説明

構造体および構造体の連結部材

【課題】生産性の大幅な向上を可能とした構造体および連結部材を提供する。
【解決手段】構造体1は、一方の構成部材6の外表面に倣った形状の会合部11Aを有し、一方の構成部材6の軸方向に沿って移動自在に当接するとともに、溶接により一方の構成部材6と接合される一方側接続端部11と、他方の構成部材4と一方の構成部材6の軸方向と交差する方向に沿って相対移動自在に嵌合する係合部12Aを有し、溶接により他方の構成部材4と接合される他方側接続端部12とを備えて成る連結部材10を介して、一方の構成部材と他方の構成部材4とを互いに接合して成ることを特徴とする。また、連結部材10は、溶接により一方の構成部材6と接合される一方側接続端部11と、他方の構成部材と一方の構成部材の軸方向と交差する方向に沿って相対移動自在に嵌合する係合部12Aを有し、溶接により他方の構成部材4と接合される他方側接続端部12とを備えて成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の構成部材と他方の構成部材とを、連結部材を介して溶接により接合して成る構造体に関し、さらに本発明は、上記構造体の連結部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に示した従来の油圧ショベルAは、クローラ形式の走行機構を有する下部走行体Bと、該下部走行体Bに搭載支持された上部旋回体Cとを備え、この上部旋回体Cには、作業機Dとともに運転室Eが設置されている。
【0003】
ここで、建設機械や農業機械等の産業車両における運転室は、フレーム構造体(構造体)を骨格としており、このフレーム構造体は、通常、異形鋼管等の構成部材を互いに接合することによって構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図6に示す如く、上記運転室Eのフレーム構造体Hは、ベースIに立設された左前方ピラーLFと左後方ピラーLBとを左ルーフピラーLTで連結するとともに、ベースIに立設された右前方ピラーRFと右後方ピラーRBとを右ルーフピラーRTで連結しており、これら左右のフレームにおける上部同士を、左右に延びる前方ルーフビームMと後方ルーフビームNで接合している。
【0005】
また、左前方ピラーLFと左ルーフピラーLT、および左ルーフピラーLTと左後方ピラーLBとは、夫々ジョイントLJを介して接合されており、右前方ピラーRFと右ルーフピラーRT、および右ルーフピラーRTと右後方ピラーRBとは、夫々ジョイントRJを介して接合されている。
【0006】
ここで、左後方ピラーLBと左ルーフピラーLTとを接合するジョイントLJは、エルボLJeの下方に設けたプラグLJbを左後方ピラーLBに嵌合し、該左後方ピラーLBとエルボLJeとを溶接によって接合するとともに、エルボLJeの前方に設けたプラグLJtを左ルーフピラーLTに嵌合し、該左ルーフピラーLTとエルボLJeとを溶接によって接合することで、上記左後方ピラーLBと左ルーフピラーLTとを接合するものである。因みに、他の3箇所におけるジョイントも、上述したジョイントLJと同様の構成であることは言うまでもない。
【特許文献1】特開2000−198468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した如くピラー(構成部材)同士の接合にジョイントを用いた従来のフレーム構造体Hでは、全てのピラーおよびジョイントを仮組みした状態において、例えばジョイントLJを介して組付けられた左後方ピラーLBと左ルーフピラーLTとの間には、互いの位置関係を調整し得る自由度がないために、各ピラーおよびジョイントの形状(寸法)に僅かでも誤差があった場合には、仮組みされたフレーム構造体の各部に無理な負荷が生じることとなり、溶接して完成したフレーム構造体Hの外形が歪んでしまう虞れがある。
【0008】
このため、ピラー(構成部材)同士の接合にジョイントを用いた従来のフレーム構造体Hでは、各ピラーLF、LT、LB、RF、RT、RBおよび各ジョイントLJ、RJに対して、極めて高い形状精度(寸法精度)が要求されることとなり、もって製造に関わるコストの増大や工程の煩雑化により生産性の低下を招く問題があった。
【0009】
