検査対象物の探傷方法および装置ならびに渦流探傷用プローブ
【課題】簡単な構成で検査対象物に二方向の磁界を容易に与えることを可能とし、どのような方向のきずをも検出することのできる探傷方法を提供すること。
【解決手段】断面が矩形状の2つのコイル21,22を互いに直交させて励磁コイル11Bとし、2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を流して回転磁界を発生させ、回転磁界によって、2つのコイルを貫通する検査対象物WK2の表面に渦電流を発生させ、2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子12によって渦流探傷を行う。
【解決手段】断面が矩形状の2つのコイル21,22を互いに直交させて励磁コイル11Bとし、2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を流して回転磁界を発生させ、回転磁界によって、2つのコイルを貫通する検査対象物WK2の表面に渦電流を発生させ、2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子12によって渦流探傷を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管や金属棒などの検査対象物の表面を探傷する方法および装置、ならびに渦流探傷用プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属管や金属棒などの検査対象物の表面に存在するきずの有無を非破壊で検査する方法として、渦流探傷法が用いられている。
【0003】
図17は従来の渦流探傷用プローブ80を示す図である。
【0004】
図17に示すように、従来の渦流探傷用プローブ80は、円筒状のボビン81の外周面に巻き線を施してソレノイド状の3つのコイル82、83a、83bを形成する。このうち、1つのコイル82は励磁コイルであり、他の2つのコイル83a、83bは検出コイルである。ボビン81の内部に、検査対象物である金属管や金属棒などを貫通させて試験を行う。
【0005】
このようなボビン型の渦流探傷用プローブ80では、ボビン81の内側に置かれた検査対象物の表面に、コイル82の巻き線方向つまり検査対象物の周方向(軸心と直角方向)に渦電流が流れる。検査対象物の表面に軸方向に沿った亀裂などのきずが存在した場合には、渦電流のための電流路が遮断されて変化する。この変化を、励磁コイル82の近傍に巻かれた検出コイル83a、83bのインピーダンスの変化として検出する。
【0006】
また、金属管の内表面のきずを探傷したい場合には、このような渦流探傷用プローブ80を管の内部に挿入する方法が取られる。この方法は、日本非破壊検査協会編の「渦流探傷試験■、5、試験コイル」に規定されている。
【0007】
また、2個以上の小型のパンケーキコイルを、試験対象物の軸方向又は渦巻き状に渦電流が発生するように配置し、欠陥が渦電流をさえぎることによりコイル内にインピーダンスの変化を生ずるようにした渦流探傷用プローブが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−43204
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図17に示した従来の渦流探傷用プローブ80によると、比較的簡単な構成により非接触で高速の検査が実現可能であるが、しかし、検査対象物の表面に流れる渦電流と同じ方向に沿ったきずつまり周方向のきずが存在していても渦電流の電流路を大きく阻害することが無いため、周方向のきずの検出はきわめて困難であるという問題がある。
【0009】
つまり、従来から広く用いられている貫通型のコイルを用いた渦流探傷用プローブ80では、金属管や金属棒のような圧延加工で製造される長い形状の検査対象物の軸方向きず、周方向きず、および微細孔形状のきずなどを同時に検出することは困難であった。
【0010】
また、特許文献1に示された小型のパンケーキコイルを複数配置する方法では、多数のパンケーキコイルを検査対象物に接近させて配置することが容易ではなく、装置が複雑で高価になるという問題がある。
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、簡単な構成で検査対象物に二方向の磁界を容易に与えることを可能とし、どのような方向のきずをも検出することのできる検査対象物の探傷方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る方法は、断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて励磁コイルとし、前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を流して回転磁界を発生させ、前記回転磁界によって検査対象物の表面に渦電流を発生させ、前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子によって渦流探傷を行う。
【0013】
好ましくは、前記2つのコイルを前記検査対象物が貫通するように配置する。
【0014】
本発明に係る装置は、断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて配置した励磁コイルと、前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を供給する電流供給装置と、前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、簡単な構成で検査対象物に二方向の磁界を容易に与えることが可能となり、検査対象物のどのような方向のきずをも検出して探傷することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔第1の実施形態〕
図1は本発明に係る第1の実施形態の渦流探傷用プローブ3の構造を示す図、図2は渦流探傷用プローブ3のコイル11,12に流す電流の波形を示す図、図3は渦流探傷用プローブ3によって誘導される金属板の表面の渦電流の様子を示す図、図17はコイル21,22の各寸法の位置を示す図である。
【0017】
なお、図1(A)は渦流探傷用プローブ3の正面図、図1(B)は渦流探傷用プローブ3の右側面図、図1(C)は渦流探傷用プローブ3の底面図である。
【0018】
図1において、渦流探傷用プローブ3は、断面が矩形状の2つのコイル21,22を互いに直交させて配置した励磁コイル11、および2つのコイル21,22が交叉する位置に配置された磁気検出素子12からなる。2つのコイル21,22に互いに90度の位相差を持つ交流電流を流すことにより回転磁界を発生させ、2つのコイル21,22の近辺に存在する金属の検査対象物WKの表面の傷を探傷する。
