説明

樹脂成形品、樹脂成形品の成形方法および成形用金型

【課題】材着用と塗装用の樹脂成形品の成形用金型を共通させ、無塗装の場合でも樹脂成形品の耐傷付き性が低下せず、塗装した場合でも樹脂成形品の外観品質が低下しないようにすることを目的とする。
【解決手段】本発明は、表面にシボが成形された樹脂成形品であって、前記シボの深さを3μm以上5μm以下とし、前記シボのピッチを550μm以上750μm以下とし、前記シボのシボ表面の60°グロスを28以上35以下としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品、樹脂成形品の成形方法および成形用金型に関する。特に、自動車外装部品のバンパ等の樹脂成形品に施すシボ形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば自動車業界において、自動車外装部品であるバンパを始めとする多くの樹脂成形品が用いられている。このような樹脂成形品の中でも、意匠部に当たる加飾部品は塗装により加飾されることが多い。しかしながら、塗装工程における塗料中の揮発性有機化合物(以下、VOC(volatile organic compounds))の大気への放出や、車室内の塗装部品に起因したVOCの発生により、環境や人体に影響を与えることが懸念される。
【0003】
そこで、昨今では、予め顔料等の着色剤を混練した着色樹脂材料を成形することで、塗装工程を省くことがなされている。このような加飾部品の無塗装化は、塗料の使用量を削減し、VOCの放出あるいは発生を低減させることができる。更には、塗膜除去が不必要であるために樹脂加飾部品のリサイクル性を向上させることができると共に塗装工程廃止による省エネルギーに有効である。例えば、バンパでは、このような着色樹脂材料を用いた無塗装材着バンパが採用され始めている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−120729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、バンパ等の自動車外装部品は、車体色や車両グレード等の車両コンセプトに合わせて、材着グレードと塗装グレードとの2つの仕様が用意されることが多くある。しかし、材着グレードにおいては、傷付き防止の点から加飾部品の表面にシボを施す必要がある。したがって、同じ加飾部品であっても、材着グレードと塗装グレードとの仕様によって、2つの成形用金型を作製する必要があり、金型作製の開発工数およびコストが掛かり、成形時には型交換をしなければならないので生産効率が低下してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、材着用と塗装用の樹脂成形品の成形用金型を共通させ、無塗装の場合でも樹脂成形品の耐傷付き性が低下せず、塗装した場合でも樹脂成形品の外観品質が低下しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る樹脂成形品は、表面にシボが成形された樹脂成形品であって、前記シボの深さを3μm以上5μm以下とし、前記シボのピッチを550μm以上750μm以下とし、前記シボのシボ表面の60°グロスを28以上35以下としたことを特徴とする。
また、前記シボ表面に塗膜全体の厚さが50μm以上の塗装をしたことを特徴とする。
また、該樹脂成形品が自動車外装部品のバンパであることを特徴とする。
本発明に係る樹脂成形品の成形方法は、前記シボの深さを3μm以上5μm以下とし、前記シボのピッチを550μm以上750μm以下とし、前記シボのシボ表面の60°グロスを28以上35以下になるように成形することを特徴とする。
本発明に係る成形用金型は、表面にシボが成形された樹脂成形品を成形するための成形用金型であって、前記シボの深さを3μm以上5μm以下とし、前記シボのピッチを550μm以上750μm以下とし、前記シボのシボ表面の60°グロスを28以上35以下になるように成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂成形品に所定のシボを施したことにより、樹脂成形品を無塗装で用いた場合には傷を目立たなくさせることができ、シボ表面に塗装した場合にはシボに起因した塗装表面上の凹凸を抑制させることができる。すなわち、耐傷付き性および外観品質に優れた樹脂成形品を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る樹脂成形品における好適な、シボの深さ、シボのピッチおよびシボ表面の60°グロスを説明するための図である。
【図2】樹脂成形品におけるシボの形状を説明するための図である。
【図3】樹脂成形品におけるシボの形状を説明するための図である。
