説明

標的指向性リポソームを含む炎症性疾患治療薬または診断薬

炎症性疾患の炎症部位等の標的組織に集積し、局所的に薬剤や遺伝子を患部に送り込むための治療用または診断用のドラッグデリバリーシステム(DDS)として利用できる標的指向性DDSナノ粒子の提供。 糖鎖がリポソーム膜に結合されている糖鎖修飾リポソームを含む炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、炎症性疾患に対するドラッグデリバリーシステムに関する。
【背景技術】
米国の国家ナノテク戦略(NNI)によって実現を目指す具体的目標の一例として、「癌細胞や標的組織を狙い撃ちする薬物や遺伝子送達システム(DDS:ドラッグデリバリーシステム)」を掲げた。日本の総合科学技術会議のナノテクノロジー・材料分野推進戦略でも、重点領域として「医療用極小システム・材料、生物のメカニズムを活用し制御するナノバイオロジー」があり、その5年間の研究開発目標の1つとして「健康寿命延伸のための生体機能材料・ピンポイント治療等技術の基本シーズ確立」が掲げられている。一方、高齢化社会となるに伴い癌の罹患率・死亡率は年々増えており、新規な治療材料である標的指向DDSの開発が待望されている。その他の病気においても副作用のない標的指向DDSナノ材料の重要性が注目されており、その市場規模は近い将来に10兆円を超えると予測されている。また、これらの材料は治療とともに診断への利用においても期待されている。
医薬品の治療効果は、薬物が特定の標的部位に到達し、そこで作用することにより発現される。その一方で、医薬品による副作用とは、薬物が不必要な部位に作用してしまうことである。従って、薬物を有効かつ安全に使用するためにもドラッグデリバリーシステムの開発が求められている。その中でも特に標的指向(ターゲティング)DDSとは、薬物を「体内の必要な部位に」、「必要な量を」、「必要な時間だけ」送り込むといった概念である。そのための代表的な材料としての微粒子性キャリアーであるリポソームが注目されている。この粒子に標的指向機能をもたせるために、リポソームの脂質の種類、組成比、粒子径、表面電荷を変化させるなどの受動的ターゲティング法が試みられているが、いまだ本法は不十分であり更なる改良が求められている。
一方、高機能のターゲティングを可能にするために、能動的ターゲティング法も試みられている。これは”ミサイルドラッグ”ともよばれ理想的なターゲティング法であるが、国内外においていまだ完成されたものはなく今後の発展が大いに期待されているものである。本法は、リポソーム膜面上にリガンドを結合させ、標的組織の細胞膜面上に存在するレセプターに特異的に認識させることによって、積極的にターゲティングを可能にさせる方法である。この能動的ターゲティング法での標的となる細胞膜面上に存在するレセプターのリガンドとしては、抗原、抗体、ペプチド、糖脂質や糖蛋白質などが考えられる。これらのうち、糖脂質や糖蛋白質の糖鎖は、生体組織の発生や形態形成、細胞の増殖や分化、生体防御や受精機構、癌化とその転移機構などの様々な細胞間コミュニケーションにおいて情報分子としての重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。
また、その標的となる各組織の細胞膜面上に存在するレセプターとしてのセレクチン、DC−SIGN、DC−SGNR、コレクチン、マンノース結合レクチン等のC−タイプレクチン、シグレック等のIタイプレクチン、マンノース−6−リン酸受容体などのPタイプレクチン、Rタイプレクチン、Lタイプレクチン、Mタイプレクチン、ガレクチンなどの各種のレクチン(糖鎖認識蛋白質)についての研究も進んできたことから、各種の分子構造を有する糖鎖は新しいDDSリガンドとして注目されてきている( 1)Yamazaki,N.,Kojima,S.,Bovin,N.V.,Andre,S.,Gabius,S.and Gabius,H.−J.(2000)Adv.Drug Delivery Rev.43,225−244. 2)Yamazaki,N.,Jigami,Y.,Gabius,H.−J.,Kojima,S(2001)Trends in Glycoscience and Glycotechnology 13,319−329.http://www.gak.co.jp/TIGG/71PDF/yamazaki.pdf)。
外膜表面にリガンドを結合したリポソームについては、癌などの標的部位に選択的に薬物や遺伝子などを送達するためのDDS材料として多くの研究がなされてきた。しかしながら、それらは、生体外では標的細胞に結合するが、生体内では期待される標的細胞や組織にターゲティングされないものがほとんどである( 1)Forssen,E.and Willis,M.(1998)Adv.Drug Delivery Rev.29,249−271. 2)高橋俊雄・橋田充編(1999)、今日のDDS・薬物送達システム、159−167頁、医薬ジャーナル社、大阪)。糖鎖の分子認識機能を利用したDDS材料の研究開発においても、糖鎖を有する糖脂質を導入したリポソームについて若干の研究が知られているが、それらの機能評価は生体外(in vitro)によるもののみであり、糖鎖を有する糖蛋白質を導入したリポソームの研究はほとんど進んでいない( 1)DeFrees,S.A.,Phillips,L.,Guo,L.and Zalipsky,S.(1996)J.Am.Chem.Soc.118,6101−6104. 2)Spevak,W.,Foxall,C.,Charych,D.H.,Dasqupta,F.and Nagy,J.O.(1996)J.Med.Chem.39,1018−1020. 3)Stahn,R.,Schafer,H.,Kernchen,F.and Schreiber,J.(1998)Glycobiology 8,311−319. 4)Yamazaki,N.,Jigami,Y.,Gabius,H.−J.,Kojima,S(2001)Trends in Glycoscience and Glycotechnology 13,319−329.http://www.gak.co.jp/TIGG/71PDF/yamazaki.pdf)。したがって、糖脂質や糖蛋白質の多種多様な糖鎖を結合したリポソームについての調製法と生体内動態(in vivo)解析を含めた体系的な研究は、これまで未開発で今後の進展が期待される重要課題である。
さらに新しいタイプのDDS材料研究として、投与が最も簡便・安価に行える経口投与で使用可能なDDS材料開発も重要課題である。たとえば、ペプチド性および蛋白質性医薬品などは一般的に水溶性で高分子量であり消化管の小腸粘膜透過性が低いため酵素分解を受けるなどにより経口投与してもほとんど腸管吸収されない。そこでこれらの高分子量の医薬品や遺伝子などを腸管から血液中へ送達するためのDDS材料としてリガンド結合リポソームの研究が注目されつつある(Lehr,C.−M.(2000)J.Controlled Release 65,19−29)。しかしながら、これらのリガンドとして糖鎖を用いた腸管吸収制御性リポソームの研究は未だ報告されていない。
本発明者等は、既に、糖鎖がリンカー蛋白質を介してリポソーム膜に結合されており、糖鎖が、ルイスX型三糖鎖、シアリルルイスX型四糖鎖、3’−シアリルラクトサミン三糖鎖、6’−シアリルラクトサミン三糖鎖から選ばれたものであり、リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の低分子親水化合物が任意に結合しており親水性化されていることを特徴とする糖鎖修飾リポソームおよびラクトース2糖鎖、2’−フコシルラクトース三糖鎖、ジフコシルラクトース四糖類および3−フコシルラクトース三糖鎖から選ばれた糖鎖により修飾されたリポソームであって、糖鎖がリンカー蛋白質を介してリポソームに結合していてもよい、腸管吸収性リポソームについて特許出願を行っている。
しかし、炎症性疾患に対して治療用または診断用薬剤を標的指向的に投薬するドラッグデリバリーシステムは開発されていなかった。
炎症性疾患の中でも、リュウマチ性関節炎(Rheumatoid Arthritis,RA)は関節炎を中心とした種々の先進症状を伴う自己免疫疾患であり、その患者の数は日本で70万人程度と言われている。この患者数は自己免疫疾患中で最大であり、RAの治療改善は社会的に大きな貢献をもたらすことになると思われる。
RAの発症には遺伝的要因(特定のHLAなど)や環境要因(virusの感染など)が関与していると考えられているが、詳細な発症機序は不明である。しかし炎症部位には関節のシノビュウムに存在するマクロプァージとCD4+,CD8+,T細胞の存在が確認されており、このT細胞がシノビュウムに存在する抗原を認識していることがわかっている(T.Toyosaki,et.al 1998 Arthritis Rheum 41,92−100,P.L.van Lent,et al.1996 Arthritis Rheum 39,1545−1555)。そしてこれら炎症に起因する細胞にはIL−1、tumor necrotic factor−alpha(以下TNF−a)そしてIL−6などのいわゆる炎症性サイトカインが深く関与していることが示唆されている(S.Saijo,et al.2002 Arthritis Rheum.46,533−544. D.Kontoyiannis,et al.1999 Immunity 10,387−398. T.Ohtani,et al.2000 Immunity 12,95−105.)。
近年RAの治療はこれらの新しい知見をもとに大きく変わり始め、最大の進歩は生物学的製剤が開発されたことである。つまりTNF−alpha(以下TNF−a)に対する種々の抗体治療薬の出現である。これら抗体治療薬は関節炎に対して高い治療効果を有し、関節組織破壊抑制効果もある等、従来の治療薬とは一線を画する新薬である。しかしこれら新薬は一方において、感染症をはじめとする重篤な有害事象を起こしうることが報告されている。この副作用の原因の一つとしては関節という局所の炎症をコントロールするために、非特異的に全身に大量の抗TNF−a抗体が投与されることに起因していると考えられる。
従来から使用されている薬剤も含め、革新的新薬といえども副作用を有する治療薬は病巣部位に特異的に分配され、病巣部位のみで有効性を発揮することが理想的である。このようなシステムは薬剤の副作用を減らし、かつ薬効をさらに引き上げることが可能で、現在最新薬剤として注目されている生物製剤や、分子標的薬の開発と同様に重要と考えられる。
【発明の開示】
炎症性疾患部位等の標的組織に集積し、局所的に薬剤や遺伝子を患部に送り込むための治療または診断用のドラッグデリバリーシステム(DDS)として利用できる標的指向性DDSナノ粒子の提供。具体的には、炎症部位の血管内皮細胞に発現するE−セレクチン、P−セレクチン等と結合しうる糖鎖を表面に結合させたドラッグデリバリー用の標的指向性リポソームの提供。
本発明者らは、先に表面に特定の糖鎖が結合したDDS用標的指向性リポソームを開発した。該標的指向性リポソームには、シアリルルイスX糖鎖(sLeX)が結合しており、腫瘍部位、炎症部位への移行性において高い効率を有していた。
本発明者らは、この標的指向性リポソームの炎症性疾患領域への応用について鋭意検討を行い、炎症性疾患モデル動物として、眼炎症モデルマウスを作出し、上記標的指向性リポソームが眼の炎症部位に指向的に取り込まれることを見出し本発明を完成させるに至った。
今回開発されたDrug Delivery System(以下DDS)は炎症部位へ特異的に集積し、効率的で副作用の少ない治療システムを可能にするものである。ステロイド剤は抗炎症薬としては最も一般的なため、これが実施例に用いられたが、治療薬はこれに限らず免疫抑制剤、サイトカイン、抗サイトカイン剤、DNAおよびRNAを含む核酸などの分配が可能である。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1. 糖鎖がリポソーム膜に結合されている糖鎖修飾リポソームを含む炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
2. リポソームの構成脂質が、フォスファチジルコリン類(モル比0〜70%)、フォスファチジルエタノールアミン類(モル比0〜30%)、フォスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類およびジセチルリン酸類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0〜30%)、ガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類およびスフィンゴミエリン類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0〜40%)、ならびにコレステロール類(モル比0〜70%)を含む、1記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
3. ガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類、スフィンゴミエリン類およびコレステロール類からなる群から選択される少なくとも1種の脂質がリポソーム表面上で集合しラフトを形成している2記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
4. 糖鎖の種類および密度が制御されて結合されている、1から3のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
5. リポソームの粒径が30〜500nmである、1から4のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
6. リポソームの粒径が50〜300nmである、5記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
7. リポソームのゼータ電位が−50〜10mVである、1から6のいずれか1項記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
8. リポソームのゼータ電位が−40〜0mVである、7記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
9. リポソームのゼータ電位が−30〜−10mVである、8記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
10. 糖鎖がリンカー蛋白質を介してリポソーム膜に結合されている、1から9のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
11. リンカー蛋白質が生体由来蛋白質である10記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
12. リンカー蛋白質がヒト由来蛋白質である11記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
13. リンカー蛋白質がヒト由来血清蛋白質である12記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
14. リンカー蛋白質がヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンである10記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
15. リンカー蛋白質がリポソーム表面上に形成されているガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類、スフィンゴミエリン類およびコレステロール類からなる群から選択される少なくとも1種の脂質からなるラフト上に結合している1から14のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
16. リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質に親水性化合物が結合することにより親水性化されている、1から15のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
17. 親水性化合物が低分子物質である、16記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
18. 親水性化合物が糖鎖に対する立体障害となりにくく標的細胞膜面上のレクチンによる糖鎖分子認識反応の進行を妨げない、16または17記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
19. 親水性化合物が水酸基を有する16から18のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
20. 親水性化合物がアミノアルコール類である16から19のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
21. 親水性化合物がリポソーム膜表面に直接結合している16から20のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
22. 親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(1)
X−R1(R2OH)n 式(1)
で示される16記載の糖鎖修飾リポソームであって、R1は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R2は存在しないかもしくはC1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、Xはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
23. 親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(2)
N−R3−(R4OH)n 式(2)
