説明

樹脂フィルムの製造装置および樹脂フィルム

【課題】 欠陥部分の発生を抑制し、品質を向上させることが可能な樹脂フィルムの製造装置および当該製造装置で製造された樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 ゴムロール3は、ロール状の鉄心31と鉄心31の表面に設けられるゴム層32とからなる。さらにゴム層32は2層からなり、鉄心31に近い側に設けられる内層32aと、内層32aの外側に設けられる外層32bとからなる。内層32aを、デュロメータ硬さがA60〜A80のHTVシリコーンゴムまたはRTVシリコーンゴムのいずれかで形成し、外層32bを、デュロメータ硬さがA70〜A80のRTVシリコーンゴムで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性が付与された樹脂フィルムおよび樹脂フィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用途に用いられる光学シートは、たとえば偏光板と組み合わせた液晶セル、位相差フィルム、拡散フィルム、輝度向上フィルム等に広く用いられている。
【0003】
光学シートにおける光の透過特性および反射特性(以下では「光学特性」という)は、光学シートの材質および光学シート表面の状態などによって決定される。光学シートの材質としては、樹脂材料がよく使用される。光学シートには、たとえば、樹脂フィルムの表面に凹凸形状を形成し、光を散乱させる機能を付与したものがある。
【0004】
表面に凹凸形状が形成された樹脂フィルムは、一般に、溶融した透明樹脂をダイからフィルム状に押出し、外周面が平滑な第1冷却ロールと、外周面に凹凸形状が形成された第2冷却ロールとの間に挟み込んで第2冷却ロールの前記凹凸形状を転写し、第2冷却ロールに巻き掛けた後、引取りロールで引取ることによって得られる。
【0005】
特許文献1には、樹脂フィルムの製造方法が開示されている。特許文献1に開示の樹脂フィルムの製造方法では、ペレット化された熱可塑性樹脂である樹脂材料を加熱して溶融し、溶融した樹脂を押出す押出機と、押出機から押出された溶融状態の樹脂をフィルム状に押出すダイと、ダイからフィルム状に押出された樹脂を挟み込む複数のロールとを備える樹脂フィルム製造装置を用いて、樹脂フィルムを製造する。
【0006】
樹脂フィルムの表面状態は、樹脂を挟み込む複数のロールの表面状態が反映されるので、たとえば、樹脂フィルムの表面に凹凸を設けたい場合は、ロール表面に凹凸を設けて版とし、これを転写する。樹脂フィルムの表面を平坦にしたい場合は、ロール表面を平坦にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−196327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ロールの表面状態が、樹脂フィルムの表面状態に反映されるということは、ロールの表面に不要な凹凸などが存在すると、その不要な凹凸まで樹脂フィルムの表面に反映されて欠陥部分が発生してしまうことになる。ロール表面の不要な凹凸は、たとえばロールを構成する材質に起因するものであったり、ロールの製造工程に起因するものであったりする。
【0009】
樹脂フィルムの製造装置に用いられるロールの構成は、ロール状の鉄心と鉄心表面に設けられるゴム層とからなる。さらにゴム層は2層からなり、鉄心に近い側に設けられる内層と、内層の外側に設けられる外層とからなる。
【0010】
本願発明者は、このような構成のロールを用いた場合、樹脂フィルムの表面に、幅方向に延びる筋状の欠陥部分が発生し、さらにこの欠陥部分が樹脂フィルムの流れ方向に一定間隔で発生するという課題を見出した。
【0011】
本発明の目的は、欠陥部分の発生を抑制し、品質を向上させることが可能な樹脂フィルムの製造装置および当該製造装置で製造された樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、溶融押出成型法によって熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムを製造する樹脂フィルム製造装置であって、
溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出して製膜する製膜手段と、
第1のロールおよび第2のロールからなり、前記第1のロールの回転軸と前記第2のロールの回転軸とが平行で、前記第1のロールの外周面と前記第2のロールの外周面とが当接するように配置される成形手段であって、押し出されたフィルム状の熱可塑性樹脂を、前記第1のロールの外周面と前記第2のロールの外周面とで挟み込むことで、フィルム状の熱可塑性樹脂の表面形状を予め定める形状に成形する成形手段とを備え、
