説明

樹脂成形品

【課題】 加工工数や組み付け工数が少なく、かつ、放熱特性の良好な樹脂成形品を提供する。
【解決手段】 金属部品1の一部を熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形部3に埋設し、金属部品1が露出している部分1Aに発熱部品5を接続する。発熱部品5が発生する熱を、金属部品1及び樹脂成形部3の一部を構成する熱可塑性樹脂層3Aを介して放熱板7へ放熱する。熱可塑性樹脂層3Aの厚みtは0.4〜1mmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱特性に優れた樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電気・電子機器の高性能化・小型軽量化が進んでおり、実装部品、あるいは周囲部品の発熱によって機器が高温状態にさらされるため、各種部材の劣化や実装部品の機能低下の懸念がある。特に、自動車の制御システムは、従来、機械的に動作していた各部の機構を電動化し、それらを電気的に連携させ制御する方式へ移行しつつあり、電子部品はより分散してより熱源に近い位置に配置される傾向にある。更に、パワートレインの電動化の流れの中で、実装部品そのものに対する高出力化(高電圧化、大電流化)、コンパクト化の要求も増大の一途を辿っており、発熱量も急速に増大している。このような高発熱化、高温化の傾向は、車載機器に限らず、あらゆる電気・電子機器において同様に見受けられ、また、益々顕著になると予想される。そのような状況に対応するため、電気・電子機器を構成する各部材の放熱特性を向上させる技術への要求が高まっている。
【0003】
その対策として、特許文献1には、端子台を介して複数の導電部材を電気的に接続する場合においても、導電部材からの放熱特性を高めることができる導電部材締結構造が開示されている。この技術では、非導電性樹脂からなるベースと、このベースに一体的に成形された導電性の固定部(ベースナット)とからなる端子台を用い、ベースから露出した固定部の一端面に、第1導電部材(第1〜第3ケーブル端子)と第2導電部材(第1〜第3バスバー)を重ね、導電性を有した締結部材(ボルト)で締結する。そして、ベースから露出した固定部の他端面を、電気絶縁性のシートを介して金属製のヒートシンクに締結し、導電部材からの放熱特性を高めるというものである。
【0004】
また、特許文献2には、高温のバスバーから放熱プレートへの熱伝導度が高く、熱伝導度の低下のない高い冷却効率が維持されるバスバーの放熱プレートへの取り付け構造が開示されている。この技術では、金属製の放熱プレートには、ねじ穴を有する凸部を形成し、バスバーには、この凸部が嵌挿される穴を形成する。そして、バスバーの穴に放熱プレートの凸部を嵌挿させ、バスバーと放熱プレートとを絶縁部材を介して当接し、ねじ穴にねじを螺合して締結するというものである。
一方、熱可塑性樹脂成形品は、多くの電気・電子機器において、構造部材等に用いられている。熱可塑性樹脂成形品は、絶縁性であるため、熱可塑性樹脂成形品を、従来金属材料が用いられていた構造部材等に適用することで、構造部材等の絶縁構造を簡略化することができる。これにより、構造部材等の成形加工性が向上し、コストダウン、ならびに軽量化することができる。
【0005】
しかし、熱可塑性樹脂成形品の熱伝導率は、約0.3〜0.6W/m・Kであり、金属材料やセラミック材料に比べて非常に低い。また成形性の観点から、樹脂層の厚みが所定厚み以上必要であるため、熱可塑性樹脂成形品の熱抵抗が高くなり、上記の放熱特性という要求には応じ難い。
【0006】
そのため、熱可塑性樹脂成形品の熱伝導率を高めるため、樹脂よりも熱伝導率の高い充填材を添加し、高熱伝導化、高放熱化がされている。一般には熱伝導率の高い、金属やカーボンなどの導電性物質を充填する。絶縁性の充填材としては、タルク、シリカ、アルミナ、マグネシア等が挙げられる。高い熱伝導率を有する物質を体積分率で多く充填するほど、熱伝導率を向上させることができる。しかし、これらの充填材を添加することにより、成形性、機械特性、絶縁性が低下する。また、充填材の種類によっても、特性、特徴は種々異なり、目的に合った充填材の組合せや配合の調整が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−98007号公報
【特許文献2】特開2006−217736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載される技術では、端子台(ベースと固定部の一体化)の加工工数や、端子台とヒートシンクとの間に電気絶縁性のシートを介在させるという組み付け工数が増加するという問題がある。また端子台とヒートシンクとの間に介在させる電気絶縁性のシートの種類によっては、放熱特性が不十分となるという問題もある。
【0009】
