説明

樹脂構造体、ホウ素吸着材、樹脂構造体の製造方法、及びホウ素吸着材の製造方法

【課題】水中の浮遊物質であるホウ素等を簡易かつ小型の装置を用いて吸着して回収できるような新規な樹脂構造体を提供する。
【解決手段】磁性粒子を、ポリスチレン換算平均分子量が10万以上のフェノール樹脂をバインダーとして凝集させた二次凝集体を具え、前記フェノール樹脂のフェノール性水酸基の少なくとも一部をグリシジルエーテル基で置換するようにして、樹脂構造体を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業の発達や人口の増加により水資源の有効利用が求められている。そのためには、廃水の再利用が非常に重要である。これらを達成するためには水の浄化、すなわち水中から他の物質を分離することが必要である。これらの方法としては、膜分離・遠心分離・活性炭吸着・オゾン処理・凝集による浮遊物質の除去・リン・窒素・ホウ素の除去などが挙げられる。
【0003】
例えば、ホウ素はその特異な性質のため、半導体の製造や原子力発電所の制御棒、ガラスの製造など広い範囲で使用され、ハイテク産業において必要不可欠な元素である。しかしながらホウ素は人体に有害であり、神経毒性や成長阻害を引き起こすため、その排出規制は厳しいものとなっている。
【0004】
水中において、ホウ素は主としてホウ酸イオンとして存在するが、その除去方法としては、膜による分離や、電気的分離、イオン交換、凝集沈殿などが知られている。この中でも特にランニングコストが少なく、汚泥が発生しにくい除去方法であるイオン交換が広く使用されている。
【0005】
イオン交換では、グルカミン型の吸着剤が知られており、このようなホウ素吸着剤としては、例えば特許文献1に記載のように、親水性であるグリシジルメタクリレートとポリオールのメタクリル酸エステルとからなる架橋型共重合体の基材中に、官能基としてポリヒドロキシルアルキルアミノ基を導入したイオン交換樹脂が提案されている。
【0006】
このような樹脂は、カラムに充填し、水を通過させることによってホウ素イオンを吸着するが、ホウ素イオンの吸着に関しては、カラムを通過する時間が律速となるため、比較的多量のホウ素を吸着しようとした場合、必然的に大きな装置が必要になってきてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−64128号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水中の浮遊物質であるホウ素等を簡易かつ小型の装置を用いて吸着して回収できるような新規な樹脂構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、磁性粒子を、ポリスチレン換算平均分子量が10万以上のフェノール樹脂をバインダーとして凝集させた二次凝集体とを具え、前記フェノール樹脂のフェノール性水酸基の少なくとも一部がグリシジルエーテル基で置換されたことを特徴とする、樹脂構造体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水中の浮遊物質であるホウ素等を簡易かつ小型の装置を用いて吸着して回収できるような新規な樹脂構造体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施形態に基づいて説明する。
【0012】
(樹脂構造体)
本実施形態における樹脂構造体は、磁性粒子を、ポリスチレン換算平均分子量が10万以上のフェノール樹脂をバインダーとして凝集させた二次凝集体と、前記フェノール樹脂のフェノール性水酸基の少なくとも一部が置換されたグリシジルエーテル基とを具える。
【0013】
また、この樹脂構造体は、あらかじめ20μm〜5000μm、好ましくは30μm〜200μmの大きさに成型されたものが好ましい。この大きさにすることにより、水に分散させた後に濾過などで除去しやすかったり、カラムに詰めて使用できたりするからである。樹脂の形は特に問わないが、例えば不定形粒子の場合はその粒子の最長径また最短径がこの範囲に入っていれば良く、繊維の場合は繊維径か繊維長がこの範囲に入っていれば好ましく使用することができる。
【0014】
また、この樹脂の強度は1MPa以上あることが好ましい。1MPa以下であると、水中で何度も使用した時に形が崩れ、再利用が難しくなるからである。好ましくは10MPa以上あることが好ましい。なお、強度とは、以下に説明するように、上記樹脂構造体が、磁性粒子の、フェノール樹脂をバインダーとした二次凝集体であるため、一般には圧縮強度を意味する。
【0015】
