説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】アニール処理された樹脂成形品を切断して製品化する場合において、切断面に再び発生した残留応力を除去ないし低減し、高品質で歩留りの良い樹脂成形品の製造を可能にするとともに、生産性の向上を図り、他の部品との結合に適正な切断面を確保することを課題とした。
【解決手段】アニール処理された熱可塑性樹脂成形品の所定の切断箇所の切断工程後において、切断したことにより生じるその切断端面の残留応力を低減させるために、樹脂成形品の切断面に樹脂の塗布による樹脂コーティング処理を施す工程を設けた。
【効果】熱可塑性樹脂の塑性変形の性質を利用する押出成形や射出成形等の成形を行い、これによる成型部材を切断することにより製品化する場合において、その切断が原因として切断部に残留応力が発生したとしても、それを低減する樹脂成形品の切断面に樹脂の塗布による樹脂コーティング処理を施す工程により、クラックや歪みが発生しない高品質で歩留りの良い樹脂成形品の製造を可能にするとともに、簡単な処理工程で生産性の向上を図り、他の部品との結合に適正な切断面を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アニール処理した樹脂成形品を製品加工のために切断処理した場合において、その切断面部に切断を原因として発生した残留応力を有効に除去するために開発した樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品、殊に熱可塑性樹脂成型品の製造においては、成形の主となる押出成形や射出成形の後に、二次的に切断処理する工程が加わる場合がある。これには樹脂製の照明管を造るとき、長尺形材をその管断面に押出成形し、その形材を所定の寸法に切断して量産する場合が挙げられる。このとき押出形材には、押出成形およびその直後の冷却により、クラックや変形などの原因となる残留応力が発生するので、これを除去するために押出形材に焼きなまし、つまりアニール処理が行われる。
【0003】
樹脂成形においては、膨脹した樹脂が金型内に圧入されて急冷却されることから、大なり小なり流れによる分配配向が生じるとともに、分配配向に歪みが生じる。このとき圧肉部は冷却速度差(密度差)が生じて圧縮歪み、引っ張り歪み等が発生し、薄肉部の急変部は弾性歪みの発生原因となる。これらの歪みが成形中に残留すると、機械的強度、荷重たわみ温度、結晶化度等の低下原因となり、残留歪みが開放されるとクラックや後寸法化、変形等が発生する。この諸現象に対処するため二次的に加熱を行う必要がある。この処理工程をアニール処理と称される。
【0004】
アニール処理は、成形後に固化しても応力によりひずみが残りやすいポリプロピレン等の結晶性樹脂に対して一般的に多く行われるが、非結晶性樹脂であっても、衝撃強さに優れたポリカーボネート樹脂のようにその機械的強度を安定して確保するために、射出成形等の成形後に加熱処理してアニール処理が施される(特許文献1)。従来、この加熱処理は、加熱雰囲気中に長時間して放置状態にして行われることが多く、また、同公報に見られるように、遠赤外線の照射等により行われることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−286843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、押出成形のように長尺物を切断して商品化する場合には、長尺の状態でアニール処理を施すので、その後に切断に伴う高温の摩擦熱などを受けると、ここに再び残留応力が切断部に発生し、それがクラックや歪み等の原因となり、不良品の発生や他の部品との組合せに不具合が生じることがあるという問題があった。
【0007】
この発明は、上記のような実情に鑑みて、アニール処理された樹脂成形品を切断して製品化する場合において、切断面に再び発生した残留応力を除去ないし低減し、高品質で歩留りの良い樹脂成形品の製造を可能にするとともに、生産性の向上を図り、他の部品との結合に適正な切断面を確保することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明は、アニール処理された熱可塑性樹脂成形品の所定の切断箇所の切断工程後において、切断したことにより生じるその切断端面の残留応力を低減させるために、樹脂成形品の切断面に樹脂の塗布による樹脂コーティング処理を施す工程を設けたことを特徴とする樹脂成形品の製造方法を提供する。
【0009】
樹脂成形品の製造方法を上記のように構成したから、押出成形や射出成形等の成形の後に、成形部材にアニール処理が施され、次に、これを所定の箇所で切断して製品化する。切断箇所には摩擦熱等を要因として残留応力が発生しても、その後の樹脂成形品の切断面に樹脂の塗布による樹脂コーティング処理を施す工程により残留応力が低減される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、この発明によれば、熱可塑性樹脂の塑性変形の性質を利用する押出成形や射出成形等の成形を行い、これによる成型部材を切断することにより製品化する場合において、その切断が原因として切断部に残留応力が発生したとしても、それを低減する樹脂成形品の切断面に樹脂の塗布による樹脂コーティング処理を施す工程により、クラックや歪みが発生しない高品質で歩留りの良い樹脂成形品の製造を可能にするとともに、簡単な処理工程で生産性の向上を図り、他の部品との結合に適正な切断面を確保できるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ポリカーボネート樹脂で押出成形した直管の切断端面にクラックが生じた状態を示した説明図である。