【0019】
各コイル21,22は、合成樹脂、陶磁器、または紙などの非磁性材料からなるボビンに電線を巻いたものである。そのようなボビンは、直方体形状、細長い直方体形状のものが直交する形状、2つの矩形状の枠体が直交するように組み合わされたものなど、種々の構造または構成とすることができる。
【0020】
なお、2つのコイル21,22は、いずれも、矩形状の長辺L2が短辺L1の3倍以上の寸法であり、コイル21,22の長さL3が矩形状の短辺L1の3分の1ないし5分の3となっている。しかしこれ以外の寸法であってもよい。なお、コイル21,22の短辺L1、長辺L2、および長さL3については、図16を参照のこと。
【0021】
磁気検出素子12として、サーチコイル、ホール素子、フラックスゲート素子、GMR素子、MI素子、薄膜プレーナコイル、その他の素子が用いられる。なお、磁気検出素子12は、2つのコイル21,22が交叉する2箇所の位置にそれぞれ配置してもよい。
【0022】
検査対象物WKの検査のために、2つのコイル21,22には、互いに90度の位相差を持つサイン波である交流電流J1,J2を供給する。
【0023】
つまり、一方のコイル21には図2に示す電流J1が流れるように、他方のコイル21には図2に示す電流J2が流れるように、図示しない電流供給装置によってコイル21,22に電圧SA,SBを印加する。このように、互いに90度の位相差を持つ電流J1および電流J2をコイル21,22に流すことによって、コイル21,22の交差部分に回転磁界が発生する。
【0024】
コイル21,22の交差部分を検査対象物WK1である金属板に近づけると、図3に示すように、金属板WK1の表面には、コイル21の電流J1による渦電流Z1、およびコイル22の電流J2による渦電流Z2が、それぞれ流れる。これら渦電流Z1,Z2の方向は、互いに直交する方向である。渦電流Z1,Z2の大きさは、各電流J1,J2に応じて変化するので、それぞれサイン波状に変化する。その結果、渦電流Z1,Z2を合成すると回転渦電流となる。
【0025】
いずれにしても、金属板WK1の表面には互いに直交する渦電流Z1,Z2が流れるので、これら渦電流Z1,Z2の方向にそれぞれ直交する方向に沿ったきずをも容易に検出することが可能となる。
〔第2の実施形態〕
次に、金属管や金属棒などのように長い検査対象物WKを検査可能とした第2の実施形態の渦流探傷用プローブ3Bについて説明する。
【0026】
図4は第2の実施形態の渦流探傷用プローブ3Bを示す図、図5および図6は渦流探傷用プローブ3Bによって検査対象物WK2の表面に流れる渦電流の様子を示す図である。
【0027】
図4に示すように、励磁コイル11Bには、管状または棒状の検査対象物WK2が2つのコイル21,22を貫通可能なように、コイル21,22の中央部に断面円形状の穴13が設けられている。
【0028】
穴13を貫通することによって2つのコイル21,22の中を挿通した検査対象物WK2の表面には、コイル21,22に流す電流に応じた渦電流が流れる。例えば、2つのコイル21,22に同位相の交流電流を流した場合には、図5に示すように、互いに直交する方向に渦電流Z3,Z4が流れる。この場合に、コイル21,22は、検査対象物WK2の軸心方向(軸線方向)に対して45度の方向に巻かれているため、検査対象物WK2の表面のきずとして、軸心方向に対し±45度、±135度の方向に沿ったきずが、磁気検出素子12によって最大感度で検出されることとなる。しかし一般的には、軸心方向に対して、0度(±25度)、90度(±25度)のきずが多いため、図5に示す方向の渦電流Z3,Z4によってはきずによって磁気検出素子12で検出される信号の評価を良好に行うことができない。
【0029】
そこで、第1の実施形態の図2で示したように、2つのコイル21,22に、互いに90度の位相差を持つ交流電流を供給し、検査対象物WK2の表面に回転渦電流を発生させる。
【0030】
つまり、図6に示すように、コイル21,22による回転磁界によって、検査対象物WK2の表面には時間に応じて流れる方向が変化する渦電流、つまり回転渦電流Z5が流れる。回転渦電流Z5は、いずれの方向のきずをも検出することが可能である。つまり、回転渦電流Z5は、どの方向のきずに対しても磁気検出素子12に同等の信号が得られるように作用する。その結果、金属管や金属棒などの検査対象物WK2の表面の軸方向のきずおよび周方向のきずの両方について、同等の振幅の信号が磁気検出素子12の出力信号として得られる。
【0031】
また、従来においては、断面が矩形や六角形状の管や棒の探傷はできなかったが、本実施形態においてはそれらの形状の検査対象物WKについても、上と同様に容易に探傷が可能となる。
〔第3の実施形態〕
次に、断面形状が矩形である管(角管)を検査対象物WK3とする場合について説明する。
【0032】
図7は第3の実施形態の渦流探傷用プローブ3Cを示す図である。
【0033】
図7において、渦流探傷用プローブ3Cは、同じ構造の2個の渦流探傷用プローブ3C1,3C2を、同軸上で互いに90度の角度だけ回転した角度位置に配置することによって構成される。
【0034】
各渦流探傷用プローブ3C1,3C2は、2つのコイル21,22を互いに直交させて配置した励磁コイル11C、その交叉位置に配置した2つの磁気検出素子12Cを有する。各励磁コイル11Cには、検査対象物WK3が挿通可能なように断面矩形の穴13Cが設けられている。
【0035】
このように、渦流探傷用プローブ3Cにおいては、複数個の励磁コイル11Cが用いられ、各励磁コイル11Cは、検査対象物WK3の廻りに所定の回転角度、ここでは90度だけ互いにずらせて配置されている。各励磁コイル11Cには、検査対象物WK3の外周面における互いに異なる角度範囲の傷を検出するように、2つの磁気検出素子12が配置されている。
【0036】
各渦流探傷用プローブ3C1,3C2において、2つのコイル21,22に互いに90度の位相差を持つ交流電流を流すことにより回転磁界を発生させ、検査対象物WK3の四角の4つの周面のきずを検出する。つまり、渦流探傷用プローブ3C1によって検査対象物WK3の左右の面を検査し、渦流探傷用プローブ3C2によって検査対象物WK3の上下の面を検査する。このように、渦流探傷用プローブ3Cによると、検査対象物WK3の全周についてのきずの検査を同時に行うことができる。
【0037】
なお、検査対象物WK3が四角である場合に2つの渦流探傷用プローブ3C1,3C2を用いたが、六角である場合には3つの渦流探傷用プローブ3C1,3C2,3C3を用いればよい。
〔第4の実施形態〕
