説明

樹脂組成物、導電ペースト及びセラミックペースト

【課題】電子部品用途に用いた場合、接着性及び印刷性に優れるとともに、高い保存安定性を有する樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた導電ペースト及びセラミックペーストを提供する。
【解決手段】無機粉末、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース誘導体及び有機溶剤を含有する樹脂組成物であって、前記ポリビニルアセタール樹脂は、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールをブチルアルデヒド及びアセトアルデヒドでアセタール化してなり、アセタール化度が65〜80モル%、アセトアルデヒドでアセタール化された部分が5〜75モル%であり、前記ポリビニルアセタール樹脂とセルロース誘導体との混合比は、10:90〜90:10である樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用途に用いた場合、接着性及び印刷性に優れるとともに、高い保存安定性を有する樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた導電ペースト及びセラミックペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の電子部品、例えば、積層セラミックコンデンサは、一般に次のような工程を経て製造される。
まず、ポリビニルブチラール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミル等により均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。得られたセラミックスラリー組成物を、ドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム又はSUSプレート等の支持体面に塗工する。これを加熱等により溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0003】
次いで、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を作製し、この積層体中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経て積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
このとき用いられる導電ペーストとしては、通常、電極を構成するパラジウムやニッケル等の導電性金属材料、バインダー樹脂、及び、ターピネオール等の有機溶剤からなるものが使用されており、例えば、特許文献1及び特許文献2には、バインダー樹脂としてエチルセルロースを用いたものが開示されている。
【0005】
また、近年では、積層セラミックコンデンサに更なる高容量化が求められており、より一層の多層化、薄膜化が検討されているが、このような積層セラミックコンデンサにおいては、セラミックグリーンシートの表面に所定のパターンで電極層が形成された領域と、電極層が形成されていない領域との間に生じた段差が累積することによって、積層体を圧着する工程で、均一に圧力を加えることができず、デラミネーションと呼ばれる層間剥離が発生したり、積層セラミックコンデンサの端部で誘電層及び又は導電層の変形が生じて平面とならず、信頼性や性能が低下したりするという問題があった。
【0006】
特に、バインダー樹脂としてエチルセルロースを用いた場合、ポリビニルアセタール樹脂等を原料とするセラミックグリーンシートとの接着性に劣り、耐アルカリ性も低いことから、デラミネーションの問題を改善できなかった。また、エチルセルロースは熱分解性が低いことから、脱脂処理をしても焼成後にカーボン成分が残留し、電気特性を損なうという問題もあった。
【0007】
また、バインダー樹脂としてポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂を用いた場合も、スクリーン印刷等によりペーストを印刷する際に、糸引きや目詰まりといった問題を生じ、結果的に版離れが悪くなったり、厚み精度が落ちたりして、パターンを鮮明に描画できず、結果的に生産歩留まりを低下させるという欠点があった。
【0008】
これに対して、特許文献3には、セラミックペーストのバインダー樹脂としてセルロースエステルとポリビニルブチラール樹脂との混合物を用いる方法が開示されている。しかしながら、使用する有機溶剤の種類によっては、セルロースエステルとポリビニルブチラールとが充分に混合せず、セラミックペーストの保存安定性が低下するという問題が新たに生じていた。
【特許文献1】特公平3−35762号公報
【特許文献2】特公平4−49766号公報
【特許文献3】特許3767362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記現状に鑑み、電子部品用途に用いた場合、接着性及び印刷性に優れるとともに、高い保存安定性を有する樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた導電ペースト及びセラミックペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、無機粉末、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース誘導体及び有機溶剤を含有する樹脂組成物であって、前記ポリビニルアセタール樹脂は、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールをブチルアルデヒド及びアセトアルデヒドでアセタール化してなり、アセタール化度が65〜80モル%、アセトアルデヒドでアセタール化された部分が5〜75モル%であり、前記ポリビニルアセタール樹脂とセルロース誘導体との比率は、10:90〜90:10である樹脂組成物である。