【図4】60°グロスの測定原理を説明するための図である。
【図5】シボの深さが深いシボ表面に塗装した状態を示す図である。
【図6】シボの深さが浅いシボ表面に塗装した状態を示す図である。
【図7】60°グロスが低いシボのシボ表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態では、シボ形状を施した樹脂成形品をそのまま製品として用いることで無塗装である材着グレードの製品に対応させ、シボ形状を施した樹脂成形品のシボ表面に塗装することで塗装グレードの製品に対応させる。このように樹脂成形品を製造することにより、1つの成形用金型で材着用の樹脂成形品と塗装用の樹脂成形品とに対応させることができる。
なお、このとき、所定のシボ形状で成形することにより、無塗装で用いた場合でも耐傷付き性に優れ、塗装した場合でもシボに起因した塗装表面上の凹凸を抑制させた外観品質に優れた樹脂成形品を提供することができる。
【0011】
本実施形態では、所定のシボ形状の条件として、シボの深さを3μm以上5μm以下にし、シボのピッチを550μm以上750μm以下にし、シボ表面の60°グロスを28以上35以下にするように樹脂成形品を成形する。すなわち、図1に示す範囲Aのような、シボの深さ、ピッチおよび60°グロスで樹脂成形品を成形することで、外観品質および耐傷付き性に優れた樹脂成形品を提供することができる。
上述した条件は、樹脂成形品の表面に塗装した外観および耐傷付き性に関する諸要求を考慮し、鋭利研究の結果見出したものであるが、その詳細については後述する。
【0012】
以下、本実施形態では、自動車外装部品であるバンパ(樹脂成形品)を成形する場合について説明する。
<樹脂材料について>
一般的に、自動車外装部品のバンパに用いられる樹脂材料には、射出成形性およびコストの点を考慮して、ポリプロピレン樹脂材料が用いられている。また、剛性や耐衝撃性の要求に合わせて、ポリプロピレン樹脂材料にタルク等のフィラーやエラストマーが添加される。
そこで、本実施形態では、ポリプロピレン樹脂材料にタルクを15重量%添加したブロックポリプロピレン樹脂材料を用いるものとする。
【0013】
<樹脂成形品の表面形状について>
本実施形態では、シボ形状をシボの深さ、シボのピッチおよびシボ表面の60°グロス(グロス値)によって特徴付けて、シボ形状が塗装外観および耐傷付き性等の部品性能に及ぼす影響について検証する。
ここで、シボの深さとは、図2に示すように、成形された樹脂成形品の表面に施されたシボの頂部から谷部までの距離Dをいう。また、シボのピッチとは、図2に示すように、隣り合う頂部同士の距離Pをいう。なお、シボの凹凸は一様ではなく、図3に示すように、主となる凹凸の他に細かい凹凸が存在する場合がある。一般的に、主となる凹凸は一次シボ(図3に示す破線)、その他の細かい凹凸が二次シボ(図3に示す実線)と呼ぶ。本実施形態では、シボの深さおよびシボのピッチは、一次シボから計算されるものである。なお、シボの深さおよびピッチは、テーラーホブソン株式会社製Form Talysurf Series 2を用いて計測した。
【0014】
また、60°グロスとは、シボの凹凸の滑らかを表す指標である。60°グロスは、図4に示すように、樹脂成形品のシボ表面(測定面)の鉛直方向から60°傾けた位置の光源10から照射された光が、シボ表面(測定面)で反射した後、光源10の反対側であるシボ表面(測定面)の鉛直方向から60°傾けた位置の受光器20で受光する光量の程度をいう。なお、JIS規格では、60°の入射角の場合において、屈曲率1.567であるガラス表面における反射率10%を、グロス値100(%)としている。したがって、60°グロスの値が高い場合、それだけシボ表面で光が反射する反射率が高く、シボの凹凸が滑らかであることを示している。本実施形態では、60°グロスは、スガ試験機株式会社製デジタル変角光沢計UGV-6Pを用いて計測した。
【0015】
また、樹脂成形品のシボにおける60°グロスを変化させるには、樹脂成形品を成形するための成形用金型の表面(シボ成形面)を、サンドブラストやガラスビーズによって磨きをかけることで、調整される。一般に、成形用金型の表面(シボ成形面)に磨きをかけるほど、シボの凹凸が滑らかになり、60°グロスが高くなる。
【0016】
<樹脂成形品の表面に塗装する塗料について>
本実施形態では、樹脂成形品の表面、すなわちシボの表面に塗装する塗料として、シルバー色を塗装するものとする。具体的には、下記表1に示すように、プライマ、トップコート(アルミ含有)、クリアコートの3層からなる膜厚50μm以上57μm以下の塗装である。
【0017】
【表1】

【0018】
<評価方法−塗装外観>
