説明

検査装置

【課題】小型のマイクロ検査チップを用いてPCR法による遺伝子増幅を行うことのできる検査装置を提供すること。
【解決手段】マイクロ検査チップ内で液体を送液するための送液部を備え、複数の温度領域を有する温度可変部とマイクロ検査チップとを相対移動させることで、マイクロ検査チップ内で液体を停止させた状態で、温度サイクルを繰り返すことができる。これによって、マイクロ検査チップ上に長い流路を必要とせず、小型のマイクロ検査チップを用いてPCR法による遺伝子増幅を行うことのできる検査装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置に関し、特に、遺伝子増幅反応、抗原抗体反応などによる生体物質の検査・分析、その他の化学物質の検査・分析、有機合成等による目的化合物の化学合成などに用いられるマイクロ検査チップを用いた検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、センサーなど)を微細化して1チップ上に集積化した分析用チップ(以下、マイクロ検査チップと言う)が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これは、μ−TAS(Micro Total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab−on−chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。特に、遺伝子検査に見られるように煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化に優れたマイクロ検査チップは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とするので、その恩恵は多大と言える。
【0004】
本出願人は、試薬などを封入したマイクロ検査チップに血液などの検体を注入し、マイクロ検査チップの微細流路にマイクロポンプで駆動液を注入することで、検体などを移動させて順次反応させ、結果を測定することができる反応検出装置を提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
マイクロ検査チップを用いて遺伝子診断を行うにあたっての遺伝子の増幅方法として、ポリメラーゼ連鎖反応法(以下、PCR法と言う)が知られている。PCR法では、増幅したい遺伝子を含む検体を、複数の温度条件(例えば、約95℃の熱変性温度、約55℃のアニーリング温度、約70℃の重合温度の3つの温度条件)サイクルで増幅反応させ、このサイクルを何度も繰り返すことで遺伝子を大量に増幅することができる。
【0006】
例えば、特許文献3には、(1)遺伝子を含む検体を入れた毛細管を3つの温度条件の温度槽に順次浸けることで温度サイクルを行ってPCR法による遺伝子増幅を行う方法、(2)1本の毛細管を折り曲げて3つの温度条件の温度槽に順次浸かるように構成し、毛細管に遺伝子を含む検体を流すことでPCR法による遺伝子増幅を行う方法、(3)3つの温度条件のヒートブロックを円筒状に組み合わせ、毛細管を円筒状の3つのヒートブロックに巻き付け、毛細管に遺伝子を含む検体を流すことでPCR法による遺伝子増幅を行う方法、が示されている。
【0007】
また、例えば特許文献4には、マイクロ検査チップに3つの温度領域を持たせ、その温度領域を連続的に液体が横断することでPCR法の温度サイクルを行う方法が示されている。
【特許文献1】特開2004−28589号公報
【特許文献2】特開2006−149379号公報
【特許文献3】特許第3120466号公報
【特許文献4】特表2004−532003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3の方法では、3つの温度槽を用いる方法では、温度槽に必要なスペースが大きく、検査装置が大型化してしまうし、ヒートブロックを用いる方法では、温度サイクルを繰り返すために長い毛細管が必要で、やはり検査装置が大型化してしまう。
【0009】
また、特許文献4の方法でも、温度サイクルを繰り返すために、マイクロ検査チップ上に長い流路が必要で、マイクロ検査チップが大きくなってしまう。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、小型のマイクロ検査チップを用いてPCR法による遺伝子増幅を行うことのできる検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0012】
