノビス距離算出部106は、この相関係数行列Rの逆行列A(式(5))を求める。
【数5】
【0063】
行列Aの要素aij(i,j=1,2,…,K)は、行列の逆行列を求める公知のアルゴリズムにより算出すればよい。この行列Aを当該コイルについてのマハラノビス空間とする。
【0064】
第一マハラノビス距離算出部106は、診断対象の回路基板に関するマハラノビス距離の算出(後に詳述)に用いるため、各コイルについて求めたマハラノビス空間Aの各要素aijを正常データ格納部102に格納しておく。
【0065】
図7の例の手順の処理の実行後、診断対象の回路基板に対する故障診断処理が行われる。
【0066】
以下、図12を参照し、回路基板に対する故障診断処理の例を説明する。図12は、故障診断処理の手順の一例を示すフローチャートである。故障診断装置10は、図12の例の手順の処理の開始の前に診断対象の回路基板の検出データを取得しておく。例えば、診断対象の回路基板を予め設定された長さの時間だけ動作させ、その時間分の検出データを動作状態検出部1が取得して動作状態データ格納部100に格納しておく。図12の例の手順の処理は、例えば、ユーザが故障診断装置10に対して入力装置(図示しない)を介して故障診断処理の開始を指示した場合に開始される。
【0067】
図12を参照し、まず、解析データ抽出部104は、診断対象の回路基板の検出データについて、正常事例の解析データに対応する期間ごとの特徴値を算出する(ステップS10)。ステップS10の処理において、解析データ抽出部104は、まず、動作状態データ格納部100から診断対象の回路基板の検出データを取得する。本例では、検出データは、動作状態検出部1として回路基板に設けられた各コイルから検出される誘導起電力の時系列データである。次に、解析データ抽出部104は、正常データ格納部102を参照し、各コイルについて、正常事例の解析データとして抽出された期間(図7のステップS5で選択された期間)を特定する。そして、診断対象の回路基板の検出データに含まれる各コイルの時系列データを用いて、当該コイルに対応する正常事例のコイルについて抽出された期間の特徴値を算出する。ここで算出される特徴値の種類(総和、二乗和、標準偏差、最大値、又は最小値など)は、図7のステップS1で正常な回路基板の検出データから算出された特徴値の種類と同様とする。
【0068】
ステップS10の後、算出した特徴値を診断対象の解析データとして抽出する(ステップS20)。ステップS10及びステップS20により、診断対象の回路基板に設けられた各コイルについて、正常事例の解析データに対応する期間ごとの特徴値が診断対象の解析データとして求められる。
【0069】
次に、診断対象の解析データを用いたマハラノビス距離算出処理(ステップS30)が行われる。
【0070】
図13は、マハラノビス距離算出処理(ステップS30)の詳細手順の例を示すフローチャートである。
【0071】
図13を参照し、第一マハラノビス距離算出部106により、診断対象の解析データについてコイルごとのマハラノビス距離が算出される(ステップS300)。以下、1つのコイルに対するステップS300の処理の手順の例を説明する。まず、第一マハラノビス距離算出部106は、当該コイルについて図12のステップS20で抽出された特徴値{xp1,xp2,…,xpK}を上記の式(3)に従って正規化し、正規化後の特徴値{up1,up2,…,upK}を求める。なお、式(3)中のmj及びsjは、それぞれ、当該コイルに対応する正常事例のコイルについて図7のステップS5で選択されたK個の期間のうちj番目の期間の特徴値の系列{x1j,x2j,…,xNcasej}の平均値及び標準偏差である。正規化後の特徴値を求めると、第一マハラノビス距離算出部106は、当該コイルに対応するコイルのマハラノビス空間A(式(5))の各要素aijを正常データ格納部102から読み出し、次の式(6)に従ってマハラノビス距離D2を算出する。
【数6】
【0072】
以上で説明した処理を24個のコイルのそれぞれについて実行することで、診断対象の各コイルの解析データについて、各コイルの正常事例の解析データから生成されたマハラノビス空間に対するマハラノビス距離が算出される。以下、各コイルのマハラノビス空間に対して算出されるマハラノビス距離を「1段目」のマハラノビス距離と呼ぶ。図14に、1段目のマハラノビス距離の一例を示す。図14の例のグラフは、コイル番号1〜24のコイルのそれぞれについて算出された1段目のマハラノビス距離の値を示す。
【0073】
第二マハラノビス距離算出部108は、コイルごとに算出された1段目のマハラノビス距離を用いて、再度マハラノビス距離を算出する(ステップS302)。以下では、第二マハラノビス距離算出部108が算出するマハラノビス距離を「2段目」のマハラノビス距離と呼ぶ。
