説明

樹脂品の装飾方法および装飾樹脂品

【課題】 樹脂基材の被処理物に金属を成膜して装飾する装飾方法および装飾樹脂品であって、本物感の高いマット調金属外観(「つやが消えた金属調の質感のある外観」)が得られると共に、密着強度の高い金属膜が得られ、しかもコストが安く、環境に優しい装飾方法および装飾樹脂品を提供すること。
【解決手段】 真空槽2にアルゴンおよび大気を導入し、導入したアルゴンと大気をプラズマ状態にして真空槽2内に配置した被処理物10をプラズマエッチングし、被処理物10の表面に凹凸部11を形成すると共に、形成された凹凸部11に大気の官能基を付与する第1工程S1と、プラズマエッチングした被処理物10の凹凸部12に金属膜13を成膜する第2工程S2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂素材面に金属膜を成膜し、本物感の高いマット調金属外観(「つやが消えた金属調の質感のある外観」)が得られる装飾方法および装飾樹脂品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の装飾方法として、(1)基材に対して、平均粒子径が5〜16μmの光輝性顔料を塗膜固形分中に5〜25質量%含有する第1光輝ベース塗膜を形成する工程;(2)第1光輝ベース塗膜に対して、第1クリアー塗膜を形成する工程;(3)第1光輝ベース塗膜と第1クリアー塗膜を硬化させる工程;(4)第1クリアー塗膜に対して、平均粒子径が18〜100μmの光輝性顔料を塗膜固形分中に1〜10質量%含有する第2光輝ベース塗膜を形成する工程;(5)第2光輝ベース塗膜に対して、第2クリアー塗膜を形成する工程;(6)第2光輝ベース塗膜と第2クリアー塗膜を硬化させる工程;上記(1)〜(6)の工程を順次施す光輝性塗膜形成方法が開示されている(例えば、特許文献1。)。
【0003】
また、熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)を交互にそれぞれ100層以上積層した構造を有し、かつ粒子を含有する層を少なくとも1層有する多層フィルムであって、粒子を含有する層の厚みt(nm)と粒子の数平均粒径(nm)の関係が1≦r/t≦300を満足し、分光反射率曲線R(λ)の波長λ区間[400,700](nm)において、少なくとも分光反射率曲線R(λ)の積分値が10000以上、および反射率が60%以上のいずれかを満足するマット調フィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、合成樹脂製品へのめっきにおいて、製品を構成する合成樹脂が主構成成分以外に合成樹脂の改質、改良を目的として固形物を含有させているものであって、めっきの表面が、電気ニッケルめっきにより光を乱反射させる微細な凹凸形状を構成せしめた樹脂めっき品の外観改善方法及びその製品が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、放電発生用電極と、対電極と、放電発生用電極に高周波電圧を印加する高周波電源を備え、少なくともヘリウムまたは水素を含むガスを放電発生用電極と対電極との間に形成される放電空間に大気圧もしくは大気圧近傍圧力下で導入し通過させるとともに、高周波電源から放電発生用電極に高周波電圧を印加することにより電極間にグロー放電プラズマを発生させ、プラズマにより生成される化学的な活性な励起種を含むガスを被処理物に照射する。これにより、被処理物の表面にOH基等の官能基を付与して表面を親水性に改質し、塗装や金属皮膜の密着性を向上させる表面処理方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開2006−218340号公報
【特許文献2】特開2007−307893号公報
【特許文献3】特開2004−300566号公報
【特許文献4】特開平10−199697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1によれば、金属調の粒子の光輝性顔料を塗膜しているが、本物の金属調の外観が得られない問題がある。また、トルエン、キシレン等の揮発性有機化合物(VOC)を使用するため、揮発性有機化合物が大気に排気され環境に悪影響をおよぼす問題がある。
【0007】
また、特許文献2によれば、成形されるフィルムは本物感のある金属外観が得られる。しかし(A層)と(B層)を交互にそれぞれ100層以上積層する構造であるため、意匠形成が複雑でコストが高くなる問題がある。また、樹脂成形品へインサートし成形する際、展延性がないため樹脂成形品の立体部分においてシワが発生し均一な外観が得られにくい問題がある。