で示される16記載の糖鎖修飾リポソームであって、R3は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R4は存在しないかもしくはC1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、HNはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
24. 親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(3)
N−R5(OH)n 式(3)
で示される16記載の糖鎖修飾リポソームであって、R5は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、HNはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
25. リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシアルキル)アミノアルカンである親水性化合物を共有結合により結合させることによりリポソーム膜および/またはリンカー蛋白質が親水性化されている、16記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
26. リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノプロパンからなる群から選択される親水性化合物を共有結合により結合させることによりリポソーム膜および/またはリンカー蛋白質が親水性化されている、16記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
27. 糖鎖修飾リポソームが、各組織の細胞膜面上に存在するレセプターとしてのセレクチン、DC−SIGN、DC−SGNR、コレクチンおよびマンノース結合レクチンを含むC−タイプレクチン、シグレックを含むIタイプレクチン、マンノース−6−リン酸受容体を含むPタイプレクチン、Rタイプレクチン、Lタイプレクチン、Mタイプレクチン、ガレクチンからなる群から選択されるレクチンを標的とする1から26のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
28. 糖鎖修飾リポソームがE−セレクチン、P−セレクチンおよびL−セレクチンからなる群から選択されるセレクチンを標的とする27記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
29. リポソームに結合した糖鎖の結合密度が、リポソームに結合させるリンカー蛋白質1分子当り1〜60個である、1から28のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
30. リポソームに結合した糖鎖の結合密度が、リンカー蛋白質を用いる場合は、リポソーム1粒子当り1〜30000個であり、リンカー蛋白質を用いない場合は、リポソーム1粒子当り最高1〜500000個である、1から28のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
31. 糖鎖がルイスX型三糖鎖、シアリルルイスX型四糖鎖、3’−シアリルラクトサミン三糖鎖、6’−シアリルラクトサミン三糖鎖、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3マンノビオース二糖鎖、アルファ1,4マンノビオース二糖鎖、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖鎖、オリゴマンノース3五糖鎖、オリゴマンノース4b六糖鎖、オリゴマンノース5七糖鎖、オリゴマンノース6八糖鎖、オリゴマンノース7九糖鎖、オリゴマンノース8十糖鎖、オリゴマンノース9十一糖鎖、ラクトース二糖鎖、2’−フコシルラクトース三糖鎖、ジフコシルラクトース四糖類、3−フコシルラクトース三糖鎖、3’−シアリルラクトース三糖鎖および6’−シアリルラクトース三糖鎖からなる群から選択される、1から30のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
32. 糖鎖修飾リポソームが含む薬剤が、副腎皮質ホルモン、抗炎症薬、免疫抑制剤、抗がん剤、抗菌薬、抗ウイルス薬、血管新生抑制剤、サイトカインやケモカイン、抗サイトカイン抗体や抗ケモカイン抗体、抗サイトカイン・ケモカイン受容体抗体、siRNAやDNAなどの遺伝子治療関連の核酸製剤、神経保護因子および抗体医薬からなる群から選択される1から31のいずれかに記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
33. 糖鎖修飾リポソームが含む薬剤が、副腎皮質ホルモンまたは抗炎症薬である32記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
34. 糖鎖修飾リポソームが含む薬剤がプレドニゾロンである33記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
35. 薬剤が、薬剤を単独投与した場合に比べ、炎症部位に10倍以上多く集積し得る、32から34のいずれかに記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
36. .炎症性疾患が脳炎、炎症性眼疾患、耳炎、咽頭炎、肺炎、胃炎、腸炎、肝炎、膵炎、腎炎、膀胱炎、尿道炎、子宮体炎、膣炎、関節炎、末梢神経炎、悪性腫瘍、感染性疾患、リウマチ、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシスなどの自己免疫疾患、心筋梗塞、脳梗塞などの虚血性疾患、糖尿病、痛風などの代謝性疾患、外傷・熱傷・化学腐食、アルツハイマー病などの神経変性疾患からなる群から選択される、1から35のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
37. 炎症性疾患が炎症性眼疾患である36記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
38. 炎症性疾患がリウマチである36記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
39. 炎症性疾患が腸炎である36記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
40. 経口投与用医薬組成物である、1から39のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
41. 非経口投与用医薬組成物である、1から39のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
42. リポソーム膜が親水性化されており、表面に糖鎖が結合していないリポソームを含む炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
43. リポソームの構成脂質が、フォスファチジルコリン類(モル比0〜70%)、フォスファチジルエタノールアミン類(モル比0〜30%)、フォスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類およびジセチルリン酸類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0〜30%)、ガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類およびスフィンゴミエリン類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0〜40%)、ならびにコレステロール類(モル比0〜70%)を含む、42記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
44. リポソームが、さらに蛋白質を含む43記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
45. リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質に親水性化合物が結合することにより親水性化されている、42から44のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
46. 親水性化合物が低分子物質である、45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
47. 親水性化合物が水酸基を有する45または46に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
48. 親水性化合物がアミノアルコール類である45から47のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
49. 親水性化合物がリポソーム膜表面に直接結合している45から48のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
50. 親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(1)
X−R1(R2OH)n 式(1)
で示される45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物であって、R1は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R2は存在しないかもしくはC1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、Xはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
51. 親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(2)
N−R3−(R4OH)n 式(2)
で示される45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物であって、R3は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R4は存在しないかもしくはC1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、HNはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
52. 親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(3)
N−R5(OH)n 式(3)
で示される45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物であって、R5は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、HNはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
53. リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシアルキル)アミノアルカンである親水性化合物を共有結合により結合させることによりリポソーム膜および/またはリンカー蛋白質が親水性化されている、45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
54. リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノプロパンからなる群から選択される親水性化合物を共有結合により結合させることによりリポソーム膜および/またはリンカー蛋白質が親水性化されている、53記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
55. リポソームが含む薬剤が、副腎皮質ホルモン、抗炎症薬、免疫抑制剤、抗がん剤、抗菌薬、抗ウイルス薬、血管新生抑制剤、サイトカインやケモカイン、抗サイトカイン抗体や抗ケモカイン抗体、抗サイトカイン・ケモカイン受容体抗体、siRNAやDNAなどの遺伝子治療関連の核酸製剤、神経保護因子および抗体医薬からなる群から選択される42から54のいずれかに記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
56. リポソームが含む薬剤が、副腎皮質ホルモンまたは抗炎症薬である55記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
57. リポソームが含む薬剤がプレドニゾロンである56記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
58. 薬剤が、薬剤を単独投与した場合に比べ、炎症部位に10倍以上多く集積し得る、55から57のいずれかに記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
59. 炎症性疾患が脳炎、炎症性眼疾患、耳炎、咽頭炎、肺炎、胃炎、腸炎、肝炎、膵炎、腎炎、膀胱炎、尿道炎、子宮体炎、膣炎、関節炎、末梢神経炎、悪性腫瘍、感染性疾患、リウマチ、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシスなどの自己免疫疾患、心筋梗塞、脳梗塞などの虚血性疾患、糖尿病、痛風などの代謝性疾患、外傷・熱傷・化学腐食、アルツハイマー病などの神経変性疾患からなる群から選択される、42から58のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
60. 炎症性疾患が炎症性眼疾患である59記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
61. 炎症性疾患がリウマチである59記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
62. 炎症性疾患が腸炎である59記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
63. 経口投与用医薬組成物である、42から62のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
63. 非経口投与用医薬組成物である、42から62のいずれかに記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−285422、2003−369494号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、ルイスX型三糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図2は、シアリルルイスX型四糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図3は、3’−シアリルラクトサミン三糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図4は、6’−シアリルラクトサミン三糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図5は、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図6は、アルファ1,3マンノビオース二糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図7は、アルファ1,4マンノビオース二糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図8は、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図9は、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図10は、オリゴマンノース3五糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図11は、オリゴマンノース4b六糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図12は、オリゴマンノース5七糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図13は、オリゴマンノース6八糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図14は、オリゴマンノース7九糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図15は、オリゴマンノース8十糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図16は、オリゴマンノース9十一糖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図17は、ラクトース二糖鎖により修飾されたリポソームの構造例を示す模式図である。
図18は、2’−フコシルラクトース三糖鎖により修飾されたリポソームの構造例を示す模式図である。
図19は、ジフコシルラクトース四糖鎖により修飾されたリポソームの構造例を示す模式図である。
図20は、3−フコシルラクトース三糖鎖により修飾されたリポソームの構造例を示す模式図である。
図21は、3’−シアリルラクトース三糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図22は、6’−シアリルラクトース三糖鎖を結合したリポソームの構造例を示す模式図である。
図23は、比較試料としてのtris(hydroxymethyl)aminomethaneを結合したリポソームの模式図である。
図24は、実験的ぶどう膜炎発症を示す写真である。
図25Aは、リポソームの臓器別分布を示す図である。