前記第1のロールおよび前記第2のロールのいずれか一方は、
円筒または円柱状の金属部材からなる芯材と、
前記芯材の外周面全体を被覆するように設けられるゴム層であって、芯材に近い側に設けられる内層および前記内層の外側に設けられる外層の2層からなるゴム層とで構成され、
前記内層は、高温加硫シリコーンゴムまたは室温加硫シリコーンゴムのいずれかで形成されることを特徴とする樹脂フィルム製造装置である。
【0013】
また本発明は、前記外層は、室温加硫シリコーンゴムで形成されることを特徴とする。
また本発明は、前記内層は、デュロメータ硬さがA60〜A80であり、前記外層は、デュロメータ硬さがA70〜A80であることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記内層および前記外層は、デュロメータ硬さがA70の室温加硫シリコーンゴムで形成されることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記第1のロールの外周面と前記第2のロールの外周面とが当接するように、前記第1のロールおよび前記第2のロールの一方のロールを他方のロールに付勢する付勢装置をさらに備え、
前記付勢装置は、
前記第1のロールまたは前記第2のロールの回転軸の軸受部と、
前記軸受部を水平方向に稼働させる水平可動部と、
前記軸受部にロッドを固定して、前記軸受部を介してロールに付勢力を付与する空気圧シリンダとを含むことを特徴とする。
また本発明は、光学特性が付与された樹脂フィルムであって、
JIS B0601:1994準拠の算術平均粗さ(Ra)が、1.1〜2.5μmであり、
JIS B0601:1994準拠の十点平均粗さ(Rz)と凹凸の平均間隔(Sm)との比率(Rz/Sm)が0.04〜0.10であり、
製造時の流れ方向に等間隔で複数点測定し、これを1つの測定列として、幅方向に等間隔で複数列測定したときのヘーズの標準偏差が1.0以下であることを特徴とする樹脂フィルムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成形手段の前記第1のロールおよび前記第2のロールのいずれか一方の構成を、円筒または円柱状の金属部材からなる芯材と、前記芯材の外周面全体を被覆するように設けられるゴム層とした。ゴム層は、芯材に近い側に設けられる内層および前記内層の外側に設けられる外層の2層からなる構成とし、前記内層は、高温加硫シリコーンゴムまたは室温加硫シリコーンゴムのいずれかで形成した。
【0017】
これにより、欠陥部分の原因となっていたゴムロール表面の凸部が低減され、樹脂フィルムの流れ方向に一定間隔で発生する欠陥部分の発生を抑制し、品質を向上させることができる。
【0018】
また本発明によれば、前記外層は、室温加硫シリコーンゴムで形成することが好ましく、前記内層は、デュロメータ硬さがA60〜A80であり、前記外層は、デュロメータ硬さがA70〜A80であることがより好ましい。
【0019】
また本発明によれば、最も好ましくは、前記内層および前記外層は、デュロメータ硬さがA70の室温加硫シリコーンゴムで形成されることである。
【0020】
また本発明によれば、前記第1のロールおよび前記第2のロールの一方のロールを他方のロールに付勢する付勢装置に、空気圧シリンダを用いた。
【0021】
従来はサーボモータによる位置制御であったのを、圧力制御に変更することで、樹脂フィルムの表面状態のばらつきを抑制することができる。
【0022】
また本発明によれば、JIS B0601:1994準拠の算術平均粗さ(Ra)が、1.1〜2.5μmであり、JIS B0601:1994準拠の十点平均粗さ(Rz)と凹凸の平均間隔(Sm)との比率(Rz/Sm)が0.04〜0.10であり、製造時の流れ方向に等間隔で複数点測定し、これを1つの測定列として、幅方向に等間隔で複数列測定したときのヘーズの標準偏差が1.0以下である。これにより、光学特性であるヘーズが均一な樹脂フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態である樹脂フィルム製造装置100の構成を模式的に示す図である。
【図2】製造装置100に備えられるゴムロール3の断面構成を拡大して示す図である。
【図3】ゴムロール3の回転軸線方向から見た付勢装置7の概略図である。
【図4】図3の切断面線A−Aで切断したときの水平可動部73およびレール8の断面図である。
【図5】上方から見たときの付勢装置7の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、溶融押出成型法を利用して樹脂フィルムを製造するための製造装置であり、ロールの構成およびロール押圧装置に特徴がある。
