説明

樹脂用の柔軟性付与剤及び当該柔軟性付与剤を含有する生分解性樹脂組成物

【課題】樹脂の柔軟性付与剤を提供する。
【解決手段】モノカルボン酸成分及び/又はモノアルコール成分の存在下又は不存在下に多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、全カルボン酸成分に対する全アルコール成分の割合が2.5モル比以下の条件下にエステル化反応して得られ、上記の多価カルボン酸成分の70重量%以上がコハク酸であり、上記の多価アルコール成分の70重量%以上がトリエチレングリコールである、エステル化反応物から成る、樹脂の柔軟性付与剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂用の柔軟性付与剤に関し、特にポリ乳酸系樹脂を対象とし、これに特定のエステル化反応物を配合することによって、柔軟性、耐衝撃性を付与し、かつ成形加工性を向上させることが出来る柔軟性付与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂は、安価で柔軟性、加工性に優れるため、成形品材料として広く使用されている。一方、近年、特に、環境に配慮する観点から、植物由来原料を使用した樹脂や生分解性樹脂が使用される様になってきた。その代表的な例として、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、これらの共重合体または変性物が挙げられる。
【0003】
これらの樹脂原料である乳酸やコハク酸は、とうもろこし、サトウキビ等の植物から工業的に生産する技術が開発され、石油に依存せず、再生可能な原料である。また、これらの酸から得られる樹脂は、生分解性であり、環境負荷が小さく、所謂「環境にやさしい樹脂」ということが出来る。
【0004】
これらの「環境にやさしい樹脂」の中でも、強度が強く且つ透明性を有するものとして、ポリ乳酸、乳酸を主成分とする共重合体及びこれらを主成分とする混合物(以下、ポリ乳酸系樹脂という)が広く使用されている。しかしながら、ポリ乳酸系樹脂は、硬くて脆いため使い勝手が悪く、この点が大きな欠点であり、種々改良の検討が行われている。その方法としては、当該樹脂にソフトセグメントを導入する変性を加える方法と、従来より多用されている可塑剤を配合する方法が多数提案されている(例えば特許文献1及び2参照)。しかしながら、ソフトセグメントを導入する方法は樹脂物性に対する悪影響を回避しつつ柔軟性や加工性の向上を図ることが出来るが、概してコストが掛かり、この点が欠点となってる。一方、可塑剤(柔軟性付与剤)を配合して柔軟性や加工性を向上させる方法は、低コストで目的を達することが出来る点で優れているが、従来の可塑剤は、ポリ乳酸系樹脂との間の分子間力が小さく、他の物性に悪影響を及ぼし、また、添加した可塑剤のブリードアウトも問題となっている。
【0005】
上記の従来の可塑剤を使用した場合の欠点を改善する方法として、二塩基酸と二価アルコールの繰り返し単位から成り、かつ末端を一塩基酸及び/又は一価アルコールで封止したポリエステル系可塑剤を使用する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。この方法においては、末端を一塩基酸及び/又は一価アルコールで封止し、酸価と水酸基価を低下させ、酸価と水酸基価の合計を40以下とすることにより、ポリマーとの相溶性や耐水性を向上させ、また、数平均分子量を500〜2000とすることにより可塑効果が高くブリードアウトが発生し難くなるとされているが、具体的に記載されたアジピン酸を主成分とするポリエステル系可塑剤について本発明者らが検討した結果、ポリ乳酸との相溶性が低く、柔軟性の向上も満足できるものではなかった。
【0006】
一方、乳酸を主成分とする重合体に対し脂肪族ジカルボン酸と鎖状分子ジオールを主成分とする脂肪族ポリエステルを可塑剤として使用する際、可塑剤と乳酸を主成分とする重合体との親和性を高めることを目的として、乳酸の共重合成分として可塑剤と近似性の高い成分を使用する方法が提案されている(例えば特許文献4参照)。しかしながら、使用する共重合成分によっては、重合体の融点や耐熱性が低下するため、重合体の用途が制約される問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平9−12851号
【特許文献2】特開平9−12699号
【特許文献3】特開平7−118513号