また、特許文献2に記載される技術においても、放熱プレートにねじ穴を有する凸部を形成する加工工数や、バスバーと放熱プレートとの間に絶縁部材(例えば、絶縁シートや絶縁グリス)を介在させるという組み付け工数が増加するという問題がある。またバスバーと放熱プレートとの間に介在させる絶縁部材の種類によっては、放熱特性が不十分となるという問題もある。
【0010】
一方、熱可塑性樹脂成形品では、その熱伝導性を考慮すると、放熱部の樹脂層の厚みは、絶縁性を確保できる範囲で薄くすることが望ましい。しかしながら、熱可塑性樹脂の流動性が悪い場合、薄肉部に熱可塑性樹脂が十分に充填しなかったり、ウェルドが生じたりすることにより、信頼性が低下してしまう。このため、熱可塑性樹脂には、熱伝導性と共に高い流動性が要求される。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、放熱性を付与するための加工工数や組み付け工数が少なく、かつ、放熱特性の良好な樹脂成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形部に金属部品の一部が埋設され、金属部品が露出している部分に発熱部品が接続され、発熱部品が発生する熱を金属部品及び樹脂成形部の一部を構成する熱可塑性樹脂層を介して放熱板へ放熱する樹脂成形品を改良の対象とする。
【0013】
ここで、「一部が埋設」とは、発熱部品を接続する部分以外の金属部品が熱可塑性樹脂に被覆されている状態および金属部品が熱可塑性樹脂にほとんど被覆されていない状態を含む。
【0014】
また、本発明で用いる金属部品の形状や材質は、特に限定されるものではない。例えば、金属部品が中空状の内壁を有する場合は、金属部品を他の部品と嵌め合わせることができる。また、中空状の内壁に雌ねじを有する場合は、金属部品と他の部品とを雄ねじを有するボルトを用いて締結し、取り付けることができる。また熱伝導率の高い材質を使用すれば、放熱特性を向上することができる。なお、発熱部品は、発熱素子等のように部品そのものが発熱するものに限定されず、部品に接続されたバスバー等の部材も含む概念である。
【0015】
放熱板は、アルミニウムやアルミニウム合金等の放熱性の高い金属または合金を使用することができる。アルミニウムやアルミニウム合金は、加工性が良く、コストが低く、錆び難く、熱伝導率が高い等の利点があるため、放熱板として適している。また、放熱板の形状は、単なる平板でもよいが、冷却効率を高めるために、厚みを4〜10mm程度として、樹脂絶縁層と接する面の反対面に冷却フィンのような形状を施すこともできる。放熱板を用いた放熱は、発熱部品を接続した金属部品の下面から放熱を行ってもよく、また発熱部品を接続した金属部品の側面から放熱を行ってもよい。
【0016】
本発明の樹脂成形品では、熱可塑性樹脂層の厚みを0.4〜1mmとする。このように熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形部に金属部品の一部を埋設し、金属部品が露出している部分に発熱部品が接続した上で、熱可塑性樹脂層をこのような厚み寸法にすると、放熱性を付与するための加工工数や組み付け工数が少なくしながら、十分な放熱特性を確保することができる。なお、熱可塑性樹脂層に厚み方向の熱伝導率が1.2W/m・K以上の熱可塑性樹脂を用いると、より十分な放熱特性を確保することができる。
【0017】
熱可塑性樹脂は、好ましくは、マトリックス樹脂と、無機充填材として窒化ホウ素とを含む。ここで「粒子単体の平均粒径」とは一次粒子の平均粒径を意味する。また、平均粒径は、公知のレーザー回折・散乱法による粒度測定装置を用いて測定したものであり、粒度分布を測定して得られた累積重量が50%である時の粒子径を示す。ここで、レーザー回折・散乱法とは、充填材粒子にレーザー光を照射したとき、粒子径により散乱光の強度パターンが変化することを利用した測定法である。
【0018】
窒化ホウ素は、好ましくは粒子単体の平均粒径が18μm以上であり、より好ましくは形状が鱗片状のものである。このような窒化ホウ素を用いると、同じ充填量であっても、無機充填材同士の接触確率が高くなり、鱗片状結晶の凝集体(形状が球状、塊状のもの)や、粒子単体の平均粒径が18μm未満の窒化ホウ素を使用する場合と比較して、厚み方向の熱伝導率を高くすることができる。このため、所望の熱伝導率を確保するための窒化ホウ素の含有量を少なくすることができ、しかも良好な成形性・機械強度を確保することができる。特に粒子単体の平均粒径が35μm以上の窒化ホウ素であれば、成形性が良好で、成形時の樹脂流れ方向の熱伝導率のより高い樹脂成形品が得られるので、さらに好ましい。なお、平均粒径が大きいほど樹脂成形品の熱伝導率は向上するため、平均粒径の上限値は特に規定するものではない。ただし、平均粒径が45μmを超える窒化ホウ素は、現時点では市場での入手が困難である。
【0019】
窒化ホウ素の含有量は、マトリックス樹脂と無機充填材の合計体積に対して15〜30体積%とする。窒化ホウ素の含有量が少ないと、樹脂成形品の熱伝導性が低下する傾向があり、また窒化ホウ素の含有量が多いと、成形性(流動性)や樹脂成形品の機械強度が低下する傾向がある。窒化ホウ素含有量を上述の範囲とすることにより、十分な熱伝導性と流動性を得ることができる。