上の説明で明らかなように、本実施形態の渦流探傷用プローブ3〜3Cによると、貫通型コイルや内挿プローブでありながら、検査対象物WKに対して二方向の磁化が可能であるという利点がある。
【0038】
一般的には、検出コイルを配置する位置が励磁コイルの交叉点に限定されるため、図7に示すような角型の検査対象物WKである場合を除き、図4に示すような丸い検査対象物WKである場合には、1組みのコイル21,22つまり1つの励磁コイル11に対して磁気検出素子12の配置可能な場所は2箇所しかない。
【0039】
そのため、検査対象物WKの全周の探傷のためには、多数の励磁コイル11または渦流探傷用プローブ3を軸方向に配列するとともに、各磁気検出素子12の検出範囲から割り出された一定の角度ずつそれらをずらせて配置するなどの処置が必要である。
【0040】
しかし、その場合には、検査対象物WKの径が大きい場合、例えば外径が50mmである場合には、1個の渦流探傷用プローブ3の検出範囲が4mm程度であるから、検査対象物WKの全周の探傷のためには渦流探傷用プローブ3が40個も必要となってしまう。
【0041】
したがって、その場合に、40個の渦流探傷用プローブ3を配置した全体の長さは、1個の渦流探傷用プローブ3の長さが10mm程度であったとしても、全長で400mmとなり、軸方向に400mmの長さを有する部分を同時に深傷していることになる。しかし、これでは軸方向の特定箇所の全周を一時に探傷していることにはならないため、渦流探傷用プローブ3の個数が多いにもかかわらずガタ信号に鋭敏になってしまい、圧延工程中における検査対象物WKのオンライン検査などには適さない。
【0042】
そこで、渦流探傷用プローブ3をそのようなオンライン探傷などに適用するために、渦流探傷用プローブ3を回転させる方式が有効である。次に、そのような回転駆動装置を用いた探傷装置について、第4の実施形態として説明する。
【0043】
図8は回転駆動装置を用いた探傷装置1の構成を示す図である。
【0044】
図8において、渦流探傷用プローブ3Dは、円筒状のプローブホルダ34の中に保持されている。プローブホルダ34は、基台31に回転可能に設けられた2つのベアリングローラ32,33によって回転可能に支持されている。モータやギヤなどを含んで構成された回転駆動装置35が、プローブホルダ34の表面に当接しており、回転駆動装置35の回転によってプローブホルダ34が回転する。プローブホルダ34の回転とともに、渦流探傷用プローブ3Dは一体的に回転する。渦流探傷用プローブ3Dからの出力信号は、例えば図示しないスリップリングを用いて取り出される。
【0045】
渦流探傷用プローブ3Dの中央に設けられた穴13Dには、検査対象物WK4が貫通してその軸方向に移動(走行)しており、検査対象物WK4の外周が渦流探傷用プローブ3Dによって探傷される。そして、その際に、渦流探傷用プローブ3Dも回転するので、検査対象物WK4の全周が探傷されることとなる。
【0046】
なお、渦流探傷用プローブ3Dとして、上に述べた渦流探傷用プローブ3〜3Cのいずれを用いてもよい。穴13Dとして、走行する検査対象物WK4と干渉しない程度に余裕を持って大きくしておけばよい。
【0047】
なお、この方式では、渦流探傷用プローブ3Dの2箇所に設けられた磁気検出素子12のみがきずの検出に寄与するため、検出の有効領域(回転角度領域)は、例えば、外径が20mmの管の場合に、1個の磁気検出素子12あたり±15度程度であるため、通常の場合に、渦流探傷用プローブ3Dが1回転するうち60度/360度しか得られない。そのため、渦流探傷用プローブ3Dの回転速度を高速にする必要がある。検査対象物WK4が外径40mm以上の大径の場合などには、複数個の渦流探傷用プローブ3Dを所定の角度範囲内を揺動させ、有効探傷範囲を大きくすることが有効である。
〔具体例〕
さて、ここで、渦流探傷用プローブ3〜3Dの具体的な寸法の一例を示す。
【0048】
上に述べた渦流探傷用プローブ3〜3Dにおいて、コイル21,22は、軸方向の長さL3が4mm程度、幅(矩形状の長辺)L2が16mm程度、高さ(矩形状の短辺)L1が10mm程度である。なお、幅L2が高さL1よりも3倍程度以上となるようにしてもよい。磁気検出素子12は、直径が3mm程度、厚さが50μm程度、巻き数70程度のプレーナコイルである。磁気検出素子12は、2つのコイル21,22の交叉部分(4×4mmの部分)において、巻き線の下側に貼り付けられる。
【0049】
また、コイル21,22の巻き数は、例えば100〜200回程度、コイル21,22に流す電流の周波数は数KHz〜数百KHz、または数百KHz〜数GHz程度である。そのような電流を流すための電流供給装置として、位相が異なり振幅が同じである2系統のサイン波形の交流の電圧SA,SBを出力する回路を用いることができる。その場合の出力電圧としては、例えば数ボルト〜数十ボルト程度である。
【0050】
この渦流探傷用プローブを用い、板状の検査対象物WKに加工したドリル孔、EDMスリットの検出結果を図9に示した。図9において、検査対象物WKの長さ方向の位置がx軸に、それぞれの位置における磁気検出素子12に基づく出力信号がy軸に、それぞれ示されている。
【0051】
図9(A)に示すように、ドリル孔の位置(目盛り約18の位置)において、ドリル孔による微分波形の出力信号が得られる。また、図9(B)に示すように、EDMスリットの位置(目盛り約18の位置)において、EDMスリットによる微分波形の出力信号が得られる。このように、渦流探傷用プローブ3を用いて、従来のプローブと同じようなきず信号が得られた。
【0052】
また、上と同じ渦流探傷用プローブを用い、検査対象物WKとして外径が8mmのアルミ管を挿入し、アルミ管に加工したドリル孔の検出結果を図10〜図12に示した。
【0053】
つまり、図10には、ドリル径が、1.5mm、0.7mm、0.5mm、1.0mmであった場合のそれらのよる出力信号が示されている。
【0054】
また、同じアルミ管に1.0mmのドリル孔を設けてきずと磁気検出素子12との位置関係を調べた結果が図11に示されている。図11において、ドリル孔が磁気検出素子12の中心を通過した場合が実線で示され、ドリル孔が磁気検出素子12の中心から約5度ずれた位置を通過した場合が破線で示されている。
【0055】
これによると、ドリル孔が磁気検出素子12の中心から約5度ずれると、出力信号の大きさは20パーセント程度低下している。
【0056】
したがって、上の第4の実施形態で説明した探傷装置1を用いて検査対象物WKを回転させることにより、ドリル孔が検査対象物WKの周方向のどの位置あっても、図12に示すように良好に検出することができる。
【0057】
また、第4の実施形態のところでも述べたように、渦流探傷用プローブ3を多数個、例えば6個用い、それぞれの渦流探傷用プローブ3を回転角度位置を30度ずつずらせた状態で並べた場合について説明する。
