説明

樹脂組成物、それを用いた電子部品及びその製造方法

【課題】ディスペンサー塗布でのハンドリング性が良好で、塗布量が少なくとも適切に被覆することができる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
常温において液状の熱硬化性樹脂を樹脂組成物中に40Vol%以上有し、融点が70〜150℃の常温において粉末状のろう成分を樹脂組成物中に5〜30Vol%有する。樹脂組成物の常温における粘度が50000〜150000mPa・sであることを特徴とする。
【発明の効果】
樹脂組成物は、樹脂組成物はディスペンサー塗布時には適度な粘度を保持しているため、ハンドリング性が高い。熱硬化時においては低粘度化して流動性が高く、濡れ性の良好な状態となるため、塗布量や注入箇所が少なくとも適切に被覆することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関し、特にディスペンサー塗布に最適の樹脂組成物に関する。また、それを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、巻芯部と一対の鍔部とを備えたドラムコアに巻線を施し、その巻線箇所を熱硬化性樹脂含有の樹脂組成物によって被覆した構成のコイル部品がある。例えば、特許文献1は、ドラムコアに巻線を巻回し、その巻線巻回箇所に磁性粉末と樹脂とを混合させた樹脂組成物を被覆して閉磁路を形成させたコイル部品を開示している。
【特許文献1】特開2007−67081号公報
【特許文献2】特許3704768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的にこのようなコイル部品では、常温での粘度を50000〜150000mPa・sに調整した樹脂組成物を用いる。粘度を調整した樹脂組成物をドラムコアの上鍔部と下鍔部の間の数箇所にディスペンサーを用いて注入して被覆し、硬化させる。閉磁路を形成するためには、ドラムコアに巻回した巻線が露出しないように樹脂組成物によって隙間無く被覆しなくてはならない。そのため、樹脂組成物を隙間無く被覆する場合には、ドラムコアの上鍔部と下鍔部との間に多量に樹脂組成物を注入したり、注入箇所を増やさねばならなかった。例えば、縦×横×高さ寸法が3mm×3mm×1mmのようなコイル部品の場合では、8〜10箇所から注入する必要があり、作業性が悪いとともに注入する樹脂組成物の量が多量となってしまう。
【0004】
ところで、ドラムコアの上鍔部と下鍔部との間に注入した樹脂組成物中の熱硬化性樹脂は、熱硬化、または熱衝撃試験を行うと熱膨張してしまう。樹脂組成物を多量に注入してしまうと、温度変化による熱硬化性樹脂の膨張収縮応力がドラムコアの鍔部に生じてしまい、ドラムコアのクラックが発生することがあった。また、樹脂組成物の注入量が多量であると、コスト上昇を招いてしまう。
【0005】
また、従来の樹脂組成物は粘度が高く、濡れ性が低いため、樹脂組成物が注入した箇所に留まりやすかった。そのため、熱硬化性樹脂の膨張収縮応力を低減するために樹脂組成物の注入量や注入箇所を減らしてしまうと、巻線の表面に樹脂組成物を隙間無く被覆することは困難であった。巻線が露出してしまうと、外観不良が生じるだけではなく、漏れ磁束が生じて閉磁路が形成できずに品質不良を招いてしまう。
【0006】
そこで、従来では常温での粘度を10000mPa・s以下に調整した流動性の良好な樹脂組成物を用いて、樹脂組成物を巻線の外表面の全面に塗布する方法が特許文献2などに提案されている。しかしながら、この方法では樹脂組成物の常温での粘度が著しく低いため、ハンドリング性が悪く、ディスペンサー塗布の際に電源端子やドラムコアに樹脂組成物が付着することもあった。
【0007】
本発明では、ディスペンサー塗布でのハンドリング性が良好で、塗布量が少なくとも適切に被覆することができる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、それを用いた電子部品とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明の樹脂組成物は、常温において液状の熱硬化性樹脂を樹脂組成物中に40Vol%以上有し、融点が70〜150℃の常温において粉末状のろう成分を樹脂組成物中に5〜30Vol%有する。樹脂組成物の常温における粘度が50000〜150000mPa・sであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、融点が70〜150℃の常温において粉末状のろう成分を樹脂組成物中に5〜30Vol%有する。そのため、樹脂組成物を作成する常温の段階においては、ろう成分は粉末状であり樹脂組成物の粘度を高める。しかし、樹脂組成物を熱硬化させる段階においては、ろう成分の融点が硬化温度よりも低いため、ろう成分が融解して樹脂組成物の粘度を低下させる。
【0010】
これにより、本発明の樹脂組成物はディスペンサー塗布時には適度な粘度を保持しているため、ハンドリング性が高い。さらに、熱硬化時においては低粘度化して流動性が高く、濡れ性の良好な状態となるため、塗布量や注入箇所が少なくとも適切に被覆することができる。また、熱硬化時に樹脂組成物の流動性が高いため、電子部品へ与える樹脂組成物の膨張収縮応力を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、常温において液状の熱硬化性樹脂と粉末状のろう成分、磁性粉末、無機充填材などを混合したものである。樹脂組成物は常温における粘度が50000〜150000mPa・s、好ましくは60000〜80000mPa・sの範囲で使用条件に合わせて調製される。樹脂組成物の常温における粘度が50000mPa・sよりも低い場合では、ディスペンサーを用いた塗布では作業性が悪化するため、50000mPa・s以上で調製する。また、150000mPa・sよりも高い場合では、ディスペンサーを用いた塗布が困難であるため、150000mPa・s以下で調製する。
【0012】
熱硬化性樹脂は、樹脂組成物中に40Vol%以上、好ましくは50Vol%以上の範囲から適宜選択することができる。また、熱硬化性樹脂は常温において液状であればどのような熱硬化性樹脂を用いることができる。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂など、またはそれらを含有するものから適宜選択することができる。