【特許文献4】特開平8−245866号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、生分解性樹脂、特にポリ乳酸系樹脂に対し、樹脂物性に悪影響を与えることなく、柔軟性や加工性を向上させることの出来る新規な柔軟性付与剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、原料として特定の多価カルボン酸と特定の多価アルコールを使用したエステル化反応物は、ポリ乳酸系樹脂との相溶性が著しく高く、低コストで且つ樹脂物性に悪影響を及ぼすことなく、ポリ乳酸系樹脂の柔軟性や加工性を向上させるとの知見を得、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の要旨は、モノカルボン酸成分及び/又はモノアルコール成分の存在下又は不存在下に多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、全カルボン酸成分に対する全アルコール成分の割合が2.5モル比以下の条件下にエステル化反応して得られ、上記の多価カルボン酸成分の70重量%以上がコハク酸であり、上記の多価アルコール成分の70重量%以上がトリエチレングリコールである、エステル化反応物から成ることを特徴とする樹脂の柔軟性付与剤に存する。
【0011】
本発明の第2の要旨は、生分解性樹脂に上記の柔軟性付与剤を配合して成り、当該樹脂100重量部に対する柔軟性付与剤の割合が0.01〜60重量部であることを特徴とする生分解性樹脂組成物に存する。
【0012】
本発明の第3の要旨は、上記の生分解性樹脂組成物から成ることを特徴とする成形品に存する。
【0013】
そして、本発明の第4の要旨は、前記の生分解性樹脂組成物を加熱成形することを特徴とする成形品の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の柔軟性付与剤は、生分解性樹脂組成物、特にポリ乳酸系樹脂に配合することにより、柔軟性を付与すると共に耐衝撃性や加工成形性を改良することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
先ず、本発明の柔軟性付与剤について説明する。本発明の柔軟性付与剤は、基本的には、モノカルボン酸成分及び/又はモノアルコール成分の存在下又は不存在下に多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とをエステル化反応して得られる、エステル化反応物から成る。上記の多価カルボン酸成分としては、2価又は3価の脂肪族又は芳香族多価カルボン酸が好ましく、多価アルコール成分としては脂肪族多価アルコールが好ましい。
【0016】
上記の多価カルボン酸成分の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、リンゴ酸、クエン酸、これらの酸無水物などが挙げられる。これらは二種以上を併用してもよい。
【0017】
上記の多価アルコール成分の具体例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。また、その他の多価アルコール成分としては、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチルペンタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられ。これらは二種以上を併用してもよい。
【0018】
本発明においては、使用する多価カルボン酸成分の70重量%以上がコハク酸であり、使用する多価アルコール成分の70重量%以上がトリエチレングリコールであることが重要であり、その理由は次の通りである。
【0019】
コハク酸は、その炭素鎖長に由来する極性、すなわち、ポリ乳酸系樹脂との相溶性に優れる。より長い炭素鎖を有するアジピン酸や芳香環を有するフタル酸の場合は、ポリ乳酸との相溶性が悪く、柔軟性付与剤としての効果が小さかったり、配合量を多く出来ない。また、コハク酸は、乳酸と同様、植物由来原料から発酵法によって製造する技術が確立され、今後、植物由来コハク酸が安価になると期待される。更に、一般にコハク酸化合物は生分解性も優れている。また、コハク酸とエステル化反応させる多価アルコール成分としては、得られるエステル化反応物の極性、すなわち、ポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点から、トリエチレングリコールが優れている。多価カルボン酸成分中のコハク酸の割合が70重量%未満の場合、または、多価アルコール成分中のトリエチレングリコールの割合が70重量%未満の場合は、何れも、ポリ乳酸との相溶性が悪くなる。多価カルボン酸成分中のコハク酸の割合および多価アルコール成分中のトリエチレングリコールの割合は、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは98重量%以上である。