図25Bは、リポソームの臓器別分布を示す図であり、正常マウスに対する相対値%で示した図である。
図26は、リポソーム分布の時間経過を示す写真である。
図27は、正常マウスおよびEAUマウスでのリポソーム分布を示す写真である。
図28は、蛍光抗体法による検出の結果を示す写真である。
図29は、酵素抗体法による検出の結果を示す写真である。
図30は、結合阻害実験の結果を示す写真である。
図31は、炎症を起こしたRAマウスの四肢の写真である。
図32は、RAマウスに対するプレドニゾロン包埋DDS静脈投与による治療の結果を示す図である。
図33は、RAマウスに対するプレドニゾロン包埋DDS経口投与による治療の結果を示す図である。
図34は、RAマウスに対する適切量のプレドニゾロン投与による治療の結果を示す図である。
図35は、2種類の親水性化処理を行ったリポソームと未処理のリポソームの担癌マウス尾静注投与5分後の血中滞留性の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、炎症性疾患の病巣部位に標的指向性を有し、病巣部位に特異的に取り込まれ、病巣部位で封入された薬剤を放出し、病巣を治療しうる標的指向性リポソームである。
炎症時に血管内皮細胞に発現するE−セレクチン、P−セレクチンと白血球の細胞膜上に発現している糖鎖であるシアリルルイスXが強く結合することが知られている。本リポソームはこのシアリルルイスX糖鎖またはこれと同様にE−セレクチン、P−セレクチン等に反応することができる糖鎖が糖鎖の種類と密度が制御されて結合しているリポソームであり、血管内皮細胞がE−セレクチン、P−セレクチン等を発現している病巣部位に特異的に集積すると考えられる。またE−セレクチン、P−セレクチン等を発現している部位は炎症や血管新生が生じている部位であり、そのような部位の血管は内皮細胞の細胞間隙が拡大しており、集積したリポソームがその隙間から病巣部位およびその周囲に拡散するものと考えられる。拡散したリポソームは病巣部位およびその周囲の各種細胞に取り込まれ(phagocytosis)、細胞内で内包している薬剤を放出する。このようなメカニズムで炎症性疾患に効果を発揮する。
本発明のリポソームに結合させる糖鎖として、上述のようにE−セレクチン、P−セレクチン等に反応することができる糖鎖が挙げられる。ここで、E−セレクチン、P−セレクチン等とは、セレクチン、DC−SIGN、DC−SGNR、コレクチン、マンノース結合レクチン等のC−タイプレクチン、シグレック等のIタイプレクチン、マンノース−6−リン酸受容体などのPタイプレクチン、Rタイプレクチン、Lタイプレクチン、Mタイプレクチン、ガレクチンなどの各種のレクチン(糖鎖認識蛋白質)をいう。このような糖鎖は限定されないが、例えば、ルイスX型三糖鎖(構造式を図1に示す。以下、同様)、シアリルルイスX型四糖鎖(図2)、3’−シアリルラクトサミン三糖鎖(図3)、6’−シアリルラクトサミン三糖鎖(図4)、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖(図5)、アルファ1,3マンノビオース二糖鎖(図6)、アルファ1,4マンノビオース二糖鎖(図7)、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖(図8)、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖鎖(図9)、オリゴマンノース3五糖鎖(図10)、オリゴマンノース4b六糖鎖(図11)、オリゴマンノース5七糖鎖(図12)、オリゴマンノース6八糖鎖(図13)、オリゴマンノース7九糖鎖(図14)、オリゴマンノース8十糖鎖(図15)、オリゴマンノース9十一糖鎖(図16)、ラクトース二糖鎖(図17)、2’−フコシルラクトース三糖鎖(図18)、ジフコシルラクトース四糖類(図19)、3−フコシルラクトース三糖鎖(図20)、3’−シアリルラクトース三糖鎖(図21)および6’−シアリルラクトース三糖鎖(図22)が挙げられる。
(1) 標的指向性リポソームの作製
リポソームとは、通常、膜状に集合した脂質層および内部の水層から構成される閉鎖小胞を意味する。本発明のリポソームは、図1〜22に示されるように、その表面すなわち脂質層に糖鎖が、結合している。糖鎖は直接リポソームの脂質層に結合していてもよいし、ヒト血清アルブミンのようなリンカー蛋白質を介して、共有結合していてもよい。
本発明のリポソームを構成する脂質としては、例えば、フォスファチジルコリン類、フォスファチジルエタノールアミン類、フォスファチジン酸類もしくは長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類、糖脂質類もしくはフォスファチジルグリセロール類、コレステロール類等が挙げられ、フォスファチジルコリン類としては、ジミリストイルフォスファチジルコリン、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、ジステアロイルフォスファチジルコリン等が、また、フォスファチジルエタノールアミン類としては、ジミリストイルフォスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン等が、フォスファチジン酸類もしくは長鎖アルキルリン酸塩類としては、ジミリストイルフォスファチジン酸、ジパルミトイルフォスファチジン酸、ジステアロイルフォスファチジン酸、ジセチルリン酸等が、ガングリオシド類としては、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGT1b等が、糖脂質類としては、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、フォスファチド、グロボシド等が、フォスファチジルグリセロール類としては、ジミリストイルフォスファチジルグリセロール、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール、ジステアロイルフォスファチジルグリセロール等が好ましい。このうち、フォスファチジン酸類もしくは長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類もしくは糖脂質類、コレステロール類はリポソームの安定性を上昇させる効果を有するので、構成脂質として添加するのが望ましい。
例えば、本発明のリポソームを構成する脂質として、フォスファチジルコリン類(モル比0〜70%)、フォスファチジルエタノールアミン類(モル比0〜30%)、フォスファチジン酸類もしくは長鎖アルキルリン酸塩(モル比0〜30%)、ガングリオシド類、糖脂質類もしくはフォスファチジルグリセロール鎖(モル比0〜40%)、およびコレステロール類(モル比0〜70%)を含むものが挙げられる。
リポソーム自体は、周知の方法に従い製造することができるが、これには、薄膜法、逆層蒸発法、エタノール注入法、脱水−再水和法等を挙げることができる。
また、超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法等を用いて、リポソームの粒子径を調節することも可能である。本発明のリポソーム自体の製法について、具体的に述べると、例えば、まず、フォスファチジルコリン類、コレステロール、フォスファチジルエタノールアミン類、フォスファチジン酸類、ガングリオシド類、糖脂質類もしくはフォスファチジルグリセロール類を配合成分とする脂質と界面活性剤コール酸ナトリウムとの混合ミセルを調製する。
とりわけ、フォスファチジルエタノールアミン類の配合は親水性化反応部位として、ガングリオシド類または糖脂質類またはフォスファチジルグリセロール類の配合はリンカー蛋白質の結合部位として必須のものである。そして、これにより得られる混合ミセルの限外濾過を行うことによりリポソームを作製する。
本発明において使用するリポソームは、通常のものでも使用できるが、その表面は親水性化されていることが望ましい。上述のようにしてリポソームを作製した後にリポソーム表面を親水性化する。リポソーム表面の親水性化は、リポソーム表面に親水性化合物を結合させることにより行う。親水性化に用いる化合物としては、低分子の親水性化合物、好ましくは少なくとも1つのOH基を有する低分子の親水性化合物、さらに好ましくは、少なくとも2つのOH基を有する低分子の親水性化合物が挙げられる。また、さらに少なくとも1つのアミノ基を有する低分子の親水性化合物、すなわち分子中に少なくとも1つのOH基と少なくとも1つのアミノ基を有する親水性化合物が挙げられる。親水性化合物は、低分子なので、糖鎖に対する立体障害となりにくく標的細胞膜面上のレクチンによる糖鎖分子認識反応の進行を妨げることはない。また、親水性化合物には、本発明の糖鎖修飾リポソームにおいて、レクチン等の特定の標的を指向するために用いられるレクチンが結合し得る糖鎖は含まれない。このような親水性化合物として、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンなどを含むトリス(ヒドロキシアルキル)アミノアルカン等のアミノアルコール類等が挙げられ、さらに具体的には、トリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシスチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノプロパン等が挙げられる。さらに、OH基を有する低分子化合物にアミノ基を導入した化合物も本発明の親水性化合物として用いることができる。該化合物は限定されないが、例えば、セロビオース等のレクチンが結合しない糖鎖にアミノ基を導入した化合物が挙げられる。例えば、リポソーム膜の脂質フォスファチジルエタノールアミン上に架橋用の2価試薬とトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとを用いてリポソーム表面を親水性化する。親水性化合物の一般式は、下記式(1)、式(2)、式(3)等で示される。
X−R(ROH)式(1)
N−R−{ROH)式(2)
N−R(OH)式(3)
ここで、R1、R3およびR5は、C1からC40、好ましくはC1からC20、さらに好ましくはC1からC10の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R2、R4は存在しないかもしくはC1からC40、好ましくはC1からC20、さらに好ましくはC1からC10の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示す。Xはリポソーム脂質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、例えば、COOH、NH、CH、CHO、SH、NHS−エステル、マレイミド、イミドエステル、活性ハロゲン、EDC、ピリジルジスルフィド、アジドフェニル、ヒドラジド等が挙げられる。nは自然数を示す。
リポソームの親水性化は、従来公知の方法、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体等を共有結合により結合させたリン脂質を用いてリポソームを作成する方法(特開2000−302685号)等の方法を採用することによっても行うことができる。
このうち、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いてリポソーム表面を親水性化することが特に好ましい。
本発明のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の低分子親水性化合物を用いる手法は、ポリエチレングリコールなどを用いる従来の親水性化方法と比較していくつかの点で好ましい。例えば、本発明のように糖鎖をリポソーム上に結合してその分子認識機能を標的指向性に利用するものでは、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の低分子親水化合物は低分子量物質であるので従来のポリエチレングリコールなどの高分子量物質を用いる方法に比べて、糖鎖に対する立体障害となりにくく標的細胞膜面上のレクチン(糖鎖認識蛋白質)による糖鎖分子認識反応の進行を妨げないので特に好ましい。
また、本発明によるリポソームは該親水性化処理後においても粒径分布や成分組成、分散特性が良好であり、長時間の保存性や生体内安定性も優れているのでリポソーム製剤化して利用するために好ましい。
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の低分子親水性化合物を用いてリポソーム表面を親水性化するには、例えばジミリストイルフォスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン等の脂質を用いて、常法により得たリポソーム溶液にビススルフォスクシニミヂルスベラート、ジスクシニミヂルグルタレート、ジチオビススクシニミヂルプロピオネート、ジスクシニミヂルスベラート、3,3’−ジチオビススルフォスクシニミヂルプロピオネート、エチレングリコールビススクシニミヂルスクシネート、エチレングリコールビススルフォスクシニミヂルスクシネート等の2価試薬を加えて反応させることにより、リポソーム膜上のジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン等の脂質に2価試薬を結合させ、次いでトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを、該2価試薬の一方の結合手と反応させることにより、リポソーム表面にトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを結合せしめる。
リポソーム表面に親水性化合物を結合させる場合、リポソーム1粒子当り1〜500000分子、好ましくは1〜50000分子である。
このように、リポソームを親水性化処理したリポソームは、生体内で極めて安定であり、後述のように標的指向性を有する糖鎖を結合しなくても、生体内での半減期が長いためドラッグデリバリーシステムにおけるドラッグ担体として好適に用いることができる。本発明は、表面を低分子化合物で親水性化したリポソームをも包含する。
本発明は、上記の親水性化化合物を用いて親水性化した糖鎖の結合していないリポソームそのものをも包含する。このような親水性化したリポソームは、リポソーム自体の安定性が高まり、また糖鎖を結合したときに糖鎖の認識性が高まるという利点がある。
本発明においては、上記のようにして作製したリポソームに、上記の糖鎖のいずれかを直接結合させてもよいし、さらに、糖鎖をリンカー蛋白質を介して結合させてもよい。この際、リポソームに結合させる糖鎖の種類は1種類に限らず、複数の糖鎖を結合させてもよい。この場合の複数の糖鎖は同じ組織または器官の細胞表面に共通して存在する異なるレクチンに対して結合活性を有する複数の糖鎖であってもよいし、異なる組織または器官の細胞表面に存在する異なるレクチンに対して結合活性を有する糖鎖であってもよい。前者のような複数の糖鎖を選択することにより、特定の標的組織または器官を確実に指向することができ、後者のような複数の糖鎖を選択することにより、1種類のリポソームに複数の標的を指向させることができ、マルチパーパスな標的指向性リポソームを得ることができる。
なお、糖鎖をリポソームに結合させるには、リポソームの製造時にリンカー蛋白質および/または糖鎖を混合し、リポソームを製造させつつ糖鎖をその表面に結合させることも可能であるが、あらかじめリポソーム、リンカー蛋白質および糖鎖を別途準備し、製造が完了したリポソームにリンカー蛋白質および/または糖鎖を結合させたほうが望ましい。これは、リポソームにリンカー蛋白質および/または糖鎖を結合させることにより、結合させる糖鎖の密度を制御できるからである。
糖鎖のリポソームへの直接結合は、以下に述べるような方法で行うことができる。
糖鎖を糖脂質として混合してリポソームを製造するか、製造後のリポソームのリン脂質に糖鎖を結合するとともに糖鎖密度を制御する。
リンカー蛋白質を用いて糖鎖を結合させる場合、リンカー蛋白質としては、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)等の動物の血清アルブミンが挙げられるが、特にヒト血清アルブミンを使用する場合は、各組織に対する取り込みが多いことがマウスについての実験により確かめられている。
また、後述のように、本発明の標的指向性リポソームを医薬として用いる場合、該リポソームは医薬効果を有する化合物を含んでいる必要がある。該医薬効果を有する化合物は、リポソーム中に封入させるか、あるいはリポソーム表面に結合させればよい。
糖鎖をリンカー蛋白質を介してリポソームへ結合させるには以下に述べる方法で行えばよい。
まずリポソーム表面に蛋白質を結合させる。リポソームを、NaIO、Pb(OCCH、NaBiO等の酸化剤で処理して、リポソーム膜面に存在するガングリオシドを酸化し、次いで、NaBHCN、NaBH等の試薬を用いて、リンカー蛋白質とリポソーム膜面上のガングリオシドを、還元的アミノ化反応により結合させる。このリンカー蛋白質も、親水性化するのが好ましく、これにはリンカー蛋白質にヒドロキシ基を有する化合物を結合させるが、例えば、ビススルフォスクシニミヂルスベラート、ジスクシニミヂルグルタレート、ジチオビススクシニミヂルプロピオネート、ジスクシニミヂルスベラート、3,3’−ジチオビススルフォスクシニミヂルプロピオネート、エチレングリコールビススクシニミヂルスクシネート、エチレングリコールビススルフォスクシニミヂルスクシネート等の2価試薬を用いて、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンをリポソーム上のリンカー蛋白質と結合させればよい。
これを具体的に述べると、まず、リンカー蛋白質の全てのアミノ基に架橋用2価試薬の一端を結合する。そして、各種糖鎖の還元末端をグリコシルアミノ化反応して得られる糖鎖グリコシルアミン化合物を調製し、この糖鎖のアミノ基とリポソーム上の上記で結合された架橋2価試薬の一部分の他の未反応末端とを結合する。
