説明

楕円偏光板およびその製造方法、ならびに楕円偏光板チップ、液晶表示装置

【課題】製造効率や歩留まりがよく、薄型化に好適であり、かつ廉価な楕円偏光板、および当該楕円偏光板を用いた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】透明保護フィルム30、偏光フィルム25、および1/4波長板10がこの順に積層されてなるロール状の楕円偏光板であって、偏光フィルム25の吸収軸22と1/4波長板10の遅相軸12とが35〜55°の角度で交差しており、1/4波長板10は、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂フィルムを斜め延伸してなる延伸フィルムからなり、偏光フィルム25と1/4波長板10とは、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式で貼合されているロール状楕円偏光板、およびこれを用いた液晶表示装置である。偏光フィルム25と1/4波長板10との間に1/2波長板を有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置や有機電界発光表示装置などに用いられ、製造効率や歩留まりが良好で、かつ薄型化に好適な、ロール状の楕円偏光板およびその製造方法に関する。本発明はまた、当該ロール状楕円偏光板より得られる楕円偏光板チップ、およびこれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などに用いられる楕円偏光板は一般に、偏光板(直線偏光板)と1/4波長板とを積層することにより構成されている。すなわち、偏光板の吸収軸と1/4波長板の遅相軸とが所定の角度をなすように、偏光板および1/4波長板が接着剤などを用いて貼合されている。
【0003】
近年、液晶表示装置は、モニターやノート型パーソナルコンピュータだけでなく、自動車用のナビゲーションシステム、携帯電話、PDA(携帯情報端末:Personal Digital Assistance)などの小型電子機器や、テレビなどの大型電子機器にも普及してきている。このような普及に伴い、小型化、薄型化および軽量化への市場要求は年々高まっており、それらに付随して、楕円偏光板を従来よりもさらに薄くする要望も強くなってきている。
【0004】
このような背景から、偏光板の薄型化の提案が従来からなされている。たとえば、偏光フィルム(偏光子)に貼合される保護フィルムを薄肉化することが考えられる。また、特許文献1(図3)には、偏光フィルムの片面にのみ保護フィルムを貼合し、もう一方の面には粘着剤層を介して位相差フィルムを貼合した積層モデルが示されており、偏光板の片側の保護フィルムを省略することで薄肉化を実現している。
【0005】
一方、市場からの低価格化の要求も年々高まりをみせている。そのため、楕円偏光板の製造に際しては、積層工程の連続化、歩留まりの向上、材料ロスの低減などが大きな課題となっている。
【0006】
現在、楕円偏光板を製造するための最も一般的な方法は、枚葉体の偏光板と枚葉体の波長板とを用い、これらを貼合する方法(いわゆるシート・トゥ・シート貼合)や、偏光板または波長板のいずれか一方がロール状フィルムであり、このロール状フィルムにもう一方のフィルムの枚葉体を貼合していく方法(いわゆるシート・トゥ・ロール貼合、ロール・トゥ・シート貼合ということもある)である。
【0007】
楕円偏光板をシート・トゥ・シート貼合で製造する方法として、特許文献2には、偏光板の枚葉体と波長板の枚葉体とを所定の角度となるように調整して接着し、得られる積層体の縁部を切除して、楕円偏光板とする方法が提案されている。しかしこの方法では、偏光板の裁断工程、波長板の裁断工程および偏光板と波長板の接着工程の3工程をそれぞれ別々に行なう必要があり、作業工程が煩雑になり、作業工程上の材料のロスも多く、コストアップになりやすいという問題がある。また、歩留まりも低く、積層工程の連続化も困難である。
【0008】
楕円偏光板をシート・トゥ・ロール貼合で製造する方法として、特許文献3には、偏光フィルムおよび波長板のいずれか一方のロール状体を、その光軸に対して所定角となるように裁断して枚葉体を得、もう一方のロール状体にそれぞれの光軸が所定角θをなすように連続的に貼り合わせて楕円偏光板とする方法が提案されている。しかしこの方法は、ロール状の光学フィルムに、もう一方の光学フィルムの枚葉体を正確に角度制御して貼合するものであるため、積層工程の連続化、歩留まりの向上および材料ロスの低減はある程度できるものの、生産効率が上がらないという問題があり、コスト低減には限界がある。
【0009】
以上のように、偏光板と波長板とを貼合して楕円偏光板を製造する方法は、これまで様々な検討がなされてきたが、いずれも、積層工程の連続化、歩留まりの向上、材料ロスの低減、コスト低減という点に対して、十分な解決法が見出されていないのが現状である。これは、楕円偏光板の製造に使用する偏光板と波長板は、通常いずれも、工程内で延伸されることから、偏光板では延伸方向が吸収軸になり、波長板では延伸方向が遅相軸になるのが一般的で、かつ楕円偏光板を製造する際、偏光板の吸収軸と波長板の遅相軸とを、平行でもなく直交でもない方向に貼合する必要があるので、いずれもロール状で長手方向同士を貼合していくという方法(いわゆるロール・トゥ・ロール貼合)をとることができなかったためである。
【0010】
これに対し、楕円偏光板を製造する方法として、偏光板と波長板がいずれもロール状体で貼合される方法(いわゆるロール・トゥ・ロール貼合)も提案されている。たとえば、特許文献4(特に、段落0013〜0014)には、ロール状の偏光板を長手方向(吸収軸)に対して所定角度となるようにバイアス状に切断し、そのバイアス切断板を切断縁が上下平行線となるように置き換えた状態で継合する方法が提案されている。しかし、この方法では、バイアス切断板を継合する工程が必要となり、生産能力が上がらず、波長板と積層したときに角度制御の精度が悪くて歩留まりが低く、大幅なコストアップにつながっていた。また、継合する部位には、たとえば粘着テープが用いられるため、その部分が製品でロスとなるという問題や、継合部位に粘着テープによる段差が生じ、偏光板との貼合不良の原因になるなどの問題もあった。さらに、ロール状の楕円偏光板ができても、そのロールには継合部位が残るため、大型サイズの枚葉状の楕円偏光板に切り出す際、継合部位がないものを切り出すことは、極めて困難であった。
【0011】
特許文献5には、偏光フィルムまたは波長板のいずれか一方のロール状物から、矩形の隣接する2辺のそれぞれが延伸軸と所定の角度をもつように裁断して矩形状物とし、その矩形状物をロール状のキャリヤーフィルムに連続して固定するとともに、他方のフィルムのロール状物を該キャリヤーフィルム上の矩形状物と接着させて所定の形状に裁断することにより、楕円偏光板を製造する方法が提案されている。しかしこの方法では、矩形の隣接する2辺のそれぞれが延伸軸と所定の角度をもつように裁断して矩形状の枚葉体を取り出すため、必然的に裁断されずに残る面積が大きくなり、それはそのまま高価な光学フィルムのロスとなり、また、コストアップにつながるという問題点があった。さらに、上記特許文献4と同様、大型サイズの枚葉状の楕円偏光板に切り出す際、継合部位がないものを切り出すことは、極めて困難であった。
【0012】
特許文献4および特許文献5に記載の如く、楕円偏光板の製造において、ロール・トゥ・ロール貼合できるように、つまり、ロール状に形成してロールの長手方向同士を平行にして貼合できるように、一方の光学フィルムを所定の角度で枚葉状に切り出し、所定の位置に並べるという方法は、継合部分が問題になる。
【0013】
一方、継合部位がない、いわゆるシームレスな楕円偏光板を、ロール・トゥ・ロール貼合で製造する方法も提案されている。たとえば、特許文献6には、筒状に延伸された波長板を延伸方向に対して所定の角度で連続的に切断してロール状の波長板を得、それを長手方向に延伸した透明フィルムに重ねて貼り合わせる方法が提案されている。しかしこの方法では、筒状フィルムの製造装置(ブロー成型機)が必要となり、また、筒状延伸フィルムを所定角度で連続裁断する際、精度良く角度をつけることが難しく、ロール状フィルムを延伸して作製する波長板より工程が煩雑であり、かなりのコストアップとなることから、実用化されていないのが実情である。
【0014】
以上のように、積層工程の連続化、歩留まりの向上、材料ロスの低減、コスト低減といった点を全て満足した状態で、楕円偏光板をロール・トゥ・ロール貼合で製造することは難しいのが現状である。一方、特許文献7には、長尺の未延伸フィルムを斜め方向に延伸する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−108830号公報
【特許文献2】特開平4−123008号公報
【特許文献3】特開平10−206631号公報
【特許文献4】特開平6−289221号公報
【特許文献5】特開平6−300918号公報
【特許文献6】特開昭55−59407号公報
【特許文献7】特開2003−342384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解決するためになされたものであり、製造効率や歩留まりがよく、薄型化に好適であり、かつ廉価な楕円偏光板を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、当該楕円偏光板を用いた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、製造効率や歩留まりがよく、柔軟性があり、また、薄型化に好適であり、かつ廉価な楕円偏光板を完成するに至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0018】
本発明は、透明保護フィルム、偏光フィルム、および1/4波長板がこの順に積層されてなるロール状の楕円偏光板であって、該偏光フィルムの吸収軸と該1/4波長板の遅相軸とが35〜55°の角度で交差しており、該1/4波長板は、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂フィルムを斜め延伸してなる延伸フィルムからなり、該偏光フィルムと該1/4波長板とは、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式で貼合されているロール状楕円偏光板を提供する。
【0019】
上記本発明のロール状楕円偏光板において、透明保護フィルムは、セルロース系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂のいずれかからなることが好ましい。また、偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸とは、実質的に45°の角度で交差していることが好ましい。
【0020】
上記本発明のロール状楕円偏光板において、上記樹脂フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなり、該樹脂組成物は、脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%含有することが好ましい。上記脂環族飽和炭化水素樹脂の軟化点は、110〜145℃の範囲内であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上記ロール状楕円偏光板の製造方法を提供する。本発明のロール状楕円偏光板の製造方法は、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により、連続的に偏光フィルムと1/4波長板とを貼合する工程を備える。また、本発明のロール状楕円偏光板の製造方法は、ロール状の透明保護フィルム、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により、連続的に透明保護フィルムと偏光フィルムと1/4波長板とを貼合する工程を備えるものであってもよい。
【0022】
さらに、本発明は、透明保護フィルム、偏光フィルム、1/2波長板、および1/4波長板がこの順に積層されてなるロール状の楕円偏光板であって、該偏光フィルムの吸収軸が、該1/2波長板の遅相軸と5〜25°の角度で交差し、該1/4波長板の遅相軸と65〜85°の角度で交差しており、該1/2波長板および該1/4波長板は、いずれもポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂フィルムを斜め延伸してなる延伸フィルムからなり、該偏光フィルムと該1/2波長板とは、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/2波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式で貼合されており、該1/2波長板と該1/4波長板とは、ロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式で貼合されているロール状楕円偏光板を提供する。
【0023】
上記本発明のロール状楕円偏光板において、透明保護フィルムは、セルロース系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂のいずれかからなることが好ましい。また、偏光フィルムの吸収軸は、1/2波長板の遅相軸と実質的に15°の角度で交差し、1/4波長板の遅相軸と実質的に75°の角度で交差していることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、上記ロール状楕円偏光板の製造方法を提供する。本発明のロール状楕円偏光板の製造方法は、ロール状の偏光フィルム、ロール状の1/2波長板およびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により、連続的に偏光フィルムと1/2波長板と1/4波長板とを貼合する工程を備える。また、本発明のロール状楕円偏光板の製造方法は、ロール状の透明保護フィルム、ロール状の偏光フィルム、ロール状の1/2波長板およびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により、連続的に透明保護フィルムと偏光フィルムと1/2波長板と1/4波長板とを貼合する工程を備えるものであってもよい。
