説明

樹脂切削装置及び方法

【課題】樹脂の表面を高精度で加工する。
【解決手段】複数の貫通孔が形成されていて加工対象の樹脂60が載置される載置台20と、前記貫通孔にパイプ50を通じて連結された吸引手段40と、樹脂60の表面を切削する先端のカーブが1アールから3アールの範囲である刃先82を有する刃物80と、刃物80を樹脂60の表面に直交する軸82を中心に回転させる回転手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂切削装置及び方法に関し、特に、樹脂表面をミクロンレベルの凹凸とする樹脂切削装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂表面に線状溝の加工痕跡が見えることのない樹脂加工方法を提供するために、幅広でかつ鈍角な刃を有する超音波カッターを用いて、樹脂に所定の厚さの線状溝を形成し、樹脂の厚みを2mm以下程度にしてから、幅が狭くかつ鋭角な刃を有する超音波カッターを用いて、樹脂に所定の厚さの線状溝を形成し、樹脂の厚みを0.5mm以下にするという技術がある(特許文献1)
【0003】
【特許文献1】特開2005−35253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている発明は、複数の超音波カッターを用意しなければならないため、部品数も多く装置が大掛かりとなる。
【0005】
また、特許文献1に記載されている発明は、2度の線状溝形成工程が必須であるため、生産性に難点がある。
【0006】
さらに、特許文献1に記載されている発明は、樹脂表面の凹凸をミクロンレベルで制御することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、加工対象の樹脂を固定する固定手段と、前記固定手段によって固定された樹脂の表面を切削する切削手段とを備えた樹脂切削装置であって、前記切削手段は、先端のカーブが1アールから3アールの範囲である刃物を備える。
【0008】
また、本発明は、加工対象の樹脂を固定する固定手段と、前記固定手段によって固定された樹脂の表面を切削する切削手段とを備えた樹脂切削装置であって、前記固定手段は、前記樹脂が載置される載置台と、前記載置台に形成された複数の貫通孔と、前記貫通孔に連結された吸引手段とを備える。
【0009】
なお、前記切削手段を、前記樹脂の表面に直交する軸を中心に回転させる回転手段を備える。
【0010】
また、本発明は、加工対象の樹脂を固定した状態で当該樹脂の表面を切削する樹脂切削方法であって、先端のカーブが1アールから3アールの範囲である刃物によって前記切削を行う。
【0011】
さらに、本発明は、加工対象の樹脂を固定した状態で当該樹脂の表面を切削する樹脂切削方法であって、前記樹脂が載置される載置台に複数の貫通孔を形成しておき、前記貫通孔を通じて前記樹脂を吸引することで固定する。
【発明の実施の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1〜図4は、本発明の実施形態の樹脂切削装置を用いた樹脂の加工工程を示す図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の樹脂切削装置は、刃物取付体70の底面(図3)に対して上面が略並行な大台10を有する。大台10の上面の一部には、例えばマトリクス状に溝が形成された溝形成領域30が位置する。溝の深さ、ピッチ、幅等の条件は、後述する貫通孔22の条件に依存する。
【0014】
溝形成領域30における溝の互いに直交する部分には開口部が形成されている。この開口部は、パイプ50を介して吸引手段40と連結されている。吸引手段40は、例えば、50〜90KgPa、好ましくは、80〜87KgPaという条件で吸引可能なものである。
【0015】
大台10の上面には、加工対象の樹脂60(図2)が載置される載置台20が位置する。載置台20の大きさは、溝形成領域30よりも大きく、樹脂20の切削に先立って、溝形成領域30上を覆う態様で大台10に取り付けられる。
【0016】
大台10への載置台20の取り付けは、ネジ穴24に通されたネジによって行う。なお、ネジ穴24には、ネジ取り付け後に封止用樹脂が充填される。もっとも、大台10への載置台20の取り付けは、ネジを用いるのではなく、接着剤を用いた接着などでもよい。
【0017】
本実施形態では、載置台20を樹脂製としている。載置台20は、作業時に、樹脂60に対して温度差が生じにくく、また捻じれに強いものが好ましい。このような条件を満たすものには、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ベークライト、石炭酸樹脂などを含むフェノール樹脂がある。ただし、載置台20は、樹脂60との密閉性が担保される材質であれば、例えば、鉄製、ステンレス製、アルミニウム製など非鉄製金属としてもよい。
【0018】
載置台20の中央部には、複数の貫通孔22が形成されている。具体的には、載置台20上に樹脂60を位置あわせして載置したときに、貫通孔22が全て覆われるような箇所に貫通孔22が形成されている。したがって、載置台20を溝形成領域30上を覆う態様で大台10に取り付けると、貫通孔22と溝形成領域30の開口部とが相互に連通することになる。
