説明

樹脂組成物、光学フィルム、位相差フィルムおよび液晶表示装置

【課題】透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、強度、および加工性に優れ、広範な波長領域においてフィルムの光学特性を任意に調整することが可能な樹脂組成物、それから得られるフィルムならびにその用途を提供する。
【解決手段】ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系モノマーから誘導される構造単位(a)を有するノルボルネン系重合体(A)と、極性基を有し芳香環構造を有さないノルボルネン骨格を有する環状オレフィン系モノマーから誘導される構造単位(b)を有し、前記構造単位(a)を有さないノルボルネン系重合体(B)とを含有することを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系樹脂組成物、該組成物を用いた光学フィルム、位相差板および液晶表示装置に関する。詳しくは、透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、強度および加工性に優れ、延伸フィルムを製造した場合には特異な複屈折性および波長依存性を示すノルボルネン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、一般に複屈折が比較的小さいため、偏光板保護フィルム、液晶基板材料、光ディスク、各種光学レンズ、光ファイバーなどへの利用が近年検討されている。また環状オレフィン系樹脂は、加工条件をコントロールすることにより適度な複屈折を発現するため、これを積極的に利用した光学補償フィルムが実際に使用されている。たとえば、特許文献1〜4には、環状オレフィン系樹脂のフィルムを用いた位相差板が記載されている。また、特許文献5〜7には、環状オレフィン系樹脂のフィルムを、偏光板の保護フィルムに使用することが記載されている。さらに、特許文献8には、環状オレフィン系樹脂のフィルムからなる液晶表示素子用基板が記載されている。
【0003】
一般的に位相差フィルムは、延伸配向により、透過光に位相差(複屈折)を与える機能が付与されているが、多くの樹脂フィルムでは透過光の波長が長波長になるにつれて透過光の位相差(複屈折)の絶対値は小さくなる傾向を有するため、可視光領域全域(400〜800nm)において、たとえば1/4λなどの特定の位相差を透過光に与えることは非常に困難であった。
【0004】
しかしながら現在では、反射型や半透過型の液晶ディスプレイや、光ディスク用ピックアップなどの用途においては、実際に、可視光領域全域(400〜800nm)などの広範な波長領域において、1/4λの位相差を与える逆波長分散性位相差フィルムが必要とされており、さらに、液晶プロジェクターなどの用途では、1/2λの位相差が求められている。この他にも、種々の要求に応じ、複屈折の値の正負、その絶対値の大小、位相差の波長依存性の大小など、さらに多様な光学的特性を有する樹脂の開発が望まれている。
【0005】
このため、従来の環状オレフィン系樹脂からなる光学フィルムでは、前記の高度な要求に対応できず、そのような光学特性を達成するには複数のフィルムを積層したり、光学特性改良のために各種コーティング剤を塗布したり、さらには複数の延伸フィルムを配向方向を交えて貼合したりして所望の光学特性を得ることが行われている。しかしながら、このような方法で得られる光学フィルムでは、切り出し、フィルム貼合、接着など、製造工程が複雑であるため高コスト、低歩留まり、およびフィルム厚み低減が困難であるといった問題がある。
【0006】
このような状況において、広範な波長領域において、所望の位相差を有する、単層の光学フィルムの実現が望まれており、このような光学フィルムを製造し得る樹脂の出現が強く求められている。特許文献9には特定のノルボルネン系開環共重合体からなるフィルムが複屈折および波長分散性のコントロール性に優れることが示されているが、該重合体はガラス転移温度が必要以上に高く、強度および加工性が低いという問題があった。
【特許文献1】特開平4−245202号公報
【特許文献2】特開平4−36120号公報
【特許文献3】特開平5−2108号公報
【特許文献4】特開平5−64865号公報
【特許文献5】特開平5−212828号公報
【特許文献6】特開平6−51117号公報
【特許文献7】特開平7−77608号公報
【特許文献8】特開平5−61026号公報
【特許文献9】特開2005−36201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、強度、および加工性に優れ、広範な波長領域においてフィルムの光学特性を任意に調整することが可能な樹脂組成物、それから得られるフィルムならびにその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に関し、鋭意検討を行った結果、特定のノルボルネン系重合体を含有する樹脂組成物が本発明の目的を達成できることを見出した。
すなわち、本発明の樹脂組成物は、ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系モノマー(A)から誘導される構造単位(a)を有するノルボルネン系重合体(A)と、極性基を有し芳香環構造を有さないノルボルネン骨格を有する環状オレフィン系モノマー(B)から誘導される構造単位(b)を有し、前記構造単位(a)を有さないノルボルネン系重合体(B)とを含有することを特徴とする。
【0009】
前記ノルボルネン系重合体(A)は、下記式(1)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0010】
【化3】

(式(1)中、aは0または1を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。Xは−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
前記ノルボルネン系重合体(B)は、下記式(2)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0011】
【化4】

(式(2)中、aは0または1を表し、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。ただし、R1〜R4の少なくとも1つは極性基である。Xは独立に、−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
また、本発明の樹脂組成物は、該樹脂組成物全量中にノルボルネン系重合体(A)を70重量%以上、100重量%未満含有することが好ましい。
【0012】
本発明のフィルムは、前記樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
本発明の位相差フィルムは、前記樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
本発明の液晶表示装置は、前記フィルムを用いて作製されることを特徴とする。
【0013】
本発明の液晶表示装置は、前記位相差フィルムを用いて作製されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、強度および加工性に優れ、特異な複屈折性および波長依存性を有する樹脂組成物、該組成物を用いた光学フィルムならびに位相差板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
本明細書において、複屈折との用語は通常の意味で用いられる。また、複屈折の値(これを、Δnとする)とは、重合体から成形されたフィルムを一軸または二軸延伸し、重合体分子鎖を一方向に配向させた延伸フィルムにおいて、延伸方向(二軸延伸においては延伸倍率の大きい方向)をx軸、これに対して面内垂直方向をy軸とし、x軸方向の屈折率をnx、Y軸方向の屈折率をnyとして、下記式:
Δn=nx−ny
で定義される正ないし負の値であり、その絶対値は入射光の波長によって異なる。
【0016】
そして、正(または負)の複屈折性とは、前記Δnが正(または負)である場合の上記延伸フィルムの性質を意味する。
次に、位相差(Retardation)(以下、「Re」という。)とは、下記式:
Re=Δn×d
(式中、dは、透過光の光路長(nm)であり、通常、上記延伸フィルムの厚さである。)
で定義される正〜負の値であり、その絶対値は入射光の波長によって異なる。また、「位相差が1/4λ」とは入射光波長(λ)の1/4に相当する位相差を発現することを意味する。
【0017】
そして、位相差の波長依存性とは、前記Reの値と入射光の波長との相関性を意味し、
「位相差の波長依存性が大きい」とは、短波長の入射光に対するReの絶対値と、長波長の入射光に対するReの絶対値との差異が大きいことを意味する。また、「通常の波長分散性」とは入射光波長が長波長になるにしたがい、位相差が小さくなる特性を意味し、「逆波長分散性」とは入射光波長が長波長になるにしたがい、位相差が大きくなる特性を意味する。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系モノマー(A)から誘導される構造単位(a)を有するノルボルネン系重合体(A)と、極性基を有し芳香環構造を有さないノルボルネン骨格を有する環状オレフィン系モノマー(B)から誘導される構造単位(b)を有し、前記構造単位(a)を有さないノルボルネン系重合体(B)とを含有している。本発明の樹脂組成物は、ノルボルネン系重合体(A)を70重量%以上、100重量%未満、好ましくは90重量%以上、100重量%未満含有する。
【0019】
[ノルボルネン系重合体(A)]
環状オレフィン系モノマー(A)
環状オレフィン系モノマー(A)は、ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する化合物である。環状オレフィン系モノマー(A)は、分子内に芳香環構造を1つのみ有していてもよく、また2個以上有していてもよい。本発明では、分子内に芳香環構造を1つまたは2つ有する環状オレフィン系モノマーが好適に用いられる。
【0020】
環状オレフィン系モノマー(A)としては、たとえば、下記式(1−1)〜(1−4)で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上が用いられる。
【0021】
【化5】