本発明の目的は上記実状に鑑みて、生産性の大幅な向上を達成することの可能な、構造体および構造体の連結部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するべく、請求項1に関わる構造体は、一方の構成部材と他方の構成部材とを、連結部材を介して溶接により接合して成る構造体において、一方の構成部材の外表面に倣った形状の会合部を有し、一方の構成部材の軸方向に沿って移動自在に当接するとともに、溶接により一方の構成部材と接合される一方側接続端部と、他方の構成部材と一方の構成部材の軸方向と交差する方向に沿って相対移動自在に嵌合する係合部を有し、溶接により他方の構成部材と接合される他方側接続端部とを備えて成る連結部材を介して、一方の構成部材と他方の構成部材とを互いに接合して成ることを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明に関わる構造体は、請求項1の発明に関わる構造体において、上記構造体が作業車輌の運転室を構成するフレーム構造体であることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明に関わる構造体の連結部材は、一方の構成部材と他方の構成部材とを、連結部材を介して溶接により接合して成る構造体の連結部材において、一方の構成部材の外表面に倣った形状の会合部を有し、一方の構成部材の軸方向に沿って移動自在に当接するとともに、溶接により一方の構成部材と接合される一方側接続端部と、他方の構成部材と一方の構成部材の軸方向と交差する方向に沿って相対移動自在に嵌合する係合部を有し、溶接により他方の構成部材と接合される他方側接続端部とを備えて成ることを特徴としている。
【0013】
請求項4の発明に関わる構造体は、請求項3の発明に関わる構造体において、上記構造体が作業車輌の運転室を構成するフレーム構造体であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に関わる構造体によれば、連結部材を介して一方の構成部材と他方の構成部材とを仮組した際、上記他方の構成部材は一方の構成部材における軸方向と、一方の構成部材に近接離反する方向とに移動でき、一方の構成部材と他方の構成部材との間において、互いの位置関係を調整することが可能となるので、各構成部材の形状(寸法)に僅かな誤差があった場合でも、仮組みした状態の構造体に無理な負荷が生じることが未然に防止されるため、各構成部材に対して極めて高い形状精度(寸法精度)を要求することなく、各構成部品を溶接して接合することで歪みのない所定形状の構造体を得ることができ、もって生産性の大幅な向上を達成することが可能となる。
【0015】
請求項2の発明に関わる構造体によれば、作業車輌の運転室を構成するフレーム構造体の生産性を大幅に向上させることができる。
【0016】
請求項3の発明に関わる構造体の連結部材によれば、この連結部材を介して一方の構成部材と他方の構成部材とを仮組した際、上記他方の構成部材は一方の構成部材における軸方向と、一方の構成部材に近接離反する方向とに移動でき、一方の構成部材と他方の構成部材との間において、互いの位置関係を調整することが可能となるので、各構成部材の形状(寸法)に僅かな誤差があった場合でも、仮組みした状態の構造体に無理な負荷が生じることが未然に防止されるため、各構成部材に対して極めて高い形状精度(寸法精度)が要求することなく、各構成部品を溶接して接合することで歪みのない所定形状の構造体を得ることができ、もって生産性の大幅な向上を達成することが可能となる。
【0017】
請求項4の発明に関わる構造体の構成によれば、作業車輌の運転室を構成するフレーム構造体の生産性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、実施例を示す図面に基づいて、本発明を詳細に説明する。
図1は、油圧ショベル(作業車輌)の運転室を構成するフレーム構造体に、本発明を適用した実施例を示しており、このフレーム構造体(構造体)1における外面の所定箇所に、所要の外装パネルを取付けることで運転席が構成される。なお、油圧ショベルの全体構成は、図5に示した一般的な油圧ショベルAと変わるところはない。
【0019】
上記フレーム構造体1は、ベースフレーム2、左前方ピラー3Lと左ルーフピラー4Lとを一体成形した左サイドフレーム5L、右前方ピラー3Rと右ルーフピラー4Rとを一体成形した右サイドフレーム5R、左後方ピラー6Lおよび右後方ピラー6R等を構成部材としている。
【0020】
そして、上記フレーム構造体1は、ベースフレーム2に立設した左サイドフレーム5Lと左後方ピラー6Lの上部とを接合するとともに、ベースフレーム11に立設した右サイドフレーム5Rと右後方ピラー6Rの上部とを接合し、左サイドフレーム5Lと右サイドフレーム5Rとを、前方ルーフビーム7Fおよび中間ルーフビーム7Mによって連結するとともに、上記左後方ピラー6Lと右後方ピラー6Rとを、上部リヤビーム8T、中間リヤビーム8Mおよび下部リヤビーム8Bによって連結することで構成されている。
