説明

構造体の製造方法

【課題】置換めっき法を用いて、低コストで容易且つ大面積に柱状構造体を形成することができる構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質層13の孔14内へめっき物を充填する工程を有する構造体の製造方法であって、基板上1に、めっき物よりも電気化学的に貴な下地膜12を介して多孔質層を有する部材を用意する工程、置換めっき法により、該多孔質層の孔内へめっき物を充填する工程を有する構造体の製造方法。前記めっき物が、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cu、Ag、Rh、Pd、Pt、Auから選ばれる少なくとも1種類以上を含むこと特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっきによる構造体の製造方法及び機能デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半導体はある特定の長さより小さくなると特異的な性質を示すことがあることから、近年ナノスケールの構造を有する材料が機能性材料として関心が高まっており、例えば量子細線や量子ドットなどが盛んに研究されている。こうしたナノ構造体の作製方法としては、フォトリソグラフィーをはじめ、電子線露光、X線露光などの微細パターン形成技術をはじめとする半導体加工技術によって直接的に構造体を作製する方法が挙げられる。
【0003】
しかし前記の技術では、これらの半導体プロセスにより数10nm以下の極めて微細な構造を大面積に簡易に形成することは、歩留まりやスループットの悪さから現実的な手法ではないと考えられている。
【0004】
そのため、前記ナノ構造体の作製方法のほかに、自己規則的に形成される構造を用いる方法が注目されている。これらの手法は、従来の方法を上まわる微細で特殊な構造を作製できる可能性があり、多くの研究が行われている。このような自己規則的な手法でナノサイズの細孔を有するナノ構造体を制御よく大面積に形成できる代表的手法としては陽極酸化があり、例えばアルミニウムを酸性浴中で陽極酸化することで作製する陽極酸化アルミナが知られている。細孔に金属を充填する方法として電気化学的手法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
これらのような微細な細孔中に、金属などを充填させることで、磁気記録媒体、磁気センサ、EL発光素子、エレクトロクロミック素子、光学素子、太陽電池、ガスセンサなどへの応用が期待されている。
【特許文献1】特開平02−254192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
めっきにより細孔内に金属や半導体を充填するときに、電気めっきでは電気的導通のためのコンタクト部を基板表面に作製して通電する必要である。また、無電解ではめっき物中の不純物量が多くなるうえ、析出可能な金属種類が限定される。
【0007】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、電気めっきにおける様な電気的導通のためのコンタクト部が不要で、無電解めっきで析出困難なめっき物でも、置換めっき法を用いて容易に細孔内に充填することができる構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、多孔質層の孔内へめっき物を充填する工程を有する構造体の製造方法であって、基板上に、めっき物よりも電気化学的に貴な下地膜を介して多孔質層を有する部材を用意する工程、置換めっき法により、該多孔質層の孔内へめっき物を充填する工程を有することを特徴とする構造体の製造方法である。
【0009】
また、本発明の構造体の製造方法は、下地膜を有する基板表面にアルミニウムを主材料とする柱状部材と、SiまたはGeを主材料とした該柱状部材を取り囲む領域を含むAl(Si,Ge)混合薄膜を形成する工程、めっき物より電気化学的に卑な金属を基板表面もしくはAl(Si,Ge)混合薄膜表面に形成する工程、Al(Si,Ge)混合薄膜から該アルミニウム柱状部材の少なくとも一部を除去して細孔を形成する工程、該細孔が形成された基板をめっき浴に浸漬し、該めっき物より卑な金属の少なくとも一部を溶解することにより、該細孔底部よりめっきを行いめっき物を充填する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の構造体の製造方法は、下地膜を有する基板表面にアルミニウムを主材料とした柱状部材と、SiまたはGeを主材料とした該柱状部材を取り囲む領域を含むAl(Si,Ge)混合薄膜を形成する工程、Al(Si,Ge)混合薄膜から該アルミニウム柱状部材の少なくとも一部を除去して細孔を形成する工程、該細孔を表面に形成した基板をめっき浴に浸漬し、該基板の少なくとも一部を溶解することにより、該細孔底部よりめっきを行いめっき物を充填する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