1.マイクロ検査チップと、
前記マイクロ検査チップに接続され、前記マイクロ検査チップの内部で液体を送液するための送液部とを備えた検査装置において、
複数の温度領域を有する温度可変部と、
前記温度可変部と前記マイクロ検査チップとを相対移動させる移動部とを備えたことを特徴とする検査装置。
【0013】
2.前記送液部と前記マイクロ検査チップとを分離可能に接続する分離接続部を備えたことを特徴とする1に記載の検査装置。
【0014】
3.前記送液部と前記マイクロ検査チップとの分離は、前記送液部を前記マイクロ検査チップの表面に垂直な方向に相対移動させて行われることを特徴とする2に記載の検査装置。
【0015】
4.前記移動部は、前記温度可変部と前記マイクロ検査チップとを、前記マイクロ検査チップの表面に平行な一方向に直進させて相対移動させることを特徴とする1乃至3の何れか1項に記載の検査装置。
【0016】
5.前記移動部は、前記温度可変部と前記マイクロ検査チップとを、前記マイクロ検査チップの表面に垂直な軸の周りに回転させて相対移動させることを特徴とする1乃至3の何れか1項に記載の検査装置。
【0017】
6.前記マイクロ検査チップの内部での反応結果を検出する検出部を備え、
前記移動部は、前記温度可変部と前記マイクロ検査チップとの相対移動と連動して、前記検出部を前記マイクロ検査チップに対して相対移動させることを特徴とする1乃至5の何れか1項に記載の検査装置。
【0018】
7.前記送液部はマイクロポンプであることを特徴とする1乃至6の何れか1項に記載の検査装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、マイクロ検査チップ内で液体を送液するための送液部を備え、複数の温度領域を有する温度可変部とマイクロ検査チップとを相対移動させることで、マイクロ検査チップ内で液体を停止させた状態で、温度サイクルを繰り返すことができる。これによって、マイクロ検査チップ上に長い流路を必要とせず、小型のマイクロ検査チップを用いてPCR法による遺伝子増幅を行うことのできる検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0021】
最初に、本発明の検査装置について、図1および図2を用いて説明する。図1は、検査装置1の一例を示す斜視図である。
【0022】
図1において、検査装置1は、トレイ3、搬送口5、操作部7、表示部9等を備えている。予め検体や試薬等が注入されたマイクロ検査チップ100は、トレイ3上にセットされ、図示しないローディング機構により、搬送口5から検査装置1内に搬送され、検査が行われる。検査内容や検査対象のデータ等は、操作部7を用いて検査装置1に入力され、検査結果は表示部9に表示される。
【0023】
図2は、図1に示した検査装置1の内部構成の一例を示すブロック図である。
【0024】
図2において、検査装置1は、送液部210、温度可変部230、検出部250、駆動制御部270、移動部280および分離接続部290等で構成される。マイクロ検査チップ100は、図示しないローディング機構により搬送口5から検査装置1内に搬送され、分離接続部290により送液部210と接続される。送液部210による送液により、マイクロ検査チップ100内の検体と試薬とが混合されて反応することで、目的物質の検出や病気の判定等の検査が行われる。
【0025】
マイクロ検査チップ100は、一般に分析チップ、マイクロリアクタチップなどとも称されるものと同等であり、例えば、樹脂、ガラス、シリコン、セラミックスなどを材料とし、その上に、微細加工技術により、幅および高さが数μm〜数百μmのレベルの微細な流路を形成したものである。マイクロ検査チップ100のサイズおよび形状は、通常、縦横が数十mm、厚さが数mm程度の板状である。マイクロ検査チップ100の構成の一例については、図3で詳述する。
【0026】
送液部210は、マイクロ検査チップ100内の送液を行うためのユニットで、マイクロポンプ211、チップ接続部213、駆動液タンク215および駆動液供給部217等で構成される。送液部210は、1つあるいは複数のマイクロポンプ211を備えている。マイクロポンプ211は、マイクロ検査チップ100内に駆動液216を注入あるいは吸引することで、マイクロ検査チップ100内の送液を行う。チップ接続部213は、マイクロポンプ211とマイクロ検査チップ100とを接続する。
