説明

極細合成繊維の製造方法

【課題】 特定の吐出孔スペックでかつ特定配列の吐出孔を有する口金を紡糸冷却風の方向を考慮に入れて紡糸機に設置することにより、生産性を低下することなく、また、品質を悪化させることなく、細単糸繊度、多フィラメントの合成繊維を製造することが可能な極細合成繊維の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】 5−スルホイソフタル酸金属塩とポリエチレングリコールを共重合したポリエステルからなるポリエステルフィラメント糸であって、かつ繊維の単糸繊度が0.9dtex以下の極細合成繊維を製造するに際して、吐出孔配列等を規定した特異な口金を使用し、特定条件の口金下の冷却風吹き出し処理をすることを特徴とする極細合成繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた高発色性を持ち、かつソフトで風合いの良好なポリエステルフィラメントの製造方法に関するものである。さらに詳しくは最も一般的な溶融紡糸装置であるユニフロータイプの冷却装置を有する溶融紡糸装置を用いた単糸0.9dtex以下のカチオン可染糸製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは寸法安定性や耐薬品性等の耐久性に優れ、その機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば衣料用、産業用、資材用、医療用等に好適に用いられている。
【0003】
一方、市場では合成繊維の特品化の要望が年々高まっており、中でも高発色性繊維の要望が強く、合成繊維各社を中心に種々の検討がなされている。従来から、カチオン可染性を得るために5−ナトリウムスルホイソフタル酸を単独で共重合したポリエステル(特許文献1,2参照)や常圧カチオン可染性を得るために5−ナトリウムスルホイソフタル酸とアジピン酸を共重合したポリエステル(特許文献3,4参照)が知られている。しかし、これらの方法で得たポリエステルはエステル交換反応および重縮合反応工程で生成するジオール成分を多量に含有しており、機械的特性、耐熱安定性等が著しく低下するばかりか、通常の方法で紡糸すると、ポリマーの溶融粘度が高いために安定製糸が困難である。この問題を解消すべく、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分とグリコールを共重合させる技術が開示されている(特許文献5,6,7参照)。確かに、この方法によってカチオン可染性ポリマーの増粘効果を抑制することは可能となったが、カチオン可染ポリエステルは水着用途などに使用されているため、さらに高い強度が要求される。このため、一般的なポリエステルに極限粘度にあわせる設計となり、必然的に溶融粘度は高くする必要がある。一般的なポリエステルに比べ、カチオン可染糸は溶融粘度が高いことにより、固化点がより口金面に近づくことになりチムニーによる整流化されていない部分に固化点が入り込んでしまうため、冷却斑が発生し糸斑のある原糸となる。これらの問題を改善するため、スルホン酸ホスホニウム塩基を有するイソフタル酸成分を共重合させる方法が知られている(特許文献8参照)。確かに、この方法により、増粘作用の問題は解消されるが、スルホン酸ホスホニウム塩基を有するイソフタル酸成分の耐熱性が、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸に比べ劣っているために紡糸性の低下および染色工程において強度が著しく低下する欠点がある。
【0004】
また、増粘作用を解消する方法としてガラス転移点降下剤および固体微粒子が含有するスルホン酸塩基を有する芳香族ポリエステルを紡糸する方法が提示されている(特許文献9参照)。しかしながら、この方法では結果的に異物を多量に含有した状態で製糸することになり、製糸性が悪化する。
【0005】
一方、市場のカチオン可染糸の要求は年々高くなっており、近年では高発色性のみならず、ソフト感も併せ持つカチオン可染糸が強く要望されている。一般的に単糸細繊度化、多フィラメント化することにより、織・編物にソフトな風合いを付与することが知られている。前述したようにポリマーによる改善による単糸細繊度化、他フィラメント化は現時点では困難であるため、製造方法による改善を各社進めている。
【0006】
