説明

樹脂成形体及び樹脂成形品の製造方法

【課題】樹脂中への二酸化炭素溶解による可塑化効果を利用して、金型を高温に上げることなく樹脂表面に微細な凹凸や光学鏡面などが形成された金型転写面を高精度に転写できるとともに、気泡の発生を抑制し、射出成形並のサイクルタイム短縮を実現することのできる樹脂成形品を製造する方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形体に二酸化炭素を含浸させ、金型の転写面を樹脂成形体表面に押し付けて、転写面のパターンを樹脂成形体表面に転写する樹脂成形品の製造方法において、少なくとも2層以上の積層構造から構成されるとともに、積層構造を構成する樹脂部材が少なくとも温度、圧力が同条件の場合における二酸化炭素の拡散速度が異なる2種類以上の樹脂部材で構成されている樹脂成形体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に高精度な光学鏡面や微細パターンを有する光学素子の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の製造方法としては、一般的に射出成形法が用いられている。射出成形法は、溶融した樹脂を、その軟化温度以下の温度に加熱維持された金型のキャビティ内に充填して、固化させるといった方法である。キャビティ内に樹脂を充填した直後に冷却固化が始まり、非常に速い成形サイクルで、3次元形状の成形品を作製することができる。但しこの場合は、樹脂がキャビティ内に充填された直後に冷却されて固化層が形成されるために、回折レンズや導光板のように表面に微細な凹凸パターンを有する成形品においては、樹脂がその微細な凹凸パターンに密着して充填される前に固化してしまうといった問題が生じる。
上述した微細パターンを樹脂表面に転写する方法として熱インプリント法が知られている。これは、樹脂をその軟化温度以上に加熱して、微細パターンが形成された転写面を樹脂表面に押しつけてパターンを転写し、その後軟化温度以下まで冷却して離型する方法である。この場合は、転写面を押しつける際に樹脂はその軟化温度以上に加熱されているため、微細パターンへの充填は可能となるが、加熱/冷却の工程が必要であり、非常に成形時間が長くなるといった問題が生じる。
【0003】
このような問題を解決するために、近年では二酸化炭素を成形加工に応用する試みが複数なされている。二酸化炭素のような不活性ガスを高圧にして樹脂中に溶解させると、樹脂が可塑化され、その軟化温度が低下することが知られており、この性質を応用したものである。
例えば、特許文献1では、金型キャビティ内に予め二酸化炭素ガスを充填し、その後金型キャビティ内に樹脂を充填する方法が提案されている。
また、特許文献2では、金型と樹脂表面のスキン層の間に隙間を形成し、この隙間に二酸化炭素ガスを注入し、再度保圧を高めてスキン層と転写面を再密着させ、転写面を転写させている。
また、特許文献3では、インプリント法に二酸化炭素を応用している。ここでは、密閉容器内に高圧二酸化炭素導入させることで、熱可塑性樹脂の母材に二酸化炭素を含浸させ、次いで母材のガラス転移温度より低温の金型転写面を母材に押し付けて転写させる。その後、密閉容器内を減圧させることで、母材から二酸化炭素を排出している。
この場合は、母材に二酸化炭素を含浸させることで可塑化が促進されるため、母材や金型を高温にあげることなく微細パターンを転写することができ、成形時間の短縮が期待できる。
【特許文献1】特許第3096904号
【特許文献2】特許第3445778号
【特許文献3】特開2006−175756公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の発明では、樹脂の粘度が低下し、微細パターンへの充填は促進されるが、樹脂の流動を伴って二酸化炭素が溶解されるため、流動が不安定になり、それに伴って成形品に外観不良が生じる。また、高圧ガスで加圧されたキャビティ内へ樹脂を充填するために、樹脂の未充填といった問題が生じやすくなる。
また、特許文献2記載の発明では、樹脂の流動を伴わずに二酸化炭素を溶解させることができるが、再密着させるために転写面周囲に摺動部が必要となり、そこからのガスのリーク等の問題で安定して、高圧ガスを注入することができない、また、保圧によって圧力を負荷させると、樹脂の流入口であるゲート部近傍のみに応力が集中し、転写面に均一に圧力を負荷させることができないといった問題が生じる。