【0027】
駆動液供給部217は、駆動液タンク215からマイクロポンプ211に駆動液216を供給する。駆動液タンク215は、駆動液216の補充のために駆動液供給部217から取り外して交換可能である。マイクロポンプ211上には1個または複数個のポンプが形成されており、複数個の場合は、各々独立にあるいは連動して駆動可能である。
【0028】
マイクロ検査チップ100とマイクロポンプ211とはチップ接続部213で接続されて連通されている。マイクロポンプ211が駆動されると、マイクロポンプ211から、チップ接続部213を介して、駆動液216がマイクロ検査チップ100に注入あるいは吸引される。マイクロ検査チップ100内の複数の収容部に収容されている検体や試薬等は、駆動液216によってマイクロ検査チップ100内で送液される。
【0029】
温度可変部230は、複数の温度領域(例えば、約95℃の熱変性温度、約55℃のアニーリング温度、約70℃の重合温度の3つの温度領域)を有し、PCR法による遺伝子増幅を行う。各温度領域は、ヒータやペルチエ素子等の通電によって温度を可変に制御できる素子等で構成される。
【0030】
以下の説明では、温度可変部230は3つの温度領域を有するものとして説明するが、温度領域は3つに限るものではない。例えばシャトルPCR法のように2つの温度領域(例えば90℃と65℃)で遺伝子増幅を行う方法の場合には、温度可変部230は2つの温度領域を有するものであってよく、要するに、用いるPCR法に最適な温度領域を有するものと考えればよい。
【0031】
検出部250は、発光ダイオード(LED)やレーザ等の光源と、フォトダイオード(PD)等の受光部等で構成され、マイクロ検査チップ100内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を、マイクロ検査チップ100上の検出領域の位置で光学的に検出する。光源と受光部との配置は透過型と反射型とがあり、必要に応じて決定されればよい。
【0032】
駆動制御部270は、図示しないマイクロコンピュータやメモリ等で構成され、検査装置1内の各部の駆動、制御、検出等を行う。
【0033】
移動部280は、温度可変部230とマイクロ検査チップ100とを当接あるいは接近させるとともに、温度可変部230とマイクロ検査チップ100とを相対移動させることで、温度可変部230の複数の温度領域によってマイクロ検査チップ100を温度変化させ、PCR法による遺伝子増幅を行う。移動部280については、図4乃至図7で詳述する。
【0034】
分離接続部290は、送液部210あるいはマイクロ検査チップ100の一部または全部を移動させることで、送液部210とマイクロ検査チップ100とを分離あるいは接続する。分離接続部290については、図4、図6および図7で詳述する。
【0035】
次に、マイクロ検査チップ100の構成の一例について、図3を用いて説明する。図3は、マイクロ検査チップ100の構成の一例を示す模式図で、図3(a)は側面図、図3(b)はマイクロ検査チップ100上の流路の構成の一例を示す上面図、図3(c)はマイクロ検査チップ100上の流路の構成の他の例を示す上面図である。
【0036】
図3(a)において、マイクロ検査チップ100は、例えばポリプロピレン等の撥水性の樹脂材料で形成されており、試薬や検体等の液体を貯留し送液するための溝状の流路110が表面に形成された流路基板101と、流路基板101の流路110が形成された面に接着され、流路基板101の流路110の蓋として機能する天板103とで構成されている。流路基板101および天板103には、マイクロポンプユニット210とマイクロ検査チップ100との接続口113や、検体を注入するための注入口123、空気抜き穴119等が設けられ、注入口123は封止部材105で封止されている。
【0037】
流路110は、接続口113に連通した駆動液注入部111、注入口123に連通し、検体Xを貯留する検体貯留部121、複数の試薬貯留部115、試薬と検体Xとを混合して反応を増幅させる複数の増幅部117、複数の試薬貯留部115と複数の増幅部117とを結ぶ送液流路107、検体貯留部121の検体Xを複数の増幅部117に送液して分割する検体分割路125等で構成される。
【0038】
複数の増幅部117は、図示しない温度可変部230によって反応時に温度変化され、同じく図示しない検出部250で増幅結果を検出されるために、流路基板101の流路110が形成された面の裏面近くまで達する深い流路として形成される。また、複数の増幅部117は、検出部250による光学的な検出のために、少なくともその一部が光学的に透明に形成される。