【0074】
図15に、2段目のマハラノビス距離の算出に用いられる値の例を示す。図15を参照し、破線で囲んだ部分に含まれる値は、正常な回路基板におけるNcase個の事例のそれぞれについての、各コイルのマハラノビス空間Aに対するマハラノビス距離MDm,n(m=1,…,Ncase;n=1,…,24)である。事例mについてのコイルnのマハラノビス距離MDm,nは、コイルnの事例mの正規化後の特徴値{um1,um2,…,umK}(図11Bの表の行に対応)とコイルnのマハラノビス空間Aの各要素とを上記の式(6)に代入することで求められる。また、図15の例の表の最終行のマハラノビス距離MDp,1,…,MDp,24は、各コイルについて診断対象の解析データを用いて図13のステップS300で算出された1段目のマハラノビス距離である(例えば、図14参照)。
【0075】
図13のステップS302で、第二マハラノビス距離算出部108は、まず、正常事例の各コイルの(1段目の)マハラノビス距離を用いて、マハラノビス空間を生成する。具体的には、コイルnの正常事例のマハラノビス距離の系列{MD1,n,…MDNcase,n}を上記の式(3)に従って正規化し、正規化後のマハラノビス距離の系列から相関係数行列R(式(4))を生成する。このとき、式(3)のmj及びsjは、それぞれ、コイルnのマハラノビス距離の系列{MD1,n,…MDNcase,n}の平均値及び標準偏差である。さらに、生成した相関係数行列Rから、その逆行列A=R−1の各要素aijの値を算出する。この逆行列Aは、2段目のマハラノビス距離を求める基準のマハラノビス空間となる。また、第二マハラノビス距離算出部108は、診断対象の解析データの各コイルについて算出された1段目のマハラノビス距離MDp,1,…,MDp,24を式(3)に従って正規化する。そして、正規化後のマハラノビス距離MD´p,1,…,MD´p,24を上記の式(6)のupi(i=1,2,…,24)とし、正常事例のマハラノビス距離から生成した上述のマハラノビス空間Aの各要素aijとともに式(6)に代入することで、2段目のマハラノビス距離を算出する。
【0076】
ステップS302の後、マハラノビス距離算出処理は終了し、処理は図12のステップS40に進む。
【0077】
再び図12を参照し、ステップS40において、正常/故障判定部110は、診断対象の回路基板が故障しているか否かを判定する。本例では、正常/故障判定部110は、図13のステップS302で算出された2段目のマハラノビス距離が予め設定された閾値を超えていれば故障と判定し、2段目のマハラノビス距離が予め設定された閾値以下であれば正常と判定する。
【0078】
故障と判定されると(ステップS40でYES)、結果表示部112は診断対象の回路基板の故障発生を表す情報を表示し(ステップS50)、正常と判定されると(ステップS40でNo)、結果表示部112は、診断対象の回路基板が正常である旨を表す情報を表示する(ステップS60)。ステップS50及びステップS60では、結果表示部112による表示に換えて、あるいは結果表示部112による表示に加えて、故障診断装置10に接続された他の装置(例えば、コンピュータ又はプリンタなど)に対して故障発生を表す情報(ステップS50)及び正常の旨を表す情報(ステップS60)を出力してもよい。
【0079】
ステップS50又はステップS60の後、図12の例の手順の故障診断処理は終了する。
【0080】
以下、マハラノビス距離算出処理(図12のステップS30,図13)の変形例を説明する。1つの変形例のマハラノビス距離算出処理では、1段目のマハラノビス距離の算出処理(図13のステップS300)だけを行い、2段目のマハラノビス距離の算出処理(ステップS302)を行わない。本変形例のマハラノビス距離算出処理を行う場合、故障の有無の判定(図12のステップS40)において、正常/故障判定部110は、各コイルについて算出された1段目のマハラノビス距離を用いて診断対象の回路基板の故障の有無を判定する。例えば、予め設定された閾値を超える1段目のマハラノビス距離を有するコイルが所定の個数(事前に設定しておく)を超えれば故障と判定し、所定の個数以下であれば正常と判定する。あるいは、例えば、すべてのコイルについての1段目のマハラノビス距離が予め設定された閾値以下である場合に正常と判定し、その他の場合に故障と判定してもよい。
【0081】