【0005】
また、特許文献3記載の発明では、上記方法を、特に厚みのある成形品に適用した場合には、二酸化炭素の含浸時間や母材からの二酸化炭素排出のための減圧時間が長くなり、前述した射出成形に匹敵するほど成形時間を短くすることはできない。また、減圧時間を短くするために急速減圧すると、内部まで浸入した二酸化炭素が抜けきれなくなり、相分離が進み、気泡が発生してしまうといった問題も生じる。
その場合には、転写面表層部だけに選択的に二酸化炭素を含浸させるようにすることで、含浸時間、減圧時間の短縮や気泡の抑制を実現することができる。二酸化炭素の含浸深さは、含浸時間、含浸圧力、含浸温度等によって決定されるが、それらがお互いに影響を及ぼしあっているために、正確に制御することが難しく、安定して、転写面表層部だけに選択的に二酸化炭素を含浸させることができないといった問題がある。
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、樹脂中への二酸化炭素溶解による可塑化効果を利用して、金型を高温に上げることなく樹脂表面に微細な凹凸や光学鏡面などが形成された金型転写面を高精度に転写できるとともに、気泡の発生を抑制し、射出成形並のサイクルタイム短縮を実現することのできる樹脂成形品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、二酸化炭素を含浸させた樹脂成形体の表面に、金型の転写面を押し付けて、前記転写面のパターンを転写する樹脂成形品の製造方法に用いられる樹脂成形体において、前記樹脂成形体が少なくとも2層の樹脂部材から構成される積層構造であるとともに、少なくとも温度、圧力が同条件の場合における前記各樹脂部材中の二酸化炭素の拡散速度が異なることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記樹脂成形体は、金型転写面を押し付けられる表層樹脂部材と、前記表層樹脂部材の裏面に積層された基材樹脂部材と、を備え、温度、圧力が同条件の場合において、前記基材樹脂部材中の二酸化炭素の拡散速度が前記表層樹脂部材中の二酸化炭素の拡散速度よりも遅いことを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1において、前記表層樹脂部材と前記基材樹脂部材との間に、前記表層樹脂部材及び前記基材樹脂部材とは異なる材料からなる中間樹脂部材の層を備え、温度、圧力が同条件の場合において、前記中間樹脂部材中の二酸化炭素の拡散速度が前記表層樹脂部材中の拡散速度よりも遅いことを特徴とする。
【0007】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一項において、前記基材樹脂部材が予め略最終形状に加工されていることを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一項において、前記樹脂成形体を構成する樹脂部材の全てが、熱可塑性樹脂材料からなることを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一項において、前記樹脂成形体を構成する樹脂部材が、熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料からなることを特徴とする。
【0008】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一項において、前記樹脂成形体を構成する樹脂部材が熱可塑性樹脂材料又は光硬化性樹脂材料からなることを特徴とする。
また、請求項8に記載の発明は、樹脂成形体に二酸化炭素を含浸させる工程と、金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付けて、前記転写面のパターンを前記樹脂成形体表面に転写する工程と、を有する樹脂成形品の製造方法において、前記樹脂成形体は、請求項1乃至7の何れか一項に記載の樹脂成形体であることを特徴とする。