【0008】
また、特許文献3によれば、微細な凹凸の表面にニッケルめっきが施され、微細な凹凸で光を乱反射させてマット調の質感のある金属外観を得る。しかし工程数が非常に多くリードタイムの長い複雑な工法であるため、コストが高くなる問題がある。また、各工程において重金属を含む排水が発生し、環境に悪影響をおよぼす問題がある。さらにはクロム酸も使用するので人体に悪影響をおよぼす問題がある。
【0009】
また、特許文献4によれば、大気圧もしくは大気圧近傍においてプラズマを発生させ、被処理物の表面にOH基等の官能基を付与することにより、塗装や金属皮膜の密着性が向上させる。しかし大気圧もしくは大気圧近傍での処理であるため、イオンの平均自由行程が極めて短く、イオンが被処理物の表面に衝突するエネルギーが低くなる。このため被処理物の表面に微細な凹凸を付けるこが出来ず、本物の金属のようなマット調の外観は得られない問題がある。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、樹脂基材の被処理物に金属を成膜して装飾する装飾方法(成膜方法)および装飾樹脂品であって、本物感の高いマット調金属外観(「つやが消えた金属調の質感のある外観」)が得られると共に、密着強度の高い金属膜が得られ、しかもコストが安く、環境に優しい装飾方法および装飾樹脂品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、樹脂基材の被処理物に金属を成膜する成膜方法であって、被処理物が配置される真空槽にアルゴンおよび大気を導入し、アルゴンと大気をプラズマ状態にして被処理物をプラズマエッチングする第1工程と、被処理物のプラズマエッチングした処理部に金属を成膜する第2工程と、を備える。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、第1工程は、アルゴンをプラズマ状態にした後、大気をプラズマ状態にする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、金属は、1族のアルカリ金属と、アルカリ土類金属と、Alと、Crと、Znと、Tiと、Agとのうち少なくともいずれか1つである。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記第2工程の後に、成膜された金属に保護膜を成膜する第3工程を備える。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、樹脂基材の被処理物に金属を成膜する成膜方法により成膜される装飾樹脂品であって、前記被処理物が配置される真空槽にアルゴンおよび大気を導入し、前記アルゴンと前記大気をプラズマ状態にして前記被処理物をプラズマエッチングし、前記被処理物のプラズマエッチングした処理部に前記金属を成膜する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明では、第1工程のプラズマエッチングは、処理圧力0.4〜1.0Paの真空状態の下で行われるので、従来の大気圧プラズマに比べ、アルゴンのプラズの平均自由行程は長くなる。これに伴いアルゴンのプラズが被処理物の表面に衝突するエネルギーも増大する。この衝突エネルギーの増大により、高いマット調金属外観が得られるナノオーダー(例えば、200nm〜500nm)の凹凸部が被処理物の表面に形成される。被処理物の形成された凹凸部、即ち処理部の表面に成膜する金属膜の凹凸部表面に光が入射し、乱反射して本物感の高いマット調金属外観が得られる(第2工程)。
【0017】
また、大気のプラズマにより発生した官能基(例えば、ヒドロキシン基(OH基)、カルボン酸基(COOH基)、ケトン基(CO基)等)は、アルゴンのプラズマエッチングにより処理された凹凸に形成された処理部に付与される。これらの官能基の付与により、成膜工程において、例えばスパッタリングなどにより金属膜が凹凸の処理部に化学結合され、高い密着強度が得られる。また、処理部のナノオーダーの凹凸は、処理部に皮膜した金属を物理的にアンカーして密着強度を高める。以上により、密着強度の強い金属膜が得られる。
【0018】
また、本発明の皮膜方法は、少なくとも第1工程と、第2工程が実施され、工程数も少なく、各工程における処理も従来技術に比べ単純である。また、プラズマエッチング用のガスは安価なアルゴンでよく、大気プラズマのガスはコストの掛からない大気である。結果、従来技術に比べてコストの安い装飾方法が提供できる。
【0019】
さらに、第1工程および第2工程で実施される処理は、真空状態で行われ、揮発性有機化合物及びその他廃棄物の排出はない。結果、環境に優しい装飾方法を提供できる。