前記下地膜が前記めっき物よりも電気化学的に貴な金属であることが好ましい。
前記めっき物が、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cu、Ag、Rh、Pd、Pt、Auから選ばれる少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
【0012】
前記めっき物よりも卑な金属が、Al、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
前記細孔にめっき物を充填した柱状構造体の平均直径が1nm以上15nm以下であり、中心間距離が5nm以上20nm以下であり、高さが1nm以上1μm以下であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明は、上記の構造体の製造方法よって作製され、めっき物が磁性材料であることを特徴とする機能デバイスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下地膜を形成した基板表面の細孔中に、置換めっき法を用いて、細孔底部よりめっき物を容易に形成することができる構造体の製造方法を提供することができる。
【0015】
また、本発明により低コストで容易且つ大面積に柱状構造体を形成することができる構造体の製造方法を提供することができる。
また、本発明により製造した構造体を用いることで磁気記録デバイスおよび機能性デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
<本発明の方法により製造された構造体の構成>
本発明の方法により製造された構造体の構成を図1および図2により説明する。図1は本発明の方法により製造された構造体の細孔を示す概略図である。図2は本発明の方法により製造された構造体の構成の一例を示す概略図である。
【0017】
図1において、11は基板、12は下地膜、15はめっき物より電気化学的に卑な金属であり、基板11、下地膜12、めっき物より電気化学的に卑な金属15はめっき物を含むめっき溶液中で電気的に導通している。下地膜表面にはマトリックス13中に細孔14が形成されている。細孔14は基板11および下地膜12に対して垂直にマトリックス13中に形成されていることが好ましい。
【0018】
図1で示した下地膜付き基板表面に細孔を形成した基板を、めっき物を含むめっき液に浸漬すると、めっき物よりも電気化学的に卑な金属が溶解することにより、導通している下地膜の上の細孔底部からめっき反応が進行する。このめっき反応により図2に示した柱状構造体16が形成される。また前記柱状構造体16の高さは特に限定されるものではないが、マトリックス13の厚さ以下であれば1nm〜100μmの範囲で適用できる。なお、構造体は前記構成に限定されるものではなく、基板表面に形成された細孔にめっき物が充填されていれば、どのような構成でも良い。
【0019】
前記細孔14の作製方法としては、陽極酸化やブロックポリマーを用いる方法などがある。以下ではAl(Si、Ge)混合薄膜を用いた方法について説明するが、これに限定されるわけではなく、細孔底部で下地層が露出していればどのような作製方法でも良い。
【0020】
<Al(Si、Ge)混合薄膜について>
図3に前記Al(Si、Ge)混合薄膜24の概略図を示す。Al(Si、Ge)混合薄膜24とは、Si及びGeから成る材料中にAlを成分にした多数の柱状部材21が基板23に対して垂直方向に形成する構造体を有する薄膜である。
【0021】
前記Al(Si、Ge)混合薄膜は、Alを主成分とする柱状部材21が、SiとGeを主成分として構成される領域、つまりマトリックス22に取り囲まれている。その混合薄膜の全量に対するSiとGeの合計量の割合が20at%以上70at%以下、好ましくは25at%以上65at%以下、より好ましくは30at%以上60at%以下の割合で含まれている。且つシリコンとゲルマニウムの組成比をSix Ge1-x (0≦x≦1)とすることを特徴とする。なお、Si+Geの割合が上記の範囲内であればマトリックス22内に柱状部材21が高密度に分散したAl(Si、Ge)混合薄膜24が形成される。
【0022】