細単糸繊度化、多フィラメント化のためには、紡糸プロセスにおいてはいかに均一に冷却するかが技術ポイントとなる。一般的に紡糸設備は円形の紡糸口金から吐出されるポリマを一方向から冷却するシステム(ユニフロータイプ)になっているが、冷却風吹き出し面に近い方の吐出フィラメントは冷却されるが、遠い側に位置する吐出フィラメントは冷却風が通り抜けてこないため、全く強制冷却されないことになる。
【0007】
この問題を解決すべく、均一冷却のため環状の冷却装置を設置する方法が提案されている(例えば、特許文献10〜12参照)。さらにまた、環状冷却装置に対応して口金吐出孔配列を適正化し極細糸を得ようとする試みが提案されている(例えば、特許文献13参照)。しかしながら、これらの場合は、一般的な紡糸設備(ユニフロータイプ)から環状冷却装置への改造が前提となり、大がかりな設備改造を伴う。
【0008】
この問題を避けるため、中央部よりも外周部のほうが紡糸孔の穿孔密度を大にした口金が提案されている(例えば、特許文献14参照)。この方法により、多フィラメントすることができるようになったが、近年はさらに多フィラメント化が進んでおり、この方法では単糸間の部分融着および糸条均斉性が不完全な糸となってしまう。
【0009】
さらにまた、二重正方格子状に吐出孔を設ける手法が提案されている(例えば、特許文献15,16参照)。これらの提案によれば、吐出孔を正方格子状に配列した群をさらに正方格子状に配列することにより、一方向から吹き付けられる冷却風を効率よく糸条冷却に充てることが可能となる。しかしながら、この方法では紡糸冷却風と吐出孔配列の方向の相互関係について配慮がなされていないために、必ずしも細単糸繊度化、多フィラメント化の目的が達成されてはいなかった。
【特許文献1】特公昭34−010497号公報
【特許文献2】特表平11−506484号公報
【特許文献3】特開昭61−239015号公報
【特許文献4】特開平11−093020号公報
【特許文献5】特開昭59−026521号公報
【特許文献6】特開昭63−048353号公報
【特許文献7】特開昭63−120111号公報
【特許文献8】特開昭63−211322号公報
【特許文献9】特開平05−272012号公報
【特許文献10】特開昭55−090609号公報
【特許文献11】特開昭62−243824号公報
【特許文献12】特開平09−226920号公報
【特許文献13】特開平07−278940号公報
【特許文献14】特開昭56−107005号公報
【特許文献15】特開平05−125609号公報
【特許文献16】特開平07−300716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、このような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、大幅な設備改造を実施しない前提で、特定の吐出孔スペックでかつ特定配列の吐出孔を有する口金を紡糸冷却風の方向を考慮に入れて紡糸機に設置することにより、生産性を低下することなく、また、品質を悪化させることなく、細単糸繊度、多フィラメントのカチオン可染糸を製造することが可能な極細合成繊維の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1)0.1〜6.0モル%の5−スルホイソフタル酸金属塩と0.1〜5.0重量%の重量平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールを共重合したポリエステルからなるポリエステルフィラメント糸であって、かつ単糸繊度が0.9dtex以下のポリエステルフィラメント糸を製造するに際して、
(A)全部で70個以上の吐出孔を有し、
(B)吐出孔間隔Sが0.8mm以上3.5mm以下の3個以上の吐出孔からなる群をなし、
(C)該吐出孔群の間隔Hが5mm以上27mm以下である口金を使用し、
口金下の冷却風吹き出し装置が、
(a)ユニフロータイプの冷却装置であり、
(b)冷却風吹き出しの最上部と口金との距離Lが20mm以上80mm以下で、
(c)口金の吐出孔群内の吐出孔配列が、紡出糸条を冷却する冷却風の方向と同一方向に並ばないように設置されていることを特徴とする極細合成繊維の製造方法。
(2)全ての吐出孔が、それぞれ単独に導入孔を有している口金を用いることを特徴とする前記(1)記載の極細合成繊維の製造方法。