【0039】
図3(b)において、ここでは、検体Xを4種の試薬A〜Dと反応させ増幅する例を示す。4つの試薬貯留部115の各々には、予め試薬A、B、C、Dが貯留されている。検体Xは、例えばピペット等を用いて注入口123から検体貯留部121に注入され、貯留される。検体X注入後、注入口123は例えばシート状の封止部材105で封止される。
【0040】
4つの試薬貯留部115と検体貯留部121との各々には、5つの駆動液注入部111がそれぞれ連通している。4つの試薬貯留部115の各々は、4つの増幅部117に送液流路107を介して連通している。検体貯留部121は、4つの送液流路107に検体分割路125を介して連通している。
【0041】
接続口113および駆動液注入部111を介して4つの試薬貯留部115と検体貯留部121とに接続されているマイクロポンプ211から、駆動液216が駆動液注入部111に注入される。これによって、検体Xが検体分割路125を通って4分割され、4つの送液流路107のそれぞれに送液される。同時に、4つの試薬貯留部115の各々に貯留されている試薬A、B、C、Dも、4つの送液流路107のそれぞれに送液される。これによって、4分割された検体Xと4つの試薬A、B、C、Dとは、4つの送液流路107内で混合されながら、4つの増幅部117のそれぞれに注入される。4つの増幅部117内の空気は、空気抜き穴119から外部に放出される。
【0042】
このようにして、検体Xと試薬A〜Dとがそれぞれ混合され、4つの増幅部117のそれぞれで、検体Xと試薬A〜Dの増幅A〜Dが行われる。この時、図示しない温度可変部230によって検体Xと試薬A〜Dとの混合液の温度が変化され、増幅が促進される。増幅終了後、図示しない検出部250によって検体Xと試薬A〜Dとの反応結果が検出される。なお、本例では増幅部117を検出部250による検出にも使用する例を示したが、別途検出のための流路(反応検出部)を設けてもよい。この時には、増幅終了後、検体Xと試薬A〜Dとの混合液を増幅部117から反応検出部まで送液してから検出を行う。
【0043】
図3(c)において、ここでは、増幅部117を検体Xと4種の試薬A〜Dとの混合にも用いる例を示す。図3(b)の例と同様に、4つの試薬貯留部115の各々には、予め試薬A、B、C、Dが貯留されている。検体Xは、例えばピペット等を用いて注入口123から検体貯留部121に注入され、貯留される。検体X注入後、注入口123は例えばシート状の封止部材105で封止される。
【0044】
4つの試薬貯留部115と検体貯留部121との各々には、5つの駆動液注入部111がそれぞれ連通している。4つの試薬貯留部115の各々は、4つの増幅部117に送液流路107を介して連通している。検体貯留部121は、4つの増幅部117に検体分割路125を介して連通している。
【0045】
最初に、接続口113および駆動液注入部111を介して検体貯留部121に接続されているマイクロポンプ211から、駆動液216が駆動液注入部111に注入されることで、検体Xが検体分割路125を通って4分割され、4つの増幅部117のそれぞれに注入される。4つの増幅部117内の空気は、空気抜き穴119から外部に放出される。
【0046】
次に、接続口113および駆動液注入部111を介して4つの試薬貯留部115の各々に接続されているマイクロポンプ211から、駆動液216が4つの駆動液注入部111に注入されることで、試薬A〜Dが送液流路107を通って4つの増幅部117のそれぞれに注入される。4つの増幅部117内の空気は、空気抜き穴119から外部に放出される。
【0047】
このようにして、検体Xと試薬A〜Dとがそれぞれ混合され、4つの増幅部117のそれぞれで、検体Xと試薬A〜Dの増幅A〜Dが行われる。この時、図示しない温度可変部230によって検体Xと試薬A〜Dとの混合液の温度が変化され、増幅が促進される。増幅終了後、図示しない検出部250によって検体Xと試薬A〜Dとの反応結果が検出される。
【0048】
(第1の実施の形態)
次に、本発明における温度可変部230、移動部280および分離接続部290の第1の実施の形態について、図4および図5を用いて説明する。図4は、温度可変部230、移動部280および分離接続部290の第1の実施の形態を示す模式図で、図4(a)はマイクロ検査チップ100が検査装置1内に搬送された状態を、図4(b)は増幅部117の温度が変化されている状態を示す。