上記のAlとSiの割合を示すat%とは、Si原子数とAl原子数の割合を示し、atom%あるいはat%とも記載され、例えば誘導結合型プラズマ発光分析法(ICP法)で(Al,Si)混合薄膜24中のSiとAlの量を定量分析したときの値である。wt%を単位として用いる場合には、例えば、20atomic%以上70atomic%以下とは、20.65wt%以上70.84wt%以下となる(Alの原子量を26.982、Siの原子量を28.086として換算している)。なお、SiとAlとGeの全量に対するSiとGeの総量の割合とは、モル比で[(Si+Ge)/(Si+Ge+Al)]×100で表される値である。つまり、Si+Ge+Alを100atomic%としたときに、その中のSi+Geの割合である。
【0023】
なお、実質的に柱状形状が形成されていればよく、例えば柱状部材21に部材の成分としてSiが含まれていてもよいし、前記柱状部材21以外の領域つまりマトリックス22にAlが含まれていてもよい。また、前記柱状部材21やその周囲の領域に酸素、アルゴン、窒素、水素などが含まれていてもよい。
【0024】
また、AlをA材料、Si、Ge、SiGeをB材料として、A、B材料の両方の成分系相平衡図において、共晶点を有する材料(いわゆる共晶系の材料)であることを特徴とする。特に共晶点が300℃以上好ましくは400℃以上であるのがよい。なお、A材料とB材料との好ましい組み合わせとしては、A材料としてAlを用い、B材料としてSiを用いる形態、A材料としてAlを用い、B材料としてGeを用いる形態、あるいはA材料としてAlを用い、B材料としてSiy Ge1-y (0<y<1)を用いるのが好ましい。また、前記柱状部材21を囲むマトリックス22は、非晶質、あるいは微(多)結晶であることが望ましい。但し、前記マトリックス22が非晶質である方が絶縁性という観点からは好ましい。また、前記柱状部材21の平面形状としては円形あるいは楕円形状である。
【0025】
柱状部材21の径(平面形状が円の場合は直径)は、主として前記Al(Si、Ge)混合薄膜24の組成(即ち、前記B材料の割合)に応じて制御可能であるが、その平均直径は、20nm以下、好ましくは1nm以上15nm以下である。なお、楕円等の場合は、最も長い外径部の範囲内であればよい。平均直径の下限としては1nm以上、あるいは数nm以上であることが実用的な下限値である。
【0026】
また、複数の柱状部材21間の中心間距離2Rは30nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下である。
前記Al(Si、Ge)混合薄膜24は、膜状の構造体であることが好ましく、前記マトリックス22中に前記柱状部材21は基板23に対して垂直になるように分散していることが好ましい。Al(Si、Ge)混合薄膜24の膜厚としては、特に限定されるものではないが、1nm〜100μmの範囲で適用できる。プロセス時間等を考慮して、現実的な膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0027】
以下、本発明における構造体の製造方法についてAlSi混合薄膜を使用した場合について詳細に説明する。
<本発明における構造体の製造方法について>
以下、本発明における構造体の製造方法についてAlSi混合薄膜を使用した場合について詳細に説明する。
【0028】
図4は、本発明の構造体の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
本発明では置換めっきにより細孔内にめっきを行ことで柱状構造を作製する。一般にめっき法としては、外部から供給した電子により還元反応を起こす電気めっき法、めっき浴中に含まれる還元剤により還元反応を起こす無電解めっき、金属の溶解による電子放出により還元反応を起こす置換めっきがある。置換めっきは次式に従って反応は進行する。
【0029】
【化1】

【0030】
1 は溶解することで電子を放出する金属であり、M2 は電子の授受により析出する金属である。M2a+ イオンを含むめっき液に、金属M2 よりも電気化学的に卑な金属M1 を浸漬することで、M1 がイオン化して溶解しM2 がM1表面に析出する。ただし金属M1 表面に本反応でめっき物M2 を形成する場合、金属M1 表面全体にM2 めっき膜が析出して金属M1 材料が溶出しなくなるとめっき反応は進行しなくなる。このため膜厚を厚くするのが困難である。そこで金属M1 よりも電気化学的に卑な金属M3 を準備し、前記めっき液中で金属M3 を金属M1 に電気的に接続して局部電池を形成する。これによりめっき液中で電気化学的に卑な金属M3 が溶解するが、金属M1 の溶解量は金属M3 と比較して著しく少なくなる。このため金属M1 表面にめっき膜が連続的に形成される。
【0031】
本発明における製造方法は、下記の(a)工程〜(f)工程を有することを特徴とする。
