説明

模様入り結晶化ガラス物品及びその製造方法

【課題】建築材料に必要な特性を向上させた、高級感のある新規な外観を有する模様入りガラス物品とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の模様入り結晶化ガラス物品1は、析出結晶量が5〜50質量%の結晶化ガラスの基層2と、結晶化ガラスと非晶質ガラスとが反応して基層2の一面の実質的に全表面を覆う反応層3aと、その表面積の20〜80%を分散して覆う非晶質ガラス部3bによる透光面部3dとが模様を形成してなる表層3を有する。また、本発明の製造方法は、耐火容器内に、結晶性ガラス小体を集積して集積層とし、その実質的に全表面を覆って、かつ焼成後の表層3に、集積層の上面の結晶性ガラス小体との反応による反応層3aによる光散乱面部3cが部分的に出現する量の非晶質ガラス小体を分散させて積層体とし、積層体をガラスの粘度が104から105ポイズを示す温度域で焼成することにより、結晶化ガラス物品1を製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外装材や内装材及び装飾材に用いることができる模様入り結晶化ガラス物品と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶化ガラス物品は、化学的耐久性、機械的強度等の特性に優れており、また石材、人工石材の人研、陶板、タイル、着色ガラス等とは異なる新しい独特の外観を呈するデザインを追及する各種の提案がなされている。
【0003】
この種のガラス物品として、特許文献1〜4には、結晶化ガラス及び非晶質ガラスを用いて熱処理を行うことにより、結晶化ガラスからなる部位と、非晶質ガラスからなる部位が分散してなる模様入りガラス物品が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1には表面に透明なガラス層を有し、透明なガラス層の下にそれと融着した不透明な又は模様を持つガラス層を有するガラス物品が開示されている。このガラス物品は表面層が透明なガラス層であるため、透明感があり、下層のガラス面の模様に深みを持たせたものである。また、特許文献2には不透明部と透明部とを混合し拡散させて混在させることで、模様を形成した模様付ガラスの製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3にはソーダ石灰ガラスの粒子の融解ならびに結晶化によって製造される結晶化ガラス板において、一方の表面を形成する層と他方の表面を形成する層とこの両層の中間にある中間層とからなり、この中間層が両表面層の熱膨張係数の中間の熱膨張係数を持つものである結晶化ガラス材が開示されている。この結晶化ガラス材は、廃棄物ガラスを利用しながら美観を維持しつつ、熱膨張や熱収縮による歪に起因する割れや剥離を起こり難くしたものである。
【0006】
また、特許文献4には結晶化度が50%以下の結晶化ガラスからなる基板部分と非晶質ガラス及び無機顔料とで構成される表面部分が融着してなり、表面部分の非晶質ガラスが基板部分の結晶化ガラスより小さい比重を有している建材用結晶化ガラス物品が開示されている。この結晶化ガラス物品は、結晶化ガラス層の表面に着色を目的とした200μm以下のインク層を有するものである。
【特許文献1】特開平4−50126号公報
【特許文献2】特開平4−42827号公報
【特許文献3】特開平7−172865号公報
【特許文献4】特開平8−225343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで近年、建築の多様化に伴って種々の外観を呈する建築材料が開発され、結晶化ガラスからなる建築材料だけではなく、前記の特許文献1〜4に示した各種の模様入りガラス物品も開発されている。しかしながら、機械的強度、化学的耐久性、熱的耐久性を維持し、従来にない更に新規な外観デザインを呈するものが要求されている。
【0008】
本発明は、上記の事情に着目し、従来の模様入り結晶化ガラス物品よりも建築材料に必要な特性を向上させ、かつ高級感のある新規な外観を有する模様入りガラス物品とその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る模様入り結晶化ガラス物品は、析出結晶量が5〜50質量%の結晶化ガラスからなる基層と、該基層の結晶化ガラスと非晶質ガラスとが反応してなり基層の一面の実質的に全表面を覆う反応層及び該反応層を少なくとも部分的に覆う非晶質ガラス部を備えた表層とを有し、該表層は、前記反応層に起因する光散乱面部と、非晶質ガラス部による透光面部とが分散して模様を形成してなることを特徴とするものであり、非晶質ガラス部による透光面部が、表層の表面積の20〜80%を分散して占めていること、すなわち光散乱面部が表層の表面積の80〜20%を分散して占めていることが好ましく、表層の透光面部は、厚さが50μm以上の非晶質ガラス部の表面であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明の模様入り結晶化ガラス物品で、結晶化ガラスからなる基層としては、例えば、結晶性ガラスからなるガラス小体の一種に、軟化点より高い温度で熱処理を施すことにより、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出し、析出結晶量が5〜50質量%の基層が適するものである。析出結晶量が5質量%未満ではガラス質が多いために、焼成時の粘性が低くなり過ぎて表面に多くの発泡が発生するだけではなく機械的強度も極度に低下する。一方、析出結晶量が50質量%を超えると、ガラス質が少なくなり焼成時の粘性が高くなり過ぎて、表面の平滑性が得難くなり、さらに所望の反応層が形成されず非晶質ガラス層との融着性が不十分になる。また、析出結晶量が50質量%を超えると、化学的耐久性、熱的耐火性、機械的強度が劣化し、所望の好適な模様が得にくくなる。結晶化ガラスからなる基層の析出結晶量としては、発泡の抑制及び表面の平滑性、更に強度特性を維持する上で、10〜40質量%のものがさらに好ましい。
【0011】
また、本発明で表層を構成する非晶質ガラスと結晶化ガラスとの反応層としては、例えば、化学的耐久性に優れるホウ珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス等の非晶質ガラスと結晶化ガラスとを反応させた反応層であれば、結晶化ガラスそのものよりも格段に耐候性に優れ、結晶化ガラスの基層の実質的に一面の全表面を覆う、すなわち、従来では模様を形成するために非晶質ガラスで覆われずに露出されていた結晶化ガラスの外表面をほぼ完全に覆うことで、結晶化ガラス物品自体の耐候性が飛躍的に向上することになる。具体的な反応層の状態としては、基層の析出結晶であるβ−ウオラストナイト(CaO・SiO2)が非晶質ガラスにより浸食され、非晶質ガラス層に結晶層が一部分散した状態となり、非晶質ガラス層には基本的にCaOを含有しないため、結晶化ガラスの基層側から組成的に析出結晶のCaO濃度勾配が発生した反応層となる。この反応層が露出すると、はっきりとした艶消し状態の光散乱面部となる。このような反応層の厚さとしては、50μm〜100μm程度であることが好ましく、60μm〜80μm、すなわち約70μmであることが光散乱部と透光部が最も明確になる点で更に好ましい。また、本発明では、反応層の上に厚さ50μm未満の非晶質ガラス部が残存している場合も、反応層の結晶層が一部分散したことによる表面状態に影響されて、その表面にも微細な凹凸が形成されて光散乱面部となるので、厚さ50μm以上の非晶質ガラス部による透光面部との間でコントラストが生じて従来にない模様が形成されることになる。