次に、このようにして得られる糖鎖結合リポソーム膜面上蛋白質の表面に糖鎖が結合していない未反応で残っている大部分の2価試薬未反応末端を用いて親水性化処理を行う。つまり、このリポソーム上蛋白質に結合している2価試薬の未反応末端とトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の上述の親水性化に用いる化合物との結合反応を行い、リポソーム表面全体を親水性化する。
リポソーム表面およびリンカー蛋白質の親水性化は、各種組織への移行性、および血中における滞留性および各種組織への移行性を向上させる。これは、リポソーム表面およびリンカー蛋白質表面が親水性化されることによって、糖鎖以外の部分が、各組織等においてはあたかも生体内水分であるかのようにみえ、これにより、標的以外の組織等に認識されず、糖鎖のみがその標的組織のレクチン(糖鎖認識蛋白質)により認識されることに起因するものと思われる。
次いで、糖鎖をリポソーム上のリンカー蛋白質に結合させる。これには、糖鎖を構成する糖類の還元末端を、NHHCO、NHCOONH等のアンモニウム塩を用いてグリコシルアミノ化し、次いで、ビススルフォスクシニミヂルスベラート、ジスクシニミヂルグルタレート、ジチオビススクシニミヂルプロピオネート、ジスクシニミヂルスベラート、3,3’−ジチオビススルフォスクシニミヂルプロピオネート、エチレングリコールビススクシニミヂルスクシネート、エチレングリコールビススルフォスクシニミヂルスクシネート等の2価試薬を用いて、リポソーム膜面上に結合したリンカー蛋白質と、上記グリコシルアミノ化された糖類とを結合させ、図1〜22に示されるようなリポソームを得る。なお、これらの糖鎖は市販されている。
本発明のリポソームの粒径は、30〜500nm、好ましくは50〜300nm、さらに好ましくは70〜150nmである。また、ゼータ電位は、−50〜10mV、好ましくは−40〜0mV、さらに好ましくは−30〜−10mVである。本発明の医薬組成物に含まれるリポソーム製造の過程において、表面に何も結合していないリポソーム、親水性化されておらず糖鎖が結合したリポソーム、糖鎖が結合しておらず親水性化されたリポソームおよび親水性化され糖鎖が結合したリポソームの4つの態様のリポソームが存在し得るが、これらの4つの態様のリポソームが生理食塩水などの等張液において前記粒径の範囲およびゼータ電位の範囲に包含される。
さらに、糖鎖を結合させた場合の糖鎖の結合密度は、リポソームに結合させるリンカー蛋白質1分子当り1〜60個、好ましくは1〜40個、さらに好ましくは1〜20個である。また、リポソーム1粒子当りは、リンカー蛋白質を用いる場合は、1〜30000個、好ましくは1〜20000個、さらに好ましくは1〜10000個、あるいは100〜30000個、好ましくは100〜20000個、さらに好ましくは100〜10000個、あるいは500〜30000個、好ましくは500〜20000個、さらに好ましくは500〜10000個である。リンカー蛋白質を用いない場合は、リポソーム1粒子当り最高1〜500000個、好ましくは1〜300000個、さらに好ましくは1〜100000個以上の糖鎖を結合させることができる。
(2)本発明の標的指向性リポソームを含む炎症性疾患治療用組成物
本発明は、上記シアリルルイスX型糖鎖またはこれと同様にE−セレクチン、P−セレクチン等に反応することができる糖鎖を糖鎖の種類および密度を制御して表面に結合した標的指向性リポソームを含む炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物を包含する。さらに、本発明は親水性化化合物を用いて親水性化した糖鎖の結合していないリポソームを含む炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物を包含する。
本発明の、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物が対象とする炎症性疾患としては、限定されないが、脳炎、炎症性眼疾患、耳炎、咽頭炎、肺炎、胃炎、腸炎、肝炎、膵炎、腎炎、膀胱炎、尿道炎、子宮体炎、膣炎、関節炎、末梢神経炎などの一般的炎症性疾患が挙げられ、さらに悪性腫瘍、感染性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患(リウマチ、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシスなど)、虚血性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)、代謝性疾患(糖尿病、痛風など)、外傷・熱傷・化学腐食、神経変性疾患(アルツハイマー病など)などの続発的に炎症を引き起こす炎症性疾患が挙げられる。炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物が適応できる対象器官、組織も限定されず動物のあらゆる器官および組織を対象とし得る。また、炎症性眼疾患としては、限定されないが、ぶどう膜炎を含む内眼炎、糖尿病網膜症、血管新生黄斑症、アレルギー性結膜炎、眼窩および眼内腫瘍、視神経炎、強膜炎(後部強膜炎を含む)等が挙げられる。
本発明の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物が含む標的指向性リポソームは、炎症性疾患治療用の医薬効果を有する化合物を含み、それらの化合物は限定されないが、副腎皮質ホルモン、抗炎症薬、免疫抑制剤、抗がん剤、抗菌薬、抗ウイルス薬、血管新生抑制剤、サイトカインやケモカイン、抗サイトカイン抗体や抗ケモカイン抗体、抗サイトカイン・ケモカイン受容体抗体、siRNAやDNAなどの遺伝子治療関連の核酸製剤、神経保護因子等が挙げられる。
副腎皮質ホルモンとしては、コルチゾール、コルチゾン等の天然副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)や、プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロン、デキサメサゾン、リン酸デキサメサゾン、ベタメサゾン、フルオシノロンアセトニド、トリアムシノロンや等の合成副腎皮質ホルモンが挙げられる。また、その他の抗炎症薬として、アスピリンなどのサリチル酸類、インドメタシンなどのインドール酢酸誘導体、ジクロフェナク等のフェニル酢酸誘導体、メフェナム酸などのフェナム酢酸誘導体が挙げられる。さらに、エトドラク、メロキシカム、セレキシコブRofecoxib,MK−0966等の選択的COX−2阻害剤も挙げられる。
本発明において、上述の薬剤にはその誘導体も包含される。
本発明の糖鎖修飾リポソームにこれらの薬剤を含ませて投与した場合、薬剤を単独で投与した場合に比較し、薬剤が炎症部位に集積する。単独投与の場合に比べ、2倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上、特に好ましくは50倍以上集積し得る。
これらの、化合物は、リポソーム中に封入されていても、リポソーム表面に結合していていもよいが、リポソーム中に封入されているのが望ましい。これらの化合物は、その化合物が有する官能基を利用することにより、公知の方法で、結合させることができる。
リポソーム内部への封入は、以下の方法により行う。リポソームへ薬剤等を封入するには、周知の方法を用いればよく、例えば、薬剤等の含有溶液とフォスファチジルコリン類、フォスファチジルエタノールアミン類、フォスファチジン酸類もしくは長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類、糖脂質類もしくはフォスファチジルグリセロール類およびコレステロール類を含む脂質を用いてリポソームを形成することにより、薬剤等はリポソーム内に封入される。
本発明の医薬組成物は、シアリルルイスX型糖鎖またはこれと同様にE−セレクチン、P−セレクチン等に反応することができる糖鎖を糖鎖の種類および密度を制御して表面に結合した標的指向性リポソームまたは親水性化化合物を用いて親水性化した糖鎖の結合していないリポソームの他に薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤等を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、点眼剤等による点眼投与、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬などによる非経口投与を挙げることができる。かかる組成物は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、ゲル化剤、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、本発明の糖鎖結合リポソームを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。
本発明の医薬組成物の投与経路は、限定されず、点眼、経口投与、静脈注射、筋肉注射等がある。投与量は、炎症性疾患の重篤度等により適宜決定できるが、本発明の組成物の医薬的に有効量を患者に投与する。ここで、「医薬的に有効量を投与する」とは、炎症性疾患を治療するのに適切なレベルの薬剤を患者に投与することをいう。本発明の医薬組成物の投与回数は適宜患者の症状に応じて選択される。
また、本発明の医薬組成物を診断用に用いる場合は、リポソームに蛍光色素、放射性化合物等の標識化合物を結合させる。該標識化合物結合リポソームが患部に結合し、標識化合物が患部細胞に取り込まれ、該標識化合物の存在を指標に疾患を検出・診断することができる。
さらに、本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
リポソームの調製
リポソームは既報の手法(Yamazaki,N.,Kodama,M.and Gabius,H.−J.(1994)Methods Enzymol.242,56−65)により、改良型コール酸透析法を用いて調製した。すなわち、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、コレステロール、ジセチルフォスフェート、ガングリオシド及びジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンをモル比でそれぞれ35:40:5:15:5の割合の合計脂質量45.6mgにコール酸ナトリウムを46.9mg添加し、クロロホルム/メタノール溶液3mlに溶解した。この溶液を蒸発させ、沈殿物を真空中で乾燥させることによって脂質膜を得た。得られた脂質膜をTAPS緩衝液(pH8.4)3mlに懸濁、超音波処理して、透明なミセル懸濁液を得た。さらに、ミセル懸濁液をPM10膜(AmiconCo.,USA)とPBS緩衝液(pH7.2)を用いた限外濾過にかけ均一リポソーム(平均粒径100nm)10mlを調製した。
【実施例2】
リポソーム脂質膜面上の親水性化処理
実施例1で調製したリポソーム溶液10mlをXM300膜(Amicon Co.,USA)とCBS緩衝液(pH8.5)を用いた限外濾過にかけ溶液のpHを8.5にした。次に、架橋試薬bis(sulfosuccinimidyl)suberate(BS;Pierce Co.,USA)10mlを加え、25℃で2時間攪拌した。その後、更に7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンとBSとの化学結合反応を完結した。そして、このリポソーム液をXM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過にかけた。次に、CBS緩衝液(pH8.5)1mlに溶かしたtris(hydroxymethyl)aminomethane 40mgをリポソーム液10mlに加えて、25℃で2時間攪拌後、7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質に結合したBSとtris(hydroxymethyl)aminomethaneとの化学結合反応を完結した。これにより、リポソーム膜の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン上にtris(hydroxymethyl)aminomethaneの水酸基が配位して水和親水性化された。
【実施例3】
リポソーム膜面上へのヒト血清アルブミン(HSA)の結合
既報の手法(Yamazaki,N.,Kodama,M.and Gabius,H.−J.(1994)Methods Enzymol.242,56−65)により、カップリング反応法を用いて行った。すなわち、この反応は2段階化学反応で行い、まずはじめに、実施例2で得られた10mlのリポソーム膜面上に存在するガングリオシドを1mlのTAPS緩衝液(pH8.4)に溶かしたメタ過ヨウ素酸ナトリウム43mgを加えて室温で2時間攪拌して過ヨウ素酸酸化した後、XM300膜とPBS緩衝液(pH8.0)で限外濾過することにより酸化されたリポソーム10mlを得た。このリポソーム液に、20mgのヒト血清アルブミン(HSA)を加えて25℃で2時間攪拌し、次にPBS(pH8.0)に2M NaBHCN 100μlを加えて10℃で一晩攪拌してリポソーム上のガングリオシドとHSAとのカップリング反応でHSAを結合した。そして、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過をした後、HSA結合リポソーム液10mlを得た。
【実施例4】
リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上へのルイスX型三糖鎖、シアリルルイスX型四糖鎖、3’−シアリルラクトサミン三糖鎖、6’−シアリルラクトサミン三糖鎖、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3マンノビオース二糖鎖、アルファ1,4マンノビオース二糖鎖、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖鎖、オリゴマンノース3五糖鎖、オリゴマンノース4b六糖鎖、オリゴマンノース5七糖鎖、オリゴマンノース6八糖鎖、オリゴマンノース7九糖鎖、オリゴマンノース8十糖鎖またはオリゴマンノース9十一糖鎖の結合
ルイスX型三糖鎖(CalbioChem Co.,USA)50μgを0.25gのNHHCOを溶かした0.5ml水溶液に加え、37℃で3日間攪拌した後、0.45μmのフィルターで濾過して糖鎖の還元末端のアミノ化反応を完結してルイスX型三糖鎖のグリコシルアミン化合物50μgを得た。次に、実施例3で得たリポソーム液の一部分1mlに架橋試薬3,3’−dithiobis(sulfosuccinimidyl propionate(DTSSP;Pierce Co.,USA)1mgを加えて25℃で2時間、続いて7℃で一晩攪拌し、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過してDTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム1mlを得た。次に、このリポソーム液に上記のルイスX型三糖鎖のグリコシルアミン化合物50μgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにルイスX型三糖鎖の結合を行った。その結果、図1で示されるルイスX型三糖鎖とヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリポソーム2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg、平均粒径100nm)が得られた。他の糖鎖結合リポソームも用いる糖鎖を変えて同様の方法で作製した。これらの糖鎖結合リポソームは、図2から16に示した。
【実施例5】
リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上へのラクトース二糖鎖、2’−フコシルラクトース三糖鎖、ジフコシルラクトース四糖類、3−フコシルラクトース三糖鎖、3’−シアリルラクトース三糖鎖、6’−シアリルラクトース三糖鎖、3’−シアリルラクトサミン三糖鎖または6’−シアリルラクトサミン三糖鎖の結合(糖鎖結合量が異なるもの3種類)
ラクトース二糖鎖(Wako Pure Chemical Co.,Japan)( 1)50μg、又は、2)200μg、又は、3)1mg)を0.25gのNHHCOを溶かした0.5ml水溶液に加え、37℃で3日間攪拌した後、0.45μmのフィルターで濾過して糖鎖の還元末端のアミノ化反応を完結してラクトース二糖鎖のグリコシルアミン化合物50μgを得た。次に、実施例3で得たリポソーム液の一部分1mlに架橋試薬3,3’−dithiobis(sulfosuccinimidyl propionate(DTSSP;Pierce Co.,USA)1mgを加えて25℃で2時間、続いて7℃で一晩攪拌し、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過してDTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム1mlを得た。次に、このリポソーム液に上記のラクトース二糖鎖のグリコシルアミン化合物50μgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにラクトース二糖鎖の結合を行った。その結果、糖鎖結合量が異なるもの3種類の図17で示されるラクトース二糖鎖とヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリポソーム各2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg、平均粒径100nm)が得られた。他の糖鎖結合リポソームも用いる糖鎖を変えて同様の方法で作製した。他の糖鎖結合リポソームの構造を図3、4および18〜22に示す。
【実施例6】
リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上へのtris(hydroxymethyl)aminomethaneの結合