(式(1−1)〜(1−4)中、aは0または1を表し、bは0から4の整数を表し、cは0から6の整数を表し、複数存在するRは、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。)
ここで、前記式(1−1)〜(1−4)中のRについて説明する。
【0022】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。
炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチリデン基、プロピリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の芳香族基等が挙げられる。これらの基中の炭素原子に結合した水素原子は、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、フェニルスルホニル基、シアノ基等で置換されていてもよい。
【0023】
上記の置換もしくは非置換の炭化水素基は直接環構造に結合していてもよいし、或いは連結基を介して結合していてもよい。前記連結基としては、例えば、炭素原子数1〜10の2価炭化水素基(例えば、−(CH2m−(式中、mは1〜10の整数)で表されるアルキレン基);酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む連結基(例えば、カルボニル基(−CO−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、スルホニル基(−SO2−)、スルホニルオキシ基(−SO2−O−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−)、シロキサン結合(−Si(R)2O−)(式中、Rはメチル基、エチル基等のアルキル基である);或い
はこれらの2種以上が組み合わさって連なったものが挙げられる。
【0024】
極性基としては、例えば、水酸基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミド基、イミノ基(=NH)、トリオルガノシロキシ基、トリオルガノシリル基、アミノ基、アシル基、アルコキシシリル基、スルフィノ基(−SO2H)、カルボキシル基等が挙げられる。
【0025】
更に具体的には、上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ;アルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等が挙げられ;アリールカルボニルオキシ基としては、例えば、ベンゾイルオキシ基等が挙げられ;アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられ;アリーロキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等が挙げられ;トリオルガノシロキシ基としては、例えば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等が挙げられ;トリオルガノシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等が挙げられ;アミノ基としては、例えば、第1級アミノ基等が挙げられ;アルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
【0026】
前記式(1−1)〜(1−4)で表される化合物では、Rが水素原子、ハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基であるのが好ましい。
前記式(1−1)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

前記式(1−2)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0035】
【化14】

前記式(1−3)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0036】
【化15】

前記式(1−4)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0037】
【化16】

本発明では、これらの環状オレフィン系モノマー(A)のうち、好ましくは、前記式(
1−1)〜(1−4)で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上が用いられ、より好ましくは、前記式(1−1)で表される化合物よりなる群から選ばれる一種以上が用いられる。
【0038】
本発明では、環状オレフィン系モノマー(A)は、一種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよいが、一種単独で用いるのがより好ましい。
その他の共重合性モノマー
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(A)は、上述した環状オレフィン系モノマー(A)を1種以上のみを重合して得られる(共)重合体であってもよいが、環状オレフィン系モノマー(A)とともに、必要に応じて環状オレフィン系モノマー(A)以外の共重合性モノマーを共重合して得られる共重合体であってもよい。その他の共重合性モノマーを用いることにより、環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度などを制御することができる。その他の共重合体モノマーとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン等の環状オレフィン;1,4−シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロドデカトリエン等の非共役環状ポリエンが挙げられる。前記共重合可能な単量体は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
ノルボルネン系重合体(A)
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(A)は、上述した環状オレフィン系モノマー(A)と、必要に応じてその他の共重合性モノマーとを、開環(共)重合あるいは付加(共)重合し、必要に応じて水素添加して製造することができ、これらをいずれも用いることができる。
【0039】
発明で用いられるノルボルネン系重合体(A)としては、前記環状オレフィン系モノマー(A)を単独で開環重合するか、あるいはその他の共重合性モノマーと開環共重合し、所望により水素添加することにより製造した(共)重合体が好ましく用いられる。本発明においては、下記一般式(1)に示される構造単位を有する重合体が特に好ましく用いられる。
【0040】
【化17】

(式(1)中、aは0または1を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。Xは−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(A)は、全構造単位100モル%中、構造単位(a)を10〜50mol%の範囲で含んでいることが好ましく、構造単位(a)を20〜35mol%の範囲で含んでいることがさらに好ましい。
【0041】
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(A)は、日本工業規格K7121に従って測定した補外ガラス転移開始温度が、好ましくは155〜200℃、より好ましくは16
0〜190℃、さらに好ましくは165〜180℃であると、充分な耐熱性を有するとともに、押出し成形等の溶融成形も可能な優れた成形性を有するため望ましい。
【0042】
また、本発明で用いられるノルボルネン系重合体(A)は、ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中、試料濃度0.5g/dl、温度30℃で測定した対数粘度が、好
ましくは0.2〜5dl/g、より好ましくは0.3〜3dl/g、さらに好ましくは0.4〜0.8dl/gである。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、テトラヒドロフラン溶媒、ポリスチレン換算値)による平均分子量の測定では、前記ノルボルネン系重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、通常、1,000〜500,000、好ましくは2,000〜300,000、更に好ましくは5,000〜300,000であり、重量平均分子量(Mw)は、通常、5,000〜2,000,000、好ましくは10,000〜1,000,000、更に好ましくは30,000〜500,000であるのが望ましい。
【0043】
上記対数粘度(ηinh)が0.2未満であるか、数平均分子量(Mn)が1,000未
満であるか、或いは、重量平均分子量(Mw)が5,000未満であると、本発明で用いられる前記ノルボルネン系重合体(A)から得られる成形物の強度が著しく低下する場合がある。一方、対数粘度(ηinh) が5dl/g以上であるか、数平均分子量(Mn)が500,000以上であるか、或いは、重量平均分子量(Mw)が2,000,000以上であると、前記ノルボルネン系重合体(A)の溶融粘度または溶液粘度が高くなりすぎて、所望の成形品を得ることが困難になる場合がある。
【0044】
[ノルボルネン系重合体(B)]
環状オレフィン系モノマー(B)
環状オレフィン系モノマー(B)は、極性基を有し芳香環構造を有さないノルボルネン骨格を有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、下記式(2−1)で表される化合物である。
【0045】
【化18】

