説明

樹脂接着体の製造方法

【課題】樹脂板同士の重合接着を低温下に行う場合に生じ易い、アニール処理による接着層の黄色味の増加を抑制して、外観に優れる樹脂接着体を製造しうる方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルを主体とするラジカル重合性単量体、有機過酸化物及びアミンを含む接着剤を、樹脂板と樹脂板との間に存在させ、周囲温度15℃以下で重合硬化させた後、周囲温度85℃以上でアニール処理することにより、樹脂接着体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合硬化型の接着剤により樹脂板同士を接着して、樹脂接着体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化還元反応によりラジカル種を発生させる所謂レドックス開始反応を利用したラジカル重合は、低温下での重合が可能な方法として古くから知られており(例えば、特許文献1参照)、例えば、樹脂板同士を貼り合わせ接着したり、突き合わせ接着したりするための重合接着に適用されている。この重合接着は、通常、ラジカル重合性の単量体と所謂レドックス開始剤を含む接着剤を樹脂板間に注入して、室温下に重合硬化させることにより行われ、次いでアニール処理することにより、接着層の残留単量体が低減されると共に、重合収縮によるひずみが除去されて、長期間の使用に耐えうる強度を備えた製品(接着体)を得ることができる。また、レドックス開始剤としては、有機過酸化物とアミンの組み合わせが有利に採用される。例えば、特公昭62−42951号公報(特許文献2)には、メタクリル酸メチルを主たる単量体として含む樹脂板貼合用の接着剤において、有機過酸化物として過酸化ジベンゾイルや過酸化ジラウロイルの如き過酸化ジアシルを用い、アミンとしてN,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン及び/又はN,N−ビス(2−ヒドロキシブチル)−p−トルイジンを用いることが提案されており、その重合硬化及びアニール処理の温度条件に関し、具体的には、23℃の室温下に重合硬化を行った後、80℃の加熱下にアニール処理することが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特公昭30−9344号公報
【特許文献2】特公昭62−42951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の如き重合接着を、冬場などの低温下に、具体的には周囲温度15℃以下で行うと、続くアニール処理により接着層の黄色味が著しく増加して、得られる製品の外観に影響を来たすことがある。そこで、本発明の目的は、樹脂板同士の重合接着を低温下に行う場合に生じ易い、アニール処理による接着層の黄色味の増加を抑制して、外観に優れる樹脂接着体を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、アニール処理を所定の温度以上で行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルを主体とするラジカル重合性単量体、有機過酸化物及びアミンを含む接着剤を、樹脂板と樹脂板との間に存在させ、周囲温度15℃以下で重合硬化させた後、周囲温度85℃以上でアニール処理することを特徴とする樹脂接着体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、樹脂板同士の重合接着を低温下に行う場合に生じ易い、アニール処理による接着層の黄色味の増加を抑制することができ、外観に優れる樹脂接着体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる接着剤は、ラジカル重合硬化型の接着剤であり、ラジカル重合性の単量体として、(メタ)アクリル酸アルキルを必須に含有し、かつ、ラジカル重合開始剤として、有機過酸化物及びアミンを必須に含有するものである。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「メタクリル」又は「アクリル」をいう。
【0008】
接着剤に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルの如き、アルキル基の炭素数が1〜4程度のメタクリル酸アルキルや、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチルの如き、アルキル基の炭素数が1〜8程度のアクリル酸アルキル等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
【0009】
接着剤には、(メタ)アクリル酸アルキル以外のラジカル重合性の単量体、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、スチレン等が1種ないし2種以上、含まれていてもよいが、その量は、単量体全体の重量を基準として、50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。すなわち、接着剤に含まれる単量体は、(メタ)アクリル酸アルキルを主体としており、全単量体の50〜100重量%、好ましくは80〜100重量%が(メタ)アクリル酸アルキルで占められる。
【0010】
