説明

樹脂成型物及びその製造方法

【課題】 樹脂表面に機能性フィラーを有効に固着した、フィラーの脱落を防止し、フィラーの比表面積の減少を抑制することができる様々な用途に有用な樹脂成型物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 被処理樹脂成型物(31)を、槽(32)内に湿熱ゲル化樹脂がゲル化する温度以上に加熱したフィラーを含む加熱されたフィラー分散溶液(33)に含浸して湿熱処理することにより、前記湿熱ゲル化樹脂をゲル化させたゲル化物でフィラーを樹脂表面に有効に固着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーが樹脂表面に固着した樹脂成型物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂に機能性粒子を添加した様々な樹脂成型物が提案されている。例えば、特許文献1では、ポリエステル樹脂中に、機能性粒子を混練したポリオレフィン樹脂からなるマスターバッチを混練した後、射出成形等で成形加工した機能性ポリエステル樹脂が提案されている。
【特許文献1】特開平9−324112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の技術には、以下の問題があった。熱可塑性樹脂に単に機能性粒子を添加しただけでは、機能性粒子が樹脂中に埋もれてしまい、機能性粒子の性能を十分に発揮できないという問題があった。また、特許文献1は、上記問題を解決するためになされたものであり、機能性粒子を結晶性の遅いポリオレフィン樹脂に添加してマスターバッチとしポリエステル樹脂に混練することにより、樹脂成形物の表面に機能性粒子を露出させようと試みている。しかし、機能性粒子がマスターバッチ中に埋もれてしまい、なお機能性粒子の性能を十分に発揮できないという問題があった。
【0004】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、樹脂表面に機能性フィラーを有効に固着した、フィラーの脱落を防止し、フィラーの比表面積の減少を抑制することができる様々な用途に有用な樹脂成型物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の樹脂成型物は、水分存在下で加熱することによってゲル化する湿熱ゲル化樹脂と、フィラーを含む樹脂成型物であって、前記フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂がゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とする。
【0006】
本発明の樹脂成型物の製造方法は、水分存在下で加熱することによってゲル化する湿熱ゲル化樹脂を含む被処理樹脂成型物に、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、湿熱雰囲気で被処理樹脂成型物を湿熱処理して、前記湿熱ゲル化樹脂をゲル化させ、ゲル化物によって前記フィラーを樹脂成型物表面に固着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂成型物は、樹脂表面に機能性を有するフィラーがゲル化物によって固着しているので、フィラーが容易に脱落することなく、樹脂表面に露出した状態で固着することができる。その結果、フィラーの機能性を十分に発揮することができる。
【0008】
本発明の樹脂成型物の製造方法によれば、フィラーを樹脂表面に有効に固着することができ、フィラーを固着させる際に収縮を伴うことがないので、寸法安定性が高く、一定の形状の成型物を製造することができる。また、湿熱処理前の樹脂成型物にフィラーを固着させると同時に成型することも可能であり、その場合成型が均一で、深絞りの形状を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の樹脂成型物において、湿熱ゲル化樹脂とは、水分存在下で、加熱することによってゲル化し得る樹脂のことをいう。ゲル化し得る樹脂とは、50℃以上の温度でゲル化膨潤しゲル化物となってフィラーを固着可能な樹脂のことを示す。本発明でいうゲル化物とは、湿熱ゲル化樹脂が湿熱によってゲル化したのち固化した樹脂(固化物)のことを示し、本発明の樹脂成型物は、そのゲル化物によって、フィラーが樹脂表面に固着されている。
