説明

樹脂チューブ及びその製造方法

【課題】(1)耐熱性を有し、(2)純水を汚染せず(純水中へ樹脂に含まれる金属イオンや硫黄成分が溶出せず)、(3)曲げ半径が小さく、(4)低価格な、樹脂チューブとすることによって、燃料電池に使用可能な樹脂チューブを提供すること。
【解決手段】接着性を有するフッ素樹脂を内層10側とし、耐熱剤とポリアミド樹脂とが混合された樹脂を外層側11として共押出成形されたことによって、チューブ内を流通した純水の硫黄検出量が0.1〜30mg/L、電気伝導度が0.2〜40μS/cmとなる樹脂チューブ1とする。または、接着性を有するフッ素樹脂を内層10側とし、硫黄を含有する可塑剤と耐熱剤とポリアミド樹脂とが混合された樹脂を外層11側として共押出成形された後、アニール処理を行った樹脂チューブ1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、触媒を含む系に使用される(例えば、燃料電池に純水を供給する)樹脂チューブとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題や石油の枯渇問題等により、燃料電池の開発が盛んに行われるようになってきている。
【0003】
上記燃料電池に純水を供給する管は、ステンレス等の金属製配管が用いられていた。
【0004】
ところが、金属配管を使用した場合、金属であるが故に質量が大きく剛性が高いことから、組み付けが困難という問題や、振動に弱いという問題があった。(例えば、特許文献1の従来技術)
上記問題を解決する為に、樹脂チューブを用いて純水を供給する方法が考えられる。
【0005】
ところが、樹脂チューブを用いて燃料電池システム(触媒を有するシステム)に純水を供給すると、純水を汚染し(純水中へ樹脂に含まれる金属イオンや硫黄成分が溶出し)、触媒に悪影響を与えて触媒寿命を縮めてしまうという問題があった。さらに、燃料電池は熱を発生する為、樹脂チューブでは耐熱性が不十分であるという問題もあった。(例えば、特許文献1)
耐熱性があり純水を汚染しない樹脂チューブとして、フッ素樹脂チューブが挙げられる。しかしながら、フッ素樹脂チューブは、限界の曲げ半径が大きいことから配管時の作業性が悪く、値段も高価であるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−278958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明では、(1)耐熱性を有し、(2)純水を汚染せず(純水中へ樹脂に含まれる金属イオンや硫黄成分が溶出せず)、(3)曲げ半径が小さく、(4)低価格な、純水供給用樹脂チューブとすることによって、燃料電池に使用可能な純水供給用樹脂チューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1記載の発明)
この樹脂チューブは、接着性を有するフッ素樹脂を内層側とし、耐熱剤とポリアミド樹脂とが混合された樹脂を外層側として共押出成形されたことによって、チューブ内を流通した純水の硫黄検出量が0.1〜30mg/L、電気伝導度が0.2〜40μS/cmとなることを特徴とする。
【0008】
このような態様であると、耐熱剤を混合していることから耐熱性を有し、フッ素樹脂を内層側のみとしていることから純水を汚染せず、曲げ半径が小さく、低価格な純水供給用樹脂チューブとなる。
【0009】
接着性を有するフッ素樹脂として、ETFE樹脂、FEP樹脂、PFA樹脂などを用いることができる。
【0010】
ポリアミド樹脂として、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド66などを用いることができる。
【0011】
耐熱剤として、有機系耐熱剤、無機系耐熱剤などを用いることができる。有機系無機系の両方を用いても良い。
【0012】
硫黄検出装置の検出限界値は0.1mg/Lであり、0.0〜0.1mg/Lは0.1mg/Lと表示される。また、超純水の電気伝導度は0.2μS/cmである。
【0013】
(請求項2記載の発明)
この樹脂チューブは、接着性を有するフッ素樹脂を内層側とし、硫黄を含有しない可塑剤と耐熱剤とポリアミド樹脂とが混合された樹脂を外層側として共押出成形されたことによって、チューブ内を流通した純水の電気伝導度が0.2〜40μS/cmとなることを特徴とする。
