説明

樹脂溶着用光源装置および樹脂溶着装置

【課題】 短時間に広い領域を処理することができる樹脂溶着用光源装置および樹脂溶着装置を提供すること。
【解決手段】 エンジニアリング樹脂、または、無機材料フィラーを添加した樹脂材より形成される光透過性樹脂51および光吸収性樹脂52が積重されてなる照射対象5を、光透過性樹脂51の上面から光を照射し、透過した光によって光吸収性樹脂52を加熱して、光透過性樹脂51と光吸収性樹脂52とを溶着させる樹脂溶着用光源装置2であって、フラッシュランプ30を備えた光源部3から照射された光が、ガラス板41bとマスク42とを備えた照射窓4を介して照射対象5に照射されるように構成され、マスク42が冷媒によって冷却されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッシュランプから放射される光を照射することにより溶着させる樹脂溶着用光源装置および樹脂溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、樹脂部材同士を接合する接合方法の1つとして、レーザー溶着方法が利用されている。レーザー溶着は、レーザー光に対して透過性のある光透過性樹脂と、レーザー光に対して透過性のない光吸収性樹脂とを重ね合わせた後、光透過性樹脂側からレーザー光を照射することにより、光透過性樹脂と光吸収性樹脂との当接面同士を加熱溶融させて両者を一体的に接合する方法である。
【0003】
このレーザー溶着方法においては、光透過性樹脂内を透過したレーザー光が光吸収性樹脂の当接面に到達して吸収され、この当接面に吸収されたレーザー光がエネルギーとして蓄積される。その結果、光吸収性樹脂の当接面が加熱溶融されるとともに、この光吸収性樹脂の当接面からの熱伝達により光透過性樹脂の当接面が加熱溶融される。この状態で、光透過性樹脂及び光吸収性樹脂の当接面同士を圧着させることで、両者が一体的に接合される。
【0004】
近年、軽量化及び低コスト化等の観点より、自動車部品等、各種分野の部品を樹脂化して樹脂成形品とすることが頻繁に行われている。また、自動車や電化製品には電装部品が多数組込まれているが、厳しい外的環境から保護するために、電装部品を樹脂製材料よりなる密閉容器の内部に配置している。密閉容器は、耐熱性があり、溶剤に対する耐性が高いエンジニアリング樹脂より構成される。特許文献2に示すように、エンジニアリング樹脂の接合にも、レーザー溶着方法が利用されている。
【特許文献1】特開昭60−214931号公報
【特許文献2】特開2004−58581公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザー光はその性質上、広範囲に照射することができないため、一定の領域を溶着するためには、レーザー光を照射しながら連続的に照射領域に沿って照射対象を移動させなければならない。そのため、短時間に広い領域を処理することができず、処理効率を高めることができない。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、短時間に広い領域を処理することができる樹脂溶着用光源装置および樹脂溶着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願第1の発明は、エンジニアリング樹脂、または、無機材料フィラーを添加した樹脂材より形成される光透過性樹脂および光吸収性樹脂が積重されてなる照射対象を、前記光透過性樹脂の上面から光を照射し、透過した光によって前記光吸収性樹脂を加熱して、前記光透過性樹脂と前記光吸収性樹脂とを溶着させる樹脂溶着用光源装置であって、フラッシュランプを備えた光源部から照射された光が、ガラス板とマスクとを備えた照射窓を介して前記照射対象に照射されるように構成され、前記マスクが冷媒によって冷却されることを特徴とする。
また、本願第2の発明は、本願第1の発明において、前記ガラス板が冷媒によって冷却されることを特徴とする。
また、本願第3の発明は、本願第1の発明または本願第2の発明において、前記照射窓は、平行に配置された2枚のガラス板の間に冷媒が導入されるように構成されており、照射対象側に配置されたガラス板の冷媒と接する面にマスクが形成されていることを特徴とする。