【0020】
また無機充填材の含有量は、マトリックス樹脂と無機充填材の合計体積に対して25〜50体積%とするのが好ましい。無機充填材の含有量を上記の範囲にすることにより、十分な熱伝導性と流動性を得ることができる。なお、無機充填材の含有量は、窒化ホウ素並びに後述する酸化マグネシウム及びアルミナの総含有量をいう。
【0021】
さらに好ましくは、無機充填材として、窒化ホウ素以外に、酸化マグネシウム及び/またはアルミナを含む。これにより、熱可塑性樹脂成形品の熱伝導率の異方性を低減し、またコストダウンをすることができる。なお、酸化マグネシウム及びアルミナの形状や粒径は、特に限定されるものではない。例えば、酸化マグネシウム及び/またはアルミナとして一般的な凝集体や球形のものを使用することができる。
【0022】
上記の窒化ホウ素、酸化マグネシウム及びアルミナは、各種シランカップリング剤、アルコキシシラン化合物、シリコーンオイル、チタネートカップリング剤等で表面処理がなされていてもよい。
【0023】
マトリックス樹脂は、特に限定するものではないが、例えば、溶融状態で液晶性を示す溶融液晶性樹脂またはポリアリーレンサルファイド樹脂等を使用することができる。例えば、マトリックス樹脂として溶融液晶性樹脂を用いると、分子鎖が成形時に配向して、熱伝導率の高い樹脂成形品を得ることができる。なお、溶融液晶性樹脂が、主鎖に全芳香族ポリエステル骨格を有し、モノマー中における芳香族ポリエステルの割合が高いほど、より高い熱伝導率の樹脂成形品が得られる。その中でも、290℃における溶融粘度が90Pa・s以下の溶融液晶性樹脂は、流動性が良好で、分子鎖が成形時に配向し易く、熱伝導率のより高い樹脂成形品を得ることができる。なお、溶融粘度が低いほど樹脂の成形性は向上するため、溶融液晶性樹脂の290℃における溶融粘度の下限値は特に定めていない。
【0024】
また、マトリックス樹脂として、繰り返し単位が下記式で示されるポリアリーレンサルファイド樹脂も用いることができる。
【化1】

【0025】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の中でも、ポリアリーレン基がフェニレン基であるポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましい。フェニレン基としては、下記式で表わされる構造のものを使用することができる。これらの構成を有するホモポリマー、コポリマー、あるいはそれらの混合物でもよい。
【化2】

【0026】
特に、マトリックス樹脂として、300℃における溶融粘度が170Pa・s以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂を用いると、十分な耐熱性と流動性が得られる。なお、溶融粘度が低いほど樹脂の成形性は向上するため、ポリフェニレンサルファイド樹脂の300℃における溶融粘度の下限値は特に定めていない。
【0027】
また、使用するマトリックス樹脂の熱伝導率が0.5W/m・K以上であれば、熱伝導率が高く、放熱特性に優れる樹脂成形品を得ることができる。
【0028】
なお、溶融粘度は、公知の粘度測定装置を用いて、所定の条件下でノズルから押し出した際の溶融粘度として測定することができる。
【0029】
上記のほか、本発明で使用できるマトリックス樹脂は、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体などのスチレン系(共)重合体;ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂などのゴム強化樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体などの炭素数2〜10のα−オレフィンの少なくとも一種からなるα−オレフィン(共)重合体及びその変性重合体(塩素化ポリエチレン等)、環状オレフィン共重合体などのオレフィン系樹脂;アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのエチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体などのアクリル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,12等のポリアミド系樹脂(PA);ポリエチレンテレフタート(PET)、ポリブチレンテレフタート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール樹脂(POM);ポリカーボネート樹脂(PC);ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトン系のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂;ウレタン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;ポリビニルブチラール;フェノキシ樹脂;感光性樹脂;生分解性プラスチック等の樹脂が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、ゴム強化樹脂、ポリカーボネート樹脂及びこれらのアロイ、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が好ましい。