(3)0.1〜6.0モル%の5−スルホイソフタル酸金属塩と0.1〜5.0重量%の重量平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールを共重合したポリエステルからなるポリエステルフィラメント糸であって、かつ単糸繊度が0.9dtex以下のポリエステルフィラメント糸を製造する装置において、
(A)全部で70個以上の吐出孔を有し、
(B)吐出孔間隔Sが0.8mm以上3.5mm以下の3個以上の吐出孔からなる群をなし、
(C)該吐出孔群の間隔Hが5mm以上27mm以下である口金を使用し、
口金下の冷却風吹き出し装置が、
(a)ユニフロータイプの冷却装置であり、
(b)冷却風吹き出しの最上部と口金との距離Lが20mm以上80mm以下で、
(c)口金の吐出孔群内の吐出孔配列が、紡出糸条を冷却する冷却風の方向と同一方向には並ばないように設置されていることを特徴とする極細合成繊維の製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法により、一般的な紡糸設備を使用した場合でも高品質な極細カチオン可染糸を生産性よく製造する事が可能となる。これは従来技術では紡糸設備に大がかりな改造を施す事により達成できるレベルであり、本発明の製造方法はコストや少量多品種生産を前提とした生産設備運用の点から画期的な効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の製造方法は、0.1〜6.0モル%の5−スルホイソフタル酸金属塩と0.1〜5.0重量%の重量平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールを共重合したポリエステルからなるポリエステルフィラメント糸であって、かつ単糸繊度0.9dtex以下のポリエステルフィラメント糸を製糸する場合に好適に活用できる。
【0014】
本発明のポリエステルフィラメント糸について説明する。
【0015】
本発明のポリエステルフィラメント糸は0.1〜6モル%の5−スルホイソフタル酸金属塩と0.1〜5重量%の重合平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールを共重合していることが重要である。
【0016】
0.1〜6モル%の5−スルホイソフタル酸金属塩が0.1モル%以上であることでカチオン染料の染着量が大きくなり、発色性が向上する。一方、共重合量が大きくなりすぎるとポリマーの溶融粘度が大きく上昇するため、濾圧上昇や曳糸性の低下を伴う。このため、5−スルホイソフタル酸金属塩の共重合量は6モル%以下であることが重要である。更には0.5〜2モル%であることが好ましい。
【0017】
なお、本発明で規定する5−スルホイソフタル酸金属塩の金属塩とはナトリウム塩やリチウム塩等が挙げられるが、中でもナトリウム塩が好ましい。
【0018】
また、同時に重量平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールの共重合量が0.1重量%以上であることでカチオン染料の染着量が大きくなるため、発色性が向上すると同時に5−スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果を抑制する。一方、共重合量が大きすぎるとポリマーの耐熱性低下やそれに伴った繊維の強伸度の低下、色調の悪化が発生するため、5重量%以下であることが重要である。好ましくは0.5〜4重量%であり、中でも1〜2重量%がより好ましい。
【0019】
なお、ポリエチレングリコールの重量平均分子量が大きすぎると、共重合せずポリエステル中で塊を形成しやすく、小さすぎると染色性に劣るため、ポリエチレングリコールの重量平均分子量は2000〜4000が好ましい。
【0020】
その他に、アジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオキシ化合物、p−(β−オキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体等が共重合されていてもよい。
【0021】
また、これらのポリマに艶消し剤として酸化チタンなどを含有したものであってもよい。
【0022】
単糸繊度が細くなるほど吐出ポリマの固化点は口金面に近づき,糸条均斉性は悪化する方向になる。このため用途によっては満足する品質の原糸が得られないケースが想定され、このような問題を回避するためには単糸繊度0.2dtex以上の極細糸に本技術を適用するのが好ましい。