(式(2−1)中、R1〜R6は、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。ただし、R1〜R6の少なくとも1つが極性基(またはハロゲン原子)である。また、R3〜R6 のうち任意の2つが互いに結合して、
芳香環以外の環を形成してもよい。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。)
式(2−1)において、p=0、mが0または1であり、R5およびR6が水素原子である場合が好ましい。
【0046】
極性基としては、式(1−1)〜(1−4)において前述した極性基と同様、水酸基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、
アミド基、イミノ基(=NH)、トリオルガノシロキシ基、トリオルガノシリル基、アミノ基、アシル基、アルコキシシリル基、スルフィノ基(−SO2H)、カルボキシル基等
が挙げられる。
【0047】
本発明で用いられる環状オレフィン系モノマー(B)のうち、R3〜R6のいずれか1以上が下記式(3)で表される極性基を有する環状オレフィン系モノマー(B)は、ガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう)が高く、吸湿性が低い樹脂組成物が得られる点で好ましい。
【0048】
−(CH2)nCOOR7 (3)
(式中、R7は炭素数1〜12の炭化水素基を示し、nは0〜5の整数である。)
上記式(3)において、R7はアルキル基であることが好ましい。
【0049】
また、nの値が小さいものほど、得られる樹脂組成物のTgが高くなるので好ましく、特にnが0である環状オレフィン系モノマー(B)は、その合成が容易である点で好ましい。
【0050】
また、上記式(2−1)において、R3またはR5はアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数が1〜4のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1〜2のアルキル基、特に好ましくはメチル基である。更に、このアルキル基が、上記式(3)で表される極性基が結合した炭素原子と同一の炭素原子に結合されていることが好ましい。
【0051】
また、上記式(2−1)においてmが1である環状オレフィン系モノマー(B)は、Tgがより高い樹脂組成物が得られる点で好ましい。
上記式(2m)で表される環状オレフィン系モノマー(B)の具体例としては、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセ
ン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセ
ン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン

8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−
ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−
ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン、
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−
エン、
5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシ
クロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロイソプロピル−6−トリフルオロメチルビシ
クロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−フルオロ
メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−
ドデセン、
8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12
,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.
7,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テト
ラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロイソプロピル−9−トリフルオロメチルテト
ラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ド
デセン、
8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.
7,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.
4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンなどを挙げることができる。
【0052】
これらの環状オレフィン系モノマー(B)のうち、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシク
ロ[4.4.0.12,5.
7,10]−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ド
デセン、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]−3−ペンタデセンは、優れた耐熱性を有する樹脂組成物が得られる点で好ましい。
【0053】
その他の共重合性モノマー
・不飽和二重結合含有化合物
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(B)は、環状オレフィン系モノマー(B)を1種以上のみを重合して得られる(共)重合体であってもよいが、環状オレフィン系モノマー(B)とともに、必要に応じて環状オレフィン系モノマー(B)以外の共重合性モノマーを共重合して得られる共重合体であってもよい。その他の共重合体モノマーとしては、例えば、炭素数が4〜20、特に5〜12のシクロオレフィンを用いることが好ましく、その具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、トリシクロ[5.2.1.02,6]−3−デセン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0054】
環状オレフィン系モノマー(B)と不飽和二重結合含有化合物との使用割合は、環状オレフィン系モノマー(B):共重合性環状単量体または不飽和二重結合含有化合物が、重量比で80:20〜100:0であることが好ましく、更に好ましくは89:11〜100:0である。
【0055】
不飽和二重結合含有化合物の使用割合が過大である場合には、得られる共重合体のTgが低下し、その結果、樹脂の耐熱性が低下するため、耐熱性の高いシートを得ることが困難となる。
【0056】
ノルボルネン系重合体(B)
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(B)は、下記一般式で表される構造単位を有し、上記環状オレフィン系モノマー(B)を単独または2種以上で、あるいは環状オレ
フィン系モノマー(B)以外の共重合性モノマーとともに、重合あるいは共重合モノマーとして用いて、付加(共)重合、開環(共)重合、あるいは開環(共)重合後に主鎖中の二重結合を水素添加して得られる。
【0057】
【化19】