【0030】
本発明の樹脂成形品には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、タルク、炭酸カルシウム等の安価な無機充填材や絶縁性の無機繊維を配合してもよい。例えば、アルミナ繊維であれば、機械強度、成形時の樹脂流れ方向における熱伝導率の高い樹脂成形品が得られるので好ましい。絶縁性の無機繊維は、例えば、繊維径が0.5〜5μm、繊維長が5〜500μmである。絶縁性の無機繊維は、各種シランカップリング剤、アルコキシシラン化合物、シリコーンオイル、チタネートカップリング剤等で表面処理がなされていてもよい。
【0031】
本発明に係る樹脂成形品は、上記の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、特にその用途を限定するものではなく、例えば、筐体、放熱機能を有する電気・電子機器部品等に用いることができる。成形方法としては、射出成形、トランスファ成形、圧縮成形等が挙げられる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、金属部品の一部が熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形部に埋設され、金属部品が露出している部分には発熱部品が接続されて、発熱部品が発生する熱を金属部品及び樹脂成形部の一部を構成する熱可塑性樹脂層を介して放熱板へ放熱する場合に、熱可塑性樹脂層の厚みを0.4〜1mmとすると、放熱性を付与するための加工工数や組み付け工数が少なくなる上に、十分な放熱特性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る樹脂成形品の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る樹脂成形品の他の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る樹脂成形品のさらに他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る樹脂成形品のさらに他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の樹脂成形品の実施の形態について説明する。まず、第1の実施の形態では、図1に示すように、金属部品1の一部が熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形部3に埋設され、金属部品1が露出している部分1Aに発熱部品5が接続されている。そして、発熱部品5が発生する熱を金属部品1及び樹脂成形部3の一部を構成する熱可塑性樹脂層3Aを介して放熱板7へ放熱する。本例では、熱可塑性樹脂層3Aの厚み(図1において「t」で示す)が0.4〜1mmとしている。このとき、厚み方向の熱伝導率は、1.2W/m・K以上となっている。このように、熱可塑性樹脂層3Aの厚みを0.4〜1mmとすることにより、放熱性を付与するための加工工数や組み付け工数が少なくなる上に、十分な放熱特性を確保することができる。
【0035】
なお、図1に示す第1の実施の形態では、発熱部品5を接続した金属部品1の下面から放熱を行っているが、後述する第2の実施の形態のように、発熱部品105を接続した金属部品101の側面から熱可塑性樹脂層103Aを介して放熱板107へ放熱することもできる(図2参照)。
【0036】
また、図1に示す第1の実施の形態では、金属部品1の発熱部品5が接続する部分以外の部分も露出されているが、第3の実施の形態のように、金属部品201の発熱部品205が接続する部分以外の部分が樹脂成形部203で覆われていてもよく(図3参照)、また、第4の実施の形態のように、金属部品301の大部分が露出していてもよい(図4参照)。
【0037】
なお、図2乃至図4に示す第2乃至第4の実施の形態において、図1に示す第1の実施の形態と共通する部分については、図1に付した符号の数にそれぞれ100,200,300を加えた数の符号を付して説明を省略する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の樹脂成形品に係る実施例を説明する。なお、本実施例では、下記に示す材料を使用した。本例では、溶融粘度は、島津製作所製フローテスタCFT−500A型を用いて測定したものであり、所定温度で加熱溶融された樹脂を0.2kNの加重下で、内径:2mm,長さ:10mmのノズルから押し出した際の溶融粘度である。また、平均粒径は、公知のレーザー回折・散乱法による粒度測定装置(日機装株式会社製「マイクロトラックSPA−7997型」)を用いて測定したものであり、粒度分布を測定して得られた累積重量が50%であるときの粒子径である。