さらに、樹脂構造体は、ポーラス体であることが好ましい。これによって、例えば以下に説明するホウ素吸着材を作製した場合において、ホウ素吸着材の、ホウ素吸着性官能基による化学的性質によるホウ素吸着の効果に加えて、ポーラス構造に起因した物理的性質によるホウ素吸着の効果をも呈するようになり、上記ホウ素吸着材は極めて高いホウ素吸着能を呈するようになる。なお、このようなポーラス構造は、以下に説明するように、本実施形態の樹脂構造体が磁性粒子の二次凝集体として構成されるので、バインダーに使用するフェノール樹脂の量を適宜に調節することによって得ることができる。
【0016】
次に、上記樹脂構造体を構成する磁性粒子及びフェノール樹脂について説明する。
【0017】
<磁性粒子>
磁性粒子は、樹脂構造体のコアをなすものであり、室温領域において強磁性を呈する物質から構成する。したがって、このような要件を満足すれば特に限定されるものではないが、例えば、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト等の粒子を挙げることができる。
【0018】
特に、水中での安定性に優れたフェライト系化合物からなる磁性粒子であればより好ましい。例えば磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。
【0019】
この場合、上述した粒子は、球状、多面体、不定形など種々の形状を取り得るが特に限定されない。また、望ましい粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すればよく、特に球状または角が丸い多面体構造が好ましい。
【0020】
鋭角な角を持つ粒子であると、後の噴霧処理及び加熱縮合処理を経て形成するフェノール樹脂を傷つけてしまい、目的とする樹脂構造体の形状を維持しにくく、その本来的な機能を有効に奏することができないためである。
【0021】
なお、以下に説明するようなホウ素回収工程において、上記磁性粒子に磁力が作用し、磁力によって上記樹脂構造体を含むホウ素吸着材が回収出来る限りにおいて、上記鋭角な角を被覆するために、Cuメッキ、Niメッキなど、通常のメッキ処理を施すこともできるし、腐食防止などの目的で表面処理することもできる。
【0022】
また、磁性粒子の大きさは、処理設備の磁力、流速、吸着方法のほか、磁性粒子の密度、種々の条件によって最適な範囲が変化する。しかしながら、本実施形態における磁性粒子の平均粒子径は、一般に0.05〜100μmである。磁性粒子の平均粒子径の測定方法には、レーザー回折法により測定することができ、具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−3100型測定装置(商品名)などにより測定することができる。なお、以下に“平均粒子径”なる文言が出現し、その具体的な数値が記載されている場合、別途説明がある場合を除き、当該“平均粒子径”は上述のようなレーザー回折法によって測定したものである。
【0023】
磁性粒子の平均粒子径が100μmよりも大きいと、得られる二次凝集体の大きさが大きくなりすぎて、以下に説明するホウ素等の回収の際に、水への分散が悪くなる傾向があり、また二次凝集体の実効的な表面積が減少して、ホウ素などの吸着量が減少する傾向にあるので好ましくない。また粒子径が0.05μmより小さくなると、1次粒子が緻密に凝集し、処理液の上層に浮遊する状態となり、分散性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0024】
なお、本実施形態において、樹脂構造体を構成する二次凝集体は、基本的には上述した磁性粒子単独でコアを構成するが、樹脂構造体を含む吸着材が以下に説明するホウ素等の回収の際に、ホウ素吸着後の磁力によって水中から分離できる限りにおいて、その他の物質、例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、ガラス、タルク、アルミナ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、雲母等のセラミック粒子を上記磁性粒子と併せて用いてもよい。
【0025】
<フェノール樹脂>
本実施形態において、フェノール樹脂は、上述したように、磁性粒子を凝集させて二次凝集体とするバインダーとして機能する。
【0026】
上記フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂及びレゾール型フェノール樹脂のいずれでもよい。このようなフェノール樹脂は、フェノール、クレゾール、キシレノール、p-アルキルフェノール、p-フェニルフェノール、クロルフェノール、ビスフェノールなどのフェノール類のモノマーとホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とを縮合重合させることによって得ることができる。