【0019】
貫通孔22相互の間隔、大きさ(直径)などは、樹脂60の厚さに依存する。一般的には、樹脂60の強度が高いほど、また、樹脂60の厚みが増すほど、貫通孔22相互の間隔を狭めることができ、また、貫通孔22の大きさも増やせる。
【0020】
一例としては、貫通孔22は、樹脂60の厚さを3mm未満としたときに、間隔を20〜40mm、大きさを2〜4φとすることができる。また、厚さを3〜5mmとしたときに、間隔を40〜80mm、大きさを4〜8φとすることができる。なお、貫通孔22の条件を、間隔40mm、大きさを4φとした場合には、溝形成領域30における溝の条件は、溝ピッチ40mm、深さ4mm、幅4mmとすることができる。
【0021】
一方、載置台20の外縁部には、載置台20と樹脂60との位置合わせを行うためのピンを受けるピン受け穴26がいくつか形成されている。ピン受け穴26は、少なくとも樹脂60の角部を受けられるような態様で形成されているとよい。特に、ピン受け穴26は、樹脂60の対角を受けられるような態様で形成されていると好適である。
【0022】
ここで、吸引手段40を用いて、樹脂60を載置台20上に固定すると、以下のようなメリットがある。すなわち、樹脂60の強度にもよるが、仮に樹脂60を治具などによって両端から挟むことによって固定しようとすると、僅かながらではあるが樹脂60に撓みが生じる。
【0023】
したがって、この状態で樹脂60を切削した場合には、樹脂60の切削面自体は平滑化できても、切削後に治具から樹脂60を取り外したときには、樹脂60の表面は平滑でなくなるという事態が生じる。
【0024】
これに対して、本実施形態のように、樹脂60を吸引手段40を用いて固定すると、固定時に樹脂60に撓みが生じない。したがって、切削後に吸引手段40による吸引を解除しても、樹脂60の表面は平滑となるというメリットがある。
【0025】
図2には、載置台20上に位置合わせして載置した樹脂60を吸引手段40によって吸引している状態を示している。既述のように、樹脂60によって貫通孔22は全て覆われる。
【0026】
ここで、各部材の寸法など例について説明する。
【0027】
大台10の大きさは、樹脂60に大きさに基づいて定めればよいが、本実施形態では、1300×300×400cmとしている。パイプ50が接続される開口部の大きさは、例えば、5φとしている。
【0028】
載置台20の大きさは、例えば、1300×300×30cmとしている。載置台20の厚さは、樹脂加工装置の使用により薄くなっていくので、15cm程度まで到達した場合に、新しいものに交換するようにしている。
【0029】
図3には、載置台20上に載置された樹脂60の表面(上面)を切削する切削手段を示している。刃物80は、略L字形状であり、本体部分が、刃先82に対して相対的に長い。
【0030】
刃物80は、円盤状の刃物取付体70に取り付けられている。具体的には、刃物取付体70の側面に形成されている刃物受け部に、刃先82が下側に突出する向きで、刃物80本体が通されている。刃先82の形状などの条件については図5を用いて後述する。
【0031】
刃物取付体70は、樹脂60の表面に直交する軸84の下端に取り付けられている。軸84は、樹脂切削装置の使用時に、図示しない駆動手段によって回転される。したがって、軸84に刃物取付体70を取り付けることによって、刃物取付体70、ひいては、刃物80を例えば時計回りに回転させることができる。
【0032】
ここで、一般的な樹脂の切削装置は、本実施形態の切削装置とは異なり、図3に示すような態様で刃物80を回転させていない。通常、樹脂を切削する場合には、刃物を、樹脂表面に対する直交方向に回転させる。したがって、樹脂表面には、直線状の切削痕が残る。本実施形態の場合には、この種の切削痕が生じないので、相対的に樹脂60の表面を平滑とできる。
【0033】
また、軸84は、樹脂切削装置の使用時に、図示しない駆動手段によって、樹脂60上を樹脂60に対して平面的に移動される。図3に示す場合には、図面左方向に移動される。もっとも、軸84の進行に代えて或いはこれと共に、大台10側を図面右方向に移動させてもよい。
【0034】
軸84の回転速度及び進行速度は、樹脂60の強度などによる。本実施形態の樹脂切削装置での、樹脂60と各速度との関係について幾つか例示する。
【0035】
アクリル樹脂の場合には、回転速度が1400rpm、進行速度が120mm、
ベークライト樹脂の場合には、回転速度が2000rpm、進行速度が200mm、
ナイロンモノマー樹脂の場合には、回転速度が1000rpm、進行速度が180mm、
ポリアセタールコポリマー樹脂の場合には、回転速度が1160rpm、進行速度が100mmである。
【0036】
図4には、実際に切削手段によって樹脂60の表面を切削している状態を示している。ここでは、切削により樹脂60の表面が平滑化された様子を示している。樹脂60の表面は、研磨された大理石のような光沢を確認できた。
【0037】