他の1つの変形例のマハラノビス距離算出処理では、1段目のマハラノビス距離の算出結果に応じて2段目のマハラノビス距離の算出を実行するか否かを決定する。図16に、本変形例のマハラノビス距離算出処理の手順の例を示す。図16に例示するフローチャートは、図13のステップS300とステップS302との間にステップS301の判定処理を含む。ステップS301では、各コイルについて算出された1段目のマハラノビス距離を用いて2段目のマハラノビス距離の算出を行うか否かが決定される。例えば、予め設定された閾値を超える1段目のマハラノビス距離を有するコイルが所定の個数(事前に設定しておく)を超えれば2段目のマハラノビス距離の算出を行うことを決定し、所定の個数以下であれば2段目のマハラノビス距離の算出を行わないことを決定する。また例えば、すべてのコイルについての1段目のマハラノビス距離が予め設定された閾値以下である場合に2段目のマハラノビス距離の算出を行い、その他の場合は2段目のマハラノビス距離の算出を行わないことを決定する。2段目のマハラノビス距離の算出を行うことが決定されると(ステップS301でYES)、ステップS302が実行され、2段目のマハラノビス距離の算出を行わないことが決定されると(ステップS301でNO)、ステップS302を実行せずに図16の例の手順の処理は終了する。本変形例の場合、正常/故障判定部110による判定処理(図12のステップS40)では、例えば、2段目のマハラノビス距離が算出されていない場合、又は2段目のマハラノビス距離が算出されているけれどもその値が予め設定された閾値以下である場合に、診断対象の回路基板が正常であると判定し、2段目のマハラノビス距離が算出されていてその値が予め設定された閾値を超える場合に、診断対象の回路基板が故障していると判定すればよい。
【0082】
<第2実施形態>
図17は、第2実施形態における故障診断装置の構成の例を示すブロック図である。図17において、図6と同様の要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。図17の例の故障診断装置10は、図6に例示する故障診断装置10(第1実施形態)が備える各要素に加えて、SN比算出部120、直交表データ格納部122、故障原因特定部124、及び故障原因別SN比格納部126を備える。
【0083】
SN比算出部120は、診断対象の回路基板について算出された1段目のマハラノビス距離に関するSN比を算出する。ここでの「SN比」は、システムの出力のばらつきを表す尺度であり、品質工学(タグチメソッド)で用いられる尺度である。本実施形態の例において、SN比算出部120は、診断対象の回路基板に設けられる24個のコイル(動作状態検出部1)についての1段目のマハラノビス距離のそれぞれをパラメータとし、これらのパラメータのうちSN比の算出に使用するパラメータの組み合わせを定めた直交表に従って、各組み合わせについてのSN比を算出する。この直交表は直交表データ格納部122に予め格納され、SN比算出部120は、直交表データ格納部122を参照してSN比を算出する。
【0084】
故障原因特定部124は、診断対象の回路基板で故障が発生していると正常/故障判定部110が判定した場合に、当該回路基板についてSN比算出部120が算出したSN比を用いて当該回路基板の故障の原因を特定する処理を行う。故障原因特定部124は、故障の原因が判明している回路基板について算出されたSN比を故障原因別に予め格納した故障原因別SN比格納部126を参照して、診断対象の回路基板の故障原因を特定する。
【0085】
図18に、第2実施形態における回路基板の故障診断処理の手順の例を示す。図18の例のフローチャートは、ステップS70の故障原因特定処理を除いて、第1実施形態の故障診断処理の例を表す図12のフローチャートと同様である。また、第1実施形態の故障診断処理に関して上述したのと同様、図18の例の故障診断処理の前に、図7の例の手順の処理を実行し、正常な回路基板の検出データから解析データを抽出し、各コイルについてマハラノビス空間を生成しておく。
【0086】
図18を参照し、ステップS10〜ステップS40では、図12を参照して説明したステップS10〜ステップS40と同様の処理が行われる。ステップS40で診断対象の回路基板が故障していると判定されると、故障原因特定処理(ステップS70)が行われる。
【0087】
図19は、故障原因特定処理の詳細手順の例を示すフローチャートである。図18のステップS70の処理が開始されると、図19の例の手順の処理が開始される。
【0088】
図19を参照し、まず、SN比算出部120は、診断対象の解析データに関して算出された1段目のマハラノビス距離を用いて、直交表データ格納部122に格納された直交表に従ってSN比を算出する(ステップS700)。
【0089】