【0025】
本発明のロール状の楕円偏光板は、これを所定の形状に裁断することにより、枚葉体である楕円偏光板チップとすることができる。当該楕円偏光板チップは、各種の画像表示装置に適用することができる。具体的には、液晶セルと組み合わせて、液晶表示装置とすることができる。また、有機電界発光手段と組み合わせて、有機電界発光表示装置とすることもできる。さらに、表示手段およびタッチ式入力手段と組み合わせて、タッチパネルとすることもできる。タッチパネルにおける表示手段は、液晶セルや有機電界発光手段であることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のロール状楕円偏光板は、これを構成する偏光板および波長板のいずれにも継ぎ目を有しない。したがって、これを枚葉体に裁断する際における生産効率性、歩留まりを向上させることができるとともに、材料ロスの低減を図ることができる。また、本発明のロール状楕円偏光板によれば、波長板としてポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する延伸フィルムを用いているため、コストの低減および薄型化が達成されている。このような本発明の楕円偏光板を適用することにより、液晶表示装置の低コスト化および薄型化を図ることができる。
【0027】
また、本発明の楕円偏光板は、その1/4波長板および1/2波長板が脂環族飽和炭化水素樹脂を含むものであるため、柔軟性が向上している。かかる柔軟性が向上した本発明の楕円偏光板は、各種の画像表示装置に適用する際における他の光学部材との貼合において、気泡の混入が生じにくいという利点がある。さらに、近年、フレキシブル液晶ディスプレイや有機電界発光ディスプレイについての研究開発が盛んになされているが(たとえば、株式会社 テクノタイムズ社発行「月刊ディスプレイ」2008年10月号85〜91頁の「プラスチック基板を用いたディスプレイの現状と課題」参照)、本発明の楕円偏光板は、このようなフレキシブルディスプレイにも、そのフレキシブル性をできるだけ損なわずに、好適に適用することができる。
【0028】
また、本発明のロール状楕円偏光板の製造方法によれば、各構成フィルムをロール・トゥ・ロール方式で連続的に貼合するため、効率的にかつ歩留まりよくロール状楕円偏光板を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】未延伸フィルムを、テンター延伸により斜め延伸する様子を説明する概略平面図である。
【図2】本発明のロール状楕円偏光板の好ましい一例を示す断面模式図およびその軸角度の関係を説明するための概略図である。
【図3】本発明の楕円偏光板の別の好ましい一例を示す断面模式図およびその軸角度の関係を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<ロール状楕円偏光板>
本発明のロール状楕円偏光板は、長尺の偏光フィルムの表面に、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂フィルムを斜め延伸してなる長尺の波長板(1/4波長板および/または1/2波長板)を積層したものを巻き回してなるロール状の楕円偏光板である。より具体的には、本発明のロール状楕円偏光板において、長尺の偏光フィルムと長尺の波長板とは、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の波長板を用いて、それぞれの長手方向を略平行にしてロール・トゥ・ロール方式で積層されている。なお、本明細書において、「楕円偏光板」とは、円偏光板を含む概念である。以下、本発明のロール状楕円偏光板を構成する各部材について詳細に説明する。
【0031】
[偏光フィルム]
楕円偏光板を構成する偏光フィルムとは、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過する機能を有するものである。偏光フィルムとしては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着・配向させたヨウ素系偏光フィルム、ポリビニルアルコール系フィルムに二色性染料を吸着・配向させた染料系偏光フィルム、リオトロピック液晶状態の二色性染料をコーティングし、配向・固定化した塗布型偏光フィルムなどが挙げられる。これら、ヨウ素系偏光フィルム、染料系偏光フィルムおよび塗布型偏光フィルムは、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過し、もう一方向の直線偏光を吸収する機能を有するもので、吸収型偏光フィルムと呼ばれている。本発明に用いる偏光フィルムは、前述した吸収型偏光フィルムだけでなく、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過し、もう一方向の直線偏光を反射または散乱する機能を有する反射型偏光フィルムまたは散乱型偏光フィルムと呼ばれている偏光フィルムであってもよい。本発明において用いることのできる偏光フィルムは、必ずしもこれらに限定されるわけではなく、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過する機能を有するものであればよい。これらの偏光フィルムの中でも、視認性に優れている吸収型偏光フィルムを用いるのが好ましく、その中でも、偏光度および透過率に優れるヨウ素系偏光フィルムを用いるのがより好ましい。
【0032】
本発明において好ましく用いられるヨウ素系偏光フィルムとしては、ポリビニルアルコール系樹脂を製膜したフィルムにヨウ素を吸着・配向させたものが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルおよびこれと共重合可能な他の単量体の共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、たとえば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%程度、好ましくは98モル%以上である。このポリビニルアルコール系樹脂はさらに変性されていてもよく、たとえば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。また、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000程度、好ましくは1,500〜5,000程度である。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されるものでなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムの膜厚は特に限定されないが、たとえば、1μm〜150μm程度である。
【0034】
ヨウ素系偏光フィルムは通常、このようなポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをヨウ素で染色してヨウ素を吸着させる工程、ヨウ素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、およびこのホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て、製造される。
【0035】
一軸延伸は、染色の前に行なってもよいし、染色と同時に行なってもよいし、染色の後に行なってもよい。一軸延伸を染色の後で行なう場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行なってもよいし、ホウ酸処理中に行なってもよい。もちろん、これらの複数の段階で一軸延伸を行なうことも可能である。一軸延伸にあたっては、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中にて延伸を行なう乾式延伸であってもよいし、溶剤で膨潤した状態にて延伸を行なう湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
【0036】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをヨウ素で染色するには、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、ヨウ素を含有する水溶液に浸漬すればよい。具体的には、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が通常採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100重量部あたり0.01〜1重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり0.5〜20重量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1,800秒程度である。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
【0037】
ヨウ素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬することにより行なわれる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部程度、好ましくは5〜12重量部程度である。このホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有するのが好ましい。ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの量は、水100重量部あたり、通常40重量部以下、好ましくは30重量部以下である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常60〜1,200秒程度、好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。また、ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃である。
【0038】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、たとえば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行なわれる。水洗後は乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常1〜120秒程度である。その後に行なわれる乾燥処理は通常、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行なわれる。乾燥温度は、通常40〜100℃である。乾燥処理の時間は、通常120〜600秒程度である。
【0039】
こうして得られる偏光フィルムにおいては、延伸方向にヨウ素が並ぶので、延伸方向が吸収軸となる。したがって、延伸を縦一軸延伸で行なえば、ロール状で得られる偏光フィルムの長手方向(ロールの巻き取り方向)が吸収軸となる。
【0040】
[透明保護フィルム]
上記偏光フィルムは、楕円偏光板を構成する材料として使用された場合、多種多様な環境で使用されるため、後記する波長板を積層しない面には、透明保護フィルムを積層して使用する。透明保護フィルムとしては、たとえば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースなどからなるセルロース系樹脂フィルム;(メタ)アクリル系樹脂フィルム;ポリエステル系樹脂フィルム;ポリサルホン樹脂フィルム;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の鎖状ポリオレフィン系樹脂や、ノルボルネンのような環状オレフィンを重合した環状ポリオレフィン系樹脂などからなるポリオレフィン系樹脂フィルムなどが挙げられる。これらのなかでも、セルロース系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂からなるフィルムを使用することが好ましい。なお、後述するように、本発明のロール状楕円偏光板を製造するにあたっては、ロール状である長尺の透明保護フィルムを用いることが好ましい。
【0041】
[波長板]
本発明のロール状楕円偏光板においては、波長板(1/4波長板および/または1/2波長板)として、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂フィルムを斜め延伸して得られる延伸フィルムが用いられる。
【0042】
(ポリプロピレン系樹脂)
波長板として用いる延伸フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂であってもよいし、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなる樹脂であってもよい。プロピレンの単独重合体は、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体に比べて、結晶化度がより高くなるため、フィルム剛性と降伏強度をより高くすることができる点において有利である。したがって、ポリプロピレン系樹脂として、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂を用いることにより、延伸フィルムの製造工程での取り扱い性をより向上させることが可能となる。