(a)工程:下地形成
基板31上に導電性材料により下地膜32を形成する。下地膜32は、めっき液中に溶解する金属(M3 )よりも電気化学的に貴な金属(M1 )により形成される。また、下地膜32(M1 )はめっき液に対して溶解しにくいように、めっき物(M2 )よりも貴な金属(M1 )であることが好ましい。
【0032】
例えば、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Auの25℃における標準電極電位は
Al=Al3++3e- −1.662 V vs. NHE
Fe=Fe2++2e- −0.440 V vs. NHE
Co=Co2++2e- −0.277 V vs. NHE
Ni=Ni2++2e- −0.250 V vs. NHE
Cu=Cu2++2e- +0.337 V vs. NHE
Au=Au3++3e- +1.498 V vs. NHE
となる。
【0033】
本発明において、電気化学的に貴な金属とは、標準電極電位が相対的に大きな金属であり、より析出しやすいことを表す。電気化学的に卑な金属とは、標準電極電位が相対的に小さな金属であり、より析出しにくいことを表す。
【0034】
Alをめっき液中に溶解することでめっきを行うときには、下地膜32としてAlよりも酸化還元電位の大きいFe、Co、Ni、Cu、Auなどを用いることができる。ただし貴な金属であるAuを用いることが好ましい。下地膜は多層化しても、前記金属が表層に形成されていれば良い。また、合金でも良い。下地膜の形成方法として、蒸着法、スパッタリング法、めっき法などが挙げられるが、上記の金属が形成できればどのような方法でも良い。
【0035】
(b)工程:AlSi混合薄膜の作製
次に、AlとSiを非平衡状態で物質を形成する成膜法を用いて、(a)工程で作製した基板上にAlSi混合薄膜35を形成する。ここでは、非平衡状態で物質を形成する成膜法として、スパッタリング法を用いた例を説明する。
【0036】
基板上に、非平衡状態で物質を形成する成膜法であるマグネトロンスパッタリング法により、AlSi混合薄膜35を形成する。AlSi混合薄膜35は、Alを主成分とする柱状部材33と、その周囲のSiを主成分とするマトリックス34から構成される。
【0037】
図6に示すように、基板51上に、非平衡状態で物質を形成する成膜法であるマグネトロンスパッタリング法により、AlSi混合薄膜を形成する。
原料のSi及びAlは、図6に示すようにAlのターゲット54上にSiチップ53を配することで達成される。また、Siチップ53は複数に分けて配置しているが、勿論これに限定されるものではなく、所望の成膜が可能であれば、1つであってもよい。但し、均一なAlを含む柱状部材33をマトリックス34領域内に均一に分散させるには、Alターゲット54上にSiチップ53を対称に配置しておくのがよい。また、所定量のAlとSiとの粉末を焼成して作製したAlSi焼成物を成膜のターゲット材として用いることもできる。また、AlターゲットとSiターゲットを別々に用意し、同時に両方のターゲットをスパッタリングする方法を用いてもよい。
【0038】
また、基体51の温度としては、300℃以下であり、好ましくは200℃以下であるのがよい。AlSi混合薄膜35のSiの量は、例えばAlターゲット54上に置くSiチップ53の量を変えることで制御できる。また、非平衡状態で成膜を行う場合、特にスパッタリング法の場合は、Arガスを流したときの反応装置内の圧力は、0.2〜1Pa程度が好ましい。また、プラズマを形成するための出力は102mm(4インチ)ターゲットでは、150〜1000W程度が好ましい。しかし、特に、これに限定されるものではなく、Arプラズマ42が安定に形成される圧力及び出力で成膜を行えばよい。
【0039】
上記の様にして成膜されたAlSi混合薄膜35は、Alを主成分とする柱状部材33と、その周囲のSiを主成分とするマトリックス34領域を備える。
Alを主成分とする柱状部材33部分の組成は、柱状構造の微細構造体が得られていれば、シリコン、水素、酸素、アルゴン、窒素などの他の元素を含有していてもよい。
【0040】
また、Alを主成分とする柱状部材33の周囲を囲んでいるマトリックス34の領域の組成は、Siを主成分とするが、柱状構造の微細構造体が得られていれば、アルミニウム、酸素、アルゴン、窒素、水素などの各種の元素を含有してもよい。
【0041】
なお、このような方法でAlSi混合薄膜35を形成すると、AlとSiが準安定状態の共晶型組織となり、AlがSiマトリックス34内に数nmレベルの構造体(柱状部材33)を形成し、自己組織的に分離する。そのときのAlはほぼ円柱状形状であり、その孔径は1〜15nmであり、中心間距離は2nm以上30nm以下である。