【0014】
請求項1記載の発明に可塑剤を加えることによって、チューブの柔軟性を良好にすることができる。前記可塑剤として、硫黄を含有していない可塑剤を使用すると、純水中に硫黄を溶出しないものとなり、燃料電池システムの発電効率を低下させる恐れが少ない。
【0015】
(請求項3記載の発明)
この樹脂チューブは、請求項1又は2に記載の発明に関し、共押出成形された後、アニール処理によって、樹脂チューブに含まれる極性基を死活化させたことを特徴とする。
【0016】
樹脂チューブにアニール処理を行うと、チューブ内面の極表面層に残った接着官能基が内面に移動して死活化し、純水中に金属イオンが溶出し難いものとなる。
【0017】
(請求項4記載の発明)
この樹脂チューブは、接着性を有するフッ素樹脂を内層側とし、硫黄成分を含有する可塑剤と耐熱剤とポリアミド樹脂とが混合された樹脂を外層側として共押出成形された後、アニール処理によって、樹脂チューブに含まれる極性基を死活化させると共に可塑剤を気化させ樹脂チューブ内から硫黄成分を除去させたことを特徴とする。
【0018】
可塑剤が硫黄を含むものであったとしても、アニール処理を行うと、チューブ外層側の可塑剤を析出させると共に、気化させることによって硫黄成分を樹脂チューブから除去することが可能である。また、請求項3記載の発明と同様に、フッ素樹脂内の極性基を死活化できる。
【0019】
したがって、請求項4記載の樹脂チューブは、純水中に金属イオンが溶出し難いものとなると共に純水中に硫黄成分が溶出し難いものとなり、燃料電池システムの発電効率を低下させない(燃料電池の触媒を劣化させない)チューブとなる。
【0020】
(請求項5記載の発明)
この樹脂チューブは、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明に関し、ポリアミド樹脂は、ポリアミド12もしくはポリアミド11とポリアミド12とがブレンドされたポリアミド樹脂であることを特徴とする。
【0021】
ポリアミド樹脂として、ポリアミド12を用いると、耐摩耗性に優れたチューブとなる。また、ポリアミド樹脂として、ポリアミド11とポリアミド12を用いると、内層側のフッ素樹脂との接着性が向上し、柔軟性・耐摩耗性に優れたチューブとなる。
【0022】
(請求項6記載の発明)
この樹脂チューブは、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明に関し、前記耐熱剤が無機系の安定剤であることを特徴とする。
【0023】
耐熱剤として、無機系(Cu系)の安定剤を使用することによって、耐熱性が向上する。例えば、請求項1記載の発明であれば、熱エージング処理(樹脂チューブを150℃の熱風循環オーブンで15日間静置)させたとしても、引っ張り伸びが50%以上保持できるものとなる。
【0024】
(請求項7記載の発明)
この樹脂チューブの製造方法はアニール処理がなされる請求項3乃至6のいずれかに記載の樹脂チューブの製造方法であって、前記アニール処理は、樹脂チューブを所定温度の熱風循環オーブン中に一定時間静置させる工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
この発明は上述のような構成であり、(1)耐熱性を有し、(2)純水を汚染せず(純水中へ樹脂に含まれる金属イオンや硫黄成分が溶出せず)、(3)曲げ半径が小さく、(4)低価格な、純水供給用樹脂チューブとすることによって、燃料電池に使用可能な純水供給用樹脂チューブを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態例について、実施例として示す各図を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1はこの実施例1の樹脂チューブの斜視図である。
(樹脂チューブ1の基本構成について)
この樹脂チューブ1は、図1に示すように、内層10と外層11からなり、内部に純水流通路2が形成されている。
【0028】
内層10と外層11は接着官能基によって、化学結合で強固に接着されているものである。
(内層10について)
内層10の材料には接着性を有するフッ素樹脂を用いる。具体的には4フッ化エチレンとエチレンの共重合体であるETFE樹脂を変性した特殊ETFE樹脂を用いるのが好ましい。
【0029】