また、本願第4の発明は、本願第1の発明乃至本願第3の発明に記載の樹脂溶着用光源装置と、加圧機構と、可動ステージとを有し、前記可動ステージに前記照射対象を載置し、前記照射窓に前記光透過性樹脂を押し当てることによって、前記照射対象の積重方向に加圧力を作用させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願第1の発明に係る樹脂溶着用光源装置によれば、マスクが冷媒によって冷却されているので、マスクが過熱されず、温度上昇によるマスクの劣化を防止することができる。冷媒によって冷却されているマスクを用いれば、強い照射エネルギーを必要とするエンジニアリング樹脂を溶着する用途にも、光源としてフラッシュランプを用いることができる。冷媒によって冷却されているマスクによって光を遮蔽して、照射対象の溶着部分だけに光が照射されるようにして、照射対象の溶着部分以外に照射エネルギーの高い光が導入されて温度が上昇することを防ぐと共に、短時間に広い領域に光を照射できるフラッシュランプを用いて、短時間で溶着処理を完了することができる。
【0009】
本願第2の発明に係る樹脂溶着用光源装置によれば、ガラス板が冷媒によって冷却されているので、ガラス板の温度は上昇しない。冷媒によって冷却されているガラス板を用いることによって、エンジニアリング樹脂を溶着するために強い照射エネルギーを照射しても、ガラス板の温度が上昇しない。そのため、前の溶着処理が終わった後、すぐに次の溶着処理のために、加圧機構を作動して照射対象の光透過性樹脂をガラス板に当接しても、光透過性樹脂が熱変形する不具合が発生しない。したがって、一連の溶着処理を数十秒間隔で行うことができ、短時間に大量の照射対象を溶着させることができる。
【0010】
本願第3の発明に係る樹脂溶着用光源装置によれば、照射窓は、平行に配置された2枚のガラス板の間に冷媒が導入されるように構成されており、照射対象側に配置されたガラス板の冷媒と接する面にマスクが形成されているので、単純でコンパクトな構成でマスクとガラス板との両方を冷媒によって冷却することができる。
【0011】
本願第4の発明に係る樹脂溶着装置によれば、可動ステージに載置された照射対象の光透過性樹脂を照射窓に押し当てることによって、照射対象の積重方向に加圧力を作用させて、光透過性樹脂と光吸収性樹脂とが隙間なく当接した状態で溶着処理しているので、溶着不良が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の樹脂溶着装置1の構成を示す説明用断面図である。
樹脂溶着装置1は、筐体11内に樹脂溶着用光源装置2、可動ステージ12、加圧機構13が配置されて構成される。加圧機構13の上端に可動ステージ12が設けられ、樹脂溶着用光源装置2から放射される光が可動ステージ12に照射され、また、可動ステージ12を照射窓4に対して近づけたり、遠ざけたりできるように構成されている。可動ステージ12の上面には、エンジニアリング樹脂よりなる照射対象5、すなわち、光透過性樹脂51と光吸収性樹脂52が載置される。照射窓4側に光透過性樹脂51が配置され、可動ステージ12側に光吸収性樹脂52が配置される。
【0013】
加圧機構13は、積重されている光透過性樹脂51と光吸収性樹脂52を、そのままの状態で挟圧することにより、照射対象5の積重方向に加圧力を作用させる機能を有するものである。加圧機構13は、エアシリンダや油圧シリンダにより駆動され、可動ステージ12に載置された照射対象5を照射窓4に押し当てることによって、光透過性樹脂51と光吸収性樹脂52との間に隙間が生じないように加圧する。加圧機構13を動作させると、可動ステージ12が照射窓4に近づく方向に移動し、可動ステージ12と照射窓4との間に照射対象5が挟まった状態になると、可動ステージ12の移動が停止するが、加圧力は作用し続けるので、照射対象5が積重方向に押し続けられる。
加圧力は、照射対象5の接合面の面積の大きさに比例して大きくする必要があるが、例えば0.1〜5MPaの範囲で作用させる。
【0014】
可動ステージ12は、例えば、厚さ0.1〜1mmのアルミニウム板などの水平な上面を有する金属板よりなる。加圧機構13により照射対象5を積重方向に加圧するためには、金属などの剛性のある水平な上面に、照射対象5を載置しなければならないためである。ゴムなどの弾性を有する部材ではなく、金属などの剛性を有する部材によって可動ステージ12を形成することによって、照射対象5に加圧力を均一に作用させることができる。なお、照射対象5が特異な形状をしている場合は、可動ステージ12の表面を照射対象5の形状に合わせて形成することによって、照射対象5に加圧力を均一に作用させることができる。
【0015】
図2は、本発明の樹脂溶着用光源装置2の構成を示す説明用断面図である。