【0049】
図4(a)において、マイクロ検査チップ100が図示しないローディング機構により検査装置1内に搬送されると、分離接続部290によってマイクロ検査チップ100が図の矢印A方向に持ち上げられ、チップ接続部213とマイクロ検査チップ100の接続口113とが接続される。チップ接続部213の接続口113と接する部分にはパッキン213aが設けられており、チップ接続部213と接続口113との接触部からの漏液を防止している。
【0050】
次に、マイクロポンプ211から、チップ接続部213および接続口113を介して、マイクロ検査チップ100内に駆動液216が注入される。駆動液216によって検体Xおよび試薬A〜Dが送液されて、増幅部117で混合されたところで、マイクロポンプ211が停止される。
【0051】
移動部280はベルトコンベア状の搬送部280aを有しており、搬送部280a上に温度可変部230を搭載している。温度可変部230は、例えばPCR法に必要な複数の温度領域を有している。ここでは、温度可変部230は例えば3つの温度領域を有し、領域230aを約95℃の熱変性温度、領域230bを約55℃のアニーリング温度、領域230cを約70℃の重合温度とする。最初は温度可変部230には通電されておらず、3つの温度領域は所定の温度には設定されていない。
【0052】
図4(b)において、温度可変部230に通電され、3つの温度領域がそれぞれ所定の温度に制御される。3つの温度領域がそれぞれ所定の温度に達した状態で、移動部280の搬送部280aが図の矢印B方向に持ち上げられ、温度可変部230の領域230aがマイクロ検査チップ100の増幅部117の流路形成面の裏面側に当接あるいはわずかな隙間をあけて接近される。これによって、増幅部117内の検体と試薬との混合液が領域230aの温度に保持されて反応が促進される。
【0053】
所定時間経過後、移動部280が図の矢印C方向に回転移動され、温度可変部230の領域230bがマイクロ検査チップ100の流路基板101の流路形成面の裏面側に当接あるいはわずかな隙間をあけて接近され、増幅部117内の検体と試薬との混合液が領域230bの温度に保持されて反応が促進される。
【0054】
同様にして、所定時間経過後、領域230cがマイクロ検査チップ100の流路基板101の流路形成面の裏面側に当接あるいはわずかな隙間をあけて接近され、増幅部117内の検体と試薬との混合液が領域230cの温度に保持されて反応が促進される。PCR法による増幅終了まで、これが繰り返される。
【0055】
図5は、上述した第1の実施の形態の変形例を示す模式図で、図5(a)は移動部280を連続的に駆動する例を、図5(b)は移動部280上に検出部250を設けた例を示す。
【0056】
図5(a)において、搬送部280a上に設けられた3つの領域230a、230bおよび230cは、それぞれ、PCR法で増幅部117が各温度に保持されるべき時間に比例した長さを持っている。これによって、搬送部280aを図の矢印C方向に連続的に一定の速度で回転させることで、PCR法に必要な温度サイクルが実現できる。
【0057】
図5(b)において、搬送部280a上には、3つの領域230a、230bおよび230cに加えて、検出部250が設けられている。検出部250は例えば反射型の検出部で、同一基板上に光源と受光部とが設けられている。このような構成にすることで、第1の実施の形態と同様に増幅部117を3つの領域230a、230bおよび230cの温度に保持して反応を促進した後に、検出部250で反応の進捗をモニタし、更に反応を促進するといったように、リアルタイムで反応の進捗をモニタしながら増幅を行うことができる。
【0058】
上述したように、本第1の実施の形態によれば、移動部上に設けられた温度可変部を、マイクロ検査チップの増幅部に当接あるいはわずかな隙間をあけて接近させた状態で、増幅部に対して間欠的にあるいは連続的に移動させることで、検体と試薬との混合液を増幅部に停止させた状態で温度サイクルを繰り返すことができる。これによって、マイクロ検査チップ上に長い流路を必要とせず、小型のマイクロ検査チップを用いてPCR法による遺伝子増幅を行うことのできる検査装置を提供することができる。
【0059】
(第2の実施の形態)
次に、本発明における温度可変部230、移動部280および分離接続部290の第2の実施の形態について、図6を用いて説明する。図6は、温度可変部230、移動部280および分離接続部290の第2の実施の形態を示す模式図で、図6(a)はマイクロ検査チップ100の天板103側から見た上面図、図6(b)は側面図を示す。