比較試料としてのリポソームを調製するために、実施例3で得たリポソーム液の一部分1mlに架橋試薬3,3’−dithiobis(sulfosuccinimidyl propionate(DTSSP;Pierce Co.,USA)1mgを加えて25℃で2時間、続いて7℃で一晩攪拌し、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過してDTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム1mlを得た。次に、このリポソーム液にtris(hydroxymethyl)aminomethane(Wako Co.,Japan)13mgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにtris(hydroxymethyl)aminomethaneの結合を行った。その結果、図25で示されるtris(hydroxymethyl)aminomethaneとヒト血清アルブミンとリポソームとが結合した比較試料としてのリポソーム2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg、平均粒径100nm)が得られた。
【実施例7】
リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上の親水性化処理
実施例4または5の手段により調整されたリポソームについて、以下の手順によりリポソーム上のHSA蛋白質表面の親水性化処理を行った。糖鎖結合リポソーム2mlに、tris(hydroxymethyl)aminomethane13mgを加えて、25℃で2時間、その後7℃で一晩攪拌した後、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過し未反応物を除去して、最終産物である親水性化処理された糖鎖結合リポソーム複合体各2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg、平均粒径100nm)を得た。
【実施例8】
各種の糖鎖結合リポソーム複合体によるレクチン結合活性阻害効果の測定
実施例5及び6の手段により調製した各12種の糖鎖結合リポソーム複合体のin vitroでのレクチン結合活性は、常法(Yamazaki,N.(1999)Drug Delivery System,14,498−505)に従いレクチン固定化マイクロプレートを用いた阻害実験で測定した。すなわち、レクチン(E−selectin;R&D Systems Co.,USA)を96穴マイクロプレートに固化定した。このレクチン固定化プレートに、比較リガンドであるビオチン化したフコシル化フェチュイン0.1μgとともに、濃度の異なる各種の糖鎖結合リポソーム複合体(蛋白質量として、0.01μg、0.04μg、0.11μg、0.33μg、1μg)を加え、4℃で2時間インキュベートした。PBS(pH7.2)で3回洗浄した後、horseradish peroxidase(HRPO)結合ストレプトアビジンを添加し、さらに4℃で1時間インキュベート、PBS(pH7.2)で3回洗浄し、ペルオキシダーゼ基質を添加して室温で静置、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Molecular Devices Corp.,USA)で測定した。フコシル化フェチュインのビオチン化は、sulfo−NHS−biotin reagent(Pierce Co.,USA)処理後、Centricon−30(Amicon Co.,USA)により精製した。HRPO結合ストレプトアビジンは、HRPOの酸化とNaBHCNを用いた還元アミノ化法によるストレプトアビジンの結合により調製した。この測定結果を表1から4に示す。
表中のリポソーム複合体の記号は、リポソームに以下の糖鎖が結合していることを示す。
LX:ルイスX型三糖鎖
SLX:シアリルルイスX型四糖鎖
3SLN:3’−シアリルラクトサミン三糖鎖
6SLN:6’−シアリルラクトサミン三糖鎖
A2:アルファ1,2マンノビオース二糖鎖
A3:アルファ1,3マンノビオース二糖鎖
A4:アルファ1,4マンノビオース二糖鎖
A6:アルファ1,6マンノビオース二糖鎖
A36:アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖鎖
Man3:オリゴマンノース3五糖鎖
Man46:オリゴマンノース4b六糖鎖
Man5:オリゴマンノース5七糖鎖
Man6:オリゴマンノース6八糖鎖
Man7:オリゴマンノース7九糖鎖
Man8:オリゴマンノース8十糖鎖
Man9:オリゴマンノース9十一糖鎖
LAC:ラクトース二糖鎖
FL:2’−フコシルラクトース三糖鎖
DFL:ジフコシルラクトース四糖類
FL:3−フコシルラクトース三糖鎖
3SL:3’−シアリルラクトース三糖鎖
6SL:6’−シアリルラクトース三糖鎖
3SLN:3’−シアリルラクトサミン三糖鎖
6SLN:6’−シアリルラクトサミン三糖鎖
表に示すように、各リポソームはレクチンとの結合活性を有しており、このことは糖鎖が結合していることを示している。





【実施例9】
ぶどう膜炎モデルマウスの作成
実験的ぶどう膜炎(Experimental Autoimmune Uveoretinitis:以下EAU)モデルマウスの作出には、以下の材料を用いた。
実験動物:C57BL/6マウス(雌、8週齢)
接種抗原:ヒト網膜特異的蛋白IRBP(Interphotoreceptor Retinoid Binding Protein)
合成ペプチド 配列 GPTHLFQPSLVLDMAKVLLD(1−20)
アジュバンド:結核(H37RA)死菌6mg/ml含有complete Freund’s adjuvant(CFA)
増幅効果剤:百日咳毒素(Purified Bordetella pertussis toxin(PTX))
ペプチド水溶液とアジュバントを容積比で1:1に混和し乳濁液として調製する。8週齢のC57BL/6雌マウスに1匹あたり、足背皮下50μg・鼠径部皮下50μg、合計200μg接種する。1匹あたり100mgの百日咳毒素を追加アジュバントとして腹腔内投与する。EAU発症の程度は、0.5%トロピカミド・0.5%塩酸フェニレフリンにより瞳孔を散大させ眼底観察することにより評価した。
結果は図24に提示する。EAUは投与16日目をピークに発症した。
ペプチド投与後16日目において炎症細胞が脈絡膜、網膜、硝子体腔に浸潤しているのが観察できる。
本方法でヒトの内眼炎モデルであるEAUが作成されていることが確認された。
【実施例10】
リポソームの生体内動態検討
投与リポソームは、上記実施例で作製した糖鎖結合リポソームのうち、シアリルルイスX糖鎖結合リポソーム(以下糖鎖+リポソーム)および糖鎖の結合していないリポソーム(以下糖鎖−リポソーム)であった。
EAUマウスおよび正常マウスに対し、糖鎖+リポソーム、糖鎖−リポソームをそれぞれ投与し、マウスの各臓器へのリポソームの集積を評価することを目的として行った。
ペプチド投与16日目にEAU発症を確認したEAUマウスおよび正常マウスを用意する。あらかじめ50μg/mlに調製したリポソーム溶液をマウスの尾静脈より静注し、静注後ヘパリン生食で脱血還流の後、全各臓器を摘出した。各臓器は1%TritonX溶液とHG30ホモゲナイザー(日立工機)を用いて組織ホモジネートとして調製の後、100%メタノールとクロロホルムを用いて組織ホモジネートに含まれるリポソームを抽出した。リポソーム量は、リポソームに結合したFITCの蛍光強度を蛍光マイクロプレートリーダーBiolumin960(モレキュラーダイナミック社)を用いて行い、490nmのexitationと520nmのemissionで計測した。
リポソーム投与後、眼において集積の時間経過を調べた。その結果30分をピークにして集積することが明らかとなった。従って、各臓器での集積検討はリポソーム投与30分後に時間設定して行った。結果は図25Aおよび図25Bに提示する。図25Aは集積量で示し、図25Bは、正常マウスに対する相対値%で示す。まず、正常マウスでは各臓器において糖鎖+リポソームと糖鎖−リポソームの集積に差は認めない。一方、EAUマウスの眼では糖鎖+リポソームは正常マウスの眼の6倍の集積を認めた。しかし糖鎖−リポソームではEAUマウスの眼への集積は正常マウスに比較し1.5倍にとどまっている。EAUマウスの眼以外の臓器においては糖鎖+リポソームと糖鎖−リポソームの集積に著明な差は認めず、その値は正常マウスのそれと比較してもほぼ同程度であった。
炎症を起こした眼でのみリポソームの取り込みの増加を認めた。糖鎖−リポソームがEAUマウスの眼で正常マウスの眼の1.5倍の取り込みを認めたのは血管内皮細胞間隙の拡大によるものと考えられる(passive transport)。一方、糖鎖+リポソームがEAUマウスの眼で正常マウスの眼の6倍の集積(すなわち糖鎖−リポソームと比較して約4倍の集積)を認めたことは炎症部位に発現したE−セレクチン、P−セレクチンを標的としたためと考えられる(activetransport)。
【実施例11】
リポソームの炎症部位への集積
炎症臓器(眼)のどの部位にリポソームの集積が生じるかを評価することを目的として行った。
ペプチド免疫後16日目のEAU発症マウスの尾静脈よりリポソームを投与。30分後にマウス眼球を摘出しそのままOCTコンパウンドに包埋・凍結した。クライオトームを用いて6〜8um凍結切片を作製しAxioVision(カールツァイス社)を用いて観察した。
結果は図26に提示する。EAUマウスに糖鎖+リポソームを投与すると、投与後5分において強膜に集積が認められ、7分において脈絡膜の脈絡膜毛細管板に当たる部位に細い1筋の集積が認められる。投与後10分ではその集積ラインが拡大しているのが観察できる。30分では、集積ラインは薄まり、周囲の組織への蛍光物質の拡散が観察できる(図26)。一方、糖鎖−リポソームでは集積ラインの形成は認められず、30分においても明らかな蛍光物質の貯留、拡散は観察できない(図26−F)。また、正常マウスにおいてはいずれのリポソームにおいても蛍光物質は確認できない(図27)。
血管の最も豊富な脈絡膜毛細管板から糖鎖+リポソームの集積が開始され、時間とともに周囲の組織に拡散していくというリポソームの炎症部位での動態があきらかとなった。これは糖鎖+リポソームが炎症部位の血管に発現しているE−セレクチン、P−セレクチンを標的として集積し、その後、炎症により拡大した血管内皮細胞間隙を通って周囲組織に拡散していったものと考えることができる。一方、糖鎖−リポソームで明確な蛍光色素が観察できなかったのは、このリポソームの炎症部位への集積がpassive transportであるため、糖鎖+リポソームのように標的となって集積する部位がなく、個々ばらばらに組織に拡散していくためと考えられる。
【実施例12】
E−セレクチン、P−セレクチンの発現
E−セレクチン、P−セレクチンがEAUマウス眼において確かに発現しているのか、そしてその発現部位が糖鎖+リポソームが最初に集積した集積ラインと一致しているかを確認することを目的として行った。
EAU発症マウス、正常マウスを準備する。眼球摘出後4%グルタルアルデヒドで固定し30%シュクロースPBSで脱水した眼球をOCTコンパウンドに包埋・凍結する。
(1)蛍光抗体法による検出:14から16μmの凍結切片を用いて、ブロッキングの後、抗マウスE−selectin1次抗体(ポリクローナル抗体:ヤギ)を反応させる。FITC結合の抗ヤギIgG二次抗体によりシグナルを検出した。
(2)酵素抗体法による検出:抗マウスE−selectinおよびP−selectin1次抗体(ポリクローナル抗体:ヤギ)による反応は蛍光抗体法と同様に行い、二次抗体反応は、VECTASTAIN(登録商標)ABC−AP kitおよびVector(登録商標)Red Alkaline Phosphatase Substrate kit Iを用いて行った。
どちらの検出方法においても、免疫染色の特異性を確認するために、抗体を購入した会社からそれぞれの抗体作成に使用したペプチドを購入し、ブロッキングペプチドとして用い染色が消失するかいなかを確認した。
結果は図28および29に提示する。E−セレクチン、P−セレクチンともに糖鎖+リポソームの集積ラインに一致した部位で強く発現していることが観察できた。また、使用した抗体に対する中和ペプチドにより染色が消失したことはこの免疫染色の特異性を示すものと考えられた。一方、正常マウスではE−セレクチン、P−セレクチンともに発現を認めなかった。
EAUマウスにおけるE−セレクチン、P−セレクチンの発現部位と糖鎖+リポソームの集積部位が一致したことは、このリポソームの標的がE−セレクチン、P−セレクチンであるという理論を支持するものである。
【実施例13】
E−セレクチンとP−セレクチンの抗体投与による糖鎖+リポソームの集積阻害
糖鎖+リポソームの標的分子が確かにE−セレクチンとP−セレクチンであることを示すことを目的として行った。
EAU発症マウスの尾静脈より抗マウスE−selectin抗体200μg、抗マウスP−selectin抗体200μgを同時投与し4時間待ち、受容体を中和する。コントロールとして、EAU発症マウスの尾静脈より400μgのアイソタイプIgGを投与したものを用意する。投与4時間後、糖鎖+リポソームを尾静脈より投与し10分後眼球摘出し凍結標本を作製する。6〜8μmの凍結切片を作製しAxioVisionを用いて、リガンド−受容体特異的結合が阻害されるか解析する。
結果を図30に提示する。E−セレクチンとP−セレクチンの抗体を同時にEAUマウスに投与することで糖鎖+リポソームの集積を阻害することができた。アイソタイプIgGの投与では集積を阻害することはできなかった。また、E−セレクチンとP−セレクチンのそれぞれの抗体単独投与では完全には集積を阻害することはできなかった。
この結果と、実施例11で示した結果を併せて考えると、糖鎖+リポソームの標的はE−セレクチンとP−セレクチンであると結論できる。
以上の実験結果より、シアリルルイスX糖鎖結合リポソームはE−セレクチンとP−セレクチンを多く発現している病巣部位特異的に薬剤をデリバーできることが示された。
実施例14 リン酸プレドニゾロン封入リポソームの調製
(1) リン酸プレドニゾロン封入リポソームの調製と封入薬物定量と保存安定性
リポソームはコール酸透析法を用いて調製した。すなわち、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、コレステロール、ジセチルフォスフェート、ガングリオシド及びジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンをモル比でそれぞれ35:40:5:15:5の割合で合計脂質量45.6mgになるように混合し、コール酸ナトリウム46.9mg添加し、クロロホルム/メタノール溶液3mlに溶解した。この溶液を蒸発させ、沈殿物を真空中で乾燥させることによって脂質膜を得た。得られた脂質膜をTAPS緩衝液(pH8.4)3mlに懸濁、超音波処理し、透明なミセル懸濁液3mlを得た。このミセル懸濁液にPBS緩衝液(pH7.2)を加えて5mlにしてから、更にTAPS緩衝液(pH8.4)で2250mg/6mlになるよう完全に溶解したリン酸プレドニゾロンを攪拌しながらゆっくりと滴下して均一に混合した後、このリン酸プレドニゾロン入りミセル懸濁液をPM10膜(AmiconCo.,USA)とTAPS緩衝液(pH8.4)を用いた限外濾過にかけ均一なリン酸プレドニゾロン封入リポソーム10mlを調製した。得られた生理食塩懸濁液中(37℃)のリン酸プレドニゾロン封入リポソーム粒子の粒子径とゼータ電位をゼータ電位・粒子径・分子量測定装置(Model Nano ZS,Malvern Instruments Ltd.,UK)により測定した結果、粒子径は50〜350nm、ゼータ電位は−30〜−10mVであった。このリポソームの封入薬物量を吸光度260nmで測定するとおよそ280μg/mlの濃度でリン酸プレドニゾロンが封入されていることがわかった。このリン酸プレドニゾロン封入リポソームは、冷蔵庫中に1年間保存した後にも沈殿や凝集を起こすことなく安定であった。
(2) リン酸プレドニゾロン封入リポソーム脂質膜面上の親水性化処理
(1)で調製したリン酸プレドニゾロン封入リポソーム溶液10mlをXM300膜(Amicon Co.,USA)とCBS緩衝液(pH8.5)を用いた限外濾過にかけ溶液のpHを8.5にした。次に、架橋試薬bis(sulfosuccinimidyl)suberate(BS3;Pierce Co.,USA)10mlを加え、25℃で2時間攪拌した。その後、更に7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンとBS3との化学結合反応を完結した。そして、このリポソーム液をXM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過にかけた。次に、CBS緩衝液(pH8.5)1mlに溶かしたtris(hydroxymethyl)aminomethane40mgをリポソーム液10mlに加えて、25℃で2時間攪拌後、7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質に結合したBS3とtris(hydroxymethyl)aminomethaneとの化学結合反応を完結した。これにより、抗癌剤ドキソルビシン封入リポソーム膜の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン上にtris(hydroxymethyl)aminomethaneの水酸基が配位して水和親水性化された。
(3) リン酸プレドニゾロン封入リポソーム膜面上へのヒト血清アルブミン(HSA)の結合
既報の手法(Yamazaki,N.,Kodama,M.and Gabius,H.−J.(1994)Methods Enzymol.242,56−65)により、カップリング反応法を用いて行った。すなわち、この反応は2段階化学反応で行い、まずはじめに、(2)で得られた10mlのリポソーム膜面上に存在するガングリオシドを1mlのTAPS緩衝液(pH8.4)に溶かしたメタ過ヨウ素酸ナトリウム43mgを加えて室温で2時間攪拌して過ヨウ素酸酸化した後、XM300膜とPBS緩衝液(pH8.0)で限外濾過することにより酸化されたリポソーム10mlを得た。このリポソーム液に、20mgのヒト血清アルブミン(HSA)を加えて25℃で2時間攪拌し、次にPBS(pH8.0)に2M NaBHCN 100μlを加えて10℃で一晩攪拌してリポソーム上のガングリオシドとHSAとのカップリング反応でHSAを結合した。そして、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過をした後、HSA結合リン酸プレドニゾロン封入リポソーム液10mlを得た。