樹脂溶着用光源装置2は、枠体21内に光源部3と照射窓4を備えて構成される。
枠体21は、矩形状の底面22に4つの短辺に、鉛直に延びる側面23が接続された下方開口型の箱状であり、側面23には排気ファン24および給気ファン25が設けられている。排気ファン24を設けることにより、フラッシュランプ30の点灯によって加熱された空気を、枠体21の外部に排出でき、枠体21の内部が過熱されることを防止できる。
【0016】
枠体21の内部中央に光源部3が配置され、枠体21の開口部を塞ぐように照射窓4が固定されている。光源部3は、フラッシュランプ30と反射板31とを備え、枠体21の底面22に固定されている。具体的には、金属性の固定用板32が枠体21の底面22に取り付けられ、反射板31からのびる脚31aと台座33からのびる脚33aとが固定用板32に固定され、反射板31と台座33が固定用板32にぶら下げられている。台座33の脚33aは反射板31の脚31aより長く形成されており、台座33が反射板31より照射窓4に近い位置に配置されるようにしている。台座33は各フラッシュランプ30に対して断面へ字状に形成され、台座33と押さえ板34の間にフラッシュランプ30を挟むことにより保持している。押さえ板34は光を遮らないように、フラッシュランプ30の長手方向両端に配置され、台座33にねじ止め等により固定されている。
【0017】
照射窓4は、加圧装置13によって加圧された照射対象5の突き当て面となるので、枠体21の側面23に確実に固定されている。照射窓4は、平行に配置された2枚のガラス板41a、41bの間に冷媒が導入されるように構成されており、照射対象5側に配置されたガラス板41bの冷媒と接する面にマスク42が形成されている。2枚のガラス板41a、41bに挟まれた空間には、冷媒輸送パイプ44を伝って冷媒が導入される。2枚のガラス板41a、41bは照射窓固定部材43によって保持され、ガラス板41a、41bで挟まれた空間は気密性を有する。
【0018】
図3は、本発明の光源部3を照射窓4から見た概略図を示す。
直管状のフラッシュランプ30が並列に4本配置されており、フラッシュランプ30の発光領域を包含するように反射板31が配置されている。
反射板31は、両サイドがフラッシュランプ30に向かう方向に折り曲げられた板状のアルミニウムよりなる。例えば、4本のフラッシュランプ30の発光領域より上下左右方向にそれぞれ5mmずつ大きい長さを有する縦110mm、横80mmの底面に、その両サイドから45°の傾斜角度をもつ長さ20mmの折り曲げ部が形成されて反射板31が構成される。
【0019】
フラッシュランプ30は、両端が封止され、内部の放電空間にキセノンガスが封入された直管型の石英ガラスまたはサファイア製の放電容器35と、放電空間内において対向配置された電極36を備えるものである。フラッシュランプ30の構成の一例を挙げると、内径が10mm、外径13mmの放電容器35に、キセノンガスが450Torr封入された、発光長100mmのフラッシュランプ30が、離間距離20mmで並列に4本並べられている。
【0020】
図2に示すように、始動性改善のため放電容器35の外面に沿って管軸方向に伸びるよう配設されたトリガー線37が設けられている。フラッシュランプ30から放射される光を遮らないように、トリガー線37はフラッシュランプ30の反射板31側の外面に配設される。トリガー線37は、外径が1mmのニッケルなどの金属線からなり、放電容器35の外壁に沿って、一方の電極36の近傍から他方の電極36の近傍にかけて軸線方向に配置され、図示しないトリガーバンドにより固定される。そして、このトリガー線37に例えば十数KVの高圧を印加すると、発光管の内壁に沿って軸線方向の電界が誘起され、これが引き金となって両電極36間で放電して閃光発光する。なお、トリガー線37を設けず、フラッシュランプ30の電極36間に絶縁破壊電圧以上の高電圧を印加して、放電を開始させることもできる。
【0021】
図4は、本発明のフラッシュランプFLの点灯回路である。
フラッシュランプFLには、瞬間的に放電させるためのエネルギー源として、時間幅の短いパルス電流が入力される。フラッシュランプFLの点灯回路は、コンデンサC、コイルL、トリガー発生回路、昇圧トランスより構成される。パルス電流の時間幅とエネルギー量は、コンデンサの容量C、コイルのインダクタンスL、充電電圧Vの値により調整することができる。例えば、コンデンサ容量Cを2.4mF、インダクタンスLを3.2mF、充電電圧Vを2600Vとして、パルス幅6.4msecのパルス電流がフラッシュランプFLに入力される。