特殊ETFE樹脂は「旭硝子社製、Fluon LM−ETFE AH−2000」を使用するのが好ましい。
(外層11について)
外層11の材料には、硫黄を含有する可塑剤と、耐熱剤と、ポリアミド樹脂が混合された樹脂を用いる。例えば、N−n−ブチルベンゼンスルホンアミド(硫黄を含有す可塑剤)と、銅系の安定剤(耐熱剤)と、ポリアミド12との混合物を用いる。
【0030】
また、外層11の材料として、可塑剤と、耐熱剤と、ポリアミド11とが混合された樹脂である「ATOFINA社製、リルサンBESEN O P40TL」に耐熱剤を加えたものを使用することもできる。
(樹脂チューブ1の成形について)
この実施例1の樹脂チューブ1は、上述の内層10材料と外層11材料とを共押出成形することによって、内層10と外層11を有する二層チューブとして成形される。
【0031】
成形されたチューブは、硬質で高額なフッ素樹脂を内層10のみに使用している為、柔軟性を有し、低価格なものとなる。そして、内層10をフッ素樹脂としたことによって、純水への汚染が燃料電池の触媒を劣化させない程度とすることが出来る。また、外層11のポリアミド樹脂に耐熱剤が加えられたことによって、燃料電池から発生する熱に耐えられるチューブとなる。
【0032】
内層10の厚さ(外層11と内層10の境界から純水流通路2の側面までの距離)は0.1〜0.5mmとすることが好ましく、さらには0.3mmとすることが好ましい。
【0033】
作成した樹脂チューブ1を、共押出成形の後または下記アニール処理の後、予め希望する型に入れ熱加工(フォーミング成形)しても良い。
(樹脂チューブ1へのアニール処理について)
上述の構成となるように、共押出成形がされた樹脂チューブ1を、150℃の熱風循環オーブンで2日間静置し、アニール処理を行った。
【0034】
樹脂チューブ1にアニール処理を行うと、内層10において以下に述べる作用が起こる。
【0035】
内層10のチューブ内面の極表面層に残った接着官能基が内面に移動して死活化する。また、外層11においては、ポリアミド12に混入している、硫黄成分を含む可塑剤が気化し、外層11から大気中へ除去される。
【0036】
アニール処理が行われた樹脂チューブ1は、樹脂チューブ1内を流通した純水の硫黄検出量が0.0〜30mg/L(硫黄検出量の検出限界値は0.1mg/L)、電気伝導度が0.0〜40μS/cm(超純水の電気伝導度の最低値は0.2μS/cm)となり、樹脂チューブ1内に純水を通したとしても、硫黄と金属イオンの流出量が極めて少ないチューブとなり、燃料電池の触媒を劣化させないものとなる。
【0037】
また、この樹脂チューブ1は耐熱剤が加えられているため、150℃の熱風循環オーブン中に2日間静置させるアニール処理を行ったとしても、殆ど老化しない。
【0038】
前述のアニール処理の効果を検証する実験を行った。
(アニール処理の効果)
実施例1の樹脂チューブ1について、アニール処理を行ったものと、行わないものと比較すると、表1の結果となる。
【0039】
表1は、長さ3m、外径12.7mm、内径9.56mm、内層10の厚さ0.3mmに設定したアニール処理前とアニール処理後、それぞれのチューブに純水(電気伝導度0.8μS/cm、硫黄溶出量0mg/L)を封入し、前記純水を封入したそれぞれのチューブを80℃の雰囲気中で2日間置いた後、チューブ内の純水を取り出し、取り出した純水の電気伝導度と硫黄溶出量を計測したものである。通常、超純水は電気伝導度0.2〜1.0μS/cm、硫黄溶出量0mg/Lである。
【0040】
電気伝導度はICP−MS測定を用いて検出し、硫黄溶出度はICP−AES測定(島津製作所製ICPS−8000、波長:180.731nm、検出限界値:0.1mg/L)を用いて検出した。
(表1)各チューブの電気伝導度及び硫黄溶出量

【0041】
表1に記載の通り、アニール処理を行うことによって、電気伝導度と硫黄溶出量の低減が可能である。すなわち、アニール処理を行った樹脂チューブ1内に純水を流したとしても、電気伝導度の増加及び硫黄成分の溶出は微量なものである。
【0042】
アニール処理を行ったチューブの電気伝導度が、アニール処理を行わなかったチューブの電気伝導度より低い値(純水供給に適した値)となる原因は、アニール処理を行うことによって、樹脂チューブ1の内面の極表面層に残った接着官能基が内面に移動して死活化し、接着官能基がイオンの吸着や放出を行わなくなったことが考えられる。
【0043】