【0027】
一般に、ノボラック型フェノール樹脂は、酸無水物等の酸性触媒の下に重合し、硬化剤を用いて加熱して三次元架橋することで熱硬化性樹脂となる。一方、レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類1モルに対しアルデヒド類を1〜3モルとし、触媒に、、第3級、の酸化物及酸化物、などを用いて重合することによって硬化剤を用いることなく、熱硬化性樹脂となる。
【0028】
上述したフェノール樹脂でも特にはレゾール型フェノール樹脂が好ましい。レゾール型フェノール樹脂は、一般に反応性に富むメチロール基を有している。したがって、以下に説明するように、フェノール樹脂のフェノール性水酸基をグリシジルエーテル基に置換したり、このグリシジルエーテル基をポリヒドロキシアルキルアミノ基に置換したりする場合において、これらの置換を短時間で行うことができるようになる。
【0029】
なお、上述したメチロール基を有するフェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを重合させる際に、これらモノマーを総て重合させる以前に重合を止めるようにしても得ることができる。
【0030】
メチロール基の分析方法は、NMRやIRなどで直接分析してもよいが、加熱してメチロール基の重合反応が起こり、分子量の増大やホルムアルデヒドの発生を測定しても間接的に確認することができる。
【0031】
また、上記フェノール樹脂は、ポリスチレン換算分子量が10万以上であることが必要である。ポリスチレン換算分子量が10万未満であると、前記フェノール樹脂は二次凝集体を形成するためのバインダーとして十分に機能しなくなる。なお、前記フェノール樹脂のポリスチレン換算分子量の上限は例えば100万とすることができる。この値を超えて分子量が増大しても、最早バインダーとしての機能には何ら寄与せず、樹脂構造体が大型化して官能基の修飾に時間がかかるようになり、吸着材の製造コストが増大したり、性能が低下したりすることが見込まれる。
【0032】
ポリスチレン換算分子量の測定方法は、フェノール樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で保持時間を測定し、標準物質である分子量が制御されたポリスチレンと比較して、ポリスチレン換算分子量を算出する。しかし、テトラヒドロフランに不溶なほど大きい分子量のものは溶解しない。この不溶分の分子量は事実上無限大とみなすことができるが、平均分子量を求めるにあたっては、その樹脂のうちテトラヒドロフランに溶ける最も大きい分子量の5倍か、100万の大きいほうを使うこととする。
【0033】
なお、本実施形態において、上記フェノール樹脂は、そのフェノール性水酸基の少なくとも一部がグリシジルエーテル基によって置換されている。このグリシジルエーテル基は、以下に説明する吸着材の、ホウ素吸着性を示すポリヒドロキシアルキルアミノ基と置換するための中間反応基として機能する。したがって、グリシジルエーテル基の、フェノール性水酸基に対する置換量が多いほど、後に置換すべきポリヒドロキシアルキルアミノ基の置換量を増大させることができる。したがって、より効率的に多量のホウ素を吸着できるような吸着材を得るには、フェノール性水酸基のグリシジルエーテル基による置換量が多いほど好ましく、さらにはフェノール性水酸基の総てがグリシジルエーテルで置換されていることが好ましい。
【0034】
(ホウ素吸着材)
本実施形態におけるホウ素吸着材は、上述のようにして得た樹脂構造体のグリシジルエーテル基をポリヒドロキシアルキルアミノ基に置換してなる。ポリヒドロキシアルキルアミノ基を含む化合物としてはN-メチルグルカミンが好ましい。
【0035】
ポリヒドロキシアルキルアミノ基は、グリシジルエーテル基と反応するアミノ基の他、ホウ素吸着性の多価ヒドロキシアルキル基を有しているので、上述したグリシジルエーテル基との置換反応及びホウ素の吸着の双方を同時に行うことができる。
【0036】
(樹脂構造体の製造方法)
次に、本実施形態の樹脂構造体の製造方法について説明する。
最初に、磁性粒子及びフェノール樹脂モノマーを所定の溶媒中に分散及び/又は溶解して、スラリー状の溶液を得る。なお、磁性粒子及びフェノール樹脂モノマーが上記溶媒に対して溶解性を示す場合は、これら粒子等は溶媒中に溶解することになるが、粒子等が溶媒に対して溶解性を示さない場合、粒子等は溶媒中に分散させることになる。
【0037】
上記溶媒は、上述した磁性粒子及びフェノール樹脂モノマーを溶解あるいは分散でき、上述したスラリー溶液を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは極性溶媒とする。極性溶媒は親水性に優れるので、例えば上述した磁性粒子の表面に微量に存在する水酸基と溶媒とが親和し、磁性粒子が凝集せず溶媒中に均一に分散するようになる。