【0022】
図3に示すように、電極36からのびる接続端子にリード線38が接続され、各フラッシュランプ30は直列につながれている。直列に接続することによって、1つの点灯回路で高い充電電圧を各フラッシュランプ30に印加することができる。しかし、直列接続されているので、瞬時に全てのフラッシュランプ30を点灯することはできず、端から順々に点灯されることになる。ただし、最初に点灯するフラッシュランプ30と、最後に点灯するフラッシュランプ30との間の点灯遅れ時間は数μsecなので、樹脂溶着用光源装置2の光源として用いる場合には、この程度の点灯遅れ時間は問題とならない。
【0023】
図5は、本発明の照射窓4を示す概略図である。図5(a)が照射窓4を鉛直方向に切断した断面図、図5(b)が照射窓4を照射対象5側から見た概略図である。
照射窓4は、2枚のガラス板41a、41b、マスク42、照射窓固定部材43、冷媒輸送パイプ44に接続される冷媒導入路47を備えて構成される。マスク42は照射対称側に配置されるガラス板41bの冷媒と接する面にマスク42が形成されており、2枚のガラス板41a、41bは照射窓固定部材43に保持されている。照射窓固定部材43は、ステンレスなどの金属材料よりなり、中央に円形の開口穴45を有する矩形の板部材であり、枠体21の開口部53とほぼ同一の大きさを有する。開口穴45の開口面積はガラス板41a、41bの表面積にほぼ一致し、開口穴45の側面は中央に近づくに従って開口面積が小さくなるように、上下対称に階段状にそれぞれ2段ずつ形成されている。中央から、1段目45a、2段目45bと呼ぶ。
【0024】
ガラス板41a、41bは、石英ガラスよりなり、例えば、直径200mmで、厚さ10mmの円板状の石英ガラスよりなる。照射対象5側に配置されるガラス板41bの冷媒と接する面の中央には、円板状のマスク42が接着剤によって貼着される。マスク42は、ステンレス、アルミニウム、銀などの金属よりなり、例えば、直径50mmで、厚さ0.1mmの薄板である。マスク42の形状は、照射対象5の溶着部分の形状に応じて適宜変更する。また、厚さ0.1〜100μmのマスク42を用いることもでき、ガラス板41bの冷媒と接する面に印刷焼成、または、スパッタ処理することにより形成できる。
【0025】
開口穴45の1段目45aにOリング46を介してガラス板41bが載置される。ガラス板41bの外表面にもOリング46が配置され、さらにその上から固定板50を配置している。固定板50は、幅150mmのリング状で、金属よりなる板部材であり、開口穴45の2段目45bにネジによって数箇所で止めて固定されている。Oリング46を介してガラス板41bを挟み込んで固定しているので、ガラス板41bの内側と外側で空間を分離することができる。照射窓固定部材43の開口穴45の両側に、向かい合うガラス板41a、41bの内面(冷媒と接する面)の間隔が、例えば10mmとなるように2枚のガラス板41a、41bを配置することにより、ガラス板41a、41bの内側に気密空間が形成される。なお、ガラス板41a、41bは照射窓固定部材43に機械的に固定されているので、適宜取り外して交換することができる。マスク42が損耗した場合も、照射対象5側に配置されるガラス板41bを交換することによって、新しいマスク42に交換することができる。
【0026】
図5(b)に示すように、照射窓固定部材43の向かい合う2つの外側面48に、それぞれ4本の冷媒導入路47が接続されている。冷媒は冷媒輸送パイプ44を伝って輸送され、一方の外側面48に形成された4本の冷媒導入路47に分岐されて照射窓固定部材43の内部に導入される。ガラス板41a、41bの内側の気密空間に導入された冷媒は、再び、他方の外側面48に形成された4本の冷媒導入路47から導出され、さらに、4本の冷媒導入路47が合流して冷媒輸送パイプ44を伝って輸送される。冷媒は、図2に示す冷媒循環ポンプ49により冷媒輸送パイプ44内を一定流量で循環され、例えば、純水が用いられ、流量を0.5L/minとなるように循環させられる。液体の冷媒は冷却効果が高く、特に純水は、紫外線領域においてフラッシュランプ30から放射される光を吸収しにくいという点で優れるが、純水のほかに、水道水、アルコール、窒素ガス、アルゴンガス、空気なども利用することができる。
【0027】