【0010】
前記湿熱ゲル化樹脂の好ましいゲル化温度は、60℃以上である。より好ましいゲル化温度は、80℃以上である。60℃未満でゲル化し得る樹脂を用いると、ゲル加工の際、ロール等への粘着が激しくなって樹脂成型物の生産が難しくなるか、夏場や高温環境下での使用ができなくなる場合がある。なお、「ゲル加工」とは、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させる加工のことをいう。
【0011】
前記湿熱ゲル化樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂であることが好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、湿熱によってゲル化でき、他の樹脂を含む場合は他の樹脂を変質させないからである。
【0012】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂とは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を鹸化することによって得られる樹脂であり、その鹸化度は95%以上が好ましい。より好ましい鹸化度は、98%以上である。また、好ましいエチレン含有率は、20モル%以上である。好ましいエチレン含有率は、50モル%以下である。より好ましいエチレン含有率は、25モル%以上である。より好ましいエチレン含有率は、45モル%以下である。鹸化度が95%未満ではゲル加工の際、加工機等への粘着により樹脂成型物の生産が難しくなる場合がある。また、エチレン含有率が20モル%未満の場合も同様に、ゲル加工の際、加工機等への粘着により樹脂成型物の生産が難しくなる場合がある。一方、エチレン含有率が50モル%を超えると、湿熱ゲル化温度が高くなり、加工温度を融点近傍まで上げざるを得なくなり、その結果、樹脂成型物の寸法安定性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0013】
本発明の樹脂成型物は、前記湿熱ゲル化樹脂が100mass%であってもよいし、他の樹脂成分が含有してもよい。他の樹脂成分を含む場合、湿熱ゲル化樹脂は10mass%以上含むことが好ましい。より好ましい湿熱ゲル化樹脂の含有量は30mass%以上であり、皿により好ましくは50mass%以上である。湿熱ゲル化樹脂が10mass%未満であると、フィラーを有効な量で固着することができないからである。
【0014】
前記他の樹脂成分としては、特に限定されないが、樹脂の融点が湿熱ゲル化樹脂のゲル化する温度よりも高い温度であることが好ましい。例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等いかなるものであってもよいが、好ましくはポリオレフィンである。ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン等がある。他の樹脂の融点が湿熱ゲル化樹脂のゲル化する温度よりも低いと、フィラーを固着するときに収縮して、成型物が変形を起こすことがあるからである。
【0015】
本発明の樹脂成型物は、射出成形、押出成形等で常套の方法で成型されるものであり、その形状としては、例えば、無孔または有孔フィルム、発泡体、ペレット、及びこれらを所定の形状に成形した成型物等が挙げられる。
【0016】
本発明でいうフィラーとは、粒子状、短繊維状など、樹脂成型物内に保持することができる形状のものであれば特に限定されない。例えば、フィラーとしては、無機フィラーであることが好ましい。無機フィラーであれば、研磨剤として用いた場合、研磨作用が大きいからである。前記無機フィラーとしては、アルミナ、シリカ、トリポリ、ダイヤモンド、コランダム、エメリー、ガーネット、フリント、合成ダイヤ、窒化硼素、炭化珪素、炭化硼素、酸化クロム、酸化セリウム、酸化鉄、ケイ酸コロイド、炭素、グラファイト、ゼオライト及び二酸化チタン、カオリン、クレイなどを挙げることができる。これらの粒子は適宜混合して使用することもできる。
【0017】
前記フィラーとしては、有機フィラーも用いることができる。有機フィラーとしては、例えば、スチレン系,アクリル系,メタクリル系,メラミン系,フェノール系,エポキシ系,フッ素系,シリコーン系,ポリエステル系,ポリオレフィン系などの樹脂が挙げられる。