硫黄溶出量がアニール処理を行わなかったチューブより改善されるのは、アニール処理を行うことによって、外層11の樹脂が含有する硫黄成分(N−n−ブチルベンゼンスルホンアミド)を大気中に飛ばし、硫黄成分の含有量を減少させたことが原因である。
(樹脂チューブ1と、従来チューブとの比較)
実施例1の樹脂チューブ1(共押出成形後、150℃のオーブン中で、2日間アニール処理を行ったもの)と、フッ素樹脂のみからなるチューブと、フッ素樹脂を内層とし耐熱剤を混合していないポリアミドを外層とした従来の二層チューブ(以下、従来チューブ)との比較を行った。
(耐熱試験)
図2は、樹脂チューブ1と、フッ素樹脂のみからなるチューブと、従来チューブの耐熱試験結果のグラフである。
【0044】
実施例1の樹脂チューブ1(実施例1記載のチューブ)、フッ素樹脂のみのチューブ、従来のチューブ、それぞれのチューブを以下の表2に示す「外径、内径、内層10の厚さ」に設定し、それぞれのチューブの耐熱性について計測した。
(表2)各チューブの外径、内径、内層10の厚さ


【0045】
耐熱試験は150℃の雰囲気中で42日間にわたって行った。実施例1の樹脂チューブ1は、28日の時点で66.6%の破断伸び率を有していた。
【0046】
使用可否の目安として、破断伸び率が50%(図2グラフの点線)以上であることと仮定した。
【0047】
すなわち、この樹脂チューブ1は、150℃の雰囲気中に28日設置しておいても、使用可能なものである。このことを、10℃半減則に当てはめると、「150℃/28日間≒100℃/2.1万時間≒80℃/8.6万時間」となり、この樹脂チューブ1は、80℃の雰囲気中において、約10年間使用できるものであることがわかる。
(曲げ半径試験)
図3はチューブの曲げ半径試験の試験結果のグラフである。
【0048】
実施例1の樹脂チューブ1(実施例1記載のチューブ)、フッ素樹脂のみのチューブ、従来のチューブ、それぞれのチューブを上記の表2に示す「外径、内径、内層10の厚さ」に設定し、チューブの曲げ半径についてそれぞれ計測した。
【0049】
計測の結果、実施例1記載のチューブはR=32mmで折れ、フッ素樹脂のみのチューブはR=40mmで折れ、従来チューブはR=30mmで折れた。
【0050】
このことから、この樹脂チューブ1は、従来チューブと同等の曲げ半径にまで曲げることが可能であり、配管時の作業性が良いものである。
(破壊圧力試験)
図4はチューブの破壊圧力試験の試験結果のグラフである。
【0051】
実施例1の樹脂チューブ1(実施例1記載のチューブ)、フッ素樹脂のみのチューブ、従来のチューブ、それぞれのチューブを上記の表2に示す「外径、内径、内層10の厚さ」に設定し、チューブの破壊圧力についてそれぞれ計測した。
【0052】
計測の結果、実施例1記載のチューブの破壊圧力は、20℃〜100℃の温度領域において、8.7MPa〜2.8MPaであった。フッ素樹脂のみのチューブの破壊圧力は、20℃〜100℃の温度領域において、4.8MPa〜2.3MPaであった。従来チューブの破壊圧力は、20℃〜100℃の温度領域において、5.6MPa〜1.9MPaであった。
【0053】
このことから、実施例1記載のチューブは、従来チューブ、フッ素樹脂のみからなるチューブに比べ大きい破壊圧力に耐えられるものである。
(総合評価)
各試験結果及び、その他の特性を表3に記載する。
表3は燃料電池に使用する樹脂チューブとして必要な性能を一覧表にしたものである。
(表3)各チューブの実験結果のまとめ

【0054】
表3から分かるように、実施例1記載の純水供給用樹脂チューブ1は、燃料電池に純水を供給することに適している。
(その他、実施例1記載の純水供給用樹脂チューブ1について)
純水供給用樹脂チューブ1を燃料電池システム以外の触媒を使用する機構の配管に用いたとしても、触媒を死活化させず、機構の触媒寿命を延長させることができる。
【0055】
例えば、硫黄分が悪影響を与える設備に使用するチューブ(尿素配管用チューブ等)に使用することができる。チューブ1を各種自動車用関係に配管されるチューブ類として使用してもよい。
【実施例2】
【0056】
前述の実施例1記載の樹脂チューブ1に基づき、実施例2について述べる。
【0057】
図1はこの実施例2の樹脂チューブ1の斜視図である。
(樹脂チューブ1の基本構成について)
この樹脂チューブ1は、図1に示すように、内層10と外層11からなり、内部に純水流通路2が形成されている。