【0060】
図6(a)および(b)において、本第2の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、移動部280の搬送部280aがベルトコンベア状ではなく、円板状をしている点である。その他の点は第1の実施の形態と同じである。搬送部280aは、回転軸280bの周りに矢印D方向に回転移動可能であり、搬送部280a上に温度可変部230を搭載している。
【0061】
温度可変部230は、PCR法に必要な複数の温度領域を有している。ここでは、第1の実施の形態と同じく、温度可変部230は例えば3つの温度領域を有し、領域230aを約95℃の熱変性温度、領域230bを約55℃のアニーリング温度、領域230cを約70℃の重合温度とする。
【0062】
本例では、図5(a)に示した例と同様に、3つの領域230a、230bおよび230cは、回転軸280bの周りの回転移動方向に、それぞれPCR法で増幅部117が各温度に保持されるべき時間に比例した長さを持っている。これによって、搬送部280aを図の矢印D方向に連続的に一定の速度で回転させることで、PCR法に必要な温度と時間のサイクルが実現できる。
【0063】
もちろん、3つの領域230a、230bおよび230cは、図4および図5(b)に示した例と同様の構成であってもよい。
【0064】
次に、本第2の実施の形態の動作について説明する。図6(b)において、マイクロ検査チップ100が図示しないローディング機構により検査装置1内に搬送されると、分離接続部290によってマイクロ検査チップ100が図の矢印A方向に持ち上げられ、チップ接続部213とマイクロ検査チップ100の接続口113とが接続される。チップ接続部213の接続口113と接する部分にはパッキン213aが設けられており、チップ接続部213と接続口113との接触部からの漏液を防止している。
【0065】
次に、マイクロポンプ211から、チップ接続部213および接続口113を介して、マイクロ検査チップ100内に駆動液216が注入される。駆動液216によって検体Xおよび試薬A〜Dが送液されて、増幅部117で混合されたところで、マイクロポンプ211が停止される。
【0066】
移動部280は、上述したように円板状の搬送部280aを有しており、搬送部280a上に温度可変部230を搭載している。最初は温度可変部230には通電されておらず、3つの温度領域は所定の温度には設定されていない。
【0067】
続いて、温度可変部230に通電され、3つの温度領域がそれぞれ所定の温度に制御される。3つの温度領域がそれぞれ所定の温度に達した状態で、移動部280が図の矢印B方向に持ち上げられ、温度可変部230の領域230aがマイクロ検査チップ100の増幅部117の流路形成面の裏面側に当接あるいはわずかな隙間をあけて接近される。搬送部280aを図の矢印D方向に連続的に一定の速度で回転させることで、PCR法に必要な温度と時間のサイクルが実現できる。PCR法による増幅終了まで、これが繰り返される。
【0068】
上述したように、本第2の実施の形態によれば、円板状の移動部上に設けられた温度可変部を、マイクロ検査チップの増幅部に当接あるいはわずかな隙間をあけて接近させた状態で、増幅部に対して間欠的にあるいは連続的に移動させることで、検体と試薬との混合液を増幅部に停止させた状態で温度サイクルを繰り返すことができる。これによって、マイクロ検査チップ上に長い流路を必要とせず、小型のマイクロ検査チップを用いてPCR法による遺伝子増幅を行うことのできる検査装置を提供することができる。
【0069】
(第3の実施の形態)
次に、本発明における温度可変部230、移動部280および分離接続部290の第3の実施の形態について、図7を用いて説明する。図7は、温度可変部230、移動部280および分離接続部290の第3の実施の形態を示す模式図で、図7(a)はマイクロ検査チップ100の天板103側から見た上面図、図7(b)は図7(a)のE−E’断面図を示す。
【0070】
図7(a)および(b)において、本第3の実施の形態が第1および第2の実施の形態と異なる点は、温度可変部230を移動させるのではなく、マイクロ検査チップ100を回転移動させる点である。
【0071】
まず、本第3の実施の形態の動作について説明する。図7(b)において、初期状態では、分離接続部290によってチップ接続部213が図の矢印Aと逆方向に引き上げられ、マイクロポンプ211と分離されている。