本例では、図20に例示する直交表L28を表す情報が直交表データ格納部122に予め格納されているものとする。図20の例の直交表L28の列1〜24は各コイル1〜24(についてのマハラノビス距離)に対応し、列25〜27は誤差に対応する列とする。直交表L28の各行は、SN比の算出に使用するコイルのマハラノビス距離の組み合わせを表す。直交表L28において、行と列とが交差する欄の記号「○」は、当該行の組み合わせにおいて当該列のコイルのマハラノビス距離をSN比の算出に使用することを表し、記号「×」は、当該行の組み合わせにおいて当該列のコイルのマハラノビス距離をSN比の算出に使用しないことを表す。例えば、図20の例の直交表L28の行1は、すべての列の欄が「○」であるので、すべてのコイル1〜24のマハラノビス距離をSN比の算出に使用することを表す。
【0090】
以下、ステップS700において図20の直交表L28に従ってSN比を算出する手順の例を説明する。SN比算出部120は、診断対象の解析データの各コイルについて算出された1段目のマハラノビス距離MDp,1,…,MDp,24を用いて、直交表L28の行1〜28について、それぞれ、SN比ηL28−1,ηL28−2,…,ηL28−28を算出する。ここで、直交表L28の行iのSN比ηL28−iは、次の式(7)に従って算出される。
ηL28−i=10・log(yi2/Si2) (7)
【0091】
式(7)において、
yi=ΣMDp,ui/24 (8)
Si2=Σ(MDp,ui−MDp,AVE)2/(24−1) (9)
である。式(8)及び式(9)において、“ui”は、直交表L28の行iにおいてSN比の算出に使用するものとして設定されているコイル(記号「○」の欄に対応するコイル)の番号を表し、MDp,uiは、当該番号のコイルについてのマハラノビス距離を表す。
【0092】
また、式(9)におけるMDp,AVEは、
MDp,AVE=ΣMDp,k/24 (10)
である(k=1,2,3,…,24)。
【0093】
行1〜28のSN比ηL28−1,ηL28−2,…,ηL28−28を算出した後、SN比算出部120は、診断対象の解析データについて、各コイルのマハラノビス距離のSN比に対する要因効果を表す値(SN比k−○−SN比k−×)を求める(ステップS702)。SN比k−○は、コイルkを使用して算出されたSN比から定まる値であり、SN比k−×は、当該コイルkを使用せずに算出されたSN比から定まる値である。SN比k−○及びSN比k−×は、それぞれ、以下の式(11),式(12)により求められる。
SN比k−○=ΣηL28−withk (11)
SN比k−×=ΣηL28−withoutk (12)
式(11)において、“withk”は、直交表L28において、コイルkの欄が「○」である行の番号を表す。また、式(12)において、“withoutk”は、コイルkの欄が「×」である行の番号を表す。
【0094】
図21は、各コイルkのSN比k−○及びSN比k−×を示す要因効果図の一例である。図21の例において、各コイルkに対応する左側の点がSN比k−○の値を表し、右側の点がSN比k−×の値を表す。
【0095】
診断対象の解析データについてコイルkごとにSN比k−○−SN比k−×が求められると(k=1,2,3,…,24)、故障原因特定部124により、診断対象の解析データについてのSN比k−○−SN比k−×と、故障原因別のSN比k−○−SN比k−×と、の間の相関係数が算出される(ステップS704)。
【0096】
故障原因別のSN比k−○−SN比k−×は、故障原因の識別情報と関連づけて予めSN比格納部126に格納される。故障原因別のSN比k−○−SN比k−×は、例えば、以下のように求められる。まず、故障原因が判明している回路基板からの検出データを処理対象として、図12及び図18のステップS10,S20、図13のステップS300に関して上述したのと同様の処理により、1段目のマハラノビス距離が算出される。
【0097】
図22に、故障原因ごとに算出される1段目のマハラノビス距離の例を示す。図22の例の表は、故障原因「故障A」,「故障B」,…ごとに、各事例の検出データから算出された各コイルについての1段目のマハラノビス距離を示す。図22の例において、各「事例」のマハラノビス距離は、対応する故障原因の故障が発生した回路基板を予め設定された長さの時間だけ動作させて得られる検出データについて求めたマハラノビス距離である。図22の例の表では、「故障A」について1つの事例のマハラノビス距離MDA,1,…,MDA,24を示し、「故障B」について2つの事例のマハラノビス距離MDB,1−1,…,MDB,1−24及びMDB,2−1,…,MDB,2−24を示す。図22に例示する故障原因ごとの1段目のマハラノビス距離を用いて、直交表L28(図20参照)の各行に対応するSN比が故障原因ごとに算出される。
【0098】