【0012】
さらに、本発明で表層を構成する非晶質ガラス部としては、耐候性に優れるホウ珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス等の透明又は半透明な非晶質ガラスからなり、反応層の上に積層状態で形成され、反応層の外表面の20〜80%を分散して覆っていることにより、艶消し状態の反応層の表面又は反応層に起因する凹凸が形成された光散乱面部に対してガラス光沢を有する透明な厚さ50μm以上の非晶質ガラス部による透光面部との間でコントラストが生じて、従来にない高級感のある独特の模様を呈することを見出したものである。また、非晶質ガラス部による透光面部が覆う面積としては、反応層の外側表面の20%未満であると、表層の結晶化ガラス成分が多くなり耐候性を向上させることができず、模様が分散して単純なものとなる。一方、反応層の外表面の80%を超えると模様にコントラストが出難くなる。また、非晶質ガラス部による透光面部が、表層の表面積の30〜70%を占めるものであると、光散乱部と透光部の分散による最も良好な外観となる模様を呈する点で更に好ましい。さらに、反応層は厚みが50μm〜100μmではあるが、非晶質ガラス部による透光面部の厚みを100μm〜1500μmにすると、反応層と連続的に融着形成され、反応層に起因する光散乱面部は反射が高く透光面部は光を吸収するために反射が少なくなる。特に、反応層による凹凸が表面に出現している部分は、透光面部とは異なり、その両者の境目に最も浸食結晶相が多く凹凸が発生し境界部が生じ、さらに反応層の表面は浸食結晶相により微小な凹凸を形成し、非晶質ガラス層の表面との凹凸の差が反射模様として形成される。
【0013】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、結晶化ガラスからなる基層と非晶質ガラス部との熱膨張係数の差が10×10-7/K以下であると、結晶化ガラスの基層と非晶質ガラス部との間に大きい熱応力が生じず、耐温度衝撃性、耐熱サイクル性に安定した性能を発揮するものとなる。また、本発明では、基層と非晶質ガラス部との熱膨張係数の差が8×10-7/K以下であると、例えば、1000mm×1000mm以上の大板を焼成する場合に、発生する反りを壁として有効な範囲に抑えられる点で更に好ましい。
【0014】
さらに、本発明の模様入り結晶化ガラス物品が、表層の非晶質ガラス部による透光面部の厚みが、結晶化ガラスからなる基層の厚みの5〜30%であると、表面に屈折率差、表面反射率差に起因する模様のコントラストがついて明確化され、さらに独特の外観を呈するようになる。非晶質ガラス部の厚みが結晶化ガラスからなる基層の厚みの5%未満であると、模様のコントラストがつきにくくなり、また耐候性の性能が低くなる。一方、30%を超えると、非晶質ガラス部の割合が高くなって、高い機械的強度を有する結晶化ガラス基層の割合が低下し、これに伴って模様入り結晶化ガラス物品の機械的強度が低下し、また反応層の外側表面の殆どが非晶質ガラス部で覆われて模様ができ難くなる。また、透光面部の厚みが基層の10〜25%であると、良好な模様の外観と強度の安定維持とを両立させる上で好ましい。
【0015】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、非晶質ガラス部内または非晶質ガラス部と基層との界面部に、発光層が形成されてなることを特徴とするものであり、発光層が、蓄光材を含むものであることが、光源がなくても光る点、光の演出の自由度の点及び発光効率の点で好ましい。
【0016】
本発明の模様入り結晶化ガラス物品で、非晶質ガラス部内または非晶質ガラス部と基層との界面部に発光層が形成されてなるとは、発光材の蛍光材、蓄光材またはこれらの混合物などが非晶質ガラス部の内部または非晶質ガラス部と基層との界面部に、熔けたガラスにより封着されて保持されていることを意味しており、発光層が外部環境から十分に保護されているものである。
【0017】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品で、使用することができる結晶性ガラス又は結晶化ガラスの組成は、析出結晶量が上記範囲内であり、質量百分率表示でSiO2 45〜75%、Al23 1〜25%、CaO 2〜25%、ZnO 0〜18%、BaO 0〜20%、MgO 0〜1.5%、SrO 0〜1.5%、Na2O 1〜25%、K2O 0〜7%、Li2O 0〜5%、B23 0〜1.5%、CeO2 0〜0.5%、SO3 0〜0.5、As23 0〜1%、Sb23 0〜1%、着色酸化物 0〜3%の組成を有し、主結晶としてβ−ウオラストナイト(CaO・SiO2)を析出してなるものであることが好ましい。また、同様の結晶析出特性を持つディオプサイド(CaO・MgO・2SiO2)系でも可能である。さらに、この組成を有する結晶性ガラス小体に、着色酸化物として3%未満の無機着色剤等を添加することも可能である。
【0018】
さらに、本発明の模様入り結晶化ガラス物品では、結晶化ガラスからなる基層は、上記組成範囲内で、組成の異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個が融着一体化して結晶を析出しているものであり、ガラス小体の組成に起因する結晶状態の相違によって低透光性部位と、該低透光性部位よりも厚さ1mmにおける平均可視透過率が10%以上高い高透光性部位とが形成されてなるものである。なお、可視透過率とは、波長が400nmから800nmまでの範囲の透過率を意味している。
【0019】
本発明で、ガラス組成の異なる2種以上の結晶化ガラス小体の多数個が融着一体化して結晶を析出している低透光性部位と、厚さが1mmにおいて平均可視透過率の差が10%以上高い高透光性部位とは、高透光性部位は、結晶の析出量が少ないか、または結晶の成長が遅く結晶が小さいために非晶質部分がまたは結晶が析出していても透光性の高い部位となっているものであり、低透光性部位は、高透光性部位よりも結晶の析出量が多いか、または結晶の成長が速く結晶が大きくなっている。そのため、高透光性部位は、厚さが1mmにおいて平均可視透過率の差が低透光性部位よりも10%以上高くなっていることを意味している。このような透過率差により結晶化ガラスからなる基層に模様を呈することになる。
【0020】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品では、結晶化ガラスからなる基層は、上記ガラス組成の範囲内の着色酸化物を含有する2種以上の色調が異なる結晶性ガラス小体の多数個の混合体が融着一体化して白色度(明度)L*が3以上異なる部位が形成されてなるものであることを特徴とするものである。
【0021】