続いて、樹脂溶着装置1を駆動する制御システムについて説明する。図1に示すように、樹脂溶着装置1を駆動する制御部として、操作パネル61、溶着装置制御部62、フラッシュ電源部63が設けられている。操作パネル61は作業者が入力をする画面であり、操作パネル61の入力信号は溶着装置制御部62に入力されるようになっている。溶着装置制御部62は、樹脂溶着装置1を駆動するメインの制御部であり、溶着装置制御部62の出力信号が、加圧機構13とフラッシュ電源部63とに入力される。
【0028】
樹脂溶着装置1の作動手順は以下のようになる。可動ステージ12に照射対象5を設置したのち、樹脂溶着装置1を駆動して照射装置を溶着するように操作パネル61に作動信号を入力する。入力を受けた操作パネル61は、作動信号を溶着装置制御部62に入力する。そして溶着装置制御部62は、まず加圧機構13に信号を送り、加圧機構13がエアシリンダを駆動して可動ステージ12を上昇させる。加圧機構13が駆動して照射対象5の積重方向に加圧力が働くまでには、約1〜3秒を必要とする。
【0029】
溶着装置制御部62は、加圧機構13に信号を送ると同時にフラッシュ電源部に充電信号を送り、図4に示すコンデンサCへの充電を開始させる。溶着装置制御部62は、さらに同時にタイマー回路を駆動し、10〜20秒経過した後、図4に示すコンデンサCへの充電完了を確認後、フラッシュ電源部63に点灯信号を送る。加圧機構13の駆動時から3秒以上経過しているので、照射対象5には積重方向に加圧力が働いている。この状態でフラッシュ電源部63においてフラッシュランプ30の点灯回路が駆動され、フラッシュランプ30が点灯される。フラッシュランプ30から放射される光は、光透過性樹脂51の上面から透過して、光吸収性樹脂52の表面で吸収されて、光吸収性樹脂52の表面が加熱溶融する。このような反応により、光吸収性樹脂52と光透過性樹脂51との当接部分が溶着される。照射対象の積重方向に加圧力を作用させて、光透過性樹脂と光吸収性樹脂とが隙間なく当接した状態で溶着処理しているので、溶着不良が生じない。
【0030】
フラッシュランプ30が点灯してから照射対象5の溶着が完了するまでには、約0.1〜1秒かかる。フラッシュ電源部63に点灯信号を送ってからフラッシュランプ30が点灯するまでにかかる時間も考慮して、フラッシュ電源部63に点灯信号を送ったときから1〜2秒経過した後、加圧機構13に再び信号を送る。この信号を受けて、加圧機構13はエアシリンダを停止して可動ステージ12を下方に移動させて元の位置に戻し、溶着された照射対象5を取り外しできるようにする。
【0031】
図6は、本発明の照射対象5を示す概略図である。
照射対象5は、照射窓4側に配置される光透過性樹脂51も、可動ステージ12側に配置される光吸収性樹脂52も、いわゆるエンジニアリング樹脂より形成される。エンジニアリング樹脂とは、耐熱性を維持できる温度が100℃以上で、強度が49MPa(500kgf/cm)以上であり、曲げ弾性率が2.4GPa(24000kgf/cm)以上であるという特性を持つ、熱可塑性樹脂の総称であり、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m―PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが含まれる。なお、必要に応じて、ガラス繊維、カーボン繊維などの補強繊維や着色剤を添加したものを用いることもできる。また、光吸収性樹脂52としては、エンジニアリング樹脂に、カーボンブラック、染料や顔料などの所定の着色剤を混入させて、光の透過率を低減させたものが用いられる。
【0032】
エンジニアリング樹脂は、主に結晶性樹脂であり、融点以下の温度では樹脂を構成する高分子鎖が規則正しく配列するので、光の透過率が低いという特徴がある。ポリアセタール(POM)やポリブチレンテレフタレート(PBT)は、光の透過率が低い乳白色をしており、ポリ塩化ビニル(PVC)などの汎用樹脂と比較して融点の温度が高いという特徴がある。また、ガラス繊維などの無機材料フィラーを樹脂に混入させて強度を向上させた無機材料フィラーを添加した樹脂材も、ガラス繊維と樹脂との界面で光が散乱されるため、光の透過率が低くなるという特徴を有する。
【0033】
照射対象5の形状は、例えば、直径50mm、厚さ2〜3mm円盤状の光透過性樹脂51と、外径50mm、内径30mm、高さ30mm、底面厚さ3mmの上面が開口した有底筒状の光吸収性樹脂52により構成され、光吸収性樹脂52の開口部53を覆って塞ぐようにして光透過性樹脂51が配置される。光吸収性樹脂52の開口部53の上端と光透過性樹脂51との当接部分を溶着させることによって、密閉容器が構成される。なお、照射対象5は必要とされる密閉容器の形状に合わせて、光透過性樹脂51および光吸収性樹脂52の形状、並びに、溶着部分を適宜選択することができる。