【0042】
基板31としては、例えば石英ガラスやプラスチックをはじめとする絶縁体基板、シリコンやガリウム砒素をはじめとする半導体基板、アルミニウムなどの金属基板、または、これらの基板の上に1層以上の絶縁体、半導体、金属のいずれかの膜を形成したものが挙げられる。なお、AlSi混合薄膜35の形成に不都合がなければ、基板の材質、厚さ、機械的強度などは特に限定されるものではない。また、基板の形状としては平滑な板状のものに限らず、曲面を有するもの、表面にある程度の凹凸や段差を有するものなどが挙げられるが、Al(Si、Ge)混合薄膜35に不都合がなければ、特に限定されるものではない。
【0043】
(c)工程:めっき物よりも電気化学的に卑な金属部分の作製
次に、細孔内にめっきを行うために、めっき物よりも電気化学的に卑な金属M3 を、基板もしくはAlSi混合薄膜35表面に形成する。下地膜32が金属M1 から成り、めっき物が金属M2 から成り、金属M3 は金属M2 より電気化学的に卑であるとする。前記金属M3 を金属M1 と電気的に接続することで、めっき液に浸漬することで金属M3 が溶解して電子を放出し、細孔底部で露出した下地膜32表面(M1 )よりめっき物として金属M2 が析出する。
【0044】
めっき物M2 よりも電気化学的に卑な前記金属M3 としては、Al、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cuの少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
例えば、Al、Zn、Fe、Co、Ni、Cu、Pd、Pt、Auの25℃における標準電極電位は
Al=Al3++3e- −1.662 V vs. NHE
Zn=Zn2++2e- −0.7626 V vs. NHE
Fe=Fe2++2e- −0.440 V vs. NHE
Co=Co2++2e- −0.277 V vs. NHE
Ni=Ni2++2e- −0.250 V vs. NHE
Sn=Sn2++2e- −0.138 V vs. NHE
Cu=Cu2++2e- +0.337 V vs. NHE
Pd=Pd2++2e- +0.915 V vs. NHE
Pt=Pt2++2e- +1.188 V vs. NHE
Au=Au3++3e- +1.498 V vs. NHE
となる。
【0045】
そこで、Auイオン(M2 )をめっきするときには、めっき液中に溶解する金属(M3 )として前記Al、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cu、Pdのいずれかを用いることができる。
【0046】
また、Feイオン、Coイオン、Niイオン(M2 )をそれぞれ含むめっき液を用いてめっきを行うときには、めっき液中に溶解する金属(M3 )としてFe、Co、Niよりも卑な金属であるAlなどを用いる必要がある。
【0047】
ただし、基板がめっき物よりも卑な金属から成り、基板と下地膜が電気的に接続しているときは、めっき物よりも卑な金属部分を形成しなくても良く、基板がめっき液中で溶解することで電子が放出され、細孔底部よりめっきが析出する。めっき液中に溶解する金属の形成方法として蒸着法、スパッタリング法、めっき法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。本発明においてはスパッタリング法を用いて作製している。めっき物よりも電気化学的に卑な金属の必要量は、細孔内に析出するめっき物量と価数によって決まる。例えばAlを溶解してNiを溶解するときには3Ni2++2Al→3Ni+2Al3+となるため、Alは細孔内に充填されるNiめっき物原子量の1.5倍以上必要になる。
【0048】
(d)工程:細孔の作製
次に、前記(AlSi)混合薄膜35に形成されている柱状部材33選択的にエッチングして細孔37を形成する。
【0049】
上記の(AlSi)混合薄膜35中のAlを主成分とする柱状部材33の領域のうち、表層に露出している部分のみを選択的にエッチングを行う。その結果、(AlSi)混合薄膜35には、細孔37を有するSiを主成分とするマトリックス34領域のみが残るが、エッチングを行う度にAlSi混合薄膜35は酸化される場合があるので、SiAlOX 多孔質体(0≦X≦2)38が形成される。なお、細孔37は、中心間距離2Rが30nm以下、平均直径2rが20nm以下であるが、好ましくは、細孔37の平均直径2rは1〜15nmであり、その中心間距離2Rは5〜20nmである。また、長さは0.5nm〜数μm、好ましくは1nm〜1000nmの範囲である。
【0050】