(式中、R1〜R6は、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。ただし、R1〜R6の少なくとも1つが極性基(またはハロゲン原子)である。また、R3〜R6 のうち任意の2つが互いに結合して、芳香環以外
の環構造を形成してもよい。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。Xは独立に、−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
前記式中において、p=0、mが0または1であり、R5およびR6は水素原子である場合が好ましい。
【0058】
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(B)は、全構造単位100モル%中、構造単位(b)を60〜100mol%の範囲で含んでいることが好ましく、構造単位(b)を75〜100mol%の範囲で含んでいることがさらに好ましい。
【0059】
本発明に用いられるノルボルネン系重合体(B)は、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度(ηinh)が0.2〜5dl/gであることが好ましい。
また、前記ノルボルネン系重合体(B)の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が8,000〜100,000、重量平均分子量(Mw)が20,000〜300,000の範囲のものが好適である。
【0060】
更に、環状オレフィン系樹脂の日本工業規格K7121に従って測定した補外ガラス転移開始温度は、130℃以上であることが好ましい。
また、本発明で用いる環状オレフィン系樹脂フィルムは、上記ノルボルネン系重合体(B)を含む樹脂組成物から形成されていてもよい。樹脂組成物には、ノルボルネン系重合体(B)の他、環状オレフィン系樹脂以外の樹脂成分、安定剤や加工性向上剤などの樹脂に配合し得る各種添加剤を配合することができる。
【0061】
[重合方法]
前述したノルボルネン重合体(A)および(B)は上述した各モノマーを用いて下記の方法で製造することができる。
【0062】
重合方法
本発明では、反応終了までのモノマー総量のうちの、一部のモノマー(初期重合モノマー)と重合触媒を用いて重合を開始し、その重合反応中に残余のモノマーを供給して重合反応を行う。本発明において、初期重合モノマーとして用いるモノマーの量は、モノマー総量の少なくとも5重量%を用いることが好ましく、より好ましくは10〜95重量%であり、さらに好ましくは20〜90重量%である。初期重合モノマー量が5重量%未満の場合は、重合体中の構造の偏在が生じるために、本発明の効果を得ることができない。初期重合を開始する時のモノマー溶液の温度は、30〜200℃が好ましく、より好ましくは50℃〜180℃である。30℃未満の場合は重合体の収率が低下することがあり、200℃を超える場合は分子量コントロールが困難になることがある。
【0063】
本発明における重合反応は発熱反応であり、重合触媒を添加した時点で重合溶液の温度が上昇し始める。残余のモノマーの添加は、初期重合反応溶液の温度上昇が小さくなった時点で添加するのが望ましい。具体的には、0.1〜10℃/分の時点でモノマー残余の添加を実施することが好ましく、より好ましくは0.1〜7℃/分であり、さらに好ましくは0.1〜5℃である。
【0064】
残余のモノマーの添加は、1回のみで行ってもよく、複数回に分割して逐次行ってもよく、初期重合反応溶液の温度上昇が小さくなった時点で1回のみ行うことが特に好ましい。残余のモノマーの添加は、急激なモノマー濃度の変化を生じない方法で行うのが好ましく、滴下などの方法が好ましく採用される。
【0065】
本発明では、重合反応中に添加される残余のモノマーには、共重合モノマー成分のうち、重合性の高いものが多く含まれることが好ましい。本発明では、好ましくは、残余のモノマーは、環状オレフィン系モノマー(B)の含有割合の多いモノマーであることが好ましく、残余のモノマーが環状オレフィン系モノマー(B)のみであることも好ましい。
【0066】
重合触媒
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(A)および(B)を製造するのに好適に用いることのできる重合触媒としては、ノルボルネンなどの環状オレフィンを重合する場合に用いられる開環重合触媒および付加重合触媒をいずれも用いることができる。
【0067】
たとえば、開環共重合を行う触媒としては、
(I)Olefin Metathesis and Metathesis Polymerization(K.J.IVIN, J.C.MOL, Academic Press 1997)に記載されている触媒が好ましく用いられる。このような触媒としては
、例えば、(a)W、Mo、Re、VおよびTiの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)アルカリ金属元素(例えば、Li、Na、K)、アルカリ土類金属元素(例えば、Mg、Ca)、第12族元素(例えば、Zn、Cd、Hg)、第13族元素(例えば、B、Al)、第14族元素(例えば、Si、Sn、Pd)等の化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合または当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組み合わせからなるメタセシス触媒が挙げられる。該触媒の活性を高めるために、後述の(c)添加剤が添加されたものであってもよい。
【0068】
上記(a)成分の具体例としては、例えば、WCl6、MoCl5、ReOCl3、VO
Cl3、TiCl4等の特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0069】
上記(b)成分の具体例としては、例えば、n−C49Li、(C253Al、(C252AlCl、(C251.5AlCl1.5、(C25)AlCl2、メチルアルモキサ
ン、LiH等の特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0070】
上記(c)成分の添加剤としては、例えば、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、
アミン類等を好適に用いることができ、更に、特開平1−240517号公報に記載の化合物を使用することができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0071】
上記(a)成分等を組み合わせてなるメタセシス触媒の使用量は、上記(a)成分と、全モノマー(上述したモノマーおよび他の共重合可能なモノマーの総計、以下同じ)との、「(a)成分:全モノマー」のモル比が、通常、1:500〜1:500,000となる範囲、好ましくは1:1,000〜1:100,000となる範囲である。更に、上記(a)成分と(b)成分との割合は、「(a):(b)」の金属原子(モル)比が、通常、1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30の範囲である。このメタセシス触媒に上記(c)添加剤を添加する場合、(a)成分と(c)成分との割合は、「(c):(a)」のモル比が、通常0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1の範囲である。
【0072】
また、その他の触媒として、
(II)周期表第4族〜第8族の遷移金属−カルベン錯体やメタラシクロブタン錯体等からなるメタセシス触媒を用いることができる。
【0073】
上記触媒(II)の具体例としては、例えば、W(=N−2,6−C63iPr2)(=CHtBu)(OtBu)2、Mo(=N−2,6−C63iPr2)(=CHtBu)(Ot
Bu)2、Ru(=CHCH=CPh2)(PPh32Cl2、Ru(=CHPh2)[P(C61132Cl2等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0074】
上記触媒(II)の使用量は、「触媒(II):全モノマー」のモル比が、通常1:500〜1:50,000となる範囲、好ましくは1:100〜1:10,000となる範囲である。
【0075】
なお、上記触媒(I)と(II)とを組み合わせて用いても差し支えない。
また、付加共重合を行う触媒としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物およびバナジウム化合物から選ばれた少なくとも一種と、助触媒としての有機アルミニウム化合物とが用いられる。
【0076】
ここで、チタン化合物としては、四塩化チタン、三塩化チタンなどを、またジルコニウム化合物としてはビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドなどを挙げることができる。
【0077】
さらに、バナジウム化合物としては、一般式
VO(OR)ab、またはV(OR)cd
〔ただし、Rは炭化水素基、Xはハロゲン原子であって、0≦a≦3、0≦b≦3、2≦(a+b)≦3、0≦c≦4、0≦d≦4、3≦(c+d)≦4である。〕
で表されるバナジウム化合物、あるいはこれらの電子供与付加物が用いられる。
【0078】