【0021】
また、上記フレーム構造体1では、左後方ピラー6L(一方の構成部材)の上部と、左サイドフレーム5Lの左ルーフピラー4L(他方の構成部材)とを、左方の連結部材10Lを介して接合するとともに、右後方ピラー6R(一方の構成部材)の上部と、右サイドフレーム5Rの右ルーフピラー4R(他方の構成部材)とを、左方の連結部材10Rを介して接合している。
【0022】
なお、左方の連結部材10Lと右方の連結部材10Rとは、フレーム構造体1の左右中心面を挟んで鏡面対称の関係にあり、その基本的な構成は互いに相違するものではないので、以下では左方の連結部材10Lにおける構成と、該連結部材10Lによる左後方ピラー6Lと左ルーフピラー4Lとの接合の態様を説明する。
【0023】
図2〜図4に示す如く、上記連結部材10Lは、金属板(鉄板)をプレス加工(板金加工)することで製造された部材であり、溶接によって左後方ピラー6Lに接合される一方側接続端部11と、同じく溶接によって左ルーフピラー4Lに接合される他方側接続端部12とを有している。なお、金属板をプレス加工したものではなく、鋳鉄あるいは鋳鋼の鋳物によって上記連結部材10Lを製造することも可能である。また、図2〜図4においては、矢印Fがフレーム構造体1の前方を指している。
【0024】
上記連結部材10Lにおける一方側接続端部11は、角鋼管から成る左後方ピラー6Lの外表面、詳しくは左後方ピラー6Lの前方面6Lfと外方面6Loとを含んだコーナー部に倣った形状の会合部11Aを備えており、さらに該会合部11Aには、左後方ピラー6Lの前方面6Lfに臨む当接面11aと、左後方ピラー6Lの外方面6Loに臨む当接面11bとが形成されている。
【0025】
また、上記連結部材10Lにおける他方側接続端部12は、異形鋼管から成る左ルーフピラー4Lの中空部分に嵌入される係合部12Aを備えており、この係合部12Aは、上記左ルーフピラー4Lの中空部分と合致する断面形状に形成されている。
【0026】
いま、フレーム構造体1における全ての構成部材を仮組みする際には、左後方ピラー6Lにおける所定部位の外表面に、上記連結部材10Lにおける一方側接続端部11の会合部11Aを当接させるとともに、左ルーフピラー4Lにおける後方側の端部に、上記連結部材10Lにおける他方側接続端部12の係合部12Aを嵌合させる。
【0027】
この状態において、一方側接続端部11の会合部11Aを左後方ピラー6Lの外表面に当接させている連結部材10Lは、図4(b)中の矢印vで示す如く、上記左後方ピラー6Lの軸方向(上下方向)に沿って自在に移動し得るため、連結部材10Lに嵌合している左ルーフピラー4Lと上記左後方ピラー6Lとは、該左後方ピラー6Lの軸方向における互いの位置関係を調整することができる。
【0028】
また、この状態において、他方側接続端部12の係合部12Aに嵌合している左ルーフピラー4Lは、図4(a)中の矢印hで示す如く、自身の軸方向(前後方向)、言い換えれば連結部材10Lが当接している左後方ピラー6Lの軸方向と交差する方向に沿って自在に移動し得るため、上記左後方ピラー6Lに対して近接離反する方向における位置関係を調整することができる。
【0029】
このため、フレーム構造体1における構成部材の形状(寸法)に僅かな誤差があった場合でも、上述した如く連結部材を介して構成部材同士の位置関係を調整することで、仮組みした状態のフレーム構造体1に無理な負荷が生じることを未然に防止できる。
【0030】
かくして、各構成部材に極めて高い形状精度(寸法精度)を要求することなく、各構成部品を溶接して接合することで歪みのない所定形状のフレーム構造体1が製造でき、もって生産性の大幅な向上を達成することが可能となる。
【0031】
一方、フレーム構造体1における構成部材を仮組みし、各構成部材の互いの位置関係を調整したのち、上述した左後方ピラー6Lと左ルーフピラー4Lとは、連結部材10Lの一方側接続端部11を左後方ピラー6Lの外表面に溶接するとともに、左ルーフピラー4Lの小口を連結部材10Lの他方側接続端部12に溶接することで、一体に接合されることとなる。
【0032】
ここで、連結部材10Lにおける一方側接続端部11の会合部11Aは、左後方ピラー6Lのコーナー部に掛かっているため、左後方ピラー6Lに対する溶接面積(溶接線の長さ)が大きなものとなり、連結部材10Lと左後方ピラー6Lとの溶接強度が向上することとなる。
【0033】
