説明

樹脂成形品

【課題】光沢面によって得られる製品の美観を極力損なうことなく、指紋などの汚れが目立ちにくい製品外観を、成形後の追加工程を経ることなく低コストに得る。
【解決手段】スキャナ装置3は装置本体に原稿カバー6を回動自在に備え、この原稿カバー6の表面6aには、全面にわたって凹凸パターン7が樹脂成形により形成されている。凹凸パターン7は、光沢面8と、この光沢面8から突出する凸部10の頂面を成し、光沢面8に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する非光沢面9と、により形成されている。これにより光沢面8により製品外観に光沢感を得ながらも、点在する非光沢面9により指紋等の汚れを効果的に目立ち難くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に光沢面が形成された樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザーが製品を購入する際、ほぼ同じ機能、性能を有する製品が複数あれば、最終的な製品の選択を製品の外観により決定する傾向があり、従ってより高品位な製品外観を実現することは、市場での製品の差別化を図る為に極めて重要な要素となっている。
【0003】
従来、樹脂成形品において高品位な外観を得る為の手法としては、成形後に塗装処理などの追加処理を施す方法や、特許文献1、2などに示されるように、成形の際に樹脂製フィルムをインサートして成形品の表面を加飾する方法などがあった。
【0004】
また特許文献3には、成形品表面の光沢度や中心粗さ等のパラメータを工夫することにより、塗装処理を施した外観面と略同等の外観を有するよう形成されたプラスチック成形品が記載されている。また特許文献4、5には、成形品表面を加飾する方法として、金型表面に凹凸を形成することで、成形後の追加工程を経ることなく成形品表面にシボ模様などを形成する技術が記載されている。
【特許文献1】特開平11−123739号公報
【特許文献2】特開2005−103794号公報
【特許文献3】特開平8−90586号公報
【特許文献4】特開平11−245233号公報
【特許文献5】特開平7−304062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで「ピアノブラック」と称される、深みがあり且つ艶(光沢)のある黒色(漆黒などとも呼ばれる)を製品外観に採用すると、高品位な製品外観を得ることができる反面、このようなピアノブラックを樹脂成形のみによって得る場合には、ウェルドラインなどの成形不良が目立ち易く、最適な成形条件を得ることが難しいといった問題がある。またこのような問題を回避する為に、成形後に追加工程を経る手法では、製品コストが嵩んでしまう。
【0006】
加えて、ピアノブラックを製品外観に採用すると、汚れ、特に指紋が目立ち易くなり、ピアノブラック特有の美観が損なわれ易いといった問題がある。しかしこの様な問題を解消するべく、成形品表面をシボ面にしてしまうと、ピアノブラック特有の光沢感が完全に失われてしまう。
【0007】
そこで本発明はこのような状況に鑑みなされたものであり、その課題は、光沢面によって得られる製品の美観を極力損なうことなく、指紋などの汚れが目立ちにくい製品外観を、成形後の追加工程を経ることなく低コストに得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る樹脂成形品は、表面に樹脂成形によって形成された凹凸パターンを有しており、当該凹凸パターンが、光沢面と、当該光沢面より突出し、当該光沢面に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する非光沢面と、により形成されていることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、樹脂成形品の表面には凹凸パターンが形成されており、この凹凸パターンは、光沢面と、当該光沢面より突出し、当該光沢面に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する非光沢面と、により形成されているので、前記光沢面により表面の光沢感を得ながらも、点在する前記非光沢面により指紋等の汚れを効果的に目立ち難くすることができる。即ち、前記非光沢面は、前記光沢面によって得られる光沢感を極力損なうことが無いように、前記光沢面に単位面積あたり所定の割合で均等に点在するように配置されている。尚、「均等に」とは、単位面積の中で前記非光沢面が或る場所に固まって存在するのではなく、面積全体に渡って偏りなく配置されることを意味する。
【0010】