【0018】
前記フィラーがガス吸着性フィラー及び/又は有機物吸着性フィラーの場合、空気中の気体物質を吸着する機能を有するものであれば特に限定されないが、活性炭粒子、ゼオライト、シリカゲル、活性白土、層状リン酸塩等の多孔質粒子、これらの多孔質粒子に化学吸着剤を担持させた多孔質粒子等が好ましい。多孔質粒子の中では、活性炭粒子が特に好ましい。
【0019】
前記フィラーがイオン交換性フィラーの場合、活性炭,ゼオライト,シリカゲル,活性白土,層状リン酸塩等の多孔質粒子にアルカリ性物質や酸性物質を含ませた多孔質粒子、及びスチレン系,アクリル系,メタクリル系などのカチオン交換樹脂、スチレン系,アクリル系などのアニオン交換樹脂等の有機高分子系イオン交換樹脂などを用いることができる。
【0020】
前記フィラーが抗菌剤の場合、銀イオン、亜鉛イオン、銅イオン等の抗菌性金属イオンを担持したゼオライト、リン酸ジルコニウム、ハイドロキシアパタイト等を用いることができる。
【0021】
さらに前記研磨剤、ガス吸着性フィラー、有機物吸着性フィラー、イオン交換性フィラー、及び抗菌剤以外にも、例えば乾燥剤としてのシリカゲル、光触媒として二酸化チタン、蓄熱剤や吸発熱剤などをマイクロカプセル化したフィラー、ウイルス吸着/分解剤、消臭剤、導電剤、制電剤、調湿剤、防虫剤、防カビ剤、難燃剤等の機能性フィラーを1又は2以上用いることができる。
【0022】
前記フィラーが粒子状である場合、その平均粒子径は、0.01〜1000μmの範囲であることが好ましい。より好ましい平均粒子径は、0.1μm以上であり、さらにより好ましくは1μm以上である。より好ましい平均粒子径は、800μm以下であり、さらにより好ましくは、500μm以下である。平均粒子径が0.01μm未満では、樹脂成型物の表面に十分な量のフィラーを固着することが困難な場合がある。一方、平均粒子径が1000μmを超える場合は、フィラーの比表面積が小さくなり、フィラーの機能性が十分に発揮できない場合がある。
【0023】
前記フィラーが短繊維状である場合、その繊維長または繊維断面長のうち大きい方の長さ(以下、短繊維長さという)は、0.1〜1000μmの範囲であることが好ましい。より好ましい短繊維長さは、10μm以上である。より好ましい短繊維長さは、500μm以下である。短繊維長さが0.1μm未満では、樹脂成型物の表面に十分な量のフィラーを固着することが困難な場合がある。一方、短繊維長さが1000μmを超える場合は、フィラーの比表面積が小さくなり、フィラーの機能性が十分に発揮できない場合がある。
【0024】
本発明の樹脂成型物は、フィラーの機能性を効率良く発揮させるために、フィラーの固着量が樹脂成型物1gあたり0.01g以上であることが好ましく、0.1g以上であることがより好ましく、0.5g以上であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の樹脂成型物には、その片面または両面に、他の樹脂成型物、あるいは繊維構造物等を積層してもよい。前記樹脂成型物の片面または両面に他の樹脂成型物や繊維構造物を積層した場合、他の樹脂成型物や繊維構造物の機能を付与することができ、例えば成型性、接着性、風合い等を向上させることができる。
【0026】
次に、フィラーが湿熱ゲル化したゲル化物によって固着されている本発明の樹脂成型物の製造方法について説明する。本発明における湿熱処理は、湿熱雰囲気で施される。ここでいう「湿熱雰囲気」とは、水分を含み、加熱された雰囲気のことをいう。前記樹脂成型物は、水分存在下で加熱することによってゲル化する湿熱ゲル化樹脂を含む湿熱処理前の樹脂成型物(以下、「被処理樹脂成型物」という)に、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、湿熱雰囲気で被処理樹脂成型物に湿熱処理を施すことにより得ることができる。かかる製造方法によれば、樹脂に予めフィラーを混練することがないので、フィラーは樹脂中に埋没することなく、樹脂表面に有効に固着することができる。また、フィラーを固着させる際に湿熱ゲル化樹脂のゲル化する温度で加工されるので、樹脂の収縮を伴うことがなく、寸法安定性が高く、一定の形状の成型物を製造することができる。
【0027】