【0058】
図13は6個の渦流探傷用プローブ3E1〜3E6を回転角度位置をずらせて配置した渦流探傷用プローブ3Eを開口部の側から見て示す図、図14は検査対象物WK5であるアルミ管の外周に設けたきずKZの位置を示す図、図15は検査対象物WK5に設けたきずによる検出結果を示す図である。
【0059】
図13に示すように、6個の渦流探傷用プローブを回転角度位置をずらせて配置すると、12個の磁気検出素子12が円周方向に30度間隔で並べられているのと同じ状態となる。したがって、渦流探傷用プローブ3Eの中央の穴13Eを貫通する検査対象物WK5の外周のどの角度位置にきずがあっても、図15に示すようにそのきずKZを検出することが可能である。
【0060】
図13に示す渦流探傷用プローブ3Eを用い、検査対象物WK5として銅パイプを穴13Eに通してローラで駆動して走行させることにより、銅パイプの外周面のきずを高速で精密に検査することが可能である。
【0061】
また、検査対象物WK5として、平板状の金属板、その他の種々の形状の金属について、その表面のきずを検査することが可能である。
【0062】
上に述べた渦流探傷用プローブ3、3B、3C、3D、3Eは、本発明における探傷装置にも対応するものである。
【0063】
なお、磁気検出素子12から出力される信号を処理するための回路として、増幅回路、同期検波回路、微分回路、演算回路、メモリ回路、出力回路などを組み合わせた公知の種々の回路構成を用いることが可能である。その場合に、複数の磁気検出素子12の出力を直列に接続して1つの増幅回路に入力するようにしてもよい。
【0064】
上に述べた各実施形態の渦流探傷用プローブ3〜3Eまたは探傷装置1によると、簡単な構成で検査対象物WKに二方向の磁界を容易に与えることが可能となり、検査対象物WKのどのような方向のきずをも検出して探傷することが可能である。
【0065】
上に述べた各実施形態において、コイル21,22、励磁コイル11、磁気検出素子12、渦流探傷用プローブ3〜3E、または探傷装置1の全体または各部の構造、構成、形状、寸法、個数、材質、回路構成、電圧、周波数などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の渦流探傷用プローブの構造を示す図である。
【図2】渦流探傷用プローブのコイルに流す電流の波形を示す図である。
【図3】渦流探傷用プローブによって流れる渦電流の様子を示す図である。
【図4】第2の実施形態の渦流探傷用プローブを示す図である。
【図5】検査対象物の表面に流れる渦電流の様子を示す図である。
【図6】検査対象物の表面に流れる渦電流の様子を示す図である。
【図7】第3の実施形態の渦流探傷用プローブを示す図である。
【図8】回転駆動装置を用いた探傷装置の構成を示す図である。
【図9】板状の検査対象物に加工したきずの検出結果を示す図である。
【図10】アルミ管に加工したきずの検出結果を示す図である。
【図11】アルミ管に加工したきずの検出結果を示す図である。
【図12】アルミ管に加工したきずの検出結果を示す図である。
【図13】6個の渦流探傷用プローブを用いた装置を示す図である。
【図14】アルミ管の外周に設けたきずの位置を示す図である。
【図15】アルミ管に設けたきずによる検出結果を示す図である。
【図16】断面が矩形状のコイルの各寸法の位置を示す図である。
【図17】従来の渦流探傷用プローブを示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 探傷装置
3,3B〜3E 渦流探傷用プローブ
11 励磁コイル
12 磁気検出素子
13 穴
21,22 コイル
35 回転駆動装置(回転装置)
WK 検査対象物
SA,SB 電圧(電流供給装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管や金属棒などの検査対象物の表面を探傷する方法および装置、ならびに渦流探傷用プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属管や金属棒などの検査対象物の表面に存在するきずの有無を非破壊で検査する方法として、渦流探傷法が用いられている。
【0003】
図17は従来の渦流探傷用プローブ80を示す図である。
【0004】
図17に示すように、従来の渦流探傷用プローブ80は、円筒状のボビン81の外周面に巻き線を施してソレノイド状の3つのコイル82、83a、83bを形成する。このうち、1つのコイル82は励磁コイルであり、他の2つのコイル83a、83bは検出コイルである。ボビン81の内部に、検査対象物である金属管や金属棒などを貫通させて試験を行う。
【0005】
このようなボビン型の渦流探傷用プローブ80では、ボビン81の内側に置かれた検査対象物の表面に、コイル82の巻き線方向つまり検査対象物の周方向(軸心と直角方向)に渦電流が流れる。検査対象物の表面に軸方向に沿った亀裂などのきずが存在した場合には、渦電流のための電流路が遮断されて変化する。この変化を、励磁コイル82の近傍に巻かれた検出コイル83a、83bのインピーダンスの変化として検出する。
【0006】
また、金属管の内表面のきずを探傷したい場合には、このような渦流探傷用プローブ80を管の内部に挿入する方法が取られる。この方法は、日本非破壊検査協会編の「渦流探傷試験■、5、試験コイル」に規定されている。
【0007】
また、2個以上の小型のパンケーキコイルを、試験対象物の軸方向又は渦巻き状に渦電流が発生するように配置し、欠陥が渦電流をさえぎることによりコイル内にインピーダンスの変化を生ずるようにした渦流探傷用プローブが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−43204
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図17に示した従来の渦流探傷用プローブ80によると、比較的簡単な構成により非接触で高速の検査が実現可能であるが、しかし、検査対象物の表面に流れる渦電流と同じ方向に沿ったきずつまり周方向のきずが存在していても渦電流の電流路を大きく阻害することが無いため、周方向のきずの検出はきわめて困難であるという問題がある。
【0009】
つまり、従来から広く用いられている貫通型のコイルを用いた渦流探傷用プローブ80では、金属管や金属棒のような圧延加工で製造される長い形状の検査対象物の軸方向きず、周方向きず、および微細孔形状のきずなどを同時に検出することは困難であった。
【0010】
また、特許文献1に示された小型のパンケーキコイルを複数配置する方法では、多数のパンケーキコイルを検査対象物に接近させて配置することが容易ではなく、装置が複雑で高価になるという問題がある。