【0072】
マイクロ検査チップ100が図示しないローディング機構により検査装置1内に搬送されると、分離接続部290によってチップ接続部213が図の矢印A方向に押し下げられる。これによって、チップ接続部213とマイクロ検査チップ100の接続口113、およびチップ接続部213とマイクロポンプ211とが接続される(図7(b)の破線の状態)。
【0073】
チップ接続部213の接続口113と接する部分およびマイクロポンプ211と接する部分にはパッキン213aが設けられており、チップ接続部213と接続口113との接触部およびチップ接続部213とマイクロポンプ211との接触部からの漏液を防止している。
【0074】
次に、マイクロポンプ211から、チップ接続部213および接続口113を介して、マイクロ検査チップ100内に駆動液216が注入される。駆動液216によって検体Xおよび試薬A〜Dが送液されて、増幅部117で混合されたところで、マイクロポンプ211が停止される。続いて、分離接続部290によってチップ接続部213が図の矢印Aと逆方向に引き上げられ、マイクロポンプ211およびマイクロ検査チップ100と分離される(図7(b)の実線の状態)。
【0075】
保持部300は、円板状をしており、その上に温度可変部230と検知部250とを搭載している。保持部300の中央近傍には、マイクロ検査チップ100を保持部300に対して回転移動させるための移動部280が設けられている。最初は温度可変部230には通電されておらず、3つの温度領域は所定の温度には設定されていない。
【0076】
続いて、温度可変部230に通電され、3つの温度領域がそれぞれ所定の温度に制御される。3つの温度領域がそれぞれ所定の温度に達した状態で、移動部280と保持部300とが図の矢印B方向に持ち上げられる。これによって、移動部280がマイクロ検査チップ100の流路基板101に設けられた切り欠き101aに挿入されて、移動部280によってマイクロ検査チップ100が回転移動可能になされる。
【0077】
また、温度可変部230の領域230aがマイクロ検査チップ100の増幅部117の流路形成面の裏面側に当接あるいはわずかな隙間をあけて接近される。これによって、増幅部117内の検体と試薬との混合液が領域230aの温度に保持されて反応が促進される。
【0078】
次に、所定時間経過後、移動部280によってマイクロ検査チップ100が図7(a)の矢印F方向に90°回転移動され、増幅部117の流路形成面の裏面が温度可変部230の領域230bに当接あるいはわずかな隙間をあけて接近される。これによって、増幅部117内の検体と試薬との混合液が領域230bの温度に保持されて反応が促進される。同様にして、所定時間経過後、移動部280によってマイクロ検査チップ100が図の矢印F方向に90°回転移動され、あるいはわずかな隙間をあけて接近される。これによって、増幅部117内の検体と試薬との混合液が領域230cの温度に保持されて反応が促進される。
【0079】
次に、移動部280によってマイクロ検査チップ100が図の矢印F方向に90°回転移動され、増幅部117の流路形成面の裏面が検出部250に当接あるいはわずかな隙間をあけて接近される。検出部250は例えば反射型の検出部で、同一基板上に光源と受光部とが設けられている。このような構成にすることで、増幅部117を3つの領域230a、230bおよび230cの温度に保持して反応を促進した後に、検出部250で反応の進捗をモニタし、更に反応を促進するといったように、リアルタイムで反応の進捗をモニタしながら増幅を行うことができる。PCR法による増幅終了まで、これが繰り返される。
【0080】
なお、ここでは、チップ接続部213がマイクロポンプ211と分離されており、分離接続部290によって図の矢印A方向に上下するとして説明したが、これに限るものではなく、チップ接続部213とマイクロポンプ211とが一体化されており、分離接続部290によって、一緒に図の矢印A方向に上下してもよい。
【0081】
上述したように、本第3の実施の形態によれば、検体と試薬との混合液を増幅部に送液した後、マイクロ検査チップとマイクロポンプとを分離した状態で、マイクロ検査チップを温度可変部に対して回転移動させることで、検体と試薬との混合液を増幅部に停止させた状態で温度サイクルを繰り返すことができる。これによって、マイクロ検査チップ上に長い流路を必要とせず、小型のマイクロ検査チップを用いてPCR法による遺伝子増幅を行うことのできる検査装置を提供することができる。