本発明で、結晶性ガラス小体に含有させる着色酸化物としては、ベージュ色を呈するNiO、ブルー色を呈するCoO、グレー色を呈するNiO−CoO等が使用可能であり、天然大理石模様の観点からNiO等が好適である。また、ガラス表面のL*a*b*表色系色度における白色度(明度)L*が3以上異なる部位が形成されてなるとは、例えば、着色酸化物が含有しない白色品とNiOが0.01%含有したベージュ色で白色度(明度)L*が3以上の4異なる場合、NiOが0.01%含有したベージュ色とNiOが0.01%、CoOが0.003%含有したライトグレー品で白色度(明度)L*が3以上の6異なる場合等である。この白色度(明度)L*は各ガラス小体を融着一体化させるとともに結晶化させた後、外観を測色計を用いて色調(L*,a*,b*)として評価することで求めることができる。
【0022】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品では、結晶化ガラスからなる基層は、結晶性ガラス小体の間に分散させた無機顔料により着色してなるものであることを特徴とするものである。
【0023】
本発明で、結晶性ガラス小体の間に分散させる無機顔料としては、ブルー色を呈するAl−Co−Znスピネル系、ピンク色を呈するSn−Si−Ca−Cr−Zn系、褐色を呈するFe−Cr−Zn−Al系等の無機着色剤粉末が使用可能であり、天然御影石模様の観点からAl−Co−Cr−Zn系、Fe−Cr−Ni−Mn系等が好適である。
【0024】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品で、非晶質ガラス部が、質量百分率表示で、SiO2 65〜80%、Al23 2〜8%、B23 10〜15%、CaO 0〜3%、BaO 0〜5%、ZnO 0〜2%、Na2O 0〜7%、K2O 0〜3%の組成を有するB23−SiO2系(ホウ珪酸系)ガラス組成物であることが高い化学的耐久性を実現することができるので、好ましい。さらに上記の結晶化ガラスとの膨張係数差を調整するにも好ましく、軟化したガラスの粘性的にも調整しやすいために所望の模様も得やすい。
【0025】
次に、本発明の模様入り結晶化ガラス物品を製造する方法を説明する。
【0026】
本発明に係る模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、耐火容器内に、結晶性ガラス小体又は結晶化ガラス小体を集積して集積層とし、該集積層上の実質的に全表面を覆って、かつ焼成後の表層に、集積層の上面の結晶性ガラス小体との反応による反応層の表面が部分的に露出する量の非晶質ガラス小体又は反応層に起因する凹凸が形成された表面が部分的に出現する量の非晶質ガラス小体を分散させて積層体を形成し、該積層体をガラスの粘度が104から105ポイズ(すなわち104から105dPa・s)を示す温度域で焼成することにより、析出結晶量が5〜50質量%の結晶化ガラスからなる基層と、前記集積層の上面と非晶質ガラス小体とを反応させて基層上の実質的に全表面を覆う厚さ50μm〜100μmの反応層及び該反応層上に分散状態で配置させた非晶質ガラス部を備えた表層を形成することにより、該表層に、前記反応層に起因する光散乱面部と、非晶質ガラス部による透光面部とによる模様を出現させることを特徴とするものであり、非晶質ガラス部による透光面部が表層の表面積の20〜80%を分散して占めるように、非晶質ガラス小体を分散させて積層体を形成することが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法で、耐火容器内に集積する結晶性ガラス小体としては、例えば、その一種に、軟化点より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出し、析出結晶量が5〜50質量%となる結晶性ガラスからなるものが適している。なお、既に結晶が析出した結晶化ガラス小体を使用した場合も、溶融状態では結晶性ガラスとなる。また、本発明における非晶質ガラス小体の粒度を20mm〜5mmとすることが好ましい。一方で、最大粒径が20mmを超えると、比表面積が小さいために集積した結晶性ガラス小体の表面に分散させる際に、非晶質ガラス小体の分布にむらが生じて所望の模様が得にくくなる。他方、最大粒径が5mmより細かいと、粉砕コストの負担が大きくなるだけではなく、熱処理後の非晶質ガラス部に発泡が発生しやすくなる。さらに、結晶化ガラス小体には、析出結晶量が前記に示した範囲であれば、従来の結晶化ガラス物品の製造工程中で発生した切削屑を同様に粉砕して使用することもできる。非晶質ガラスにおいても、板状、管状、塊状を問わず、切削屑も利用することができる。
【0028】
また、本発明の製造方法では、結晶性ガラス小体又は結晶化ガラス小体の集積層上に分散させる非晶質ガラス小体の量としては全体の3〜15質量%にすることが好ましい。その理由は、3質量%より少ないと非晶質ガラス部の占める面積が小さくなりすぎて模様に連続性がなくなり、従来とは異なる模様入り結晶化ガラスとして認識し難くなる、15質量%より多いと非晶質ガラスからなる厚さ100μmを超える透明な非晶質ガラス部が反応層の表面を完全に覆う形になり、従来からある単純な結晶化ガラスと透明ガラスとの積層品となり、所望する独特の模様が形成されなくなる。また、そればかりではなく、これら層間の膨張係数の違いによる反りが発生しやすくなり、内部応力によりそれ自体に亀裂や破損部位が生じるなど商品価値が低下する。
【0029】
本発明で模様入り結晶化ガラス物品の製造方法を実施する場合、まず、焼成すると析出結晶量が5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%の結晶性ガラス小体、又は結晶量が5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%の結晶化ガラス小体と、さらに非晶質ガラスの管状体又は板状体を、クラッシャを用いて軽く粉砕した後、目開きが20mmと5mmの篩を用いて分級し、粒径20mm〜5mmの非晶質ガラス小体を得る。
【0030】
次いで、熱処理した結晶化ガラスと熱膨張係数差が10×10-7/K以下である非晶質ガラス小体を用意し、先に結晶性ガラス小体を耐火物枠に集積する。さらに集積した結晶性ガラス小体の集積層の上に、結晶性ガラスの質量に対して3〜15%の非晶質ガラス小体を均等に分散させる。その後に、熱処理をすることにより、各ガラス小体を軟化変形させてガラス小体同士を融着一体化させるとともに、結晶性ガラスには前記の析出量の結晶を析出させる。
【0031】
表層を構成する非晶質ガラスは、結晶化ガラスからなる基層の表面と反応融着することにより、基層の上面のほぼ全体に亘って形成された反応層と、非晶質ガラスの分散状態及び基層を形成する結晶性ガラスとの粘性の違いによる流動性の差異等から、厚みに変化が生じた非晶質ガラス部となり、透過光により奥行き感が生じて独特の風合いを有する模様を形成するものとなる。
【0032】