エッチングに用いる溶液は、例えばAlを溶かしSiはほとんど溶解しない、りん酸、硫酸、塩酸、クロム酸溶液などの酸、水酸化ナトリウムやアンモニア水などのアルカリを用いることができ、特に酸の種類やアルカリの種類に限定されるものではない。また、数種類の酸溶液やあるいは数種類のアルカリ溶液を混合したものを用いてもかまわない。またエッチング条件は、例えば、溶液温度、濃度、時間などは、作製するSiAlOX 多孔質体(0≦X≦2)38に応じて、適宜設定することができる。このとき、めっき物よりも卑な金属表面には、必要に応じてマスキングを行う。
【0051】
(e)工程:めっき
(d)工程で作製したSiAlOX 多孔質体(0≦X≦2)38をめっき液に浸漬し、めっき物よりも卑な金属を溶解させることで放出される電子により、細孔37底部よりめっきにより柱状構造体39を充填させ、本発明の構造体を形成する。めっき液には、少なくともめっきを行う金属イオンを含有しているが、その他にpH調整剤、pH緩衝材、錯化剤、促進剤、安定剤、界面活性剤を含んでも良い。
【0052】
本発明におけるめっきにより作製する柱状構造体39の材料としては、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cu、Ag、Rh、Pd、Pt、Auなどが好ましい。また、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cu、Ag、Rh、Pd、Pt、Auなどを少なくとも1種類以上含む合金でも良い。例えば、CoP、CoB、CoNiP、CoFeP、CoZnP、CoNiMnPなどである。また、抵抗体、電極、配線、磁気記録媒体などの小型化、高密度化などにおいて、本発明におけるSiAlOX 多孔質体(0≦X≦2)38の細孔37中に前記柱状構造体39を充填することで、前記柱状構造体39の有する高機能性が発揮される。先述したような材料であれば、目的に応じてどの材料を用いてもよい。
【0053】
(f)工程
めっきにて細孔を充填した後に、研磨・洗浄を行う。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明する。
実施例1
本実施例は、図4に基づいて、Pd下地膜32付きのSi基板31に(Al,Si)混合薄膜35を形成し、エッチングにより細孔37をした後、Auめっき液に浸すことにより柱状構造体39を作製した例について説明する。
【0055】
まず、下地膜32として、スパッタリング法によりSi基板31上に膜厚20nmのPd薄膜を形成する(図4(a))。さらに、下地Pd膜32を形成したSi基板31上にスパッタリング法によりAl:Siの組成比が55:45である(Al,Si)膜35を膜厚100nmに形成する(図4(b))。FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)で前記基板の表面を観察した結果、直径が約5nm、中心間距離が約10nmであるAlを主成分とする柱状部材33がSiを主成分とするマトリックス34の表面に多数形成されている。断面を観察した結果、Alを主成分とする柱状部材33は下地膜32付きのSi基板31に対して垂直方向に形成されている。この後、(Al,Si)膜35の一部をマスキングし、スパッタリング法によりコーナー部にのみ膜厚300nmのNi薄膜を形成する。(図4(c))今後これを基体とする。
【0056】
前記基体表面のNi薄膜をマスキングした後、25℃に設定した3wt%アンモニア水中に20分浸漬しAlのエッチングを行う。このFE−SEMで断面観察した結果Alを主成分とする柱状部材33は全て溶解されて、直径が約5nm、中心間距離が約10nmである細孔37が形成され、多孔質体38が得られる(図4(d))。細孔37を形成した後にNi薄膜表面のマスキング除去する。
【0057】
次に四塩化金ナトリウム5g/L、チオ硫酸ナトリウム25g/L、亜硫酸ナトリウム10g/L、塩化アンモニウム3g/Lの配合比でめっき液を1L建浴し、pH9、浴温は70℃とする。このめっき液にエッチング後の前記基体を10分間浸したところ、基体表面に形成されたNi薄膜36が溶解するとともに、細孔37中でAuが析出する。細孔37内にめっきが充填されて基体表面にもめっきが析出した後に基体をめっき液から取り出したのち、基体表面をコロイダルシリカで研磨することで、細孔外のニッケルを除去する。この試料をFE−SEMで観察した結果、前記基体中のAlを主成分とする柱状部材33が溶解されてできた細孔37中にAu柱状構造体39が形成されており(図4(e))、このAu柱状構造体33は直径が約5nmで、高さは約100nmである。
【0058】
実施例2
本実施例は、図4に基づいて、Pt下地膜32付きのSi基板31に(Al,Si)混合薄膜35を形成し、エッチングにより細孔37を形成した後、CoPめっき液に浸すことにより柱状構造体39を作製した例について説明する。