【0023】
反面、本発明の特徴である単糸繊度0.9dtex以下の合成繊維を製糸した場合の品質優位性が発揮されるのは1つの口金あたり70個以上の単糸が吐出される場合であり、69個以下では通常の吐出孔配列(図3参照)の口金と品質は変わらないものとなる。例えば、33dtex−72フィラメントのポリエチレンテレフタレート糸を1口金1糸条で製糸する際に、本発明の口金を適用する場合には、その品質優位性が発揮できるが、33dtex−72フィラメントのポリエチレンテレフタレート糸を1口金1糸条で製糸する場合は、通常の吐出孔配列の口金と品質面では大差ない結果になる。ただし、同じ33dtex−48フィラメントのポリエチレンテレフタレート糸でも1口金2糸条で製糸する場合には通常の吐出孔配列の口金に対して本発明の口金から製糸される繊維の品質優位性が発揮できる。他方、後述する吐出孔間隔と吐出孔群間隔を満足させるために吐出孔数は900個以下とすると好ましい。
【0024】
本発明において使用する口金は吐出孔間隔Sが0.8mm以上3.5mm以下である3個以上の吐出孔の集合体(以下吐出孔群と称する)をなしていることが重要である。
【0025】
ここにおいて、吐出孔間隔Sとは、それぞれの吐出孔から最も近い別の吐出孔までの距離をいう(図1(A)、図1(B)参照)。
【0026】
吐出孔間隔Sが0.8mm未満の場合、口金孔から吐出したポリマが冷却・固化される前に別の吐出孔から吐出したポリマと融着してしまい、安定した製糸が困難となる。また、吐出孔間隔Sが3.5mmを越えた場合は本口金の特徴である極細繊維を紡糸した場合の品質優位性が失われてしまうこととなる。吐出孔間隔Sは0.8mm以上3.5mm以下であれば本発明の条件を満たすが、吐出孔間隔Sは小さければ小さいほど一つの口金に穿孔できる吐出孔の数が増やすことが可能となる。
【0027】
他方、本発明においては1つの吐出孔群に含まれる吐出孔の数は3個以上であることが重要である。吐出孔群に含まれる吐出孔の数が2個以下の場合、本口金の特徴である極細繊維を紡糸した場合の品質優位性が失われてしまうことになる。なお、吐出孔群に含まれる吐出孔の数には上限はないが吐出孔間隔を0.8mm以上を維持するために吐出孔群に含まれる吐出孔の数は6個以下であると好ましい。
【0028】
また、口金吐出孔における異常滞留によるポリマ変性とそれによる糸切れを回避するために、各吐出孔はそれぞれ独立した導入孔を有していると好ましい。なお、導入孔と吐出孔の関係について図6に記した。図6(A)が「吐出孔がそれぞれ独立した導入孔を有する」例であり、図6(B)が「吐出孔が共通の導入孔を有する」例である。また、吐出孔群内の吐出孔は同心円状に等間隔に配列されていると吐出孔間隔を拡大できかつ各吐出孔から紡出されるポリマを均等に冷却できることから好ましい。
【0029】
これに加えて本発明において使用する口金は、前述した吐出孔群の間隔Hが5mm以上27mm以下であることが重要である。この吐出孔群の間隔Hとは1つの吐出孔群に属する吐出孔群と別の吐出孔群に属する吐出孔群との距離のうち、最短のものをいう(図2参照)。吐出孔群の間隔Hが5mm未満では本口金の特徴である極細繊維を紡糸した場合の品質優位性が失われてしまうことになる。また、27mmを超えた場合は、通常使用される径の円形口金に必要とする個数の吐出孔を穿つことが困難となる。ただし、吐出孔群の配列に関しては特に規定はなく、通常の吐出孔が配列されているように円周状の配列、格子状の配列などが採用できる。
【0030】
本発明にて使用する口金吐出孔の形状はあらゆる形状とすることが可能であるが、T型のような形状よりも口金直下で吐出糸条の屈曲がないY型孔、十字孔などの点対称の形状が好ましく、最も好ましいのは円形孔である。なお、円形孔の場合は、直径0.07mm以上0.15mm以下であると好ましい。一般的に極細糸を製糸する場合は吐出孔の径は小さいほど優位にあるが0.07mm未満の場合、吐出孔に詰まりが生じやすく、これを回避するために口金洗浄強化や組み立て工程のクリーン化といった対策が必要となる。また、吐出孔の長さは、直径の2.5倍から3.5倍の間にあるとポリマの計量性能が高く好ましい。
【0031】
さらに、本発明の口金は、吐出孔群内の吐出孔配列が、紡糸の際に使用される冷却風の方向と同一方向には並ばないように、紡糸機に取り付けた際に口金の向きを規定することが重要である。以下、「冷却風の方向と同一方向に吐出孔郡内の吐出孔が並んでいない状態」について図5に示した例により説明する。