【0025】
図1は、本発明の実施形態である樹脂フィルムの製造装置100の構成を模式的に示す図である。
【0026】
樹脂フィルム製造装置100は、押出機1と、濾過装置12と、ダイ2と、ゴムロール3と、マットロール4と、鏡面ロール5と、引取りロール6と、付勢装置7とを含む。
【0027】
押出機1は、図示しない押出機シリンダと、ヒータと、押出機スクリューとを含む。押出機1は、押出機シリンダ内で、ヒータからの熱および押出機スクリューの剪断摩擦熱によって熱可塑性樹脂を溶融状態にし、溶融状態の熱可塑性樹脂(溶融樹脂)を、押出機スクリューにより押し出し、濾過装置12に送る。
【0028】
濾過装置12は、ポリマーフィルタを備え、押出機1から押出された溶融樹脂に対して濾過処理を行う。具体的にはポリマーフィルタに溶融樹脂を通過させることによって濾過し、ゲル化物等の異物を除去する。
【0029】
ダイ2は、濾過処理後の溶融樹脂をフィルム状に押出して製膜する。ダイ2は、たとえば、Tダイを用いることができる。
【0030】
ゴムロール3とマットロール4は、2つのロールの回転軸が同一水平面上に配置される。ゴムロール3とマットロール4は、外周面同士を接触させてニップ部を形成するように配置してもよく、外周面同士が所定の間隔(ギャップ)を空けて配置してもよい。どのように配置するかは、製造する樹脂フィルムに要求される特性に応じて設定すればよい。以下では、ニップ部を形成するように配置した場合について説明する。
【0031】
ダイ2は、これらゴムロール3とマットロール4の上方に設けられ、ダイ2の吐出口は、下方に開放して配置される。ダイ2の吐出口は、これらゴムロール3とマットロール4のニップ部の鉛直上方に位置し、ダイ2から吐出されるフィルム状樹脂は、鉛直下方に延びて、回転するゴムロール3とマットロール4とに挟み込まれる。
【0032】
ダイ2から吐出されたフィルム状樹脂をゴムロール3とマットロール4との間に挟み込むと、ゴムロール3のゴム層がフィルム状樹脂を介してマットロール4の外周面に沿って凹状に弾性変形する。その結果、ゴムロール3とマットロール4とがフィルム状樹脂を介して所定のニップ長さで接触する。
【0033】
このニップ長さは、マットロール4の表面に形成された凹凸形状をフィルム状樹脂に転写できる長さである。ニップ長さを所定の値にするには、たとえばゴムロール3のゴム層材質およびゴム層厚みなどを調整することによって任意に設定することができる。ゴムロール3は、表面温度が制御可能に構成されているのが好ましい。
【0034】
ダイ2から吐出されたフィルム状樹脂は、柔軟性が高い状態であるので、ゴムロール3とマットロール4との間に挟み込まれることで、各ロールの外表面に応じたフィルムの表面形状が得られる。
【0035】
ゴムロール3は、金属製の芯材と、芯材の表面に設けられるゴム層とからなり、芯材には、鉄心が用いられる。ゴムロール3は、外表面すなわちゴム層の表面が平坦に形成され、フィルム状樹脂のゴムロール3側一方面を平坦化する。ゴムロール3の詳細な構成については後述する。
【0036】
マットロール4は、表面に微小な凹凸加工を施された金属製ロールであり、フィルム状樹脂のマットロール4側他方面に凹凸形状を転写する。詳細には、たとえば金属塊を削りだしたドリルドロール、中空構造のスパイラルロールなどのロール内部に流体、蒸気等を通してロール表面の温度を制御できる金属ロールなどが挙げられ、これら金属ロールの外周面にサンドブラストや彫刻等によって所望の凹凸形状が形成されたものを用いることができる。
【0037】
マットロール4の外周面に形成される凹凸形状としては、算術平均表面粗さ(Ra)で0.1〜10μmのマット形状の他、ピッチや高さが5〜500μmのプリズム形状やレンズ形状等を採用することができる。算術平均表面粗さ(Ra)は、JIS B0601−2001に準拠して表面粗さ計で測定して得られる値である。
【0038】
ゴムロール3およびマットロール4は、いずれもフィルム状樹脂の温度よりも低い温度に保持されており、ゴムロール3とマットロール4との間に挟み込まれることで、フィルム状樹脂が所定の温度にまで冷却される。この冷却により、フィルム状樹脂の柔軟性が低下し、マットロール4の外周面に巻回された状態でマットロール4の回転に伴って搬送される。
【0039】
さらに、マットロール4のゴムロール3とは反対側には、鏡面ロール5が設けられる。鏡面ロール5は、ゴムロール3、マットロール4と同じ外径を有する円柱状部材からなり、回転軸がゴムロール3、マットロール4の回転軸と同一水平面上に配置される。
【0040】