前記被処理樹脂成型物には、親水処理を施してもよい。親水処理を施すと、被処理樹脂成型物が疎水性樹脂を含む場合、被処理樹脂成型物に略均一に水分を付与することができる。その結果、湿熱ゲル化樹脂の周囲に略均一に水分が存在して、略均一に湿熱ゲル化されて、フィラーが固着しやすくなる。親水処理としては、界面活性剤処理、コロナ放電法やグロー放電法、プラズマ処理法、電子線照射法、紫外線照射法、γ線照射法、フォトン法、フレーム法、フッ素処理法、グラフト処理法、及びスルホン化処理法等が挙げられる。
【0028】
前記湿熱処理における湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。より好ましい湿熱処理温度は、50℃以上である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、80℃以上である。一方、より好ましい湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂の融点−30℃以下である。さらにより好ましい湿熱処理温度は、湿熱ゲル化樹脂の融点−40℃以下である。湿熱処理温度が湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度未満であると、フィラーを有効に固着することができない場合がある。湿熱処理温度が湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃を超えると、湿熱ゲル化樹脂の融点に近くなるため、フィラーを固着する際に収縮を引き起こすことがある。
【0029】
前記フィラー分散溶液のフィラー濃度は、使用する被処理樹脂成型物の質量、フィラーの固着量、フィラー分散溶液の温度及び粘度等により適宜設定すればよい。好ましいフィラー濃度は、0.1〜75mass%であり、より好ましくは1〜50mass%である。フィラー濃度が0.1mass%未満であると、フィラーの機能を十分に発揮されない場合がある。フィラー濃度が75mass%を超えると、フィラーが均一に固着しないことがある。
【0030】
前記湿熱処理を施した樹脂成型物は、そのまま乾燥処理を行ってもよいし、一旦水洗を行った後、乾燥処理を行ってもよいし、一旦乾燥させた後水洗を行いその後で乾燥処理を行ってもよい。一旦乾燥させた後、水洗を行いその後で乾燥処理を行う方が、フィラーの固着量が多くなるので都合がよい。前記乾燥処理温度は、樹脂成型物が乾燥する温度であれば、特に限定されない。
【0031】
本発明の樹脂成型物の製造方法における湿熱処理の具体的な方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1)前記湿熱ゲル化樹脂を含む樹脂を所定の形状に成型した被処理樹脂成型物を、湿熱ゲル化樹脂がゲル化する温度以上に加熱した前記フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液に接触させて湿熱処理して、前記湿熱ゲル化樹脂をゲル化させ、ゲル化物によって前記フィラーを樹脂成型物表面に固着する方法(以下、「加熱液接触法」という)。
(2)前記湿熱ゲル化樹脂を含む樹脂を所定の形状に成型した被処理樹脂成型物に、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、スチームにより被処理樹脂成型物を湿熱処理して、前記湿熱ゲル化樹脂をゲル化させ、ゲル化物によって前記フィラーを樹脂成型物表面に固着する方法(以下、「スチーム処理法」という)。
(3)前記湿熱ゲル化樹脂を含む被処理樹脂成型物を、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、加熱体に接触させて湿熱処理をして、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させ、ゲル化物によって前記フィラーを樹脂成型物表面に固着する方法(以下、「加熱体接触法」という)。
【0032】
前記加熱液接触法は、具体的には、加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法、加熱したフィラー分散液を繊維構造物に噴霧する方法などが挙げられる。かかる方法によれば、被処理樹脂成型物への水分の付与と、フィラーの被処理樹脂成型物への付与と、湿熱ゲル化樹脂のゲル加工とを一工程で同時に行うことができるので、省スペースで、かつ低コストで生産することができる。さらに、ゲル加工が一工程で同時に行うことができるので、フィラー分散溶液中のフィラーの濃度と、加熱温度を調整することにより、フィラーの固着量を容易に調整することができる。