上記電子供与体としては、アルコール、フェノール類、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、有機酸または無機酸のエステル、エーテル、酸アミド、酸無水物、アルコキシシランなどの含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアナートなどの含窒素電子供与体などが挙げられる。
【0079】
さらに、助触媒としての有機アルミニウム化合物としては、少なくとも1つのアルミニウム−炭素結合あるいはアルミニウム−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも一
種が用いられる。
【0080】
上記において、例えばバナジウム化合物を用いる場合におけるバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物の比率は、バナジウム原子に対するアルミニウム原子の比(Al/V)が2以上であり、好ましくは2〜50、特に好ましくは3〜20の範囲である。
【0081】
分子量調節剤
本発明で用いられるノルボルネン系重合体(A)および(B)の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類等を調整することによっても行うことができるが、分子量調節剤を共重合の反応系に共存させることにより調節することが好ましい。分子量調節剤としては、例えば、エチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィン類およびスチレンが好ましく、これらのうち、1−ブテンおよび1−ヘキセンが特に好ましい。これらの分子量調節剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。この分子量調節剤の使用量は、全モノマー1モル当たり、通常、0.005〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルである。
【0082】
重合反応溶媒
共重合反応において用いられる溶媒(即ち、単量体、重合触媒、分子量調節剤等を溶解する溶媒)としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等のアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナン等のシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等の芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロムヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレン等のハロゲン化アルカン、ハロゲン化アリール等の化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル等の飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類が挙げられ、これらの中では芳香族炭化水素が好ましい。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。この重合反応用溶媒の使用量は、「溶媒:全モノマー」の重量比が、通常、1:1〜10:1となる量であり、好ましくは1:1〜5:1となる量であるのが望ましい。
【0083】
水素添加
上記共重合により得られるノルボルネン系重合体は、開環重合により製造を行った場合は、オレフィン性不飽和基の構造を有するものである。この重合体は、そのまま使用することができるが、耐熱安定性をより向上させるために、上記オレフィン性不飽和基を水素添加して、水素添加された重合体(水素添加物)として得ることが好ましい。ただし、本発明でいう水素添加物とは、共重合により生じる前記オレフィン性不飽和基が水素添加されたものであって、モノマー構造に由来するベンゼン環などの芳香環骨格中の環内共役二重結合は、実質的に水素添加されていないものであることが好ましい。
【0084】
本発明のノルボルネン系重合体(A)および(B)の水素添加率は、水素添加前に存在するオレフィン性不飽和結合のモル数を100とした場合に、80モル以上、好ましくは85モル以上、更に好ましくは90モル以上である。この水素添加率が高いほど、ノルボルネン系重合体の高温条件下における着色や劣化の発生が抑制されるので好ましい。
【0085】
水素添加反応は、上記芳香環骨格中の環内共役二重結合が実質的に水素添加されない条件で行われるのが望ましい。例えば、重合体の溶液に水素添加反応触媒を添加し、これに、通常、常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを加えて、通常、0〜200℃、好ましくは50〜200℃で反応させることによって行うことができる。
【0086】
水素添加反応触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができ、不均一系触媒および均一系触媒が公知である。不均一系触媒としては、例えば、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム等の貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニア等の担体に担持させた固体触媒が挙げられる。均一系触媒としては、例えば、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等が挙げられる。これら触媒の形態は粉末状でも粒状でもよい。また、この水素添加反応触は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0087】
これらの水素添加反応触媒は、上記芳香環骨格中の環内共役二重結合が実質的に水素添加されないようにするために、その添加量を調整する必要があり、「共重合体:水素添加反応触媒」の重量比が、通常、1:1×10-6〜1:2となる割合で使用される。
【0088】
<光学フィルムおよびその製造方法>
本発明の樹脂組成物は、押出成形および射出成形などの溶融成形、溶液流延法(キャスト法)による成形のいずれによっても好適に所望の形状に成形することができるが、組成物が濾過特性に優れるため、溶液流延法により製膜することが好ましい。
【0089】
本発明の樹脂組成物の物理的物性値は共重合組成比や分子量調節剤の使用量によりコントロールすることができるが、本発明の樹脂組成物の特性を失わない範囲で各種添加剤を添加してもよい。また、本発明で用いられるノルボルネン系重合体には、これ以外の目的でも、公知の各種添加剤を添加することができる。
【0090】
添加剤としては、たとえば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、
2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,5−ジ
−tert−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−
ジ−tert−ブチル−4−ヒドキシフェニル)プロピオネート]、4,4'−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、オクタデシル・3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾールなどのフェノール系、ヒドロキノン系酸化防止剤;トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン系酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤の1種または2種以上を添加することにより、開環共重合体の耐酸化劣化性を向上することができる。また、たとえば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノ
ール]]などの紫外線吸収剤を添加することによって耐光性を向上することもできる。さ
らに、加工性を向上させる目的で滑剤などの添加剤を添加することもできる。これらの添加剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0091】
本発明の樹脂組成物は、所望の形状に成形することができるが、光学特性に優れるため、各種光学材料の用途に有用である。なかでも、フィルムまたはシート(本発明ではこれらを総称してフィルムという)への成形が好ましく、各種光学フィルムの用途に好適に使用することができる。
【0092】
溶液流延法
溶液流延法(溶媒キャスト法)としては、本発明の樹脂組成物を溶媒に溶解または分散させ、該樹脂組成物を適度の濃度で含有するフィルム形成液を調製する。必要に応じて、このフィルム形成液を濾過した後、濾液を適当なキャリヤー上に注ぐかまたは塗布することによって流延し、キャリヤー上にフィルム形成液の液相を形成した後、乾燥などにより該液相から溶媒を除去し、得られた膜をキャリヤーから剥離させる方法を好ましい方法として挙げることができる。
【0093】
フィルム形成液の調製において、本発明の樹脂組成物の濃度は、通常0.1〜70重量%、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは10〜35重量%である。この濃度が過小である場合には、所望の厚みのフィルムを得ることが困難となるほか、乾燥により溶媒を除去する際に、当該溶媒の蒸発に伴って発泡などが生じやすく、表面平滑性が良好なフィルムを得ることが困難となる場合がある。一方、この濃度が過大である場合には、フィルム形成液の粘度が高くなりすぎるため、厚みや表面状態が均一なフィルムを得ることが困難となる場合がある。