【0038】
なお、本実施形態で、“親水性”とは、水と自由に混和するものと定義し、具体的には1気圧において温度20℃で同容量の純水と緩やかにかき混ぜた場合に、流動がおさまった後も当該混合液が均一な外観を維持するものである。
【0039】
上記親水性の溶媒としては、水、酢酸、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。好ましくは、様々なポリマーを溶解させることのできるアセトン、テトラヒドロフランがよい。
【0040】
次に、上述したスラリー溶液を噴霧乾燥する。この噴霧乾燥には、種々の装置を用いることができるが、好ましくはスプレードライ法を用いる。スプレードライ法によれば、スプレードライのノズルから上記スラリー溶液を噴霧させることによって、磁性粒子の表面に上述したフェノール樹脂モノマーが付着するようになる。
【0041】
スプレードライ法は公知のいかなるものでも構わないが、例えばディスクタイプ、加圧ノズルタイプ、2流体ノズルタイプの装置を用いて行うことができる。
【0042】
次いで、上述のようにして、フェノール樹脂モノマーが付着した磁性粒子を所定温度で加熱し、フェノール樹脂モノマーを重合させて、上述したようなスチレン換算分子量が10万以上のフェノール樹脂を形成し、上記磁性粒子を凝集させて二次凝集体とする。
【0043】
次いで、上述のようにして得た二重凝集体を、例えば、水酸化ナトリウム水溶液中に投入し、エピクロロヒドリンを加えることにより、二次凝集体を構成するバインダーであるフェノール樹脂の、フェノール水酸基をグリシジルエーテル基で置換する。この際、水酸化ナトリウム水溶液に対してフェノール樹脂が溶解しないほど分子量を上げるか、水酸化ナトリウムの濃度を下げておく必要がある。
【0044】
なお、エピクロロヒドリンの他に、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、4-クロロ-1,2エポキシブタン、4-ブロモ-1,2エポキシブタンなどを用いても、フェノール樹脂のフェノール水酸基をグリシジルエーテル基に置換することができる。
【0045】
フェノール性水酸基のグリシジルエーテル基による置換量を増大させるには、上記水酸化ナトリウム水溶液中におけるエピクロロヒドリン等の濃度を高くするか、あるいは上記水酸化ナトリウム水溶液の温度を高く、例えば60℃程度とする。
【0046】
なお、フェノール樹脂がメチロール基を有する場合、このメチロール基は反応性に富むので、グリシジルエーテル基による置換量を容易に増大させることができる。以上のようにして、本実施形態の樹脂構造体を得ることができる。
【0047】
(ホウ素吸着材の製造方法)
次に、本実施形態のホウ素吸着材の製造方法について説明する。
上述のようにして、樹脂構造体を製造した後、この樹脂構造体、具体的にはバインダーとして機能するフェノール樹脂のグリシジルエーテル置換基を、ホウ素吸着性を有するポリヒドロキシアルキルアミノ化合物、特にはN-メチルグルカミンで置換する。
【0048】
当該置換は、ポリヒドロキシアルキルアミノ基を含む化合物、例えば上記N-メチルグルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−2−( ヒドロキシメチル)−1 , 3−プロパンジオール、3−アミノ−1 , 2− プロパンジオール、2−アミノ−1 , 3− プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1 , 3− プロパンジオール、3−ジメチルアミノ−1 , 2− プロパンジオール、3−ジエチルアミノ−1 , 2− プロパンジオール等を所定の溶媒中に溶解させた後、上記樹脂構造体を浸漬させることによって実施する。これらの中でも、N-メチルグルカミン及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが特に有用である。
【0049】
なお、上述した実施形態では、上記樹脂構造体を用いた吸着材として、ホウ素吸着材についてのみ説明したが、樹脂構造体のグリシジルエーテル基を他の適当な官能基で置換することにより、他の元素や油分等の吸着材として用いることもできる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0051】
(実施例1)
(樹脂構造体の製造)