さらに、結晶化ガラスの基層のごく表面には、化学的耐久性に優れた非晶質ガラスとの反応層が形成される。この反応層の厚さは、50μm〜100μmである。一方で、反応層の厚さが50μm未満であると化学的耐久性が不十分になる。他方、反応層の厚さが100μmを超えると、艶消し状態の部位が減少する。これと同時に、反応層の上に厚さ10μm以上の非晶質ガラス部を分散状態で形成させて表面積の20〜80%を覆うことにより、表層に模様が形成される。その結果、結晶化ガラスだけでは表現できない奥行きのある模様と、結晶化ガラスよりも化学的耐久性に優れ、機械的強度、熱的耐久性を併せもつ好適な模様入り結晶化ガラス物品になる。
【0033】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、結晶性ガラス小体又は結晶化ガラス小体の集積層上に、発光材及び非晶質ガラスを配置し、焼成することにより発光材を非晶質ガラスで密封することを特徴とするものであり、発光材が、蓄光材を含むものであることが好ましい。
【0034】
本発明で、結晶性ガラス小体又は結晶化ガラス小体の集積層上に、発光材及び非晶質ガラスを配置し、焼成することにより発光材を非晶質ガラスで密封するとは、非晶質ガラス小体で発光材の周囲を囲んだ状態、または非晶質ガラス小体と結晶性ガラス小体の集積層とで発光材の周囲を囲んだ状態で積層体を形成し、この積層体をガラスの粘度が104から105ポイズを示す温度域で焼成することで、発光材を非晶質ガラス部内または非晶質ガラス部と基層との界面部に密封することを意味している。
【0035】
更に本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、結晶化ガラス基層自体にも模様を施すために、組成の異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個を集積して集積層とし、該集積層を融着一体化して結晶を析出させることによりガラス小体の組成に起因する結晶状態の相違によって低透光性部位と、該低透光性部位よりも厚さ1mmにおける平均可視透過率が10%以上高い高透光性部位とを有する結晶化ガラスからなる基層を形成するものである。
【0036】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、着色酸化物によって結晶性ガラス小体自体の色調が異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個を集積して集積層とし、該集積層を融着一体化させることにより白色度(明度)L*が3以上異なる部位を形成してなる結晶化ガラスからなる基層を形成するものである。
【0037】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、結晶性ガラス小体の間に無機顔料(無機着色剤粉末)を分散させて集積層とし、該集積層を融着一体化させることにより結晶化ガラスの界面に着色模様を呈する基層を形成するものである。
【発明の効果】
【0038】
上記本発明の模様入り結晶化ガラス物品によれば、析出結晶量が5〜50質量%の結晶化ガラスからなる基層と、該基層の結晶化ガラスと非晶質ガラスとが反応してなり基層の一面の実質的に全表面を覆う反応層及び該反応層を少なくとも部分的に覆う非晶質ガラス部を備えた表層とを有し、該表層は、前記反応層に起因する光散乱面部と、非晶質ガラス部による透光面部とが分散して模様を形成してなるので、従来の模様入り結晶化ガラス物品より建築材料に必要な特性を向上させた外観として高級感のある模様入り結晶化ガラス物品を提供することができる。
【0039】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、非晶質ガラス部内または非晶質ガラス部と基層との界面部に、発光層が形成されていると、明るいうちは反射光を主とした高級感のある模様入りの外観を、暗くなると表面が光り、明暗の環境における二面性をもった建材を実現することができる。さらに発光層が蓄光材を含むものであると、暗闇であっても光源なしで効率よく光る壁面や本結晶化ガラス物品を用いた構築物で自由度の高い光の演出が可能となる。蓄光材は、焼成時に外気により酸化すると発光能力を低下させ、かつ、焼成後においても外気との酸化や水分との接触により、発光能力が低下する。
【0040】
本発明の模様入り結晶化ガラス物品では、結晶化ガラスからなる基層は、上記組成範囲内で、組成の異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個が融着一体化して結晶を析出しているものであり、ガラス小体の組成に起因する結晶状態の相違によって光を透過しやすい低透光性部位と、該低透光性部位よりも厚さ1mmにおける平均可視透過率が10%以上高い高透光性部位とが形成されてなるものであるので、結晶化ガラスからなる基層に更なる光学的な模様を呈する結晶化ガラス物品の提供が可能となる。
【0041】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品では、結晶化ガラスからなる基層は、上記ガラス組成の範囲内の着色酸化物を含有する2種以上の色調が異なる結晶性ガラス小体の多数個の混合体が融着一体化させることにより白色度(明度)L*が3以上異なる部位を成してなるものであるので、白色度(明度)L*が3以上異なる2種以上の着色された結晶化ガラスが分散することによる独特の模様を呈する基層を有する結晶化ガラス物品の提供が可能となる。
【0042】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品では、結晶化ガラスからなる基層は、結晶性ガラス小体に無機着色剤粉末が添加混合され、結晶性ガラス小体の間に分散させて融着一体化することにより着色模様を呈するものであるので、結晶化したガラス小体の界面に無機顔料が分散して融着することにより着色模様を呈する基層を有し、更に表層の非晶質ガラスによって覆われることによって自然に光の散乱模様を呈する結晶化ガラス物品の提供が可能となる。
【0043】
また、上記本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法によれば、耐火容器内に、結晶性ガラス小体又は結晶化ガラス小体を集積して集積層とし、該集積層上の実質的に全表面を覆って、かつ焼成後の表層に、集積層の上面の結晶性ガラス小体との反応による反応層の表面が部分的に露出する量の非晶質ガラス小体又は反応層に起因する凹凸が形成された表面が部分的に出現する量の非晶質ガラス小体を分散させて積層体を形成し、該積層体をガラスの粘度が104から105ポイズを示す温度域で焼成することにより、析出結晶量が5〜50質量%の結晶化ガラスからなる基層と、前記集積層の上面と非晶質ガラス小体とを反応させて基層上の実質的に全表面を覆う反応層及び該反応層上に分散状態で配置させた非晶質ガラス部を備えた表層を形成することにより、該表層に、前記反応層に起因する光散乱面部と、非晶質ガラス部による透光面部とによる模様を出現させるので、上記の模様入り結晶化ガラス物品を効率よく製造することができる。
【0044】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、集積層の上に、発光材及び非晶質ガラスを配置し、焼成することにより発光材を非晶質ガラスで密封するものであるので、明るいうちは反射光を主とした高級感のある模様入りの外観を有し、暗くなると表面が光るという明暗の環境における二面性をもった建材を製造することができる。