図23に、直交表L28の各行に対応するSN比の例を示す。図23を参照し、1つの事例のマハラノビス距離が算出された「故障A」の行iのSN比ηA−L28−iは、上記の式(7)に従って求められる。式(7)のyi及びSi2は、式(8)〜式(10)において、MDp,uiにMDA,uiを代入し、MDp,kにMDA,kを代入することで求められる。また、2つの事例についてマハラノビス距離が算出された「故障B」の各行のSN比ηB−L28−1,…,ηB−L28−28は、各事例1,2についての行iのSN比ηB−L28−1−i,ηB−L28−2−iを用いて、次の式(13)に従って求められる。
ηB−L28−i=10・log{yBi/{(1/ηB−L28−1−i)2+(1/ηB−L28−2−i)2}} (13)
ただし、yBiは故障Bのyiを表し、yB1は故障Bの事例1のyiを、yB2は故障Bの事例2のyiを表し、yBi=(yB1+yB2)で表す。
【0099】
ただし、「故障B」の事例1についての行iのSN比ηB−L28−1−iは、式(8)〜式(10)において、MDp,uiにMDB,1−uiを代入し、MDp,kにMDB,1−kを代入することで求めたyi,Si2を式(7)に代入することで求められ、事例2についての行iのSN比ηB−L28−2−iは、式(8)〜式(10)において、MDp,uiにMDB,2−uiを代入し、MDp,kにMDB,2−kを代入することで求めたyi,Si2を式(7)に代入することで求められる。
【0100】
以上のように故障原因Xごとに直交表L28の行iに対応するSN比ηX−L28−iを求めると、上記の式(11)及び式(12)に従って、当該故障原因Xにおける各コイルkについてのSN比k−○及びSN比k−×が求められる。これにより、故障原因ごとのコイルkの要因効果を表す値SN比k−○−SN比k−×が算出される。すなわち、故障原因ごとに、図21に例示した要因効果図と同様の構成の要因効果図が得られることになる。故障原因別SN比格納部126には、各故障原因の識別情報に対応づけて、当該故障原因について求められたSN比k−○−SN比k−×(k=1,2,…,24)が格納される。
【0101】
図19の説明に戻り、故障原因特定部124によるステップS704の処理により、上述のように算出されて予め故障原因別SN比格納部126に格納されたSN比k−○−SN比k−×について、故障原因ごとに、ステップS702で診断対象の解析データから算出されたSN比k−○−SN比k−×との間の相関係数が得られる。例えば、故障原因別SN比格納部126に故障原因A〜FのSN比k−○−SN比k−×が予め格納されていた場合、故障原因A〜Fのそれぞれについて相関係数が得られる。
【0102】
その後、結果表示部112は、ステップS704で得られた相関係数が最大である故障原因を診断対象の回路基板の故障原因として表示する(ステップS706)。なお、ステップS706では、図12のステップS50,S60を参照して説明したのと同様、結果表示部112による表示に換えて、あるいは結果表示部112による表示に加えて、故障診断装置10に接続された他の装置に対して、相関係数が最大である故障原因を診断対象の回路基板の故障原因とする情報を出力してもよい。ステップS706が終了すると、図19の例の手順の故障原因特定処理は終了する。
【0103】
再び図18を参照し、ステップS70(故障原因特定処理)又はステップS60の終了後、故障診断処理は終了する。
【0104】
<第3実施形態>
図24に、第3実施形態における故障診断装置10の構成の例を示す。図24に例示する故障診断装置10は、図17の例の故障診断装置10が備える各要素に加えて、正常データ更新部130及び故障原因別SN比更新部132を備える。図24において、図17と同様の構成要素には同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0105】
正常データ更新部130は、正常データ格納部102のデータ内容を更新する。例えば、正常データ更新部130は、正常な回路基板からの検出データを新たに取得し、新たに取得した検出データを処理対象として図7の例の手順の処理を行うことで、解析データを抽出し、新たなマハラノビス空間を生成する。あるいは、正常データ更新部130は、新たに取得した検出データと正常データ格納部102に格納済みの検出データとの両方を用いて新たなマハラノビス空間の生成を行ってもよい。正常データ更新部130は、新たに取得した検出データから抽出した解析データ及び生成した新たなマハラノビス空間を正常データ格納部102に格納することで正常データ格納部102を更新する。なお、正常データ更新部130が取得する「正常な回路基板からの検出データ」は、正常であることが既に判明している回路基板から取得した検出データであってもよいし、正常/故障判定部110が正常であると判定した回路基板の検出データであってもよい。
【0106】