また、請求項9に記載の発明は、請求項8において、前記樹脂成形体に二酸化炭素を含浸させる工程と、前記金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付ける工程とが、二酸化炭素を含浸させる前における前記樹脂成形体の表層樹脂部材の軟化温度以下で行われることを特徴とする。
【0009】
また、請求項10に記載の発明は、請求項8又は9において、前記樹脂成形体に二酸化炭素を含浸させる工程と、前記金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付ける工程とが、二酸化炭素を含浸させる前における前記樹脂成形体の表層樹脂部材の軟化温度以下の一定温度で行われることを特徴とする。
また、請求項11に記載の発明は、請求項8乃至10の何れか一項において、前記金型の転写面には微細な凹凸パターンが形成されていることを特徴とする。
また、請求項12に記載の発明は、請求項11において、前記金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付ける前の前記表層樹脂部材の厚さが、少なくとも前記金型転写面に形成された微細な凹凸のパターンの高さより厚いことを特徴とする。
また、請求項13に記載の発明は、請求項12において、前記金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付ける前の前記表層樹脂部材の厚さが、予め略最終形状に加工された基材樹脂部材と、最終形状との形状誤差以上の厚さを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、二酸化炭素を樹脂中に溶解させる場合、樹脂種類によって二酸化炭素の拡散速度が異なることに着目し、予め同温、同圧力下における二酸化炭素拡散速度が異なる2種類以上の樹脂部材から構成される樹脂成形体を用意し、樹脂成形体を構成する樹脂の中で、二酸化炭素の拡散速度の早い樹脂部材のみに選択的に二酸化炭素を溶解させるようにすることを特徴としている。
具体的には、予め二酸化炭素の拡散速度の異なる樹脂部材が積層された樹脂成形体を用意し、転写面側表層部の所定厚みを、二酸化炭素の拡散速度の速い樹脂部材で構成させておくことで、その部分のみに優先的に二酸化炭素を含浸させ可塑化させることができる。樹脂成形体が単一樹脂部材で構成されている場合には、樹脂内部まで二酸化炭素の溶解が進行するが、本発明においては、二酸化炭素拡散速度が遅い樹脂部材のところで溶解が進まなくなるために、二酸化炭素拡散速度が速い樹脂部材のみに選択的に二酸化炭素を溶解させることができる。
従って、本発明によれば樹脂中への二酸化炭素溶解による可塑化効果を利用して、樹脂成形品を製造するに際し、樹脂部材からの気泡の発生を抑制するとともに、含浸時間、含浸圧力、含浸温度等を正確に制御することなく、転写面表層部だけに選択的に二酸化炭素を含浸させ、安定して二酸化炭素含浸時間、減圧時間の短縮、すなわちサイクルタイムの短縮を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は実施例1で使用する樹脂の構造を示す図であり、(a)はパターン転写前の樹脂成形体を示す図、(b)はパターン転写後の樹脂成型品を示す図である。
本実施例では、図1(a)に示すような表層樹脂部材102と基材樹脂部材103の積層構造を備えた樹脂成形体101を用意し、表層樹脂部材102に所定のパターンが形成された金型転写面を押しつけて、転写させ、図1(b)に示すような表層樹脂部材102表面に凹凸パターン105が転写された樹脂成形品104を作製した。尚、ここでは、図1(a)に示す転写前の樹脂と、図1(b)に示す転写後の樹脂とを区別するために、それぞれ樹脂成形体101、樹脂成形品104と記すこととする。
【0013】
具体的には、表層樹脂部材102として熱可塑性樹脂であるメタクリル樹脂(熱変形温度85〜100度、以下PMMAと記す)、基材樹脂部材103として熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン樹脂(以下COPと記す)からなる2層構造の樹脂成形体101を用いた。樹脂成形体101の作製方法については限定されるものではないが、本実施例においては、2つの射出ユニットを有する2色成形機を用いて作製した。このように、樹脂成形体101を構成する樹脂部材が、ともに熱可塑性樹脂で構成されている場合、1つの成形機で容易かつハイサイクルで樹脂成形体101を作製することができる。また、図1に示されるように、樹脂成形体101には微細パターンが形成されている必要はなく、略最終形状、すなわち微細パターンが転写される部分以外の部分が最終形状であればよい。従って、樹脂成形体101の作製においては、特別な工夫なく容易に低コストで作製することができる。更に、樹脂成形体101の作製は、微細パターンの転写工程と同時に並行して実施することが可能であり、工程が増えることによる成形サイクルの増加は生じない。