【0020】
更に、多価アルコールとして、ジエチレングリコールを使用した場合は、エステル化反応時に有害なジオキサンを副生し、その残存量が無視できず、衛生上の問題があり、また、得られるエステル化反応物の粘度が高くなり取扱上の問題が生じる。テトラエチレングリコールを使用した場合は、得られるエステル化反応物に着色が認められ、ひいては樹脂組成物の着色に繋がる。また、ポリ乳酸系樹脂との相溶性が低下する。
【0021】
モノカルボン酸成分及び/又はモノアルコール成分(末端変性剤)の存在下に、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とをエステル化反応して得られるエステル化反応物は、末端をアルキル変性したアルキル末端変性物として得られる。この場合、末端変性剤として好ましい成分は、反応の制御などの観点から、モノアルコール成分である。
【0022】
モノカルボン酸としては、炭素数が通常1〜18、好ましくは1〜12の脂肪族または芳香族カルボン酸が使用され、その具体例としては、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ラウリル酸、安息香酸などが挙げられる。モノアルコールとしては、炭素数が通常1〜18、好ましくは1〜12の脂肪族モノアルコールが使用され、その具体例としては、2−エチルヘキサノール、イソノニルアルコール、デカノール等が挙げられる。エステル化反応物のアルキル末端変性物における変性率は、特に制限がなく、完全変性でも部分変性でもよいが、安定した組成のエステル化反応物を得るためには、完全変性が好ましい。
【0023】
本発明において、エステル化反応物は、公知の方法に従って、前記のカルボン酸成分(多価カルボン酸やモノカルボン酸など)とアルコール成分(多価アルコールやモノアルコール等)を原料としたエステル化反応により得られる。エステル化反応では、一般に、エステル化触媒として酸触媒が使用される。酸触媒として使用されるルイス酸としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のオルトチタン酸エステル;ジエチル錫オキシド、ジブチル錫オキシド等の錫系化合物;酸化亜鉛などの金属化合物が挙げられる。また、ルイス酸の他には、パラトルエンスルホン酸などのブレンステッド酸を使用してもよい。これらの触媒の使用量は、原料のカルボン酸とアルコール成分の合計に対し、通常0.01〜1.0重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%、更に好ましくは0.01〜0.1重量%である。
【0024】
本発明において、上記のエステル化反応は、全カルボン酸成分に対する全アルコール成分の割合が2.5モル比以下(好ましくは2.0モル比以下)の条件下に行なう。全カルボン酸成分に対する全アルコール成分の割合が2.5モル比を超える場合、得られるエステル化反応物の数平均分子量が小さくなり、また、分子量分布が低分子量側にシフトして未反応アルコールの多い平均組成となり、柔軟性付与剤として好ましいエステル化反応物が得られない。エステル化反応物の組成としては、二量体以上の成分の含有量が40重量%以上で且つ未反応成分及び単量体の含有量が5〜60重量%であることが好ましい。未反応成分及び単量体成分の含有量が60重量%を超える場合は、樹脂との相溶性が低下したり、ブリードアウトの量が増加する恐れがあり、本発明の柔軟性付与剤として好ましくない。ここで、二量体以上の成分とは、分子内に多価カルボン酸残基を2つ以上有するエステル化反応物である。また、エステル化反応物の粘度(45℃の測定値)は、通常300〜10万mPa・s、好ましくは500〜5万mPa・sである。
【0025】
全カルボン酸成分に対する全アルコール成分の割合(モル比)が1を超える場合は、水酸基末端のエステル化反応物が得られ、1未満の場合はカルボキシル基末端のエステル化反応物が得られる。エステル化反応物の平均官能基数(1分子中の官能基の数)は、通常0〜4、好ましくは0〜3である。なお、全カルボン酸成分に対する全アルコール成分の割合の下限は、通常0.5、好ましくは0.8である。
【0026】