鏡面ロール5は、マットロール4と同様に形成される金属製ロールであり、外表面が鏡面加工されている。
【0041】
フィルム状樹脂は、マットロール4の下方側外周面をほぼ半周巻回されたのち、鏡面ロール5の外表面を約1/4周巻回されて、鏡面ロール5の鉛直方向上部で離反して、引き取りロール6によって水平方向に引き取られる。なお、樹脂フィルムをより緩やかに冷却するために、鏡面ロール5と引き取りロール6との間には、複数本の冷却ロールを設け、鏡面ロール5から順次、次の冷却ロールにフィルム状樹脂を巻回させるようにしてもよい。
【0042】
図2は、製造装置100に備えられるゴムロール3の断面構成を拡大して示す図である。ゴムロール3は、ロール状の鉄心31と鉄心31の表面に設けられるゴム層32とからなる。さらにゴム層32は2層からなり、鉄心31に近い側に設けられる内層32aと、内層32aの外側に設けられる外層32bとからなる。
【0043】
前述のように、従来のゴムロールでは、樹脂フィルムの表面に、樹脂フィルムの全幅にわたって、樹脂フィルムの流れ方向に一定間隔で筋状の欠陥部分が発生する。欠陥部分の表面状態は、他の部分の表面状態と異なった状態となり、欠陥部分では、所望の光学特性が得られない。
【0044】
ところで、ゴム層32は、鉄心31の外表面に層状のゴム部材を貼り付けて形成される。従来のゴム層は、内層がエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)からなり、外層が室温加硫(Room Temperature Vulcanizing : RTV)シリコーンゴムからなる。内層にEPDMを用いた場合、内層を貼り付けた際の継ぎ目部分が微小な凸部となり、外層を設けてもこの凸部を吸収しきれず、ゴム層の外表面に凸部として残る。継ぎ目部分は、ゴムロールの軸線方向に平行にあり、凸部も外表面に軸線方向と平行に残ってしまう。この凸部が樹脂フィルムの表面に欠陥部分を発生させる原因となる。継ぎ目部分は、内層の外表面に1つの筋状部分として発生し、凸部も同様に1つの筋状部分として残る。ゴムロールは回転しながらフィルム状樹脂に押圧されるので、欠陥部分はゴムロールの回転周期に応じて、流れ方向に一定間隔で発生する。
【0045】
本願発明者は、ゴム層32の凸部の発生を抑制するために、内層32aをEPDMではなく、高温加硫(High Temperature Vulcanizing : HTV)シリコーンゴムで形成した。外層32bは、従来と同じRTVシリコーンゴムで形成した。また内層32aのHTVシリコーンゴムの硬さは、JIS K6253で規定されるデュロメータ硬さでA80とし、外層32bのRTVシリコーンゴムの硬さは、デュロメータ硬さでA80とした。これにより、従来のゴムロールで発生していた樹脂フィルムの欠陥部分が低減した。
【0046】
さらに欠陥部分を低減するために、内層32aを形成する材質について検討した。内層32aを、デュロメータ硬さA60のHTVシリコーンゴムに変更することでさらに欠陥部分が低減した。このとき、外層32bは、デュロメータ硬さA80のRTVシリコーンゴムのままとした。
【0047】
ここで、外層32bをデュロメータ硬さA70のRTVシリコーンゴムに変更するとともに、内層32aを外層32bと同じデュロメータ硬さA70のRTVシリコーンゴムに変更することで、筋状の欠陥部分はほぼ発生しなくなった。このように内層32aと外層32bとを同じデュロメータ硬さA70のRTVシリコーンゴムとした場合は、内層32aと外層32bとを明確に区別する必要はなく、所定の厚みにデュロメータ硬さA70のRTVシリコーンゴムによるゴム層32を設ければよい。
【0048】
ゴムロール3のゴム層32を構成する2つの層について、内層32aを、デュロメータ硬さがA60〜A80のHTVシリコーンゴムまたはRTVシリコーンゴムのいずれかで形成し、外層32bを、デュロメータ硬さがA70〜A80のRTVシリコーンゴムで形成することにより、樹脂フィルムの欠陥部分の発生を抑制することができる。
【0049】
ゴム層32の硬さを所定の値にするには、たとえばゴム層を構成するゴム材料の架橋度や組成を調整することによって任意に行うことができる。
【0050】
マットロール4の表面温度(T)は、フィルム状樹脂の熱変形温度(Th)に対して、(Th−60℃)≦T≦(Th+30℃)、好ましくは(Th−30℃)≦T≦(Th+20)、より好ましくは(Th−20℃)≦T≦(Th+10℃)の範囲内にするのがよい。
【0051】
ゴムロール3の表面温度は、0〜70℃であり、好ましくは20〜40℃の範囲内とするのがよい。特にゴムロール3の表面温度が70℃を越える場合、樹脂フィルムがゴムロール3表面に付着してゴムロール3に巻き付いてしまうおそれがある。