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、バインダー樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂及びセルロース誘導体を含有する樹脂組成物において、所定の特性を有するポリビニルアセタール樹脂を用いることによって、ポリビニルアセタール樹脂とセルロース誘導体との混合性を大幅に改善することができ、電子部品用途に用いた場合に、接着性及び印刷性に優れるとともに、高い保存安定性を有する樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、無機粉末、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース誘導体及び有機溶剤を含有する。
【0013】
上記無機粉末としては特に限定されず、例えば、金属粉体、導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末等が挙げられる。
【0014】
上記無機粉末として導電粉末を用いる場合、本発明の樹脂組成物は導電ペーストとして使用することができる。
上記導電粉末としては充分な導電性を示すものであれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅、これらの合金等からなる粉末が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記導電粉末を用いる場合の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量としては特に限定されないが、上記導電粉末100重量部に対して好ましい下限は3重量部、好ましい上限は25重量部である。3重量部未満であると、導電ペーストの成膜性能が低下することがあり、25重量部を超えると、脱脂、焼成後にカーボン成分が残留しやすくなる。より好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0016】
上記無機粉末としてセラミック粉末を用いる場合、本発明の樹脂組成物はセラミックペーストとして使用することができる。
上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等からなる粉末が挙げられる。なかでも、用いるセラミックグリーンシートに含有されるセラミック粉末と同一の成分からなることが好ましい。これらのセラミック粉末は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記セラミック粉末を用いる場合の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量としては特に限定されないが、上記セラミック粉末100重量部に対して好ましい下限は1重量部、好ましい上限は50重量部である。1重量部未満であると、セラミックペーストの成膜性能が低下することがあり、50重量部を超えると、脱脂、焼成後にカーボン成分が残留しやすくなる。より好ましい下限は3重量部、より好ましい上限は30重量部である。
【0018】
上記無機粉末としてガラス粉末を用いる場合、本発明の樹脂組成物はガラスペーストとして使用することができる。
上記ガラス粉末としては特に限定されず、例えば、酸化鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化カルシウム系ガラス、酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素系ガラス、酸化鉛−酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素系ガラス等が挙げられる。これらのガラス粉末は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化アルミニウム等を併用してもよい。
【0019】
上記無機粉末としてガラス粉末を用いる場合の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量としては特に限定されないが、上記ガラス粉末100重量部に対して好ましい下限は2重量部、好ましい上限は40重量部である。2重量部未満であると、ガラス粉末を確実に結着することができないことがあり、40重量部を超えると、脱脂・焼成後にカーボン成分が残留しやすくなる。より好ましい下限は4重量部、より好ましい上限は25重量部である。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、バインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂及びセルロース誘導体を含有する。
【0021】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールをブチルアルデヒド及びアセトアルデヒドでアセタール化してなるものである。80モル%未満であると、水溶性が悪化するためアセタール化が困難になり、また、水酸基量が少なくなるためアセタール化自体が困難になる。好ましい下限は85モル%である。
【0022】
上記ポリビニルアルコールは、アセタール化する際のポリビニルアルコールのケン化度が80モル%以上であれば、上記ポリビニルアルコールを単独で使用してもよく、又は、ケン化度80モル%以上のポリビニルアルコールとケン化度80モル%未満のポリビニルアルコールを混合して、ケン化度を80モル%以上に調整してから使用してもよい。
【0023】
上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は300、好ましい上限は2400である。300未満であると、塗工ペーストとしたときに充分な強度を有する塗膜が得られず、クラック等が入り易くなることがある。2400を超えると、水溶性が低下したり、水溶液の粘度が高くなり過ぎたりするためアセタール化が困難となることがある。
【0024】