【0032】
図5は本発明の吐出孔群内に含まれる吐出孔の配列例を示している。ここに冷却風の風向を矢印イの方向であるとすれば、風向方向イに対する垂線Xに対して吐出孔A、B、C、Dから上記風向方向イの平行線を引いて、上記垂線Xとの交点をA1、A2、B1、B2、C1、C2、D1、D2とした場合に、上記垂線X方向の吐出孔の直径(幅)に相当する線分A1−A2、B1−B2、C1−C2、D1−D2が互いに交わらないことを「冷却風の方向と同一方向に吐出孔郡内の吐出孔が並んでいない状態」という。
【0033】
本発明の溶融紡糸方法は一般的な紡糸設備であるユニフロータイプの冷却装置を有する紡糸機に適用したケースにおいて、極細糸を製糸した場合に従来の製糸方法に対して製糸された原糸の品質が優位にある点に特徴がある。このため、吐出孔群内の吐出孔配列と冷却風の方向との関係は一定の関係を維持していることが重要である。すなわち、冷却風の方向イと同一方向に吐出孔郡内の吐出孔が並んだ場合、吐出孔間隔Sが0.8mm以上であっても口金孔から吐出したポリマが冷却、固化される前に別の吐出孔から吐出したポリマと融着してしまい、安定した製糸が困難となる。これは吐出したポリマが冷却風の影響によりその風向に揺れてしまうためと考えられる。
【0034】
以上の要件を満足させるためには、口金を紡糸パックに取り付ける際に何らかの目印を口金に付与して組み立てる方法も採用できるが、口金に紡糸パックと嵌合するような位置決めピンや、切り欠きを入れることなどにより、紡糸機に設置される口金の方向を規定した場合の方が好ましい。
【0035】
また、極細繊維を製糸する上で、口金から冷却風吹き出し位置までの距離は重要な技術ポイントであり、本発明の目的のためには、冷却風吹き出しの最上部と口金との距離(図7参照)が20mm以上80mm以下であることが重要である。冷却風吹きしの最上部が口金から80mmを超えると極細繊維を溶融紡糸されたポリマの固化点が冷却風が当たるよりも前段階で発生してしまい、品質優位性が発揮しにくくなる。他方、20mm未満では冷却風の影響により口金面の温度が低下して製糸安定性において劣るものとなる。なお、紡糸機に設置された口金の温度を保つために口金下に補助加熱装置を設けると好ましい。
【0036】
一般にポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸する場合には、紡糸速度2000m/分以下の低紡糸速度で巻き取った未延伸糸を延伸してフラットヤーンとする2工程法や、紡糸速度3000m/分以上程度の紡糸速度で巻き取ったPOYを延伸仮撚して仮撚糸とする方法、さらには紡糸した糸を巻き取ることなく連続して延伸熱処理する方法などが採用されるが、本発明の口金はそれらいずれの工程にも適用できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の目標とする品質優位性や製糸の安定性を評価する尺度として次のような評価を実施した。
(1)糸条均斉性:品質優位性の評価尺度
巻き取られた糸条をツェルベガー・ウースター社製のウースター・テスターを用いて、ハーフイナートテストで太さ斑を測定し、次の2段階で評価した。
【0038】
○:ハーフイナート0.9未満
×:ハーフイナート0.9以上
(2)製糸性:製糸安定性の評価尺度
6ends×4pos(全24錘)の小型紡糸機(一方向から冷却するシステムを有する一般的な紡糸設備)を用いて1ホットローラ(セパレートローラ付きホットローラ:90℃、紡糸速度2500m/分、6回巻き)、2ホットローラ(セパレートローラ付きホットローラ:140℃、6回巻き)を介して巻き取り速度4500m/分で紡糸を行い、紡糸糸切れの発生状況を次ぎの3段階で評価した。
【0039】
○:糸切れ発生頻度が2回/t(紡糸量1tonあたり2回糸切れ)以下で安定に製糸可能。
【0040】
△:糸切れ発生頻度が2回/tを超えるレベルのもの
×:ワインダーに糸かけ直後に糸切れが発生するため実質的に製糸不可能。
【0041】
実施例1〜3,比較例1〜5
高純度テレフタル酸(三井化学(株)社製)82.5kgとエチレングリコール(日本触媒(株)社製)35.4kgのスラリーを予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約100kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、このエステル化反応生成物の101.5kgを重縮合槽に移送した。