【0045】
さらに、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法で、発光材が蓄光材を含むものであること、従来では1000℃の焼成条件で効率よく光らせることが不可能とされていた蓄光材を用いた場合でも、蓄光材が焼成中に非晶質ガラスで密封されることで保護されるので、暗闇であっても光源なしで効率よく光る模様入り結晶化ガラス物品を製造することが可能となる。
【0046】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、結晶化ガラス基層自体にも模様を施すために、組成の異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個を集積して集積層とし、該集積層を融着一体化して結晶を析出させることによりガラス小体の組成に起因する結晶状態の相違によって低透光性部位と、該低透光性部位よりも厚さ1mmにおける平均可視透過率が10%以上高い高透光性部位とを有する結晶化ガラスからなる基層を形成するものであるので、通常時における結晶化ガラスからなる基層に更なる光学的な模様を施す方法として、結晶化ガラスが結晶状態の相違によって光を透過し易い部分と透過し難い部分とが分散する模様を呈する基層を有する結晶化ガラス物品の製造が可能になる。
【0047】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、着色酸化物によって結晶性ガラス小体自体の色調が異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個を集積して集積層とし、該集積層を融着一体化させることにより白色度(明度)L*が3以上異なる部位を成してなる結晶化ガラスからなる基層を形成するものであるので、白色度(明度)L*が3以上異なる2種以上の着色された結晶化ガラスが分散することによる独特の模様を呈する基層を有する結晶化ガラス物品の製造が可能になる。
【0048】
さらに本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、結晶性ガラス小体の間に無機着色剤粉末等の無機顔料を分散させて集積層とし、該集積層を融着一体化させることにより結晶化ガラスの界面に着色模様を呈する基層を形成するものであるので、結晶化したガラス小体の界面に無機顔料が分散して融着することにより着色模様を呈する基層を形成することが可能となり、更に表層の非晶質ガラスによって覆われることによって自然に光の散乱模様を呈する結晶化ガラス物品の製造が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を説明する。
【実施例】
【0050】
実施例1として、まず質量百分率表示で、SiO2 64%、Al23 5.5%、CaO 14.5%、ZnO 5%、BaO 5%、Na2O 3%、K2O 2%、Li2O 0.3%、B23 0.3%、Sb23 0.4%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で12時間溶融し、この溶融ガラスを水中に投入して水砕し、結晶性ガラス片とした。この結晶性ガラス片の結晶量を確認するために、水砕したガラス片の一部を耐火性の容器に集積した後、1100℃で2時間焼成して結晶化ガラスを得た。この結晶化ガラスは、X線回折の結果、析出結晶量は約30質量%であり、β−ウオラストナイトを主結晶として析出していることが確認できた。また、結晶性ガラス片について熱膨張係数をDILATO法にて測定したところ61×10-7/Kとなり、粘度については平行板式粘度計により104及び105ポイズの粘度における温度を測定したところ、104ポイズでは1110℃、105ポイズでは1010℃であった。
【0051】
更に、この水砕した結晶性ガラス片を篩にて5mm〜1mmに分級し、結晶性ガラス小体を得た。次にムライト・コージエライト製の内寸が900mm×600mm×深さ30mmの型枠を作製し、前に準備した結晶性ガラス小体23kgを均等に集積した。この質量は熱処理後の結晶化ガラスの基層厚さが約15mmになる量である。この結晶性ガラス小体を実施例及び比較例に使用した。
【0052】
続いて質量百分率表示で、SiO2 72.5%、Al23 6.5%、B23 11%、CaO 0.5%、BaO 1%、ZnO 1%、Na2O 6%、K2O 1.5%の組成を有するように調合したガラス原料を1550℃で12時間溶融し、この溶融ガラスをロールにて約1.5mmの厚みの薄板状品を成形した。この非晶質ガラスについて熱膨張係数をDILATO法にて測定したところ53×10-7/Kとなり、粘度について平行板式粘度計により104及び105ポイズの粘度における温度を測定したところ、104ポイズでは1160℃、105ポイズでは990℃であった。その後、サイズが20mm以下のフレーク状になるようにクラッシャにて粗粉砕し、さらに、粉砕で生じた微粉を除くために目開き5mmの篩にて分級した。このようにして得た非晶質ガラス小体を実施例に用いた。
【0053】
その後、実施例において作製した5mm〜20mmのフレーク状をした非晶質ガラス小体の1.5kg(全体の6.1質量%)を既に集積した結晶性ガラス小体の集積体上に均等にばら撒いた。そして、この状態でローラハースキルンにて焼成した。焼成条件として1時間に300℃の速度で昇温し、1100℃で1時間保持することにより焼成体とし、模様入り結晶化ガラス板を得た。
【0054】
このようにして得られた建材用の模様入り結晶化ガラス板の斜視スケッチ及び断面図を図1(A)、(B)に示す。模様入り結晶化ガラス板1は、概略寸法が縦900mm、横約600mm、厚さ約16mmで、析出結晶量が5〜50質量%の結晶化ガラスからなる基層2と、非晶質ガラスと結晶化ガラスとが反応して形成され、結晶化ガラスの基層2の実質的に一面の全表面を覆う反応層3aと、この反応層3aの表面に分散して表面積の約60%を覆う厚さ10μm以上の非晶質ガラス部3bによる透光面部3dと、厚さ50μm未満の非晶質ガラス部3bを介して反応層3aに起因する凹凸が形成された光散乱面部3cとがコントラストを伴って模様を形成してなる表層3とを有するものである。また、結晶化ガラスからなる基層2と非晶質ガラス部3bとの熱膨張係数の差が10×10-7/K以下の8×10-7/Kである。さらに、透明な非晶質ガラス部3bの厚みは約2mmで、反応層3aの厚みは約80μmであり、表層3の非晶質ガラス部3bの厚みは結晶化ガラスの基層2の厚みに対して約13%である。このような結晶化ガラス板1では、焼成条件にも影響されるが、使用する非晶質ガラス小体の量が少なく反応層3aの表面が部分的に露出する場合には、艶消し状態がはっきりした光散乱面部3cが部分的に出現する傾向にあり、一方、非晶質ガラス小体の量が多い場合には、図1(B)に拡大して示すように、上面に厚さが50μm未満の非晶質ガラス部3bが残存している反応層3aに起因する凹凸が形成された艶消し度合いの低い表面、すなわち、やや光沢がかった光散乱面部3cが部分的に出現する傾向にある。これら実施例及び比較例のデータを表1に示す。