水酸基末端のエステル化反応物を得る場合、全カルボン酸成分に対する全アルコール成分の割合は、通常1.1モル比以上、好ましくは1.2モル比以上である。カルボン酸成分のカルボキシル基1当量に対するアルコール成分の水酸基の当量としては、通常1.05〜3.0当量、好ましくは1.1〜2.5当量である。モノアルコール不存在下の場合、水酸基末端のエステル化反応物の水酸基価は、通常50〜400mgKOH/gである。水酸基価が50mgKOH/g未満の場合、エステル化反応物の数平均分子量が大きくなり、粘度が高くなり、取扱上の問題を生じる。一方、水酸基価が400mgKOH/gを超える場合、エステル化反応物の数平均分子量が小さくなり、また、分子量分布が低分子側にシフトして未反応アルコールの多い平均組成となり、好ましくない。
【0027】
なお、水酸基価はエステル化反応物の水酸基の量を示すものであり、モノアルコール不存在下の場合、官能基数を組み合わせた以下の式(1)で数平均分子量に換算することが出来る。数平均分子量が高くなるに従って粘度が向上し、操作性が悪化する。従って、エステル化反応物の数平均分子量は一般に400〜2500が好ましい。
【0028】
数平均分子量=56.1×官能基数×1000/水酸基価 (1)
【0029】
反応温度は、通常150〜250℃、好ましくは180〜230℃である。例えば、150℃で反応を開始し、反応の進行に伴って230℃まで徐々に昇温する様な条件であれば、反応を制御し易い。また、反応圧力は、常圧でもよいが、副生する水を系外に除去し、反応を速やかに完結させるため、反応の進行に伴って徐々に減圧するとよい。ただし、反応時の減圧度が不足するとエステル化反応の完結度が低くなり、酸価の高いエステル化反応物が生成する。一方、反応時に過度に減圧にすると、アルコール成分が系外に留去され収率を損なうばかりか、高分子量のエステル化反応物が形成され、得られたエステル化反応物の粘度が著しく上昇して取り扱いが困難となる。従って、適切な到達反応圧力は、反応温度によっても異なるが、例えば、反応温度が200℃の場合、通常2〜50kPa、好ましくは5〜30kPaである。勿論、目標とするエステル化反応物の粘度や水酸基価、原料の種類、使用量によっては、上記の圧力範囲以外の条件で反応を行ってもよい。また、減圧する代わりに、トルエン、キシレン等の有機溶媒を少量併用して副生する水を系外に共沸させて除去してもよい。
【0030】
反応の終点は、通常、使用したカルボン酸成分の未反応カルボキシル基の量で決定する。水酸基末端のエステル化反応物を得る場合においては、未反応のカルボキシル基の量(すなわち酸価)は、出来るだけ低い方が好ましく、通常10mgKOH/g以下、好ましくは5mgKOH/g以下、更に好ましくは3mgKOH/g以下である。一方、カルボキシル基末端のエステル化反応物を得る場合には、所望する酸価になる様に反応を行なう。
【0031】
上記の様にして得られたエステル化反応物は、アルコール成分を過剰に仕込む条件では、通常、使用したカルボン酸成分とアルコール成分から成る構造を有するエステル化反応物と未反応のアルコール成分とから成る。
【0032】
また、エステル化反応物の水酸基価を一定の目標値に保つ(すなわち、数平均分子量を一定に保つ)には、エステル化反応中にエステル交換反応に伴って平衡状態にあるアルコール成分を極力反応系外に留出させないことが重要である。アルコール成分の留出が多すぎると、エステル化反応物の平均官能基数が当初の製品設計に対して異なったものになったり、平均分子量が大きくなり、その結果、得られるエステル化反応物の粘度が著しく大きくなる。従って、エステル化反応中に系外に留出するアルコール成分の量は、全アルコール成分に対し、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。
【0033】
但し、目標とするエステル化反応物の粘度や水酸基価、原料アルコール成分の使用量によっては、上記の範囲を超えてアルコール成分を留去してもよい。例えば、モノアルコールで末端アルキル変性する場合は、エステル化反応物の目標組成より20〜30重量%過剰にモノアルコールを仕込み、反応終結前にその過剰仕込み分を留去する。
【0034】
なお、反応開始時には、生成するエステル化反応物の着色を防ぐために反応容器の空間部を窒素置換し、更に、反応液中の溶存酸素も除去することが好ましい。また、反応終了の後に、適当な減圧条件下に、未反応のアルコール成分を系外に留去させて、エステル化反応物の物性や性能を調節してもよい。反応形式は、通常のバッチ方式又は連続方式の何れでもよいが、反応時間が長時間に渡ること、得られるエステル化反応物の粘度が原料のアルコール成分に比べてかなり高くなること等からバッチ方式が好ましい。
【0035】
また、エステル化反応で添加された触媒は、通常、微量であり、また、テトライソプロピルチタネートの様な金属触媒は、副生水によって、反応終結時にはかなり失活しており、樹脂に配合する際に殆ど問題とならない。しかしながら、必要があれば、失活させて除去することは可能である。また、反応初期を無触媒で反応させ、反応率がある程度(例えば90%以上)に達した時点で触媒を添加する等の工夫により、その使用量を0.01重量%未満にすることも可能である。