そして、前記非光沢面は前記光沢面よりも突出しているので、前記光沢面には指紋等の汚れが付着し難い。そしてこの様な凹凸パターンは、樹脂成形により形成されるので、成形後の追加工程を経ることなく、成形品表面に光沢感を得ながらも指紋などの汚れが目立ちにくい樹脂成形品を、低コストに得ることができる。
本発明の第2の態様に係る樹脂成形品は、表面に樹脂成形によって形成された凹凸パターンを有しており、当該凹凸パターンが、非光沢面と、当該非光沢面より凹んで位置し、当該非光沢面に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する光沢面と、により形成されていることを特徴とする。本態様によれば、上記第1の態様と同様に、光沢面によって表面の光沢感を得ながらも、当該光沢面よりも突出する非光沢面によって指紋等の汚れを効果的に目立ち難くすることができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る樹脂成形品は、第1のまたは第2の態様に係る樹脂成形品において、前記非光沢面が、シボ面であることを特徴とする。本態様によれば、前記非光沢面がシボ面であるので、前記非光沢面に付着した指紋等をより一層目立ち難くさせることができる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る樹脂成形品は、第1から第3の態様のいずれかに係る樹脂成形品において、単位面積あたりの前記非光沢面の割合が、20%以上80%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明者は、目視評価により、単位面積あたりの前記非光沢面の割合が20%を下回ると、前記光沢面に付着した指紋が目立ち易くなることを見いだした。また80%を上回ると、光沢度が低下し過ぎて光沢感が著しく損なわれ、特に外観色としてピアノブラックを採用する場合には、表面全体が白っぽく曇った様になり、ピアノブラック特有の漆黒感が顕著に低下することを見いだした。そこで上記の通り単位面積あたりの前記非光沢面の割合を20%以上80%以下としたので、光沢感を得ながらも指紋などの汚れが目立ちにくい製品外観を得ることができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る樹脂成形品は、第1から第4の態様のいずれかに係る樹脂成形品において、前記非光沢面の前記光沢面からの突出高さが5μm以上40μm以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明者は、目視評価により、前記非光沢面の突出高さが5μmを下回ると、成形品表面の凹凸が殆ど無くなり、前記非光沢面による指紋等の汚れ視認防止効果が得られなくなり、また40μmを超えると、凸形状の側面面積が増大し、光沢度が低下し過ぎて光沢感が著しく損なわれることを見いだした。そこで上記の通り前記非光沢面の前記光沢面からの突出高さを5μm以上40μm以下とすることで、光沢感を得ながらも指紋などの汚れが目立ちにくい製品外観を得ることができる。
【0016】
本発明の第6の態様に係る樹脂成形品は、第1から第5の態様のいずれかにおいて、前記樹脂成形品が、スキャナ装置の原稿台を覆う閉姿勢と、前記原稿台を開放する開姿勢と、の間で姿勢変化可能に前記スキャナ装置の本体に設けられる原稿カバーであることを特徴とする。本態様によれば、スキャナ装置において、上記第1から第5の態様のいずれかと同様な作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は本発明に係る「樹脂成形品」としての原稿カバー6を備えた記録装置、より具体的にはインクジェット複合機(以下「プリンタ」と言う)1の外観斜視図、図2(A)は原稿カバー6の断面図、図2(B)は原稿カバー6表面の部分拡大平面図、図3(A)〜(E)は金型のエッチング工程を模式的に示した図である。
【0018】
図1に示すようにプリンタ1は、装置下部にインクジェットプリンタの機能を有する記録部2を、装置上部にスキャニング機能を有するスキャナ装置3を備えており、即ちスキャナ一体型のプリンタとして構成されている。装置上部には電源ボタン、印刷設定ボタン、印刷実行ボタン等の操作入力要素を備えた操作部4が配置されており、プリンタ1単独で、スキャナ装置3によって読み取った画像を、記録部2によって被記録材の一例としての記録用紙に記録を実行することが可能となっている。
【0019】
スキャナ装置3は装置本体に原稿カバー6を回動自在に備え、原稿カバー6は回動することにより、原稿台(図示せず)を開放する開姿勢と、原稿台を覆う閉姿勢(図1の状態)と、の間で姿勢変化する。
【0020】
この原稿カバー6の表面6aには、全面にわたって、図2(A)、(B)に示すように凹凸パターン7が樹脂成形により形成される。凹凸パターン7は、光沢面8と、この光沢面8から突出する凸部10の頂面を成し、光沢面8に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する非光沢面9と、により形成されている。尚、図2(A)は便宜上、上下方向(凸部10の突出方向)長さを誇張して描いている。