【0020】
以上により、本物感の高いマット調金属外観(「つやが消えた金属調の質感のある外観」)が得られると共に、密着強度の高い金属膜が得られ、しかもコストが安く、環境に優しい装飾方法(成膜方法)を提供できる。
【0021】
また、請求項2に記載の発明では、プラズマエッチングの第1工程は、アルゴンをプラズマ化した後、例えば、OH基などの官能基を有する分子を含む気体をプラズマ化する。アルゴンのプラズマエッチングにより、被処理物の表面に適正なナノオーダーの表面粗さの凹凸が形成される。その後形成された適正なナノオーダーの表面粗さの凹凸部に大気プラズマの官能基が付加される。
【0022】
次に第2工程において、官能基が付加され被処理物の凹凸部の表面に金属が成膜される。従って金属を成膜した適正なナノオーダーの表面粗さの凹凸部表面に入射した光が乱反射して本物感の高いマット調金属外観が得られる。また、確実にOH基などの官能基が形成された凹凸部に付与されることにより、凹凸になったプラズマエッチング処理面に金属膜が化学結合されるので、密着強度の高い金属膜を得られる。以上により、本物感の高いマット調金属外観が得られると共に、密着強度の高い金属膜が得られる装飾方法を提供できる。
【0023】
また、請求項3に記載の発明では、金属は、1族のアルカリ金属と、アルカリ土類金属と、Alと、Crと、Znと、Tiと、Agとのうち少なくともいずれか1つである。これらの金属は、酸化しやすいので、密着強度の高い金属膜が得られる装飾方法が提供できる。
【0024】
また、請求項4に記載の発明では、成膜方法は、成膜された金属膜の表面に保護膜を成膜する。この保護膜より、成膜された金属膜が保護され、本物感の高いマット調金属外観が長い間維持できる。
【0025】
請求項5に記載の発明では、プラズマエッチングは、処理圧力0.4〜1.0Paの真空状態の下で行われるので、従来の大気圧プラズマに比べ、アルゴンのプラズの平均自由行程は長くなる。これに伴いアルゴンのプラズが被処理物の表面に衝突するエネルギーも増大する。この衝突エネルギーの増大により、高いマット調金属外観が得られるナノオーダー(例えば、200nm〜500nm)の凹凸が被処理物の表面に形成される。被処理物の形成された凹凸部、即ち処理部の表面に成膜する金属膜の凹凸部表面に光が入射し、乱反射して本物感の高いマット調金属外観が得られる(第2工程)。
【0026】
また、大気のプラズマにより発生した官能基(例えば、OH基、COOH基、ケトン基CO基等)は、アルゴンのプラズマエッチングにより形成された被処理物の凹凸に形成された処理部に付与される。この官能基の付与により、成膜工程において、例えばスパッタリングなどにより金属膜が凹凸の処理部に化学結合され、高い密着強度が得られる。また、処理部のナノオーダーの凹凸は、処理部に皮膜した金属を物理的にアンカーして密着強度を高める。以上により、密着強度の高い金属膜が得られる。
【0027】
また、本発明の皮膜方法は、少なくとも第1工程と、第2工程が実施され、工程数も少なく、各工程における処理も従来技術に比べ単純である。また、プラズマエッチング用のガスは安価なアルゴンでよく、大気プラズマのガスはコストの掛からない大気である。結果、従来技術に比べてコストの安くなる。
【0028】
さらに、第1工程および第2工程で実施される処理は、真空状態で行われ、揮発性有機化合物及びその他廃棄物の排出せず、環境に優しい装飾方法で装飾樹脂品が得られる。
【0029】
以上により、本物感の高いマット調金属外観(「つやが消えた金属調の質感のある外観」)が得られると共に、密着強度の高い金属膜が得られ、しかもコストが安く、環境に優しい装飾方法(成膜方法)で成膜される装飾樹脂品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係わる装飾方法の説明図である。図中、(a)は、成膜装置および真空槽内のプラズ状態を示す。(b)はプラズマエッチングした被処理物の凹凸部にクロムを成膜する状態を示し、(c)は被処理物の凹凸部にクロムを成膜した状態の装飾樹脂品を示す。
【0032】
図1(a)の成膜装置1は、真空槽2と、RF電源6と、RF電源6に接続され真空槽2内に配備した電極7と、電極7の対の電極(図示せず)とから構成される。真空槽2内には、クロム等の金属を成膜して装飾される被処理物10が配置される。被処理物10の基材は、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネイト(PC)、アクリルブタディエンスチレン(ABS)、ポリプロピレン(PP)等の汎用的な樹脂である。