故障原因別SN比更新部132は、故障原因別SN比格納部126を更新する。例えば、故障原因別SN比更新部132は、故障原因が判明している回路基板からの検出データを新たに取得し、当該検出データに係る故障原因について、当該検出データを用いて、コイルkごとのSN比k−○−SN比k−×を、図22及び図23を参照して上記で説明したとおりに再度算出する。そして、算出したSN比k−○−SN比k−×を対応する故障原因の識別情報と関連づけて故障原因別SN比格納部126に格納することで、故障原因別SN比格納部126を更新する。故障原因別SN比更新部132が新たに取得する検出データは、例えば、故障原因特定部124により故障原因が特定された回路基板からの検出データであってよい。
【0107】
正常データ更新部130及び故障原因別SN比更新部132のそれぞれにおける上述の更新処理は、例えば予め設定された時間間隔で行ってもよいし、管理者又は回路基板の開発者などにより指定されたタイミングで行なってもよい。
【0108】
第3実施形態の変形例では、図6の例の故障診断装置10の各構成要素に加えてさらに上述の正常データ更新部130を備える故障診断装置10を実現してもよい。
【0109】
上述の各種の実施形態の例では、動作状態検出部1から取得される時系列の検出データを分割した期間ごとに特徴値を算出し、期間ごとの特徴値の系列の間の相関係数行列を求めることで、マハラノビス空間の生成に用いる解析データを抽出する(図7及び図8参照)。上述の各種の実施形態において、検出データを分割して期間ごとの検出値の統計量を特徴値として算出する代わりに、各時刻の検出値をそのまま当該時刻の特徴値として用いてもよい。この例において、マハラノビス空間を生成する処理では、例えば、図7の例の手順のステップS1を省略し、ステップS3において、複数の正常事例の検出データの各時刻ごとの検出値の系列の間の相関係数を求めて相関係数行列を生成する。例えば、図10の例の表における期間1,2,…,NTを検出データの各時刻に置き換えた相関係数行列が生成される。時刻ごとの検出値(特徴値)間の相関係数行列を用いて図7の例のステップS5以下の処理を行うことで、他の時刻の検出値の系列との間の相関係数が予め設定された閾値以下である時刻の検出値の系列が解析データとして抽出され、マハラノビス空間が生成される。本例の場合、故障診断処理において診断対象の回路基板の検出データから抽出される解析データは、正常時例の各コイルについて抽出された解析データに対応する時刻の検出値である。
【0110】
上述の各種の実施形態及び変形例の故障診断装置10は、例えば、汎用のコンピュータにより実現される。また例えば、マイクロコンピュータにより演算を行う組み込みシステムとして故障診断装置10を実現してもよい。いずれにしても、故障診断装置は、例えば、図25の例のハードウエア構成を有する装置により実現される。図25に例示する装置は、CPU60、メモリ(一次記憶)62、各種I/O(入出力)インタフェース64等がバス66を介して接続された回路構成を有する。また、そのバス66に対し、例えばI/Oインタフェース64経由で、記憶装置68や、動作状態検出部として機能する機器からの検出データなどの情報の入力を受け付ける入力部70、処理の結果を表示する表示部72などが接続される。上述の実施形態の処理内容が記述されたプログラムが記憶装置68に記憶され、記憶されたプログラムがメモリ62に読み出されCPU60により実行されることにより、実施形態の処理が実現される。
【0111】
なお、上述の各種の実施形態及び変形例では、故障診断装置10の各部の機能を1つのコンピュータで実現する態様を説明したが、これに限定されるものではない。故障診断装置10の各部の機能は一般的なコンピュータをプログラムにより制御することによって実現できるものであり、これらの装置の各機能を適宜組み合わせて1つのコンピュータで処理させてもよいし、各機能をネットワーク等で接続された複数のコンピュータで分散処理させてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 動作状態検出部、10 故障診断装置、31,51 回路基板、33 IC、34,41,54 容量成分、35,43 配線群、42 浮遊容量成分、60 CPU、62 メモリ、64 I/Oインタフェース、66 バス、68 記憶装置、70 入力部、72 表示部、100 動作状態データ格納部、102 正常データ格納部、104 解析データ抽出部、106 第一マハラノビス距離算出部、108 第二マハラノビス距離算出部、110 正常/故障判定部、112 結果表示部、120 SN比算出部、122 直交表データ格納部、124 故障原因特定部、126 故障原因別SN比格納部、130 正常データ更新部、132 故障原因別SN比更新部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択する選択手段と、