【0033】
前記加熱液接触法におけるフィラー分散溶液の加熱温度は、湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。より好ましい加熱温度は85〜120℃であり、さらにより好ましくは85〜100℃である。最も好ましい加熱温度は90〜98℃である。加熱温度がゲル化する温度未満であると、フィラーの固着が充分になされない場合があり、湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃を超えると、湿熱ゲル化樹脂の融点に近くなるため、フィラーを固着する際に収縮を引き起こすことがある。
【0034】
前記加熱液接触法のうち、加熱したフィラー分散溶液中に浸漬する方法(以下、「加熱液浸漬法」という)は、湿熱ゲル化樹脂のゲル化と、フィラーの固着が同時に溶液中で行われ、被処理樹脂成型物の全体が溶液に浸漬するので、樹脂表面全体に略均一にフィラーを固着することができ、好ましい。
【0035】
次に、前記スチーム処理法は、前記湿熱ゲル化樹脂を含む樹脂を所定の形状に成型した被処理樹脂成型物に、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、スチームにより被処理樹脂成型物を湿熱処理して、前記湿熱ゲル化樹脂をゲル化させ、ゲル化物によって前記フィラーを樹脂成型物表面に固着することができる。スチーム処理の方法としては、例えば、所定の水分率に調整した被処理樹脂成型物の上及び/又は下からスチームを吹き付ける方法、スチームを充満させたチャンバー内で被処理樹脂成型物に接触させる方法、オートクレーブ等でスチームに晒す方法などが挙げられる。特に、スチームを充満させたチャンバー内に通す方法(以下、「パッドスチーマー法」という)が、蒸気吹き出し口より吐出された蒸気が直接繊維構造物に接触することなく、蒸気雰囲気中でスチーム処理できるので、均一に湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化することができる。また、連続運転をする上においても都合がよい。
【0036】
前記スチーム処理法におけるフィラー分散溶液の温度は、湿熱ゲル化樹脂がゲル化しない温度であっても、ゲル化を開始する温度であってもよい。フィラーの種類、熱安定性、大きさ、濃度等により、適宜設定すればよい。なお、湿熱ゲル化樹脂がゲル化を開始する温度であれば、前記加熱液接触法と同じ方法となる。
【0037】
前記スチーム処理法における水分率は、10〜1500mass%であることが好ましい。より好ましい水分率は、20mass%以上であり、さらにより好ましくは、30mass%以上である。より好ましい水分率は、1000mass%以下であり、さらにより好ましくは、900mass%以下である。
【0038】
前記スチーム処理法におけるピックアップ率は、10〜1500mass%であることが好ましい。より好ましいピックアップ率は、20〜1000mass%である。ピックアップ率が10mass%未満であると、フィラーの固着量が少なくなり、ピックアップ率が1500mass%を超えると、湿熱処理に乾燥効率がよくない。なお、ピックアップ率とは、被処理樹脂成型物の質量に対する水分量とフィラーの量との和に100を乗じた値である。
【0039】
前記スチーム処理温度は、樹脂成型物付近の温度が、湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度以上融点−20℃以下であれば、特に限定されるものではないが、好ましい温度範囲は、80〜120℃であり、より好ましくは90〜110℃であり、最も好ましくは95〜105℃である。
【0040】
スチーム処理法により処理された樹脂成型物は、前述した方法により、必要に応じて乾燥処理及び/又は水洗処理される。また、前記乾燥処理の後、必要に応じて樹脂成型物を、プレス加工を行ってもよい。
【0041】