【0033】
真空槽2は、真空ポンプ3と、ガス導入弁4、大気導入弁5を備える。真空ポンプ3は、真空槽2を真空にするために配備される。ガス導入弁4は、アルゴンを真空槽2に導入するために設けられ、大気導入弁5は大気を真空槽2に導入するために設けられる。
【0034】
RF電源6は、電極7と、電極7の対の電極との間に13.56MHの電圧を印加して放電し、真空槽2内をプラズマ状態するために配備される高周波電源である。
【0035】
図2は、本発明の実施形態に係わる装飾方法(成膜方法)の工程を示すフローチャートである。図2に示すように本発明の装飾方法は、プラズマエッチングによる被処理物10の表面の凹凸の形成と、官能基の付与とを行う第1工程S1と、プラズマエッチングした凹凸部11(処理部)にクロム等の金属膜13(金属)を成膜する第2工程S2、成膜した金属面を保護膜を成膜する第3工程S3とからなる。
【0036】
(第1工程)
第1工程S1は、被処理物10の表面にプラズマエッチングを実施しナノオーダーの凹凸を付け、この凹凸部11に官能基(例えば、ヒドロキシル基(OH基)、カルボン酸基(COOH基)、ケトン基(CO基)等)を付与する。これらの処理は、この後に実施される第2工程S2の成膜される金属膜13の凹凸に光が乱反射してマット調金属外観を得るために行われる。
【0037】
ガス導入弁4と、大気導入弁5とから、それぞれプラズマエッチング用のアルゴンと、大気を真空槽2に導入し、そしてRF電源6に13.56Hの電圧を印加してアルゴンと、大気をプラズマ状態にする。プラズマ化したアルゴンと、大気が、被処理物10の表面に衝突する。主にプラズマ化したアルゴンイオンの衝突エネルギーにより被処理物10の表面に凹凸部11が形成される(図1(b))。形成される凹凸部11の表面粗さの範囲は、算術平均粗さ(以下、Ra)で200nm〜500nmが好適で、この表面粗さの範囲で本物感の高いマット調金属外観が得られる。そして形成される凹凸部11にプラズマ化した官能基(例えば、OH基、COOH基、CO基)が付与される(図1(b))。この官能基付与により、次の金属成膜工程において金属が高い強度で密着される。
【0038】
真空槽2に導入されるアルゴンと、大気の質量流量比率は、3:2が好適で、処理圧力は0.4〜1.0Paの真空状態が良い。処理圧力は0.4〜1.0Paで、凹凸部11を本物感の高いマット調金属外観が得られるナノオーダーの表面粗さ(例えば、Ra200nm〜500nm)が形成される。また、質量流量比率3:2で、成膜される金属膜の高い密着強度が得られる。
【0039】
また、アルゴンと大気のプラズマ化は、先にアルゴンを真空槽2に導入しプラズマ状態にした後、大気を真空槽2に導入しプラズマ状態にしても良い。この場合も、真空槽2に導入されるアルゴンと大気の質量流量比率は、3:2が好適で、処理圧力は0.4〜1.0Paの真空状態が良い。
【0040】
尚、プラズマエッチング用のガスは、アルゴン以外、キセノン等不活性ガスであれば良いが、コストの関点からアルゴンが好適である。また、大気の代わりに官能基を有する分子を含有する気体でも良い。
【0041】
(第2工程)
第2工程S2は、金属外観を得るために、エッチングされた凹凸部11の表面12に装飾する金属をスパッタリングあるいは蒸着等のドライプロセスの皮膜処理を利用し、真空槽2で成膜する。これにより、凹凸部11の表面12にクロム等の金属膜13が成膜される(図1(c))。金属膜13の皮膜厚さは、10nm〜100nmが好適で、この範囲は本物感の高いマット調金属外観のある装飾樹脂品20が得られる。
【0042】
金属は、Al、Cr、Ti、Ag、Au等特に制限はなく、金属であれば良い。特に、酸化しやすい1族のアルカリ金属(例えば、Li)、2族のアルカリ土類金属(例えば、Mg)及びアルミニウム、クロム、亜鉛を用いると高い密着強度が得られる。同様にTi、Agも酸素との結合力が強いので高い密着強度が得られる。また、AlN、CrN、Alなどの窒化物、酸化物でも良い。さらに、TiO、SiOの積層による光の干渉を用いた装飾を行うことも出来る。
【0043】
(第3工程)
第3工程S3は、成膜された金属膜13の凹凸部表面14を保護膜15(図3)を成膜する。これにより金属膜13が保護されるが、使用環境等、必要に応じて実施すれば良い。保護膜15の成膜方法は、UV粉体塗装(紫外線粉体塗装)、プラズマCVD、水性塗装等の環境に優しい成膜方法あれば良い。また、保護膜15は50nm〜50μmが好適である。
【0044】
以上により、本発明は以下の効果を生じる。
【0045】