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、簡単な構成で検査対象物に二方向の磁界を容易に与えることを可能とし、どのような方向のきずをも検出することのできる検査対象物の探傷方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る方法は、断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて励磁コイルとし、前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を流して回転磁界を発生させ、前記回転磁界によって検査対象物の表面に渦電流を発生させ、前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子によって渦流探傷を行う。
【0013】
好ましくは、前記2つのコイルを前記検査対象物が貫通するように配置する。
【0014】
本発明に係る装置は、断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて配置した励磁コイルと、前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を供給する電流供給装置と、前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、簡単な構成で検査対象物に二方向の磁界を容易に与えることが可能となり、検査対象物のどのような方向のきずをも検出して探傷することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔第1の実施形態〕
図1は本発明に係る第1の実施形態の渦流探傷用プローブ3の構造を示す図、図2は渦流探傷用プローブ3のコイル11,12に流す電流の波形を示す図、図3は渦流探傷用プローブ3によって誘導される金属板の表面の渦電流の様子を示す図、図17はコイル21,22の各寸法の位置を示す図である。
【0017】
なお、図1(A)は渦流探傷用プローブ3の正面図、図1(B)は渦流探傷用プローブ3の右側面図、図1(C)は渦流探傷用プローブ3の底面図である。
【0018】
図1において、渦流探傷用プローブ3は、断面が矩形状の2つのコイル21,22を互いに直交させて配置した励磁コイル11、および2つのコイル21,22が交叉する位置に配置された磁気検出素子12からなる。2つのコイル21,22に互いに90度の位相差を持つ交流電流を流すことにより回転磁界を発生させ、2つのコイル21,22の近辺に存在する金属の検査対象物WKの表面の傷を探傷する。
【0019】
各コイル21,22は、合成樹脂、陶磁器、または紙などの非磁性材料からなるボビンに電線を巻いたものである。そのようなボビンは、直方体形状、細長い直方体形状のものが直交する形状、2つの矩形状の枠体が直交するように組み合わされたものなど、種々の構造または構成とすることができる。
【0020】
なお、2つのコイル21,22は、いずれも、矩形状の長辺L2が短辺L1の3倍以上の寸法であり、コイル21,22の長さL3が矩形状の短辺L1の3分の1ないし5分の3となっている。しかしこれ以外の寸法であってもよい。なお、コイル21,22の短辺L1、長辺L2、および長さL3については、図16を参照のこと。
【0021】
磁気検出素子12として、サーチコイル、ホール素子、フラックスゲート素子、GMR素子、MI素子、薄膜プレーナコイル、その他の素子が用いられる。なお、磁気検出素子12は、2つのコイル21,22が交叉する2箇所の位置にそれぞれ配置してもよい。
【0022】
検査対象物WKの検査のために、2つのコイル21,22には、互いに90度の位相差を持つサイン波である交流電流J1,J2を供給する。
【0023】
つまり、一方のコイル21には図2に示す電流J1が流れるように、他方のコイル21には図2に示す電流J2が流れるように、図示しない電流供給装置によってコイル21,22に電圧SA,SBを印加する。このように、互いに90度の位相差を持つ電流J1および電流J2をコイル21,22に流すことによって、コイル21,22の交差部分に回転磁界が発生する。
【0024】
コイル21,22の交差部分を検査対象物WK1である金属板に近づけると、図3に示すように、金属板WK1の表面には、コイル21の電流J1による渦電流Z1、およびコイル22の電流J2による渦電流Z2が、それぞれ流れる。これら渦電流Z1,Z2の方向は、互いに直交する方向である。渦電流Z1,Z2の大きさは、各電流J1,J2に応じて変化するので、それぞれサイン波状に変化する。その結果、渦電流Z1,Z2を合成すると回転渦電流となる。
【0025】
いずれにしても、金属板WK1の表面には互いに直交する渦電流Z1,Z2が流れるので、これら渦電流Z1,Z2の方向にそれぞれ直交する方向に沿ったきずをも容易に検出することが可能となる。
〔第2の実施形態〕
次に、金属管や金属棒などのように長い検査対象物WKを検査可能とした第2の実施形態の渦流探傷用プローブ3Bについて説明する。
【0026】
図4は第2の実施形態の渦流探傷用プローブ3Bを示す図、図5および図6は渦流探傷用プローブ3Bによって検査対象物WK2の表面に流れる渦電流の様子を示す図である。
【0027】
図4に示すように、励磁コイル11Bには、管状または棒状の検査対象物WK2が2つのコイル21,22を貫通可能なように、コイル21,22の中央部に断面円形状の穴13が設けられている。
【0028】
穴13を貫通することによって2つのコイル21,22の中を挿通した検査対象物WK2の表面には、コイル21,22に流す電流に応じた渦電流が流れる。例えば、2つのコイル21,22に同位相の交流電流を流した場合には、図5に示すように、互いに直交する方向に渦電流Z3,Z4が流れる。この場合に、コイル21,22は、検査対象物WK2の軸心方向(軸線方向)に対して45度の方向に巻かれているため、検査対象物WK2の表面のきずとして、軸心方向に対し±45度、±135度の方向に沿ったきずが、磁気検出素子12によって最大感度で検出されることとなる。しかし一般的には、軸心方向に対して、0度(±25度)、90度(±25度)のきずが多いため、図5に示す方向の渦電流Z3,Z4によってはきずによって磁気検出素子12で検出される信号の評価を良好に行うことができない。
【0029】
そこで、第1の実施形態の図2で示したように、2つのコイル21,22に、互いに90度の位相差を持つ交流電流を供給し、検査対象物WK2の表面に回転渦電流を発生させる。
【0030】