【0055】
実施例2として、実施例1と同様の組成を有する溶融状態の結晶性ガラスを水砕して得た結晶性ガラス片を、アルミナボールを使用したボールミルを用いて数時間粉砕し、篩にて分級した後に2mm以下の結晶性ガラス小体を得た。次に、この結晶性ガラス小体とAl−Co−Znスピネル系の無機顔料粉末を1質量%添加し、PVAを数滴加え、ミキサーを用いて混合して混合体を得た。この混合体23kgを耐火枠に集積した。更に、実施例1と同様の非晶質ガラス小体1.5kg(全体の6.4質量%)を表面に分散させた。そして、焼成についても同様に行い焼成体とし、模様入り結晶化ガラス板を得た。
【0056】
実施例3として、実施例1と同様に結晶性ガラス小体を準備した後、更に非晶質ガラスとして窓板ガラス又はビンガラス等の表1に記載のような組成を有するソーダ石灰ガラスからなる非晶質ガラス小体の20mm〜5mm品を用意し、結晶性ガラスを集積した後に、表面に実施例と同様に分散させ同様の条件で焼成した。
【0057】
比較例1として、まず、実施例と同様組成の結晶性ガラスを24kg準備した後、集積し非晶質ガラス小体を用いないで耐火性枠にて同様に焼成し、結晶化ガラスの焼成体を得た。この結晶化ガラスは充分に流動した好ましい外観であったが、当然ながら模様入りの外観ではない。この結晶化ガラスをX線回折にて析出結晶を確認したところ、実施例と同様のβ−ウオラストナイト結晶を約30%析出していた。
【0058】
実施例及び比較例の外観を比較すると、実施例1は表層3の非晶質ガラス部3bが、結晶化ガラスの基層2上に適度に分散し、非晶質ガラス小体と結晶化ガラス小体の流動の違いによって生じた透明な非晶質ガラス部3bの厚みの変化により奥行き感がある模様を呈した。また、実施例2については、結晶化ガラスの基層2に含まれる着色剤の一部が非晶質ガラスと反応し、結晶化ガラスの基層2の着色とは異なった色合いを呈する青色に着色した奥行きのある模様が発生した。また、実施例3は模様が現れたものの、非晶質ガラスの粘度が結晶化ガラスと比較して低すぎるために、結晶化ガラスとの反応が強すぎて奥行きのある模様が得られず単純なものであった。
【0059】
比較例1は、非晶質ガラス小体を使用していないので、当然ながら実施例のような奥行きのある模様を呈しない白色の天然大理石様の外観であった。
【0060】
次に、化学的耐久性を確認するために、それぞれの結晶化ガラス物品を25mm×25mmのサイズに切り出した。そして、1体積%のH2SO4溶液を作製した後に、用意したガラス試料の表面を上に向けた状態で溶液の中に浸漬した。その状態で、密封容器とし恒温槽に入れ90℃24時間保持した。その後、各試料を取り出し純水の中で超音波洗浄器にて10分間洗浄した。乾燥の後に、表面粗さ計(株式会社東京精密製サーフコム756A)にて表面粗さを測定し、中心線平均粗さの値(以降Ra値と表す)を計測し、化学的耐久性の評価を行った。
【0061】
機械的強度については、それぞれ50mm×250mmの試料25本を切り出し、端辺を十分面取りした後にASTM C880−78に準じた試験方法にて曲げ強度を測定した。
【0062】
なお、耐熱衝撃性については、50mm×50mmの試料10個を切り出し、上記と同様に面取りを行った後に、試料を電気炉に入れ10℃毎に水温20℃に投入し、クラックが入った温度差ΔTを計測した。
【0063】
【表1】

【0064】
前記したように、実施例1及び実施例2は所望する奥行きのある模様を示したため、表1に良好と示した。実施例3については模様が現れたものの、非晶質ガラスの粘度が低すぎるために、結晶化ガラスの基層との反応が強すぎて奥行き感のない不明瞭な模様となった。また、実施例3については900mm方向に約2.5mmの凸状の反りが見られた。更に、表面層をよく観察すると結晶化ガラスの基層と薄い反応層を介した非晶質ガラス部との界面に微小なクラックが発生していた。これらに対して、比較例1は非晶質ガラスを用いないことから、当然ながら模様を呈することはなかった。
【0065】
また、実施例1及び実施例2は、これらに用いたB23−SiO2系ガラスが非常に化学的耐久性が強く、1体積%のH2SO4の90℃での強制暴露試験でもほとんど浸食されておらず、表面粗さのRa値で0.02μm以下を示し、外観の変化もなかった。比較例1については結晶化ガラスの部分が選択的に浸食され、Ra値が0.3μmを示し、若干の曇りを生じた。実施例3については実施例1、2よりも表面粗さが若干大きいが、目視による外観に変化は見られなかった。
【0066】
機械的強度は表に曲げ強度の平均値を示した。比較例1が最も大きく本来の結晶化ガラスの強度値である。本発明の実施例1、2は比較例1より若干の強度低下が見られるが、それぞれ37、38MPaと建材として充分な強度(天然石材は20MPa以下)を有していた。しかし、実施例3は、やはり発生している微小クラックの影響で32MPaと強度が低下していた。
【0067】
実施例1及び実施例2の耐熱衝撃性は比較例1の結晶化ガラスと比較して約10℃低下したが建材として全く問題ないレベルであった。また、実施例3については耐熱衝撃性試験で60℃に加熱し、20℃の水中に投入した温度差ΔTが40℃の場合にクラックが発生した。
【0068】
実施例4として、実施例1と同様の組成を有する溶融状態の結晶性ガラスを水砕して得た結晶性ガラス片を、篩にて分級した後に5mm〜1mmの結晶性ガラス小体を得た。次に、この結晶性ガラス小体の23kgを耐火枠に集積した。更に、実施例1と同様の非晶質ガラス小体1.5kg(全体の6.4質量%)に対して35g(全体の0.15質量%)の割合で蓄光材粉末(SrAl24にEu2+、Dy3+をドープ:α−FLASH PB500:平均粒径500μm LTI社製)を上記の結晶性ガラス小体の集積体上に分散させた。さらにその上から非晶質ガラス小体1.5kgを分散させて覆った。そして、焼成についても同様に行い焼成体とし、模様入り結晶化ガラス板を得た。
【0069】
実施例4の模様入り結晶化ガラス板10は、図2(A)に示すような非晶質ガラス部3bと結晶化ガラスの基層2との界面部に発光層4を形成したものであり、明るい環境下では表層3の非晶質ガラス部3bが、結晶化ガラスの基層2上に適度に分散し、非晶質ガラス小体と結晶化ガラス小体の流動の違いによって生じた透明な非晶質ガラス部3bの厚みの変化により奥行き感がある模様を呈し、一方、暗い環境下で数時間にわたって光源なしでも非晶質ガラス部3b下の基層2の表面が仄かに光る独特の外観を有するものであった。
【0070】
実施例5として、実施例1と同様の組成を有する溶融状態の結晶性ガラスを水砕して得た結晶性ガラス片を、アルミナボールを使用したボールミルを用いて数時間粉砕し、篩にて分級した後に2mm以下の結晶性ガラス小体を得た。次に、この結晶性ガラス小体とAl−Co−Znスピネル系の無機顔料粉末を1質量%添
加し、PVAを数滴加え、ミキサーを用いて混合して混合体を得た。この混合体23kgを耐火枠に集積した。更に、実施例1と同様の非晶質ガラス小体1.5kg(全体の6.4質量%)に対して35g(全体の0.15質量%)の蓄光材粉末(SrAl24にEu2+、Dy3+をドープ:α−FLASH PB500:平均粒径500μm LTI社製)にPVAを数滴加え、混合した蓄光材混合物を調整し、上記結晶性ガラス小体と無機顔料他の混合体を集積した表面に分散させた。そして、焼成についても同様に行い焼成体とし、模様入り結晶化ガラス板を得た。