シボの深さを変化させた樹脂成形品を複数用意して、そのシボ表面に上述した塗装を行い、目視によって塗装外観を評価した。また、塗装表面の凹凸の高さおよび幅を測定した。なお、測定には、テーラーホブソン株式会社製Form Talysurf Series 2を用いた。この塗装外観の評価によって最適なシボの深さを検証する。
<評価方法−耐傷付き性>
上述した塗装外観の評価によって、決定された最適なシボの深さで、シボのピッチおよび60°グロスを変化させた複数の樹脂成形品を用意し、耐傷付き性を評価した。具体的には、尖った物で引掻いたときに付く引掻き傷と布等で擦ったときに付く擦り傷との2種類の傷を想定し、碁盤目試験と学振磨耗試験とを行った。耐傷付き性の評価として、試験後のシボ表面に発生する白化と傷跡とを検証した。
【0019】
碁盤目試験は、JIS K5400に規定されるものであって、引っ掻き治具に先端が半径0.3mmの面取りが施されたサファイア製針を測定物の表面に荷重300gにより押し当て、碁盤目状の引っ掻き傷を発生させる。本検証では、シボ表面に碁盤目試験による引っ掻き傷を発生させ、白化および傷跡が発生しているかを確認する。
学振磨耗試験は、JIS L0849に規定されるものであって、かなきん3号の摩擦体を測定物の表面に荷重200gにより押し当て、摩擦回数2000回擦る。本検証では、シボ表面に学振磨耗試験による擦り傷を発生させ、白化が発生しているかを確認する。
【0020】
白化とは、樹脂成形品が塑性変形することで樹脂成形品の色が変化する現象である。傷付き時の接触応力がPP樹脂の塑性域を超えることで、表面が塑性変形し、色が変化する(白色になる)。特にタルク等の強化材が添加されている場合は、タルクと樹脂の界面で、破壊が起き易く、白化が目立つと言われている。白化が発生したか否かは、JIS Z8722に従い、測色計を用いて、傷付き前後の明度を測定する。明度差ΔL*は、明度差ΔL*=(傷付き後の明度L*)−(傷付き前の明度L*)であり、明度差ΔL*が大きいほど、白化が発生していると評価する。本実施形態では、明度差ΔL*が0.3以下の場合白化が発生していない、明度差ΔL*が0.3よりも大きく1.0以下の場合白化がやや発生している、明度差ΔL*が1.0よりも大きい場合白化が発生していると評価した。
また、傷跡は、目視によって評価した。
この耐傷付き性の評価によって、最適なシボのピッチおよびシボ表面の60°グロスを検証する。
【0021】
<評価結果−塗装外観>
塗装外観は、シボの深さによって大きく影響する。したがって、表2に示すように、シボの深さを変化させた複数の樹脂成形品を用いて、塗装外観を評価した結果を示す。なお、目視評価では、○がシボに起因した凹凸がなく、シボなし面に塗装した場合と同等であることを示し、△がシボに起因した凹凸が目視で確認できるものを示し、×がシボに起因した凹凸が目立つものを示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2に示す実施例のシボは、シボの深さが3μm〜5μmであり、シボのピッチは550μm〜750μmである。具体的には、実施例のシボは、深さが3μm以上5μm以下であり、ピッチが550μm以上750μm以下で構成されているシボである。表2および表2以下でも、同様の方法で表記している。
また、表2に示す比較例1のシボは、シボの深さが6μm以上8μm以下であり、シボのピッチは550μm以上750μm以下である。なお、参考例はシボなし面である。
【0024】
表2の塗装外観評価に示すように、シボの深さが6μm以上になると、凹凸の高低差が増加して、シボの深さに起因した凹凸が非常に目立つということが確認できた。これは、図5に示すように、シボの深さが深いと、そのシボの凹部分に塗装が溜まり、シボ表面に均等に塗装できないためである。一方、シボの深さを5μm以下にすることで、塗装外観の低下を防止できることが確認できた。これは、図6に示すように、シボの深さが浅いと、シボ表面に略均等に塗装できるためである。
なお、シボの深さを3μmよりも小さくすると、耐傷付き性が低下してしまうことから、シボの深さは3μm以上5μm以下が最適であるとする。
【0025】
<評価結果−耐傷付き性>
耐傷付き性は、シボのピッチおよび60°グロスによって大きく影響する。
第一に、表3に示すように上述の塗装外観の評価で算出した最適なシボの深さ3μm以上5μm以下で固定して、シボのピッチを変化させた複数の樹脂成形品を用いて、耐傷付き性を評価した結果を示す。なお、白化の評価では、○は明度差ΔL*が0.3以下であり白化が発生していないことを示し、△は明度差ΔL*が0.3よりも大きく1.0以下であり白化がやや発生していることを示し、×は明度差ΔL*が1.0よりも大きく白化が発生していることを示す。また、傷跡の評価では、○は傷跡がほとんど確認できないものを示し、△は傷跡が確認できるものを示し、×は傷跡が非常に目立つものを示す。
【0026】