【0052】
鏡面ロール5および鏡面ロール5以降の各冷却ロールの表面温度については、任意の表面温度に設定すればよく、特に限定されないが、通常、熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)に対して±15℃程度が好ましい。
【0053】
熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)としては、特に限定されるものではないが、通常、60〜200℃である。熱可塑性樹脂の熱変形温度(Th)は、ASTMD−648に準拠して測定される温度である。
【0054】
引取りロール6は、一対の上部ロール6a,下部ロール6bからなる。上部ロール6a,下部ロール6bとしては、たとえばゴムロール、金属ロール等が挙げられる。下部ロール6bは、電動モータ等の回転駆動手段に接続されており、この下部ロール6bと接するように上部ロール6aが回転自在に配置され、下部ロール6bの回転によって上部ロール6aも回転するように構成されている。したがって、上部ロール6a,下部ロール6bは同じ周速度で回転する。なお、上部ロール6a,下部ロール6bの周速度が同じになる限り、前記構成とは逆の構成、すなわち上部ロール6aを回転駆動手段に接続し、この上部ロール6aと接するように下部ロール6bを回転自在に配置してもよく、上部ロール6a,下部ロール6bがいずれも回転駆動手段に接続されていてもよい。
【0055】
引取りロール6で引取られた製品としての樹脂フィルムは、厚さが30〜300μmであるのが好ましい。これに対し、厚さが30μm未満であると、前記したロール構成では安定して樹脂フィルムを得ることができず、300μmを超えると、フィルムとして取り扱うことが困難となる。樹脂フィルムの厚みは、ダイ2から押し出されるフィルム状樹脂の厚み、ゴムロール3とマットロール4との当接厚、ニップ部の長さにより調整することができる。
【0056】
樹脂フィルムは、表面に凹凸形状が形成され、光を散乱させる機能が付与されているので、たとえば偏光板と組み合わせた液晶セル、位相差フィルム、拡散フィルム、輝度向上フィルム等の他、自動車内装用フィルム、照明用フィルム、建材用フィルム等に適用することができるが、本発明はこれらの用途に限定されるものではない。
【0057】
図3は、ゴムロール3の回転軸線方向から見た付勢装置7の概略図である。図4は、図3の切断面線A−Aで切断したときの水平可動部73およびレール8の断面図である。図5は、上方から見たときの付勢装置7の概略平面図である。
【0058】
上記のように、ゴムロール3の外周面とマットロール4の外周面とが当接するように、付勢装置7によってゴムロール3をマットロール4に付勢する。
【0059】
付勢装置7は、ゴムロール3の回転軸33の軸受部72と、軸受部72を水平方向に稼働させる水平可動部73と、軸受部72にロッドを固定して、軸受部72を介してロールに付勢力を付与する空気圧シリンダ71とを含む。
【0060】
軸受部72は、ゴムロール3の回転軸33を回転可能に支持する部材であればよく、すべり軸受および転がり軸受などを用いることができる。
【0061】
また軸受部72は、回転軸33が貫通するとともに回転軸33を支持する貫通孔部72aが中央部分に設けられた直方体形状に形成される。軸受部72の下面には、水平可動部73が固定される。水平可動部73は、ゴムロール3とマットロール4の当接方向に平行な方向に延びるレール8を、上方および両側方から抱き込むように内部空間が設けられるガイド部である。水平可動部73は、レール8に沿って摺動し、軸受部72も水平可動部73に伴って、レール8に沿って摺動する。軸受部72、水平可動部73は、いずれも、回転軸33の軸線方向両端部のそれぞれに、回転軸33を支持するように設けられる。
【0062】
軸受部72および水平可動部73の移動によって、支持された回転軸33が水平方向に移動可能となる。ゴムロール3とマットロール4とは水平方向に隣接するように配置されており、回転軸33の移動により、ゴムロール3とマットロール4とを当接または離反させることができる。
【0063】
また、空気圧シリンダ71はロッド71aのストローク方向が水平方向と平行になるように設けられ、ロッド71aは、軸受部72の側面のうち、マットロール4から遠い側、すなわち樹脂フィルムの搬送方向上流側の側面に固定される。空気圧シリンダ71は、ゴムロール3とマットロール4とが予め定める大きさのニップ部を形成するように固定される。マットロール4は移動しないように固定され、ゴムロール3とマットロール4とが当接した状態では、軸受部72が一定の圧力でロッド71aを収縮する方向に押圧し、空気圧シリンダ71は、圧縮空気によってこの圧力に釣り合う力でロッド71aを介して軸受部72を押し戻す。