【0082】
以上に述べたように、本発明によれば、マイクロ検査チップ内で液体を送液するための送液部を備え、複数の温度領域を有する温度可変部とマイクロ検査チップとを相対移動させることで、マイクロ検査チップ内で液体を停止させた状態で、温度サイクルを繰り返すことができる。これによって、マイクロ検査チップ上に長い流路を必要とせず、小型のマイクロ検査チップを用いてPCR法による遺伝子増幅を行うことのできる検査装置を提供することができる。
【0083】
なお、本発明に係る検査装置を構成する各構成の細部構成および細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】検査装置の一例を示す斜視図である。
【図2】検査装置の内部構成の一例を示すブロック図である。
【図3】マイクロ検査チップの構成の一例を示す模式図である。
【図4】温度可変部、移動部および分離接続部の第1の実施の形態を示す模式図である。
【図5】第1の実施の形態の変形例を示す模式図である。
【図6】温度可変部、移動部および分離接続部の第2の実施の形態を示す模式図である。
【図7】温度可変部、移動部および分離接続部の第3の実施の形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0085】
1 検査装置
3 トレイ
5 搬送口
7 操作部
9 表示部
100 マイクロ検査チップ
101 流路基板
103 天板
105 封止部材
107 送液流路
110 流路
111 駆動液注入部
113 接続口
115 試薬貯留部
117 増幅部
119 空気抜き穴
121 検体貯留部
123 注入口
125 検体分割路
210 送液部
211 マイクロポンプ
213 チップ接続部
213a パッキン
215 駆動液タンク
216 駆動液
217 駆動液供給部
230 温度可変部
230a 領域
230b 領域
230c 領域
250 検出部
270 駆動制御部
280 移動部
280a 搬送部
280b 回転軸
290 分離接続部
300 保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ検査チップと、
前記マイクロ検査チップに接続され、前記マイクロ検査チップの内部で液体を送液するための送液部とを備えた検査装置において、
複数の温度領域を有する温度可変部と、
前記温度可変部と前記マイクロ検査チップとを相対移動させる移動部とを備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記送液部と前記マイクロ検査チップとを分離可能に接続する分離接続部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記送液部と前記マイクロ検査チップとの分離は、前記送液部を前記マイクロ検査チップの表面に垂直な方向に相対移動させて行われることを特徴とする請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記移動部は、前記温度可変部と前記マイクロ検査チップとを、前記マイクロ検査チップの表面に平行な一方向に直進させて相対移動させることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の検査装置。
【請求項5】
前記移動部は、前記温度可変部と前記マイクロ検査チップとを、前記マイクロ検査チップの表面に垂直な軸の周りに回転させて相対移動させることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記マイクロ検査チップの内部での反応結果を検出する検出部を備え、
前記移動部は、前記温度可変部と前記マイクロ検査チップとの相対移動と連動して、前記検出部を前記マイクロ検査チップに対して相対移動させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記送液部はマイクロポンプであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−222479(P2009−222479A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65536(P2008−65536)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】