【0071】
実施例5の模様入り結晶化ガラス板20は、図2(B)に示すような非晶質ガラス部3b部内に発光層5を形成したものであり、明るい環境下では表層3の非晶質ガラス部3bが、着色結晶化ガラスの基層2上に適度に分散し、非晶質ガラス小体と着色結晶化ガラス小体の流動の違いによって生じた非晶質ガラス部3bによる透光面部3dの厚みの変化により奥行き感がある模様を呈し、かつ、着色結晶化ガラスの基層2に含まれる着色剤の一部が非晶質ガラスと反応し、結晶化ガラスの基層2の着色とは異なった色合いを呈する青色に着色した奥行きのある模様が発生した。一方、この結晶化ガラス板は、青色に着色した基層2を背景として非晶質ガラス部3b内部に分散状態の蓄光材により形成された発光層5が全くの暗闇であっても数時間にわたって光源なしで効率よく光る独特の外観を有するものであった。
【0072】
なお、上記実施例4、5では、本願出願人による特開2005−126312号に開示した発光物質である蓄光材のみを使用した例を示したが、本願出願人による特願2005−176006号に開示した発光物質である蛍光材(ZnSにCu+、Al3+をドープ:品番GSS 根本特殊化学株式会社製)や、蓄光材と蛍光材の混合物を使用してもよく、また、蛍光材、蓄光材、及びこれらの混合物は、非晶質ガラス小体と混合することなく分散させてもかまわない。
【0073】
実施例6として、表2に示すように、実施例1と同様の質量百分率表示で、SiO2 64%、Al23 5.5%、CaO 14.5%、ZnO 5%、BaO 5%、Na2O 3%、K2O 2%、Li2O 0.3%、B23 0.3%、Sb23 0.4%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で12時間溶融し、この溶融ガラスを水中に投入して水砕し、低透光性となる結晶性ガラス片とした。さらに質量百分率表示で、SiO2 64%、Al23 5.5%、CaO 10%、ZnO 5%、BaO 9.5%、Na2O 3%、K2O 2%、Li2O 0.3%、B23 0.3%、Sb23 0.4%の組成を有するように調合したガラス原料を同様に溶融し、水中に投入して水砕し、高透光性となる結晶性ガラス片とした。
【0074】
この水砕した2種類の結晶性ガラス片をそれぞれ篩にて5mm〜1mmに分級し、それぞれの結晶性ガラス小体を得た。焼成後に高透光性結晶化ガラスとなる結晶性ガラス小体のみを集積して結晶化した高透光性結晶化ガラスは、1mmにおける可視光平均透過率は47%であり、焼成後に低透光性結晶化ガラスとなる結晶性ガラス小体のみを集積して結晶化した低透光性結晶化ガラスとは透過率の差は13%であった。このようにして得られた低透光性結晶化ガラスとなる結晶性ガラス小体を14kg及び高透光性結晶化ガラスとなる結晶性ガラス小体を9kg秤量した後に混合した。次にムライト・コージエライト製の内寸が900mm×600mm×深さ30mmの型枠を作製し、前に準備した結晶性ガラス小体の混合品23kgを均等に集積した。
【0075】
次に、前記実施例と同様にして表層に非晶質ガラスを施すことにより模様入り結晶化ガラス物品を得た。この模様入り結晶化ガラス物品は、基層を形成する結晶化ガラスによる透過率の変化が、表層に施す非晶質ガラス層と伴って光学的な変化を持った模様を呈するものであった。結果を表2に示す。
【0076】
実施例7として、表2に示すように、まず質量百分率表示で、SiO2 64%、Al23 5.5%、CaO 14.5%、ZnO 5%、BaO 5%、Na2O 3%、K2O 2%、Li2O 0.3%、B23 0.3%、Sb23 0.4%、及び着色酸化物であるNiO 0.01%の組成を有するように調合したガラス原料を1500℃で12時間溶融し、溶融状態の各結晶性ガラスを水砕して得た結晶性ガラス片を、アルミナボールを使用したボールミルを用いて数時間粉砕し、篩にて分級した後に2mm以下のベージュ色を呈する結晶性ガラス小体を得た。次に、着色酸化物であるNiO 0.01、CoO 0.003%含有する組成を有する結晶性ガラスを溶融し、溶融状態の各結晶性ガラスを水砕して得た結晶性ガラス片を、アルミナボールを使用したボールミルを用いて数時間粉砕し、篩にて分級した後に2mm以下のライトグレー色を呈する結晶性ガラス小体を得た。これらベージュ色を呈する結晶性ガラス小体を14kg及びライトグレー色を呈する結晶性ガラス小体9kgを秤量した後に混合した。次にムライト・コージライト製の内寸が900mm×600mm×深さ30mmの型枠を作製し、前に準備した結晶性ガラス小体の混合品23kgを均等に集積した。
【0077】
次に、前記実施例と同様にして表層に非晶質ガラスを施すことにより模様入り結晶化ガラス物品を得た。このようにして、ベージュ色とライトグレー色を呈するL*の差が6を示した2種の着色された結晶化ガラスの部位が分散配置されることによる独特の模様を呈する基層を有する結晶化ガラス物品を製造することができた。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
なお、上記の実施例では、着色酸化物にベージュ色を呈するNiO及びライトグレー色を呈するNiO−CoOを用いたが、他にもブルー色を呈するCoO、ライトグリーン色を呈するFe23等でもよい。また上記の実施例では、無機顔料としてブルー色を呈するAl−Co−Znスピネル系の無機顔料粉末を用いたが、ピンク色を呈するSn−Si−Ca−Cr−Zn系、褐色を呈するFe−Cr−Zn−Al系等でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、従来の模様入り結晶化ガラス物品よりも建築材料に必要な特性を向上させ、かつ外観として高級感のある新規な模様入りガラス物品とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の模様入り結晶化ガラス物品をスケッチした模式的な説明図であって、(A)は斜視図、(B)は断面図。
【図2】本発明の発光層が形成された模様入り結晶化ガラス物品の説明図であって、(A)は非晶質ガラス部と基層との界面部に発光層を形成した断面図、(B)は非晶質ガラス部内に発光層を形成した断面図。
【符号の説明】
【0082】
1、10、20 模様入り結晶化ガラス物品
2 基層
3 表層
3a 反応層
3b 非晶質ガラス部
3c 光散乱面部
3d 透光面部
4、5 発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出結晶量が5〜50質量%の結晶化ガラスからなる基層と、該基層の結晶化ガラスと非晶質ガラスとが反応してなり基層の一面の実質的に全表面を覆う反応層及び該反応層を少なくとも部分的に覆う非晶質ガラス部を備えた表層とを有し、該表層は、前記反応層に起因する光散乱面部と、非晶質ガラス部による透光面部とが分散して模様を形成してなることを特徴とする模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項2】