【0064】
フィルム状樹脂がゴムロール3とマットロール4とのニップ部に挟み込まれると、ゴムロール3がマットロール4から離反する方向に力が加わる。この力は、軸受部72を介して空気圧シリンダ71のロッド71aを押し込もうとするが、封入された圧縮空気によってロッド71aを介して軸受部72を押し戻し、力の釣り合った状態が維持される。
【0065】
従来は、フォーストランスデューサによって、フィルム状樹脂がロールに挟み込まれたときのゴムロール3の回転軸33の水平方向変位を検出し、ゴムロール3の位置が一定となるようにサーボモータを用いて回転軸33の位置制御を行っていた。しかしながら、フィルム状樹脂の厚み変動などに追随することが困難であり、樹脂フィルムの表面状態のばらつき、すなわち光学特性のばらつきを低減することができなかった。
【0066】
上記のように、空気圧シリンダ71によって押圧力が一定となるように圧力制御に変更すると、フィルム状樹脂の厚み変動などに十分に追随して、樹脂フィルムの表面状態のばらつきを低減することが可能となった。
【0067】
さらに、空気圧シリンダ71の反対側に、空気圧シリンダ81を設けてもよい。空気圧シリンダ81はロッド81aのストローク方向が水平方向と平行になるように設けられ、ロッド81aは、軸受部72の側面のうち、マットロール4に近い側、すなわち樹脂フィルムの搬送方向下流側の側面に当接するように設けられる。空気圧シリンダ81は、空気圧シリンダ71とともに、ゴムロール3とマットロール4とが予め定める大きさのニップ部を形成するように固定される。フィルム状樹脂の厚みが変化した場合、ゴムロール3とマットロール4との距離が変動する。距離の変動によって、軸受部72がロッド71aを収縮する方向に押圧する場合は、空気圧シリンダ71が、圧縮空気によってロッド71aを介して軸受部72を押し戻す。ロッド81aは、軸受部72とは固定されていないので、軸受部72がロッド81aのストロークを越えて変動するときは、軸受部72は、ロッド81aから離反する。また距離の変動によって、軸受部72がロッド71aを伸張させる場合は、軸受部72がロッド81aに当接し、さらに軸受部72がロッド81aを押圧すると、空気圧シリンダ81が、圧縮空気によってロッド81aを介して軸受部72を押し戻す。
【0068】
本発明の製造装置で製造する樹脂フィルムの原料となる熱可塑性樹脂について説明する。
本発明に用いることができる熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ミディアムインパクトポリスチレンのようなゴム補強スチレン系樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN樹脂)、アクリロニトリル−ブチルアクリレートラバー−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピルラバー−スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル−塩化ポリエチレン−スチレン共重合体(ACS)、ABS樹脂(たとえば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン−アルファメチルスチレン共重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体)等のスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、エチレン塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、エチレン塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PETP、PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBTP、PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、変性ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂、ポリオキシメチレンコポリマー、ポリオキシメチレンホモポリマー等のポリアセタール(POM)樹脂、その他のエンジニアリング樹脂、スーパーエンジニアリング樹脂、たとえば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PSU)、セルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、エチルセルロース(EC)等のセルロース誘導体、液晶ポリマー、液晶アロマチックポリエステル等の液晶系ポリマーが挙げられる。