次に、前記加熱体接触法は、前記湿熱ゲル化樹脂を含む被処理樹脂成型物を、フィラー分散溶液を付与した後に、所定の水分率に調整後、加熱体に接触させることによって、湿熱ゲル化樹脂をゲル化したゲル化物を形成してフィラーを固着することができる。加熱体に接触させる方法としては、例えば、熱ロールに接触させる方法、熱プレス板に接触させる方法などが挙げられる。かかる方法によれば、瞬時に湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化することができると同時にゲル化物を押し拡げることができるので、広面積にわたりフィラーを固着することができる。また、かかる方法によれば、湿熱ゲル化したときに、フィラーがゲル化物に押し込まれて、樹脂表面にフィラーを更に強固に固着させることができる。
【0042】
前記加熱体接触法におけるフィラー分散溶液のフィラー濃度、フィラー分散溶液を付与する際の水分率、及びピックアップ率は上述したスチーム処理法と同じであり、説明を省略する。
【0043】
前記加熱体接触法が熱プレス板のような面状のものである場合、面圧が0.01〜3MPaであることが好ましい。より好ましい面圧は、0.05〜2.5MPaである。面圧が0.01MPa未満であると、フィラーの固着が不十分になり、脱落することがある。面圧が3MPaを超えると、フィラーがゲル化物に埋もれてしまい、有効表面積が低くなる場合がある。
【0044】
前記加熱体接触法が熱ロールによる圧縮成形処理である場合、熱ロールの線圧は、10〜400N/cmであることが好ましい。より好ましい熱ロールの線圧は、50N/cmである。より好ましい熱ロールの線圧の上限は、200N/cmである。線圧が10N/cm未満であると、フィラーの固着が不十分になり、脱落することがある。線圧が400N/cmを超えると、フィラーがゲル化物に埋もれてしまい、有効表面積が低くなる場合がある。
【0045】
前記加熱体の設定温度は、湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。好ましい設定温度の範囲は、60〜140℃であり、より好ましい温度範囲は80〜130℃である。なお、加熱体の場合にゲル加工の温度を設定温度としたのは、以下の理由からである。水分を含んだ被処理樹脂成型物をゲル加工するために設定温度を100℃以上にすると、まず被処理樹脂成型物の水分が蒸発する。そのとき、湿熱ゲル化樹脂のゲル化が進行するので、ゲル加工の実温度は設定温度よりも低くなる傾向にある。そのため、厳密にゲル加工温度を特定するのが困難な場合があるからである。したがって、他の樹脂の融点が熱処理機の設定温度よりも低い場合でも、実質的に溶融しないか、あるいは実質的に収縮しないことがあり、ゲル加工温度は他の樹脂が実質的に収縮しない温度で処理することが好ましい。
【0046】
なお、本発明の樹脂成型物は、前述した湿熱処理のうち、同じ処理を繰り返して行ってもよいし、別の処理を組み合わせてもよい。また、樹脂成型物のフィラーの脱落をさらに抑えるために、湿熱処理した後、ロール等で圧縮処理をしてもよい。
【0047】
上記方法は、いずれも湿熱処理前に一旦樹脂成型物を製造したものを使用したが、次の方法は、フィラーの固着と樹脂成型を同時に行う方法である。具体的には、前記湿熱ゲル化樹脂を含む被処理樹脂シート状物に、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、前記樹脂シート状物を金型内において湿熱雰囲気で前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化させて所定の形状に湿熱成形加工する方法である。本発明において湿熱成形加工とは、被処理樹脂シートにフィラー分散溶液を付与した後に加熱する処理、又はフィラー分散溶液を付与しながら加熱し、所定の形状に成形することを示す。加熱の方法は加熱雰囲気中へ晒す方法、加熱体へ接触させる方法等が挙げられる。かかる方法によれば、樹脂シート状物からフィラーを固着させると同時に成型することが可能であり、その場合成型が均一で、深絞りの形状を得ることができる。
【0048】
前記湿熱成形加工においては、フィラー分散溶液を含む被処理樹脂シートを、一対の金型内に挿入し、加熱加圧処理することが好ましい。水分を含ませた状態で加熱すると、被処理樹脂シート自体が適度に伸長して金型の形状に沿いやすくなって、深絞りの成形体を得やすい。前記フィラー分散溶液を付与しながら加熱する場合、例えば、一対の金型内に被処理樹脂シートを挿入し、熱水中(80℃以上)に含浸することにより、樹脂成型物を得ることができる。
【0049】