【0043】
ここで、「実質的にプロピレンの単独重合体」は、プロピレンユニットの含有量が100重量%である重合体のほか、未延伸フィルムの生産性向上等を目的として0.6重量%程度以下の範囲でエチレンユニットが含有されたプロピレン/エチレン共重合体も含むものとする。
【0044】
プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーの1種または2種以上を少量共重合させたものであることが好ましい。具体的には、このような共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、コモノマーユニットを、たとえば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下の範囲で含有する樹脂であることができる。共重合体におけるコモノマーユニットの含有量は、少なくとも0.6重量%を超え、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。コモノマーユニットの含有量を1重量%以上とすることにより、加工性や透明性を有意に向上させ得る。一方、コモノマーユニットの含有量が20重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂の融点が下がり、耐熱性が低下する傾向にある。なお、2種以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含有量が、上記範囲であることが好ましい。
【0045】
プロピレンに共重合されるコモノマーは、たとえば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンであることができる。α−オレフィンとして具体的には、次のようなものを挙げることができる。1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C4);1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C5);1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C6);1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C7);1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C8);1−ノネン(C9);1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)など。
【0046】
上記α−オレフィンの中でも、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテンおよび1−ヘキセンがより好ましい。
【0047】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体を挙げることができる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含有量や1−ブテンユニットの含有量は、たとえば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行ない、求めることができる。
【0048】
延伸フィルムの透明度や加工性を上げる観点からは、共重合体は、プロピレンを主体とするプロピレンと上記α−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましく、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体であることがより好ましい。プロピレン/エチレンランダム共重合体におけるエチレンユニットの含有量は、上述のとおり、1〜20重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましく、3〜7重量%であることがさらに好ましい。
【0049】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、またはアタクチックのいずれであってもよい。本発明においては、耐熱性の点から、シンジオタクチックまたはアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0050】
ポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜200g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、樹脂組成および膜厚が均一な延伸フィルム作製用未延伸フィルムを得ることができる。
【0051】
延伸フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって製造することができる。公知の重合用触媒としては、たとえば、次のようなものを挙げることができる。
【0052】
(1)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒など。
【0053】
上記(1)および(2)の触媒系におけるマグネシウム、チタン、およびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報などに記載の触媒系が挙げられる。上記(2)の触媒系における有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物、テトラエチルジアルモキサンなどが好ましく用いられ、電子供与性化合物としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランなどが好ましく用いられる。
【0054】
また、上記(3)のメタロセン系触媒としては、たとえば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報などに記載の触媒系が挙げられる。
【0055】
上記触媒系の中でも、本発明においては、上記(2)の触媒系が最も一般的に使用できる。
【0056】
ポリプロピレン系樹脂は、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法などによって製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。
【0057】
(脂環族飽和炭化水素樹脂)
波長板として用いる延伸フィルムを構成する脂環族飽和炭化水素樹脂は、石油樹脂に分類される樹脂である。石油樹脂とは、石油類の熱分解により生成する分解油留分を重合し固化させた熱可塑性樹脂であって、たとえば、C5留分を原料とした脂肪族系石油樹脂;C9留分を原料とした芳香族系石油樹脂;C5留分とC9留分の2種を共重合して得られる共重合系石油樹脂;ならびに、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、または共重合系石油樹脂を水素化した水素化系石油樹脂等が挙げられる。
【0058】
本発明においては、上記石油樹脂のなかでも、特に、脂環族飽和炭化水素樹脂を用いる。脂環族飽和炭化水素樹脂は典型的には、芳香族系石油樹脂を水素化して得られる水素化系石油樹脂である。脂環族飽和炭化水素樹脂は、無色透明であって、耐候性に優れており、波長板として用いる延伸フィルム原料として有利な特性を兼備している。また、脂環族飽和炭化水素樹脂の添加により、波長板、およびこれを備えるロール状楕円偏光板に柔軟性が付与される。
【0059】
本発明で用いる脂環族飽和炭化水素樹脂は、軟化点が110℃以上、145℃以下であることが好ましい。より好ましくは、115℃以上、135℃以下である。軟化点が110℃より低いと、延伸フィルムの耐熱性が低下する傾向にあり、また、軟化点が145℃を超えると、未延伸フィルムの延伸性が悪くなり、延伸フィルムの生産性が低下する傾向にある。
【0060】
脂環族飽和炭化水素樹脂として、市販品を用いることもできる。このような市販品としては、荒川化学工業(株)製の「アルコン」シリーズが挙げられる。「アルコン」シリーズは、芳香族系石油樹脂を水素化した水素化系石油樹脂である。
【0061】
波長板として用いる延伸フィルムは、脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%の範囲内で含有することができ、好ましくは3〜20重量%の範囲内で脂環族飽和炭化水素樹脂を含有する。脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量が0.1重量%未満であると、柔軟性の向上効果が十分でなく、30重量%を超えると、延伸フィルムに経時的な脂環族飽和炭化水素樹脂のブリードアウトが生じる懸念がある。
【0062】
[延伸フィルム(波長板)の作製方法]
波長板として用いる延伸フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物から長尺の未延伸フィルムを作製し、得られた未延伸フィルムを、その幅方向に対して1〜85°の方向に連続的に斜め延伸することにより得ることができる。
【0063】
(未延伸フィルムの作製)
未延伸フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物を製膜することにより作製される。当該樹脂組成物の調製方法は、少なくとも脂環族飽和炭化水素樹脂が、得られる樹脂組成物中に均一に分散される方法である限り特に限定されるものではなく、たとえば、ポリプロピレン系樹脂を調製する重合工程における重合反応途中または重合反応直後の重合反応混合物に脂環族飽和炭化水素樹脂を添加する方法を挙げることができる。脂環族飽和炭化水素樹脂は、溶剤に溶解した溶液として添加してもよいし、容易に分散し得るように粉末状に粉砕し、粉体として添加してもよいし、加熱して溶融状態で添加してもよい。
【0064】
また、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練しながら脂環族飽和炭化水素樹脂を添加した後、さらに溶融混練する方法によっても樹脂組成物を得ることができる。これら溶融混練は、たとえば、リボンブレンダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ロール、各種ニーダー、単軸押出機、二軸押出機などの混練機を用いて行なうことができる。このようにして得られた樹脂組成物は、溶融混練後、冷却することなく溶融状態のまま未延伸フィルムへの成形加工に供してもよいし、冷却してペレット体等の成形物にした後、これを再度加熱して未延伸フィルムへの成形加工に供してもよい。また、冷却した後、冷却状態のままプレス成形等の方法により未延伸フィルムに成形することもできる。
【0065】
樹脂組成物中の脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量は、樹脂組成物の重量を100重量%とするとき、通常0.1〜30重量%の範囲内であり、好ましくは3〜20重量%の範囲内である。脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量が0.1重量%未満であると、柔軟性の向上効果が十分でなく、30重量%を超えると、延伸フィルムに経時的な脂環族飽和炭化水素樹脂のブリードアウトが生じる懸念がある。
【0066】
上記樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の添加物を含有してもよい。添加物としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。上記樹脂組成物は、1種または2種以上の添加剤を含有することができる。
【0067】
酸化防止剤としては、たとえば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられ、また、1分子中にたとえば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、たとえば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線遮断剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ステアリン酸等の高級脂肪酸およびその塩などが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状あるいはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。
【0068】
また、造核剤は、無機系造核剤、有機系造核剤のいずれでもよい。無機系造核剤としては、タルク、クレイ、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、有機系造核剤としては、芳香族カルボン酸の金属塩類、芳香族リン酸の金属塩類などの金属塩類、高密度ポリエチレン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリシクロペンテン、ポリビニルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中でも有機系造核剤が好ましく、さらに好ましくは前記の金属塩類および高密度ポリエチレンである。造核剤の添加量は、樹脂組成物に含有されるポリプロピレン系樹脂100重量%に対して0.01〜3重量%の範囲内であることが好ましく、0.05〜1.5重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0069】
