説明

樹脂構造体の密閉結合構造

【課題】 基盤と蓋体を高周波溶着で結合してスイッチケースとするインヒビタスイッチにおいて、溶着部に微小な非接合部が発生しても確実に気密シールを達成する。
【解決手段】 蓋体30に突条部32を、基盤15の側壁17に凹条部24をそれぞれ周回状に形成し、突条部の周壁に溶着用肩部38を備え、凹条部24の周壁には突条部を嵌入させたとき溶着用肩部と干渉する溶着用傾斜面25を備え、凹条部24の底部空間Sにグリースを充填して、溶着用肩部と溶着用傾斜面間を高周波溶着により接合する。グリースが充填されているので、溶融状況によって微小な非接合部分が生じても、確実にスイッチケースの密封が確保される。気密シール用パッキンの併用が不要となるので、コストも低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリ式スイッチのスイッチケースなど樹脂構造体の密閉結合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロータリ式スイッチとして、例えば車両用自動変速機のセレクトレバーに付設されるインヒビタスイッチがあり、これは、樹脂製の基盤と蓋体でスイッチケースを構成し、基盤には固定接点を配設するとともに、スイッチケース内に回動可能に配置した可動盤に可動接点を配設したものである。
このようなスイッチケースは外部からのダストや水の侵入を防ぐため、密閉構造とする必要があり、その例が例えば実開平7−25537号公報に樹脂構造体の密閉結合構造として記載されている。この例では、結合部がいわゆるシェアジョイントとなっており、両者を上下方向に加圧して結合対象部分を圧接させるとともに超音波などの高周波振動を与えることによって溶着部を得るとともに、さらに溶着部に隣接して気密シール用パッキンを備えている。
【0003】
しかし、上記構造では、高周波溶着のほかに気密シール用パッキンを必要とし、部品点数が増加して組み付け、部品管理が煩雑になるという問題があった。また、インヒビタスイッチなど雰囲気温度が高熱となる場所に用いられるものでは、パッキン材料として高価なアクリルゴムやフッ素ゴムなどが必要となり、コストの高いものとなる。
このため、出願人は先に特開2002−192617号公報に示したように、樹脂部品の一方に周回状に設けた突条部を樹脂部品の他方に設けた凹条部に差し込んで結合する構造において、突条部の両側において高周波溶着を行い、内周側および外周側の2重の溶着部を備えることにより、気密シール用パッキンを不要とする提案を行った。
【特許文献1】実開平7−25537号公報
【特許文献2】特開2002−192617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高周波溶着では、機械的結合は十分に得られるが、周上の一部に溶融状況のぶれによって微小な非接合部分が発生することは避けられない。そのため、全周についてまったく欠陥なく溶着状態を得ることは困難であり、2重の溶着部を備えるものとしても、それぞれの微小な非接合箇所を通じて気密シールが阻害される可能性が皆無ではないことが判明した。
したがって本発明は、気密シール用パッキンを省きながら、さらに溶着部の一部に微小な欠陥が生じても確実に気密シールを達成することのできる、改良された樹脂構造体の密閉結合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、本発明は、一対の樹脂部品を相互に溶着結合する樹脂構造体の密閉結合構造であって、樹脂部品の一方に突条部を周回状に形成するとともに、樹脂部品の他方に突条部を嵌入させる凹条部を周回状に形成し、突条部の少なくとも一部に溶着用当部を備えるとともに、凹条部の溶着用当部に対向する周壁に溶着用当部と干渉する溶着用受部を備え、凹条部には突条部との間に空間が形成され、凹条部の空間にグリースを充填して、溶着用当部と溶着用受部間を高周波溶着により接合して構成したものとした。
【発明の効果】
【0006】
高周波溶着された凹条部と突条部の間の空間にグリースが充填されているので、微小な非接合部分が生じていてもダストなどを吸い込むことがなく、別途気密シール用パッキンを併用しなくても、確実に樹脂構造体の内外が気密シールされるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1はロータリ式スイッチ、とくにインヒビタスイッチに適用した第1の実施例の構成を示す断面図、図2は基盤の縮小平面図である。