【0094】
フィルム形成液の調製に用いられる溶媒としては、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブおよび1−メトキシ−2−プロパノールなどのセロソルブ系溶媒、ジアセトンアルコール、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メチル−2−ペンタノン、シクロヘキサノン、エチルシクロヘキサノンおよび1,2−ジメチルシクロヘキサンなどのケトン系溶媒、乳酸メチルおよび乳酸エチルなどのエステル系溶媒、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、塩化メチレンおよびクロロホルムなどのハロゲン含有溶媒、テトラヒドロフランおよびジオキサンなどのエーテル系溶媒ならびに1−ペンタノールおよび1−ブタノールなどのアルコール系溶媒を挙げることができる。
【0095】
本発明では、樹脂組成物を溶解または分散させる溶媒として、沸点が10℃以上150℃以下、好ましくは20℃以上50℃以下、より好ましくは30℃以上50℃以下のものが挙げられる。
【0096】
また、上記の溶媒以外でも、SP値(溶解度パラメーター)が、通常10〜30(MPa1/2)、好ましくは10〜25(MPa1/2)、より好ましくは15〜25(MPa1/2
)、特に好ましくは15〜20(MPa1/2)の範囲の溶媒を使用することにより、表面
状態の均一性および光学特性の良好なフィルムが得られる。
【0097】
上記の溶媒は、単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。溶媒を2種以上組み合わせて用いる場合には、得られる混合溶媒のSP値が上記の範囲内であることが好ましい。なお、混合溶媒のSP値は、各溶媒のSP値およびそれらの重量比から求めることができ、たとえば2種の溶媒から得られる混合溶媒においては、各溶媒の重量分率をW1およびW2とし、SP値をSP1およびSP2としたとき、式:SP値=W1・SP1+W2・SP2により算出することができる。
【0098】
本発明の樹脂組成物を溶媒に溶解または分散させる際の温度は、室温でも高温でもよく、十分に撹拌することにより、樹脂組成物が均一に溶解または分散した溶液が得られ、必要に応じてこれを濾過することによりフィルム形成液が得られる。すなわち、濾過により、部分的にゲル化したものを含むことのない均一な濾液を得ることができる。本発明ではこの濾液をフィルム形成液として用いることが好ましい。このようなフィルム形成液を用いると、形成されるフィルムは、異物がみられたり、部分的に厚みが異なっていたりせず、表面平滑性に優れる。
【0099】
上述のようにして製膜されたフィルムは、通常、乾燥工程を経て光学フィルムとなる。
キャリヤーに塗布されたフィルム形成液中の溶剤を除去するための具体的な方法は、特に限定されず、一般的に用いられる乾燥処理法、たとえば多数のローラーによって乾燥炉中を通過させる方法などを利用することができる。乾燥工程において溶媒の蒸発に伴って気泡が発生すると、フィルムの特性が著しく低下するので、乾燥工程を2段以上の複数工程とし、各工程における温度または風量を制御することにより気泡の発生を回避することが好ましい。
【0100】
このようにして得られたフィルム中の残留溶媒量は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。フィルム中の残留溶媒量が10重量%を超える場合には、該フィルムを実際に使用したときに、経時による寸法変化が大きくなり好ましくない。また、残留溶媒によりガラス転移温度が低くなり、耐熱性も低下するため好ましくない。
【0101】
なお、後述する延伸工程を好適に行うためには、フィルム中の残留溶媒量を上記範囲内で適宜調節することが必要である。具体的には、延伸配向処理によってフィルムに位相差を安定して均一に発現させるためには、フィルム中の残留溶媒量を通常10〜0.1重量%、好ましくは5〜0.1重量%、より好ましくは1〜0.1重量%にする必要がある。フィルム中に微量の溶媒が残留していると、延伸配向処理が容易になる、あるいは位相差の制御が容易になる。
【0102】
溶液流延法により形成された光学フィルムの厚みは、通常0.1〜3,000μm、好ましくは0.1〜1,000μm、より好ましくは1〜500μm、特に好ましくは5〜300μmである。この厚みが過小である場合には、前記フィルムを実際上取り扱うことが困難となる。一方、この厚みが過大である場合には、ロール状に巻き取ることが困難になる。
【0103】
また、溶液流延法で形成された光学フィルムの厚み分布は、平均値に対して通常±20%以内、好ましくは±10%以内、より好ましくは±5%以内、特に好ましくは±3%以内である。また、1cm当たりの厚みの変動率は、通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
【0104】
このようにして形成された光学フィルムは、透明性に優れるとともに、表面粗さが小さく、表面平滑性に優れ、光学的なムラが少なく、そのままで各種保護フィルムなどの光学用途に好適に使用することができる。また、さらに延伸して用いることもできる。位相差板などとして用いられる延伸フィルムを製造する場合には、この光学フィルムを用いることにより、延伸配向処理を行う際に、位相差ムラの発生を防止することができる。
【0105】
延伸
本発明の未延伸の上記光学フィルムは、延伸加工(延伸配向処理)を施すことにより、フィルムを形成する本発明の共重合体の分子鎖が一定の方向に規則的に配向し、透過光に位相差を与える機能を有する光学フィルム(位相差フィルム)とすることができる。
【0106】
ここで、「規則的に配向」とは、未延伸のフィルムではフィルム中の高分子化合物(重合体)の分子鎖は特定な方向を向かずにランダムな状態であるのに対し、高分子化合物の分子鎖がフィルムの平面の一軸方向または二軸方向あるいは厚み方向に規則的に配向していることを意味する。高分子化合物の配向の規則性の程度はさまざまであり、延伸条件により制御することができる。
【0107】
延伸加工法としては、具体的には、公知の一軸延伸法または二軸延伸法を挙げることができる。すなわち、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、円周の異なる二組のロールを利用する縦一軸延伸法、あるいは横一軸と縦一軸を組み合わせた二軸延伸法、インフレーション法による延伸法などを用いることができる。
【0108】
一軸延伸法を利用する場合には、延伸速度は通常1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、より好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0109】
二軸延伸法としては、同時に互いに交わる2方向に延伸を行う方法および一軸延伸した後に最初の延伸方向と異なる方向に延伸を行う方法を利用することができる。これらの方法において、2つの延伸軸の交わり角度は、所望する特性に応じて決定されるため特に限定はされないが、通常120〜60度の範囲である。また、延伸速度は各延伸方向で同じであっても、異なっていてもよく、通常1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、より好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0110】
延伸加工における加工温度は、特に限定されるものではないが、フィルムを構成する樹脂組成物中のノルボルネン系重合体(A)のガラス転移温度をTgとしたとき、通常(Tg−5)〜(Tg+20)℃、好ましくはTg〜(Tg+10)℃の範囲であるのが望ましい。処理温度を上記の範囲にすることにより、高い位相差と位相差ムラの発生を抑制することが可能となり、また、屈折率楕円体の制御が容易になる。
【0111】
なお、かかる温度範囲で延伸加工しても、本発明では、特定の樹脂組成物を用いているため、得られる光学フィルムに白濁などの問題は生じない。これは、本発明で用いられる樹脂組成物中のノルボルネン系重合体(A)のTg分布が比較的小さく、また好ましくは樹脂組成物全体のTg分布が比較的小さいため、Tg近傍に加熱することで実質的に均一に可塑化するためと考えられる。逆に、Tg分布が大きな環状オレフィン系開環共重合体を含む場合には、Tg近傍まで加熱するだけでは均一に可塑化せず部分的に未可塑状態の部分が存在するために、かかる部分が延伸加工時に白濁などの原因となると考えられる。
【0112】
延伸倍率は、所望する位相差などの特性に応じて決定されるため特に限定はされないが、通常1.01〜10倍、好ましくは1.03〜5倍、より好ましくは1.03〜3倍である。
【0113】
本発明では、ノルボルネン系重合体(A)を含む樹脂組成物を用いているため、そのTg近傍で延伸加工できるため低倍率の延伸でもフィルムに高い応力をかけることが可能であり、高い位相差を有する光学フィルムを製造することができる。延伸倍率が比較的低い場合には、透明性、光軸のずれのない位相差フィルムを容易に製造することができる。一方、延伸倍率が過大である場合には、位相差および光軸の制御が困難となる場合がある。
【0114】
延伸したフィルムは、そのまま室温で冷却してもよいが、(Tg−100)〜Tg℃程度の温度雰囲気下に少なくとも10秒間以上、好ましくは30秒間〜60分間、より好ましくは1分間〜60分間保持してヒートセットし、その後、室温まで冷却することが好ましく、これにより、透過光の位相差の経時変化が少なく、安定した位相差特性を有する光学フィルムが得られる。