【0058】
内層10と外層11は接着官能基によって、化学結合で強固に接着されているものである。
(内層10について)
内層10の材料には接着性を有するフッ素樹脂を用いる。具体的には4フッ化エチレンとエチレンの共重合体であるETFE樹脂を変性した特殊ETFE樹脂を用いるのが好ましい。
【0059】
特殊ETFE樹脂は「旭硝子社製、Fluon LM−ETFE AH−2000」を使用するのが好ましい。
(外層11について)
外層11の材料には、硫黄を含有しない可塑剤と耐熱剤とポリアミド樹脂の混合物を用いる。例えばポリアミド12樹脂に安息香酸系可塑剤を重量割合で2〜15%添加したものを用いた。安息香酸系可塑剤は硫黄成分を含有しない可塑剤である。
【0060】
上述の材料を用いて外層11としたチューブは、可塑剤に硫黄成分を最初から有していない為、純水中に硫黄成分を溶出しない樹脂チューブ1とすることができる。
(樹脂チューブ1の成形について)
この実施例2の樹脂チューブは、上述の内層10材料と外層11材料とを共押出成形することによって、内層10と外層11を有する二層チューブとして成形される。
【0061】
成形されたチューブは、硬質で高額なフッ素樹脂を内層10のみに使用している為、柔軟性を有し、低価格なものとなる。そして、内層10をフッ素樹脂としたことによって、純水への汚染が燃料電池の触媒を劣化させない程度とすることが出来る。また、外層11のポリアミド樹脂に耐熱剤が加えられたことによって、燃料電池から発生する熱に耐えられるチューブとなる。
【0062】
内層10の厚さ(外層11と内層10の境界から純水流通路2の側面までの距離)は0.1〜0.5mmとすることが好ましく、さらには0.3mmとすることが好ましい。
【0063】
作成した樹脂チューブ1を、共押出成形の後、予め希望する型に入れ熱加工(フォーミング成形)しても良い。
(実施例1の樹脂チューブ1と実施例2の樹脂チューブ1との違い)
実施例1の樹脂チューブ1は、アニール処理を行い外層11のポリアミド樹脂に混入している可塑剤を気化させ樹脂チューブ内から硫黄成分を除去させることによって、純水通路2を流通する純水に硫黄成分が流出し難くしたものである。実施例2の樹脂チューブ1は、この方法とは別に、可塑剤を、硫黄を含有しない可塑剤とすることでアニール処理を行う必要がないものとなる。
(実施例2におけるアニール処理の効果)
しかしながら、前記実施例1の表3に示す従来チューブの電気伝導率の計測結果と同様に、前述の樹脂チューブ1の電気伝導率も燃料電池への純水供給に問題がない程度であって、好ましいものとはいえない。(表5参照)
したがって、実施例2記載の樹脂チューブ1も150℃オーブン中で2日間アニール処理を行うのが好ましい。チューブにアニール処理を行うと前述の実施例1と同様に、内層10の極表面層に残った接着官能基が内面に移動して死活化し、純水中に金属イオンが溶出し難いものとなる。
【0064】
アニール処理を行った樹脂チューブ1は、実施例1記載の樹脂チューブ1と同様にチューブ1内を流通した純水の電気伝導度が燃料電池への純水供給に適したものとなり、燃料電池の触媒を劣化させないものとなる。
【0065】
また、実施例2記載の樹脂チューブ1も、実施例1と同様に、耐熱剤が加えられているため、150℃オーブン中で2日間アニール処理させたとしても、殆ど老化しない。
(実施例1の実験結果に基づく、実施例2記載の樹脂チューブ1の性能)
表4・表5は実施例1の実験結果に基づく、実施例2の樹脂チューブ1の性能表である。
(表4)実施例1(表1)に基づく実施例2の電気伝導度及び硫黄溶出量

【0066】
アニール処理を行わなかった実施例2の樹脂チューブ1は、樹脂中に硫黄成分を含有していない為、硫黄溶出量は0mg/Lであった。電気伝導度は、実施例1のアニール処理を行わなかったチューブと同様に、20μS/cmであった。
【0067】
アニール処理を行った実施例2の樹脂チューブ1は、硫黄溶出量は0mg/Lであった。電気伝導度は、1.6μS/cmであった。
【0068】
したがって、アニール処理を行った実施例2の樹脂チューブ1及びアニール処理を行わなかった実施例2の樹脂チューブ1は、触媒を含む系に使用しても、純水中へ樹脂に含まれる金属イオンや硫黄成分の溶出量が少ないことから、触媒を長持ちさせることができる。
【0069】