真空槽2にアルゴンと大気を導入してプラズマエッチングを行う。そしてプラズマエッチングAは、処理圧力0.4〜1.0Paの真空下で行われるので、プラズマの平均自由行程が長くなる。これに伴いプラズマが被処理物の表面に衝突するエネルギーも増大する。プラズマのうち主にアルゴンプラズマの衝突エネルギーの増大により、被処理物10の表面は、高いマット調金属外観が得られるナノオーダーの凹凸部11(例えば、Raで200nm〜500nm)が形成される。そして凹凸部11に金属膜13が成膜される。結果、金属膜13のナノオーダーの凹凸部表面14に入射した光が、乱反射して本物感の高いマット調金属外観が得られる。
【0046】
また、大気のプラズマ化により発生した官能基(例えば、OH基、COOH基、CO基等)は、プラズマエッチングで形成された被処理物10の凹凸部11に付与される。特に、不活性ガスと大気の質量流量比率が3:2にすることで、OH基等の官能基が適正量付与され、これらの官能基の付与により、第2工程S2において金属膜13が凹凸部11に化学結合され、高い密着強度が得られる。また、凹凸部11の算術平均粗さRa200nm〜500nmの凹凸は、金属膜13を凹凸部11の表面に物理的にアンカーして密着強度を高める。結果、金属膜13の密着強度が高い装飾方法および装飾樹脂品が提供できる。
【0047】
また、本発明の装飾方法は、第1工程S1〜第3工程S3の3工程が実施され、従来技術に比べ、工程数も少なく、各工程における処理も単純である。また、プラズマエッチング用のガスは安価なアルゴンで良く、大気プラズマのガスはコストの掛からない大気で良い。結果、従来技術に比べコストの安い装飾方法および装飾樹脂品が提供できる。
【0048】
さらに、第1工程S1および第2工程S2で実施される処理は、真空状態で行われ、また第2工程S2の成膜は、例えばスパッタ、真空蒸着などのドライプロセスによるクリーンな処理で行うので、揮発性有機化合物及びその他廃棄物の排出はない。第3工程S3の保護膜15の成膜は、各種の工法、例えば、プラズマCVD、UV粉体塗装、水性塗装があるが、環境に優しいい工法であれば良い。プラズマCVDは真空状態で行われるので環境に優しく、UV粉体塗装、水性塗装も環境に優しい成膜方法である。結果、環境に優しい装飾方法を提供できる。また、環境に優しい装飾方法で装飾樹脂品が得られる。
【0049】
また、第3工程S3では、第2工程で成膜された金属膜13の表面に保護膜15を成膜する。この保護膜15より、成膜された金属膜13が保護され、本物感の高いマット調金属外観が長い間維持される。
【0050】
以上により、本物感の高いマット調金属外観(「つやが消えた金属調の質感のある外観」)が得られ、金属膜13の密着強度が高いと共に、コストが安く、しかも環境に優しい装飾方法を提供できる。
【0051】
また、本物感の高いマット調金属外観(「つやが消えた金属調の質感のある外観」)が得られると共に、密着強度の高い金属膜が得られ、しかもコストが安く、環境に優しい装飾方法(成膜方法)で成膜される装飾樹脂品を提供できる。
【0052】
(保護膜を成膜した装飾物の実施例について)
図3は、本発明の装飾方法に係わる保護膜を成膜した装飾物の説明図である。図1の実施形態と同じ部位、部材は図1の同じ符号を付す。
【0053】
図3に示すように装飾樹脂品30は、ポリカーボネイト(PC)とポリブチレンテレフタレート(PBT)の複合材(以下、PC/PBT)の被処理物10にクロムの金属膜13を装飾し、金属膜13の表面14に保護膜15を成膜した実施例である。図1および図3に基づき以下に説明する。
【0054】
第1工程S1においてRF電源6に13.56Hzの電圧を電極7と、電極7の対の電極に印加し、アルゴンと大気のプラズマエッチングにより、被処理物10の凹凸形成と官能基付与を実施した。この際の処理条件は、導入されるアルゴンと大気と質量流量比は3:2、処理圧力は0.8Paの条件下、処理時間は10分間である。
【0055】
第2工程S2において、金属外観を得るため、成膜装置1でクロムをスパタリングして50nm成膜した。成膜したクロムの金属膜13は、本物感の高いマット調金属外観が得られた。
【0056】
第3工程S3において、クロムの金属膜13を保護するため、成膜装置1でプラズマCVDによりヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)の保護膜15を50nm成膜した。
【0057】
また、以上の各工程を実施し、揮発性有機化合物(以下、VOC)及びその他廃棄物の排出はない結果を得た。従って本発明の装飾方法は、非常に環境に優しい工法であることが実証された。
【0058】
また、基盤目密着試験において合格し、クロムの金属膜13の密着強度が高いことが実証された。