上記ポリビニルアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン性不飽和単量体を共重合したものであってもよい。上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリルメタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とエチレンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いることができる。
【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、変性ポリビニルアルコールをアセタール化した変性ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
上記変性ポリビニルアルコールのエチレン単位の含有量の好ましい下限は1モル%、好ましい上限は20モル%である。1モル%未満であると、得られる塗工ペーストの無機粉末の分散性が低下したり、印刷性が低下したりする。20モル%を超えると、上記変性ポリビニルアルコールの水溶性が低下するため、アセタール化反応が困難になったり、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤への溶解性が低下するため、塗工ペースト作製に支障が出たり、経時粘度安定性が悪化したりすることがある。
【0026】
上記ポリビニルアルコールは、エチレンのみによって変性されたものが好ましい。エチレンのみによって変性された変性ポリビニルアルコールは、水溶性に優れ、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂を有機溶剤に溶解した溶液は、経時粘度安定性に優れる。エチレン以外の共単量体により上記変性ポリビニルアルコールを更に変性する場合には、上記共単量体の含有量の好ましい上限は2.0モル%である。2.0モル%を超えると、水溶性が悪化し、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂を有機溶剤に溶解した溶液の経時粘度安定性に劣ることがある。
【0027】
上記変性ポリビニルアルコールは、エチレン単位含有量が1〜20モル%であることが好ましいが、エチレン単位含有量が上記範囲であれば、上記変性ポリビニルアルコールを単独で使用してもよく、又は、2種以上の変性ポリビニルアルコールを混合して使用したり、変性ポリビニルアルコールと未変性ポリビニルアルコールを混合して使用したりして、最終的に得られる変性ポリビニルアセタール樹脂のエチレン単位含有量が1〜20モル%となるようにしてもよい。
【0028】
本発明では、上記ポリビニルアルコールをブチルアルデヒド及びアセトアルデヒドでアセタール化してなるものを用いる。アセタール化において、上記ブチルアルデヒド及びアセトアルデヒドを用いることで、アセタール化反応を簡便に行うことができ、また、得られるポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性も良いものとなる。
【0029】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の下限は65モル%、上限は80モル%である。65モル%未満であると、得られるポリビニルアセタール樹脂が水溶性となり、有機溶剤に不溶となるため、ポリビニルアセタール樹脂組成物作製の支障となったり、本発明のポリビニルアセタール樹脂組成物のゲル化が過度に進行するため、得られる塗工ペーストの塗工性が低下したりすることがある。80モル%を超えると、残存水酸基が少なくなり、ポリビニルアセタール樹脂の強靱性が損なわれ、ポリビニルアセタール樹脂組成物を用いて得られる塗工ペーストの印刷時の塗膜強度が低下したり、ゲル化が進行せず、増粘効果が得られなかったりすることがある。
なお、本明細書において、アセタール化度とは、ポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールの水酸基数のうち、アセタール化された水酸基数の割合のことであり、アセタール化度の計算方法としては、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を算出する。
【0030】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセトアルデヒドでアセタール化された部分の割合の下限が5モル%、上限が75モル%である。5モル%未満であると、導電ペースト、セラミックペーストに使用される溶剤への溶解性が低下し、セルロース誘導体と混合して使用した際に、ペーストが分離しやすくなる。75モル%を超えると、ポリビニルアセタール樹脂の極性が高くなりすぎて、セルロース誘導体との装用しなくなる。
【0031】
本発明の樹脂組成物において、上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量の好ましい下限は全バインダー樹脂量に対して、20重量%、好ましい上限は80重量%である。20重量%未満であると、セラミックグリーンシートとの接着性が不充分となることがあり、80重量%を超えると、粘度が高くなりすぎたり、塗工性が低下したりして、取扱性が悪くなることがある。
【0032】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造方法としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアルコール又は上記変性ポリビニルアルコールを水に溶解し、塩酸等の酸触媒の存在下で、上記アセタール化度となるようにアルデヒドを添加しアセタール化した後、水酸化ナトリウム等のアルカリで中和し、水洗、乾燥を行う方法が挙げられる。
【0033】
上記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酪酸セルロース、硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等のセルロースエステル;メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のセルロースエーテル等が挙げられる。