上記樹脂組成物を、任意の方法で製膜することにより未延伸フィルムとすることができる。この未延伸フィルムは、透明で実質的に面内位相差のないものである(通常30nm以下)。製膜方法としては、たとえば、1)溶融状態(一旦ペレット体とした後加熱して溶融状態としたものであってもよい)の樹脂組成物を押出成形する方法、2)溶剤を含む樹脂組成物(樹脂組成物に別途溶剤を添加してもよい)を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法、および3)樹脂組成物をプレス成形する方法などを挙げることができる。これらの方法によって、面内位相差が実質的にない樹脂組成物の未延伸フィルムを得ることができる。
【0070】
未延伸フィルムを製造する好ましい方法の一例として、押出成形による製膜法について詳しく説明する。押出成形においては、樹脂組成物は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融状シートの温度は、180〜300℃程度とすることができる。溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られる未延伸フィルムの厚みが不均一になり、位相差ムラのあるフィルムとなる可能性がある。また、溶融状シートの温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすく、溶融状シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりすることがある。
【0071】
押出機は、単軸押出機であっても二軸押出機であってもよい。たとえば単軸押出機の場合は、スクリューの長さLと直径Dとの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積V1と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積V2との比である圧縮比V1/V2が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプまたはマドック型の混練部分を有するタイプなどのスクリューを用いることが好ましい。樹脂組成物の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点から、L/Dが28〜36であり、圧縮比V1/V2が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることがより好ましい。
【0072】
また、樹脂組成物の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気、または真空にすることが好ましい。さらに、樹脂組成物が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1mmφ以上5mmφ以下のオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの押出機先端部分の樹脂圧力を高めるとは、先端での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2mmφ以上4mmφ以下である。
【0073】
押出に使用されるTダイは、樹脂組成物の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融した樹脂組成物との摩擦係数の小さい材料でめっき、またはコーティングされ、さらにリップ先端が0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料としては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっきなどが挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れる未延伸フィルムが得られる。Tダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)または(2)を満たすことが好ましく、さらには条件(3)または(4)を満たすことがより好ましい。
【0074】
(1)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの厚み方向長さ>180mm、
(2)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの厚み方向長さ>220mm、
(3)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの高さ方向長さ>250mm、
(4)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの高さ方向長さ>280mm。
【0075】
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状樹脂組成物の流れを整えることができ、かつ、リップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、面内位相差が極めて低いレベルでより均一化された未延伸フィルムを得ることができる。
【0076】
なお、樹脂組成物の押出変動を抑制する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、樹脂組成物中の異物を取り除くため、リーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。
【0077】
Tダイから押出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロール、またはキャスティングロールともいう)と、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間で挟圧され、両ロールによって冷却固化されて、未延伸フィルムとなる。タッチロールは、ゴムなどの弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合は、通常、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に、樹脂組成物の溶融状シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、樹脂組成物の溶融状シートとタッチロールとの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
【0078】
樹脂組成物の溶融状シートを、前記のような金属製冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるにあたり、冷却ロールとタッチロールは、いずれもその表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷させることが好ましく、具体的には、両ロールの表面温度は0℃以上30℃以下の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、溶融状シート中の結晶成分が成長してしまい、得られる未延伸フィルムの透明性が低下することがある。両ロールの表面温度は、より好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃未満である。一方、両ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面に結露が生じて水滴が付着し、未延伸フィルムの外観を悪化させる場合がある。
【0079】
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態が未延伸フィルムの表面に転写されるため、その表面に凹凸があると、得られる未延伸フィルムの厚み精度を低下させる場合がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は、フィルムの剥離が可能な限りできるだけ鏡面状態に近い方が好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.4S以下であることが好ましく、0.05S〜0.2Sであることがより好ましい。
【0080】
金属製冷却ロールとニップ部分を形成するタッチロールは、その弾性体における表面硬度が、JIS K 6301に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であることが好ましく、70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のタッチロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)を生じさせることなくフィルムに成形することが容易となる。
【0081】
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50N/cm以上300N/cm以下とすることが好ましく、100N/cm以上250N/cm以下とすることがより好ましい。線圧を前記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながら未延伸フィルムを製造することが容易となる。
【0082】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で、樹脂組成物の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、溶融状シートと強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。これらの中でも、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。二軸延伸フィルムの厚さは、通常、5〜50μm程度であり、好ましくは10〜30μmである。
【0083】
Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)は、200mm以下とすることが好ましく、160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融状シートは、リップからロールまでの間引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを前記のように短くすることで、配向のより小さい未延伸フィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、および使用するリップの先端形状により決定され、通常、50mm以上である。
【0084】
未延伸フィルムの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
【0085】
金属製冷却ロールとタッチロールとにより挟圧され、冷却固化されて得られる未延伸フィルムは、必要に応じて端部をスリットした後、通常、巻き取り機によってロール状に巻き取られる。この際、未延伸フィルムを使用するまでの間、その表面を保護するために、その片面、または両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。溶融状シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧する場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
【0086】
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺の未延伸フィルムは、透明性に優れ、かつ配向の小さい、すなわち位相差の小さいフィルムである。具体的にその透明性は、JIS K 7105に従って測定される全ヘイズ値が10%以下、好ましくは7%以下であることが好ましい。また、その面内位相差値(レターデーション値)は、通常30nm以下、好ましくは15nm以下であり、さらには7nm以下、とりわけ5nm以下であるのが一層好ましい。樹脂組成物の製膜条件や厚みの制御により、上記範囲内のヘイズ値および面内位相差値を有する未延伸フィルムを得ることができる。
【0087】
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺の未延伸フィルムは、その厚みが5μm以上、さらには10μm以上であるのが好ましい。厚みが5μmより小さくなると、そのフィルムの取り扱いが困難になる場合がある。またフィルムの厚みは200μm以下であるのが好ましく、さらには150μm以下であるのがより好ましい。厚みが200μmより大きくなると、全ヘイズ値が増加したり、延伸フィルムの厚みが厚くなったりするため、求められる波長板、または楕円偏光板の薄肉化に適合しない場合がある。
【0088】
(斜め延伸フィルムの作製)
以上のようにして得られる未延伸フィルムをその幅方向に対して任意の角度θ(1°≦θ≦85°)の方向に連続的に斜め延伸することにより、フィルムの幅方向に対して角度θの配向軸を有する長尺の斜め延伸フィルムを連続的に得ることができ、これを連続的に巻き取っていくことによりロール状の延伸フィルムが得られる。このロール状延伸フィルムは、ロール状の1/4波長板またはロール状1/2波長板として用いられる。
【0089】
角度θを1〜85°の間で任意の値に設定することにより、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを所望の値に制御することができる。
【0090】