【0059】
表1は、本発明の装飾方法と従来技術の方法の比較表である。表中、○は外観検査においてマット調の金属外観が得られた場合で、×は反射率が高くマット調の金属外観から程遠いい場合、△は○と×の中間の状態の場合である。
【表1】

【0060】
表1に示すように、比較例1は、第1工程の導入ガスがアルゴンのみで大気は導入せず、処理時間10分、処理圧力0.8Paの真空下、プラズマエッチングを実施し、第2工程でスパッタにてクロムを成膜した。結果、マット調の金属外観を得られたが、碁盤目密着試験はクロム膜が剥離した。
【0061】
比較例2は、第1工程の導入ガスが大気のみでアルゴンは導入せず、処理時間10分、処理圧力0.8Paの真空下、プラズマエッチングを実施し、第2工程でスパッタリング処理を行いクロム膜を成膜した。結果、碁盤目密着試験は合格したが、光沢が強くマット調の金属外観は得られなかった。
【0062】
比較例3は、特許文献1のサテンメッキしたものである。リードタイムは240分と非常に長い。また排水処理において重金属を含むすスラッジが多量に発生する。さらにクロム酸を使用するので、クロム酸のミストによる人体への悪影響が懸念される。また、マット調の金属外観は得られない。
【0063】
比較例4は、特許文献3の溶剤塗装したものである。リードタイムは60分と比較例3に比べ短縮されているが、本発明の3倍以上の時間が掛かる。廃棄物については重金属のスラッジは発生しないが、溶剤塗装を用いるためVOCを排出し、環境に悪影響を及ぼす。また、マット調の金属外観は得られない。
【0064】
一方、本発明の装飾方法は、外観、密着強度、リードタイム、VOC排気量、廃棄物量の全ての試験項目に良好な結果が得られ、本発明の装飾方法の効果が実証された。
【0065】
尚、本発明の装飾方法は、例えば自動車部品を始め家電や携帯電話等の金属調装飾の樹脂成形品に適応できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】発明の実施形態に係わる装飾方法の説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる装飾方法の工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の装飾方法に係わる保護膜を成膜した装飾樹脂品の説明図である。
【符号の説明】
【0067】
2 真空槽
10 被処理物
11 凹凸部(処理部)
13 金属膜(金属)
15 保護膜
20、30 装飾樹脂品
S1 第1工程
S2 第2工程
S3 第3工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材の被処理物に金属を成膜する成膜方法であって、
前記被処理物が配置される真空槽にアルゴンおよび大気を導入し、前記アルゴンと前記大気をプラズマ状態にして前記被処理物をプラズマエッチングする第1工程と、
前記被処理物のプラズマエッチングした処理部に前記金属を成膜する第2工程と、を備える、ことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記第1工程は、前記アルゴンをプラズマ状態にした後、前記大気をプラズマ状態にする、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記金属は、1族のアルカリ金属と、アルカリ土類金属と、Alと、Crと、Znと、Tiと、Agとのうち少なくともいずれか1つである、ことを特徴とする請求項1又は2の少なくともいずれかに記載の成膜方法。
【請求項4】
前記第2工程の後に、成膜された前記金属に保護膜を成膜する第3工程を備える、ことを特徴とする請求項1乃至3の少なくともいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項5】
樹脂基材の被処理物に金属を成膜する成膜方法により成膜される装飾樹脂品であって、
前記被処理物が配置される真空槽にアルゴンおよび大気を導入し、前記アルゴンと前記大気をプラズマ状態にして前記被処理物をプラズマエッチングし、前記被処理物のプラズマエッチングした処理部に前記金属を成膜した装飾樹脂品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−299127(P2009−299127A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154921(P2008−154921)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】