インヒビタスイッチ1は、それぞれ樹脂製の基盤15と蓋体30を重ねてスイッチケース10を形成し、スイッチケース10内に可動盤40を配置してある。
基盤15は、複数の固定接点50を設けたターミナルブロック部16と、ターミナルブロック部16の周縁から立ち上がる側壁17と、さらにターミナルブロック部16から側壁17より外方に延びたコネクタ部18からなっている。
ターミナルブロック部16には可動盤40のシャフト41が貫通するシャフト穴19が設けられ、ターミナルブロック部16の外壁面(図1では下面)側にはシャフト穴19を囲んでシール受け部20が設けられている。
【0008】
蓋体30は、その本体部31が基盤15のターミナルブロック部16と対応する平面形状を有し、その周縁には基盤15の側壁17と対向する突条部32を有している。また本体部31は、ターミナルブロック部16のシャフト穴19に対応させて可動盤40のシャフト41が貫通するシャフト穴33を備え、外壁面(図1では上面)側にはシャフト穴33を囲んでシール受け部34が設けられている。本体部31の内壁面はシール受け部34に対応するシャフト穴33まわりの所定範囲が所定量だけ突出した突出部35となっている。
【0009】
可動盤40は、可動接点60を支持する樹脂製の接点支持部45と、接点支持部45と一体のシャフト41とからなる。シャフト41は拡径部43を挟んで上方に延びる上部シャフト42と下方に延びる下部シャフト44からなり、拡径部43の上半部から接点支持部45が径方向に延びている。
シャフト41には貫通穴47が設けられ、貫通穴47にはその直径線上に対向してキー突条48が形成されている。
【0010】
シャフト41は、その上部シャフト42が蓋体30のシャフト穴33を貫通し、下部シャフト44が基盤15のシャフト穴19を貫通する。このシャフト41を軸として接点支持部45がスイッチケース10内で回動可能となっている。
接点支持部45の上面には、蓋体本体部31の突出部35の高さに対応する高さのスペーサ部46が形成されている。
スイッチケース10内に可動盤40が組み付けられた状態において、可動盤40はシャフトの拡径部43の上端面が蓋体本体部31の突出部35に当接して、図1中、上方への移動が規制され、拡径部43の下端面がターミナルブロック部16の内壁面に当接して下方への移動が規制される。
【0011】
シール受け部20は、シャフト穴19の穴縁から所定の間隙をおいた位置で外方へ立ち上がった保持壁21を備え、シール受け部34も同様に外方へ立ち上がった保持壁36を備える。
シャフト41の上部シャフト42、下部シャフト44はそれぞれシール受け部20、34内にまで延び、各シール受け部に保持されたリング状のシール材22、37に包まれ、これによりシャフト41の貫通部分からスイッチケース10内へのダストの侵入が阻止される。
【0012】
基盤15の側壁17はターミナルブロック部16の全周を囲んで閉じており、その上端がターミナルブロック部16の内壁面と平行な一平面をなすとともに、当該上端面23(図3参照)には凹条部24が側壁17の全周にわたって形成されている。また、蓋体30の突条部32も本体部31の全周を囲んで閉じており、側壁の凹条部24に嵌り合い、超音波などの高周波溶着により突条部32と側壁17が接合されて、基盤15と蓋体30とが一体となったスイッチケース10が形成される。凹条部24内には突条部32との間のクリアランスにグリースが充填されている。
基盤15には取付け用のブラケット3が一部埋め込まれている。
【0013】
図3は上記高周波溶着による結合部分の詳細を示す。
溶着前の状態において、蓋体30の突条部32は、図3の(a)に示すように、その先端部の所定長さ範囲が根元部27よりも幅の小さい小幅部28となっている。小幅部28は比較的に内側寄りになっている。
突条部32の内側の周壁には高さ方向中間部に根元部27と小幅部28をつなぐ傾斜面29を有する一方、外側の周壁には根元部27と小幅部28を階段状につないで直角の角部を有する溶着用肩部38を形成している。
側壁17の凹条部24は、図3の(b)に示すように、内側の周壁が上端の開口部から底壁まで断面一直線となっている一方、外側の周壁にはその高さ方向中間部に突条部32の溶着用肩部38に対応させて溶着用傾斜面25が形成されている。
【0014】