【0021】
非光沢面(艶消し面)9は、光沢面8より光沢度が低く、且つ視覚的に殆ど艶が無く光沢面とは認識できない程度の光沢度を有しており、例えば微細な凹凸加工面(所謂シボ面)などにより形成することができる。尚、光沢度はJIS Z 8741光沢度測定方法で測定することができ、例えば表面6aの全面にわたって光沢面8を形成した測定用サンプルを用いれば、光沢面8の60°鏡面光沢度などを測定することができ、また表面6aの全面にわたって非光沢面9を形成した測定用サンプルを用いれば、非光沢面9の60°鏡面光沢度などを測定することができる。
【0022】
非光沢面9は、図2(B)に示す例では平面視において円形状を成し、全体的にディンプル状のパターンを形成しているが、これに限られず、三角形、四角形などの種々の幾何学形状、或いは文字形状などを用いても良いし、市松模様や網目模様などの模様であっても良い。即ち、単位面積の中で非光沢面9が或る場所に固まって存在せず、面積全体に渡って偏りなく配置され、これにより図2(A)に示すように断面視したときに光沢面8と非光沢面9とが交互に配置されていれば良い。
【0023】
このように成形品表面に凹凸パターン7を形成する為の金型は、例えば図3に示すような手法で作成することができる。図3(A)に示すように、金型13の表面に光硬化性レジストフィルム14を貼り、その上にパターン形成用フィルム15を密着させる。パターン形成用フィルム15には、光沢面8に対応する部分が透明であり、非光沢面9に対応する部分のみ紫外線光を遮断するパターンが描かれている。
【0024】
次に図3(B)に示すようにパターン形成用フィルム15の上方から矢印で示すように紫外線光を照射すると、パターン形成用フィルム15を通過した光により光硬化性レジストフィルム14が硬化し、金型13に接着する。次いでパターン形成用フィルム15及び光硬化性レジストフィルム14を剥がすと、光硬化性レジストフィルム14の硬化部分14aのみが図3(C)に示すように残る。
【0025】
次いで金型13にエッチング液を接触させると、図3(D)に示すように光硬化性レジストフィルム14の硬化部分14a以外の部分がエッチングされ、表面が微小凹凸である凹面17と、エッチングされずに残った凸部16とが形成される。その後、光硬化性レジストフィルム14の硬化部分14aを除去すると、図3(E)に示すように表面に微小凹凸が形成された凹面17と、表面が滑らかな凸面18と、が形成された状態となる。
【0026】
このようにして形成された金型13を用いて射出成形を行うことにより、図2を参照しながら説明した凹凸パターン7が成形品表面に加飾された原稿カバー6を得ることができる。尚、成形用樹脂としては、例えばABS樹脂やHIPS(ハイインパクトポリスチレン)などを用いることができ、特にHIPSを用いた場合には、より安価に原稿カバー6を作成することができる。
【0027】
そして凹凸パターン7は、上記の通り光沢面8と、この光沢面8より突出し、光沢面8に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する非光沢面9と、により形成されているので、光沢面8により製品表面に光沢感を得ながらも、点在する非光沢面9により指紋等の汚れを効果的に目立ち難くすることができる。
【0028】
即ち、非光沢面9は、光沢面8によって得られる光沢感を極力損なうことが無いように、光沢面8に単位面積あたり所定の割合で均等に点在するように配置されている。しかも、非光沢面9は光沢面8よりも突出しているので、指紋等の汚れが付着し難い。そしてこの様な凹凸パターン7は、樹脂成形(例えば射出成形)により形成されるので、成形後の追加工程を経ることなく、光沢感を得ながらも指紋などの汚れが目立ちにくい製品外観を低コストに得ることができる。
【0029】
次に、黒色樹脂を用いて単位面積あたりの非光沢面8の割合を変化させて目視評価を行ったところ、単位面積あたりの非光沢面8の割合が80%を上回ると、光沢度が低下し過ぎ、黒色樹脂を採用しながらも全体が白っぽく曇った様になり、ピアノブラック特有の漆黒感が殆ど得られなかった。また逆に、上記割合が20%を下回ると、表面に付着した指紋が目立ち易くなった。従って単位面積あたりの非光沢面8の割合としては、20%以上80%以下とすることが好ましい。
【0030】
尚、隣接する非光沢面9の距離(ピッチ:図2(B)において符号hで示す)は、1mm以下とすることにより、効果的に指紋等の汚れが目立ち難くなることが判った。