レゾール型の水溶性フェノール樹脂オリゴマー138重量部(固形分換算)、平均粒子径2μmのマグネタイト1500重量部、水2400mlを混合し、スラリー溶液を得た。このスラリー溶液を、ミニスプレードライヤー(柴田科学株式会社製、B−290型)を用いて噴霧し、球状に凝集した二次凝集体を得、平均粒子径が約30μmの樹脂体を作製した。噴霧温度は140℃とした。SEM観察を行ったところ、磁性粉が凝集した多孔質体となっていた。
【0052】
この多孔質体を150℃で60分加熱して、フェノール樹脂の硬化を進め、凝集体を得た。この凝集体の樹脂分をテトラヒドロフランに溶解させ、分子量を測定したところ、約15万であった。またこの一部を加熱したところ分子量の増大が確認されたので、このフェノール樹脂中にメチロール基が含有されていることを間接的に確認した。
【0053】
この二次凝集体100重量部を10重量%の水酸化ナトリウム水溶液900ml中に投入し、60mlのエピクロロヒドリンを混合して25℃で6時間反応させた。反応後、ろ過し、十分水で洗浄させて樹脂構造体を得た。
【0054】
(吸着材の製造)
得られた反応物130gとN-メチルグルカミン20gとを、水1000ml中に投入し、60℃で6時間反応させた。N-メチルグルカミンは溶解したが、反応物は溶解しなかった。反応後に水で洗浄し、乾燥させてホウ素吸着材を得た。
【0055】
(吸着試験)
最初に、あらかじめホウ素濃度500ppmに調整された試験液を用意した。この試験液20mlに対し、吸着材0.5gを入れ、1時間攪拌させた。吸着材を、磁石を用いて水中から取り出し、ICPを用いて分析したところ、試験液中のホウ素濃度が440ppmに減少しており、吸着材によるホウ素の吸着を確認した。
【0056】
(実施例2)
実施例1における多孔体の加熱時間を150℃、120分にして、このフェノール樹脂のポリスチレン換算分子量を10万から50万に増大させた以外は、実施例1と同様にして樹脂構造体を製造し、さらにホウ素吸着材を製造した。このホウ素吸着材を用いて、実施例1と同様にしてホウ素の吸着を実施したところ、試験液中のホウ素濃度が同じく440ppmに減少しており、吸着材によるホウ素の吸着を確認した。
【0057】
(実施例3)
実施例1における多孔体の加熱時間を150℃、180分にして、このポリスチレン換算分子量を10万から100万以上に増大させた以外は、実施例1と同様にして樹脂構造体を製造し、さらにホウ素吸着材を製造した。なお、この実施例における分子量100万以上は、全量テトラヒドロフランに溶解しなかったという意味であり、実際の分子量は測定できない。このホウ素吸着材を用いて、実施例1と同様にしてホウ素の吸着を実施したところ、試験液中のホウ素濃度が460ppmに減少しており、吸着材によるホウ素の吸着を確認した。
【0058】
これら実施例1〜3の比較で明らかなように、ポリスチレン換算分子量を大きくする、すなわちメチロール基の含有量を小さくするほどホウ素吸着能力の低下が起こることを確認した。この理由については、反応性の高いメチロール基が減ることにより、ホウ素を吸着する官能基が減少するためであると推測される。
【0059】
(実施例4)
スプレードライヤーの噴霧装置を塔径2600mmにし、ディスクによるスラリー溶液の噴霧と乾燥を行ったこと以外は実施例1と同様の操作を行い、平均粒子径が約500μmの樹脂体を得た。次いで、実施例1と同様にホウ素吸着材を製造し、このホウ素吸着材を用いて、実施例1と同様にしてホウ素の吸着を実施したところ、試験液中のホウ素濃度が445ppmに減少しており、吸着材によるホウ素の吸着を確認した。
【0060】
(実施例5)
マグネタイトの造粒方法をスプレードライヤーから高速回転するブレンダー(オスターブレンダーST−2)を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、平均粒子径が約2000μmの樹脂体を得た。次いで、実施例1と同様にホウ素吸着材を製造し、このホウ素吸着材を用いて、実施例1と同様にしてホウ素の吸着を実施したところ、試験液中のホウ素濃度が460ppmに減少しており、吸着材によるホウ素の吸着を確認した。
【0061】
なお、実施例1及び実施例4、5の比較から明らかなように、樹脂構造体の凝集径を大きくするとホウ素濃度の減少度合いが低下し、ホウ素の吸着量が低下した。この理由については、樹脂構造体が大きくなるにつれて樹脂構造体内部のホウ素吸着基まで水が浸透するのに時間を有してしまうことに起因するものと考えられる。
【0062】
また、この場合においても、実施例1及び実施例5の比較から明らかなように、マグネタイトの平均粒子径及び使用量を増大させ、樹脂構造体に占めるマグネタイトの量が相対的に増大することによって、ホウ素濃度の減少度合いが増大し、ホウ素の吸着量が増大している。この理由については、樹脂構造体に占めるマグネタイトの量が相対的に増大するとともに、バインダーであるレゾール型の水溶性フェノール樹脂の割合が減少することによって、樹脂構造体における多孔率が増大し、ホウ素吸着性の官能基であるN-メチルグルカミンの化学的効果に加えて、ポーラス構造の物理的効果が増大したことに起因するものと考えられる。