そして、図3の(c)に示すように、突条部32を凹条部24に嵌入させて、側壁17の上端面23を蓋体30の本体部31の内壁面に当接させたとき、突条部32の溶着用肩部38が凹条部24の溶着用傾斜面25と干渉するように設定されている。
蓋体30と基盤15を上下方向に加圧しながら高周波振動を与えることによって干渉部分が溶融して、全周にわたって突条部32と側壁17が接合される。この際、基盤15に蓋体30を重ねる前に、図3の(b)に示すように、凹条部24の底部には全周にわたってグリースを充填した上で上記高周波溶着を行う。グリースの充填量は、溶着後の全周各断面において突条部32で閉ざされる凹条部24の底部空間Sを満たすに足りる量とする。
【0015】
以上のように構成されたインヒビタスイッチ1は、図示しない自動変速機側回転軸をシャフト41の貫通穴47に貫通させて、ブラケット3により自動変速機側に取り付けられる。貫通穴47のキー突条48が自動変速機側回転軸の図示しないキー溝と噛み合うことにより、シャフト41と自動変速機側回転軸は回転方向に一体となり、自動変速機側回転軸の回動とともに可動盤40がスイッチケース10内で回動する。
本実施例では、蓋体30と基盤15が発明における一対の樹脂部品を構成し、樹脂構造体としてのスイッチケース10を形成している。また、溶着用肩部38が溶着用当部を構成し、溶着用傾斜面25が溶着用受部を構成している。
【0016】
本実施例は以上のように構成され、インヒビタスイッチの基盤15と蓋体30からなるスイッチケース10内で回動可能な可動盤40を配置し、基盤15の内壁に設けた複数の固定接点と可動盤に設けた可動接点を可動盤40の回動に応じて断接させるインヒビタスイッチ1において、蓋体30に突条部32を周回状に形成するとともに、基盤15にはその側壁17に突条部32を嵌入させる凹条部24を周回状に形成し、突条部32の外側の周壁に溶着用肩部38を備えるとともに、凹条部24の上記溶着用肩部38に対向する外側の周壁に溶着用肩部38と干渉する溶着用傾斜面25を備え、凹条部24の底部には突条部32との間に空間Sが形成され、当該空間SにグリースGを充填して、溶着用肩部38と溶着用傾斜面25間を高周波溶着により接合する構成とした。
高周波溶着された凹条部24と突条部32間の空間にグリースが充填された状態となるので、たとえ溶融状況のぶれによって微小な非接合部分が生じていても、例えば雰囲気温度の変化によってスイッチケース10内部の圧力低くなってもダストなどを吸い込むことがなく、また内部の圧力が高くなった場合にもグリースの漏れは極微小であり、確実にスイッチケース10の密封が確保されるという効果を有する。
そして、部品点数の増大ならびにコスト増大を招く気密シール用パッキンの代わりに、グリースを充填するだけであるから、安価に実現できる。
【0017】
なお、上記実施例では、高周波溶着部を蓋体30の突条部32における外側に設けるものとしたが、これに限定されず、溶着用肩部38および溶着用傾斜面25を突条部および凹条部それぞれの内側の周壁に形成することにより、突条部32における内側を高周波溶着部としてもよい。ただし、高周波溶着部を蓋体30の突条部32における外側とするほうが、グリースの外部への漏れがほとんどない点で好ましい。
【0018】
さらには、第2の実施例として、特開2002−192617号公報に記載のように、突条部における内外両側を高周波溶着部とすることもできる。
図4は第2の実施例における図3相当の溶着部分の詳細断面図である。
蓋体30’の突条部32’は、図4の(a)に示すように、その先端の小幅部28を根元部27の幅方向の略中央位置として、外側の周壁に溶着用肩部38を備えるほか、内側の周壁にも溶着用肩部39を備える。基盤15’側側壁17’の凹条部24’も、、図4の(b)に示すように、外側および内側の周壁に溶着用傾斜面25と溶着用傾斜面26を備える。
図4の(c)に示すように、突条部32’を凹条部24’に嵌入させて、側壁17’の上端面23を蓋体本体部31の内壁面に当接させたとき、突条部32’の溶着用肩部38、39が凹条部24’の溶着用傾斜面25、26とそれぞれ干渉するように設定される。
溶着用肩部38、39が発明における溶着用当部を構成し、溶着用傾斜面25、26が溶着用受部を構成している。
【0019】
第1の実施例と同様に、凹条部24’の底部の空間SにグリースGを充填した上で高周波溶着することにより、干渉部分が溶融して全周にわたって突条部32’と側壁17’が接合される。全周が2本の溶着部により囲まれるので、とくに結合が確実となり、また高度のシール効果が得られる。また、グリースGが内外の高周波溶着により封じ込められるので、グリースの漏れも実質上ゼロとなる。