【表3】

【0027】
表3に示す実施例のシボは、表2に示す実施例のシボと同一であって、シボの深さが3μm以上5μm以下であり、シボのピッチは550μm以上750μm以下である。
表3に示す比較例2のシボは、シボの深さが3μm以上5μm以下であり、シボのピッチは200μm以上540μm以下である。
【0028】
表3の耐傷付き性評価に示すように、シボのピッチが540μm以下になると、白化および傷跡が発生することが確認できた。この結果、シボのピッチを550μm以上にすることで、耐傷付き性が優れていることが検証できた。なお、シボのピッチを750μmよりも大きくすると、耐傷付き性が低下してしまうことから、シボのピッチは550μm以上750μm以下が最適であるとする。
【0029】
第二に、表4に示すように上述の塗装外観の評価および耐傷付き性の評価で算出した最適なシボの深さ3μm以上5μm以下かつピッチ550μm以上750μm以下で固定して、60°グロスを変化させた複数の樹脂成形品を用いて、耐傷付き性を評価した結果を示す。
【0030】
【表4】

【0031】
表4に示す実施例のシボは、表2に示す実施例のシボと同一(シボの深さ3μm以上5μm以下、ピッチ550μm以上750μm以下)であって、60°グロスは28〜35である。具体的には、実施例のシボは、60°グロスが28以上35以下で構成されるシボである。表3では、60°グロスを同様の方法で表記している。
表4に示す比較例3、比較例4のシボは、実施例のシボと同一であって、それぞれ60°グロスは20以上25以下、37以上45以下である。
【0032】
表4の耐傷付き性評価に示すように、シボの60°グロスが実施例の28以上35以下で耐傷付き性が優れていることが検証できた。なお、比較例4のように、60°グロスが35よりも高い場合は、シボが滑らかであるために、上述した試験後には、明度差に大きく影響を与えてしまう。一方、比較例3のように、60°グロスが28よりも低い場合は、図7に示すようにシボが角部を有する形状であるために、上述した試験後には、角部が削れてしまい、明度差に大きく影響を与えてしまう。
【0033】
以上から、樹脂成形品を成形する場合、シボの深さを3μm以上5μm以下にし、シボのピッチを550μm以上750μm以下にし、60°グロスを28以上35以下に成形できる成形用金型を用いて樹脂成形品を成形する。このような成形された樹脂成形品では、材着用の樹脂成形品として耐傷付き性に優れていて、更にその樹脂成形品を塗装した場合であっても外観品質に優れている。
したがって、材着用と塗装用との樹脂成形品の成形用金型を共通化させることができ、金型作製の開発工数およびコストを削減できると共に、樹脂成形品の生産効率を向上させることができる。
【0034】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
【符号の説明】
【0035】
10:光源 20:受光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にシボが成形された樹脂成形品であって、
前記シボの深さを3μm以上5μm以下とし、前記シボのピッチを550μm以上750μm以下とし、前記シボのシボ表面の60°グロスを28以上35以下としたことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記シボ表面に塗膜全体の厚さが50μm以上の塗装をしたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
該樹脂成形品が自動車外装部品のバンパであることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
表面にシボが成形された樹脂成形品の成形方法であって、
前記シボの深さを3μm以上5μm以下とし、前記シボのピッチを550μm以上750μm以下とし、前記シボのシボ表面の60°グロスを28以上35以下になるように成形することを特徴とする成形方法。
【請求項5】
表面にシボが成形された樹脂成形品を成形するための成形用金型であって、
前記シボの深さを3μm以上5μm以下とし、前記シボのピッチを550μm以上750μm以下とし、前記シボのシボ表面の60°グロスを28以上35以下になるように成形することを特徴とする成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−189697(P2011−189697A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59630(P2010−59630)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】