つまり、図6に示すように、コイル21,22による回転磁界によって、検査対象物WK2の表面には時間に応じて流れる方向が変化する渦電流、つまり回転渦電流Z5が流れる。回転渦電流Z5は、いずれの方向のきずをも検出することが可能である。つまり、回転渦電流Z5は、どの方向のきずに対しても磁気検出素子12に同等の信号が得られるように作用する。その結果、金属管や金属棒などの検査対象物WK2の表面の軸方向のきずおよび周方向のきずの両方について、同等の振幅の信号が磁気検出素子12の出力信号として得られる。
【0031】
また、従来においては、断面が矩形や六角形状の管や棒の探傷はできなかったが、本実施形態においてはそれらの形状の検査対象物WKについても、上と同様に容易に探傷が可能となる。
〔第3の実施形態〕
次に、断面形状が矩形である管(角管)を検査対象物WK3とする場合について説明する。
【0032】
図7は第3の実施形態の渦流探傷用プローブ3Cを示す図である。
【0033】
図7において、渦流探傷用プローブ3Cは、同じ構造の2個の渦流探傷用プローブ3C1,3C2を、同軸上で互いに90度の角度だけ回転した角度位置に配置することによって構成される。
【0034】
各渦流探傷用プローブ3C1,3C2は、2つのコイル21,22を互いに直交させて配置した励磁コイル11C、その交叉位置に配置した2つの磁気検出素子12Cを有する。各励磁コイル11Cには、検査対象物WK3が挿通可能なように断面矩形の穴13Cが設けられている。
【0035】
このように、渦流探傷用プローブ3Cにおいては、複数個の励磁コイル11Cが用いられ、各励磁コイル11Cは、検査対象物WK3の廻りに所定の回転角度、ここでは90度だけ互いにずらせて配置されている。各励磁コイル11Cには、検査対象物WK3の外周面における互いに異なる角度範囲の傷を検出するように、2つの磁気検出素子12が配置されている。
【0036】
各渦流探傷用プローブ3C1,3C2において、2つのコイル21,22に互いに90度の位相差を持つ交流電流を流すことにより回転磁界を発生させ、検査対象物WK3の四角の4つの周面のきずを検出する。つまり、渦流探傷用プローブ3C1によって検査対象物WK3の左右の面を検査し、渦流探傷用プローブ3C2によって検査対象物WK3の上下の面を検査する。このように、渦流探傷用プローブ3Cによると、検査対象物WK3の全周についてのきずの検査を同時に行うことができる。
【0037】
なお、検査対象物WK3が四角である場合に2つの渦流探傷用プローブ3C1,3C2を用いたが、六角である場合には3つの渦流探傷用プローブ3C1,3C2,3C3を用いればよい。
〔第4の実施形態〕
上の説明で明らかなように、本実施形態の渦流探傷用プローブ3〜3Cによると、貫通型コイルや内挿プローブでありながら、検査対象物WKに対して二方向の磁化が可能であるという利点がある。
【0038】
一般的には、検出コイルを配置する位置が励磁コイルの交叉点に限定されるため、図7に示すような角型の検査対象物WKである場合を除き、図4に示すような丸い検査対象物WKである場合には、1組みのコイル21,22つまり1つの励磁コイル11に対して磁気検出素子12の配置可能な場所は2箇所しかない。
【0039】
そのため、検査対象物WKの全周の探傷のためには、多数の励磁コイル11または渦流探傷用プローブ3を軸方向に配列するとともに、各磁気検出素子12の検出範囲から割り出された一定の角度ずつそれらをずらせて配置するなどの処置が必要である。
【0040】
しかし、その場合には、検査対象物WKの径が大きい場合、例えば外径が50mmである場合には、1個の渦流探傷用プローブ3の検出範囲が4mm程度であるから、検査対象物WKの全周の探傷のためには渦流探傷用プローブ3が40個も必要となってしまう。
【0041】
したがって、その場合に、40個の渦流探傷用プローブ3を配置した全体の長さは、1個の渦流探傷用プローブ3の長さが10mm程度であったとしても、全長で400mmとなり、軸方向に400mmの長さを有する部分を同時に深傷していることになる。しかし、これでは軸方向の特定箇所の全周を一時に探傷していることにはならないため、渦流探傷用プローブ3の個数が多いにもかかわらずガタ信号に鋭敏になってしまい、圧延工程中における検査対象物WKのオンライン検査などには適さない。
【0042】
そこで、渦流探傷用プローブ3をそのようなオンライン探傷などに適用するために、渦流探傷用プローブ3を回転させる方式が有効である。次に、そのような回転駆動装置を用いた探傷装置について、第4の実施形態として説明する。
【0043】
図8は回転駆動装置を用いた探傷装置1の構成を示す図である。
【0044】
図8において、渦流探傷用プローブ3Dは、円筒状のプローブホルダ34の中に保持されている。プローブホルダ34は、基台31に回転可能に設けられた2つのベアリングローラ32,33によって回転可能に支持されている。モータやギヤなどを含んで構成された回転駆動装置35が、プローブホルダ34の表面に当接しており、回転駆動装置35の回転によってプローブホルダ34が回転する。プローブホルダ34の回転とともに、渦流探傷用プローブ3Dは一体的に回転する。渦流探傷用プローブ3Dからの出力信号は、例えば図示しないスリップリングを用いて取り出される。
【0045】
渦流探傷用プローブ3Dの中央に設けられた穴13Dには、検査対象物WK4が貫通してその軸方向に移動(走行)しており、検査対象物WK4の外周が渦流探傷用プローブ3Dによって探傷される。そして、その際に、渦流探傷用プローブ3Dも回転するので、検査対象物WK4の全周が探傷されることとなる。
【0046】
なお、渦流探傷用プローブ3Dとして、上に述べた渦流探傷用プローブ3〜3Cのいずれを用いてもよい。穴13Dとして、走行する検査対象物WK4と干渉しない程度に余裕を持って大きくしておけばよい。
【0047】
なお、この方式では、渦流探傷用プローブ3Dの2箇所に設けられた磁気検出素子12のみがきずの検出に寄与するため、検出の有効領域(回転角度領域)は、例えば、外径が20mmの管の場合に、1個の磁気検出素子12あたり±15度程度であるため、通常の場合に、渦流探傷用プローブ3Dが1回転するうち60度/360度しか得られない。そのため、渦流探傷用プローブ3Dの回転速度を高速にする必要がある。検査対象物WK4が外径40mm以上の大径の場合などには、複数個の渦流探傷用プローブ3Dを所定の角度範囲内を揺動させ、有効探傷範囲を大きくすることが有効である。
〔具体例〕
さて、ここで、渦流探傷用プローブ3〜3Dの具体的な寸法の一例を示す。
【0048】
上に述べた渦流探傷用プローブ3〜3Dにおいて、コイル21,22は、軸方向の長さL3が4mm程度、幅(矩形状の長辺)L2が16mm程度、高さ(矩形状の短辺)L1が10mm程度である。なお、幅L2が高さL1よりも3倍程度以上となるようにしてもよい。磁気検出素子12は、直径が3mm程度、厚さが50μm程度、巻き数70程度のプレーナコイルである。磁気検出素子12は、2つのコイル21,22の交叉部分(4×4mmの部分)において、巻き線の下側に貼り付けられる。