【0036】
次に、本発明で使用する生分解性樹脂について説明する。本発明で使用する生分解性樹脂は、自然界において微生物が関与して低分子化合物に分解される生分解性を有する樹脂であり、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル、ポリアルキレンサクシネート/テレフタレート等の脂肪族芳香族ポリエステル等が挙げられる。これらの中では、ポリ乳酸系樹脂に例示される様な、植物由来の原料を使用した樹脂(植物由来樹脂)が好ましく、その具体例としては、ポリ乳酸、ポリアルキレンサクシネート等が挙げられる。ポリ乳酸には、不斉炭素が存在するため、L体、D体、DL混合体が存在するが、それら全てが本発明の対象となる。また、ポリ乳酸の製造法としては、乳酸から環状二量体であるラクチドを合成した後に開環重合によりポリ乳酸を得る方法の他、乳酸から直接に脱水縮合して合成する方法が挙げられる。ポリアルキレンサクシネートとしては、ポリエチレンサクシネートやポリブチレンサクシネート等が挙げられ、生分解性の面からポリブチレンサクシネートが好ましい。更に、(ポリ)乳酸や(ポリ)アルキレンサクシネートに他の共重合成分を共重合またはグラフト重合させた共重合体や変性物なども挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。最も好ましい生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、乳酸を主成分とする共重合、これらの変性体、または、これらを主成分とする混合物である。
【0037】
本発明の生分解性樹脂組成物は、上記の樹脂成分に前記の柔軟性付与剤を配合して成り、樹脂100重量部に対する柔軟性付与剤の割合が0.01〜60重量部であることを特徴とする。柔軟性付与剤の割合は、好ましくは0.1〜50重量部、更に好ましくは、0.5〜40重量部である。配合量が0.01重量部未満の場合は配合効果が殆ど認められず、60重量部を超える場合は一般的に樹脂の形状保持に問題が生じる。
【0038】
本発明の樹脂組成物には、目的や用途に応じ、更に、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤、耐候剤、充填材、滑剤、抗菌剤、加飾剤、着色剤、可塑剤、親水性付与剤などの添加剤を配合させてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
製造例1〜12:
表1に示す12種類のエステル化反応物(A〜L)を次の要領で調製した。すなわち、還流冷却器、加熱装置、温度計、圧力計などを装備した容積が1リットルのガラス製反応器に、目的とする組成モル比に応じ、多価カルボン酸、多価アルコール、モノアルコールを仕込み、反応器の空間部を窒素ガスで置換した後、反応器内容物の加熱を開始した。反応器内温が180℃に達した時点で、触媒としてテトライソプロピルチタネート0.05重量%(対仕込み総量)を仕込み、反応を開始した。その後、2時間かけて内温を200〜210℃に昇温し、反応終了までこの温度に保持した。一方、反応器内の圧力は、内温が180℃の時点から200℃に達するまでは、常圧に対する減圧度で−13.3kPaに維持した。
【0041】
その後、4時間かけて、原料アルコールが留去しない範囲内で徐々に減圧して、組成物によるが、常圧に対する減圧度で−97〜−85kPaまで減圧し、反応が終了するまでこの圧力を保持した(到達反応圧力:4.3〜16.3kPa)。反応物を一部抜き出し、酸価を測定して2.0mgKOH/g未満になったことを確認して反応を終了した。ただし、エステル化反応物CとDはモノアルコールであるイソノニルアルコールで末端アルキル変性(変性率:100%)したものであり、この場合は反応終了前に、過剰に仕込んだイソノニルアルコールを留去した。合成したエステル化反応物の分析結果とポリ乳酸樹脂(三井化学社製「レイシア H−100」)との相溶性試験結果を表2に示した。
【0042】
なお、酸価、水酸基価、粘度、組成比は、以下の様な方法で測定し、全アルコール成分/全カルボン酸成分(モル比)、平均官能基数については、成分構成比から算出した。
【0043】
(1)酸価、水酸基価、粘度:
これらは、何れも、JIS K1557(1970)に規定する方法に準拠して測定した。そして、粘度は、回転粘度計(B型粘度計)を使用し45℃で測定した。
【0044】
(2)組成:
GPC法で測定した。カラムには、東ソー製「TSK-GELG1000HXL」、「TSK-GELG2000HXL」、「TSK-GELG3000HXL」(何れも、直径7.8mm,長さ300mm)を3本直列に接続して使用した。溶離液:THF(流速1.0ml/min)、カラム温度:40℃、検出器:RIの条件で測定した。
【0045】
(3)ポリ乳酸樹脂との相溶性試験:
樹脂100重量部にエステル化反応物を添加しつつ190℃に加熱して混合し、透明性を保持することが出来る最大添加量を求めた。透明性は目視にて判定した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
実施例1〜10、参考例1及び2並びに比較例1及び2:
生分解性樹脂として、ポリ乳酸樹脂(三井化学社製「レイシア H−100」)とポリブチレンサクシネート樹脂(三菱化学社製「GS−Pla AZ−81TN」)を使用した。
【0049】
前述のエステル化反応物A〜Dと上記の生分解性樹脂とを使用し、後述の表4に示す割合でブレンドした。そして、二軸押出成形機(ベルストルフZE40型:φ43、L/D=33.5)を使用し、設定温度180℃、吐出量10kg/hでペレット化を行った。
【0050】
次いで、上記のペレットを40℃で24hr減圧乾燥し、射出成形機(クロックナーF40型)により、80×80×2mmtの鏡面平板に成形した。成形条件は、設定温度:180℃、射出圧力:1次=50kg/cm、2次=40kg/cm、背圧:5kg/cm、計量:42mm、金型温度15℃とした。
【0051】
以下の表3に示すASTMに準拠して上記成形品の物性測定を実施し、その結果を表4に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
表4に示す結果から次のことが明らかである。すなわち、本発明の柔軟性付与剤(エステル化反応物A〜C)を適当量配合することにより、ポリ乳酸系樹脂などの樹脂に柔軟性、耐衝撃性、加工成形性を付与できる。なお、参考例1及び2に示す様に、エステル化反応物Dによっても、柔軟性、耐衝撃性、加工成形性が付与されているが、このエステル化反応物は、表2に示す様に、ポリ乳酸との相溶性が低いため、樹脂組成物に付与し得る柔軟性に限界がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノカルボン酸成分及び/又はモノアルコール成分の存在下又は不存在下に多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを、全カルボン酸成分に対する全アルコール成分の割合が2.5モル比以下の条件下にエステル化反応して得られ、上記の多価カルボン酸成分の70重量%以上がコハク酸であり、上記の多価アルコール成分の70重量%以上がトリエチレングリコールである、エステル化反応物から成ることを特徴とする樹脂の柔軟性付与剤。
【請求項2】
エステル化反応物中の二量体以上の成分の含有量が40重量%以上で且つ単量体及び未反応成分の含有量が5〜60重量%である請求項1に記載の柔軟性付与剤。
【請求項3】
原料のカルボン酸成分及びアルコール成分から計算されるエステル化反応物の平均官能基数が4以下である請求項1又は2に記載の柔軟性付与剤。
【請求項4】
エステル化反応物の末端官能基が水酸基である請求項1〜3の何れか1項に記載の柔軟性付与剤。
【請求項5】
エステル化反応物の水酸基価が50〜400mgKOH/gである請求項1〜4の何れか1項に記載の柔軟性付与剤。
【請求項6】
生分解性樹脂に請求項1〜5の何れか1項に記載の柔軟性付与剤を配合して成り、当該樹脂100重量部に対する柔軟性付与剤の割合が0.01〜60重量部であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
生分解性樹脂が、ポリ乳酸、乳酸を主成分とする共重合体、ポリアルキレンサクシネート、ポリアルキレンサクシネート共重合体、これらの更なる共重合体又は変性物の群のから選ばれる1種または2種以上の混合物である請求項6に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の生分解性樹脂組成物から成ることを特徴とする成形品。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の生分解性樹脂組成物を加熱成形することを特徴とする成形品の製造方法。

【公開番号】特開2007−314751(P2007−314751A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245200(P2006−245200)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】