湿熱成形加工は、湿熱雰囲気で施される。湿熱成形加工温度は、ゲル化樹脂のゲル化温度以上融点−20℃以下であることが好ましい。より好ましい湿熱成形加工温度は、50℃以上である。さらにより好ましい湿熱成形加工温度は、80℃以上である。一方、より好ましい湿熱成形加工温度は、湿熱ゲル化樹脂の融点−30℃以下である。さらにより好ましい湿熱成形加工温度は、湿熱ゲル化樹脂の融点−40℃以下である。湿熱成形加工温度が湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度未満であると、ゲル化物を形成させるのが困難である。湿熱成形加工温度が湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃を超えると、湿熱ゲル化樹脂の融点に近くなるため、樹脂成型物が不均一となることがある。
【0050】
次に、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂成型物の製造方法(加熱液接触法)の一例工程図である。シート状の被処理樹脂成型物31を、槽32内のフィラーを含む加熱されたフィラー分散溶液33に含浸して湿熱処理し、必要に応じて水洗・脱水(図示せず)したのち、乾燥機41で乾燥させて巻き取り機39で巻き取る。なお、フィラー分散溶液33の加熱は、例えばヒーター(図示せず)等の加熱手段により行えばよい。
【0051】
図2は、本発明の一実施形態に係る樹脂成型物の製造方法(スチーム処理法)の一例工程図である。シート状の被処理樹脂成型物31を、槽32内のフィラーを含むフィラー分散溶液33に含浸し、絞りロール34で絞り、チャンバー内の下部からスチームを導入してスチームをチャンバー内に充満させたパッドスチーマー35でスチーム処理し、必要に応じて水洗・脱水(図示せず)したのち、乾燥機41で乾燥させて巻き取り機39で巻き取る。
【0052】
図3は、本発明の一実施形態に係る樹脂成型物の製造方法(加熱体接触法)の一例工程図である。シート状の被処理樹脂成型物31を、槽32内のフィラーを含むフィラー分散溶液33に含浸し、絞りロール34で絞り、スチーマー35とサクション36の間で湿熱処理し、そのまま巻き取るか、又は一対の加熱ロール37,37にかけたパターニング用キャンバスロール38,38により圧縮成形し、樹脂表面に所定のパターン模様を付与し、その後、巻き取り機39に巻き取る。スチーマー35とサクション36に代えて、上下の熱板を用いて例えば温度150℃、5分間の加圧処理を行ってもよい。他の実施形態としては、スチーマー35なしに一対の加熱ロールのみで圧縮成形する方法、スチーマー35なしに一対の加熱ロール37,37にかけたパターニングキャンバスロール38,38のみで圧縮成形する方法もある。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
湿熱ゲル化樹脂成型物としては、直径3mm,高さ3mmの円柱状のエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂ペレット(EVOHペレット、エチレン含有量38モル%、融点176℃)を準備した。フィラーとしては、銅粉体(99.5%純度)を準備した。
【0054】
次に、500ミリリットルのビーカーに、濃度10mass%の銅粉体の水分散液300ミリリットルを入れてフィラー分散溶液を調製した。そして、ホットプレート上にフィラー分散溶液が入ったビーカーを置き、前記EVOHペレットをフィラー分散溶液中に200g混合し、撹拌しながらフィラー分散溶液の液温が95℃になるまで昇温して湿熱処理(加熱液接触法)を施した。その後、EVOHペレットを取り出し、乾燥して、本発明の樹脂成型物を得た。フィラーは、EVOHペレットの樹脂表面に均一に固着されていた。
【0055】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でフィラー分散溶液を昇温していき、約90℃を越えて湿熱ゲル化樹脂がゲル化し始めてフィラーが固着したところで、直径60mmの半円状の金型を2つ用いて、フィラー分散溶液ごと金型でそれぞれ掬い出し、直ちに2つの金型の半円部同士を圧力を加えながら重ね合わせて、ボール状に湿熱成形加工し、乾燥して、本発明の樹脂成型物を得た。フィラーはEVOHペレットの樹脂表面に均一に固着されており、各ペレット同士も接触する箇所においてゲル化物により接着して、ボール状に成型することができた。