【0063】
(実施例6)
レゾール型の水溶性フェノール樹脂138重量部(固形分換算)に代えて、ノボラック型の水溶性フェノール樹脂オリゴマー138重量部(固形分換算)及びヘキサメチレンテトラミン20重量部に、溶媒を水からテトラヒドロフランに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、平均粒子径が約40μmの樹脂体を得た。次いで、実施例1と同様にホウ素吸着材を製造し、このホウ素吸着材を用いて、実施例1と同様にしてホウ素の吸着を実施したところ、試験液中のホウ素濃度が450ppmに減少しており、吸着材によるホウ素の吸着を確認した。
【0064】
(比較例1)
実施例1における多孔体の加熱時間を150℃、15分にして、このフェノール樹脂のポリスチレン換算分子量を10万から5万に減少させた以外は、実施例1と同様にして樹脂構造体を製造した。実施例1と同様の操作でさらにホウ素吸着材を製造しようとしたところ、反応中にフェノール樹脂が軟化して樹脂構造体を維持できなくなり、ホウ素吸着材を製造することができなかった。
【0065】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を、ポリスチレン換算平均分子量が10万以上のフェノール樹脂をバインダーとして凝集させた二次凝集体とを具え、
前記フェノール樹脂のフェノール性水酸基の少なくとも一部がグリシジルエーテル基で置換されたことを特徴とする、樹脂構造体。
【請求項2】
前記フェノール樹脂は、メチロール基を含むことを特徴する、請求項1に記載の樹脂構造体。
【請求項3】
前記フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載の樹脂構造体。
【請求項4】
前記樹脂構造体の平均粒子径が、20μm〜5000μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の樹脂構造体。
【請求項5】
前記樹脂構造体は、ポーラス体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の樹脂構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一に記載の樹脂構造体を具え、
前記樹脂構造体の前記グリシジルエーテル基の少なくとも一部がポリヒドロキシアルキルアミノ基で置換されたことを特徴とする、ホウ素吸着材。
【請求項7】
前記ポリヒドロキシアルキルアミノ基は、N-メチルグルカミンを含むことを特徴とする、請求項6に記載のホウ素吸着材。
【請求項8】
所定の溶媒中に、磁性粒子及びフェノール樹脂モノマーを分散及び/又は溶解して、スラリー状の溶液を得る工程と、
前記溶液を噴霧乾燥し、前記磁性粒子の表面に前記フェノール樹脂モノマーを付着させる工程と、
前記モノマーを加熱重合してポリスチレン換算平均分子量が10万以上のフェノール樹脂を得、前記磁性粒子を、前記フェノール樹脂をバインダーとして凝集させ、二次凝集体とする工程と、
前記フェノール樹脂のフェノール性水酸基の少なくとも一部をグリシジルエーテル基で置換する工程と、
を具えることを特徴とする、樹脂構造体の製造方法。
【請求項9】
所定の溶媒中に、磁性粒子及びフェノール樹脂モノマーを分散及び/又は溶解して、スラリー状の溶液を得る工程と、
前記溶液を噴霧乾燥し、前記磁性粒子の表面に前記フェノール樹脂モノマーを付着させる工程と、
前記モノマーを加熱重合してポリスチレン換算平均分子量が10万以上のフェノール樹脂を得、前記磁性粒子を、前記フェノール樹脂をバインダーとして凝集させ、二次凝集体とする工程と、
前記フェノール樹脂のフェノール性水酸基の少なくとも一部をグリシジルエーテル基で置換する工程と、
前記グリシジルエーテル基の少なくとも一部をポリヒドロキシアルキルアミノ基で置換うる工程と、
を具えることを特徴とする、ホウ素吸着材の製造方法。
【請求項10】
前記ポリヒドロキシアルキルアミノ基がN-メチルグルカミンであることを特徴とする、請求項9に記載のホウ素吸着材の製造方法。

【公開番号】特開2011−162609(P2011−162609A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24563(P2010−24563)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】