斜め延伸の方法としては、その幅方向に対して1〜85°の方向に連続的に延伸して、配向軸を所望の角度に傾斜させることができるものであれば特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【0091】
また、斜め延伸に用いる延伸機は特に制限されず、横または縦方向に左右異なる速度の送り力もしくは引張り力または引取り力を付加できるようにした従来公知のテンター式延伸機を使用することができる。また、テンター式延伸機には、横一軸延伸機、同時二軸延伸機などがあるが、ロール状のフィルムを連続的に斜め延伸処理することができるものであれば特に制限されず、種々のタイプの延伸機を使用することができる。
【0092】
本発明において好適に使用することができる、テンター延伸による未延伸フィルムの斜め延伸の一例を図1に示す。図1において、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなる長尺の未延伸フィルム100を、一定の方向(フィルム搬送方向20)に搬送しながら、テンター300を用いて斜め延伸する。フィルムの搬送方向20は、未延伸フィルム100の長手方向と同じである。図1に示されるチャック位置301および302でチャックされたフィルムは、左側が相対的に遅い速度(左移動速度41)で左移動位置501へ、右側が相対的に速い速度(右移動速度42)で右移動位置502へ移動することによって、斜め延伸が達成される。図1に示される例において、斜め延伸されたフィルムの配向軸の方向(配向軸方向Y)は、フィルムの幅方向Xと角度θ(1°≦θ≦85°)をなす方向である。
【0093】
ここで、本発明に用いることができる斜め延伸の方法は、図1に示される例に限定されるものではなく、たとえば、特開昭50−83482号公報、特開平2−113920号公報、特開平3−182701号公報、特開2000−9912号公報、特開2002−86554号公報、特開2002−22944号公報などに記載された方法を用いてもよい。
【0094】
未延伸フィルムを斜め延伸する際の温度は、90℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点以下であることが好ましい。オーブンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。また、延伸倍率は、通常、1.01〜10倍、好ましくは1.01〜5倍である。延伸倍率は、1/4波長板や1/2波長板に所望される面内位相差値および膜厚、延伸温度等に応じて変化し得る。
【0095】
以上のようにして得られる斜め延伸フィルムは、幅方向に対して1°〜85°(巻き取り方向に対しては5°〜89°)の遅相軸を有する。また、皺や厚みムラがなく、かつ、長期にわたって寸法変化がなく、光学特性の安定性が優れるので、特に中小型用途向けの波長板として有用である。このようにして得られる斜め延伸フィルムは、遅相軸が所定の角度に傾斜したロール状の延伸フィルムであり、ロール体として、回収・保存することができる。本発明においては、かかる斜め延伸フィルムを、ロール状楕円偏光板の位相差フィルムとして用いる。当該斜め延伸フィルムからなる位相差フィルムは、所定の波長に対して1/2波長の位相差を与える1/2波長板、所定の波長に対して1/4波長の位相差を与える1/4波長板として用いることができる。
【0096】
[1/4波長板]
上記ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する斜め延伸フィルムは、1/4波長板として用いることができる。当該1/4波長板は、可視光線の波長領域(380〜780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/4波長程度のレターデーションを示す位相差フィルムであり、nx>ny>nzの屈折率分布を有する。本発明に用いる1/4波長板は、斜め延伸により遅相軸がフィルムの巻き取り方向(斜め延伸フィルムの長手方向)に対してある一定の角度をなしているところに特徴がある。なお、nx、nyおよびnzは、それぞれフィルムの面内遅相軸方向の屈折率、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率、厚み方向の屈折率を示す。
【0097】
このような1/4波長板の面内位相差値R1は、70〜160nmであり、好ましくは80〜150nmである。かかる位相差値は、当該部材が偏光フィルムと組み合わされた楕円偏光板によって得られる楕円偏光の楕円率や長軸方位角を考慮して決定される。また、1/4波長板の位相差値の公差は、楕円偏光板が貼合された画像表示装置の正面コントラストの観点から、中心値±5nm以内、好ましくは±3nm以内である。
【0098】
ロール体として得られる1/4波長板(斜め延伸フィルム)の遅相軸の角度は、1/4波長板を単独で偏光フィルムと組み合わせて楕円偏光板とする場合、巻き取り方向(斜め延伸フィルムの長手方向)を基準として35〜55°であり、1/2波長板と組み合わせて広帯域楕円偏光板とする場合は65〜85°である。いずれの場合においても、円偏光板とする場合には、実質的にそれぞれ45°、75°とされる。また、遅相軸の精度は、中心値±0.5°以内、好ましくは±0.3°以内である。位相差値の公差と遅相軸の精度が前記の範囲からはずれると、これら楕円偏光板が貼合された画像表示装置の正面コントラストが低下する傾向にある。
【0099】
また、1/4波長板の膜厚は、好ましくは5〜30μmである。5μm未満の膜厚では、取り扱い性の低下に伴い、本発明のロール状の楕円偏光板を作製する際、作業性が低下するばかりか、貼合精度が低下し、最終的には画像表示装置の正面コントラストにも影響を及ぼす可能性がある。また、膜厚が30μmを超えると、特に中小型用途での要求性能の一つである薄膜化に追随できない。
【0100】
[1/2波長板]
上記ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する斜め延伸フィルムは、1/2波長板として用いることもできる。当該1/2波長板は、可視光線の波長領域(380〜780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/2波長程度のレターデーションを示す位相差フィルムであり、nx>ny>nzの屈折率分布を有する。本発明に用いる1/2波長板は、1/4波長板と同様、斜め延伸により遅相軸がフィルムの巻き取り方向(斜め延伸フィルムの長手方向)に対してある一定の角度をなしているところに特徴がある。
【0101】
このような1/2波長板の面内位相差値R2は、240〜400nmであり、好ましくは220〜300nmである。かかる位相差値は、当該部材が偏光フィルムと組み合わされた楕円偏光板によって得られる楕円偏光の楕円率や長軸方位角を考慮して決定される。また、1/2波長板の位相差値の公差は、楕円偏光板が貼合された画像表示装置の正面コントラストの観点から、中心値±5nm以内、好ましくは±3nm以内である。
【0102】
ロール体として得られる1/2波長板(斜め延伸フィルム)の遅相軸の角度は、巻き取り方向(斜め延伸フィルムの長手方向)を基準として5〜25°である。特に前記した1/4波長板とともに広帯域円偏光板を作製する場合には実質的に15°とされる。また、遅相軸の精度は、中心値±0.5°以内、好ましくは±0.3°以内である。位相差値の公差と遅相軸の精度が前記の範囲からはずれると、楕円偏光板を液晶セルに貼合し画像表示装置とした場合の正面コントラストが低下する傾向にある。
【0103】
また、1/2波長板の膜厚は、好ましくは5〜40μmである。5μm未満の膜厚では、取り扱い性の低下に伴い、楕円偏光板を作製する際の作業性が低下するばかりか、貼合精度が低下し最終的には画像表示装置の正面コントラストにも影響を及ぼす可能性がある。また、膜厚が40μmを超えると、特に中小型用途での要求性能の一つである薄膜化に追随できない。
【0104】
[ロール状楕円偏光板]
次に、上述した各フィルムから構成される本発明のロール状楕円偏光板についてさらに詳細に説明する。図2は、本発明のロール状楕円偏光板の好ましい一例を示す断面模式図(図2(a))およびその軸角度の関係を説明するための概略図(図2(b))である。図2に示されるロール状楕円偏光板2は、1/4波長板10、偏光フィルム25および透明保護フィルム30をこの順に積層してなる。ここで、偏光フィルム25の吸収軸22と1/4波長板10の遅相軸12とがなす角度は、35〜55°であり、円偏光板とする場合には、当該角度は実質的に45°とされる。
【0105】
このようなロール状楕円偏光板2は、上記ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板、好ましくはさらにロール状の透明保護フィルムを用いて、これらロール体から引き出された長尺のフィルムを、所定の積層順序で連続的に積層、貼合していくロール・トゥ・ロールの貼合方式により作製することができる。この際、各フィルムは、それぞれの長手方向が平行または略平行となるように積層、貼合される。上述したように、本実施形態で用いられる1/4波長板では、その遅相軸が巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して35〜55°のある特定の角度に傾斜しており、一方、偏光フィルムの吸収軸の方向は、巻き取り方向(フィルムの長手方向)とすることができるため、両フィルムの長手方向が平行または略平行となるように積層することにより、図2(b)を参照して、偏光フィルム25の吸収軸22を基準に、1/4波長板10の遅相軸12に至る角度θ’が、35〜55°となるロール状の楕円偏光板を簡単に得ることができる。特に、遅相軸が巻き取り方向に対して45°傾斜しているロール状の1/4波長板を用いることで、ロール状の円偏光板を得ることができる。あるいは、偏光フィルム25の吸収軸22を基準に、1/4波長板10の遅相軸12に至る角度θ’が、125〜145°となるように配置することでも、ロール状の楕円偏光板を得ることができる。特に、遅相軸が巻き取り方向に対して135°傾斜しているロール状の1/4波長板を用いることで、ロール状の円偏光板を得ることができる。以下、角度を表すときは、ここでの説明と同様、基準軸に対して時計回りを正とする。
【0106】
また、ロール状の透明保護フィルム、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール貼合を行なうと、1回の貼合工程で、これら3つのフィルムの積層体からなるロール状楕円偏光板を製造することができ、より効率的である。
【0107】
図3は、本発明のロール状楕円偏光板の別の好ましい一例を示す断面模式図(図3(a))およびその軸角度の関係を説明するための概略図(図3(b))である。図3に示されるロール状楕円偏光板3は、1/4波長板10、1/2波長板15、偏光フィルム25および透明保護フィルム30をこの順に積層してなる。ここで、偏光フィルム25の吸収軸22は、1/2波長板15の遅相軸17と5〜25°の角度で交差し、1/4波長板10の遅相軸12と65〜85°の角度で交差している。円偏光板とする場合には、当該角度は実質的にそれぞれ15°、75°とされる。
【0108】
このようなロール状楕円偏光板3は、上記ロール状の偏光フィルム、ロール状の1/2波長板およびロール状の1/4波長板、好ましくはさらにロール状の透明保護フィルムを用いて、これらロール体から引き出された長尺のフィルムを、所定の積層順序で連続的に積層、貼合していくロール・トゥ・ロールの貼合方式により作製することができる。この際、各フィルムは、それぞれの長手方向が平行または略平行となるように積層、貼合される。上述したように、本実施形態で用いられる1/4波長板では、その遅相軸が巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して65〜85°のある特定の角度に、1/2波長板では、その遅相軸が巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して5〜25°のある特定の角度に傾斜しており、一方、偏光フィルムの吸収軸の方向は、巻き取り方向(フィルムの長手方向)とすることができるため、これらのフィルムの長手方向が平行または略平行となるように積層することにより、図3(b)を参照して、偏光フィルム25の吸収軸22を基準に、1/2波長板15の遅相軸17に至る角度φが5〜25°、1/4波長板10の遅相軸12に至る角度ψが65〜85°となるロール状の楕円偏光板を簡単に得ることができる。特に、1/2波長板の遅相軸17が巻き取り方向に対して15°傾斜しているロール状の1/2波長板15と、1/4波長板の遅相軸12が巻き取り方向に対して75°傾斜しているロール状の1/4波長板10とを組み合わせることで、ロール状の円偏光板を得ることができる。あるいは、偏光フィルム25の吸収軸22を基準に、1/2波長板15の遅相軸17に至る角度φが175〜155°、1/4波長板10の遅相軸12に至る角度ψが95〜115°となるように配置することでも、ロール状の楕円偏光板を得ることができる。特に、それぞれの遅相軸の傾斜角度が165°、105°となるように配置することでロール状の円偏光板を得ることができる。
【0109】
特に図3に示すような1/4波長板10と1/2波長板15とを積層したものは、可視光領域の広い波長範囲、すなわち広帯域で1/4波長板として機能するようになり、その1/2波長板15側に偏光フィルム25を積層したロール状楕円偏光板3は、広帯域で、直線偏光を楕円偏光に、また楕円偏光を直線偏光に変換できるようになる。さらにこのように構成することで、反射防止効果の角度依存性をも低減できるようになる。
【0110】
ここで、上記したロール状の波長板、透明保護フィルムおよび偏光フィルムの貼合には、良好な密着性が得られるとともに、楕円偏光板の膜厚が薄くなることから、接着剤が好ましく用いられる。