正常な回路基板を動作させたときの前記検出データから前記選択手段が選択した前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの前記検出データと、に基づいて第一のマハラノビス距離を算出する第一算出手段と、
を備えることを特徴とする検出データ処理装置。
【請求項2】
前記検出手段は、回路基板において複数の検出位置の動作状態を検出し、
前記選択手段は、前記複数の検出位置のそれぞれに対応する前記検出データについて前記解析データを選択し、
前記第一算出手段は、前記複数の検出位置のそれぞれについて、正常な回路基板を動作させたときの当該検出位置の前記検出データについて前記選択手段が選択した前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの当該検出位置の前記検出データと、に基づいて前記第一のマハラノビス距離を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の検出データ処理装置。
【請求項3】
前記正常な回路基板を動作させたときの前記複数の検出位置のそれぞれに対応する前記検出データと、当該検出位置について生成された前記第一のマハラノビス空間と、に基づいて、前記正常な回路基板に関する前記複数の検出位置ごとのマハラノビス距離を算出し、当該算出したマハラノビス距離から生成される第二のマハラノビス空間と、前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離と、に基づいて、前記診断対象の回路基板に関する第二のマハラノビス距離を算出する第二算出手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の検出データ処理装置。
【請求項4】
前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離に基づいて、前記第二のマハラノビス距離の算出を行うか否かを決定する決定手段、をさらに備え、
前記第二算出手段は、前記第二のマハラノビス距離の算出を行うことを前記決定手段が決定した場合に、前記第二のマハラノビス距離の算出を行う、
ことを特徴とする請求項3に記載の検出データ処理装置。
【請求項5】
前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離を使用するか否かの組み合わせ条件を予め記憶した記憶手段を参照し、前記組み合わせ条件に従って、前記診断対象の回路基板に関するSN比を算出するSN比算出手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の検出データ処理装置。
【請求項6】
回路基板の故障原因ごとに、当該故障原因の故障の生じた回路基板に関して算出されたSN比を予め記憶した記憶手段をさらに参照し、
前記SN比算出手段が算出した前記診断対象の回路基板に関するSN比と、前記記憶手段に記憶された前記故障原因ごとのSN比と、を用いて、前記診断対象の回路基板と前記故障原因それぞれの故障の生じた回路基板との間の相関関係を求め、求めた相関関係を表す値が最も大きい故障原因を出力する出力手段、をさらに備える、
ことを特徴とする請求項5に記載の検出データ処理装置。
【請求項7】
回路基板の動作状態を検出する検出手段から正常な回路基板を動作させたときに取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択し、前記解析データを用いて生成されたマハラノビス空間を表す情報を記憶した記憶手段を参照し、
前記記憶手段に記憶された前記マハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときに前記検出手段から取得した検出データと、に基づいてマハラノビス距離を算出する算出手段、
を備えることを特徴とする検出データ処理装置。
【請求項8】
回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択するステップと、
正常な回路基板を動作させたときの前記検出データから選択された前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの前記検出データと、に基づいて第一のマハラノビス距離を算出するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項1】
回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択する選択手段と、
正常な回路基板を動作させたときの前記検出データから前記選択手段が選択した前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの前記検出データと、に基づいて第一のマハラノビス距離を算出する第一算出手段と、