【図2】この発明の一実施例としての直管の端面構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明は、熱可塑性樹脂の熱可塑性を利用して原成形品を成形し、それを切断して製品とするもので、原則として押出成形であり、時には射出成形の場合もある。以下に押出成形の場合について説明する。
【0013】
原成形品を成形する樹脂原料は、クラックが発生しやすい比較的硬質の樹脂であって、例えば、ポリカーボネート、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等であって、結晶性、非結晶性のいずれであっても適用されることは先に述べた通りである。したがって、残留応力の開放でクラックが発生する材質であれば、樹脂の種類を特に問うものではなく、ポリカーボネート樹脂等に限定されない。
【0014】
後記実施例は、照明用の直管1を造る場合であって、ポリカーボネート樹脂を原料として押出成形機に投入し、管状の原成形品を押出し成形し、次いで加温室に通し一旦125°Cに加熱し徐々に冷却してアニール処理を施してから、横びきにより所定寸法に順次切断したので、その直管1の切断面には切断に伴う摩擦熱により言わば焼入れがなされ残留応力が発生した。
【0015】
なお、円筒形の内周面には電極などを安定して取り付けやすく、先端が曲がったL字形の突片3,3が突設され、その間にあり溝が形成されている。管の外径は27.5mm、厚みは1.5mmである。図1は残留応力が開放されてクラック5が生じた状態を示す。この発生を防止するために、下記の実施例をテスト的に行った。
【0016】
押出成形の原料としてのポリカーボネート樹脂には、幾つかのメーカー品を使用した。それは次の通りである。これらの間には差異はなく同一材質と考えられるが、メーカー名と品番等で一応特定する。
【0017】
(A)MEP :三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製 ユー ビロン EFD2230U
(B)住友ダウ :住友ダウ株式会社製 SDポリカ LD2053N
AAH30(乳白)
(C)帝人 :帝人化成株式会社 パンライト X−0467 TG2 442
(D)出光興産 :タフロン IBY2500 W2891E(WHIT
E)
【0018】
実施例1、2、3において処理した製品と、比較例の未処理の原成形品について、同じクラック発生限界応力テスト用いて残留応力を比べた。そのテストとしての残留応力の測定は、試薬中におけるクラック発生限界応力から求めた。具体的には次の通りである。
【0019】
「クラック発生限界応力テスト」
残留応力の測定は、四塩化炭素とn−ブタノールとの混合溶媒中に於ける成形品のクラック発生限界応力から求めた。
【0020】
(比較例1)
未処理の原成形品について上記テストを実施したところ、図1に示すように、端面にクラック5が発生したことが目視された。これに対して、各実施例について以下の如く改善がなされた。
【実施例1】
【0021】
切断して得た直管1について、端面に樹脂コーティングを施した。これについては、(日本カーバイト(株)製 ニッカライトプロセスカラーインクN3612SB Toner)アクリル塗料を用いた。これは塗膜により表面硬さを高めたものである。塗膜の形成は、刷毛により塗料を塗布する方法を用いた。そのほか例えば、塗料にスポンジ等を含浸させスタンプの要領で塗布する、スプレーにより塗布する等の方法をとることもできる。
【0022】
塗膜の密着性をよくするためには脱脂が必要であるが、結晶性熱可塑性樹脂のような耐有機溶剤性のよいものでは、化学薬品処理、コロナ放電、プラズマ処理、火炎処理、紫外線照射などの前処理を必要とする。
【0023】
シンナーでは、種類によっては、塗膜が生じないので効果がない。例えば、ケトン系類や芳香族炭化水素類系のシンナーでクラックの発生が見られた。しかし、エステル系類、エーテル類、アルコール類のシンナーでは、クラックの発生は見られなかった。
【0024】
表1はシンナー(比較例2)との比較において樹脂コーティングの効果を示した。比較例2については、N3612BS Tonerを使用する代わりに、3611シンナー(日本カーバイト(株)製ニッカライト プロセスカラーインク)を使用した。これを塗布したところ、直ちにクラックが発生した(表1)。樹脂コーティングでは、塗膜による強化のほかに、端面の濡れ性や耐候性について改善されることによってもクラックの発生が防止され、クラックの発生が確実に防止される。
【表1】

【0025】
本発明において使用可能な樹脂塗料として、以下の樹脂塗料が挙げられる。
たとえばアルキド樹脂,アクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂,塩化ビニル樹脂,シリコーン樹脂,フッソ樹脂などが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0026】
1 樹脂成形品としての直管
5 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニール処理された熱可塑性樹脂成形品の所定の切断箇所の切断工程後において、切断したことにより生じるその切断端面の残留応力を低減させるために、樹脂成形品の切断面に樹脂の塗布による樹脂コーティング処理を施す工程を設けたことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−161785(P2011−161785A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27105(P2010−27105)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000112185)ビニフレーム工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】