得られた樹脂成型物には、成型物の質量81.7gに対して、8.2gの銅粉体が固着していた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の樹脂成型物は、工業用研磨材として、レンズ、半導体、金属、プラスチック、セラミック、ガラスなど様々な分野の研磨材、家庭用又は業務用キッチンなどで使用する研磨材、有害ガスなどを吸着するガス吸着材、抗菌材、消臭材、イオン交換材、汚水処理用材、吸油材、金属吸着材、電池セパレータ用不織材、導電性材、制電性(帯電防止)材、調湿,除湿(結露防止)材、吸音,防音材、防虫,防カビ材、抗ウイルス材、育苗材、芳香材、磁性材、遠赤外線材などに有用である。例えば、ガス吸着材、抗ウイルス材は、家庭用,車両用等の内装材、建材の養生シート、壁紙、カーテン、マット、カーペット、医療用などのガウン、衣料、マスク、ワイパー、空調用などのフィルター等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態における樹脂成型物の製造方法(加熱液接触法)の一例工程図である。
【図2】本発明の一実施形態における樹脂成型物の製造方法(スチーム処理法)の一例工程図である。
【図3】本発明の一実施形態における樹脂成型物の製造方法(加熱体接触法)の一例工程図である。
【符号の説明】
【0058】
31 被処理樹脂成型物
32 槽
33 フィラー分散溶液
34 絞りロール
35 スチーマー
36 サクション
37 加熱ロール
38 キャンバスロール
39 巻き取り機
41 乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分存在下で加熱することによってゲル化する湿熱ゲル化樹脂と、フィラーを含む樹脂成型物であって、前記フィラーは、前記湿熱ゲル化樹脂がゲル化したゲル化物によって固着されていることを特徴とする樹脂成型物。
【請求項2】
前記湿熱ゲル化樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂である、請求項1に記載の樹脂成型物。
【請求項3】
前記フィラーが粒子であり、その平均粒子径が0.01〜1000μmの範囲である、請求項1に記載の樹脂成型物。
【請求項4】
水分存在下で加熱することによってゲル化する湿熱ゲル化樹脂を含む被処理樹脂成型物に、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、湿熱雰囲気で被処理樹脂成型物を湿熱処理して、前記湿熱ゲル化樹脂をゲル化させ、ゲル化物によって前記フィラーを樹脂成型物表面に固着することを特徴とする樹脂成型物の製造方法。
【請求項5】
前記湿熱ゲル化樹脂を含む樹脂を所定の形状に成型した被処理樹脂成型物を、湿熱ゲル化樹脂がゲル化する温度以上に加熱した前記フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液に接触させて湿熱処理して、前記湿熱ゲル化樹脂をゲル化させたゲル化物によって前記フィラーを樹脂成型物表面に固着する、請求項4に記載の樹脂成型物の製造方法。
【請求項6】
前記フィラー分散溶液に接触させた湿熱処理は、85℃以上に加熱されたフィラー分散溶液に被処理樹脂成型物を浸漬する処理である、請求項5に記載の樹脂成型物の製造方法。
【請求項7】
前記湿熱ゲル化樹脂を含む樹脂を所定の形状に成型した被処理樹脂成型物に、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、スチームにより被処理樹脂成型物を湿熱処理して、前記湿熱ゲル化樹脂をゲル化させたゲル化物によって前記フィラーを樹脂成型物表面に固着する、請求項4に記載の樹脂成型物の製造方法。
【請求項8】
前記湿熱ゲル化樹脂を含む被処理樹脂成型物に、フィラーを溶液に分散させたフィラー分散溶液を付与し、前記被処理樹脂成型物を金型内において湿熱雰囲気で前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化させて所定の形状に湿熱成形加工する、請求項4に記載の樹脂成型物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−213869(P2006−213869A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29821(P2005−29821)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】