(4) リン酸プレドニゾロン封入リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上へのシアリルルイスX型四糖鎖の結合とリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理
シアリルルイスX型四糖鎖(Calbiochem Co.,USA)50μgを0.25gのNHHCOを溶かした0.5ml水溶液に加え、37℃で3日間攪拌した後、0.45μmのフィルターで濾過して糖鎖の還元末端のアミノ化反応を完結してシアリルルイスX型四糖鎖のグリコシルアミン化合物50μgを得た。次に、(3)で得たリン酸プレドニゾロン封入リポソーム液の一部分1mlに架橋試薬3,3’−dithiobis(sulfosuccinimidyl)propionate(DTSSP;Pierce Co.,USA)1mgを加えて25℃で2時間、続いて7℃で一晩攪拌し、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過してDTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム1mlを得た。次に、このリポソーム液に上記のシアリルルイスX型四糖鎖のグリコシルアミン化合物50μgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにシアリルルイスX型四糖鎖の結合を行った。次に、このリポソーム液にtris(hydroxymethyl)aminomethane(Wako Co.,Japan)13mgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにtris(hydroxymethyl)aminomethaneの結合を行った。その結果、tris(hydroxymethyl)aminomethaneとヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理をしたリポソームを得た。その結果、シアリルルイスX型四糖鎖とヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理をしたリン酸プレドニゾロンン封入リポソーム2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg)が得られた。得られた生理食塩懸濁液中(37℃)のリン酸プレドニゾロン封入リポソーム粒子の粒子径とゼータ電位をゼータ電位・粒子径・分子量測定装置(Model Nano ZS,Malvern Instruments Ltd.,UK)により測定した結果、粒子径は50〜350nm、ゼータ電位は−30〜−10mVであった。
(5) リン酸プレドニゾロン封入リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上へのtris(hydroxymethyl)aminomethaneの結合によるリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理
比較試料としてのリン酸プレドニゾロン封入リポソーム(糖鎖を付けないもの)を調製するために、(3)で得たリン酸プレドニゾロン封入リポソーム液の一部分1mlに架橋試薬3,3’−dithiobis(sulfosuccinimidyl)propionate(DTSSP;Pierce Co.,USA)1mgを加えて25℃で2時間、続いて7℃で一晩攪拌し、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過してDTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理リポソーム1mlを得た。次に、このリポソーム液にtris(hydroxymethyl)aminomethane(Wako Co.,Japan)13mgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにtris(hydroxymethyl)aminomethaneの結合を行った。その結果、tris(hydroxymethyl)aminomethaneとヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理をした比較試料としてのリン酸プレドニゾロン封入リポソーム(糖鎖を付けないもの)2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg)が得られた。得られた生理食塩懸濁液中(37℃)のリン酸プレドニゾロン封入リポソーム粒子(糖鎖を付けないもの)の粒子径とゼータ電位をゼータ電位・粒子径・分子量測定装置(Model Nano ZS,Malvern Instruments Ltd.,UK)により測定した結果、粒子径は50〜350nm、ゼータ電位は−30〜−10mVであった。
本実施例で作製したリポソームを以下の実施例15および16の検討に用いた。
実施例15 炎症部位への薬剤集積効果
EAU発症マウスの各臓器におけるE−セレクチンの発現を検討することを目的として行った。
リン酸プレドニゾロン1mgをマウス尾静脈から投与し、E−セレクチンの発現を認めた臓器において、1時間後の各臓器における単位重量あたりのプレドニゾロン濃度をHPLCにて測定した。次いで、今回開発したE−セレクチン標的指向性のシアリルルイスX糖鎖付きリポソーム(以下糖鎖付きリポソーム)にリン酸ブレドニゾロンを内包させたものを投与(リン酸プレドニゾロン合計5μg)し、1時間後の各臓器における単位重量あたりのプレドニゾロン濃度をHPLCにて測定した。
以下の結果が得られた。
1.EAU発症マウスにおいては、眼以外に腸においてE−セレクチンの発現を認めた。それ以外の臓器には発現を認めなかった。
2.リン酸プレドニゾロンを単独で1mg投与した場合、眼には100ng、腸には500ng集積していた。一方、糖鎖付きリポソーム(リン酸プレドニゾロン合計5μg内包)を投与した場合、眼には25ng、腸には2000ng集積していた。
本実施例の結果は、リン酸プレドニゾロンを単独で1mg投与するのと同等の効果を炎症部位において得るのに、糖鎖付きリポソームを用いると、眼の炎症ではリン酸プレドニゾロン20μgで可能であり、腸ではわずか1.25μgで可能であることを示している。つまり、この糖鎖付きリポソームをデリバリーシステムとして用いると、眼では50倍の、腸では800倍の集積効果が得られることになる。
また、本実施例では、リン酸プレドニゾロンを投与して、測定はプレドニゾロンで測っている。リン酸プレドニゾロンは細胞内に取り込まれると、リン酸基が外れてプレドニゾロンになるので、今回の結果は、糖鎖付きリポソームで投与したリン酸プレドニゾロンが細胞内に取り込まれ、代謝されていることも同時に示している。
EAU発症マウスの実験を総括すると、この糖鎖付きリポソームはE,P−セレクチンを選択的に標的としたものであり、最大800倍の集積効果を発揮するという従来には見られなかった高精度の標的指向性を有することがあきらかとなった。また、この糖鎖付きリポソームに内包された薬剤が細胞内で代謝されていることも確認できた。以上より、本糖鎖付きリポソームを用いたドラッグデリバリーシステムは、いままでの臨床医学で用いられていた薬剤効果を得るのに、投与する薬剤量を数百分の一に減量することができ、最大限の薬剤効果と最小限の副作用を可能にするものであると結論できる。
実施例16 標的指向性リポゾームによるリュウマチ性関節炎の治療の検討
(1)RAモデルマウスの作成
RAマウスモデルとしてタイプIIコラーゲン誘導関節炎(Collagen type II induced arthritis以下CIA)モデルを作成した。用いたマウス、試薬類は以下の通りである。
実験動物:DBA/1Jマウス(8週齢、雄)
接種抗原:牛コラーゲン タイプII
アジュヴァント:結核死菌(H37Ra,2mg/ml)含有complete Freund’s adjuvant(CFA),結核死菌を含まないincomplete Freund’s adjuvant(IFA)
コラーゲン水溶液とCFAを容積比2:1で混和し、100μLにコラーゲンを200μg含有する乳濁液を調整、これをマウスの尾底部皮下へ注射した(Day0)。処置21日後(Day21)コラーゲン水溶液とIFAを容積比2:1で混和し、100μLにコラーゲンを200μg含有する乳濁液を調整し、再度マウス尾底部皮下へ注射した。
処置後3回/週の頻度でマウスの四肢を観察、以下の基準によりポイント化して炎症の定量化をした。それぞれの肢において、正常:0ポイント、軽度炎症又は発赤:1ポイント、重度発赤、腫脹又は使用の抑制:2ポイント、手掌、足底部及び関節部の変形:3ポイント(最低は0ポイント、最高で12ポイントとなる。)このポイントを以下の式で処理してInflammatory Activity(以下IA)を求めた。
Inflammatory Activity(%)=四肢の全てのポイント数/12x100
以下の結果が得られた。
Day21から数日で後肢指に発赤が確認できるマウスが増加してきた。Day28でマウスのIAは16.7%に、Day39で50%に達した。図31に炎症を起こしたマウスの四肢の写真を提示する。CIAマウス関節炎の所見は以下の通りである。A:後肢指間関節の腫脹(第二指、矢印)、B:後肢指間関節の腫脹(第四指、矢印)、C:後肢指間関節の発赤(矢印)、D:正常後肢、E:前肢手関節の腫脹(矢印)、F:正常前肢
このように、上記方法によりRAマウスモデルとしてCIAマウスが作成できた。
(2)RAマウスをDDSの静脈内投与により治療する実験
関節炎を起こしているマウスに治療薬を尾静脈から注射して治療が施行された。静脈注射はDay8からDay46の期間で週2回の頻度であった。
Day28で炎症所見のあるマウスを選び、それぞれの群の炎症ポイントの平均が同じになるように4群に分けた。それぞれの群は1)Control:無治療群、2)free Pred:リン酸プレドニゾロンを生理食塩に溶かした水溶液を使用し、リン酸プレドニゾロンの量が一回100μg、週200μg静脈注射した群、3)L−Pred:リン酸プレドニゾロンをリポゾームに包埋、糖鎖を付けないものを使用、リン酸プレドニゾロンの量が一回10μg、週20μg静脈注射した群、4)L−Pred−SLX:リン酸プレドニゾロンをリポゾームに包埋、シアリルルイスX糖鎖を結合させたものを使用、リン酸プレドニゾロンの量が一回10μg、週20μg静脈注射した群、の4群であった。
この4群のマウスの数はControl:6匹、free Pred:7匹、L−Pred:8匹、L−Pred−SLX:8匹であった。
以下の結果が得られた。Controlでは経時的にIAが上昇し、Day46の時点で60%を突破した。free PredではDay37でIAが約50%に達した後平衡状態で推移した。L−PredではDay32からIAが上昇し始めDay46では約40%であった。L−Pred−SLXではIAの大きな上昇は観察されず、全経過を通して20%以下であった(図32)。
この結果より以下のことが判明した。
free Pred群では静脈注射されたリン酸プレドニゾロン量100μg/injectionでは炎症をコントロールするには不十分であり、Control群と比してIAは明らかな差は観られなかった。L−Pred群では静注されたリン酸プレドニゾロン量はfree Pred群の十分の一の10μg/injectionであったが、IAはfree Pred群と同等かそれ以下であった。これはリン酸プレドニゾロンのリポゾーム化が薬剤の血中滞留性を向上させたことにより、薬効が向上した可能性があると思われた。L−Pred−SLX群ではリン酸プレドニゾロン量は同様にfree Pred群の十分の一の10μg/injectionであったが、IAは全く上昇せず炎症の進行は有意に抑制された。これはL−PredとL−Pred−SLXの差、シアリルルイスX糖鎖の有無によってもたらされた効果と考えられた。つまりシアリルルイスX糖鎖によってリポゾームが効果的に炎症部位へ集積した可能性を示していると思われた。
当DDSは炎症部位へ極めて有効に治療薬を分配できる能力があることが証明された。これは炎症疾患の治療において病巣部に治療薬を集中させることにより、治療薬の持つ副作用を抑制または治療薬の薬効を増大せしめる可能性が示唆されたものである。
(3)RAマウスをDDSの経口投与により治療する実験
関節炎を起こしているマウスに治療薬を経口投与して治療が施行された。投与はDay28からDay39の期間で週3回の頻度であった。
Day28で炎症所見のあるマウスを選び、それぞれの群の炎症ポイントの平均がほぼ同じになるように4群に分けた。それぞれの群は1)Control:無治療群、2)free Pred:リン酸プレドニゾロンを生理食塩に溶かした水溶液を使用し、リン酸プレドニゾロンの量が一回100μg、週300μg経口投与した群、3)L−Pred:リン酸プレドニゾロンをリポゾームに包埋、糖鎖を付けないものを使用、リン酸プレドニゾロンの量が一回10μg、週30μg経口投与した群、4)L−Pred−SLX:リン酸プレドニゾロンをリポゾームに包埋、シアリルルイスX糖鎖を結合させたものを使用、リン酸プレドニゾロンの量が一回10μg、週30μg経口投与した群、の4群であった。
この4群のマウスの数はControl:2匹、free Pred:3匹、L−Pred:3匹、L−Pred−SLX:4匹であった。
以下の結果が得られた。
free Pred群はfeeding needleによる胃穿孔で死亡したためDay32で実験中止された。Control群、free Pred群(Day32まで)、L−Pred群ではIAに有意な差は観られなかった。L−Pred−SLX群は炎症の進行を抑えることはできなかったが、Day39でL−Predに比してIAは有意に低かった(図33)。
この結果より以下のことが判明した。
Control、free PredそしてL−Predの3群では有意な差がみられていない。これはfree Pred群では経口投与されたリン酸プレドニゾロン300μg/weekの量が炎症の進行を抑制するのに不十分であったと推測された。またL−Pred群ではリポゾームが腸管で吸収されなかったか、吸収されても経口投与されたリン酸プレドニゾロンの量が30μg/weekであったことを考えると不十分な量であった可能性が高いと思われた。これに対してL−Pred−SLX群ではIAが抑制されていた。これはリポゾームが腸管で吸収され、しかも経口投与リン酸プレドニゾロン量が30μg/weekであることを考えればリン酸プレドニゾロンが糖鎖付きリポゾームのまま炎症部位へ運ばれた可能性を示唆していると思われた。
この結果は当DDSが静脈内投与だけでなく、経口投与でも有効に機能することを示している。さらにリポゾームに包埋されれば、従来では経口吸収が不可能な薬物からでも経口投与可能な製剤がつくれる可能性を示唆するものである。
(4)RAマウス治療においてリン酸プレドニゾロンの適量を求める実験
関節炎を起こしているマウスに治療薬を尾静脈から注射して治療が行われた。静脈注射はDay28からDay46の期間で週2回の頻度であった。
Day28で炎症所見のあるマウスを選び、それぞれの群の炎症ポイントの平均がほぼ同じになるように3群に分けた。それぞれの群は1)Control:無治療群、2)250μg:リン酸プレドニゾロンを生理食塩に溶かした水溶液を使用、リン酸プレドニゾロンの量が一回250μg、週500μg静脈注射した群、3)500μg:リン酸プレドニゾロンを生理食塩に溶かした水溶液を使用、リン酸プレドニゾロンの量が一回500μg、週1000μg静脈注射した群、の3群であった。
この3群のマウスの数はControl:2匹、250μg:2匹、500μg:2匹であった。
以下の結果が得られた。
Control群と250μg群では有意な差は観られなかった。500μg群ではIAの上昇が観られず、炎症の進行は抑制されていた(図34)。
この結果より、以下のことが判明した。 当RAマウスモデルで炎症の進行を抑制するためには最低500μg/weekより多く、1000μg/weekまでのリン酸プレドニゾロン量が要求されることが判明した。静脈注射による治療実験ではL−Pred−SLX群が一回10μg、週20μgのリン酸プレドニゾロン量で炎症の進行を抑制したことを考えると、当DDSでは最大50分の一の薬物量で従来の治療効果と同様の効果を得ることができる可能性があると考えられた。
これは病巣部での薬剤濃度を維持しながら、全身への投与薬剤量を減らすことが可能で薬剤による副作用を減らすことができるし、また副作用が出現しない濃度まで薬剤の全身投与量を上げれば病巣部の薬剤濃度を上げることができ、さらに高い薬効をえることができる可能性を示している。
実施例17 2種類の親水性化処理を行ったリポソームの血中滞留性の検討
(1) リポソームの調製
リポソームはコール酸透析法を用いて調製した。すなわち、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、コレステロール、ジセチルフォスフェート、ガングリオシド及びジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンをモル比でそれぞれ35:40:5:15:5の割合で合計脂質量45.6mgになるように混合し、コール酸ナトリウム46.9mg添加し、クロロホルム/メタノール溶液3mlに溶解した。この溶液を蒸発させ、沈殿物を真空中で乾燥させることによって脂質膜を得た。得られた脂質膜をTAPS緩衝液(pH8.4)3mlに懸濁、超音波処理し、透明なミセル懸濁液3mlを得た。このミセル懸濁液にPBS緩衝液(pH7.2)を加えて5mlにしてから、更にTAPS緩衝液(pH8.4)で2250mg/6mlになるよう完全に溶解したリン酸プレドニゾロンを攪拌しながらゆっくりと滴下して均一に混合した後、このリン酸プレドニゾロン入りミセル懸濁液をPM10膜(AmiconCo.,USA)とTAPS緩衝液(pH8.4)を用いた限外濾過にかけ均一なリポソーム10mlを調製した。得られた生理食塩懸濁液中(37℃)のリポソーム粒子の粒子径とゼータ電位をゼータ電位・粒子径・分子量測定装置(Model Nano ZS,Malvern Instruments Ltd.,UK)により測定した結果、粒子径は50〜350nm、ゼータ電位は−30〜−10mVであった。