但し、この場合、表層樹脂部材102層の厚さは、金型116の転写面115に形成された凹凸パターンの高さより厚くなるようにする必要がある。これによって、基材樹脂部材103には、二酸化炭素が溶解されず可塑化されていなくても、確実に金型116の凹凸パターンを樹脂成形品104に転写させることができる。
【0014】
図2は、実施例1で用いた樹脂成形品加工装置の断面概略図である。
本装置は、高圧二酸化炭素雰囲気内で樹脂成形体101を押圧することができる構造となっている。具体的には、予め加工された樹脂成形体101を収容可能な密閉容器6を備え、密閉容器6には、二酸化炭素を供給するためのガス供給管7及び二酸化炭素を排出するためのガス排出管8が接続され、密閉容器6と連通している。ガス供給管7は増圧装置9を介して二酸化炭素ボンベ10に接続されている。ガス供給管7には、開閉可能な供給弁11が備えられており、供給弁11の開閉により、適宜、増圧装置9によって所定圧力、温度に制御された二酸化炭素が密閉容器6内に供給される。一方、ガス排出管8取り付け口には、減圧速度調整可能な減圧弁12が備えられていて、密閉容器6内を一定圧力に維持したり、所定速度で減圧できるようになっている。更に密閉容器6の外周部には、適宜、密閉容器6内雰囲気温度を所定温度に維持可能なような温度調節器13が備えられている。本実施例においてはカートリッジヒーターを用いている。
【0015】
また、密閉容器6内には、樹脂成形体101を固定するための下型保持部14と所定のパターンが形成された転写面115を有する金型116を固定するための上型保持部17が備えられている。本実施例で用いた加工装置においては、金型116が固定された上型保持部17が上下に移動可能であり、下型保持部14に固定された樹脂成形体101の成形面上に金型116の転写面115を所定圧力で押圧できるようになっている。
本実施形態では、下型保持部14が移動するようにしてもいいし、上型保持部17及び下型保持部14の両方が移動可能としてもよい。
【0016】
次いで、図2に基づいて動作について説明する。
1)予め略最終形状に加工された樹脂成形体101を、密閉容器6内に挿入する。
2)密閉容器6内の雰囲気を二酸化炭素に置換する。密閉容器6内を二酸化炭素で置換する工程は、供給弁11、減圧弁12を開き、密閉容器6内に二酸化炭素を流通させた後、供給弁11、減圧弁12を閉めることで容易に実施できるが、供給弁11に接続されている増圧装置9は、二酸化炭素が所定の温度、圧力になるように維持貯蔵されているため、別途置換用の二酸化炭素流通経路を設けておく方が好ましい。
3)供給弁11を開き、減圧弁12を閉め、所定圧力、温度に増圧増温された二酸化炭素が貯蔵された増圧装置9から二酸化炭素を密閉容器6内に充填し、樹脂成形体101中に二酸化炭素を含浸させる。この時、密閉容器6内では、常に一定圧力が維持されるように、減圧弁12で調整する。また、密閉容器6は、温度調節器13によって、密閉容器6内が所定の一定温度に維持できるようにしている。
4)金型116が固定された上型保持部17を樹脂成形体101のある下方に移動させ、樹脂成形体101を押圧し、表層樹脂部材102を構成するPMMAを変形させ、金型116の転写面115に加工されたパターンを転写する。
5)減圧弁12を開き、密閉容器6内の高圧二酸化炭素を大気圧まで減圧させた後、上型保持部17を上昇させて、パターンが転写された樹脂成形品104を取り出す。
【0017】
本実施形態で用いた金型116の転写面115のパターンは開口幅350nm高さ175nmのL&Sパターンである。また、樹脂成形体101は、前述したようにPMMAとCOPの2層積層構造で構成され、厚さ5mmのCOP上に厚さ0.5mmのPMMAを積層させたものを用いた。加工条件は、二酸化炭素の圧力10MPa、温度40℃、押圧力5MPaで溶解時間は1分とし、減圧時間は10秒の急減圧とした。なお、40℃、10MPa、溶解時間1分の条件下において、二酸化炭素はCOP中へ殆ど拡散しないことを事前に実験的に確認している。また、比較例としてPMMA単体での転写も実施した。尚、本実施例において、増圧から減圧、離型までの工程を全て40℃の一定温度で実施し、昇温、降温は行っていない。