【0111】
偏光フィルムと、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する波長板との接着、偏光フィルムと透明保護層との接着および波長板同士の接着に用いられる接着剤としては、特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリルアミド系樹脂などを接着剤成分とする接着剤を挙げることができる。なかでも、水系の接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解したもの、またはこれを水に分散させたものは、接着剤層の厚みをより低減することができるため、好ましく用いられる。また、別の好ましい接着剤として、無溶剤型の接着剤、具体的には、加熱や活性エネルギー線の照射によりモノマーまたはオリゴマーを反応硬化させて接着剤層を形成するものを挙げることができる。水系の接着剤としては、接着剤成分として、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂、水溶性の架橋性エポキシ樹脂、あるいはウレタン系樹脂などを含有するものを挙げることができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、水系接着剤として用いられる種々公知の樹脂を用いることができる。
【0112】
水溶性の架橋性エポキシ樹脂としては、たとえば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸などのジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂を挙げることができる。このようなポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン 650」、「スミレーズレジン 675」(いずれも商品名)などがある。
【0113】
接着剤成分として水溶性の架橋性エポキシ樹脂を用いる場合は、塗工性と接着性を向上させるために、ポリビニルアルコール系樹脂などの他の水溶性樹脂をさらに混合することが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールなどの、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。なかでも、酢酸ビニルと不飽和カルボン酸またはその塩との共重合体のケン化物、すなわち、カルボキシル基変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。なお、ここでいう「カルボキシル基」とは、−COOHおよびその塩を含む概念である。
【0114】
市販されている好適なカルボキシル基変性ポリビニルアルコールとしては、たとえば、それぞれ(株)クラレから販売されている「クラレポバール KL−506」、「クラレポバール KL−318」、「クラレポバール KL−118」、それぞれ日本合成化学工業(株)から販売されている「ゴーセナール T−330」、「ゴーセナール T−350」、電気化学工業(株)から販売されている「DR−0415」、それぞれ日本酢ビ・ポバール(株)から販売されている「AF−17」、「AT−17」、「AP−17」などが挙げられる。
【0115】
水溶性の架橋性エポキシ樹脂を含む接着剤は、上記エポキシ樹脂および必要に応じて加えられるポリビニルアルコール系樹脂などの他の水溶性樹脂を水に溶解し、接着剤溶液として調製することができる。この場合、水溶性の架橋性エポキシ樹脂の含有量は、水100重量部に対して、0.2〜2重量部程度とすることが好ましい。また、ポリビニルアルコール系樹脂を配合する場合、その配合量は、水100重量部に対して、1〜10重量部程度とすることが好ましく、1〜5重量部程度とすることがより好ましい。
【0116】
一方、水系の接着剤に好適に用いることができるウレタン系樹脂としては、アイオノマー型のウレタン樹脂、特にポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂を挙げることができる。ここで、アイオノマー型とは、ウレタン樹脂を構成する骨格内に、少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。また、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その骨格内に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂の市販品として、たとえば、DIC(株)から販売されている「ハイドラン AP−20」、「ハイドラン APX−101H」などがあり、いずれもエマルジョンの形で入手できる。
【0117】
アイオノマー型のウレタン樹脂を接着剤成分とする場合、イソシアネート系などの架橋剤をさらに配合することが好ましい。イソシアネート系架橋剤は、分子内にイソシアナト基(−NCO)を少なくとも2個有する化合物であり、その例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのポリイソシアネート単量体のほか、それらの複数分子がトリメチロールプロパンなどの多価アルコールに付加したアダクト体、ジイソシアネート3分子がそれぞれの片末端イソシアナト基の部分でイソシアヌレート環を形成した3官能のイソシアヌレート体、ジイソシアネート3分子がそれぞれの片末端イソシアナト基の部分で水和・脱炭酸して形成されるビュレット体などのポリイソシアネート変性体などがある。好適に使用し得る市販のイソシアネート系架橋剤として、たとえば、DIC(株)から販売されている「ハイドランアシスター C−1」などが挙げられる。
【0118】
アイオノマー型のウレタン樹脂を含む水系接着剤においては、粘度と接着性の観点から、当該ウレタン樹脂は、その濃度が10〜70重量%程度となるように水中に溶解または分散されることが好ましい。アイオノマー型のウレタン樹脂の濃度は、より好ましくは20重量%以上であり、また、より好ましくは50重量%以下である。また、イソシアネート系架橋剤を配合する場合、その配合量は、ウレタン系樹脂100重量部に対してイソシアネート系架橋剤が5〜100重量部程度となるように適宜選択される。
【0119】
以上のような水系の接着剤を、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有するロール状の波長板および/または偏光フィルムの接着面、透明保護フィルムおよび/または偏光フィルムの接着面、波長板同士を接着する場合における少なくとも一方の波長板の接着面に塗布し、これらを貼り合わせて、ロール状の楕円偏光板とすることができる。偏光フィルム、波長板および透明保護フィルムに水系接着剤を塗工する方法は特に限定されない。接着後は、通常、乾燥処理が行なわれ、乾燥は、たとえば、60〜100℃程度の温度で行なうことができる。乾燥後は、室温よりやや高い温度、たとえば30〜50℃程度の温度で1〜10日間程度養生してやるのが、接着力を一層高めるうえで好ましい。
【0120】
次に、無溶剤型の接着剤について説明する。無溶剤型の接着剤とは、有意量の溶剤を含まず、一般には、加熱や活性エネルギー線の照射により重合する硬化性の化合物と、重合開始剤とを含んで構成される。反応性の観点からは、カチオン重合で硬化するものが好ましく、特にエポキシ系の接着剤が好ましく用いられる。
【0121】
そこで、本発明のロール状楕円偏光板において、一つの好ましい形態では、偏光フィルムと、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する波長板、偏光フィルムと透明保護フィルム、および波長板同士が、無溶剤型のエポキシ系接着剤を介して積層されている。この接着剤は、加熱または紫外線の照射によるカチオン重合で硬化するものであることがより好ましい。特に、耐候性や屈折率などの観点から、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物が、硬化性化合物として好適に用いられる。分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物を用いた接着剤は、たとえば、特開2004−245925号公報に記載されている。このような芳香環を含まないエポキシ化合物として、水素化エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが例示できる。接着剤に用いる硬化性のエポキシ化合物は、通常、分子中にエポキシ基を2個以上有している。
【0122】
水素化エポキシ化合物は、芳香族エポキシ樹脂の原料となる芳香族ポリヒドロキシ化合物を触媒の存在下、加圧下で選択的に核水素化反応を行ない、次いでグリシジルエーテル化することにより、得ることができる。芳香族エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、およびビスフェノールSのジグリシジルエーテル等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、およびヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、およびエポキシ化ポリビニルフェノール等の多官能型のエポキシ樹脂などが挙げられる。これら芳香族エポキシ樹脂の原料である、たとえばビスフェノール類等の芳香族ポリヒドロキシ化合物に、上記のような核水素化反応を施し、次いでエピクロロヒドリンを反応させれば、水素化エポキシ化合物が得られる。中でも、水素化エポキシ化合物としては、水素化したビスフェノールAのグリシジルエーテルが好適である。
【0123】
脂環式エポキシ化合物とは、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に1個以上有するエポキシ樹脂を意味する。「脂環式環に結合したエポキシ基」とは、次式に示される構造における橋かけの酸素原子−O−を意味し、次式中、mは2〜5の整数である。
【0124】
【化1】

【0125】
上記式における(CH2m中の1個または複数個の水素原子を取り除いた形の基が他の化学構造に結合している化合物が、脂環式エポキシ化合物となり得る。(CH2m中の1個または複数個の水素原子は、メチル基やエチル基等の直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。脂環式エポキシ化合物の中でも、オキサビシクロヘキサン環(上記式においてm=3のもの)や、オキサビシクロヘプタン環(上記式においてm=4のもの)を有するものは、優れた接着性を示すことから好ましく用いられる。以下に、好ましく用いられる脂環式エポキシ化合物を具体的に例示するが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0126】
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、
3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、
エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、
ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、
ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、
ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
2,3,14,15−ジエポキシ−7,11,18,21−テトラオキサトリスピロ−[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン(3,4−エポキシシクロヘキサンスピロ−2',6'−ジオキサンスピロ−3'',5''−ジオキサンスピロ−3''',4'''−エポキシシクロヘキサンとも命名できる化合物である)、
3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−8,9−エポキシ−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、
4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、
ビス−2,3−エポキシシクロペンチルエーテル、
ジシクロペンタジエンジオキサイドなど。
【0127】
次に脂肪族エポキシ化合物について説明すると、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルが、これに該当する。その例としては、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル;1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル;グリセリンのトリグリシジルエーテル;トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル;プロピレングリコールのジグリシジルエーテル;エチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0128】
ここに例示したエポキシ化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、また複数のエポキシ化合物を混合して使用してもよい。
【0129】