【0013】
ろう成分は、樹脂組成物中に5〜30Vol%、好ましくは20〜30Vol%の範囲から適宜選択することができる。ろう成分が5Vol%よりも少ない場合では、熱硬化時に樹脂組成物の濡れ性が十分ではないため電子部品を適切に被覆することが困難となる。また、ろう成分は、常温において粉末状で融点が70〜150℃のものを用いることができる。具体的には、モンタン酸エステルなどの脂肪酸エステル系ワックスや、パラフィンワックスやカルナウバワックスなどの炭化水素系ワックス、その他各種ワックスの中から1つ以上適宜選択することができる。
【0014】
磁性粉末と無機充填材は、樹脂組成物が所望の粘度となるように、ろう成分との合計で樹脂組成物中に5〜50Vol%の範囲で適宜選択することができる。磁性粉末は、どのようなものを用いても良いが、具体的にはフェライト粉末、鉄粉、パーマロイ粉末、珪素鋼粉末などの磁性材料から用途に合わせて1つ以上適宜選択することができる。なお、磁性粉末は必ずしも添加しなくてはならないものではなく、必要に応じて添加すれば良い。
【0015】
無機充填材は特に限定されないが、例えば溶融破砕シリカ、結晶破砕シリカ、球状シリカ、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、二硫化モリブデンなどが挙げられる。これら無機充填材は1つ以上適宜選択して用いることができる。なお、無機充填材は必ずしも添加しなくてはならないものではなく、必要に応じて添加すれば良い。
【0016】
本発明の樹脂組成物は上記各成分を混合し、その混合物を常温にて電子部品の任意の部分に塗布する。常温にて塗布した後、100〜200℃に加熱して樹脂組成物を熱硬化させる。樹脂組成物を熱硬化させる温度は、樹脂組成物中の熱硬化性樹脂の硬化温度によって適宜選択すれば良い。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、電子部品の接着剤やシールド材などに用いることができる。具体的には、パワーインダクタ、コモンモードチョークコイル、インバータトランス、アンテナ、ノイズフィルタ、ビーズインダクタ、可変コイル、バルントランス、磁気センサー、発音部品(ブザー、スピーカーなど)、電源アダプタ、スイッチなどの各種電子部品に使用することができる。
【実施例】
【0018】
以下に図1を参照しながら、本発明の実施例を説明する。図1は本発明の実施の形態に係るコイル部品の製造方法を示す概略図であり、(a)初期状態、(b)ドラムコアに巻線を施した状態、(c)樹脂組成物を注入した状態、(d)熱硬化した状態を示す。
【0019】
まず、本実施例で用いるドラムコアと樹脂組成物について説明する。図1(a)に示すように、巻芯部1aとその両端に鍔部1bを有するドラムコア1を用いる。本実施例では、縦×横×高さ寸法が3mm×3mm×1mmのものを使用する。本実施例で用いる樹脂組成物は、常温における粘度が80000mPa・sとなるように、エポキシ樹脂に、ろう成分を20Vol%、磁性粉末を25Vol%添加して調製したものを用いる。本実施例では、ろう成分には融点80℃のモンタン酸エステル粉末、磁性粉末にはフェライト粉末を用いた。
【0020】
次に、本実施例のコイル部品の製造方法について説明する。図1(b)に示すように、ドラムコア1に巻線2を施す。図1(c)に示すように、樹脂組成物3を鍔部1bの間の巻線表面にディスペンサーを用いて注入する。本実施例では等間隔に4箇所注入した。樹脂組成物3を150℃まで加熱して熱硬化させる。このとき、4箇所に注入されていた樹脂組成物3は、図1(d)に示すように巻線の表面全体を被覆した状態となる。これは、樹脂組成物中のろう成分が熱硬化温度以下の融点を有するため、容易に融解して巻線の表面全体に拡がる。それによって樹脂組成物も巻線の表面全体に拡がるためである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るコイル部品の製造方法を示す概略図であり、(a)初期状態、(b)ドラムコアに巻線を施した状態、(c)樹脂組成物を注入した状態、(d)熱硬化した状態を示す。
【符号の説明】
【0022】
1:ドラムコア、1a:巻芯部、1b:鍔部、2:巻線、3:樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を有する硬化性樹脂組成物において、
該熱硬化性樹脂が常温において液状であり、該樹脂組成物中に40Vol%以上有し、
融点が70〜150℃の常温において粉末状のろう成分を該樹脂組成物中に5〜30Vol%有し、
該樹脂組成物の常温における粘度が50000〜150000mPa・sであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物がさらに磁性粉末または無機充填材、もしくはその両方を有し、
該磁性粉末と該無機充填材と前記ろう成分との合計が該樹脂組成物中の10〜50Vol%であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物で被覆されたことを特徴とする電子部品。
【請求項4】
常温において液状の熱硬化性樹脂と、融点が70〜150℃の常温において粉末状のろう成分と、磁性粉末と、無機充填材とを準備し、
常温における粘度が50000〜150000mPa・sとなるように、該熱硬化性樹脂が該樹脂組成物中の40Vol%以上、該ろう成分が該樹脂組成物中の5〜30Vol%、該ろう成分と該磁性粉末と該無機充填物との合計が該樹脂組成物中の5〜50Vol%の範囲で調整し、常温において混合して樹脂組成物を作成し、
該樹脂組成物を電子部品の任意の部分に塗布し、
該樹脂組成物を該ろう成分の融点よりも高い温度で熱硬化させることを特徴とする電子部品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−144072(P2010−144072A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323399(P2008−323399)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】