を備えることを特徴とする検出データ処理装置。
【請求項2】
前記検出手段は、回路基板において複数の検出位置の動作状態を検出し、
前記選択手段は、前記複数の検出位置のそれぞれに対応する前記検出データについて前記解析データを選択し、
前記第一算出手段は、前記複数の検出位置のそれぞれについて、正常な回路基板を動作させたときの当該検出位置の前記検出データについて前記選択手段が選択した前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの当該検出位置の前記検出データと、に基づいて前記第一のマハラノビス距離を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の検出データ処理装置。
【請求項3】
前記正常な回路基板を動作させたときの前記複数の検出位置のそれぞれに対応する前記検出データと、当該検出位置について生成された前記第一のマハラノビス空間と、に基づいて、前記正常な回路基板に関する前記複数の検出位置ごとのマハラノビス距離を算出し、当該算出したマハラノビス距離から生成される第二のマハラノビス空間と、前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離と、に基づいて、前記診断対象の回路基板に関する第二のマハラノビス距離を算出する第二算出手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の検出データ処理装置。
【請求項4】
前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離に基づいて、前記第二のマハラノビス距離の算出を行うか否かを決定する決定手段、をさらに備え、
前記第二算出手段は、前記第二のマハラノビス距離の算出を行うことを前記決定手段が決定した場合に、前記第二のマハラノビス距離の算出を行う、
ことを特徴とする請求項3に記載の検出データ処理装置。
【請求項5】
前記複数の検出位置のそれぞれについて算出された前記第一のマハラノビス距離を使用するか否かの組み合わせ条件を予め記憶した記憶手段を参照し、前記組み合わせ条件に従って、前記診断対象の回路基板に関するSN比を算出するSN比算出手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の検出データ処理装置。
【請求項6】
回路基板の故障原因ごとに、当該故障原因の故障の生じた回路基板に関して算出されたSN比を予め記憶した記憶手段をさらに参照し、
前記SN比算出手段が算出した前記診断対象の回路基板に関するSN比と、前記記憶手段に記憶された前記故障原因ごとのSN比と、を用いて、前記診断対象の回路基板と前記故障原因それぞれの故障の生じた回路基板との間の相関関係を求め、求めた相関関係を表す値が最も大きい故障原因を出力する出力手段、をさらに備える、
ことを特徴とする請求項5に記載の検出データ処理装置。
【請求項7】
回路基板の動作状態を検出する検出手段から正常な回路基板を動作させたときに取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択し、前記解析データを用いて生成されたマハラノビス空間を表す情報を記憶した記憶手段を参照し、
前記記憶手段に記憶された前記マハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときに前記検出手段から取得した検出データと、に基づいてマハラノビス距離を算出する算出手段、
を備えることを特徴とする検出データ処理装置。
【請求項8】
回路基板の動作状態を検出する検出手段から取得した検出データの複数のグループについて互いに相関関係を求め、他のグループとの相関関係を表す値が予め設定された閾値よりも小さいグループの検出データを解析データとして選択するステップと、
正常な回路基板を動作させたときの前記検出データから選択された前記解析データを用いて生成された第一のマハラノビス空間と、診断対象の回路基板を動作させたときの前記検出データと、に基づいて第一のマハラノビス距離を算出するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2010−216912(P2010−216912A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62497(P2009−62497)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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