【0018】
図3は、AFMによって形状評価を行った結果を示す図であり、図3(a)は本発明におけるPMMAとCOPの2層積層構造から構成される樹脂成形品104の転写面測定結果を示す図、図3(b)はPMMA単体における転写面測定結果を示す図、図3(c)はPMMA単体で二酸化炭素の溶解時間を5分以上とした場合の転写面測定結果を示す図である。
図3(a)からわかるように、本発明におけるPMMAとCOPの2層積層構造から構成される樹脂成形品104は、金型116の転写面115に形成されたパターンをほぼ100%転写していることがわかる。一方、図3(b)に示された通り、PMMA単体の場合は、転写率10%以下と殆ど転写しないことがわかる。しかし、溶解時間を5分以上とすることで、ようやくPMMA単体でも金型116の転写面115に形成されたパターンをほぼ100%転写した(図3(c))。
PMMA単体で転写率が低い理由は、二酸化炭素の浸入が樹脂内部にまで拡散するために、表層部であっても、樹脂の可塑化に必要な二酸化炭素溶解量を満たすまでには時間がかかるためである。一方、本発明においては、表層樹脂部材102を構成するPMMAと基材樹脂部材103を構成するCOPの境界で拡散が進まなくなるために、非常に短時間で表層樹脂部材102を構成するPMMAだけに選択的に二酸化炭素を必要量溶解することができる。
【0019】
また、PMMA単体で5分以上の時間をかけて二酸化炭素を溶解させて、ほぼ100%転写した場合においては、樹脂から二酸化炭素を排出するために急減圧すると、樹脂内部に気泡が発生する。これは、樹脂中に溶解されていた二酸化炭素が溶けきれなくなり、樹脂が相分離した結果であり、発泡を防ぐためには10分以上かけてゆっくり減圧させる必要があった。一方、本発明による2層積層構造から構成される樹脂成形品104の場合は、PMMAから構成される薄い表層樹脂部材102だけに選択的に二酸化炭素が溶解されているため、樹脂が相分離する前に二酸化炭素が樹脂中から排出されるため、短時間で減圧させても上述のような発泡の発生は起きない。
【0020】
以上述べたように、本発明においては、樹脂中への二酸化炭素溶解による可塑化効果を利用して、金型温度を高温にすることなく、かつ一定温度で樹脂表面に微細な凹凸パターンを精度良く転写させることができる。更には、表層樹脂部材102のみに選択的に二酸化炭素を含浸させることができるため、含浸時間、含浸圧力、含浸温度等を正確に制御すること必要なく、二酸化炭素の溶解、排出時間を短くすることができ、その生産性及び加工安定性が向上する上、減圧時の気泡の発生をも抑制することができる。
表層樹脂部材102層の厚さは成形サイクル短縮、発泡発生の抑制の点からは、薄い方が好ましいが、基材樹脂部材103層では、樹脂の可塑化が進まないため、前述したように、少なくとも金型116の転写面115に形成された微細な凹凸のパターンの高さより厚くすることで、確実に前述した最終的に求められる凹凸パターンを転写させることができる。
【0021】
また、前述したように予め作製する樹脂成形体101は、二酸化炭素雰囲気中での押圧によって最終的に所望の形状を得る(所望の形状を転写する)ことができるため、微細なパターンが形成されていなくてもいいのはもちろん、最終形状との形状誤差を有する略最終形状でいいために、樹脂成形体の作製には、前述した2色成形のような非常に安価な工法で作製することができる。
【実施例2】
【0022】
図4は、本実施例にかかる樹脂成形体201の構成を示す図である。
ここでは、表層樹脂部材202を熱可塑性樹脂であるPMMAで構成し、基材樹脂部材203を熱可塑性樹脂であるポリカーボネート樹脂(以下PCと記す)で構成し、更に、表層樹脂部材と基材樹脂部材の間に中間樹脂部材206として光硬化性樹脂の1つである紫外線硬化性樹脂(以下UV樹脂と記す)を積層した3層構造の樹脂積層体である樹脂成形体201を用意した。
【0023】