また、連結部材10Lにおける他方側接続端部12の係合部12Aは、左ルーフピラー4Lに嵌入しているため、左ルーフピラー4Lの小口の全周に亘る溶接面積(溶接線の長さ)が大きなものとなり、連結部材10Lと左ルーフピラー4Lとの溶接強度が向上することとなる。
【0034】
さらに、連結部材10Lの一方側接続端部11における会合部11Aは、その当接面11aが左後方ピラー6Lの前方面6Lfに対向しており、また当接面11bが左後方ピラー6Lの外方面6Loに対向しているため、図2(b)中に矢印Wbで示す後方からの外力や、矢印Wlで示す側方(左方)からの外力は、左後方ピラー6Lと左ルーフピラー4Lとによって相互に受け止められ、もってフレーム構造体1の強度が大幅に向上することとなる。
【0035】
また、上述した如くフレーム構造体1を製造することにより、フレーム構造体1の全ての構成部材を仮組みしてセットする工程と、セットした構成部材を溶接により接合する工程とを完全に分離でき、もって各工程を集約し得ることから生産性の大幅な向上を図ることが可能である。
【0036】
なお、上述した実施例においては、油圧ショベルの運転室を構成するフレーム構造体に本発明を適用しているが、上記油圧ショベル以外の様々な産業車輌における運転室のフレーム構造体にも、本発明を有効に適用し得ることは勿論であり、さらに、運転室のフレーム構造体以外の様々な構造体においても、本発明を有効に適用し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を産業車輌における運転室のフレーム構造体に適用した実施例を示す全体外観斜視図。
【図2】(a)および(b)は、図1に示したフレーム構造体の要部側面図および要部平面図。
【図3】図1に示したフレーム構造体および連結部材を示す分解斜視図。
【図4】(a)および(b)は、図1に示したフレーム構造体における連結部材の全体平面図および全体側面図。
【図5】一般的な産業車輌を示す概念的な全体側面図。
【図6】従来の産業車輌における運転室のフレーム構造体を示す外観斜視図。
【図7】図6に示したフレーム構造体およびジョイントを示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0038】
1…フレーム構造体(構造体)、
6L…左後方ピラー(一方の構成部材)、
6R…右後方ピラー(一方の構成部材)、
4L…左ルーフピラー(他方の構成部材)、
4R…右ルーフピラー(他方の構成部材)、
10L,10R…連結部材、
11…一方側接続端部、
11A…会合部、
12…他方側接続端部、
12A…係合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の構成部材と他方の構成部材とを、連結部材を介して溶接により接合して成る構造体において、
前記一方の構成部材の外表面に倣った形状の会合部を有し、前記一方の構成部材の軸方向に沿って移動自在に当接するとともに、溶接により前記一方の構成部材と接合される一方側接続端部と、前記他方の構成部材と前記一方の構成部材の軸方向と交差する方向に沿って相対移動自在に嵌合する係合部を有し、溶接により前記他方の構成部材と接合される他方側接続端部とを備えて成る連結部材を介して、前記一方の構成部材と前記他方の構成部材とを互いに接合して成ることを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記構造体が、作業車輌の運転室を構成するフレーム構造体であることを特徴とする請求項1記載の構造体。
【請求項3】
一方の構成部材と他方の構成部材とを、連結部材を介して溶接により接合して成る構造体の連結部材において、
前記一方の構成部材の外表面に倣った形状の会合部を有し、前記一方の構成部材の軸方向に沿って移動自在に当接するとともに、溶接により前記一方の構成部材と接合される一方側接続端部と、
前記他方の構成部材と前記一方の構成部材の軸方向と交差する方向に沿って相対移動自在に嵌合する係合部を有し、溶接により前記他方の構成部材と接合される他方側接続端部と、
を備えて成ることを特徴とする構造体の連結部材。
【請求項4】
前記構造体が、作業車輌の運転室を構成するフレーム構造体であることを特徴とする請求項3記載の構造体の連結部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−321372(P2006−321372A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146610(P2005−146610)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】