【0034】
本発明の樹脂組成物において、上記セルロース誘導体の含有量の好ましい下限は20重量%、好ましい上限は80重量%である。20重量%未満であると、印刷性が低下することがあり、80重量%を超えると、セラミックグリーンシートとの接着性が不充分となることがある。
【0035】
上記ポリビニルアセタール樹脂とセルロースエーテルとの混合比は10:90〜90:10である。混合比を上記範囲内とすることで、ポリビニルアセタール樹脂とセルロース誘導体との混合性を大幅に改善することができ、高い保存安定性を有する樹脂組成物とすることができる。
【0036】
本発明の効果を損なわない範囲で、上記ポリビニルアセタール樹脂及びセルロース誘導体以外に、アクリル系樹脂等をバインダー樹脂に混合してもよい。上記混合樹脂とする場合、バインダー樹脂全体に占める上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量の好ましい下限は30重量%である。30重量%未満であると、充分な溶液粘度が得られないことがある。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては特に限定されず、一般的に塗工ペーストに用いられる有機溶剤を使用することができるが、例えば、炭素数6〜18の芳香族炭化水素類、炭素数5〜24の脂肪族炭化水素類、炭素数1〜20の炭化水素と1以上の水酸基とからなるアルコール類、炭素数1〜20の炭化水素と1以上のカルボン酸基とからなる酸類、炭素数1〜18の炭化水素基が1以上のエステル結合で結合されてなるエステル類、炭素数1〜18の炭化水素基が1以上のエーテル結合で結合されてなるエーテル類、及び、炭素数1〜18の炭化水素基が1以上のケトン結合で結合されてなるケトン類のうちの少なくとも1種が挙げられる。
【0038】
具体的には、例えば、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、テルピネオールアセテート等のテルピネオール及びその誘導体、トルエン、キシレン、イソノナン、イソオクタン、ミネラルスピリッツ等の脂肪族又は芳香族炭化水素と上記テルピネオール及びその誘導体の混合溶剤、エタノール、ブタノール、イソオクチルアルコール等のアルコール類と上記芳香族又は脂肪族炭化水素との混合溶剤、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸ブチル、酢酸オクチル、酢酸2−エチルヘキシル、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が好ましい。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂及びセルロース誘導体を上記有機溶剤に溶解した後、上記無機粉末を添加する方法、上記ポリビニルアセタール樹脂、セルロース誘導体及び無機粉末を混合した後、上記有機溶剤に投入、撹拌、溶解し、分散させる方法等が挙げられる。
【0040】
本発明において、上記無機粉末として導電粉末を用いる場合、積層型電子部品に用いる塗工ペーストを製造することができる。このような導電ペーストもまた、本発明の1つである。得られた導電ペーストは、接着性に優れ、デラミネーションを防止することができ、積層セラミックコンデンサの製造に好適に用いられる。
【0041】
本発明において、上記無機粉末としてセラミック粉末を用いる場合、セラミックペーストを製造することができる。このようなセラミックペーストもまた、本発明の1つである。得られたセラミックペーストは、接着性に優れ、デラミネーションを防止することができ、積層セラミックコンデンサ等の製造に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明では、バインダー樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂とセルロース誘導体とを併用することで、接着性及び印刷性に優れるものとなり、電子部品用途に用いた場合に、デラミネーションや印刷時の糸引きや目詰まりを効果的に防止することができる。
また、所定の特性を有するポリビニルアセタール樹脂を用いることによって、ポリビニルアセタール樹脂とセルロース誘導体との混合性を大幅に改善することができ、高い保存安定性を有する樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の合成)
重合度1700、エチレン含有量10モル%、ケン化度95モル%のポリビニルアルコール300gを純水2900gに加え、90℃で約2時間攪拌し溶解した。この溶液を28℃に冷却し、濃度35重量%の塩酸250gとブチルアルデヒド183g、アセトアルデヒド24gとを添加し、更に7℃に冷却、保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、溶液を35℃で4時間保持して反応を完了させ、中和、水洗及び乾燥工程を行い、変性ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
【0045】
得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキサイド)に溶解し、13C−NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いてアセタール化度を測定したところ、アセタール化度は76モル%であった。また、アセトアルデヒドでアセタール化された部分は12モル%であった。
【0046】
(導電ペーストの作製)
導電粉末としてのニッケル粉末(2020SS、三井金属社製)100重量部、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂2重量部、エチルセルロース(Aldrich社製、粘度100cP)3重量部、溶剤としてジヒドロターピニルアセテート(日本テルペン社製)60重量部を混合した後、3本ロールで混練して導電ペーストを得た。