また、非光沢面9の光沢面8からの突出高さが5μmを下回ると、成形品表面の凹凸が殆ど無くなり、非光沢面9による指紋等の汚れ視認防止効果が得られなくなった。また40μmを超えると、凸部10の側面面積が増大して、光沢度が低下し過ぎて光沢感が著しく損なわれた。そこで非光沢面9の光沢面8からの突出高さ(図2(A)において符号dで示す)は、5μm以上40μm以下とすることが望ましい。
【0031】
尚、光沢面8の光沢度、非光沢面9の光沢度、光沢面8の光沢度と非光沢面9の光沢度との差、などは、用いる樹脂材料や樹脂色、成形条件、などを適宜選択した上で、成形品表面の光沢感と汚れ(特に指紋)の目立ち難さを評価することにより決定し得る事項であり、非光沢面9の光沢度が光沢面8の光沢度より低い限りにおいて、あらゆる値が考えられる。
【0032】
<<他の実施例>>
続いて図4を参照しながら他の実施例について説明する。図4(A)、(B)に示す凹凸パターン7’は、図2を参照しながら説明した凹凸パターン7と同様に樹脂成形により形成されており、具体的には非光沢面9と、この非光沢面9に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する凹部11の底面を形成する光沢面8と、により形成されている。尚、図4(A)は便宜上、上下方向長さ(凹部11の深さ)を誇張して描いている。
【0033】
非光沢面(艶消し面)9は、光沢面8より光沢度が低く、且つ視覚的に殆ど艶が無く光沢面とは認識できない程度の光沢度を有しており、例えば微細な凹凸加工面(所謂シボ面)などにより形成することができる。この非光沢面9に均等に点在する光沢面8は、本実施例では平面視において円形状を成し、全体的にディンプル状のパターンを形成している。
【0034】
本実施例においても、凹凸パターン7’は上記の通り非光沢面9と、この非光沢面9より凹んで位置する光沢面8とにより形成されているので、光沢面8により製品表面に光沢感を得ながらも、非光沢面9により指紋等の汚れを効果的に目立ち難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る原稿カバーを備えたプリンタの斜視図。
【図2】(A)は原稿カバーの断面図、(B)は原稿カバー表面の部分拡大平面図。
【図3】(A)〜(E)は金型のエッチング工程を模式的に示した図。
【図4】(A)は他の実施例に係る原稿カバーの断面図、(B)は同原稿カバー表面の部分拡大平面図。
【符号の説明】
【0036】
1 インクジェットプリンタ、2 記録部、3 スキャナ装置、4 操作部、5 原稿台、6 原稿カバー、7 凹凸パターン、8 光沢面、9 非光沢面、10 凸部、11 凹部、13 金型、14 光硬化性レジストフィルム、15 パターン形成用フィルム、16 凸部、17 凹面、18 凸面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に樹脂成形によって形成された凹凸パターンを有しており、
当該凹凸パターンが、光沢面と、当該光沢面より突出し、当該光沢面に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する非光沢面と、により形成されていることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
表面に樹脂成形によって形成された凹凸パターンを有しており、
当該凹凸パターンが、非光沢面と、当該非光沢面より凹んで位置し、当該非光沢面に単位面積あたり所定の割合で均等に点在する光沢面と、により形成されていることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂成形品において、前記非光沢面が、シボ面であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂成形品において、単位面積あたりの前記非光沢面の割合が、20%以上80%以下であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂成形品において、前記非光沢面の前記光沢面からの突出高さが5μm以上40μm以下であることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項において、前記樹脂成形品が、スキャナ装置の原稿台を覆う閉姿勢と、前記原稿台を開放する開姿勢と、の間で姿勢変化可能に前記スキャナ装置の本体に設けられる原稿カバーであることを特徴とする樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−134271(P2009−134271A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263995(P2008−263995)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】