【0034】
照射対象5は、1mm以上の厚みを有する光透過性樹脂51の上面から光を照射し、透過した光によって光吸収性樹脂52を加熱して、光透過性樹脂51と光吸収性樹脂52とを溶着させている。結晶性のエンジニアリング樹脂は、フラッシュランプ30の発光領域である波長200nm〜波長1000nmの光の透過率が低いという性質があるため、光透過性樹脂51の表面に照射された光は、光透過性樹脂51を透過して裏面から放射され、光吸収性樹脂52の表面に届くまでに減衰される。光吸収性樹脂52の表面まで届く光は、光透過性樹脂51の表面に照射された光の照射エネルギーの60%以下となる。
【0035】
例えば、光透過性樹脂51として厚さが1mmのポリアセタール(POM)を用いた場合、表面に光が照射されて、光透過性樹脂51を透過して裏面から放射される光の光量は、表面に照射された光の光量に対して、60%程度となる。すなわち、光透過性樹脂51の光の透過率は60%となる。
また、光透過性樹脂51として厚さが2mmのポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いた場合、表面に光が照射されて、光透過性樹脂51を透過して裏面から放射される光の光量は、表面に照射された光の光量に対して、20%程度となる。すなわち、光透過性樹脂51の光の透過率は20%となる。
【0036】
その上、エンジニアリング樹脂は融点が高いので、光吸収性樹脂52の表面が溶融する温度に加熱させるためには、より高い照射エネルギーを光透過率の高い光吸収性樹脂52の表面に照射しなければならない。したがって、光透過性樹脂51の表面に与える必要がある照射エネルギーは、光の透過率の高い汎用樹脂を用いて溶着させる場合に比べて、おおよそ2倍以上となる。
【0037】
例えば、厚さが1mmのポリアセタール(POM)よりなる光透過性樹脂51と、ポリアセタール(POM)よりなる光吸収性樹脂52を溶着させるには、光透過性樹脂51の表面に入射する光の照射エネルギー密度を15J/cm必要とする。
また、厚さが2mmのポリブチレンテレフタレート(PBT)よりなる光透過性樹脂51と、ポリブチレンテレフタレート(PBT)よりなる光吸収性樹脂52を溶着させるには、光透過性樹脂51の表面に入射する光の照射エネルギー密度を35J/cm必要とする。
一方、光の透過率の高い汎用樹脂として、厚さが2mmのポリ塩化ビニル(PVC)よりなる光透過性樹脂51と、カーボンブラックを混合して着色されたポリ塩化ビニル(PVC)よりなる光吸収性樹脂52を溶着させるには、光透過性樹脂51の表面に入射する光の照射エネルギー密度が5J/cmで十分である。
【0038】
このように、照射対象5としてエンジニアリング樹脂を用いる場合には、15J/cm以上の強い照射エネルギー密度の光を光透過性樹脂51の表面に入射して、溶着しなければならない。これを実現するためには、光源部3から強い照射エネルギー密度の光を放射させて、照射窓4を介して照射対象5に照射することになる。すなわち、照射対象5だけでなく、照射窓4にも15J/cm以上の強い照射エネルギー密度の光が照射される。一般に、マスク42となる極薄い金属に15J/cm以上の強い照射エネルギー密度を当てると、温度が著しく上昇し酸化や反りなどの劣化が生じる。
【0039】
しかしながら、本発明の樹脂溶着用光源装置2のように、マスク42が冷媒によって冷却されているので、マスク42が過熱されず、温度上昇によるマスク42の劣化を防止することができる。具体的には、マスク42を冷媒によって冷却することにより、光透過性樹脂51の表面に入射される光の照射エネルギー密度が40J/cm程度までならマスク42に劣化を生じさせない。冷媒によって冷却されているマスク42を用いれば、強い照射エネルギー密度を必要とするエンジニアリング樹脂を溶着する用途にも、光源としてフラッシュランプ30を用いることができる。冷媒によって冷却されているマスク42によって光を遮蔽して、照射対象5の溶着部分だけに光が照射されるようにして、照射対象5の溶着部分以外や照射対象5の内部に照射エネルギー密度の高い光が導入されて温度が上昇することを防ぐと共に、短時間に広い領域に光を照射できるフラッシュランプ30を用いて、短時間で溶着処理を完了することができる。
【0040】