実施例1と同様に樹脂成形体201の製造方法は限定されるものではないが、本実施例においては、予め射出成形によって厚さ5mmの基材樹脂部材203を構成するPC部材を作製し、その上面に中間樹脂部材206を構成するUV樹脂を厚さ50μmスピンコートし、更にその上に、表層樹脂部材202を構成する厚さ100μmのPMMAフィルムを積層し、加圧しながら、上面より紫外線を照射して、UV樹脂を硬化させると同時に、表層樹脂部材202を構成するPMMAと基材樹脂部材203を構成するPCを一体化させた。
転写は、実施例1と同様の図2に示した樹脂成形品加工装置を用いて行った。本実施例で用いた金型216の転写面215のパターンは開口幅2μm高さ1μmのL&Sパターンである。また、加工条件は、実施例1と同様に二酸化炭素の圧力10MPa、温度40℃、押圧力5MPaとし、溶解時間、減圧時間はそれぞれ30秒、10秒と非常に短くした。
【0024】
図5は、パターン転写後の樹脂成形品204をAFMによって形状評価を行った結果を示す図である。本実施例における表層樹脂部材202、基材樹脂部材203、中間樹脂部材206の3層積層構造にて構成される樹脂成形品においても、金型216の転写面215に形成されたパターンをほぼ100%転写していることがわかる。
本実施例において、中間樹脂部材206としてUV樹脂を用いたのは、表層樹脂部材202、基材樹脂部材203をより強固に密着できるのはもちろんであるが、UV樹脂等の光硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂と比較して殆ど二酸化炭素を溶解しないため、確実にPMMAだけに選択的に二酸化炭素を溶解することができるからである。その結果、本実施例のように、溶解時間30秒といった非常に短時間で微細パターンを転写させることができ、もちろん急速な減圧をしても発泡が生じることはない。
【0025】
実施例1のように基材樹脂部材203をUV樹脂で構成し、PMMAで構成される表層樹脂部材202との二層構造としてももちろん問題ないが、UV樹脂で厚肉の成形品を作製することは困難である。本実施例のように3層構造とすることで厚肉の成形品にも対応できる。
尚、中間樹脂部材206を構成しているUV樹脂で二酸化炭素の拡散が遮断され、基材樹脂部材203中には拡散しないため、基材樹脂部材203として表層樹脂部材と同じPMMAを用いても問題ない。中間樹脂部材206としてはUV樹脂に限定されるものではなく、表層樹脂部材202を構成する樹脂部材より二酸化炭素の拡散速度が遅い樹脂部材であれば熱可塑性樹脂等の樹脂を用いてもかまわない。また、中間樹脂部材を2種類以上の樹脂部材からなる積層構造としてもよい。
【実施例3】
【0026】
図6は、本実施例にかかる樹脂成形体301の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)はX−X断面図である。
ここでは、基材樹脂部材303を熱硬化性樹脂であるジエチレングリコールビスアリルカーボネート(以下CR−39と記す)で構成し、基材樹脂部材303の表裏両面に熱可塑性樹脂であるPMMAを表層樹脂部材302として積層させたものを用意した。本実施例においては、金型316の転写面315には、微細なパターンではなく、光学鏡面を加工し、光学鏡面を樹脂成形体301に高精度に転写させた。ここで、予め作製した樹脂成形体301の表面は、光学鏡面である必要はなく、また形状誤差が大きくても良いため、樹脂成形体301の作製においては、特別な工夫なく容易に低コストで作製することができる。但し、この場合、表層樹脂部材302層の厚さは、金型316の転写面315と、樹脂成形体301表面の形状誤差より厚くなるようにしている。これによって、基材樹脂部材303には、二酸化炭素が溶解されず可塑化されていなくても、確実に金型316の転写面315形状を転写させることができる。
本実施例においても、樹脂成形体301の製造方法は限定されるものではないが、本実施例においては、図6に示されるように、予めトランスファー成形によって作製した厚さ3mm〜8mmの偏肉形状をした丸レンズ型の基材樹脂部材303をCR−39にて作製した。次いで、基材樹脂部材303を構成するCR−39の両側に射出成形によって、PMMAを成形一体化させ表層樹脂部材302層を形成させた。
【0027】
図7は、本発明の実施例で用いた樹脂成形品加工装置の断面概略図である。