【0039】
マトリックス樹脂
(a)主鎖に全芳香族ポリエステル骨格を有し、溶融状態で液晶性を示す溶融液晶性樹脂:住友化学製「E7008」(融点:275℃、290℃における溶融粘度:85Pa・s)
(b)主鎖に全芳香族ポリエステル骨格を有し、溶融状態で液晶性を示す溶融液晶性樹脂:Ueno製薬製「UenoLCP5540G」(融点:293℃、290℃における溶融粘度:98Pa・s)
(c)ポリフェニレンサルファイド樹脂:DIC製「LR−300G」(300℃における溶融粘度:170Pa・s)
(d)ポリフェニレンサルファイド樹脂:東レ製「A503F1」(300℃における溶融粘度:230Pa・s)
無機充填材
(1)窒化ホウ素:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製「PT110」(粒子単体の平均粒径:45μm、形状:鱗片状)
(2)窒化ホウ素:電気化学工業製「SGP」(粒子単体の平均粒径:18μm、形状:鱗片状)
(3)窒化ホウ素:電気化学工業製「HGPE」(粒子単体の平均粒径:6μm、形状:鱗片状)
(4)窒化ホウ素:昭和電工社製「UHP−EX」(凝集体の平均粒径:50μm、形状:塊状(鱗片状結晶の凝集体))
(5)アルミナ:住友化学製「AA−3」(粒子単体の平均粒径:3μm、形状:球形)
(6)酸化マグネシウム:宇部興産社製「RF−50−C」(凝集体の平均粒径:50μm、形状:塊状(凝集体))
実施例1〜24、比較例1〜6
マトリックス樹脂と無機充填材をヘンシェルミキサで混合した後、2軸混練機を用いて溶融混練(シリンダ温度260〜320℃)し、ペレット(樹脂組成物)を作製した。なお、マトリックス樹脂及び無機充填材は、実施例毎に表1〜4に示した材料を使用した。また、無機充填材の配合は、実施例毎に表1〜4に示した量となるよう調整した。
【0040】
上記ペレット(樹脂組成物)を、シリンダ温度280〜340℃、金型温度150℃、射出速度80mm/s,保圧力40MPaの条件で射出成形を行い、樹脂成形品を作製した。
【0041】
なお、本実施例における樹脂成形品は、図1に示すように、金属部品1(材質:銅(C1100)、形状:直径φ15mm)の一部が熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形部3に埋設され、金属部品1が露出している部分には発熱部品5(熱抵抗器)が接続されている。そして、金属部品1が埋設された部分から熱可塑性樹脂層3Aを介して放熱板7(アルミニウム板、材質:5052、形状:縦200mm×横100mm×高さ45mm)に放熱を行うようにしている。このとき、樹脂成形部3の形状は、縦55mm×横90mm×高さ30mmである。なお、金属部品1は、樹脂成形部3からの突出高さを2mmとし、金属部品1の高さを調節することによって、熱可塑性樹脂層の厚み(図1において「t」で示す)が実施例毎に表1〜4に示した厚みになるようにしている。
【0042】
上記の各実施例と比較例における樹脂成形品について、熱伝導率、熱抵抗器温度、曲げ強さ、耐電圧性を評価した。また、樹脂組成物について、成形性を評価した。その結果を表1〜4に示した。表中に示した各特性は、次のようにして評価した。
【0043】
熱伝導率:フラッシュ法装置(NETZSCH社製XeフラッシュアナライザLFA447型)を用いて行った(ASTME1461準拠)。同装置で測定した熱拡散率に、アルキメデス法により測定した密度とDSC法により測定した比熱を乗じて、熱伝導率を求めた。なお、熱可塑性樹脂層の面方向および厚み方向について熱伝導率を評価した。
【0044】
熱抵抗器温度:図1に示す樹脂成形品を用いて、放熱特性を評価した。樹脂成形品は、熱可塑性樹脂層が放熱板7にグリースを介して圧着されている。またこの放熱板7内は常時40℃の水が一定の流量で流れている。発熱部品5(熱抵抗器)に15Wの電力を入力し、入力10分後の熱抵抗器温度を測定した。
【0045】
曲げ強さ:樹脂成形品から100mm×100mm×厚さ2mmの大きさに切り出したサンプルを用いて、JISK7171に準じて室温での三点曲げ強さを測定した。
【0046】
耐電圧性:図1に示す樹脂成形品を用いて、耐電圧性を評価した。なお、この評価では、放熱板7の代わりとして、金属部品1の直下に上記熱可塑性樹脂層を介して、アルミニウム板(材質:5052、形状φ30mm、厚さ0.5mm)を配置した。金属部品1とアルミニウム板との間にAC3.0kVの電圧を60秒間印加し、絶縁性(漏れ電流値)を確認した。絶縁性を維持した場合(漏れ電流値が600μA以下の場合)を「○」、絶縁破壊を生じた場合(漏れ電流値が600μAを超える場合)を「×」とした。
【0047】