また、光の透過率が60%以下のエンジニアリング樹脂よりなる光透過性樹脂51を照射対象5として用いる場合には、光透過性樹脂51に光を透過して光吸収性樹脂52と溶着させる際に、光透過性樹脂51にも光が吸収されて、光透過性樹脂51も温度が上昇する。光透過性樹脂51はマスク42が形成されているガラス板41bに押し当てられて溶着処理されるため、光透過性樹脂51に蓄積された熱がガラス板41bに伝導し、ガラス板41bの温度が上昇する。
【0041】
しかしながら、本発明の樹脂溶着用光源装置2のようにガラス板41bが冷媒によって冷却されていれば、ガラス板41bの温度は上昇しない。冷媒によって冷却されているガラス板41bを用いることによって、エンジニアリング樹脂を溶着するために強い照射エネルギーを照射しても、ガラス板41bの温度が上昇しないため、前の溶着処理が終わった後、すぐに次の溶着処理のために、加圧機構13を作動して照射対象5の光透過性樹脂51をガラス板41bに当接しても、光透過性樹脂51が熱変形する不具合が発生しない。したがって、一連の溶着処理を数十秒間隔で行うことができ、短時間に大量の照射対象5を溶着させることができる。
【0042】
また、本発明の樹脂溶着用光源装置2のように、平行に配置された2枚のガラス板41a、41bの間に冷媒が導入されるように構成されており、照射対象5側に配置されたガラス板41bの冷媒と接する面にマスク42が形成されているので、単純でコンパクトな構成でマスク42とガラス板41bとの両方を冷媒によって冷却することができる。
【0043】
続いて、本発明の実施例について説明する。
〔実施例1〕
図1に示す樹脂溶着装置を製作し、フラッシュランプを点灯した後、マスクの劣化の有無を調べた。
樹脂溶着装置の構成は下記の通りである。
<仕様>
・フラッシュランプ:発光長100mm、内径10mm、外径13mm、封入ガス(Xe、450Torr)
4本直列接続
・照射窓 ガラス板:石英ガラス製、厚さ10mm、マスク:ステンレス製、厚さ0.1mm
・加圧機構 :荷重500N
・冷媒 :水道水、流量0.5L/min
照射対象の光透過性樹脂の表面に入射する光の照射エネルギー密度が5J/cm〜45J/cmとなる範囲において、フラッシュランプを20秒間隔で1回点灯させるタイミングで樹脂溶着装置を10分間駆動し、点灯後のマスクの劣化の有無を調べた。マスクが酸化して茶色に変色したことや、マスクが反って変形したことが目視で確認された場合には、マスクが劣化したと判断した。
また、比較実験として、この樹脂溶着装置において冷媒を流通させない場合についても、同様にマスク劣化の有無を調べた。
【0044】
図7に実験結果を示す。照射エネルギー密度の各条件に対し、マスク劣化がなかった場合を「×」とし、マスク劣化があった場合を「○」として表記した。
実験結果より、冷却がない場合、すなわち、マスクが冷媒によって冷却されていない場合には、光透過性樹脂の表面に入射される光の照射エネルギー密度が15J/cm以上になるとマスクが劣化することがわかった。また、冷却がある場合、すなわち、マスクが冷媒によって冷却されている場合には、光透過性樹脂の表面に入射される光の照射エネルギー密度が45J/cm以上になるとマスクが劣化することがわかった。
以上より、マスクを冷媒により冷却することによって、光透過性樹脂の表面に入射される光の照射エネルギー密度が15J/cm以上、40J/cm以下となるような条件で樹脂溶着装置を使用しても、マスクに劣化を生じさせないことがわかった。
【0045】
〔実施例2〕
図1に示す樹脂溶着装置を製作し、フラッシュランプを点灯した後、照射対象の溶着の良否を調べた。
樹脂溶着装置の構成は実施例1の通りであるが、照射対象を以下の通りとした。
<照射対象>
試料1.ポリアセタール(POM)
光透過性樹脂:ポリアセタール(POM)、厚み1〜3mm
光吸収性樹脂:カーボンブラックを混入して着色されたポリアセタール(POM)
試料2.ポリブチレンテレフタレート(PBT)
光透過性樹脂:ポリブチレンテレフタレート(PBT)、厚み1〜2mm
光吸収性樹脂:カーボンブラックを混入して着色されたポリブチレンテレフタレート(PBT)
試料3.ポリ塩化ビニル(PVC)
光透過性樹脂:ポリ塩化ビニル(PVC)、厚み2mm
光吸収性樹脂:カーボンブラックを混入して着色されたポリ塩化ビニル(PVC)
【0046】
図8に実験結果を示す。図8(a)に試料1に関する実験結果を示し、図8(b)に試料2に関する実験結果を示す。照射エネルギー密度の各条件に対し、光透過性樹脂と光透過性樹脂とが適切に溶着した場合を「○」とし、溶着したが強度が弱かった場合を「△」とし、溶着しなかった場合を「×」として表記した。