電気伝導度が低減可能であることから、アニール処理を行うのが好ましい。
(表5)実施例1(表3)に基づく実施例2の性能表

【0070】
(表5について)
表5は実施例1の表3に基づくものである。表5から分かるように、実施例2記載の樹脂チューブ1は、燃料電池に純水を供給することに適している。
【0071】
特に、硫黄溶出量が0mg/Lであるとともに、実施例1の純水供給チューブ1と同程度の電気伝導度(1.6μS/cm)となる、アニール処理を行った実施例2記載の純水供給チューブ1は、燃料電池に純水を供給するのに最適である。
(実施例2記載の樹脂チューブ1について)
表4・表5からわかるように、従来チューブの問題点は耐熱性及び硫黄成分の溶解である。
【0072】
したがって、ポリアミドに耐熱剤のみを加えたものを使用することもできる。ポリアミドに耐熱剤と硫黄成分を含有しない可塑剤とを加えたものを樹脂チューブ1(実施例の外層11のみのチューブ)とすることもできる。
【0073】
樹脂チューブ1を燃料電池システム以外の触媒を使用する機構の配管に用いたとしても、触媒を死活化させず、機構の触媒寿命を延長させることができる。
【0074】
例えば、硫黄分が悪影響を与える設備に使用するチューブ(尿素配管用チューブ等)に使用することができる。樹脂チューブ1を各種自動車用関係に配管されるチューブ類として使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施例1及び実施例2の樹脂チューブ1の斜視図である。
【図2】樹脂チューブ1の耐熱試験の結果を示すグラフである。
【図3】樹脂チューブ1の曲げ半径試験の結果を示すグラフである。
【図4】樹脂チューブ1の破壊圧力試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1 樹脂チューブ
10 内層
11 外層
2 純水流通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性を有するフッ素樹脂を内層側とし、耐熱剤とポリアミド樹脂とが混合された樹脂を外層側として共押出成形されたことによって、チューブ内を流通した純水の硫黄検出量が0.1〜30mg/L、電気伝導度が0.2〜40μS/cmとなることを特徴とする樹脂チューブ。
【請求項2】
接着性を有するフッ素樹脂を内層側とし、硫黄を含有しない可塑剤と耐熱剤とポリアミド樹脂とが混合された樹脂を外層側として共押出成形されたことによって、チューブ内を流通した純水の電気伝導度が0.2〜40μS/cmとなることを特徴とする樹脂チューブ。
【請求項3】
共押出成形された後、アニール処理によって、樹脂チューブに含まれる極性基を死活化させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂チューブ。
【請求項4】
接着性を有するフッ素樹脂を内層側とし、硫黄成分を含有する可塑剤と耐熱剤とポリアミド樹脂とが混合された樹脂を外層側として共押出成形された後、アニール処理によって、樹脂チューブに含まれる極性基を死活化させると共に可塑剤を気化させ樹脂チューブ内から硫黄成分を除去させたことを特徴とする樹脂チューブ。
【請求項5】
ポリアミド樹脂は、ポリアミド12もしくはポリアミド11とポリアミド12とがブレンドされたポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂チューブ。
【請求項6】
耐熱剤が無機系の安定剤であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の樹脂チューブ。
【請求項7】
アニール処理がなされる請求項3乃至6のいずれかに記載の樹脂チューブの製造方法であって、前記アニール処理は、樹脂チューブを所定温度の熱風循環オーブン中に一定時間静置させる工程であることを特徴とする、樹脂チューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−83288(P2009−83288A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256062(P2007−256062)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000247258)ニッタ・ムアー株式会社 (61)
【Fターム(参考)】