【0049】
また、コイル21,22の巻き数は、例えば100〜200回程度、コイル21,22に流す電流の周波数は数KHz〜数百KHz、または数百KHz〜数GHz程度である。そのような電流を流すための電流供給装置として、位相が異なり振幅が同じである2系統のサイン波形の交流の電圧SA,SBを出力する回路を用いることができる。その場合の出力電圧としては、例えば数ボルト〜数十ボルト程度である。
【0050】
この渦流探傷用プローブを用い、板状の検査対象物WKに加工したドリル孔、EDMスリットの検出結果を図9に示した。図9において、検査対象物WKの長さ方向の位置がx軸に、それぞれの位置における磁気検出素子12に基づく出力信号がy軸に、それぞれ示されている。
【0051】
図9(A)に示すように、ドリル孔の位置(目盛り約18の位置)において、ドリル孔による微分波形の出力信号が得られる。また、図9(B)に示すように、EDMスリットの位置(目盛り約18の位置)において、EDMスリットによる微分波形の出力信号が得られる。このように、渦流探傷用プローブ3を用いて、従来のプローブと同じようなきず信号が得られた。
【0052】
また、上と同じ渦流探傷用プローブを用い、検査対象物WKとして外径が8mmのアルミ管を挿入し、アルミ管に加工したドリル孔の検出結果を図10〜図12に示した。
【0053】
つまり、図10には、ドリル径が、1.5mm、0.7mm、0.5mm、1.0mmであった場合のそれらのよる出力信号が示されている。
【0054】
また、同じアルミ管に1.0mmのドリル孔を設けてきずと磁気検出素子12との位置関係を調べた結果が図11に示されている。図11において、ドリル孔が磁気検出素子12の中心を通過した場合が実線で示され、ドリル孔が磁気検出素子12の中心から約5度ずれた位置を通過した場合が破線で示されている。
【0055】
これによると、ドリル孔が磁気検出素子12の中心から約5度ずれると、出力信号の大きさは20パーセント程度低下している。
【0056】
したがって、上の第4の実施形態で説明した探傷装置1を用いて検査対象物WKを回転させることにより、ドリル孔が検査対象物WKの周方向のどの位置あっても、図12に示すように良好に検出することができる。
【0057】
また、第4の実施形態のところでも述べたように、渦流探傷用プローブ3を多数個、例えば6個用い、それぞれの渦流探傷用プローブ3を回転角度位置を30度ずつずらせた状態で並べた場合について説明する。
【0058】
図13は6個の渦流探傷用プローブ3E1〜3E6を回転角度位置をずらせて配置した渦流探傷用プローブ3Eを開口部の側から見て示す図、図14は検査対象物WK5であるアルミ管の外周に設けたきずKZの位置を示す図、図15は検査対象物WK5に設けたきずによる検出結果を示す図である。
【0059】
図13に示すように、6個の渦流探傷用プローブを回転角度位置をずらせて配置すると、12個の磁気検出素子12が円周方向に30度間隔で並べられているのと同じ状態となる。したがって、渦流探傷用プローブ3Eの中央の穴13Eを貫通する検査対象物WK5の外周のどの角度位置にきずがあっても、図15に示すようにそのきずKZを検出することが可能である。
【0060】
図13に示す渦流探傷用プローブ3Eを用い、検査対象物WK5として銅パイプを穴13Eに通してローラで駆動して走行させることにより、銅パイプの外周面のきずを高速で精密に検査することが可能である。
【0061】
また、検査対象物WK5として、平板状の金属板、その他の種々の形状の金属について、その表面のきずを検査することが可能である。
【0062】
上に述べた渦流探傷用プローブ3、3B、3C、3D、3Eは、本発明における探傷装置にも対応するものである。
【0063】
なお、磁気検出素子12から出力される信号を処理するための回路として、増幅回路、同期検波回路、微分回路、演算回路、メモリ回路、出力回路などを組み合わせた公知の種々の回路構成を用いることが可能である。その場合に、複数の磁気検出素子12の出力を直列に接続して1つの増幅回路に入力するようにしてもよい。
【0064】
上に述べた各実施形態の渦流探傷用プローブ3〜3Eまたは探傷装置1によると、簡単な構成で検査対象物WKに二方向の磁界を容易に与えることが可能となり、検査対象物WKのどのような方向のきずをも検出して探傷することが可能である。
【0065】
上に述べた各実施形態において、コイル21,22、励磁コイル11、磁気検出素子12、渦流探傷用プローブ3〜3E、または探傷装置1の全体または各部の構造、構成、形状、寸法、個数、材質、回路構成、電圧、周波数などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の渦流探傷用プローブの構造を示す図である。
【図2】渦流探傷用プローブのコイルに流す電流の波形を示す図である。
【図3】渦流探傷用プローブによって流れる渦電流の様子を示す図である。
【図4】第2の実施形態の渦流探傷用プローブを示す図である。
【図5】検査対象物の表面に流れる渦電流の様子を示す図である。
【図6】検査対象物の表面に流れる渦電流の様子を示す図である。
【図7】第3の実施形態の渦流探傷用プローブを示す図である。
【図8】回転駆動装置を用いた探傷装置の構成を示す図である。
【図9】板状の検査対象物に加工したきずの検出結果を示す図である。
【図10】アルミ管に加工したきずの検出結果を示す図である。
【図11】アルミ管に加工したきずの検出結果を示す図である。
【図12】アルミ管に加工したきずの検出結果を示す図である。
【図13】6個の渦流探傷用プローブを用いた装置を示す図である。
【図14】アルミ管の外周に設けたきずの位置を示す図である。
【図15】アルミ管に設けたきずによる検出結果を示す図である。
【図16】断面が矩形状のコイルの各寸法の位置を示す図である。
【図17】従来の渦流探傷用プローブを示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 探傷装置
3,3B〜3E 渦流探傷用プローブ
11 励磁コイル
12 磁気検出素子
13 穴
21,22 コイル
35 回転駆動装置(回転装置)
WK 検査対象物
SA,SB 電圧(電流供給装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて励磁コイルとし、前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を流して回転磁界を発生させ、
前記回転磁界によって検査対象物の表面に渦電流を発生させ、
前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子によって渦流探傷を行う、