基本的な構成が図2の樹脂成形品加工装置と同様である。但し、本実施例においては、樹脂成形体301両側を転写させる必要があるため、下型保持部14及び上型保持部17をともに可動できるようにし、樹脂成形体301は、リング状の保持部材18によって、中空保持できるようにした。
実施例2と同様の加工条件で転写させた結果を図7に示す。ここでは、金型316の転写面315の形状との形状誤差を転写前の樹脂成形体301と、転写後の樹脂成形品304について示した。樹脂成形体301では、中央部と端部の肉厚差があるところで大きな形状誤差が生じているが、転写後の樹脂成形品304では、上記形状誤差が補正され、金型316の転写面315を高精度に転写することができた。
【0028】
本発明は、微細な凹凸パターンへの転写だけでなく、本実施例のように高精度な光学鏡面の転写にも適用することもできる。特に、本実施例のような厚さが場所によって異なる偏肉形状のレンズを成形する場合、場所によって圧力、温度の偏在が生じるため、高精度な形状精度を確保することが難しい。本実施例のように、基材樹脂部材表面に表層樹脂部材を積層し、表層樹脂部材のみに選択的に二酸化炭素を溶解させ可塑化させることで、基材樹脂部材の形状誤差を補うように表層樹脂部材が変形し、高精度な面転写を実現させることができる。また、昇温、降温することなく、選択的に表層樹脂部材だけを可塑化しているため非常に加工時間も短くなる。
尚、本実施例では、基材樹脂部材として熱硬化性樹脂を用いたがこれに限定されるものではなく、実施例1や実施例2のように熱可塑性樹脂や紫外線硬化性樹脂を用いることもできる。但し、熱硬化性樹脂の場合、熱可塑性樹脂のように厚肉の形状を加工することが容易で、かつ紫外線硬化樹脂のように、二酸化炭素を殆ど溶解せず、結果として表層樹脂部材のみに確実に二酸化炭素を溶解させ可塑化することができる。
以上、これまで説明してきた本発明においては、適用できる樹脂、実施例に用いたものに限定されるものではなく、また、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1で使用する樹脂の構造を示す図であり、(a)はパターン転写前の樹脂成形体を示す図、(b)はパターン転写後の樹脂成型品を示す図である。
【図2】実施例1で用いた樹脂成形品加工装置の断面概略図である。
【図3】AFMによって形状評価を行った結果を示す図であり、(a)は実施例1におけるPMMAとCOPの2層積層構造から構成される樹脂成形品の転写面測定結果を示す図、(b)はPMMA単体における転写面測定結果を示す図、(c)はPMMA単体で二酸化炭素の溶解時間を5分以上とした場合の転写面測定結果を示す図である。
【図4】実施例2にかかる樹脂成形体の構成を示す図である。
【図5】実施例2にかかる樹脂成形品についてAFMによって形状評価を行った結果を示す図である。
【図6】実施例3にかかる樹脂成形体の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)はX−X断面図である。
【図7】実施例3で用いた樹脂成形品加工装置の断面概略図である。
【図8】実施例3にかかる樹脂成形品についてAFMによって形状評価を行った結果を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
101、201、301…樹脂成形体、102、202、302…表層樹脂部材、103、203、303…基材樹脂部材、104、204、304…樹脂成形品、115、215、315…転写面、116、216、316…金型、105…凹凸パターン、206…中間樹脂部材、6…密閉容器、7…ガス供給管、8…ガス排出管、9…増圧装置、10…二酸化炭素ボンベ、11…供給弁、12…減圧弁、13…温度調節器、14…下型保持部、17…上型保持部、18…保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含浸させた樹脂成形体の表面に、金型の転写面を押し付けて、前記転写面のパターンを転写する樹脂成形品の製造方法に用いられる樹脂成形体において、
前記樹脂成形体が少なくとも2層の樹脂部材から構成される積層構造であるとともに、少なくとも温度、圧力が同条件の場合における前記各樹脂部材中の二酸化炭素の拡散速度が異なることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