また、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、熱可塑性スチレンブタジエンエラストマー(TSBC)、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー(TPO)、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPEE)、熱可塑性塩化ビニルエラストマー(TPVC)、熱可塑性ポリアミドエラストマー(TPAE)等の熱可塑性エラストマーを用いることもできる。本実施形態においては、一種もしくはそれ以上の熱可塑性樹脂のブレンド体を用いたり、添加材等を含有させて用いてもよい。
【0069】
上記のような製造装置によって製造された樹脂フィルムとして、光学特性であるヘーズが均一な樹脂フィルムが得られる。
【0070】
本発明の樹脂フィルムは、JIS B0601:1994準拠の算術平均粗さ(Ra)が、1.1〜2.5μmであり、好ましくは1.5〜2.1μmである。また、JIS B0601:1994準拠の十点平均粗さ(Rz)と凹凸の平均間隔(Sm)との比率(Rz/Sm)が0.04〜0.10であり、好ましくは0.05〜0.09である。
【0071】
ここで、Rz/Smは、ヘーズとの相関性を有するパラメータである。この比率が大きいほど樹脂フィルム表面の凹凸の傾斜角度が大きく、樹脂フィルムへの入射光が強く散乱されるので、ヘーズが大きくなる。Rz/Smの範囲が規定されることにより、本発明の樹脂フィルムは、好適な範囲のヘーズとなる表面状態を有するものに特定される。
【0072】
さらに、本発明の樹脂フィルムは、ヘーズを、製造時の流れ方向に等間隔で複数点(好ましくは8点以上)測定し、これを1つの測定列として、幅方向に等間隔で複数列(好ましくは16列以上)測定したときの全測定結果(128点)の標準偏差が1.0以下である。これにより、ヘーズにばらつきが少ない均一な表面状態の樹脂フィルムが得られる。
【0073】
(実施例)
原料となる熱可塑性樹脂としてポリカーボネート(カリバー301−10、住友ダウ株式会社製)を用いた。シリンダ径115mmの一軸押出機(東芝機械株式会社製)で原料樹脂を溶融させて押出し、設定温度が270℃の全幅寸法1900mmのTダイにより、330kg/hの吐出量でフィルム状樹脂を吐出した。
【0074】
ゴムロール3とマットロール4とは、間隔を空けて配置し、吐出されたフィルム状樹脂と密着するようにニップする。鏡面ロール5は、マットロール4と1.5mmの間隔を空けて配置した。マットロール4は、外径400mmの鉄製ロール(表面クロムめっき処理)であり、ブラスト処理によってその表面に微小な凹凸形状(Ra=2.7μm)を設けたものである。ゴムロール3は、外径380mmの鉄心の表面に、ゴム層32として厚み10mmのデュロメータ硬さA70のRTVシリコーンゴム層(内層32aと外層32bとを同じデュロメータ硬さA70のRTVシリコーンゴムとしたもの)を設けたものである。
【0075】
ゴムロール3の表面温度を40℃、マットロール4の表面温度を130℃、鏡面ロール5の表面温度を140℃に設定した。
【0076】
空気圧シリンダ71は、操作側上流の空気圧を0.5MPa、操作側下流の空気圧を0.14MPaとし、駆動側上流の空気圧を0.5MPa、駆動側下流の空気圧を0.16MPaとした。
製造される樹脂フィルムは、厚みが130μmで、幅寸法が1700mmであった。
【0077】
(比較例)
空気圧シリンダの代わりにサーボモータを用いて、ゴムロール3とマットロール4の押し付け力が操作側1.5〜1.6kN、駆動側1.8〜1.9kNに設定したこと以外は、実施例と同様にした。
【0078】
(評価方法)
得られた樹脂フィルムの光学特性は、樹脂フィルムのヘーズを測定することによって評価した。サンプルのヘーズ測定は、ヘーズメータHM−150(株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて測定した。評価サンプルは、ロールに巻き掛けられた1周分(長さ1600mm)を採取し、流れ方向に等間隔で8点測定し、これを1つの測定列として、幅方向に等間隔で16列測定した。したがって、測定位置は合計128点である。
【0079】
測定列ごとに8点のヘーズから標準偏差を算出し、算出した16列分の標準偏差の算術平均値を算出した。
【0080】