【0115】
上述したように延伸して得られた本発明の光学フィルムは、延伸により分子を配向させると透過光に位相差を与えるようになるが、この位相差は、延伸倍率または延伸前のフィ
ルムの厚みなどを調整することにより制御される。たとえば、延伸倍率については、延伸前の厚みが同じフィルムであっても、延伸倍率が大きいフィルムほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸倍率を変更することによって所望の位相差を透過光に与えるフィルムを得ることができる。また、延伸前のフィルムの厚みについては、延伸倍率が同じであっても、延伸前のフィルムの厚みが大きいほど透過光に与える位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸前のフィルムの厚みを変更することによって所望の位相差を透過光に与える光学フィルムを得ることができる。
【0116】
<用途>
上述したように延伸して得られた延伸した本発明の光学フィルムにおいて、透過光に与える位相差の値は、その用途により決定されるものであり、一義的に決定されるものではないが、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子またはレーザー光学系の波長板に使用する場合には、通常1〜10,000nm、好ましくは10〜2,000nm、より好ましくは15〜1,000nmである。
【0117】
また、フィルムを透過した光の位相差は、その均一性が高いことが好ましく、具体的には、光線波長550nmにおけるバラツキが通常±20%以下であり、好ましくは10%以下、より好ましくは±5%以下である。位相差のバラツキが±20%の範囲を超える場合には、液晶表示素子などに使用したときに、色ムラなどが発生し、ディスプレイ本体の性能が低下するという問題が生じることがある。同様に光軸のバラツキは、通常±2.0度以下であり、好ましくは±1.0度以下、より好ましくは±0.5度以下である。
【0118】
本発明の延伸した光学フィルムは、位相差板(位相差フィルム)として、単独でまたは2枚以上を積層してあるいは透明基板などに貼り合わせて用いることができる。また、その他のフィルム、シートおよび基板に積層して使用することもできる。
【0119】
フィルムなどを積層する場合には、粘着剤および接着剤を用いることができる。かかる粘着剤および接着剤としては、透明性に優れたものを用いることが好ましく、その具体例としては、天然ゴム、合成ゴム、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、ポリビニルエーテル、アクリル系樹脂および変性ポリオレフィン系樹脂などの粘着剤や、水酸基およびアミノ基などの官能基を有する前記樹脂などにイソシアネート基含有化合物などの硬化剤を添加した硬化型粘着剤、ポリウレタン系のドライラミネート用接着剤、合成ゴム系接着剤およびエポキシ系接着剤などが挙げられる。
【0120】
また、上記位相差板には、その他のフィルム、シートおよび基板などとの積層の作業性を向上させるために、あらかじめ粘着剤層または接着剤層を積層することができる。粘着剤層または接着剤層を積層する場合、前述したような粘着剤または接着剤を用いることができる。
【0121】
本発明の光学フィルムを液晶表示装置に用いると、液晶表示装置の表示特性をより改善することができる。液晶表示装置としては、たとえば、携帯電話、ディジタル情報端末、ポケットベル、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイなどの各種液晶表示装置が挙げられる。
【0122】
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」および「%」は、特に断りのない限り「重量部」および「重量%」を意味する。また、室温とは25℃である。
【0123】
本発明における各種物性値の測定方法を以下に示す。
・ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、商品名:DSC6200)を用いて、日本工業規格K7121にしたがって補外ガラス転移開始温度(以下、単に「ガラス転移温度(Tg)」という。)を求めた。
・重量平均分子量および分子量分布
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製、商品名:HLC-8020)を用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、ポリスチ
レン換算の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を測定した。なお、前記Mnは数平均分子量である。
・重合体分子構造
超伝導核磁気共鳴吸収装置(NMR)(Bruker社製、商品名:AVANCE500)を用い、重水素化クロロホルム中で1H−NMRを測定し、共重合組成比および水素添加率を算出した。
・位相差、複屈折評価
開環重合体のトルエンまたは塩化メチレン溶液(濃度25%)を平滑なガラス板上にキャストし、乾燥後、厚さ100μm、残留溶媒0.5〜0.8%の無色透明なフィルムを得た。このフィルムのガラス転移温度(Tg)よりも5〜10℃高い温度で、1.2〜2.0倍に一軸延伸した。この延伸フィルムの位相差および複屈折の値を、レターデーション測定器(王子計測機器製、商品名:KOBRA21DH)を用いて測定した。
・対数粘度
ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中、試料濃度0.5g/dL、温度30
℃で測定した。
・引き裂き強度
株式会社東洋精機製作所製エレメンドルフ引き裂き試験装置3200型を用いて測定した。
・残留溶媒量
サンプルをトルエンに溶解し、島津製作所製GC−14Bガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0124】
<合成例1>
水素化リチウムアルミニウム39.0g(1.03mol)をテトラヒドロフラン(THF)1000mL中に分散させ、テトラヒドロフラン600mLに溶解した無水ハイミック酸100g(0.61mol)を反応溶液温度が35℃以下となるように温度を調節ながら滴下した。滴下終了後、反応温度を室温に上げ、そのまま20時間反応させた。反応後、氷冷して水171mL、続いて15%水酸化ナトリウム水溶液39mLを加えた。
【0125】
次いで析出物を濾別し、濾液に水400mLを加え、ジエチルエーテル300mLで3回、酢酸エチル400mLで2回抽出した。抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮・乾燥して白色固体の5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン83g(収率88%)を得た。
【0126】
p−トルエンスルホニルクロリド99g(0.51mol)をテトラヒドロフラン129mLに溶解させ、8℃に冷却した。この溶液中に、ピリジン162mLに溶解させた5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン36g(0.234mol)を反応温度が10℃以下となるように温度を調節しながら滴下した。滴下終了後、反応温度を室温に上げ、そのまま20時間反応させた。反応後、水900mLを加え、酢酸エチル900mLで1回抽出した。抽出液を0.1N塩酸600mLで1回、水600mLで1回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮・乾燥後、塩化メチレンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して白色固体の5,6−ジ(p−トルエンスルホニルオキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン66g(収率63%)を得た。
【0127】
フルオレン36g(0.217mol)をテトラヒドロフラン380mLに溶解し、−60℃に冷却した。この溶液が−50℃以下となるように温度を調節しながら1.6mol/Lのn−ブチルリチウム/n−ヘキサン溶液270mL(0.432mol)を徐々に加え、1時間程度反応させた。これに、テトラヒドロフラン1200mLに溶解した5,6−ジ(p−トルエンスルホニルオキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン 50g(0.108mol)を反応温度が−50℃以下となるように温度を調節しな
がら滴下した。滴下終了後、反応温度を室温に上げ、そのまま15時間反応させた。その後、食塩水140mLを加えて攪拌した後、テトラヒドロフランを減圧留去した。残留物に水300mLを加え、シクロヘキサン300mLで3回抽出した後、抽出液を水1000mLで3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮・乾燥後、塩化メチレンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して黄色固体を得た。この粗体をメタノールで再結晶し、下記構造式で示される白色針状結晶のスピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5][3]デセン]11g(収率36%)を得た。
【0128】
【化20】