前記樹脂成形体は、金型転写面を押し付けられる表層樹脂部材と、前記表層樹脂部材の裏面に積層された基材樹脂部材と、を備え、温度、圧力が同条件の場合において、前記基材樹脂部材中の二酸化炭素の拡散速度が前記表層樹脂部材中の二酸化炭素の拡散速度よりも遅いことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記表層樹脂部材と前記基材樹脂部材との間に、前記表層樹脂部材及び前記基材樹脂部材とは異なる材料からなる中間樹脂部材の層を備え、温度、圧力が同条件の場合において、前記中間樹脂部材中の二酸化炭素の拡散速度が前記表層樹脂部材中の拡散速度よりも遅いことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記基材樹脂部材が予め略最終形状に加工されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
前記樹脂成形体を構成する樹脂部材の全てが、熱可塑性樹脂材料からなることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
前記樹脂成形体を構成する樹脂部材が、熱可塑性樹脂材料又は熱硬化性樹脂材料からなることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
前記樹脂成形体を構成する樹脂部材が熱可塑性樹脂材料又は光硬化性樹脂材料からなることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
樹脂成形体に二酸化炭素を含浸させる工程と、金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付けて、前記転写面のパターンを前記樹脂成形体表面に転写する工程と、を有する樹脂成形品の製造方法において、
前記樹脂成形体は、請求項1乃至7の何れか一項に記載の樹脂成形体であることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂成形体に二酸化炭素を含浸させる工程と、前記金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付ける工程とが、二酸化炭素を含浸させる前における前記樹脂成形体の表層樹脂部材の軟化温度以下で行われることを特徴とする請求項8に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂成形体に二酸化炭素を含浸させる工程と、前記金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付ける工程とが、二酸化炭素を含浸させる前における前記樹脂成形体の表層樹脂部材の軟化温度以下の一定温度で行われることを特徴とする請求項8又は9に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記金型の転写面には微細な凹凸パターンが形成されていることを特徴とする請求項8乃至10の何れか一項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
前記金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付ける前の前記表層樹脂部材の厚さが、少なくとも前記金型転写面に形成された微細な凹凸のパターンの高さより厚いことを特徴とする請求項11に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項13】
前記金型の転写面を前記樹脂成形体表面に押し付ける前の前記表層樹脂部材の厚さが、予め略最終形状に加工された基材樹脂部材と、最終形状との形状誤差以上の厚さを有することを特徴とする請求項12に記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−214298(P2009−214298A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57039(P2008−57039)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】