また、接着剤には、粘度の調整等のために、重合体、典型的には上記の(メタ)アクリル酸アルキルを主体とする単量体をラジカル重合させてなる重合体が含まれていてもよい。この重合体の含有量は、該重合体と上記単量体との合計量を基準として、通常50重量%以下であり、好ましくは5〜50重量%である。また、この重合体を接着剤に含有させるには、上記単量体とは別個に重合体を配合してもよいし、上記単量体を部分的に重合させることにより、上記単量体と重合体からなる所謂シロップを調製し、これを配合してもよい。
【0011】
接着剤に含まれるレドックス開始剤の成分の1つである有機過酸化物としては、例えば、過酸化ジベンゾイルや過酸化ジラウロイルの如き過酸化ジアシル(ジアシルパーオキサイド)、過酸化ジクミルや過酸化ジ−t−ブチルの如き過酸化ジアルキル(ジアルキルパーオキサイド)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートやt−ブチルパーオキシイソブチレートの如きアルキルパーエステル、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートやt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネートの如きパーカーボネート等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、過酸化ジアシルが好ましく用いられる。
【0012】
接着剤に含まれるレドックス開始剤のもう1つの成分であるアミンとしては、例えば、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、アニリン、トルイジンの如き1級アミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、ピペリジン、ジフェニルアミン、N−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジンの如き2級アミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシブチル)−p−トルイジンの如き3級アミンが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、3級アミン、特に、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシブチル)−p−トルイジンの如き芳香族の3級アミンが好ましく用いられる。
【0013】
接着剤中の有機過酸化物とアミンの含有割合は、アミンに対する有機過酸化物のモル比で表して、通常0.05〜1である。また、接着剤中のアミンの含有量は、上記単量体及び必要により含まれる重合体の合計量100重量部に対し、通常0.1〜2重量部である。
【0014】
なお、接着剤には、上記の単量体、重合体、有機過酸化物及びアミン以外に、必要に応じて他の成分、例えば、紫外線吸収剤の如き光安定剤、連鎖移動剤、重合調節剤、架橋剤、染料や顔料の如き着色剤等が含まれていてもよい。
【0015】
接着剤は、以上の各成分を混合することにより調製できるが、有機過酸化物とアミンが共存することにより、レドックス開始剤を構成し、低温でもラジカル種が発生して重合反応が進むことになるので、使用直前に調製するのがよい。例えば、有機過酸化物以外の成分は予め混合しておき、使用直前に有機過酸化物を配合するといった処方も採用できる。
【0016】
こうして得られる接着剤を、樹脂板と樹脂板との間に存在させて重合硬化させることにより、樹脂板同士を接着する。被着体の樹脂板としては、例えば、メタクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂等の透明な熱可塑性樹脂からなる樹脂板が挙げられる。中でもメタクリル樹脂板に対して本発明の方法は特に有効である。メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルを主体とする単量体の重合体であり、例えば、メタクリル酸メチルの単独重合体、メタクリル酸メチル50重量%以上とスチレン50重量%以下との共重合体、メタクリル酸メチル50重量%以上とアクリル酸メチルやアクリル酸エチルの如きアクリル酸アルキル50重量%以下との共重合体等が挙げられる。
【0017】
本発明では、先に述べたとおり、冬場などの低温環境下での接着作業を想定していることから、樹脂板同士の重合接着は、低温下に、具体的には周囲温度15℃以下で行われる。したがって、通常、重合前の接着剤及び樹脂板の温度も15℃以下であるが、重合が進めば発熱により、接着層及び樹脂板の温度は15℃を超えうることになる。なお、周囲温度の下限は通常5℃程度である。
【0018】
樹脂板同士の重合接着は、典型的には、15℃以下の作業場にて、樹脂板と樹脂板を、スペーサー等により所定の間隔を保って、対向して配置し、その隙間を軟質ガスケットやテープ等でシールすることにより接着層セルを形成し、このセルに、直前に調製した接着剤を注入して、静置することにより行うことができる。このとき、樹脂板間の隙間の間隔、すなわち接着層セルの厚さは、スペーサー等により適宜調整されるが、通常2〜3mm程度である。
【0019】
図1は、樹脂板同士を貼り合わせ接着する場合の接着層セルの形成例を模式的に示す断面図である。被着体の樹脂板2,2は、スペーサー(図示せず)等により所定の間隔を保って、その面同士が対向配置される。そして、樹脂板2,2の隙間は、下側がテープ3でシールされると共に、横側もテープ(図示せず)でシールされ、さらに上側にテープ3’,3’で堰が設けられる。こうして形成された接着層セルに、接着剤1が注入され、静置、重合硬化に付される。なお、この重合接着の際、接着剤1の注入口は、開放したままであってもよいし、テープ等で塞いでもよい。