【0042】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された前記重縮合反応槽に、シリコン(東芝シリコーン社製、TSF433)5gとリン酸5gを添加した。7分間撹拌した後、三酸化アンチモン40g、酢酸マンガン20g、酢酸リチウム30gからなるエチレングリコール溶液とペンタエリスリトールーテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(チバガイギー社製、イルガノックス1010)75gのエチレングリコールスラリーの混合物をエチレグンリコールで希釈して添加した。更に3分間撹拌した後、重量平均分子量4000のポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製)1kgを加熱溶解して添加した。更に5分間撹拌した後、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ヒドロキシエチルエステルのエチレングリコール溶液(竹本油脂(株)社製、ES−740)を、ポリマーに対する硫黄分量が0.3%となるようにゆっくり添加した。更に4分撹拌した後、酸化チタン粒子のエチレングリコールスラリーを、ポリマーに対して酸化チタン粒子換算で0.07重量%となるように添加し、その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージし常圧に戻し重縮合反応を停止し、冷水にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間であった。
【0043】
また、このポリエステルを乾燥後、6ends×4pos(全24錘)の小型紡糸機(口金下60mmから1000mmにわたるユニフロータイプの冷却装置と口金下に加熱リングを設置した紡糸設備)に供し、1ホットローラ(セパレートローラ付きホットローラ:90℃、ローラ速度2500m/分、6回巻き)、2ホットローラ(セパレートローラ付きホットローラ:140℃、6回巻き)により、一旦、2500m/分で紡糸した糸を連続して1−2ホットローラ間で延伸した上で、巻き取り速度4500m/分で製糸した。製糸の際にユニフロータイプの冷却装置から流れる冷却風の風速は30m/分とした。また使用した口金は表1に示した数種類のもの(但し吐出孔はいずれも孔数144、直径0.12mm、長さ0.35mm)であり、製糸後に56ex−144フィラメントのフラットヤーンになるように吐出量を調整した。得られた繊維の糸条均斉性や製糸安定性は表1のとおりである。そのうち本発明の口金は、位置決めピン用(紡糸パックと嵌合すべく設置)の穴3を設けており(図2参照)、紡糸機に設置された口金に対して矢印イの方向に冷却風が吹き込むよう紡糸パックがセットされた。また吐出孔群の配列は図2に準ずる円周状配列とした。
【0044】
実施例1〜3は、いずれも本発明の口金を適用した例であり、糸条均斉性、製糸性ともに良好であった。
【0045】
比較例1は、従来の吐出孔配列(図3)をした口金を適用した例であり、ウースターにより測定した糸条均斉性が劣悪であった。また紡糸糸切れも実施例に比べ多い傾向にあった。
【0046】
比較例2は、吐出孔配列は本発明のものであるが、吐出孔間隔が狭すぎて、紡糸の際に吐出したポリマの融着が発生しワインダー糸かけ直後に糸切れが発生した。但し、採取できた少量サンプルの糸条均斉性は良かった。
【0047】
比較例3は、口金は本発明のものであるが紡糸パック組み立て時に位置決めピンを使用せず、あえて吐出孔群内の吐出孔配列方向を冷却風の風向に合わせて紡糸機に設置した例である。糸条均斉性は良好なものの、紡糸糸切れが多発した。
【0048】
比較例4は、特開昭56−107005号公報に記載された中央部よりも外周部のほうが吐出孔の穿孔密度が大の吐出孔配列(図4)をした口金を採用した場合である。多フィラメント化にともない、できた糸には部分融着が見られ、また、糸条均斉性も実施例に比べ悪かった。
【0049】
比較例5は、特開平5−125609号公報に記載された二重正方格子配列の口金を採用した場合である。位置決めピンが設置されていないために、吐出孔群内の吐出孔配列と冷却風の風向は合っているものといないものが混在している。この場合は、糸条均斉性は良好なものの、明らかに錘傾向を持った紡糸糸切れが発生して実施例に比べて糸切れが多かった。