【0059】
まず、下地膜32として、スパッタリング法によりSi基板31上に膜厚20nmのPt薄膜を形成する(図4(a))。さらに、下地Pt膜32を形成したSi基板31上にスパッタリング法によりAl:Siの組成比が55:45である(Al,Si)膜35を膜厚100nm形成する(図4(b))。FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)で前記基板の表面を観察した結果、直径が約5nm、中心間距離が約10nmであるAlを主成分とする柱状部材33がSiを主成分とするマトリックス34表面中に多数形成されている。断面を観察した結果、Alを主成分とする柱状部材33は下地膜32付きのSi基板31に対して垂直方向に形成されている。この後、(Al,Si)膜35をの一部をマスキングし、スパッタリング法によりコーナー部にのみ膜厚300nmのZn薄膜を形成する。(図4(c))これを基体とする。
【0060】
前記基体表面のZn薄膜上にレジストを形成した後、25℃に設定した3wt%アンモニア水中に20分浸漬しAlのエッチングを行った。このFE−SEMで断面観察した結果Alを主成分とする柱状部材33は全て溶解されて、直径が約5nm、中心間距離が約10nmである細孔37が形成されていた。(図4(d))細孔37を形成した後にZn薄膜表面のレジストを剥離する。
【0061】
次に硫酸コバルト60g/l、次亜リン酸ナトリウム50g/L、炭酸ナトリウム10g/Lの配合比でめっき液を1L建浴し、浴温は90℃とする。このめっき液にエッチング後の前記基体を5分間浸したところ、基体表面に形成されたZn薄膜が溶解するとともに、細孔中でCoPが析出する。この試料をFE−SEMで観察した結果、前基体中のAlを主成分とする柱状部材33が溶解されてできた細孔37中にCoP柱状構造体39が形成されており、このCoP柱状構造体39は直径が約5nmで、高さは約100nmである。EPMAにて組成分析を行ったところCo95at%、P5at%となる。さらに、めっき後の表面を1/4μmダイヤモンドスラリーを用いて研磨することで、細孔37外にあふれ出ためっき物を除去する。
【0062】
以上により、磁気記録媒体として使用可能な構造体を、(Al,Si)混合薄膜35膜を用い細孔中に置換めっきをすることで作製できる。
【0063】
実施例3
本実施例は、図5に基づいて、Pt下地膜42付きのAl基板41に(Al,Si)混合薄膜45を形成し、エッチングにより細孔46を形成した後、Feめっき液に浸すことにより柱状構造体48を作製した例について説明する。
【0064】
まず、下地膜42として、スパッタリング法によりSi基板41上に膜厚20nmのPt薄膜の、下地膜42を形成する。さらに、下地Pt膜42を形成したSi基板41上にスパッタリング法によりAl:Siの組成比が55:45である(Al,Si)膜45を膜厚100nm形成する。FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)で前記基板の表面を観察した結果、直径が約5nm、中心間距離が約10nmであるAlを主成分とする柱状部材43がSiを主成分とするマトリックス44表面中に形成されている。断面の観察した結果Alを主成分とする柱状部材43は下地膜42付きのSi基板41に対して垂直方向に形成されている。
【0065】
その後前記Al基板表層のうち、細孔を形成する部分のみが露出するようにマスキングを行い、25℃に設定した3wt%アンモニア水中に20分浸漬しAl上のエッチングを行う。このFE−SEMで断面観察した結果、Alを主成分とする柱状部材43は全て溶解されて直径が約5nm、中心間距離が約10nmである細孔46が形成される。
【0066】
次に、硫酸鉄200g/L、塩化アンモニウム25g/Lの配合比でめっき液を1L建浴する。このめっき液を窒素雰囲気中で浴温90℃に上昇させた後に、前記基体をめっき液に10分間浸したところ、Al基板の表層よりAlが溶解するとともに、細孔中でFeが析出する。この試料をFE−SEMで観察した結果、前基体中のAlを主成分とする柱状部材43が溶解されてできた細孔46中にFeから成るめっき物が形成されており、このFe柱状構造体48は直径が約5nmで、高さは約100nmとなる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、低コストで容易且つ大面積に柱状構造体を有する構造体を製造できるので、本発明により製造した構造体を用いることで磁気記録デバイスおよび機能性デバイスの製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の方法により製造された構造体の細孔を示す概略図である。