【0047】
(セラミックペーストの作製)
セラミック粉末としてのチタン酸バリウム(BT−03、平均粒子径0.3μm、堺化学工業社製)100重量部、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂組成物2重量部、エチルセルロース(Aldrich社製、粘度100cP)3重量部、及び溶剤としてジヒドロターピニルアセテート(日本テルペン社製)60重量部を混合した後、ボールミルで48時間混練してセラミックペーストを得た。
【0048】
(比較例1)
実施例1の(変性ポリビニルアセタール樹脂の合成)において、重合度1700、エチレン含有量10モル%、ケン化度98モル%の変性ポリビニルアルコール193g、及び、n−ブチルアルデヒド135gを用いた以外は実施例1と同様にして、導電ペースト及びセラミックペーストを得た。
【0049】
(比較例2)
導電ペースト及びセラミックペーストの作製において、バインダー樹脂としてエチルセルロース(Aldrich社製、粘度100cP)を5重量部用いた以外は実施例1と同様にして導電ペースト及びセラミックペーストを得た。
【0050】
(評価)
得られた導電ペースト及びセラミックペーストについて、以下の評価を行った。
【0051】
(導電ペースト、セラミックペーストの保存安定性評価)
実施例及び比較例にて得られた導電ペースト及びセラミックペーストを、20℃で1週間静置し、溶媒の分離を目視にて確認した。
その結果、比較例の導電ペースト及びセラミックペーストでは溶剤の分離が確認されたが、実施例の導電ペースト及びセラミックペーストでは確認できなかった。
【0052】
(導電ペースト、セラミックペーストの表面平滑性)
実施例及び比較例にて得られた導電ペースト及びセラミックペーストを、乾燥後の膜厚が10μmとなるようにポリエチレンテレフタレート上に塗工し、乾燥した。乾燥後の塗膜の表面を顕微鏡で観察した。
その結果、実施例の導電ペースト及びセラミックペーストを用いた場合は塗膜の表面は平滑であった。一方、比較例の導電ペースト及びセラミックペーストを用いた場合は、表面に凹凸が観察された。
【0053】
(導電ペースト、セラミックペーストの接着性)
下記の方法で作製したセラミックグリーンシートを用いて接着性の評価を行った。
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業製、エスレックB「BM−S」、重合度800)10重量部を、トルエン30重量部とエタノール15重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、可塑剤としてジブチルフタレート3重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(堺化学工業製「BT−03(平均粒径0.3μm)」)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。得られたスラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが約5μmになるように塗布し、常温で1時間風乾し、熱風乾燥機、80℃で3時間、続いて120℃で2時間乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。
【0054】
得られたセラミックグリーンシートを5cm角の大きさに切断し、これに導電ペースト又はセラミックペーストをスクリーン印刷したものを100枚積重ね、温度70℃、圧力150kg/cm、10分間の熱圧着条件で圧着して、セラミックグリーンシート積層体を得た。
得られたセラミックグリーンシート積層体を窒素雰囲気で、昇温速度3℃/分で450℃まで昇温し、5時間保持後、更に昇温速度5℃/分で1350℃まで昇温し、10時間保持してセラミック焼結体を得た。この焼結体を常温まで冷却した後、半分に割り、ちょうど50層付近のシートの状態を電子顕微鏡で観察し、セラミック層と導電層とのデラミネーションの有無観察し、以下の基準により接着性を評価した。
実施例及び比較例1では、デラミネーションが確認できなかったが、比較例2ではデラミネーションが確認された。
以上のことから、本発明の樹脂組成物を用いることで、接着性にも保存安定性にも優れた導電ペースト、セラミックペーストが作製できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、電子部品用途に用いた場合、接着性及び印刷性に優れるとともに、高い保存安定性を有する樹脂組成物、該樹脂組成物を用いた導電ペースト及びセラミックペーストを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース誘導体及び有機溶剤を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリビニルアセタール樹脂は、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールをブチルアルデヒド及びアセトアルデヒドでアセタール化してなり、アセタール化度が65〜80モル%、アセトアルデヒドでアセタール化された部分が5〜75モル%であり、
前記ポリビニルアセタール樹脂とセルロース誘導体との混合比は10:90〜90:10である
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールは、エチレン単位含有量が1〜20モル%の変性ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とする導電ペースト。
【請求項4】
請求項1又は2記載の樹脂組成物を用いてなることを特徴とするセラミックペースト。

【公開番号】特開2008−285589(P2008−285589A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131985(P2007−131985)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】