【0050】
比較例6
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ヒドロキシエチルエステルを3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩に変更した以外は比較例1と同様に実施した。耐熱性が悪いことによる紡糸糸切れが発生して実施例に比べて糸切れが多かった。
【0051】
比較例7
酸化チタンのエチレングリコールスラリー添加と同時に2.0重量%になるようにTg降下剤および0.3重量%になるようにシリカを添加した以外は比較例1と同様に実施した。異物に起因した紡糸糸切れが発生して実施例に比べて糸切れが多かった。
【0052】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明で使用する吐出孔群内の吐出孔配列の一例を示す口金吐出孔の配置図
【図2】本発明で使用する吐出孔群の配列の一例を示す口金吐出孔の配置図
【図3】従来の吐出孔の配列の例を示す口金吐出孔の配置図
【図4】従来の吐出孔の配列の例を示す口金吐出孔の配置図
【図5】本発明における吐出孔群内の吐出孔配列と紡糸機に設置した場合の冷却風の方向との関係を示す説明図
【図6】本発明における吐出孔と導入孔を示す断面図
【図7】本発明で適用される紡糸機の略図
【符号の説明】
【0054】
1:吐出孔
2:吐出孔群
3:位置決めピン用穴
6:導入孔
8:ポリマー流路
9:口金
10:パック
11:スピンブロック
12:加熱リング
13:保温材
14:冷却装置(ユニフロータイプ)
15:糸条
イ:冷却風の風向き方向
H:吐出孔群の間隔
S:吐出孔間隔
L:冷却風吹き出しの最上部と口金との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜6.0モル%の5−スルホイソフタル酸金属塩と0.1〜5.0重量%の重量平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールを共重合したポリエステルからなるポリエステルフィラメント糸であって、かつ単糸繊度が0.9dtex以下のポリエステルフィラメント糸を製造するに際して、
(A)全部で70個以上の吐出孔を有し、
(B)吐出孔間隔Sが0.8mm以上3.5mm以下の3個以上の吐出孔からなる群をなし、
(C)該吐出孔群の間隔Hが5mm以上27mm以下である口金を使用し、
口金下の冷却風吹き出し装置が、
(a)ユニフロータイプの冷却装置であり、
(b)冷却風吹き出しの最上部と口金との距離Lが20mm以上80mm以下で、
(c)口金の吐出孔群内の吐出孔配列が、紡出糸条を冷却する冷却風の方向と同一方向に並ばないように設置されていることを特徴とする極細合成繊維の製造方法。
【請求項2】
全ての吐出孔が、それぞれ単独に導入孔を有している口金を用いることを特徴とする請求項1記載の極細合成繊維の製造方法。
【請求項3】
0.1〜6.0モル%の5−スルホイソフタル酸金属塩と0.1〜5.0重量%の重量平均分子量200〜6000のポリエチレングリコールを共重合したポリエステルからなるポリエステルフィラメント糸であって、かつ単糸繊度が0.9dtex以下のポリエステルフィラメント糸を製造する装置において、
(A)全部で70個以上の吐出孔を有し、
(B)吐出孔間隔Sが0.8mm以上3.5mm以下の3個以上の吐出孔からなる群をなし、
(C)該吐出孔群の間隔Hが5mm以上27mm以下である口金を使用し、
口金下の冷却風吹き出し装置が、
(a)ユニフロータイプの冷却装置であり、
(b)冷却風吹き出しの最上部と口金との距離Lが20mm以上80mm以下で、
(c)口金の吐出孔群内の吐出孔配列が、紡出糸条を冷却する冷却風の方向と同一方向には並ばないように設置されていることを特徴とする極細合成繊維の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−84977(P2007−84977A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277580(P2005−277580)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】