試料1について、光透過性樹脂の厚みが1mmのとき、15J/cm以上の照射エネルギー密度の光を照射すれば適切な溶着ができ、光透過性樹脂の厚みが2mmのとき、20J/cm以上の照射エネルギー密度の光を照射すれば適切な溶着ができ、光透過性樹脂の厚みが3mmのとき、25J/cm以上の照射エネルギー密度の光を照射すれば適切な溶着ができることがわかった。
試料2について、光透過性樹脂の厚みが1mmのとき、30J/cm以上の照射エネルギー密度の光を照射すれば適切な溶着ができ、光透過性樹脂の厚みが2mmのとき、35J/cm以上の照射エネルギー密度の光を照射すれば適切な溶着ができることがわかった。
なお、試料3については、照射エネルギー密度が5J/cmのときに、光透過性樹脂と光透過性樹脂とが適切に溶着することを確認した。
【0047】
実験結果より、照射対象をポリアセタール(POM)やポリブチレンテレフタレート(PBT)からなるエンジニアリング樹脂により照射対象を形成した場合は、光透過性樹脂と光透過性樹脂とを適切に溶着させるために、光透過性樹脂の表面に入射される光の照射エネルギー密度を少なくとも15J/cm以上要することがわかった。すなわち、エンジニアリング樹脂を溶着するためには、強い照射エネルギー密度を必要となることが確かめられた。実施例1の実験結果によると、強い照射エネルギー密度を受けると、冷媒によって冷却されていないマスクは劣化する。したがって、光の透過率が低いエンジニアリング樹脂を、光源にフラッシュランプを有する樹脂溶着装置で溶着するためには、冷媒によって冷却されているマスクを必要とすることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の樹脂溶着装置の構成を示す説明用断面図
【図2】本発明の樹脂溶着用光源装置の構成を示す説明用断面図
【図3】本発明の光源部を照射窓から見た概略図
【図4】本発明のフラッシュランプの点灯回路
【図5】本発明の照射窓を示す概略図
【図6】本発明の照射対象を示す概略図
【図7】本発明の実施例1の実験結果を示す表
【図8】本発明の実施例2の実験結果を示す表
【符号の説明】
【0049】
1 樹脂溶着装置
11 筐体
12 可動ステージ
13 加圧機構
2 樹脂溶着用光源装置
3 光源部
31 フラッシュランプ
30 反射板
4 照射窓
41a、41b ガラス板
42 マスク
43 照射窓固定部材
44 冷媒輸送パイプ
5 照射対象
51 光透過性樹脂
52 光吸収性樹脂
61 操作パネル
62 溶着装置制御部
63 フラッシュ電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジニアリング樹脂、または、無機材料フィラーを添加した樹脂材より形成される光透過性樹脂および光吸収性樹脂が積重されてなる照射対象を、前記光透過性樹脂の上面から光を照射し、透過した光によって前記光吸収性樹脂を加熱して、前記光透過性樹脂と前記光吸収性樹脂とを溶着させる樹脂溶着用光源装置であって、
フラッシュランプを備えた光源部から照射された光が、ガラス板とマスクとを備えた照射窓を介して前記照射対象に照射されるように構成され、
前記マスクが冷媒によって冷却されることを特徴とする樹脂溶着用光源装置。
【請求項2】
前記ガラス板が冷媒によって冷却されることを特徴とする請求項1に記載の樹脂溶着用光源装置。
【請求項3】
前記照射窓は、平行に配置された2枚のガラス板の間に冷媒が導入されるように構成されており、照射対象側に配置されたガラス板の冷媒と接する面に前記マスクが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂溶着用光源装置
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂溶着用光源装置と、加圧機構と、可動ステージとを有し、前記可動ステージに前記照射対象を載置し、前記照射窓に前記光透過性樹脂を押し当てることによって、前記照射対象の積重方向に加圧力を作用させることを特徴とする樹脂溶着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−184295(P2009−184295A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28873(P2008−28873)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】