【図2】本発明の方法により製造された構造体の構成の一例を示す概略図である。
【図3】SiまたはGeを主材料とした薄膜の概略図である。
【図4】本発明の構造体の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
【図5】本発明の構造体の製造方法の他の実施態様を示す工程図である。
【図6】本発明における構造体の成膜方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0069】
11 基板
12 下地膜
13 マトリックス
14 細孔
15 めっき物よりも電気化学的に卑な金属部分
16 柱状構造体
21 柱状部材
22 マトリックス
23 基板
24 Al(Si、Ge)混合薄膜
31 基板
32 下地膜
33 柱状部材
34 マトリックス
35 Al(Si、Ge)混合薄膜
36 めっき物よりも電気化学的に卑な金属部分
37 細孔
38 多孔質体
39 柱状構造体
41 基板
42 下地膜
43 柱状部材
44 マトリックス
45 Al(Si、Ge)混合薄膜
46 細孔
47 多孔質体
48 柱状構造体
51 基板
52 Arプラズマ
53 SiまたはGeチップ
54 Alターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質層の孔内へめっき物を充填する工程を有する構造体の製造方法であって、基板上に、めっき物よりも電気化学的に貴な下地膜を介して多孔質層を有する部材を用意する工程、置換めっき法により、該多孔質層の孔内へめっき物を充填する工程を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項2】
下地膜を有する基板表面にアルミニウムを主材料とする柱状部材と、SiまたはGeを主材料とした該柱状部材を取り囲む領域を含むAl(Si,Ge)混合薄膜を形成する工程、めっき物より電気化学的に卑な金属を基板表面もしくはAl(Si,Ge)混合薄膜表面に形成する工程、Al(Si,Ge)混合薄膜から該アルミニウム柱状部材の少なくとも一部を除去して細孔を形成する工程、該細孔が形成された基板をめっき浴に浸漬し、該めっき物より卑な金属の少なくとも一部を溶解することにより、該細孔底部よりめっきを行いめっき物を充填する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
下地膜を有する基板表面にアルミニウムを主材料とした柱状部材と、SiまたはGeを主材料とした該柱状部材を取り囲む領域を含むAl(Si,Ge)混合薄膜を形成する工程、Al(Si,Ge)混合薄膜から該アルミニウム柱状部材の少なくとも一部を除去して細孔を形成する工程、該細孔を表面に形成した基板をめっき浴に浸漬し、該基板の少なくとも一部を溶解することにより、該細孔底部よりめっきを行いめっき物を充填する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
前記下地膜が前記めっき物よりも電気化学的に貴な金属であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
前記めっき物が、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cu、Ag、Rh、Pd、Pt、Auから選ばれる少なくとも1種類以上を含むこと特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の構造体の製造方法。
【請求項6】
前記めっき物よりも卑な金属が、Al、Zn、Fe、Co、Ni、Sn、Cuから選ばれる少なくとも1種類以上を含むこと特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の構造体の製造方法。
【請求項7】
前記細孔にめっき物を充填した柱状構造体の平均直径が1nm以上15nm以下であり、中心間距離が5nm以上20nm以下であり、高さが1nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の構造体の製造方法よって作製され、めっき物が磁性材料であることを特徴とする機能デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−342402(P2006−342402A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170136(P2005−170136)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】