成形性:金属インサート成形品を作製し、その外観から次の様に成形性を判断した。○:射出成形が可能である、△:射出成形が可能であるが、表面外観が一部不良であった、×:ショートショットとなり、射出成形ができなかった。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0048】
表1〜4から明らかなように、熱可塑性樹脂層の厚みを0.4〜1mmとすることにより、十分な放熱特性を確保できることが理解できる(実施例1〜12と比較例1〜3及び実施例13〜24と比較例4〜6の対照)。なお、実施例1〜24では、いずれも厚み方向の熱伝導率が1.2W/m・K以上の範囲内にある。
【0049】
比較例1及び4では、熱可塑性樹脂層の厚みが1mmを超えているため、放熱特性が不十分であり、熱抵抗器温度が高くなっている。また、比較例2及び5では、熱可塑性樹脂層の厚みが0.4mm未満であるため、成形性が不十分であった。なお、比較例3及び6では、厚み方向の熱伝導率が1.2W/m・K未満であるため、放熱特性が不十分となり、熱抵抗器温度が高くなったものと考えられる。
【0050】
窒化ホウ素は、形状が鱗片状であり、かつ、粒子単体の平均粒径が18μm以上、さらに35μm以上の場合に熱伝導性と流動性が向上した(実施例5と実施例9〜11及び実施例17と実施例21〜23の対照)。
【0051】
また、マトリックス樹脂は、主鎖に全芳香族ポリエステル骨格を有し溶融状態で液晶性を示す溶融液晶性樹脂であり、かつ、290℃における溶融粘度が90Pa・s以下の場合に熱伝導性と流動性が向上した(実施例5と実施例12の対照)。また、ポリフェニレンサルファイド樹脂であり、かつ、300℃における溶融粘度が170Pa・s以下の場合にも熱伝導性と流動性が向上した(実施例17と実施例24の対照)。
【0052】
このように、本発明の樹脂成形品では、放熱性を付与するための加工工数や組み付け工数が少なくなる上に、十分な放熱特性を確保することができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく変更が可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
1 金属部品
1A 露出している部分
3 樹脂成形部
3A 熱可塑性樹脂層
5 発熱部品
7 放熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品の一部が熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形部に埋設され、前記金属部品が露出している部分には発熱部品が接続されており、前記発熱部品が発生する熱を前記金属部品及び前記樹脂成形部の一部を構成する熱可塑性樹脂層を介して放熱板へ放熱する樹脂成形品であって、
前記熱可塑性樹脂層の厚みが0.4〜1mmであることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂層の厚み方向の熱伝導率が1.2W/m・K以上である請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物は、マトリックス樹脂と、無機充填材として粒子単体の平均粒径が18μm以上である窒化ホウ素とを含み、
前記無機充填材は、前記マトリックス樹脂と前記無機充填材の合計体積に対して25〜50体積%であり、
前記窒化ホウ素は、前記マトリックス樹脂と前記無機充填材の合計体積に対して15〜30体積%であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
前記無機充填材として、窒化ホウ素以外に、酸化マグネシウム及び/またはアルミナを含む請求項3に記載の樹脂成形品。
【請求項5】
前記窒化ホウ素は、粒子単体の平均粒径が35μm以上である請求項3または4に記載の樹脂成形品。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂は、溶融状態で液晶性を示す溶融液晶性樹脂であり、かつ、290℃における溶融粘度が90Pa・s以下である請求項3〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形品。
【請求項7】
前記マトリックス樹脂は、ポリアリーレンサルファイド樹脂である請求項3〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形品。
【請求項8】
前記ポリアリーレンサルファイド樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂であり、かつ、300℃における溶融粘度が170Pa・s以下である請求項7に記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−238676(P2012−238676A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105663(P2011−105663)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】