(2) リポソーム脂質膜面上のtris(hydroxymethyl)aminomethaneによる親水性化処理
(1)で調製したリポソーム溶液10mlをXM300膜(Amicon Co.,USA)とCBS緩衝液(pH8.5)を用いた限外濾過にかけ溶液のpHを8.5にした。次に、架橋試薬bis(sulfosuccinimidyl)suberate(BS3;Pierce Co.,USA)10mlを加え、25℃で2時間攪拌した。その後、更に7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンとBS3との化学結合反応を完結した。そして、このリポソーム液をXM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過にかけた。次に、CBS緩衝液(pH8.5)1mlに溶かしたtris(hydroxymethyl)aminomethane 40mgをリポソーム液10mlに加えて、25℃で2時間攪拌後、7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質に結合したBS3とtris(hydroxymethyl)aminomethaneとの化学結合反応を完結した。これにより、リポソーム膜の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン上にtris(hydroxymethyl)aminomethaneの水酸基が配位して水和親水性化された。
(3) リポソーム脂質膜面上のセロビオースによる親水性化処理
(1)で調製したリポソーム溶液10mlをXM300膜(Amicon Co.,USA)とCBS緩衝液(pH8.5)を用いた限外濾過にかけ溶液のpHを8.5にした。次に、架橋試薬bis(sulfosuccinimidyl)suberate(BS3;Pierce Co.,USA)10mlを加え、25℃で2時間攪拌した。その後、更に7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンとBS3との化学結合反応を完結した。そして、このリポソーム液をXM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過にかけた。次に、CBS緩衝液(pH8.5)1mlに溶かしたセロビオース50mgをリポソーム液10mlに加えて、25℃で2時間攪拌後、7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質に結合したBS3とセロビオースとの化学結合反応を完結した。これにより、リポソーム膜の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン上にセロビオースの水酸基が配位して水和親水性化された。
(4) tris(hydroxymethyl)aminomethane結合リポソーム膜面上へのヒト血清アルブミン(HSA)の結合
既報の手法(Yamazaki,N.,Kodama,M.and Gabius,H.−J.(1994)Methods Enzymol.242,56−65)により、カップリング反応法を用いて行った。すなわち、この反応は2段階化学反応で行い、まずはじめに、(2)で得られた10mlのリポソーム膜面上に存在するガングリオシドを1mlのTAPS緩衝液(pH8.4)に溶かしたメタ過ヨウ素酸ナトリウム43mgを加えて室温で2時間攪拌して過ヨウ素酸酸化した後、XM300膜とPBS緩衝液(pH8.0)で限外濾過することにより酸化されたリポソーム10mlを得た。このリポソーム液に、20mgのヒト血清アルブミン(HSA)を加えて25℃で2時間攪拌し、次にPBS(pH8.0)に2M NaBHCN 100μlを加えて10℃で一晩攪拌してリポソーム上のガングリオシドとHSAとのカップリング反応でHSAを結合した。そして、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過をした後、HSA結合リポソーム液10mlを得た。
(5) セロビオース結合リポソーム膜面上へのヒト血清アルブミン(HSA)の結合
既報の手法(Yamazaki,N.,Kodama,M.and Gabius,H.−J.(1994)Methods Enzymol.242,56−65)により、カップリング反応法を用いて行った。すなわち、この反応は2段階化学反応で行い、まずはじめに、実施例3で得られた10mlのリポソーム膜面上に存在するガングリオシドを1mlのTAPS緩衝液(pH8.4)に溶かしたメタ過ヨウ素酸ナトリウム43mgを加えて室温で2時間攪拌して過ヨウ素酸酸化した後、XM300膜とPBS緩衝液(pH8.0)で限外濾過することにより酸化されたリポソーム10mlを得た。このリポソーム液に、20mgのヒト血清アルブミン(HSA)を加えて25℃で2時間攪拌し、次にPBS(pH8.0)に2M NaBHCN 100μlを加えて10℃で一晩攪拌してリポソーム上のガングリオシドとHSAとのカップリング反応でHSAを結合した。そして、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過をした後、HSA結合リポソーム液10mlを得た。
(6) リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上へのtris(hydroxymethyl)aminomethaneの結合によるリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理
親水性化試料の一つとしてのリポソームを調製するために、(4)で得たリポソーム液の一部分1mlに架橋試薬3,3’−dithiobis(sulfosuccinimidyl)propionate(DTSSP;Pierce Co.,USA)1mgを加えて25℃で2時間、続いて7℃で一晩攪拌し、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過してDTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理リポソーム1mlを得た。次に、このリポソーム液にtris(hydroxymethyl)aminomethane(Wako Co.,Japan)13mgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにtris(hydroxymethyl)aminomethaneの結合を行った。その結果、tris(hydroxymethyl)aminomethaneとヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理をした比較試料としてのリポソー2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg)が得られた。得られた生理食塩懸濁液中(37℃)のリポソーム粒子の粒子径とゼータ電位をゼータ電位・粒子径・分子量測定装置(Model Nano ZS,Malvern Instruments Ltd.,UK)により測定した結果、粒子径は50〜350nm、ゼータ電位は−30〜−10mVであった。
(7) リポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン(HSA)上へのセロビオースの結合によるリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理
親水性化試料の一つとしてのリポソームを調製するために、(5)で得たリポソーム液の一部分1mlに架橋試薬3,3’−dithiobis(sulfosuccinimidyl)propionate(DTSSP;Pierce Co.,USA)1mgを加えて25℃で2時間、続いて7℃で一晩攪拌し、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過してDTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理リポソーム1mlを得た。次に、このリポソーム液セロビオース30mgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにセロビオースの結合を行った。その結果、セロビオースとヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理をした親水性化試料の一つとしてのリポソーム2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg)が得られた。得られた生理食塩懸濁液中(37℃)のリポソーム粒子の粒子径とゼータ電位をゼータ電位・粒子径・分子量測定装置(Model Nano ZS,Malvern Instruments Ltd.,UK)により測定した結果、粒子径は50〜350nm、ゼータ電位は−30〜−10mVであった。
(8) 親水性化処理をしてないリポソームの調製
リポソームはコール酸透析法を用いて調製した。すなわち、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、コレステロール、ジセチルフォスフェート、ガングリオシド(糖脂質糖鎖としてGT1bを100%含むもの)をモル比でそれぞれ35:45:5:15の割合で合計脂質量45.6mgになるように混合し、コール酸ナトリウム46.9mg添加し、クロロホルム/メタノール溶液3mlに溶解した。この溶液を蒸発させ、沈殿物を真空中で乾燥させることによって脂質膜を得た。得られた脂質膜をTAPS緩衝液(pH8.4)3mlに懸濁、超音波処理し、透明なミセル懸濁液3mlを得た。このミセル懸濁液にPBS緩衝液(pH7.2)を加えて10mlにしてから、更にTAPS緩衝液(pH8.4)で3mg/1mlになるよう完全に溶解したドキソルビシンを攪拌しながらゆっくりと滴下して均一に混合した後、このドキソルビシン入りミセル懸濁液をPM10膜(AmiconCo.,USA)とTAPS緩衝液(pH8.4)を用いた限外濾過にかけ均一な親水性化処理をしてないリポソーム粒子懸濁液10mlを調製した。得られた生理食塩懸濁液中(37℃)の親水性化処理をしてないリポソーム粒子の粒子径とゼータ電位をゼータ電位・粒子径・分子量測定装置(Model Nano ZS,Malvern Instruments Ltd.,UK)により測定した結果、粒子径は50〜350nm、ゼータ電位は−30〜−10mVであった。
(9) クロラミンT法によるリポソームの125I標識
クロラミンT(Wako Pure Chemical Co.,Japan)溶液並びに二亜硫酸ナトリウム溶液をそれぞれ3mg/ml並びに5mg/mlとなるように用事調製して用いた。実施例6から8において調製した3種のリポソームとを50μlずつ別々にエッペンチューブに入れ、続いて125I−NaI(NEN Life Science Product,Inc.USA)を15μl、クロラミンT溶液を10μl加え反応させた。5分ごとにクロラミンT溶液10μlを加え、この操作を2回繰り返した後15分後に還元剤として二亜硫酸ナトリウム100μl加え、反応を停止させた。次に、Sephadex G−50(Phramacia Biotech.Sweden)カラムクロマト上に乗せ、PBSで溶出、標識体を精製した。最後に、非標識−リポソーム複合体を添加して比活性(4x10Bq/mg protein)を調整して3種類の125I標識リポソーム液を得た。
(10) 各種のリポソームの担癌マウスでの血中濃度の測定
Ehrlich ascites tumor(EAT)細胞(約2×10個)を雄性ddYマウス(7週齢)大腿部皮下に移植し、癌組織が0.3〜0.6gに発育(6〜8日後)したものを本実験に用いた。この担癌マウスに(9)により125I標識した3種のリポソーム複合体0.2mlを脂質量として30μg/一匹の割合となるように尾静脈に注入投与し、5分後に血液を採取し、その放射能をガンマカウンタ(Aloka ARC 300)で測定した。なお、血液への放射能分布量は、投与全放射能に対する血液1ml当たりの放射能の割合(%投与量/ml血液)で表示した。図35に示すとおり、2種類の親水性化処理により血中滞留性が向上するが、とりわけトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンにより親水性化処理をしたリポソームの血中滞留性の向上が顕著であった。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
産業上の利用の可能性
本発明の炎症性疾患治療用標的指向性リポソームは、炎症性疾患部位に特異的に取り込まれ、リポソームに封入された炎症性疾患治療薬剤を放出する。本発明のリポソームは炎症性疾患に対するドラッグデリバリーシステムのための治療用または診断用薬剤としての効果を有する。
本発明のシアリルルイスX糖鎖等の糖鎖を結合したリポソームは、E,P−セレクチンを発現する病変部位に特異的に到達し、該部位で医薬効果を有する薬剤を放出するので、炎症性疾患治療用または診断用製剤として利用可能である。
実施例に示すように、本発明の炎症性疾患治療用標的指向性リポソームに抗炎症薬を封入して投与した場合、抗炎症薬を単独投与した場合に比較して、数十倍から数百倍の薬剤が炎症部位に集積し著しい効果を発揮することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】



【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】

【図31】

【図32】

【図33】

【図34】

【図35】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖がリポソーム膜に結合されている糖鎖修飾リポソームを含む炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項2】
リポソームの構成脂質が、フォスファチジルコリン類(モル比0〜70%)、フォスファチジルエタノールアミン類(モル比0〜30%)、フォスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類およびジセチルリン酸類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0〜30%)、ガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類およびスフィンゴミエリン類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0〜40%)、ならびにコレステロール類(モル比0〜70%)を含む、請求項1記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項3】
ガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類、スフィンゴミエリン類およびコレステロール類からなる群から選択される少なくとも1種の脂質がリポソーム表面上で集合しラフトを形成している請求項2記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項4】
糖鎖の種類および密度が制御されて結合されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項5】
リポソームの粒径が30〜500nmである、請求項1から4のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項6】
リポソームの粒径が50〜300nmである、請求項5記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項7】
リポソームのゼータ電位が−50〜10mVである、請求項1から6のいずれか1項記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項8】
リポソームのゼータ電位が−40〜0mVである、請求項7記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項9】
リポソームのゼータ電位が−30〜−10mVである、請求項8記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項10】
糖鎖がリンカー蛋白質を介してリポソーム膜に結合されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項11】
リンカー蛋白質が生体由来蛋白質である請求項10記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項12】
リンカー蛋白質がヒト由来蛋白質である請求項11記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項13】
リンカー蛋白質がヒト由来血清蛋白質である請求項12記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項14】
リンカー蛋白質がヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンである請求項10記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項15】