【0020】
なお、第1、第2の実施例では、溶着用当部として溶着用肩部38(および39)を突条部32(32’)に形成し、溶着用受部として溶着用傾斜面25(および26)を凹条部24(24’)に形成したが、これと反対に、突条部に溶着用傾斜面を形成し、凹条部に溶着用肩部を形成してもよい。
さらに、溶着用当部および溶着用受部の形状も、実施の形態に示した溶着用肩部38、39や溶着用傾斜面25、26に限定されず、要は、凹条部に突条部を差し込んだ際に互いに干渉して高周波により溶融可能であれば、任意の形状を採用することができる。
さらに、実施の形態はインヒビタスイッチのスイッチケースに適用した例を示したが、本発明はこのほか種々の樹脂構造体の密閉結合構造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例の構成を示す断面図である。
【図2】基盤の縮小平面図である。
【図3】溶着部の構造を示す詳細断面図である。
【図4】第2の実施例を示す詳細断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 インヒビタスイッチ
10 スイッチケース
15 基盤
16 ターミナルブロック部
17、17’ 側壁
23 上端面
24、24’ 凹条部
25、26 溶着用傾斜面
27 根元部
28 小幅部
29 傾斜面
30、30’ 蓋体
31 本体部
32、32’ 突条部
38、39 溶着用肩部
G グリース
S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の樹脂部品を相互に溶着結合する樹脂構造体の密閉結合構造であって、
前記樹脂部品の一方に、突条部を周回状に形成するとともに、
前記樹脂部品の他方に、前記突条部を嵌入させる凹条部を周回状に形成し、
前記突条部の少なくとも一部に溶着用当部を備えるとともに、前記凹条部の前記溶着用当部に対応する周壁に前記溶着用当部と干渉する溶着用受部を備え、
前記凹条部には前記突条部との間に空間が形成され、
前記凹条部の空間にグリースを充填して、
前記溶着用当部と溶着用受部間を高周波溶着により接合したことを特徴とする樹脂構造体の密閉結合構造。
【請求項2】
一対の樹脂部品を相互に溶着結合する樹脂構造体の密閉結合構造であって、
前記樹脂部品の一方に、突条部を周回状に形成するとともに、
前記樹脂部品の他方に、前記突条部を嵌入させる凹条部を周回状に形成し、
前記突条部の内側および外側の周壁の少なくとも一方に溶着用当部を備えるとともに、前記凹条部の前記溶着用当部に対応する周壁に前記溶着用当部と干渉する溶着用受部を備え、
前記凹条部の底部には前記突条部との間に空間が形成され、
前記凹条部の底部の空間にグリースを充填して、
前記溶着用当部と溶着用受部間を高周波溶着により接合したことを特徴とする樹脂構造体の密閉結合構造。
【請求項3】
前記突条部はその先端に小幅部を有して、前記溶着用当部は突条部の根元部と前記小幅部の間に形成した角部であり、
前記溶着用受部は、前記溶着用当部に対向する周壁に形成した傾斜面であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂構造体の密閉結合構造。
【請求項4】
前記樹脂構造体が、基盤と蓋体からなるスイッチケース内に、回動可能の可動盤を配置し、基盤の内壁に設けた複数の固定接点と可動盤に設けた可動接点を可動盤の回動に応じて断接させるロータリ式スイッチにおける、前記スイッチケースであって、
前記突条部が前記蓋体に形成され、前記凹条部が前記基盤の側壁に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の樹脂構造体の密閉結合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−172789(P2006−172789A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360992(P2004−360992)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(390001236)ナイルス株式会社 (136)
【Fターム(参考)】