【0020】
図2は、樹脂板同士を突き合わせ接着する場合の接着層セルの形成例を模式的に示す断面図である。被着体の樹脂板2,2は、スペーサー(図示せず)等により所定の間隔を保って、その端面同士が対向配置される。この例では、接着剤の重合収縮代を確保する目的で、樹脂板2,2の接着端面付近の上面及び下面には、それぞれ樹脂角棒4,4,4’,4’が両面テープ5,5,5’,5’により取り付けてある。そして、樹脂板2,2の隙間は、下側がテープ3でシールされると共に、横側もテープ(図示せず)でシールされる。この例では、接着端面の上面に貼合された樹脂角棒4,4が堰の役目を果たすので、テープによる堰は特に設けていない。こうして形成された接着層セルに、接着剤1が注入され、静置、重合硬化に付される。なお、この重合接着の際、接着剤1の注入口は、上記貼り合わせ接着と同様、開放したままであってもよいし、テープ等で塞いでもよい。
【0021】
なお、図1及び図2では、2枚の樹脂板を貼り合わせ接着ないし突き合わせ接着する例を示したが、3枚以上の樹脂板を貼り合わせ接着ないし突き合わせ接着することも可能である。また、接着剤の重合硬化部分のうち、はみ出した不要部分は、カンナがけ等の機械加工で仕上ればよい。
【0022】
以上の重合接着により得られた接着体は、次いでアニール処理される。そして、本発明では、このアニール処理が周囲温度85℃以上で行われる。このように高めの周囲温度下にアニール処理を行うことにより、低温下に重合接着を行った場合に生じ易い、アニール処理による黄色味の増大を抑制することができる。このアニール処理の周囲温度は、好ましくは90℃以上であるが、あまり高くすると、樹脂板の種類によっては、また樹脂板が熱成形品である場合はその成形ひずみの残留度合いによっては、変形等の問題が生じうるので、通常100℃以下である。また、アニール処理の時間は通常5〜10時間である。アニール処理に使用する装置は特に限定されないが、例えば、熱風循環型オーブン等の加熱炉が用いられる。なお、このアニール処理は、例えば、加熱炉の温度(周囲温度)を予め85℃以上にしておき、ここに上記接着体を導入することにより行ってもよいし、85℃未満の加熱炉に上記接着体を導入し、次いで加熱炉の温度を85℃以上に昇温して保持することにより行ってもよい。また、後者の場合、昇温途中で加熱炉の温度を保持して、所謂プレアニール処理を行ってもよい。
【0023】
こうして得られるアニール処理後の樹脂接着体は、黄色味が抑制されて外観に優れ、例えば、水槽、看板、建材等の各種用途に用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0025】
実施例1、比較例1〜3
樹脂板として厚さが15mmで150mm四方のメタクリル樹脂板を2枚用い、シール用テープとしてアルミテープ〔住友スリーエム(株)製の#425〕を用い、図1に示すようにして、空隙間隔2mmの接着層セルを形成した。メタクリル酸メチルの部分重合体〔粘度1450cps(20℃)、重合体含量約30重量%〕100重量部に対し、過酸化ジベンゾイル0.149重量部及びN,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン0.508重量部を配合して、接着剤を調製した。この接着剤を、上記接着層セルに注入し、10℃の空気雰囲気下に静置して、重合硬化させた。得られた厚さ32mmの積層板(貼り合わせ接着体)を、熱風循環炉に移し、表1に示す温度の熱風により、8時間アニール処理した。アニール処理後の積層板の黄色度(YI)を表1に示した。またアニール処理を行わなかった場合の黄色度を、参考例1として併せて示した。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】樹脂板同士の貼り合わせ接着の例を模式的に示す断面図である。
【図2】樹脂板同士の突き合わせ接着の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1……接着剤、
2……樹脂板、
3,3’……テープ、
4,4’……樹脂角棒、
5、5’……両面テープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルを主体とするラジカル重合性単量体、有機過酸化物及びアミンを含む接着剤を樹脂板と樹脂板との間に存在させ、周囲温度15℃以下で重合硬化させた後、周囲温度85℃以上でアニール処理することを特徴とする樹脂接着体の製造方法。
【請求項2】
有機過酸化物が過酸化ジアシルである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミンが芳香族の3級アミンである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
樹脂板がアクリル樹脂板である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−182849(P2006−182849A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375928(P2004−375928)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】