ことを特徴とする検査対象物の探傷方法。
【請求項2】
前記2つのコイルを前記検査対象物が貫通するように配置する、
請求項1記載の検査対象物の探傷方法。
【請求項3】
断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて配置した励磁コイルと、
前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を供給する電流供給装置と、
前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子と、
を有することを特徴とする検査対象物の探傷装置。
【請求項4】
前記励磁コイルは、前記2つのコイルを前記検査対象物が貫通可能なように配置されている、
請求項3記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項5】
前記2つのコイルは、いずれも、矩形状の長辺が短辺の3倍以上の寸法であり、コイルの長さが矩形状の短辺の3分の1ないし5分の3である、
請求項4記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項6】
前記励磁コイルを当該励磁コイルを貫通する検査対象物の廻りに回転させる回転装置が設けられてなる、
請求項4または5記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項7】
複数個の前記励磁コイルが用いられ、
前記複数個の励磁コイルは、前記検査対象物の廻りに所定の回転角度だけ互いにずらせて配置され、
それぞれの励磁コイルには、前記検査対象物の外周面における互いに異なる角度範囲の傷を検出するように前記磁気検出素子が配置されている、
請求項4または5記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項8】
前記磁気検出素子は、サーチコイル、ホール素子、フラックスゲート素子、GMR素子、MI素子、または薄膜プレーナコイルのいずれかである、
請求項3ないし7のいずれかに記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項9】
断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて配置した励磁コイルと、
前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子と、
を有しており、
前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を流すことにより回転磁界を発生させ、前記2つのコイルを貫通する検査対象物の表面の傷を探傷する、
ことを特徴とする渦流探傷用プローブ。
【請求項1】
断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて励磁コイルとし、前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を流して回転磁界を発生させ、
前記回転磁界によって検査対象物の表面に渦電流を発生させ、
前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子によって渦流探傷を行う、
ことを特徴とする検査対象物の探傷方法。
【請求項2】
前記2つのコイルを前記検査対象物が貫通するように配置する、
請求項1記載の検査対象物の探傷方法。
【請求項3】
断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて配置した励磁コイルと、
前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を供給する電流供給装置と、
前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子と、
を有することを特徴とする検査対象物の探傷装置。
【請求項4】
前記励磁コイルは、前記2つのコイルを前記検査対象物が貫通可能なように配置されている、
請求項3記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項5】
前記2つのコイルは、いずれも、矩形状の長辺が短辺の3倍以上の寸法であり、コイルの長さが矩形状の短辺の3分の1ないし5分の3である、
請求項4記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項6】
前記励磁コイルを当該励磁コイルを貫通する検査対象物の廻りに回転させる回転装置が設けられてなる、
請求項4または5記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項7】
複数個の前記励磁コイルが用いられ、
前記複数個の励磁コイルは、前記検査対象物の廻りに所定の回転角度だけ互いにずらせて配置され、
それぞれの励磁コイルには、前記検査対象物の外周面における互いに異なる角度範囲の傷を検出するように前記磁気検出素子が配置されている、
請求項4または5記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項8】
前記磁気検出素子は、サーチコイル、ホール素子、フラックスゲート素子、GMR素子、MI素子、または薄膜プレーナコイルのいずれかである、
請求項3ないし7のいずれかに記載の検査対象物の探傷装置。
【請求項9】
断面が矩形状の2つのコイルを互いに直交させて配置した励磁コイルと、
前記2つのコイルが交叉する位置に配置した磁気検出素子と、
を有しており、
前記2つのコイルに互いに90度の位相差を持つ交流電流を流すことにより回転磁界を発生させ、前記2つのコイルを貫通する検査対象物の表面の傷を探傷する、
ことを特徴とする渦流探傷用プローブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−69090(P2009−69090A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240373(P2007−240373)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(591142138)北斗電子工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(591142138)北斗電子工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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