透明な樹脂60を切削した場合には、その透明性が維持できる。実際に、厚みが5cmを超える透明樹脂を切削してみたところ、透明樹脂が鮮明に透き通っていることが確認できた。
【0038】
こうして、樹脂60の表面を切削した後には、必要に応じて、樹脂60を裏返して、樹脂60の裏面も切削する。特に高度な表面精度が要求されている場合には、樹脂60の表裏両面を2回以上切削するとよい。
【0039】
ここで、本実施形態では、載置台20を樹脂製としているので、100〜500枚の樹脂板の切削を行うごとに、載置台20の上面自体も切削するとよい。これにより、載置台20の表面の平滑性を維持できるため、樹脂60の切削加工の精度が低下しない。特に、本実施形態では、吸引手段40を用いているので、載置台20表面が相対的に変形しやすいため、切削は有効である。
【0040】
図5は、図3等に示した刃物80の刃先82を示す図である。図5(a)は刃物80の側面図、図5(b)は刃物80の正面図である。
【0041】
図5(a)、図5(b)に示すように、刃物80の刃先82は鋭利な先端としていない。具体的には、刃先82は1アール〜3アールの曲形状としてある。刃先82の素材は、ダイヤモンド、プラチナ、立方晶窒化ホウ素(Cubic Boron Nitride:cBN)、サファイア、サーメットを含む超硬合金、セラミックなどとすることができる。素材は、硬度が高いほど好ましく、上記例ではダイヤモンドとなる。
【0042】
なお、刃物80は、図5(a)の場合には上側が図面手前方向に回転され、図5(b)の場合には刃先82が図面反時計方向に向かう方向に回転される。
【0043】
ここで、刃先82を1アール〜3アールの曲形状としている理由は以下の通りである。すなわち、仮に刃先82を1アール未満とすると、樹脂60の強度にもよるが、樹脂60の表面には刃先82が鋭利なため切削痕が残ってしまう。
【0044】
一方、仮に刃先82を1アールよりも大きくすると、刃先82と樹脂60の表面との接触面積が増加することに起因して、切削時に樹脂60の表面に刃先82との摩擦熱が生じ、樹脂60に摩擦熱による反りが発生する。この状態で切削を継続すると、切削後に樹脂60の表面温度が低下したときには、樹脂60の表面の平滑性が担保できていないことになる。
【0045】
これに対して、本実施形態のように、刃先82を1アール〜3アールの曲形状とすると、上記のような弊害が生じず、樹脂60の表面を平滑とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態の樹脂切削装置を用いた樹脂の加工工程を示す図である。
【図2】図1の載置台20上に位置合わせして載置した樹脂60を吸引手段40によって吸引している状態を示す図である。
【図3】図1の載置台20上に載置された樹脂60の表面(上面)を切削する切削手段を示す図である。
【図4】図1の実際に切削手段によって樹脂60の表面を切削している状態を示す図である。
【図5】図3等に示した刃物80の刃先82を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
大台10、載置台20、貫通孔22、ネジ穴24、ピン受け穴26、溝形成領域30、吸引手段40、パイプ50、樹脂60

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象の樹脂を固定する固定手段と、前記固定手段によって固定された樹脂の表面を切削する切削手段とを備えた樹脂切削装置であって、
前記切削手段は、先端のカーブが1アールから3アールの範囲である刃物を備える樹脂切削装置。
【請求項2】
加工対象の樹脂を固定する固定手段と、前記固定手段によって固定された樹脂の表面を切削する切削手段とを備えた樹脂切削装置であって、
前記固定手段は、前記樹脂が載置される載置台と、前記載置台に形成された複数の貫通孔と、前記貫通孔に連結された吸引手段とを備える樹脂切削装置。
【請求項3】
前記切削手段を、前記樹脂の表面に直交する軸を中心に回転させる回転手段を備える請求項1又は2記載の樹脂切削装置。
【請求項4】
加工対象の樹脂を固定した状態で当該樹脂の表面を切削する樹脂切削方法であって、
先端のカーブが1アールから3アールの範囲である刃物によって前記切削を行う樹脂切削方法。
【請求項5】
加工対象の樹脂を固定した状態で当該樹脂の表面を切削する樹脂切削方法であって、
前記樹脂が載置される載置台に複数の貫通孔を形成しておき、前記貫通孔を通じて前記樹脂を吸引することで固定する樹脂切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−320091(P2007−320091A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150784(P2006−150784)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【特許番号】特許第3973226号(P3973226)
【特許公報発行日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(506185757)有限会社岸本工業 (3)
【Fターム(参考)】