実施例で製造した樹脂フィルムのサンプルは、標準偏差の算術平均値が0.58と小さく、比較例で製造した樹脂フィルムのサンプルは、標準偏差の算術平均値が1.74と実施例に比較して大きかった。これは、樹脂フィルムの流れ方向、幅方向におけるヘーズのばらつきが、比較例よりも実施例のほうが小さいことを示している。
【0081】
さらに、算術平均粗さRaおよび、十点平均粗さ(Rz)と凹凸の平均間隔(Sm)との比率(Rz/Sm)についても測定した。これらは、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定機サーフテストSJ−201を用いて測定した。測定位置は、ヘーズと同様に128点である。実施例、比較例とも128点での測定値の算術平均値を算出した。実施例は、Ra(平均値)が1.6μmであり、Rz/Sm(平均値)が0.065であった。比較例は、Ra(平均値)が1.6μmであり、Rz/Sm(平均値)が0.058であった。
【符号の説明】
【0082】
1 押出機
2 ダイ
3 ゴムロール
4 マットロール
5 鏡面ロール
6 引き取りロール
7 付勢装置
8 レール
31 鉄心
32 ゴム層
32a 内層
32b 外層
33 回転軸
71 空気圧シリンダ
71a ロッド
72 軸受部
73 水平可動部
100 樹脂フィルム製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融押出成型法によって熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムを製造する樹脂フィルム製造装置であって、
溶融状態の熱可塑性樹脂をフィルム状に押出して製膜する製膜手段と、
第1のロールおよび第2のロールからなり、前記第1のロールの回転軸と前記第2のロールの回転軸とが平行で、前記第1のロールの外周面と前記第2のロールの外周面とが当接するように配置される成形手段であって、押し出されたフィルム状の熱可塑性樹脂を、前記第1のロールの外周面と前記第2のロールの外周面とで挟み込むことで、フィルム状の熱可塑性樹脂の表面形状を予め定める形状に成形する成形手段とを備え、
前記第1のロールおよび前記第2のロールのいずれか一方は、
円筒または円柱状の金属部材からなる芯材と、
前記芯材の外周面全体を被覆するように設けられるゴム層であって、芯材に近い側に設けられる内層および前記内層の外側に設けられる外層の2層からなるゴム層とで構成され、
前記内層は、高温加硫シリコーンゴムまたは室温加硫シリコーンゴムのいずれかで形成されることを特徴とする樹脂フィルム製造装置。
【請求項2】
前記外層は、室温加硫シリコーンゴムで形成されることを特徴とする請求項1記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項3】
前記内層は、デュロメータ硬さがA60〜A80であり、前記外層は、デュロメータ硬さがA70〜A80であることを特徴とする請求項1記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項4】
前記内層および前記外層は、デュロメータ硬さがA70の室温加硫シリコーンゴムで形成されることを特徴とする請求項1記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項5】
前記第1のロールの外周面と前記第2のロールの外周面とが当接するように、前記第1のロールおよび前記第2のロールの一方のロールを他方のロールに付勢する付勢装置をさらに備え、
前記付勢装置は、
前記第1のロールまたは前記第2のロールの回転軸の軸受部と、
前記軸受部を水平方向に稼働させる水平可動部と、
前記軸受部にロッドを固定して、前記軸受部を介してロールに付勢力を付与する空気圧シリンダとを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項6】
光学特性が付与された樹脂フィルムであって、
JIS B0601:1994準拠の算術平均粗さ(Ra)が、1.1〜2.5μmであり、
JIS B0601:1994準拠の十点平均粗さ(Rz)と凹凸の平均間隔(Sm)との比率(Rz/Sm)が0.04〜0.10であり、
製造時の流れ方向に等間隔で複数点測定し、これを1つの測定列として、幅方向に等間隔で複数列測定したときのヘーズの標準偏差が1.0以下であることを特徴とする樹脂フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−245708(P2012−245708A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119724(P2011−119724)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】