リンカー蛋白質がリポソーム表面上に形成されているガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類、スフィンゴミエリン類およびコレステロール類からなる群から選択される少なくとも1種の脂質からなるラフト上に結合している請求項1から14のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項16】
リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質に親水性化合物が結合することにより親水性化されている、請求項1から15のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項17】
親水性化合物が低分子物質である、請求項16記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項18】
親水性化合物が糖鎖に対する立体障害となりにくく標的細胞膜面上のレクチンによる糖鎖分子認識反応の進行を妨げない、請求項16または17記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項19】
親水性化合物が水酸基を有する請求項16から18のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項20】
親水性化合物がアミノアルコール類である請求項16から19のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項21】
親水性化合物がリポソーム膜表面に直接結合している請求項16から20のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項22】
親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(1)
X−R1(R2OH)n 式(1)
で示される請求項16記載の糖鎖修飾リポソームであって、R1は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R2は存在しないかもしくはC1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、Xはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項23】
親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(2)
N−R3−(R4OH)n 式(2)
で示される請求項16記載の糖鎖修飾リポソームであって、R3は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R4は存在しないかもしくはC1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、HNはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項24】
親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(3)
N−R5(OH)n 式(3)
で示される請求項16記載の糖鎖修飾リポソームであって、R5は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、HNはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項25】
リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシアルキル)アミノアルカンである親水性化合物を共有結合により結合させることによりリポソーム膜および/またはリンカー蛋白質が親水性化されている、請求項16記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項26】
リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノプロパンからなる群から選択される親水性化合物を共有結合により結合させることによりリポソーム膜および/またはリンカー蛋白質が親水性化されている、請求項16記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項27】
糖鎖修飾リポソームが、各組織の細胞膜面上に存在するレセプターとしてのセレクチン、DC−SIGN、DC−SGNR、コレクチンおよびマンノース結合レクチンを含むC−タイプレクチン、シグレックを含むIタイプレクチン、マンノース−6−リン酸受容体を含むPタイプレクチン、Rタイプレクチン、Lタイプレクチン、Mタイプレクチン、ガレクチンからなる群から選択されるレクチンを標的とする請求項1から26のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項28】
糖鎖修飾リポソームがE−セレクチン、P−セレクチンおよびL−セレクチンからなる群から選択されるセレクチンを標的とする請求項27記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項29】
リポソームに結合した糖鎖の結合密度が、リポソームに結合させるリンカー蛋白質1分子当り1〜60個である、請求項1から28のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項30】
リポソームに結合した糖鎖の結合密度が、リンカー蛋白質を用いる場合は、リポソーム1粒子当り1〜30000個であり、リンカー蛋白質を用いない場合は、リポソーム1粒子当り最高1〜500000個である、請求項1から28のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項31】
糖鎖がルイスX型三糖鎖、シアリルルイスX型四糖鎖、3’−シアリルラクトサミン三糖鎖、6’−シアリルラクトサミン三糖鎖、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3マンノビオース二糖鎖、アルファ1,4マンノビオース二糖鎖、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖鎖、オリゴマンノース3五糖鎖、オリゴマンノース4b六糖鎖、オリゴマンノース5七糖鎖、オリゴマンノース6八糖鎖、オリゴマンノース7九糖鎖、オリゴマンノース8十糖鎖、オリゴマンノース9十一糖鎖、ラクトース二糖鎖、2’−フコシルラクトース三糖鎖、ジフコシルラクトース四糖類、3−フコシルラクトース三糖鎖、3’−シアリルラクトース三糖鎖および6’−シアリルラクトース三糖鎖からなる群から選択される、請求項1から30のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項32】
糖鎖修飾リポソームが含む薬剤が、副腎皮質ホルモン、抗炎症薬、免疫抑制剤、抗がん剤、抗菌薬、抗ウイルス薬、血管新生抑制剤、サイトカインやケモカイン、抗サイトカイン抗体や抗ケモカイン抗体、抗サイトカイン・ケモカイン受容体抗体、siRNAやDNAなどの遺伝子治療関連の核酸製剤、神経保護因子および抗体医薬からなる群から選択される請求項1から31のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項33】
糖鎖修飾リポソームが含む薬剤が、副腎皮質ホルモンまたは抗炎症薬である請求項32記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項34】
糖鎖修飾リポソームが含む薬剤がプレドニゾロンである請求項33記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項35】
薬剤が、薬剤を単独投与した場合に比べ、炎症部位に10倍以上多く集積し得る、請求項32から34のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項36】
炎症性疾患が脳炎、炎症性眼疾患、耳炎、咽頭炎、肺炎、胃炎、腸炎、肝炎、膵炎、腎炎、膀胱炎、尿道炎、子宮体炎、膣炎、関節炎、末梢神経炎、悪性腫瘍、感染性疾患、リウマチ、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシスなどの自己免疫疾患、心筋梗塞、脳梗塞などの虚血性疾患、糖尿病、痛風などの代謝性疾患、外傷・熱傷・化学腐食、アルツハイマー病などの神経変性疾患からなる群から選択される、請求項1から35のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項37】
炎症性疾患が炎症性眼疾患である請求項36記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項38】
炎症性疾患がリウマチである請求項36記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項39】
炎症性疾患が腸炎である請求項36記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項40】
経口投与用医薬組成物である、請求項1から39のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項41】
非経口投与用医薬組成物である、請求項1から39のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項42】
リポソーム膜が親水性化されており、表面に糖鎖が結合していないリポソームを含む炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項43】
リポソームの構成脂質が、フォスファチジルコリン類(モル比0〜70%)、フォスファチジルエタノールアミン類(モル比0〜30%)、フォスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類およびジセチルリン酸類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0〜30%)、ガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類およびスフィンゴミエリン類からなる群から選択される1種以上の脂質(モル比0〜40%)、ならびにコレステロール類(モル比0〜70%)を含む、請求項42記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項44】
リポソームが、さらに蛋白質を含む請求項43記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項45】
リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質に親水性化合物が結合することにより親水性化されている、請求項42から44のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項46】
親水性化合物が低分子物質である、請求項45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項47】
親水性化合物が水酸基を有する請求項45または46に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項48】
親水性化合物がアミノアルコール類である請求項45から47のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項49】
親水性化合物がリポソーム膜表面に直接結合している請求項45から48のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項50】
親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(1)
X−R1(R2OH)n 式(1)
で示される請求項45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物であって、R1は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R2は存在しないかもしくはC1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、Xはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項51】
親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(2)
N−R3−(R4OH)n 式(2)
で示される請求項45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物であって、R3は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、R4は存在しないかもしくはC1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、HNはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項52】
親水性化合物により親水性化され、該親水性化合物が、一般式(3)
N−R5(OH)n 式(3)
で示される請求項45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物であって、R5は、C1からC40の直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を示し、HNはリポソーム脂質またはリンカー蛋白質と直接または架橋用の二価試薬と結合する反応性官能基を示し、nは自然数を示す、炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項53】
リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシアルキル)アミノアルカンである親水性化合物を共有結合により結合させることによりリポソーム膜および/またはリンカー蛋白質が親水性化されている、請求項45記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項54】
リポソーム膜および/またはリンカー蛋白質にトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノエタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノプロパン、トリス(ヒドロキシプロピル)アミノプロパンからなる群から選択される親水性化合物を共有結合により結合させることによりリポソーム膜および/またはリンカー蛋白質が親水性化されている、請求項53記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項55】
リポソームが含む薬剤が、副腎皮質ホルモン、抗炎症薬、免疫抑制剤、抗がん剤、抗菌薬、抗ウイルス薬、血管新生抑制剤、サイトカインやケモカイン、抗サイトカイン抗体や抗ケモカイン抗体、抗サイトカイン・ケモカイン受容体抗体、siRNAやDNAなどの遺伝子治療関連の核酸製剤、神経保護因子および抗体医薬からなる群から選択される請求項42から54のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項56】
リポソームが含む薬剤が、副腎皮質ホルモンまたは抗炎症薬である請求項55記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項57】
リポソームが含む薬剤がプレドニゾロンである請求項56記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項58】
薬剤が、薬剤を単独投与した場合に比べ、炎症部位に10倍以上多く集積し得る、請求項55から57のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用医薬組成物。
【請求項59】
炎症性疾患が脳炎、炎症性眼疾患、耳炎、咽頭炎、肺炎、胃炎、腸炎、肝炎、膵炎、腎炎、膀胱炎、尿道炎、子宮体炎、膣炎、関節炎、末梢神経炎、悪性腫瘍、感染性疾患、リウマチ、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシスなどの自己免疫疾患、心筋梗塞、脳梗塞などの虚血性疾患、糖尿病、痛風などの代謝性疾患、外傷・熱傷・化学腐食、アルツハイマー病などの神経変性疾患からなる群から選択される、請求項42から58のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項60】
炎症性疾患が炎症性眼疾患である請求項59記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項61】
炎症性疾患がリウマチである請求項59記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項62】
炎症性疾患が腸炎である請求項59記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項63】
経口投与用医薬組成物である、請求項42から62のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。
【請求項64】
非経口投与用医薬組成物である、請求項42から62のいずれか1項に記載の炎症性疾患治療用または診断用医薬組成物。

【国際公開番号】WO2005/011633
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512602(P2005−512602)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011329
【国際出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】