無溶剤型の接着剤に使用するエポキシ化合物のエポキシ当量は、通常30〜3,000g/当量、好ましくは50〜1,500g/当量の範囲である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、硬化後の接着剤層の可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、3,000g/当量を超えると、他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
【0130】
エポキシ化合物をカチオン重合で硬化させるためには、カチオン重合開始剤が配合される。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射、または加熱により、カチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始する。いずれのタイプのカチオン重合開始剤であっても、潜在性が付与されていることが、作業性の観点から好ましい。
【0131】
反応性の観点から、エポキシ化合物の硬化反応としてカチオン重合が好ましく用いられる。そのためには、エポキシ系接着剤は、カチオン重合開始剤を含有するのが好ましい。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、および電子線等の活性エネルギー線の照射、または加熱によって、カチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる。いずれのタイプのカチオン重合開始剤であっても、潜在性が付与されていることが、作業性の観点から好ましい。以下、活性エネルギー線の照射によりカチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「光カチオン重合開始剤」という。
【0132】
光カチオン重合開始剤を用い、活性エネルギー線の照射により接着剤の硬化を行なう方法は、常温での硬化が可能となり、偏光フィルムの耐熱性または膨張による歪を考慮する必要が減少し、ロール状の波長板や透明保護フィルムを良好に接着できる点において有利である。また、光カチオン重合開始剤は、光で触媒的に作用するため、エポキシ化合物に混合しても保存安定性や作業性に優れる。
【0133】
光カチオン重合開始剤としては、たとえば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩;鉄−アレン錯体などを挙げることができる。これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械的強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
【0134】
これらの光カチオン重合開始剤は、市販品を容易に入手することが可能であり、たとえば、それぞれ商品名で、「カヤラッド PCI−220」および「カヤラッド PCI−620」(以上、日本化薬株式会社製)、「UVI−6990」(ユニオンカーバイド社製)、「アデカオプトマー SP−150」および「アデカオプトマー SP−170」(以上、株式会社ADEKA製)、「CI−5102」、「CIT−1370」、「CIT−1682」、「CIP−1866S」、「CIP−2048S」および「CIP−2064S」(以上、日本曹達株式会社製)、「DPI−101」、「DPI−102」、「DPI−103」、「DPI−105」、「MPI−103」、「MPI−105」、「BBI−101」、「BBI−102」、「BBI−103」、「BBI−105」、「TPS−101」、「TPS−102」、「TPS−103」、「TPS−105」、「MDS−103」、「MDS−105」、「DTS−102」および「DTS−103」(以上、みどり化学株式会社製)、ならびに「PI−2074」(ローディア社製)などを挙げることができる。
【0135】
光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対して、通常0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。
【0136】
エポキシ系接着剤は、必要に応じて、さらに光増感剤および/または光増感助剤を含有することができる。光増感剤を用いることで、カチオン重合の反応性が向上し、硬化物の機械的強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、たとえば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾおよびジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。光増感剤は、エポキシ系接着剤組成物100重量部中に、0.1〜20重量部の範囲内で含有されることが好ましい。また、光増感助剤として、特にナフタレン系光増感助剤を用いることで、それを配合しない場合に比べ、接着剤の硬化性が向上する。ナフタレン系光増感助剤は、エポキシ系接着剤100重量部中に、0.1〜5重量部の範囲内で含有されることが好ましい。
【0137】
次に、加熱によりカチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる熱カチオン重合開始剤について説明する。加熱によりカチオン種またはルイス酸を発生する化合物として、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤も、市販品として容易に入手することができ、たとえば、いずれも商品名で、「アデカオプトン CP77」および「アデカオプトン CP66」(以上、(株)ADEKA製)、「CI−2639」および「CI−2624」(以上、日本曹達(株)製)、「サンエイド SI−60L」、「サンエイド SI−80L」および「サンエイド SI−100L」(以上、三新化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0138】
以上説明した光カチオン重合と熱カチオン重合を併用することも、有用な技術である。
エポキシ系接着剤は、さらにオキセタン類やポリオール類など、カチオン重合を促進する化合物を含有してもよい。
【0139】
無溶剤型の接着剤を用いる場合も、その接着剤を、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有するロール状の波長板および/または偏光フィルム、透明保護フィルムおよび/または偏光フィルムの接着面、波長板同士を接着する場合における少なくとも一方の波長板の接着面に塗布し、これらを貼り合わせて、ロール状の楕円偏光板とすることができる。偏光フィルム、波長板および透明保護フィルムに無溶剤型接着剤を塗工する方法に特別な限定はなく、たとえば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、少量の溶剤を用いて粘度調整を行なってもよい。このために用いる溶剤は、偏光フィルムの光学性能を低下させることなく、エポキシ系接着剤を良好に溶解するものであればよく、たとえば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。エポキシ系接着剤を用いる場合、接着剤層の厚さは、通常50μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下であり、また通常は1μm以上である。
【0140】
以上のように、未硬化の接着剤層を介して偏光フィルムに、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する波長板や透明保護フィルムを貼合した後は、活性エネルギー線を照射するか、または加熱することにより、エポキシ系接着剤層を硬化させ、波長板や透明保護フィルムを偏光フィルム上に固着させる。活性エネルギー線の照射により硬化させる場合、好ましくは紫外線が用いられる。具体的な紫外線光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、ブラックライトランプ、メタルハライドランプなどを挙げることができる。活性エネルギー線や紫外線の照射強度や照射量は、重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルムに悪影響を与えないように、適宜選択すればよい。また加熱により硬化させる場合は、一般的に知られた方法で加熱することができ、そのときの温度や時間も、重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム、波長板、透明保護フィルムに悪影響を与えないように、適宜選択すればよい。
【0141】
偏光フィルムの片面にポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する波長板を積層し、他面には透明保護フィルムを積層する場合、これらの接着に用いる接着剤は同じであってもよいし、異なる接着剤を用いてもよいが、偏光フィルムと波長板との間、および偏光フィルムと透明保護フィルムとの間で、同じ接着剤を用いるのが、工程および材料を少なくできることから好ましい。
【0142】
ロール状の楕円偏光板の製造にあたり、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する波長板もしくは透明保護フィルムは、その偏光フィルムに貼り合わされる側の表面に、コロナ放電処理を施しておくのが好ましい。コロナ放電処理を施すことにより、これら波長板や透明保護フィルムと偏光フィルムの接着力を高めることができる。コロナ放電処理とは、電極間に高電圧をかけて放電し、電極間に配置された樹脂フィルムを活性化する処理である。コロナ放電処理の効果は、電極の種類、電極間隔、電圧、湿度、使用する樹脂フィルムの種類などによっても異なるが、たとえば、電極間隔を1〜5mm、移動速度を3〜20m/分程度に設定するのが好ましい。コロナ放電処理後は、その処理面に、前記したような接着剤を介して偏光フィルムが貼り合わされる。
【0143】
かくして、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面にポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する波長板が積層され、もう一方の面には透明保護フィルムが積層されたロール状の楕円偏光板が得られる。通常、このような楕円偏光板には、その波長板側の面に粘着剤層が設けられる。粘着剤層を構成する粘着剤としては、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系、ブチルゴム系、シリコーン系などのベースポリマーを用いたものが使用できる。好適に用いられるベースポリマーを挙げれば、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸エステルをベースとするポリマーや、これらの(メタ)アクリル酸エステルを2種類以上用いた共重合体をベースとするポリマーなどである。粘着剤は通常、これらのベースポリマー中に極性モノマーが共重合されており、かかる極性モノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートのような、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基などを有するモノマーを挙げることができる。架橋剤については、カルボキシル基との間でカルボン酸金属塩を形成する2価または多価金属塩、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するポリイソシアネート化合物などが挙げられ、これらの化合物が、架橋剤として1種または2種以上、ベースポリマーに混合して用いられる。一般的な粘着剤層の厚みは5〜50μm程度である。
【0144】
本発明のロール状楕円偏光板を液晶表示装置などの画像表示装置に適用するにあたっては、当該ロール状楕円偏光板を所定の形状に裁断して得られる楕円偏光板の枚葉体(楕円偏光板チップ)を用いることができる。本発明のロール状楕円偏光板は、これを構成する偏光板および波長板のいずれにも継ぎ目を有しない。したがって、これを枚葉体に裁断する際における生産効率性、歩留まりを向上させることができるとともに、材料ロスの低減を図ることができる。
【0145】
<積層光学部材>
本発明のロール状楕円偏光板または楕円偏光板チップには、透明保護フィルム側に、偏光機能以外の光学機能を示す光学層を設けて、積層光学部材とすることもできる。光学層の形成はロール・トゥ・ロールでロール状の楕円偏光板上に積層しても、ロール状の楕円偏光板をある程度の大きさの枚葉体であるマザーシート(楕円偏光板チップ)にまで裁断し、そのマザーシート上に積層してもよい。
【0146】
積層光学部材の形成を目的に楕円偏光板に積層する光学層には、たとえば、反射層、半透過型反射層、光拡散層、集光シート、輝度向上フィルムなど、液晶表示装置の形成に用いられる各種のものがある。これらのうち、反射層、半透過型反射層および光拡散層は、反射型、半透過型、および拡散型、ならびにそれらの両用型の偏光板からなる積層光学部材を形成する場合に用いられるものである。
【0147】
反射型の偏光板は、視認側からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置に用いられ、バックライト等の光源を省略できるため、液晶表示装置を薄型化しやすい。また半透過型の偏光板は、明所では反射型として、暗所ではバックライト等の光源を介して表示するタイプの液晶表示装置に用いられる。反射型偏光板としての積層光学部材は、たとえば、偏光フィルム上の透明保護フィルムにアルミニウム等の金属からなる箔や蒸着膜を付設して、反射層を形成することにより得ることができる。半透過型の偏光板としての積層光学部材は、前記の反射層をハーフミラーとしたり、パール顔料等を含有して光透過性を示す反射板を偏光板に接着したりすることで形成できる。一方、拡散型偏光板としての積層光学部材は、たとえば、偏光フィルム上の透明保護フィルムにマット処理を施す方法、微粒子含有の樹脂を塗布する方法、微粒子含有のフィルムを接着する方法など、種々の方法を用いて、表面に微細凹凸構造を形成することにより得ることができる。