単量体として合成例1で得られたスピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5][3]デセン](以下、「単量体A」という。)30g(0.1055mol)、下記式(B)で表される8−メトキシカルボニル−8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(以下、「単量体B」という。)66g(0.2841mol)、下記式(C)で表されるビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(以下、「単量体C」という。)4g(0.0425mol)、分子量調節剤として1−へキセン51g(0.0605mol)、およびトルエン250gを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウムのトルエン溶液(トリエチルアルミニウム濃度0.61mol/L)0.57mLおよびメタノール変性WCl6のトルエン溶液(メタノール変性WCl6濃度0.025mol/L)1.73mLを加え、80℃のオイルバス浴条件下で1時間反応させることにより重合体を得た。
【0129】
【化21】

ここで得られた重合体溶液をオートクレーブに入れ、さらにトルエンを150g加えた。水素添加反応触媒としてRuHCl(CO)[P(C6533を0.040g添加し、水素ガスを10MPaのゲージ圧となるように添加し、 160〜165℃に加熱して
3時間反応させた。反応終了後、多量のメタノールに沈殿させることにより水素添加体を回収し、100℃の真空乾燥機で12時間乾燥した。得られた水素添加体の重量平均分子量(Mw)=83,237、分子量分布(Mw/Mn)=4.33であり、対数粘度(ηinh)=0.61、補外ガラス転移開始温度(Tg)=168.0℃、収量80g(収率80%)であった。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.8%であり、芳香環残存率は100%であった。また、NMRにより求めた単量体A、単量体B、および単量体C由来の構造単位含有率(共重合組成比)はそれぞれ21、71、および8重量%であった。
【0130】
<合成例2>
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン(特定単量体)250部と、1−ヘキセン(分子量調節剤)18部と、トルエン(開環重合反応用溶媒)750部とを、窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒としてトリエチルアルミニウム(1.5モル/L)のトルエン溶液0.62部と、tert−ブタノールおよびメタノールで変性した六塩化タングステン(tert−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(濃度0.05モル/l)3.7部とを添加し、この溶液を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
【0131】
このようにして得られた開環重合体溶液1,000部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C6533を0.12部添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反
応を行った。
【0132】
得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体(以下、「共重合体B1」という。)を得た。
このようにして得られた共重合体について、
1H−NMRを用いて測定した水素添加率は99.9%、
DSC法により測定したガラス転移温度(Tg)は165℃、
GPC法により測定した、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は32,000、重量平均分子量(Mw)は137,000、分子量分布(Mw/Mn)は4.29、
23℃における飽和吸水率は0.3%、
30℃のクロロホルム中における対数粘度は0.78dl/gであった。
【0133】
<合成例3>
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン227部と、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン23部とを使用し、1−ヘキセンの添加量を12部としたこと以外は合成例2と同様に水素添加重合体(以下、「共重合体B2」という。)を得た。
【0134】
このようにして得られた重合体について、
1H−NMRを用いて測定した水素添加率は99.9%、
DSC法により測定したTgは133℃、
GPC法により測定した、ポリスチレン換算のMnは21,000、Mwは70,000、Mw/Mnは3.33、
23℃における飽和吸水率は0.18%、
30℃のクロロホルム中における対数粘度は0.60dl/gであった。
【0135】
<合成例4>
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン215部と、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン35部とを使用し、1−ヘキセンの添加量を30部としたこと以外は合成例2と同様に水素添加重合体(以下
、「共重合体B3」という。)を得た。
【0136】
このようにして得られた重合体について、
1H−NMRを用いて測定した水素添加率は99.9%、
DSC法により測定したTgは125℃、
GPC法により測定した、ポリスチレン換算のMnは46,000、Mwは190,000、Mw/Mnは4.15、
23℃における飽和吸水率は0.18%、
30℃のクロロホルム中における対数粘度は0.53dl/gであった。
【0137】
[参考例1][実施例1]
合成例1および2で得られた共重合体(A)および共重合体(B1)の乾燥樹脂を用い、10%塩化メチレン溶液を共重合体(A)/共重合体(B1)=100/0(参考例1)、99/1、95/5、90/10、70/30(実施例1)の比率で作製した。得られた溶液を減圧濾過(濾剤:ADVANTEC製GA200)し、平滑な硝子製浴槽(内寸:幅260×奥行380×深さ5mm)にキャストした。このフィルムを浴槽から剥離後、100℃の真空乾燥機で12時間乾燥してフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は500ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は50gfであった。
【0138】
このフィルムを幅10×長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で、表1に示す条件で加熱延伸して延伸フィルムを作成し、得られたフィルムの位相差(R480、R550、R650)を測定した。ここでR480、R550およびR650はそれぞれ波長480、550、および650nmにおける位相差を表す。結果を表1に示す。
【0139】
[実施例2]
合成例1および3で得た共重合体(A)および共重合体(B2)の乾燥樹脂を用い、10%塩化メチレン溶液を共重合体(A)/共重合体(B2)=99/1、95/5、90/10、70/30の比率で作製した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0140】
[実施例3]
合成例1および4で得られた共重合体(A)および共重合体(B3)の乾燥樹脂を用い、10%塩化メチレン溶液を共重合体(A)/共重合体(B3)=99/1、95/5、90/10、70/30の比率で作製した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0141】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の環状オレフィン系重合体は、光学材料として有用であり、光ディスク、光磁気ディスク、光学レンズ(Fθレンズ、ピックアップレンズ、レーザープリンター用レンズ、カメラレンズなど)、眼鏡レンズ、光学フィルム/シート(ディスプレイ用フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、拡散フィルム、反射防止フィルム、液晶基板、EL基板、電子ペーパー用基板、タッチパネル基板、PDP前面板など)、透明導電性フィルム用基板、光ファイバー、導光板、光カード、光ミラー、IC、LSI、LED封止材など、高精度の光学設計が必要とされている光学材料への応用が可能である。本発明の位相差フィルムは、偏光板あるいは液晶表示装置の部材として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン骨格と芳香環構造とを有する環状オレフィン系モノマー(A)から誘導される構造単位(a)を有するノルボルネン系重合体(A)と、
極性基を有し芳香環構造を有さないノルボルネン骨格を有する環状オレフィン系モノマー(B)から誘導される構造単位(b)を有し、前記構造単位(a)を有さないノルボルネン系重合体(B)と
を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ノルボルネン系重合体(A)が、下記式(1)で表される構造単位を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、aは0または1を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。Xは−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記ノルボルネン系重合体(B)が、下記式(2)で表される構造単位を有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、aは0または1を表し、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。ただし、R1〜R4の少なくとも1つは極性基である。Xは独立に、−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記樹脂組成物全量中にノルボルネン系重合体(A)を70重量%以上、100重量%未満含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物から形成されることを特徴とするフィルム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物から形成されることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項7】
請求項5に記載のフィルムを用いて作製されることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項8】
請求項6に記載の位相差フィルムを用いて作製されることを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2008−231318(P2008−231318A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75155(P2007−75155)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】