非晶質ガラス部による透光面部が、表層の表面積の20〜80%を分散して占めていることを特徴とする請求項1に記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項3】
表層の透光面部は、厚さが50μm以上の非晶質ガラス部の表面であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項4】
結晶化ガラスからなる基層と非晶質ガラス部との熱膨張係数の差が10×10-7/K以下であることを特徴とする請求項1から3の何れかにに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項5】
非晶質ガラス部による透光面部の厚みが、結晶化ガラスからなる基層の厚みの5〜30%であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項6】
非晶質ガラス部内または非晶質ガラス部と基層との界面部に、発光層が形成されてなることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項7】
発光層が、蓄光材を含むものであることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項8】
結晶化ガラスからなる基層が、質量百分率表示でSiO2 45〜75%、Al23 1〜25%、CaO 2〜25%、ZnO 0〜18%、BaO 0〜20%、MgO 0〜1.5%、SrO 0〜1.5%、Na2O 1〜25%、K2O 0〜7%、Li2O 0〜5%、B23 0〜1.5%、CeO2 0〜0.5%、SO3 0〜0.5、As23 0〜1%、Sb23 0〜1%、着色酸化物 0〜3%の組成を有し、主結晶としてβ−ウオラストナイトを析出してなるものであることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項9】
表層の非晶質ガラス部が、質量百分率表示でSiO2 65〜80%、Al23 2〜8%、B23 10〜15%、CaO 0〜3%、BaO 0〜5%、ZnO 0〜2%、Na2O 0〜7%、K2O 0〜3%の組成を有するB23−SiO2系ガラスからなることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項10】
結晶化ガラスからなる基層は、組成の異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個が融着一体化して結晶を析出しているものであり、ガラス小体の組成に起因する結晶状態の相違によって低透光性部位と、該低透光性部位よりも厚さ1mmにおける平均可視透過率が10%以上高い高透光性部位とが形成されてなることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項11】
結晶化ガラスからなる基層が、色調が異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個が融着一体化して、白色度(明度)L*が3以上異なる部位が形成してなることを特徴とする請求項8から10の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項12】
結晶化ガラスからなる基層が、結晶性ガラス小体の間に分散させた無機顔料により着色してなるものであることを特徴とする請求項1から11の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項13】
耐火容器内に、結晶性ガラス小体又は結晶化ガラス小体を集積して集積層とし、該集積層上の実質的に全表面を覆って、かつ焼成後の表層に、集積層の上面の結晶性ガラス小体との反応による反応層の表面が部分的に露出する量の非晶質ガラス小体又は反応層に起因する凹凸が形成された表面が部分的に出現する量の非晶質ガラス小体を分散させて積層体を形成し、該積層体をガラスの粘度が104から105ポイズを示す温度域で焼成することにより、析出結晶量が5〜50質量%の結晶化ガラスからなる基層と、前記集積層の上面と非晶質ガラス小体とを反応させて基層上の実質的に全表面を覆う反応層及び該反応層上に分散状態で配置させた非晶質ガラス部を備えた表層を形成することにより、該表層に、前記反応層に起因する光散乱面部と、非晶質ガラス部による透光面部とによる模様を出現させることを特徴とする模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項14】
非晶質ガラス部による透光面部が表層の表面積の20〜80%を分散して占めるように、非晶質ガラス小体を分散させて積層体を形成することを特徴とする請求項13に記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項15】
集積層の上に、全体の3〜15質量%の非晶質ガラス小体を分散させることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項16】
集積層上に、発光材及び非晶質ガラスを配置し、焼成することにより発光材を非晶質ガラスで密封することを特徴とする請求項13から15の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項17】
発光材が、蓄光材を含むものであることを特徴とする請求項16に記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項18】
組成の異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個を集積して集積層とし、該集積層を融着一体化して結晶を析出させることによりガラス小体の組成に起因する結晶状態の相違によって低透光性部位と、該低透光性部位よりも厚さ1mmにおける平均可視透過率が10%以上高い高透光性部位とを有する結晶化ガラスからなる基層を形成することを特徴とする請求項13から17の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項19】
色調が異なる2種以上の結晶性ガラス小体の多数個を集積して集積層とし、該集積層を融着一体化させることにより白色度(明度)L*が3以上異なる部位を成してなる結晶化ガラスからなる基層を形成することを特徴とする請求項13から18の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項20】
結晶性ガラス小体の間に無機顔料を分散させて集積層とし、該集積層を融着一体化させることにより結晶化ガラスからなる基層を形成することを特徴とする請求項13から19の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−186401(P2007−186401A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203588(P2006−203588)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】