【0148】
さらに、反射拡散両用の偏光板としての積層光学部材の形成は、たとえば、拡散型偏光板の微細凹凸構造面にその凹凸構造が反映した反射層を設けるなどの方法により行なうことができる。微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させ、指向性やギラツキを防止し、明暗のムラを抑制しうるなどの利点を有する。また、微粒子を含有した樹脂層やフィルムは、入射光およびその反射光が微粒子含有層を透過する際に拡散されて、明暗ムラをより抑制し得るなどの利点も有している。表面微細凹凸構造を反映させた反射層は、たとえば、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の蒸着やメッキ等の方法で、金属を微細凹凸構造の表面に直接付設することで形成できる。表面微細凹凸構造を形成するために配合する微粒子としては、たとえば、平均粒径が0.1〜30μmのシリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる無機系微粒子、架橋または未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子などが利用できる。
【0149】
集光シートは、光路制御等を目的に用いられるもので、プリズムアレイシートやレンズアレイシート、あるいはドット付設シートなどとして、形成することができる。
【0150】
輝度向上フィルムは、液晶表示装置等における輝度の向上を目的に用いられるもので、その例としては、屈折率の異方性が互いに異なる薄膜フィルムを複数枚積層して反射率に異方性が生じるように設計された反射型偏光分離シート、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持した円偏光分離シートなどが挙げられる。
【0151】
積層光学部材は、楕円偏光板と、前述した反射層、半透過型反射層、光拡散層、集光シート、および輝度向上フィルムなどから使用目的に応じて選択される1層または2層以上の光学層とを組み合わせ、2層または3層以上の積層体とすることができる。その場合、光拡散層、集光シート、輝度向上フィルムなどの光学層は、それぞれ2層以上を配置してもよい。なお、各光学層の配置に特に限定はない。
【0152】
積層光学部材を形成する各種光学層は、接着剤を用いて一体化されるが、そのために用いる接着剤は、接着層が良好に形成されるものであれば特に限定はない。接着作業の簡便性や光学歪の発生防止などの観点から、粘着剤(感圧性接着剤)を使用することが好ましい。
【0153】
<液晶表示装置>
本発明の楕円偏光板チップは、必要に応じて前記したような他の光学層と積層した状態で、粘着剤を介して液晶セルに貼り合わせ、液晶表示装置とすることができる。液晶表示装置とするにあたっては、前記のように一方の波長板の外側に粘着剤層を形成して粘着剤付き楕円偏光板チップとし、その粘着剤層側が液晶セルに面するように貼合される。液晶表示装置を構成する液晶セルは、TN(Twisted Nematic)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertical Alignment)、IPS(In−Plane Switching)など、この分野で知られている各種のモードのものを用いることができる。
【実施例】
【0154】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0155】
(a)ロール状の1/4波長板の作製
ポリプロピレン系樹脂(住友化学(株)製「ノーブレンFS2011DG3」、MFR=約2.3g/10分、エチレン含量=約0.5重量%)90重量部と、脂環族飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業(株)製「アルコン P-125」、軟化点125℃)10重量部とを単軸押出機を用いて溶融混練し、ついで樹脂温度250℃で溶融押出を行ない、20℃の冷却ロールにて急冷することにより厚さ40μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを135℃に加熱して、図1に準じたテンター延伸機に導入し、左右の移動速度に速度差をもたせて横一軸延伸(幅方向)とともに速度差による縦方向の引っ張り延伸を施して、斜め延伸フィルムであるロール状の1/4波長板を得る。この延伸フィルムの幅方向に対する遅相軸の角度は平均で45°(フィルムの巻き取り方向を基準として、同様に平均45°)と予想される。さらにこのロール状の1/4波長板の一方の面にコロナ処理を施す。
【0156】
(b)ロール状の偏光フィルムの作製
平均重合度約2,400、ケン化度99.9モル%以上で厚さ75μmのロール状のポリビニルアルコールフィルムを乾式で延伸倍率5倍に一軸延伸し、さらに緊張状態を保ったまま、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.05/5/100の水溶液に28℃で60秒間浸漬した。次に、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で10/9.5/100の水溶液に74℃で300秒間浸漬した。26℃の純水で20秒間水洗した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向されたロール状の偏光フィルムを得た。その厚みは約26μmであった。偏光フィルムの吸収軸は、ロールフィルムの長手方向と平行であった。
【0157】
(c)ロール状楕円偏光板の作製
平均重合度が約1,700、ケン化度が99.6モル%以上のポリビニルアルコールを、水100重量部に対して4重量部溶解し、ポリビニルアルコール系接着剤を調製する。先に得られたロール状の偏光フィルムを引き出しながら、その両面にこの接着剤を塗布し、片面には、前記のロール状の1/4波長板から引き出されたフィルムをそのコロナ処理面で、もう一方の面には、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(「フジタック TF80UL」、富士写真フイルム(株)から入手)にケン化処理を施したもののロール体から引き出されたフィルムを、それぞれの長手方向が同じになるようにして、連続的に貼合する。このとき、偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸とのなす角度は45°になる。その後、65℃で乾燥して、ロール状の楕円偏光板を得る。得られるロール状の楕円偏光板は、薄肉化されており、また、柔軟性がある。
【0158】
(d)偏光性能の評価
得られるロール状楕円偏光板は、継合部分のない連続したものである。よって、適当な裁断方法により、裁断ロスが極めて少ない楕円偏光板チップを得ることができる。この楕円偏光板の楕円率は0.94であり、ほぼ円偏光板になっていると予想される。
【0159】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0160】
2,3 ロール状楕円偏光板、10 1/4波長板、12 1/4波長板の遅相軸、15 1/2波長板、17 1/2波長板の遅相軸、20 フィルム搬送方向、22 偏光フィルムの吸収軸、25 偏光フィルム、30 透明保護フィルム、41 左移動速度、42 右移動速度、100 未延伸フィルム、300 テンター、301,302 チャック位置、501 左移動位置、502 右移動位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明保護フィルム、偏光フィルム、および1/4波長板がこの順に積層されてなるロール状の楕円偏光板であって、
前記偏光フィルムの吸収軸と前記1/4波長板の遅相軸とが35〜55°の角度で交差しており、
前記1/4波長板は、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂フィルムを斜め延伸してなる延伸フィルムからなり、
前記偏光フィルムと前記1/4波長板とは、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式で貼合されているロール状楕円偏光板。
【請求項2】
前記透明保護フィルムは、セルロース系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂のいずれかからなる請求項1に記載のロール状楕円偏光板。
【請求項3】
前記樹脂フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなり、
前記樹脂組成物は、前記脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%含有する請求項1または2に記載のロール状楕円偏光板。
【請求項4】
前記脂環族飽和炭化水素樹脂の軟化点が110〜145℃の範囲内である請求項1〜3のいずれかに記載のロール状楕円偏光板。
【請求項5】
前記偏光フィルムの吸収軸と前記1/4波長板の遅相軸とが実質的に45°の角度で交差している請求項1〜4のいずれかに記載のロール状楕円偏光板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のロール状楕円偏光板の製造方法であって、
ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により、連続的に前記偏光フィルムと前記1/4波長板とを貼合する工程を備えるロール状楕円偏光板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のロール状楕円偏光板の製造方法であって、
ロール状の透明保護フィルム、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により、連続的に前記透明保護フィルムと前記偏光フィルムと前記1/4波長板とを貼合する工程を備えるロール状楕円偏光板の製造方法。
【請求項8】
透明保護フィルム、偏光フィルム、1/2波長板、および1/4波長板がこの順に積層されてなるロール状の楕円偏光板であって、
前記偏光フィルムの吸収軸が、前記1/2波長板の遅相軸と5〜25°の角度で交差し、前記1/4波長板の遅相軸と65〜85°の角度で交差しており、
前記1/2波長板および前記1/4波長板は、いずれもポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂フィルムを斜め延伸してなる延伸フィルムからなり、
前記偏光フィルムと前記1/2波長板とは、ロール状の偏光フィルムおよびロール状の1/2波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式で貼合されており、
前記1/2波長板と前記1/4波長板とは、ロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式で貼合されているロール状楕円偏光板。
【請求項9】
前記透明保護フィルムは、セルロース系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂または(メタ)アクリル系樹脂のいずれかからなる請求項8に記載のロール状楕円偏光板。
【請求項10】
前記樹脂フィルムは、ポリプロピレン系樹脂と脂環族飽和炭化水素樹脂とを含有する樹脂組成物からなり、
前記樹脂組成物は、前記脂環族飽和炭化水素樹脂を0.1〜30重量%含有する請求項8または9に記載のロール状楕円偏光板。
【請求項11】
前記脂環族飽和炭化水素樹脂の軟化点が110〜145℃の範囲内である請求項8〜10のいずれかに記載のロール状楕円偏光板。
【請求項12】
前記偏光フィルムの吸収軸が、前記1/2波長板の遅相軸と実質的に15°の角度で交差し、前記1/4波長板の遅相軸と実質的に75°の角度で交差している請求項8〜11に記載のロール状の楕円偏光板。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載のロール状楕円偏光板の製造方法であって、
ロール状の偏光フィルム、ロール状の1/2波長板およびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により、連続的に前記偏光フィルムと前記1/2波長板と前記1/4波長板とを貼合する工程を備えるロール状楕円偏光板の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜12のいずれかに記載のロール状楕円偏光板の製造方法であって、
ロール状の透明保護フィルム、ロール状の偏光フィルム、ロール状の1/2波長板およびロール状の1/4波長板を用いて、ロール・トゥ・ロール方式により、連続的に前記透明保護フィルムと前記偏光フィルムと前記1/2波長板と前記1/4波長板とを貼合する工程を備えるロール状楕円偏光板の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜5、8〜12のいずれかに記載のロール状楕円偏光板を裁断してなる楕円偏光板チップ。
【請求項16】
請求項15に記載の楕円偏光板チップを備える液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−154176(P2011−154176A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15328(P2010−15328)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】